JP3759306B2 - 電磁補助制御手段付き負圧ブースタ - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は，自動車のブレーキマスタシリンダの倍力作動のために用いられる負圧ブースタに関し，特に，ブースタシェルに，その内部を負圧源に連なる前側の負圧室と後側の作動室とに区画するブースタピストンを収容し，このブースタピストンに，ブースタシェルの後壁に摺動自在に支承される弁筒を連設し，この弁筒内に，該弁筒に前後動可能に支承される入力部材と，この入力部材及び弁筒間に装着されて入力部材を後退方向へ付勢する入力戻しばねと，入力部材の前後動に応じて作動室を負圧室と大気とに連通切換えする制御弁とを配設し，この制御弁を，入力部材に設けられる環状で後向きの第１弁座と，弁筒に形成されてこの第１弁座を囲繞する環状で後向き第２弁座と，弁筒に取り付けられると共に第１及び第２弁座に着座すべく前向きにばね付勢される環状の弁体とで構成し，弁筒に，負圧室に連通して第１弁座及び弁体間に開口する第１ポートと，作動室に連通して第 １及び第２弁座間に開口する第２ポートを設ける一方，弁体の内側を大気に連通し，以上により入力部材の前進時には第１弁座を弁体から開かせて作動室に大気を導入し，入力部材の後退時には弁体を第２弁座から開かせて負圧室及び作動室間を連通させるようにし，さらに弁筒内には，入力部材の前進時に励起されると，作動室への大気導入量を増加させる電磁補助制御手段を配設した，電磁補助制御手段付き負圧ブースタの改良に関する。
【０００２】
【従来の技術】
かゝる電磁補助制御手段付き負圧ブースタは，特開平７−２５１７３３号公報に開示されているように，既に知られており，緊急ブレーキ時には，電磁補助制御手段を作動して制御弁の作動量を増加させることにより，作動室に大量の大気を素早く導入して，出力杆に倍力限界の高出力を発揮させることができる。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報に開示された電磁補助制御手段付き負圧ブースタでは，大気を作動室に導入する弁座として，入力部材に固設される第１の弁座と，電磁補助制御手段に連結される第２の弁座とが併設され，通常ブレーキ時には，入力部材の前進に伴い第１の弁座が全開になってから第２の弁座が開くようになっている。
【０００４】
したがって，第１の弁座が全開となるまでの入力部材の前進量は無効ストロークとなり，入力部材の前進開始から，作動室に大気が導入されてブースタピストンが作動するまでに，時間の遅れが生ずるという欠点があり，また大気導入用の弁座が二つも要することから，部品点数が多く，構造の複雑化が避けられないという問題もある。
【０００５】
本発明は，上記欠点及び問題をすべて解消した前記電磁補助制御手段付き負圧ブースタを提供することを目的とする。
【０００６】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために，本発明は，ブースタシェルに，その内部を負圧源に連なる前側の負圧室と後側の作動室とに区画するブースタピストンを収容し，このブースタピストンに，ブースタシェルの後壁に摺動自在に支承される弁筒を連設し，この弁筒内に，該弁筒に前後動可能に支承される入力部材と，この入力部材及び弁筒間に装着されて入力部材を後退方向へ付勢する入力戻しばねと，入力部材の前後動に応じて作動室を負圧室と大気とに連通切換えする制御弁とを配設し，この制御弁を，入力部材に設けられる環状で後向きの第１弁座と，弁筒に形成されてこの第１弁座を囲繞する環状で後向き第２弁座と，弁筒に取り付けられると共に第１及び第２弁座に着座すべく前向きにばね付勢される環状の弁体とで構成し，弁筒に，作動室に連通して第１及び第２弁座間に開口する第１ポートと，負圧室に連通して第１弁座の外周に開口する第２ポートとを設ける一方，弁体の内側を大気に連通し，以上により入力部材の前進時には第１弁座を弁体から開かせて作動室に大気を導入し，入力部材の後退時には弁体を第２弁座から開かせて負圧室及び作動室間を連通させるようにし，さらに弁筒内には，入力部材の前進時に励起されると，作動室への大気導入量を増加させる電磁補助制御手段を配設した，電磁補助制御手段付き負圧ブースタにおいて，前記第１弁座を，入力部材に規定ストローク内で前後動可能に取り付けると共に，前記電磁補助制御手段を，弁筒に固設される固定コアと，この固定コアに装着されるソレノイドと，第１弁座に一体に連結されて固定コアに対向配置され，入力部材の前進時，ソレノイドが励起されると，第１弁座の弁体に対する開き量を前記規定ストローク分増加するように作動する可動コアとで構成し，入力部材の入力解放時には，ソレノイドの励起状態でも入力部材を介して可動コアを離間させる得るばね力を前記入力戻しばねに付与したことを第１の特徴とする。
【０００７】
この第１の特徴によれば，大気導入用の単一の第１弁座により，通常ブレーキ及び緊急ブレーキに対応して作動室への大気の導入を制御することができる。特に，緊急ブレーキ時には，第１弁座の弁体に対する開き量が前記規定ストローク分増加することで，他の部材に何等干渉されることなく，作動室への大気導入量を即座に増加させて，作動室を大気で急速に満たすことができて，ブースタピストンを強力に駆動し，緊急ブレーキに的確に対応することができる。しかも大気導入用の第１弁座が一個で足りることから，構造の簡素化を図ることができる。
【０００８】
またこの第１弁座には，入力部材との間に無効ストロークが無いから，ブースタピストンの応答性を高めることができる。
【０００９】
さらに緊急ブレーキ状態から入力部材を解放したとき，何等かの故障によりソレノイドの励起が解除されない場合でも，入力戻しばねの力により固定及び可動コアの吸引力が無能となる位置まで可動コアを後退させ，それと共に第１弁座を後退させて，作動室を負圧室に連通させ，ブースタピストンの作動を解除することができる。
【００１０】
また本発明は，第１の特徴に加えて，前記固定コア及び可動コア間に，入力部材が弁筒に対する後退限に位置し，且つ第１弁座が弁体に着座しているとき，ソレノイドの励起によるも可動コアを作動させ得ない間隙を設けたことを第２の特徴とする。
【００１１】
この第２の特徴によれば，入力部材の非作動時，何等かの故障によりソレノイドが励起されても，可動コアが固定コアに吸引されることはなく，第１弁座の誤作動を防止することができる。
【００１２】
【実施例の形態】
本発明の実施の形態を，添付図面に示す本発明の実施例に基づいて説明する。
【００１３】
図１は本発明の実施例に係る電磁補助制御手段付きのタンデム型負圧ブースタの縦断面図，図２は図１の要部拡大図，図３は該負圧ブースタの特性を示す線図である。
【００１４】
図１及び図２において，負圧ブースタＢのブースタシェル１は，ブースタシェル１は，対向端を相互に結合する前後一対のシェル半体１ａ，１ｂと，両シェル半体１ａ，１ｂ間に挟止されてブースタシェル１内部を前部シェル室２と後部シェル室３とに仕切る隔壁板１ｃとから構成され，その後部シェル半体１ｂが自動車の車室前壁Ｆにボルト８により固定して支持され，前部シェル半体１ａには，該ブースタＢにより作動されるブレーキマスタシリンダＭのシリンダボディＭａがボルト９により固着される。
【００１５】
前部シェル室２は，それに前後往復動可能に収容される前部ブースタピストン４と，その後面に重ねて結着されると共に前部シェル半体１ａと隔壁板１ｃ間に挟着される前部ダイヤフラム５とにより，前側の前部負圧室２ａと後側の前部作動室２ｂとに区画される。そして，前部負圧室２ａは，負圧導入管１４を介して負圧源Ｖ（例えば内燃機関の吸気マニホールド内部）と接続される。
【００１６】
また後部シェル室３は，それに前後往復動可能に収容される後部ブースタピストン６と，その後面に重ねて結着され，且つ隔壁板１ｃと共に両シェル半体１ａ，１ｂ間に固着される後部ダイヤフラム７とにより，前側の後部負圧室３ａと後側の後部作動室３ｂとに区画される。
【００１７】
前，後部ブースタピストン４，６はそれぞれ鋼板により環状に成形されており，これらは中心部に固着される合成樹脂製の弁筒１０を介して一体に連結される。弁筒１０は，隔壁板１ｃにシール部材１１を介して，また後部シェル半体１ｂの中心部に形成された後方延長筒１２にシール部材１３を介して摺動自在に支承される。両ブースタピストン４，６の後退限は，後部ダイヤフラム７の後面に多数***させた突起７ａがブースタシェル１の後壁に当接することにより規定される。
【００１８】
弁筒１０の前半部内周面には，ボビン１５に巻装されたソレノイド１６を収容する磁性体の円筒状ハウジング１７が嵌装される。このハウジング１７の前端には，ボビン１５の前部内周面に嵌合する円筒状の固定コア１８がかしめにより固着され，この固定コア１８に一定の間隔を置いて対向すべくボビン１５の後部内周面に嵌合する環状のヨーク１９がハウジング１７の後端にかしめにより固着される。そして固定コア１８の外周部前面を押圧する環状の係止環２６が弁筒１０の内周面に係止され，これによりハウジング１７は，ヨーク１９を弁筒１０の中間隔壁１０ａにＯリング２０を挟んで当接させた状態に保持される。
【００１９】
ヨーク１９の内周面には円筒状の可動コア２１がスリーブ２２を介して摺動自在に嵌合し，この可動コア２１の内周面に弁プランジャ２３がＯリング２７を介して同じく摺動自在に嵌合する。この弁プランジャ２３の後端部に，前記後方延長筒１２の後端から弁筒１０内に突入した入力杆２４の球状前端部２４ａが首振り可能にかしめ結合される。入力杆２４は，その後端に連結されるブレーキペダルＰにより操作されるものである。
【００２０】
弁プランジャ２３には，可動コア２１の後端に対向する環状段部２３ａが形成されると共に，可動コア２１の前端に対向するストッパ環２５が圧入により固定されており，これらによって可動コア２１の，弁プランジャ２３に対する摺動ストロークが一定値ｓに制限される。
【００２１】
可動コア２１には，弁筒１０の中間隔壁１０ａを貫通する円筒状の第１弁座３０ 1 が一体に形成され，またこの第１弁座３０1 を囲繞するように配置される第２弁座３０2 が弁筒１０に一体に形成されており，両弁座３０1 ，３０2 に対向する環状の弁体３１が弁筒１０内に配設される。この弁体３１は，弁筒１０の後部内周面にＯリング２９を介し嵌合して固着された円筒状の弁ホルダ２８にシールダイヤフラム３２を介して前後動可能に連結されると共に，該ホルダ２８に支持される弁ばね３３により上記両弁座３０1 ，３０2 に向かって付勢される。
【００２２】
前記後方延長筒１２の後端には，中心部に大気導入口３５が開口する内向きフランジ１２ａが一体に形成されており，このフランジ１２ａの内側面に当接して入力杆２４の後退限を規定するストッパ板３６が入力杆２４に前後方向調節可能に固着され，その後退限に向かって入力杆２４は，弁ホルダ２８に支持される入力戻しばね３７により付勢される。
【００２３】
また弁筒１０の後端部内周には，エアフィルタ３８が装着され，それを通して第１弁座３０1 の内周は大気導入口３５と常時連通している。上記エアフィルタ３８は，入力杆２４の弁筒１０に対する前後動を妨げないように柔軟性を有する。
【００２４】
弁筒１０には，前後の作動室２ｂ，３ｂ間を連通する第１連通路３９1 と，前後の負圧室２ａ，３ａ間を連通する第２連通路３９2 と，第１連通路３９1 を第１及び第２弁座３０1 ，３０2 間の環状通路４０に連通する第１ポート４１1 と，第２連通路３９2 を第２弁座３０2 の外周側に連通する第２ポート４１2 とが形成される。
【００２５】
第１弁座３０1 は，弁筒１０の中間隔壁１０ａに支持される弁座戻しばね４２により後方へ付勢され，そのばね力は弁体３１を前方へ付勢する弁ばね３３のそれより大きく設定される。したがって，可動コア２１は，通常，弁座戻しばね４２のばね力をもって弁プランジャ２３の環状段部２３ａに当接する摺動後退限に保持され，このとき，固定及び可動コア１８，２１間には規定の間隙ｇが設けられ，この間隙ｇは，ソレノイド１６の励起によるも両コア１８，２１に発生する吸引力を無能化するに足る充分な大きさに設定される。したがって，可動コア２１は，固定コア１８に接近しない限り，ソレノイド１６が励起されても固定コア１８に吸引されないようになっている。固定コア１８の後端面には，可動コア２１を吸引したとき，その前端部を受容する環状凹部１８ａが形成される。
【００２６】
固定コア１８の前端部は第１ピストン４３に形成され，この第１ピストン４３の中心部に形成されて，その前面に開口する有底のシリンダ孔４４に，第１ピストン４３より一定の割合で縮径した第２ピストン４５が摺動自在に嵌装され，この第２ピストン４５の後端面に，固定コア１８の中心部を摺動自在に貫通する弁プランジャ２３の前端が当接する。この弁プランジャ２３には，シリンダ孔４４の底面に当接して弁プランジャ２３の固定コア１８に対する後退限を規定するストッパ環４６が係止される。
【００２７】
第１ピストン４３の外周にカップ体４７が摺動自在に嵌合し，このカップ体４７には第１及び第２ピストン４３，４５に対向する偏平の弾性ピストン４８が充填される。
【００２８】
カップ体４７の前面には出力杆４９が突設され，この出力杆４９は前記ブレーキマスタシリンダＭのピストンＭｂに連接される。またカップ体４７及び弁筒１０の前端面に当接するリテーナ５０が配設され，このリテーナ５０とブースタシェル１の前壁との間に弁筒戻しばね５１が縮設される。
【００２９】
以上において，入力杆２４及び弁プランジャ２３は入力部材５２を構成し，弁体３１，弁ばね３３，第１弁座３０1 及び第２弁座３０2 は制御弁３４を構成する。またハウジング１７，ソレノイド１６，固定コア１８及び可動コア２１は電磁補助制御手段５３を構成するものであり，そのソレノイド１６には，それへの通電を制御する制御ユニット５４が接続される。
【００３０】
この制御ユニット５４の入力側には，操縦者のブレーキペダルＰに対する踏力が所定値を超えることを検知する踏力検知センサ５５，及び入力杆２４の前進速度が所定値を超えることを検知する操作速度センサ５６の各検知信号が入力される。而して，制御ユニット５４は，上記二センサ５５，５６の何れか一方の検知信号を受けたとき，緊急ブレーキ時と判定して，ソレノイド１６に，これを励起すべく通電する。
【００３１】
次にこの実施例の作用を説明する。先ず負圧ブースタＢの休止状態では，図１に示すように，入力杆２４は後退限に位置し，制御弁３４は，弁体３１を第１及び第２弁座３０1 ，３０2 に着座させて前，後部両作動室２ｂ，３ｂを両負圧室２ａ，３ａ及び大気導入口３５のいずれとも不通にした中立状態にあり，このような制御弁３４により，両負圧室２ａ，３ａには，負圧導入管１４を通して供給される負圧源の負圧が蓄えられ，両作動室２ｂ，３ｂには，大気により適当に希釈された負圧が保持される。こうして前，後部ブースタピストン４，６には，前部の負圧室２ａと作動室２ｂ，後部の負圧室３ａと作動室３ｂの各間に生じる僅かな気圧差により小さな前進力が与えられるが，これらの前進力と弁筒戻しばね５１の力とが釣合って，両ブースタピストン４，６は後退限から僅かに前進したところで停止している。
【００３２】
いま，車両を制動すべくブレーキペダルＰを踏込み，入力杆２４及び弁プランジャ２３を介して第１弁座３０1 を前進させれば，当初，両ブースタピストン４，６は不動であるから，第１弁座３０1 が弁体３１から直ちに離れて，第１ポート４１1 を環状通路４０を介して大気導入口３５に連通させる。その結果，大気導入口３５から弁筒１０内に流入した大気は第１弁座３０1 を通過し，第１ポート４１1 を経て両作動室２ｂ，３ｂに素早く導入され，該室２ｂ，３ｂを両負圧室２ａ，３ａより高圧にするので，それらの気圧差に基づく大きな前方推力を得て両ブースタピストン４，６は，弁筒１０及び第１ピストン４３を伴いながら弁筒戻しばね５１の力に抗して応答良く前進するので，第１ピストン４３が弾性ピストン４８を介してカップ体４７，即ち出力杆４９を前方へ押動してブレーキマスタシリンダＭのピストンＭｂを駆動する。こうして，ブレーキマスタシリンダＭをブレーキペダルＰの踏込みに遅れなく作動させ，車両に制動かけることができる。
【００３３】
ところで，このような制動中，弾性ピストン４８の後端面には，第１ピストン４３に加わる両ブースタピストン４，６の推力と，入力杆２４から第２ピストン４５に加わる操縦者の踏力とが作用し，またその前端面には，出力杆４９の作動反力が作用し，これによって弾性ピストン４８は前後に圧縮される。その結果，出力杆４９の作動反力の一部が弾性ピストン４８を介して入力杆２４に伝達されることになり，操縦者は出力杆４９の出力，即ち制動力の大きさを感受することができる。
【００３４】
而して，出力杆４９の出力が倍力限界点に達するまでは（図３の線ａ−ｂ参照），ブースタピストン４，６と一体の弁筒１０は，入力杆２４の前進量だけ前進するもので，入力杆２４が前進を止めると，弁筒１０と共に前進してきた弁体３１が第１弁座３０1 に再び着座して，作動室２ｂ，３ｂへの大気のそれ以上の導入を阻止するので，ブースタピストン４，６の前進も停止し，入力に対応した倍力出力が得られることになる。
【００３５】
出力杆４９の出力が倍力限界点を超えると（図３の線ｂ−ｃ参照），ブースタピストン４，６の気圧差による推力が最大となり，第１弁座３０1 は弁体３１から離間したまゝとなるので，出力杆４９の出力は，ブースタピストン４，６の気圧差による最大推力と，ブレーキペダルＰへの踏力による入力杆２４の推力との和となる。
【００３６】
一方，踏力検知センサ５５及び／又は操作速度センサ５６が検知信号を出力する緊急ブレーキ時には，その検知信号を受けた制御ユニット５４がソレノイド１６を励起して，固定及び可動コア１８，２１に磁力を与える。この場合，ブレーキペダルＰの踏み込みによる入力杆２４，弁プランジャ２３及び可動コア２１の前進により，固定及び可動コア１８，２１の間隙ｇが既に詰まっているので，固定及び可動コア１８，２１が受ける磁力が有効な吸引力となることにより，可動コア２１が固定コア１８に吸引され，弁座戻しばね４２の力に抗して弁プランジャ２３上を規定のストロークｓだけ前進して，第１弁座３０1 を弁体３１から大きく引き離し続ける。その結果，大気導入口３５から弁筒１０に流入した大気が第１弁座３０1 をスムーズに通過して両作動室２ｂ，３ｂを急速に満たすため，図３の線ｄ−ｅに示すように，出力杆４９の出力は即座に倍力限界点まで急速に立ち上がり，マスタシリンダＭのピストンＭｂを急速且つ強力に駆動し，緊急ブレーキに対応することができる。
【００３７】
緊急ブレーキ状態からブレーキペダルＰに対する踏力を解除すると，何等かの故障によりソレノイド１６への通電が継続している場合でも，入力杆２４及び弁プランジャ２３が，入力戻しばね３７の力をもって後退するとき，ストッパ環２５を介して可動コア２１を固定コア１８から強制的に引き離すことができる。すると，第１弁座３０1 は，弁座戻しばね４２の力により弁プランジャ２３の環状段部２３ａに当接状態に保持されて，弁プランジャ２３と共に後退し，弁体３１に着座させると共に，その弁体３１を第２弁座３０2 から大きく離間させるので，両作動室２ｂ，３ｂが第２ポート４１2 及び第２弁座３０2 を介して両負圧室２ａ，３ａと連通する。その結果，両作動室２ｂ，３ｂへの大気の導入が阻止される一方，両作動室２ｂ，３ｂの空気が両負圧室２ａ，３ａを経て負圧限Ｖへ吸入され，それらの気圧差が無くなるため，ブースタピストン４，６も，弁筒戻しばね５１の力をもって後退し，マスタシリンダＭの作動を解除していく。
【００３８】
入力杆２４がストッパ板３６を後方延長筒１２の内向きフランジ１２ａに当接させる後退限まで後退すると，後部ブースタピストン６は，一旦，後部ダイヤフラム７の突起７ａをブースタシェル１の後壁に当接させる後退限まで戻り，今度は第２弁座３０2 を弁体３１に着座させると共に，弁体３１を第１弁座３０1 から離間させるので，再び両作動室２ｂ，３ｂに大気が導入されるが，それにより生ずる気圧差により両ブースタピストン４，６が僅かに前進すれば，第２弁座３０2 にも弁体３１が着座し，制御弁３４を当初の中立状態にする。こうして両作動室２ｂ，３ｂには，大気に希釈された負圧が保持され，負圧ブースタＢは，図１の休止状態となる。
【００３９】
このような休止状態では，前述のように，可動コア２１は，磁力を無能にする充分な間隙ｇを開けて固定コア１８に対向しているから，万一，何等かの故障によりソレノイド１６に通電されても，可動コア２１が固定コア１８に吸引されることはなく，制御弁３４の中立状態は維持されるから，ブースタピストン４，６の誤作動を回避できる。
【００４０】
ところで，大気の導入を制御する第１弁座３０1 は，上記のように，通常ブレーキ時には入力杆２４に連結した弁プランジャ２３により操作され，緊急ブレーキ時には，ソレノイド１６等からなる電磁補助制御手段５３により操作されるので，一個の第１弁座３０1 をもって通常ブレーキ及び緊急ブレーキに対応することができ，構造の簡素化に寄与し得るのみならず，第１弁座３０1 には無効ストロークが無いから，入力杆２４の僅かな動きにより大気の導入を的確に制御することができて，ブースタピストン４，６の応答性を高めることができる。
【００４１】
本発明は，上記実施例に限定されるものではなく，その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば，負圧ブースタＢを，ブースタピストンを単一とするシングル型に構成することもできる。また入力杆２４のストッパ板３６及び後方延長筒１２の内向きフランジ１２ａを廃止し，負圧ブースタＢの休止時には，第２弁座３０2 を開放したまゝにして，作動室２ｂ，３ｂを負圧室２ａ，３ａとの連通状態に保持するようにしてもよい。
【００４２】
【発明の効果】
以上のように本発明の第１の特徴によれば，ブースタシェルに，その内部を負圧源に連なる前側の負圧室と後側の作動室とに区画するブースタピストンを収容し，このブースタピストンに，ブースタシェルの後壁に摺動自在に支承される弁筒を連設し，この弁筒内に，該弁筒に前後動可能に支承される入力部材と，この入力部材及び弁筒間に装着されて入力部材を後退方向へ付勢する入力戻しばねと，入力部材の前後動に応じて作動室を負圧室と大気とに連通切換えする制御弁とを配設し，この制御弁を，入力部材に設けられる環状で後向きの第１弁座と，弁筒に形成されてこの第１弁座を囲繞する環状で後向き第２弁座と，弁筒に取り付けられると共に第１及び第２弁座に着座すべく前向きにばね付勢される環状の弁体とで構成し，弁筒に，作動室に連通して第１及び第２弁座間に開口する第１ポートと，負圧室に連通して第１弁座の外周に開口する第２ポートとを設ける一方，弁体の内側を大気に連通し，以上により入力部材の前進時には第１弁座を弁体から開かせて作動室に大気を導入し，入力部材の後退時には弁体を第２弁座から開かせて負圧室及び作動室間を連通させるようにし，さらに弁筒内には，入力部材の前進時に励起されると，作動室への大気導入量を増加させる電磁補助制御手段を配設した，電磁補助制御手段付き負圧ブースタにおいて，前記第１弁座を，入力部材に規定ストローク内で前後動可能に取り付けると共に，前記電磁補助制御手段を，弁筒に固設される固定コアと，この固定コアに装着されるソレノイドと，第１弁座に一体に連結されて固定コアに対向配置され，入力部材の前進時，ソレノイドが励起されると，第１弁座の弁体に対する開き量を前記規定ストローク分増加するように作動する可動コアとで構成し，入力部材の入力解放時には，ソレノイドの励起状態でも入力部材を介して可動コアを離間させる得るばね力を前記入力戻しばねに付与したので，大気導入用の単一の第１弁座により，通常ブレーキ及び緊急ブレーキに対応して作動室への大気の導入を制御することができる。特に，緊急ブレーキ時には，第１弁座の弁体に対する開き量が前記規定ストローク分増加することで，他の部材に何等干渉されることなく，作動室への大気導入量を即座に増加させて，作動室を大気で急速に満たすことができて，ブースタピストンを強力に駆動し，緊急ブレーキに的確に対応することができる。しかも大気導入用の第１弁座が一個で足りることから，構造の簡素化を図ることができる。
【００４３】
またこの第１弁座には，入力部材との間に無効ストロークが無いから，ブースタピストンの応答性を高めることができる。
【００４４】
さらに緊急ブレーキ状態から入力部材を解放したとき，何等かの故障によりソレノイドの励起が解除されない場合でも，入力戻しばねの力により固定及び可動コアの吸引力が無能となる位置まで可動コアを後退させ，それと共に第１弁座を後退させて，作動室を負圧室に連通させ，ブースタピストンの作動を解除することができる。
【００４５】
また本発明の第２の特徴によれば，前記固定コア及び可動コア間に，入力部材が弁筒に対する後退限に位置し，且つ第１弁座が弁体に着座しているとき，ソレノイドの励起によるも可動コアを作動させ得ない間隙を設けたので，入力部材の非作動時，何等かの故障によりソレノイドが励起されても，可動コアが固定コアに吸引されることはなく，第１弁座の誤作動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の実施例に係る電磁補助制御手段付き負圧ブースタの縦断面図。
【図２】 図１の要部拡大図。
【図３】 該負圧ブースタの特性を示す線図。
【符号の説明】
Ｂ・・・・負圧ブースタ
Ｖ・・・・負圧源
ｇ・・・・間隙
ｓ・・・・ストローク
１・・・・ブースタシェル
２ａ・・・負圧室（前部負圧室）
３ａ・・・負圧室（後部負圧室）
２ｂ・・・作動室（前部作動室）
３ｂ・・・作動室（後部作動室）
４・・・・ブースタピストン（前部ブースタピストン）
６・・・・ブースタピストン（後部ブースタピストン）
１０・・・弁筒
１６・・・ソレノイド
１８・・・固定コア
２１・・・可動コア
３０ 1 ・・第１弁座
３０ 2 ・・第２弁座
３１・・・弁体
３４・・・制御弁
３５・・・大気導入口
３７・・・入力戻しばね
４１ 1 ・・第１ポート
４１ 2 ・・第２ポート
５２・・・入力部材
５３・・・電磁補助制御手段
【発明の属する技術分野】
本発明は，自動車のブレーキマスタシリンダの倍力作動のために用いられる負圧ブースタに関し，特に，ブースタシェルに，その内部を負圧源に連なる前側の負圧室と後側の作動室とに区画するブースタピストンを収容し，このブースタピストンに，ブースタシェルの後壁に摺動自在に支承される弁筒を連設し，この弁筒内に，該弁筒に前後動可能に支承される入力部材と，この入力部材及び弁筒間に装着されて入力部材を後退方向へ付勢する入力戻しばねと，入力部材の前後動に応じて作動室を負圧室と大気とに連通切換えする制御弁とを配設し，この制御弁を，入力部材に設けられる環状で後向きの第１弁座と，弁筒に形成されてこの第１弁座を囲繞する環状で後向き第２弁座と，弁筒に取り付けられると共に第１及び第２弁座に着座すべく前向きにばね付勢される環状の弁体とで構成し，弁筒に，負圧室に連通して第１弁座及び弁体間に開口する第１ポートと，作動室に連通して第 １及び第２弁座間に開口する第２ポートを設ける一方，弁体の内側を大気に連通し，以上により入力部材の前進時には第１弁座を弁体から開かせて作動室に大気を導入し，入力部材の後退時には弁体を第２弁座から開かせて負圧室及び作動室間を連通させるようにし，さらに弁筒内には，入力部材の前進時に励起されると，作動室への大気導入量を増加させる電磁補助制御手段を配設した，電磁補助制御手段付き負圧ブースタの改良に関する。
【０００２】
【従来の技術】
かゝる電磁補助制御手段付き負圧ブースタは，特開平７−２５１７３３号公報に開示されているように，既に知られており，緊急ブレーキ時には，電磁補助制御手段を作動して制御弁の作動量を増加させることにより，作動室に大量の大気を素早く導入して，出力杆に倍力限界の高出力を発揮させることができる。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報に開示された電磁補助制御手段付き負圧ブースタでは，大気を作動室に導入する弁座として，入力部材に固設される第１の弁座と，電磁補助制御手段に連結される第２の弁座とが併設され，通常ブレーキ時には，入力部材の前進に伴い第１の弁座が全開になってから第２の弁座が開くようになっている。
【０００４】
したがって，第１の弁座が全開となるまでの入力部材の前進量は無効ストロークとなり，入力部材の前進開始から，作動室に大気が導入されてブースタピストンが作動するまでに，時間の遅れが生ずるという欠点があり，また大気導入用の弁座が二つも要することから，部品点数が多く，構造の複雑化が避けられないという問題もある。
【０００５】
本発明は，上記欠点及び問題をすべて解消した前記電磁補助制御手段付き負圧ブースタを提供することを目的とする。
【０００６】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために，本発明は，ブースタシェルに，その内部を負圧源に連なる前側の負圧室と後側の作動室とに区画するブースタピストンを収容し，このブースタピストンに，ブースタシェルの後壁に摺動自在に支承される弁筒を連設し，この弁筒内に，該弁筒に前後動可能に支承される入力部材と，この入力部材及び弁筒間に装着されて入力部材を後退方向へ付勢する入力戻しばねと，入力部材の前後動に応じて作動室を負圧室と大気とに連通切換えする制御弁とを配設し，この制御弁を，入力部材に設けられる環状で後向きの第１弁座と，弁筒に形成されてこの第１弁座を囲繞する環状で後向き第２弁座と，弁筒に取り付けられると共に第１及び第２弁座に着座すべく前向きにばね付勢される環状の弁体とで構成し，弁筒に，作動室に連通して第１及び第２弁座間に開口する第１ポートと，負圧室に連通して第１弁座の外周に開口する第２ポートとを設ける一方，弁体の内側を大気に連通し，以上により入力部材の前進時には第１弁座を弁体から開かせて作動室に大気を導入し，入力部材の後退時には弁体を第２弁座から開かせて負圧室及び作動室間を連通させるようにし，さらに弁筒内には，入力部材の前進時に励起されると，作動室への大気導入量を増加させる電磁補助制御手段を配設した，電磁補助制御手段付き負圧ブースタにおいて，前記第１弁座を，入力部材に規定ストローク内で前後動可能に取り付けると共に，前記電磁補助制御手段を，弁筒に固設される固定コアと，この固定コアに装着されるソレノイドと，第１弁座に一体に連結されて固定コアに対向配置され，入力部材の前進時，ソレノイドが励起されると，第１弁座の弁体に対する開き量を前記規定ストローク分増加するように作動する可動コアとで構成し，入力部材の入力解放時には，ソレノイドの励起状態でも入力部材を介して可動コアを離間させる得るばね力を前記入力戻しばねに付与したことを第１の特徴とする。
【０００７】
この第１の特徴によれば，大気導入用の単一の第１弁座により，通常ブレーキ及び緊急ブレーキに対応して作動室への大気の導入を制御することができる。特に，緊急ブレーキ時には，第１弁座の弁体に対する開き量が前記規定ストローク分増加することで，他の部材に何等干渉されることなく，作動室への大気導入量を即座に増加させて，作動室を大気で急速に満たすことができて，ブースタピストンを強力に駆動し，緊急ブレーキに的確に対応することができる。しかも大気導入用の第１弁座が一個で足りることから，構造の簡素化を図ることができる。
【０００８】
またこの第１弁座には，入力部材との間に無効ストロークが無いから，ブースタピストンの応答性を高めることができる。
【０００９】
さらに緊急ブレーキ状態から入力部材を解放したとき，何等かの故障によりソレノイドの励起が解除されない場合でも，入力戻しばねの力により固定及び可動コアの吸引力が無能となる位置まで可動コアを後退させ，それと共に第１弁座を後退させて，作動室を負圧室に連通させ，ブースタピストンの作動を解除することができる。
【００１０】
また本発明は，第１の特徴に加えて，前記固定コア及び可動コア間に，入力部材が弁筒に対する後退限に位置し，且つ第１弁座が弁体に着座しているとき，ソレノイドの励起によるも可動コアを作動させ得ない間隙を設けたことを第２の特徴とする。
【００１１】
この第２の特徴によれば，入力部材の非作動時，何等かの故障によりソレノイドが励起されても，可動コアが固定コアに吸引されることはなく，第１弁座の誤作動を防止することができる。
【００１２】
【実施例の形態】
本発明の実施の形態を，添付図面に示す本発明の実施例に基づいて説明する。
【００１３】
図１は本発明の実施例に係る電磁補助制御手段付きのタンデム型負圧ブースタの縦断面図，図２は図１の要部拡大図，図３は該負圧ブースタの特性を示す線図である。
【００１４】
図１及び図２において，負圧ブースタＢのブースタシェル１は，ブースタシェル１は，対向端を相互に結合する前後一対のシェル半体１ａ，１ｂと，両シェル半体１ａ，１ｂ間に挟止されてブースタシェル１内部を前部シェル室２と後部シェル室３とに仕切る隔壁板１ｃとから構成され，その後部シェル半体１ｂが自動車の車室前壁Ｆにボルト８により固定して支持され，前部シェル半体１ａには，該ブースタＢにより作動されるブレーキマスタシリンダＭのシリンダボディＭａがボルト９により固着される。
【００１５】
前部シェル室２は，それに前後往復動可能に収容される前部ブースタピストン４と，その後面に重ねて結着されると共に前部シェル半体１ａと隔壁板１ｃ間に挟着される前部ダイヤフラム５とにより，前側の前部負圧室２ａと後側の前部作動室２ｂとに区画される。そして，前部負圧室２ａは，負圧導入管１４を介して負圧源Ｖ（例えば内燃機関の吸気マニホールド内部）と接続される。
【００１６】
また後部シェル室３は，それに前後往復動可能に収容される後部ブースタピストン６と，その後面に重ねて結着され，且つ隔壁板１ｃと共に両シェル半体１ａ，１ｂ間に固着される後部ダイヤフラム７とにより，前側の後部負圧室３ａと後側の後部作動室３ｂとに区画される。
【００１７】
前，後部ブースタピストン４，６はそれぞれ鋼板により環状に成形されており，これらは中心部に固着される合成樹脂製の弁筒１０を介して一体に連結される。弁筒１０は，隔壁板１ｃにシール部材１１を介して，また後部シェル半体１ｂの中心部に形成された後方延長筒１２にシール部材１３を介して摺動自在に支承される。両ブースタピストン４，６の後退限は，後部ダイヤフラム７の後面に多数***させた突起７ａがブースタシェル１の後壁に当接することにより規定される。
【００１８】
弁筒１０の前半部内周面には，ボビン１５に巻装されたソレノイド１６を収容する磁性体の円筒状ハウジング１７が嵌装される。このハウジング１７の前端には，ボビン１５の前部内周面に嵌合する円筒状の固定コア１８がかしめにより固着され，この固定コア１８に一定の間隔を置いて対向すべくボビン１５の後部内周面に嵌合する環状のヨーク１９がハウジング１７の後端にかしめにより固着される。そして固定コア１８の外周部前面を押圧する環状の係止環２６が弁筒１０の内周面に係止され，これによりハウジング１７は，ヨーク１９を弁筒１０の中間隔壁１０ａにＯリング２０を挟んで当接させた状態に保持される。
【００１９】
ヨーク１９の内周面には円筒状の可動コア２１がスリーブ２２を介して摺動自在に嵌合し，この可動コア２１の内周面に弁プランジャ２３がＯリング２７を介して同じく摺動自在に嵌合する。この弁プランジャ２３の後端部に，前記後方延長筒１２の後端から弁筒１０内に突入した入力杆２４の球状前端部２４ａが首振り可能にかしめ結合される。入力杆２４は，その後端に連結されるブレーキペダルＰにより操作されるものである。
【００２０】
弁プランジャ２３には，可動コア２１の後端に対向する環状段部２３ａが形成されると共に，可動コア２１の前端に対向するストッパ環２５が圧入により固定されており，これらによって可動コア２１の，弁プランジャ２３に対する摺動ストロークが一定値ｓに制限される。
【００２１】
可動コア２１には，弁筒１０の中間隔壁１０ａを貫通する円筒状の第１弁座３０ 1 が一体に形成され，またこの第１弁座３０1 を囲繞するように配置される第２弁座３０2 が弁筒１０に一体に形成されており，両弁座３０1 ，３０2 に対向する環状の弁体３１が弁筒１０内に配設される。この弁体３１は，弁筒１０の後部内周面にＯリング２９を介し嵌合して固着された円筒状の弁ホルダ２８にシールダイヤフラム３２を介して前後動可能に連結されると共に，該ホルダ２８に支持される弁ばね３３により上記両弁座３０1 ，３０2 に向かって付勢される。
【００２２】
前記後方延長筒１２の後端には，中心部に大気導入口３５が開口する内向きフランジ１２ａが一体に形成されており，このフランジ１２ａの内側面に当接して入力杆２４の後退限を規定するストッパ板３６が入力杆２４に前後方向調節可能に固着され，その後退限に向かって入力杆２４は，弁ホルダ２８に支持される入力戻しばね３７により付勢される。
【００２３】
また弁筒１０の後端部内周には，エアフィルタ３８が装着され，それを通して第１弁座３０1 の内周は大気導入口３５と常時連通している。上記エアフィルタ３８は，入力杆２４の弁筒１０に対する前後動を妨げないように柔軟性を有する。
【００２４】
弁筒１０には，前後の作動室２ｂ，３ｂ間を連通する第１連通路３９1 と，前後の負圧室２ａ，３ａ間を連通する第２連通路３９2 と，第１連通路３９1 を第１及び第２弁座３０1 ，３０2 間の環状通路４０に連通する第１ポート４１1 と，第２連通路３９2 を第２弁座３０2 の外周側に連通する第２ポート４１2 とが形成される。
【００２５】
第１弁座３０1 は，弁筒１０の中間隔壁１０ａに支持される弁座戻しばね４２により後方へ付勢され，そのばね力は弁体３１を前方へ付勢する弁ばね３３のそれより大きく設定される。したがって，可動コア２１は，通常，弁座戻しばね４２のばね力をもって弁プランジャ２３の環状段部２３ａに当接する摺動後退限に保持され，このとき，固定及び可動コア１８，２１間には規定の間隙ｇが設けられ，この間隙ｇは，ソレノイド１６の励起によるも両コア１８，２１に発生する吸引力を無能化するに足る充分な大きさに設定される。したがって，可動コア２１は，固定コア１８に接近しない限り，ソレノイド１６が励起されても固定コア１８に吸引されないようになっている。固定コア１８の後端面には，可動コア２１を吸引したとき，その前端部を受容する環状凹部１８ａが形成される。
【００２６】
固定コア１８の前端部は第１ピストン４３に形成され，この第１ピストン４３の中心部に形成されて，その前面に開口する有底のシリンダ孔４４に，第１ピストン４３より一定の割合で縮径した第２ピストン４５が摺動自在に嵌装され，この第２ピストン４５の後端面に，固定コア１８の中心部を摺動自在に貫通する弁プランジャ２３の前端が当接する。この弁プランジャ２３には，シリンダ孔４４の底面に当接して弁プランジャ２３の固定コア１８に対する後退限を規定するストッパ環４６が係止される。
【００２７】
第１ピストン４３の外周にカップ体４７が摺動自在に嵌合し，このカップ体４７には第１及び第２ピストン４３，４５に対向する偏平の弾性ピストン４８が充填される。
【００２８】
カップ体４７の前面には出力杆４９が突設され，この出力杆４９は前記ブレーキマスタシリンダＭのピストンＭｂに連接される。またカップ体４７及び弁筒１０の前端面に当接するリテーナ５０が配設され，このリテーナ５０とブースタシェル１の前壁との間に弁筒戻しばね５１が縮設される。
【００２９】
以上において，入力杆２４及び弁プランジャ２３は入力部材５２を構成し，弁体３１，弁ばね３３，第１弁座３０1 及び第２弁座３０2 は制御弁３４を構成する。またハウジング１７，ソレノイド１６，固定コア１８及び可動コア２１は電磁補助制御手段５３を構成するものであり，そのソレノイド１６には，それへの通電を制御する制御ユニット５４が接続される。
【００３０】
この制御ユニット５４の入力側には，操縦者のブレーキペダルＰに対する踏力が所定値を超えることを検知する踏力検知センサ５５，及び入力杆２４の前進速度が所定値を超えることを検知する操作速度センサ５６の各検知信号が入力される。而して，制御ユニット５４は，上記二センサ５５，５６の何れか一方の検知信号を受けたとき，緊急ブレーキ時と判定して，ソレノイド１６に，これを励起すべく通電する。
【００３１】
次にこの実施例の作用を説明する。先ず負圧ブースタＢの休止状態では，図１に示すように，入力杆２４は後退限に位置し，制御弁３４は，弁体３１を第１及び第２弁座３０1 ，３０2 に着座させて前，後部両作動室２ｂ，３ｂを両負圧室２ａ，３ａ及び大気導入口３５のいずれとも不通にした中立状態にあり，このような制御弁３４により，両負圧室２ａ，３ａには，負圧導入管１４を通して供給される負圧源の負圧が蓄えられ，両作動室２ｂ，３ｂには，大気により適当に希釈された負圧が保持される。こうして前，後部ブースタピストン４，６には，前部の負圧室２ａと作動室２ｂ，後部の負圧室３ａと作動室３ｂの各間に生じる僅かな気圧差により小さな前進力が与えられるが，これらの前進力と弁筒戻しばね５１の力とが釣合って，両ブースタピストン４，６は後退限から僅かに前進したところで停止している。
【００３２】
いま，車両を制動すべくブレーキペダルＰを踏込み，入力杆２４及び弁プランジャ２３を介して第１弁座３０1 を前進させれば，当初，両ブースタピストン４，６は不動であるから，第１弁座３０1 が弁体３１から直ちに離れて，第１ポート４１1 を環状通路４０を介して大気導入口３５に連通させる。その結果，大気導入口３５から弁筒１０内に流入した大気は第１弁座３０1 を通過し，第１ポート４１1 を経て両作動室２ｂ，３ｂに素早く導入され，該室２ｂ，３ｂを両負圧室２ａ，３ａより高圧にするので，それらの気圧差に基づく大きな前方推力を得て両ブースタピストン４，６は，弁筒１０及び第１ピストン４３を伴いながら弁筒戻しばね５１の力に抗して応答良く前進するので，第１ピストン４３が弾性ピストン４８を介してカップ体４７，即ち出力杆４９を前方へ押動してブレーキマスタシリンダＭのピストンＭｂを駆動する。こうして，ブレーキマスタシリンダＭをブレーキペダルＰの踏込みに遅れなく作動させ，車両に制動かけることができる。
【００３３】
ところで，このような制動中，弾性ピストン４８の後端面には，第１ピストン４３に加わる両ブースタピストン４，６の推力と，入力杆２４から第２ピストン４５に加わる操縦者の踏力とが作用し，またその前端面には，出力杆４９の作動反力が作用し，これによって弾性ピストン４８は前後に圧縮される。その結果，出力杆４９の作動反力の一部が弾性ピストン４８を介して入力杆２４に伝達されることになり，操縦者は出力杆４９の出力，即ち制動力の大きさを感受することができる。
【００３４】
而して，出力杆４９の出力が倍力限界点に達するまでは（図３の線ａ−ｂ参照），ブースタピストン４，６と一体の弁筒１０は，入力杆２４の前進量だけ前進するもので，入力杆２４が前進を止めると，弁筒１０と共に前進してきた弁体３１が第１弁座３０1 に再び着座して，作動室２ｂ，３ｂへの大気のそれ以上の導入を阻止するので，ブースタピストン４，６の前進も停止し，入力に対応した倍力出力が得られることになる。
【００３５】
出力杆４９の出力が倍力限界点を超えると（図３の線ｂ−ｃ参照），ブースタピストン４，６の気圧差による推力が最大となり，第１弁座３０1 は弁体３１から離間したまゝとなるので，出力杆４９の出力は，ブースタピストン４，６の気圧差による最大推力と，ブレーキペダルＰへの踏力による入力杆２４の推力との和となる。
【００３６】
一方，踏力検知センサ５５及び／又は操作速度センサ５６が検知信号を出力する緊急ブレーキ時には，その検知信号を受けた制御ユニット５４がソレノイド１６を励起して，固定及び可動コア１８，２１に磁力を与える。この場合，ブレーキペダルＰの踏み込みによる入力杆２４，弁プランジャ２３及び可動コア２１の前進により，固定及び可動コア１８，２１の間隙ｇが既に詰まっているので，固定及び可動コア１８，２１が受ける磁力が有効な吸引力となることにより，可動コア２１が固定コア１８に吸引され，弁座戻しばね４２の力に抗して弁プランジャ２３上を規定のストロークｓだけ前進して，第１弁座３０1 を弁体３１から大きく引き離し続ける。その結果，大気導入口３５から弁筒１０に流入した大気が第１弁座３０1 をスムーズに通過して両作動室２ｂ，３ｂを急速に満たすため，図３の線ｄ−ｅに示すように，出力杆４９の出力は即座に倍力限界点まで急速に立ち上がり，マスタシリンダＭのピストンＭｂを急速且つ強力に駆動し，緊急ブレーキに対応することができる。
【００３７】
緊急ブレーキ状態からブレーキペダルＰに対する踏力を解除すると，何等かの故障によりソレノイド１６への通電が継続している場合でも，入力杆２４及び弁プランジャ２３が，入力戻しばね３７の力をもって後退するとき，ストッパ環２５を介して可動コア２１を固定コア１８から強制的に引き離すことができる。すると，第１弁座３０1 は，弁座戻しばね４２の力により弁プランジャ２３の環状段部２３ａに当接状態に保持されて，弁プランジャ２３と共に後退し，弁体３１に着座させると共に，その弁体３１を第２弁座３０2 から大きく離間させるので，両作動室２ｂ，３ｂが第２ポート４１2 及び第２弁座３０2 を介して両負圧室２ａ，３ａと連通する。その結果，両作動室２ｂ，３ｂへの大気の導入が阻止される一方，両作動室２ｂ，３ｂの空気が両負圧室２ａ，３ａを経て負圧限Ｖへ吸入され，それらの気圧差が無くなるため，ブースタピストン４，６も，弁筒戻しばね５１の力をもって後退し，マスタシリンダＭの作動を解除していく。
【００３８】
入力杆２４がストッパ板３６を後方延長筒１２の内向きフランジ１２ａに当接させる後退限まで後退すると，後部ブースタピストン６は，一旦，後部ダイヤフラム７の突起７ａをブースタシェル１の後壁に当接させる後退限まで戻り，今度は第２弁座３０2 を弁体３１に着座させると共に，弁体３１を第１弁座３０1 から離間させるので，再び両作動室２ｂ，３ｂに大気が導入されるが，それにより生ずる気圧差により両ブースタピストン４，６が僅かに前進すれば，第２弁座３０2 にも弁体３１が着座し，制御弁３４を当初の中立状態にする。こうして両作動室２ｂ，３ｂには，大気に希釈された負圧が保持され，負圧ブースタＢは，図１の休止状態となる。
【００３９】
このような休止状態では，前述のように，可動コア２１は，磁力を無能にする充分な間隙ｇを開けて固定コア１８に対向しているから，万一，何等かの故障によりソレノイド１６に通電されても，可動コア２１が固定コア１８に吸引されることはなく，制御弁３４の中立状態は維持されるから，ブースタピストン４，６の誤作動を回避できる。
【００４０】
ところで，大気の導入を制御する第１弁座３０1 は，上記のように，通常ブレーキ時には入力杆２４に連結した弁プランジャ２３により操作され，緊急ブレーキ時には，ソレノイド１６等からなる電磁補助制御手段５３により操作されるので，一個の第１弁座３０1 をもって通常ブレーキ及び緊急ブレーキに対応することができ，構造の簡素化に寄与し得るのみならず，第１弁座３０1 には無効ストロークが無いから，入力杆２４の僅かな動きにより大気の導入を的確に制御することができて，ブースタピストン４，６の応答性を高めることができる。
【００４１】
本発明は，上記実施例に限定されるものではなく，その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば，負圧ブースタＢを，ブースタピストンを単一とするシングル型に構成することもできる。また入力杆２４のストッパ板３６及び後方延長筒１２の内向きフランジ１２ａを廃止し，負圧ブースタＢの休止時には，第２弁座３０2 を開放したまゝにして，作動室２ｂ，３ｂを負圧室２ａ，３ａとの連通状態に保持するようにしてもよい。
【００４２】
【発明の効果】
以上のように本発明の第１の特徴によれば，ブースタシェルに，その内部を負圧源に連なる前側の負圧室と後側の作動室とに区画するブースタピストンを収容し，このブースタピストンに，ブースタシェルの後壁に摺動自在に支承される弁筒を連設し，この弁筒内に，該弁筒に前後動可能に支承される入力部材と，この入力部材及び弁筒間に装着されて入力部材を後退方向へ付勢する入力戻しばねと，入力部材の前後動に応じて作動室を負圧室と大気とに連通切換えする制御弁とを配設し，この制御弁を，入力部材に設けられる環状で後向きの第１弁座と，弁筒に形成されてこの第１弁座を囲繞する環状で後向き第２弁座と，弁筒に取り付けられると共に第１及び第２弁座に着座すべく前向きにばね付勢される環状の弁体とで構成し，弁筒に，作動室に連通して第１及び第２弁座間に開口する第１ポートと，負圧室に連通して第１弁座の外周に開口する第２ポートとを設ける一方，弁体の内側を大気に連通し，以上により入力部材の前進時には第１弁座を弁体から開かせて作動室に大気を導入し，入力部材の後退時には弁体を第２弁座から開かせて負圧室及び作動室間を連通させるようにし，さらに弁筒内には，入力部材の前進時に励起されると，作動室への大気導入量を増加させる電磁補助制御手段を配設した，電磁補助制御手段付き負圧ブースタにおいて，前記第１弁座を，入力部材に規定ストローク内で前後動可能に取り付けると共に，前記電磁補助制御手段を，弁筒に固設される固定コアと，この固定コアに装着されるソレノイドと，第１弁座に一体に連結されて固定コアに対向配置され，入力部材の前進時，ソレノイドが励起されると，第１弁座の弁体に対する開き量を前記規定ストローク分増加するように作動する可動コアとで構成し，入力部材の入力解放時には，ソレノイドの励起状態でも入力部材を介して可動コアを離間させる得るばね力を前記入力戻しばねに付与したので，大気導入用の単一の第１弁座により，通常ブレーキ及び緊急ブレーキに対応して作動室への大気の導入を制御することができる。特に，緊急ブレーキ時には，第１弁座の弁体に対する開き量が前記規定ストローク分増加することで，他の部材に何等干渉されることなく，作動室への大気導入量を即座に増加させて，作動室を大気で急速に満たすことができて，ブースタピストンを強力に駆動し，緊急ブレーキに的確に対応することができる。しかも大気導入用の第１弁座が一個で足りることから，構造の簡素化を図ることができる。
【００４３】
またこの第１弁座には，入力部材との間に無効ストロークが無いから，ブースタピストンの応答性を高めることができる。
【００４４】
さらに緊急ブレーキ状態から入力部材を解放したとき，何等かの故障によりソレノイドの励起が解除されない場合でも，入力戻しばねの力により固定及び可動コアの吸引力が無能となる位置まで可動コアを後退させ，それと共に第１弁座を後退させて，作動室を負圧室に連通させ，ブースタピストンの作動を解除することができる。
【００４５】
また本発明の第２の特徴によれば，前記固定コア及び可動コア間に，入力部材が弁筒に対する後退限に位置し，且つ第１弁座が弁体に着座しているとき，ソレノイドの励起によるも可動コアを作動させ得ない間隙を設けたので，入力部材の非作動時，何等かの故障によりソレノイドが励起されても，可動コアが固定コアに吸引されることはなく，第１弁座の誤作動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の実施例に係る電磁補助制御手段付き負圧ブースタの縦断面図。
【図２】 図１の要部拡大図。
【図３】 該負圧ブースタの特性を示す線図。
【符号の説明】
Ｂ・・・・負圧ブースタ
Ｖ・・・・負圧源
ｇ・・・・間隙
ｓ・・・・ストローク
１・・・・ブースタシェル
２ａ・・・負圧室（前部負圧室）
３ａ・・・負圧室（後部負圧室）
２ｂ・・・作動室（前部作動室）
３ｂ・・・作動室（後部作動室）
４・・・・ブースタピストン（前部ブースタピストン）
６・・・・ブースタピストン（後部ブースタピストン）
１０・・・弁筒
１６・・・ソレノイド
１８・・・固定コア
２１・・・可動コア
３０ 1 ・・第１弁座
３０ 2 ・・第２弁座
３１・・・弁体
３４・・・制御弁
３５・・・大気導入口
３７・・・入力戻しばね
４１ 1 ・・第１ポート
４１ 2 ・・第２ポート
５２・・・入力部材
５３・・・電磁補助制御手段
Claims (2)
- ブースタシェル（１）に，その内部を負圧源（Ｖ）に連なる前側の負圧室（２ａ，３ａ）と後側の作動室（２ｂ，３ｂ）とに区画するブースタピストン（４，６）を収容し，このブースタピストン（４，６）に，ブースタシェル（１）の後壁に摺動自在に支承される弁筒（１０）を連設し，この弁筒（１０）内に，該弁筒（１０）に前後動可能に支承される入力部材（５２）と，この入力部材（５２）及び弁筒（１０）間に装着されて入力部材（５２）を後退方向へ付勢する入力戻しばね（３７）と，入力部材（５２）の前後動に応じて作動室（２ｂ，３ｂ）を負圧室（２ａ，３ａ）と大気とに連通切換えする制御弁（３４）とを配設し，この制御弁（３４）を，入力部材（５２）に設けられる環状で後向きの第１弁座（３０ 1 ）と，弁筒（１０）に形成されてこの第１弁座（３０ 1 ）を囲繞する環状で後向き第２弁座（３０ 2 ）と，弁筒（１０）に取り付けられると共に第１及び第２弁座（３０ 1 ，３０ 2 ）に着座すべく前向きにばね付勢される環状の弁体（３１）とで構成し，弁筒（１０）に，作動室（２ｂ，３ｂ）に連通して第１及び第２弁座（３０ 1 ，３０ 2 ）間に開口する第１ポート（４１ 1 ）と，負圧室（２ａ，３ａ）に連通して第１弁座（３０ 1 ）の外周に開口する第２ポート（４１ 2 ）とを設ける一方，弁体（３１）の内側を大気に連通し，以上により入力部材（５２）の前進時には第１弁座（３０ 1 ）を弁体（３１）から開かせて作動室（２ｂ，３ｂ）に大気を導入し，入力部材（５２）の後退時には弁体（３１）を第２弁座（３０ 2 ）から開かせて負圧室（２ａ，３ａ）及び作動室（２ｂ，３ｂ）間を連通させるようにし，さらに弁筒（１０）内には，入力部材（５２）の前進時に励起されると，作動室（２ｂ，３ｂ）への大気導入量を増加させる電磁補助制御手段（５３）を配設した，電磁補助制御手段付き負圧ブースタにおいて，
前記第１弁座（３０ 1 ）を，入力部材（５２）に規定ストローク（ｓ）内で前後動可能に取り付けると共に，前記電磁補助制御手段（５３）を，弁筒（１０）に固設される固定コア（１８）と，この固定コア（１８）に装着されるソレノイド（１６）と，第１弁座（３０ 1 ）に一体に連結されて固定コア（１８）に対向配置され，入力部材（５２）の前進時，ソレノイド（１６）が励起されると，第１弁座（３０ 1 ）の弁体（３１）に対する開き量を前記規定ストローク（ｓ）分増加するように作動する可動コア（２１）とで構成し，入力部材（５２）の入力解放時には，ソレノイド（１６）の励起状態でも入力部材（５２）を介して可動コア（２１）を離間させる得るばね力を前記入力戻しばね（３７）に付与したことを特徴とする，電磁補助制御手段付き負圧ブースタ。 - 請求項１記載のものにおいて，
前記固定コア（１８）及び可動コア（２１）間に，入力部材（５２）が弁筒（１０）に対する後退限に位置し，且つ第１弁座（３０ 1 ）が弁体（３１）に着座しているとき，ソレノイド（１６）の励起によるも可動コア（２１）を作動させ得ない間隙（ｇ）を設けたことを特徴とする，電磁補助制御手段付き負圧ブースタ。
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