JP3672426B2 - 脚式移動ロボットの姿勢制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、脚式移動ロボットの姿勢制御装置に関し、より詳しくは脚式移動ロボット、特に2足歩行の脚式移動ロボットにおいて予期せぬ対象物反力を受けても動的バランスをとって姿勢の安定性を保つことができるようにしたものに関し、特に腕を備える脚式移動ロボットの腕と脚の脚腕協調制御としての応用が有効である。
【0002】
尚、この明細書で『対象物反力』は作業対象を含む環境から受ける外力で、ロボットに接地面から作用する床反力を除いたものを指称する意味で使用する。
【0003】
【従来の技術】
脚式移動ロボット、特に2足歩行の脚式移動ロボットで腕を備えたものとしては、「上体運動により3軸モーメントを補償する2足歩行ロボットの開発」(日本ロボット学会誌11巻第4号、1993年5月)が知られている。このロボットは単純化された腕としての振り子を備え、これを振ることによって発生する重力と慣性力も含めて目標歩容を予め設計しておき、それに追従するように歩行制御する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この従来技術においては腕は対象物反力を受けないことが前提となっている。従って、そこで提案されている制御を歩行だけではなく、作業にも適用したとき、作業対象から予期せぬ反作用を受けると動バランスを崩し、姿勢が不安定になったり、最悪の場合には転倒する恐れがあった。
【0005】
また、本出願人も特開平7−205069号公報で同種の脚式移動ロボットを提案しており、そこにおいては歩行時に摩擦力が低下したとき腕を振らせて安定な姿勢を回復するようにしている。
【0006】
しかしながら、本出願人が提案した脚式移動ロボットにおいては、脚と腕が協調せずに独立して別々に制御されているため、腕を駆動すると、腕が発生する重力と慣性力、および作業対象からの反作用によってロボット全体の動バランスが崩れ、却ってロボットの姿勢が不安定になる場合があった。
【0007】
従って、この発明の目的は上記した不都合を解消することにあり、脚式移動ロボットが予期できない対象物反力を受けても、動バランスをとって安定な姿勢を継続できるようにした脚式移動ロボットの姿勢制御装置を提供することにある。
【0008】
この発明の第2の目的は、対象物反力が急変するときも、それに静的にバランスする位置にロボットの重心を移動させることにより、傾きや転倒を効果的に抑制するようにした脚式移動ロボットの姿勢制御装置を提供することにある。
【0009】
この発明の第3の目的は、上記した対象物反力を受けたとき、ロボットの重心が移動する過渡期においても、重心位置や床反力を適正に変化させて動バランスを維持し続けられるようにした脚式移動ロボットの姿勢制御装置を提供することにある。
【0010】
この発明の第4の目的は、脚式移動ロボットで腕を備えるものにおいて、予め想定していなかった動作パターンで腕を動かして作業をするときに腕に発生する重力、慣性力だけでなく、作業対象から予期せぬ反作用を受けても、動バランスをとって安定な姿勢を継続できるようにした脚式移動ロボットの姿勢制御装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1項にあっては、少なくとも基体と、前記基体に連結される複数本のリンクからなる脚式移動ロボットの姿勢制御装置において、前記ロボットの少なくとも前記基体の目標軌跡を含む運動パターンと、前記ロボットに作用する床反力の目標軌跡と、前記ロボットに作用する床反力以外の外力の目標軌跡とを少なくとも含む、前記ロボットの目標歩容を設定する目標歩容設定手段、前記床反力以外の外力を検出する外力検出手段、前記検出された外力と、前記目標軌跡で設定された床反力以外の外力との偏差を演算する外力偏差演算手段、前記床反力の摂動と前記ロボットの重心位置および基体の位置の少なくともいずれかの摂動の関係を表現するモデル、少なくとも前記演算された外力の偏差に基づいて前記モデルに入力すべきモデル入力量を演算するモデル入力量演算手段、前記演算されたモデル入力量を前記モデルに入力し、得られる前記重心位置および基体の少なくともいずれかの摂動量に応じて前記基体の目標軌跡を修正する、基体目標軌跡修正量を演算する基体目標軌跡修正量演算手段、少なくとも前記演算されたモデル入力量に応じて前記床反力の目標軌跡を修正する、床反力目標軌跡修正量を演算する床反力目標軌跡修正量演算手段、および、少なくとも前記演算された基体目標軌跡修正量および床反力目標軌跡修正量に基づいて前記ロボットの関節を変位させる関節変位手段、を備える如く構成した。
【0012】
ここで『位置』は、重心位置を除き、『位置および/または姿勢』を含む意味で使用する。尚、『姿勢』は後述の如く3次元空間における向きを意味する。
【0013】
ここで、『床反力の目標軌跡』とは、より具体的には、少なくとも床反力中心点の目標軌跡を含む意味で使用する。また『前記床反力の目標軌跡を修正する』とはより具体的には、床反力中心点まわりのモーメントを修正する意味で使用する。
【0014】
ここで、『外力を検出する』とは、検出のみならず外乱オブザーバなどを使用して推定することも含む意味で使用する。
【0015】
請求項2項にあっては、前記モデル入力量演算手段は、前記外力に静的に平衡する平衡重心位置の摂動量を算出する平衡重心位置摂動量算出手段、を備え、前記算出された平衡重心位置に前記モデルが収束するように前記モデル入力量を演算する如く構成した。
【0016】
請求項3項にあっては、前記モデルが前記ロボットを倒立振子で近似するモデルである如く構成した。
【0017】
請求項4項にあっては、前記平衡重心位置摂動量算出手段は、前記算出された平衡重心位置の摂動量を所定の範囲に制限するリミッタ、を備える如く構成した。
【0018】
請求項5項にあっては、前記床反力目標軌跡修正量演算手段は、前記演算された床反力目標軌跡修正量を所定の範囲に制限するリミッタ、を備える如く構成した。
【0019】
請求項6項にあっては、前記床反力の目標軌跡は、前記ロボットに作用する床反力の目標中心点の軌跡を少なくとも含む如く構成した。
【0020】
請求項7項にあっては、前記床反力目標軌跡修正量演算手段は、前記床反力目標軌跡修正量が、前記モデル入力量から前記外力の偏差を減算した値と、前記床反力の目標中心点まわりに作用するモーメントに動力学的に釣り合うように、前記床反力目標軌跡修正量を演算する如く構成した。
【0021】
請求項8項にあっては、前記床反力以外の外力が、前記リンクを介して前記ロボットに作用する作業対象物からの反力である如く構成した。
【0022】
請求項9項にあっては、前記ロボットが、前記基体に連結される2本の脚リンクと2本の腕リンクからなる脚式移動ロボットである如く構成した。
【0023】
請求項10項にあっては、少なくとも基体と、前記基体に連結される複数本のリンクからなる脚式移動ロボットの姿勢制御装置において、前記ロボットの少なくとも前記基体の目標位置を含む運動パターンと、前記ロボットに作用する床反力の目標中心点の軌跡を少なくとも含む、前記ロボットの目標歩容を設定する目標歩容設定手段、前記リンクを介して前記ロボットに作用する、作業対象物からの反力を検出する対象物反力検出手段、前記検出された対象物反力を前記目標中心点まわりのモーメントとして変換する対象物反力モーメント変換手段、前記変換された対象物反力モーメントに動力学的に釣り合うように、前記目標中心点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置および姿勢を修正するロボット位置・姿勢修正手段、および前記修正された目標中心点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置・姿勢に基づいて前記ロボットの関節を変位させる関節変位手段、を備える如く構成した。
【0024】
請求項11項にあっては、少なくとも基体と、前記基体に連結される複数本のリンクからなる脚式移動ロボットの姿勢制御装置において、前記ロボットの少なくとも前記基体の目標位置を含む運動パターンを設定する目標歩容設定手段、前記リンクを介して前記ロボットに作用する、作業対象物からの反力を検出する対象物反力検出手段、前記検出された対象物反力を所定の点まわりのモーメントとして変換する対象物反力モーメント変換手段、前記変換された対象物反力モーメントに動力学的につりあうように、前記所定の点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置および姿勢を修正するロボット位置・姿勢修正手段、および前記修正された所定の点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置・姿勢に基づいて前記ロボットの関節を変位させる関節変位手段、を備える如く構成した。
【0025】
上記で、『脚式移動ロボット』は腕以外に対象物反力を受ける脚式移動ロボットを含む。また、『腕リンク』に関しては、脚リンクであっても、それが作業対象物に作用するものであれば、腕リンクとみなすものとする。例えば、昆虫型の6脚ロボットにおいて、前の2脚を用いて物を持ち上げる場合には、その脚リンクは腕リンクとみなすこととする。
【0026】
【作用】
請求項1項においては、脚式移動ロボットが予期できない外力、より具体的には作業対象物から反力を受けても、動バランスをとって安定な姿勢を継続することができる。更に、予め想定していなかった運動パターンでリンク、より具体的には腕を動かして作業をするときに腕に発生する重力、慣性力だけでなく、作業対象から予期せぬ反作用を受けても、動バランスをとって安定な姿勢を継続することができる。
【0027】
また、対象物反力が急変するときも、それに静的にバランスをとる位置にロボットの重心を移動させることにより、傾きや転倒を効果的に抑制することができる。また、ロボットの重心が移動する過渡期においても、重心位置や床反力を適正に変化させて動バランスを維持し続けることができる。
【0028】
請求項2項ないし8項においても、請求項1項と同様の作用、効果を有する。
【0029】
請求項9項にあっては、上記した作用、効果に加えて、脚式移動ロボットで腕を備えるものにおいても、予め想定していなかった動作パターンで腕を動かして作業をするときに腕に発生する重力、慣性力だけでなく、作業対象から予期せぬ反作用を受けても、動バランスをとって安定な姿勢を継続することができる。
【0030】
請求項10項ないし11項においても、請求項1項と同様の作用、効果を有する。
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る脚式移動ロボットの姿勢制御装置を説明する。尚、脚式移動ロボットとしては2足歩行ロボットを例にとる。
【0031】
図1はその脚式移動ロボットの姿勢制御装置を全体的に示す概略図である。
【0032】
図示の如く、2足歩行ロボット1は左右それぞれの脚リンク2に6個の関節を備える(理解の便宜のために各関節をそれを駆動する電動モータで示す)。
【0033】
6個の関節は上から順に、腰部の脚回旋用の関節10R,10L(右側をR、左側をLとする。以下同じ)、腰部のロール軸(Y軸まわり)の関節12R,12L、同ピッチ軸(X軸まわり)の関節14R,14L、膝部のロール軸の関節16R,16L、足部のロール方向の関節18R,18L、および同ピッチ軸の関節20R,20Lから構成される。足部には足平22R,22Lが取着される。
【0034】
上記において股関節(あるいは腰関節)は関節10R(L),12R(L),14R(L)から、足関節は関節18R(L),20R(L)から構成される。また股関節と膝関節とは大腿リンク24R,24L、膝関節と足関節とは下腿リンク26R,26Lで連結される。
【0035】
更に、腰部の上位には上体(あるいは基体。リンクで示す)28が設けられると共に、その上端には左右それぞれの7個の関節からなる腕リンク3を備える(同様に、理解の便宜のために各関節をそれを駆動する電動モータで示す)。
【0036】
7個の関節は上から順に、肩部のロール軸の関節30R,30L、同ピッチ軸の関節32R,32L、腕の回旋用の関節34R,34L、肘部のロール軸の関節36R,36L、手首回旋用の関節38R,38L、同ロール軸の関節40R,40L、および同ピッチ軸の関節42R,42Lから構成される。手首の先にはハンド(エンドエフェクタ)44R,44Lが取着される。
【0037】
上記において肩関節は関節30R(L),32R(L),34R(L)から、手首関節は関節38R(L),40R(L),42R(L)から構成される。また肩関節と肘関節とは上腕リンク46R,46L、肘関節と手首関節とは下腕リンク48R,48Lで連結される。
【0038】
尚、上体(基体)28の内部には、図2に関して後述するマイクロコンピュータからなる制御ユニット50などが格納される。
【0039】
上記の構成により、脚リンク2は左右の足についてそれぞれ6つの自由度を与えられ、歩行中にこれらの6*2=12個の関節を適宜な角度で駆動することで、足全体に所望の動きを与えることができ、任意に3次元空間を歩行させることができる(この明細書で「*」は乗算を示す)。尚、前記の如く、ロボットの進行方向(ピッチ軸)をX軸、左右方向(ロール軸)をY軸、鉛直方向(重力軸)をZ軸とする。
【0040】
また、腕リンク3は左右の腕についてそれぞれ7つの自由度を与えられ、これらの7*2=14個の関節を適宜な角度で駆動することで、後述する台車を押すなどの所望の作業を行うことができる。
【0041】
図1に示す如く、足関節の下方の足平22R(L)には公知の6軸力センサ56が取着され、ロボットに作用する外力の内、接地面からロボットに作用する床反力の3方向成分Fx,Fy,Fzとモーメントの3方向成分Mx,My,Mzとを検出する。
【0042】
更に、手首関節とハンド44R(L)の間には同種の6軸力センサ58が取着され、ロボットに作用するそれ以外の外力、特に作業対象物から受ける前記した対象物反力の3方向成分Fx,Fy,Fzとモーメントの3方向成分Mx,My,Mzとを検出する。
【0043】
また、上体28には傾斜センサ60が設置され、Z軸(鉛直軸(重力軸))に対する傾きとその角速度を検出する。また各関節の電動モータはその出力を減速・増力する減速機(図示せず)を介して前記したリンク24,26R(L)などを相対変位させると共に、その回転量を検出するロータリエンコーダが設けられて変位検出器付の脚アクチュエータあるいは腕アクチュエータとして構成される。これら6軸力センサ56などの出力は制御ユニット50に送られる(図示の便宜のためロボット1の右側についてのみ図示する)。
【0044】
図2は制御ユニット50の詳細を示すブロック図であり、マイクロ・コンピュータから構成される。そこにおいて傾斜センサ60などの出力はA/D変換器70でデジタル値に変換され、その出力はバス72を介してRAM74に送られる。また各アクチュエータにおいて電動モータに隣接して配置されるエンコーダの出力は、カウンタ76を介してRAM74内に入力される。
【0045】
制御ユニット内にはCPUからなる演算装置80が設けられており、演算装置80は後述の如く、ROM84に格納されている歩容に基づいてロボットが安定な姿勢を継続することができるように、関節角変位指令(アクチュエータ変位指令)を算出し、RAM74に送出する。
【0046】
また演算装置80はRAM74からその指令と検出された実測値とを読み出し、各関節の駆動に必要な制御値(操作量)を算出してD/A変換器86と各関節に設けられたアクチュエータ駆動装置(アンプ)88を介して各関節を駆動する脚アクチュエータと腕アクチュエータの電動モータに出力する。
【0047】
図3は、この発明に係る脚式移動ロボットの姿勢制御装置(主として前記した演算装置80に相当)の構成および動作を機能的に示すブロック図である。
【0048】
この装置は脚および腕の動作を統合的に制御する装置であり、各アクチュエータ駆動装置88に対する変位指令を出力する。図示の如く、この装置は、目標作業パターン生成器、対象物反力平衡制御装置、脚メイン制御装置、および腕メイン制御装置から構成される。
【0049】
以下に、理解の便宜のため、図4に示すロボット作業状況を例に挙げて、この装置の各構成要素の処理内容を説明する。図4では、ロボット1が台車100を押しているとき、台車から受ける実対象物反力の絶対値が目標作業パターンにおいて想定していた目標対象物反力よりも突然小さくなってしまったため、このずれによってロボット1はバランスを崩し、前に傾きかけている状況とする。この実施の形態に係る装置は、このような状況においても常に動バランスを維持するように制御するものである。
【0050】
目標作業パターン生成器は、ある想定条件下において動力学的平衡条件を満足する目標作業パターンを生成する。目標作業パターンは、複数の変数の時間変化パターンによって表現される。この変数は、運動を表現する変数と環境から受ける反力を表現する変数から構成される。
【0051】
ここで、運動を表現する変数は、これによって各瞬間における姿勢が一義的に決定できる変数の組である。具体的には、目標足平位置・姿勢、目標上***置・姿勢、目標ハンド位置・姿勢から構成される。
【0052】
また、環境から受ける反力を表現する変数は、目標全床反力中心点(位置)(目標ZMP(位置))、目標全床反力および目標対象物反力から構成される。
【0053】
これら各変数は、支持脚座標系で表される。支持脚座標系は、支持脚足首(関節18,20R(L)の交点)から足平22R(L)への垂直投影点を原点とする座標系であり、図5および図6に示すように、支持脚が接触している床に固定された座標系であり、支持脚足平の前向きをX軸の向き、左向きをY軸の向き、鉛直方向上向きをZ軸向きとする座標系である。
【0054】
以下に、これら各変数について詳細を説明する。
【0055】
前記の如く、ロボットが環境から受ける外力の内で、各足平床反力を除いた外力を対象物反力と呼ぶとき、目標対象物反力はその目標値である。図4の例ではハンド44R(L)が対象物100から受ける反力のことである。
【0056】
目標作業パターン生成器が出力する目標対象物反力は、後述する目標全床反力中心点まわりに作用する力とモーメントによって表現される。ちなみに、姿勢安定化にとって重要なのは、このうちのモーメント成分である。
【0057】
目標全床反力と目標全床反力中心点(位置)について説明すると、作業中において各足平が床から受けるべき目標床反力の合力を、広義の目標全床反力と呼ぶ。広義の目標全床反力は、目標全床反力中心点とその点における力とモーメントで表現される。目標全床反力中心点は、目標全床反力をその点を作用点とする力とモーメントで表現したとき、X軸まわりモーメント成分とY軸まわりモーメント成分が0になる床面上の点である。
【0058】
狭義の目標全床反力は、広義の目標全床反力を、目標全床反力中心点を作用点として、力とモーメントで表現した場合の力とモーメントを意味する。目標作業パターン生成器が出力する目標全床反力は、狭義の目標全床反力である。
【0059】
以降は特に説明がない限り、目標全床反力は、狭義の目標全床反力を指す。尚、平坦な床面を歩行する場合には、目標全床反力の作用点は、通常、その床面上に設定される。
【0060】
歩行制御の分野において従来から公知であるZMPの概念も、概念を次のように拡張する。即ち、ロボットの運動によって生じる慣性力と重力と対象物反力の合力が、その点を作用点とする力とモーメントで表現されたとき、X軸まわりモーメント成分とY軸まわりモーメント成分が0になる床面上の点を、ZMPと呼ぶ。ロボットが目標の運動を行う時のZMPを目標ZMP(位置)と呼ぶ。
【0061】
目標作業パターンが動力学的平衡条件を満足すると言うことは、目標作業パターンによって生じる上記の慣性力と重力と対象物反力の合力と目標全床反力が、打ち消し合って0になることである。従って、動力学的平衡条件を満足するためには、目標全床反力中心点と目標ZMPが一致しなければならない。
【0062】
目標作業パターン生成器では、動力学的平衡条件を満足する目標作業パターンを生成する。従って、目標作業パターン生成器が生成する目標全床反力中心点(位置)は目標ZMP(位置)に一致する。
【0063】
目標足平位置・姿勢、目標上***置・姿勢、目標ハンド位置・姿勢は、前記した支持脚座標系で表現されたそれぞれの部位の位置と姿勢を表す。具体的にはこの明細書で、上体28の位置およびその速度は、上体28の重心位置などの代表点およびその(変位)速度を意味する。更に、上体あるいは足平の姿勢は、X,Y,Z空間における『向き』を意味する。
【0064】
対象物反力平衡制御装置およびその制御はこの実施の形態の制御の中心をなすもので、対象物反力平衡制御装置は姿勢バランスをとるために動力学的平衡条件を考慮しながら制御を行う。そこで、対象物反力平衡制御装置の概要を説明する前に、動力学的平衡条件について以下に説明する。
【0065】
実際のロボットの姿勢傾きの挙動を決定する最も大きな要因は、目標全床反力中心点(即ち、目標ZMP)まわりでの実際の力のモーメントのバランスである。
【0066】
目標全床反力中心点まわりに作用する力のモーメントを以下に列挙する。
1)慣性力モーメント
2)重力モーメント
3)全床反力モーメント
4)対象物反力モーメント
【0067】
以上のモーメントは先にも説明したが、改めて以下に定義する。
【0068】
慣性力モーメントは、目標全床反力中心点まわりのロボットの角運動量の変化によって生じるモーメントである。この値はオイラー方程式によって求められ、具体的には目標全床反力中心点まわりのロボットの角運動量の1階微分値の符号を反転させたものである。
【0069】
目標作業パターンの慣性力モーメントを、目標慣性力モーメントと呼ぶ。実際のロボットが作業しているときの慣性力モーメントを実慣性力モーメントと呼ぶ。
【0070】
重力モーメントは、ロボットの重心に作用する重力が目標全床反力中心点まわりに作用するモーメントである。
【0071】
各足平に作用する床反力の合力を、全床反力と呼ぶ。全床反力モーメントは、全床反力が目標全床反力中心点まわりに作用するモーメントである。
【0072】
作業対象物から受ける反力を、対象物反力と呼ぶ。対象物反力モーメントは、作業対象物反力が目標全床反力中心点まわりに作用するモーメントである。
【0073】
さて、理想的な脚メイン制御装置によって、ロボット1が目標作業パターンの運動パターンに忠実に追従していたと仮定する。このときには実慣性力モーメントは目標慣性力モーメントに一致し、実重力モーメントは目標重力モーメントに一致する。
【0074】
一方、動力学の法則(オイラー方程式)により、必ず実慣性力モーメントと実重力モーメントと実全床反力モーメントと実対象物反力モーメントの和は、0である。
【0075】
故に、ロボット1が忠実に目標作業パターンの運動パターン通りに動くためには、目標慣性力モーメントと目標重力モーメントと実全床反力モーメントと実対象物反力モーメントの和が0でなければならない。これを条件1とする。
【0076】
ところが、実際には、実対象物反力モーメントが目標対象物反力モーメントと一致せず差が生じる。例えば、図4に関して述べたように、台車を押す作業を行っているときに台車(すなわち目標対象物)の実際のころがり摩擦力の絶対値が想定していた値よりも突然小さくなってしまった状況である。
【0077】
この図の状況では、実対象物反力が目標全床反力中心点のY軸まわりに作用するモーメントは、目標対象物反力が目標全床反力中心点のY軸まわりに作用するモーメントよりも正の向きに大きくなって条件1を満たさなくなり、ロボット1は前傾する。尚、モーメントの向きは、座標軸の正方向に向いてロボット1を時計まわりに回転させるモーメントを正とする。
【0078】
このような状況においても条件1を満足させるためには、次の2通りの手法が考えられる。
【0079】
手法1)上記偏差を打ち消すように、実全床反力モーメントを変える。具体的には、目標全床反力中心点まわりに負の床反力モーメントを発生するように脚メイン制御装置に指令し、脚メイン制御装置において、この指令を受けて、足平22R(L)のつまさきを下げ、実全床反力モーメントを負の向きに増加させる。即ち、足で踏ん張るような姿勢をとらせる。
【0080】
手法2)上記偏差を打ち消すように、目標作業パターンの運動パターンを修正することにより、目標慣性力モーメントと目標重力モーメントを修正する。具体的には、目標上***置および/または姿勢を修正することによって、目標慣性力モーメントと目標重力モーメントを修正する。即ち、上体を前に移動させる。
【0081】
この実施の形態に係る装置では両方の手法を同時に行い、短期的には手法1を主に使うことによって速い変化に対応し、長期的には手法2を主に使うことによって実全床反力モーメントを元の目標全床反力モーメントに収束させながら、常に動バランスを維持するようにした。
【0082】
実全床反力モーメントは、目標全床反力モーメントを変えるだけで脚メイン制御装置によってすばやく変化させることができるので、手法1は短期的な対応に向いている。但し、実全床反力モーメントを大きく変化させると、足平22R(L)の接地圧分布が偏って接地感が減少し、最悪の場合には足平22R(L)の一部が浮いてしまう。従って、長期的には、なるべく元の目標全床反力モーメントに戻すべきである。
【0083】
実全床反力モーメントを元の目標全床反力モーメントに戻すためには、重心位置をずらし、目標重力モーメントによって上記偏差を打ち消すように、手法2によって目標作業パターンの運動パターンを修正すれば良い。但し、重心位置を急激にずらすと、過大な目標慣性力モーメントが逆向きに発生するので、ゆっくりと重心位置をずらす必要がある。従って、手法2は長期的な対応に向いている。
【0084】
上記を前提として対象物反力平衡制御装置について説明する。対象物反力平衡制御装置は、上記の制御機能を持った装置である。
【0085】
対象物反力平衡制御装置の入力は、目標上***置・姿勢、目標全床反力中心点(位置)、目標対象物反力、6軸力センサ58の検出値、最終修正目標ハンド位置・姿勢、最終修正目標上***置・姿勢、最終修正目標足平位置・姿勢である(尚、近似演算を用いる場合は、最終修正目標ハンド位置・姿勢、最終修正目標上***置・姿勢、最終修正目標足平位置・姿勢は不要である)。
【0086】
対象物反力平衡制御装置では、上記の制御機能を実現するために、目標対象物反力を実対象物反力の検出値に置き換え、それに動力学的に平衡するように目標上***置・姿勢と目標全床反力を修正する。これにより修正された作業パターンが想定している対象物反力(即ち、修正された目標対象物反力)と実対象物反力が一致し、ロボットの動力学的平衡条件が満足される。
【0087】
対象物反力平衡制御装置の出力は、修正目標上***置・姿勢と対象物反力平衡制御用補償全床反力である。
【0088】
修正目標上***置・姿勢は、対象物反力平衡制御装置によって修正された目標上***置・姿勢である。対象物反力平衡制御用補償全床反力は、目標全床反力中心点(位置)に、修正によって加えられる全床反力である。尚、対象物反力平衡制御用補償全床反力の成分の内で、姿勢安定化のための特に重要な成分は、X軸まわりモーメント成分とY軸まわりモーメント成分である。
【0089】
対象物反力平衡制御装置の出力の挙動だけを述べると、実対象物反力と目標対象物反力の偏差、より正確には両者のモーメントの偏差が急変、即ち、図7に示すようにステップ状に変化する場合には、動力学平衡条件を満足するために、最初は対象物反力平衡制御用の補償全床反力のモーメント成分が、この差に応じてすばやく応答する。
【0090】
その後しばらくすると、修正目標上***置・姿勢が、この偏差に静的に釣り合う位置・姿勢に整定し、対象物反力平衡制御用補償全床反力のモーメント成分は0に収束する。尚、対象物反力平衡制御装置の構成とアルゴリズム説明は後述する。
【0091】
図3において、脚メイン制御装置に入力される目標値は、修正目標上***置・姿勢、目標足平位置・姿勢、目標全床反力中心点(位置)とその点に作用する目標全床反力と対象物反力平衡制御用補償全床反力である。
【0092】
脚メイン制御装置の機能は、簡単に言うならば、脚のアクチュエータ(関節10R(L)などの電動モータおよびエンコーダ)を操作し、目標姿勢に追従する姿勢安定化制御と目標床反力に追従する床反力制御を同時に行う装置である。尚、目標姿勢と目標床反力を同時に完全に満足させることは不可能であるので、適当な調整が行われ、長期的には両方を満足するように制御される。
【0093】
より詳しくは、傾斜センサ60によって検出された実上***置・姿勢を修正目標上***置・姿勢に復元させるために、目標全床反力中心点に発生させるべき復元全床反力を算出し、目標全床反力中心点に作用する実全床反力のモーメント成分が、この復元全床反力と目標全床反力と対象物反力平衡制御用補償全床反力の合力のモーメント成分に一致するように、足平22R(L)を回転あるいは上下動させるべく目標足平位置・姿勢を修正する。修正された目標足平位置・姿勢を最終修正目標足平位置・姿勢と呼ぶ。
【0094】
従って、傾斜センサ60によって検出される実上***置・姿勢とその変化率が、修正目標上***置・姿勢とその変化率に一致しているならば、目標全床反力中心点位置に作用する実全床反力のモーメント成分が目標全床反力と対象物反力平衡制御用補償全床反力の合力のモーメント成分に一致するように目標足平位置・姿勢を修正する。
【0095】
脚メイン制御装置は、さらに、修正目標上***置・姿勢と修正目標足平位置・姿勢から決定される目標脚関節変位に実関節変位が追従するように脚アクチュエータを制御する。
【0096】
脚メイン制御系は脚メイン制御装置、および前記した傾斜センサ60、足平22R(L)に設けた6軸力センサ56、アクチュエータ駆動装置88およびアクチュエータ(関節10R(L)ないし20R(L)用電動モータおよびエンコーダ)から構成される。
【0097】
脚メイン制御装置で修正された目標足平位置・姿勢は、最終修正目標足平位置・姿勢として対象物反力平衡制御装置に送られる。但し、対象物反力平衡制御装置において、目標足平位置・姿勢が修正されたことによるロボットの重心位置の変化が無視できるならば、最終修正目標足平位置・姿勢を対象物反力平衡制御装置に送る必要はない。
【0098】
図3において、腕メイン制御装置に入力される目標値は、修正目標上***置・姿勢、目標ハンド位置・姿勢および目標対象物反力である。
【0099】
腕メイン制御装置の機能は簡単に言うならば、腕のアクチュエータ(関節30R(L)などの電動モータ、エンコーダ他)を操作して、目標姿勢に追従する姿勢制御と目標対象物反力に追従する対象物反力制御を同時に行うことである。目標姿勢と目標対象物反力を同時に完全に満足させることは不可能であるので、適宜な手法、例えば、従来からマニピュレータのコンプライアンス制御、いわゆる仮想コンプライアンス制御として知られるものを用いる(機械工学便覧、エンジニアリング編、C4−100頁)。
【0100】
具体的な制御系構成とアルゴリズムを以下に説明すると、腕メイン制御系は腕メイン制御装置、および前記したハンド44(L)に設けた6軸力センサ58、アクチュエータ駆動装置88および腕アクチュエータ(関節30R(L)ないし42R(L)用電動モータおよびエンコーダ)から構成される。
【0101】
腕メイン制御装置は、6軸力センサ58によって検出される実対象物反力と目標対象物反力の差に応じて目標ハンド位置・姿勢を修正する。修正された目標ハンド位置・姿勢を、最終修正目標ハンド位置・姿勢と呼ぶ。腕メイン制御装置は、修正目標上***置・姿勢と最終修正目標ハンド位置・姿勢から決定される目標腕関節変位に実関節変位が追従するように腕アクチュエータを制御する。
【0102】
ここで、対象物反力平衡制御装置の詳細を説明する。
【0103】
図8は対象物反力平衡制御装置の制御構成図の前半部分を、図9は対象物反力平衡制御装置の制御構成図の後半部分を示す機能ブロック図である。
【0104】
図8を参照して前半部分の処理から説明する。
【0105】
先ず、実際のハンド44R(L)は、腕メイン制御装置によって、ほぼ、最終修正目標ハンド位置・姿勢にあると考えられるので、6軸力センサ58によって検出された実対象物反力を、修正目標ハンド位置・姿勢によって支持脚座標系の原点まわりの力とモーメントに変換する(実関節変位からキネマティクス演算によって、実ハンド位置・姿勢を求めて、これを用いて実対象物反力を変換しても良い)。
【0106】
次に、変換された実対象物反力を、目標全床反力中心点まわりの力とモーメントに変換することにより、目標全床反力中心点まわりの実対象物反力モーメントを得る。最後に、これから目標全床反力中心点まわりの目標対象物反力モーメントを引くことにより、目標全床反力中心点まわりの対象物反力モーメント偏差を得る。
【0107】
次に図9を参照して対象物反力平衡制御装置の後半部分の処理を説明する。
【0108】
先ず、そこで用いる摂動動力学モデルについて説明する。
【0109】
摂動動力学モデルは、目標作業パターンの運動(摂動)にある拘束条件を与えておいた場合の、目標全床反力モーメント摂動量と上***置・姿勢摂動量との関係を表すモデルである。以下に、例として、図10に示すようにロボットの上体姿勢を目標上体姿勢に一致させたまま、上体の水平位置を摂動するモデルを説明する。
【0110】
ここで、以下のように記号をとりきめる。
m:ロボット全質量
g:重力加速度
h:目標全床反力中心点からの重心高さ
ΔxG:目標重心位置摂動量のX成分
ΔyG:目標重心位置摂動量のY成分
Δxb:目標上***置摂動量のX成分
Δyb:目標上***置摂動量のY成分
ΔMx:目標全床反力中心点まわりの目標全床反力モーメント摂動量のX成分
ΔMy:目標全床反力中心点まわりの目標全床反力モーメント摂動量のY成分
ΔMGx:目標全床反力中心点まわりの目標重力モーメント摂動量のX成分
ΔMGy:目標全床反力中心点まわりの目標重力モーメント摂動量のY成分
ΔLx:目標全床反力中心点まわりの目標角運動量の摂動量のX成分
ΔLy:目標全床反力中心点まわりの目標角運動量の摂動量のY成分
d(a) / dt:変数aの時間微分
d( d(a) / dt) /dt:変数aの時間2階微分
【0111】
重力モーメントの定義から、次式が導かれる。
【0112】
ロボットの運動摂動に関する重心まわりの等価慣性モーメントが十分小さく無視できるならば、次式が導かれる。
【0113】
オイラー方程式により、次式が導かれる。
【0114】
式1、式2および式3より、摂動動力学モデルの運動方程式として、次式を得ることができる。
【0115】
ところで、目標重心位置摂動量と目標上***置摂動量は、ほぼ比例関係にあると考えられる。従って、比例定数をkとすると、次式により目標上***置摂動量が得られる。
【0116】
以上から、摂動動力学モデルは、式4と式5を用い、目標重心位置摂動量と目標上***置摂動量を算出する。詳しくはこの装置の如く、デジタル演算の場合には、式4は離散化して使用する。ちなみに、式4は、図11に示す、高さh、質量mの倒立振子の運動方程式に一致する。
【0117】
図9に示す対象物反力平衡制御装置後半部において、前記した目標全床反力中心点まわりの対象物反力モーメント偏差は、最終到達目標重心摂動量算出部に入力される。
【0118】
この目標全床反力中心点まわりの対象物反力モーメント偏差を長期的に打ち消してバランスをとるための重心摂動量を最終到達目標重心位置摂動量と呼ぶ。最終到達目標重心位置摂動量算出部は、上記偏差から最終到達目標重心位置摂動量を算出する。
【0119】
ここで、
ΔMox:対象物反力モーメント偏差のX成分
ΔMoy:対象物反力モーメント偏差のY成分
ΔMGox:最終到達目標重心位置摂動量によって発生する重力モーメントのX成分
ΔMGoy:最終到達目標重心位置摂動量によって発生する重力モーメントのY成分
ΔxGe:最終到達目標重心位置摂動量のX成分
ΔyGe:最終到達目標重心位置摂動量のY成分
とする。
【0120】
対象物反力モーメント偏差を最終到達目標重心位置摂動量によって発生する重力モーメントによって打ち消すためには、次式を満足する必要がある。
【0121】
最終到達目標重心位置摂動量によって発生する重力モーメントは、次式のようになる。
【0122】
式6、式7より次式を得る。
【0123】
故に、最終到達目標重心位置摂動量は、式8によって算出すれば良い。
【0124】
対象物反力平衡制御装置のモデル制御則演算器について説明すると、最終到達目標重心位置摂動量と摂動動力学モデルが出力する目標重心位置摂動量との差を、重心変位偏差と呼ぶ。モデル制御則演算器は、この重心変位偏差を0に収束させるための制御を行う。出力は、対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントである。
【0125】
具体的には、次式のような、PD制御則によって、対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントを決定すれば良い。
ここで、Kpは比例ゲイン、Kdは微分ゲインである。
【0126】
モデル制御則演算器の出力直後の加算点について説明すると、モデル制御則演算器の出力直後の加算点によって、摂動動力学モデルには、対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントと、目標全床反力中心点まわりの対象物反力モーメント偏差の和が、モデルのための目標全床反力モーメント摂動量(モデル入力量)として入力され、その入力に対応する目標上***置・姿勢摂動量が算出される。これが目標上***置・姿勢に加算され、修正目標上***置・姿勢が作られる。
【0127】
ところで、摂動動力学モデルは動力学的平衡条件を満たすので、モデル出力である目標上***置・姿勢摂動量によって発生する目標慣性力モーメント摂動量および目標重力モーメント摂動量と、モデル入力との和は0である。
【0128】
故に、次式が成立する。
【0129】
一方、脚メイン制御装置には、目標全床反力中心点まわりに対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントを付加的に発生するように指令が送られる。即ち、実全床反力モーメントに、実全床反力モーメント摂動量として、対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントが加えられるように制御される。その結果発生する、実全床反力モーメントを修正実全床反力モーメントと呼ぶ。
【0130】
故に、次式が成立する。
【0131】
式11と式12から、次式が得られる。
【0132】
ところで、目標作業パターンは動力学的平衡条件を満足しているから、次式を満足する。
【0133】
各修正モーメントが元のモーメントにモーメント摂動量を加えたものであること、実対象物反力モーメントが目標対象物反力モーメントと対象物反力モーメント偏差の和であること、および式13と式14から、恒等式として次式が得られる。
【0134】
式15は、実対象物反力モーメントがいかに目標対象物反力モーメントからずれようとも、対象物反力平衡制御によって目標慣性力モーメント、目標重力モーメントおよび実全床反力モーメントが修正され、常に条件1を満たしていることを意味する。
【0135】
同一のことを式13を用いて言い換えると、対象物反力モーメント偏差が発生しても、対象物反力平衡制御によって、目標慣性力モーメント摂動量、目標重力モーメント摂動量および実全床反力モーメント摂動量が発生し、条件1を満足するように対象物反力モーメント偏差の影響を打ち消していると言える。
【0136】
図4の台車押し作業の状況に対する対象物反力平衡制御の挙動を、図7を再び参照して説明する。
【0137】
台車を押す作業を行っているとき、台車(即ち、目標対象物)の実際のころがり摩擦力の絶対値が想定していた値よりも突然ステップ状に小さくなってしまった状況では、対象物反力モーメント偏差も、図のようにステップ状に変化する。
【0138】
これに対し、最終到達目標重心位置摂動量算出部が、最終到達目標重心位置摂動量を算出する。モデル制御則演算器により最終到達目標重心位置摂動量と目標重心位置摂動量の差に応じて、対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントが算出される。
【0139】
図7に示すように、対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントは、目標重心位置摂動量が最終到達目標重心位置摂動量に漸近するにつれて0に漸近する。摂動動力学モデルには対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントと対象物反力モーメント偏差の和が入力され、目標重心位置摂動量と目標上***置・姿勢摂動量が、摂動動力学モデルから出力される。尚、この例では、姿勢を変えないことが拘束条件であるので、目標上***置・姿勢摂動量は0である。
【0140】
ところで、摂動動力学モデルが動力学的平衡条件を満足することから、目標上***置・姿勢摂動量によって発生する目標慣性力モーメント摂動量と目標重力モーメント摂動量の和に、摂動動力学モデルに入力されたモーメントを加えた総和は0である。
【0141】
即ち、目標慣性力モーメント摂動量、目標重力モーメント摂動量、対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントと対象物反力モーメント偏差の和は0になる。この関係は、図7に示すように、常に成立する。目標重心位置摂動量は、モデル制御則演算器によって最終到達目標重心位置摂動量に漸近させられる。目標重心位置摂動量は、目標重力モーメント摂動量に比例あるいはほぼ比例して変化する。
【0142】
以上が、対象物反力平衡制御装置の挙動である。尚、上記制御演算は、全て、制御周期毎に実行される。従って、実対象物反力モーメントがいつ変化しても、常に、動バランスは維持される。換言すれば、対象物反力モーメントが目標値からずれたとき、ロボット1は最初は全床反力モーメントを操作してつまさき(足平22R(L)の先端)を踏ん張るように姿勢制御されると共に、経時的に上体を前方に移動させて重力モーメントに頼るように切り換えられる。
【0143】
図12はこの発明の第2の実施の形態を示し、リミッタ200を設け、最終到達目標重心位置摂動量に上限下限の制限値を設定してリミットをかけるようにしたものである。
【0144】
上記した実施の形態において、実際には、最終到達目標重心位置摂動量をあまり大きくすると、ロボットの姿勢がとれなくなる場合が生じる。従って、これを防ぐために、式7によって得られた最終到達目標重心位置摂動量に、上限下限の制限値(範囲)を設定してリミットをかけるようにした。尚、その制限値(リミット値)は固定値でも良く、あるいは可変値としても良い。
【0145】
更に、第2のリミッタ300を設け、モデル制御則演算器で演算された対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントにも上限下限の制限値(範囲)を設定し、リミットをかけるようにした。
【0146】
即ち、対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントは実ロボットの足平22R(L)にも発生させるが、実ロボットの足平が発生できる全床反力モーメントには限度があり、限度を超えると、足平の接地性が損なわれたり、足平の一部が床から浮いたりする。それを防ぐためには、モデル制御則演算器が式10を用いて演算した対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントに上限下限の制限値を設定し、リミットをかけるようにした。その制限値が固定でも可変でも良いことはリミッタ200の場合と同様である。
【0147】
図13はこの発明の第3の実施の形態を示し、リミッタ400を設けて最終到達目標重心位置摂動量算出部の入力に上限下限の制限値を設定してリミットをかけると共に、第2のリミッタ500を設け、第1のリミッタ400を超えた入力値で対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントを修正するようにした。
【0148】
図12に示した第2の実施の形態においては、最終到達目標重心位置摂動量が過大になるのを防止するために、式7によって得られた最終到達目標重心位置摂動量に、上限下限の制限値(範囲)を設定してリミットをかけるようにしたが、制限値(リミット値)を超えた値がモデル制御則演算器の出力に加算点600(図12)において加算され、モデルに入力されることがあった。このため、対象物反力モーメント偏差に抗して重心位置を摂動していたものが、対象物反力モーメント偏差が過大になり、リミッタが作動すると、重心位置を逆方向に揺動してしまうと言う不都合を生じることがあった。
【0149】
第3の実施の形態は上記した不都合を解消するもので、第1のリミッタ400の制限値(リミット値)を超えた入力値を第2のリミッタ500を通して加減算点700に送り、そこでモデル制御則演算器の出力から減算、換言すれば極性を反転させて転倒させようとする力と逆向きの力を与えるように、対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメントを修正するようにした。これによって、ロボットは制限値(リミット値)を超えた入力値(モーメント偏差)を足平22R(L)で支持するように姿勢制御される。
【0150】
第2の実施の形態と異なり、リミット値を超えた値がモデル制御則演算器の出力に加算点710(図13)において加算されてモデルに入力されることがない。このため、前記したような対象物反力モーメント偏差が過大になってリミッタが作動し、重心位置を逆方向に揺動してしまうと言う不都合を解消することができる。尚、残余の構成は従前の実施の形態と異ならない。第1のリミッタ400の制限値(リミット値)が固定でも可変でも良いことも、従前の実施の形態と同様である。さらに、モデル制御則演算器の後に、リミッタ400と同様のリミッタを追加しても良い。
【0151】
図14はこの発明の第4の実施の形態を示し、対象物反力平衡制御装置において摂動動力学モデルの精度を高めるために、慣性力モーメントIを与えた倒立振子モデルを使用するようにした。
【0152】
更に、摂動動力学モデルについて敷衍すると、重心高さがあまり変わらないならば、hは固定で良いが、作業によって重心高さが変わる場合には、最終修正目標上***置・姿勢、最終修正目標足平位置・姿勢および最終修正目標ハンド位置・姿勢から求められるロボット姿勢から重心高さを求め、これに応じてhを変更しても良い。
【0153】
また、摂動動力学モデルの精度をより高めるために、脚腕のリンクを持つロボットの多リンク幾何学モデルを備え、最終修正目標上***置・姿勢、最終修正目標足平位置・姿勢および最終修正目標ハンド位置・姿勢から求められる重心位置と、最終修正目標上***置・姿勢から上***置の摂動量を差し引いた上***置・姿勢、最終修正目標足平位置・姿勢および最終修正目標ハンド位置・姿勢から求められる重心位置との差を求めることにより、高精度な重心位置の摂動量と上***置の摂動量との関係を求め、それを用いて重心位置の摂動量から上***置の摂動量を求めても良い。
【0154】
また、脚腕のリンクを持つロボットの多リンク動力学モデルであって、運動パターンにある拘束条件を与えておいて、目標床反力の摂動を入力として目標上***置・姿勢摂動量と重心位置・姿勢摂動量を出力させるモデルを用いても良い。
【0155】
ところで、腕を目標作業パターンから摂動させたときの腕の慣性力摂動量およびまたは重力摂動量の影響を考慮した摂動動力学モデルを用いると、制御装置の負荷が大きくなる。
【0156】
何故なら、腕の慣性力摂動量およびまたは重力摂動量は、目標上***置・姿勢摂動量に影響され、逆に目標上***置・姿勢摂動量は、腕の慣性力摂動量およびまたは重力摂動量に影響されるので、この相互作用を同時に考慮してモデル挙動を算出することは、非常に複雑な演算が必要となるからである。
【0157】
その問題を解決する手段として、以下の手法を用いても良い。
【0158】
即ち、摂動動力学モデルでは、腕を目標作業パターンから摂動させたときの腕の慣性力摂動量およびまたは重力摂動量の影響を無視し、腕は目標動作パターン通りにしか動かないものと仮定する。この仮定により、モデルは摂動動力学モデルの詳細説明に例として挙げた倒立振子モデルと同一形式に近似される。従って、摂動動力学モデルの演算は極めて簡単になる。
【0159】
腕メイン制御装置において、目標ハンド位置・姿勢、目標上***置、最終修正目標ハンド位置・姿勢および最終修正目標上***置から、腕を目標姿勢から最終目標姿勢に摂動させたために生じた慣性力摂動量およびまたは重力摂動量を算出する。これは、従来からの手法である多リンクマニピュレータの動力学演算を行うことにより得られる。これは、最終修正目標ハンド位置・姿勢座標系で表す。
【0160】
算出された慣性力摂動量およびまたは重力摂動量を、センサによって検出された実対象物反力に加え、対象物反力平衡制御装置に実対象物反力として出力する。以上の手段により、腕の慣性力摂動量およびまたは重力摂動量の影響を、摂動動力学モデルにおいて無視した代わりに、作業対象物反力として考慮したこととなる。腕の慣性力摂動量およびまたは重力摂動量の演算と摂動動力学モデルの演算が独立して行われるので、複雑な干渉演算が不要となり、演算量が小さくて済む。
【0161】
上記の如く、第1ないし第4の実施の形態にあっては、少なくとも基体(上体28)と、前記基体に連結される複数本のリンク(脚リンク2および腕リンク3)からなる脚式移動ロボット(2足歩行ロボット1)の姿勢制御装置において、前記ロボットの少なくとも前記基体の目標軌跡を含む運動パターンと、前記ロボットに作用する床反力の目標軌跡と、前記ロボットに作用する床反力以外の外力の目標軌跡とを少なくとも含む、前記ロボットの目標歩容を設定する目標歩容設定手段(目標作業パターン生成器)、前記床反力以外の外力を検出する外力検出手段(6軸力センサ58)、前記検出された外力と、前記目標軌跡で設定された床反力以外の外力の偏差(目標全床反力中心点まわりの対象物反力モーメント偏差)を演算する外力偏差演算手段(対象物反力平衡制御装置。より具体的には、図8の実対象物反力の座標変換およびその入出力)、前記床反力の摂動と前記ロボットの重心位置および/または基体の位置の摂動の関係を表現するモデル(摂動動力学モデル)、少なくとも前記演算された外力の偏差に基づいて前記モデルに入力すべきモデル入力量(モデルのための目標全床反力モーメント摂動量)を演算するモデル入力量演算手段(モデル制御則演算器およびその後の加算点での入出力)、前記演算されたモデル入力量を前記モデルに入力し、得られる前記重心位置および/または基体の摂動量に応じて前記基体の目標軌跡を修正する、基体目標軌跡修正量(修正目標上***置・姿勢)を演算する基体目標軌跡修正量演算手段(対象物反力平衡制御装置。より具体的には、摂動動力学モデル入力量を入力し、モデルの挙動を演算し、モデル出力から目標上***置姿勢摂動量(修正量)を求める部分)、少なくとも前記演算されたモデル入力量に応じて前記床反力の目標軌跡を修正する、床反力目標軌跡修正量(対象物反力平衡制御用補償全床反力モーメント)を演算する床反力目標軌跡修正量演算手段(モデル制御則演算器、より具体的にはモデル制御則の一部)、および少なくとも前記演算された基体目標軌跡修正量および床反力目標軌跡修正量に基づいて前記ロボットの関節を変位させる関節変位手段(脚メイン制御装置、アクチュエータ駆動装置88、脚アクチュエータなど)、を備える如く構成した。
【0162】
また、前記モデル入力量演算手段は、前記外力に静的に平衡する平衡重心位置の摂動量を算出する平衡重心位置摂動量算出手段(最終到達目標重心位置摂動量算出部)、を備え、前記算出された平衡重心位置に前記モデルが収束するように前記モデル入力量を演算する如く構成した。
【0163】
また、前記モデルが前記ロボットを倒立振子で近似するモデル(摂動動力学モデル)である如く構成した。
【0164】
また、前記平衡重心位置摂動量算出手段は、前記算出された平衡重心位置の摂動量を所定の範囲に制限するリミッタ200,400を備える如く構成した。
【0165】
また、前記床反力目標軌跡修正量演算手段は、前記演算された床反力目標軌跡修正量を所定の範囲に制限するリミッタ300,500を備えるように構成した。
【0166】
また、前記床反力の目標軌跡は、前記ロボットに作用する床反力の目標中心点の軌跡を少なくとも含む如く構成した。
【0167】
また、前記床反力目標軌跡修正量演算手段は、前記床反力目標軌跡修正量(対象物反力平衡制御補償用全床反力モーメント)が、前記モデル入力量(モデルのための目標全床反力モーメント摂動量)から前記外力の偏差(目標全床反力中心点まわりの対象物反力モーメント偏差)を減算した値と、前記床反力の目標中心点まわりに作用するモーメントに動力学的に釣り合うように、前記床反力目標軌跡修正量を演算する如く構成した。
【0168】
また、前記床反力以外の外力が、前記リンクを介して前記ロボットに作用する作業対象物(台車100)からの反力である如く構成した。
【0169】
また、前記ロボットが、前記基体に連結される2本の脚リンク2と2本の腕リンク3からなる脚式移動ロボットである如く構成した。
【0170】
また、少なくとも基体(上体28)と、前記基体に連結される複数本のリンク(脚リンク2、腕リンク3)からなる脚式移動ロボットの姿勢制御装置において、前記ロボットの少なくとも前記基体の目標位置を含む運動パターンと、前記ロボットに作用する床反力の目標中心点の軌跡を少なくとも含む、前記ロボットの目標歩容を設定する目標歩容設定手段(目標作業パターン生成器)、前記リンクを介して前記ロボットに作用する、作業対象物からの反力を検出する対象物反力検出手段(6軸力センサ58)、前記検出された対象物反力を前記目標床反力中心点まわりのモーメントとして変換する対象物反力モーメント変換手段(対象物反力平衡制御装置)、前記変換された対象物反力モーメントに動力学的に釣り合うように、前記目標中心点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置および姿勢を修正するロボット位置・姿勢修正手段(対象物反力平衡制御装置)、および前記修正された目標中心点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置・姿勢に基づいて前記ロボットの関節を変位させる関節変位手段(脚メイン制御装置、アクチュエータ駆動装置88、脚アクチュエータなど)、を備える如く構成した。
【0171】
また、少なくとも基体(上体28)と、前記基体に連結される複数本のリンク(脚リンク2、腕リンク3)からなる脚式移動ロボットの姿勢制御装置において、前記ロボットの少なくとも前記基体の目標位置を含む運動パターンを設定する目標歩容設定手段(目標作業パターン生成器)、前記リンクを介して前記ロボットに作用する、作業対象物からの反力を検出する対象物反力検出手段(6軸力センサ58)、前記検出された対象物反力を所定の点、より具体的には目標床反力中心点まわりのモーメントとして変換する対象物反力モーメント変換手段(対象物反力平衡制御装置)、前記変換された対象物反力モーメントに動力学的につりあうように、前記所定の点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置および姿勢を修正するロボット位置・姿勢修正手段(対象物反力平衡制御装置)、および前記修正された所定の点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置・姿勢に基づいて前記ロボットの関節を変位させる関節変位手段(脚メイン制御装置、アクチュエータ駆動装置88、脚アクチュエータなど)、を備える如く構成した。
【0172】
尚、上記した第1ないし第4の実施の形態においては、上体リンクの曲げやひねりのためのアクチュエータを設けなかったが、それを追加するとき、上体アクチュエータ制御装置も必要となる。但し、上体リンクの曲げやひねりは腕または脚の付け根側に関節を追加したことと等価であるので、概念上、腕または脚のアクチュエータとみなすことができる。即ち、上体アクチュエータ制御装置は、腕または脚の制御装置の一部として含まれると考えることができる。
【0173】
上記した第1ないし第4の実施の形態では、先に特開平5−305586号公報で提案したコンプライアンス制御を用いているが、それ以外の手段を用いても良い。脚制御に、そのコンプライアンス制御以外の別の手段、たとえば、電動アクチュエータを電流指令型のアンプによって制御する手段を用いて関節トルクを制御し、その結果、間接的に床反力を制御する手段を用いれば、足平22R(L)に設けた6軸力センサ56は不要である。
【0174】
更に、上記した第1ないし第4の実施の形態において、腕の制御に、仮想コンプライアンス制御以外の別の手段、たとえば、電動アクチュエータを電流指令型のアンプによって制御する手段を用いて関節トルクを制御し、その結果、間接的に対象物反力を制御しても良い。その制御ではハンドの6軸力センサは不要であるが、対象物反力平衡制御装置のために、ハンドの6軸力センサは設けるのが良い。
【0175】
更に、上記した第1ないし第4の実施の形態において、ハンドの6軸力センサの代わりに、関節トルクから実対象物反力を推定する推定器を腕制御装置に備えても良い。この推定器は、従来技術である外乱オブザーバーを用いれば良い。
【0176】
更には、上記した第1ないし第4の実施の形態において、特開平5−305586号で提案したコンプライアンス制御に加えて、本出願人が特開平5−337849号公報で提案した制御を加えても良い。但し、その制御によって上体の位置や歩幅が修正されるので、腕制御においてハンドと作業対象物との相対位置関係が重要な場合には、その制御によって修正される上体の位置や歩幅の影響を考慮する必要がある。
【0177】
更には、上記した第1ないし第4の実施の形態において、床が平面でない場合でも、本出願人が特開平5−318840号公報で提案した仮想平面を想定する技術を用いて目標全床反力中心点や目標ZMPを仮想平面上に求めても良い。
【0178】
更には、上記した第1ないし第4の実施の形態において、ロボット全体の姿勢が目標からずれて傾くと、ハンドの位置・姿勢が絶対空間においてずれる。この結果、対象物反力が目標対象物反力から大きくずれる場合がある。
【0179】
その問題点を解決するために、傾斜センサによって検出される実上***置・姿勢と目標上***置・姿勢のずれに応じて上記の修正された最終目標ハンド位置・姿勢をさらに補正することにより、ロボット全体の姿勢が傾いても、ハンドの位置・姿勢が絶対空間においてずれないようにするのが、より好ましい。
【0180】
更には、上記した第1ないし第4の実施の形態において、ブロック図は演算処理順序を変えるなど、種々の変形が可能である。
【0181】
更には、上記した第1ないし第4の実施の形態においてはPD制御則を用いたが、それ以外の制御則(たとえば、PID制御、状態フィードバック制御)などを用いても良い。
【0182】
また、この発明を腕を備えた2足歩行の脚式移動ロボットについて説明したが、腕を備えない脚式移動ロボットにも有益であり、更に2足歩行ロボットに限らず、多脚ロボットにも応用することができる。
【0183】
【発明の効果】
脚式移動ロボットが予期できない外力、より具体的には作業対象物から反力を受けても、動バランスをとって安定な姿勢を継続することができる。更に、予め想定していなかった動作パターンでリンク、より具体的には腕を動かして作業をするときに腕に発生する重力、慣性力だけでなく、作業対象から予期せぬ反作用を受けても、動バランスをとって安定な姿勢を継続することができる。
【0184】
また、対象物反力が急変するときも、それに静的にバランスをとる位置にロボットの重心を移動させることにより、傾きや転倒を効果的に抑制することができる。また、ロボットの重心が移動する過渡期においても、重心位置や床反力を適正に変化させて動バランスを維持し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る脚式移動ロボットの姿勢制御装置を全体的に示す説明図である。
【図2】図1に示す2足歩行ロボットの制御ユニットの詳細を示すブロック図である。
【図3】この発明に係る脚式移動ロボットの姿勢制御装置の構成および動作を機能的に示すブロック図である。
【図4】図1に示す脚式移動ロボットが腕を使用して行う作業を示す説明図である。
【図5】図3装置の目標作業パターン生成器が生成する歩容における支持脚座標系を示す説明図である。
【図6】図5と同様に、図3装置の目標作業パターン生成器が生成する歩容における支持脚座標系を示す説明図である。
【図7】図3に示す対象物反力平衡制御装置の動作を説明するタイミング・チャートである。
【図8】図3に示す対象物反力平衡制御装置の詳細な構成を示すブロック図の前半部である。
【図9】図3に示す対象物反力平衡制御装置の詳細な構成を示すブロック図の後半部である。
【図10】図9に示す対象物反力平衡制御装置の摂動動力学モデルを示す説明図である。
【図11】図10に示すモデルを倒立振子で近似した状態を示す説明図である。
【図12】図9に類似する、この発明の第2の実施の形態を示す対象物反力平衡制御装置の詳細な構成を示すブロック図の後半部である。
【図13】図9に類似する、この発明の第3の実施の形態を示す対象物反力平衡制御装置の詳細な構成を示すブロック図の後半部である。
【図14】図11に類似する、この発明の第4の実施の形態を示す倒立振子型摂動動力学モデルを示す説明図である。
【符号の説明】
1 2足歩行ロボット(脚式移動ロボット)
2 脚リンク
3 腕リンク
10,12,14R,L 腰関節
16R,L 膝関節
18,20R,L 足関節
22R,L 足平
28 上体
30,32,34R,L 肩関節
36R,L 肘関節
38,40,42R,L 手首関節
44R,L ハンド
50 制御ユニット
56,58 6軸力センサ
60 傾斜センサ
Claims (11)
- 少なくとも基体と、前記基体に連結される複数本のリンクからなる脚式移動ロボットの姿勢制御装置において、
a.前記ロボットの少なくとも前記基体の目標軌跡を含む運動パターンと、前記ロボットに作用する床反力の目標軌跡と、前記ロボットに作用する床反力以外の外力の目標軌跡とを少なくとも含む、前記ロボットの目標歩容を設定する目標歩容設定手段、
b.前記床反力以外の外力を検出する外力検出手段、
c.前記検出された外力と、前記目標軌跡で設定された床反力以外の外力との偏差を演算する外力偏差演算手段、
d.前記床反力の摂動と前記ロボットの重心位置および基体の位置の少なくともいずれかの摂動の関係を表現するモデル、
e.少なくとも前記演算された外力の偏差に基づいて前記モデルに入力すべきモデル入力量を演算するモデル入力量演算手段、
f.前記演算されたモデル入力量を前記モデルに入力し、得られる前記重心位置および基体の少なくともいずれかの摂動量に応じて前記基体の目標軌跡を修正する、基体目標軌跡修正量を演算する基体目標軌跡修正量演算手段、
g.少なくとも前記演算されたモデル入力量に応じて前記床反力の目標軌跡を修正する、床反力目標軌跡修正量を演算する床反力目標軌跡修正量演算手段、
および
h.少なくとも前記演算された基体目標軌跡修正量および床反力目標軌跡修正量に基づいて前記ロボットの関節を変位させる関節変位手段、
を備えたことを特徴とする脚式移動ロボットの姿勢制御装置。 - 前記モデル入力量演算手段は、
j.前記外力に静的に平衡する平衡重心位置の摂動量を算出する平衡重心位置摂動量算出手段、
を備え、前記算出された平衡重心位置に前記モデルが収束するように前記モデル入力量を演算することを特徴とする請求項1項記載の脚式移動ロボットの姿勢制御装置。 - 前記モデルが前記ロボットを倒立振子で近似するモデルであることを特徴とする請求項1項または2項記載の脚式移動ロボットの姿勢制御装置。
- 前記平衡重心位置摂動量算出手段は、
k.前記算出された平衡重心位置の摂動量を所定の範囲に制限するリミッタ、
を備えることを特徴とする請求項2項または3項記載の脚式移動ロボットの姿勢制御装置。 - 前記床反力目標軌跡修正量演算手段は、
l.前記演算された床反力目標軌跡修正量を所定の範囲に制限するリミッタ、
を備えることを特徴とする請求項1項から4項のいずれかに記載の脚式移動ロボットの姿勢制御装置。 - 前記床反力の目標軌跡は、前記ロボットに作用する床反力の目標中心点の軌跡を少なくとも含むことを特徴とする請求項1項から5項記載の脚式移動ロボットの姿勢制御装置。
- 前記床反力目標軌跡修正量演算手段は、前記床反力目標軌跡修正量が、前記モデル入力量から前記外力の偏差を減算した値と、前記床反力の目標中心点まわりに作用するモーメントに動力学的に釣り合うように、前記床反力目標軌跡修正量を演算することを特徴とする請求項6項記載の脚式移動ロボットの姿勢制御装置。
- 前記床反力以外の外力が、前記リンクを介して前記ロボットに作用する作業対象物からの反力であることを特徴とする請求項1項から7項のいずれかに記載の脚式移動ロボットの姿勢制御装置。
- 前記ロボットが、前記基体に連結される2本の脚リンクと2本の腕リンクからなる脚式移動ロボットであることを特徴とする請求項1項から7項のいずれかに記載の脚式移動ロボットの姿勢制御装置。
- 少なくとも基体と、前記基体に連結される複数本のリンクからなる脚式移動ロボットの姿勢制御装置において、
a.前記ロボットの少なくとも前記基体の目標位置を含む運動パターンと、前記ロボットに作用する床反力の目標中心点の軌跡を少なくとも含む、前記ロボットの目標歩容を設定する目標歩容設定手段、
b.前記リンクを介して前記ロボットに作用する、作業対象物からの反力を検出する対象物反力検出手段、
c.前記検出された対象物反力を前記目標中心点まわりのモーメントとして変換する対象物反力モーメント変換手段、
d.前記変換された対象物反力モーメントに動力学的に釣り合うように、前記目標中心点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置および姿勢を修正するロボット位置・姿勢修正手段、
および
e.前記修正された目標中心点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置・姿勢に基づいて前記ロボットの関節を変位させる関節変位手段、
を備えたことを特徴とする脚式移動ロボットの姿勢制御装置。 - 少なくとも基体と、前記基体に連結される複数本のリンクからなる脚式移動ロボットの姿勢制御装置において、
a.前記ロボットの少なくとも前記基体の目標位置を含む運動パターンを設定する目標歩容設定手段、
b.前記リンクを介して前記ロボットに作用する、作業対象物からの反力を検出する対象物反力検出手段、
c.前記検出された対象物反力を所定の点まわりのモーメントとして変換する対象物反力モーメント変換手段、
d.前記変換された対象物反力モーメントに動力学的につりあうように、前記所定の点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置および姿勢を修正するロボット位置・姿勢修正手段、
および
e.前記修正された所定の点まわりの床反力モーメントと前記ロボットの位置・姿勢に基づいて前記ロボットの関節を変位させる関節変位手段、
を備えたことを特徴とする脚式移動ロボットの姿勢制御装置。
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