JP3669624B2 - チタン酸バリウム粉末の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
本発明は、球状であって、粒径が1μm以下の一次粒子からなる結晶性ペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウム粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム粉末は、圧電素子やPTCサーミスタ等の電子部品の誘電材料として広く応用されており、特に、多層積層セラミックコンデンサの基板用として有用である。この多層積層セラミックコンデンサは、一般に、セラミック誘電体層と内部電極層とを交互に層状に重ねて圧着し、これを焼成し一体化して製造される。チタン酸バリウム粉末は、バインダー等にスラリー化された後、焼結してセラミック誘電体層を形成する。特に最近では、セラミック誘電体層を薄層化させることで小型化でかつ大容量化の要求に応じている。この場合、耐電圧特性が良好で、スラリー化時に粒子の凝集が生じず層の密度が均一となり、さらにコンデンサの容量が充分に確保される必要があるが、このような要求を満足するために、チタン酸バリウム粉末には次のような特性が求められている。
【0003】
〔1〕1μm以下の超微粒子で、かつ一定形状の球状であり、好ましくは粒径が0.05〜0.5μm、さらには0.05〜0.3μmで、かつ粒度分布が狭いこと。
〔2〕結晶性が良好であること。具体的には一次粒子径が0.05〜0.3μmのペロブスカイト構造を有すること。
〔3〕Ba/Tiの原子比が1.00にきわめて近く、具体的には0.99〜1.01であること。
〔4〕スラリー化またはペースト化した際の分散性に優れていること。
〔5〕良好な焼結特性を有すること。
【0004】
従来、チタン酸バリウム粉末は、チタン化合物とバリウム化合物とを混合焼成して固相反応を起こさせることによって製造されていた。しかしながら、このような固相反応法では化合物を高温で反応させるため、得られるチタン酸バリウム粉末は、粒径が比較的大きく(例えば0.5μm程度が限度)、粒度分布が広く、かつ形状が一定でないことから、スラリー化またはペースト化した際の分散性に劣るものであった。チタン酸バリウムの粒径がこのように大きいと、セラミック誘電体層を薄層化することに限界があった。この問題を解消し得る製造方法として、液相反応法が知られている。
【0005】
この液相反応法としては、例えば特許文献1には、含水酸化チタン、バリウム塩化物および/または硝酸塩、ならびにバリウム塩化物および/または硝酸塩1モルに対して2.1〜5モルのアルカリ金属水酸化物とを、チタン換算で120〜10000倍モルの水の存在下において60〜110℃で反応させる製造方法が開示されている。また、特公平5−73696号公報には、含水酸化チタン、水酸化バリウム及びアルカリ金属水酸化物とを、チタン換算で120〜10000倍モルの水の存在下において60〜110℃で反応させる製造方法が開示されている。また、特許文献2には、チタン化合物の加水分解生成物と水溶性バリウム塩とを、強アルカリ水溶液中で反応させる製造方法が開示されている。また、特許文献3には、チタンまたはジルコニウムの塩化物を水溶液中で加水分解した後、該水溶液を一旦アルカリ性に戻して塩素イオンを除去し、引き続きバリウム、ストロンチウム、カルシウムの水溶性塩のうち一つを加え、強アルカリ性水溶液中で反応させる製造方法が開示されている。
【0006】
さらに、特開平7−232923号公報には、四塩化チタン等のチタン化合物とバリウム塩とが共存する混合水溶液を、70〜100℃に予熱したアルカリ水溶液と接触させ、ほぼ球状の結晶性ペロブスカイト構造を得る方法が開示されている。
【特許文献1】
特公平5−73695号公報
【特許文献2】
特公平3−39014号公報
【特許文献3】
特公平6−649号公報
【特許文献4】
特開平7−232923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特公平5−73695号公報の製造方法にあっては、反応時間が長いことに加え、含水酸化チタンの濃度管理、Ba/Ti原子比の制御あるいは製造工程の管理が困難であった。さらに、チタン換算で120〜10000倍モルといった大量の水の存在下で反応させることから、その反応をきわめて希薄な系で行うことを強いられ生産効率の低下を招くとともに、設備の大型化ならびに大量の排水処理を余儀なくされる。これらの問題は、上記特公平5−73696号公報および特公平3−39014号公報の製造方法においても全く同様のことが言える。また、上記特公平6−649号の製造方法では、チタンまたはジルコニウムの塩化物を水溶液中で加水分解した後にアルカリ性に戻す工程を要するため、工程の繁雑化ならびに長時間化を招くという問題を有している。
【0008】
さらに、塩化バリウムのようなバリウム塩は、特に酸性状態での溶解度が低く、特許文献4の製造方法では、酸性のチタン化合物とバリウム塩の混合水溶液を出発原料液としているため、その混合水溶液の調整が困難であり、特に、混合水溶液中のチタン化合物及びバリウム塩の濃度には限界があった。具体的には、四塩化チタンと塩化バリウム混合水溶液を調製した場合、金属イオンの合計濃度は、1.2mol/l程度に限界があり、生産性に限度があった。また、出発原料液中に炭酸塩が混入した場合、Ba/Tiの原子比の制御が困難であり、反応生成物である粉末中に炭酸塩が混入して品質の低下を招き、最終的には焼成しなければ比誘電率が上がらないといった問題もある。
【0009】
またさらに、上記従来技術で得られたチタン酸バリウムは粒子が細かいが、スラリー化した際の分散性が悪く、結局は凝集してしまい、セラミック誘電体層の薄層化が困難であるという問題が残されていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
よって本発明は、上記〔1〕〜〔5〕の特性を充分満足するチタン酸バリウム粉末を、極めて簡略化された方法により製造でき、上記従来技術に残された特に生産性の問題を解決したチタン酸バリウム粉末の製造方法を提供することを目的としている。
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成し得る製造方法を鋭意検討した結果、出発原料として、チタン化合物とバリウム化合物とをそれぞれ別の水溶液とし、しかもバリウム化合物水溶液を強アルカリ性としておき、これら水溶液を瞬間的かつ連続的に撹拌しながら接触させるといった容易な方法で、目的とするチタン酸バリウム粉末を低温度下にて製造することができることを見い出した。さらに、その際のチタン化合物/バリウム化合物のモル比が0.8〜1.2の範囲となるように制御しながら接触させることによって、良好なチタン酸バリウム粉末となることも見い出した。
【0012】
したがって本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明のチタン酸バリウム粉末の製造方法は、ハロゲン化チタンの水溶液(以下「水溶液(I)」ということがある。)と、バリウム化合物のアルカリ水溶液(以下「水溶液(II)」ということがある。)とを、ハロゲン化チタン/バリウム化合物のモル比を0.8〜1.2に制御しながら撹拌下で接触させることを特徴とする。
また、本発明は、ハロゲン化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩およびしゅう酸塩から選択される1種又は2種以上のチタン化合物の水溶液と、塩化バリウムのアルカリ水溶液とを、チタン化合物/塩化バリウムのモル比を0 . 8〜1 . 2に制御しながら撹拌下で接触させることを特徴とする。
【0013】
本発明において、チタン化合物としては、ハロゲン化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、しゅう酸塩およびアルコキシドから選択される1種又は2種以上が用いられる。具体的な化合物としては、四塩化チタン、三塩化チタン、水酸化チタン、硫酸チタニル等であり、これらの中でも四塩化チタンが好ましく用いられる。
バリウム化合物としては、ハロゲン化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、しゅう酸塩およびアルコキシドから選択される1種又は2種以上が用いられる。具体的な化合物としては、塩化バリウム、水酸化バリウム、硝酸バリウム、硫酸バリウム、酢酸バリウム等が挙げられ、この中でも塩化バリウム、水酸化バリウムが好ましく用いられる。また、塩化バリウムなどのハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等のバリウム塩化合物にNaOHあるいはKOH等のアルカリ金属の水酸化物を予め接触させ、加熱反応させ、水酸化バリウムを生成してこれを用いてもよい。
上記のチタン化合物とバリウム化合物はそれぞれ1種又は2種以上組合せて用い、その組合せは任意であるが、以下に好ましい組合せを示す。
【0014】
(1)四塩化チタン及び塩化バリウム
(2)四塩化チタン及び水酸化バリウム
(3)四塩化チタン、塩化バリウム及び水酸化バリウム
(4)四塩化チタン、三塩化チタン及び塩化バリウム
(5)四塩化チタン、三塩化チタン、塩化バリウム及び水酸化バリウム
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のより好ましい実施の形態を、チタン化合物が四塩化チタンの場合について説明する。この製造方法では、四塩化チタンの場合における四塩化チタン水溶液(I)と、バリウム化合物(ハロゲン化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、しゅう酸塩およびアルコキシドから選択される1種又は2種以上)のアルカリ水溶液(II)とを貯蔵容器にそれぞれ用意し、これら水溶液(I)及び(II)を撹拌下に接触させる。水溶液(I)及び(II)は、次のような処方により調整される。
【0016】
(1)四塩化チタン水溶液(I)
・四塩化チタン濃度
四塩化チタン水溶液(I)の四塩化チタン濃度は、0.1mol/l以上が適当であり、好ましくは0.3mol/l以上、純度向上の観点からは0.4〜3.0mol/lが好ましい。0.1mol/l未満では反応速度が極端に低下するので、生産性向上のためにはより高い濃度が望ましい。本発明では、四塩化チタンのようなチタン化合物の単独の水溶液を使用するので、その原料水溶液の濃度をより高くすることができ、その結果、生産性を向上することが可能となる。
【0017】
・温度
四塩化チタン水溶液(I)の温度は、30〜90℃、好ましくは40〜50℃に予熱して保持しておくことが良い。この温度が60℃を超えると四塩化チタンが加水分解して固形物が析出し、均一な水溶液が得られにくくなり、結果として生成物のBa/Ti原子比の制御が困難になる。
【0018】
・四塩化チタン水溶液(I)に用いる水
イオン交換樹脂等で脱イオン処理した水、さらには二酸化炭素などの溶存ガスを脱気処理した水を使用することが好ましい。なお、四塩化チタン水溶液(I)は、バリウム化合物のアルカリ水溶液(II)と接触させる前に、アルゴンガスをバブリングさせる等の手段により脱塩酸処理を施しておくことが、得られるチタン酸バリウム粉末中の塩素分が低下するので好ましい。
【0019】
以上からなる四塩化チタン水溶液(I)は、大気への接触を避けて保存しておくことが望ましい。また、四塩化チタン水溶液(I)の溶存ガスを反応前に脱気しておいた方がより好ましい。この脱気が不充分であると、反応の際に液相に泡が発生し、生成粒子の形状が不均一になる。
【0020】
(2)バリウム化合物のアルカリ水溶液(II)
・バリウム濃度
バリウム化合物のアルカリ水溶液(II)のバリウムイオン濃度は、0.05mol/l以上が適当であり、好ましくは0.1〜2.0mol/lに調整すると良い。この濃度が0.05mol/l未満では反応速度が極端に低下するので、生産性向上のためにはより高い濃度が望ましい。例えば塩化バリウムの溶解度は、約1.2mol/lが限度であるが、これをチタン化合物との混合溶液とすると、その溶解度は半分以下になってしまう。無理に高濃度にすると、溶液が不均一となり、結果として反応が不均一となる。このように本発明では、上記のチタン化合物の水溶液とは別に、バリウム化合物水溶液を調製し原料水溶液として使用するので、上記水溶液(I)と同様にバリウムイオン濃度をより高くすることができ、その結果、生産性を向上させることが可能となる。
【0021】
・アルカリ濃度
バリウム化合物のアルカリ水溶液(II)のアルカリ源としては、NaOHもしくはKOHのようなアルカリ金属の水酸化物が用いられる。そのような水酸化物の濃度は、通常0.2〜15mol/lであり、上記のバリウム化合物が水酸化物に変換するのに充分な濃度、つまりバリウムイオン濃度と同等かそれ以上の濃度であることが好ましい。本発明では、このようにバリウム化合物を予めアルカリ化合物と接触させることによって、例えば塩化バリウムなどのハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等のバリウム塩化合物を、一旦水酸化バリウムに変換し、これをチタン化合物の水溶液(I)と接触させ反応する。たとえば、四塩化チタン水溶液と塩化バリウム水溶液をアルカリ水溶液中に同時に接触させる方法や、あるいは四塩化チタンと塩化バリウムの混合水溶液をアルカリ水溶液中に添加し接触反応させる方法では、反応生成物であるチタン酸バリウム中に塩素分が残留しやすい。しかしながら、本発明のようにバリウム化合物を予めアルカリ水溶液とし、バリウム化合物を水酸化物に予め変換することによって、チタン化合物との反応がより均一に進行し、塩素分の少ないより高純度のチタン酸バリウムが製造できる。
【0022】
さらに本発明では、上記のようなアルカリ金属の水酸化物を使用せず、水酸化バリウムをアルカリ源として用いてもよい。つまり、水溶液(II)は、バリウム化合物は水酸化バリウムのみから調製してもよく、また塩化バリウムのような水酸化バリウム以外のバリウム化合物と水酸化バリウムから調製してもよい。すなわち、チタン化合物の水溶液(I)とバリウム化合物と水酸化バリウムの水溶液(II)を接触させ、チタン酸バリウムを製造する。これによって、チタン及びバリウム以外の金属成分は使用せず、不純物金属の混入を防ぐことができるので、より高純度のチタン酸バリウムを製造することができる。
【0023】
・温度
バリウム化合物のアルカリ水溶液(II)の温度は、80〜100℃、好ましくは実際の反応系と同等の温度に予熱して保持しておくことが、四塩化チタン水溶液(I)との反応が促進されるので好ましい。さらに、水溶液(I)及び(II)の反応中は、温度の変動を±1℃以内におさめて反応温度を一定に保持することが、得られるチタン酸バリウムのBa/Ti原子比が安定するので好ましい。
【0024】
・バリウム化合物のアルカリ水溶液(II)に用いる水
イオン交換樹脂等で脱イオン処理した水、さらには二酸化炭素などの溶存ガスを脱気処理した水を使用することが好ましい。
【0025】
・ろ過処理
前記した方法により得られたバリウム化合物のアルカリ水溶液(II)をそのまま用いてもよいが、その前にろ過処理を行う方が、Ba/Tiの原子比制御の容易化や高純度化に効果的であることから好ましい。たとえば、アルカリ源としてNaOHを用いた場合、NaOH中に不純物として含まれる炭酸ナトリウムがバリウム化合物と反応し、炭酸バリウムが沈殿する。これは反応の際に汚染の原因となるので、ろ過によって予め除去しておくことが望ましい。この点において、バリウム化合物のアルカリ水溶液とチタン化合物水溶液を別々に調製し、これらを接触反応させる本発明の方法は、例えば従来の方法であるチタン化合物とバリウム化合物の混合溶液をアルカリ溶液中に添加する方法や、チタン化合物水溶液とバリウム化合物水溶液を別々に、あるいは両者を混合してアルカリ水溶液に添加する方法に比べ、純度の高いチタン酸バリウムを得ることができる。
【0026】
以上からなるバリウム化合物のアルカリ水溶液(II)は、四塩化チタン水溶液(I)と同様に大気への接触を避けて保存しておくことが望ましい。また、バリウム化合物のアルカリ水溶液(II)は、反応前に脱気処理した方がより好ましい。
【0027】
次に、上記水溶液(I)と上記水溶液(II)とを接触させる方法について説明する。
まず、接触時及び反応時のpHが13以上、好ましくは13.5以上、より好ましくは13.8以上に保持されるよう水溶液(II)のアルカリ濃度を調整しておく。反応中、このように所定のpHを保持するため、別系統からNaOH水溶液等のアルカリ水溶液を必要量供給することも可能である。好ましくは、予め反応容器に所定濃度に調整したアルカリ水溶液を注入し、このアルカリ水溶液中に、前記水溶液(I)及び(II)を添加し接触させる。この際のアルカリ水溶液は、予め、反応温度か両水溶液(I)及び(II)を添加した後に所定の反応温度になるように高目に加熱しておくことが望ましい。このように、反応中一定のpHを保持することによって、均一な反応が保持され、結果としてBa/Ti原子比が制御された均一なチタン酸バリウムを製造することができる。
【0028】
さらに、両水溶液(I)及び(II)を接触させ反応させる際に、チタン化合物/バリウム化合物のモル比を0.8〜1.2に制御することは必須であるが、モル比だけではなく、チタン化合物あるいはバリウム化合物の反応系内における絶対濃度を反応初期から反応終了までの間、なるべく一定に保つことも均一な反応を行うために好ましい態様である。そのために、例えば、上述したような反応容器中に予めアルカリ水溶液を注入しておき、その中に水溶液(I)及び(II)を添加する方法においては、反応初期の段階は、チタン化合物またバリウム化合物の濃度が希釈され、希薄状態で反応するため所定のBa/Ti原子比のチタン酸バリウムが生成されない。そこで、反応容器中のアルカリ水溶液に予め水溶液(II)に使用したバリウム化合物あるいは水溶液(I)で使用したチタン化合物を添加しておく。このうち、特にバリウム化合物の濃度が生成するチタン酸バリウムのBa/Ti原子に影響するため、前者のようにバリウム化合物を反応容器中のアルカリ水溶液に添加することが望ましい。
【0029】
次いで、水溶液(I)と水溶液(II)とを、それぞれ貯蔵容器から配管を経て反応容器内にポンプ等を利用して供給し、撹拌しながら接触させる。このとき、チタン化合物/バリウム化合物のモル比が0.8〜1.2、好ましくは1.0〜1.2、より好ましくは1.07〜1.12となるよう、一定の流量で瞬間的かつ連続的に両水溶液(I)及び(II)を反応容器内に供給する。供給する際には、反応容器に備えた撹拌機によって撹拌しておくことが必要である。あるいは撹拌機が具備されていなくとも、例えばラインミキシングのよううな方法によって乱流域を形成し、水溶液(I)及び(II)を供給した後均一に接触混合して反応させることもできる。
【0030】
水溶液(I)及び(II)を接触させて反応させる際の温度は、80〜100℃、好ましくは85〜95℃の範囲内に設定し、その設定温度に対して±1℃となるようにほぼ一定にする。
【0031】
反応容器内で水溶液(I)と水溶液(II)とを接触させ、撹拌を充分な時間(数秒〜20分間)行うことにより、粒子状のチタン酸バリウムが生成する。生成したチタン酸バリウムは、反応中にスラリー状態のまま連続的に抜き出しても良く(連続反応)、あるいは反応容器で一旦反応を終了した後、抜き出してもよい(バッチ反応)。
【0032】
このようにして生成したチタン酸バリウムには、反応の後にスラリー状態で加熱処理を行うことが望ましい(熟成反応)。この加熱処理の温度は、通常、上記の反応温度と同じ80〜100℃かあるいはそれ以上の温度、例えば100〜200℃で行われ、また、加熱処理の時間は、通常は1分〜30時間、好ましくは1分〜1時間である。この加熱処理によって、未反応のチタン化合物及びバリウム化合物を完全に反応させ、また生成粒子を加熱処理することによって粒子の結晶性を向上させることができる。その具体的な方法としては、生成したチタン酸バリウムを含むスラリーを、反応容器内、あるいは反応容器から熟成槽に移し、所定温度で所定時間処理する。加熱処理の後、チタン酸バリウムを洗浄し、未反応の化合物及びアルカリ分また複成したアルカリ塩等を充分に除去し、チタン酸バリウムを分離する。この洗浄、分離にはデカンテーション、遠心分離あるいはろ過など一般的な方法を採用し得る。分離後、チタン酸バリウムを空気中または不活性ガス中において50〜300℃で加熱するか、もしくは真空下において20〜300℃で加熱することにより乾燥し、最終的にアルカリ成分を除去し、チタン酸バリウム粉末を精製する。
【0033】
さらに、本発明において、前記した方法により得られたチタン酸バリウム粉末を1000〜1300℃で加熱処理することもできる。これによって、結晶性に優れ、しかも純度の高いチタン酸バリウム粉末を得ることができる。
【0034】
以上のようにして製造したチタン酸バリウム粉末は、一定の球状であり、粒径が0.05〜0.5μm、さらには0.05〜0.3μmで、かつ粒度分布が狭く、かつ結晶性も良好である。また、Ba/Tiの原子比が0.99〜1.01と1.00に極めて近い。さらに、スラリー化した際の分散性が極めて高く、したがって、積層セラミックコンデンサにおけるセラミック誘電体層の材料としてきわめて好適である。また、上記製造方法は、出発原料として、四塩化チタンのようなチタン化合物と塩化バリウムのようなバリウム化合物とをそれぞれ別の水溶液とし、これら水溶液を瞬間的かつ連続的に撹拌しながら接触させるといった容易な方法であり、その結果、生産性の向上が図られる。
【0035】
次に、具体的な実施例により本発明をより明らかにする。
[実施例1]
A.チタン酸バリウム粉末の製造
撹拌装置を備えた2000ccのSUS製フラスコを反応容器とし、この反応容器内に、濃度0.92規定のNaOH水溶液を予め注入し、このNaOH水溶液を約90℃に保持した。
【0036】
次いで、40℃に加熱保持したTiCl4水溶液(イオン交換水使用、TiCl4濃度0.472mol/l)と、予め未溶解分を除去し約95℃に加熱保持したBaCl2/NaOH水溶液(イオン交換水使用、BaCl2 濃度0.258mol/l、NaOH濃度2.73mol/l)とを、TiCl4水溶液77cc/min、BaCl2 /NaOH水溶液151cc/minの流量で、それぞれポンプにより反応容器内に連続的に供給した。その際、TiCl4/BaCl2のモル比は1.07であった。また、反応容器内の混合水溶液の温度を約90℃で一定とし、2分間撹拌して粒子状のチタン酸バリウムを生成した。次に、生成したチタン酸バリウムを含むスラリーを、TiCl4水溶液とBaCl2/NaOH水溶液の合計流量で、ポンプを用いて反応容器から約90℃に保持してある熟成槽に連続的に抜き出した後、ポンプを停止して熟成槽にて5分間撹拌した。続いて、デカンテーションを行って上澄みと沈殿物を分離し、遠心分離を行い、その後、純水洗浄、デカンテーション、遠心分離の操作を数回行い、チタン酸バリウム粉末を回収した。回収したチタン酸バリウム粉末を大気雰囲気下において100℃で加熱することにより乾燥し、実施例1のチタン酸バリウム粉末を得た。
【0037】
B.チタン酸バリウム粉末の物性測定
〔1〕平均粒径・CV値
上記で得られたチタン酸バリウム粉末の平均粒径を電子顕微鏡写真によって測定(SEM径)し、これに基づき、CV値(粒径の標準偏差/d50(粒度分布のメジアン径))を求めた。
【0038】
〔2〕ゼータ電位
上記で得られたチタン酸バリウム粉末をスラリー化し、その状態でのゼータ電位をレーザードップラー法に基づく次の方法によって求めた。すなわち、ゼータ電位測定器としてコールター社製:DELSA 440SXを用い、サンプルを予め蒸留水に懸濁させて濃度を0.005重量%またはpH6.4に調製した後、超音波で3分間振動させ、このサンプルを上記測定器の測定セル内に注入し、セル温度が25±0.2℃で安定した後、ゼータ電位を測定した。
【0039】
〔3〕Ba/Ti比
上記で得られたチタン酸バリウム粉末につき、Ba/Tiの原子比(Ba/Ti比)を次の方法に基づき求めた。すなわち、バリウムについては、試料を硫酸、硫酸アンモニウムおよび硝酸を加えて分解してから水を加えて溶解し、バリウムを硫酸バリウムとして沈殿させた後、その溶液をろ過し、灰化した後に灼熱して冷却し、硫酸バリウムとして秤量しバリウムを定量した。一方、チタンについては、試料を硫酸、硫酸アンモニウムおよび硝酸を加えて分解してから水を加えて溶解し、塩酸および硫酸を加えた後、チタン(IV)を金属アルミニウムに還元し、冷却後、チオシアン酸アンモニウム溶液を指示薬として硫酸アンモニウム鉄(III)標準液で滴定してチタンを定量した。
【0040】
〔4〕分散性
上記で得られたチタン酸バリウム粉末の分散性を確認するため、チタン酸バリウム粉末を水に懸濁させ、レーザー光散乱法粒度測定機LA700(堀場製作所製)を用いて平均粒径を測定し、上記で測定したSEM径と比較した。
【0041】
[実施例2]
撹拌装置を備えた2000ccのSUS製フラスコを反応容器とし、この反応容器内に、濃度0.77規定のNaOH水溶液を予め注入し、このNaOH水溶液を約90℃に保持した。
【0042】
次いで、40℃に加熱保持したTiCl4 水溶液(イオン交換水使用、TiCl4濃度0.466mol/l)と、予め未溶解分を除去し約95℃に加熱保持したBa(OH)2/NaOH水溶液(イオン交換水使用、Ba(OH)2濃度0.264mol/l、NaOH濃度2.09mol/l)とを、TiCl4水溶液80cc/min、Ba(OH)2 /NaOH水溶液158cc/minの流量で、それぞれポンプにより反応容器内に連続的に供給した。その際、TiCl4/Ba(OH)2のモル比は1.11であった。また、反応容器内の混合水溶液の温度を約90℃で一定とし、2分間撹拌して粒子状のチタン酸バリウムを生成した。次に、生成したチタン酸バリウムを含むスラリーを、TiCl4水溶液とBa(OH)2/NaOH水溶液の合計流量で、ポンプを用いて反応容器から約90℃に保持してある熟成槽に連続的に抜き出した後、ポンプを停止して熟成槽にて5分間撹拌した。続いて、デカンテーションを行って上澄みと沈殿物を分離し、遠心分離を行い、その後、純水洗浄、デカンテーション、遠心分離の操作を数回行い、チタン酸バリウム粉末を回収した。回収したチタン酸バリウム粉末を大気雰囲気下において100℃で加熱することにより乾燥し、実施例2のチタン酸バリウム粉末を得た。
得られた、チタン酸バリウム粉末の物性を実施例1と同様に分析し、その結果を第1表に併記した。
【0043】
[実施例3]
TiCl4濃度2.25mol/lのTiCl4 水溶液を100cc/min、およびBaCl2濃度1.25mol/l、NaOH濃度8.3mol/lのBaCl2/NaOH水溶液を200cc/minで供給した以外は、実施例1と同様にして実施例3のチタン酸バリウム粉末を得た。得られた、チタン酸バリウム粉末の物性を実施例1と同様に分析し、その結果を第1表に併記した。
【0044】
[比較例1]
撹拌装置を備えた2000ccのSUS製フラスコを反応容器とし、この反応容器内に、濃度0.92規定のNaOH水溶液を予め注入し、このNaOH水溶液を約90℃に保持した。
【0045】
一方、40℃に加熱保持したTiCl4水溶液(イオン交換水使用、TiCl4濃度0.472mol/l)と、予め未溶解分を除去し約95℃に加熱保持したBaCl2水溶液(イオン交換水使用、BaCl2 濃度0.258mol/l)とを混合し、TiCl4/BaCl2混合水溶液を調製した。次いで、この混合水溶液をポンプにより77cc/minの流量で応容器内に連続的に供給した。その際、反応容器内の混合水溶液の温度を約90℃で一定とし、2分間撹拌して粒子状のチタン酸バリウムを生成した。次に、生成したチタン酸バリウムを含むスラリーを、ポンプを用いて77cc/minの流量で反応容器から約90℃に保持してある熟成槽に連続的に抜き出した後、ポンプを停止して熟成槽にて5分間撹拌した。続いて、デカンテーションを行って上澄みと沈殿物を分離し、遠心分離を行い、その後、純水洗浄、デカンテーション、遠心分離の操作を数回行い、チタン酸バリウム粉末を回収した。回収したチタン酸バリウム粉末を大気雰囲気下において100℃で加熱することにより乾燥し、比較例1のチタン酸バリウム粉末を得た。
上記のようにして得られたチタン酸バリウム粉末の物性を実施例1と同様に分析し、その結果を第1表に併記した。
【0046】
[比較例2]
TiCl4水溶液(イオン交換水使用、TiCl4濃度2.25mol/l)と、BaCl2水溶液(イオン交換水使用、BaCl2濃度2.5mol/l)とを混合し、TiCl4/BaCl2混合水溶液を調製した以外は、比較例1と同様にして比較例2のチタン酸バリウム粉末を得た。得られた、チタン酸バリウム粉末の物性を実施例1と同様に分析し、その結果を第1表に併記した。
【0047】
[比較例3]
撹拌装置を備えた2000ccのSUS製フラスコを反応容器とし、この反応容器内に、濃度0.92規定のNaOH水溶液を予め注入し、このNaOH水溶液を約90℃に保持した。
【0048】
次いで、40℃に加熱保持したTiCl4水溶液(イオン交換水使用、TiCl4濃度0.472mol/l)と、予め未溶解分を除去し約95℃に加熱保持したBaCl2水溶液(イオン交換水使用、BaCl2 濃度0.258mol/l)とを、TiCl4水溶液77cc/min、BaCl2水溶液151cc/minの流量で、それぞれポンプにより反応容器内に連続的に供給した。また、反応容器内の混合水溶液の温度を約90℃で一定とし、2分間撹拌して粒子状のチタン酸バリウムを生成した。次に、生成したチタン酸バリウムを含むスラリーを、TiCl4水溶液とBaCl2水溶液の合計流量で、ポンプを用いて反応容器から約90℃に保持してある熟成槽に連続的に抜き出した後、ポンプを停止して熟成槽にて5分間撹拌した。続いて、デカンテーションを行って上澄と沈殿物を分離し、遠心分離を行い、その後、純水洗浄、デカンテーション、遠心分離の操作を数回行い、チタン酸バリウム粉末を回収した。回収したチタン酸バリウム粉末を大気雰囲気下において100℃で加熱することにより乾燥し、比較例3のチタン酸バリウム粉末を得た。
上記のようにして得られたチタン酸バリウム粉末の物性を実施例1と同様に分析し、その結果を第1表に併記した。
【0049】
【表1】
【0050】
第1表から明らかなように、本発明の製造方法によるチタン酸バリウム粉末は、CV値が低いことから粒度分布がより狭く、かつゼータ電位が低く、SEM径とレーザー光散乱法による平均粒径との差が小さいことから、より分散性に優れ、しかも、Ba/Tiの原子比も優れており、本発明の効果が確かめられた。
【0051】
以上説明したように、本発明によれば、微粒で粒度分布が狭く、分散性が良好で、かつBa/Tiの原子比に優れ、積層セラミックコンデンサを構成するセラミック誘電体層の材料として極めて好適なチタン酸バリウム粉末を容易に製造することができ、生産性の向上が図られる。
Claims (7)
- ハロゲン化チタンの水溶液と、バリウム化合物のアルカリ水溶液とを、ハロゲン化チタン/バリウム化合物のモル比を0.8〜1.2に制御しながら撹拌下で接触させることを特徴とするチタン酸バリウム粉末の製造方法。
- 前記バリウム化合物が、それぞれハロゲン化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、しゅう酸塩およびアルコキシドから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
- 前記チタン化合物が四塩化チタンであることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
- ハロゲン化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩およびしゅう酸塩から選択される1種又は2種以上のチタン化合物の水溶液と、塩化バリウムのアルカリ水溶液とを、チタン化合物/塩化バリウムのモル比を0 . 8〜1 . 2に制御しながら撹拌下で接触させることを特徴とするチタン酸バリウム粉末の製造方法。
- 前記チタン化合物がハロゲン化チタンであることを特徴とする請求項4に記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
- アルカリ水溶液中に、ハロゲン化チタンの水溶液とバリウム化合物のアルカリ水溶液を添加し接触させることを特徴とする請求項1または4に記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
- バリウム化合物のアルカリ水溶液中に、ハロゲン化チタンの水溶液とバリウム化合物のアルカリ水溶液を添加し接触させることを特徴とする請求項1または4に記載のチタン酸バリウム粉末の製造方法。
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