JP3767261B2 - 車両用走行制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車速を運転者が設定した目標車速又は先行車との車間距離と目標車間距離との偏差に基づいて演算された目標車速に維持しながら走行する車両用走行制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の車両用走行制御装置としては、例えば特開平3−153426号公報(以下、第1従来例と称す)及び特開平6−191324号公報(以下、第2従来例と称す)に記載されているものが知られている。
第1従来例には、予め設定された車速を維持するように車速を制御するオートクルーズ制御機能を備え、且つ車両にスリップが生じた場合に、スリップ量に応じてスロットル弁を閉じてエンジン出力を低減させるトラクション制御機能とを備え、オートクルーズ制御系では、トラクション制御中はオートクルーズ制御を禁止するようにしたエンジン出力制御方法が開示されている。
【0003】
また、第2従来例には、車両のスリップ量を検出し、このスリップ量を減じる方向にアクセル信号を抑制するトラクション制御と、目標車速を選定し、この目標車速を維持するように燃料噴射装置のラック位置を調整するオートクルーズ制御とを行い、オートクルーズ制御中にトラクション制御が成立した場合に、オートクルーズ制御を解除し、少なくともエンジン回転数と実ラック位置からオートクルーズ走行に擬制されるオートクルーズアクセル信号に対してトラクション制御を実行すると共に、トラクション制御の終了と同時に、オートクルーズ制御を復帰させるようにした車両のエンジン出力制御装置が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記第1及び第2従来例にあっては、共にトラクション制御が実行される際に、オートクルーズ制御を禁止又は解除し、トラクション制御の終了と同時にオートクルーズ制御を復帰させるようにしているので、車速が速く例えば雪路、凍結路、降雨路等の低摩擦係数路面をすぐに越えてしまう場合には問題がないが、低摩擦係数路面で停車している状態から発進させたときに、駆動輪が空転して、発進できないときには、トラクション制御によって駆動輪の回転が抑制されると同時にオートクルーズ制御が禁止又は解除されるので、駆動輪の駆動が停止され、これによってトラクション制御も停止することになるため、再度オートクルーズ制御が再開されて、駆動輪の空転が発生し、これに応じてトラクション制御が開始されて、オートクルーズ制御が禁止又は解除されることを繰り返すことになり、発進できない状態を継続するという未解決の課題がある。
【0005】
また、トラクション制御が開始される状況では、低摩擦係数路面であるため、外乱によって駆動輪の横力が低下すると挙動が乱れ、ステアリングホイールを操舵する必要があるが、トラクション制御が開始されてオートクルーズ制御が禁止又は解除されることにより、駆動力が零となって車輪のグリップ力を回復することができるが、駆動力が零となるとトラクション制御が停止されて、オートクルーズ制御が開始されることにより、駆動輪の横力が低下してステアリングホイールの操作を続ける状態に復帰してしまうという未解決の課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、走行制御中に、駆動力抑制手段(トラクション制御手段)が作動状態となり、且つ車両挙動が乱れたり、発進できない走行状況となったときに、走行制御を中止することにより、車両挙動の乱れ及び発進不可能状態を回避することができる車両用走行制御装置を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る車両用走行制御装置は、車速を目標車速に維持するように少なくとも駆動力を制御する走行制御手段と、駆動輪のスリップ状態が所定のスリップ状態より大きいときに駆動力を抑制制御する駆動力抑制手段とを備えた車両用走行制御装置において、車両の横滑り状態及び車両発進時の駆動輪スリップ状態の少なくとも一方である所定の走行状況を検出する走行状況検出手段と、前記走行制御手段の制御中に、前記駆動力抑制手段が作動状態となった場合に、前記走行状況検出手段で、所定の走行状況を検出しないときに前記走行制御手段の制御を継続し、所定の走行状況を検出したときに前記走行制御手段の制御を中止させる制御中止手段とを備えたことを特徴としている。
【0008】
この請求項1に係る発明においては、運転者が設定した目標車速又は車間距離を目標車間距離に維持するために演算された目標車速に車速を維持する走行制御手段で少なくとも駆動力制御を行っている状態で、駆動力抑制手段が作動状態となっても、走行状況検出手段で、発進時に非駆動輪の回転停止状態を検出する発進不能状態であったり、ステアリングホイールのカウンタステア操舵状態であって車両の横滑り状態であったりする所定の走行状況を検出していない場合には、走行制御手段の駆動力制御を継続してその駆動力を駆動力抑制手段で抑制する駆動力抑制状態で走行し、走行状況検出手段で所定の走行状況であることを検出したときには、制御中止手段で、走行制御手段の制御を中止させ、所定の走行状況を回避する。
【0009】
また、請求項2に係る車両用走行制御装置は、請求項1に係る発明において、前記走行状況検出手段は、運転者の操舵状態を検出する操舵状態検出手段を有し、該操舵状態検出手段で検出した操舵状態が所定操舵状態以上となったときに車両の横滑り状態による所定の走行状態を検出するように構成されていることを特徴としている。
【0010】
この請求項2に係る発明においては、操舵状態検出手段で、例えば運転者が車輪の横力の低下による横滑り状態に対してのカウンタステア操舵状態を検出したときに、車両が横滑り状態となる所定の走行状況であることを検出する。
さらに、請求項3に係る車両用走行制御装置は、請求項2に係る発明において、前記操舵状態検出手段が、操舵角を検出する操舵角検出手段、操舵変化回数を検出する操舵変化回数検出手段、操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段及び操舵角加速度を検出する操舵角加速度検出手段の何れかで構成されていることを特徴としている。
【0011】
この請求項3に係る発明においては、操舵角検出手段、操舵角変化回数検出手段、操舵角速度検出手段及び操舵角加速度検出手段で、所定の操舵状態即ち運転者の車輪の横力の低下に対しての操舵状態を正確に検出する。
さらにまた、請求項4に係る車両用走行制御装置は、請求項1乃至3の何れかの発明において、前記走行状況検出手段は、非駆動輪の車輪速を検出する非駆動輪車輪速検出手段を有し、前記駆動力抑制手段が作動状態となった場合に、該非駆動輪車輪速検出手段で検出した非駆動輪車輪速が所定時間以上停止状態を継続したときに発進時の駆動輪スリップ状態による所定の走行状態を検出するように構成されていることを特徴としている。
【0012】
この請求項4に係る発明においては、車両の発進時に走行制御手段によって車両を発進させる際に、駆動輪にスリップが発生して駆動力抑制手段が作動状態となった場合に、非駆動輪車輪速検出手段で、非駆動輪が停止状態を継続していることを検出したときに、発進時の駆動輪スリップ状態で発進不可能状態であると判断することにより、走行制御手段による駆動力制御を中止させて、例えばクリープ現象による発進を可能とする。
【0013】
なおさらに、請求項5に係る車両用走行制御装置は、請求項1乃至4の何れかの発明において、前記制御中止手段が、走行制御手段の制御を中止する際に制御中止を表す警告を行うように構成されていることを特徴としている。
この請求項5に係る発明においては、制御中止手段で、走行制御手段の制御を中止する際に、制御の中止を警告することにより、運転者に走行制御手段の制御中止を確実に認識させて、運転者自身の発進操作に移行させる。
【0014】
【発明の効果】
請求項1に係る車両用走行制御装置によれば、走行制御手段で設定車速又は目標車間距離を維持するために駆動力制御を行っている状態で、駆動力抑制手段が作動状態となったときに、走行状況検出手段で、発進時の非駆動輪の回転停止状態を検出する発進の駆動輪スリップ状態及びステアリングホイールのカウンタステア操舵状態による車両の横滑り状態の少なくとも一方でなる所定の走行状況を検出していない場合には、走行制御手段による駆動力制御を駆動力抑制手段で抑制する駆動力抑制状態で走行し、走行状況検出手段で所定の走行状況であることを検出したときには、制御中止手段で、走行制御手段の制御を中止させ、所定の走行状況を回避して挙動を安定させることができるという効果が得られる。
【0015】
また、請求項2に係る車両用走行制御装置によれば、操舵状態検出手段で、例えば運転者が車輪の横力の低下によるステアリングホイールのカウンタステア操舵状態となる車両の横滑りによる所定の走行状況を検出したときに、走行制御手段での制御が中止されることにより、駆動力が零となって、車輪のグリップ力を回復することにより横滑り状態を解消して挙動を安定させることができるという効果が得られる。
【0016】
さらに、請求項3に係る車両用走行制御装置によれば、操舵角検出手段、操舵状態検出手段を、操舵角変化回数検出手段、操舵角速度検出手段及び操舵角加速度検出手段で構成するので、所定の走行状況即ち運転者が車輪の横力の低下による横滑り状態となってステアリングホイールのカウンタステア操舵状態を正確に検出することができるという効果が得られる。
【0017】
さらにまた、請求項4に係る車両用走行制御装置によれば、走行制御手段によって車両を発進させる際に、駆動輪にスリップが発生して駆動力抑制手段が作動状態となった場合、非駆動輪車輪速検出手段で、非駆動輪が停止状態を継続していることを検出したときに、発進時の駆動輪スリップ状態で発進不可能状態であると判断することにより、走行制御手段による駆動力制御を中止させて、運転者の操作による例えばクリープ現象による確実な発進を行うことかできるという効果が得られる。
【0018】
なおさらに、請求項5に係る車両用走行制御装置によれば、制御中止手段で、走行制御手段の制御を中止する際に、制御の中止を警告することにより、運転者に走行制御手段の制御中止を確実に認識させて、運転者自身の発進操作に移行できるという効果が得られる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明を先行車に追従して走行する先行車追従制御装置を備えた後輪駆動車に適用した場合の第1の実施形態を示す概略構成図であり、図中、1FL,1FRは従動輪としての前輪、1RL,1RRは駆動輪としての後輪であって、後輪1RL,1RRは、エンジン2の駆動力が自動変速機3、プロペラシャフト4、最終減速装置5及び車軸6を介して伝達されて回転駆動される。
【0020】
前輪1FL,1FR及び後輪1RL,1RRには、夫々制動力を発生するブレーキアクチュエータとしてのディスクブレーキ7が設けられていると共に、これらディスクブレーキ7の制動油圧が制動制御装置8によって制御される。
ここで、制動制御装置8は、図示しないブレーキペダルの踏込みに応じて制動油圧を発生すると共に、後述する追従制御用コントローラ20からの制動圧指令値PBCに応じて制動油圧を発生するように構成されている。
【0021】
また、エンジン2には、その出力を制御するエンジン出力制御装置11が設けられている。このエンジン出力制御装置11では、図示しないアクセルペダルの踏込量及び後述する追従制御用コントローラ20からのスロットル開度指令値THR に応じてエンジン2に設けられたスロットル開度を調整するスロットルアクチュエータ12を制御するように構成され、さらに、急加速時や低摩擦係数路面走行時の車輪スリップを抑制するように少なくともスロットル開度を制御するトラクション制御装置13が設けられている。
【0022】
このトラクション制御装置13は、各車輪1FL〜1RRに設けられた車輪速センサ10FL〜10RRから出力される車輪速パルスに基づいて車輪速VWFL 〜VWRR を演算し、従動輪としての前輪側の車輪速VWFL 及びVWFR の平均値を演算して自車速VS を演算し、この自車速VS と駆動輪としての後輪の車輪速VWRL 及びVWRR とに基づいて駆動輪スリップ率を算出し、これが目標スリップ率に一致させるようにスロットル開度を制御して加速時の車輪スリップを防止するように構成され、トラクション制御中であるときに論理値“1”、非制御中であるときに論理値“0”となる制御状態信号TRを後述する追従制御用コントローラ20に出力すると共に、演算した自車速VS 及び前輪側の車輪速VWFL,VWFR を追従制御用コントローラ20に出力する。
【0023】
一方、車両の前方側の車体下部には、先行車両との間の車間距離を検出する車間距離検出手段としてのレーザ光を掃射して先行車両からの反射光を受光するレーダ方式の構成を有する車間距離センサ14が設けられている。
また、車両には、ステアリングホイールの操舵角θを検出する操舵角センサ15が設けられている。
【0024】
そして、トラクション制御装置13から出力される制御状態信号TR、自車速VS 及び前輪側の車輪速VWFL,VWFと、車間距離センサ14から出力される車間距離Lと、操舵角センサ15から出力される操舵角θとが追従制御用コントローラ20に入力され、この追従制御用コントローラ20によって、先行車両を捕捉しているときに車間距離を目標車間距離に制御し、先行車両を捕捉していないときに自車速VS を運転者が設定した設定車速VSET に制御する制動圧指令値PBR及び目標スロットル開度THR を制動制御装置8及びエンジン出力制御装置11に出力すると共に、追従制御を中止する際に運転席から視認可能な位置に配設した液晶等の表示器21に制御中止表示を表示する。
【0025】
この追従制御用コントローラ20は、マイクロコンピュータとその周辺機器を備え、マイクロコンピュータのソフトウェア形態により、図2に示す制御ブロックを構成している。
この制御ブロックは、車間距離センサ14でレーザー光を掃射してから先行車の反射光を受光するまでの時間を計測し、先行車との車間距離Lを演算する測距信号処理部21と、測距信号処理部21で演算された車間距離L及びトラクション制御装置13から読込んだ自車速VS に基づいて車間距離Lを目標車間距離L* に維持する目標車速V* を演算する車間距離制御手段としての車間距離制御部40と、この車間距離制御部40で演算した目標車速V* に基づいて目標駆動軸トルクT* を演算する車速制御部50と、この車速制御部50で演算した目標駆動軸トルクT* に基づいてスロットルアクチュエータ12及びブレーキアクチュエータ7に対する目標スロットル開度THR 及び目標制動圧PBRを演算し、これらをスロットルアクチュエータ13及びブレーキアクチュエータ7に出力する駆動輪軸トルク制御部60とを備えている。
【0026】
車間距離制御部40は、トラクション制御装置13から入力される自車速VS に基づいて先行車と自車との間の目標車間距離L* を算出する目標車間距離設定部42と、この目標車間距離設定部42で算出された目標車間距離L* と、測距信号処理部21から入力される車間距離Lと、自車速VS とに基づいて車間距離Lを目標車間距離L* に一致させるための目標車速V* を演算する車間距離制御演算部43とを備えている。
【0027】
車速制御部50は、追従制御状態であるときには、車間距離センサ14で先行車両を捕捉しているときには車間距離制御部40から入力される目標車速VL * と運転者が設定した設定車速VSET との何れか小さい値を目標車速V* として設定し、先行車両を捕捉していないときには運転者が設定した設定車速VSET を目標車速V* として設定する目標車速設定部51と、この目標車速設定部51で設定された目標車速V* に自車速VS を一致させるための目標駆動軸トルクTW * を演算する目標駆動軸トルク演算部52とを備えている。
【0028】
また、駆動軸トルク制御部60は、図3に示すように、目標駆動トルクTW * を実現するためのスロットル開度指令値θR とブレーキ液圧指令値PBRとを演算する。
今、トルクコンバータのトルク増幅率をRT、自動変速機3のギヤ比をRAT、ディファレンシャルギヤ比をRDEF 、エンジンイナーシャをJE 、エンジン回転数をNE とすると、駆動軸トルクTW とエンジントルクTE 及びブレーキトルクTBRとの関係は下記(1)式で表すことができる。
【0029】
TW =KGEAR{TE −JE (dNE /dt)}−TBR …………(1)
但し、KGEAR=RT ・RAT・RDEF
したがって、目標駆動軸トルクTW * に対して下記(2)式で目標エンジントルクTE * を演算し、この目標エンジントルクTE * を発生させるスロットル開度指令値θR を図4に示すエンジンマップを参照して算出する。
【0030】
TE * =JE (dNE /dt)+TW * /KGEAR …………(2)
ここで、スロットル開度指令値θR が“0”以上であれば、ブレーキを使わずにエンジントルクのみで目標駆動軸トルクTW * 通りのトルクを実現できる。
一方、スロットル開度指令値θR が“0”未満となれば、スロットル開度を“0”とし、このときエンジン2によって出力される駆動軸トルクを考慮して駆動軸トルクを目標駆動軸トルクTW * に一致させるためのブレーキ操作量を演算する。
【0031】
以上により、目標エンジントルクTE * と目標ブレーキトルクTBR * の分配制御則は、以下のようになる。
(A)スロットル開度指令値θR >0のとき
TBR * =0
したがって、前記(1)式は下記(3)式となる。
【0032】
TW =KGEAR{TE −JE (dNE /dt)} …………(3)
したがって、目標駆動軸トルクTW * に対して下記(4)式の目標エンジントルクTE * を発生させればよいことになる。
TE * =JE (dNE /dt)+TW * /KGEAR …………(4)
ここで、目標ブレーキトルクTBRは“0”であるので、ブレーキ液圧指令値PBRは“0”となる。
(B)スロットル開度指令値θR ≦0であるとき
エンジン回転数NE をもとに図5に示すエンジントルクマップを参照してスロットル開度θR が“0”のときのエンジントルクTE0を算出する。これにより、前記(1)式は下記(5)式となる。
【0033】
TW =KGEAR{TE0−JE (dNE /dt)}−TBR …………(5)
したがって、目標駆動軸トルクTW * に対する目標ブレーキトルクTBR * は下記(6)式で表される。
TBR * =−TW * +KGEAR{TE0−JE (dNE /dt)}……(6)
ここで、ブレーキシリンダ面積をAB 、ロータ有効半径をRB 、パッド摩擦係数をμB とすると、目標ブレーキトルクTBR * に対して、ブレーキ操作量であるブレーキ液圧指令値PBRは下記(7)式で表すことができる。
【0034】
PBR=(1/KBT)・TBR * …………(7)
但し、KBT=8・AB ・RB ・μB
このため、駆動軸トルク制御部60は、図3のブロック線図に示すように、目標駆動軸トルクTW * を除算器61に供給して、係数KGEARで除算して、目標エンジントルクTE * を算出し、これをスロットル開度算出部62に供給して、このスロットル開度算出部62で目標エンジントルクTE * 及びエンジン回転数NE をもとに図4のエンジンマップを参照してスロットル開度THを算出し、これをリミッタ63に供給して、スロットルアクチュエータ12で制御可能な零から最大スロットル開度までの範囲に制限してスロットル開度指令値THR としてエンジン出力制御装置11に出力すると共に、目標駆動軸トルクTW * を減算器64に供給して、この目標駆動軸トルクTW * を前記(6)式の右辺第2項の演算を行うエンジンブレーキ補正演算部65で演算された値KGEAR{TE0−JE (dNE /dt)}から減算して目標ブレーキトルクTBR * を算出し、これを除算器66に供給して、前記(7)式の演算を行ってブレーキ液圧指令値PB を算出し、これをリミッタ67で、ブレーキアクチュエータ7で制御可能な零から最大制動圧までの範囲に制限してブレーキ液圧指令値PBRとして制動制御装置8に出力する。
【0035】
一方、追従制御用コントローラ20では、図6に示す制御管理処理を実行する。この制御管理処理は、先ず、ステップS1で、図示しないセットスイッチをオン状態として、運転者が設定した設定車速VSET に自車速VS を一致させるか又は車間距離Lを目標車間距離L* に一致させる追従制御状態であるか否かを表す追従制御状態フラグFSが追従制御状態を表す“1”にセットされているか否かを判定し、追従制御状態フラグFSが“0”にリセットされているときにはそのまま追従制御状態となるまで待機し、追従制御状態フラグFSが“1”にセットされているときにはステップS2に移行して、トラクション制御装置13から入力される制御状態信号TSが論理値“1”であるか否かを判定し、制御状態信号TSが論理値“0”であるときには、トラクション制御が実行されていないものと判断してステップS3に移行し、上述した車間距離制御部40、車速制御部50及び駆動軸トルク制御部60による追従制御処理を行ってから前記ステップS1に戻り、制御状態信号TSが論理値“1”であるときにはトラクション制御が開始されているものと判断して、ステップS4に移行する。
【0036】
このステップS4では、操舵角センサ15の操舵角θを読込み、この操舵角θが予め設定された設定操舵角θS 以上であるか否かを判定し、θ≧θS であるときには、ステップS5に移行して、運転席から視認可能な位置に配設した液晶等の表示器21に追従制御を中止した旨を表す制御中止表示を行ってからステップS6に移行して、追従制御状態フラグFSを“0”にリセットしてステップS3の追従制御を中止してから前記ステップS1に戻る。
【0037】
また、ステップS4の判定結果が、θ<θS であるときには、ステップS7に移行して、従動輪としての前輪車輪速VWFL 及びVWFR が“0”であるか否かを判定し、これが“0”であるときにはステップS8に移行して、前輪車輪速VWFL 及びVWFR が“0”である状態が所定時間tS 以上経過したか否かを判定し、所定時間tS が経過していないときには前記ステップS1に戻り、所定時間tS が経過したときには前記ステップS5に移行する。
【0038】
次に、上記実施形態の動作を説明する。
今、例えば図示しないセットスイッチがオン状態となって、追従制御状態フラグFSが“1”にセットされている状態で、例えば先行車を捕捉して運転者が設定した設定車速VSET より低い自車速VS で追従走行しており、トラクション制御装置13が非作動状態であるものとする。この状態では、図6の処理において、ステップS1からステップS2を経てステップS3に移行することにより、図2に対応する追従制御処理が実行されて、自車速VS に基づいて目標車間距離L* が演算され、次いで、目標車速VL * が演算され、この目標車速VL * が目標車速V* として選択され、目標車速V* と自車速VS との偏差に速度ゲインKSPを乗算して算出した駆動力FWRから走行抵抗推定値FDHを減算して目標駆動力FW * を算出し、これにタイヤ半径RH を乗算することにより、目標駆動軸トルクTW * を算出し、この目標駆動軸トルクTW に基づいてスロットル開度指令値THR 及びブレーキ液圧指令値PBRを算出し、これらをエンジン出力制御装置11及び制動制御装置8に出力することにより、車間距離Lを目標車間距離L* に一致させるように駆動力又は制動力が制御される。
【0039】
この追従走行状態で、雪路、凍結路、降雨路等の低摩擦係数路面の直進路を走行する状態となって、図7(b)に示すように時点t1で駆動輪としての後輪1RL及び1RRに車輪スリップを生じる状態となり、時点t2で車輪スリップ率が目標スリップ率を上回る状態となると、トラクション制御装置13が作動状態となって、車輪スリップ率を目標スリップ率を下回るようにスロットル開度指令値THR を制限する。
【0040】
このように、トラクション制御装置13が作動状態となると、図7(a)に示すように、制御状態信号TSが論理値“1”となることにより、図6の処理において、ステップS2からステップS3に移行し、直進路を走行していて自車両に横滑りを生じていないときには、操舵角センサ15で検出される操舵角θが略“0”であるので、ステップS7に移行し、従動輪としての前輪1FL及び1FRが回転していて、車輪速VWFL 及びVWFR が共に“0”より大きい値であるので、ステップS3に移行して、追従制御を継続する。
【0041】
この低摩擦係数路面でのトラクション制御を行っている走行状態で、時点t3で例えばコーナーに差しかかって自車両に横滑りを生じる状態となると、運転者が横滑り方向にステアリングホイールの操舵を開始して、カウンタステア状態となり、時点t4で操舵角θが図7(c)に示すように設定操舵角θS 以上となると、図6の処理において、ステップS4からステップS5に移行して、表示器21に追従制御を中止する旨の制御中止表示を行って運転者に追従制御の中止を警告してからステップS6に移行して、図7(d)に示すように追従制御を中止して、運転者の意志による加減速操作状態に移行する。
【0042】
このとき、運転者が追従制御状態であってアクセルペダルを踏込んでいないので、駆動力が直ちに“0”となって駆動輪としての後輪1RL及び1RRのグリップ力が回復することにより、車両の横滑り状態が解消されて、自車両の挙動を安定させることができ、カウンタステア状態を解消することができる。
因みに、従来例においては、図8に示すように、時点t11で駆動輪に生じた車輪スリップ率が目標スリップ率を上回ることにより、トラクション制御が開始されると、スロットル開度が抑制されて、駆動輪の車輪速が制限されるが、駆動輪に駆動力が伝達された状態を継続することにより、車輪スリップ状態が継続して、駆動輪の横力が低下したままとなるため、時点t12でコーナーに差しかかったときには、駆動輪に横滑りが発生し、これに対処するために運転者がステアリングホイールを操舵してカウンタステア状態とするが、駆動力が伝達された状態を継続するので、カウンタステア状態を継続する必要があり、運転者の意志で追従制御を解除しなければならず、走行安定性が低下する。
【0043】
その後、自車両が信号等で先行車を捕捉している状態で低摩擦係数路面で停止し、この状態でセットスイッチをオン状態として、走行状態フラグFSが“1”にセットされると、図6の処理でステップS2からステップS3に移行し、追従制御状態に復帰したときには、先行車が停止しているときには、自車両も停止状態を維持し、先行車が発進することにより、車間距離Lが増加して、目標車間距離L* を上回ることになると、これに応じた目標車速VL * が演算され、これに応じた目標駆動軸トルクTW * が演算され、これに応じてスロットル開度指令値THR が開方向に増加することにより、エンジン2で駆動力が発生され、これが自動変速機3、プロペラシャフト4、終減速機5及び駆動軸6を介して駆動輪1RL及び1RRに伝達されることにより、これら駆動輪1RL及び1RRが図9(b)に示すように時点t21から回転駆動される。
【0044】
このとき、低摩擦係数路面であるので、駆動輪1RL及び1RRに車輪スリップを生じ、時点t22でトラクション制御装置13が作動状態となってスロットル開度THが制限されることにより、自車両が発進したときには、従動輪としての前輪1FL及び1FRが図9(b)で破線図示のように回転することにより、車輪速VWFL 及びVWFR が“0”より大きな値となる。このため、図6の処理において、ステップS4からステップS7を経てステップS3に移行して、追従制御処理を継続することにより、先行車に追従して走行を開始する。
【0045】
ところが、この発進時に、駆動輪1RL及び1RRに大きな車輪スリップを生じることにより、車両が発進せず、従動輪としての前輪1FL及び1FRが回転停止状態を維持している場合には、図6の処理において、ステップS7からステップS8に移行し、所定経過時間tS が経過するまでの間は、前記ステップS3に移行して、追従制御処理を継続する。
【0046】
その後、従動輪としての前輪1FL及び1FRが回転停止状態を継続して、時点t23で所定経過時間tS が経過すると、発進不能と判断してステップS8からステップS5に移行して、表示器21に追従制御を中止する旨の制御中止表示を行ってからステップS6に移行して、追従制御を図9(d)に示すように中止することにより、スロットル開度THが“0”即ち全閉状態に復帰し、自動変速機のクリープ現象による小さな駆動力によって自車両を発進させることができる。
【0047】
因みに、従来例においては、低摩擦係数路面での自車両の停止状態からオートクルーズによる発進を行ったときに、駆動輪に大きな車輪スリップが生じて、発進不能状態となったときには、図10(a)に示すように、時点t31でトラクション制御が作動することによって、オートクルーズ制御を解除するが、このオートクルーズ走行中の車速を得るアクセル信号に擬制されるクルーズアクセル信号を演算し、このクルーズアクセル信号に対してトラクション制御を実行するので、スロットル開度が小さく制限されることにより、駆動輪の車輪スリップが納まってトラクション制御が時点t32で終了すると、再度オートクルーズ制御に復帰して車輪スリップが発生することを繰り返すことになり、自車両の発進不能状態を運転者がオートクルーズ制御を解除するまで継続することになる。
【0048】
なお、上記実施形態においては、運転者のカウンタステア状態を操舵角θが設定操舵角θS 以上であるときに検出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、操舵角θの変化回数や、操舵角速度や、操舵角加速度を検出し、これらに基づいてカウンタステア状態を検出するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、追従制御を中止する際に、表示器21に制御中止表示を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、警報音発生器を適用して警報音を発するようにしてもよく、要は運転者に追従制御を中止する旨を警告し得るものであればよい。
【0049】
さらに、上記実施形態においては、本発明を追従制御装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、目標車速に自車速を一致させる任意の車速制御に本発明を適用し得るものである。
さらにまた、上記実施形態においては、従動輪としての前輪1FL及び1FRの車輪速VWFL 及びVWFR の平均値を自車速VS とする場合について説明したが、これに限定されるものではなく、アンチロックブレーキ制御装置を搭載している車両では、このアンチロックブレーキ制御装置に内蔵する車体速度推定部で演算する車体速度を自車速VS として設定するようにしてもよい。
【0050】
なおさらに、上記実施形態においては、ディスクブレーキで構成されるブレーキアクチュエータ7の制動圧を制御することにより制動力を発生させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、制動装置のアクチュエータとして電動モータを適用する場合には、これに対する電気的出力を制御し、電気自動車のように電動モータで回生制動力を発生させる場合にも本発明を適用し得る。
【0051】
また、上記実施形態においては、後輪駆動車に本発明を適用した場合について説明したが、前輪駆動車に本発明を適用することもでき、また回転駆動源としてエンジン2を適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電動モータを適用することもでき、さらには、エンジンと電動モータとを使用するハイブリッド車にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の追従制御用コントローラの具体的構成を示すブロック図である。
【図3】図2の駆動軸トルク制御部の具体例を示すブロック線図である。
【図4】スロットル開度からエンジントルクを求めるためのエンジンマップの一例を示す特性線図である。
【図5】スロットル開度が零であるときのエンジン回転数からエンジントルクを求めるための特性線図である。
【図6】図1の追従制御用コントローラの制御管理処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】図1の実施形態の横滑り発生時の動作の説明に供するタイムチャートである。
【図8】従来例の横滑り発生時の動作の説明に供するタイムチャートである。
【図9】図1の実施形態の発進時の動作の説明に供するタイムチャートである。
【図10】従来例の発進時の動作の説明に供するタイムチャートである。
【符号の説明】
2 エンジン
3 自動変速機
7 ブレーキアクチュエータ
8 制動制御装置
10FL〜10RR 車輪速センサ
11 エンジン出力制御装置
12 スロットルアクチュエータ
13 トラクション制御装置
14 車間距離センサ
15 操舵角センサ
20 追従制御用コントローラ
21 表示器
40 車間距離制御部
50 車速制御部
56 走行抵抗推定部
Claims (5)
- 車速を目標車速に維持するように少なくとも駆動力を制御する走行制御手段と、駆動輪のスリップ状態が所定のスリップ状態より大きいときに駆動力を抑制制御する駆動力抑制手段とを備えた車両用走行制御装置において、車両の横滑り状態及び車両発進時の駆動輪スリップ状態の少なくとも一方である所定の走行状況を検出する走行状況検出手段と、前記走行制御手段の制御中に、前記駆動力抑制手段が作動状態となった場合に、前記走行状況検出手段で、所定の走行状況を検出しないときに前記走行制御手段の制御を継続し、所定の走行状況を検出したときに前記走行制御手段の制御を中止させる制御中止手段とを備えたことを特徴とする車両用走行制御装置。
- 前記走行状況検出手段は、運転者の操舵状態を検出する操舵状態検出手段を有し、該操舵状態検出手段で検出した操舵状態が所定操舵状態以上となったときに車両の横滑り状態による所定の走行状態を検出するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の車両用走行制御装置。
- 前記操舵状態検出手段は、操舵角を検出する操舵角検出手段、操舵角変化回数を検出する操舵角変化回数検出手段、操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段及び操舵角加速度を検出する操舵角加速度検出手段の何れかで構成されていることを特徴とする請求項2記載の車両用走行制御装置。
- 前記走行状況検出手段は、非駆動輪の車輪速を検出する非駆動輪車輪速検出手段を有し、前記駆動力抑制手段が作動状態となった場合に、該非駆動輪車輪速検出手段で検出した非駆動輪車輪速が所定時間以上停止状態を継続したときに発進時の駆動輪スリップ状態による所定の走行状態を検出するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の車両用走行制御装置。
- 前記制御中止手段は、走行制御手段の制御を中止する際に制御中止を表す警告を行うように構成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の車両用走行制御装置。
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