JP3842429B2 - 快削性に優れた熱間加工鋼材及び製品並びにそれらの製造方法 - Google Patents

快削性に優れた熱間加工鋼材及び製品並びにそれらの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、クランクシャフト、デファレンシャルギア等、自動車や産業機械の部品用素材として使用される棒鋼、及び、上記鋼製部品に関するものであって、黒鉛を析出させるための熱処理を行わなくても、熱間加工ままで微細な黒鉛を有し、被削性が良好で、且つ、従来の球状黒鉛鋳鉄より高い強度と靱性とを備えたものの製造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
棒鋼を熱処理したりせずに、直接切削して自動車や産業機械等の部品に加工する場合、例えば、ピストンロッド等に加工する場合、その加工に供される棒鋼は、優れた被削性を有することが求められる。また、棒鋼を熱間鍛造して製造した部品を切削により機械加工する場合、例えば、自動車のエンジン廻り部品であるコネクチングロッド、クランクシャフト、デファレンシャルギア等を、切削により機械加工する場合においても、これら部品の仕上げ前の鍛造品には優れた被削性が要求される。このような特性を備えた棒鋼や部品をできるだけ安価に製造するためには、上記棒鋼は熱処理が施されていない、熱間加工されたままの状態のものが使用できることが要求される。
【0003】
上記棒鋼や、これから製造される仕上げ加工前の部品の被削性の良否は、切削工具の寿命と、切削時に発生する切り屑の処理性、即ち切り屑が適当な大きさに細かく分断されるか否か、とによって判断される。特に最近は、自動盤により無人で鋼材が機械加工されることが多く、発生する切り屑が長くつながって絡まってしまうと、機械の停止や切り屑を取り除くための余計な作業を行う必要が生じ、生産性を低下させる原因となる。
【0004】
またコネクチングロッドやクランクシャフトの自動切削機械加工においては、自動盤には潤滑油を供給するための穴がいくつか設けられている。この潤滑油供給用の穴は径が細く深さが深いために、穴明け加工においては、切り屑が細かく分断して、ドリル穴から支障なく排出されることが必要である。即ち、分断しにくい切屑では切粉にならず、穴から排出されないので切屑が穴に詰まってドリル折損を引き起こすのである。
【0005】
従って、上記のような部品の機械加工に当たっては、工具寿命の向上、及び切り屑処理性の改善のため、従来、快削元素である鉛を0.05〜0.30wt.%添加した、鉛快削鋼が広く用いられてきた。Pbは低融点であるため、切削加工の熱により容易に溶解して、鋼の延性を低下させ、これによって工具寿命を延ばし、切り屑を適度な大きさに分断する効果を発揮する。しかしながら、鉛には毒性があるため、近年の地球環境保護の機運の高まりに伴って、無鉛の快削鋼が強く求められている。
【0006】
鋼材の切削性を向上させる元素としては、Pbの他に、S、Ca、Bi、Se及びTe等の元素が知られている。しかし、これら元素は、▲1▼被削性改善効果がPbに及ばない、▲2▼高価である、▲3▼毒性がある、といった欠点を少なくとも1つはもっているので、Pb代替の元素にはなり得ない。
【0007】
一方、黒鉛は、鋳鉄においてみられるように、被削性を極めて向上させる元素である。しかしながら、炭素を鋼に添加した場合には、一般にセメンタイトを析出するので、鋼材において黒鉛を得るのは容易ではない。
【0008】
従来開示されている発明の中で、炭素を0.10〜1.5wt.%含む鋼材の場合、例えば特開平2−107742号公報、及び特開平3−140411号公報には、600〜800℃の温度で数時間〜200時間という長時間の焼鈍を行なって黒鉛を析出させる鋼材又はそのような方法が開示されている。また、特開昭49−67816号公報、及び特開昭49−67817号公報には、750〜950℃で焼入れ、600〜750℃で焼戻して黒鉛を析出させた黒鉛快削鋼が開示されている。
【0009】
このように、従来開示されている発明例においてはいずれも、鋼材に対して、黒鉛を得るための黒鉛化熱処理を施す必要がある。このため極めてコスト高になってしまう。また黒鉛化熱処理により金属組織がフェライトになってしまうので、従来技術では強度の低い部品や冷間鍛造によって製造可能な小さな部品の製造に限定されてしまい、クランクシャフトやコネクチングロッドといった大型の鍛造部品の製造には適用することができない。
【0010】
一方、炭素含有率が3.8wt.%前後の鋳鉄、あるいは鋳鋼は、CaやMg等の接種により鋳造ままで容易に球状黒鉛が析出し、被削性が良好であることは良く知られている。しかしながら、鋳鉄や鋳鋼は鋳込ままで使用されるため、部品等における成品形状の自由度はあるものの、伸び、絞り、衝撃値といった靱性が低いという欠点がある。
【0011】
これに対して、近年、オーステンパー処理により基地組織をベイナイトにすることにより、その靱性が改善されてきてはいる。例えば特開昭61−243121号公報には、球状黒鉛鋳鉄にオーステンパー処理を施すクランクシャフトの製造方法が、そして、特開昭61−174332号公報には、同じく球状黒鉛鋳鉄にオーステンパー処理を施すコネクチングロッドの製造方法が開示されている。しかしながら、これら鋳造品は、S48Cを基本成分にして0.10wt.%程度のVを添加した非調質鋼の鍛造品に較べると、ヤング率が低く、疲労強度に劣り、また靱性もこの鍛造品には及ばない。また、これら鋳造品には0.1mm程度の鋳造巣が発生することがあり、これは疲労破壊の起点となるので材料の信頼性が劣り、鋳造方法並びに製品の超音波検査に厳重な注意を払う必要がある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上述した各種先行技術には、下記問題点のいずれかが未解決となっている。
問題点1:使用されている快削元素には毒性があり、環境対策上問題がある。
問題点2:毒性のない快削元素として炭素を利用し、黒鉛の形態に析出させて快削効果を発揮させ得るが、黒鉛化熱処理を施さなければならないので、コストが嵩む。
問題点3:炭素含有率の高い鋳鉄や鋳鋼であれば接種による球状黒鉛の析出により快削性が確保されるが、靱性が劣っている。
【0013】
問題点4:快削鋳鉄や快削鋳鋼の熱処理により靱性改善を図っても、十分な靱性が得られず、また、鋳造巣欠陥により製品の信頼性に問題がある。
この発明では、上記問題点を解決して、自動車や産業機械の部品類の素材として用いられる棒鋼、及び、その棒鋼を熱間加工し、切削加工仕上げをして製品とし、熱処理を施さない上記部品類を製造するために、▲1▼被削性が良好であり、▲2▼強度及び靱性に優れており、しかも、▲3▼安価で且つ環境保護上問題なく製造し
得る方法を開発することを目的とする。
【0014】
この目的を達成するために、本発明者等は、熱処理を行なわず熱間加工ままで微細な黒鉛を有し、しかも従来の球状黒鉛鋳鉄より高い強度と靱性とを有する特性を備えた棒鋼を、安定して製造する技術を開発することを課題とした。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上述した観点から、快削熱間加工鋼材及びその製品を得るために鋭意研究を重ねた。その結果、化学成分を適正に組み合わせることによって、良好な熱間延性を有し熱間での棒圧延が可能で、焼鈍を行なわなくても熱間鍛造等熱間加工ままで直接微細な黒鉛を有する、快削熱間加工鋼材あるいは鋼製品を得ることができるとの知見を得た。この発明は、上述した知見に基づきなされたものであって、以下の通りである。
【0016】
請求項1記載の発明は、C:0.80〜1.70wt.%、Si:0.70〜2.50wt.%、Mn:0.30wt.%未満、P:0.050wt.%以下、S:0.050wt.%以下、O:0.0030wt.%以下、及び、N:0.015wt.%以下を含有し、残部鉄(Fe)及び不可避的不純物からなる化学成分組成を有し、且つ、平均粒径が0.5μm以上の黒鉛が100個/mm2 以上析出し、且つ金属組織がパーライトであることに特徴を有するものである。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、鋼材の化学成分組成に、Cu:0.05〜2.0wt.%、Ni:0.05〜2.0wt.%、Co:0.05〜0.50wt.%、Cr:0.05〜1.0wt.%、Mo:0.05〜0.50wt.%、及び、B:0.0005〜0.010wt.%の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種が、更に付加されて含まれていることに特徴を有するものである。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、鋼材の化学成分組成に、Al:0.01〜0.50wt.%、Ti:0.01〜0.50wt.%、Zr:0.01〜0.50wt.%、V:0.01〜0.30wt.%、及び、Nb:0.01〜0.30wt.%の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種が、更に付加されて含まれていることに特徴を有するものである。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項1から3の何れか1つに記載の発明において、鋼材の化学成分組成に、Ca:0.0010〜0.010wt.%、Mg :0.0010〜0.10wt.%、及び、REM:0.005〜0.10wt.%の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種が、更に付加されて含まれていることに特徴を有するものである。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項1から4の何れか1つに記載の熱間加工鋼材を素材としたことに特徴を有するものである。
【0021】
請求項6記載の発明は、C:0.80〜1.70wt.%、Si:0.70〜2.50wt.%、Mn:0.30wt.%未満、P:0.050wt.%以下、S:0.050wt.%以下、O:0.0030wt.%以下、及び、N:0.015wt.%以下を含有し、残部鉄(Fe)及び不可避的不純物からなる化学成分組成の鋼片を、800℃以上、前記鋼片の固相線温度より50℃低い温度以下、の範囲内の温度に加熱した後、熱間加工し、そして室温まで冷却して、平均粒径が0.5μm以上の黒鉛を100個/mm2 以上析出させ、且つ金属組織をパーライトとすることに特徴を有するものである。
【0022】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、鋼片として、Cu:0.05〜2.0 wt.% 、Ni:0.05〜2.0 wt.% 、Co:0.05〜0.50 wt.% 、Cr:0.05〜1.0 wt.% 、Mo:0.05〜0.50 wt.% 、及び、B:0.0005〜0.010 wt.% の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種を、更に付加されて含まれているものを用いることに特徴を有するものである。
【0023】
請求項8記載の発明は、請求項6または7記載の発明において、鋼片として、Al:0.01〜0.50 wt.% 、Ti:0.01〜0.50 wt.% 、Zr:0.01〜0.50 wt.% 、V:0.01〜0.30 wt.% 、及び、Nb:0.01〜0.30 wt.% の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種を、更に付加されて含まれているものを用いることに特徴を有するものであり、請求項9記載の発明は、請求項6から8の何れか1つに記載の発明において、鋼片として、Ca:0.0010〜0.010 wt.% 、Mg:0.0010〜0.10 wt.% 、及び、REM:0.005〜0.10 wt.% の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種を、更に付加されて含まれているものを用いることに特徴を有するものであり、そして、請求項10記載の発明は、請求項6から9の何れか1つに記載の発明において、鋼片を鋼材として、熱間加工製品を製造することに特徴を有するものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
次に、この発明の鋼材及びこの鋼材から製造された部品類等製品の、化学成分組成及び金属組織、並びに、上記鋼材及び製品の熱間加工条件を、上記の通り限定した理由について、以下に説明する。
【0025】
先ず、化学成分組成の限定理由を説明する。
(1)炭素(C)
炭素は、黒鉛を析出させ、強度を確保するに重要な元素である。熱間加工ままで黒鉛を析出させるには0.80wt.%以上は必要とする。しかしながら炭素含有量が1.70wt.%を超えると熱間延性の低下が大きく, 加工に際して表面疵の発生が増大する。また熱間加工後に析出する黒鉛粒が粗大になり, 靱性を低下させる。従って、炭素含有率は0.80〜1.70wt.%の範囲内に限定する。
【0026】
(2)珪素(Si)
Siは本発明において重要な役目を果たす元素である。即ちSiはセメンタイトの黒鉛化を促進する元素であり、0.70wt.%未満ではその効果は小さい。しかしSiが2.50wt.%を超えると非金属介在物が増大して靱性の低下を招くのみならず, 加工時の加熱において脱炭を大きくするのでSi含有率は、0.70〜2.50wt.%の範囲内に限定する。
【0027】
(3)マンガン(Mn)
Mnは、焼入れ性を高め、パーライトを微細にして、鋼を強靱化する元素であるが、黒鉛の析出を大きく阻害化する元素であり、0.30wt.%未満とすることが必要である。
【0028】
(4)燐(P)
Pは黒鉛化を促進する元素であるが、粒界に偏析して熱間延性を低下させ、表面疵の発生を助長する。従って、P含有率は0.050wt.%以下に限定する。
【0029】
(5)硫黄(S)
SはMnと結合してMnSを形成し、切削性を向上させる元素であるが、黒鉛化を阻害する元素でもある。Sの量が0.050wt.%を超えるとSi等の黒鉛化促進元素を多量添加する必要があり、熱間延性の低下を招く。従って、S含有率は0.050wt.%以下に限定する。望ましくは0.030wt.%以下とする。
【0030】
(6)酸素(O)
Oは鋼の清浄性を低下させるとともに、黒鉛化を阻害する元素であるのでできるかぎり低く抑えるべきである。しかし0.0030wt.%までは許容されるので酸素含有率の上限を0.0030wt.%とする。
【0031】
(7)窒素(N)
Nは単独で鋼中に存在すると黒鉛化を阻害する。0.015wt.%を超えると黒鉛の析出が困難になる他、鋳造過程で窒素ガスによるブローホ─ルが多数形成されて、圧延後の表面疵の原因になるので、N含有率は0.015wt.%以下とする。
【0032】
(8)銅(Cu)
Cuは黒鉛の析出を促進させるとともに,焼入れ性を向上させる元素である。この目的で添加するときには0.05wt.%以上の添加を必要とする。しかし2.0wt.%を超えると、圧延前,熱間加工前の加熱時に鋼の表面に濃化して熱間延性を低下させるので、Cuを0.05〜2.0wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0033】
(9)ニッケル(Ni)
NiもCuと同様に黒鉛の析出を促進させるとともに,焼入れ性を向上させる元素である。この目的で添加するときには0.05wt.%以上の添加を必要とする。しかし2.0wt.%を超えて添加しても効果は飽和するのみならず、コスト高になる。従って、Niを0.05〜2.0wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0034】
(10)コバルト(Co)
CoもCuやNiと同様に黒鉛の析出を促進させるとともに,焼入れ性を向上させる元素である。この目的で添加するときには0.05wt.%以上の添加を必要とする。しかし、Coは高価な元素であり、0.50wt.%を超えると実用に供する程度に安価な棒鋼の製造ができなくなる。従って、Coを0.05〜0.50wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0035】
(11)クロム(Cr)
CrはMnと同様に焼入れ性を大きく向上させ、パーライトを微細にする元素である。この目的で用いる場合には0.05wt.%以上の添加を必要とする。しかしCrもMnと同様に黒鉛化を阻害する作用が強いので1.0wt.%を超えると,黒鉛化促進元素を多量に必要とし、コスト高になる。従って、Crを0.05〜1.0wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0036】
(12)モリブデン(Mo)
Moも鋼の焼入れ性を高める元素であり、0.05wt.%未満ではその効果は小さい。しかしMoもMn、Crと同様に黒鉛化を阻害する元素であり、0.50wt.%を超えると、黒鉛化促進元素を多量必要とする。従って、Moを0.05〜0.50の範囲内で含有させることが望ましい。
【0037】
(13)ボロン(B)
Bは微量で焼入れ性を高める元素である。また鋼中のNをBNとして固定し、Nの黒鉛化阻害作用を軽減する。この目的で用いる場合には0.0005wt.%以上の添加を必要とする。しかし0.010wt.%を超えて添加しても効果は飽和するのみならず、熱間延性を低下させる。従って、Bを0.0005〜0.010wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0038】
(14)アルミニウム(Al)
AlはAlNを析出し結晶粒を微細化する元素である。またSiと同様に黒鉛化を促進する元素である。その含有率が0.01wt.%未満ではこれらの効果は弱く、一方、0.50wt.%を超えると、酸化物系介在物の量が多くなって、鋼の清浄性を低下させ、鍛造時の割れの原因となるので、Alを0.01〜0.50wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0039】
(15)チタン(Ti)
TiはTiN、TiCを析出し、結晶粒を微細化する。またこれらは黒鉛析出の核として作用し、黒鉛の析出を促進する。その含有率が0.01wt.%未満ではその効果は小さく、一方、0.50wt.%を超えて添加すると、却って黒鉛化を阻害するのみならず、熱間延性を低下させるので、Tiを0.01〜0.50wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0040】
(16)ジルコニウム(Zr)
ZrもTiと同様に窒化物、炭化物を析出し、結晶粒を微細化するとともに、黒鉛の析出を促進させる。添加量が0.01wt.%未満ではその効果は小さく、一方、0.50wt.%を超えて添加すると、却って黒鉛化を阻害するのみならず、熱間延性を低下させるので、Zr含有率を0.01〜0.50wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0041】
(17)バナジウム(V)
Vも窒化物、炭化物を析出し、結晶粒を微細化する。また析出物が微細であるので鋼の降伏応力を高め、疲労限応力を向上させる。添加量が0.01wt.%未満ではその効果は小さく、一方、Vは黒鉛化を阻害する元素であり、0.30wt.%を超えて添加すると、黒鉛化促進元素を多量添加する必要があるのみならず、熱間延性を低下させるので、Vを0.01〜0.30wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0042】
(18)ニオブ(Nb)
Nbも窒化物、炭化物を析出し、結晶粒を微細化するとともに、黒鉛の析出を促進させる。Nbの炭窒化物は1150℃の高温でも鋼中に溶解せず、オーステナイト粒の粗大化を阻止し、鍛造後の粒を微細にして、靱性を向上させる。添加量が0.01wt.%未満ではその効果は小さく、一方、0.30wt.%を超えて添加すると、逆に黒鉛の析出を阻害するのみならず、熱間延性を低下させるので、Nbを0.01〜0.30wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0043】
(19)カルシウム(Ca)
Caは鋳鉄において接種材として使用され黒鉛化を促進させる。これはCaが蒸気圧が高く鋳造中にCaの蒸気が鉄内に微小な空洞を形成し、これが黒鉛析出の核となって、球状黒鉛を析出させるからであると考えられるが、鋳鉄と同様に鋼においても鍛造後の黒鉛析出を容易にする。また、Caは酸化物系介在物として存在すると、超硬工具切削においてベラーグを形成し、工具寿命を延長する効果が大きいので、快削鋼には望ましい元素である。こうした目的のためにはCaは0.0010wt.%以上添加する必要があるが、0.010wt.%を超えて添加しても効果は飽和する。従って、Ca含有率を0.0010〜0.010wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
間とする。
【0044】
(20)マグネシウム(Mg)
MgもCaと同じく鋳鉄において接種材として使用され黒鉛化を促進させ、鋼においても鍛造後の黒鉛析出を容易にする。その添加量が0.0010wt.%未満では効果は小さく、一方、0.10wt.%を超えて添加しても効果は飽和する。従って、Mgを0.0010〜0.10wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0045】
(21)REM(希土類元素)
Ce、La等のREMも鍛造後の黒鉛析出を促進する。その添加量が0.005wt.%未満では効果は小さく、一方、0.10wt.%を超えて添加しても効果は飽和する。従って、REMを0.005〜0.10wt.%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0046】
鋼材には以上の他に、Sn、As等の不可避的に混入する元素を含む。
【0047】
次に、上記鋼材及び製品を製造するための熱間加工条件の限定理由を説明すると共に、その加熱及び熱間加工過程において鋼材中に析出する黒鉛の状態の限定理由を説明する。
【0048】
(22)加熱温度
熱間加工温度は、黒鉛の析出を促進するための重要な因子である。これは加工時の加熱温度が適正ならば、鋼材が高温に保持されている間に微細な黒鉛を析出する。また加工によって導入された格子欠陥を多量残存させることによって、その後の冷却中における黒鉛の析出を容易ならしめる。しかし過度の高温に長時間保持すると、高温状態で一旦析出した黒鉛は再固溶して、加工後に得られる黒鉛粒の数が少なくなる。
【0049】
加工時の加熱温度は、鋼の共析温度(約780℃)より高い800℃以上でないと変形抵抗が増大し、加工工具の寿命が短くなる。また、変形能が不足して鍛造割れの原因となる。
一方、加熱温度が、鋼材の固相線温度TS より50℃だけ低い温度、即ち、(TS −50)℃よりも高くなると、鋼材の熱間延性が急激に低下する。そのため、熱間圧延棒鋼には表面疵が発生したり、また、熱間鍛造品には割れが発生したりする。
【0050】
従って、熱間加工前の鋼材加熱温度は、800℃〜(固相線温度TS −50)℃の範囲内とする。なお、黒鉛の析出が促進され、しかも鍛造を円滑に行なうことができる適正な温度は、TS −200℃付近である。
【0051】
例えば1.2wt.%C−1.5wt.%Si鋼について、加熱温度の上限値について考えると、次の通りである。
まず、固相線温度(加熱したときに液相が出始める温度)TS は、鋼材の成分組成に依存し、例えば下記近似式:
S (℃) =1420−250(C−0.5)−20Si
但し、
C、Si:炭素、シリコン含有率(wt.%)表示
により、1215℃と算出される。よって、加熱上限温度は、(固相線温度TS −50)℃=1215−50=1165℃となる。
なお、この鋼材の共晶温度は約1140℃であり、固相線温度TS が共晶温度を下回ることはない。一般に、固相線温度TS が共晶温度を下回ることはないので、上記式での算出値が1140℃を下回った場合でも、現実の固相線温度は1140℃となる。
【0052】
ここで、本発明にかかる鋼材の成分例として、例えば上記1.2wt.%C−1.5wt.%Si鋼についてみると、固相線温度TS は1215℃であるから、従来の通常の機械構造用鋼である0.5wt.%Cの中炭素鋼の固相線温度(TS =1420℃程度)よりも、約200℃低いことになる。このことは、本発明鋼材を用いれば、従来鋼材よりも200℃程度低い加熱温度で熱間加工を行なっても、従来鋼材と同等の変形抵抗と変形能を有することが示唆され、省エネルギーの面からも好ましい鋼材ということができる。
【0053】
なお、図1に、2wt.%Siを含有する場合のFe−C系状態図を示す。同図中、S点の温度はA1 温度、E点の温度は共晶温度、HE線は固相線温度を示す。これにより、鋼材の固相線温度の低下に及ぼすC含有率の影響を推定することができる。但し、同図はFe−C二元系状態図であるため、本発明鋼の、Si含有率2.0wt.%のときの固相線温度を厳密に推定することはできない。従って、本発明における鋼片又は鋼材の加熱温度の上限値を正確に求めることはできないが、実用的に推定するために十分役立つ。同図中に斜線部で、本発明におけるC含有率に対する加熱温度領域を示した。
【0054】
次に、熱間加工ままでの棒鋼や製品における黒鉛の析出状態を含む金属組織の限定理由を説明する。
(23)黒鉛の粒径
析出した鋼材中の黒鉛は、その切削加工時の快削性を著しく向上させる。しかしながら、その黒鉛の平均粒径が0.5μm未満では、切削時に切り屑を小さく破砕する効果が小さく、切削性向上への寄与は小さい。従って、黒鉛の平均粒径は0.5μm以上とする。上限は特に制限しないが、粒径が30μmを超える黒鉛が多数析出すると靱性低下の原因となるので、黒鉛は30μm以下であることが望ましい。
なお、本発明における黒鉛の形状は、一般的に塊状と表現されるものであるが、厚さ/長さ比が5以下ならば、球状でも粒状でもよく、特に限定する必要はない。
【0055】
(24)黒鉛の数
単位面積当たりに存在する黒鉛の数は、切り屑を小さく分断させるのに重要である。そして、黒鉛の数が100個/mm2 未満では切り屑処理性の改善効果が小さいので、黒鉛の数は100個/mm2 以上とする。一般に、成分組成一定の鋼材中に析出する黒鉛の数は、黒鉛の大きさに左右され、粒径が大きくなれば少なくなり、逆に粒径が小さくなれば多くなる。因みに、本発明では、径10〜25μmの黒鉛が析出する場合、その数はおおよそ100〜1000個の間であるが、径0.5〜5μmの黒鉛の場合には、おおよそ3000〜50000個に達する。
【0056】
(25)熱間加工ままでの棒鋼や製品の金属組織
熱間圧延された棒鋼や熱間鍛造されたクランクシャフト等製品の、熱間加工ままでの棒鋼や製品には微細な黒鉛を含み、且つ、金属組織の主体は、靱性を確保するためパーライトであることが必要である。パーライトの他には一部、粒界フェライト、黒鉛粒のまわりに発生するフェライト、ベイナイトが単独で、又は複合で存在していても差し支えない。
【0057】
【実施例】
次に、この発明を、実施例によって更に詳細に説明する。ここでは、試験1から試験3を行なった。
【0058】
〔試験1〕
表1及び表2に、試験に用いた供試材の化学成分組成、並びに、後述する黒鉛化指数CE及び固相線温度TS を示す。また表3及び表4には、主な製造条件及びその試験結果を示す。
【0059】
【表1】
Figure 0003842429
【0060】
【表2】
Figure 0003842429
【0061】
【表3】
Figure 0003842429
【0062】
【表4】
Figure 0003842429
【0063】
鋼種No.1〜22は、化学成分組成に関しては本発明の範囲にあり、対応する請求項の番号を併記した。この内、鋼種No.1〜20を用いた試験は、製造条件も本発明の範囲内にあるから、本発明の範囲内の試験例である実施例に該当する。そこで、これらをそれぞれ実施例No.1〜20とした。しかし、鋼種No.21及び22を用いた試験は、製造条件の内、後述する鋼片の加熱温度が本発明の範囲外にあるので、本発明の範囲外の試験例である比較例に該当する。そこで、それぞれ比較例No.21及び22とした。
【0064】
鋼種No.23〜48は、化学成分組成が本発明の範囲外にあり、この内、No.23〜44は比較成分例、No.45は従来の球状黒鉛鋳鉄、No.46はS48CにV:0.10wt.%、Pb:0.22wt.%を添加した従来の非調質鋼、No.47は従来のS50C、そしてNo.48は従来のSCM822である従来成分例である。そして、鋼種No.23〜48を用いた試験の製造条件は、本発明の範囲内・外の各種のものを含むが、いずれも試験としては本発明の範囲外の試験例である比較例に該当する。そこで、これらをそれぞれ比較例No.23〜48とした。
【0065】
黒鉛の析出を促進するには、黒鉛化指数CEが重要であり、他の条件が同じ場合には、CEが大きい方が黒鉛の析出が促進される。このCEは主要元素については下記の式で表わされる。即ち、
CE=C+Si/3+Ni/9+Cu/15−Mn/12−Cr/3.
元素記号は各元素の重量%(wt.%)を表わす。また式中にない元素は、CE係数が求められていないので記していないが、それぞれ元素の特性に応じて、黒鉛の析出に影響を及ぼす。
【0066】
また黒鉛の析出は加熱温度、加工度、冷却速度により左右されるので、CEによって一義的に決定されるものではないが、目安としてCEは1.3以上必要であり、表1に示す本発明鋼の化学成分組成はこの点を考慮して成分を調整した。
【0067】
これらの化学成分組成の供試材を130トン電気炉により溶製後、連続鋳造又は造塊法により鋳片とした。鋳片は160mm角の鋼片に分塊圧延後、鋼片加熱炉にて780〜1250℃の間の温度に加熱して、24mm又は88mmの直径の棒鋼に熱間圧延した。
【0068】
熱間圧延後棒鋼は放冷、又はカバー徐冷して黒鉛を析出させた。24mm棒鋼の放冷ままの800℃〜600℃までの平均冷却速度は約1.6℃/sec、カバー徐冷におけるそれは0.5℃/sec、88mm棒鋼の放冷時の冷却速度は0.3℃/sec、カバー徐冷のそれは0.1℃/secであった。
【0069】
棒鋼の表面は目視で疵を判定し、黒鉛の状態、金属組織を光学顕微鏡により調査した。さらに24mmの棒鋼はショックアブソーバ─のピストンロッドに、88mmの棒鋼は建設機械のピストンロッドに切削により機械加工して、切り屑処理性を判定した。
【0070】
切り屑処理性の判定は図2に示す如く、切り屑が巻き以下で分断しているものを良好としてランク1、3〜6巻で分断しているものを普通としてランク2、8巻以上につながっているものを劣るとしてランク3と位置づけた。なお、切削は、超硬P20の切削工具を用い、切削速度200m/minで20min切削した。
【0071】
また棒鋼からJIS4号引張試験片を採取して、引張試験を行い、引張強さ、及び伸びを求めた。なお、比較例No.45の球状黒鉛鋳鉄のみは、88mmφの砂型に直接鋳造したインゴットを比較材として用いた。
【0072】
本発明の実施例である実施例No.1〜20は化学成分組成、圧延加熱温度とも適正であり、圧延品に割れの発生はない。また、黒鉛粒の大きさは0.5〜25μmの間となっており、黒鉛粒の数は100個/mm2 以上で十分に多い。このため切り屑は、全て2巻以下に小さく分断した良好な形状を呈していた。また金属組織はパーライト単相ないしパーライト主体のフェライト+パーライトの組織になっていた。
【0073】
図3には、実施例No.1の腐食なしでの検鏡面での黒鉛の析出状態を示すが、黒鉛は粒界と粒内の両方に存在する。図4には、その腐食された検鏡面での顕微鏡による金属組織を示す。その組織はパーライトである。
【0074】
図5には、実施例No.5の腐食なしでの検鏡面での黒鉛の析出状態を示すが、黒鉛は粒界のみに存在する。図6には、その腐食された検鏡面での顕微鏡による金属組織を示す。その組織は粒界フェライト+パーライトである。また、引張強さも全て800N/mm2 以上と高く、伸びも15%以上とピストンロッドとして十分な、強度、延性を有していた。
【0075】
以上の実施例に対して、比較例No.21は加熱温度が本発明の範囲より高いため、熱間延性が不足して、棒鋼に割れを生じた。
また比較例No.22は逆に加熱温度が本発明の範囲より低いため、熱間延性が不足して、棒鋼に割れを生じた。
【0076】
比較例No.23はC量が本発明を外れて低く、このため黒鉛の析出は見られなかった。
比較例No.24は逆にCが本発明を外れて高く、熱間延性が不足して、棒鋼に大きな割れが発生した。
【0077】
比較例No.25はSiが本発明を外れて低く、このため炭素等量CEが小さくなり、黒鉛の析出は見られず、切り屑が長くつながってしまった。このため機械を停止して切り屑を除去する必要があった。
比較例No.26はSiが本発明を外れて高く、このため熱間延性が不足して、棒鋼に割れを生じた。
【0078】
比較例No.27はMnが本発明より高く、このため黒鉛の析出は見られなかった。
比較例No.28はPが本発明より高く、延性不足で、棒鋼に割れを発生した。
【0079】
比較例No.29はSが本発明より高いため、やはり熱間延性が不足して、割れを発生したのみならず、Sの過剰添加が災いして見かけのCEは高いものの、黒鉛の析出はみられなかった。
【0080】
比較例No.30はCuが本発明より高く、加熱中にCuが表面に濃化して粒界に侵入し、圧延棒鋼に割れが発生した。
比較例No.31はCrが本発明より高く、このため黒鉛の析出が起こらなかった。
【0081】
比較例No.32はNiが本発明より高く、このため熱間延性が不足して、棒鋼に割れを生じた。
比較例No.33はMoが本発明より高く、やはり棒鋼に割れを生じた。
【0082】
比較例No.34はB、Nが本発明より高く、多量のBNが析出して延性不足から割れを生じた。
比較例No.35はTiが、比較例No.36はZrが、比較例No.37はVが、比較例No.38はAlが、比較例No.39はNbが、いずれも本発明の範囲より高く、このため延性不足で棒鋼に割れを生じてしまった。
【0083】
また比較例No.40はCaが、比較例No.41はMgが、比較例No.42はREMが、本発明より高く、このため酸化物系介在物を多量に巻き込み、これが圧延疵の原因となり、棒鋼に割れを発生してしまった。
【0084】
比較例No.43及び44は化学成分組成は本発明発明の範囲内であるが、CEが1.3より低かったために黒鉛を析出しなかった。
比較例No.45は従来の球状黒鉛鋳鉄の例であり、接種材としてのMgを含んでいる。本鋳造品の表面には0.10mm程度の***がいくつか存在し、機械部品としては好ましい状態ではなかった。また引張強さは適当であるが、伸びが4%と延性に劣るものであった。
【0085】
比較例No.46は従来非調質の例であるが, これは諸特性は特に問題なく、またPbを含有しているため、切り屑処理性も良好であった。しかし環境保護の観点からこのPbは使用しない方向で部品を製造することが今後求められる。
【0086】
比較例No.47は従来S50Cの例であり、Pbを含まないため、切り屑処理性は劣る。また引張強さが700N/mm2 程度とやや不足しており、焼入れ焼戻しを施して、引張強さを高める必要があった。
【0087】
比較例No.48は歯車用のSCM822の例であり、これについては後述する試験3の比較例No.48Dで説明する。
以上述べたように、本発明によれば、従来の非調質棒鋼に匹敵する強度、延性を有する無鉛の非調質快削棒鋼を製造することができる。
【0088】
〔試験2〕
表1に示した成分が本発明の範囲内にある鋼種No.3及び17のAグループ、並びに、表2に示した成分が本発明の範囲外にある鋼種No.46、47、及び45のBグループの鋼について下記の通りの試験を行なった。Aグループの試験は本発明の範囲内のものであり、それぞれ実施例No.3A、17Aとよび、Bグループの試験は本発明の範囲外のものであり、それぞれ比較例No.46B、47B、45Bとよぶ。
【0089】
実施例No.3A及び17Aでは、88mmφ棒鋼を用いて、1000℃に加熱後、クランクシャフトに熱間鍛造し、扇風機により空冷した。また、従来の非調質鋼である比較例No.46B、従来のSC材である比較例No.47Bの88mmφ棒鋼を1250℃に加熱して同一形状のクランクシャフトに熱間鍛造し、やはり扇風機により空冷した。また更に、比較のために比較例No.45Bの従来の球状黒鉛鋳鉄を同じ形状のクランクシャフトに直接鋳造して、凝固させた。
【0090】
被削性試験として、これらの鍛造品、鋳造品を外周切削したのち、油穴を小径深穴ドリルにより、3mm径の穴を明けた。その時の切り屑の形態は実施例No.3A及び17A、並びに、従来の球状黒鉛鋳鉄である比較例No.45B及び従来の非調質鋼である比較例No.46Bは、2巻き以下の細かく分断した良好な切り屑であったが、Pbを含有しない従来のSC材である比較例No.47Bのみは切り屑が10巻き以上に長くつながり、ドリル折損が多発した。
【0091】
疲労試験として、製造されたクランクシャフトを曲げ疲労試験にかけて試験した。実施例No.3Aの疲労強度は500N/mm2 、実施例No.17Aの疲労強度は530N/mm2 、比較例No.46Bの疲労強度は500N/mm2 と良好な強度を有していた。
【0092】
これに対して比較例No.45Bの球状黒鉛鋳鉄は420N/mm2 の疲労強度しか有していなかった。これは、鋳鉄はヤング率が低いこと、及び小さい気泡が疲労の起点となり、疲労限を低下させたためと考えられる。
【0093】
また比較例No.47BのS50Cの疲労強度も430N/mm2 程度しか有していなかった。そこで870℃焼入れ後580℃焼戻しを施したところ、疲労強度は520N/mm2 まで向上させることができた。
【0094】
また、実施例No.3A及び17Aのクランクシャフトについて、黒鉛の平均粒径及び黒鉛粒の数を測定した。いずれの実施例においても、本発明の要件を満たしていた。
【0095】
以上示したように、本発明によれば、無鉛で被削性に優れた非調質の快削鋼部品の製造が可能であり、被削性は鉛快削鋼や球状黒鉛鋳鉄と同等であり、またその特性は、従来の球状黒鉛鋳鉄を上回り、焼入れ焼戻し材相当の高い疲労強度を有している。
【0096】
〔試験3〕
表1に示した成分が本発明の範囲内にある鋼種No.1及び5のCグループ、並びに、本発明の範囲外にある鋼種No.48及び45のDグループの鋼について下記の通りの試験を行なった。Cグループの試験は本発明の範囲内のものであり、それぞれ実施例No.1C、5Cとよび、Dグループの試験は本発明の範囲外のものであり、それぞれ比較例No.48D、45Dとよぶ。
【0097】
実施例No.1C及び5C、並びに、従来のSCM822による比較例No.48Dでは、鋼片を130mm棒鋼に圧延し、外径320mmのデファレンシャルドライブギアに熱間鍛造し、そのまま放冷した。また、比較例鋼種No.45Dの従来球状黒鉛鋳鉄を同一形状のギア砂型に直接鋳込んだ。
【0098】
実施例No.1C及び5Cでは、ギア素材をそのままホブ盤にて歯車に切削加工し、その後570℃、5時間のガス軟窒化を施して表面を硬化させた。
従来のSCM822による比較例No.48Dでは、鍛造ままの組織がベイナイトであり、硬いのでそのまま切削加工することは困難であった。そこで920℃×3時間→650℃×1時間のサイクル焼鈍をして軟化させたのち、切削加工した。その後、表面を硬化せさるため、920℃×5時間→850℃×30分の浸炭焼入れ処理を行って表面を硬化させた。
【0099】
また、従来の球状黒鉛鋳鉄による比較例No.45Dでは型から取り出して、直接切削加工したのち、900℃×1時間→250℃×2時間ソルト浴浸漬のオーステンパー処理を施した。
【0100】
ホブ切り加工においてはいずれも良好な切り屑処理性を示し、また工具の摩耗も少なく、切削面のむしれもなく、良好な切削状態であった。
各熱処理を施したギアを疲労試験に供した。本発明鋼を用いたガス軟窒化ギアの歯元曲げ疲労強度は450N/mm2 であり、SCM822を用いた浸炭焼入れギアの疲労強度も450N/mm2 であった。しかしながら球状黒鉛鋳鉄のオーステンパー処理材の疲労強度は320N/mm2 と低いものであった。
【0101】
熱処理後のギアの変形は、歯車かみ合い時の騒音の原因となるため、各ギアのドライヴ側のプレッシャ−アングルの変形量を測定した。図7に、歯車のプレッシャアングルの歪みを説明する概略縦断面図を示す。浸炭焼入れ材のアングルのずれは15分(1分は1°の60分の1)であったが、軟窒化材は1分と殆ど変形のないものであった。またオーステンパー材は、熱処理直後の変形は3分と比較的変形の小さいものであったが、1000回の疲労回数を超えると20分と変形の大きいものであった。これはオーステンパー処理によって、組織内に留められた残留オーステナイトがマルテンサイトに変態したために、変形量が大きくなったものと考えられる。
また、実施例No.1C及び5Cのギア素材について、黒鉛の平均粒径及び黒鉛粒の数を測定した。いずれの実施例においても、本発明の要件を満たしていた。
【0102】
以上説明したように、本発明にかかるギアは軟化焼鈍を施さなくても、被削性が良好であり、疲労強度も球状黒鉛鋳鉄より高く、従来のSCM鋼の浸炭焼入れギアに匹敵する高い強度を有し、且つ歪みが小さく、騒音の発生が小さいものであることが確認された。
【0103】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、有毒なPbを用いることなく、被削性に優れ、また疲労強度、及び伸び特性に優れた熱間加工製品の製造が可能であり、非調質の快削鋼部品や低歪みで高い疲労強度を有する歯車を製造することが可能となる。このような快削熱間加工鋼材及びその製品、並びにそれらの製造方法を提供することができ、工業上有用な効果がもたらされ、本発明は産業界の発展に寄与するところ極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】2.0wt.%Siを含有する時のFe−C系状態図である。
【図2】切り屑の形態分類と切り屑処理性の判定ランクとの例を示す図である。
【図3】実施例No.1の腐食なしでの検鏡面での黒鉛の析出状態を示す図である。
【図4】実施例No.1の腐食された検鏡面での金属組織を示す図である。
【図5】実施例No.5の腐食なしでの検鏡面での黒鉛の析出状態を示す図である。
【図6】実施例No.5の腐食された検鏡面での金属組織を示す図である。
【図7】歯車のプレッシャアングルの歪みを説明する概略縦断面図である。
【符号の説明】
1 角度変位
2 歯車

Claims (10)

  1. C :0.80〜1.70wt.%、
    Si:0.70〜2.50wt.%、
    Mn:0.30wt.%未満、
    P :0.050wt.%以下、
    S :0.050wt.%以下、
    O :0.0030wt.%以下、及び、
    N :0.015wt.%以下
    を含有し、残部鉄(Fe)及び不可避的不純物からなる化学成分組成を有し、且つ、平均粒径が0.5μm以上の黒鉛が100個/mm2 以上析出し、且つ金属組織がパーライトであることを特徴とする、快削性に優れた熱間加工鋼材。
  2. 前記鋼材の化学成分組成に、下記6種の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種が、更に付加されて含まれていることを特徴とする、請求項1記載の、快削性に優れた熱間加工鋼材。
    Cu:0.05〜2.0wt.%、
    Ni:0.05〜2.0wt.%、
    Co:0.05〜0.50wt.%、
    Cr:0.05〜1.0wt.%、
    Mo:0.05〜0.50wt.%、及び、
    B :0.0005〜0.010wt.%。
  3. 前記鋼材の化学成分組成に、下記5種の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種が、更に付加されて含まれていることを特徴とする、請求項1または2記載の、快削性に優れた熱間加工鋼材。
    Al:0.01〜0.50wt.%、
    Ti:0.01〜0.50wt.%、
    Zr:0.01〜0.50wt.%、
    V :0.01〜0.30wt.%、及び、
    Nb:0.01〜0.30wt.%。
  4. 前記鋼材の化学成分組成に、下記3種の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種が、更に付加されて含まれていることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の、快削性に優れた熱間加工鋼材。
    Ca :0.0010〜0.010wt.%、
    Mg :0.0010〜0.10wt.%、及び、
    REM:0.005〜0.10wt.%。
  5. 請求項1から4の何れか1つに記載の発明の熱間加工鋼材を素材としたことを特徴とする、快削性に優れた熱間加工製品。
  6. C :0.80〜1.70wt.%、
    Si:0.70〜2.50wt.%、
    Mn:0.30wt.%未満、
    P :0.050wt.%以下、
    S :0.050wt.%以下、
    O :0.0030wt.%以下、及び、
    N :0.015wt.%以下
    を含有し、残部鉄(Fe)及び不可避的不純物からなる化学成分組成の鋼片を、800℃以上、前記鋼片の固相線温度より50℃低い温度以下、の範囲内の温度に加熱した後、熱間加工し、そして室温まで冷却して、平均粒径が0.5μm以上の黒鉛を100個/mm2 以上析出させ、且つ金属組織をパーライトとすることを特徴とする、快削性に優れた熱間加工鋼材の製造方法。
  7. 前記鋼片として、下記6種の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種を、更に付加されて含まれているものを用いることを特徴とする、請求項6記載の、快削性に優れた熱間加工鋼材の製造方法。
    Cu:0.05〜2.0 wt.%
    Ni:0.05〜2.0 wt.%
    Co:0.05〜0.50 wt.%
    Cr:0.05〜1.0 wt.%
    Mo:0.05〜0.50 wt.% 、及び、
    B :0.0005〜0.010 wt.%
  8. 前記鋼片として、下記5種の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種を、更に付加されて含まれているものを用いることを特徴とする、請求項6または7記載の、快削性に優れた熱間加工鋼材の製造方法。
    Al:0.01〜0.50 wt.%
    Ti:0.01〜0.50 wt.%
    Zr:0.01〜0.50 wt.%
    V :0.01〜0.30 wt.% 、及び、
    Nb:0.01〜0.30 wt.%
  9. 前記鋼片として、下記3種の化学成分組成からなる群から選ばれた少なくとも1種を、更に付加されて含まれているものを用いることを特徴とする、請求項6から8の何れか1つに記載の、快削性に優れた熱間加工鋼材の製造方法。
    Ca :0.0010〜0.010 wt.%
    Mg :0.0010〜0.10 wt.% 、及び、
    REM:0.005〜0.10 wt.%
  10. 請求項6から9の何れか1つに記載の発明において、鋼片を鋼材として、熱間加工製品を製造することを特徴とする、快削性に優れた熱間加工製品の製造方法。
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