JP3826524B2 - 車両の制動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、二つの液圧系統を有し、ブレーキペダルが操作されたときには各液圧系統で適切に制動力を制御する車両の制動制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
近時、プロポーショニングに代わり、電磁弁の制御によって制動力配分制御を行なうことが提案されている。例えば、特開平6−144179号公報には、後輪用ホイールシリンダに接続された液圧制御弁(流入弁及び流出弁)を制御して、後輪基準速度が前輪基準速度以上になるように後輪の制動力を調整し、理想前後制動力配分に近似した前後制動力配分とする旨、開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記特開平6−144179号公報に記載の装置においては、後輪基準速度が前輪基準速度以上になるように(換言すれば、後輪基準速度が前輪基準速度未満にならないように)、後輪の制動力が調整される。このため、例えば前輪側制動系のフェード等で前輪に付与される制動力が小さくなった場合には、前輪速度の減少割合も小さくなるので、後輪の制動力が必要以上に減少される。その結果、適切に車両を減速できなくなるおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、二つの液圧系統を有する車両の制動制御装置において、車両の一方の前方側の車輪のスリップ率が、該一方の前方側の車輪が属する液圧系統とは異なる液圧系統に属する他方の前方側の車輪のスリップ率より小さい場合にも、適切に車両を減速させ得るようにすることを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明は、請求項1に記載のように、車両の前方及び後方の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、該ホイールシリンダの各々に対しブレーキペダルの操作に応じてブレーキ液を昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、該マスタシリンダと前記各車輪のホイールシリンダを二つの液圧系統に分割して連通接続しダイアゴナル配管とする一対の液圧路と、該一対の液圧路の各々に加圧ブレーキ液を出力する補助液圧源とを備えた車両の制動制御装置において、前記各車輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、該車輪速度検出手段の検出車輪速度に基づき前記各車輪のスリップ率を演算するスリップ率演算手段と、少くとも前記ブレーキペダルが操作状態にあるときに、前記車両の一方の前方側の車輪のスリップ率が、該一方の前方側の車輪が属する液圧系統とは異なる液圧系統に属する他方の前方側の車輪のスリップ率より小さいときには、スリップ率が小さい側の前記一方の前方側の車輪に装着したホイールシリンダに対し、前記補助液圧源の出力加圧ブレーキ液を付与するように制御する制動制御手段とを備えることとしたものである。
【0006】
従って、例えば所謂ダイアゴナル配管において前記車両の前方側の二つの車輪のスリップ率に差が生じた場合、前記車両の前方側の車輪のうちスリップ率が大きい方の車輪に装着したホイールシリンダに対しては、ブレーキペダル操作に応じてマスタシリンダの出力ブレーキ液圧が付与されるが、前記車両の前方側の車輪のうちスリップ率が小さい方の車輪に対しては、マスタシリンダ液圧に加圧ブレーキ液の液圧が加算された液圧が付与され、制動力が増大するので、常に効果的に制動作動が行なわれる。
【0007】
前記制動制御手段は、請求項2に記載のように、前記車両の後方側の車輪のうちスリップ率が大きい方の車輪に基づき、前記車両の後方側の左右の車輪に装着したホイールシリンダのブレーキ液圧を等しい値に制御する構成とするとよい。
【0008】
前記車両の後方側の車輪のうちスリップ率が大きい方の車輪に基づき、前記車両の後方側の左右の車輪に装着したホイールシリンダのブレーキ液圧を等しい値に制御するためには、前記制動制御手段は、請求項3に記載のように、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダの各々との間に介装し、少くとも増圧モード及び減圧モードの何れかの液圧モードを選択して前記ホイールシリンダの各々のブレーキ液圧を調整するモジュレータを具備する構成とすることが望ましく、この構成によれば、車両の後方側の左右の車輪に装着したホイールシリンダのブレーキ液圧を容易に等しい値に制御することができる。
【0009】
あるいは、本発明は、請求項4に記載のように、車両の前方及び後方の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、該ホイールシリンダの各々に対しブレーキペダルの操作に応じてブレーキ液を昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、該マスタシリンダと前記各車輪のホイールシリンダを二つの液圧系統に分割して連通接続しダイアゴナル配管とする一対の主液圧路と、該一対の主液圧路の各々に加圧ブレーキ液を出力する補助液圧源とを備えた車両の制動制御装置において、前記一対の主液圧路の各々に、前記主液圧路を開閉する第1の開閉弁と、該第1の開閉弁と前記ホイールシリンダとの間に吐出側を接続し前記ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出する液圧ポンプと、該液圧ポンプの吸込側を前記マスタシリンダに連通接続する補助液圧路と、該補助液圧路を開閉する第2の開閉弁を配設し、前記各車輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、該車輪速度検出手段の検出車輪速度に基づき前記各車輪のスリップ率を演算するスリップ率演算手段と、少くとも前記ブレーキペダルが操作状態にあるときに、前記車両の一方の前方側の車輪のスリップ率が、該一方の前方側の車輪が属する液圧系統とは異なる液圧系統に属する他方の前方側の車輪のスリップ率より小さいときには、スリップ率が小さい側の前記一方の前方側の車輪に装着したホイールシリンダに連通する少くとも前記第2の開閉弁を、開閉制御する制動制御手段とを備えたものとすることができる。
【0010】
前記制動制御手段は、請求項5に記載のように、前記二つの液圧系統の各々において、前記第1の開閉弁と前記ホイールシリンダの各々との間に介装し、少くとも増圧モード及び減圧モードの何れかの液圧モードを選択して前記ホイールシリンダの各々のブレーキ液圧を調整するモジュレータを具備し、該モジュレータと前記第1の開閉弁との間に前記液圧ポンプの吐出側を連通接続するように構成するとよい。
【0011】
更に、前記制動制御手段は、請求項6に記載のように、前記車両の後方側の車輪のうちスリップ率が大きい方の車輪に基づき前記モジュレータを制御し、前記車両の後方側の左右の車輪に装着したホイールシリンダのブレーキ液圧を等しい値に制御する構成とするとよい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の制動制御装置の一実施形態の全体構成を示すものであり、車輪FL,FR,RL,RRに夫々ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrが装着されている。尚、車輪FLは運転席からみて前方左側の車輪を示し、以下車輪FRは前方右側、車輪RLは後方左側、車輪RRは後方右側の車輪を示しており、本実施形態では所謂X配管(ダイアゴナル配管)が構成されている。
【0013】
車輪FR,RL,FL,RRには夫々車輪速度センサWS1乃至WS4が配設され、これらが電子制御装置ECUに接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置ECUに入力されるように構成されている。更に、ブレーキペダルBPが踏み込まれたときオンとなるブレーキスイッチBS等が電子制御装置ECUに接続されている。また、本実施形態では電子制御装置ECUに液圧センサPSが接続されており、マスタシリンダ液圧を表す信号が電子制御装置ECUに入力するように構成されている。
【0014】
本実施形態の電子制御装置ECUは、バスを介して相互に接続されたプロセシングユニット(CPU)、メモリ(ROM,RAM)、入力ポート及び出力ポート等から成るマイクロコンピュータ(図示せず)を備えている。上記車輪速度センサWS1乃至WS4、ブレーキスイッチBS等の出力信号は増幅回路(図示せず)を介して夫々入力ポートからプロセシングユニットに入力されるように構成されている。また、出力ポートからは駆動回路(図示せず)を介して後述する各開閉弁に制御信号が出力されるように構成されている。電子制御装置ECUにおいては、メモリ(ROM)は図2乃至図4に示したフローチャートを含む種々の処理に供するプログラムを記憶し、プロセシングユニット(CPU)は図示しないイグニッションスイッチが閉成されている間当該プログラムを実行し、メモリ(RAM)は当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。
【0015】
そして、本実施形態においては、ブレーキペダルBPの操作に応じてバキュームブースタVBを介してマスタシリンダMCが倍圧駆動され、低圧リザーバLRS内のブレーキ液が昇圧されて車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側の液圧系統にマスタシリンダ液圧が出力されるように構成されている。マスタシリンダMCはタンデム型のマスタシリンダで、二つの圧力室が夫々各ブレーキ液圧系統に接続されている。即ち、第1の圧力室MCaは車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統に連通接続され、第2の圧力室MCbは車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統に連通接続される。
【0016】
本実施形態の車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、第1の圧力室MCaは主液圧路MF及びその分岐液圧路MFr,MFlを介して夫々ホイールシリンダWfr,Wrlに接続されている。主液圧路MFには常開の第1の開閉弁SC1(所謂カットオフ弁として機能するもので、以下、単に開閉弁SC1という)が介装されている。また、第1の圧力室MCaは補助液圧路MFcを介して後述する逆止弁CV5,CV6の間に接続されている。補助液圧路MFcには常閉の第2の開閉弁SI1(以下、単に開閉弁SI1という)が介装されている。これらの開閉弁は何れも2ポート2位置の電磁開閉弁で構成されている。主液圧路MFには液圧センサPSが接続されており、マスタシリンダ液圧が検出され、ブレーキペダルBPの操作状態に応じた信号として前述の電子制御装置ECUに供給される。尚、ブレーキペダルBPの操作状態を検出するセンサとして、ブレーキペダルBPのストロークを検出するストロークセンサを用いることとしてもよい。
【0017】
分岐液圧路MFr,MFlには夫々、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁PC1及びPC2(以下、単に開閉弁PC1,PC2という)が介装されている。また、これらと並列に夫々逆止弁CV1,CV2が介装されている。逆止弁CV1,CV2は、マスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容しホイールシリンダWfr,Wrl方向へのブレーキ液の流れを制限するもので、これらの逆止弁CV1,CV2及び第1の位置(図示の状態)の開閉弁SC1を介してホイールシリンダWfr,Wrl内のブレーキ液がマスタシリンダMCひいては低圧リザーバLRSに戻されるように構成されている。而して、ブレーキペダルBPが解放されたときに、ホイールシリンダWfr,Wrl内の液圧はマスタシリンダMC側の液圧低下に迅速に追従し得る。また、ホイールシリンダWfr,Wrlに連通接続される排出側の分岐液圧路RFr,RFlに、夫々常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁PC5,PC6(以下、単に開閉弁PC5,PC6という)が介装されており、分岐液圧路RFr,RFlが合流した排出液圧路RFはリザーバRS1に接続されている。
【0018】
車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、上記開閉弁PC1,PC2,PC5,PC6によって本発明にいうモジュレータが構成されている。また、開閉弁PC1,PC2の上流側で分岐液圧路MFr,MFlに連通接続する液圧路MFpに、液圧ポンプHP1が介装され、その吸込側には逆止弁CV5,CV6を介してリザーバRS1が接続されている。また、液圧ポンプHP1の吐出側は、逆止弁CV7を介して夫々開閉弁PC1,PC2に接続されている。液圧ポンプHP1は、液圧ポンプHP2と共に一つの電動モータMによって駆動され、吸込側からブレーキ液を導入し所定の圧力に昇圧して吐出側から出力するように構成されている。リザーバRS1は、マスタシリンダMCの低圧リザーバLRSとは独立して設けられるもので、アキュムレータということもでき、ピストンとスプリングを備え、後述する種々の制御に必要な容量のブレーキ液を貯蔵し得るように構成されている。
【0019】
マスタシリンダMCは補助液圧路MFを介して液圧ポンプHP1の吸込側の逆止弁CV5と逆止弁CV6との間に連通接続されている。逆止弁CV5はリザーバRS1へのブレーキ液の流れを阻止し、逆方向の流れを許容するものである。また、逆止弁CV6,CV7は液圧ポンプHP1を介して吐出されるブレーキ液の流れを一定方向に規制するもので、通常は液圧ポンプHP1内に一体的に構成されている。而して、開閉弁SI1は、図1に示す常態の閉位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸込側との連通が遮断され、開位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸込側が連通するように切り換えられる。
【0020】
更に、開閉弁SC1に並列に、マスタシリンダMCから開閉弁PC1,PC2方向へのブレーキ液の流れを制限し、開閉弁PC1,PC2側のブレーキ液圧がマスタシリンダMC側のブレーキ液圧に対し所定の差圧以上大となったときにマスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容するリリーフ弁RV1と、ホイールシリンダWfr,Wrl方向へのブレーキ液の流れを許容し逆方向の流れを禁止する逆止弁AV1が介装されている。リリーフ弁RV1は、液圧ポンプHP1から吐出される加圧ブレーキ液がマスタシリンダMCの出力液圧より所定の差圧以上大となったときに、マスタシリンダMCを介して低圧リザーバLRSにブレーキ液を還流するもので、これにより液圧ポンプHP1の吐出ブレーキ液が所定の圧力以上に上昇しないように調圧される。また、逆止弁AV1の存在により、開閉弁SC1が閉位置であっても、ブレーキペダルBPが踏み込まれた場合にはホイールシリンダWfr,Wrl内のブレーキ液圧が増圧される。尚、液圧ポンプHP1の吐出側にダンパDP1が配設され、後輪側のホイールシリンダWrlに至る液圧路にプロポーショニングバルブPV1が介装されている。
【0021】
車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統においても同様に、リザーバRS2、ダンパDP2及びプロポーショニングバルブPV2をはじめ、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁SC2(第1の開閉弁)、常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁SI2(第2の開閉弁),PC7,PC8、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁PC3,PC4、逆止弁CV3,CV4,CV8乃至CV10、リリーフ弁RV2並びに逆止弁AV2が配設されている。液圧ポンプHP2は、電動モータMによって液圧ポンプHP1と共に駆動され、電動モータMの起動後は両液圧ポンプHP1,HP2は連続して駆動される。尚、後述のフローチャートにおいては、二つのブレーキ液圧系統に供される開閉弁等を代表して表すときには符号(*)を付加する。上記開閉弁SC1,SC2,SI1,SI2並びに開閉弁PC1乃至PC8は前述の電子制御装置ECUによって駆動制御され、本発明の補助制動制御のほかアンチスキッド制御等の制御が行なわれる。
【0022】
上記の構成になるブレーキ液圧系において、通常のブレーキ作動時においては、各電磁弁は図1に示す常態位置にあり、電動モータMは停止している。この状態でブレーキペダルBPが踏み込まれると、マスタシリンダMCの第1及び第2の圧力室MCa,MCbから、マスタシリンダ液圧が夫々車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側の液圧系統に出力され、開閉弁SC1,SC2並びに開閉弁PC1乃至PC8を介して、ホイールシリンダWfr,Wrl,Wfl,Wrrに供給される。車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統は同様の構成であるので、以下、代表して車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統について説明する。
【0023】
ブレーキ作動中にアンチスキッド制御に移行し、例えば車輪FR側がロック傾向にあると判定されると、開閉弁SC1は開位置のままで、開閉弁PC1が閉位置とされると共に、開閉弁PC5が開位置とされる。而して、ホイールシリンダWfrは開閉弁PC5を介してリザーバRS1に連通し、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRS1内に流出し減圧される。
【0024】
ホイールシリンダWfrがパルス増圧モードとなると、開閉弁PC5が閉位置とされると共に開閉弁PC1が開位置とされ、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が開位置の開閉弁PC1を介してホイールシリンダWfrに供給される。そして、開閉弁PC1が断続制御され、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液は増圧と保持が繰り返されてパルス的に増大し、緩やかに増圧される。ホイールシリンダWfrに対し急増圧モードが設定されたときには、開閉弁PC5が閉位置とされた後、開閉弁PC1が開位置とされ、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が供給される。そして、ブレーキペダルBPが解放され、ホイールシリンダWfrの液圧よりマスタシリンダ液圧の方が小さくなると、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液が逆止弁CV1及び開位置の開閉弁SC1を介してマスタシリンダMC、ひいては低圧リザーバLRSに戻る。このようにして、車輪毎に独立した制動力制御が行なわれる。
【0025】
上記のように構成された本実施形態の制御作動を説明すると、イグニッションスイッチ(図示せず)が閉成されると図2乃至図4のフローチャートに対応したプログラムの実行が開始し、電子制御装置ECUにより補助制動制御、アンチスキッド制御等の一連の処理が行なわれる。図2は制動制御作動の全体を示すもので、先ずステップ101にて初期化され、各種の演算値がクリアされる。次にステップ102において、車輪速度センサWS1乃至WS4の検出信号等が読み込まれる。
【0026】
続いてステップ103に進み、各車輪の車輪速度Vw** (**は各車輪FR等を表す)が演算されると共に、これらが微分され各車輪の車輪加速度DVw** が求められる。そして、ステップ104において各車輪の車輪速度Vw** の最大値が車両重心位置での推定車体速度Vsoとして演算される(Vso=MAX( Vw**))。また、各車輪の車輪速度Vw** に基づき各車輪毎に推定車体速度Vso**が求められ、必要に応じ、車両旋回時の内外輪差等に基づく誤差を低減するため正規化が行われる。更に、推定車体速度Vsoが微分され、車両重心位置での推定車体減速度DVsoが演算される(ここでは説明の便宜上、推定車体減速度としたが、符号を逆にすれば推定車体加速度となる)。
【0027】
続いて、ステップ105において、上記ステップ103及び104で求められた各車輪の車輪速度Vw** と推定車体速度Vso**(あるいは、正規化推定車体速度)に基づき各車輪の実スリップ率Sa** がSa** =(Vso**−Vw** )/Vso**として求められる。次に、ステップ106おいて、推定車体減速度DVsoに基づき路面摩擦係数μが求められる。尚、路面摩擦係数を検出する手段として、直接路面摩擦係数を検出するセンサ等、種々の手段を用いることができる。
【0028】
そして、ステップ107にてアンチスキッド制御の開始条件が判定され、開始条件を充足しているときにはステップ108に進みアンチスキッド制御モードが設定され、これに供する目標スリップ率が設定され、そうでなければステップ109に進み後述の補助制動制御が行なわれる。そして、ステップ110にて異常の有無がチェックされた後、ステップ111にて液圧サーボ制御により各開閉弁が制御され各車輪に対する制動力が制御された後ステップ102に戻る。
【0029】
図3は図2のステップ109における補助制動制御の具体的処理内容を示すもので、先ずステップ201において車両前方の車輪に関しスリップ率SaFR,SaFLのうちの小さい方のスリップ率〔MIN(SaFR,SaFL)〕が求められる。次に、ステップ202において車両前方の車輪のスリップ率SaFR,SaFLのうちの大きい方のスリップ率〔MAX(SaFR,SaFL)〕が求められる。そして、ステップ203に進み、最大スリップ率MAX(SaFR,SaFL)と最小スリップ率MIN(SaFR,SaFL)の差が所定値Ksと比較される。この差が所定値Ks以下と判定されたときにはそのままメインルーチンに戻るが、この差が所定値Ksを越えていると判定されたときには、ステップ204以降に進み各車輪のホイールシリンダ液圧が制御される。
【0030】
ステップ204においては車両前方の車輪FR,FLのスリップ率SaFR,SaFLの大小比較が行なわれ、スリップ率SaFRのほうが小であればステップ205に進み、スリップ率が小さい方の車輪FR側が加圧設定とされ、液圧ポンプHP1によってマスタシリンダ液圧以上に加圧される状態とされるのに対し、車輪FL側はマスタシリンダ液圧付与(図1の状態)とされる。逆に、スリップ率SaFLのほうが小であればステップ206に進み、スリップ率が小さい方の車輪FL側が加圧設定とされ、車輪FR側がマスタシリンダ液圧付与とされる。
【0031】
そして、ステップ207に進み、目標車体減速度G*と、実車体減速度として用いる推定車体減速度DVsoとの減速度偏差ΔG(=G*−DVso)が演算される。目標車体減速度G*は、例えば液圧センサPSの検出マスタシリンダ液圧に応じた減速度Gmに対し、補助制動制御用として所定の液圧に応じた減速度Δgが加算されて設定されるが、ブレーキペダルBPのストロークを検出し、これに基づいて設定することとしてもよい。
【0032】
続いて、ステップ208に進み補助制動制御量が設定される。この補助制動制御量は、加圧設定された車輪が含まれる液圧系(図1の左側又は右側)に配設された開閉弁SI*,SC*のデューティDi,Dcが図6に示すように設定される。即ち、開閉弁PC1,PC5または開閉弁PC3,PC7を制御することなく(これらの開閉弁は図1の状態としたままで)、少くとも開閉弁SI*を開閉制御することによって補助制動制御量を設定することができる。
【0033】
次に、ステップ209に進み、車両後方の車輪RR,RLのスリップ率SaRR,SaRLの大小比較が行なわれ、スリップ率SaRLのほうが大であればステップ210に進み、両車輪RR,RLの制御時のスリップ率SaR*が何れも大きい方のスリップ率SaRLに設定される。従って、スリップ率SaRRのほうが大であればステップ211に進み、両車輪RR,RLの制御目標のスリップ率SaR*が何れもスリップ率SaRRに設定される。このように、車両後方の車輪RR,RLについては車両安定性の要請から減圧側に制御される。
【0034】
続いて、ステップ212において、車両前方右側の車輪FRのスリップ率SaFRと車両後方右側の車輪RRのスリップ率SaRRとの偏差ΔSRR、及び車両前方左側の車輪FLのスリップ率SaFLと車両後方左側の車輪RLのスリップ率SaRLとの偏差ΔSRLが演算される。即ち、左右で同一側の前後輪のスリップ率偏差が求められる。そして、ステップ213,214に進み、上記の偏差ΔSRR,ΔSRLが何れも0となるように設定され、開閉弁PC2,PC6及び開閉弁PC4,PC8の開閉制御によって夫々車輪RR,RLのホイールシリンダ液圧が制御される。これにより、車両の前後方向に関しても制動力配分が行なわれる。結局、スリップ率が大きい方の車両前方の車輪を除く全ての車輪に対するホイールシリンダ液圧が調整され、車両の前後及び左右の制動力が適切に配分される。
【0036】
図4は図2のステップ111で行なわれる液圧サーボ制御の処理内容を示すもので、各車輪のスリップ率に基づきホイールシリンダ液圧のサーボ制御が行なわれる。先ず、ステップ301にてアンチスキッド制御中か否かが判定され、そうであればステップ302に進みアンチスキッド制御のスリップ率サーボ制御が行なわれるが、これについては説明を省略する。アンチスキッド制御中でない場合にはステップ303に進み補助制動制御中か否かが判定される。補助制動制御中でもなければ、ステップ304にて全ての開閉弁のソレノイドがオフとされ、図2のメインルーチンに戻る。
【0037】
ステップ303において補助制動制御中と判定されると、ステップ305に進み車両後方の車輪R*(RR又はRL)が制御対象か否かが判定され、そうであればステップ306に進み、図7に示す制御マップに従って液圧モードが設定される。即ち、図7に示すように、車両後方の車輪R*については、スリップ率SaR*及び車体減速度偏差ΔGをパラメータとする制御マップに、予め急減圧領域、パルス減圧領域、保持領域、パルス増圧領域及び急増圧領域の各領域が設定されており、スリップ率SaR*及び車体減速度偏差ΔGの値に応じて、何れの領域に該当するかが判定され、その液圧モードに設定されてステップ307に進む。ステップ305にて車両後方の車輪R*が制御対象でないと判定された場合にはそのまま(各ソレノイドはオフ状態)ステップ307に進む。
【0038】
ステップ307においては異常状態が判定され、異常がなければステップ308にて制御対象の車両前方の車輪F*に対し開閉弁SI*が前述のようにデューティ制御されると共に、後方の車輪R*に対し開閉弁PC*(PC2,PC4又はPC6,PC8)が上記の液圧モードに従って制御される。異常時には、ステップ309に進み、車両前方の車輪F*の制御に係る開閉弁SI*等のソレノイドが直ちにオフとされるが、後方の車輪R*に関しては一定時間Tpパルス増圧モードとされた後オフとされる。これにより、異常時の終了制御が円滑に行なわれる。
【0039】
図5は図2のステップ110で行なわれる異常判定の処理を示すもので、制動系異常、特に前輪制動系のフェード、パッド異常等の有無が判定される。先ず、ステップ401において車両前方の一方の車輪F*に関し加圧設定が行なわれているか否かが判定される。車輪F*が加圧設定中であればステップ402及び403に進み、〔MAX(SaFR,SaFL)−MIN(SaFR,SaFL)〕が所定値Ktを越えた状態が一定時間Tu継続したときに、ステップ404にて車輪F*の制動系が異常と判定される。従って、ステップ401乃至403の何れかに該当しない場合にはそのままメインルーチンに戻る。
【0040】
【発明の効果】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明の車両の制動制御装置においては、少くともブレーキペダルが操作状態にあるときに、車両の一方の前方側の車輪のスリップ率が、該一方の前方側の車輪が属する液圧系統とは異なる液圧系統に属する他方の前方側の車輪のスリップ率より小さいときには、スリップ率が小さい側の前記一方の前方側の車輪に装着したホイールシリンダに対し、補助液圧源の出力加圧ブレーキ液を付与するように制御する構成とされているので、制動系異常時にも適切に車両を減速させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の制動制御装置の一実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態における車両の制動制御の全体を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態における補助制動制御の具体的処理内容を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態における液圧サーボ制御の処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態における異常判定の処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態における車両前方の車輪のホイールシリンダ液圧を制御する際の開閉弁SC*,SI*の駆動状態の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態において車両後方の車輪のホイールシリンダに対し、ブレーキ液圧制御に供するパラメータと液圧モードとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
BP ブレーキペダル
MC マスタシリンダ
MF 主液圧路, MFc 補助液圧路
M 電動モータ, HP1,HP2 液圧ポンプ
RS1,RS2 リザーバ
Wfr,Wfl,Wrr,Wrl ホイールシリンダ
WS1〜WS4 車輪速度センサ
FR,FL,RR,RL 車輪
SC1,SC2 第1の開閉弁
SI1,SI2 第2の開閉弁
PC1〜PC8 開閉弁
ECU 電子制御装置
Claims (6)
- 車両の前方及び後方の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、該ホイールシリンダの各々に対しブレーキペダルの操作に応じてブレーキ液を昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、該マスタシリンダと前記各車輪のホイールシリンダを二つの液圧系統に分割して連通接続しダイアゴナル配管とする一対の液圧路と、該一対の液圧路の各々に加圧ブレーキ液を出力する補助液圧源とを備えた車両の制動制御装置において、前記各車輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、該車輪速度検出手段の検出車輪速度に基づき前記各車輪のスリップ率を演算するスリップ率演算手段と、少くとも前記ブレーキペダルが操作状態にあるときに、前記車両の一方の前方側の車輪のスリップ率が、該一方の前方側の車輪が属する液圧系統とは異なる液圧系統に属する他方の前方側の車輪のスリップ率より小さいときには、スリップ率が小さい側の前記一方の前方側の車輪に装着したホイールシリンダに対し、前記補助液圧源の出力加圧ブレーキ液を付与するように制御する制動制御手段とを備えたことを特徴とする車両の制動制御装置。
- 前記制動制御手段は、前記車両の後方側の車輪のうちスリップ率が大きい方の車輪に基づき、前記車両の後方側の左右の車輪に装着したホイールシリンダのブレーキ液圧を等しい値に制御することを特徴とする請求項1記載の車両の制動制御装置。
- 前記制動制御手段は、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダの各々との間に介装し、少くとも増圧モード及び減圧モードの何れかの液圧モードを選択して前記ホイールシリンダの各々のブレーキ液圧を調整するモジュレータを具備したことを特徴とする請求項2記載の車両の制動制御装置。
- 車両の前方及び後方の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、該ホイールシリンダの各々に対しブレーキペダルの操作に応じてブレーキ液を昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、該マスタシリンダと前記各車輪のホイールシリンダを二つの液圧系統に分割して連通接続しダイアゴナル配管とする一対の主液圧路と、該一対の主液圧路の各々に加圧ブレーキ液を出力する補助液圧源とを備えた車両の制動制御装置において、前記一対の主液圧路の各々に、前記主液圧路を開閉する第1の開閉弁と、該第1の開閉弁と前記ホイールシリンダとの間に吐出側を接続し前記ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出する液圧ポンプと、該液圧ポンプの吸込側を前記マスタシリンダに連通接続する補助液圧路と、該補助液圧路を開閉する第2の開閉弁を配設し、前記各車輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、該車輪速度検出手段の検出車輪速度に基づき前記各車輪のスリップ率を演算するスリップ率演算手段と、少くとも前記ブレーキペダルが操作状態にあるときに、前記車両の一方の前方側の車輪のスリップ率が、該一方の前方側の車輪が属する液圧系統とは異なる液圧系統に属する他方の前方側の車輪のスリップ率より小さいときには、スリップ率が小さい側の前記一方の前方側の車輪に装着したホイールシリンダに連通する少くとも前記第2の開閉弁を、開閉制御する制動制御手段とを備えたことを特徴とする車両の制動制御装置。
- 前記制動制御手段は、前記二つの液圧系統の各々において、前記第1の開閉弁と前記ホイールシリンダの各々との間に介装し、少くとも増圧モード及び減圧モードの何れかの液圧モードを選択して前記ホイールシリンダの各々のブレーキ液圧を調整するモジュレータを具備し、該モジュレータと前記第1の開閉弁との間に前記液圧ポンプの吐出側を連通接続したことを特徴とする請求項4記載の車両の制動制御装置。
- 前記制動制御手段は、前記車両の後方側の車輪のうちスリップ率が大きい方の車輪に基づき前記モジュレータを制御し、前記車両の後方側の左右の車輪に装着したホイールシリンダのブレーキ液圧を等しい値に制御することを特徴とする請求項5記載の車両の制動制御装置。
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