JP3672876B2 - ベクトル制御インバータ装置及び回転駆動装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、永久磁石を回転子に、電機子巻線を固定子に設けた三相永久磁石モータのセンサレスベクトル制御インバータ装置に関し、特に始動前、フリーラン状態にある永久磁石モータの回転速度を検出し、その検出結果に基づいて適宜始動方法を選択、実行することができるベクトル制御インバータ装置及び該インバータ装置を備えた回転駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エアコン等のコンプレッサモータやファンモータ、電気自動車の駆動用モータに対しては、広範囲の可変速制御や電力消費量の低減、メンテナンス性の改善等の要請が強まっており、これに応えるため、永久磁石を回転子に使用した永久磁石モータをインバータ装置でもってセンサレスでベクトル制御する方式が多く採用されるようになってきている。
【0003】
ところが、例えばエアコンの室外機などに使用されているファン用モータなどでは、インバータ装置によって始動する前に、モータが自然風などの外力を受けてフリーラン(自走)している場合がある。このようなフリーラン状態にあるモータを、いきなりインバータ装置でもって始動させた場合には、モータの回転方向及び回転速度によっては、モータに急激な変化を強いることになり、動作に乱調をきたしたり、最悪の場合にはモータが破損に至ることがある。
【0004】
モータの回転子位置を検出するセンサが取り付けられている場合には、特開平11−332283号公報、特開平11−187690号公報に開示されているように、直流励磁又は巻線短絡により回転子を所定位置に停止させてから始動したり、回転子の位置を検出して適切な始動方法を選択する方式が開発されている。しかし、回転子位置を検出するセンサを有しないセンサレス方式の場合には、回転子の速度や位置を知ることができない。従って、前述したような不具合の発生を防止するにはモータの自然停止を待って始動するか、直流励磁又は巻線短絡により回転子を所定位置に停止させてから始動するしかないのが実情である。しかし、自然停止を待つのは非能率であるし、直流励磁や巻線短絡では、モータに作用する外力が強い場合に、ブレーキトルクが不足して回転子を停止させることができないという状態も生ずる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる不都合を解決すべく考案されたもので、その目的は、フリーラン状態にある永久磁石モータの回転速度と回転子角度を検出することができ、その検出結果に基づいて適切な始動方法を選択、実行することができる永久磁石モータ用のベクトル制御インバータ装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1記載のベクトル制御インバータ装置は、永久磁石を回転子に、電機子巻線を固定子に設けた三相永久磁石モータに供給する電流の瞬時値を、永久磁石が作る磁束と同じ速度で回転する回転座標系上の前記磁束に平行なd軸電流と、これよりπ/2位相が進んだq軸電流とに変換し、それぞれを独立に制御する永久磁石モータのベクトル制御インバータ装置において、モータ電流実測値と回転子角度推定値とから計算したd軸電流及びq軸電流、並びにd軸電圧指令値と、回転子角周波数推定値と、モータ回路定数とを用いてd軸誘起電圧推定値を計算する誘起電圧推定手段と、前記d軸誘起電圧推定値を入力とする比例積分演算器と、前記比例積分演算器の出力を回転子の前記角周波数指令値から減算して前記回転子角周波数推定値を計算する減算器と、前記回転子角周波数推定値を積分して回転子角度推定値を計算する積分器と、d軸電流指令値を、外部からのd軸電流指令値とゼロ値とに切り換える第1のスイッチと、q軸電流指令値を、前記比例積分演算器の出力信号を更に比例積分演算して求めた指令値とゼロ値とに切り換える第2のスイッチと、前記回転子角周波数推定値の信号を遅延させる遅延回路と、前記回転子角周波数指令値を、外部からの指令値と前記遅延回路の出力信号とに切り換える第3のスイッチと、を具備していることを特徴とするものである。
【0007】
このように構成したことにより、本インバータ装置は、回転子の位置又は速度を検出するためのセンサを用いることなく、永久磁石モータの励磁電流と回転速度とを独立に制御することができる。
【0008】
更に、請求項1記載のインバータ装置は、d軸電流指令値を、外部からのd軸電流指令値とゼロ値とに切り換える第1のスイッチと、q軸電流指令値を、前記比例積分演算器の出力信号を更に比例積分演算して求めた指令値とゼロ値とに切り換える第2のスイッチと、前記回転子角周波数推定値の信号を遅延させる遅延回路と、前記回転子角周波数指令値を、外部からの指令値と前記遅延回路の出力信号とに切り換える第3のスイッチとを具備することを特徴とするものであって、請求項2記載のように、前記第1及び第2のスイッチを共にゼロ値側に切り換え、前記第3のスイッチを遅延回路の出力側に切り換えることにより、フリーラン状態にある前記永久磁石モータの回転子角周波数(回転速度)と回転子角度を検出することができるようにしたものである。
【0009】
このような構成にしたことにより、本インバータ装置は、始動前に自然風等の外力を受けてフリーラン状態にあるファン用モータ等の回転子の角周波数と回転子角度を、センサを用いることなく検出することが可能である。そして、検出した角周波数と回転方向に基づいて適切な始動方法を選択、実行できるようにしたので、モータに急激な変化を強いることなく、スムーズにモータを始動させることができる。
【0010】
請求項6記載の回転駆動装置は、前記永久磁石モータと該モータを駆動するインバータ装置とを備えた回転駆動装置であって、該インバータ装置として請求項1ないし5の何れかに記載のベクトル制御インバータ装置を用いた回転駆動装置である。このような回転駆動装置は、センサレス且つブラシレスであるためメンテナンスが容易で故障が少なく、また負荷に対応した適切な始動を行うことができる利点を有する。
【0011】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
以下に本発明の第1の実施形態について図面により説明する。図1は、本発明の永久磁石モータのセンサレスベクトル制御に使用するインバータ装置の構成を機能ブロックで表したものである。負荷であるモータ1は、永久磁石を回転子に、電機子巻線を固定子に設けた回転界磁型の三相モータで、回転子位置に応じてインバータ装置から固定子巻線に電流を供給することによりブラシレスで駆動される。
【0012】
本インバータ装置は、モータ1の電流を制御する電流制御手段2と、回転子の角周波数(回転速度)および角度を推定する回転子速度・角度推定手段(回転子上に定めた回転座標系(以下、dq座標系という)の、固定座標系(以下、αβ座標系という)に対する角周波数と位相角を推定する手段をこのように呼ぶこととする。)3とから構成されている。モータ1の電流は電流検出器4により検出され、検出された三相電流Ia、Ib、Icは、abc/αβ変換器5により、これと等価なαβ座標系で表した二相電流Iα、Iβに変換される。次いで二相電流Iα、Iβは、αβ/dq変換器6により、dq座標系で表した電流Id、Iqに変換される。この変換計算の際には、後述する回転子速度・角度推定手段3により推定された回転子角度推定値(d軸とα軸との位相角の推定値をこのように呼ぶこととする。)θ0が用いられる。
【0013】
ここでdq座標系とは、回転子上の永久磁石が作り出す磁束方向をd軸に、これよりπ/2進んだ方向をq軸に定めた座標系であって、電流Id はd軸方向、電流Iqはq軸方向の電流成分を意味する。dq座標系は回転子と共に回転し、モータ電流は回転子位置に合わせてインバータ装置から供給されるのでId、Iqは直流量である。
【0014】
このような座標変換により計算されたId、Iqが、減算器7、8において、それぞれの指令値Id-com、Iq-comから減算されて偏差ΔId、ΔIqが計算される。なお第1のスイッチS1(9)、第2のスイッチS2(10 )は、指令値Id-com、Iq-comの値を選択するスイッチで、図はモータ1をベクトル制御によって駆動運転する場合の選択状態を示している。上記計算で求められた偏差ΔId、ΔIqは、それぞれ比例積分演算器11、12で演算されて出力にそれぞれd軸指令電圧Vd、q軸指令電圧Vqを発生させる。すなわち減算器7、8と比例積分演算器11、12とは、モータ電流Id、Iqを対応する指令値Id-com、Iq-comに一致させるための調節器としての役割を果たしている。出力のVd、Vqは、モータ電流を指令値Id-com、Iq-comに近づけるためにモータ1に印加されるべき指令電圧である。
【0015】
この指令電圧Vd、Vqは、dq/αβ変換器13によって、αβ座標系上での値Vα、Vβに変換される。この変換計算にも後述する回転子角度推定値θ0が用いられる。PWM形成器14は、指令電圧Vα、Vβに基づいてPWMインバータ15内のスイッチング素子を駆動する信号を発生させる。PWMインバータ15が、その信号に従ってスイッチング動作を実行することにより、モータ1の固定子巻線にVd、Vqに比例した電圧が印加され、モータ1が駆動される。こうしてモータ1の電流Id、Iqは、前述した調節器の制御動作により指令値Id-com、Iq-comに一致させられる。
【0016】
ここでId-comは、磁束を作る成分(励磁電流成分)の指令値であり、この値は外部より指令値として与えられる。一方、Iq-comは、回転トルクを発生させる成分(トルク電流成分)の指令値であり、モータ1の回転速度に直接的に関係する量である。このIq-comの値は、通常の運転状態では、比例積分演算器16の出力として与えられる。
【0017】
比例積分演算器16は、減算器17と共にモータ1の回転速度を調節する機能を果たすもので、減算器17の+入力端子には回転子の角周波数指令値ω-comが、−入力端子には回転子速度・角度推定手段3により推定されたモータ1の角周波数推定値ω0が入力される。そして、その偏差が比例積分演算器16にて演算され出力にq軸電流指令値Iq-comを発生させる。なお、第3のスイッチS3(18)は、角周波数指令値ω-comの値を選択するもので、図は、モータ1を通常運転する場合の選択状態を示している。
【0018】
このように、励磁電流成分指令値Id-comとトルク電流成分指令値Iq-comを独立に与えて、モータ1にその指令値通りの電流を流すには、αβ/dq変換器6及びdq/αβ変換器13での変換計算に必要な回転子角度θを正確に把握する必要がある。本インバータ装置では、これらの値をセンサを用いることなく、モータ電流測定値とモータ1への電圧指令値を基に、回転座標系での電動機モデルを使用して回転子速度・角度推定手段3の中で推定している。
【0019】
すなわち、誘起電圧推定手段19は、回転子に取り付けられた永久磁石が作る磁束が回転することにより、固定子巻線中に生ずる誘起電圧のd軸成分Edを次式により計算する。
Ed = Vd −(R+P・L)Id +ω0・Iq (1)式
ここに、Rはモータ1の巻線抵抗、Lは巻線のインダクタンス、ω0は回転子の角周波数推定値、Pは微分演算子である。Id 、Iqには実測電流値と回転子角度推定値θ0とから計算した値を用い、Vdには、PWMインバータ15の応答性が良いため実測値に代って指令値を使用している。ただし、実測値を用いても良いことはいうまでもない。
【0020】
角周波数推定値ω0としては、(1)式で求めたEdを比例積分演算器20で演算した出力ωerrorを減算器21にて、角周波数指令値ω-comから減算した次式で求める。(ただし、(1)式、(2)式は共にω0を含むため、(1)のω0には(2)式で計算した微小時間前のω0の値、例えばDSPを使用して計算する場合には、1計算周期前に計算したω0の値を用いる。)
ω0 = ω-com −ωerror (2)式
回転子角度推定値θ0は、上記角周波数推定値ω0を積分器22にて積分することによって求まる。
【0021】
誘起電圧には、(1)式で計算したEdの他にq軸成分Eqも存在し、またωerrorはEdを比例積分演算器20で演算しただけの数値であるので、必ずしも実際の回転子角周波数ωに対する正確な誤差を表している訳ではない。しかし、(2)式で計算した角周波数推定値ω0、及びこれを積分して求めた回転子角度推定値θ0を計算に使用し、調節器の助けを得て誘起電圧のd軸成分推定値Edをゼロに収束させることができた場合を考えると、その時点では誘起電圧推定値は、q軸成分のみとなる。この状態では回転子の永久磁石が作る磁束はd軸と平行であるとみなすことができるので、この時の回転子角度推定値θ0は、実際の回転子角度θに一致しているとみなすことができる。
【0022】
本インバータ装置では、比例積分演算器20が、このEdをゼロに収束させる上での最も重要な調節機能を果たしている。図1のブロック図は、変形すると図2のような等価なブロック図に書き換わる。比例積分演算器20は、比例積分演算器16、積分器22の助けを受けて、Edをその目標とするゼロ値に収束させるようにω0、及びθ0とIq-comの値を調節する。
【0023】
一方、回転子の角周波数については、比例積分演算器16が、角周波数指令値ω-comと角周波数推定値ω0との偏差であるωerrorをゼロに収束させるような調節動作を行う。そしてこれら比例積分演算器20、16の調節動作の結果として、Ed及びωerrorが共にゼロに収束する。このωerrorがゼロに収束した時点では、角周波数推定値ω0は角周波数指令値ω-comに一致し、モータ1は角周波数指令値ω-comで駆動される。
【0024】
このようにしてモータ1の回転子角度θが推定される動作と並行して、回転子角周波数ωが外部から与えられた角周波数指令値ω-comに一致するように調整される。また励磁電流成分Idも比例積分演算器11により、外部から与えられた励磁電流成分指令値Id-comに一致するように調節される。すなわち、角周波数(回転速度)と励磁電流成分とが、外部から与えられる任意の数値に一致するように、それぞれ独立して制御されるベクトル制御が実行される。
【0025】
以上の説明は、モータ1がインバータ装置により駆動されている通常の運転状態についての動作説明であった。次にモータ1が始動前に、外力によりフリーランしている状態における回転子の角周波数ωと回転子角度θを検出する動作について説明する。
この場合には、第1のスイッチS1(9)、第2のスイッチS2(10)、第3のスイッチS3(18)を図3に示したように切り換える。すなわち、Id、Iqの指令値としては“ゼロ "を与える。また、角周波数指令値ω-comとしては、角周波数推定値ω0を遅延回路23を通して遅延させた信号を与える。この遅延回路23の遅延時間は、モータ1の最高応答周波数に相当する周期よりも小さい値とすることが応答性の観点から望ましい。
【0026】
図3において、回転子角度推定値θ0が実際の回転子角度θに等しい値に推定されているとすると、モータ1の電流Id、Iqは、それぞれ比例積分演算器11、12により“ゼロ "に調整される。Id、Iqが共に“ゼロ "になるのは、Iα、IβおよびIa、Ib、Icが全て“ゼロ "の場合である。
【0027】
回転子角度推定値θ0をフリーランしている実際の回転子角度θに収束させるために、角周波数推定値ω0を遅延回路23により遅延させた信号を、角周波数指令値ω-comとして与える。このようにしておくと、前述した通常運転状態の場合と同様に、比例積分演算器20が、誘起電圧推定値Edを“ゼロ "に収束させるように回転子角周波数推定値ω0と回転子角度推定値θ0を調整する。Edが“ゼロ "になった時の回転子角度推定値θ0は、モータ1の実際の回転子角度θと一致する。また、その時の回転子角度推定値θ0を微分した値、すなわち角周波数推定値ω0はその時のモータ1の実際の角周波数ωと一致する。
このような動作により、本発明のインバータ装置によれば、フリーラン状態にあるモータ1の回転子角度θと角周波数ωの値を検知することが可能である。
【0028】
なお、本インバータ装置の制御を、DSP(Digital Signal Processor)などの高速プロセッサにより周期的に演算して実行する方法で実現する場合には、遅延回路23の遅延時間は、DSPの演算周期の1周期分とするとよい。また、DSPの演算速度が十分に速い場合には、遅延回路23で遅延した信号の代わりに、直近の複数の演算周期で求めた角周波数推定値ω0の平均値を指令値として用いてもよい。このようにしても回転子角度推定値θ0は、モータ1の実際の回転子角度θに収束する。
【0029】
更に、DSPで構成する場合、そのプログラミングは図2のブロック図に基づいて行うとよい。図1では、角周波数指令値ω-comの値が減算器21で用いられ、その演算結果であるω0が減算器17において、ω-comより減算される形になっている。この場合、ω-comを読み込む処理、減算器21での演算、減算器17での演算の実行順序によっては、図1と等価である図2のブロック図を実行することにならない場合があるからである。
【0030】
また、図1中の比例積分演算器11、12、16、20としては、モータ1およびモータ1が駆動する負荷の特性によっては、制御の応答性を改善するために、微分演算を加えた比例積分微分演算器を用いてもよい。
【0031】
以上述べた説明で明らかなように、本発明のインバータ装置は、回転子の位置又は速度を検出するセンサを用いることなく、永久磁石モータ1をベクトル制御できる。更に、始動前にフリーラン状態にあるモータ1の回転速度および回転子角度を、センサを用いることなく検出できるという利点を有する。
【0032】
(第2の実施形態)
本実施形態は、例えばエアコンの室外機に取り付けたファンを駆動するための永久磁石モータを、前述したベクトル制御インバータ装置を用いて適切に始動させる実施形態に関するものである。室外に設置されたファン用モータは、自然風等の外力を受けて、始動前にフリーランしている場合が多い。この場合、フリーラン状態に無関係にインバータ駆動を開始したのでは、モータに急激な変化を強いることになって好ましくない。
【0033】
図4は、モータのフリーラン状態に応じて、無理なく適切に始動するための本発明に係る処理のフローを示したものである。
インバータ装置に電源が供給されると、インバータ装置はステップS1を実行する。ステップS1では、第1の実施形態で説明した手段により、フリーラン状態にある回転子の角周波数ωを検出する。この場合、正確を期すために複数回の検出値の平均値をとることが好ましい。
【0034】
次いでステップS2に移行する。ステップS2以降は、検出した回転子の角周波数ωに対応して適切な始動を行うシーケンスである。ここで、図4中に使用している記号A、B、C、Dは、角周波数を表す正の定数で、A>B、D>Cとし、その値は始動前に予め決めておくものである。ステップS2では、検出した角周波数ωがD以上であるか否かを判定する。Dの値は、ω≧D が満足される場合には、ファン用モータが正転方向にかなり速い速度でフリーランしている状態に対応するように決めておく。従って、ω≧D が満足される場合は、ファン用モータが駆動されなくても正転方向にかなりの速度で回転している状態であるので、インバータによる駆動はせずにそのままの状態を継続させることとし、何もしないでステップS1に戻る。ω≧D が満足されない場合は、ステップS3に移行する。
【0035】
ステップS3においては、インバータ装置は、ω≦−A の条件が満足されているか否かを判定する。ここでAの値は、ω≦−A の条件が満足される場合には、ファン用モータが、逆方向にかなり速い速度で回転している状態に対応するように決めておく。逆方向にかなりの速度で回転しているということは、例えば室外機の場合、十分な風を受けて回転していることを意味する。従って、この場合もインバータによる駆動は不要であるので、そのままの状態を継続させることとし、何もしないでステップS1に戻る。ω≦−A の条件が満足されない場合は、−A<ω<D が満足されている場合に当たり、この場合にはステップS4に移行する。
【0036】
ステップS4においては、インバータ装置は、ω≧C の条件が満足されているか否かを判定する。この条件が満足されるのは、C≦ω<D の場合である。Cの値は、この条件が満足される場合には、ファン用モータが緩やかな速度で正転方向に回転している状態に対応するように決めておく。この状態は、検出した角周波数ω、回転子角度θを基にしてインバータ駆動しても、ファン用モータにそれほどの無理を強いることがない状態である。このステップS4の条件が満足される場合には、ステップS13に移行する。
【0037】
ステップS13では、検出した角周波数ωを角周波数指令値ω-comとして用い、また回転子角度として検出したθを回転子角度推定値θ0としてベクトル制御によるインバータ駆動を開始する。そして、角周波数指令値ω-comを漸増(又は漸減)させて、外部からの指令値まで変速する正転駆動動作を実行する。角周波数指令値ω-comが、外部からの指令値に一致した時点で始動動作は終了する。以後はステップS14に移り、外部からの指令値に従った角周波数でインバータ駆動を継続する定常運転に入る。
【0038】
ステップS4において条件が満足されない場合は、ステップS5に移行する。ステップS5では、インバータ装置は、ω≧−B の条件が満足されているか否かを判定する。この条件が満足されるのは、−B≦ω<C の場合である。この状態は、ファン用モータが停止、又は停止に近い低速度でフリーランしている状態に対応させてある。この条件が満足された場合には、ステップS6に移行する。ステップS6では、固定子巻線に直流電流を流してファン用モータの回転を一旦、停止させる。直流励磁を継続する時間は、予め決められた所定時間であり、ファン用モータを停止させるのに十分な時間である。所定時間経過の判定はステップS7で行う。ステップS7で所定時間の直流励磁を終えた後は、ステップS8に移り、転流を行う。転流は、回転子の位置とは無関係に、固定子巻線に三相交流電流を流して回転磁界を生じさせ、生じた回転磁界と回転子の永久磁石が作る磁界との相互作用でファン用モータを強制的に正転方向に回転させる操作をいう。このような回転磁界は、図3において、dq/αβ変換器13の入力として予め決めておいた一定のVd、Vqを与え、dq/αβ変換器13での計算に使用する回転子角度θ0として、角周波数Cより大きい一定の角周波数にまで変化する回転子角度を与えることによって発生させることができる。このように駆動することにより、ファン用モータは停止状態から角周波数Cに向かって加速されていくことになる。
【0039】
この転流を実行中、インバータ装置は回転子の角周波数ωを検出し続ける。そして、角周波数ωがCを超えた時点、即ちステップS10の条件が満足された時点でステップS13に移行する。このステップS10では、角周波数ωの値により転流の終期を判定しているが、代わりにステップS7のように時間で終期を判定するか、あるいはその両者を組み合わせた条件で判定してもよい。
【0040】
ステップS13では、先に述べたように検出した角周波数ωを角周波数指令値ω-comとして用い、また回転子角度と判定したθを回転子角度推定値θ0としてベクトル制御によるインバータ駆動を開始する。そして、角周波数指令値ω-comが外部からの指令値に一致した時点で始動動作は終了し、その後はステップS14に移って定常運転に入る。
【0041】
なお、上述のようにステップS5の条件が満足された場合に、直流励磁、転流を行うのは、ステップS5の条件が満足される角周波数範囲では、回転子の回転速度が遅いために、検出される回転子角周波数ωの値が必ずしも十分な精度を持っていない場合があり、このような場合にいきなりインバータ駆動を開始すると、ファン用モータに無理を強いる場合が起こり得るからである。
【0042】
ステップS5の条件が満足されない場合には、ステップS11に移行する。ステップS5の条件が満足されないのは角周波数ωが、−A<ω<−B の範囲にある場合である。この状態は、ファン用モータが逆方向に緩やかな速度でフリーランしている状態に対応させてある。このような状態にある場合には、検出した角周波数ωを角周波数指令値ω-comとして用い、また回転子角度と判定したθを回転子角度推定値θ0としてベクトル制御によるインバータ駆動を開始する。すなわち、ファン用モータは検出した角周波数ωで逆方向にインバータ駆動される。このようにして駆動を開始した後、インバータ装置は、角周波数指令値ω-comを漸増させる。つまり正転方向に向かってω-comを変化させる。ω-comがゼロに達した後も更に漸増を続け、外部からの角周波数指令値に一致するまで増加させる。こうして逆方向に回転していたファン用モータは減速され、回転速度がゼロになった後、今度は正転方向に駆動される。この回転方向が反転する動作がステップ12のリターン動作である。
【0043】
ステップS12でリターンした後は、ステップS13に移行する。ステップS13では、角周波数指令値ω-comが更に漸増され続け、ファン用モータもそれにつれて加速され続け、やがて外部からの角周波数指令値にまで増速される。角周波数指令値ω-comが外部からの指令値に一致した時点で始動動作は終了する。以後は、前述した場合と同じく、ステップS14に移り、外部からの指令値に従った角周波数で駆動を継続する定常運転に入る。
【0044】
以上の説明によって明らかなように、本発明のインバータ装置は、始動前にフリーラン状態にあるファン用モータの回転速度をセンサレスで検出することができ、検出した回転速度に合った適切な始動方法を選択することができる。その結果、ファン用モータに無理を強いることなく、スムーズに定常運転に入ることができる効果がある。
【0045】
上記第2の実施形態では、理解を容易にするため、定数A、B、C、Dが本発明をエアコンの室外機に適用した場合に適した数値に設定されているような説明をしたが、本発明はエアコンの室外機に適用が限定されるものではない。例えば、室内の空気を室外に排出する換気扇に適用する場合は、換気扇が外部から吹き込む風により高速で逆回転している時に、前記第2の実施形態のようにインバータ駆動せずにそのままの状態を継続させるのは好ましくない。この場合には、前述した−A<ω<−B の場合のように、逆転駆動、リターン、正転駆動、定常運転の順序に駆動して室内の空気を室外に排出する動作に移る必要がある。このような動作は、上記第2の実施形態における−Aの値として、マイナス無限大の数値を設定することにより、図4のシーケンスフローにて実現可能である。
【0046】
このように本発明のインバータ装置は、定数A、B、C、Dの値を、それらが負の値を取る場合を含めて種々変更することにより、モータの駆動対象に最も適したスムーズな始動を可能とするものである。
【0047】
(第3の実施形態)
本実施形態は、本発明のベクトル制御装置と永久磁石モータとを備えた回転駆動装置に関するもので、インバータ装置として本発明のベクトル制御インバータ装置を使用する実施形態である。永久磁石モータをインバータ制御する場合、制御を最適化するためには永久磁石モータの各種モータ定数を把握してインバータ制御に反映させる必要がある。こきため今日では、永久磁石モータとそれを駆動するインバータ装置とを一体化して回転駆動装置として販売されることが多い。この場合にインバータ装置として本発明のベクトル制御インバータ装置を採用すれば、センサレス且つブラシレスで永久磁石モータを駆動できることからメンテナンスが容易で故障が少なく、また負荷に対応した適切な始動を行うことができる回転駆動装置を提供することができる。
【0048】
【発明の効果】
以上の説明から理解されるように、本発明のベクトル制御インバータ装置は、回転子の位置又は速度を検出するためのセンサを用いることなく、永久磁石モータの励磁電流と回転速度とを独立に制御するすることができるため、センサ取り付けに伴うコスト上昇、メンテナンス作業量の増大を避けることができる。更に、始動前にフリーラン状態にあるモータの回転速度を検出することができ、その検出結果に基づいて適切な始動方式を選択、実行できるので、モータに急激な変化を強いることなく、スムーズにモータを始動できる効果を有する。
【0049】
また、本発明のベクトル制御装置と永久磁石モータとを備えた回転駆動装置は、センサレス且つブラシレスであるためメンテナンスが容易で故障が少なく、また負荷に対応した適切な始動を行うことができる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すベクトル制御インバータ装置の電気的構成を機能ブロックにより示す図
【図2】図1の機能ブロック図と等価な別表現による機能ブロック図
【図3】フリーラン状態にあるモータの回転子角度と角周波数を検出する場合の機能ブロック図
【図4】フリーラン状態にあるモータの始動シーケンスフロー図
【符号の説明】
図中、1は永久磁石モータ、2は電流制御手段、3は回転子速度・ 角度推定手段、9は第1のスイッチ、10は第2のスイッチ、18は第3のスイッチ、11、12、16、20は比例積分演算器、19は誘起電圧推定手段、23は遅延回路を示す。
Claims (6)
- 永久磁石を回転子に、電機子巻線を固定子に設けた三相永久磁石モータに供給する電流の瞬時値を、永久磁石が作る磁束と同じ速度で回転する回転座標系上の前記磁束に平行なd軸電流と、これよりπ/2位相が進んだq軸電流とに変換し、それぞれを独立に制御する永久磁石モータのベクトル制御インバータ装置において、
モータ電流実測値と回転子角度推定値とから計算したd軸電流及びq軸電流、並びにd軸電圧指令値と、回転子角周波数推定値と、モータ回路定数とを用いてd軸誘起電圧推定値を計算する誘起電圧推定手段と、
前記d軸誘起電圧推定値を入力とする比例積分演算器と、
前記比例積分演算器の出力を回転子の前記角周波数指令値から減算して前記回転子角周波数推定値を計算する減算器と、
前記回転子角周波数推定値を積分して回転子角度推定値を計算する積分器と、
d軸電流指令値を、外部からのd軸電流指令値とゼロ値とに切り換える第1のスイッチと、
q軸電流指令値を、前記比例積分演算器の出力信号を更に比例積分演算して求めた指令値とゼロ値とに切り換える第2のスイッチと、
前記回転子角周波数推定値の信号を遅延させる遅延回路と、
前記回転子角周波数指令値を、外部からの指令値と前記遅延回路の出力信号とに切り換える第3のスイッチと、を具備することを特徴とするベクトル制御インバータ装置。 - 前記第1及び第2のスイッチを共にゼロ値側に切り換え、
前記第3のスイッチを前記遅延回路の出力側に切り換えることにより、フリーラン状態にある前記永久磁石モータの回転子角周波数と回転子角度を検出することを特徴とする請求項1記載のベクトル制御インバータ装置。 - フリーラン状態にある前記永久磁石モータの回転子角周波数と回転子角度の検出値に基づいて前記永久磁石モータの始動方法を選択することを特徴とする請求項2記載のベクトル制御インバータ装置。
- フリーラン状態にある前記永久磁石モータの回転子角周波数の検出値をω、A、B、C、Dを正の定数とするとき、
( a ). ω≧D又はω≦−Aの場合にはフリーラン状態を継続させ、
( b ). C≦ω<Dの場合には回転子の角周波数指令値をωより漸増又は漸減させつつインバータ駆動して外部からの指令値に一致するように変速し、
( c ). −B≦ω<Cの場合には直流励磁により一旦停止させた後、強制転流して正転加速し、ω≧Cに加速された後は回転子の角周波数指令値をCより漸増させつつインバータ駆動して外部からの指令値に一致するまで加速し、
( d ). −A<ω<Bの場合には回転子の角周波数指令値を−Aより漸増させつつインバータ駆動して外部からの指令値に一致するまで加速する、
ことによって前記永久磁石モータを始動させることを特徴とする請求項2記載のベクトル制御インバータ装置。 - 前記永久磁石モータは、ファン駆動用モータであることを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載のベクトル制御インバータ装置。
- 前記永久磁石モータと該モータを駆動するインバータ装置とを備えた回転駆動装置であって、該インバータ装置は請求項1ないし4の何れかに記載のベクトル制御インバータ装置からなることを特徴とする回転駆動装置。
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