JP3767669B2 - 難燃性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族系エポキシ樹脂等の分子中に芳香環を含む合成樹脂を主成分とする難燃性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
難燃性樹脂組成物は、例えば電気・電子機器部品、建材、自動車部品、日用品等の製品に多く使われている。これらの樹脂組成物は、一般的に、有機ハロゲン化合物又はこれと三酸化アンチモンとを添加することにより難燃性が付与されている。
【0003】
しかし、これらの難燃性樹脂組成物は燃焼時に有害なハロゲン系ガスを発生するという欠点があった。
【0004】
これに対して、有害ガスを発生しないシリコーン樹脂を添加することで難燃性が付与されることが知られている。
【0005】
特開昭54−36365号公報には三官能性シロキサン単位を80重量%以上含有するシリコーン樹脂を添加する難燃性樹脂組成物が記載されている。しかし、有機樹脂については芳香族ポリカーボネート樹脂や芳香族系エポキシ樹脂については何ら記載されておらず、また有機樹脂との溶融加工性を重視して、実質的に架橋性官能基をほとんど含有しない、室温以上の軟化温度を示す比較的高分子量のシリコーン樹脂を使用しているため、難燃化効果が小さく、シリコーン樹脂を有機樹脂100重量部に対して10〜300重量部添加する必要があり、有機樹脂の特性を損なってしまうという問題があった。
【0006】
特表昭59−500099号、特開平4−226159号、特開平7−33971号公報には単官能性シロキサン単位と四官能性シロキサン単位からなるシリコーン樹脂を添加した難燃性樹脂組成物が、特開平6−128434号公報にはビニル基を持つシロキサン単位を含有するシリコーン樹脂を添加した難燃性樹脂組成物が記載されている。しかしながら、いずれの組成物においても十分な難燃効果を得るためにはシリコーン樹脂の添加量を多くしたり、水酸化アルミニウム等の無機充填材やハロゲン及びリン化合物を併用することが必要である。
【0007】
このように、シリコーン樹脂を添加する場合、添加量を多くしないと十分な難燃効果が得られないが、添加量を多くすると樹脂組成物の成型性や機械的強度等の諸物性が大幅に低下してしまうという課題があり、より難燃効果の大きいシリコーン樹脂添加剤、又はシリコーン樹脂と併用して効果を向上させられる添加剤の開発が検討されてきた。
【0008】
特開平8−176425号公報にはエポキシ基を含有するオルガノポリシロキサンと有機スルホン酸のアルカリ金属塩を添加した難燃性樹脂組成物が、特開平8−176427号公報にはフェノール性水酸基含有オルガノポリシロキサンで変性したポリカーボネート樹脂と有機アルカリ金属塩を添加した難燃性樹脂組成物が記載されている。また、特開平9−169914号公報には石油系重質油類又はピッチ類をシリコーン化合物と併用して難燃効果を向上させた組成物が記載されている。しかし、特殊な有機官能基を持ったシリコーン樹脂は高価であったり、製造工程が複雑化したりすることによるコストアップに見合うほどの十分な難燃化効果は得られず、更なる改善が望まれている。
【0009】
また、ポリカーボネート樹脂の耐熱酸化性の改良を目的に、比較的低コストで導入可能なアルコキシ官能基を持つシリコーン樹脂を添加すると効果的であることが知られている。特開昭54−102352号公報には下記に示すアルコキシ基を含有するシリコーン樹脂を添加する熱可塑性樹脂組成物が記載されている。アルコキシ基含有率が大きいシロキサンほどネットワークを形成するため耐熱酸化性が優れているが、前者はフェニル基を含有しないため難燃性が不十分であり、後者の含フェニル基低分子量オルガノシロキサンを添加した場合も、溶融加工時や燃焼時の熱で気化することによる有効成分の減少が激しく、難燃化効果は不十分であった。
【0010】
【化1】
【0011】
更に、特開平1−318069号公報には、アルコキシ基又は水酸基を有するシリコーン樹脂と熱可塑性重合体からなる粉末状重合体混合物が、特開平6−306265号公報には、アルコキシ基、ビニル基及びフェニル基を有する有機シロキサンを必須成分として含有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が記載されている。しかし、前者はやはりシリコーン樹脂単独では難燃性が不十分なため、ハロゲン及びリン化合物を併用することが必要であり、後者のものは実質的にアルコキシ基としてメトキシ基等の低級アルコキシ基を含有しており、加水分解反応性が高すぎるため、アルコールを生成させて樹脂組成物の透明性を損なってしまうという問題がある。
【0012】
また、近年においては各種プラスチック材料のリサイクル使用に対する要求が高まっているが、上述したアルコキシ基、水酸基あるいはエポキシ基等の反応性基を有するシリコーン化合物は、樹脂組成物の成型時や成型後の使用経時において、シリコーン化合物同士あるいは樹脂組成物中の他成分との相互作用及び使用環境によって分子構造が変化するため、回収使用時の成型性が不良となり、リサイクル使用が不可能なものであった。
【0013】
一方、特開平10−139964号公報には、二官能性シロキサン単位と三官能性シロキサン単位からなり、重量平均分子量が10,000以上270,000以下であるシリコーン樹脂を添加した難燃性樹脂組成物が記載されている。末端基としてR’3SiO0.5で示される単官能性シロキサン単位を導入し、このR’のうち水酸基及び/又はアルコキシ基がモル比で10%未満であることが好ましいとされているが、分子中の水酸基及びアルコキシ基の含有量に関しては規定されておらず、また高分子量のシリコーン樹脂を使用しているため、成型性や難燃性において更に改良が必要とされていた。
【0014】
そこで、芳香族系ポリカーボネートやエポキシ樹脂等の分子中に芳香環を含む合成樹脂の物理的特性及び光学的透明性を維持しつつ、少量添加で難燃性に優れた樹脂成型品を得ることができ、リサイクル使用が可能な難燃性樹脂組成物が求められている。
【0015】
従って、本発明の第一の目的は、実質的に反応性基をもっていないオルガノポリシロキサンを添加して、リサイクル使用が可能で、火災発生時や焼却処分時に有害ガスを発生しない、安全で環境負荷の少ない難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【0016】
本発明の第二の目的は、特殊な有機官能基をもたず、安価なオルガノポリシロキサンの中から特定の構造をもつものを選択することで、少量の添加でも十分な難燃効果が得られる低コストの難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【0017】
本発明の第三の目的は、特定の構造のオルガノポリシロキサンを使用して、樹脂組成物の成型性、成型品の外観や光学的透明度及び機械的強度等の諸物性の低下がほとんどない難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、芳香族ポリカーボネート樹脂や芳香族系エポキシ樹脂等の分子中に芳香環を含む合成樹脂に、分子中にフェニル基をケイ素原子に結合する必須の置換基として含有すると共に、単官能性シロキサン単位を必須の単位として含有し、分子中のアルコキシ基の含有量及びSi−OH基としての水酸基の含有量をそれぞれ2重量%未満とした特定分子量のオルガノポリシロキサン化合物を少量添加することにより、難燃性、ドリップ防止性が付与され、また光学的透明性を確保することも可能であり、しかもリサイクル使用が可能であることを見出した。このものは、ハロゲン、リン、アンチモン等を含有しなくとも高い難燃性が得られるので、燃焼時に有害なガスを発生させないことも可能であり、更に上記オルガノポリシロキサンは少量の添加で難燃効果が得られるため、芳香族ポリカーボネート樹脂や芳香族系エポキシ樹脂等の分子中に芳香環を含む合成樹脂本来の性能を低下させないものであることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0019】
従って、本発明は、
(A)ポリスチレン樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、芳香族系エポキシ樹脂及び芳香族系ポリエステル樹脂から選ばれる分子中に芳香環を含む合成樹脂 100重量部、
(B)分子中にフェニル基をケイ素原子に結合する必須の置換基として含有し、
R1R2R3SiO1/2で表されるシロキサン単位を10〜75モル%、
R4R5SiO2/2で表されるシロキサン単位を0〜80モル%、
R6SiO3/2で表されるシロキサン単位を0〜80モル%、
SiO4/2で表されるシロキサン単位を0〜15モル%
(但し、R1,R2,R3,R4,R5,R6は互いに同一又は異種の炭素数1〜6の非置換又は置換1価炭化水素基である。)
含有し、残存アルコキシ基が炭素数3〜6の2級及び/又は3級のアルコキシ基であると共に、分子中のアルコキシ基及びSi−OH基としての水酸基の含有量がそれぞれ0重量%を超え2重量%未満であり、かつ重量平均分子量が2,000以下であるオルガノポリシロキサン 0.1〜10重量部
を含有してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物
を提供する。
【0020】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明で使用される(A)成分の分子中に芳香環を含む合成樹脂は、フェノール、スチレン、フタル酸などの芳香族化合物を原料として製造される樹脂であり、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、芳香族系エポキシ樹脂、芳香族系ポリエステル樹脂などが使用される。中でも芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族系エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0021】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、2価フェノールとホスゲン又は炭酸ジエステルの反応により製造されるものを用いることができる。2価フェノールとしては、ビスフェノール類が好ましく、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。また、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンの一部又は全部を他の2価フェノール化合物で置換してもよい。2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン以外の2価フェノール化合物は、例えば、ハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどの化合物である。これらの2価フェノールのホモポリマー又は2種以上のコポリマー、あるいはこれらのブレンド品であってもよい。
【0022】
芳香族系エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し、各種硬化剤により硬化可能な合成樹脂であり、従来から知られている種々のエポキシ樹脂を使用することができる。例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂等が挙げられる。特に、溶融粘度の低いビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂が好ましく、必要により他のエポキシ樹脂を併用することが好ましい。
【0023】
(B)成分のオルガノポリシロキサンは、分子中にフェニル基をケイ素原子に結合する必須の置換基として含有し、かつR1R2R3SiO1/2で表される単官能性シロキサン単位を含有するものを使用する。フェニル基は芳香環を含む合成樹脂への分散性、相溶性に影響を与え、樹脂組成物の難燃性、成型性及び透明性を向上させるために必要であり、R1R2R3SiO1/2で表される単官能性シロキサン単位はオルガノポリシロキサン分子の末端を封鎖し、反応性を有する水酸基及びアルコキシ基の含有量を低減化する目的で使用するものである。
【0024】
ここで、R1,R2,R3は同一又はそれぞれ異なるものであってもよい、炭素数1〜6の非置換又は置換1価炭化水素基より選択され、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などのアルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、フェニル基などが例示されるが、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0025】
このオルガノポリシロキサンは、樹脂組成物のリサイクル使用を可能とし、成型性、成型品の外観や透明性を低下させないためには、前述したように分子中の反応性基をできる限り少なくすることが重要であり、このため分子中のアルコキシ基の含有量及びSi−OH基としての水酸基の含有量をそれぞれ一定量以下とすることが必要となる。
【0026】
従って、本発明で使用するオルガノポリシロキサンは、分子中におけるアルコキシ基の含有量を2重量%未満のものとすることが必要である。このオルガノポリシロキサン中のアルコキシ基は、燃焼時のドリップを抑える効果があるものであるが、他方、耐湿性という観点においては、難燃性樹脂組成物が高湿度条件下におかれた場合に、吸湿水分によって加水分解反応してアルコールを発生させ、成型品の透明性を損なうおそれがあるし、その結果として生成するSi−OH基はリサイクル使用時の成型性に悪影響を与える。分子中のアルコキシ基含有量を2重量%未満として、上記の加水分解反応に寄与するアルコキシ基量を減少させることによって、耐湿性が大幅に向上し、透明性に優れた成型品を得ることができる。アルコキシ基の加水分解反応性及び難燃性の点からは、更に残存アルコキシ基をイソプロポキシ基、2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等から選択される炭素数3〜6の2級及び/又は3級のアルコキシ基とする。
【0027】
また、分子中におけるSi−OH基としての水酸基の含有量も、2重量%未満、好ましくは1重量%未満のものとすることが必要である。これは、水酸基の含有量が2重量%以上では、芳香環を含む合成樹脂と溶融混合する際に、Si−OH基間での縮合反応が起こりやすくなってオルガノポリシロキサンが高分子量化し、分散性が不良となって樹脂組成物の透明性、衝撃強度が低下すると共に、燃焼時の表面移行性が悪くなって難燃性が低下し、再加工時の成型性が不良となってリサイクル使用が不可能となるためであり、かかる点から水酸基含有量は1重量%以下とすることがより好ましい。
【0028】
なお、上記アルコキシ基、Si−OH基としての水酸基は少なければ少ない程よいが、製造上0にすることが難しいものである。
【0029】
このようにフェニル基を含有し、分子中のアルコキシ基含有量及びSi−OH基としての水酸基含有量を2重量%未満としたオルガノポリシロキサンは、本質的に非反応性のものであり、高耐熱性を有することから、350℃以下の温度範囲においてはほとんどその構造が変化しないため、リサイクル使用が可能な難燃性樹脂組成物とすることが可能である。また、これらのオルガノポリシロキサンは、いずれも燃焼時には有害なガスを発生させることがない。
【0030】
(B)成分のオルガノポリシロキサンの重量平均分子量は2,000以下であるが、小さすぎると低分子量体の含有率が高くなって、芳香環を含む合成樹脂と溶融混合する際に系外に揮発する成分が多くなり、難燃効果が発揮されないおそれがある。従って、かかる点から、410以上2,000以下とすることがよく、更には500以上2,000以下とすることが好ましい。
【0031】
このオルガノポリシロキサンは、残存の水酸基やアルコキシ基以外の反応性基をもっていないにも拘わらず、組成物全体の10重量%以下の少量添加で難燃性を付与できる。この組成物を燃焼させた場合、フェニル基を含有するオルガノポリシロキサンは、芳香環を含む合成樹脂との間で、各々がもつ芳香環相互のカップリングにより不燃性のSi−Cセラミック層を容易に形成し、高い難燃効果を発現すると考えられる。
【0032】
更に、オルガノポリシロキサンのフェニル基含有量は、樹脂組成物の成型性や成型品の透明性、機械的強度等にも大きく影響する。オルガノポリシロキサンのフェニル基含有量が高いほど、芳香環を含む合成樹脂への分散性及び相溶性が高くなり、成型性や透明性、機械的強度が良好となる。
【0033】
従って、上記した難燃化機構が有効に働くと共に、樹脂組成物の成型性や成型品の透明性、機械的強度等を良好なレベルとするためには、オルガノポリシロキサン分子のケイ素原子に結合する全有機置換基中でフェニル基の占める割合を重量換算で30〜90%とすることが好ましい。なお、本発明における上記のフェニル基含有量とは以下のように定義される。即ち、(B)成分のオルガノポリシロキサンが下記平均組成式(1)
(C6H5)mRnSi(OR’)p(OH)qO(4-m-n-p-q)/2 (1)
(式中、Rはフェニル基とアルコキシ基以外の有機置換基を表し、炭素数1〜6の非置換又は置換1価炭化水素基であり、R’は炭素数1〜6の1価炭化水素基を示す。)
で表されるものであるとき、下記式で示される(なお、MWは各置換基の分子量を示す)。
フェニル基含有量(重量%)=
{MW(C6H5)×m×100}
/{MW(C6H5)×m+MW(R)×n+MW(R’)×p}
【0034】
本発明においては、このフェニル基含有量を30〜90重量%の範囲とすることが好ましい。フェニル基含有量が少なすぎると、分子中に芳香環を含む合成樹脂との相溶性が低下するため、分散性が不足して樹脂組成物の成型性や成型品の透明性及び衝撃強度が不良となるし、フェニル基が少なくなるために難燃効果も低下する。一方、フェニル基含有量が多すぎると、芳香環を含む合成樹脂との相溶性が高くなりすぎて、燃焼時の表面移行性が悪くなるため、この場合も難燃効果が低下してしまう。より好ましくは、フェニル基含有量を50〜90重量%とすることがよい。
【0035】
なお、上記式(1)において、Rはアルキル基、特にメチル基が好ましく、またR’もアルキル基が好ましいが、特に炭素数3〜6の2級又は3級アルキル基が好ましい。m,n,p,qは、0.5≦m≦2.0、0.1≦n≦2.3、0≦p≦0.13、0≦q≦0.17、0.92≦m+n+p+q≦2.85を満たす正数から選択されることが好ましい。
【0036】
また、(B)成分のオルガノポリシロキサンは、分子中に
R1R2R3SiO1/2で表される単官能性シロキサン単位を10〜75モル%、
R4R5SiO2/2で表される二官能性シロキサン単位を0〜80モル%、
R6SiO3/2で表される三官能性シロキサン単位を0〜80モル%、
SiO4/2で表される四官能性シロキサン単位を0〜15モル%
含有するものを使用することができる。好ましくは、
R1R2R3SiO1/2で表される単官能性シロキサン単位を20〜70モル%、
R4R5SiO2/2で表される二官能性シロキサン単位を0〜80モル%、
R6SiO3/2で表される三官能性シロキサン単位を0〜80モル%、
SiO4/2で表される四官能性シロキサン単位を0〜10モル%
含有するものを使用する。ここで、R1,R2,R3,R4,R5,R6は、それぞれ同一又は異なるものであってもよい炭素数1〜6の非置換又は置換1価炭化水素基より選択され、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などのアルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、フェニル基などが例示されるが、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0037】
一般的にオルガノポリシロキサンの構造は、単官能性シロキサン単位(M単位)、二官能性シロキサン単位(D単位)、三官能性シロキサン単位(T単位)及び四官能性シロキサン単位(Q単位)の任意の組み合わせによって構成される。本発明において、これらの単位の好適な組み合わせは、M/D系、M/T系、M/D/T系、M/D/Q系、M/T/Q系、M/D/T/Q系で、より好ましくはM/D/T系であり、これにより良好な難燃性及び分散性が得られる。一方、M単独系では分子量が低すぎて難燃効果が発揮されないし、M/Q系はオルガノポリシロキサンの無機的性質が強くなりすぎて、芳香環を含む合成樹脂への分散性が劣ることがある。同様の理由により、M/D/Q系やM/D/T/Q系においては、Q単位の含有量を15モル%以下、より好ましくは10モル%以下とすることがよい。
【0038】
なお、(B)成分のオルガノポリシロキサンは、分子中にフェニル基と残存アルコキシ基以外の有機置換基としてメチル基のみを含有するもの、即ち前記平均組成式(1)においてR=メチル基であることが、製造の容易さ及びコスト面からは好ましい。
【0039】
本発明においては、(A)成分の分子中に芳香環を含む合成樹脂100重量部に対して、(B)成分のオルガノポリシロキサンの配合量が0.1重量部未満では難燃効果が不足するし、10重量部を超えても難燃効果の向上がみられないばかりか、衝撃強度等の機械的特性の低下が大きくなるため、0.1〜10重量部とすることが必要であり、好ましくは0.2〜5重量部である。
【0040】
本発明で使用するオルガノポリシロキサンは、従来公知の方法によって製造することができる。例えば、目的とするオルガノポリシロキサンの分子構造及び分子量に従って、フェニル基を有するオルガノクロロシラン類に適宜の水を反応させた後、必要に応じて添加した有機溶媒、副生する塩酸や低沸分を除去することによって、フェニル基と単官能性シロキサン単位を含有するオルガノポリシロキサンを得ることができる。この場合、単官能性シロキサン単位を導入する方法としては、トリオルガノクロロシランを初期加水分解時から、又は加水分解後の部分縮合物と反応させることができる。また、同じく加水分解後の部分縮合物にヘキサオルガノジシロキサンを反応させることも可能で、この場合には、塩酸、硫酸等の酸触媒又は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒を使用することが好ましい。更には、ヘキサオルガノジシラザン等の各種シリル化剤を使用して、残存するアルコキシ基やSi−OH基としての水酸基を封鎖することも好適とされ、この際に使用されるシリル化剤は特に限定されるものではない。
【0041】
また、フェニル基を有するアルコキシシラン類を出発原料とする場合には、やはり目的とするオルガノポリシロキサンの分子構造及び分子量に従って、所定量の水を添加して加水分解反応を進行させる方法とすることが可能で、この場合には、塩酸、酢酸等の酸触媒又はアンモニア、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒を使用することが好ましく、副生するアルコール等の不純物を除去することによって、同様にオルガノポリシロキサンを得ることができる。単官能性シロキサンの単位の導入方法も上記手段を適用すればよい。いずれの場合においても、フェニル基含有量、各シロキサン単位の含有量及び分子量は、各原料の種類と使用量を変化させることによって調整することが可能である。
【0042】
本発明の難燃性樹脂組成物にジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロアルカンスルホン酸ナトリウム等の有機アルカリ金属塩及び/又は有機アルカリ土類金属塩を添加すると難燃性が向上する場合がある。これらの化合物は、芳香環相互のカップリングによる不燃性Si−Cセラミック層の形成を促す炭化促進剤として作用し、従来公知のものはすべて本発明の組成物に適用できる。添加する場合は、(A)成分の芳香環を含む合成樹脂100重量部に対して0.001〜5重量部が適当である。0.001重量部未満では添加した効果が期待できず、5重量部を超えると成型品の外観や強度に悪影響を与える場合がある。具体的には、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸二ナトリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0043】
また、本発明の難燃性樹脂組成物は、補強剤として無機充填材を配合することができる。例えば溶融シリカ、結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化チタン、ガラス繊維等が挙げられる。これら無機充填材の平均粒径や形状は特に限定されないが、成型性及び流動性の面から平均粒径が5〜40μmの球状の溶融シリカが特に好ましい。配合する場合は、(A)成分の芳香環を含む合成樹脂100重量部に対して400〜1200重量部が適当である。400重量部未満では補強効果があまり期待できず、1200重量部を超えると成型性に悪影響を与えるおそれがある。なお、合成樹脂と無機充填材との結合強度を強くするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤で予め表面処理したものを配合することが好ましい。このようなカップリング剤の例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランが挙げられる。ここで、表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に限定されるものではない。
【0044】
本発明の難燃性樹脂組成物には、更に必要に応じて、酸化防止剤、中和剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、分散剤、滑剤、増粘剤、フッ素樹脂などのドリップ防止剤、低応力剤、ワックス類、着色剤等の通常配合されるものを配合することができる。
【0045】
これらの各成分は、それぞれ計量混合され、従来のゴムやプラスチックのための装置と方法が利用できる。即ち、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合撹拌機を用いて各成分を十分混合分散させた後、バンバリロール、押出機等の溶融混練機で混練し、目的物を得ることができる。
【0046】
成形方法としては、例えば射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、真空成形法が挙げられる。
【0047】
【実施例】
以下、調製例及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記調製例で得られた各オルガノポリシロキサンにおける全有機置換基中のフェニル基含有量(重量%)はNMR測定データより前出の下記式によって計算し、全分子中のアルコキシ基含有量(重量%)もNMR測定データによって、また全分子中のSi−OH基としての水酸基含有量(重量%)はグリニヤ法に従い、所定量のオルガノポリシロキサンをメチルグリニヤ試薬と反応させて、生成するメタンガスを定量することによって測定し、重量平均分子量はGPC測定データよりポリスチレン標準試料で作成した検量線を用いて換算した。
フェニル基含有量(重量%)=
{MW(C6H5)×m×100}
/{MW(C6H5)×m+MW(R)×n+MW(R’)×p}
【0048】
〔調製例1〕
撹拌装置、冷却装置、温度計を取り付けた2Lフラスコにフェニルトリクロロシラン423g(2モル)とトリメチルクロロシラン434g(4モル)及びトルエン194gを仕込んだ。滴下ロートに水108g(6モル)とイソプロパノール30g(0.5モル)の混合液を仕込み、フラスコ内へ撹拌しながら1時間で滴下し、加水分解縮合反応中に発生する塩化水素ガスを系外へ除去しながら反応を進めた。滴下終了後、更にオイルバスで加熱して内温60℃で撹拌を1時間続けて熟成した。引き続き減圧蒸留により過剰分の水、未反応のイソプロパノール、塩化水素、トルエンを除去して、液体のフェニル基含有オルガノポリシロキサン−1を490g得た。
【0049】
〔調製例2〕
調製例1において、2Lフラスコにフェニルトリクロロシラン212g(1モル)とジフェニルジクロロシラン253g(1モル)とトリメチルクロロシラン326g(3モル)とトルエン190gを仕込み、滴下ロートに水90g(5モル)とイソプロパノール30g(0.5モル)の混合液を仕込んで加水分解縮合反応させた以外は同様に調製し、液体のフェニル基含有オルガノポリシロキサン−2を480g得た。
【0050】
〔調製例3〕
調製例1において、2Lフラスコにフェニルトリクロロシラン212g(1モル)とジフェニルジクロロシラン759g(3モル)を仕込み、滴下ロートに水63g(3.5モル)とイソプロパノール180g(3モル)の混合液を仕込んで加水分解縮合反応及びアルコキシ化反応を行い、引き続きヘキサメチルジシロキサン324g(4モル)と20%塩酸水溶液120gを添加して、内温40℃で撹拌を1時間続けて脱アルコキシ反応及びシリル化反応させた以外は同様に調製し、液体のフェニル基含有オルガノポリシロキサン−3を810g得た。
【0051】
〔調製例4〜10〕
調製例1と同様の調製方法において、使用するオルガノクロロシラン及びアルコールの種類、オルガノクロロシランと水及びアルコールの仕込み量(モル比)を変化させて、各種のオルガノポリシロキサン−4〜10を得た。
【0052】
上記調製例1〜10によって得られたオルガノポリシロキサン−1〜10の各種物性値を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
〔実施例1〜6,比較例1〜6〕
表2の配合で、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対してオルガノポリシロキサンを3重量部、芳香族系エポキシ樹脂100重量部に対してオルガノポリシロキサンを10重量部添加し、自動乳鉢で予備混合した後、単軸の押出機で溶融混練(混練温度:280℃)を行った。
【0055】
ポリカーボネート樹脂は住友ダウ(株)製カリバー200−20(粘度平均分子量約2万)を用い、エポキシ樹脂は油化シェル(株)製YX4000HK(エポキシ当量190)にフェノール樹脂硬化剤として三井東圧化学(株)製XL−225−3L(フェノール当量168)を同重量部添加したものを使用した。
【0056】
難燃性の評価は、アンダーライターズ・ラボラトリーズ・INCの定めている規格(UL94:機器部品用プラスチック材料の燃焼性試験の規格)に準拠し、1/16インチ厚の板を成形して使用した。
【0057】
光学的透明性は、可視吸光光度計を用いた。試験片は厚さ10mmの成形板を用い、厚さ方向の光路長10mm当たりの可視光透過率を測定し、オルガノポリシロキサンを添加していない試験片に対する各試験片の透過率の比により評価した。この場合、透過率の比が70%以上のものを○、70%未満のものを×とした。
【0058】
リサイクル性の評価は、上記の方法により一度成型を行った芳香族ポリカーボネート樹脂組成物100重量部に対して、再度オルガノポリシロキサンを1重量部添加して溶融混練して成型を行い、成型板の外観を観察することによって評価し、初回と同様に問題なく成型できたものを○、外観が不均一であったり、形状に不備のあったものを×とした。
結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
【発明の効果】
本発明によれば、分子中に芳香環を含む合成樹脂に特定構造のオルガノポリシロキサンを含有させることにより、燃焼時に有害ガスを発生せずに樹脂の難燃化が達成され、成形品の光学的透明性も維持でき、リサイクル使用が可能な難燃性樹脂組成物を得ることができる。
Claims (6)
- (A)ポリスチレン樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、芳香族系エポキシ樹脂及び芳香族系ポリエステル樹脂から選ばれる分子中に芳香環を含む合成樹脂 100重量部、
(B)分子中にフェニル基をケイ素原子に結合する必須の置換基として含有し、
R1R2R3SiO1/2で表されるシロキサン単位を10〜75モル%、
R4R5SiO2/2で表されるシロキサン単位を0〜80モル%、
R6SiO3/2で表されるシロキサン単位を0〜80モル%、
SiO4/2で表されるシロキサン単位を0〜15モル%
(但し、R1,R2,R3,R4,R5,R6は互いに同一又は異種の炭素数1〜6の非置換又は置換1価炭化水素基である。)
含有し、残存アルコキシ基が炭素数3〜6の2級及び/又は3級のアルコキシ基であると共に、分子中のアルコキシ基及びSi−OH基としての水酸基の含有量がそれぞれ0重量%を超え2重量%未満であり、かつ重量平均分子量が2,000以下であるオルガノポリシロキサン 0.1〜10重量部
を含有してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。 - (B)成分のオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が410以上2,000以下である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
- (B)成分のオルガノポリシロキサンが、その分子中のケイ素原子に結合する全有機置換基中でフェニル基の占める割合が重量換算で30〜90%である請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
- (B)成分のオルガノポリシロキサンの構造が、単官能性シロキサン単位(M単位)、二官能性シロキサン単位(D単位)、及び三官能性シロキサン単位(T単位)の組み合わせである請求項1乃至3のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
- (B)成分のオルガノポリシロキサンが、分子中にフェニル基と残存アルコキシ基以外のケイ素原子に結合する有機置換基としてメチル基のみを含有するものである請求項1乃至4のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
- (B)成分のオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が620〜1,900である請求項1乃至5のいずれか1項記載の難燃性樹脂組成物。
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