JP3756307B2 - 高強度低延性の非調質鋼部品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、高強度且つ低延性であって、熱間鍛造による非調質鋼を用いた部品を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車のエンジン部品であるコネクティングロッドは、ピストンの往復運動を回転運動に変えてクランクシャフトに伝える媒体機能をもつ重要な部品でる。
【0003】
図1に、コネクティングロッドの組み立て状況を説明する概略斜視図を示す。同図に示すように、コネクティングロッド(以下、コンロッドという)は、コンロッド本体1とコンロッドキャップ2とに分けられる。コンロッドは従来、S45C等の機械構造用鋼を用いて、コンロッド本体1とコンロッドキャップ2との二つの部品を別々に鍛造した後、コンロッドの大端部4を構成するこれら両部品の接合面1a、2aを切削加工により仕上げて、一体の物(部品)に構成するという製造方法がとられてきた。このように、本来一体となる部品を二つの部品に分けて鍛造し、後で一体の部品に構成する方法では、加工工程を煩雑にするのみならず、コンロッドボルト5を通すボルト穴7の切削加工に極めて高い精度が要求されることもあり、コスト高となる。
【0004】
そこで、本発明者等は、コンロッド本体1とコンロッドキャップ2とを一体物として鍛造加工する方法を検討した。
図2に、コンロッド本体部分とコンロッドキャップ部分とが一体物で鍛造されたものの概略斜視図を示す。この方法は、同図において、大端部4の両側のそれぞれに上下方向に貫通するボルト穴7を切削加工により開けた後、適切な治具等を用いて大端部4の中央部で上下に引張破断させて、コンロッド本体部分1’とコンロッドキャップ部分2’とに分割するというものである。重要な点は、破断された面が平らで変形が極めて小さいことである。このようにすれば、鍛造加工工程が簡素化されるのみならず、コンロッド本体部分1’とコンロッドキャップ部分2’とのボルト穴7のずれもなく、従来のようにコンロッドボルト5を通すボルト穴7を極めて高い精度で切削加工する手間も省ける。従って、低コストでコンロッドを製造することが可能となる。
【0005】
従来、コンロッドの製造技術においては、高強度高延性のコンロッドを提供することに研究開発が向けられてきた。これに対して上記方法によるコンロッドの製造は、高強度で且つ適切な程度に低延性化したコンロッドを開発することにより達成し得るものであり、全く新しい着想によるものである。
【0006】
このように、素材を一体物で鍛造した後、2分割してコンロッドを製造する(以下、分割型コンロッドの製造という)との観点から従来技術を概観する。
コンロッドの素材としてS45C等の機械構造用鋼を用いた場合には、材料の機械的性質の特性確保のため、鍛造した後に焼入れ及び焼戻しを施さなければならない。この熱処理コストを低減するために、近年、材料を熱間鍛造後の冷却ままで使用する非調質鋼が広く採用されてきた。
【0007】
このような非調質鋼として、VやNbを添加したフェライト+パーライト組織の非調質鋼が広く採用されてきている。一般にフェライト+パーライト系の非調質鋼は、従来の焼入れ及び焼戻し鋼に比べて、絞り値や衝撃値等の延性や靱性が低いのが特徴であるにもかかわらず、上記V、Nb添加のフェライト+パーライト系非調質鋼においても一般のフェライト+パーライト系の非調質鋼と同様、その引張破断による破面は、ディンプルを伴う延性破面を呈する。このように破断面が、変形の大きい延性破面を呈する材料を用いて、本発明者等の着想による分割型コンロッドでコンロッドを製造しようとする場合には、一体物で熱間鍛造された材料をコンロッド本体とコンロッドキャップとに引張破断で分割された破面同士の噛み合わせがうまくいかない。この噛み合わせをうまく行なわせるためには、上記破断面を壁界破壊のような平らな脆性破面を呈する材料を用いる必要がある。従って、従来コンロッド用に使用されてきた非調質鋼を、本発明者等の着想によるコンロッド製造方法に用いるのは不可である。
【0008】
一方、鉄系粉末を用いた場合には、これを焼結後、一体物でコンロッドに熱間鍛造した後、上記と同様に引張破断させて、コンロッド本体とコンロッドキャップとに分割すると、平らな脆性破面が得られる。これは、鉄系粉末の焼結材が極めて靱性が低いことを利用したものである。従って、両者の接合面をうまく噛み合わせることができるという点においては、鉄系粉末をコンロッド素材として用いるのは、分割型コンロッドの製造方法に適している。しかしながら、粉末の焼結・鍛造工程では製造コストが高くなるという問題がある。
【0009】
以上のような問題に対して、特開平9−3589号公報には、重量%で、C:0.30〜0.90%、Si:1.%以下、Mn:0.30〜2.0%、P:0.10%以下、S:0.10%以下、Cr:0.02〜2.00%、Mo:0.01〜0.50%、Al:0.05%以下、Ti:0.08%以下、Nb:0.17%以下、V:0.08%以下、N:0.005〜0.030%、及びB:0.001%以下を含む非調質鋼をコンロッド素材として用いることが開示されている。しかし、本発明者等は、Si含有率が1.0%以下ではフェライトの硬度が低く、フェライトが伸びや易いこと、Mnが0.30%を超えると鋼の延性が向上して延性破壊を起こし易いこと、また更に、Al、Ti、Nbの添加は結晶粒を微細化して鋼の靱性を向上させることにより、脆性破面が得られ難いことを突き止めた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上述した通り、コンロッドの製造に当たり、従来法のS45C等の機械構造用鋼を素材として用いた場合には、コンロッドの本体とキャップとを別々に鍛造すること、及び熱間鍛造後の焼入れ・焼戻しを必要とすることによる製造コストの上昇が避けられない。また、熱間鍛造後の冷却ままで材料を供するための非調質鋼は、熱処理費用の削減による効果はあるが、コンロッドの本体とキャップとの接合技術上に問題があり、鍛造工程の簡略化を図るための分割型コンロッドの製造方法を採用するには不適当である。そして、鉄系粉末の焼結材の適用では製造コストがかさむ。一方、特開平9−3589号公報に開示された非調質鋼を使用する方法においても、脆性破面が得られず延性破面を呈するので、分割型コンロッドの製造方法に適用するには問題がある。
【0011】
従って、この発明が解決すべき課題は、コンロッドの製造に当たり、材料の延性を適切に低延性化させると共に、その素材を一体物で熱間鍛造し、得られた材料を常温で引張破断させた場合に平らな脆性破面が得られ、こうして破断分割されたもの同士を再度一体化させるときにその噛み合わせを容易に行なうことができる、熱間鍛造の非調質鋼部品の製造方法を開発することにある。かくして、この発明の目的は、上述した課題を解決して、コンロッド等に適した高強度且つ比較的低延性を有する熱間鍛造の非調質鋼部品を製造する方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上述した観点から、高強度且つ低延性の非調質鋼部品の製造方法を開発すべく鋭意研究を重ねた。その結果、C、Si、Mn及びV等の化学成分を最適な含有率に調整することにより、コンロッドの本体部分とキャップ部分とが一体となった素材を熱間鍛造し、得られた鍛造材を冷却し、そして冷却されたままの非調質鋼部材を引張破断させたとき、平らな脆性破面が得られることを知見した。この発明は、上述した知見に基づきなされたものであり、次の通りである。
【0013】
請求項1記載の高強度低延性の非調質鋼部品の製造方法は、C:0.40〜0.70wt.%、Si:1.0超え〜2.0wt.%、Mn:0.10〜0.30wt.%未満、P:0.010〜0.100wt.%、S:0.010〜0.100wt.%、Cr:0.05 〜1.0wt.%、V:0.05 〜0.30wt.%、Al:0.006〜0.010wt.%未満、及び、N:0.0020〜0.0200wt.%を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、C+Si/7+Mn/5+Cr/9+1.5Vで表わされる炭素当量Ceqが、0.80〜1.10wt.%の範囲内にある鋼材を、熱間鍛造し、そして前記熱間鍛造の後で空冷し、こうして得られた鋼材に、前記鋼材のミクロ組織が面積率で10%以下のフェライトと残部がパーライト又はパーライト及びベイナイトとからなり、前記鋼材の降伏応力が600N/mm2 以上である各特性を付与することに特徴を有するものである。
【0014】
請求項2記載の高強度低延性の非調質鋼部品の製造方法は、C:0.40〜0.70wt.%、Si:1.0超え〜2.0wt.%、Mn:0.10〜0.30wt.%未満、P:0.010〜0.100wt.%、S:0.010〜0.100wt.%、Cr:0.05 〜1.0wt.%、V:0.05 〜0.30wt.%、Al:0.006〜0.010wt.%未満、及び、N:0.0020〜0.0200wt.%を含み、更に、Sb、As及びSnからなる群から1種以上を合計で0.010〜0.100wt.%含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、C+Si/7+Mn/5+Cr/9+1.5Vで表わされる炭素当量Ceqが、0.80〜1.10wt.%の範囲内にある鋼材を、熱間鍛造し、そして前記熱間鍛造の後で空冷し、こうして得られた鋼材に、前記鋼材のミクロ組織が面積率で10%以下のフェライトと残部がパーライト又はパーライト及びベイナイトとからなり、前記鋼材の降伏応力が600N/mm2 以上である各特性を付与することに特徴を有するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
この発明の製造方法において、使用する鋼材の化学成分組成、並びに、熱間鍛造後空冷された鋼材のミクロ組織、破面形態及び降伏応力を上述したように限定した理由を説明する。
【0016】
・C:0.40〜0.70wt.%
C含有率が0.40wt.%未満では、結晶粒界にフェライトの面積率が多くなって、当該鋼材に脆性破面が得られ難くなる。また、所望の強度を得るのが困難になる。しかしながら、C含有率が0.70wt.%を超えると、結晶粒界のフェライト量が少なくなって、引張破断において、軟質なフェライト相に応力が集中し難く、応力が分散される結果、平らな脆性破面が得られ難い。従って、C含有率は0.40〜0.70wt.%の範囲内に限定する。
【0017】
・Si:1.0超え〜2.0wt.%
Siはフェライトに固溶して硬度を高め、フェライトの延性を低下させる。Si含有率が1.0wt.%以下では、脆性破面を得るのに十分な低延性なフェライトが得られないので、Si含有率は1.0wt.%超えとする。しかしながら、Si含有率が2.0wt.%を超えると、鋼材の鍛造加熱時の脱炭が多くなって、疲労強度が低下する。また、熱間の延性が低下し過ぎて鍛造時の割れ発生の原因になる。従って、Si含有率は1.0超え〜2.0wt.%の範囲内に限定する。
【0018】
・Mn:0.10〜0.30wt.%未満
Mnは鋼中のSと結合してMnSを形成し、鋼材の延性を高める。引張破断において脆性破面を得るためには、Mn含有率を0.30wt.%未満にする必要がある。しかしながら、連続鋳造時や棒鋼圧延時の表面疵発生を防止するためには、Mn含有率は0.10wt.%以上を確保する必要がある。従って、Mn含有率は、0.10〜0.30wt.%未満の範囲内に限定する。
【0019】
・P:0.010〜0.100wt.%
Pは結晶粒界に偏析して鋼材を脆化するのに効果のある元素であり、その効果を発揮するためには、0.010wt.%以上添加する必要がある。しかしながら、P含有率が0.100wt.%を超えると、熱間鍛造時の割れ発生が多くなる。従って、P含有率は0.010〜0.100wt.%の範囲内に限定する。
【0020】
・S:0.010〜0.100wt.%
Sは鋼中のMnと結合してMnSを形成し、鋼材の靱性を低下させると共に、被削性を向上させる。この効果を発揮させるためにはS含有率を0.010wt.%以上添加する必要がある。しかしながら、S含有率が0.100wt.%を超えると、熱間鍛造時の割れ発生の原因となる。従って、S含有率は0.010〜0.100wt.%の範囲内に限定する。
【0021】
・Cr:0.05〜1.0wt.%
Crは鋼材の焼入れ性を高めて鋼材を強化する。この効果を発揮させるためには、0.05wt.%以上添加する必要がある。しかしながら、Cr含有率が1.0wt.%を超えると、フェライトの析出が抑えられ、ベイナイト主体のミクロ組織となって平らな脆性破面が得られ難くなる。従って、Cr含有率は0.05〜1.0wt.%の範囲内に限定する。
【0022】
・V:0.05〜0.30wt.%
Vは鍛造中の冷却途中に微細な炭化物や窒化物を析出して、降伏応力を高め、鋼材を塑性変形しにくくする。所望の強度及び降伏応力を得るためには、0.05wt.%以上の添加を必要とし、その効果を一層発揮させるためには、0.10wt.%以上の添加をすることが望ましい。
【0023】
しかしながら、Vは高価な元素であり、また、0.30wt.%を超えて添加しても上記効果は飽和してくる。従って、V含有率は0.05 〜0.30wt.%の範囲内に、望ましくは、0.10 〜0.30wt.%の範囲内に限定する。
【0024】
・Al:0.006〜0.010wt.%未満
Alは結晶粒を微細化する作用が強い。鋼材の熱間鍛造後の結晶粒を粗くして、鋼材の延性を低下させて脆性破面を得るためには、含有率を0.010wt.%未満に限定しなければならない。また、Alは脱酸元素でもある。溶鋼中の酸素をなるべくAl酸化物として排除して、凝固後の鋼材になるべく酸化物系介在物を残さないようにし、これによって、被削性および耐久性を低下させないためには、Alを0.006 wt.% 以上含有させる必要がある。以上のことから、この発明においてAl含有量は、0.006〜0.010 wt.% 未満の範囲内に限定した。
【0025】
・N:0.0020〜0.0200wt.%
Nは結晶粒界に偏析して粒界の強度を弱め、延性を低下させる作用を有する。上記作用による脆性破面を得るための効果を発揮させるためには、N含有率は0.0020wt.%以上必要とする。しかしながら、N含有率が0.0200wt.%を超えると、鋳片等においてブローホールとして残存し、その後の熱間加工工程で鋼材の表面疵や鍛造時の割れ発生の原因となる。従って、N含有率は0.0020〜0.0200wt.%の範囲内に限定する。
【0026】
・Sb、As及びSnの内1種以上:0.010〜0.100wt.%
Sb、As及びSnはいずれも、鋼中に溶解して鋼材を脆化させる。また、鍛造加熱時に鋼材表面に濃化して表面反応を抑制して脱炭を防止し、疲労強度を高める。上記作用・効果を発揮させるためにはこれらの元素は少なくとも合計で0.010wt.%以上添加する必要がある。しかしながら、0.100wt.%を超えて添加すると鋼材の熱間延性の低下及び表面疵の発生を招く。従って、上記元素は合計で、0.010〜0.100wt.%の範囲内添加することが望ましい。
【0027】
上述した元素の他に、Ni、Cu、及びMo等は鋼材に不可避的に混入するが、これら元素はその含有率の範囲内で含んでもよい。また、切削性を向上させる元素であるPb、Bi、Se、Te及びCaを適宜添加しても差し支えない。
【0028】
・炭素当量Ceq:0.80〜1.10wt.%
炭素当量が0.80wt.%未満では、所望の強度を得ることができない。一方、これが1.10wt.%を超えると硬度が高くなり過ぎて切削性が劣化する。従って、炭素当量Ceqを0.80〜1.10wt.%の範囲内に限定する。炭素当量C eq は、C eq =C+Si/7+Mn/5+Cr/9+1.5Vで表わされる。
【0029】
・ミクロ組織:面積率で10%以下のフェライトと残部がパーライト又はパーライト及びベイナイト
フェライトの面積率が10%を超えると粒内のフェライト量が増大し、鋼材の延性が大きくなって、脆性破面を得ることができなくなるので、フェライトの面積率を10%以下にする。残部は、強度を確保するためにパーライトにする。ベイナイトが一部混じっても強度の変化は小さく、却って延性を低下させることができるので差し支えない。
【0030】
・降伏応力:600N/mm2 以上
降伏応力が600N/mm2 未満では、ガソリン爆発時にコンロッドにかかる衝撃的な力に対抗できず、コンロッドに座屈が発生する。また、クランクシャフトの回転に伴い、コンロッドにかかる引張−圧縮疲労に対する疲労強度が低くなるため、降伏応力は600N/mm2 以上であることが必要である。
【0031】
【実施例】
次に、この発明を実施例によって更に詳細に説明する。
各種化学成分組成を有する直径55mmの棒鋼を調製し、当該棒鋼を熱間鍛造後空冷してコンロッドを製造した。以下、その製造方法を説明する。
【0032】
表1に、各棒鋼の化学成分組成を示す。鋼種No.1、3、6、9、10は本発明方法で用いる素材(鋼材)の化学成分組成の範囲内のものであり、鋼種No.11〜20及びNo.22は、その範囲外のものである。
【0033】
本発明方法の範囲内の試験として実施例1、3、6、9、10を行ない、そして本発明方法の範囲外の試験として比較例11〜20、22を行なった。表2に、実施例1、3、6、9、10、及び比較例11〜20、22におけるコンロッドの製造条件を示す。実施例と比較例の製造条件の違いは成分系のみで、熱間鍛造時の加熱条件および熱間鍛造後の冷却条件は、実施例および比較例共に同じである。すなわち、熱間鍛造時の加熱条件は、1200〜1300℃、冷却条件は、扇風機による空冷である。こうして、図2に示したようなコンロッド本体部分1'とコンロッドキャップ部分2'とが一体物となった形態の鍛造品を調製した。次いで、大端部4の両側部のそれぞれに、縦のボルト穴7をドリル加工であけた。次いで、大端部4に治具を挟み、大端部4を中央で引張破断させて、コンロッドのキャップ部と本体部とに分割した。
【0034】
上記試験において、熱間鍛造時の割れ発生の有無の観察、鍛造品の穴明け加工性試験、鍛造品の引張−圧縮疲労特性試験、及び分割後の大端部の噛み合わせの試験を行なった。これらの試験結果を、表2に併記した。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
試験結果は、次の通りであった。本発明方法の範囲内にある実施例1、3、6、9、10によれば、そのいずれにおいても、鍛造時の割れの発生はなく、ミクロ組織がフェライト10%以下のフェライト+パーライト組織であったので分割破面は平らな脆性破面であった。また、降伏応力が600N/mm2 以上であったので引張−圧縮疲労試験において良好な結果が得られた。また、ドリルによる穴明け加工においても切粉の粉砕性及び工具寿命に問題はなく、良好な加工性が得られた。
【0037】
これに対して、本発明方法の範囲外にある比較例11〜20、22においてはいずれも下記の問題があった。
比較例11は、C及びSi含有率が本発明の範囲より低く、炭素当量も低いためにフェライト面積率が10%より高く、分割破面は伸びた延性破面であった。このため大端部の噛み合わせ状況は不良であった。また、降伏応力が低く、そのため疲労試験結果も不良であった。
【0038】
比較例12は、本発明の範囲よりもC含有率が高く、Mn含有率は低く、炭素当量は高い。このため鍛造時に割れが発生した。また、フェライト面積率が0で、粒界にフェライトが存在せず、破面が延性になった。このため大端部の噛み合わせ状況は不良であった。また、硬くなり過ぎたので穴明け加工性が不良であった。
【0039】
比較例13は、Si及びP含有率が本発明の範囲より高く、熱間延性が不足して鍛造割れが発生した。
比較例14は、Mn及びCr含有率が本発明の範囲よりも高い。このため組織がベイナイト単相になって脆性破面が得られなかった。そのため大端部の噛み合わせ状況は不良であった。また、硬くなり過ぎたので穴明け加工性が不良であった。
【0040】
比較例15は、V含有率が本発明の範囲より高く、またSb+As含有率も本発明の範囲より高い。このため、熱間延性が不足して鍛造割れが発生した。
比較例16は、N含有率が本発明の範囲より高い。このため、ブローホールに起因した鍛造割れが発生した。
【0041】
比較例17は、V含有率が本発明の範囲より低い。このため、降伏応力が600N/mm2 未満と低く、そのため疲労特性が不良であった。
比較例18は、Al含有率が本発明の範囲より高い。このため結晶粒が微細になり、鋼材の延性が十分に低下しなかったため、破面が延性破面になったり、大端部の噛み合わせ状況が不良となった。
【0042】
比較例19は、S含有率が本発明の範囲より高い。このため、延性が不足し過ぎて、鍛造時に割れが発生した。
比較例20は、Cr含有率が本発明の範囲より低く、このため焼入れ性が不足して、フェライト面積率が10%を超え、脆性破面が得られなかった。
【0044】
比較例22は、従来の非調質鋼材を用いてコンロッド材を鍛造した例(従来例)である。フェライトの量が多く脆性破面が得られなかった。そのため、大端部の噛み合わせ状況が不良となった。
【0045】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、コンロッド本体部分とコンロッドキャップ部分とを一体ものの状態で鍛造し、しかる後に両者に分割してコンロッドを製造することが可能となる。このような高強度低延性の非調質鋼部品の製造方法を提供することができ、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コンロッドの組み立て状況を説明する概略斜視図である。
【図2】コンロッド本体部分とコンロッドキャップ部分とが一体物で鍛造されたものの概略斜視図である。
【符号の説明】
1 コンロッド本体
1’ コンロッド本体部分
2 コンロッドキャップ
2’ コンロッドキャップ部分
3 小端部
4 大端部
5 コンロッドボルト
6 コンロッドナット
7 ボルト穴
Claims (2)
- C :0.40〜0.70wt.%、
Si:1.0超え〜2.0wt.%、
Mn:0.10〜0.30wt.%未満、
P :0.010〜0.100wt.%、
S :0.010〜0.100wt.%、
Cr:0.05 〜1.0wt.%、
V :0.05 〜0.30wt.%、
Al:0.006〜0.010wt.%未満、及び、
N :0.0020〜0.0200wt.%
を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、C+Si/7+Mn/5+Cr/9+1.5Vで表わされる炭素当量Ceqが、0.80〜1.10wt.%の範囲内にある鋼材を、熱間鍛造し、そして前記熱間鍛造の後で空冷し、こうして得られた鋼材に、前記鋼材のミクロ組織が面積率で10%以下のフェライトと残部がパーライト又はパーライト及びベイナイトとからなり、前記鋼材の降伏応力が600N/mm2 以上である各特性を付与することを特徴とする、高強度低延性の非調質鋼部品の製造方法。 - C :0.40〜0.70wt.%、
Si:1.0超え〜2.0wt.%、
Mn:0.10〜0.30wt.%未満、
P :0.010〜0.100wt.%、
S :0.010〜0.100wt.%、
Cr:0.05 〜1.0wt.%、
V :0.05 〜0.30wt.%、
Al:0.006〜0.010wt.%未満、及び、
N :0.0020〜0.0200wt.%
を含み、更に、Sb、As及びSnからなる群から1種以上を合計で0.010〜0.100wt.%含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、C+Si/7+Mn/5+Cr/9+1.5Vで表わされる炭素当量Ceqが、0.80〜1.10wt.%の範囲内にある鋼材を、熱間鍛造し、そして前記熱間鍛造の後で空冷し、こうして得られた鋼材に、前記鋼材のミクロ組織が面積率で10%以下のフェライトと残部がパーライト又はパーライト及びベイナイトとからなり、前記鋼材の降伏応力が600N/mm2 以上である各特性を付与することを特徴とする、高強度低延性の非調質鋼部品の製造方法。
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