JP3794797B2 - 射出成形同時絵付装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、射出成形と同時に型内で図柄や文字等が施された絵付シートを射出樹脂成形品の表面に一体的に接着して加飾成形品(製品)を得るようにした射出成形同時絵付装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
射出成形と同時に射出成形樹脂成形品の表面に絵付シートを一体的に接着する射出成形同時絵付方法としては、従来より幾つもの態様が提案されているが、それらの大半は、次の(a)〜(i)の工程の全部又は幾つかを記述順に又はその順番を入れ換えて、順次、又は複数の工程を同時に重複してもしくは並列的に行うようにされている(特公昭50−19132号、実公平3−56344号、特公平7−41637号公報等を参照)。
【0003】
(a)絵付シートを射出成形に用いられる雌型のパーティング面上に供給するシート供給工程。
(b)絵付シートを雌型のパーティング面に固定保持するクランプ工程。
(c)絵付シートを熱盤等により加熱軟化させる加熱軟化工程。
(d)絵付シートを真空吸引及び/又は圧空供給等により雌型のキャビティに沿わせるように延伸させる延伸工程(予備成形工程)。
(e)雌型と雄型の一方(通常は雌型)を他方(通常は雄型)側へ移動させて型締めを行う型締め工程。
【0004】
(f)雌型と雄型との間に形成されるキャビティ内に雄型側から流動状態の樹脂(熔融樹脂)を注入充填して射出成形を行う射出成形工程。
(g)雌型と雄型とを離間させる型開き工程。
(h)絵付シートのうちの射出成形品に接着付随させるべき部分を他の部分(不要部分)から切り離すトリミング工程。
(i)絵付シートが接着された射出成形品を雄雌両成形型から取り出す取出工程。
【0005】
なお、複数の工程を同時に重複して行うとは、複数の工程が一工程に含まれることをいい、例えば、前記(e)の型締め工程において絵付シートを雌型と雄型との間に挟んで固定保持するようになせば、該型締め工程と同時に重複して前記(b)のクランプ工程が行われたことになり、また、前記(f)の射出成形工程において絵付シートを射出された熔融樹脂の熱と圧力により延伸させるようになせば、該射出成形工程と同時に重複して前記(d)の延伸工程が行われたことになる場合をいう。
【0006】
また、絵付シートとしては、製品種別に応じて貼合わせ積層シート(ラミネートシート)と転写シートのいずれかが用いられ、ラミネートシートである場合には、射出成形によりそのままで絵付けが行われたことになり、射出樹脂成形品の表面にシート全層が接着一体化して化粧層となる。それに対し、絵付シートが転写シートである場合には、射出樹脂成形品の表面に一体化した化粧シートのうちの支持体シートを剥離し、装飾層等の転写層のみを射出樹脂成形品側に残留させて化粧層となすことにより絵付けが完了する。
【0007】
ところで、射出成形同時絵付を行うにあたっては、前記(d)に記述した如くに、通常、予備成形工程として、雌型内部に形成された真空吸引孔等からなる真空吸引手段を通じて絵付シートを真空吸引することによって、該絵付シートを雌型のキャビティに沿わせて密着させるように延伸させる延伸工程が必要とされるが、この延伸工程をより適切に行うべく、雌型のパーティング面におけるキャビティの周りに、該キャビティを部分的に又はその全周を囲むように絵付シートを真空吸引して固定するためのシート固定用吸引溝を形成するとともに、このシート固定用吸引溝に前記雌型内部に形成された真空吸引孔を開口させてなる射出成形同時絵付装置が提案されている(特開平4−197607号参照)。
【0008】
以下、かかる射出成形同時絵付装置を図4(雌型の概略平面図)及び図5(型締め・射出成形状態を示す概略横断面図)を参照して簡単に説明する。なお、ここでは、説明が煩瑣になるのを避けるため、概略構成のみを簡単に説明する。各部の詳細は、後述する図1〜図3に示される本発明の実施形態の装置10において対応する部分には同一の符号を付して詳細に説明しているのでそちらを参照されたい。
【0009】
図4、図5に示される従来例としての射出成形同時絵付装置50は、複数の分割部分の集合体で構成された入れ子構造の雌型12と、ランナー36及び2本のゲート37、37が設けられた雄型25とを備え、前記雌型12の段差付きのパーティング面14(14a、14b、14c、14d)におけるキャビティ13の周りに、該キャビティ13の全周を囲むように絵付シートSを真空吸引して固定するための環状のシート固定用吸引溝16が形成されており、このシート固定用吸引溝16に前記雌型12内部に形成された所定本の真空吸引孔17、17、…が所定のピッチ間隔をもって開口せしめられている。
【0010】
前記雌型12の分割型間には、雌型12のキャビティ13に開口するスリット状の隙間15が形成されており、この隙間15と、前記真空吸引孔17、17、…とは、前記雌型12に穿設された真空吸引通路18及び導管19を介して外部の真空ポンプに接続されている。
【0011】
また、前記雌型12には、絵付シートSを雌型12のパーティング面14の上段部分14aに押圧固定するための矩形枠状のクランパー20が付設されている。このクランパー20は、雌型12の四隅近くに設けられた貫通穴に摺動自在に嵌挿された4本の連結ロッド23によって図示していない駆動機構により雌型12のパーティング面14の上段部分14aに対して垂直方向に進退動できるようになっている。なお、前記雄型25には、図5に示される型締め状態において前記クランパー20を収容し得る溝状凹部29が穿設されている。
【0012】
さらに、前記雌型12のパーティング面14の上段部分14aには、前記キャビティ13を囲むように、Oリング22が装着されている。このOリング22は、前記枠状のクランパー20が、間に絵付シートSを挟んで雌型12のパーティング面14の上段部分14aに押し付けられた際、前記キャビティ12と外部とを気密的に遮断する役目を果たす。
【0013】
このような構成とされた射出成形同時絵付装置50においては、射出成形同時絵付が例えば次のようして行われる。
まず、雌型12のパーティング面14上に絵付シートSを供給するシート供給工程が行われ、続いて、前記クランパー20による絵付シートSを雌型12のパーティング面14の上段部分14aに押圧して固定保持するクランプ工程が行われる。
【0014】
次に、クランパー20によって固定保持されている絵付シートSに熱盤を接近させてそれを加熱軟化させる加熱軟化工程が行われるとともに、前記絵付シートSを前記真空吸引孔17、17及びシート固定用吸引溝16並びに前記スリット状の隙間15から真空吸引通路18及び導管19を通じて真空吸引することにより、前記雌型12のキャビティ13に沿わせて密着させるように延伸させる延伸工程が行われる。
【0015】
この延伸工程においては、まず、絵付シートSのうちの成形品(P)に接着される中央部分(キャビティ13に沿うように密着せしめられる部分)の外周側の部分が、前記シート固定用吸引溝16内に引き込まれ、これにより、絵付シートSに適度のテンションが付与されるとともに、該絵付シートSがシート固定用吸引溝16部分でしっかりと固定され、続いて、絵付シートSのうちの前記中央部分がさらに延伸せしめられてキャビティ13内に引き込まれ、最終的には前記キャビティ13に沿うように密着せしめられることになる。
【0016】
このようにして延伸工程が行われた後は、前記雌型12を雄型25側へ移動させて型締めを行う型締め工程が行われ、図5に示される如くに、雌型12のパーティング面14(14a〜14d)と雄型25のパーティング面34(34a〜34d)とが間に絵付シートSを挟んで対接せしめられる。これにより、雌型12と雄型25との間に、それらのキャビティ13と33とからなる、得るべき成形品(P)に対応した成形キャビティ3が形成され、その後は、前記成形キャビティ3内に前記雄型25のランナー36及びゲート37、37(図示の都合上、図4において、雌型上のゲート37、37に対向する位置に点線でゲートの位置を図示してあるが、ゲート37、37自体は雄型25に穿設してある)を通じて熔融樹脂が所定の射出圧をもって注入充填される射出成形工程が行われ、さらに、前記成形キャビティ3内の樹脂が硬化した後、雌型12と雄型25とを離間させる型開き工程、前記絵付シートSが接着された射出成形品(P)を前記雌型12もしくは雄型25から取り出す取出工程等が行われる。
【0017】
上記のように、雌型12のパーティング面14にシート固定用吸引溝16を形成してなる射出成形同時絵付装置50においては、前記延伸工程初期において、絵付シートSはその外周部分が前記シート固定用吸引溝16内に引き込まれて固定保持され、その後に、中央部分が前記キャビティ13に沿うように延伸せしめられてそれに密着するようにされるので、絵付シートSをキャビティ部分のみで真空吸引するようにしたものに比して、絵付シートに皺、剥離、破れ等を生じ難くできる。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した如くのシート固定用吸引溝16が設けられた従来の射出成形同時絵付装置50においては、以下に述べる如くの問題が生じることがあった。
【0019】
すなわち、成形圧(射出圧等)や成形温度等の成形条件如何によっては、絵付シートSが部分的に熔融したり破断してしまい、射出成形工程において、成形キャビティ3内に射出された樹脂がバリとなって前記熔融破断箇所(例えば図5においてXで示されている部分)から絵付シートSの表面側(反成形品P側)へ漏れ出、真空吸引孔17、17、…及びシート固定用吸引溝16を通じた吸引力の方がスリット状の隙間15を通じた吸引力より強いことから、漏れ出た樹脂バリが絵付シートSとパーティング面14との間を通じて前記シート固定用吸引溝16側に引っ張られて、前記シート固定用吸引溝16内に流れ込み、この樹脂バリZpにより、前記シート固定用吸引溝16に開口している真空吸引孔17、17、…が詰まってしまうことがあった。その他にも、絵付シートSと雄型パーティング面34b、34dとの間隙から熔融樹脂が漏洩して樹脂バリとなる場合もあった。その場合にも、真空吸引孔17からの吸引により絵付シートSを熔断し貫通して真空吸引孔17を目詰まりさせることが起こった。
【0020】
前記樹脂バリZpにより真空吸引孔17、17、…が詰まると、その後の成形時において真空吸引工程(延伸工程)に支障を来すことになるので、その詰まった樹脂バリZpを取り除く必要があるが、取り除くには、雌型をおろして分解清掃を行わねばならず、面倒であった。
【0021】
上記のような樹脂バリに起因する問題は、通常の量産時(連続成形時)にも成形条件如何によっては発生する場合があるが、特に、装置のテスト時や量産条件出し等のための特殊運転時において、射出圧を通常の量産時よりも高く設定した場合に生じやすい。また、前記テスト時等においては、限界性能等を割り出すべく、積極的に前記樹脂バリを発生させる場合もある。
【0022】
より詳細には、前記テスト時等において、射出圧を上げ過ぎると、本来は流れ込まないはずの雌型パーティング面14の押し切り部分から樹脂バリが外周側に流れ出して前記シート固定用吸引溝16から真空吸引孔17内に進入してそれを詰まらせてしまうのである。前記樹脂バリは、特に2本のゲート37、37に近い側でそれらのゲート37、37から射出された樹脂が合流するウエルド部分(図示例では縦(上下)方向中央部分)あたりで発生しやすい。
【0023】
上記テスト時等の特殊運転時であっても、樹脂バリにより真空吸引孔が詰まると、適正な測定値や運転情報が得られなくなるだけでなく、前記のように面倒な分解清掃が必要となり、試験、研究が滞ってしまう。
【0024】
本発明は、上述の如くの問題を解消すべくなされたもので、その目的とするところは、射出成形工程において樹脂バリが発生しても、シート固定用吸引溝に開口せしめられた真空吸引孔を詰まらせることがないようにされ、もって、面倒な分解清掃を行わないで済むようにされた射出成形同時絵付装置を提供することにある。
【0025】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成すべく、本発明に係る射出成形同時絵付装置は、雌型と雄型とを備え、前記雌型のパーティング面におけるキャビティの周りに、該キャビティを部分的に又はその全周を囲むように絵付シートを真空吸引して固定するためのシート固定用吸引溝が形成されるとともに、このシート固定用吸引溝に前記雌型内部に形成された真空吸引孔が開口せしめられ、かつ、前記キャビティと前記シート固定用吸引溝との間の所定部位に、それらからは独立して一つないし複数のバリ留め用溝が形成されていることを特徴としている。
【0027】
本発明装置のシート固定用吸引溝は、雌型のキャビティの全周を囲む1本の連続する環状溝であってもよいし、所要の部位のみに位置する断続溝であってもよい。後者の場合、シート固定用吸引溝を、キャビティの四隅等、絵付シートが強く引っ張られやすい部位に形成することが好ましい。
【0028】
シート固定用吸引溝の平面視形状は、矩形や直線状に限られず、キャビティ形状やその他の条件に応じて、凹凸を付けたり、円弧状、曲線状等にすることができる。シート固定用吸引溝に平面視で凹凸や波形等を付けることにより、その全長を長くすることができ、その凹凸や波形等を付けた部位でのシート固定保持力を増大させることができる。
【0029】
また、シート固定用吸引溝の幅は、そこに絵付シートを充分に引き込むことができるように、絵付シートの厚さの4倍以上であることが好ましく、その深さは、引き込まれた絵付シートをしっかりと固定でき、かつ、それが破けてしまうほどには引き込まれない深さであればよく、絵付シートの厚みの200倍以下が好ましい。
【0030】
一方、前記バリ留め用溝は、雌型のキャビティと前記シート固定用吸引溝との間、言い換えれば、雌型のパーティング面における前記シート固定用吸引溝よりキャビティ側(内周側)に位置する部位に形成することが要求され、前記シート固定用吸引溝と同様に、雌型のキャビティを囲む1本の連続する環状溝であってもよいし、所要の部位のみに位置する断続溝であってもよいが、特に樹脂バリが発生しやすい、例えば、ゲートに近い側で2本のゲートから射出された流動状態の樹脂が合流するウエルド部分あたりに形成すれば足りる。
【0031】
また、バリ留め用溝は、樹脂バリが前記シート固定用吸引溝に流れ込まないように、そこで留めておける幅及び深さがあればよいが、好ましくは、前記シート固定用吸引溝と深さは同程度ないしそれ以下でその幅は前記シート固定用吸引溝と同程度ないしそれ以上とすることが好ましい。また、バリ留め用溝の横断面形状は任意であるが、捕捉した樹脂バリを除去し易いように、カドが丸い滑らかな形状、例えば、断面形状が半円、U字形状等の形状の方が好ましい。
【0032】
このような構成とされた本発明の射出成形同時絵付装置にあっては、絵付シートが部分的に熔融したり破断し、射出成形工程において、成形キャビティ内に射出された流動状態の樹脂がバリとなって前記熔融破断箇所から絵付シートとパーティング面との間に漏れ出ても、この樹脂バリはシート固定用吸引溝に達する前にバリ留め用溝内に入り込んでそこで留められる。このため、従来構造の雌型にバリ留め用溝を付加しただけという簡単な構成でありながら、樹脂バリでシート固定用吸引溝に開口する真空吸引孔が詰まってしまうという不具合を確実に防止でき、その結果、前記樹脂バリを取り除くべく雌型をおろして分解清掃する等の面倒な作業をしなくて済む。
【0033】
本発明において、雄雌両成形型は、鉄等の金属あるいはセラミックス等で作製され、それらに必要に応じて、真空吸引や圧空供給用に小孔(真空吸引孔等)を設ける。この場合、前記真空吸引孔の全部を前記シート固定用吸引溝に開口させてもよいし、その一部を前記シート固定用吸引溝に開口させ、残りを雌型のキャビティに開口させるようにしてもよい。
また、雌型を複数の分割部分の集合体で構成(いわゆる入れ子構造に)し、隣合う分割部分間にスリット状の隙間を形成してこの隙間を真空吸引孔として用いて真空吸引を行うようにしてもよい。
【0034】
絵付シートは、ロール状に巻き取られた長尺の連続帯状シートの状態から必要量ずつ(1ショット分ずつ)供給するようにしてもよいし、予め所定寸法に裁断した枚葉シートを供給するようにしてもよい。また、帯状シート(の次ショット部分)もしくは枚葉シートからなる絵付シートを対向配置された雌型と雄型との間に供給するには、巻き出し機及び巻き取り機を用いて帯状シートを連続して1ショット分ずつ供給するようにしたロール/ロール方式でもよいし、前記枚葉絵付シートを保持する吸着盤等を備えたロボット(マニュピュレーター)等で搬送する方式でもよいが、生産性の面からはロール/ロール方式が推奨される。
【0035】
また、絵付シートを雌型パーティング面に固定保持すべくクランプ手段を付設する。クランプ手段としては、枠状の押さえ板等を用いることができ、その駆動は、型締め動作等の成形用駆動力を用いたり、エジェクターピン駆動機構の動力を利用したりすることができる他、別途に流体圧アクチュエーター等の駆動手段を設けることによりなされる。
【0036】
絵付シートは、基材シートとその上に積層された装飾層からなり、基材シートを成形品と密着一体化させたまま最終製品として使用する貼り合わせ積層シート(ラミネートシート)、あるいは一旦絵付シートと成形品とを一体化させた後、装飾層(転写層)のみを成形品側に残して基材シート(支持体シート)を剥離する転写シートのいずれも使用することができる。
【0037】
前記貼合わせ積層シートの場合、基材シートとしては、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を用いることができる。基材シートの厚さは、通常20〜500μm程度である。装飾層としては、印刷絵柄、着色又は透明塗装、金属薄膜、あるいは、硬質塗膜、防曇塗料、導電性層等の機能性層等を用いることができる。
【0038】
前記転写シートの場合は、一旦剥離性の支持体シート上に形成した絵柄層等よりなる転写層を、別の被転写体に転移させるためのもので、支持体シート上には必要に応じて離型層を設けても良く、転写層としては、剥離層、装飾層、接着剤層、等からなり、装飾層以外の層は必要に応じて選択する。装飾層としては、絵柄層、金属薄膜層(部分又は全面)あるいは硬質塗膜、防曇塗膜、導電性層等の機能性層から選ばれる。
支持体シートは、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等、可撓性を有する熱可塑性樹脂フィルムあるいはそれらの積層体が好ましい。
【0039】
射出成形用の樹脂としては、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)樹脂、ポリスチレン、塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を加熱熔融して液状ないし流動状態となったもの、あるいは、二液硬化型、触媒硬化型の樹脂、例えば、ポリウレタン、ポリエステル等の未硬化液等の射出成形同時絵付用として従来より知られている材料を使用でき、製品の要求物性やコスト等に応じて選定される。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る射出成形同時絵付装置の一実施形態における雌型を示す斜視図、図2は前記雌型の平面図、図3は前記雌型と雄型との型締め・射出成形状態における図2のA−A矢視線に従う断面図(縦方向中央断面図)である。
【0041】
図示の実施形態の射出成形同時絵付装置10により得るべき成形品Pは、平面視(図2)では台形状で、横断面(図3)が長辺部Paと短辺部PbとからなるL字状のパネルであり、縦長が約300mm、横幅(前記長辺部Paの長さが約50mm、深さ方向の長さ(前記短辺部Pbの高さ)が約20mm、厚みが約5〜10mm程度となっている。
【0042】
本実施形態の射出成形同時絵付装置10は、得るべき成形品Pに対応した凹凸形状の雌型12と雄型25とを備え、雌型12は、図示はされていないが、その底部が可動盤に固定されていて、流体圧シリンダのラム等により水平方向、言い換えれば、雄型25に対して接近−離隔する方向に進退動するようされている。
【0043】
なお、本実施形態では、上記のように雌型12が可動型とされていて水平方向に移動するようにされているが、これに限定される訳ではなく、例えば、雄型、雌型を上下に対向配置してそれらの一方を鉛直方向に移動させる等の形態を採用することもできる。
【0044】
前記雌型12は、ここでは複数の分割型からなる入れ子構造のものが採用されており、この雌型12には、前記成形品Pに対応するキャビティ13が形成されるとともに、このキャビティ13の外周側に段付きのパーティング面14が形成されている。このパーティング面14は、最も外周に位置する上段部分14a、それより内周側の中段部分14b、この中段部分1bに連なる上下の傾斜部分14c(図1、図2)、及び、前記傾斜部分14cに連なる下段部分14dとからなっており、該段付きのパーティング面14のうちの中段部分14b、上下の傾斜部分14c、及び下段部分14dにおけるキャビティ13の周りに、該キャビティ13を囲むように絵付シートSを真空吸引するための、平面視で凹凸付きの環状の連続した断面矩形のシート固定用吸引溝16が形成されるとともに、このシート固定用吸引溝16に所定本の真空吸引孔17が所定のピッチで開口せしめられている。
【0045】
なお、前記シート固定用吸引溝16において、平面視(図2)で右側辺部の全体にわたってに凹凸(蛇行)が付けられ、また、平面視で左側辺部の中央あたりに凸部が付けられている理由の一つは、右側が深くなっている(成形品Pの深さ方向に伸びる短辺部Pbが位置している)こと、及び、縦方向中央部(左右とも)は絵付シートが強く引っ張られやすいから、その部分は溝長を長くしてシート吸引保持力を増すためである。他の理由は、後述するように、バリ留め用溝41〜46を形成するためのスペースを確保するためである。
【0046】
そして、前記キャビティ13と前記シート固定用吸引溝16との間、言い換えれば、雌型12のパーティング面14(14b、14d)における前記シート固定用吸引溝16よりキャビティ13側(内周側)に位置する部位に、バリ留め用溝41〜46が形成されている。
【0047】
より詳細には、平面視で前記シート固定用吸引溝16の右側辺部の上部の凸部内周側に比較的短めのバリ留め用溝41、42が形成され、前記右側辺部の中央部の凸部内周側に比較的長めのバリ留め用溝43が形成され、前記右側辺部の下部の凸部内周側に比較的短めのバリ留め用溝44、45が形成され、前記シート固定用吸引溝16の左辺側部の中央部の凸部内周側に比較的長めのバリ留め用溝46が形成されている。
【0048】
上記のように、キャビティ13の右側に断続的に5つのバリ留め用溝41〜45を形成し、左側中央部にバリ留め用溝46を形成しているのは、後述する雄型25に設けられている樹脂射出用の2本のゲート37、37が前記キャビティ13の右側部近くに位置しており(但し、図示の都合上、図2において雌型キャビティ13の雄型ゲート37、37との対向位置に破線でゲート37、37の位置を図示した)、このゲート37、37から射出された熔融樹脂が合流するウエルド部分となるのが縦方向中央部であり、前記ゲート37、37に近い側でその2本のゲート37、37から射出された熔融樹脂が合流するウエルド部分あたりに樹脂バリが発生しやすいからである。
【0049】
なお、本実施形態においては、前記シート固定用吸引溝16は、雌型12のキャビティ13から最も近い所(凹部)で3〜5mm、最も遠い所(凸部)で10〜12mm離隔しており、その幅は約3mm、その深さも約3mmとなっている。
また、前記バリ留め用溝41〜46は、雌型12のキャビティ13から2〜3mm離隔しており、その幅は約5mm、その深さは約3mm、その長さは最も短いものが約10〜20mm、最も長いものが40〜50mmとなっている。また、その横断面形状はU字形とした。
【0050】
一方、前記雌型12における、図3において右側の分割型間には、真空吸引孔として働くスリット状の隙間15が形成されている。このスリット状の隙間15は、前記キャビティ13の隅角部(得るべき成形品Pの長辺部Paと短辺部Pbとの交点部)を形成する角丸(アール)部分とそれに続く前記短辺Pb側の平面部分との境目部分に開口せしめられている。なお、スリット状の隙間15を前記境目部分に開口させているのは、前記境目部分が、真空吸引孔として用いられる前記隙間15が存在することによって成形品Pに残される線条の痕跡が最も目立たない箇所であるとの理由による。
【0051】
前記真空吸引孔17と前記スリット状の隙間15とは、前記雌型12内部に穿設された真空吸引通路18及び導管19を介して外部の真空ポンプに接続されており、本実施形態では、前記真空吸引孔17、前記シート固定用吸引溝16、前記スリット状の隙間15、前記真空吸引通路18、前記導管19、及び外部の真空ポンプ等で真空吸引手段が構成されている。
【0052】
さらに、前記雌型12のパーティング面14の上段部分14aには、前記キャビティ13の全周を囲むように、Oリング22が装着されている。このOリング22は、後述する枠状のクランパー20が、間に絵付シートSを挟んで雌型12のパーティング面14の上段部分14aに押し付けられた際、前記キャビティ12と外部とを気密的に遮断する役目を果たす。
【0053】
一方、前記雄型25は、図示はされていないが、射出成形機のノズルが装着される固定盤に固定されており、この雄型25には、前記成形品P形状に対応したキャビティ33が形成されるとともに、このキャビティ33の外周側にパーティング面34(34a〜34d)が形成され、その内部には、前記射出成形機のノズルからの熔融樹脂を前記雌型12と雄型25との間に形成される、前記雌型12のキャビティ13と雄型のキャビティ33とからなる成形キャビティ3内に注入充填するためのランナー36及びそれに連なる2本のゲート37、37が設けられている。前記ゲート37、37は、前記成形キャビティ3の右側部(成形品Pの短辺部Pa)近傍でその上部と下部に位置している。
【0054】
なお、上記雄型25のパーティング面34は、雌型12のそれと相補関係となるように、最も外周に位置する下段部分34a、それより内周側の中段部分34b、この中段部分34bに連なる上下の傾斜部分(図示省略)、及び、前記傾斜部分に連なる上段部分34dとからなっており、間に絵付シートSを挟んで前記雌型12のパーティング面14(14a〜14d)に対接するようになっている。
【0055】
また、前記雌型12には、絵付シートSをそのパーティング面14に押圧固定するための矩形枠状のクランパー20が付設されている。このクランパー20は、雌型12の四隅近くに設けられた貫通穴に摺動自在に嵌挿された4本の連結ロッド23によって図示していない駆動機構により雌型12のパーティング面14の上段部分14aに対して垂直方向に進退動できるようになっている。なお、前記雄型25には、図3に示される如くの型締め状態において前記クランパー20が絵付シートSに対する押圧固定状態を解除する離間動作を行い得る深さを持った溝状凹部29が穿設されている。
【0056】
なお、前記絵付シートSとして、ここでは、アクリル樹脂製の基材シート(厚みは125μm)と、その上にグラビア印刷法により積層された装飾層(アクリル樹脂と塩化ビニル酢酸ビニル共重合体の1:1重量比混合物)と、接着剤層(塩化ビニル酢酸ビニル共重合体系)とからなり、基材シートを成形品(射出樹脂成形物)と密着一体化させたまま最終製品として使用する貼り合わせ積層シート(ラミネートシート)を用いている。前記装飾層(絵柄層)は、柄版を3色組み合わせた木目模様となっており、また、前記接着剤層は、スクリーン線数40線/cmのグラビアベタ印刷版(版深60μm)を2度用いて(グラビア印刷2色刷して)形成した厚みが2μmの層である。
【0057】
上記のような構成とされた本実施形態の射出成形同時絵付装置10においては、以下の工程順で射出成形同時絵付を行う。
まず、前記絵付シートSが搬送チャックを含むシート搬送機構(図示せず)により、雌型のパーティング面14上に供給され(シート供給工程)、前記クランパー20により前記雌型12のパーティング面14の上段部分14aに押圧固定される(クランプ工程)。
【0058】
続いて、面状の赤外線輻射方式の熱盤(図示せず)を前記クランパー20により押圧固定されている前記絵付シートS上に移動させて、この熱盤の輻射熱により前記絵付シートSを非接触状態で加熱軟化(そのときの熱盤輻射面の表面温度は330°C、加熱時間は3秒間)させる(加熱軟化工程)とともに、前記絵付シートSを前記真空吸引孔17、17及びシート固定用吸引溝16並びに前記スリット状の隙間15から真空吸引通路18及び導管19を通じて真空吸引(約5秒間)することにより、前記雌型12のキャビティ13に沿わせて密着させるように延伸させる延伸工程が行われる。
【0059】
この延伸工程においては、まず、絵付シートSのうちの成形品(P)に接着される中央部分(キャビティ13に沿うように密着せしめられる部分)の外周側の部分が、前記シート固定用吸引溝16内に引き込まれ、これにより、絵付シートSに適度のテンションが付与されるとともに、該絵付シートSがシート固定用吸引溝16部分でしっかりと固定され、続いて、絵付シートSのうちの前記中央部分がさらに延伸せしめられてキャビティ13内に引き込まれ、最終的には前記キャビティ13に沿うように密着せしめられることになる。このように、延伸工程初期において、絵付シートSはその外周部分が前記シート固定用吸引溝16内に引き込まれて固定保持され、その後に、中央部分が前記キャビティ13に沿うように延伸せしめられてそれに密着するようにされることにより、絵付シートSをキャビティ部分のみで真空吸引するようにしたものに比して、絵付シートに皺、剥離、破れ、絵付シートの位置ずれ等を生じ難くできる。
【0060】
上記のようにして延伸工程が行われた後は、前記雌型12を雄型25側へ移動させて型締めを行う型締め工程が行われ、図3に示される如くに、雌型12のパーティング面14(14a〜14d)と雄型25のパーティング面34(34a〜34d)とが間に絵付シートSを挟んで対接せしめられる。これにより、雌型12と雄型25との間に、それらのキャビティ13と33とからなる、得るべき成形品(P)に対応した成形キャビティ3が形成され、その後は、前記成形キャビティ3内に前記雄型25のランナー36及びゲート37、37を通じて熔融樹脂(耐熱ABS、樹脂温度240°C、型温度60°C)が所定の射出圧をもって注入充填される射出成形工程が行われ、さらに、前記成形キャビティ3内の樹脂が硬化した後、雌型12と雄型25とを離間させる型開き工程、前記絵付シートSが接着された射出成形品(P)を前記雌型12もしくは雄型25から取り出す取出工程等が行われる。
【0061】
上述の如くの構成とされた本実施形態の射出成形同時絵付装置においては、例えば、図5においてXで示される部分で絵付シートSが部分的に熔融したり破断し、前記射出成形工程において、成形キャビティ3内にゲート37、37から射出された熔融樹脂がバリとなって前記熔融破断箇所Xから絵付シートSとパーティング面14(14b、14d)との間に漏れ出、真空吸引孔17、17、…及びシート固定用吸引溝16を通じた吸引力の方がスリット状の隙間15を通じた吸引力より強いことから、漏れ出た樹脂バリZpが絵付シートSとパーティング面14(14b、14d)との間を通じて前記シート固定用吸引溝16側に引っ張られても、この樹脂バリZpはシート固定用吸引溝16に達する前にバリ留め用溝41〜46内に入り込んでそこで留められる。このため、従来構造の雌型にバリ留め用溝41〜46を付加しただけという簡単な構成でありながら、樹脂バリでシート固定用吸引溝に開口する真空吸引孔が詰まってしまうという不具合を確実に防止でき、その結果、前記樹脂バリを取り除くべく雌型をおろして分解清掃する等の面倒な作業をしなくて済む。
【0062】
実際、射出圧を通常の量産時よりも高くして樹脂バリを発生させる比較試験を行ったところ、本実施形態の射出成形同時絵付装置10では、上記の通り、樹脂バリが発生しても、前記シート固定用吸引溝16までは達せず、その手前のバリ留め用溝41〜46で留められて捕捉され、このバリ留め用溝41〜46で捕捉された樹脂バリは簡単に取り除くことができた。
【0063】
それに対し、前述した図4及び図5に示される、バリ留め用溝を有しない従来装置50では、樹脂バリがシート固定用吸引溝16に入り込んで、そこに開口している真空吸引孔17、17、…を詰まらせてしまい、面倒な分解清掃が必要であった。
【0064】
なお、上記の実施の形態の一例においては、予め絵付シートSを雌型キャビティ13表面に真空成形して密着せしめて(予備成形して)、しかる後、雌雄両型を閉じて熔融樹脂を射出する場合を例示した。しかし、本発明はかかる予備成形は行わず、両型を型閉めして射出を行い、射出樹脂の熱と圧力とによって絵付シートを雌雄キャビティ形状に成形する場にも適用することができる。
【0065】
【発明の効果】
以上の説明から理解されるように、本発明に係る射出成形同時絵付装置によれば、従来構造の雌型にバリ留め用溝を付加しただけという簡単な構成でありながら、成形キャビティ内に射出された流動状態の樹脂がバリとなって絵付シートとパーティング面との間に漏れ出ても、この樹脂バリはシート固定用吸引溝に達する前にバリ留め用溝内に入り込んでそこで留められるので、樹脂バリでシート固定用吸引溝に開口する真空吸引孔が詰まってしまうという不具合を確実に防止でき、その結果、前記樹脂バリを取り除くべく雌型をおろして分解清掃する等の面倒な作業をしなくて済むという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る射出成形同時絵付装置の一実施形態の雌型を示す概略斜視図。
【図2】図1に示される雌型の概略平面図。
【図3】本発明に係る射出成形同時絵付装置の一実施形態の型締め・射出成形状態における図2のA−A矢視線に従う断面図(縦方向中央断面図)。
【図4】従来の射出成形同時絵付装置の一例の雌型を示す概略平面図。
【図5】図4の射出成形同時絵付装置の一例の型締め・射出成形状態における図4のB−B矢視線に従う断面図(縦方向中央断面図)。
【符号の説明】
S 絵付シート
P 得るべき成形品
3 成形キャビティ
10 射出成形同時絵付装置
12 雌型
13 雌型のキャビティ
14 雌型のパーティング面
15 スリット状の隙間
16 シート固定用吸引溝
17 真空吸引孔
20 枠状のクランパー
25 雄型
33 雄型のキャビティ
34 雄型のパーティング面
41〜46 バリ留め用溝
Zp 樹脂バリ
Claims (1)
- 雌型と雄型とを備え、前記雌型のパーティング面におけるキャビティの周りに、該キャビティを部分的に又はその全周を囲むように絵付シートを真空吸引して固定するためのシート固定用吸引溝が形成されるとともに、このシート固定用吸引溝に前記雌型内部に形成された真空吸引孔が開口せしめられ、かつ、前記キャビティと前記シート固定用吸引溝との間の所定部位に、それらからは独立して一つないし複数のバリ留め用溝が形成されていることを特徴とする射出成形同時絵付装置。
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