JP3837249B2 - 乗用車用空気入りラジアルタイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カーカス層にスチール素材を用いた空気入りラジアルタイヤに関し、さらに詳しくは、製造コストを抑制しながら乗用車用として十分な耐久性を付与した空気入りラジアルタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、空気入りラジアルタイヤは、左右一対のビード部間に複数本のカーカスコードをラジアル方向に配列したカーカス層を装架し、このカーカス層のタイヤ幅方向両端部をそれぞれビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げた構成になっている。
【0003】
従来、タイヤのカーカス層にスチールコードを使用することは、重荷重用では頻繁に行われているが、乗用車用では提案がなされているものの殆ど行われていない。これは、乗用車用空気入りラジアルタイヤでは耐久性の観点から細いスチール素線を使うことが要求され、このように細いスチール素線を多数撚り合わせたコードは製造コストが極めて高くなるからである。
従って、乗用車用空気入りラジアルタイヤのカーカス層にスチール素材を使用するにあたって、耐久性の確保と製造コストの低減とを同時に達成することが要求されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、カーカス層にスチール素材を使用するに際し、製造コストを抑制しながら十分な耐久性を確保することを可能にした乗用車用空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の乗用車用空気入りラジアルタイヤは、素線径dが0.10〜0.25mmの範囲にある2〜6本のスチール素線のうち少なくとも1本に螺旋状の波付けを行い、これらスチール素線を撚らずに引き揃えてスチール素線束とし、該スチール素線束をゴムに埋め込んでカーカス層を構成し、かつ前記波付けの螺旋ピッチPを素線径dに対して10d〜56dの関係にすると共に、該波付けの螺旋径Dと螺旋ピッチPと素線径dから求まるパラメータFを(D−d)/Pとしたとき、該パラメータFを0.01〜0.03の範囲にしたことを特徴とするものである。
【0006】
このように上記素線径を有するスチール素線を撚らずに引き揃えてスチール素線束とし、該スチール素線束を用いてカーカス層を構成することにより、コード撚り工程を省略して製造コストを抑制すると共に、乗用車用として十分な耐久性を確保することができる。
しかも、上記スチール素線のうち少なくとも1本に螺旋状の波付けを行い、その波付けの螺旋ピッチP及びパラメータFを上記範囲に特定することにより、無撚りのスチール素線束に対するゴムの浸透性を改善し、耐腐食性や耐腐食疲労性を向上することができる。
【0007】
本発明において、カーカス層のタイヤ幅方向両端部をそれぞれビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げ、その巻き上げ高さをリムラインよりも低くすることが好ましい。このようにカーカス層の巻き上げ高さをリムラインよりも低くすることにより、カーカス層にスチール素材を使用した場合の耐久性及び操縦安定性を更に向上することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる乗用車用空気入りラジアルタイヤを例示するものである。図において、左右一対のビード部1,1間には複数本のスチール素線束20をゴムに埋め込んで構成した1プライ構成のカーカス層2が装架されている。このカーカス層2はスチール素線束20のタイヤ周方向E,E’に対する角度が実質的に90°となるように配置され、そのタイヤ幅方向両端部がビードコア3の廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられている。カーカス層2の巻き上げ端2aはリムラインRよりもタイヤ径方向内側に位置している。
トレッド部4におけるカーカス層2の外周側には2層のベルト層5がタイヤ1周にわたって配置されている。これらベルト層5は補強コードがタイヤ周方向E,E’に対して5°〜40°の範囲で傾斜し、かつ層間で補強コードが互いに交差するようになっている。ベルト層5の補強コードとしてはスチールコード等を使用することができる。
【0009】
図2に示すように、カーカス層2を補強するスチール素線束20は2〜6本(図では3本)のスチール素線21からなり、このうち少なくとも1本、より好ましくは全素線に螺旋状の波付けを行い、これらスチール素線21を撚らずに平行に引き揃えたものである。スチール素線21の素線径dは0.10〜0.25mmの範囲とする。この素線径dが0.10mm未満であると強度が不足し、逆に0.25mmを超えると急激に曲げ剛性が増大し、耐疲労性が低下する。スチール素線21の素線径dは上記範囲において一定であることが好ましい。これは、スチール素線束20に撚りが付与されていないため、スチール素線21の素線径dが一定でないと、スチール素線束20に対して荷重が不均一に負荷されて部分的な破断を生じやすくなるからである。また、各スチール素線束20におけるスチール素線21の本数は6本以下にする。この本数が6本を超えると素線数が多くなり過ぎてスチール素線束20の引き揃えが困難になる。
【0010】
上記スチール素線21の引張り強さは3500MPa以上にすることが好ましい。これは、スチールコードの比重は7.86と有機繊維に比べて遙かに大きいため、素線強度が低いと線材使用量が増加して重量増加を招くからである。従って、できるだけ高強度の材料を使うことが好ましい。このような引張り強さは、スチール素線を構成する線材の炭素量を0.9〜1.1重量%程度まで高めたり、炭素に加えてクロム、バナジウム、珪素、コバルト等の合金元素を単体で、或いは複数を組み合わせで加えても達成できる。また、最終伸線の伸線加工度を97%以上に高めることによっても達成できる。
【0011】
図3(a),(b)において、Pはスチール素線21に対する波付けの螺旋ピッチ、Dは螺旋径である。この波付けの螺旋ピッチPはスチール素線21の素線径dに対して10d〜56dの関係にする。螺旋ピッチPが10d未満であると過度の癖付けにより耐疲労性が低下し、逆に56dを超えるとカーカスプライのゲージが必要以上に厚くなる。また、螺旋径Dと螺旋ピッチPと素線径dから求まる波付けのパラメータFを(D−d)/Pとしたとき、そのパラメータFを0.01〜0.03の範囲にする。このパラメータFが0.01未満であるとスチール素線束20に対するゴム浸透性が不十分になり、逆に0.03を超えるとカーカスプライのゲージが必要以上に厚くなる。
図4は上記タイヤにおけるカーカス層の断面を示すものである。この図4に示すように、カーカス層2において複数本のスチール素線21が束となってスチール素線束20を形成している。スチール素線21に対してはゴムとの接着性を付与するため、Cu,Sn,Zn,Ni,Co等の中から2元素以上を合金化した合金メッキ処理が施されることが好ましい。
【0012】
上述のようにスチール素線21を撚らずに引き揃えてスチール素線束20とし、これらスチール素線束20を用いてカーカス層2を構成することにより、コード撚り工程を省略して製造コストを低減することができる。また、スチール素線21の素線径を0.10〜0.25mmの範囲にすることにより、乗用車用として十分な耐久性を確保することができる。
しかも、スチール素線21のうち少なくとも1本に螺旋状の波付けを行い、その波付けの螺旋ピッチPを素線径dに対して10d〜56dの関係にすると共に、パラメータFを0.01〜0.03の範囲に特定することにより、無撚りのスチール素線束21に対するゴムの浸透性を改善し、耐腐食性や耐腐食疲労性を向上することができる。
【0013】
上記空気入りラジアルタイヤにおいて、カーカス層2の巻き上げ端2aの高さをリムラインRよりも低くすることが好ましい。即ち、乗用車用タイヤでカーカス層にスチール素材を使用した場合、カーカス層の巻き上げ端を従来のままリムラインよりも高い位置に配置すると、ビード部周辺の剛性が大きくなり過ぎるため巻き上げ端にセパレーションが発生し易く、しかも操縦安定性が低下してしまう。これに対して、カーカス層2の巻き上げ端2aの高さをリムラインRよりも低くすることにより、カーカス層2にスチール素材を使用した場合でもビード部周辺の剛性を適正化することが可能になるので、ターンナップエッジにおけるセパレーションの発生を防止し、操縦安定性を良好に保つことができる。巻き上げ端高さはリムラインRよりも低ければいくら低くても良く、カーカス層を全く巻き上げずにビード部の横で留めたり、カーカス端をビードワイヤ間に挟み込む等の構造でも良いことは言うまでもない。
なお、リムラインRは一般にタイヤビード部のリムフランジとの接触部の外周側に描かれた輪郭線又は突条である。このリムラインRが無い場合は、カーカス層2の巻き上げ端2aの高さをそのタイヤに適用されるリムのフランジ高さよりも低くすることが好ましい。
【0014】
【実施例】
タイヤサイズを205/60R15で共通にし、表1のようにカーカス構造だけを種々異ならせた従来例、比較例1〜2、実施例1〜3の乗用車用空気入りラジアルタイヤをそれぞれ製作した。表において、カーカス巻き上げ端位置はリムラインからタイヤ径方向外側への高さで示したものである。
これら試験タイヤについて、カーカス層のコード疲労性、スチール素線束へのゴム浸透性、荷重耐久性を評価し、その結果を表1に示した。コード疲労性としては、カーカスコードに対して曲げ半径Rが22.5mmの曲げ変形を断続的に加え、破断が生じるまでの曲げ回数を測定した。ゴム浸透性はスチール素線束をタイヤから切り出してゴムの浸透状態を調べ、その全長に対するゴムが十分に浸透している領域の長さの百分率(%)で示した。荷重耐久性はJIS D4230に準拠した試験方法により評価した。
【0015】
【表1】
【0016】
この表1から判るように、実施例1〜3のタイヤはいずれもカーカスコードとしてスチール素線束を使用することにより製造コストの抑制が可能であるだけでなく、従来タイヤと同等の荷重耐久性を備えており、しかもスチール素線束へのゴム浸透性も良好であった。これに対して、比較例1はスチール素線の素線径が細過ぎるため所定のコード間隔で必要本数のスチール素線束を打ち込むことができず、タイヤを製作することができなかった。また、比較例2のタイヤは波付けのパラメータFが小さ過ぎるためスチール素線束へのゴム浸透性が悪かった。
【0017】
次に、タイヤサイズを205/60R15で共通にし、表2のようにカーカス構造だけを種々異ならせた実施例4〜6の乗用車用空気入りラジアルタイヤをそれぞれ製作した。
これら試験タイヤについて、カーカス層のターンナップエッジセパレーションの発生状況と操縦安定性を評価し、その結果を表2に示した。ターンナップエッジセパレーションの発生状況は上記と同様の荷重耐久性試験を行った後にカーカス層の巻き上げ端における剥離長さを測定したものである。操縦安定性は試験タイヤを空気圧200kPaとして排気量2000ccの乗用車に装着し、テストドライバーにてフィーリングにより評価したものであり、従来タイヤと比較して良好である場合を○で示し、劣る場合を×で示した。
【0018】
【表2】
【0019】
この表2から判るように、実施例4〜5のタイヤはいずれもカーカス層の巻き上げ端にセパレーションが生じておらず、しかも操縦安定性が良好であった。一方、実施例6のタイヤはカーカス巻き上げ端位置がリムラインよりもタイヤ径方向外側であり、ビード部周辺の剛性が高過ぎるため、カーカス層の巻き上げ端にセパレーションが生じ、操縦安定性も劣っていた。
【0020】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、素線径が0.10〜0.25mmの範囲にある2〜6本のスチール素線を撚らずに引き揃えてスチール素線束とし、該スチール素線束をゴムに埋め込んでカーカス層を構成したことにより、コード撚り工程を省略して製造コストを抑制しながら、乗用車用として十分な耐久性を確保することができる。しかも、上記スチール素線のうち少なくとも1本に螺旋状の波付けを行い、その波付けの螺旋ピッチPを素線径dに対して10d〜56dの関係にすると共に、螺旋径Dと螺旋ピッチPと素線径dから求まるパラメータFを0.01〜0.03の範囲にすることにより、無撚りのスチール素線束に対するゴムの浸透性を改善し、耐腐食性や耐腐食疲労性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態からなる乗用車用空気入りラジアルタイヤを一部切り欠いて示す斜視断面図である。
【図2】本発明においてカーカス層を構成するスチール素線束を例示する斜視図である。
【図3】本発明において波付けを施したスチール素線を例示するものであり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図4】図1におけるカーカス層の断面図である。
【符号の説明】
1 ビード部
2 カーカス層
3 ビードコア
4 トレッド部
5 ベルト層
20 スチール素線束
21 スチール素線
R リムライン
Claims (4)
- 素線径dが0.10〜0.25mmの範囲にある2〜6本のスチール素線のうち少なくとも1本に螺旋状の波付けを行い、これらスチール素線を撚らずに引き揃えてスチール素線束とし、該スチール素線束をゴムに埋め込んでカーカス層を構成し、かつ前記波付けの螺旋ピッチPを素線径dに対して10d〜56dの関係にすると共に、該波付けの螺旋径Dと螺旋ピッチPと素線径dから求まるパラメータFを(D−d)/Pとしたとき、該パラメータFを0.01〜0.03の範囲にした乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
- 前記カーカス層のタイヤ幅方向両端部をそれぞれビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げ、その巻き上げ高さをリムラインよりも低くした請求項1に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
- 前記スチール素線の引張り強さが3500MPa以上である請求項1又は2に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
- 前記スチール素線を構成する線材の炭素量が0.9〜1.1重量%である請求項1、2又は3に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
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