JP3822714B2 - Cr複合電子部品およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非磁性セラミック誘電体層を有する積層型のキャパシタに、抵抗ないしインピーダンス要素を付加したCR複合電子部品に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、電子機器の電源の多くには、スイッチング電源やDC−DCコンバータが用いられている。これらの電源に使用されるコンデンサとして電源バイパス用のコンデンサがある。この電源バイパス用コンデンサは、その電源容量やスイッチング周波数、併用される平滑コイル等の回路パラメータに応じて、低容量の積層セラミックコンデンサと、高容量のアルミあるいはタンタルといった電解コンデンサが用いられてきた。ところで、電解コンデンサは、容易に大容量が得られ、電源のバイパス用(平滑用)コンデンサとしては優れた面を有するが、大型で、低温特性に劣り、短絡事故の恐れがあり、しかも内部インピーダンスが比較的高いため、等価直列抵抗(ESR)による損失が定常的に発生し、それに伴う発熱を生じ、しかも周波数特性が悪く、平滑性が悪化するといった問題を有している。また、近年、技術革新により、積層セラミックコンデンサの誘電体や内部電極の薄層化、積層化技術の進展に伴い、積層セラミックコンデンサの静電容量が、電解コンデンサの静電容量に近づきつつある。このため、電解コンデンサを積層セラミックコンデンサに置き換えようとする試みも種々なされている。
【0003】
電源のバイパス用のコンデンサにおいては平滑作用を示すファクターとしてリップルノイズが重要である。リップルノイズをどの程度に抑えるかは、コンデンサの等価直列抵抗(ESR)により決まる。ここで、リップル電圧をΔVr 、チョ−クコイルに流れる電流をΔi、等価直列抵抗をESRとすると、
ΔVr =Δi×ESR
と表され、ESRを低下させることによりリップル電圧が抑制されることがわかる。従って、電源のバイパス回路においては、ESRの低いコンデンサを使用することが好ましく、ESRの低い積層セラミックコンデンサを電源回路に用いる試みもなされている。
【0004】
ところが、帰還回路を有するDC−DCコンバータやスイッチング電源等の2次側回路では、平滑回路のESRが帰還ループの位相特性に大きな影響を与え、特にESRが極端に低くなると問題を生じることがある。すなわち、平滑用コンデンサとしてESRの低い積層セラミックコンデンサを使用した場合、2次側平滑回路が等価的にLとC成分のみで構成されてしまい、回路内に存在する位相成分が±90°および0°のみとなり、位相の余裕がなくなり容易に発振してしまう。同様な現象は3端子レギュレータを用いた電源回路においても負荷変動時の発振現象として現れる。
【0005】
このため、積層セラミックコンデンサに抵抗成分を付加した、いわゆるCR複合電子部品も種々提案されている。例えば、特開平8−45784号公報には、積層セラミックコンデンサの端部を炭化物と還元剤を用いて半導体化した複合電子部品について記載されている。しかし、その製造方法は、積層セラミックコンデンサ素体に外部電極用ペーストを塗布し、これを一旦還元性雰囲気中で仮焼し、バインダーを炭化して残留させ、さらに700〜750℃で焼き付けることにより前記炭化物を還元剤として作用させ、半導体化させている。また抵抗値の制御は還元剤の量で行っている。しかし、この方法では半導体化する工程が複雑であり、端子電極を形成する工程を含めると、3回もの熱処理を必要とし、生産性が低下し、エネルギーコストが高くなる。しかも、抵抗値の制御が還元剤の量で行われているため、所望の値を正確に得ることが困難であり、回路設計が困難になると共に、製品間のバラツキも多く、量産化した場合の歩留まりも悪い。
【0006】
また、例えば、特開昭59−225509号公報に記載されているように、積層セラミックコンデンサに、さらに酸化ルテニウム等の抵抗体ペーストを積層し、これを同時焼成して抵抗体としたものも知られている。しかし、このものは、そのまま端子電極を設けた場合、等価回路がC/Rまたは(LC)/Rの並列回路となり、直列回路を得ることができない。また、直列回路を得るためには端子電極の形状が複雑となり、製造工程も複雑なものとなってしまう。
【0007】
特許第2578264号公報には、外部電極の表面に金属酸化膜を設けて所望の等価直列抵抗としたCR複合部品が記載されている。しかしながら、同公報の実施例に記載されているCR複合部品は、ニッケルの端子電極を加熱処理して金属酸化膜を形成するもので、抵抗値の調整はバレル研磨によりこの金属酸化膜の膜厚を調整することにより行っている。このため、所望の抵抗値を得ることが困難であり、抵抗値の調整も煩雑で量産性に劣る。また、形成された金属酸化膜の上に、さらにニッケル層を無電解メッキにより設けているが、この方法では端子部位以外にメッキが付着しないようマスクを設ける必要があり、製造工程が増加する。さらに付着した、ニッケルメッキと金属酸化膜との接着性が悪く、ニッケルメッキにリ−ド線を設けた場合、このリード線が容易に剥離してしまう。
【0008】
なお、平滑コンデンサに対して直列に抵抗を接続する方法もあるが、コストが高く実用的でない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、特別な焼成条件を必要とせず、通常の積層セラミックコンデンサと同一条件での焼成が可能であり、製造工程も簡単で、生産コストも安く、CRまたは(L/C)R直列回路が簡単に得られ、抵抗値の制御も容易であり、リード線の接着強度も強固なCR複合電子部品およびその製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、以下の(1)〜(10)の構成により達成される。
(1) 誘電体層と内部電極とが交互に積層されており、
前記内部電極と、CR複合電子部品の端部に形成された第1の電極層とが接続され、
前記第1の電極層の少なくとも一方の端子側に第2の電極層と第3の電極層とを有し、
前記内部電極層は前記第1〜第3の電極層を介して外部と接続され、
前記第2の電極層がニッケルとリンを含有するCR複合電子部品。
(2) 前記第2の電極層はリンをP換算で0.01〜15wt%含有する上記(1)のCR複合電子部品。
(3) さらに副成分としてB,Si,V,Fe,Co,Zn,Mo,Sn,TeおよびWの1種以上を総計0.01〜10wt%含有する上記(1)または(2)のCR複合電子部品。
(4) 前記第1の電極層が銅またはニッケル、あるいはこれらの合金を有する上記(1)〜(3)のいずれかのCR複合電子部品。
(5) 前記第3の電極層はスズまたはスズ−鉛合金を有する上記(1)〜(4)のいずれかのCR電子複合部品。
(6) 前記第1の端子電極と第3の端子電極との最短離間距離を調節することにより抵抗値を調節する上記(1)〜(5)のいずれかのCR複合電子部品。
(7) 等価回路がCRまたは(LC)R直列回路を含む上記(1)〜(6)のいずれかのCR複合電子部品。
(8) 内部電極がニッケルを含有する上記(1)〜(7)のいずれかのCR複合電子部品。
(9) 誘電体層と内部電極層とを交互に積層してグリーンチップを形成し、
これを焼成してチップ体とし、
このチップ体に第1の端子電極を還元性雰囲気で形成した後、
少なくとも一方の第1の端子電極に無電解メッキで第2の端子電極を形成し、
さらに第2の端子電極に第3の端子電極を形成するCR複合電子部品の製造方法。
(10)前記内部電極層がニッケルを含有する上記(9)のCR複合電子部品の製造方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のCR複合電子部品は、誘電体層と内部電極とが交互に積層されており、前記内部電極と、CR複合電子部品の端部に形成された第1の電極層とが接続され、前記第1の電極層の少なくとも一方の端子側に第2の電極層と第3の電極層とを有し、前記内部電極層は前記第1〜第3の電極層を介して外部と接続され、前記第2の電極層はニッケルとリンとの合金である。第2の電極層をニッケルにリンを添加した合金とすることで、端子電極に比較的高い抵抗値を有する抵抗層が形成され、等価回路がCとRの直列接続となるCR複合電子部品とすることができる。
【0012】
すなわち、導体である第1の電極層と第3の電極層との間に、所定の抵抗値を有するニッケル−リン合金層の第2の電極層を介在させることにより、極めて容易にコンデンサと直列に抵抗成分を有するCR複合部品とすることができる。この第2の電極層におけるニッケルとリンとの組成比は、好ましくはリンがP換算で0.01〜15wt%、より好ましくは8〜15wt%、特に10〜15wt%の範囲が好ましい。リンの添加量が少なすぎると、所望の抵抗が得られ難く、リンの添加量が15wt%を超えるとニッケルと固溶し難くなる。
【0013】
さらに、好ましくは副成分としてB,Si,V,Fe,Co,Zn,Mo,Sn,TeおよびWの1種以上を総計0.01〜10wt%、より好ましくは0.1〜5wt%含有していてもよい。これらの元素を添加することにより、ニッケル−リン合金よりも抵抗値が大きくなる。これらの元素を2種以上用いる場合の混合比は任意である。
【0014】
第2の電極層はいずれか一方の電極に設けてもよく、あるいは双方に設けてもよい。また、第2の電極層における抵抗値は、第2の電極層を介した第1の電極層と第3の電極層の最短距離、つまり第2の電極層の最小厚さに比例する。なお、第2の電極層を双方の電極に設けた場合、その抵抗値はそれぞれの電極における第2の電極層の抵抗値の合計となる。第2の電極層の抵抗値は、使用する回路やコンデンサの容量等により適宜必要な抵抗値に調整すればよく、特に制限されるものではないが、等価直列抵抗(ESR)としては、好ましくは1 m〜2Ω、より好ましくは10〜100 mΩ程度である。
【0015】
第2の電極層を形成する方法としては、湿式メッキ、蒸着、溶射、スパッタ等が挙げられるが、湿式メッキ、特に無電解メッキが好ましい。無電解メッキを用いることにより、メッキ浴槽中に浸漬する時間により第2の電極層の膜厚、つまり抵抗値が容易に制御でき好ましい。形成された第2の電極層は、第1の電極層や第3の電極層との接着性が良好であり、第3の電極層にリード線を設けた場合、強固な接着強度が得られる。無電解メッキ浴としては、次亜リン酸塩系が好ましく、特に、
硫酸ニッケル 10〜30g/リットル
乳酸 15〜35g/リットル
プロピオン酸 1〜 5g/リットル
次亜リン酸ナトリウム 10〜35g/リットル
の範囲の組成のものが好ましく、pHは3〜5が好ましい。無電解メッキ浴層中に浸漬される時間としては、必要とする第2の電極層の膜厚等により異なるが、通常0.1〜1時間、特に0.2〜0.5時間の範囲が好ましい。メッキ浴の温度としては通常80〜95℃程度である。
【0016】
第1の電極層の構成材料としては、特に限定されるものではないが、低抵抗率の金属が好ましく銅、ニッケル等、およびこれらの合金等が挙げられ、好ましくは銅、ニッケルおよびこれらの合金である。第1の電極層を銅、ニッケルまたはこれらの合金とし、第2の電極層を無電解メッキで形成することで、特別なマスクなどを設けることなく、第1の電極層上にのみ第2の電極層が形成され好ましい。第1の電極層の膜厚としては、特に限定されるものではないが、好ましくは10〜100μm 、特に20〜70μm の範囲が好ましい。
【0017】
第1の電極層を設けるには、上記金属と有機ビヒクルとを混練し、ペーストとしたものを用いればよい。電極層用ペーストには、通常前記金属材料の他に電気伝導率を調整するためのガラスフリット、有機バインダーおよび溶剤が含有される。電極層用ペーストの金属材料の含有量は、好ましくは50〜80wt%、より好ましくは65〜75wt%程度の範囲が好ましい。
【0018】
有機バインダーとしては、特に限定されるものではなく、セラミックス材のバインダーとして一般的に使用されているものの中から、適宜選択して使用すればよい。このような有機バインダーとしては、エチルセルロース、アクリル樹脂、ブチラール樹脂等が挙げられ、溶剤としてはターピネオール、テルピネオール、ブチルカルビトール、ケロシン等が挙げられる。ペースト中の有機バインダーおよび溶剤の含有量は、特に制限されるものではなく、通常使用されている量、例えば有機バインダー1〜5wt%、溶剤10〜50wt%程度とすればよい。
【0019】
さらに、電極層用ペースト中には、必要に応じて各種分散剤等が含有されていてもよい。これらの総含有量は、1wt%以下であることが好ましい。電極層用ペーストを誘電体チップに設ける方法としては、特に限定されるものではないが、例えばディップ法、スクリーン印刷法、好ましくはディップ法等により容易に設けることができる。
【0020】
第3の電極層は、第1または第2の電極層上に設けられる。第3の電極層は、リード線を取り付ける際のハンダ濡れ性を改善すると共に、第2の電極層とリード線との接続を確実に行い、第2の電極層を導電体で覆うことになるため、第2の電極層により与えられる抵抗値が安定になる。第3の電極層の構成材料としては、低抵抗率でハンダ濡れ性が良好なものが好ましく、スズあるいはスズ−鉛合金ハンダ等が好ましい。これらは1層または2層以上設けてもよく、特に好ましくはスズ−鉛合金ハンダを設けたものが好ましい。第3の電極層を形成する方法としては、特に限定されるものではないが、従来公知の湿式メッキにより容易に設けることができ好ましい。第3の電極層の膜厚としては、好ましくは1〜10μm 程度が好ましい。
【0021】
<誘電体層>
誘電体層を構成する誘電体材料としては、特に限定されるものではなく、種々の誘電体材料を用いてよいが、例えば、酸化チタン系、チタン酸系複合酸化物、あるいはこれらの混合物などが好ましい、酸化チタン系としては、必要に応じNiO,CuO,Mn3O4,Al2O3,MgO,SiO2等を総計0.001〜30wt%程度含むTiO2等が、チタン酸系複合酸化物としては、チタン酸バリウムBaTiO3等が挙げられる。Ba/Tiの原子比は、0.95〜1.20程度がよく、BaTiO3には、MgO,CaO,Mn3O4,Y2O3,V2O5,ZnO,ZrO2,Nb2O5,Cr2O3,Fe2O3,P2O5,SrO,Na2O,K2O等が総計0.001〜30wt%程度含有されていてもよい。また、焼成温度、線膨張率の調整等のため、(BaCa)SiO3 ガラス等のガラス等が含有されていてもよい。
【0022】
誘電体層の一層あたりの厚さは特に限定されないが、通常5〜20μm 程度である。また、誘電体層の積層数は、通常、2〜300程度とする。
【0023】
<内部電極層>
内部電極層に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層構成材料に耐還元性を有するものを使用することで、安価な卑金属を用いることができ好ましい。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn、Cr、Co、Al等から選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95wt%以上であることが好ましい。
【0024】
なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1wt%程度以下含まれていてもよい。
【0025】
内部電極層の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.5〜5μm 、特に0.5〜2.5μm 程度であることが好ましい。
【0026】
次に、本発明のCR複合電子部品の製造方法について説明する。
【0027】
本発明のCR複合電子部品は、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、このチップの少なくとも一端に抵抗体ペーストを印刷ないし転写して同時焼成することにより製造できる。
【0028】
<誘電体層用ペースト>
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練して製造される。
【0029】
誘電体原料には、誘電体層の組成に応じた粉末を用いる。誘電体原料の製造方法は特に限定されず、例えばチタン酸系複合酸化物としてチタン酸バリウムを用いる場合、水熱合成法等により合成したBaTiO3 に、副成分原料を混合する方法を用いることができる。また、BaCO3 とTiO2 と副成分原料との混合物を仮焼して固相反応させる乾式合成法を用いてもよく、水熱合成法を用いてもよい。また、共沈法、ゾル・ゲル法、アルカリ加水分解法、沈殿混合法などにより得た沈殿物と副成分原料との混合物を仮焼して合成してもよい。なお、副成分原料には、酸化物や、焼成により酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等の少なくとも1種を用いることができる。
【0030】
誘電体原料の平均粒子径は、目的とする誘電体層の平均結晶粒径に応じて決定すればよいが、通常、平均粒子径0.3〜1.0μm 程度の粉末を用いる。
【0031】
有機ビヒクルは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0032】
<内部電極層用ペースト>
内部電極層用ペーストは、上記の各種導電性金属や合金、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0033】
<端子電極用ペースト>
端子電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0034】
<有機ビヒクル含有量>
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、例えば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0035】
<グリーンチップ作製>
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に積層印刷する。このとき内部電極用ペーストの端部の一方が誘電体層用ペーストの端部より交互に外部に露出するように積層する。その後、所定形状に切断してチップ化し、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0036】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、このグリーンシート上に内部電極層用ペーストを、内部電極用ペーストの端部が交互に誘電体層用ペーストの端部の一方から露出するように印刷したものを積層し、所定形状に切断して、グリーンチップとする。
【0037】
<脱バインダ処理工程>
焼成前に行なう脱バインダ処理の条件は通常のものであってよいが、内部電極層の導電材にNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、特に下記の条件で行うことが好ましい。
昇温速度:5〜300℃/時間、特に10〜100℃/時間
保持温度:200〜400℃、特に250〜300℃
温度保持時間:0.5〜24時間、特に5〜20時間
雰囲気:空気中
【0038】
<焼成工程>
グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定すればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気はN2 を主成分とし、H2 1〜10%、10〜35℃における水蒸気圧によって得られるH2Oガスを混合したものが好ましい。そして、酸素分圧は、10-8〜10-12 気圧とすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0039】
焼成時の保持温度は、1100〜1400℃、特に1200〜1300℃とすることが好ましい。保持温度が前記範囲未満であると緻密化が不十分であり、前記範囲を超えると、内部電極が途切れやすくなる。また、焼成時の温度保持時間は、0.5〜8時間、特に1〜3時間が好ましい。
【0040】
<アニール工程>
還元性雰囲気中で焼成した場合、CR複合電子部品チップ体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR加速寿命を著しく長くすることができる。
【0041】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10-6気圧以上、特に10-5〜10-8気圧とすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層が酸化する傾向にある。
【0042】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に500〜1000℃とすることが好ましい。保持温度が前記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となって寿命が短くなる傾向にあり、前記範囲を超えると内部電極層が酸化し、容量が低下するだけでなく、誘電体素地と反応してしまい、寿命も短くなる傾向にある。なお、アニール工程は昇温および降温だけから構成してもよい。この場合、温度保持時間は零であり、保持温度は最高温度と同義である。また、温度保持時間は、0〜20時間、特に2〜10時間が好ましい。雰囲気用ガスには、加湿したN2 ガス等を用いることが好ましい。
【0043】
なお、上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールの各工程において、N2 とH2 とOや混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0044】
脱バインダ処理工程、焼成工程およびアニール工程は、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0045】
これらを連続して行なう場合、脱バインダ処理後、冷却せずに雰囲気を変更し、続いて焼成の保持温度まで昇温して焼成を行ない、次いで冷却し、アニール工程での保持温度に達したときに雰囲気を変更してアニールを行なうことが好ましい。
【0046】
また、これらを独立して行なう場合は、脱バインダ処理工程は、所定の保持温度まで昇温し、所定時間保持した後、室温にまで降温する。その際の脱バインダ雰囲気は、連続して行う場合と同様なものとする。さらにアニール工程は、所定の保持温度にまで昇温し、所定時間保持した後、室温にまで降温する。その際のアニール雰囲気は、連続して行う場合と同様なものとする。また、脱バインダ工程と、焼成工程とを連続して行い、アニール工程だけを独立して行うようにしてもよく、脱バインダ工程だけを独立して行い、焼成工程とアニール工程を連続して行うようにしてもよい。
【0047】
<第1の電極層形成>
上記のようにして得られたチップ体に、第1の電極層用ペーストを印刷ないし転写して焼成し、端子(外部)電極を形成する。外部電極用ペーストの焼成条件は、例えば、N2 とH2 との混合ガス等の還元性雰囲気中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とすることが好ましい。
【0048】
<第2の電極層メッキ工程>
端子電極が形成されたチップ体を、上記第2の電極層用メッキ浴中に浸漬し、ニッケル−リン合金層を形成する。この場合、特別なマスキング等を行う必要はなく、第1の電極層が活性化されその部分にのみニッケル−リン合金層が形成される。成膜される第2の電極層の膜厚や浸漬時間等の成膜条件は上記の通りである。
【0049】
<第3の電極層メッキ工程>
さらに、第2の電極層が形成されたチップ体を、第3の電極層用メッキ浴中に浸漬し、第3の電極層を形成する。
【0050】
このようにして製造される、本発明のCR複合電子部品の構成例を図1に示す。図1において、本発明のCR複合電子部品は、誘電体層2と、内部電極層3と、第1の電極層4と、第2の電極層5と、第3の電極層6とを有する。また、第2の電極層5は、第1の電極層4から第3の電極層6までの最短距離、d1+d2に応じた抵抗値となる。ここで、図1は第2の電極層をCR複合電子部品の両方の端子に形成した場合を示すが、どちらか一方のみに形成してもよく、その場合、第1の電極層4から第3の電極層6までの距離はd1あるいはd2のいずれか一方のみとなる。
【0051】
本発明のCR複合電子部品は、必要に応じてリード線が設けられ、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、電源装置などの各種電子機器等に使用される。
【0052】
【実施例】
次に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0053】
<実施例1>
誘電体層の主原料としてBaCO3(平均粒径:2.0μm )およびTiO2(平均粒径:2.0μm )を用意した。Ba/Tiの原子比は1.00である。また、これに加えて、BaTiO3 に対し添加物としてMnCO3 を0.2wt%、MgCO3 を0.2wt%、Y2O3 を2.1wt%、(BaCa)SiO3 を2.2wt%を用意した。各原料粉末を水中ボールミルで混合し、乾燥した。得られた混合粉を1250℃で2時間仮焼した。この仮焼分を水中ボールミルで粉砕し、乾燥した。得られた仮焼粉に、有機バインダーとしてアクリル樹脂と、有機溶剤として塩化メチレンとアセトンを加えてさらに混合し、誘電体スラリーとした。得られた誘電体スラリーを、ドクターブレード法を用いて誘電体グリーンシートとした。
【0054】
内部電極材料として、卑金属のNi粉末(平均粒径:0.8μm )を用意し、これに有機バインダーとしてエチルセルロースと、有機溶剤としてターピネオールを加え、3本ロールを用いて混練し、内部電極用ペーストとした。また、抵抗体ペースト用原料として、ZnO(平均粒径:0.5μm )を用意し、これにガラスフリットとしてSiO2 42wt%、B2O3 17wt%、Al2O3 6wt%、CaO10wt%、ZnO 3wt%、BaO22wt%と、有機バインダーとしてエチルセルロースと、有機溶剤としてターピネオールを加え、これらを3本ロールを用いて混練し、抵抗体ペーストを得た。
【0055】
所定の厚みを得るためにグリーンシートを数枚積層し、その上にスクリーン印刷法により内部電極用ペーストの端部が誘電体層用ペーストの端部から交互に外部に露出するように印刷されたグリーンシートを所定枚数積層し、最後に内部電極の印刷されていないグリーンシートを所定枚数積層し、熱圧着し、チップ形状が、焼成後に縦×横×厚みが3.2×1.6×1.0mmとなるように切断し、グーリーンチップを得た。
【0056】
得られたグリーンチップを、空気中に80℃で30分間放置して乾燥した。次いで、加湿したN2 +H2 (H2 3%)還元雰囲気中、1300℃にて3時間保持して焼成し、さらに、加湿したN2 酸素分圧10-7気圧の雰囲気にて1000℃に2時間保持し、チップ体を得た。得られたチップ体の端部にCu端子電極用ペーストを塗布し、N2 +H2 (H2 4%)還元雰囲気中、770℃で10分間保持して焼成し、端子電極を形成した。
【0057】
次いで、下記組成の電解浴中に0.5時間浸漬しニッケル−リン合金(P=12wt%)からなる第2の電極層を5μm 双方の電極に形成した。
硫酸ニッケル 25g/リットル
乳酸 30g/リットル
プロピオン酸 2.6g/リットル
次亜リン酸ナトリウム 25g/リットル
【0058】
このときのpHは4.5で、温度は90℃であった。さらに、スズ−鉛合金メッキを3μm 形成し、CR複合電子部品を得た。得られたサンプルの静電容量は1μFであった。
【0059】
同様にして、第2の電極層にリンを含有しないサンプルを作製し、それぞれのサンプルについて周波数−インピーダンス特性を測定した。得られた結果を図2に示す。
【0060】
図から明らかなように、第2の電極層にニッケルとリンとの合金を用いることにより、インピーダンスが上昇し、等価直列抵抗が増加することがわかる。
【0061】
<実施例2>
実施例1において、外形を3225形状とし、第2の電極層の膜厚を5μm とした他は実施例1と同様にしてCR複合電子部品を作製した。得られた、CR複合電子部品の容量を測定したところ10μFであった。また、6MHzでのインピーダンスを測定したところ20 mΩであった。このCR複合電子部品を、DC−DCコンバータのバイパスコンデンサとして用い、スイッチング周波数を100kHz〜40MHzに変化させて動作させたところ、発振等による入力電圧の電圧変動現象を生じることなく正常に動作することが確認された。
【0062】
<実施例3>
実施例1において、第2の電極層に副成分としてさらにB,Si,V,Fe,Co,Zn,Mo,Sn,TeおよびWをそれぞれ3wt%ずつ添加したサンプルを用いた以外は実施例1と同様にしてCR複合電子部品を作製したところ、ほぼ同様の結果を得た。
【0063】
<実施例4>
実施例1と同様にして得たサンプルと、第1の電極層をニッケルとし、これを加熱処理にて酸化し、さらにニッケルメッキを施した比較サンプルをそれぞれ100サンプル用意した。各サンプルにリード線を接続し、以下の条件でリード線の接着強度試験を行った。
【0064】
すなわち、リード線の両端を上下に固定し、リードの一端を上方に引っ張り、リード線が剥離したサンプルの強度値を調べた。
【0065】
その結果、比較のサンプルは、0.5kgで破壊されたサンプルが100/100個であるのに対し、本発明のサンプルは0/100個であった。さらに、全てのサンプルで2kg以上の強度が得られ、本発明のサンプルがリード線の接着性に優れていることがわかった。
【0066】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、特別な焼成条件を必要とせず、通常の積層セラミックコンデンサと同一条件での焼成が可能であり、製造工程も簡単で、生産コストも安く、CRまたは(L/C)R直列回路が簡単に得られ、抵抗値の制御も容易であり、リード線の接着強度も強固なCR複合電子部品およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のCR複合電子部品の基本構成を示す断面概略図で、両方の端子電極に第2の電極層を形成した例である。
【図2】第2の電極層にニッケルとリンとの合金を用いたサンプルと、ニッケルのみのサンプルの周波数−インピーダンス特性を示したグラフである。
【符号の説明】
2 誘電体層
3 内部電極
4 第1の電極層
5 第2の電極層
6 第3の電極層
Claims (8)
- 誘電体層と内部電極とが交互に積層されており、
前記内部電極と、CR複合電子部品の端部に形成された第1の電極層とが接続され、
前記第1の電極層の少なくとも一方の端子側に第2の電極層と第3の電極層とを有し、
前記内部電極層は前記第1〜第3の電極層を介して外部と接続され、
前記第2の電極層が、無電解メッキにより形成され、
前記第2の電極層がニッケルとリンを含有し、リンをP換算で8〜15 wt %含有しており、
前記第2の電極層の厚みを変化させることにより前記第2の電極層の直流等価抵抗を10〜100mΩの範囲に制御するCR複合電子部品。 - さらに副成分としてB,Si,V,Fe,Co,Zn,Mo,Sn,TeおよびWの1種以上を総計0.01〜10wt%含有する請求項1のCR複合電子部品。
- 前記第1の電極層が銅またはニッケル、あるいはこれらの合金を有する請求項1または2のCR複合電子部品。
- 前記第3の電極層はスズまたはスズ−鉛合金を有する請求項1〜3のいずれかのCR電子複合部品。
- 等価回路がCRまたは(LC)R直列回路を含む請求項1〜4のいずれかのCR複合電子部品。
- 内部電極がニッケルを含有する請求項1〜5のいずれかのCR複合電子部品。
- 請求項1〜6のいずれかのCR複合電子部品を製造する方法であって、
誘電体層と内部電極層とを交互に積層してグリーンチップを形成し、
これを焼成してチップ体とし、
このチップ体に前記第1の電極層を還元性雰囲気で形成した後、
少なくとも一方の前記第1の電極層に無電解メッキで前記第2の電極層を、その直流等価抵抗が10〜100mΩの範囲となるように形成し、
さらに前記第2の電極層に前記第3の電極層を形成するCR複合電子部品の製造方法。 - 前記内部電極層がニッケルを含有する請求項7のCR複合電子部品の製造方法。
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