JP3922538B2 - セラミックス回路基板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックス回路基板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、モーター、電力変換機器等の小型化、大電力化、高性能化の進展に伴い、それに搭載される電力半導体素子用回路基板には、より大電力が扱える高熱伝導性と温度サイクル寿命のより長い高信頼性が要求されてきている。この要求に対応するため、高熱伝導性と高信頼性とを具備する電力半導体素子用セラミックス回路基板には種々の提案が行われている。
【0003】
例えば、特開平9−246691号公報には、温度サイクル寿命を改善した金属回路を有するセラミックス回路基板の製造方法が記載されている。これには、金属回路板とセラミックス基板とのろう付けによる接合体を−70℃で冷却処理して残留応力を緩和し、温度サイクル寿命を改善する方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
大電力を扱うためには電力用半導体素子を搭載する金属回路板の厚みを厚くし、熱抵抗を小さくして熱伝導性を良くする必要がある。このように厚くした金属回路板をセラミックス基板にろう付けした接合体は、残留応力と反り量が増大してセラミックス基板にクラックが発生し易くなると共に、この接合体を例え−70℃で冷却処理しても残留応力や反り量の緩和が十分には行われず、温度サイクル寿命が短いという問題がある。このため、前記ろう付け接合後のセラミックス基板に発生するクラックの防止を図りながら、熱伝導性および温度サイクル寿命の改善が待たれている。
【0005】
本発明の目的は、上記に鑑み、ろう付け接合後のセラミックス基板に発生するクラックの防止を図りながら、熱伝導性および温度サイクル寿命を改善したセラミックス回路基板およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の目的を達成するため、金属回路板の厚みと金属放熱板の厚みとの関係、更に金属回路板のろう付けされた面積と金属放熱板のろう付けされた面積との関係で、金属回路板および金属放熱板とセラミックス基板とのろう付け時に発生する反り量と残留応力が抑制できること、およびその発生した反り量と残留応力が、−70℃で冷却処理するよりも−110℃以下で冷却処理する方が更に緩和できること、すなわち、ろう付け接合後のクラックの防止を図りながら、セラミックス回路基板の放熱性および温度サイクル寿命の改善ができることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明のセラミックス回路基板は、セラミックス基板の表面にろう材を介して金属回路板を、および前記セラミックス基板の裏面にろう材を介して金属放熱板をそれぞれ設けた接合体であって、該接合体は−110℃以下で冷却処理されて、室温における反り量が50mm当り100μm以下であることを特徴とする。
【0008】
また、このときのセラミックス基板に加わる残留応力は650MPa以下であることを特徴としている。さらに、ここでセラミックス基板の厚みが0.2〜0.9mm、金属回路板の厚みが3.0mm以下であり、金属回路板の厚み(tc)と、金属放熱板の厚み(tr)との関係がtc>trであり、更に金属回路板のろう付けされた面積(sc)と金属放熱板のろう付けされた面積(sr)との関係がsc<srであることが好ましい。
【0009】
本発明のセラミックス回路基板において、セラミックス基板が窒化珪素または窒化アルミニウムまたはアルミナであり、金属回路板および金属放熱板が銅または銅を主成分とする銅合金またはアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金であることが望ましい。このとき、上記したろう材としては活性金属を含むろう材またはAl合金ろう材を用いることが好ましい。
【0010】
本発明のセラミックス回路基板の製造方法は、セラミックス基板の表面および裏面に金属板をろう材で接合した後、表面の金属板をエッチングして回路パターンを形成し、裏面の金属板を放熱板として接合体を造るか、またはセラミックス基板の表面に回路パターンが形成されている金属回路板および該セラミックス基板の裏面に金属放熱板をそれぞれ活性金属を含むろう材で接合して接合体を造り、この接合体を−110℃以下に冷却することを特徴とする。ここで冷却は、接合体を真空パックするか、または不活性ガス中で、80℃/分以下の降温速度で−110℃以下に冷却して20分間以上保持することが好ましい。
【0011】
また本発明のセラミックス回路基板の製造方法は、セラミックス基板の表面および裏面に金属板をろう材で接合した後に−110℃以下に冷却して室温に戻し、表面の金属板をエッチングして回路パターンを形成し、裏面の金属板を放熱板として接合体を造るか、または更にこの接合体を−110℃以下に冷却することを特徴とする。ここで冷却は、接合体を真空パックするか、または不活性ガス中で、80℃/分以下の降温速度で−110℃以下に冷却して20分間以上保持することが好ましい。
尚、上記したろう材としては、活性金属を含むろう材またはAl合金ろう材を用いることが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明例のセラミックス回路基板の断面図である。
本発明のセラミックス回路基板10は、セラミックス基板11の表面に活性金属を含むろう材、またはAl合金ろう材14を介して金属回路板12を設け、他方セラミックス基板11の裏面には活性金属を含むろう材、またはAl合金ろう材14を介して金属放熱板13を夫々設けた接合体となし、この接合体を−110℃以下で冷却処理して得たものである。この接合体によれば室温におけるセラミックス基板11の反り量(tw)は50mm当り100μm以下、またセラミックス基板11に加わる残留応力が650MPa以下とすることが出来る。尚、反り量は金属回路板、あるいは金属放熱板のどちら側のものでも良い。そして、残留応力の集中を防止するためには、金属回路板12および金属放熱板13の端面および端部コーナー部にはテーパー及び/又はアールが設けられていることが望ましい。
【0013】
セラミックス回路基板10の反り量が大きいと、金属放熱板13側に放熱器または機器の筐体にネジまたは低温ろう材等を使用して取り付ける場合、密着性が悪くなり、放熱性が劣化する。このため、密着性を良くして放熱性を向上させるためには、50mm当りの反り量(tw)が更に小さい50μm以下であることがより好ましい。またセラミックス回路基板10の反りは、ネジを使用して放熱板等に取り付ける場合、金属回路板12側が凸(金属放熱板13側が凹)に反っているよりも、金属回路板12側が凹(金属放熱板13側が凸)に反っている方が、密着性が良いため放熱性が良くなる。更に残留応力が緩和されるために温度サイクル寿命の向上ができるため、より好ましい。
【0014】
本発明で使用されるセラミックス基板11としては、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ等があげられ、その厚みとしては、薄すぎると強度および耐久性が小さくなり、厚すぎると熱抵抗が大きくなるので、0.2〜0.9mm程度であることが好ましい。また、金属回路板12および金属放熱板13としては、銅、銅を主成分とする銅合金、アルミニウム、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金等があげられ、金属回路板12の厚みは3.0mm以下であることが好ましい。この理由については後述する。
【0015】
更に、本発明のセラミックス回路基板において、ろう付け接合で接合体に発生する残留応力の緩和による接合体の破損および反り防止、並びに温度サイクル寿命向上のためには、金属回路板12の厚み(tc)と金属放熱板13の厚み(tr)との関係がtc>trであり、更に金属回路板12のろう付けされた面積(sc)と金属放熱板13のろう付けされた面積(sr)との関係がsc<srであることが好ましい。この理由は以下のように考えられる。
【0016】
ろう付け接合後の接合体の反り方は、金属回路板12の厚み(tc)と金属放熱板13の厚み(tr)との関係で変わる。例えば、上記面積がsc=srの条件で、▲1▼上記厚みがtc=trの場合では反りが発生しない。▲2▼上記厚みがtc>trの場合では金属回路板12側が凹(金属放熱板13側が凸)に反る。▲3▼上記厚みがtc<trの場合では金属回路板12側が凸(金属放熱板13側が凹)に反る。更に上記面積がsc<sr条件で、▲1▼上記厚みがtc=trか、またはtc<trの場合では金属回路板12側が凸(金属放熱板13側が凹)に反る。▲2▼上記厚みがtc>trの場合では、反りが発生しないか、または金属回路板12側が凸(金属放熱板13側が凹)に反るか、または金属回路板12側が凹(金属放熱板13側が凸)に反るかのいずれかの状態になる。尚、反り量は、前記厚みtcとtrとの差が大きくなればなるほど、また前記面積scとsrとの差が大きくなればなるほど増加傾向を示す。即ち、少なくとも金属回路板12側が凹(金属放熱板13側が凸)に反るように、かつ反り量を少なくコントロールするためには、必要条件としてのsc<sr、およびtc>trの条件の中から最適な定数を選定すれば良い。
【0017】
本発明におけるセラミックス基板11としては、加わる残留応力に耐える必要が有るため、曲げ強度が650MPa以上と強く、熱伝導性の良い窒化珪素基板が、特に好ましい。また金属回路板12および金属放熱板13としては、電気伝導性、熱伝導性および伸び率の良い無酸素銅が好ましい。
【0018】
また、本発明のセラミックス回路基板10の製造方法は、セラミックス基板11の表面および裏面に金属板をチタン等の活性金属を含むろう材、またはAl合金ろう材14を介して接触させ、前記ろう材14が溶融する温度まで上昇させて接合する。その後は、クラックが発生しないように5℃/分以下の降温速度で室温まで戻した後、表面の金属板をエッチングして回路パターンを形成し、裏面の金属板はそのまま放熱板として接合体(1)を造るか、またはセラミックス基板11の表面に予め回路パターンがプレス加工などで形成された金属回路板12および該セラミックス基板11の裏面に金属放熱板13を前記ろう材14を介して接触させ、前記ろう材14が溶融する温度まで上昇させて接合する。その後は、クラックが発生しないように5℃/分以下の降温速度で室温まで戻して接合体(2)を造る。次にこの接合体を真空パックするか、または不活性ガス中で、前記接合体にクラックが発生しないように80℃/分以下の降温速度で−110℃以下に冷却して20分以上保持し、冷却後の接合体にクラックが発生しないように80℃/分以下の昇温速度で室温まで戻して製造するものである。尚、残留応力の緩和には、−190℃前後に冷却することがより好ましい。前記接合体(1)を製造する際の冷却処理は、回路パターンを形成する前の金属板接合後に1回のみ実施する方法か、または更に回路パターンを形成後にもう1回実施する方法でも良い。特に、回路パターンを形成する前の金属板接合後に冷却処理する方法は、残留応力の緩和が回路パターン形成時のクラック防止にも有効であり、更に回路パターン形成後にも冷却処理することにより温度サイクル寿命の更なる改善が期待できる。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例をあげて具体的に説明する。
(実施例1〜3)
セラミックス基板として寸法が50mm×30mm×(厚み)0.64mmで熱伝導率が80W/m・Kの窒化珪素基板の表面に金属回路板として寸法が40mm×25mm×(厚み)1.0mmの無酸素銅板と、裏面に金属放熱板として寸法が40mm×25mm×(厚み)0.8mmの無酸素銅板を、回路パターン形状および放熱板形状に切断された活性金属を含む銀、銅、チタンから成る厚み50μmのろう材箔を介して接触させて1.33Pa以下の真空中で850℃×10分加熱した後、4℃/分の降温速度で冷却して窒化珪素基板と無酸素銅板の接合体を得た。
【0020】
次に、回路パターンを、回路用金属板の無酸素銅板をエッチング加工して形成した。ここで金属回路板のろう付け面積(sc)と金属放熱板のろう付け面積(sr)との比(sc/sr)を0.8とした。
【0021】
更に、これを真空パックして60℃/分の降温速度で−110℃以下、具体的には−191℃、−150℃、−110℃にそれぞれ冷却後、30分間保持し、その後60℃/分の昇温速度で室温まで戻し、セラミックス回路基板を得た。尚、−191℃の冷却には液体窒素を冷却材として使用した。
【0022】
(比較例1〜4)
上記実施例と同様の接合体を得た後、これを真空パックして60℃/分の降温速度で−70℃、−50℃、−25℃に冷却後、30分間保持し、その後60℃/分の昇温速度で室温まで戻し、セラミックス回路基板を得た。また、同じ接合体で冷却処理をしていないセラミックス回路基板をそれぞれ比較用に用意した。
【0023】
(実施例4)
上記実施例と同様の接合体を得た後に、まず1回目の冷却処理を−191℃で行ない、その後、回路用金属板にエッチング加工して回路パターンを形成した。他は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。
【0024】
(実施例5)
上記実施例と同様の接合体を得た後に、まず1回目の冷却処理を−191℃で行ない、その後、回路用金属板にエッチング加工して回路パターンを形成した。更にその後、2回目の冷却処理を−191℃で行なった。他は上記実施例と同様にしてセラミックス回路基板を得た。
【0025】
(実施例6)
予め、回路用金属板をプレス加工をして造った回路用金属板を用いて接合する方法に変えた以外は、実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。
【0026】
(実施例7、8)
セラミックス基板として寸法が50mm×30mm×(厚み)0.64mmの窒化アルミニウム基板およびアルミナ基板のそれぞれの表面に金属回路板として厚み40mm×25mm×(厚み)0.6mmの無酸素銅板と、裏面にそれぞれ金属放熱板として40mm×25mm×(厚み)0.4mmの無酸素銅板を用いて、実施例1と同様のろう付条件で接合体を得た後に、まず1回目の冷却処理を−191℃で行ない、その後、回路用金属板にエッチング加工して回路パターンを形成し、セラミックス回路基板を得た。
【0027】
(比較例5、6)
上記実施例7および実施例8と同じ接合体で冷却処理をしていないセラミックス回路基板をそれぞれ比較用に用意した。
【0028】
(実施例9、10)
セラミックス基板として寸法が50mm×30mm×(厚み)0.64mmの窒化珪素基板および窒化アルミニウム基板のそれぞれの表面に金属回路板として厚み40mm×25mm×(厚み)0.6mmの純アルミニウム板と、裏面にそれぞれ金属放熱板として40mm×25mm×(厚み)0.4mmの純アルミニウム板を、Al−Siからなる厚み50μmのろう材箔を介して接触させて1.33Pa以下の真空中で16kPaの荷重を印加しながら、630℃×10分加熱した後、4℃/分の降温速度で冷却して窒化珪素基板とアルミニウム板の接合体、および窒化アルミニウム基板とアルミニウム板の接合体をそれぞれ得た。
上記接合体を得た後に、まず1回目の冷却処理を−191℃で行ない、その後、回路用金属板にエッチング加工して回路パターンを形成した。回路パターン形状およびsc/srは実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。
【0029】
(比較例7、8)
上記実施例9および実施例10と同じ接合体で冷却処理をしていないセラミックス回路基板をそれぞれ比較用に用意した。
以上の実施例および比較例のセラミックス基板、金属回路基板及び金属放熱板の仕様及び寸法等を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
次に、このようにして製造されたセラミックス回路基板について、窒化珪素基板の50mm当りの反り量(A)を測定すると共に、窒化珪素基板に発生する残留応力(B)を解析した。また、温度サイクル寿命(C)試験を、大気中で−40℃×20分保持後→室温25℃×10分間放置→更に125℃×20分保持後→25℃×10分間放置を1サイクルとして行い、窒化珪素基板部にクラック等の不具合が発生するまでのサイクル数を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
表1に示すように金属板に無酸素銅板を使用した窒化珪素セラミックス回路基板の場合、残留応力、反り量および温度サイクル寿命ともに冷却温度が−70℃以上の比較例よりも−110℃以下の本発明による実施例の方が改善されており、その中でも、−191℃の実施例が最も改善されることが分かった。
【0034】
次に、上記の実施例1〜3と比較例1〜4の反り量と冷却温度との関係をグラフ化したものを図2に示す。これによると、反り量を100μm以下に抑えるためには、冷却温度を−110℃以下にする必要があることが分かる。
【0035】
また、実施例4、5、6のいずれも比較例よりは残留応力、反り量および温度サイクル寿命ともに改善されており、その中でも実施例5の本発明例の残留応力、反り量および温度サイクル寿命が、最も改善されていることが分かる。
【0036】
次に実施例7、8のセラミックス基板に窒化アルミニウム基板またはアルミナ基板を用いた場合にも、比較例5、6と比べると、本発明の実施例によるセラミックス回路基板ではいずれも反り量、残留応力および温度サイクル寿命いずれも改善されることがわかる。ただし窒化アルミニウム基板およびアルミナ基板の曲げ強度は窒化珪素に比べて低いことから厚い銅板を接合した場合には、ろう付時の残留応力によりセラミックス基板が損傷を受けないように、接合温度や接合する金属板の厚さ等を適切な条件で選定する必要がある。
【0037】
以上は全て金属板に無酸素銅板を用いた場合であるが、金属板に純アルミニウム板を用いた場合にも実施例9、10および比較例7、8から残留応力、温度サイクル改善に効果がみられることが分かる。
【0038】
本実施のセラミックス回路基板は、金属回路パターン上に半導体素子を低温ろう材や、はんだ等を用いて実装し、またセラミックス回路基板は金属放熱板側でヒートシンクまたはCu等の金属製の水冷ジャケットに固定して使用される。この場合、素子が発する熱をヒートシンクまで到達させる拡散放熱性能を現す目安として熱抵抗がある。
【0039】
この熱抵抗には、ある一定の電力を連続印加した場合に熱抵抗値が電力印加時間tpに対して飽和する飽和熱抵抗(熱がヒートシンクまで到達し、熱抵抗値が飽和開始した時の熱抵抗値を飽和熱抵抗値とし、またこのときの電力印加時間をtp=tp1とする。)と、一定の電力を時間tp2(tp2<tp1)の短時間だけ印加した場合に用いられ、熱抵抗値が飽和前である過渡熱抵抗に分けられる。ただし、ここで示す熱抵抗は、電力印加前後の素子の温度差を印加電力値で除したものである。特にモーターおよび電力変換機器等の制御に用いられる場合には、tp2の短時間に電力が半導体素子に投入され、同時に短時間に素子からの放出熱を素早く拡散するために良好な放熱特性が必要になり、この場合には過渡熱抵抗が小さいことが要求される。即ち、電力印加時間の増加に対して熱抵抗値の絶対値が小さく、過渡熱抵抗(過渡域の熱抵抗値)が飽和値に達するまでの時間(tp1)が長いほど素子の温度上昇が少なく、放熱性に優れていると言える。
【0040】
ここで半導体素子への投入電力を一定とし、電力印加時間1ms〜0.5sまで可変にした場合であって、金属回路板の厚みが1.0mm(金属放熱板の厚み0.8mm)の実施例1のセラミックス回路基板の熱抵抗特性の測定例を図3に示す。ただし、ここでは熱抵抗値で表示する変わりに規格化熱抵抗で示した。この規格化熱抵抗は測定用試料の抵抗値を、同一試料の飽和熱抵抗値で除したものである。したがって規格化熱抵抗値が1になった電力印加時間(tp1)で、その試料の熱抵抗が飽和したと見なした。図3の測定で用いた試料の場合、電力印加時間0.1sec(=tp1)以上で熱抵抗値が飽和値に達することがわかる。したがって、この試料の場合、tp=tp1の時の熱抵抗値が飽和熱抵抗値となる。
【0041】
(実施例11)
測定用試料のセラミックス回路基板は、セラミックス基板に窒化珪素を用い、窒化珪素基板の寸法が50mm×30mm×(厚み)0.64mmであり、その表面の中心から長手方向にそれぞれ22.5mmの間隔を空けてφ3mmのネジ止め用貫通穴が加工されている。金属回路板の厚み1.0mmで一定とし、金属放熱板の寸法が50mm×30mm×(厚みx:1.0mm以下で可変)であり、また、金属放熱板の表面の中心から長手方向にそれぞれ22.5mmの間隔を空けてφ3mmのネジ止め用貫通穴が加工されている。前記金属放熱板の厚み(x)を変化させたセラミックス回路基板の反り量は、金属放熱板側の表面を連続的に測定して求めた。なお、放熱器として用いたヒートシンクに取り付られる金属放熱板の全面には、熱伝導性の良いグリスを厚み50μm塗布してネジ止めして取り付けた。放熱器は、水冷をして25℃一定にした。また素子には10mm角で厚み0.5mmの電力半導体素子を用い低温ろう材で前記セラミックス回路基板の金属回路板の上に接合して飽和熱抵抗特性が測定できるようにした。
【0042】
金属放熱板の厚みを変化(1.0mm以下)させて作製した以外は実施例1と同様の接合体を、−191℃で冷却処理した場合のセラミックス回路基板の反り量0〜150μmに対する規格化飽和熱抵抗特性を測定した結果を図2に示す。ここで規格化飽和熱抵抗とは、反り量が任意の試料の飽和熱抵抗値を、反り量が0(μm)の試料の飽和熱抵抗値で除したものである。本実施例による試作試料の測定結果から金属放熱板の厚みは0.8mmのとき最も反り量の絶対値が0に近くなり好ましい結果が現われた。そこで、この時の飽和熱抵抗値を用いて熱抵抗の規格化を行った。勿論これらセラミックス回路基板の中で反り量が0(μm)の回路基板を用いた場合の飽和熱抵抗の絶対値が最も小さく、反り量が大きくなるに従い、ヒートシンクとのギャップが大きくなり飽和熱抵抗値は大きくなる。即ち、ここで示す規格化飽和熱抵抗が極力小さく、1に近いほど熱を多く拡散させるのに優れており、反り量が0(μm)の回路基板の放熱性能に近いと言える。
【0043】
図2から、規格化飽和熱抵抗は反り量が50μmでは反り量が0μmの飽和熱抵抗の約5%増となり、反り量が100μmでは約10%増となることが分かる。そして反り量が100μmを超えると、規格化飽和熱抵抗が急激に大きくなることが分かる。即ち、飽和熱抵抗を劣化させないためには、反り量は100μm以下に抑えることが必要であることが導かれる。これは図2の冷却温度と反り量との結果に符合する。
【0044】
(実施例12)
半導体素子への投入電力を一定とし、電力印加時間1ms〜0.5sまで可変に対する金属回路板の厚みをパラメータにした場合の熱抵抗特性の測定結果を図4に示す。図3と同様この評価方法では電力印加時間に対して過渡熱抵抗が飽和値に達するまでの時間(tp1)が長いほど素子の温度上昇が少なく、放熱性に優れていると言える。また図4の規格化熱抵抗は各測定用試料の熱抵抗値を、同一試料の飽和熱抵抗値で除したものである。したがって規格化熱抵抗値が1になった電力印加時間(tp1)で、その試料の熱抵抗が飽和したことを表す。測定用試料はセラミックス基板に窒化珪素基板を使用し、金属回路板の厚みを0.4〜4mm(金属放熱板の厚みは実施例11と同様の方法で最適厚みを決定)に可変し、冷却処理は−191℃で実施した以外は実施例1と同様にして作製した。次に、10mm角で厚み0.5mmの電力半導体素子を低温ろう材で前記セラミックス回路基板の金属回路板の上に接合して飽和熱抵抗特性が測定できるようにした。
【0045】
図4から金属回路板の厚みが3mmを超えると、規格化熱抵抗値が飽和する電力印加時間tp1の延びが小さくなることが分かる。即ち、3mmを超える厚みの金属回路板を用いても放熱性を大きく改善させることが望めないと言うことである。また、3mm以上の厚みがあると、金属回路板の膨張/収縮がセラミックス基板を破損させ易くすると共に、素子を固定するための低温ろう材に悪影響を及ぼし易くなる。更にセラミックス回路基板の軽量化や製造費の削減が困難になる等のため推奨できない。
【0046】
【発明の効果】
本発明のセラミックス回路基板およびその製造方法によれば、熱抵抗、特に過渡熱抵抗の減少ができるために熱伝導性が改善できると共に、温度サイクル寿命の改善ができる。よって、電力半導体素子用回路基板の小型化、大電力化、高信頼度化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のセラミックス回路基板の断面図を示す。
【図2】本発明のセラミックス回路基板の反り量に対する規格化飽和熱抵抗および冷却温度特性の一例を示す図である。
【図3】本発明のセラミックス回路基板の電力印加時間に対する規格化熱抵抗特性の一例を示す図である。
【図4】本発明のセラミックス回路基板で金属回路板の厚さを変えた場合の電力印加時間に対する規格化熱抵抗特性を示す図である。
【符号の説明】
10:セラミックス回路基板
11:セラミックス基板
12:金属回路板
13:金属放熱板
14:ろう材
Claims (3)
- セラミックス基板の表面および裏面に金属板をろう材で接合した後、表面の金属板をエッチングして回路パターンを形成し、裏面の金属板を放熱板として接合体を造るか、またはセラミックス基板の表面に回路パターンが形成されている金属回路板および該セラミックス基板の裏面に金属放熱板をそれぞれろう材で接合して接合体を造り、この接合体を−110℃以下に冷却することを特徴とするセラミックス回路基板の製造方法。
- セラミックス基板の表面および裏面に金属板をろう材で接合して接合体を造り、この接合体を−110℃以下に冷却して室温に戻し、表面の金属板をエッチングして回路パターンを形成し、裏面の金属板を放熱板とすることを特徴とするセラミックス回路基板の製造方法。
- 前記接合体の冷却は接合体を真空パックするか、または不活性ガス中で、80℃/分以下の降温速度で−110℃以下に冷却して20分以上保持することを特徴とする請求項1または2記載のセラミックス回路基板の製造方法。
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