JP3539280B2 - 四輪駆動車の駆動力配分制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジントルクを前輪と後輪に配分する駆動系に設けられたトルク配分アクチュエータにより前輪と後輪に伝達されるトルク配分比が制御される四輪駆動車の駆動力配分制御装置の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来、四輪駆動車の駆動力配分制御装置としては、例えば、特開平6−211063号公報に記載のものが知られている。
【0003】
この公報には、駆動輪スリップを抑えると共に旋回安定性を得るため、前後輪回転速度差に応じた回転速度差対応クラッチトルクと、最適なヨーイング運動量を得るためのヨーイング運動量対応クラッチトルクの総和によるクラッチ締結力を与えることで前後輪の駆動力配分比を制御する技術が示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の四輪駆動車の駆動力配分制御装置にあっては、単に前後輪回転速度差に応じてクラッチトルクを付与する制御が行われるため、発進時に発進加速性に劣るという問題がある。すなわち、発進時にはアクセルの急激な踏み込み操作により前後輪に大きな回転速度差が発生しないことには4輪駆動傾向の駆動力配分比が得られず、アクセル操作に対し4輪駆動側への駆動力配分比の移行が応答遅れとなってしまう。そこで、アクセル開度に応じてクラッチトルクを付与する技術も提案されているが、かなり高いアクセル開度域に達しないことには4輪駆動傾向の駆動力配分比とはならず、高い発進加速性を得るには不十分である。
【0005】
これに対し、高い発進加速性を得るために予め4輪駆動傾向の駆動力配分比(例えば、前輪トルク:後輪トルク=50:50)に設定しておく案がある。しかし、この場合、旋回発進しようとするとタイトコーナブレーキング現象(旋回時、前後輪の平均旋回半径差を原因として直結駆動系に制動トルクが生じる現象)が発生してしまうことが避けられない。さらに、タイトコーナブレーキング現象を防止するために操舵角や横加速度等の旋回情報を用い、旋回走行であるとの判断時には2輪駆動傾向となるように駆動力配分比を変更する制御を行うと、高価な操舵角センサや横加速度センサを新たに設置しなければならず、システムコスト増となってしまう。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、既存の車載センサを流用できる低コストのシステムとしながら、タイトコーナブレーキング現象の未然防止と発進加速性の向上との両立をうまく達成した四輪駆動車の駆動力配分制御装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明では、エンジントルクを前輪と後輪に配分する四輪駆動系を有し、四輪駆動系に設けられたトルク配分アクチュエータに対するトルク配分コントローラからの制御指令により前輪と後輪に伝達されるトルク配分比が制御される四輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
アクセル開度検出値とエンジン回転数検出値によりエンジントルクを推定計算するエンジントルク推定手段と、
エンジントルク推定値とトランスミッションのギア比により前後輪に伝達される伝達トルクを計算する伝達トルク計算手段と、
伝達トルク計算値の1/2の等配分トルクを計算する等配分トルク計算手段を設け、
前記トルク配分コントローラを、アクセル開度が設定開度未満の低開度領域の時には、2輪駆動傾向のトルク配分となるように前後輪の一方への伝達トルクを制限し、アクセル開度が設定開度以上の高開度領域の時には、4輪駆動傾向のトルク配分比を得る制御を行うように、等配分トルク計算値と設定されたリミッタトルク値のうち最小値選択により前後輪の一方への伝達トルクを決める手段としたことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の四輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
旋回半径を計算する旋回半径計算手段と、
旋回半径計算値が小さいほど小さな値に制限したリミッタトルク値に設定するリミッタトルク値設定手段を設け、
前記トルク配分コントローラを、等配分トルク計算値と前記リミッタトルク値設定手段により設定された旋回半径対応のリミッタトルク値のうち最小値選択により前後輪の一方への伝達トルクを決める手段としたことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明では、請求項2記載の四輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
エンジントルクがトルク配分アクチュエータを介して伝達される非駆動輪側左右輪の車輪速度をそれぞれ検出する右車輪速度検出手段及び左車輪速度検出手段と、
車速を検出する車速検出手段を設け、
前記旋回半径計算手段を、左右輪速度差に基づいて旋回半径を計算する手段にすると共に、左右輪速度差に対するフィルタを、車速が設定車速未満の極低速域で、かつ、アクセル開度が設定開度未満の低開度領域の時には、他の走行状態時に比べ弱める手段としたことを特徴とする。
【0011】
【発明の作用および効果】
請求項1記載の発明では、発進時や走行時、トルク配分コントローラにおいて、アクセル開度検出手段により検出されるアクセル開度が設定開度未満の低開度領域の時には、2輪駆動傾向のトルク配分となるように前後輪の一方への伝達トルクを制限する制御指令がトルク配分アクチュエータに対し出力され、アクセル開度が設定開度以上の高開度領域の時には、4輪駆動傾向のトルク配分比を得る制御指令がトルク配分アクチュエータに対し出力される。
【0012】
このように、入力情報としてエンジンや自動変速機等の他の車載制御システムで用いられるアクセル開度センサからのアクセル開度情報を用い、高価な操舵角センサや横加速度センサ等からの旋回情報を用いないシステムとしているため、既存の車載センサを流用できる低コストの簡易システムとすることができる。
【0013】
そして、アクセル開度が低開度域の時には、制動トルクの前後輪伝達を抑えた2輪駆動傾向のトルク配分比とされることでタイトコーナブレーキング現象が未然に防止されるし、アクセル開度が高開度域の時には、前後輪回転速度差の発生やアクセル操作量とは無関係に、駆動トルクを前後輪に配分して駆動スリップの発生を有効に抑える4輪駆動傾向のトルク配分比とされることで発進加速性が向上する。
【0014】
ここで、アクセル開度情報を駆動力配分の切換情報として用いた理由は、下記の通りである。
【0015】
まず、タイトコーナブレーキング現象に着目した場合、この現象は路面影響を受けやすくブレーキングトルクを上回るような駆動トルクの発生がない低トルク伝達時にドライバや乗員に違和感を与える。そして、この駆動トルクが低トルクかどうかは、車載センサとしてポピュラーなアクセル開度センサからのアクセル開度により推定できる。
【0016】
また、直進発進時においてはタイトコーナブレーキング現象は問題とはならないが、アクセル開度が設定開度未満で2輪駆動傾向の配分比に予め設定しておくことで、旋回発進時等において、未然にタイトコーナブレーキング現象を防止できる。
【0017】
さらに、この発進時でアクセル開度が設定開度未満の時にはタイトコーナブレーキング現象防止要求の方が発進加速要求よりも大きく、アクセル開度が設定開度以上で4輪駆動傾向に駆動力配分を切り換えることで、十分に発進加速要求に応えることができる。
【0018】
加えて、エンジントルク推定手段において、アクセル開度検出値とエンジン回転数検出値によりエンジントルクが推定計算され、伝達トルク計算手段において、エンジントルク推定値とトランスミッションのギア比により前後輪に伝達される伝達トルクが計算され、等配分トルク計算手段において、伝達トルク計算値の1/2の等配分トルクが計算され、トルク配分コントローラにおいて、等配分トルク計算値とリミッタトルク値のうち最小値選択により前後輪の一方への伝達トルクが決められる。
【0019】
よって、アクセル開度が低開度域の時には、最小値選択により2輪駆動傾向のトルク配分比が保証され、確実にタイトコーナブレーキング現象が防止されるし、アクセル開度が高開度域の時には、リミッタトルク値を上回らない限り等配分トルク計算値が選択され、完全4輪駆動のトルク配分比とされることで高い発進加速性が得られる。
【0020】
請求項2記載の発明では、リミッタトルク値設定手段において、旋回半径計算手段により計算された旋回半径計算値が小さいほど小さな値に制限したリミッタトルク値が設定される。そして、トルク配分コントローラにおいて、等配分トルク計算値とリミッタトルク値設定手段により設定された旋回半径対応のリミッタトルク値のうち最小値選択により前後輪の一方への伝達トルクが決められる。
【0021】
よって、旋回半径の小さな旋回時ほど小さな値によるリミッタトルク値が選択されることになり、タイトコーナブレーキング現象の防止効果が高められる。
【0022】
請求項3記載の発明では、旋回半径計算手段において、左右輪速度差に基づいて旋回半径が計算されると共に、左右輪速度差に対するフィルタが、車速が設定車速未満の極低速域で、かつ、アクセル開度が設定開度未満の低開度領域の時には、他の走行状態時に比べて弱められる。
【0023】
よって、極低速のアクセル開度が小さいときは、車輪ホイールスピン等の左右車輪速度差変動が起きずらいので、フィルタを弱めることで、旋回半径判別の応答性が良くなる。この結果、旋回発進時の特にアクセルをあまり踏まないときにフィルタが強いと、旋回半径対応によるリミッタトルク値の設定による前後輪一方の車輪への伝達トルク低減応答が遅れるが、フィルタが弱いと旋回半径対応によるリミッタトルク値の設定により応答良く伝達トルクが低減され、タイトコーナブレーキング現象防止効果の実効が図られる。
【0024】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
実施の形態1は請求項1〜3に記載の発明に対応する四輪駆動車の駆動力配分制御装置である。
【0025】
まず、構成を説明する。
【0026】
図1は実施の形態1における四輪駆動車の駆動力配分制御装置を示す全体システム図で、1はエンジン、2は自動変速機、3はフロントディファレンシャル、4はリヤディファレンシャル、5は右前輪、6は左前輪、7は右後輪、8は左後輪、9はトルク配分クラッチ(トルク配分アクチュエータ)、10はトルク配分コントローラ、11は右前輪速センサ、12は左前輪速センサ、13は右後輪速センサ、14は左後輪速センサ、15はアクセル開度センサ、16はエンジン回転センサ、17はATコントローラである。
【0027】
この実施の形態1の発明が適用される四輪駆動車は、左右の前輪5,6へはエンジン駆動力が直接伝達され、左右の後輪7,8へはトルク配分クラッチ9を介してエンジン駆動力が伝達される前輪駆動ベースの四輪駆動車である。即ち、トルク配分クラッチ9が締結解放状態であれば、前輪:後輪=100:0のトルク配分比となり、トルク配分クラッチ9がエンジントルクの1/2トルク以上にて締結されていれば、前輪:後輪=50:50の等トルク配分比となり、トルク配分コントローラ10からのトルク配分クラッチ9に対する制御指令により、前輪5,6と後輪7,8に伝達されるトルク配分比が、前輪:後輪=100〜50:0〜50の範囲にてトルク配分クラッチ9の締結トルクに応じて可変に制御される。
【0028】
前記トルク配分コントローラ10は、各車輪速センサ11,12,13,14からの車輪速信号と、アクセル開度センサ15からのアクセル開度信号と、エンジン回転センサ16からのエンジン回転信号と、ATコントローラ17からのギア位置信号等を入力し、決められた制御則にしたがった演算処理を行い、その演算処理結果による制御指令をトルク配分クラッチ9に出力する。
【0029】
図2は実施の形態1の駆動力配分制御装置に採用されたトルク配分コントローラ10でのトルク配分制御演算処理を示す制御ブロック図である。
【0030】
4輪車輪速計算部100では、各車輪速センサ11,12,13,14からの車輪速信号に基づいて前輪右車輪速度VwFRと前輪左車輪速度VwFLと後輪右車輪速度VwRRと後輪左車輪速度VwRLが計算される。尚、この計算部100は、アンチスキッドブレーキシステム(ABS)が搭載された車両では、ABSコントローラでの計算結果を流用することで省略しても良い。
【0031】
推定車体速計算部101(車速検出手段)では、各車輪速度VwFR,VwFL,VwRR,VwRLに基づいて推定車体速VFFが計算される。
【0032】
ゲイン計算部102では、計算された推定車体速VFFとゲインマップによりゲインKhが計算される。
【0033】
前後回転数差計算部103では、左右前輪車輪速度VwFR,VwFLの平均値と左右後輪車輪速度VwRR,VwRLの平均値との差により前後回転数差△Vwが計算される。
【0034】
前後回転数差トルク計算部104では、前輪左右輪速差△VwFによりゲインKDFが計算され、Kh×KDFをトータルゲインとして前後回転数差△Vwに応じた前後回転数差トルクT△Vが計算される。
【0035】
アクセル開度計算部105(アクセル開度検出手段)では、アクセル開度センサ15からのセンサ信号に基づいてアクセル開度ACCが計算される。
【0036】
エンジン回転計算部106(エンジン回転数検出手段)では、エンジン回転センサ16からのセンサ信号に基づいてエンジン回転数NEが計算される。
【0037】
エンジントルク計算部107(エンジントルク推定手段)では、エンジン回転数NEとアクセル開度ACCに応じて設定されたエンジントルクマップに基づいてエンジントルクTENGが計算される。
【0038】
ギア比計算部108では、ATコントローラ17からのギア位置信号に基づいてギア比GPが計算される。
【0039】
伝達トルク計算部109(伝達トルク計算手段)では、エンジントルクTENGをミッションギア比GPにより換算することで駆動系に伝達される伝達トルクT4が計算される。
【0040】
等配分トルク計算部110(等配分トルク計算手段)では、後輪7,8に伝達しようとする等配分トルクTRが伝達トルクT4を1/2とする計算式により計算される。
【0041】
後輪右輪速度計算部111(右車輪速度検出手段)では、トルク配分クラッチ9を介してトルク伝達される右後輪7(非駆動輪)の後輪右輪速度VwRRが右後輪速センサ13からのセンサ信号に基づいて計算される。
【0042】
後輪左輪速度計算部112(左車輪速度検出手段)では、トルク配分クラッチ9を介してトルク伝達される左後輪8(非駆動輪)の後輪左輪速度VwRLが左後輪速センサ14からのセンサ信号に基づいて計算される。
【0043】
旋回半径計算部113(旋回半径計算手段)では、左右後輪7,8の車輪間隔であるトレッドtと後輪右輪速度VwRRと後輪左輪速度VwRLにより旋回半径Rが計算される。
【0044】
リミッタトルク値計算部114(リミッタトルク値設定手段)では、旋回半径Rに応じたリミッタトルクTRLIMが計算される。このリミッタトルクTRLIMを決めるマップには、ACC<1/8の時の低トルク特性による第1リミッタトルクTRLIM1と、ACC≧1/8の時の高トルク特性による第2リミッタトルクTRLIM2とが設定されている。
【0045】
リア伝達トルク計算部115では、ACC<1/8開度の時には、リア伝達トルクTEが、等配分トルクTRと第1リミッタトルクTRLIM1とのセレクトローにより計算され、ACC≧1/8開度の時には、リア伝達トルクTEが、等配分トルクTRと第2リミッタトルクTRLIM2とのセレクトローにより計算される。
【0046】
目標トルク選択部116では、前記前後回転数差トルク計算部104により計算された前後回転数差トルクT△Vと、前記リア伝達トルク計算部115により計算されたリア伝達トルクTEとのセレクトハイにより目標トルクTOUTが選択される。尚、目標トルクTOUTを電流変換してトルク配分クラッチ9内のソレノイド電流が制御される。
【0047】
次に、作用を説明する。
【0048】
[リア伝達トルク制御作用]
図3はトルク配分コントローラ10において行われるリア伝達トルクの演算処理の流れを示すフローチャートで、以下、図3のフローチャートに基づいてリア伝達トルク制御作用を説明する。
【0049】
ステップ30では、エンジントルク計算部107において、エンジン回転数NEとアクセル開度ACCに応じて設定されたエンジントルクマップに基づいてエンジントルクTENGが計算され、ステップ31では、伝達トルク計算部109において、エンジントルクTENGをミッションギア比GPにより換算することで駆動系に伝達される伝達トルクT4が計算され、ステップ32では、等配分トルク計算部110において、後輪7,8に伝達しようとする等配分トルクTRが伝達トルクT4を1/2とする計算式により計算される。つまり、前輪:後輪=50:50の等配分比が基本前後配分とされる。
【0050】
そして、ステップ33では、旋回半径計算部113において、左右後輪7,8の車輪間隔であるトレッドtと後輪右輪速度VwRRと後輪左輪速度VwRLにより旋回半径Rが計算され、ステップ34では、アクセル開度ACCがACC≧1/8かどうかが判断され、ステップ34でYESの場合、ステップ35へ進み、リミッタトルク値計算部114において、旋回半径Rに応じた高トルク特性による第2リミッタトルクTRLIM2が計算され、ステップ34でNOの場合、ステップ36へ進み、リミッタトルク値計算部114において、旋回半径Rに応じた低トルク特性による第1リミッタトルクTRLIM1が計算される。
【0051】
そして、ステップ35又はステップ36の一方によりリミッタトルクTRLIMが決められると、ステップ37へ進み、リア伝達トルク計算部115において、ACC<1/8開度の時には、リア伝達トルクTEが、等配分トルクTRと第1リミッタトルクTRLIM1とのセレクトローにより計算され、ACC≧1/8開度の時には、リア伝達トルクTEが、等配分トルクTRと第2リミッタトルクTRLIM2とのセレクトローにより計算され、目標トルク選択部116に出力される。
【0052】
すなわち、アクセル開度ACCが1/8開度未満の低開度領域の時には、図5に示すように、第1リミッタトルクTRLIM1により左右後輪7,8への伝達トルクがリミッタ無しに比べて低く抑えられ、2輪駆動傾向のトルク配分となるように左右後輪7,8へのリア伝達トルクTEを制限する制御指令がトルク配分クラッチ9に対し出力される。一方、アクセル開度ACCが1/8開度以上の高開度領域の時には、第2リミッタトルクTRLIM2が高トルク特性であることで制限が緩和され、主に等配分トルクTRで決まるような4輪駆動傾向のトルク配分比を得る制御指令がトルク配分クラッチ9に対し出力されることになる。
【0053】
よって、旋回発進開始時や低アクセル開度での旋回走行時において、タイトコーナブレーキング現象が未然に防止されるし、また、発進時においてアクセル踏み込み操作によりアクセル開度が1/8開度以上になると、エンジン駆動トルクを前後輪に等しく配分する4輪駆動傾向のトルク配分比とされることで、駆動スリップが抑えられ、発進加速性が向上する。
【0054】
ここで、アクセル開度情報を駆動力配分の切換情報として用いた理由は、下記の通りである。
【0055】
まず、タイトコーナブレーキング現象に着目した場合、この現象は路面影響を受けやすくブレーキングトルクを上回るような駆動トルクの発生がない低トルク伝達時にドライバや乗員に違和感を与える。そして、この駆動トルクが低トルクかどうかは、車載センサとしてポピュラーなアクセル開度センサからのアクセル開度により推定できる。
【0056】
また、直進発進時においてはタイトコーナブレーキング現象は問題とはならないが、アクセル開度が1/8開度未満で2輪駆動傾向の配分比に予め設定しておくことで、旋回発進時等において、未然にタイトコーナブレーキング現象を防止できる。
【0057】
さらに、この発進時でアクセル開度が1/8開度未満の時にはタイトコーナブレーキング現象防止要求の方が発進加速要求よりも大きく、アクセル開度が1/8開度以上で4輪駆動傾向に駆動力配分を切り換えることで、十分に発進加速要求に応えることができる。
【0058】
[旋回半径の計算]
図4はトルク配分コントローラ10の旋回半径計算部113において行われる旋回半径計算処理の流れを示すフローチャートで、以下、図4のフローチャートに基づいて旋回半径計算処理作用を説明する。
【0059】
ステップ40では、後輪右輪速度VwRRから後輪左輪速度VwRLを引いた値の絶対値により左右後輪速度差として△VrNEWが計算され、ステップ41では、今回計算された左右後輪速度差△VrNEWが10msec前に計算された左右後輪速度差△VrOLDを超えているかどうかが判断される。
【0060】
そして、ステップ41で左右後輪速度差が減少していると判断されると、ステップ42へ進み、旋回半径Rの計算に用いられる左右後輪速度差△Vrとして10msec前に計算された左右後輪速度差△VrOLDが設定される。
【0061】
一方、ステップ41で左右後輪速度差が増加していると判断されると、ステップ43へ進み、アクセル開度ACCが1/8開度以上で、且つ、車速が5km/h以上かどうかが判断され、ステップ43の条件を満足するときには、ステップ44へ進み、旋回半径Rの計算に用いられる左右後輪速度差△Vrが、今回計算された左右後輪速度差△VrNEWと、10msec前に計算された左右後輪速度差△VrOLDに0.025km/hを加えた値とのセレクトローにより決定される。また、ステップ43の条件を満足しないときには、ステップ45へ進み、旋回半径Rの計算に用いられる左右後輪速度差△Vrが、今回計算された左右後輪速度差△VrNEWと、10msec前に計算された左右後輪速度差△VrOLDに0.05km/hを加えた値とのセレクトローにより決定される。
【0062】
そして、ステップ46では、ステップ42,44,45のいずれかで決定された左右後輪速度差△Vrと、左右後輪7,8の車輪間隔であるトレッドtと、内輪速度=min(VwRR,VwRL)を用いて旋回半径Rが計算された後(図7)、ステップ47にて△VrOLDをステップ42,44,45のいずれかで決定された左右後輪速度差△Vrで更新する。
【0063】
すなわち、旋回半径計算部113において、左右後輪速度差△Vrに基づいて旋回半径Rが計算されると共に、左右後輪速度差△Vrに対するフィルタ(左右後輪速度差の最大変化幅)が、車速が5km/h未満の極低速域で、かつ、アクセル開度ACCが1/8開度未満の低開度領域の時には0.05km/hまで許容され、それ以外の走行状態時の0.025km/hまでしか許容されないのに比べて弱められる。
【0064】
よって、極低速のアクセル開度が小さいときは、車輪ホイールスピン等の左右車輪速度差変動が起きずらいので、フィルタを弱めることで、旋回半径判別の応答性が良くなる。尚、旋回半径の推定に使う車輪は非駆動輪である後輪7,8とするのは、駆動輪である前輪5,6はホイールスピンにより旋回半径の推定を誤ることがあるためである。
【0065】
次に、効果を説明する。
【0066】
(1)入力情報としてエンジンや自動変速機等の他の車載制御システムで用いられるアクセル開度センサ15からのアクセル開度情報を用い、高価な操舵角センサや横加速度センサ等からの旋回情報を用いないシステムとしているため、既存の車載センサを流用できる低コストの簡易システムとすることができる。
【0067】
そして、アクセル開度ACCが1/8開度未満の低開度域の時には、制動トルクの前後輪伝達を抑えた2輪駆動傾向のトルク配分比とされることでタイトコーナブレーキング現象が未然に防止されるし、アクセル開度ACCが1/8開度以上の高開度域の時には、前後輪回転速度差の発生やアクセル操作量とは無関係に、駆動トルクを前後輪に配分して駆動スリップの発生を有効に抑える4輪駆動傾向のトルク配分比とされることで発進加速性が向上する。
【0068】
(2) エンジントルク計算部107においてエンジントルクTEが推定計算され、伝達トルク計算部109において、前後輪に伝達される伝達トルクT4が計算され、等配分トルク計算部110において、等配分トルクTRが計算され、リア伝達トルク計算部115において、アクセル開度ACCが1/8開度未満の時は、等配分トルクTRと第1リミッタトルクTRLIM1のうち最小値選択により後輪7,8へのリア伝達トルクTEが決められ、アクセル開度ACCが1/8開度以上の時は、等配分トルクTRと第2リミッタトルクTRLIM2のうち最小値選択により後輪7,8へのリア伝達トルクTEが決められる。
【0069】
よって、アクセル開度ACCが1/8開度未満の低開度域の時には、最小値選択により2輪駆動傾向のトルク配分比が保証され、確実にタイトコーナブレーキング現象が防止されるし、アクセル開度ACCが1/8開度以上の高開度域の時には、第2リミッタトルクTRLIM2を上回らない限り等配分トルクTRが選択され、完全4輪駆動のトルク配分比とされることで高い発進加速性が得られる。
【0070】
(3)リミッタトルク値計算部114において、旋回半径Rが小さいほど小さな値に制限した第1リミッタトルクTRLIM1と第2リミッタトルクTRLIM2が計算される。
【0071】
よって、図6に示すように、旋回半径Rの小さな旋回時ほど小さな値によるリミッタトルクTRLIM1,TRLIM2が選択されることになり、小半径旋回時ほど強くなるタイトコーナブレーキング現象の防止効果が高められる。
【0072】
(4) 旋回半径計算部113において、左右後輪速度差△Vrに基づいて旋回半径Rが計算されると共に、左右後輪速度差△Vrに対するフィルタが、車速が5km/h未満の極低速域で、かつ、アクセル開度ACCが1/8開度未満の低開度領域の時は、それ以外の走行状態時に比べて弱められる。
【0073】
よって、極低速のアクセル開度ACCが小さいときは、車輪ホイールスピン等の左右車輪速度差変動が起きずらいので、フィルタを弱めることで、旋回半径判別の応答性が良くなる。この結果、旋回発進時の特にアクセルをあまり踏まないときにフィルタが強いと、旋回半径対応による第1リミッタトルクTRLIM1の設定による後輪7,8への伝達トルク低減応答が遅れるが、フィルタが弱いと旋回半径対応による第1リミッタトルクTRLIM1の設定により応答良く伝達トルクが低減され、タイトコーナブレーキング現象防止効果の実効が図られる。
【0074】
(その他の実施の形態)
実施の形態1では、前輪駆動ベースの四輪駆動車への適用例を示したが、後輪駆動ベースの四輪駆動車にも適用することができる。
【0075】
実施の形態1では、アクセル開度しきい値として1/8開度とする例を示したが、これは異なる性能のエンジンを搭載しているかどうかや、タイトコーナブレーキング防止と発進加速性のどちらを重視するか等によって多少の値の変更は許容される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態1における四輪駆動車の駆動力配分制御装置を示す全体システム図である。
【図2】実施の形態1の駆動力配分制御装置に採用されたトルク配分コントローラでのトルク配分制御演算処理を示す制御ブロック図である。
【図3】実施の形態1における駆動力配分制御装置のトルク配分コントローラにて行われるリア伝達トルクの演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施の形態1における駆動力配分制御装置のトルク配分コントローラの旋回半径計算部にて行われる旋回半径計算処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施の形態1の駆動力配分制御においてアクセル開度が1/8開度未満の時にリミッタ有無によるリアへの伝達トルク対比を示すタイムチャートである。
【図6】実施の形態1の駆動力配分制御においてアクセル開度が1/8開度未満から1/8開度以上に移行すると共に、旋回半径が大半径→小半径→大半径と移行した時のリア伝達トルクの変化を示すタイムチャートである。
【図7】実施の形態1の駆動力配分制御において左右後輪の車輪速に基づいて旋回半径を計算する際の概念図である。
【符号の説明】
1 エンジン
2 自動変速機
3 フロントディファレンシャル
4 リヤディファレンシャル
5 右前輪
6 左前輪
7 右後輪
8 左後輪
9 トルク配分クラッチ(トルク配分アクチュエータ)
10 トルク配分コントローラ
11 右前輪速センサ
12 左前輪速センサ
13 右後輪速センサ
14 左後輪速センサ
15 アクセル開度センサ
16 エンジン回転センサ
17 ATコントローラ
Claims (3)
- エンジントルクを前輪と後輪に配分する駆動系に設けられたトルク配分アクチュエータに対するトルク配分コントローラからの制御指令により前輪と後輪に伝達されるトルク配分比が制御される四輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段と、
エンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
アクセル開度検出値とエンジン回転数検出値によりエンジントルクを推定計算するエンジントルク推定手段と、
エンジントルク推定値とトランスミッションのギア比により前後輪に伝達される伝達トルクを計算する伝達トルク計算手段と、
伝達トルク計算値の1/2の等配分トルクを計算する等配分トルク計算手段を設け、
前記トルク配分コントローラを、アクセル開度が設定開度未満の低開度領域の時には、
2輪駆動傾向のトルク配分となるように前後輪の一方への伝達トルクを制限し、アクセル開度が設定開度以上の高開度領域の時には、4輪駆動傾向のトルク配分比を得る制御を行うように、等配分トルク計算値と設定されたリミッタトルク値のうち最小値選択により前後輪の一方への伝達トルクを決める手段としたことを特徴とする四輪駆動車の駆動力配分制御装置。 - 請求項1記載の四輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
旋回半径を計算する旋回半径計算手段と、
旋回半径計算値が小さいほど小さな値に制限したリミッタトルク値に設定するリミッタトルク値設定手段を設け、
前記トルク配分コントローラを、等配分トルク計算値と前記リミッタトルク値設定手段により設定された旋回半径対応のリミッタトルク値のうち最小値選択により前後輪の一方への伝達トルクを決める手段としたことを特徴とする四輪駆動車の駆動力配分制御装置。 - 請求項2記載の四輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
エンジントルクがトルク配分アクチュエータを介して伝達される非駆動輪側左右輪の車輪速度をそれぞれ検出する右車輪速度検出手段及び左車輪速度検出手段と、
車速を検出する車速検出手段を設け、
前記旋回半径計算手段を、左右輪速度差に基づいて旋回半径を計算する手段にすると共に、左右輪速度差に対するフィルタを、車速が設定車速未満の極低速域で、かつ、アクセル開度が設定開度未満の低開度領域の時には、他の走行状態時に比べ弱める手段としたことを特徴とする四輪駆動車の駆動力配分制御装置。
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