JP3716531B2 - 内燃機関の空燃比制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の空燃比制御装置に係り、特に、燃料タンク内に発生する蒸発燃料を一時的に捕獲して適宜内燃機関にパージする蒸発燃料処理装置を備える内燃機関の空燃比を制御する装置として好適な内燃機関の空燃比制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば特開平6−323179号に開示される如く、蒸発燃料処理装置を備える内燃機関が知られている。蒸発燃料処理装置は、燃料タンクに発生する蒸発燃料を一時的に捕獲するキャニスタ、および、内燃機関の吸気通路とキャニスタとの導通状態を制御するパージ制御弁を備えている。パージ制御弁は、キャニスタに捕獲されている燃料が内燃機関の運転中に適宜吸気通路内にパージされるように制御される。上記の内燃機関によれば、燃料タンク内に発生する蒸発燃料を大気に放出させることなく燃料として消費することができる。
【0003】
上記従来の内燃機関は、内燃機関に供給される混合気の空燃比をフィードバック制御する機能を備えている。混合気の空燃比フィードバック制御は、例えば、内燃機関に供給される混合気の空燃比を検出し、空燃比を目標空燃比に近づけるための補正係数FAF(以下、フィードバック補正係数FAFと称す)を、基準の燃料噴射量に乗算して燃料噴射量を算出することで実現できる。上記の手法によれば、常に空燃比を目標空燃比の近傍に制御することが可能である。
【0004】
ところで、蒸発燃料処理装置から燃料がパージされる場合は、パージされる燃料の量に相当する燃料を、燃料噴射量から減じる必要が生ずる。かかる機能は、例えば、蒸発燃料処理装置からパージされる燃料分を相殺するための補正係数FGPG(以下、単位パージ係数FGPGと称す)を算出し、その値を用いて基準の燃料噴射量を補正することで実現できる。
【0005】
空燃比の制御に単位パージ係数FGPGが用いられる内燃機関において、単位パージ係数FGPFがパージされる燃料分を相殺し得る適正な値とされていない場合は、フィードバック補正係数FAFが中心値1.0から大きく増大または減少される。換言すれば、フィードバック補正係数FAFが1.0に対して著しく大きく、または、著しく小さい場合は、単位パージ係数FGPGが適正な値でないと判断することができる。
【0006】
従って、例えば、フィードバック補正係数FAFに対して上限値ULおよび下限値LLを設定し、FAF≧ULが成立する場合、および、FAF≦LLが成立する場合に、それぞれFAFを1.0に近づける方向に単位パージ係数FGPGを更新すれば、単位パージ係数FGPGを適正な値に更新することができる。以下、上記の更新方法を第1の方法と称す。
【0007】
また、空燃比の制御に単位パージ係数FGPGが用いられる内燃機関において、単位パージ係数FGPGが適正な値である場合は、内燃機関に供給される混合気の空燃比が、理論空燃比の近傍に維持される。この場合、空燃比は燃料リッチ側の値と燃料リーン側の値との間で繰り返し反転する。換言すれば、空燃比が燃料リッチ側または燃料リーン側に長時間維持される場合は、単位パージ係数FGPGが適正な値でないと判断することができる。
【0008】
従って、例えば、空燃比が燃料リッチ側または燃料リーン側に長時間維持される場合に、空燃比を理論空燃比に近づける方向にパージ補正係数FGPFを更新すれば、単位パージ係数FGPGを適正な値に更新することができる。以下、上記の更新方法を第2の方法と称す。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述した第1の方法によっては、燃料のパージ制御が開始された直後等に、比較的長期に渡って単位パージ係数FGPGを適正値に更新できない事態が生ずる。また、上述した第2の方法によっては、内燃機関の運転状態の過渡期等に、単位パージ係数FGPGが不適正な値に更新される事態が生ずる。以下、図7および図8を参照して、これらの不都合について説明する。
【0010】
図7は、上記第1の方法によって単位パージ係数FGPGが更新される場合に実現されるタイムチャートの一例を示す。図7(A)はフィードバック補正係数FAFの変化を、図7(B)は単位パージ係数FGPGの変化を、また、図7(C)は空燃比A/Fの変化を示す。
図7に示すタイムチャートは、例えば、時刻t0 に、不適正な単位パージ係数FGPG0 に基づいてパージ制御が開始されることにより実現される。単位パージ係数FGPGが不適正な値であると、パージ制御が開始されると同時に空燃比が理論空燃比の近傍から外れることがある。図7(C)に示す如くA/Fが燃料リッチ側に変化する場合、フィードバック補正係数FAFは、燃料噴射量を減量させるべく1.0に比して小さな値に更新される。
【0011】
上述した第1の手法によれば、単位パージ係数FGPGの更新は、フィードバック補正係数FAFが下限値LLに達した後に開始される。しかし、パージ制御が開始された後、フィードバック補正係数FAFが下限値LLに到達するまでには、比較的長い期間を要する。このため、第1の手法によると、図7(C)に示す如く、パージ制御が開始された後、比較的長期間にわたって単位パージ係数FGPGの更新が開始されず、その結果、空燃比A/Fが理論空燃比から大きく外れることがある。
【0012】
図8は、上記第2の方法によって単位パージ係数FGPGが更新される場合に実現されるタイムチャートの一例を示す。図8(A)はフィードバック補正係数FAFの変化を、図8(B)は単位パージ係数FGPGの変化を、また、図8(C)は空燃比A/Fの変化を示す。
図8に示すタイムチャートは、例えば、適正な単位パージ係数FGPG0 に基づくパージ制御の実行中に、内燃機関の運転状態が過渡状態である場合等に実現される。内燃機関の運転状態が過渡状態である場合は、図8(C)に示す如く、空燃比A/Fに変動が生ずることがある。空燃比A/Fにこのような変動が生ずる際には、A/Fが比較的長期間、燃料リッチ側、または、燃料リーン側に維持されることがある。
【0013】
上述した第2の方法は、空燃比A/Fの反転間隔が長期間である場合に単位パージ係数FGPGが不適正であると判断し、その値を更新する。このため、上述した第2の方法によれば、内燃機関の運転状態の変化に起因してA/Fの反転間隔が長期間となった場合にも、図8(B)に示す如く単位パージ係数FGPGの更新が行われることがある。このようにして単位パージ係数FGPGが不適正な値に更新されると、単位パージ係数FGPGの誤差分を吸収して空燃比A/Fを理論空燃比の近傍に維持すべく、フィードバック補正係数FAFが1.0から外れた値を中心値として反転を繰り返す事態が生ずる。
【0014】
内燃機関の空燃比制御は、単位パージ係数FGPGが適正な値であり、かつ、フィードバック補正係数FAFが1.0の近傍に維持されている場合に、全ての運転状態に対して高い精度を発揮する。従って、不適正な値に更新された単位パージ係数FGPGの誤差分をフィードバック補正係数FAFが吸収している状況下では、内燃機関の運転状態が変化した場合に、高い応答性をもって精度良く空燃比を制御することができない。このように、上述した第1の方法および第2の方法は、蒸発燃料処理装置を備える内燃機関の空燃比を制御する手法として、必ずしも理想的なものではなかった。
【0015】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、蒸発燃料処理装置を備える内燃機関の空燃比を、優れた応答性をもって精度良く制御することのできる内燃機関の空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、請求項1に記載する如く、燃料タンク内に発生する蒸発燃料を捕獲して所定状況下で内燃機関にパージする蒸発燃料処理装置を備える内燃機関の空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置において、
内燃機関に供給される混合気の空燃比を検出する空燃比検出手段と、
前記空燃比を目標空燃比に近づけるためのフィードバック補正係数を演算するフィードバック補正係数演算手段と、
燃料噴射弁から噴射される燃料噴射量に前記フィードバック補正係数を反映させる空燃比フィードバック手段と、
前記空燃比検出手段によって検出される空燃比が目標空燃比に比して燃料リッチである状態と、燃料リーンである状態とが反転した後の経過時間を計数する反転後経過時間計数手段と、
前記反転後経過時間検出手段によって計数された経過時間が所定時間以上であり、かつ、前記フィードバック補正係数が第1の所定値以上である場合、および、前記反転後経過時間検出手段によって計数された経過時間が所定時間以上であり、かつ、前記フィードバック補正係数が第2の所定値以下である場合に、パージ燃料の影響を相殺するためのパージ補正係数を更新するパージ補正係数更新手段と、
前記パージ補正係数を燃料噴射量に反映させるパージ補正手段と、を備える内燃機関の空燃比制御装置により達成される。
【0017】
本発明において、内燃機関に供給される燃料の量には、フィードバック補正係数およびパージ補正係数が反映されている。パージ燃料の影響を相殺するための補正係数が不適正な値である場合は、その誤差分がフィードバック補正係数に吸収されるまで、空燃比が燃料リッチ側および燃料リーン側の一方に長期間にわたって継続的に維持される。この場合、空燃比の反転後の経過時間は所定時間以上となる。
【0018】
フィードバック補正係数は、パージ燃料の影響を相殺するための補正係数が適正な値であっても、内燃機関の運転状態が変化して混合気の空燃比が変動すれば、その変化に追従して変化する。従って、内燃機関の運転状態が変化した場合は、その後、空燃比の反転後の経過時間が通常時に比して長時間となる。本発明において、空燃比の反転後の経過時間と比較される所定時間は、比較的短い時間に設定されている。従って、上記の経過時間は、パージ燃料を相殺するための補正係数が不適正な値である場合の他、内燃機関の運転状態が変化した場合にも所定時間を超える場合がある。
【0019】
パージ燃料の影響を相殺するための補正係数が不適正な値である場合は、その誤差分を吸収して空燃比を目標空燃比の近傍に維持すべく、フィードバック補正係数の値が中心値から離れた値に更新される。この場合、フィードバック補正係数は、第1の所定値以上、または、第2の所定値以下の値となる。本発明において、パージ燃料の影響を相殺するための補正係数は、フィードバック補正係数の値、および、上述した経過時間の双方に基づいて、その値が不適正であると判断される場合にのみ更新される。上記の処理によれば、パージ燃料を相殺するための補正係数を、真に更新が必要な場合に限り、優れた応答性の下に更新することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の一実施例に対応する空燃比制御装置を搭載する内燃機関10のシステム構成図を示す。内燃機関10は、電子制御ユニット12(以下、ECU12と称す)によって制御されている。内燃機関10は、シリンダブロック14を備えている。シリンダブロック14には、ウォータージャケット16が形成されている。ウォータージャケット16の内部には、内燃機関10の運転中、冷却水が循環する。
【0021】
シリンダブロック14には、その先端部がウォータージャケット16に露出するように水温センサ18が配設されている。水温センサ18は、冷却水温THWに応じた電気信号を出力する。水温センサ18の出力信号は、ECU12に供給されている。ECU12は、水温センサ18から供給される信号に基づいて冷却水温THWを演算する。
【0022】
シリンダブロック14の内部にはピストン20が摺動可能に配設されている。また、シリンダブロック14の上部にはシリンダヘッド22が固定されている。内燃機関10の内部には、シリンダブロック14の内壁、ピストン20の上面、およびシリンダヘッド22の底面によって燃焼室24が隔成されている。
シリンダヘッド22には、燃焼室24に連通する吸気ポート26および排気ポート28が形成されている。また、シリンダヘッド22には、これら吸気ポート26および排気ポート28を導通状態または遮断状態とする吸気バルブ30および排気バルブ31が組み込まれている。
【0023】
吸気ポート26には、吸気マニホールド32が連通している。吸気マニホールド32には、その内部に燃料を噴射する燃料噴射弁33が配設されている。燃料噴射弁33は、内燃機関10の各気筒に対応して設けられている。燃料噴射弁33には、燃料タンク34から所定の圧力で燃料が供給されている。燃料噴射弁33は、ECU12から駆動信号が供給されている間のみ開弁して、その先端部から吸気マニホールド32の内部に所定圧力で燃料を噴射する。吸気マニホールド32には、燃料噴射弁33の開弁時間、すなわち、ECU12から燃料噴射弁33に供給される駆動信号の時間長に応じた量の燃料が噴射される。以下、この時間長を燃料噴射時間TAUと称す。
【0024】
吸気マニホールド32は、サージタンク36に連通している。サージタンク36には、パージ通路37が連通している。パージ通路37には、パージ制御弁38が配設されている。パージ制御弁38は、パージ通路37の導通状態を制御する弁機構であり、ECU12によってデューティ駆動される。ECU12は、パージ制御弁38に対して適当なデューティ比を有する駆動信号を供給する。パージ制御弁38は、そのデューティ比に応じた開度を実現する。
【0025】
パージ通路37の他端は、キャニスタ40の燃料パージ孔42に連通している。キャニスタ40は、その内部に活性炭44を備えている。また、キャニスタ40は、活性炭44を挟んで燃料パージ孔42と反対の側に、キャニスタ40の内部空間を大気に開放する大気導入孔46を備えている。更に、キャニスタ40は、活性炭44に対して燃料パージ孔42と同じ側に、ベーパ導入孔48を備えている。ベーパ導入孔48には、燃料タンク34に通じるベーパ通路49が連通している。ベーパ通路49は、常に燃料の液面より上方となる部位において燃料タンク34に連通している。
【0026】
サージタンク36には、吸気管50が連通している。吸気管50の内部には、アクセルペダルと連動して作動するスロットルバルブ52が配設されている。スロットルバルブ52の近傍には、スロットルバルブ52の開度TAに応じた電気信号を出力するスロットル開度センサ54が配設されている。スロットル開度センサ54の出力信号はECU12に供給されている。ECU12は、スロットル開度センサ54から供給される信号に基づいてスロットル開度TAを検出する。また、ECU12は、スロットル開度センサ54から、スロットルバルブ52が全閉であることを表す信号が供給されている場合に、内燃機関10がアイドル運転中であると判断する。
【0027】
吸気管50の端部には、エアフィルタ56が連通している。吸気管50には、エアフィルタ56で濾過された空気が流通する。吸気管50には、また、その内部を流通する空気の重量流量GA(以下、吸入空気量GAと称す)に応じた電気信号を出力するエアフロメータ58が配設されている。エアフロメータ58の出力信号はECU12に供給されている。ECU12は、エアフロメータ58の出力信号に基づいて、内燃機関10の吸入空気量GAを検出する。
【0028】
内燃機関10の排気ポート28には、排気マニホールド60が連通している。排気マニホールド60には、O2 センサ62が配設されている。O2 センサ62は、排気ガス中の酸素濃度に応じた電気信号を出力する。排気ガス中の酸素濃度は、内燃機関10に供給される混合気の空燃比A/Fが燃料リッチであるほど希薄となり、かつ、その空燃比A/Fが燃料リーンであるほど濃厚となる。
【0029】
O2 センサ62は、内燃機関10に供給される混合気の空燃比A/Fが理論空燃比S−A/Fに比して燃料リッチである場合に0.9V程度のハイ信号を出力し、一方、その空燃比A/Fが理論空燃比S−A/Fに比して燃料リーンである場合に0.1V程度のロー信号を出力する。O2 センサ62の出力信号は、ECU12に供給されている。ECU12は、O2 センサ62の出力信号に基づいて、混合気の空燃比A/Fが燃料リッチであるか、或いは、燃料リーンであるかを判断する。
【0030】
内燃機関10は、クランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサ64を備えている。クランク角センサ64は、クランクシャフトの回転角が所定回転角に達する毎に基準信号を発生すると共に、クランクシャフトが所定回転角回転する毎にパルス信号を発生する。クランク角センサ64の出力信号はECU12に供給されている。ECU12は、クランク角センサ64から供給される出力信号に基づいて、機関回転数NEおよび内燃機関10の回転角を検出する。
【0031】
本実施例のシステムにおいて、燃料タンク34の内部には、例えば内燃機関10が停止した直後、車両が高温環境下で停車されている場合、或いは、車両が高温環境下で渋滞路を走行している場合等に蒸発燃料が発生する。燃料タンク34の内部で発生した蒸発燃料は、ベーパ通路49を通ってキャニスタ40に導かれ、その後活性炭44に吸着される。
【0032】
ECU12は、内燃機関10が所定の運転状態で運転されている場合に、パージ制御弁38を適当に開弁させる。内燃機関10の運転中は、サージタンク36の内部に吸気負圧が発生している。従って、上記の如くパージ制御弁38が開弁されると、パージ通路37を介して、キャニスタ40の燃料パージ孔42に吸気負圧が導かれる。
【0033】
キャニスタ40の燃料パージ孔42に吸気負圧が導かれると、キャニスタ40の内圧が負圧となって大気導入孔46からキャニスタ40の内部に空気が吸入される。大気導入孔46から流入した空気は、活性炭44を通過して燃料パージ孔42からパージ通路37へ流通する。活性炭44に吸着されていた燃料は、活性炭44を空気が通過する際に活性炭44から離脱し、空気と共にパージ通路37にパージされる。
【0034】
上記の如くキャニスタ40からパージ通路37に放出された燃料は、サージタンク36に流入した後、エアフィルタ58から吸入された空気と共に燃焼室24に吸入される。従って、本実施例のシステムによれば、燃料タンク34内で発生した蒸発燃料を、一時的にキャニスタ40で捕獲した後、内燃機関10の運転中に燃料として有効に消費することができる。
【0035】
キャニスタ40からサージタンク36に燃料がパージされる場合において、内燃機関10に供給される混合気の空燃比を目標空燃比に一致させるためには、燃料噴射弁33から燃料が噴射される時間、すなわち、燃料噴射時間TAUを、パージされる燃料分だけ減ずる必要がある。内燃機関10は、後述の如く、燃料がパージされていない場合に確保すべき燃料噴射時間を、単位パージ係数FGPGを用いて補正することで、上記の機能が満たされるように燃料噴射時間TAUを演算する。
【0036】
単位パージ係数FGPGは、キャニスタ40からサージタンク36にパージされる燃料の影響を排除するための補正係数である。その値は、キャニスタ40からパージされる混合気(以下、パージ混合気と称す)の濃度等に応じて、適宜更新する必要がある。本実施例の内燃機関10は、単位パージ係数FGPGを、優れた応答性をもって適正な値に更新し、かつ、不適正な値に更新されるのを防止して、燃料のパージが行われている状況下で正確な空燃比制御を実現する点に特徴を有している。
【0037】
以下、図2乃至図6を参照して、上記の機能を実現すべくECU12が実行する処理の内容について説明する。
図2は、本実施例において、ECU12が燃料噴射時間TAUを演算するために実行する制御ルーチンの一例を示す。図2に示すルーチンは、内燃機関10が所定回転角回転する毎に起動されるルーチンである。以下、本ルーチンのように、所定回転角毎に起動されるルーチンをNE割り込みルーチンと称す。本ルーチンが起動されると、先ずステップ100の処理が実行される。
【0038】
ステップ100では、フィードバック補正係数FAFの値が読み込まれる。フィードバック補正係数FAFは、内燃機関10に供給されている混合気の空燃比と理論空燃比との偏差をTAUにフィードバックするための係数である。フィードバック補正係数FAFは、空燃比が理論空燃比に比して燃料リッチである場合はより小さな値に、また、空燃比が理論空燃比に比して燃料リーンである場合はより大きな値に更新される。尚、FAFの演算手法については後に詳説する。本ステップ100の処理が終了すると次にステップ102の処理が実行される。
【0039】
ステップ102では、パージ補正係数FPGが演算される。パージ補正係数FPGは、キャニスタ40から燃料がパージされることに伴う空燃比のずれを補正するための係数である。パージ補正係数FPGは、単位パージ率あたりの補正量(FGPG−1)に、パージ率PGRを乗算することにより次式の如く求められる。
【0040】
FPG=(FGPG−1)*PGR ・・・(1)
上記(1)式中に示す単位パージ係数FGPGは、1.0を上限値として、パージ混合気の濃度に応じて、具体的には、パージ混合気の濃度が薄いほど1.0に近い値に、また、パージ混合気の濃度が濃いほど小さな値に更新される係数である。また、パージ率PGRは、内燃機関10の運転状態や混合気の空燃比等に応じて設定される係数である。尚、単位パージ係数FGPGの演算手法については後に詳説する。上記ステップ102の処理が終了すると、次にステップ104の処理が実行される。
【0041】
ステップ104では、基本燃料噴射時間TPが演算される。基本燃料噴射時間TPは、内燃機関10が基準の状態である場合に混合気の空燃比を理論空燃比とするのに必要な燃料噴射時間である。基本燃料噴射時間TPは、予め設定されたマップを参照して、内燃機関10の負荷G/N(吸入空気量GA/機関回転数NE)と機関回転数NEとに基づいて演算される。本ステップ104の処理が終了すると、次にステップ106の処理が実行される。
【0042】
ステップ106では、状態補正係数Kが演算される。状態補正係数Kは、内燃機関10の暖機状態、或いは、運転状態等に応じて燃料噴射量を増減させるための補正係数である。状態補正係数Kは、燃料を増量補正する必要がない場合には下限値1.0となる。本ステップ106の処理が終了すると、次にステップ108の処理が実行される。
【0043】
ステップ108では、次式に従って燃料噴射時間TAUが演算される。次式の演算が終了すると、今回のルーチンが終了される。
TAU=TP・K・{1+(FAF−1)+FPG} ・・・(2)
上記の処理によれば、燃料噴射時間TAUに、▲1▼内燃機関の状態に応じた増量補正、▲2▼空燃比を理論空燃比に近づけるためのフィードバック補正、および、▲3▼燃料のパージ分を相殺するためのパージ補正を施すことができる。
【0044】
次に、図3および図6を参照して、フィードバック補正係数FAFの演算手法について説明する。図3は、フィードバック補正係数FAFを演算するためにECU12が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。また、図6(A)〜(C)は、それぞれ、フィードバック補正係数FAFの変化、単位パージ係数FGPGの変化、および、内燃機関10に供給される混合気の空燃比の変化を表している。
【0045】
図3に示すルーチンは、内燃機関10が所定回転角だけ回転する毎に起動されるNE割り込みルーチンである。図3に示すルーチンが起動されると、先ずステップ112の処理が実行される。
ステップ112では、O2 センサ62の出力信号に基づいて、空燃比が理論空燃比に比して燃料リッチであるか否かが判別される。本ステップ112では、O2 センサ62の出力信号が0.45Vを超えている場合に空燃比が燃料リッチであると判別される。かかる判別がなされた場合は、次にステップ114の処理が実行される。
【0046】
ステップ114では、前回の処理サイクル時に実空燃比R−A/Fが燃料リーンであったか否かが判別される。前回の処理サイクル時に、空燃比が燃料リッチであった場合は、本ステップ114の条件が成立しないと判別される。この場合、混合気の空燃比は、前回の処理サイクル時から今回の処理サイクル時にかけて継続的に燃料リッチであると判断することができる。かかる判別がなされた場合は、次にステップ116の処理が実行される。
【0047】
ステップ116では、フィードバック補正係数FAFが新たな値に更新される。本ステップ116では、FAFから所定値Mを減算することによりFAFが更新される。所定値Mは、FAFを緩やかに変化させるための値である。本ステップ116の処理が終了すると、今回のルーチンが終了される。
図6(C)中に“R”を付して示す期間は、空燃比が継続的に燃料リッチである期間(以下、リッチ期間と称す)を示す。上記ステップ116の処理は、このようなリッチ期間に実行される。リッチ期間では、燃料噴射時間TAUを短くすることにより空燃比を理論空燃比に近づけることができる。上記ステップ112〜116の処理によれば、図6(C)に示す如く、リッチ期間中、FAFを緩やかに減少させることができる。FAFが緩やかに減少し続けるとやがて燃料リッチが解消される。このため、上記の処理によれば、燃料リッチ側に偏った空燃比を、理論空燃比に向けて修正することができる。
【0048】
図3に示すルーチン中、上記ステップ114で前回の処理サイクル時に空燃比が燃料リーンであったと判別される場合は、前回の処理サイクル時から今回の処理サイクル時にかけて、空燃比が燃料リーンから燃料リッチに変化したと判断することができる。かかる判別がなされた場合は、次にステップ118の処理が実行される。
【0049】
ステップ118では、その時点でのフィードバック補正係数が、リーン傾向係数FAFLとして記憶される。FAFLが記憶されると、次にステップ120の処理が実行される。
ステップ120では、フィードバック補正係数FAFが新たな値に更新される。本ステップ120では、FAFからスキップ値Sを減算することによりFAFが更新される。スキップ値Sは、FAFを比較的大きく変化させるための値である。本ステップ120の処理が終了すると、次にステップ130の処理が実行される。
【0050】
図6中に示す時刻t1 は、空燃比が燃料リーンから燃料リッチに変化した時刻(以下、リーン解消時刻と称す)を示す。上記ステップ118および120の処理は、上記の如く空燃比が燃料リーンから燃料リッチに変化する毎に実行される。フィードバック補正係数FAFを、リーン解消時刻においてスキップ的に減少させると、燃料リーンが解消された後、空燃比が大きく燃料リッチ側へ偏るのを防止することができる。
【0051】
図3に示すルーチン中、上記ステップ112で空燃比が燃料リッチでない、すなわち、O2 センサの出力信号が0.45Vに満たないと判別された場合は、次にステップ122の処理が実行される。
ステップ122では、前回の処理サイクル時に空燃比が燃料リッチであったか否かが判別される。前回の処理サイクル時に、空燃比が燃料リッチでなかったと判別される場合は、前回の処理サイクル時から今回の処理サイクル時にかけて空燃比が継続的に燃料リーンであると認識できる。この場合、次にステップ124の処理が実行される。
【0052】
ステップ124では、フィードバック補正係数FAFが新たな値に更新される。本ステップ124では、FAFに所定値Mを加算することによりFAFが更新される。本ステップ124の処理が終了すると今回のルーチンが終了される。
図6(C)中に“L”を付して表す期間は、空燃比が継続的に燃料リーンである期間(以下、リーン期間と称す)を示す。上記ステップ124の処理は、このようなリーン期間に実行される。リーン期間では、燃料噴射時間TAUを長くすることにより空燃比を理論空燃比に近づけることができる。上記ステップ112、122および124の処理によれば、図6(A)に示す如く、リーン期間中、FAFを緩やかに増加させることができる。FAFが緩やかに増加し続けるとやがて燃料リーンが解消される。このため、上記の処理によれば、燃料リーン側に偏った空燃比を、理論空燃比に向けて修正することができる。
【0053】
上記ステップ122で、前回の処理サイクル時には空燃比が燃料リッチであったと判別される場合は、前回の処理サイクル時から今回の処理サイクル時にかけて、空燃比が燃料リッチから燃料リーンに変化したと判断することができる。かかる判別がなされた場合は、次にステップ126の処理が実行される。
ステップ126では、その時点でのフィードバック補正係数が、リッチ傾向係数FAFRとして記憶される。FAFRが記憶されると、次にステップ128の処理が実行される。
【0054】
ステップ128では、フィードバック補正係数FAFが新たな値に更新される。本ステップ128では、FAFにスキップ値Sを加算することによりFAFが更新される。本ステップ128の処理が終了すると、次にステップ130の処理が実行される。
図6中に示す時刻t2 は、空燃比が燃料リッチから燃料リーンに変化した時刻(以下、リッチ解消時刻と称す)を示す。上記ステップ126および128の処理は、上記の如く空燃比が燃料リッチから燃料リーンに変化する毎に実行される。フィードバック補正係数FAFをリッチ解消時刻においてスキップ的に増加させると、燃料リッチが解消された後、空燃比が大きく燃料リーン側へ偏るのを防止することができる。
【0055】
図3に示すルーチン中、上記ステップ120または128の処理が終了すると、次にステップ130の処理が実行される。
ステップ130では、反転時間カウンタCSPINTを“0”にリセットする処理が実行される。反転時間カウンタCSPINTは、本ステップ130で“0”にリセットされた後、その後の経過時間を計数する。反転時間カウンタCSPINTによれば、空燃比が燃料リッチから燃料リーンへ、または、燃料リーンから燃料リッチへ変化した後の経過時間を計数することができる。本ステップ130の処理が終了すると、次にステップ132の処理が実行される。
【0056】
ステップ132では、上述したリーン傾向係数FAFLおよびリッチ傾向係数FAFRを次式に代入することにより、それらの平均値FAFAVが演算される。
FAFAV=(FAFL+FAFR)/2 ・・・(3)
リーン化傾向計数FAFLは、リーン期間が長期間継続するほど大きな値となる。一方、リッチ化傾向計数FAFRは、リーン期間が長期間継続するほど大きな値となる。このため、平均値FAFAVは、リッチ期間に比してリーン期間が長い場合に大きな値となる。また、リーン期間に比してリッチ期間が長い場合に小さな値となる。従って、平均値FAFAVは、空燃比が燃料リーン側に偏っているか、または、燃料リッチ側に偏っているかを判断するための特性値と把握することができる。本ステップ132の処理が終了すると、次にステップ134の処理が実行される。
【0057】
ステップ134では、上記の如く演算された平均値FAFAVに基づいて、そのなまし値FAFSMが演算される。本ステップ134の処理が終了すると、今回のルーチンが終了される。
図4および図5は、単位パージ係数FGPGを適正な値に更新するためにECU12が実行する制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図4および図5に示すルーチンは、キャニスタ40から燃料をパージさせる制御(パージ制御)の実行中に、内燃機関10が所定回転角だけ回転する毎に起動されるNE割り込みルーチンである。図4および図5に示すルーチンが起動されると、先ずステップ140の処理が実行される。
【0058】
ステップ140では、パージカウンタPGCがインクリメントされる。パージカウンタPGCは、イニシャル処理により“0”にリセットされた後、本ルーチンが起動される毎に、本ステップ140でインクリメントされるカウンタである。本ステップ140の処理が終了すると、次にステップ142の処理が実行される。
【0059】
ステップ142では、更新フラグXRENEWに“1”がセットされているか否かが判別される。更新フラグXRENEWは、イニシャル処理により“0”とされ、後述の手法により単位パージ係数FGPGが不適切な値であると判別された場合に“1”とされるフラグである。上記の判別の結果XRENEW=1が不成立であると判別された場合は、次にステップ144の処理が実行される。
【0060】
ステップ144では、パージカウンタPGCの計数値が所定値α以上であるか否かが判別される。その結果、PGC≧αが成立する場合は、次にステップ146の処理が実行される。
ステップ146では、次式に従って、単位パージ係数FGPGが算出される。
上記(4)式中、FBAは、パージ制御の開始時における平均値FAFAVである。以下、その値を開始時状態値FBAと称す。従って、上記(4)式中、(FBA−FAFAV)は、パージ制御が開始された後に平均値FAFAVに生じた変化量、すなわち、パージ制御が開始された後、空燃比を理論空燃比に合わせるために平均値FAFAVに施された減量補正量である。以下、その値を減量補正量ΔFAFAVと称す。更に、上記(4)式中、(FBA−FAFTAV)/(PRG)は、平均値FAFAVに施された単位パージ率あたりの減量補正量である。
【0061】
ΔFAFAV/PGRは、単位パージ係数FGPGの過剰分と一致する値である。つまり、単位パージ係数FGPGからΔFAFAV/PGRが減算されると、パージ補正係数FPG=(FGPG−1)・PGRは、元の値からΔFAFAVだけ減算された値となる。パージ補正係数FPGが元の値からΔFAFAVだけ小さな値となると、空燃比を理論空燃比に一致させるために、平均値FAFAVを開始状態値FBAに比してΔFAFAVだけ小さな値とする必要がなくなる。この点、ΔFAFAV/PGRは、上記の如く単位パージ係数FGPGの過剰分と把握することができる。
【0062】
上記ステップ146では、単位パージ係数FAFAVから(ΔFAFAV/PGR)の半分を減算することで新たな単位パージ係数FGPGを求めている。かかる処理によれば、平均値FAFAVをパージ制御が開始される以前の値に近づけること、すなわち、内燃機関10に供給される混合気の空燃比を、パージ制御が開始される以前の空燃比に近づけることが可能である。上記ステップ146の処理が終了すると、次にステップ148の処理が実行される。
【0063】
ステップ148では、パージカウンタPGCの計数値が“0”にリセットされる。本ステップ148の処理が実行されると、以後、再びパージカウンタPGCの計数値が所定値αを超えるまで、上記ステップ144においてPGC≧αが不成立であると判別される。上記ステップ144でPGC≧αが不成立であると判別された場合は、次にステップ150の処理が実行される。
【0064】
ステップ150では、反転時間カウンタCSPINTの計数値が所定時間TL以上であり、O2 センサ62の出力信号OXが燃料リーンであることを示しており、かつ、フィードバック補正係数FAFが所定値THL以上であるか否かが判別される。出力信号OXが燃料リーンであることを示している場合は、空燃比が理論空燃比に比して燃料リーンであると判断することができる。かかる状況下で、CSPINT≧TLが成立する場合は、空燃比が通常時に比して長期間に渡って燃料リーン側に維持されていると判断することができる。
【0065】
空燃比が通常時に比して長期間にわたって燃料リーン側に維持される現象は、単位パージ係数FGPGが過少であり、その結果、燃料噴射時間TAUが過大に短縮補正された場合(上記ステップ102および108参照)に発生すると共に、内燃機関10の運転状態の変化に伴って、空燃比が燃料リッチ側に偏った後、燃料リーン側偏り、その後収束する場合等に発生する。
【0066】
すなわち、内燃機関10の運転状態が変化して、空燃比が燃料リッチ側に偏ると、フィードバック補正係数FAFは、その偏りを是正するために中心値1.0に比して十分に小さな値に更新される。その後、空燃比が燃料リーン側に変化すると、フィードバック補正係数FAFは、その偏りを是正するため、中心値1.0に比して大きな値に向けて更新される。この際、FAFは、1.0に比して十分に小さな値から更新され始めるため、燃料リーン側への偏りを是正し得る値に達するまでには、比較的長期間を要する。このため、空燃比が燃料リッチ側へ偏った後、燃料リーン側に振れた場合は、単位パージ係数FGPGが適正な値であっても、CSPINT≧TLが成立することがある。
【0067】
ところで、上述した空燃比の振れに起因してCSPINT≧TLが成立する場合は、フィードバック補正係数FAFが、1.0に比して十分に小さな値から増大方向に更新される。このため、CSPINT≧TLが成立した時点で、FAFの値は、長期間継続して増大方向に更新されているにも関わらず、1.0に比してさほど大きな値に達しない。これに対して、単位パージ係数FGPGの値が過少であることに起因してCSPINT≧TLが成立する場合は、FAFが1.0の近傍から長期間継続して増大方向に更新されるため、CSPINT≧TLが成立した時点で、FAFの値は、1.0に比して十分に大きな値に到達する。
【0068】
上記ステップ150で、FAFとの比較に用いられるしきい値THLは、これら2つの状況を判別するために設定されたしきい値である。従って、上記ステップ150で判別される全ての条件が成立する場合は、単位パージ係数FGPGが過少であると判断することができる。この場合、次にステップ152の処理が実行される。一方、上記ステップ150で判別される条件のうち何れかの条件が成立しない場合は、単位パージ係数FGPGが過少であると判断することができない。この場合、ステップ152がジャンプされ、次にステップ154の処理が実行される。
【0069】
ステップ152では、補正量ΔFGPGに所定値F1が代入される。所定値F1は、上記ステップ150の条件が成立する場合に、単位パージ係数FGPGに加算すべき値として予め設定されている値である。本ステップ152の処理が終了すると、次にステップ154の処理が実行される。
ステップ154では、反転時間カウンタCSPINTの計数値が所定時間TR以上であり、O2 センサ62の出力信号OXが燃料リッチであることを示しており、かつ、フィードバック補正係数FAFが所定値THR以下であるか否かが判別される。出力信号OXが燃料リッチであることを示している場合は、空燃比が理論空燃比に比して燃料リッチであると判断することができる。かかる状況下で、CSPINT≧TRが成立する場合は、空燃比が通常時に比して長期間に渡って燃料リッチ側に維持されていると判断することができる。
【0070】
空燃比が通常時に比して長期間にわたって燃料リッチ側に維持される現象は、単位パージ係数FGPGが過大であり、その結果、燃料噴射時間TAUが過大に延長補正された場合(上記ステップ102および108参照)に発生すると共に、内燃機関10の運転状態の変化に伴って、図6(C)に示す如く、空燃比が燃料リーン側に偏った後、燃料リッチ側に偏り、その後収束する場合等に発生する。
【0071】
すなわち、内燃機関10の運転状態が変化して、空燃比が燃料リーン側に偏ると、フィードバック補正係数FAFは、その偏りを是正するために中心値1.0に比して十分に大きな値に更新される(図6(A)中期間▲1▼)。その後、空燃比が燃料リッチ側に変化すると、フィードバック補正係数FAFは、その偏りを是正するため、中心値1.0に比して小さな値に向けて更新される(図6(A)中期間▲2▼)。この際、FAFは、1.0に比して十分に大きな値から更新され始めるため、燃料リッチ側への偏りを是正し得る値に達するまでには、比較的長期間を要する。このため、空燃比が燃料リーン側へ偏った後、燃料リッチ側に振れた場合は、単位パージ係数FGPGが適正な値であっても、CSPINT≧TRが成立することがある。
【0072】
ところで、上述した空燃比の振れに起因してCSPINT≧TRが成立する場合は、フィードバック補正係数FAFが、1.0に比して十分に大きな値から減少方向に更新される。このため、CSPINT≧TRが成立した時点で、FAFの値は、長期間継続して減少方向に更新されているにも関わらずさほど小さな値には達していない。これに対して、単位パージ係数FGPGの値が過大であることに起因してCSPINT≧TRが成立する場合は、FAFが1.0の近傍から長期間継続して減少方向に更新されるため、CSPINT≧TRが成立した時点で、FAFの値は、1.0に比して十分に小さな値に到達する。
【0073】
上記ステップ154で、FAFとの比較に用いられるしきい値THRは、これら2つの状況を判別するために設定されたしきい値である。従って、上記ステップ154で判別される全ての条件が成立する場合は、単位パージ係数FGPGが過大であると判断することができる。この場合、次にステップ156の処理が実行される。一方、上記ステップ154で判別される条件のうち何れかの条件が成立しない場合は、単位パージ係数FGPGが過大であると判断することができない。この場合、ステップ156がジャンプされ、次にステップ158の処理が実行される。
【0074】
ステップ156では、補正量ΔFGPGに所定値−F2が代入される。所定値−F2は、上記ステップ154の条件が成立する場合に、単位パージ係数FGPGに加算すべき値として予め設定されている値である。本ステップ156の処理が終了すると、次にステップ158の処理が実行される。
ステップ158では、フィードバック補正係数FAFが上限値ULに達しているか否かが判別される。本実施例のシステムにおいて、フィードバック補正係数FAFは、単位パージ係数FGPGが過少であり、燃料噴射時間TAUが過大に短縮補正されている場合にのみ上限値ULに達する。従って、FAF≧ULが成立する場合は、FGPGを増大方向に補正する必要があると判断することができる。この場合、次にステップ160の処理が実行される。一方、FAF≧ULが成立しない場合は、ステップ160がジャンプされ、次にステップ162の処理が実行される。
【0075】
ステップ160では、補正量ΔFGPGに所定値F3が代入される。所定値F3は、上記ステップ158の条件が成立する場合に、単位パージ係数FGPGに加算すべき値として予め設定されている値である。本ステップ160の処理が終了すると、次にステップ162の処理が実行される。
ステップ162では、フィードバック補正係数FAFが下限値LL以下であるか否かが判別される。本実施例のシステムにおいて、フィードバック補正係数FAFは、単位パージ係数FGPGが過大であり、燃料噴射時間TAUが過大に延長補正されている場合にのみ下限値LLに達する。従って、FAF≦LLが成立する場合は、FGPGを減少方向に補正する必要があると判断することができる。この場合、次にステップ164の処理が実行される。一方、FAF≦LLが成立しない場合は、ステップ164がジャンプされ、次に図5に示すステップ166の処理が実行される。
【0076】
ステップ164では、補正量ΔFGPGに所定値−F4が代入される。所定値−F4は、上記ステップ162の条件が成立する場合に、単位パージ係数FGPGに加算すべき値として予め設定されている値である。本ステップ164の処理が終了すると、次に図5に示すステップ166の処理が実行される。
ステップ166〜ステップ172では、それぞれ、上記ステップ150、ステップ154、ステップ158およびステップ162と同様の判別処理が実行される。その結果、これらの条件が何れも成立しない場合は、すなわち、今回の処理サイクルにおいて単位パージ係数FGPGを更新する必要がない場合は、以後、何ら処理が進められることなく今回のルーチンが終了される。一方、ステップ166〜172の何れかの条件が成立する場合は、次にステップ174の処理が実行される。
【0077】
ステップ174では、更新フラグXRENEWに“1”がセットされる。更新フラグXRENEWは、単位パージ係数FGPGが不適正な値であることを表示するフラグである。本ステップ174の処理が実行されると、次回以降、本ルーチンが起動された後、上記ステップ142でXRENEW=1が成立すると判別される。本ステップ174の処理が終了すると、次にステップ176の処理が実行される。
【0078】
ステップ176では、なまし値FAFSMが所定範囲内に収まっているか否か、具体的には、1−β≦FAFSM≦1+βが成立するか否かが判別される。なまし値FAFSMは、上述の如く、平均値FAFAVを平滑化した値である。また、平均値FAFAVは、リーン傾向係数FAFLとリッチ傾向係数FAFRとの平均値である。従って、1−β≦FAFSM≦1+βが成立する場合は、フィードバック補正係数FAFが、1.0近傍の値を中心値として変動していると判断することができる。一方、上記の条件が成立しない場合は、FAFが1.0から外れた値を中心値として変動していると判断することができる。
【0079】
単位パージ係数FGPGが不適正な値である場合は、フィードバック補正係数FAFが、その誤差分を吸収すべく、1.0から外れた値を中心値として変動する。従って、単位パージ係数FGPGが適正な値に更新されるまでは、ステップ176の条件は成立しない。この場合、ステップ176に次いで、ステップ178の処理が実行される。
【0080】
ステップ178では、上記ステップ150〜164の処理により設定された補正量ΔFGPGを、前回の処理サイクル時に用いられていた単位パージ係数FGPGに加算することで、単位パージ係数FGPGを更新する処理が実行される。本ステップ178の処理が実行されると、単位パージ係数FGPGは、適正な値に向かって修正される。本ステップ178の処理が終了すると、今回のルーチンが終了される。
【0081】
上記ステップ174の処理が実行された後、本ルーチンが再び起動されると、上記ステップ142に次いでステップ176の処理が実行される。このため、単位パージ係数FGPGは、上記ステップ176の条件が成立するまで、本ルーチンが起動される毎に適正な値に向かって更新される。その結果、FGPGが適正な値となり、上記ステップ176で、1−β≦FAFSM≦1+βが成立すると判別されると、次にステップ180の処理が実行される。
【0082】
ステップ180では、更新フラグXRENEWを“0”とする処理が実行される。本ステップ180の処理が実行されると、以後、本ルーチンが起動された場合に、上記ステップ142に次いで、ステップ144以降の処理が実行される。本ステップ180の処理が終了すると、今回のルーチンが終了される。
上記の処理によれば、パージカウンタPGCが所定値αに達する毎に、すなわち、所定時間が経過する毎に、平均値FAFAVを開始状態値FBAに近づけるべく単位パージ係数FGPGを更新することができると共に、単位パージ係数FGPGが不適正な値である場合に、優れた応答性をもってその値を適正な値に更新することができる。
【0083】
特に、本実施例のシステムによれば、FAFが上限値ULまたは下限値LLに達する場合の他、反転時間CSPINTが所定時間TLまたはTRに達した時点でFGPGの更新の必要性を判断することができる。このため、本実施例のシステムによれば、単位パージ係数FGPGが不適正な値である場合に、優れた応答性を以てその値を更新することができる。
【0084】
また、本実施例のシステムによれば、反転時間CSPINTが所定時間TLまたはTRに達した時点で、FAFの値が所定値THLに満たない場合、および、所定値THRを超えている場合に、単位パージ係数FGPGの更新を禁止することができる。このため、本実施例のシステムによれば、内燃機関10の運転状態の変化等に伴って空燃比に変動が生じたような場合に、誤ってFGPGが更新されるのを防止することができる。
【0085】
尚、上記の実施例においては、O2 センサ62が前記請求項1記載の「空燃比検出手段」に、所定時間TLおよびTRが前記請求項1記載の「所定時間」に、所定値THLが前記請求項1記載の「第1の所定値」に、所定値THRが前記請求項1記載の「第2の所定値」に、それぞれ相当している。
また、上記の実施例においては、ECU12が、上記ステップ116,120,124および128の処理を実行することにより前記請求項1記載の「フィードバック補正係数演算手段」が、上記ステップ108の処理を実行することにより前記請求項1記載の「空燃比フィードバック手段」および「パージ補正手段」が、上記ステップ130の処理およびCSPINTをカウントアップする処理を実行することにより前記請求項1記載の「反転後経過時間計数手段」が、また、上記ステップ150〜156および上記ステップ178の処理を実行することにより前記請求項1記載の「パージ補正係数更新手段」が、それぞれ実現されている。
【0086】
【発明の効果】
上述の如く、本発明によれば、パージ補正係数を、真に更新が必要な場合に限り、優れた応答性の下に更新することができる。従って、本発明によれば、蒸発燃料処理装置を備える内燃機関の空燃比を、優れた応答性をもって正確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に対応する内燃機関のシステム構成図である。
【図2】図1に示す内燃機関において燃料噴射時間TAUを演算すべく実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図3】図1に示す内燃機関においてフィードバック補正係数FAFを演算すべく実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図4】図1に示す内燃機関において単位パージ係数FGPGを更新すべく実行される制御ルーチンの一例のフローチャート(その1)である。
【図5】図1に示す内燃機関において単位パージ係数FGPGを更新すべく実行される制御ルーチンの一例のフローチャート(その2)である。
【図6】図1に示す内燃機関において実現されるフィードバック補正係数FAF、単位パージ係数FGPGおよび空燃比A/Fのタイムチャートの一例である。
【図7】従来の内燃機関において実現されるフィードバック補正係数FAF、単位パージ係数FGPGおよび空燃比A/Fのタイムチャートの一例である。
【図8】従来の内燃機関において実現されるフィードバック補正係数FAF、単位パージ係数FGPGおよび空燃比A/Fのタイムチャートの他の例である。
【符号の説明】
10 内燃機関
12 電子制御ユニット(ECU)
33 燃料噴射弁
34 燃料タンク
36 サージタンク
40 キャニスタ
FAF フィードバック補正係数
FAFAV 平均値
FAFSM なまし値
FGPG 単位パージ係数
FPG パージ補正係数
TP 基本燃料噴射時間
K 状態補正係数
TAU 燃料噴射時間
PGC パージカウンタ
XRENEW 更新フラグ
CSPINT 反転時間カウンタ
ΔFGPG 補正量
Claims (1)
- 燃料タンク内に発生する蒸発燃料を捕獲して所定状況下で内燃機関にパージする蒸発燃料処理装置を備える内燃機関の空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置において、
内燃機関に供給される混合気の空燃比を検出する空燃比検出手段と、
前記空燃比を目標空燃比に近づけるためのフィードバック補正係数を演算するフィードバック補正係数演算手段と、
燃料噴射弁から噴射される燃料噴射量に前記フィードバック補正係数を反映させる空燃比フィードバック手段と、
前記空燃比検出手段によって検出される空燃比が目標空燃比に比して燃料リッチである状態と、燃料リーンである状態とが反転した後の経過時間を計数する反転後経過時間計数手段と、
前記反転後経過時間検出手段によって計数された経過時間が所定時間以上であり、かつ、前記フィードバック補正係数が第1の所定値以上である場合、および、前記反転後経過時間検出手段によって計数された経過時間が所定時間以上であり、かつ、前記フィードバック補正係数が第2の所定値以下である場合に、パージ燃料の影響を相殺するためのパージ補正係数を更新するパージ補正係数更新手段と、
前記パージ補正係数を燃料噴射量に反映させるパージ補正手段と、を備えることを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
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