JP3702614B2 - チタンクラッド鋼板による防食方法及び防食鋼構造物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はチタンクラッド鋼板による防食方法、特に海水環境等に適用可能な長期耐久性に優れた防食方法及びその防食方法を用いた防食鋼構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
チタンは非常に優れた耐食性を有するために、厳しい腐食環境下におかれる海洋構造物や化学プラント、発電プラント、環境プラント等の分野でその用途が拡大しつつある。なかでも、海洋構造物等の巨大構造物の分野では、高価なチタンで構造物そのものを製造すると莫大なコストがかかるので、安価な鋼で製造された構造物の表面にチタン板やチタンクラッド鋼板を溶接し、構造物の防食を図る方法が検討されている。特に、最近では、チタンと鉄の異種金属が溶融する部分(異材接合部と呼ばれる)には脆弱な金属間化合物やチタンの炭窒化物が生成して割れ等の溶接不良が発生するので、鋼構造物との溶接を母材の鋼板で行えるチタンクラッド鋼板が注目されている。また、このチタンクラッド鋼板には、鋼板で強度を維持できるので、合わせ材のチタンの厚みを耐食性を確保できる最小限の厚みまで薄くできるためコスト的なメリットもある。
【0003】
しかし、チタンクラッド鋼板を用いても、それにより鋼構造物の表面を隙間なく覆うにはチタンクラッド鋼板同士の溶接が必要であり、そのとき上記のような異材溶接部が生じるので、溶接割れ等の問題を完全には回避できない。
【0004】
そのために、チタンクラッド鋼板の溶接には、従来より種々の方法が提案されている。例えば、真空内ろう付け方法や金属間化合物を生成しないようにインサート材を挿入する拡散接合法があるが、高価な真空装置や貴金属のインサート材を用いるためコスト高になる。大きさの制約や、施工現場での溶接ができない等の問題があり、巨大構造物には適用できない。
【0005】
巨大構造物にも適用できる方法として特開平2−280969号公報や特開平2−280970号公報には、チタンクラッド鋼板同士と溶接する際、突き合わせ部の合わせ材を除き(カットバックと呼ぶ)、そこに開先を設けて母材を溶接し、合わせ材と同質のチタンのスペーサーを溶接部に挿入する方法や、さらにその上をチタンの当て板で覆う方法が開示されている。
【0006】
一方、海洋構造物のスプラッシュゾーン等、耐食性を要求される部位に限定して、チタンクラッド鋼板をライニングする場合は必ず端面が生じるが、特開平2−280969号公報や特開平2−280970号公報によるものでは母材とチタンのスペーサーとは全面接合されていないので、溶接部端面の空隙から海水等が浸入し、母材に腐食を生じる問題がある。
【0007】
図3にライニング端に位置するチタンクラッド鋼板間の溶接端部を示す。同図によれば、クラッド鋼板間の母材溶接部6とチタン当て板7との間においてクラッド合わせ材(チタン)3は欠落しているため、本溶接部の端面で空隙となる。このような空隙を密閉する方法として、特開昭63−282247号公報には金属クラッド鋼板の端部、接続部に同種の金属を低温溶射し、ついで合成樹脂塗料を塗布する方法が開示されている。特開平4−182522号公報には図4のごとく、溶接端部の空隙をAg−Cu系金属のろう付け10等で埋める方法が開示されている。また、特開平5−185237号公報には図5のごとく、チタンクラッド鋼板の溶接端部に相当する部位に予め切り込み13を設け(図5(a))、突き合わせ溶接後、スペーサー11としてチタンクラッド鋼板を挿入し溶接する方法(図5(b)が開示されており、特開平7−34480号公報には図6のごとく、溶接部端面に塞ぎ板14としてチタン板やチタンクラッド鋼板を溶接する方法が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開昭63−282247号公報によるものは、同種金属の低温溶射に手間がかかり、また合成樹脂塗料塗膜の長期耐久性も十分ではない。また、ろう付けは通常の溶接に比べ困難であるため、特開平4−182522号公報のように、空隙全面をろう付けのみで密閉した場合は欠陥の発生する確率が高く、特に、上向きのろう付けは実質的に不可能である。一方、ライニング端部におけるチタンクラッド鋼板母材の隅肉溶接では、強度面から一定のビード厚みを確保する必要があり、前述のごとく端部のクラッド合わせ材(チタン)をカットバックする必要がある。しかし、特開平7−34480号公報によるものは、クラッド合わせ材(チタン)と母材の端面が面一であることを前提としており、上記のように合わせ材をカットバックしたものには適用できない。一方、特開平5−185237号公報によるものはカットバックしたクラッド鋼板に適用できるものの、予めクラッド鋼板端部に切り込みを設ける手間がかかり、また、スペーサーも突き合わせ溶接後に現物合わせする必要がある等、手間がかかる。また、切り込みを設けることにより切り込み近傍の継手の疲労強度の劣化が懸念される。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、チタンクラッド鋼板のカットバック如何に関わらず適用可能であり、作業性及び作業能率が良く、かつ長期耐久性に優れた防食方法及び防食鋼構造物を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る防食方法は、鋼構造物の一部にチタンクラッド鋼板を上下左右に連続ライニングする防食施工の際、ライニング部端面を形成するチタンクラッド鋼板において、
(イ)チタンクラッド鋼板周縁の母材部を鋼構造物に溶接する工程と、
(ロ)隣接したチタンクラッド鋼板間に生じるクラッド合わせ材が欠落した隙間と、その隙間からその延長線上の鋼構造物表面に至るまでの範囲をチタンの当て板で覆い、その当て板周縁を溶接する工程とを有する。
また、前記当て板周縁の溶接において少なくともチタンと鋼の異材接合部に純Ag溶加材を用いる。
【0011】
本発明に係る防食鋼構造物は、上記の防食方法を用いて構成された構造物である。
【0012】
本発明においては、最初に、チタンクラッド鋼板周縁の母材部のみを鋼構造物に溶接する。これは鋼同士の溶接であるため効率的であり、かつ接合強度も十分確保できる。
【0013】
次に、隣接したチタンクラッド鋼板間は隙間があるためチタンの欠落部となる。通常、この隙間にチタンの当て板をチタン合わせ材同士を架橋するごとく溶接すれば、ライニング表面の防食性能は確保できるが、端面には隙間が生じる。しかし、上記当て板を端面より先のライニングを施していない鋼構造物表面が露出する部位まで延長し、溶接することにより、隙間端面を同時に密閉することができ、従来技術のような端面の密閉処理を別途行う必要がなくなるため、作業効率が良いものとなっている。また、隙間端面より先端にあたる当て板の溶接は異材接合となり、ろう付けが必要であるが、全て立て向きであるため作業性は良く、かつ、当て板を多少曲げることにより、鋼構造物表面とのギャップも僅かとなるため、欠陥も生じ難い。さらに、チタンクラッド鋼板が薄板の場合、端面のクラッド母材と鋼構造物との溶接には溶接部近傍の合わせ材のカットバックが必要となるが、この場合も同様に対応できる。
【0014】
また、上記のろう付けにおいては、純Ag溶加材を使用しており、一般に用いられているAg−Cu系溶加材を用いても構わないが、純Ag溶加材の方が耐食性や延性に優れるため、長期にわたり防食性能が維持される点で好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
図2は本発明の一実施形態に係る防食鋼構造物の説明図である。この防食鋼構造物は海洋鋼構造物1のスプラッシュゾーンに薄板のチタンクラッド鋼板2を上下左右に連続配置し、腹巻き状にライニングしたものである。この例では、ライニング端に相当する最上段及び最下段のチタンクラッド鋼板間の溶接部に端面が形成される。この防食鋼構造物は、後述する図1の防食方法を適用することにより構成されている。
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係るチタンクラッド鋼板による防食方法の説明図であり、図2におけるライニング部最下段のチタンクラッド鋼板間の溶接端面近傍Aを拡大し、防食方法を施工順に示したものである。まず、図1(a)に示すように、チタンクラッド鋼板2の周縁のクラッド母材(鋼)4を鋼構造物1に溶接する。その際、チタンクラッド鋼板2が薄板の場合はクラッド界面の脆化を防止するため、必要に応じて図のごとく、ライニング端面の溶接部5及びクラッド鋼板間の溶接部6の近傍におけるクラッド合わせ材(チタン)3を予めカットバックしてもよい。
【0017】
次に、図1(b)に示すように、先端を多少折り曲げたチタンの当て板7により、チタンクラッド鋼板間に生じるクラッド合わせ材3が欠落した隙間と、その隙間からその延長線上の鋼構造物1に至るまでの範囲を当て板7で覆い、その当て板7の周縁を溶接する。その際、当て板7とクラッド合わせ材3の溶接部8はチタン系の溶加材を用い、その他の溶接部9は異材接合部であるため純Agの溶加材を用いてTIG溶接やプラズマ溶接等で行う。
【0018】
一方、クラッド合わせ材3が厚い場合は上記カットバック厚さが増大するため、当て板7とライニング端部のクラッド母材4との隙間が大きくなり、当て板溶接時の異材接合が困難になる。このような場合、当て板7は図1(c)に示すように、当て板7’及び7''の2ピースを予めオーバーラップ接合させたタイプとすることにより、当て板先端部7''の板厚をカットバック厚さに応じて設定できるため、上述の隙間はほとんど生せず、良好な異材接合部9を形成できる。
【0019】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、チタンクラッド鋼板周縁の母材部を鋼構造物に溶接し、隣接したチタンクラッド鋼板間で生じるクラッド合わせ材が欠落した隙間と、その隙間からその延長線上の鋼構造物表面に至るまでの範囲をチタンの当て板で覆い、その当て板周縁を溶接し、そして、当て板周縁の溶接において少なくともチタンと鋼の異材接合部に純Ag溶加材を用いるようにしたことにより、チタンクラッド鋼板のカットバック如何に関わらず適用可能であり、作業性及び作業能率が良く、かつ長期耐久性に優れた防食方法及び防食鋼構造物が実現できている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るチタンクラッド鋼板による防食方法の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る防食鋼構造物の説明図である。
【図3】従来技術による、ライニング端に位置するチタンクラッド鋼板間の溶接端部を示す図である。
【図4】特開平4−182522号公報に記載の溶接端面の空隙密閉方法を示す図である。
【図5】特開平5−185237号公報に記載の溶接端面の空隙密閉方法を示す図である。
【図6】特開平7−34480号公報に記載の溶接端面の空隙密閉方法を示す図である。
【符号の説明】
1 鋼構造物
2 チタンクラッド鋼板
3 クラッド合わせ材(チタン)
4 クラッド母材(鋼)
5 ライニング端面の鋼同士の溶接部
6 チタンクラッド鋼板間の鋼同士の溶接部
7 チタンの当て板
8 チタン同士の溶接部
9 チタンと鋼の異材接合部
10 溶接端部空隙密閉ろう付け
11 チタンクラッド鋼板のスペーサー
12 チタンクラッド鋼板のスペーサーの端部溶接部
13 切り込み
14 溶接端面の塞ぎ板
Claims (3)
- 鋼構造物の一部にチタンクラッド鋼板を上下左右に連続ライニングする防食施工の際、ライニング部端面を形成するチタンクラッド鋼板において、
(イ)チタンクラッド鋼板周縁の母材部を鋼構造物に溶接する工程と、
(ロ)隣接したチタンクラッド鋼板間に生じるクラッド合わせ材が欠落した隙間と、その隙間からその延長線上の鋼構造物表面に至るまでの範囲をチタンの当て板で覆い、その当て板周縁を溶接する工程とを有することを特徴とするチタンクラッド鋼板による防食方法。 - 前記当て板周縁の溶接において少なくともチタンと鋼の異材接合部に純Ag溶加材を用いることを特徴とする請求項1記載のチタンクラッド鋼板による防食方法。
- 請求項1又は請求項2記載の防食方法を用いて構成されたことを特徴とする防食鋼構造物。
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JPH11117252A JPH11117252A (ja) | 1999-04-27 |
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