JP3694967B2 - マルテンサイト系ステンレス鋼継目無鋼管の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、常温で実質的にマルテンサイト組織となるステンレス鋼を用い、高強度で、かつ、靱性および耐食性に優れた継目無鋼管を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
マルテンサイト系ステンレス鋼の継目無鋼管は、従来、製管後、焼入れ−焼戻しの熱処理を施して製品としている。この方法では、製管後に一旦冷却した鋼管を再加熱して焼入れをしなければならないので、工程が多く、またエネルギー消費も大きい。そこで、普通鋼および低合金鋼の継目無鋼管の製造で採用されている、いわゆる「直接焼入れ」をマルテンサイト系ステンレス鋼の継目無鋼管の製造にも適用する試みがなされている。
【0003】
例えば、特公平 5-45651号公報には、マンドレルミル方式で製管した後の鋼管をそのまま室温まで冷却した後、特定の条件で焼戻しを行う方法が、また、特開平5-98347 号公報には、熱間加工後のマルテンサイト系ステンレス鋼(鋼板、鋼管等) をそのまま直ちに2段階の冷却を行う方法が、それぞれ開示されている。
【0004】
しかし、これらの方法で得られる鋼管では、集合組織の形成が甚だしく、結晶粒界に析出したクロム炭化物の影響と重畳して、靱性等の機械的性質、耐硫化物応力割れ性(耐SSC性)等の耐食性に著しく異方性が現れる。
【0005】
本発明者は、上記の異方性の問題を解決する方法として、仕上げ圧延後に完全に再結晶する条件で熱間加工を行い、直接焼入れする方法を提案した(特開平4-110420号公報、参照) 。しかしながら、マルテンサイト系ステンレス鋼の再結晶温度は、低合金鋼に較べて著しく高いので、通常の継目無鋼管の製管ミルでは、製品サイズによって完全に再結晶させることが困難な場合がある。また、再結晶温度以上の高温で仕上げができるサイズの鋼管であっても、その鋼管の部位によって温度ムラがあって、これが製品に好ましくない影響を及ぼす。
【0006】
継目無鋼管の製造過程では、中空素管あるいは圧延後の鋼管が圧延ロールや搬送ラインのビーム等に全面均一に接触することはない。従って、1本の鋼管の部位(長手方向および円周方向の位置)によって冷却状況が異なり、相当の温度差が生じる。このような鋼管をそのまま焼入れすると、部位によっては未再結晶のまま焼入れされることになり、その結果として1本の鋼管内に異方性のある部分や機械的性質および耐食性の異なる部分が発生してしまう。即ち、製品鋼管は、特性にバラツキの多い実用に耐えないものになる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、製管後に別ラインで再加熱して行われている従来の焼入れ−焼戻し処理を、製管ライン内で製管に引き続いて行い、しかも、あらゆる製品サイズにおいて異方性がなく強度と耐食性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の継目無鋼管を製造する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、常温で実質的にマルテンサイト組織となるステンレス鋼を用いて継目無鋼管を製造する方法であって、下記▲1▼〜▲3▼の工程を順次行うことを特徴とする継目無鋼管の製造方法、を要旨とする。
【0009】
▲1▼ 中空素管に施す延伸加工および仕上げ加工を、両加工における合計の加工度で40%以上、仕上げ温度 800〜1100℃で行い継目無鋼管とする工程、
▲2▼ 上記継目無鋼管を補熱炉に装入し、下記の (a)式で規定されるfnの値が 22000 から27000 までの間の値となる温度T (℃) および時間t(hr)での補熱を行う工程、
▲3▼ 補熱炉から取り出した継目無鋼管を、少なくとも 600℃までは10℃/分以上の冷却速度として200 ℃以下に冷却した後、 500〜780 ℃で焼き戻す工程。
【0010】
fn=(T+ 273) × (21+ logt) ・・・ (a)
ただし、T≧ 800 (℃) である。
【0011】
本発明方法の対象となる「常温で実質的にマルテンサイト組織となるステンレス鋼」とは、常温でマルテンサイト主体の組織(50%未満のδフェライトを含んでいてもよい) となるステンレス鋼である。その化学組成には特に制約はないが、一般的な成分およびその含有量を例示すれば下記のとおりである(%は重量%である)。
【0012】
C:0.001 〜1.2 %、 Si:1 %以下、
Mn:2 %以下、 Cr: 8〜17%、
sol.Al:0.005 〜0.1 %、
P、S:それぞれ0.05%以下、
Mo:0〜3 %、Ni: 0〜8 %、
Cu: 0〜5 %、N:0.001 〜0.15%、
B:0 〜0.01%、
Ti、Nb、V:それぞれ 0〜0.5 %、
Ca、Mg、Y、希土類元素 (La、Ce等) :それぞれ 0〜0.01%。
【0013】
なお、これらの合金元素以外にも適当量の他の合金元素を含有していてもよい。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明方法の各工程について順次説明する。なお、製管素材 (ビレット) は、インゴットまたは連続鋳造したスラブ、ブルーム等から分塊圧延や鍛造を経て製造したビレットでもよいし、また、連続鋳造で丸ビレットを鋳造すれば、そのまま穿孔工程に付すことができる。
【0015】
延伸圧延に付す中空素管(ホローシェル)の製造、即ち、穿孔は、どんな方法で行ってもよい。例えば、傾斜ロール圧延機等のいわゆるピアサーで行うことができる。穿孔条件は、通常のマルテンサイト系ステンレス鋼の継目無鋼管製造の場合と基本的に同じでよい。ただし、次工程の延伸圧延において厚肉の中空素管を大きな加工度で圧延するには大きなミル・パワーを要する。従って、次工程の圧延加工の加工度を大きくするためには、穿孔工程でできるだけ薄肉にしておくのが好ましい。例えば、ピアサーをコーン型にし、交叉角を付けたロールで拡管薄肉化が可能なタイプのピアサーを使用して穿孔する方法が推奨される。
【0016】
▲1▼ 延伸加工および仕上げ加工工程:
この加工を行う設備には、マンネスマン・マンドレルミル方式、マンネスマン・プラグミル方式等、種々の方式がある。本発明方法ではいずれの方式をも採用できる。例えばマンドレルミル方式では、マンドレルミルで延伸加工、サイザーまたはレデューサーで仕上げ加工が行われる。
【0017】
延伸、仕上げ加工は、穿孔加工に比べると低温加工になり、結晶粒微細化に重要な加工工程である。これらの加工での仕上げ温度が 800℃よりも低くなると、後の補熱でも十分に固溶しない粗大なクロム炭化物が析出し、製品鋼管の耐SSC性および靱性が低下する。一方、1100℃を超えると結晶粒が粗大化して、やはり耐SSC性および靱性が低下する。従って、仕上げ温度は 800〜1100℃としなければならない。なお、組織微細化の点から仕上げ温度は 800〜900 ℃程度と低くするのが望ましい。
【0018】
延伸加工および仕上げ加工の合計加工度が 40 %未満であれば、結晶粒の微細化が十分でない。この加工度の上限には特に制限はないが、90%を超えると工具への負担が大きいので40〜90%の範囲とするのが好ましい。
【0019】
結晶粒微細化の観点からは、延伸加工工程と仕上げ加工工程の間隔はなるべく短くするのがよい。即ち、延伸加工時に導入された転位が回復する前に仕上げ加工を実施して、十分に歪を蓄積した後に再結晶による微細化を図ればその効果が大きい。
【0020】
上記のような加工は、延伸加工を行う圧延機 (例えばマンドレルミル) と、仕上げ加工を行う圧延機 (例えばサイザーまたはレデューサー) との間隔を、前者で加工された中空素管の長さよりも短い間隔をおいて設置した設備を使用して実施することができる。例えば、エキストラクティングサイザーによって、直ちに仕上げ圧延を実施するとともにホローシェルからバーを引き抜く作業を同時に行うような圧延プロセスが好ましい。
【0021】
▲2▼ 補熱工程:
補熱は、製管した継目無鋼管を製管ラインに設けた補熱炉に装入して行う。この補熱には、前の加工で歪を導入した鋼管を再結晶させて微細組織とすること、圧延加工中に析出したクロム炭化物を固溶させること、および鋼管を均一に熱して特性のバラツキや局部的異方性を少なくする、という多くの目的がある。補熱炉を用いることによって、管全体の温度の均一化のみならず温度の正確な調整が可能になり、製品に望まれる特性に合わせた熱処理条件の選択ができるという利点がある。
【0022】
補熱の温度が 800℃よりも低いとクロム炭化物の析出および粗大化が著しい。
【0023】
従って、補熱は 800℃以上で行う必要がある。即ち、前記 (a)式のT(℃)は 800以上としなければならない。
【0024】
高温で再結晶させる場合には、再結晶後に直ちに結晶粒の成長、粗大化が始まるので、補熱は短時間にしなければならない。補熱の温度T(℃)と時間t(hr)の関係は、再結晶の活性化エネルギーから導出される前記 (a)式のfnの値が 22000〜27000 となるように調整する必要がある。fnの値が 22000より小さい条件の補熱では再結晶が完全に完了せず、一方、fnが 27000を超える条件では結晶粒の粗大化が著しく、製品鋼管の耐SSC性および靱性が低下する。
【0025】
前記▲1▼の工程での仕上げ温度は、補熱工程の適正温度より高い場合、同等である場合、およびそれより低い場合、のいずれもあり得る。従って、本発明方法で補熱というのは、圧延仕上げ温度からの徐冷、仕上げ温度とほぼ同じ温度での保持、仕上げ温度からの加熱(昇温)のいずれもあり得る。前記 (a)式の条件を満足する限り、ヒートパターンには何ら制約はない。なお、 (a)式を満たす条件で補熱すれば、管全体の温度の均一化も達成される。
【0026】
▲3▼ 冷却工程:
マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れ性は高いので、補熱炉を出た鋼管の冷却は、クロム炭化物が析出しない速度であれば十分である。少なくとも、クロム炭化物が析出しやすい温度域である 600℃までは 10 ℃/分以上の冷却速度で冷却する。それによって炭化物の析出は実用上問題にならない程度に抑えることができる。600 ℃より低温では、任意の冷却速度で、実質的なMf点である200 ℃以下まで冷却すればよい。ただし、残留オーステナイトをできるだけ少なくするために室温まで完全に冷し切るのが好ましい。
【0027】
焼戻しは、焼入れによって生成したマルテンサイト組織を焼き戻して、製品鋼管の靱性と耐SSC性を向上させるために行う。500 ℃よりも低温では焼戻し効果が十分ではなく、780 ℃を超える温度では強度低下を招く。なお、焼戻しの時間は 5分から1時間程度でよい。
【0028】
【実施例】
表1に示すA〜Gの鋼を溶製し外径 225mmのビレットを作製して、マンネスマン−マンドレルミルを用いて圧延を行い、外径 273.1mm、肉厚 9.3 mm の鋼管を製造した。製造条件は表2に示すとおりである。なお、補熱後の熱処理において 600℃よりも低温域での冷却は空冷とし、それぞれの冷却終了温度から焼戻し温度の再加熱した。鋼管強度は鋼種によって変化するので、この焼戻し温度を変えてどの鋼種においても耐力 (降伏強度) が 60 kgf/mm2 前後になるように調整した。
【0029】
表2の従来例とは、前掲の特開平4-110420号公報に開示した方法に準じ、十分に高温で加工を終了させ、再結晶させた後の鋼管を直接焼入れし、焼戻しの処理を施した例である。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
得られた鋼管について、管端から長手方向に3mおきの3カ所およびこれらの各位置について円周方向に4等分した位置の合計12カ所から管軸方向に引張試験片、シャルピー衝撃試験片および耐食性試験片を採取し、下記の試験を行い機械的性質および耐食性を調べた。
【0033】
引張試験は、直径4mm、平行部 34mm の丸棒試験片を用いて行った。シャルピー衝撃試験は、5mm×10mm×55mmの2mmVノッチ試験片を用い、0℃での衝撃値で評価した。耐食性 (耐SSC性)は、NACE TM 0177 METHOD-A に規定された定荷重試験に従い、45kgf/mm2 の応力を負荷し、「30atm. CO2+0.01 atm. H2S + 5%NaCl」の溶液に浸漬し、200 時間後の割れの有無によって評価した。試験結果を表3に示す。
【0034】
表3では、降伏強度と衝撃値は上記の12カ所の試験片による最大値(M)、最小値(m)、平均値、およびバラツキ(M−m)で示した。また、異方性は衝撃試験片の破面にセパレーションが発生しているか否かで示した。耐SSC性は、12カ所からの試験片のうち、何本が合格(割れ発生無し) であったか、により評価した。
【0035】
【表3】
【0036】
表3から次の事実が明らかである。
【0037】
1) 本発明例である試番1から14までは、強度、靱性ともに良好であり、鋼管の部位によるそれらの値の差異は極めて小さい。即ち、バラツキが小さい。また、上記本発明例の衝撃試験片の破面には異方性の指標となるセパレーションが見られない。
【0038】
2) 耐SSC性試験では、12本の試験片の全てに割れが無く、耐SSC性も良好である。
【0039】
3) 従来例である試番22〜28では、鋼管の部位による機械的性質、特に強度のバラツキが大きい。また、耐SSC性試験でも全数合格には到っていない。
【0040】
4) 試番15〜21は、製管および熱処理の条件のどれかが本発明で定める条件を満たしていない比較例である。これらのうち、試番15は延伸加工と仕上げ加工の合計加工度が 5%と小さく、試番16は仕上げ温度が高過ぎて、いずれもオーステナイト結晶粒が粗大になり、靱性および耐SSC性が劣る。
【0041】
5) 試番17は、補熱温度が低く過ぎて炭化物が粗大に成長し、かつフェライト変態が起きたために強度が低く、靱性および耐SSC性が劣る。
【0042】
6) 試番18は、fnの値が小さ過ぎたために再結晶が十分でなくセパレーションが観察された。即ち、異方性が大きい。他方、試番19は、fnの値が大き過ぎてオーステナイト結晶粒が粗大化したため、靱性および耐SSC性が劣る。
【0043】
7) 試番20は、補熱後の 600℃までの冷却速度が小さいので、粗大炭化物の析出によって靱性および耐SSC性が低下している。一方、試番21は、冷却終了温度が高過ぎたためにマルテンサイト変態が完了しない状態で焼戻されてしまい、強度が低く、靱性および耐SSC性も劣っている。
【0044】
【発明の効果】
実施例からも明らかなとおり、本発明方法によって製造したマルテンサイト系ステンレス鋼の継目無鋼管には、従来の直接焼入れ法で製造された鋼管の難点であった特性のバラツキが殆どなく、かつ異方性もない。本発明方法は、製管から熱処理まで、連続的にオンラインで実施できるので、継目無鋼管の製造における生産性の向上と製造コストの低減にも大きく寄与する。
Claims (1)
- 常温で実質的にマルテンサイト組織となるステンレス鋼を用いて継目無鋼管を製造する方法であって、下記▲1▼〜▲3▼の工程を順次行うことを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
▲1▼ 中空素管に施す延伸加工および仕上げ加工を、両加工における合計の加工度で40%以上、仕上げ温度 800〜1100℃で行い継目無鋼管とする工程、
▲2▼ 上記継目無鋼管を補熱炉に装入し、下記の (a)式で規定されるfnの値が 22000 から27000 までの間の値となる温度T (℃) および時間t(hr)での補熱を行う工程、
▲3▼ 補熱炉から取り出した継目無鋼管を、少なくとも 600℃までは10℃/分以上の冷却速度として200 ℃以下に冷却した後、 500〜780 ℃で焼き戻す工程。
fn=(T+ 273) × (21+ logt) ・・・ (a)
ただし、T≧ 800 (℃) である。
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