JP3867806B2 - インクジェットプリンタ、およびインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法 - Google Patents

インクジェットプリンタ、およびインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法 Download PDF

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Description

本発明は、ノズル部からインク滴を吐出して記録用紙に記録を行うインクジェットプリンタ、およびインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法に関する。
近年、インク室に連通したノズル部からインク滴を吐出して記録用紙に記録を行うインクジェットプリンタが普及している。従来、この種のインクジェットプリンタでは、1つのノズルに対応して1つの圧電素子が設けられていた。この圧電素子は、例えば、インク流路を介してインクが供給されるインク室の外壁をなす振動板に固設されており、印加される駆動信号の電圧波形に応じて撓むことでインク室の容積を変化させて吐出圧力を生じさせ、この吐出圧力によってノズルからインク滴を吐出させることができるようになっていた。
この種のインクジェットプリンタにおいては、上記のようにインク室の容積を変化させて吐出圧力を発生させるようになっているので、ノズルから吐出されたインクが柱状になって(尾を引く形で)飛翔し、この飛翔するインクの先頭部分と後尾部分との間に時間差や速度差が生ずる。このため、先行する主たるインク滴に付随して、微小な衛星状の不要なインク小滴(以下、サテライト滴という。)が発生し、これが記録用紙上に着弾することによって好ましくない印字結果が生ずる。この場合、比較的大きなインク滴で記録を行う濃い画像ではサテライト滴の発生は画品位にあまり大きな影響を与えないが、濃度の淡い画像や中間階調画像を表現する場合のように小さいインク滴で記録を行う場合には、サテライト滴の発生による画品位の低下が著しくなることが予想される。したがって、特に、小さいサイズのインク滴を吐出する場合におけるサテライト滴の発生が大きな問題となる。
この問題に対処するため、従来よりいくつかの方策が提案されている。例えば、特許文献1には、1つのノズルについて1つの圧電素子を設け、この圧電素子に印加する吐出用電圧の変化速度を2段階に切り替えてインク滴吐出を行う方法が提案されている。この方法は、図10に示したように、当初は第1の電圧変化速度v1をもって吐出用電圧を増加させ、途中からv1よりも大きい第2の電圧変化速度v2をもって吐出用電圧を増加させるものである。なお、図10で、縦軸は電圧、横軸は時間を表す。この方法によれば、先に吐出されたインクの先頭部分を追いかける形で引き続いてインクが噴射されるようになるので、インク柱の先頭部分と後尾部分との間の速度差が小さくなり、サテライト滴が生じにくくなる。
また、例えば、特許文献2には、1つのノズルについて1つの圧電素子を設け、この圧電素子に互いに独立した2つの電圧パルスを印加してインク滴吐出を行う方法が提案されている。この方法は、図11に示したように、まず、第1のパルスP1を圧電素子に加えて第1の圧力変動を生じさせてノズルからのインク滴の噴射を開始し、その後、第1のパルスP1を終了させたのちノズルからインク滴が射出される前に第2のパルスP2を圧電素子に加えて第2の圧力変動を生じさせるようにしたものである。なお、図11において、縦軸は電圧、横軸は時間を表す。この方法によれば、ノズルから噴射されたインク柱が早期に破断され、サテライト滴が生じにくくなる。
なお、例えば、特許文献3には、1つのノズルに対して2つの圧力発生手段を設け、これらの2つの圧力発生手段からの振動の重ね合わせによってインクを振動させてインク滴を吐出させるようにしたインク滴吐出装置が提案されている。
特開平7−76087号公報 特開昭59−133067号公報 特開昭51−45931号公報
しかしながら、上記の特許文献1に記載された方法では、第1の電圧変化速度v1を第2の電圧変化速度v2よりも必ず小さくしなければならない。このため、全吐出行程にわたって高速の電圧変化速度v2で電圧を変化させた場合に比べると、吐出されるインク滴の飛翔速度が低下せざるを得なくなる。インク滴速度の低下は、その飛翔ルートの直線性の悪化や飛翔速度のばらつき等、吐出の不安定性を招くことから、記録ドットのずれが生じて印字品質を低下させるおそれがある。
また、上記の特許文献2に記載された方法では、第1のパルスP1を終了させたのち、ある時間間隔Tiをおいて第2のパルスP2を印加するようになっているので、この時間間隔Tiが大きいと、インク柱の尾引きが長くなってサテライト滴の発生を防止しにくくなる。一方、時間間隔Tiが小さいと、圧電素子が電圧変化に追随できず、所期の動作が得られなくなる。一般に、圧電素子は固有の振動特性を有し、その固有振動数以上の周波数では動作し得ないからである。この点は、高い固有振動数をもつ圧電素子を製作することで解決できると考えられるが、圧電素子の固有振動数を高めるにしてもそれには限度があり、しかも製造技術上の困難性を伴ってコスト高にもつながることから、現実的ではない。また、上記公報の記載では、第1のパルスP1の電圧値V1よりも第2のパルスP2の電圧値V2の方が小さくなっているが、インク柱の先頭部分に後尾部分を追い付かせて一体化させるためには、第1のパルスP1の電圧値V1よりも第2のパルスP2の電圧値V2の方を大きくする必要がある。ところが、圧電素子への印加電圧を大きくすることは、圧電素子およびこの圧電素子によって励振される振動板の寿命を縮める要因になると共に、残留振動が大きくなって周波数特性が悪化することが予想される。
また、上記の特許文献3に記載されたインク滴吐出装置は小さい電源入力で効率よくインク滴を吐出させることを目的としたものであり、この目的を達成するために、2つの圧力発生手段に高周波駆動信号をそれぞれ印加すると共に、これらの高周波駆動信号の位相差や振幅を変化させることで2つの圧力発生手段からの振動をうまく重ね合わせてインクを振動させ、これによりインク滴を吐出させるようにしている。すなわち、このインク滴吐出装置は、サテライト滴の発生を防止することを目的とはしておらず、そのための構成も備えていない。また、そのような示唆もない。
このように、従来は、吐出されるインク滴の飛翔速度の低下や装置寿命の短縮、あるいは周波数特性の悪化等を伴うことなく、また、圧電素子の固有振動特性による制約を受けることなく、サテライト滴の発生を十分に抑制することは困難であった。
これらの問題を解決するため、本出願人は、各ノズルに対応したインク室ごとにインク滴吐出用の圧電素子および、これとは別個のサテライト滴発生抑制用の圧電素子を設け、これらの圧電素子の駆動タイミングを適宜に制御するようにしたインクジェットプリンタを提案している。このインクジェットプリンタによれば、上記の諸問題を克服しつつインク滴吐出時のサテライト滴の発生を抑制することが可能となる。
ところが、このような構成のインクジェットプリンタにおいては、例えば、一方の圧電素子であるインク滴吐出用圧電素子が吐出のためにインク室収縮方向に変位してインク室内の圧力が増加すると、この圧力が直ちに他方の圧電素子であるサテライト滴発生抑制用圧電素子にも伝わることから、このサテライト滴発生抑制用圧電素子がインク室膨張方向に変位するおそれがある。すなわち、インク滴吐出用圧電素子の変位によってインク室が収縮すると同時にサテライト滴発生抑制用圧電素子の変位によるインク室の膨張も起こる。このため、インク室の収縮量の一部が膨張量によって相殺されて、実質的なインク室収縮量が予定量に達せず、所期の吐出圧力が得られなくなるおそれがある。この場合、予定した吐出圧力からのずれ量は必ずしも一律ではなく、インク滴吐出用圧電素子への印加電圧波形によってばらつくことから、結果として、吐出圧力が予定値に対してランダムにばらつく可能性がある。このことは、サテライト滴発生抑制用圧電素子によってサテライト滴発生抑制用圧力を発生させるときにも同様に起こり得ることであり、サテライト滴発生抑制用圧力が予定値に対してランダムにばらつく可能性がある。
このような吐出圧力のばらつきはインク滴のサイズや吐出速度等のばらつきを招き、サテライト滴発生抑制用圧力のばらつきはサテライト滴の発生を十分抑制できないという結果を招く。したがって、所期の高品位の画像表現が困難になるという問題が生ずる。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、上記のような諸問題を克服しつつインク滴吐出時におけるサテライト滴発生抑制等の補助動作と共に、インク滴の吐出状態のばらつきを低減して安定した吐出動作を行うことができるインクジェットプリンタ、およびインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法を提供することにある。
本発明のインクジェットプリンタは、インク滴を吐出するためのノズル部と、1つのノズル部について複数設けられ、インク滴をノズル部から吐出させるための圧力を発生する吐出圧力発生手段と、吐出用駆動信号および補助電圧駆動信号を、それぞれ異なる吐出圧力発生手段に印加する吐出制御手段とを備えたものである。吐出用駆動信号は、ノズル部からインク滴を吐出させる圧力を発生させる第1電圧波形を含む。他方、補助電圧駆動信号は、第1電圧波形により発生した、ノズル部からインク滴を吐出する圧力が減少するのに合わせて、インク滴の吐出時における付随的なインク小滴の発生を抑制する圧力を発生させる第2電圧波形を含む。
本発明のインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法は、インク滴を吐出するためのノズル部と、1つのノズル部について複数設けられ、インク滴をノズル部から吐出させるための圧力を発生する吐出圧力発生手段と、吐出用駆動信号および補助電圧駆動信号を、それぞれ異なる吐出圧力発生手段に印加する吐出制御手段とを備えたインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法である。この駆動方法では、吐出制御手段は、ノズル部からインク滴を吐出させる圧力を発生させる第1電圧波形を吐出用駆動信号として吐出圧力発生手段に印加すると共に、第1電圧波形により発生した、ノズル部からインク滴を吐出する圧力が減少するのに合わせて、インク滴の吐出時における付随的なインク小滴の発生を抑制する圧力を発生させる第2電圧波形を補助電圧駆動信号として吐出圧力発生手段に印加する。
本発明のインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法では、1つのノズル部について複数設けられた吐出圧力発生手段のうち一の吐出圧力発生手段に印加された第1電圧波形により発生した、ノズル部からインク滴を吐出する圧力が減少するのに合わせて、インク滴の吐出時における付随的なインク小滴の発生を抑制する圧力を発生させる第2電圧波形が、補助電圧駆動信号として他の吐出圧力発生手段に印加される。これにより、インク滴がより早く断ち切られ、ノズル部から外部に吐出されたインク滴の尾が長く伸びることが抑制される。
本発明のインクジェットプリンタおよびインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法によれば、1つのノズル部について複数設けられた吐出圧力発生手段のうち一の吐出圧力発生手段に印加された第1電圧波形により発生した、ノズル部からインク滴を吐出する圧力が減少するのに合わせて第2電圧波形を補助電圧駆動信号として他の吐出圧力発生手段に印加するようにしたので、インク滴がより早く断ち切られ、ノズル部から外部に吐出されたインク滴の尾が長く伸びることを抑制することができる。その結果、インク滴サイズのばらつき等の少ない安定したインク滴吐出が可能となるのに加え、さらに、不要な付随的インク小滴の発生を抑制することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンタ1の機能ブロックを表すものである。本実施の形態では、複数のノズルを有するマルチノズルヘッドを備えたインクジェットプリンタについて説明するが、本発明は単一のノズルを有するシングルノズルヘッドを備えたインクジェットプリンタについても適用可能である。
このインクジェットプリンタ1は、記録用紙2に対してインク滴を吐出して記録を行う記録ヘッド11と、この記録ヘッド11にインクを供給するインクカートリッジ12と、記録ヘッド11の位置と記録用紙2の紙送りとを制御するヘッド位置・紙送りコントローラ13と、駆動信号21により記録ヘッド11のインク滴吐出動作を制御するヘッドコントローラ14と、入力される画像データに所定の画像処理を行い、印画データ22としてヘッドコントローラ14に供給する画像処理部15と、制御信号23,24,25によってそれぞれヘッド位置・紙送りコントローラ13、ヘッドコントローラ14および画像処理部15を制御するシステムコントローラ16とを備えている。ここで、ヘッドコントローラ14が本発明における「吐出制御手段」の一例に対応する。
図2は図1の記録ヘッド11の斜視断面構造を表し、図3は図2の記録ヘッド11を矢印Zの方向から見た断面構造を表し、図4は図2の記録ヘッド11を矢印Wの方向から見た平面構造を表すものである。なお、図4では後述する振動プレート113の図示を省略している。これらの図に示したように、記録ヘッド11は、薄いノズルプレート板111と、ノズルプレート111上に積層された流路プレート112と、流路プレート112上に積層された振動プレート113とを備えて構成されている。これらの各プレートは、例えば、図示しない接着剤により相互に貼り合わされている。
流路プレート112の上面側には選択的に凹部が形成されており、これらの凹部と振動プレート113とによって、短辺方向に所定間隔で配列された複数の細長いインク室114aと、上記方向と同方向に上記間隔と同間隔で配列された複数の細長いインク室114bと、これらのインク室114a,114bに連通する「コ」の字型の共同流路115とを構成している。共同流路115と各インク室114a,114bとの連通部分は挟路となっており、ここから各インク室114a,114bの方向に向かうに従って流路幅が拡がるような構造となっている。
一方の列のインク室114aの各真上部分の振動プレート113上には、それぞれ圧電素子116aが固着され、他方の列のインク室114bの各真上部分の振動プレート113上には、それぞれ圧電素子116bが固着されている。これらの圧電素子116a,116bは例えばピエゾ素子等から構成される。各圧電素子116a,116bの上下面には、図示しない電極がそれぞれ積層配置されており、これらの電極にヘッドコントローラ14(図1)からの駆動信号を印加して各圧電素子116a,116b、ひいては振動プレート113をたわませることで、インク室114a,114bの容積を増大(膨張)させたり減少(収縮)させることができるようになっている。
本実施の形態において、圧電素子116a,116bは、同じ印加電圧に対する変位量(以下、変位能力という。)が等しくなるように構成されている。そのために本実施の形態では、圧電素子116a,116bの材質、厚さおよび面積を等しく形成している。これにより、同一の印加電圧に対して同じ容積変化をインク室114に与えることができる。但し、2つの圧電素子116a,116bの面積や厚さ等を変えて、両者の変位能力を異ならせるように構成してもよい。ここで、圧電素子116a,116bが本発明における「吐出圧力発生手段」の一例に対応する。
インク室114aの各々における、共同流路115に連通した側と反対側の部分は、流路幅が次第に狭まっていく構造になっており、その終端部の流路プレート112には、厚み方向に穿たれた流路孔117が設けられている。同様に、インク室114bの各々における、共同流路115に連通した側と反対側の部分は、流路幅が次第に狭まっていく構造になっており、その終端部は流路孔117に連通している。すなわち、各流路孔117につき、これと連通する2つのインク室114a,114bが、対応する流路孔117を挟む形で両側に形成されている。流路孔117は、最下層のノズルプレート111に形成された微小なノズル118へと連通しており、このノズル118からインク滴が吐出されるようになっている。結局、記録用紙2(図1)の紙送り方向(図2の矢印X)に沿って、複数のノズル118が1列に等間隔で形成されると共に、これらの各ノズル118ごとに、それぞれ2つのインク室114a,114bがノズル列の両側に分かれて配置された形となっている。後述するように、この点が本発明の1つの特徴をなしている。ここで、ノズル118が本発明における「ノズル部」に対応する。
共同流路115は、インク室114a,114bの周囲を取り囲むようにして形成されると共に、これらのインク室114a,114bにそれぞれ連通し、さらに、その図示しない一端部は、図1に示したインクカートリッジ12(図2ないし図4では図示せず)へと連通している。そして、このインクカートリッジ12から共同流路115を経て各インク室114に常時一定速度でインクが供給されるようになっている。このインクの供給は、例えば毛細管現象を利用して行うことができるが、そのほか、インクカートリッジ12に所定の加圧機構を設けて加圧することで行うようにしてもよい。
このような構成の記録ヘッド11は、図示しないキャリッジ駆動モータおよびこれに付随するキャリッジ機構によって記録用紙2の紙送り方向Xと直交する方向Y(図2)に往復移動しながらインク滴を吐出することにより、記録用紙2に画像を記録するようになっている。
図1に示したヘッドコントローラ14は、例えば、いずれも図示しないが、マイクロプロセッサと、このマイクロプロセッサが実行するプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、マイクロプロセッサによる所定の演算や一時的なデータ記憶等に用いられるワークメモリとしてのRAM(Random Access Memory)と、不揮発性メモリからなる駆動波形記憶部と、駆動波形記憶部から読み出されたディジタルデータをアナログに変換するためのディジタルアナログ(D/A)コンバータと、D/Aコンバータの出力を増幅するアンプとを備えて構成される。ここで、駆動波形記憶部は、記録ヘッド11の各ノズルの圧電素子116a,116b(図2)をそれぞれ駆動するための駆動信号21a,21b(図5)の各電圧波形を示す波形データの組を多数記憶している。これらの波形データは、例えば図5に示した各種のパラメータ(時間パラメータおよび電圧パラメータ)を様々な値に設定して作成されたものである。但し、各組の駆動信号21aと駆動信号21bとの間には、サテライト滴の発生を抑制すべく後述するような一定の関係が保たれている。これらの波形データはマイクロプロセッサによってそれぞれ読み出され、D/Aコンバータでアナログ信号に変換されたのちアンプで増幅され、ノズル数nと同数の駆動信号21a,21bの組として出力される。なお、ヘッドコントローラ14は、上記のような構成に限られることはなく、これと異なる構成とすることも可能である。
これらの駆動信号の組のうち、各駆動信号21aは対応するノズルのインク室114aに設けられた圧電素子116aに印加され、各駆動信号21bは対応するノズルのインク室116bに設けられた圧電素子116bに印加されようになっている。なお、図1では、n組の駆動信号21a,21bをまとめて駆動信号21として描いている。
図5は駆動信号21a,21bの各一周期分(T)の波形の一例を表すものである。この図の(a)は駆動信号21a、(b)は駆動信号21bを表す。ここで、縦軸は電圧、横軸は時間を表し、時間は図の左から右方向へと進むものとする。これらのうち、駆動信号21aは、インク滴を吐出する圧力を発生させるための吐出用駆動信号であり、基準電圧0Vのほかに引込電圧Vpおよび吐出電圧Vaを取り得るようになっている。駆動信号21bは、インク滴吐出時のサテライト滴の発生を抑制する圧力を発生させるための補助駆動信号であり、基準電圧0Vのほかに引込電圧Vpおよび補助電圧Vbを取り得る。駆動信号21a,21bの組は、ヘッドコントローラ14によって各吐出周期ごとに適宜切り替えられて、対応するノズルに供給されるようになっている。
ここで、図6を参照して、吐出用の駆動信号21aの波形の意義について説明する。この図6は、駆動信号の波形と、この駆動信号が印加される圧電素子116aの挙動と、ノズル118内におけるインクの先端部の位置(以下、メニスカス位置という。)の変化との関係を表すものである。この図の(a)は、駆動信号21aを一般化した波形のほぼ1周期分を表し、同図(b)は(a)のような波形の駆動信号が圧電素子116aに印加されたときのインク室114aの状態の変化を表し、同図(c)はそのときのノズル118内におけるメニスカス位置の変化を表す。
図6(a)において、まず、駆動電圧を基準電圧0Vから引込電圧Vpに変化させる行程(AからBまで)を第1の前行程とし、引込電圧Vpを一定時間保持する行程(BからCまで)を第2の前行程とする。また、駆動電圧を引込電圧Vp1から基準電圧0Vに変化させる行程(CからDまで)を第1行程とし、これに要する時間をt1とする。また、基準電圧0Vを保持して待機する行程(DからEまで)を第2行程とし、これに要する時間をt2とする。さらに、基準電圧0Vから吐出電圧Vaに変化させる行程(EからFまで)を第3行程とし、これに要する時間をt3とする。
本実施の形態において、第3行程の開始時点である時点Eは、吐出が開始されるタイミングであり、このタイミングに先立って第1の前行程、第2の前行程、第1行程、および第2行程が行われるようになっている。
まず、時点Aおよびそれ以前においては、圧電素子116aへの印加電圧は0Vであるので、図6(b)の状態PA のように、振動プレート113にたわみはなく、インク室114aの容積は最大となっている。時点Aにおいて、ノズル118内におけるメニスカス位置は、図6(c)の状態MA に示したように、ノズル開口端から所定距離だけ後退した所に位置しているものとする。
次に、時点Aの電圧0Vから時点Bの引込電圧Vpへと駆動電圧をゆっくりと増加させる第1の前行程を行うと、振動プレート113が内側にたわみ、インク室114aは収縮する(図6(b)の状態PB )。このときのインク室114aの収縮速度はゆっくりとしたものなので、インク室114aの容積の減少分は、ノズル118内のメニスカス位置を前進させると同時に、図2に示した共同流路115へのインクの逆流をも引き起こす。このときのインクの前進量と逆流量との比は、主として、ノズル118内の流路抵抗と、インク室114aと共同流路115とをつなぐ狭路における流路抵抗との比によって決まるが、これを最適化することにより、図6(c)の状態MB で示したように、時点Bでのメニスカス位置がノズル開口端から突出することなく、ノズル開口端とほぼ同じ位置にくるように設定することができる。
次に、時点Bから時点Cまでの間、駆動電圧を引込電圧Vpに保持することでインク室114aの容積を一定に保つ第2の前行程を行う。ところが、この間もインクカートリッジ12からのインク供給は連続的に行われているので、ノズル118内におけるメニスカス位置はノズル開口端に向かって変位し、時点Cでは、例えば図6(c)の状態MC で示したように、ノズル開口端よりもやや突出した位置まで前進する。
次に、時点Cの引込電圧Vpから時点Bの基準電圧0Vへと駆動電圧を減少させる第1行程を行うと、圧電素子116への印加電圧が0になるので振動プレート113のたわみがなくなり、インク室114aは膨張する(図6(b)の状態PD )。このため、ノズル118内のメニスカスはインク室114aの方向に引き込まれ、時点Dでは、例えば図6(c)の状態MD に示したように後退する(すなわち、ノズル開口端から遠ざかる)。なお、時点Cと時点Dとの電位差である引込電圧Vpの大きさを変更することにより第1行程におけるメニスカスの引き込み量が変化するので、これによりインク滴のサイズを制御することが可能である。インク滴のサイズは、吐出開始時点のメニスカス位置に依存し、このメニスカス位置が深いほどインク滴サイズが小さくなるからである。
次に、時点Dから時点Eまでの時間t2の間、駆動電圧を基準電圧0Vに固定して振動プレート113cをたわみがない状態に維持することでインク室114aの容積を一定に保つ第2行程を行う(図6(c)の状態PD 〜PE )。ところが、この間もインクカートリッジ12からのインク供給は連続的に行われているので、ノズル118内のメニスカス位置はノズル開口端に向かって変位し、時点Eでは、例えば図6(c)の状態ME に示した位置まで前進する。なお、第2行程の所要時間t2を変更することによりメニスカス位置の前進量が変化し、第3行程の開始時点におけるメニスカス位置を調整することができるので、これにより、吐出されるインク滴のサイズを制御することが可能である。
次に、時点Eの電圧0Vから時点Fの吐出電圧Vaへと駆動電圧を急激に増大させる第3行程を行う。ここで、時点Eは、上記したように、吐出開始タイミングである。このとき、時点Fにおいて振動プレート113は、図6(b)の状態PF に示したように内側に大きくたわみ、インク室114aは急激に収縮するので、図6(c)の状態MF に示したように、ノズル118内のメニスカスはノズル開口端に向かって一気に押され、ここからインク滴として吐出される。吐出されたインク滴は空気中を飛翔し、記録用紙2(図2)上に着弾する。
その後、駆動電圧を吐出電圧Vaに保ったまま所定時間経過した時点Gで、再び基準電圧0Vまで減少させる。これにより時点Hでは、図6(b)の状態PH に示したように、振動プレート113はたわみのない状態に戻る。この状態を次の吐出動作における第1前行程の開始時点Iまで維持する。駆動電圧を再び0Vに減少させた直後の時点Hにおいては、図6(c)の状態MH に示したように、吐出されたインク滴の体積とインク室114aの容積の増加分とを加えた体積に相当する分だけメニスカス位置が後退した状態となるが、その後も行われるインクの充填(リフィル)により、次回の吐出動作における第1の前行程の開始時点Iにおけるメニスカス位置は、図6(c)の状態MI に示したように、当初の時点Aにおける状態MA と同じになる。
このようにして1回の吐出動作が終了する。以下、このようなサイクル動作を各ノズル118ごとに並行してそれぞれ繰り返し行うことで、記録用紙2(図2)への画像記録が連続的に行われる。
なお、本実施の形態において、第2行程の所要時間t2は第1行程で引き込まれたメニスカスがノズル開口端に到達するまでの所要時間以下であるとし、第3行程の吐出電圧Vaはインク滴を吐出させるに足る範囲に入っているものとしている。また、図6(a)で、上記の第1行程CD,第2行程DE,第3行程EF以外の行程の所要時間については、それぞれ次のように表記する。AB=τ1,BC=τ2,FG=t4,GH=t5。
次に、再び図5に戻って、駆動信号21bの波形について説明する。本実施の形態では、駆動信号21bにおけるA〜Dの部分を駆動信号21aと同一波形としている。一方、0V保持行程DE′の所要時間t6は、駆動信号21aの区間DG(=t2+t3+t4)と等しく設定され、駆動信号21aが吐出電圧Vaから基準電圧0Vへと立ち下がり始める時点G(=時点E′)で、駆動信号21bが基準電圧0Vから補助電圧Vbへと立ち上がり始めるようになっている。なお、図5(b)では、駆動信号21bが基準電圧0Vから補助電圧Vbに変化する行程E′F′の所要時間をt7、駆動信号21bが補助電圧Vbに達した時点F′からこの補助電圧Vbの保持終了時点G′までの所要時間をt8、駆動信号21bが補助電圧Vbから基準電圧0Vに変化する行程G′H′の所要時間をt9と表記する。このように、駆動信号21aを立ち下げて圧電素子116aをインク室114aが膨張する方向(以下、インク室膨張方向という。)に変位させるのと並行して、駆動信号21bを立ち上げて圧電素子116bをインク室114bが収縮する方向(以下、インク室収縮方向という。)に変位させるようにしている。
次に、図1のインクジェットプリンタ1の全体動作を簡単に説明する。
図1において、図示しないパーソナルコンピュータ等の情報処理装置から印刷データがインクジェットプリンタ1に入力されると、画像処理部15は、この入力データに対して所定の画像処理(例えば圧縮されたデータの伸長等)を行ったのち、これを印画データ22としてヘッドコントローラ14に送出する。
ヘッドコントローラ14は、記録ヘッド11のノズル数に対応したnドット分の印画データ22を取得すると、これらの印画データ22を基に、n個のノズルのそれぞれについて、ドットを形成するためのインク滴サイズを判定し、この判定結果から、各ノズルに供給すべき各1組の駆動信号21a,21bを選択する。例えば、高濃度を表現する場合にはインク滴サイズを大きくし得るような駆動波形(t2,Vaが大きく、Vpが小さい波形)の組を選択し、低濃度を表現する場合や高解像度表現を行う場合にはインク滴サイズを小さくし得るような駆動波形(t2,Vaが小さく、Vpが大きい波形)の組を選択する。また、例えば微妙な中間階調を表現する場合には、隣接するドット間でインク滴サイズを少しずつ異ならせるようにし、例えば、各ノズル間でインク吐出特性がばらついている場合には、これを補正し得るような駆動波形の組を選択する。
さて、ヘッドコントローラ14は、nドット分の駆動信号(すなわち、n個のノズル118に供給する駆動信号)の組を選択したのち、吐出周期の切替タイミングにおいて、記録ヘッド11における各ノズル118のインク室114aに設けられた圧電素子116aに対し、選択した駆動信号21aを供給すると同時に、各ノズル118のインク室114bに設けられた圧電素子116bに対し、選択した駆動信号21bを供給する。各ノズルにおける圧電素子116aは、供給された駆動信号21aの電圧波形に従って図6で説明したような各行程を行うことによりインク室114aを収縮・膨張させてインク滴を吐出する。このとき、各ノズルの圧電素子116bは、供給された駆動信号21bの電圧波形に従って後述するように変位することによりインク室114bを収縮・膨張させ、圧電素子116aによる吐出動作を補助するための動作を行う。
次に、図5および図7を参照して、本実施の形態に係るインクジェットプリンタの吐出動作について、さらに詳細に説明する。
本実施の形態では、サテライト滴の発生を防止するため、図5に示したように、駆動信号21aを時点E(吐出開始タイミングte)で基準電圧0Vから吐出電圧Vaへと立ち上げて圧電素子116aをインク室収縮方向に変位させたのち、時点Gで駆動信号21aを再び0Vに立ち下げて圧電素子116aをインク室膨張方向に変位させる動作を開始させると共に、この圧電素子116aのインク室膨張方向への変位動作とほぼ並行して、駆動信号21bを0Vから補助電圧Vbに立ち上げて圧電素子116bをインク室収縮方向へ変位させるようにしている。この点をさらに図7を参照して説明する。
図7は駆動信号21a,21bの電圧波形の変化と圧電素子116a,116bの変位との関係を表すものである。具体的には、この図の(a)は駆動信号21aの要部波形を表し、(b)は圧電素子116aの変位を表し、(c)は駆動信号21bの要部波形を表し、(d)は圧電素子116bの変位を表す。ここで、横軸は時間を示し、また、(a),(c)における縦軸は電圧を示し、(b),(d)における縦軸は変位量を示す。
図7(a),(b)に示したように、インク室114aに設けられた圧電素子116aは、時点Eから開始する駆動信号21aの電圧増加と共にインク室収縮方向に変位し、慣性力により、電圧が吐出電圧Vaに達した時点Fをオーバーランした時点Pで最大変位状態となり、ここでインク室114aは最収縮状態となる。そして、この時点P(同図(a)では時点G)で、駆動信号21aの立ち下げを開始して時点Hにおいて基準電圧0Vまで変化させる。これにより、圧電素子116aはインク室膨張方向に変位して、時点Hで元の状態に復帰する。一方、駆動信号21bが駆動信号21aの立ち下がり開始時点Gと同じ時点E′において、基準電圧0Vから補助電圧Vbへと立ち上がり始めると、インク室114bの圧電素子116bはインク室114bを収縮させる方向に変位する。そして、圧電素子116bは、上記と同様の慣性力により、電圧が吐出電圧Vbに達した時点F′をオーバーランした時点P′で最大変位状態となる。すなわち、圧電素子116aがインク室膨張方向に変位するのと並行して圧電素子116bが変位0からインク収縮方向に変位する。
時点Eで駆動信号21aの吐出電圧Vaの印加を開始された圧電素子116aは、インク室収縮方向に変位することによりインク室114内に圧力を発生させ、この圧力によりノズル118からインクを押し出す。この時点では、ノズル118から押し出されたインクは尾を引いており、インク柱の状態をなしている。次に、時点P(時点G)で圧電素子116aがインク室膨張方向に変位を開始すると、インク柱の後尾部分は後ろに引き戻されて細くなる。そして、この時点P(時点E′)で、今度は圧電素子116bがインク室収縮方向に変位を開始してインク室114内に新たな圧力を発生させるので、この新たな圧力により、今度はインク柱が押し出されることとなり、インクの流れに不連続性が発生する。これにより、インク柱がより早く断ち切られ、インク柱の尾が長く伸びることが抑制されるので、サテライト滴の発生が抑制される。
なお、圧電素子116aは、時点Hで変位が0に戻り、さらに、次第に減衰する固有振動を行う。同様に、圧電素子116bは、時点H′で変位が0に戻り、さらに、次第に減衰する固有振動を行う。
ここで、一具体例を示す。例えば、圧電素子116a,116bとしては厚さが25μmのものを使用し、振動プレート113の厚さは25μmとする。また、図5に示した駆動信号21a,21bの各時間パラメータおよび電圧パラメータは次のように設定する。なお、時間パラメータの単位はいずれもμsecであり、電圧パラメータの単位はいずれもボルトである。
τ1=30,τ2=30,
t1=10,t2=2,t3=2,t4=3,t5=11,t6=8,t7=2,t8=8,t9=8,
Vp=35,Va=33,Vb=30
なお、図5における各時間パラメータおよび電圧パラメータの設定値は、上に例示した値に限定されるものではなく、適宜変更可能である。例えば、本実施の形態では、駆動信号21a,21bの双方における引込電圧を同じVpとしたが、両者を異ならせてもよい。また、図5に示した例では、圧電素子116aのインク室膨張方向への変位開始時点Gと、圧電素子116bのインク室収縮方向への変位開始時点E′とを一致させるようにしたが、より広く、圧電素子116aがインク室膨張方向に変位するのとほぼ並行して圧電素子116bがインク室収縮方向に変位するようにタイミングを設定すればよい。そのための条件は、図5における時間パラメータが次の条件(1)および(2)を共に満たすことである。
t2+t3+t4<t6+t7…(1)
t2+t3+t4+t5>t6…(2)
また、図5の例では、図7に示したように、吐出開始後に圧電素子116a自身が最も大きく変位した時点でこの圧電素子116aを元の変位状態に(インク室膨張方向に)戻し始めるようにしたが、それ以外のタイミングで圧電素子116aの変位復帰を開始させるようにしてもよい。但し、圧電素子116aの変位復帰開始時点をその最大変位時点またはその近傍に設定したときの方が、インク滴の尾を早期に細くすることができるので、インク滴サイズをより小さくすることができる。
さらに、図5の例では、吐出行程の前にメニスカス引込行程(図5におけるA〜D)を行うようにしたが、このメニスカス引込行程を行わずに吐出を行うようにしてもよい。但し、メニスカス引込行程を行うようにした方がインク滴の小型化や飛翔速度の高速化の点で有利である。
ここで、本実施の形態に対する一比較例を説明する。この比較例は、例えば図8に示したように、各ノズル118に対して単一のインク室214を設け、このインク室214に対して2つの圧電素子216a,216bを設けるようにしたものである。なお、この図8は、本実施の形態における断面図(図3)に対応したものであり、同一構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。この比較例では、一方の圧電素子216aのインク室収縮方向(矢印D1の方向)への変位によりインク室214に吐出圧力が生ずると、この吐出圧力が同じインク室214の他方の圧電素子216bに加わり、これをインク室膨張方向(矢印D2の方向)に撓ませることになる。図7(d)の破線Lはこの状態を表している。この結果、インク室114内で生じた吐出圧力の一部が損失となってノズル118からのインク滴吐出動作に実質的に寄与する圧力が低下し、予定したサイズのインク滴が得られないこととなる。
一方、本実施の形態では、時点Eから駆動信号21aが立ち上がってインク室114aの圧電素子116aがインク室収縮方向に変位したとき、インク室114a内に吐出圧力が生ずるが、この吐出圧力は、他方のインク室114bには殆ど伝達されない。インク室114aとインク室114bとはノズル118によって隔てられており、かつ、ノズル118と各インク室114a,114bとの間はそれぞれ狭路によって連通しているに過ぎないからである。このため、インク室114aで発生した吐出圧力は殆ど損失することなくノズル118からの吐出動作に使われ、吐出されるインク滴のサイズも予定した通りのものとなる。すなわち、インク滴サイズにばらつきがなくなり、安定した吐出が可能となる。
このように、本実施の形態のインクジェットプリンタによれば、1つのノズルについて2つの圧電素子を設け、駆動信号21aを吐出電圧Vaに立ち上げて圧電素子116aをインク室収縮方向に変位させたのち、駆動信号21aを立ち下げて圧電素子116aをインク室膨張方向に変位させるのと並行して駆動信号21bを立ち上げて圧電素子116bをインク室収縮方向に変位させるようにしたので、サテライト滴の発生を効果的に抑制することができる。
また、一つのノズル118について個別に2つのインク室114a,114bを設けると共に、一方のインク室114aに吐出用の圧電素子116aを設け、他方のインク室114bにサテライト滴発生抑制用の圧電素子116bを設けるようにしたので、一方の圧電素子の存在によって他方の圧電素子の動作が影響を受けることが少なくなり、安定した吐出動作とサテライト滴の抑制とが可能になる。
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されず、種々変更可能である。例えば、上記実施の形態では、補助圧力発生手段としての圧電素子116bをサテライト滴の発生の抑制という用途に用いるものとして説明したが、本発明はこれには限定されず、補助圧力発生手段を他の用途に用いる場合にも適用可能である。
例えば、本出願人は、吐出用圧電素子で吐出を行った後のインクのメニスカス位置の変化を観察した結果、この吐出用圧電素子の短周期振動がほぼ消滅した後においても、メニスカス位置は大きな変動(長周期の残留振動)を示すことを確認しており、そのようなメニスカスの残留振動を抑制するために補助用圧電素子を適当なタイミングで駆動することを提案している。このような場合においても、2つのインク室を設けると共に、一方のインク室に吐出用圧電素子を設け、他方のインク室に残留振動を抑制するための補助用圧電素子を設けることにより、2つの圧電素子の変位動作による各インク室間の相互の圧力干渉を低減することができる。
また、本出願人は、装置起動後に初めてインク滴を吐出する場合や、長期間吐出を行っていないノズルからインク滴の吐出を行う場合に、吐出前に予め補助用圧電素子によってメニスカスに予備的な小振動を与えておくことによってノズルからの吐出が円滑に行うことができるようにしたインクジェットプリンタを提案している。このようなプリンタにおいても、2つのインク室を設けると共に、一方のインク室に吐出用圧電素子を設け、他方のインク室に予備振動を行うための補助用圧電素子を設けることにより、2つの圧電素子の変位動作による各インク室間の相互の圧力干渉を低減することができる。
なお、上記実施の形態では、図4に示したように、吐出用の圧電素子116aをすべて一方の配列のインク室114aにそれぞれ配置すると共に、サテライト滴発生抑制用の圧電素子116bをすべて他方の配列のインク室114bにそれぞれ配置するようにしたが、このような配列でなく、例えば図9に示したように、圧電素子116a,116bをインク室114a側配列とインク室114b側配列とに交互に千鳥状に配置するようにしてもよい。この場合には、隣り合うインク室114a同士間、および隣り合うインク室114b同士間で異った用途の圧電素子が配置されることとなるため、隣り合うノズル118間におけるクロストークが低減される。これは、吐出用の圧電素子116aはすべて吐出開始タイミングteに同期して吐出動作を行うようになっていることから、図4のように配列方向に隣り合うインク室114aにすべて圧電素子116aが配置されていると、各インク室114aで生じた圧力変動が共同流路115を介して隣のインク室114aに伝わりやすいのに対し、上記のように吐出用の圧電素子116aを1つおきに配置した場合には、吐出用の圧電素子116aが配置されたインク室間の距離がより大きくなるので、ある吐出用の圧電素子116aが配置されたインク室で生じた圧力変動が他の吐出用の圧電素子116aが配置されたインク室に伝わりにくくなるからである。
また、上記実施の形態では、1つのノズルについて2つのインク室を設ける場合について説明したが、1つのノズルについて例えば放射状に3つ以上のインク室を設け、これらのインク室の各々について、それぞれの役割を果たす圧電素子を配置するようにしてもよい。こうすることにより、各相互間の圧力干渉を低減しつつ、より多様な補助動作が可能になる。なお、この場合、各インク室の容積や各圧電素子の変位能力は、互いに等しくしてもよいし、あるいは異ならせてもよい。
本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を表すブロック図である。 記録ヘッドの一構造例を表す斜視断面図である。 記録ヘッドの一構造例を表す断面図である。 記録ヘッドの一構造例を表す平面図である。 図1におけるヘッドコントローラから出力される駆動信号の波形の一例を表す図である。 図5に示した吐出用の駆動信号波形と、インク室の状態およびノズル内のメニスカス位置の変化との関係を説明するための図である。 図5に示した駆動信号波形と圧電素子の変位量との関係の一例を表す図である。 本発明に対する一比較例としての記録ヘッドの構造を表す断面図である。 本発明の他の実施の形態に係るインクジェットプリンタの記録ヘッドの構成を表す平面図である。 従来のインクジェットプリンタの駆動方法を説明するための説明図である。 従来の他のインクジェットプリンタの駆動方法を説明するための説明図である。
符号の説明
1…インクジェットプリンタ、11…記録ヘッド、14…ヘッドコントローラ、21a,21b…駆動信号、22…印画データ、113…振動プレート、114a,114b…インク室、115…共同流路、116a,116b…圧電素子、118…ノズル、Vp…引込電圧、Va…吐出電圧、Vb…補助電圧、te…吐出開始タイミング。

Claims (12)

  1. インク滴を吐出するためのノズル部と、
    1つのノズル部について複数設けられ、インク滴を前記ノズル部から吐出させるための圧力を発生する吐出圧力発生手段と、
    吐出用駆動信号および補助電圧駆動信号を、それぞれ異なる吐出圧力発生手段に印加する吐出制御手段と
    を備え、
    前記吐出用駆動信号は、前記ノズル部からインク滴を吐出させる圧力を発生させる第1電圧波形を含み、
    前記補助電圧駆動信号は、前記第1電圧波形により発生した、前記ノズル部からインク滴を吐出する圧力が減少するのに合わせて、インク滴の吐出時における付随的なインク小滴の発生を抑制する圧力を発生させる第2電圧波形を含む
    ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
  2. 前記吐出用駆動信号は、前記ノズル部内のメニスカス位置を調整する圧力を発生させる第3電圧波形と、前記第1電圧波形とをこの順に含み、
    前記第3電圧波形は、基準電圧から引込電圧へ変化する電圧波形と、前記引込電圧を所定の期間維持する電圧波形と、前記引込電圧から前記基準電圧へ変化する電圧波形と、前記基準電圧を所定の期間維持する電圧波形とをこの順に含み、
    前記第1電圧波形は、前記基準電圧から吐出電圧へ変化する電圧波形と、前記吐出電圧を所定の期間維持する電圧波形と、前記吐出電圧から前記基準電圧へ変化する電圧波形とをこの順に含む
    ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
  3. 前記引込電圧の大きさは、前記ノズル部から吐出されるインク滴のサイズに応じて設定される
    ことを特徴とする請求項2記載のインクジェットプリンタ。
  4. 前記引込電圧を維持する期間は、前記ノズル部から吐出されるインク滴のサイズに応じて設定される
    ことを特徴とする請求項2記載のインクジェットプリンタ。
  5. 前記補助電圧駆動信号は、前記ノズル部内のメニスカス位置を調整する圧力を発生させる第4電圧波形と、前記第2電圧波形とをこの順に含み、
    前記第4電圧波形は、基準電圧から引込電圧へ変化する電圧波形と、前記引込電圧を所定の期間維持する電圧波形と、前記引込電圧から前記基準電圧へ変化する電圧波形と、前記基準電圧を所定の期間維持する電圧波形とをこの順に含む
    ことを特徴とする請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
  6. 前記第2電圧波形は、前記第1電圧波形のうち、前記吐出電圧から前記基準電圧へ変化するタイミングで立ち上がる
    ことを特徴とする請求項2または請求項5に記載のインクジェットプリンタ。
  7. インク滴を吐出するためのノズル部と、1つのノズル部について複数設けられ、インク滴を前記ノズル部から吐出させるための圧力を発生する吐出圧力発生手段と、吐出用駆動信号および補助電圧駆動信号を、それぞれ異なる吐出圧力発生手段に印加する吐出制御手段とを備えたインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法であって、
    前記吐出制御手段は、前記ノズル部からインク滴を吐出させる圧力を発生させる第1電圧波形を前記吐出用駆動信号として前記吐出圧力発生手段に印加すると共に、前記第1電圧波形により発生した、前記ノズル部からインク滴を吐出する圧力が減少するのに合わせて、インク滴の吐出時における付随的なインク小滴の発生を抑制する圧力を発生させる第2電圧波形を前記補助電圧駆動信号として前記吐出圧力発生手段に印加する
    ことを特徴とするインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法。
  8. 前記吐出制御手段は、基準電圧から引込電圧へ変化する電圧波形、前記引込電圧を所定の期間維持する電圧波形、前記引込電圧から前記基準電圧へ変化する電圧波形、および前記基準電圧を所定の期間維持する電圧波形をこの順に含み、前記ノズル部内のメニスカス位置を調整する圧力を発生させる第3電圧波形と、前記基準電圧から吐出電圧へ変化する電圧波形、前記吐出電圧を所定の期間維持する電圧波形、および前記吐出電圧から前記基準電圧へ変化する電圧波形をこの順に含む前記第1電圧波形とを前記吐出用駆動信号としてこの順に前記吐出圧力発生手段に印加する
    ことを特徴とする請求項7に記載のインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法。
  9. 前記吐出制御手段は、前記ノズル部から吐出されるインク滴のサイズに応じて前記引込電圧の大きさを設定する
    ことを特徴とする請求項8記載のインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法。
  10. 前記吐出制御手段は、前記ノズル部から吐出されるインク滴のサイズに応じて前記引込電圧を維持する期間を設定する
    ことを特徴とする請求項8記載のインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法。
  11. 前記吐出制御手段は、基準電圧から引込電圧へ変化する電圧波形、前記引込電圧を所定の期間維持する電圧波形、前記引込電圧から前記基準電圧へ変化する電圧波形、および前記基準電圧を所定の期間維持する電圧波形をこの順に含み、前記ノズル部内のメニスカス位置を調整する圧力を発生させる第4電圧波形と、前記第2電圧波形とを前記補助電圧駆動信号としてこの順に前記吐出圧力発生手段に印加する
    ことを特徴とする請求項8に記載のインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法。
  12. 前記吐出制御手段は、前記第1電圧波形において前記吐出電圧から前記基準電圧へ変化するタイミングで前記第2電圧波形を前記補助電圧駆動信号として前記吐出圧力発生手段に印加する
    ことを特徴とする請求項8または請求項11に記載のインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法。
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