記録ヘッドが主走査方向と副走査方向に走査しながら記録を行う記録装置としては、シリアルスキャン型プリンタやドラムスキャン型プリンタ等がある。この種のプリンタ、特にインクジェットプリンタ、における画質向上のための技術の一つとして、米国特許第4,198,642号や特開昭53−2040号公報等に開示されている「インターレース方式」と呼ばれる技術がある。
図12は、インターレース方式の一例を示す説明図である。この明細書では、記録方式を規定するパラメータとして、以下のものを用いている。
N:ノズル個数[個],
k:ノズルピッチ[ドット],
s:スキャン繰り返し数,
D:ノズル密度[個/インチ],
L:副走査送り量[ドット]または[インチ],
w:ドットピッチ[インチ]。
ノズル個数N[個]は、ドットの形成に使用されるノズルの個数である。図12の例ではN=3である。ノズルピッチk[ドット]は、記録ヘッドにおけるノズルの中心点間隔が、記録画像のピッチ(ドットピッチw)の何個分であるかを示している。図12の例では、k=2である。スキャン繰り返し回数s[回]は、何回の主走査で各主走査ラインをドットで埋めつくすか、を示す回数である。なお、以下では主走査ラインを「ラスタ」と呼ぶ。図12の例では、1回の主走査で各ラスタが埋めつくされているので、s=1である。後述するように、sが2以上の時には、主走査方向に沿って間欠的にドットが形成される。ノズル密度D[個/インチ]は、記録ヘッドのノズルアレイにおいて、1インチ当たり何個のノズルが配列されているかを示している。副走査送り量L[ドット]または[インチ]は、1回の副走査で移動する距離を示している。ドットピッチw[インチ]は、記録画像におけるドットのピッチである。なお、一般に、w=1/(D・k)、k=1/(D・w)が成立する。
図12において、2桁の数字を含む丸は、それぞれドットの記録位置を示している。図12左下の凡例に示されているように、丸の中の2桁の数字の中で、左側の数字はノズル番号を示しており、右側の数字は記録順番(何回目の主走査で記録されたか)を示している。
図12に示すインターレース方式は、記録ヘッドのノズルアレイの構成と、副走査の方法とに特徴がある。即ち、インターレース方式では、隣り合うノズルの中心点間隔を示すノズルピッチkは2以上の整数に設定され、かつ、ノズル個数Nとノズルピッチkとが互いに素の関係にある整数に選ばれる。また、副走査送り量Lは、N/(D・k)で与えられる一定の値に設定される。
このインターレース方式には、ノズルのピッチやインク吐出特性等のばらつきを、記録画像上で分散させることができるという利点がある。従って、ノズルのピッチや吐出特性にばらつきがあっても、これらの影響を緩和して画質を向上させることができるという効果を奏する。
カラーインクジェットプリンタにおける画質改善を目指した別の技術として、特開平3−207665号公報や特公平4−19030号公報等に開示された「オーバーラップ方式」又は「マルチスキャン方式」と呼ばれる技術がある。
図13は、オーバーラップ方式の一例を示す説明図である。このオーバーラップ方式では、8個のノズルを2組のノズル群に分類している。1組目のノズル群は、ノズル番号(丸の中の左側の数字)が偶数である4個のノズルで構成されており、2組目のノズル群は、ノズル番号が奇数である4個のノズルで構成されている。1回の主走査では、各組のノズル群をそれぞれ間欠的タイミングで駆動することにより、主走査方向に(s−1)ドットおきにドットを形成する。図13の例では、s=2なので、1ドットおきにドットが形成される。また、各組のノズル群は、主走査方向にそれぞれ異なる位置にドット形成するように、それぞれの駆動タイミングが制御されている。すなわち、図13に示すように、第1のノズル群のノズル(ノズル番号8,6,4,2)と、第2のノズル群のノズル(ノズル番号7,5,3,1)とは、記録位置が主走査方向に1ドットピッチ分だけずれている。そして、このような主走査を複数回行い、その都度各ノズル群の駆動タイミングをずらすことにより、ラスタ上の全ドットの形成を完成させる。
オーバーラップ方式においても、インターレース方式と同様に、ノズルピッチkは2以上の整数に設定される。ただし、ノズル個数Nとノズルピッチkとは互いに素の関係には無く、この代わりに、ノズル個数Nをスキャン繰り返し数sで割った値N/sと、ノズルピッチkとが互いに素の関係にある整数に選ばれる。また、副走査送り量Lは、N/(s・D・k)で与えられる一定の値に設定される。
このオーバーラップ方式では、各ラスタ上のドットが同一のノズルで記録されず、複数のノズルを用いて記録される。従って、ノズルの特性(ピッチや吐出特性等)にばらつきがある場合にも、特定のノズルの特性の影響が1つのラスタの全体に及ぶことを防止でき、この結果、画質を向上させることができる。
上述したように、現在までに種々のドット記録方式が提案されている。しかし、現実には、画質の良否はドット記録装置の製造誤差にも依存する。従って、同一の設計に従って製造された個々のドット記録装置に関しても、好ましいドット記録方式が異なる場合がある。しかし、従来は、このような個々のドット記録装置に適した好ましいドット記録方式を採用することは困難であった。
図1は、本発明の実施例としてのカラー画像処理システムの構成を示すブロック図である。このカラー画像処理システムは、スキャナ12と、パーソナルコンピュータ90と、カラープリンタ22とを有している。パーソナルコンピュータ90は、カラーディスプレイ21を備えている。スキャナ12は、カラー原稿からカラー画像データを読み取り、R,G,Bの3色の色成分からなる原カラー画像データORGをコンピュータ90に供給する。
コンピュータ90の内部には、図示しないCPU,RAM,ROM等が備えられており、所定のオペレーティングシステムの下で、アプリケーションプログラム95が動作している。オペレーティングシステムには、ビデオドライバ91やプリンタドライバ96が組み込まれており、アプリケーションプログラム95からはこれらのドライバを介して、最終カラー画像データFNLが出力されることになる。画像のレタッチなどを行なうアプリケーションプログラム95は、スキャナから画像を読み込み、これに対して所定の処理を行ないつつビデオドライバ91を介してCRTディスプレイ93に画像を表示している。このアプリケーションプログラム95が、印刷命令を発行すると、コンピュータ90のプリンタドライバ96が、画像情報をアプリケーションプログラム95から受け取り、これをプリンタ22が印字可能な信号(ここではCMYKの各色についての2値化された信号)に変換している。図1に示した例では、プリンタドライバ96の内部には、アプリケーションプログラム95が扱っているカラー画像データをドット単位の画像データに変換するラスタライザ97と、ドット単位の画像データに対してプリンタ22が使用するインク色CMYおよび発色の特性に応じた色補正を行なう色補正モジュール98と、色補正モジュール98が参照する色補正テーブルCTと、色補正された後の画像情報からドット単位でのインクの有無によってある面積での濃度を表現するいわゆるハーフトーンの画像情報を生成するハーフトーンモジュール99と、後述するモード指定情報をカラープリンタ22内のメモリに書き込むためのモード指定情報書込モジュール110と、印刷条件登録部300と、が備えられている。
印刷条件登録部300は、プリンタの印刷条件に関する初期設定(後述する)や、ユーザによって選択された各種の印刷条件を格納している。プリンタの各種の印刷条件を変更するためのユーザインタフェイス画面も、この印刷条件登録部300によってコンピュータ90の画面上に表示される。
図2は、プリンタ22の概略構成図である。図示するように、このプリンタ22は、紙送りモータ23によって用紙Pを搬送する機構と、キャリッジモータ24によってキャリッジ31をプラテン26の軸方向に往復動させる機構と、キャリッジ31に搭載された印刷ヘッド28を駆動してインクの吐出およびドット形成を制御する機構と、これらの紙送りモータ23,キャリッジモータ24,印刷ヘッド28および操作パネル32との信号のやり取りを司る制御回路40とから構成されている。
このプリンタ22のキャリッジ31には、黒インク用のカートリッジ71とシアン,マゼンタ,イエロの3色のインクを収納したカラーインク用カートリッジ72が搭載可能である。キャリッジ31の下部の印刷ヘッド28には計4個のインク吐出用ヘッド61ないし64が形成されており、キャリッジ31の底部には、この各色用ヘッドにインクタンクからのインクを導く導入管65(図3参照)が立設されている。キャリッジ31に黒インク用のカートリッジ71およびカラーインク用カートリッジ72を上方から装着すると、各カートリッジに設けられた接続孔に導入管が挿入され、各インクカートリッジから吐出用ヘッド61ないし64へのインクの供給が可能となる。
インクが吐出される機構を簡単に説明する。図3に示すように、インク用カートリッジ71,72がキャリッジ31に装着されると、毛細管現象を利用してインク用カートリッジ内のインクが導入管65を介して吸い出され、キャリッジ31下部に設けられた印刷ヘッド28の各色ヘッド61ないし64に導かれる。なお、初めてインクカートリッジが装着されたときには、専用のポンプによりインクを各色のヘッド61ないし64に吸引する動作が行なわれるが、本実施例では吸引のためのポンプ、吸引時に印刷ヘッド28を覆うキャップ等の構成については図示および説明を省略する。
各色のヘッド61ないし64には、図3に示したように、各色毎に32個のノズルnが設けられており、各ノズル毎に電歪素子の一つであって応答性に優れたピエゾ素子PEが配置されている。ピエゾ素子PEとノズルnとの構造を詳細に示したのが、図4である。図示するように、ピエゾ素子PEは、ノズルnまでインクを導くインク通路80に接する位置に設置されている。ピエゾ素子PEは、周知のように、電圧の印加により結晶構造が歪み、極めて高速に電気−機械エネルギの変換を行なう素子である。本実施例では、ピエゾ素子PEの両端に設けられた電極間に所定時間幅の電圧を印加することにより、図4下段に示すように、ピエゾ素子PEが電圧の印加時間だけ伸張し、インク通路80の一側壁を変形させる。この結果、インク通路80の体積は、ピエゾ素子PEの伸張に応じて収縮し、この収縮分に相当するインクが、粒子Ipとなって、ノズルnの先端から高速に吐出される。このインク粒子Ipがプラテン26に装着された用紙Pに染み込むことにより、印刷が行なわれることになる。
以上説明したハードウェア構成を有するプリンタ22は、紙送りモータ23によりプラテン26その他のローラを回転して用紙Pを搬送しつつ、キャリッジ31をキャリッジモータ24により往復動させ、同時に印刷ヘッド28の各色ヘッド61ないし64のピエゾ素子PEを駆動して、各色インクの吐出を行ない、用紙P上に多色の画像を形成する。各色のヘッド61〜64におけるノズルの具体的な配列に関してはさらに後述する。
用紙Pを搬送する機構は、紙送りモータ23の回転をプラテン26のみならず、図示しない用紙搬送ローラに伝達するギヤトレインを備える(図示省略)。また、キャリッジ31を往復動させる機構は、プラテン26の軸と並行に架設されキャリッジ31を摺動可能に保持する摺動軸34と、キャリッジモータ24との間に無端の駆動ベルト36を張設するプーリ38と、キャリッジ31の原点位置を検出する位置検出センサ39等から構成されている。
制御回路40の内部には、図示しないCPUやメインメモリ(ROMやRAMU)のほかに、書き換え可能な不揮発性メモリとしてのプログラマブルROM(PROM)42が備えられている。PROM42には、複数のドット記録モードのパラメータを含むドット記録モード情報が格納されている。ここで、「ドット記録モード」とは、各ノズルアレイにおいて実際に使用するノズル個数Nや、副走査送り量L等で規定されるドットの記録方式を意味している。この明細書では、「記録方式」と「記録モード」はほぼ同じ意味で用いられている。具体的なドット記録モードの例や、それらのパラメータについては後述する。PROM42には、さらに、複数のドット記録モードの中から好ましいモードを指定するためのモード指定情報も格納されている。
なお、後述するように、ドット記録モードは、記録解像度と記録速度との組合せに応じて複数の記録モードグループに分類されており、各記録モードグループは少なくとも1つのドット記録モードを含んでいる。そして、各記録モードグループ毎に、最も高画質の画像を記録できるモードが、好ましいドット記録モードとして選択される。ところで、各ドット記録モードで記録される画像の画質は、印刷ヘッド28におけるノズルアレイの配列特性(個々のノズルの実際の位置)に依存する。例えば、ノズルアレイの中に、それぞれの設計位置よりも互いに離れる方向に(または近づく方向に)ずれている2つのノズルが存在する場合がある。このような2つのノズルが隣接する2本のラスタを記録すると、これらの2本のラスタの間に「バンディング」と呼ばれる筋状の画質劣化部分が発生する。一方、隣接するラスタを記録してゆくノズルの番号の配列は、ドット記録モード(特に副走査送り量)に応じて決定される。従って、好ましいドット記録モードはプリンタに搭載された印刷ヘッド28の特性(個々のノズルの実際の位置)に依存する。このように、モード指定情報で指定されるドット記録モードは印刷ヘッド28の特性に応じて決まるので、モード指定情報は印刷ヘッド28の種類を示す識別子と考えることもできる。そこで、この明細書では、モード指定情報を「ヘッドID」とも呼び、あるいは、「モードID」とも呼ぶ。
ドット記録モード情報は、コンピュータ90の起動時にプリンタドライバ96(図1)がインストールされる際に、プリンタドライバ96によってPROM42から読み出される。すなわち、プリンタドライバ96は、モード指定情報で指定された好ましいドット記録モードに対するドット記録モード情報をPROM42から読み込む。ラスタライザ97とハーフトーンモジュール99における処理や、主走査および副走査の動作は、このドット記録モード情報に応じて実行される。
なお、PROM42は、書き換え可能な不揮発性メモリであればよく、EEPROMやフラッシュメモリなどの種々の不揮発性メモリを使用することができる。また、モード指定情報は書き換え可能な不揮発性メモリに格納することが好ましいが、ドット記録モード情報は、書き換えができないROMに格納するようにしてもよい。また、複数のドット記録モード情報は、PROM42ではなく、他の記憶手段に格納されていてもよく、また、プリンタドライバ96内に登録されていてもよい。
図5は、インク吐出用ヘッド61〜64におけるインクジェットノズルの配列を示す説明図である。第1のヘッド61には、ブラックインクを噴射するノズルアレイが設けられている。また、第2ないし第4のヘッド62〜64にも、シアン、マゼンタ及びイエローのインクをそれぞれ噴射するノズルアレイが設けられている。これらの4組のノズルアレイの副走査方向の位置は、互いに一致している。
4組のノズルアレイは、副走査方向に沿って一定のノズルピッチkで千鳥状に配列された複数個(例えば32個や48個)のノズルnをそれぞれ備えている。なお、各ノズルアレイに含まれる複数個のノズルnは、千鳥状に配列されている必要はなく、一直線上に配置されていてもよい。但し、図5(A)に示すように千鳥状に配列すれば、製造上、ノズルピッチkを小さく設定し易いという利点がある。
図5(B)は、1つのノズルアレイによって形成される複数のドットの配列を示している。この実施例では、インクノズルの配列が千鳥状か直線状かに関わらず、1つのノズルアレイによって形成される複数のドットは、副走査方向に沿ってほぼ一直線上に並ぶように、各ノズルのピエゾ素子PE(図4)に駆動信号が供給される。例えば、図5(A)のようにノズルアレイが千鳥状に配列されている場合において、図の右方向にヘッド61が走査されてドットを形成していく場合を考える。この時、先行するノズル群100,102…は、後追するノズル群101,103…よりも、d/v[秒]だけ早いタイミングで駆動信号が与えられる。ここで、d[インチ]は、ヘッド61における2つのノズル群の間のピッチ(図5(A)参照)であり、v[インチ/秒]はヘッド61の走査速度である。この結果、1つのノズルアレイによって形成される複数のドットは、副走査方向に沿って一直線上に配列される。なお、後述するように、各ヘッド61〜64に設けられている複数個のノズルは、常に全数が使用されるとは限らず、ドット記録方式によっては、その一部のノズルのみが使用される場合もある。
図6は、ドット記録モードに応じた駆動制御に関連する構成の機能ブロック図である。この機能ブロック図には、モードIDメモリ202と、記録モード設定部204と、記録モードテーブル206と、駆動部制御部208と、主走査駆動部210と、副走査駆動部212と、印刷ヘッド駆動部214と、ラスタデータ格納部216と、印刷ヘッド28と、印刷用紙Pとが示されている。
記録モードテーブル206は、複数のドット記録モード情報を格納している。この記録モードテーブル206には、各ドット記録モード情報に含まれる種々のパラメータの中で、記録解像度と、モードグループと、モードIDと、使用ノズル数Nと、副走査量Lとが示されている。なお、各ドット記録モード情報には、この他にも、主走査と副走査の動作を規定するための種々のパラメータが含まれているが図6では図示を省略している。
図6の例では、記録モードテーブル206に格納されている複数のドット記録モードが、記録解像度と記録速度の組合せに応じて、4つのモードグループM1〜M4に分類されている。第1のモードグループM1は、「360dpiで速い」グループである。また、第2のモードグループM2は「360dpiできれいな(そして遅い)」グループ、第3のモードグループM3は「720dpiで速い」グループ、第4のモードグループM4は「720dpiできれいな(そして遅い)」グループである。なお、記録モードテーブル206の内容についてはさらに後述する。
モードIDメモリ202は、各モードグループに関して、好ましいドット記録モードを指定するモードID(モード指定情報)を格納している。記録モード設定部204は、コンピュータ90から与えられる印刷データと、モードIDメモリ202から与えられるモードID(モード指定情報)とに応じて、駆動部制御部208とラスタデータ格納部216に主走査と副走査の動作を規定するパラメータを供給する。なお、印刷データは、図1の最終カラー画像データFNLと同じものである。印刷データの図示しないヘッダ部分には、印刷に使用するモードグループM1〜M4の中の1つを指定するデータが含まれている。記録モード設定部204は、このモードグループの指定と、モードIDメモリ202から供給されたモードIDとから、印刷の実行に使用するドット記録モードを決定する。
記録モード設定部204は、こうして決定されたドット記録モードにおける使用ノズル数Nと副走査送り量Lとを含む走査パラメータを、駆動部制御部208とラスタデータ格納部216とに供給する。使用ノズル数Nと副走査送り量Lとは1回の走査毎に変更される可能性があるので、各回の走査の前にこれらを含む走査パラメータが各部208,216に供給される。
ラスタデータ格納部216は、使用ノズル数Nと副走査量Lとを含む走査パラメータに応じて、印刷データを図示しないバッファメモリ内に格納する。一方、駆動部制御部208は、使用ノズル数Nと副走査量Lとを含むパラメータに応じて、主走査駆動部210と副走査駆動部212と印刷ヘッド駆動部214とを制御する。
なお、モードIDメモリ202と記録モードテーブル206とは、図2に示した1つのPROM42内に設けられている。また、記録モード設定部204と駆動部制御部208とラスタデータ格納部216とは、図2に示した制御回路40内に設けられている。主走査駆動部210は、図2に示すキャリッジモータ24を含むキャリッジ31の送り機構によって実現されており、副走査駆動部212は紙送りモータ23を含む用紙の送り機構によって実現されている。さらに、印刷ヘッド駆動部214は、各ノズルのピエゾ素子PEを含む回路によって実現されている。
図7は、ドット記録方式を規定するパラメータを示す説明図である。図7(A)は、4個のノズルを用いた場合の副走査送りの一例を示しており、図7(B)はそのドット記録方式のパラメータを示している。図7(A)において、数字を含む実線の丸は、各副走査送り後の4個のノズルの副走査方向の位置を示している。丸の中の数字0〜3は、ノズル番号を意味している。4個のノズルの位置は、1回の主走査が終了する度に副走査方向に送られる。但し、実際には、副走査方向の送りは紙送りモータ23(図1)によって用紙を移動させることによって実現されている。
図7(A)の左端に示すように、この例では副走査送り量Lは2ドットの一定値である。従って、副走査送りが行われる度に、4個のノズルの位置が2ドットずつ副走査方向にずれてゆく。図7(B)には、このドット記録方式に関する種々のパラメータが示されている。ドット記録方式のパラメータには、ノズルピッチk[ドット]と、使用ノズル個数N[個]と、スキャン繰り返し数sと、実効ノズル個数Neff [個]と、副走査送り量L[ドット]とが含まれている。
図7の例では、ノズルピッチkは3ドットであり、使用ノズル個数Nは4個である。なお、使用ノズル個数Nは、実装されている複数個のノズルの中で実際に使用されるノズルの個数である。スキャン繰り返し数sは、一回の主走査において(s−1)ドットおきに間欠的にドットを形成することを意味している。従って、スキャン繰り返し数sは、1本のラスタ上のすべてのドットを記録するために使用されるノズルの数にも等しい。図7の場合には、スキャン繰り返し数sは2である。なお、スキャン繰り返し数sが2以上のドット記録方式を「オーバーラップ方式」と呼ぶ。
実効ノズル個数Neff は、使用ノズル個数Nをスキャン繰り返し数sで割った値である。この実効ノズル個数Neff は、一回の主走査で記録され得るラスタの正味の本数を示しているものと考えることができる。
図7(B)の表には、各副走査送り毎に、副走査送り量Lと、その累計値ΣLと、各副走査送り後のノズルのオフセットFとが示されている。ここで、オフセットFとは、副走査送りが行われていない最初のノズルの周期的な位置(図7では4ドットおきの位置)をオフセット0の基準位置と仮定した時に、副走査送り後のノズルの位置が基準位置から副走査方向に何ドット離れているかを示す値である。例えば、図7(A)に示すように、1回目の副走査送りによって、ノズルの位置は副走査送り量L(2ドット)だけ副走査方向に移動する。一方、ノズルピッチkは3ドットである。従って、1回目の副走査送り後のノズルのオフセットFは2である(図7(A)参照)。同様にして、2回目の副走査送り後のノズルの位置は、初期位置からΣL=4ドット移動しており、そのオフセットFは1である。3回目の副走査送り後のノズルの位置は、初期位置からΣL=6ドット移動しており、そのオフセットFは0である。3回の副走査送りによってノズルのオフセットFは0に戻るので、3回の副走査を1つの小サイクルとして、この小サイクルを繰り返すことによって、有効記録範囲のラスタ上のすべてのドットを記録することができる。
図8は、記録速度がほぼ等しい3つのドット記録方式における走査パラメータを示す説明図であり、第4のモードグループM4(720dpiできれいな(そして遅い)モードグループ)に含まれている3つのドット記録方式の例を示している。図8(A)に示す第1ドット記録方式の走査パラメータは、ノズルピッチkが6ドット、使用ノズル個数Nが48個、スキャン繰り返し数sが2、実効ノズル個数Neff が24個である。また、副走査送り量L[ドット]には、異なる6つの値(20,27,22,28,21,26)が使用されている。図8(B)に示す第2ドット記録方式の走査パラメータは、副走査送り量L以外は第1ドット記録方式と同じである。図8(C)に示す第3ドット記録方式の走査パラメータは、ノズルピッチkが6ドット、使用ノズル個数Nが47個、スキャン繰り返し数sが2、実効ノズル個数Neff が23.5個である。また、副走査送り量L[ドット]には、異なる2つの値(21,26)が使用されている。
第1および第2ドット記録方式は使用ノズル個数Nが48個であるが、第3ドット記録方式の使用ノズル個数Nは47個である。しかし、これらの3つのドット記録方式では、使用ノズル個数Nの差は約10%以下である。実際の記録速度(印刷速度)は、実効ノズル個数Neff (=N/s)にほぼ比例しているので、図8に示す3つのドット記録方式の記録速度は互いにほぼ等しいと言うことができる。このように、本明細書においては、「記録速度がほぼ等しい」とは、実効ノズル個数Neff の差が約10%以下であることを意味している。
図9は、記録モードテーブル206とモードIDメモリ202の内容を示す説明図である。記録モードテーブル206に格納されている複数のドット記録モードは、4つのモードグループM1〜M4に分類されている。第1と第3のモードグループM1,M3は、それぞれ1つの記録モードしか含んでいないが、第2のモードグループM2は2つの記録モードを含んでおり、第4のモードグループM4は3つの記録モードを含んでいる。同じモードグループ内の複数の記録モードは、記録速度(すなわち実効ノズル個数N/s)が互いにほぼ等しい。例えば、第4のモードグループM4の3つの記録モードの実効ノズル個数Nd1/s,Nd2/s,Nd3/sは、互いにほぼ等しい。なお、図8の例で言えば、Nd1/s=Nd2/s=24,Nd3/s=23.5である。
「きれいな」モードグループM2,M4は、例えばスキャン繰り返し数sが2であるオーバーラップ方式のドット記録モードで構成されている。一方、「速い」モードグループM1,M3は、例えば、スキャン繰り返し数sが1のドット記録モードで構成されている。なお、スキャン繰り返しsは、小数の値も取り得る。特に、スキャン繰り返し数sが1よりも大きく、2よりも小さいようなドット記録モードは、「部分オーバーラップ方式」と呼ばれる。「速い」モードグループM1,M3のドット記録モードとしては、部分オーバーラップ方式のドット記録モードを採用することも可能である。例えば、使用ノズル個数Nを48個、副走査送り量Lを41ドットの一定値とすると、実効ノズル個数Neff が41個でスキャン繰り返し数sが約1.17(=48/41)の部分オーバーラップ方式となる。なお、部分オーバーラップ方式においても、副走査送り量Lを複数の異なる値の組合せで構成することが可能である。
1つのモードグループは、同一の記録解像度で印刷速度が互いにほぼ等しいドット記録モードで構成されているが、各ドット記録モードで記録される画像の画質は、印刷ヘッド28におけるノズルアレイの配列特性(個々のノズルの実際の位置)に依存する。例えば、図8に示した第4のモードグループM4の3つのドット記録モード中の1つのドット記録モードが、他の2つのドット記録モードよりも高い画質を達成することが可能な場合がある。そこで、各モードグループ毎に、ノズルアレイの配列特性に応じて、より高画質が得られる好ましいドット記録モードを決定しておき、そのモードIDをモードIDメモリ202に登録しておけば、このプリンタ20に関する好ましいドット記録モードを利用して、よりきれいな印刷を行うことが可能である。
図9(A)から容易に理解できるように、本実施例では、各記録解像度について、記録速度が遅いほど多くのドット記録モードが準備されている。一般に、記録速度が比較的遅いときには、ドット記録モードによる画質の差がかなり大きくなる傾向にある。そこで、本実施例のように、同一の記録解像度であっても、記録速度が遅いときに、より多くのドット記録モードの中から好ましいものを選択できるようにしておけば、画質を向上させることがより容易であるという利点がある。反対に、記録速度が速いときには、ドット記録モードによる画質の差があまり大きくないので、比較的少ない数の記録モードを準備しておけば十分である。なお、図9の例では、「速い」モードグループM1,M3がそれぞれ1つの記録モードで構成されるものとしているが、それぞれが複数の記録モードを含むようにすることも可能である。
モードIDメモリ202には、4つのモードグループM1〜M4における好ましい記録モードをそれぞれ指定するための4つのモードIDが記憶されている。すなわち、4つのモードグループM1〜M4に対して、それぞれ好ましいドット記録モードを独立に設定することができる。従って、個々のプリンタにおいて、各モードグループ毎に(すなわち記録解像度と記録速度の組合せ毎に)、好ましいドット記録モードを容易に設定することが可能である。この効果は、すべてのモードグループがそれぞれ複数の記録モードを含んでいるときに特に顕著である。
上記実施例では、360dpiと720dpiの2つの記録解像度のそれぞれに関して、記録速度が遅いほど多くのドット記録モードを準備していた。しかし、少なくとも1つの記録解像度について、記録速度が遅いほどドット記録モードが多く準備されていればよく、他の記録解像度を有する複数のモードグループに対しては、同じ数のドット記録モードが準備されていてもよい。
なお、上記の説明では、主走査方向と副走査方向の記録解像度が同一であると仮定していたが、プリンタによっては主走査方向と副走査方向の記録解像度が異なるような記録モードを利用できる場合がある。このような場合には、主走査方向と副走査方向の記録解像度の組合せが同じ記録モード同士を「記録解像度が同一」と呼び、いずれか一方でも異なる記録モード同士は「記録解像度が異なる」と呼ぶ。例えば、主走査方向の記録解像度が720dpiで副走査方向の記録解像度が360dpiである記録モードは、主走査方向と副走査方向の記録解像度がいずれも720dpiである記録モードとは「記録解像度」が異なり、従って、異なるモードグループに分類される。
ところで、図9に示されているように、プリンタの印刷条件の初期設定では、モードグループM1が選択されている。従って、ユーザが印刷条件を変更しなければ、360dpiで「速い」モードグループM1の記録モードに従って印刷が実行される。このような初期設定は、このプリンタに対して高速印刷が主に期待されているときに適している。一方、このプリンタに対して高画質印刷が主に期待されているときには、720dpiで「きれい」なモードグループM4が初期設定として適している。これから解るように、プリンタの初期設定において選択されるモードグループは、個々のプリンタ毎では無く、プリンタの機種毎に決定される。一方、各モードグループにおける好ましい記録モードを示すモードIDは、前述したように、個々のプリンタ毎に決定されることが好ましい。
図10は、印刷条件の初期設定において、印刷用紙の種類に応じてモードグループが選択されている場合を示す説明図である。なお、本明細書において、「印刷用紙の種類」とは、印刷用紙の表面材質の種類を意味している。図10におけるモードグループの分類やモードIDの値、使用ノズル数N、副走査量Lは、図9のものと同一である。図10においては、「普通紙」、「フーパーファイン紙」、「フォトプリント紙」の3種類の印刷用紙に対して、初期設定がそれぞれ登録されている。すなわち、「普通紙」に対しては、360dpiで「速い」モードグループM1が初期設定として選択されている。また、「スーパーファイン紙」と「フォトプリント紙」に対しては、720dpiで「きれい」なモードグループM4が初期設定として選択されている。また、プリンタ全体の初期設定としては、「普通紙」の初期設定が用いられている。
図11は、「フォトプリント紙」に対する印刷条件の初期設定画面を示す説明図である。すなわち、ここではユーザが「フォトプリント紙」を選択した場合の推奨設定(初期設定)が示されている。ユーザが「フォトプリント紙」を選択したときには、推奨設定(初期設定)として、「きれい」なモードグループが選択されていることが解る。この画面では記録解像度等のより詳細な印刷条件は表示されていないが、図10に示したように「フォトプリント紙」の初期設定では720dpiの「きれい」なモードグループM4が選択されている。なお、プリンタの初期設定では、図11の画面において、用紙の種類として「普通紙」が選択されており、その推奨設定(初期設定)では「速い」モードグループが選択されている。
ユーザは、図11のほぼ中央にあるモード設定の中の「詳細設定」のボタンを押すことによって、印刷条件を任意に変更することができる。例えば、図10の例において、360dpiの「きれい」なモードグループM2は、いずれの印刷用紙においても初期設定として選択されていないが、ユーザの詳細設定の内容に応じて、このモードグループM2が選択されることがある。但し、ユーザは、4つのモードグループM1〜M4のいずれかを選択的に利用できるだけであり、複数の記録モードを含むモードグループM2,M4に関して、モードIDで指定されている記録モード以外の記録モードを選択することはできない。こうしておけば、ユーザが誤って好ましくない記録モードを選択することを防止することが可能である。
このように、印刷用紙の種類毎の初期設定において、それぞれ好ましいモードグループを選択しておくようにすれば、初期設定の状態において、各印刷用紙の種類に適した好ましい記録モードを用いて印刷を実行することができる。
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
(1)上述した各実施例では、1色についてのドット記録方式について説明したが、各色について上述のドット記録方式を適用することによって、複数色のインクを用いたカラー印刷を実現することができる。
(2)この発明はカラー印刷だけでなくモノクロ印刷にも適用できる。また、1画素を複数のドットで表現することにより多階調を表現する印刷にも適用できる。また、ドラムスキャンプリンタにも適用できる。尚、ドラムスキャンプリンタでは、ドラム回転方向が主走査方向、キャリッジ走行方向が副走査方向となる。また、この発明は、インクジェットプリンタのみでなく、一般に、複数のドット形成要素アレイを有する記録ヘッドを用いて印刷媒体の表面に記録を行うドット記録装置に適用することができる。ここで、「ドット形成要素」とは、インクジェットプリンタにおけるインクノズルのように、ドットを形成するための構成要素を意味する。
(3)上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、カラープリンタ22の制御回路40(図2)の機能を、コンピュータ90が実行するようにすることもできる。この場合には、プリンタドライバ96等のコンピュータプログラムが、制御回路40における制御と同じ機能を実現する。
このような機能を実現するコンピュータプログラムは、フロッピディスクやCD−ROM等の、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された形態で提供される。コンピュータシステム90は、その記録媒体からコンピュータプログラムを読み取って内部記憶装置または外部記憶装置に転送する。あるいは、通信経路を介してプログラム供給装置からコンピュータシステム90にコンピュータプログラムを供給するようにしてもよい。コンピュータプログラムの機能を実現する時には、内部記憶装置に格納されたコンピュータプログラムがコンピュータシステム90のマイクロプロセッサによって実行される。また、記録媒体に記録されたコンピュータプログラムをコンピュータシステム90が直接実行するようにしてもよい。
この明細書において、コンピュータシステム90とは、ハードウェア装置とオペレーションシステムとを含む概念であり、オペレーションシステムの制御の下で動作するハードウェア装置を意味している。コンピュータプログラムは、このようなコンピュータシステム90に、上述の各部の機能を実現させる。なお、上述の機能の一部は、アプリケーションプログラムでなく、オペレーションシステムによって実現されていても良い。
なお、この発明において、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。