JP3939257B2 - 半導体装置の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、単量体のリン化硼素(BP)またはその混晶層を電極コンタクト層として利用して、半導体発光素子などの半導体装置を構成するための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば、青色帯の短波長発光ダイオード(英略称:LED)やレーザダイオード(英略称:LD)は、III 族窒化物半導体を利用して構成されている(例えば、非特許文献1参照)。例えば、ウルツ鉱結晶型(Wurtzite)の窒化ガリウム・インジウム混晶(組成式GaXIn1−XN:0<X<1)層は、発光層を構成するに利用されている(例えば、特許文献1参照)。また、より広い禁止帯幅(band gap)の窒化アルミニウム・ガリウム(AlXGa1−XN:0≦X≦1)は、GaXIn1−XN(0<X<1)発光層に対するクラッド(clad)障壁層を構成するに用いられている(上記の非特許文献1参照)。
一方、最近、本出願人は、III 族窒化物半導体に代替して、広禁止帯幅の単量体のリン化硼素(boron monophosphide:化学式BP)を障壁層として半導体発光素子を構成することを開示した(特願2001−158282号参照)。
【0003】
また、リン化硼素は、上記のウルツ鉱結晶型のIII 族窒化物半導体とは異なり、縮退した価電子帯のバンド(band)構造から、p形の伝導層が得られ易いとされる(例えば、特許文献2参照)。このため、p形のリン化硼素層は、p形オーミック電極を形成するためのコンタクト(contact)層として利用されるに至っている(例えば、特許文献3参照)。例えば、p形リン化硼素層の表面に接触させて金(元素記号:Au)・亜鉛(元素記号:Zn)合金からなるp形オーミック電極を設けて発光素子を構成する技術が開示されている(上記の非特許3参照)。従来より、オーミック性電極を設けるp形のリン化硼素層は、例えば、III 族窒化物半導体層上に、有機金属化学的気相成長(英略称:MOCVD)等の気相成長手段に依りマグネシウム(元素記号:Mg)を添加(doping)して形成するのが通例となっている(例えば、上記の非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特公昭55−3834号公報参照
【特許文献2】
特開平2−288388号公報参照
【特許文献3】
特開平10−242568号公報参照
【非特許文献1】
赤崎 勇編著、「III 族窒化物半導体」、1999年12月 8日、
初版、(株)培風館、13章及び14章
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
例えば、オーミック接触性電極を設けるコンタクト層として利用するには、低抵抗であり、且つ結晶性に優れるリン化硼素層が必要である。しかしながら、従来のリン化硼素層は、III 族窒化物半導体層上に設ける場合、III 族窒化物半導体層のウルツ鉱結晶型(Wurtzite)とは結晶型を異にする閃亜鉛鉱結晶型であり、しかも、格子定数もIII 族窒化物半導体層とは相違するため、転位を多量に含む結晶性の粗悪なものとなっている。
また、従来、p形伝導性のコンタクト層を得るためには、Mgを添加するなど、煩雑な成長操作を要している。特に、Mg等の不純物は、リン化硼素系半導体を構成する元素(構成元素)である硼素(B)と高温で化合し、硼素の空孔(vacancy)を発生する結果、低抵抗のp形リン化硼素系半導体層を安定して形成出来ないのも問題となっている。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために、転位を吸収して結晶性に優れる上層をもたらせる結晶構成を備えた、結晶基板或いは基板上の結晶層と接合する底部層と、例えば、オーミック電極を形成するに好都合な結晶構成からなる表面層とから構成される単量体のリン化硼素或いはその混晶層を利用して、半導体装置を構成する技術を提供するものである。
特に、不純物の拡散、侵入に因り結晶基板或いは基板上の成長層が乱雑となるのを防げる、不純物を故意に添加しない低抵抗の単量体のリン化硼素或いはその混晶層を利用して半導体発光素子を構成する技術を提示するものである。
また、併せて、本発明に係わる結晶構成からなる単量体のリン化硼素層またはその混晶層を備えた半導体装置を製造する方法を提示する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、上記目的を達成するため、下記を提供する。
(1)結晶基板の表面上に、或いは基板結晶上に形成された結晶層の表面上に、単量体のリン化硼素またはその混晶層を備え、該リン化硼素またはその混晶層上にオーミック電極を備えてなる半導体装置に於いて、前記リン化硼素またはその混晶層が底部が多結晶層から構成されその上部の表面部が単結晶層から構成されて、該単結晶層の表面にオーミック電極が接触していることを特徴とする半導体装置。
(2)前記リン化硼素またはその混晶層の表面部をなす単結晶層が{111}−結晶面から構成されていることを特徴とする上記(1)に記載の半導体装置。
(3)前記リン化硼素またはその混晶層の下地となる前記基板または基板上に形成された結晶層が、その表面を{111}−結晶面とする立方晶閃亜鉛鉱結晶型結晶又はダイヤモンド型結晶の層である、ことを特徴とする上記(2)に記載の半導体装置。
(4)前記リン化硼素またはその混晶層の下地となる前記基板または基板上に形成された結晶層が、その表面を{0001}−結晶面とする六方晶ウルツ鉱結晶型結晶の層であることを特徴とする上記(2)に記載の半導体装置。
(5)前記リン化硼素またはその混晶層の下地となる前記基板または基板上に形成された結晶層が、III 族窒化物半導体であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の半導体装置。
(6)前記リン化硼素またはその混晶層の下地となる前記基板または基板上に形成された結晶層が、窒化ガリウム・インジウム混晶(組成式GaXIn1−XN:0<X<1)、窒化アルミニウム・ガリウム(AlXGa1−XN:0≦X≦1)、GaXIn1−XN(0<X<1)、窒化硼素・ガリウム(BXGa1−XN:0≦X≦1)又は、窒化リン化アルミニウム・ガリウム(AlXGa1−XNYP1−Y:0≦X≦1,0<Y≦1)であることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の半導体装置。
(7)前記リン化硼素またはその混晶層の底部多結晶層及び表面部単結晶層の何れもが、アンドープのリン化硼素またはその混晶層から構成されていることを特徴とする上記(1)〜(6)の何れか1項に記載の半導体装置。
(8)前記リン化硼素またはその混晶層と上記オーミック電極との中間に、酸化物または窒化物からなる絶縁性の中間層が部分的に設けられていることを特徴とする上記(1)〜(7)の何れか1項に記載の半導体装置。
(9)前記中間層が、リン、またはリン化硼素の混晶をなすリンとは異なる第V族元素を添加した酸化物または窒化物の絶縁性の層から構成されていることを特徴とする上記(8)に記載の半導体装置。
(10)上記(1)〜(9)の何れか1項に記載の半導体装置からなる発光素子。
(11)III族窒化物層を発光層として含む上記(10)に記載の発光素子。
(12)結晶基板の表面上に、或いは基板結晶上に形成された結晶層の表面上に、単量体のリン化硼素またはその混晶層を形成し、該リン化硼素またはその混晶層上にオーミック電極を配置する工程を含む半導体装置の製造方法に於いて、単量体のリン化硼素またはその混晶層の底部の多結晶層を、750℃以上で1200℃以下の温度で、V/III 比率を第1の比率として気相成長させた後、上記の温度範囲で、第1のV/III 比率を超え2000以下の第2のV/III 比率で多結晶層上に単結晶層を気相成長させることを特徴とする上記(1)〜(11)の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
(13)表面を{111}−結晶面とする立方晶閃亜鉛鉱結晶型又はダイヤモンド結晶型の結晶を基板として、或いは上記の結晶面を有する基板結晶上に形成された表面を{111}−結晶面とする結晶層を下地として、{111}−結晶面から構成される単量体のリン化硼素(BP)層またはその混晶層を気相成長させることを特徴とする上記(12)に記載の半導体装置の製造方法。
(14)表面を{0001}−結晶面とする六方晶ウルツ鉱結晶型の結晶を基板として、或いは上記の結晶面を有する基板結晶上に形成された表面を{0001}−結晶面とする結晶層を下地として、{111}−結晶面から構成される単量体のリン化硼素(BP)層またはその混晶層を気相成長させることを特徴とする上記(12)に記載の半導体装置の製造方法。
(15)底部の多結晶層の上部の表面部をなすリン化硼素(BP)またはその混晶の単結晶層に接触させて、中間層を設けた後、中間層の周辺に於いて、リン化硼素またはその混晶からなる単結晶層の表面に接触させて、オーミック性電極を形成することを特徴とする上記(12)〜(14)の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明において、半導体装置、或いは、半導体を構成する結晶基板または基板結晶上に形成された結晶層は、特に限定されない。本発明は特にIII窒化物半導体などの化合物半導体を発光層に用いた半導体発光素子に向けられているが、本発明の電極コンタクト層の構成を必要とするあらゆる半導体装置に適用できる。半導体発光素子においても、発光層の種類、構成その他、特に限定はない。下地となる結晶基板または基板結晶上に形成された結晶層も多結晶或いは非晶質等に特に限定されないが、本発明の効用は、単結晶の結晶基板又は、結晶層について最も効果的に発揮され得る。例えば、発光素子においても下地結晶層は発光層とは限らず電流阻止層、クラッド層であることができ、結晶層もリン化硼素またはそれを基材とする混晶の多結晶層が成長できるものから構成できる。結晶基板または基板結晶上に形成された結晶層としては、具体的には、例えば、リン化硼素ガリウム(組成式BXGa1−XP:0<X<1)や、リン化硼素・インジウム(組成式BXIn1−XP:0<X<1)結晶層がある。また、半導体装置としては、例えば、n形窒化ガリウム(GaN)から成る電子走行(チャネル)層と、その上のn形窒化アルミニウム・ガリウム混晶(AlXGa1−XN:0<X<1)から成る電子供給層を下地結晶層として設けたn形リン化硼素結晶層を備えた電界効果型トランジスタがある。
本発明でコンタクト層を構成するリン化硼素またはそれを基材とする混晶は、導電性の良好な低抵抗の結晶層を容易に形成できること、及び電極との良好なオーミック接触が可能であることから、コンタクト層として優れている。従って、本発明でもリン化硼素またはそれを基材とする混晶層を、例えば、好適にはp形の窒化アルミニウム・ガリウム、窒化硼素・ガリウム、又は窒化リン化アルミニウム・ガリウムなどのp形のIII族窒化物半導体層を下地とする電極コンタクト層として好適に使用することができる。また、n形の窒化アルミニウム・ガリウム(化学式:AlXGa1−XN:0≦X≦1)、n形の窒化ガリウム・インジウム(組成式GaXIn1−XN:0≦X≦1)などn形のIII族窒化物半導体層を下地とする場合にも使用できる。
本発明における「リン化硼素を基材とする混晶(リン化硼素系混晶)」とは、硼素(B)とリン(P)とを構成元素として含む3元素以上の多元(多元素)結晶であって、例えば、リン化アルミニウム・硼素混晶(組成式Al1−XBXP:0<X<1)である。また、リン化硼素・ガリウム(組成式BXGa1−XP:0<X<1)やリン化硼素・インジウム(組成式BXIn1−XP:0<X<1)等である。上記の構成元素に加えて、リン(P)とは異なる第V族元素を含む砒化リン化硼素(組成式BPYAs1−Y:0<Y<1)等は、本発明に係わるリン化硼素系半導体混晶の別の例である。立方晶の閃亜鉛鉱結晶型(zincblende)のリン化硼素系混晶は、硼素(B)またはリン(P)の組成比如何に依って、実用的な基板材料である珪素(元素記号:Si)単結晶(シリコン)、窒化ガリウム(化学式:GaN)やリン化ガリウム(化学式:GaP)等のIII −V族化合物半導体単結晶と格子整合できる。従って、これらの単結晶上には、そもそも、ミスフィット(misfit)転位の少ないBXGa1−XP(0<X<1)やBXIn1−XP(0<X<1)等のリン化硼素系混晶層を形成できる。
しかし、リン化硼素またはそれを基材とする混晶層は、下地となるIII-V族半導体、例えばIII族窒化物などの半導体層と熱膨張係数が異なる場合、熱歪により下地半導体層を劣化させる問題がある。本発明は、リン化硼素またはそれを基材とする混晶層として、上部表面層は単結晶層で構成するとともに底部は多結晶層で構成することで、下部多結晶層が結晶粒界の存在によりある程度熱歪(熱膨張差)を吸収する作用を発揮し、上記の問題を解決できることを見出したものである。さらに、下地となるIII族窒化物半導体層上にリン化硼素またはそれを基材とする混晶層を直接に成長する場合には良好なリン化硼素またはそれを基材とする混晶層が成長できない場合もあるが、多結晶層が介在することでリン化硼素またはそれを基材とする混晶層の良好な単結晶層を形成できる効果もある。
【0009】
本発明に係わるリン化硼素及びリン化硼素系混晶の多結晶層及び単結晶層は、例えば、三塩化硼素(分子式:BCl3)や三塩化リン(分子式:PCl3)を原料とするハロゲン(halogen)法(「日本結晶成長学会誌」、Vol.24,No.2(1997)、150頁参照)に依り気相成長できる。また、ジボラン(分子式:B2H6)とホスフィン(分子式:PH3)等を原料とするハイドライド法(J.Crystal Growth,24/25(1974)、193〜196頁参照)、並びに、分子線エピタキシャル法(J.Solid State Chem.,133(1997)、269〜272頁参照)で気相成長できる。また、有機金属化学的気相堆積(MOCVD)法(Inst.Phys.Conf.Ser.,No.129(IOP Publishing Ltd.(UK、1993)、157〜162頁参照)に依り気相成長させられる。
【0010】
結晶基板の表面上に、或いは基板結晶上に形成された結晶層の表面上に、本発明に係わる結晶構造から成る単量体のリン化硼素またはその混晶層を製造するには、先ず、単量体のリン化硼素(BP)またはその混晶層の底部の多結晶層を、750℃以上で1200℃以下の温度で、V/III 比率を第1の比率(例えば、100以上、特に100〜200の範囲が好適)として気相成長させる。V/III 比率は、気相成長を実施するために供給するIII 族元素の原子の総濃度に対する、V族元素の原子の総濃度の比率である。例えば、リン化硼素(BP)の気相成長にあって、供給される硼素(B)原子の合計の濃度に対する、リン(P)原子の合計の濃度の比率である。次に、この多結晶層上に、750℃以上で1200℃以下の温度で、第1のV/III 比率を超え2000以下の第2のV/III 比率で多結晶層上に単結晶層を気相成長させると製造できる。1200℃を超える高温では、B13P2等の多量体のリン化硼素結晶(J.Am.CeramicSoc.,47(1)(1964)、44〜46頁参照)が形成され易くなり、単量体のリン化硼素からなる結晶層を安定して形成できず不都合である。
【0011】
単量体のリン化硼素或いはそれを基材とするリン化硼素系混晶の多結晶層を形成する際の第1のV/III 比率は、100以上とするのが適する。特に、100〜200の範囲とするのが好適である。第1のV/III 比率を100未満、特に50以下の低比率とすると、非晶質層が形成され易くなり不都合である。この底部の多結晶層は、上記の如く、下地層と多結晶層上に設ける単結晶層との間の熱膨張率の差異に因る熱歪を緩和して、歪みの少ない良質の単結晶層を得るに貢献できる。
上部に設けるリン化硼素(BP)またはその混晶からなる単結晶層は、V/III 比率を600以上で2000以下の第2の比率とすれば好適に形成できる。多結晶層を形成した後、単結晶層を形成する条件でリン化硼素或いはそれを基材とするリン化硼素系混晶を形成すればよいが、例えば、同一の気相成長設備を利用してV/III 比率を第1の比率から第2の比率へと瞬時に変化させれば、多結晶層上に単結晶層を備えた構造の結晶層を簡便に形成できる。V/III 比率の第1の比率から第2の比率への変化は緩慢でもよいが、単結晶化されるまでに余分な層厚が必要になり望ましくない。
多結晶または単結晶の判別は、X線回折或いは電子線回折手段に依る回折像から判別できる。これらの回折手段に依れば、リン化硼素或いはその混晶の多結晶層が、{100}−、{111}−、及び{110}−結晶が混在したものか、これら方位を相違する結晶と非晶質とからなる多結晶等であるか判別できる。非晶質からの電子線回折像は、ハロー(halo)となる。
【0012】
本発明では、特に、上部の表面部をなす単結晶層を、{111}−結晶面から構成される単量体のリン化硼素またはそれを基材とするリン化硼素系混晶から構成することが好ましい。立方晶の閃亜鉛鉱結晶型の単量体のリン化硼素またはリン化硼素系混晶の{111}−結晶面は、構成元素である硼素(B)やリン(P)が単位面積あたりに最も緻密に充填され、且つ強固な結合をもって構成されている結晶面である。従って、下地層からの転位の伝搬を効果的に阻止するに有利となる。{111}−結晶面からなる単結晶層は、立方晶閃亜鉛鉱結晶型の{111}−結晶面を表面とする結晶を基板として、或いは上記の結晶面を有する基板結晶上に形成された表面を{111}−結晶層を下地として気相成長させることに依り効率的に製造できる。単結晶層が{111}−結晶面から構成されているか否かは上記のX線回折或いは電子線回折手段により調査できる。
【0013】
また、{111}−結晶面からなる単結晶層は、表面を{0001}−結晶面とする六方晶ウルツ鉱結晶型の結晶を基板として、或いは上記の結晶面を有する基板結晶上に形成された表面を{0001}−結晶面とする結晶層を下地として気相成長させることに依っても好都合に構成できる。例えば、ウルツ鉱結晶型(Wurtzite)の窒化ガリウム(GaN)の{0001}−結晶面の底面に於けるa軸の格子定数は0.318nmである。一方、単量体のリン化硼素単結晶の格子得定数は0.438nmであるから(寺本 巌著、「半導体デバイス概論」、1995年3月20日、(株)培風館発行、28頁参照)、その{110}−結晶面の格子面間隔は0.320nmとなる。この格子定数と格子面間隔との良好な一致から、{0001}−GaN結晶面上には、簡便にリン化硼素層を気相成長させることができる。
【0014】
また、特に、本発明では、底部の多結晶層及び表面部の単結晶層の何れもを、不純物を故意に添加しないアンドープのリン化硼素またはその混晶層から構成することを特徴とすることが可能である。多結晶層をアンドープのリン化硼素層またはその混晶層から構成すれば、その多結晶層を気相成長させる際の不純物の熱的拡散に因る、下地層の劣化を抑制するに効果を得ることができる。例えば、発光層上に設ける多結晶層をアンドープのリン化硼素系混晶層から構成することに依り、発光層のキャリア濃度や伝導形の変化を抑制する効果が奏される。多結晶層上の単結晶層をアンドープ層とすることに依り、下地層の変質を抑制するに更に、効果を挙げられる。
【0015】
本発明に従い、リン化硼素またはその混晶から成る単結晶層に接触させて、オーミック性電極を設けることとすれば、電気的耐圧に優れる半導体装置を構成できる。特に、{111}−結晶面から構成される単結晶層は、下地層からの転位の伝搬が抑制され、結晶欠陥の少ない良質な結晶層となっている。このため、転位を介しての漏洩に因る耐圧不良を回避できる電極を構成できる。n形リン化硼素またはn形リン化硼素系混晶にオーミック接触性を呈する電極は、金(元素記号:Au)・ゲルマニウム(元素記号:Ge)合金、金(Au)・錫(元素記号:Sn)等の金(Au)合金から構成できる。p形リン化硼素層またはp形リン化硼素系混晶層については、金(Au)・ベリリウム(元素記号:Be)または金(Au)・亜鉛(元素記号:Zn)等の金合金から構成できる。同一の金属材料からオーミック電極を構成するにしても、リン化硼素層またはリン化硼素系混晶層のキャリア濃度が高く、抵抗率が低い程、接触抵抗の小さな良好なオーミック特性を呈するオーミック電極を形成するに好都合となる。
【0016】
上記の単結晶層を得るための好適なV/III 比率の範囲にあって、V/III 比率を高比率側に設定することに依り、より高いキャリア濃度で、より低い抵抗率の単結晶層を得ることができる。キャリア濃度を1×1018cm−3以上とし、抵抗率を0.1Ω・cm以下とする単結晶層は、オーミック電極を形成するに特に、好適である。単量体のリン化硼素或いはその混晶からなる多結晶層上には、多結晶層内の結晶粒界等により、良好なオーミック接触特性を示すオーミック電極を形成できない。しかし、この様なキャリア濃度が高く低抵抗の単結晶層を利用すれば、良好なオーミック接触特性をもたらすオーミック電極を簡便に形成できる。
【0017】
反面、リン化硼素またはその混晶から成る単結晶層は、オーミック電極から供給される素子を駆動させるための電流(素子駆動電流)を電極の直下の領域に限定して短絡的に漏洩させる傾向がある。特に発光素子などにおいて、この限定された領域への素子駆動電流の流入を回避するには、オーミック性電極とリン化硼素層またはその混晶層の単結晶層との中間に、単結晶層に対して非オーミック性接触をなす金属材料や酸化物または窒化物からなる絶縁性材料からなる中間層を部分的に、好適にはオーミック性電極の中央部の直下に設けて電流経路を分散させる構成とするのが効果的となる。n形のリン化硼素またはそのn形混晶層について非オーミック性接触をなす金属材料として、金(Au)・ベリリウム(Be)合金、金(Au)・亜鉛(Zn)合金を例示できる。一方、p形のリン化硼素またはそのp形混晶層について非オーミック性接触をなす金属材料として、金(Au)・ゲルマニウム(Ge)合金、金(Au)・錫(Sn)合金を例示できる。これらの非オーミック性金属材料は、一般的な真空蒸着法等により形成できる。その後、公知のフォトリソグラフィー技術を利用した選択パターニング技法に依り、所望の平面形状に加工し、オーミック電極の下方の特定領域に限定して残存させる。
【0018】
特に、中間層を、酸化物または窒化物からなる絶縁性材料から構成するのが効果的である。中間層を構成する絶縁性材料の好例として、酸化珪素(SiO2)や窒化珪素(Si3N4)を挙げられる。また、これらを混合させた窒化酸化珪素(化学式:SiON)も利用できる。これらの絶縁層は、化学的気相堆積法(CVD)、プラズマCVD法等の手段に依り形成でき、その形成温度は、リン等の第V族元素の揮散に因るリン化硼素単結晶層等の損傷を防止するため、750℃未満の低温とするのが望ましい。特に、望ましいのは100℃〜400℃である。形成後、公知のフォトリソグラフィー技術を利用した選択パターニング技法に依り、所望の平面形状に加工し、オーミック電極の下方の領域に限定して絶縁層を残存させる。
【0019】
中間層をリン(元素記号:P)、またはリン化硼素の混晶をなすリンとは異なる第V族元素(N,As,Sb,Bi)を添加した酸化物または窒化物の絶縁層から構成すると、リン化硼素層またはその混晶層の単結晶層との密着性に優れ、且つ、上記の素子駆動電流の短絡的な漏洩を防止できるオーミック電極を構成できる。また、リンまたはリンとは別の第V族元素をそもそも含む絶縁層は、オーミック電極の合金化熱処理(alloy)時に於ける、例えば、リン化硼素単結晶層からのリンの絶縁層への取り込みを抑制して、リン化硼素単結晶層の結晶性の劣化を防止するに寄与できる。即ち、単量体のリン化硼素またはその混晶から成る単結晶層と、絶縁層との間での第V族原子の相互拡散を抑制するに効果を上げられる。水素(H2)或いは窒素(N2)雰囲気内で、350℃〜550℃でアロイ(alloy)処理を施す際に好適となるのは、例えば、リン等の原子濃度を5×1018原子/cm−3以上で1×1020原子/cm3とするSiO2又はSi3N4絶縁層である。
【0020】
上記の中間層を備えた構成のオーミック電極は、リン化硼素またはその混晶の単結晶層に接触させて、中間層を例えば中央部分に設けた後、中間層の周辺に於いて、上記のリン化硼素またはその混晶からなる単結晶層の表面に接触させて形成することができる。この様に配置すれば、例えば、活性層を挟んで上下に電極を有する発光素子などの半導体素子の場合にも、素子駆動電流は、中間層の直下の領域に短絡的に限定的に流入するのを防止され、単結晶層とオーミック性接触をなすオーミック電極を介して単結晶層に広範囲に流入させることができる。中間層の層厚を極端に大とすると、単結晶層の表面とオーミック電極との間隔が隔たるため、中間層の周縁で特に、オーミック電極と単結晶層との密着性が弱小となる。このため、単結晶層との密着性に優れるオーミック電極を充分に安定して構成するに支障を来す。従って、中間層の層厚は、100nm以下とするのが好適である。逆に、素子駆動電流の流通を防止するために、5nm以上の層厚とするのが望ましい。
【0021】
【作用】
結晶基板の表面上に、或いは基板結晶上に形成された結晶層から成る下地の表面上に設けた下部の底部を多結晶層とし、その上部の表面部を単結晶層とする単量体のリン化硼素層またはその混晶層にあって、その多結晶層は下地層と短結晶層の間の熱歪を緩和する作用を有し、単結晶層はオーミック特性に優れるオーミック性電極をもたらす作用を有する。
【0022】
リン化硼素またはその混晶から成る単結晶層表面上に部分的に設けた絶縁層などの中間層は、素子駆動電流を下地の広範囲亘り拡散する作用を有する。
【0023】
【実施例】
表層を単結晶層とするリン化硼素層を備えて成る発光ダイオード(LED)を例にして、本発明に係わる半導体装置を具体的に説明する。
【0024】
図1に本実施例に記載した積層構造体11から成るLED10の断面構造を模式的に示す。エピタキシャル積層構造体11を構成するための基板101には、リン(P)ドープn形(111)−Si単結晶を使用した。基板101の(111)−表面上には、常圧(略大気圧)有機金属気相成長(MOCVD)手段を利用して、アンドープでn形の単量体リン化硼素(BP)からなる下部クラッド層102を堆積させた。n形下部クラッド層102は、トリエチル硼素(分子式:(C2H5)3B)/ホスフィン(分子式:PH3)/水素(H2)反応系により950℃で形成した。n形下部クラッド層102の層厚は、波長430nm〜460nmの青色帯光について40%以上の反射率が得られる、440nmとした。n形下部クラッド層102の気相成長を上記の硼素源の供給を中断して停止した後、ホスフィン(PH3)と水素(H2)の混合雰囲気中でn形Si単結晶基板101の温度を825℃に降温した。
【0025】
然る後、トリメチルガリウム(分子式:(CH3)3Ga)/トリメチルインジウム(分子式:(CH3)3In)/アンモニア(分子式:NH3)/H2反応系常圧MOCVD手段により、825℃で、n形窒化ガリウム・インジウム(GaXIn1−XN:0≦X≦1)層を発光層103としてn形下部クラッド層102に接合させて設けた。n形発光層103をなす窒化ガリウム・インジウム層は、インジウム組成比(=1−X)を相違する複数の相(phase)から成る多相構造(multi−phase)のGaXIn1−XN層から構成した。インジウムの平均的な組成比は0.06(=6%)であった。このn形Ga0.94In0.06N層からなる発光層103の層厚は60nmとした。発光層103は、{111}−結晶面を表面とする{111}−リン化硼素層(下部クラッド層102)上に設けたため、{0001}−結晶面を表面とするGa0.94In0.06N層から構成されるものとなった。(CH3)3Ga及び(CH3)3Inの供給を停止して、n形Ga0.94In0.06N層の気相成長を終了させた。
【0026】
NH3とH2との混合雰囲気中で、基板101の温度を825℃に維持したままで、発光層103上に、上記の(C2H5)3B/PH3/H2反応系常圧MOCVD手段に依り、アンドープのリン化硼素層から成るp形多結晶層104を形成した。多結晶層104は、V/III 比率(=PH3/(C2H5)3B)を150として気相成長させた。リン化硼素から成る多結晶層104の室温でのキャリア濃度は、一般のホール(Hall)効果測定法に依れば、8×1018cm−3であった。層厚を20nmとするリン化硼素から成る多結晶層104の気相成長を、硼素源の(C2H5)3Bの供給を停止して、終えた後、PH3とH2とを流通しつつ、珪素(Si)単結晶基板101の温度を1050℃に上昇させた。
【0027】
次に、リン化硼素の多結晶層104上に、引き続き、アンドープのp形リン化硼素からなる(111)−単結晶層105を(C2H5)3B/PH3/H2反応系常圧MOCVD手段により形成した。p形リン化硼素単結晶層105は、V/III 比率を多結晶層104より高い900として形成した。一般のホール効果測定法に依れば、室温でのキャリア濃度は2×1019cm−3で、抵抗率は4×10−2Ω・cmであった。層厚は100nmとした。冷却後、アンドープでp形リン化硼素から成る多結晶層104及び単結晶層105の結晶構造を一般の電子線回折手段で解析した。リン化硼素から成る多結晶層104は,ほぼ<111>−結晶方位に配向した柱状のリン化硼素の単結晶の集合体から構成されているものとなっている。また、リン化硼素の単結晶層105は、{111}−結晶面からなる単結晶層であるのが示された。以上の多結晶層及び単結晶層104,105から成るリン化硼素層106は、コンタクト層を兼用する上部クラッド層106として利用した。
【0028】
単結晶のp形リン化硼素層106の表面を、膜厚を75nmとするリン(P)ドープの二酸化珪素(SiO2)膜で一旦、被覆した。通常のCVD手段に依り成膜した二酸化珪素膜の内部のリン原子の濃度は9×1019原子/cm3とした。次に、公知のフォトリソグラフィー技術と選択パターニング技術を利用して、単結晶のp形リン化硼素層106の中央の、直径100μmの円形領域に限り、二酸化珪素膜を中間層107として残置させた。他の領域に被着していた二酸化珪素膜は一般の弗化水素(化学式:HF)酸を用いて除去した。その後、一般の真空蒸着手段に依り、金・ベリリウム(Au99重量%・Be1重量%)合金膜を、残置させた中間層107の表面、及び二酸化珪素膜が除去された上部クラッド層106の表面を被覆する様に設けた。次に、再び、公知のフォトリソグラフィー技術及び選択パターニング技術を利用して、中間層107を残置させた領域に限り残置させた。残置させたAu・Be合金膜の領域は、平面視円形の中間層107の中心に一致させて設けた、直径150μmの円形とした。これより、円形の中間層107より相対的に大きなAu・Be合金膜の外縁領域を単結晶のp形リン化硼素層106の表面に接触するp形オーミック電極108を形成した。尚、p形オーミック電極108には、選択パターニング後に、水素気流中に於いて、450℃で3分間の合金化熱処理(alloy)を施した。一方、n形珪素(Si)単結晶基板101の裏面の全面には、アルミニウム(Al)・アンチモン(Sb)合金から成るn形オーミック電極109を形成した。
【0029】
その後、通常の切断手段に依り、個別の素子に裁断してpn接合型DH構造のLED10を構成した。両オーミック電極108,109間に順方向に20ミリアンペア(mA)の動作電流を通流したところ、LED10からは波長を約440nmとする青紫帯光が発せられた。一般的な積分球を利用して測定されるチップ(chip)状態での輝度は8ミリカンデラ(mcd)であった。また、p形オーミック電極108に遮光される領域外の発光層103の広範囲な領域から均等な強度の発光がもたらされていた。これは、p形オーミック電極108の直下に、絶縁性の中間層107を配置したため、素子駆動電流の発光層103への短絡的な流通が阻害されたためであると思量された。且つ、p形オーミック電極108を低抵抗の単結晶のp形リン化硼素層106に接触させて設けたため、オーミック電極108外の発光層103の領域に平面的に拡散されたためと解釈された。順方向電流を20mAとした際の順方向電圧(所謂、Vf)は3.7Vであり、逆方向電流を10μAとした際の逆方向電圧(Vr)は8V以上であった。また、素子駆動電流の長期通電に因る発光強度の変化並びにVf及びVrの変化は認められなかった。これは、発光層103に多結晶のリン化硼素層104を接合させて設けたため、発光層103との格子不整合性が緩和され、良好な結晶性のリン化硼素単結晶層105にオーミック電極108を設けたためと考慮された。
【0030】
【発明の効果】
本発明に係わる下層部を多結晶層とし、その上層部を単結晶層としたリン化硼素系半導体層を利用すれば、例えば、アンドープ状態でも簡便に電極を形成するためのコンタクト層を兼用する上部クラッド層を簡便に形成できるので、例えば、高い強度の発光を、しかも長期に亘り高強度の発光をもたせる、整流特性に優れる化合物半導体発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例の化合物半導体発光素子(LED)の断面構成を示す模式図である。
【符号の説明】
10…LED
11…LED用途積層構造体
101…Si単結晶基板
102…リン化硼素下部クラッド層
103…発光層
104…リン化硼素多結晶層
105…リン化硼素単結晶層
106…リン化硼素上部クラッド層
107…中間層
108…p形オーミック電極
109…n形オーミック電極
Claims (4)
- 結晶基板の表面上に、或いは基板結晶上に形成された結晶層の表面上に、単量体のリン化硼素またはその混晶層を形成し、該リン化硼素またはその混晶層上にオーミック電極を配置する工程を含む半導体装置の製造方法に於いて、単量体のリン化硼素またはその混晶層の底部を多結晶層とし、750℃以上で1200℃以下の温度で、V/III 比率を、100以上200以下の第1の比率で気相成長させた後、上記の温度範囲で、第1のV/III 比率を超え2000以下の第2のV/III 比率で多結晶層上に単結晶層を気相成長させて、単量体のリン化硼素またはその混晶層を形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。
- 表面を{111}−結晶面とする立方晶閃亜鉛鉱結晶型又はダイヤモンド結晶型の結晶を基板として、或いは上記の結晶面を有する基板結晶上に形成された表面を{111}−結晶面とする結晶層を下地として、{111}−結晶面から構成される単量体のリン化硼素(BP)層またはその混晶層を気相成長させることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
- 表面を{0001}−結晶面とする六方晶ウルツ鉱結晶型の結晶を基板として、或いは上記の結晶面を有する基板結晶上に形成された表面を{0001}−結晶面とする結晶層を下地として、{111}−結晶面から構成される単量体のリン化硼素(BP)層またはその混晶層を気相成長させることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
- 底部の多結晶層の上部の表面部をなすリン化硼素(BP)またはその混晶の単結晶層に接触させて、中間層を設けた後、中間層の周辺に於いて、リン化硼素またはその混晶からなる単結晶層の表面に接触させて、オーミック性電極を形成することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
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