JP3587719B2 - 耐食性と切れ味持続性および加工性に優れた刃物用ステンレス鋼 - Google Patents

耐食性と切れ味持続性および加工性に優れた刃物用ステンレス鋼 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば庖丁、はさみ、かみそり、ナイフ、カッター等家庭用、工業用、医療用の各種刃物などに利用可能な耐食性と切れ味持続性および加工性に優れた刃物用ステンレス鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
刃物用として、従来より、高い硬度および優れた耐摩耗性が要求されるものについては、CおよびCrの含有量が高いSUS440系を始めとする高炭素含有マルテンサイト系ステンレス鋼が使用されている。
【0003】
しかしながら、これらの従来鋼には、次の問題がある。
これらの従来鋼は、Crの含有量が高いため、比較的腐食性の弱い環境中では、不動態化して良好な耐食性を有している。しかし、例えば海塩粒子を含む様な、比較的腐食性の強い環境中では、孔食を発生するなどして耐食性が劣る。また、SUS440Cに代表される様に、Cが高くなるにつれて熱間加工性に劣り、特に熱間圧延において割れなどを生じやすい。
【0004】
一方、刃物の性能の一評価方法として、刃物の切れ味なるものがある。しかし、料理を始めとし、人の感覚に頼る評価が主で、定量的評価の難しいものの一つである。
【0005】
刃物の切れ味の定量的評価として、多くの評価方法のうち、主に本多式切れ味試験がなされている。一般に、本多式では、ほぼ一定湿度で、所定寸法の紙束を用い、所定の荷重および切削速度下で、刃物の一往復あるいは一通過によって切断した紙の枚数によって刃物の切れ味を定量的評価する。
【0006】
しかしながら、従来から存在する刃物用鋼においては、次の問題がある。
こういった切れ味試験では、一般に、第1回目の切断枚数(初回切れ味)から切断回数が約20回目くらいまでは、回数の増加につれて切断枚数すなわち切れ味は急激に低下する。その後は、緩やかに低下し、約80回目以降はほとんど一定の切断枚数(収束切れ味)になる。
【0007】
従来、切れ味性に優れた刃物用鋼としては、例えば、特開平10−1703号公報に示されたものがある。
この従来鋼は、鋼粉を熱間静水圧処理により焼結および緻密化させて成る刃物用合金鋼であるが、刃物として十分な切れ味性を得るには、焼入れ硬さが主要因と考え、HRC62以上の高い焼入れ硬さが不可欠との事が記載されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、刃物の切れ味は、硬さが高いほど切れ味に優れる事が知られているが、この場合の切れ味とは、主に収束切れ味の事を指しており、初回切れ味との関連については考慮されていなかった。上記の特開平10−1703号公報に示されたものについても、第40回目の切断枚数をもって材料の切れ味としており、この評価方法では切れ味の持続性の良否の判断ができない。したがって、初回切れ味から収束切れ味をいつまでも持続できるような、切れ味持続性に優れた刃物が、今のところ提案されていなかった。
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、切れ味持続性に優れると共に、耐食性に優れ、かつ加工性も良好な、耐食性と切れ味持続性および加工性に優れた刃物用ステンレス鋼を提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、特に切れ味持続性に及ぼす要因を鋭意研究した結果、焼入れ硬さが主要因ではなく、C、Cr、Mo、Vの含有量および母相中のCr、Mo、Vの全てを含む硬質で微細な炭化物の大きさが、特には刃物の切れ味持続性に大きく影響していることを新たに知見し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち,本発明の請求項1に記載した刃物用ステンレス鋼は,溶解して作製した鋼塊に,少なくとも,圧延,焼入れ及び焼きもどしを施して得られた刃物用ステンレス鋼であって,重量%において,C:0.70〜1.10%,Si:1.00%以下,Mn:1.00%以下,Cr:16.00〜19.00%,Mo:1.00〜2.50%,V:0.05〜0.50%を含有していると共に,残部はFeおよび不可避不純物からなり,かつ,大きさが5μm以下のCr,Mo,Vの全てを含む硬質炭化物を母相中に有することを特徴としている。
【0012】
Cr、Mo、Vの全てを複合添加させて、これらを含む硬質で、かつ、5μm以下の微細な炭化物を生成させる事により、切れ味持続性に優れる刃物用ステンレス鋼が得られる。また、Moの含有量を1.00〜2.50%と比較的多くすると、基地組織へ固溶するMoの含有量が増加するため、孔食の発生が抑制され、耐食性が改善される。さらに、C、Mo、Vの含有量を過度に高めない事により、熱間加工性を良好にし、また、冷間圧延後の歪取り焼鈍にて、製品形状の打ち抜き時の硬さを下げる事により、打ち抜き加工性をも良好にする。
【0013】
つまり、刃物用ステンレス鋼の合金成分および含有量を上記のように設定し、かつ、母相中の炭化物の大きさを5μm以下にする事により、刃物の切れ味持続性が向上するとともに、優れた耐食性かつ加工性を有する。したがって、このような合金鋼からなる刃物では、長期間使用しても刃欠けや刃こぼれが生じ難く、耐食性と切れ味持続性および加工性に優れた刃物として提供する事が可能である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下,本発明の一実施形態について説明する。本実施形態の刃物用ステンレス鋼は,重量%において,C:0.70〜1.10%,Si:1.00%以下,Mn:1.00%以下,Cr:16.00〜19.00%,Mo:1.00〜2.50%,V:0.05〜0.50%を含有していると共に,残部はFeおよび不可避不純物からなり,かつ,大きさが5μm以下のCr,Mo,Vの全てを含む硬質炭化物を母相中に有している刃物用ステンレス鋼である。
【0015】
本発明において最も注目すべき事は、Cr、Mo、Vの全てを複合添加させて、これらを含み,硬質で、かつ、5μm以下の微細な炭化物を生成させる事である。
【0016】
上記のCr、Mo、Vの全てを含む微細な炭化物は、母相中に均一に分散しており、後述する実施例に示すように、刃物としての優れた切れ味持続性を実現する事ができる。
【0017】
これらの合金成分および含有量は、請求項1、2の発明の様に、刃物用ステンレス鋼として、耐食性と切れ味持続性および加工性に優れるように設定したものであり、次に、上記化学成分の限定理由について説明する。
【0018】
C:0.70〜1.10%;
Cは、焼入れ焼もどし後の硬さを高める元素であり、Cr、Mo、Vと結合してM23型、M型等の高硬度炭化物を形成して、硬さを確保する。その添加量が多すぎると炭化物の粗大化、鏡面性の低下、熱間加工性の低下、耐食性の劣化等を招くため、1.10%以下、好ましくは0.95%以下とする。一方、添加量が少なすぎると焼入れ焼もどし後の強度、硬度が得られないため、0.70%以上、好ましくは0.80%以上とする。
【0019】
Si:1.00%以下;
Siは、焼もどし軟化抵抗性を向上させ、かつ脱酸剤としても有効な元素であるため添加する。ただし、添加量が多すぎてもその効果が飽和しコストアップに繋がるため、その添加量は1.00%以下、好ましくは0.50%以下とする。
【0020】
Mn:1.00%以下;
Mnは、焼入れ性を向上させ、かつ脱酸剤としても有効な元素であるため添加する。ただし、添加量が多すぎてもその効果が飽和しコストアップに繋がるため、その添加量は1.00%以下、好ましくは0.50%以下とする。
【0021】
Cr:16.00〜19.00%;
Crは、基地組織および炭化物中に存在して、耐食性、焼入れ性を改善し、焼もどし硬さ、高温硬さおよび耐摩耗性を付与する元素である。その含有量が16%未満では、十分な耐食性が得られないため、16%を下限とした。一方、含有量が多すぎると、これらの効果が飽和しコストアップに繋がると共に、焼なまし硬さが増大して、機械加工性が劣化するため、含有量を19%以下、好ましくは、18%以下とした。
【0022】
Mo:1.00〜2.50%;
Moは、基地組織および炭化物中に存在して、孔食の発生を抑制し、耐食性を改善すると共に、焼もどし後の硬さを増加させる元素である。また、焼入れ性、耐摩耗性、靭性、焼もどし軟化抵抗性等を向上させるため、1.00%以上添加する必要がある。一方、添加量が2.50%を超える場合には、熱間加工性低下、靭性低下、コストアップ等の問題があり、その添加量は2.50%以下、好ましくは1.50%以下とする。
【0023】
V:0.05〜0.50%;
Vは、基地組織および炭化物中に存在して、焼入れ性、耐摩耗性、靭性、焼もどし軟化抵抗性等を向上させるため、0.05%以上添加する必要がある。一方、添加量が0.50%を超える場合には、熱間加工性低下、靭性低下、コストアップ、冷間加工性低下等の問題があり、その添加量は0.50%以下、好ましくは0.25%以下とする。
【0024】
そして、前記刃物用ステンレス鋼は、以上の合金成分のほか、残部がFeおよび不可避的に混入した不純物からなる。この不純物としては、P、Sが含まれる事がある。しかし、これらの元素は材質を脆くするので少ない程好ましく、いずれも0.10%以下に止めておく。なお、原料よりNi、Cuが不可避的に混入する事がある。これらの元素は、耐食性の向上に寄与するものの、多量に含有されると焼入れ硬さを低下させるため、各々上限を1%とする。
【0025】
次に、本発明の作用につき説明する。本発明の刃物用ステンレス鋼は、Cr、Mo、Vのすべてを複合添加することにより、母相中において上記のCr、Mo、Vの全てを含む硬質で、かつ、5μm以下の微細な炭化物を分散させてある。そのため、後述する実施例に示すように、刃物としての優れた切れ味持続性を実現する事ができる。
【0026】
また、本発明鋼は、Cを0.70〜1.10%、Crを16.00〜19.00%、Moを1.00〜2.50%、Vを0.05〜0.50%に限定する事により、後述する実施例に示す様に、優れた耐食性および加工性を発揮する事ができる。
【0027】
この様に、本発明によれば、切れ味持続性に優れ、かつ、耐食性、加工性に優れた刃物用ステンレス鋼を提供する事ができる。
【0028】
次に,請求項のように,上記刃物用ステンレス鋼は,さらに,W:0.02〜1.50%,Ti:0.02〜0.50%,Nb:0.02〜0.50%,Zr:0.02〜0.50%のうちの1種または2種以上を含有している事が好ましい。以下,これらの成分の限定理由について説明する。
【0029】
W:0.02〜1.50%;
Wは、更なる耐摩耗性の向上のためには、0.02%以上添加する事を要する。一方、添加量が1.50%を超える場合には、熱間加工性低下、コストアップ、靭性低下等の問題がある。
【0030】
Ti:0.02〜0.50%;
Tiは、更なる耐摩耗性の向上のためには、0.02%以上添加する事を要する。一方、添加量が0.50%を超える場合には、熱間加工性を阻害するという問題がある。
【0031】
Nb:0.02〜0.50%;
Nbは、更に結晶粒を細かくし靭性を向上させるためには、0.02%以上添加する事を要する。一方、添加量が0.50%を超える場合には、上記効果が飽和し、却ってその効果が低下してくるという問題がある。
【0032】
Zr:0.02〜0.50%;
Zrは、更に結晶粒を微細化させ靭性を向上させるためには、0.02%以上添加する事を要する。一方、添加量が0.50%を超える場合には、上記効果が飽和し、却ってその効果が低下してくるという問題がある。
【0033】
【実施例】
ここで、上記で述べた刃物用ステンレス鋼の材質特性を評価するため、以下に示す条件で加工性、耐食性の評価および庖丁の切れ味試験を行った。
【0034】
本例の刃物用ステンレス鋼を製造するに当たっては、1.6ton溶解炉で溶解した約41cm×41cm×126cm鋼塊を作製し、これを素材とする。次いで、この素材を熱間圧延し、22mm厚みの熱延鋼板を作製する。さらに、4.0mm厚みの熱延鋼板を作製し、840℃で90分間加熱保持後、徐冷により完全焼鈍を行う。さらに、2.5mm厚みの冷延鋼板を作製し、780℃で15分間加熱保持後、空冷により歪取り焼鈍を行う。その後、この鋼板は、製品形状に打ち抜かれ、1050℃で20分間加熱保持後、空冷により焼入れし、150〜200℃で60分間加熱保持後、空冷により焼もどしを行うものとした。この様にして得られた本発明鋼(E1〜E8)の優れた特性を定量的に評価すべく、比較鋼(C9〜C13)、従来鋼(C14〜C16)と共に種々の試験を行った。
まず、準備した鋼の組成等を表1に示す。
【0035】
【表1】
Figure 0003587719
【0036】
本発明鋼(E1〜E8)は、すべて本発明の組成範囲内の組成を有すると共に、母相中の炭化物の大きさが5μm以下にあるものである。また、本発明鋼のうちE4〜E8については、W、Ti、Nb、Zrを1種または2種以上添加したものである。
【0037】
比較鋼(C9〜C13)のうち、C9は個々の化学成分は本発明範囲内にあるが、母相中の炭化物の大きさが5μm以下にないものである。また、C10からC13は、いずれかの化学成分が本発明範囲内から外れるものである。従来鋼(C14〜C16)は、刃物用鋼板として使用されているSUS440A、SUS440B、SUS440Cであって、特にMo、Vの含有量が、本発明範囲から外れるものである。
【0038】
また、これらの各鋼(E1〜E8、C9〜C16)は、すべて上記と同様にして熱間圧延、完全焼鈍を行った後、冷間圧延、歪取り焼鈍を行った。そして、この鋼板から硬さ試験片と塩水噴霧試験片とを切り出した。硬さ試験片のサイズは厚み2.5mmの50mm角、塩水噴霧試験片のサイズは厚み2.5mmの50×100mmとした。次に、塩水噴霧試験片に対して、1050℃で20分間加熱保持後、空冷により焼入れし、200℃で60分間加熱保持後、空冷により焼もどしを行った。硬さ試験および塩水噴霧試験に際しては、予め各試験片のスケールを落とすと共に、#600の仕上げ研磨を行った。その後、硬さ試験による打ち抜き加工性、塩水噴霧試験による耐食性について評価した。また、切れ味持続性の評価については、後述する様に、庖丁を試作して評価した。
評価結果につき表2に示す。
【0039】
【表2】
Figure 0003587719
【0040】
熱間加工性の評価は、素材を22mm厚みに熱間圧延した鋼板の割れ等の発生の有無により評価した。割れ等が全く見られなかったものを○、若干のコバ割れ等が見られたものを△、有害なコバ割れ、先端割れ等が見られたものを×として評価した。本発明鋼における熱間圧延は、割れ等を伴う事なくスムーズに行う事ができた。表2より知られるごとく、熱間加工性の評価は、C11、C16を除き、割れ等が全く見られる事なく、良好であった。C11、C16の熱間加工性が劣った理由は、Cの含有量が高いためであると考えられる。
【0041】
打ち抜き加工性の評価は、硬さ試験により評価した。鋼板の製品形状への打ち抜き時の硬さは、ロックウェル硬さ試験機を用いて測定した。硬さがHRB100以下のものを○、100から105のものを△、106以上のものを×として評価した。本発明鋼における製品形状への打ち抜き加工は、すべて硬さがHRB100以下であり、容易に打ち抜く事ができた。表2より知られるごとく、打ち抜き加工性の評価は、C9、C11、C16を除き、良好であった。C9、C11、C16の冷間加工性が劣った理由は、特にC、Vの含有量が高いためであると考えられる。
【0042】
耐食性の評価は、塩水噴霧試験により評価した。塩水噴霧試験は、塩濃度1%、試験時間24時間にて行った。試験の評価は、JIS Z 2371に基づきレイティングナンバ法により評価した。レイティングナンバが10のものを○、9のものを△、8以下のものを×として評価した。本発明鋼における塩水噴霧試験での発錆状況は、肉眼で識別できる発錆はなく、優れた耐食性を示した。これは、Cの含有量に対して、基地組織に十分な量のCr、Moが固溶しているため、孔食の発生が抑制されたためであると考えられる。表2より知られるごとく、耐食性の評価は、C11、C12、C14〜C16において劣っていた。これは、Cの含有量に対して、Cr、Moの含有量が不足しているためであると考えられる。
【0043】
切れ味持続性の評価は、本多式切れ味試験により評価した。供試材より庖丁を試作し、本多式切れ味試験機にて切れ味の評価を行った。つまり、ほぼ一定湿度で、所定寸法の紙束を用い、所定の荷重および切削速度下で、刃物の一通過によって切断した紙の枚数によって刃物の切れ味を定量的評価した。本試験では、切断荷重を3267gf、切断方法を一通過による引き切り、切断ストロークを50mm、被切断材料をPPC用紙(厚み0.1mmの15×60mm)にて試験を実施し、1回の裁断毎に紙束を交換して、同一条件下で裁断を100回繰り返した。ただし、庖丁の硬さが切断枚数に及ぼす影響を取り除くために、庖丁の硬さは、焼もどし温度を変化させる事により、HRC59に揃えてある。一般に、第1回目の切断枚数(初回切れ味)から切断回数が約20回目くらいまでは、回数の増加につれて切断枚数すなわち切れ味は急激に低下する。その後は、緩やかに低下し、約80回目以降はほとんど一定の切断枚数(収束切れ味)になる。そこで、切れ味持続性の評価は、第1回目と第100回目の切断枚数の比、即ち(第100回目の切断枚数)/(第1回目の切断枚数)の値にて評価した。第一回目の切断枚数は、本発明鋼、比較鋼、従来鋼いずれも、44〜46枚の間であり、初回切れ味は同等である。切断枚数の比が0.90以上のものを○、0.80から0.90のものを△、0.80以下のものを×として評価した。
【0044】
本発明鋼における庖丁での切れ味持続性は、切断回数の増加につれて、終始、切れ味がほとんど低下する事なく、優れた切れ味持続性を示した。これは、Cの含有量が適量なため、粗大な一次炭化物が見られず良好であり、母相中に占める炭化物の割合も十分に多い。さらに、Cr、Mo、Vの全てを含む硬質で、かつ、5μm以下の微細な炭化物を生成させる事により、刃欠けや刃こぼれ等を生じる事なく、刃物の刃先線粗さ(刃先稜線の最大線粗さ値)を、10μm程度の刃物未使用の刃先の状態にて維持する事ができるため、切れ味持続性が低下せず、切れ味の良好な状態を維持する事ができたものと考えられる。
【0045】
表2より知られるごとく、切れ味持続性の評価は、本発明鋼を除いては良好なものはなかった。この原因として、まず、C9は個々の化学成分は本発明範囲内にあるが、母相中の炭化物の大きさが5μm以下になく、若干大きいため、刃物の刃先近傍にて露出した炭化物が、切断中の機械的作用により幾分脱落し、切れ味が低下したものと考えられる。また、従来鋼のC14では、Cの含有量が比較的少ないため、粗大な一次炭化物も見られず良好であるが、母相中に占める炭化物の割合が少なく、さらにCrを主体とする炭化物のため、炭化物の硬さが低くなり、切断中において刃先が摩耗し、切れ味持続性が低下したものと考えられる。また、従来鋼のC16では、Cの含有量が比較的高いため、母相中に占める炭化物の割合も多く良好であるが、C14と同様に、Crを主体とする炭化物のため、炭化物の硬さが低くなり、さらに粗大な一次炭化物が幾分見られるため、刃こぼれ等を生じ、切れ味持続性が低下したものと考えられる。即ち、C10〜C16の結果からわかるようにC、Cr、Mo、Vの個々の化学成分のいずれか1元素でも本発明範囲内より外れたり、5μmより大きな炭化物を生成すると、切れ味は低下していき、優れた切れ味持続性は得られない。
【0046】
【発明の効果】
上述のごとく,本発明によれば,組成範囲を上記特定の範囲に限定し,かつ,大きさが5μm以下のCr,Mo,Vの全てを含む硬質炭化物を母相中に有していることにより,切れ味持続性に優れると共に,耐食性に優れ,かつ加工性も良好な,耐食性と切れ味持続性および加工性に優れた刃物用ステンレス鋼を提供する事ができる。

Claims (2)

  1. 溶解して作製した鋼塊に,少なくとも,圧延,焼入れ及び焼きもどしを施して得られた刃物用ステンレス鋼であって,
    重量%において,C:0.70〜1.10%,Si:1.00%以下,Mn:1.00%以下,Cr:16.00〜19.00%,Mo:1.00〜2.50%,V:0.05〜0.50%を含有していると共に,残部はFeおよび不可避不純物からなり,かつ,大きさが5μm以下のCr,Mo,Vの全てを含む硬質炭化物を母相中に有することを特徴とする,耐食性と切れ味持続性および加工性に優れた刃物用ステンレス鋼。
  2. 請求項1において,さらに,W:0.02〜1.50%,Ti:0.02〜0.50%,Nb:0.02〜0.50%,Zr:0.02〜0.50%のうちの1種または2種以上を含有している事を特徴とする,耐食性と切れ味持続性および加工性に優れた刃物用ステンレス鋼。
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