JP3578297B2 - 内径溝付き軸受の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に、ディスクを高速回転するモータ軸用に好適な内径溝付き軸受ユニットの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
CD−ROM、MO、HDD、DVDといったディスクを回転するモータ軸用の軸受としては、ボールベアリングが従来より使用されてきたが、最近のコストダウンの傾向や高速回転化に伴う非周期性振れ(NRRO)の問題等より、滑り軸受が検討されつつある。また、この滑り軸受において、軸受内径形状の形成方法としては、特開平6−109020号に記載さいている如く、軸受を内外径真円形状にて製作し、それを軸受ハウジングないしはケース内に圧入固定する場合、ケースの外径部にカット面を予め形成しておき、そのケースの肉厚の差により軸受圧入過程で内径形状の縮小する割合が部分的に変化するのを利用して、軸受内径を前記カット面に対応して変形させるようにしたもある。また、特開平8−68423号には、焼結含油軸受の内径面に仮想内径基準面を設定し、この基準面より外側になる凹部と内側になる凸部を各3カ所以上、周方向に連続的に形成し、軸との相対回転により動圧を発生させる軸受構造を開示している。その軸受製造としては、外径に3カ所以上の外径凹部及び内径に外径凹部と同じ半径上に内径凹部を予め軸受素材に設けておき、この軸受素材をサイジング又はハウジングに圧入する際に、圧入変形させ、前述の内径凹凸形状を形成させる方法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記した従来の滑り軸受は、軸を高精度に支持するためにはクリアランスをより小さくする必要がある反面、クリアランスを小さくするほど潤滑剤の流体抵抗を受けてモータ等の消費電力が増大するといった問題があった。この問題については、潤滑剤の粘度を低下させたり、クリアランスを広げることが対策として考えられるが、相反する性質であり、画期的な対策が望まれていた。
また、上記特開平6−109020号記載の如くケースの肉厚による内径変形は、あくまでもケースの工夫であり、モータが小型化された現状ではケースをそのままモータのヨークなどとして使用することもあり、ケース形状の自由度がなくなって採用し難いものとなっている。そのため、軸受自体での対策が望まれていた。その対策は小型化及び生産性に優れているものでなければならない。
【0004】
更に、軸受内径に凹凸形状を形成する方法として、上記特開平8−68423号記載の如く外径に凹部を予め形成しておき、圧入もしくはサイジング時に内径に圧縮させる力を利用して形成する方法は、この圧縮され変形する内径面での度合の管理が難しく、凹凸形成は可能でも、肝心の内径寸法が安定しないという問題がある。特に、高精度回転を要求する軸受機構の場合、内径寸法精度が1〜2μmまで求められ、圧入代を20μm程度に想定すると、内径の縮小量が少なく見積っても10μm程度あり、内径寸法を高精度に維持することは困難である。また、この方法では、軸を支持する内径部分が外側から内側に縮小されただけの面であり、高精度に支持するためには気孔をより細かくする必要があるが、それではその他の内径凹部(油供給部)も細かくなってしまい内径面への油供給不足になる懸念もでてくる。しかも、この方法は、内径および外径ともに凹部を予め形成することが要件となっているが、この素材形状では、例えば、成形ダイスおよびコアの両方に凹部・凸部を形成し、かつ、パンチも対応する形状をつけ、位相を合わせて成形する必要があることから、成形が複雑になると共に金型コトスが高くなる。
【0005】
本発明の目的は、上記の問題を合理的に解消して、高精度の回転支持が可能となり、簡易で安価、かつ精度良く生産することができる内径溝付き軸受の製造方法を提供することにある。更に、他の目的は以下に説明する内容の中で順次明らかにして行く。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、本発明の最も特長としている以下の構成により達成される。
第1の発明は、請求項1の記載と図1に例示する如く、外形が略多角形状で、内孔形状が円形である筒状軸受素材2Aを作製し、前記軸受素材2Aをサイジング用金型または軸受ハウジング1にマンドレルを用いて圧入し、その際に、前記サイジング金型または軸受ハウジング1によって軸心側に向かって圧縮される軸受素材2Aの外周大径部2aに対応する内孔部を、前記マンドレルにて円弧状に矯正して軸受2の径小部4aに形成すると共に、軸受素材2Aの薄肉部3bを軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出させて軸受2の内径溝である径大部4bを形成する、製造方法である。
第2の発明は、請求項3の記載と図3に例示する如く、外形が略多角形状で、内孔形状が外周大径部11bに対応する位置を大径部11cにした略多角形状ないしは外周大径部11bに対応する位置に溝を備えた溝付き円形である筒状軸受素材10Aを作製し、前記筒状軸受素材10Aを、サイジング用金型または軸受ハウジング1にマンドレルを用いて圧入し、その際に、軸受素材10Aの内径小部11dを前記マンドレルで拡張し円弧状に矯正して軸受10の径小部13aを形成すると共に軸受素材10Aの薄肉部12bを軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出させ、軸受10の内径溝である径大部13bを形成する、製造方法である。
第3の発明は、請求項6の記載と図5に例示する如く、外形が略多角形状で、内孔形状が外周大径部19aに対応する位置を径小部19dにした略多角形状ないしは外周大径部19a同士を結ぶ中間付近と対応する位置に溝を備えた溝付き円形である筒状軸受素材18Aを作製し、前記筒状軸受素材18Aを、サイジング用金型または軸受ハウジング1にマンドレルを用いて圧入し、その際に、軸受素材18Aの内径小部19dを前記マンドレルで拡張し円弧状に矯正して軸受18の径小部21aを形成すると共に、軸受素材18Aの薄肉部20bを軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出させて軸受18の内径溝である径大部21bを形成する、製造方法である。
【0007】
上記第1〜第3の発明は試験結果から次の(1)または(2)の条件を具備することが好ましい。
(1)、前記圧入前の筒状軸受素材において、サイジング用金型または軸受ハウジングの内面と当接する外周の大径部(図1の例では外周大径部2aの総和)面積が、外周全体(図1の例では外周大径部2aを通る仮想円周)面積の15〜85%である。
(2)、前記圧入前の筒状軸受素材において、軸受素材の薄肉部の最小厚さ寸法をT(単位はmmで、図1の例では薄肉部3bの厚さ)、軸受素材の大径部の半径をD(単位はmmで、図1の例では外周大径部2aと軸心とを結ぶ半径)、軸受素材の内孔の大径部の半径をd(単位はmmで、図1の例では内孔の半径)、係数をkとすると、
T=(D−d)×k で、 k=0.4〜0.8である。
そして、より好ましくは、軸受素材がD−d=0.5〜5mm、軸受素材の大径部の圧入代が15〜20μm、材質が青銅系や鉄−銅系(30〜55% 程度)の条件にて行なうことである。
【0008】
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態例を示した図面を参照し、本発明の要部を詳述する。
なお、以下の形態例において、用いられる軸受素材は、例えば、青銅系や鉄−銅系の原料粉を混合して加圧成形した後、その成形体を還元雰囲気中、所定温度下にて焼結し、その焼結体自体あるいは更に含油処理した含油焼結体である。このような、焼結体は公知の製法にて得られるが、本発明ではその焼結体自体の形状を、軸受ハウジング(サイジング用金型であってもよい、以下、同様である)にマンドレルを用いて圧入にて変形させることを想定して工夫されたものである。したがって、以下の説明では、軸受素材が軸受ハウジングに圧入される前の状態のときは2A,6Aという様に符号Aを付加して表現し、軸受ハウジング内に圧入された後の製品軸受のときは2,6という様に表現する。
【0010】
図1は請求項1に対応した形態であり、同1(a)は軸受ハウジング1に圧入する前の軸受素材2Aの端面形状図、同(b)は軸受ハウジング1(内径は真円)に圧入した後の軸受2を模式的に示す端面形状図である。
この第1の形態の筒状軸受素材2Aは、外形が略三角形状で、内孔形状が円形に形成されている。したがって、軸受素材2Aの外周は、外周大径部2a付近が三角形の頂部に対応していて厚肉部分になっていると共に、三角形の各辺部に対応する部分2bが薄肉部分になっている。つまり、各部分2bは、外周径大部2aの軌跡内側を軸方向に欠如した態様で設けられており、各部分2bの中間部と軸心とを結ぶ肉厚部分3b(以下、薄肉部3bという)が外周大径部2aと軸心とを結ぶ肉厚部分3a(以下、厚肉部3aという)に比して薄くなっている。
【0011】
そして、このように作製された軸受素材2Aは、軸受ハウジング1に対し不図示のマンドレルを用いて圧入され、その圧入過程にて、塑性変形されて正規の軸受2に形成される。この塑性過程では、同(b)に矢示した如く、軸受素材2Aの外周大径部2aが軸受ハウジング1によって軸心側に向かって圧縮される。このとき、外周大径部2aに対応する内孔部をマンドレルにて円弧状に矯正して軸受の径小部4aに形成すると共に、軸受素材2Aの薄肉部3bを軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出させて軸受の径大部4bを形成する。すなわち、軸受素材2Aを軸受ハウジング1内に圧入する際に外周径大部2aから受ける押圧力によって、薄肉部3bが厚肉部3aより強く塑性変形されつつ、軸受ハウジング1の非拘束部側へ膨出変形して軸受の径大部4bとなり、前記マンドレルにて円弧状に矯正された3カ所の軸受の径小部4a(モータ等の軸Sが接面状態に係合する部分)の軌跡から外側に逃げている。
【0012】
図2は請求項2に対応し前記図1の軸受素材を変形した例であり、図2(a)は図1(a)に対応し、同(b)は図1(b)に対応している。
この第2の形態の軸受素材6Aでは、図1の形態に対し外周大径部7a付近が三角形の頂部に対応していて厚肉部分になっている点で同じくしているが、三角形の各辺部に対応する部分に形成された欠落部7bを有することにより、外周大径部7aを頂部とする複数の肉厚部分7cが略放射状に設けられている。換言すると、各欠落部7bは、外周径大部7aの軌跡内側を軸方向に欠如した態様で設けられており、各部分7bと軸心とを結ぶ肉厚部分8b(以下、薄肉部8bという)が外周大径部7aと軸心とを結ぶ肉厚部分8a(以下、厚肉部8aという)に比して薄くなっている。
また、この軸受素材6Aは、図1と同様、軸受ハウジング1に対し不図示のマンドレルを用いて圧入されることで、塑性変形されて正規の軸受6に形成される。この塑性過程では、同(b)に矢示した如く、軸受素材6Aの外周大径部7aが軸受ハウジング1によって軸心側に向かって圧縮されて対応する内孔部を、前記マンドレルにて円弧状に矯正して軸受の径小部9aに形成する。同時に、薄肉部8bを軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出させて軸受の径大部9bを形成する。すなわち、この場合も、軸受素材6Aを軸受ハウジング1内に圧入する際に外周径大部7aから受ける押圧力によって、薄肉部8bが厚肉部8aより強く塑性変形されつつ、軸受ハウジング1の非拘束部側へ膨出変形して軸受の径大部9bとなり、前記マンドレルにて円弧状に矯正された3カ所の内径小部4a(モータ等の軸Sが接面状態に係合する部分)の軌跡から外側に逃げている。
【0013】
したがって、以上の各形態の製造方法では次のような利点がある。
(1)、想像線で示す軸Sを支持するのは軸受の径小部4a,9aであり、この寸法の精度が重要となる。この精度は、本発明の如く真円形状のマンドレルを用いて圧入時にこの部分を矯正するので、精度を確実かつ容易に付与することができる。
(2)、軸受素材2A,6Aの厚肉部3a,8aに対応する内孔部分を、マンドレルで矯正して軸受の径小部4a,9aを形成しているため、軸受の径小部4a,9aの内径面は表面気孔が少なくなる。
(3)、軸受素材2A,6Aの厚肉部3a,8aに対応する部分は圧縮されるため緻密化つまり密度が高くなる。これに反し、軸受素材2A,6Aの薄肉部3b,8bに対応する部分は軸受ハウジング1の非拘束部側へ膨出変形されるため密度的にあまり変わらない。つまり、外径部の拘束されていない部分(薄肉部3b,8bに対応する部分)が軸受の径小部4a,9aから外側へ逃げた軸受の径大部4b,9bに対応し、この部分が軸受内径側への油供給側となるため油溜りや動圧溝作用的に好ましいものになる。この場合、図1の各軸受の径大部4bに対し図2の各軸受の径大部9bは非対称になるためより高い動圧が得られる。
(4)、同時に、外径部の拘束されていない部分(薄肉部3b,8bに対応する部分)と軸受ハウジング1との間の隙間5を利用し、フェルトや多孔質材料などを補油機構としてその隙間5内に配置することが可能なため、耐久性能が特に望まれる用途に対して有効となる。
(5)、この形態の軸受素材形状では、軸受ハウジング1が内外径ともに真円であればよく、特定の形状に限定されない。
【0014】
なお、上記(1)に関して更に付言する。従来、軸受内径部の非対称形状は、通常、圧入時に高精度に仕上げたマンドレルにより強制的にしごき、その形状にならわせる方式がとられており、そのマンドレルの加工精度が非常に重要となる。しかし、そのマンドレルは量産対応上、精度が求められるため摩耗しにくい硬質の材料にて製造されており、この硬い材料を高精度になおかつ非対称形状など複雑な形状に仕上げるのは非常に困難であり、コスト及び再現性の点で大きな問題があった。これに対し、この本発明構成によれば、軸受外径部を所定の形状に予め金型により成形しておき、その後は真円の通常のマンドレルを用いて軸受素材を軸受ハウジング1に圧入するだけで所定の非対称形状が得られることから、高精度に加工した複雑形状のマンドレルが不要となり、生産性が非常に向上することになる。なおかつ、その軸受外径部には、補油機構を設けることもでき、寿命延長効果も期待できる。しかも軸受素材外径部の欠落部は直線の他、曲線や複合線など多種の組み合わせも可能である。
【0015】
図3は請求項3に対応した形態であり、同(a)は軸受素材10Aの端面形状図であり、同(b)は軸受ハウジング1(内径は真円)に圧入した後の軸受10を模式的に示す端面形状図である。
この第3の形態の筒状軸受素材10Aは、外形が三角形状で、内孔形状が外周大径部11aに対応する位置を大径部11cである三角形状に形成されている。したがって、この外周は、外周大径部11a付近が三角形の頂部に対応していると共に、外周大径部11a同士を結ぶ辺部分11bが三角形の各辺部に対応している。これに対し、内周は、内周大径部11cが外周大径部11aの真下に位置していると共に、内周大径部11c同士を結ぶ辺部分(内径小部に相当)11dが辺部分11bの真下に位置している。また、両辺部分11b,11dとの間の肉厚部分12b(以下、薄肉部12bという)が外・内周大径部11a,11cとの間の肉厚部分12a(以下、厚肉部12aという)に比して薄くなっている。
【0016】
そして、作製された軸受素材10Aは、軸受ハウジング1に対し不図示のマンドレルを用いて圧入され、その圧入過程にて、塑性変形されて正規の軸受10に形成される。この塑性過程では、同(b)に矢示した如く、軸受素材10Aの内径小部である辺部分11dを前記マンドレルで拡張して円弧状に矯正すると共に、薄肉部12dを軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出させる。換言すると、軸受素材10Aを軸受ハウジング1内に圧入する際には、薄肉部12bがマンドレル及び厚肉部12a側から強い変形力を受け軸受ハウジング1の非拘束部側へ膨出変形すると同時に、前記マンドレルにて円弧状に矯正された軸受の径小部13a(モータ等の軸Sが接面状態に係合する部分)を3カ所に形成し、また軸受素材10Aの内周大径部11cが軸受の径大部13bを形成する。なお、軸受素材10Aの圧入過程において、外周大径部11aは内径縮小されるが、この場合、内周大径部11cは前記内径縮小量よりも大きな差を付けてあることから、これに対応する部分は軸受の径大部13bになるのである。
【0017】
図4は請求項4に対応し前記図3の軸受素材を変形した例であり、同(a)は図3(a)に対応し、同(b)は図3(b)に対応している。
この第4の形態の軸受素材14Aでは、図3の形態に対し、外形が三角形状で、内孔形状が外周大径部15aに対応する位置を内径大径部15cにした三角形状に形成されている点で同じくしているが、外周の三角形の各辺部に対応する部分に形成された欠落部15bを有することにより、外周大径部15aを頂部とする複数の肉厚部分15fが略放射状に設けられている。したがって、この外周は外周大径部15aと欠落部15bにて形成されている一方、内周は内周大径部15cが外周大径部15aの真下に位置していると共に、内周大径部15c同士を結ぶ辺部分(内径小部に相当)15dが欠落部15bの真下に位置している。また、欠落部15bと辺部分15dとの間の肉厚部分16b(以下、薄肉部16bという)が外・内周大径部15a,15cとの間の肉厚部分16a(以下、厚肉部16aという)に比して薄くなっている。
また、この場合も、図3と同様、軸受素材14Aを軸受ハウジング1に不図示のマンドレルを用いて圧入される過程にて、塑性変形させて正規の軸受14に形成する。すなわち、軸受素材14Aは内径小部である辺部分15dを前記マンドレルで拡張して円弧状に矯正されると共に、薄肉部16dを軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出される。この結果、薄肉部16bがマンドレル及び厚肉部16a側から強い変形力を受け軸受ハウジング1の非拘束部側へ膨出変形すると同時に、前記マンドレルにて円弧状に矯正された軸受の径小部17a(モータ等の軸Sが接面状態に係合する部分)を3カ所に形成し、また三角形の頂部に対応している内周大径部15cが軸受の径大部17bを形成する。
【0018】
以上の各構成では、段落0013に記載した(1)〜(5)の利点に加え、次のような特長がある。なお、図4の場合には、図2の形態と同様、図3の各軸受の径大部13bに対し図4の各軸受の径大部17bは非対称になるためより高い動圧が得られる。
(6)、マンドレルで形成される軸受の径小部13a,17aは、軸受素材10A,14Aの厚肉部12a,16aよりも薄くなっている内径小部である辺部分11d,15d側から膨出変形していることから、気孔が比較的粗くなり、目潰しを望まない場合に好適なものとなる。
(7)、軸Sの支持部は軸受の径小部13a,17aであり、この部分がハウジング1に対する圧入部分に対応していないことから、軸受性能的に軸受ハウジング材料の経時変化の影響を受け難いものとなる。この点を次に付言する。
従来構成において、例えば、軽量化及び低コスト化を図るため亜鉛合金ダイカスト製の軸受ハウジング等の場合、軸受圧入後のクリープによりケースが経時変化するものがあり、この経時変化に伴って軸受の内径小部もその影響(内径が経時変化に伴って大きくなる)を受け、寸法の絶対値が変化するという問題があるが、そのような問題を解消するものとして極めて有効なものとなる。換言すると、圧入部(外周大径部11a,15a)はその影響が直接出るのに対して、非圧入部(内径小部である辺部分11b,15b)はその影響が出にくいため、この非圧入部にて軸受の径小部13a,17aを形成することにより、内径寸法が経時変化しにくい軸受10,14とすることができる。これは、従来行なわれていた、圧入後の寸法が安定するまで放置するなどといった工程を省くことが可能となり、生産性を向上できる。
【0019】
なお、このような形状の軸受素材10A,14Aは、円筒状の素材を形成しておき、その素材を外径の複数方向から押圧して塑性変形することでも容易に得られる。また、これらの各形態において、筒状軸受素材10A,14Aは、外形が三角形状で、内孔形状が外周大径部11a,15aに対応する位置を内径大径部11c,15cにした三角形状に形成されている場合を説明したが、内孔形状が外周大径部11a,15aに対応する位置に溝を備えた溝付き円形にしたものでも同様に可能である。
【0020】
図5は請求項6に対応した形態であり、同(a)は軸受素材18Aの端面形状図、同(b)は軸受ハウジング1(内径は真円)に圧入した後の軸受18を模式的に示す端面形状図である。
この第5の形態の筒状軸受素材18Aは、外形が三角形状で、内孔形状が外周大径部19aに対応する位置を内周小径部19dにした三角形状に形成されている。したがって、この外周は、外周大径部19a付近が三角形の頂部に対応していると共に、外周大径部19a同士を結ぶ辺部分19bが三角形の各辺部に対応している。これに対し、内周は、内周大径部19cが辺部分19bの略中間の真下に位置していると共に、内周小径部19dが外周大径部19aの真下に位置している。また、辺部分19b及内周大径部19cの間の肉厚部分20b(以下、薄肉部20bという)が外周大径部19a及び内周径小部19dの間の肉厚部分20a(以下、厚肉部20aという)に比して薄くなっている。
【0021】
作製された軸受素材18Aは、軸受ハウジング1に対し不図示のマンドレルを用いて圧入され、その圧入過程にて、塑性変形されて正規の軸受18に形成される。この塑性過程では、同(b)に矢示した如く、軸受素材18Aの内周小径部19dを前記マンドレルで拡張して円弧状に矯正すると共に、薄肉部20dを軸心から遠ざける方向へ塑性変形して膨出させる。換言すると、軸受素材18Aを軸受ハウジング1内に圧入する際には、薄肉部20bがマンドレル側から強い変形力を受け軸受ハウジング1の拘束部側へ膨出変形すると同時に、前記マンドレルにて円弧状に矯正された軸受の径小部21a(モータ等の軸Sが接面状態に係合する部分)を3カ所に形成し、また三角形の頂部に対応している内周大径部19cが軸受の内径溝である径大部21bを形成する。
【0022】
図6は請求項7に対応し前記図5の軸受素材を変形した例であり、同(a)は図5(a)に対応し、同(b)は図5(b)に対応している。
この第6の形態の軸受素材22Aは、図5の形態に対し、外形が三角形状で、内孔形状が外周大径部23aに対応する位置を内周小径部23dである三角形状に形成されている点で同じくしているが、外周の三角形の各辺部に対応する部分に形成された欠落部23bを有することにより、外周大径部23aを頂部とする複数の肉厚部分23fが略放射状に設けられている。したがって、この外周は外周大径部23aと欠落部23bにて形成されている一方、内周は内周大径部23cが欠落部23bの真下に位置していると共に、内周小径部23dが外周大径部23aの真下に位置している。また、欠落部23b及び内周大径部23cの間の肉厚部分24b(以下、薄肉部24bという)が外周大径部23a及び内周径小部23dの間の肉厚部分24a(以下、厚肉部24aという)に比して薄くなっている。
また、この場合も、図5と同様、軸受素材22Aを軸受ハウジング1に不図示のマンドレルを用いて圧入させる過程にて、塑性変形させて正規の軸受22に形成する。この塑性過程では、同(b)に矢示した如く、軸受素材22Aの内周径小部23dを前記マンドレルで拡張して円弧状に矯正すると共に、薄肉部24dを軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出させる。換言すると、軸受素材22Aを軸受ハウジング1内に圧入する際には、薄肉部24bがマンドレル側から強い変形力を受け軸受ハウジング1の拘束部側へ膨出変形すると同時に、前記マンドレルにて円弧状に矯正された軸受の径小部25a(モータ等の軸Sが接面状態に係合する部分)を3カ所に形成し、また三角形の頂部に対応している内周大径部23cが軸受の径大部25bを形成する。
【0023】
以上の各構成では、段落0013に記載した(1)〜(5)の利点に加え、次のような特長がある。
(8)、軸Sの支持部は軸受の径小部21a,25aであり、この部分が外周大径部19a,23aと内周径小部19d,23dから押圧されて緻密化すると共に内径表面気孔も少ないものとなる。反対に、内周径大部21b,25bは密度の変化がほとんどなく、マンドレルの影響もないことから気孔量が多い状態に維持される。なお、図6の場合には、図2の形態と同様、図5の各内周径大部21bに対し図6の各内周径大部25bは非対称になるためより高い動圧が得られる。また、これらの各形態において、筒状軸受素材18A,22Aは、外形が三角形状で、内孔形状が外周大径部19a,23aに対応する位置を内周小径部19d,23dである三角形状に形成されている場合を説明したが、内孔形状が外周大径部19a,23aに対応する位置に溝を備えた溝付き円形にしたものでも同様に可能である。
【0024】
次に、本発明の第7の形態を図7を用いて説明する。この第7の形態は、以上の各形態とは異なり、軸受ハウジング内に軸受の複数個を圧入固定する場合の改良技術である。ここでは、2個の軸受27を用いる場合の例であるが、3個以上を圧入する場合も同様な構成にて可能であり、また圧入される前の軸受素材は上記した製造方法に用いられる形状が好ましいが、更に変形したものであっても差し支えない。
【0025】
図7(a)は内径溝付き軸受ユニット26を軸方向に断面した図、図7(b)はその端面側から見た図である。この軸受ユニット26は、軸受ハウジング1の内部両側に圧入された軸受27,27を有している。この各軸受27は、上記した本発明方法を適用して形成されたものであり、軸受の径小部28a及び軸受の径大部28bを共に3カ所つつ形成している点で同じくしているが、軸受ハウジング1内にあって両軸受27,27の軸受の径大部28b,28b同士の位相を所定角度ずらした構成となっている。より具体的には、この形態例において、各軸受27が内周約120度間隔に軸受の径大部28bを形成しており、軸受ハウジング1内に圧入する際、左側の軸受27に対し、右側の軸受27を図7(b)に示す如く60度だけずらした位置に圧入固定している。したがって、両軸受27,27の各軸受の径大部28bの位相が60度づつずれている。この結果、軸受ユニット26としては、上下ないしは左右の軸受27,27において、軸受の径小部28a,28a(軸Sを支持する摺動部分)及び軸受の径大部28b,28bが上側で3カ所、下側で3カ所、60度の間隔で合計6カ所に共に形成されることとなり、見掛上、6カ所の動圧発生による軸受と同じ効果がある。
【0026】
なお、従来軸受の如く単純に6カ所の動圧部を形成すると、当然、60度の範囲内で動圧を発生しなければならず、動圧は出来るだけ大きな幅があればあるほど安定して大きな動圧が得られるが、範囲が狭くなってしまい発生させる動圧に制限がでてくる。したがって、内径寸法や回転数などにより動圧発生部の個数は今までは制限されていた。しかし、そのような制約はこの本発明により解消される。つまり、前記した如く軸受ハウジング1内に圧入される軸受27を2個以上で構成し、各軸受27,27同士を所定角度ずらして異なる位相に圧入させて、個々の軸受27,27に分けて動圧部(軸受の内径溝である径大部28b,28b)を設けるようにすることにより、多数の動圧部を幅を確保しつつ容易に形成することが可能となるのである。
【0027】
したがって、内径溝付き軸受ユニット26は、多数の動圧部(軸受の径大部28b,28b)によって安定した大きな動圧を得ることができ、高速回転時でも軸振れを抑え、摩擦トルクの上昇も抑える軸受が可能となる。上下ないしは左右の軸受27,27の内径形状は、動圧発生用として軸受の径大部28b,28bの他に、上記した図1〜図6でも同様の効果が有り、しかも軸受同士を異なる形状に設定したり、軸受同士の位相角度などを任意に設定することが可能である。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したとおり、本発明によれば、従来から軸受の内径形状を複雑な形状とするためには、対応した形状でかつ高精度なマンドレル等の金型治具が必要であった点、高速回転を支持する軸受としてはますます高精度の回転支持が求められて、複雑な内径形状が必要となっている点、等に対し比較的単純形状の軸受素材で複雑な内径形状を形成可能にし、量産上にも優れた製造方法を提供できる。特に、本発明は、複雑な形状を簡単で安価に、かつ精度良く生産することができる。また、各軸受の動圧発生点をそれぞれずらすことで、1個の軸受では限界のあった動圧部(軸受の径大部もしくはグルーブ部)を分散できるため、より良好な高精度の回転支持が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1形態として示す軸受端面図及び圧入後の模式端面図である。
【図2】前記第1形態を変形した例を同様な態様で示す図である。
【図3】本発明の第3形態を図1と同様な態様で示す図である。
【図4】前記第3形態を変形した例を同様な態様で示す図である。
【図5】本発明の第5形態を図1と同様な態様で示す図である。
【図6】前記第5形態を変形した例を図5と同様な態様で示す図である。
【図7】本発明の第7形態として示す軸受ユニット構造の断面図及び端面図である。
【符号の説明】
2A,6A,10A,14A,18A,22Aは軸受素材
2,6,10,14,18,22,27は軸受
4a,9a,13a,17aは軸受の径小部
21a,25a,26a,28aは軸受の径小部
4b,9b,13b,17bは軸受の径大部(内径溝)
21b,25b,26b,28bは軸受の径大部(内径溝)
26は軸受ユニット
Sは軸
Claims (7)
- 外形が略多角形状で、内孔形状が円形である筒状軸受素材を作製し、
前記軸受素材を、サイジング用金型または軸受ハウジングにマンドレルを用いて圧入し、その際に、前記サイジング金型または軸受ハウジングによって軸心側に向かって圧縮される前記軸受素材の外周大径部に対応する内孔部を、前記マンドレルにて円弧状に矯正して軸受の径小部に形成すると共に、軸受素材の薄肉部を軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出させて軸受の内径溝である径大部を形成する、ことを特徴とする内径溝付き軸受の製造方法。 - 前記圧入前の筒状軸受素材は、前記外周大径部付近を除く外周の各辺部に欠落部を形成することにより、前記外周大径部を頂部とする複数の肉厚部分が略放射状に設けられている請求項1に記載の内径溝付き軸受の製造方法。
- 外形が略多角形状で、内孔形状が外周大径部に対応する位置を大径部にした略多角形状ないしは外周大径部に対応する位置に溝を備えた溝付き円形である筒状軸受素材を作製し、
前記筒状軸受素材を、サイジング用金型または軸受ハウジングにマンドレルを用いて圧入し、その際に、前記軸受素材の内径小部を前記マンドレルで拡張し円弧状に矯正して軸受の径小部を形成すると共に軸受素材の薄肉部を軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出させ、軸受の内径溝である径大部を形成する、ことを特徴とする内径溝付き軸受の製造方法。 - 前記圧入前の筒状軸受素材は、前記外周大径部付近を除く外周の各辺部に欠落部を形成することにより、前記外周大径部を頂部とする複数の肉厚部分が略放射状に設けられている請求項3に記載の内径溝付き軸受の製造方法。
- 前記圧入前の筒状軸受素材が、円筒状の素材を外径の複数方向から押圧して塑性変形したものである請求項3または請求項4に記載の内径溝付き軸受の製造方法。
- 外形が略多角形状で、内孔形状が外周大径部に対応する位置を径小部にした略多角形状ないしは外周大径部同士を結ぶ中間付近と対応する位置に溝を備えた溝付き円形である筒状軸受素材を作製し、
前記筒状軸受素材を、サイジング用金型または軸受ハウジングにマンドレルを用いて圧入し、その際に、前記軸受素材の内径小部を前記マンドレルで拡張し円弧状に矯正して軸受の径小部に形成すると共に、軸受素材の薄肉部を軸心から遠ざける方向へ塑性変形膨出させて軸受の内径溝である径大部を形成する、ことを特徴とする内径溝付き軸受の製造方法。 - 前記圧入前の筒状軸受素材は、前記外周大径部付近を除く外周の各辺部に欠落部を形成することにより、前記外周大径部を頂部とする複数の肉厚部分が略放射状に設けられている請求項6に記載の内径溝付き軸受の製造方法。
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