JP3567749B2 - 荷電粒子ビームの分布測定方法およびそれに関連する方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えばイオン注入装置、イオンビーム照射装置、電子線照射装置等であって、イオンビームのような荷電粒子ビームの電磁気的走査と、半導体基板のような被処理物の機械的駆動とを併用する、いわゆるハイブリッドスキャン方式の装置において、しかも被処理物のチルト角を0度よりも大きく設定可能な装置において、被処理物内に位置するZ座標位置における荷電粒子ビームの電流密度分布を測定する方法、同分布を調整する方法および好ましい走査電気波形で荷電粒子ビームを走査しながら被処理物に照射する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記のような荷電粒子ビームを用いる装置の典型例として、イオンビームを被処理物に照射してイオン注入を行うイオン注入装置があり、以下においてはイオン注入装置を例に説明する。
【0003】
ハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置の従来例の要部を図7に示す。この装置は、ホルダ6に保持された被処理物(例えば半導体基板)4を、矢印Aに示すように、三次元空間のある一軸(これをここではY軸とする)に沿って機械的に往復駆動すると共に、Y軸と実質的に直交するZ軸に沿って進行するイオンビーム2を、図示しない走査器によって、Y軸およびZ軸と実質的に直交するX方向に電磁気的に(即ち電界または磁界によって)往復走査しながら、被処理物4にイオンビーム2を照射するよう構成されている。これによって、所望のドーパント(注入不純物)を、被処理物4の所望の領域(典型的には全面)に、所望の分布(典型的には均一な分布)で存在させる(注入する)ことができる。8はホルダ駆動軸である。
【0004】
ドーパントを被処理物4の所望の領域に所望の分布で存在させるためには、被処理物4の機械的駆動およびイオンビーム2の電磁気的走査を、所望の分布を与えるような形でそれぞれ制御する必要がある。即ち、Y軸方向に所望の分布を得るためには被処理物4の駆動を、X方向に所望の分布を得るためにはイオンビーム2の走査を、それぞれ適切な形に制御する必要がある。その内でこの発明は後者のイオンビーム走査に関する。
【0005】
イオンビーム2の走査方向(X方向)に所望のドーパント分布を得るためには、周知のように、イオンビーム2が被処理物4に入射衝突する位置におけるイオンビーム2の走査方向の電流密度分布を、所望のドーパント分布と一致させれば良い。
【0006】
そのために従来は、矢印Bで示すように、イオンビーム2の走査方向に機械的に駆動されるファラデー(電流検出器)10を、被処理物4の処理位置またはその近傍に配置し、このファラデー10を上記のように駆動しながらビーム電流を測定することによって、上記位置におけるビーム電流密度分布を測定していた。またこの測定データを用いて、上記測定位置でのビーム電流密度分布が所望の形になるようにイオンビーム2の走査器を制御していた(例えば、特表昭64−500310号公報参照)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようなイオン注入装置において、被処理物4を機械的に駆動する際には、例えば図8に示す例のように、ホルダ6を傾けて、被処理物4の表面とY軸(即ちこの例ではホルダ駆動軸8)との成す角度であるチルト角θを0度よりも大きいある一定の角度に設定する場合が多い。このチルト角θは、被処理物4の表面に入射するイオンビーム2の入射角と同じである。チルト角θを0度よりも大きく設定するのは、半導体基板に対するイオンビームのチャネリング効果の防止や、被処理物表面に形成された溝状構造の側壁にもイオン注入を行うこと等のためである。
【0008】
チルト角θが大きくなると(図8は60度の場合を示す)、図8に示すように、X方向に走査されるイオンビーム2が被処理物4のY方向の下端部および上端部にそれぞれ入射する位置のZ座標位置Z1 およびZ3 は、被処理物4の中心部のZ座標位置Z2 と大きく異なる。しかもこれは、被処理物4の平面寸法が大きくなるとより顕著になる。
【0009】
電磁気的に走査されたイオンビーム2は、一般的に、進行方向がわずかに異なるイオンの集合体であるため、走査方向におけるビーム電流密度分布は、一般的にZ座標位置に依存する。
【0010】
ところが、上記従来技術では、イオンビーム2の電流密度分布の測定が可能なのは、ファラデー10が設置されているZ座標軸上の1点(例えば上記Z座標位置Z2 )のみにおいてであり、従って被処理物4の上下端部付近におけるビーム電流密度分布は、ファラデー10によって測定された分布とは異なる。その結果、被処理物4の上下端部付近において、ドーパントの分布が所望の分布と異なる、という結果を招く。
【0011】
例えば、被処理物4の全面に亘って均一なイオン注入を行うために、図9に示す例のように、Z座標位置Z2 でX方向(走査方向)のビーム電流密度分布が均一になるようにビーム走査器を制御している場合、Z座標位置Z1 付近ではビーム電流密度分布は通常は下に凸となり、Z座標位置Z3 付近では通常は上に凸となる。その結果、被処理物4の面内におけるドーパントの注入量は、例えば図10に示すように、被処理物4の上部付近ではX軸方向の中央部の注入量が多く、下部付近では中央部の注入量が少ない、という不均一な分布になる。図10中の記号は、−−−、−−、−、+、++、+++の順に後のものほど注入量が多いことを示している。
【0012】
そこでこの発明は、被処理物のチルト角を0度よりも大きく設定可能な装置において、被処理物内に位置する任意のZ座標位置における荷電粒子ビームの電流密度分布を測定する方法、同分布を所望のものに調整する方法および好ましい走査電気波形で荷電粒子ビームを走査しながら被処理物に照射する方法をそれぞれ提供することを主な目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る分布測定方法は、互いに異なる第1および第2のZ座標位置における荷電粒子ビームの走査方向の第1および第2の電流密度分布をそれぞれ測定し、この第1および第2の電流密度分布を用いて内挿法または外挿法によって、被処理物内に位置する任意のZ座標位置における荷電粒子ビームの走査方向の電流密度分布を求めることを特徴としている(請求項1)。
【0014】
この分布測定方法によれば、第1および第2のビーム電流密度分布測定という少ない測定で、被処理物内に位置する任意のZ座標位置におけるビーム電流密度分布を自由に求めることができる。従って、被処理物のチルト角や平面寸法が大きい場合でも、被処理物のY方向端部付近を含めて、被処理物の面内におけるビーム電流密度分布の状況を正確に把握することができる。
【0015】
この発明に係る分布調整方法は、上記(請求項1記載の)分布測定方法によって求めた、被処理物内に位置する任意のZ座標位置における荷電粒子ビームの電流密度分布を用いて、当該電流密度分布中において電流密度を上げたい位置での荷電粒子ビームの走査速度が相対的に小さくなるように、または電流密度を下げたい位置での荷電粒子ビームの走査速度が相対的に大きくなるように、荷電粒子ビームの走査電気波形を整形することによって、被処理物内に位置する任意のZ座標位置における荷電粒子ビームの走査方向の電流密度分布が所望のものになるように調整することを特徴としている(請求項2)。
【0016】
この分布調整方法によれば、被処理物内に位置する任意のZ座標位置におけるビーム電流密度分布を自由に調整することができる。従って、被処理物のチルト角や平面寸法が大きい場合でも、被処理物の所望の領域に所望の分布で荷電粒子ビームを照射することができる。
【0017】
この発明に係る第1のビーム照射方法は、上記(請求項2記載の)分布調整方法に従って、被処理物内に位置する複数のZ座標位置において所望の電流密度分布をそれぞれ実現する荷電粒子ビームの複数の走査電気波形を予め求めておき、荷電粒子ビーム照射時の被処理物の前記チルト角と時々刻々のY座標位置とを用いて、荷電粒子ビームが被処理物に入射する位置のZ座標位置をリアルタイムで演算し、前記予め求めておいた複数の走査電気波形の内から、そのZ座標位置が前記演算したZ座標位置に一致しているかまたは最も近い走査電気波形をリアルタイムで順次選択し、この選択した走査電気波形で前記荷電粒子ビームを走査しながら被処理物に照射することを特徴としている(請求項3)。
【0018】
この第1のビーム照射方法によれば、荷電粒子ビームが被処理物に入射衝突する位置に応じて、所望のビーム電流密度分布を実現するのに適切な走査電気波形で走査しながら荷電粒子ビームを被処理物に照射することができる。従って、被処理物のチルト角や平面寸法が大きい場合でも、被処理物の所望の領域に所望の分布で荷電粒子ビームを照射することができる。しかもこれを、有限個の走査電気波形を用いて行うことができるので、演算制御が容易になり、実用上の効果が大きい。
【0019】
この発明に係る第2のビーム照射方法は、上記(請求項2記載の)分布調整方法に従って、被処理物内に位置する複数のZ座標位置において所望の電流密度分布をそれぞれ実現する荷電粒子ビームの複数の走査電気波形を予め求めておき、荷電粒子ビーム照射時の被処理物の前記チルト角と時々刻々のY座標位置とを用いて、荷電粒子ビームが被処理物に入射する位置のZ座標位置をリアルタイムで演算し、前記予め求めておいた複数の走査電気波形間の差分を、前記演算したZ座標位置で重み付けして、前記演算した各Z座標位置に対する走査電気波形をリアルタイムで順次演算し、この演算した走査電気波形で前記荷電粒子ビームを走査しながら被処理物に照射することを特徴としている(請求項4)。
【0020】
この第2のビーム照射方法によれば、より少ない個数の走査電気波形を用いながら、上記第1のビーム照射方法と同様の効果を奏することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明に係る分布測定方法等を実施するハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置の一例を示す斜視図である。図7の従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0022】
この実施例の装置は、図示しないイオン源で発生させた前記イオンビーム2を、必要に応じて加速、質量分離等を行った後、走査器12によって電磁気的に往復走査し、更にこの例では平行化器14によって平行化した後に、機械的に往復駆動される前記ホルダ6上の被処理物4に照射するよう構成されている。被処理物4およびホルダ6の駆動方向、被処理物4に照射するイオンビーム2の進行方向および走査方向は、前述した図7の例の場合と同様であり、それぞれY軸方向、Z軸方向およびX方向である。
【0023】
この例では図示の都合上、前述したホルダ駆動軸8およびそれを駆動するホルダ駆動装置24をホルダ6の上側に図示しているけれども、これらはホルダ6の下側に設けても良い。また、例えば特公平7−54688号公報に開示されているように、揺動回転式のアームによって、ホルダ6および被処理物4を、前記Y軸に沿って機械的に往復駆動するようにしても良い。
【0024】
走査器12はこの例では一対の走査磁極であり、これには、走査制御装置34から出力される三角波状の走査電圧V(t)が、増幅器36によって増幅されて電流波形I(t)に変換された後に供給される。
【0025】
平行化器14は、この発明の本質に影響するものではなく、それを設けるか否かは任意である。
【0026】
ホルダ6に対してZ軸方向の前後近傍にそれぞれ位置するように、第1および第2の多点ファラデー20および30を設けている。両多点ファラデー20、30のZ座標位置をそれぞれZf 、Zb とする。この例では、図8も参照して、Zf <Z1 <Z2 <Z3 <Zb の関係にある。Z1 〜Z3 は前述のとおりである。各多点ファラデー20および30は、それぞれ、Y軸方向に細長いスリットを持つ複数の互いに同一仕様のファラデーカップ22、32を、イオンビーム2の走査方向であるX方向に並べたものである。各ファラデーカップ22、32のX座標位置は予め分かっている。
【0027】
各ファラデーカップ22、32は、イオンビーム2を受けてそのビーム電流を測定するものであるが、各ファラデーカップ22、32のビーム入射部分の面積は予め分かっているので、各ファラデーカップ22、32に入射するイオンビーム2のビーム電流密度を測定することもできる。従って、各多点ファラデー20および30によって、Z座標位置Zf およびZb におけるイオンビーム2のX方向のビーム電流密度分布をそれぞれ測定することができる。両多点ファラデー20、30からの測定データは、この例では走査制御装置34に供給される。
【0028】
上流側の多点ファラデー20は、この例では開口部18を有するマスク板16の前方部に取り付けられており、これらは図示しない駆動装置によって、矢印Cに示すようにビーム軌道に対して上下に駆動される。図1では、マスク板16および多点ファラデー20は上限位置にある。この状態では、走査されたイオンビーム2の一部は、マスク板16の開口部18を通過する。通過したイオンビーム2は、被処理物4に対して注入処理が行われるときは、図示のように、ホルダ6上の被処理物4に照射されるが、注入処理が行われないときは、ホルダ6はイオンビーム2を遮らない位置に退避するため、下流側の多点ファラデー30に入射する。従ってこのときは、下流側の多点ファラデー30によってイオンビーム2のX方向のビーム電流密度分布を測定することができる。
【0029】
マスク板16および多点ファラデー20が下限位置にある状態では、多点ファラデー20が走査されたイオンビーム2を遮る状態になり、この上流側の多点ファラデー20によってイオンビーム2のX方向のビーム電流密度分布を測定することができる。
【0030】
(1)この図1の装置において、走査されたイオンビーム2の電流密度分布を測定する方法を説明する。
【0031】
まず、上流側の多点ファラデー20を使用して、Z座標位置Zf におけるイオンビーム2の走査方向(X方向)のビーム電流密度分布S(X,Zf )を測定する。その測定結果の一例を単純化して図3中に示す。
【0032】
次に、下流側の多点ファラデー30を使用して、Z座標位置Zb におけるイオンビーム2のX方向のビーム電流密度分布S(X,Zb )を測定する。その測定結果の一例を単純化して図3中に示す。
【0033】
両データは、イオンビーム2が上流側の多点ファラデー20から下流側の多点ファラデー30まで進む間に、ビーム電流密度分布が図3中のS(X,Zf )の形からS(X,Zb )の形に変化したことを意味している。
【0034】
ところで、この実施例の装置では、多点ファラデー20と30との間には、イオンビーム2の軌道を変化させるような外部電磁界は実効的には存在しない。また、この区間にイオンビーム2の焦点が存在しないように設計されているので、イオンビーム2の自己電界による発散効果(空間電荷効果)も無視し得るほど小さい。従って、イオンビーム2はこの区間においてその進行方向を変えないと見なすことができる。更に、この区間で発生するイオンビーム2の生成、消滅は無視し得るほど少ない。以上のことは、この種のイオン注入装置において一般的に言えることである。
【0035】
従って、両多点ファラデー20、30間に存在する被処理物4内に位置する任意のZ座標位置Zx (Z1 ≦Zx ≦Z3 )におけるイオンビーム2のX方向のビーム電流密度分布S(X,Zx )は、次の数1に示すように、多点ファラデー20でのビーム電流密度分布S(X,Zf )と多点ファラデー30でのビーム電流密度分布S(X,Zb )とを使って表現することができる。
【0036】
【数1】
S(X,Zx )=S(X,Zf )+{S(X,Zb )−S(X,Zf )}×(Zx −Zf )/(Zb −Zf )
【0037】
従って、この数1に従って、上記Z座標位置Zx におけるビーム電流密度分布S(X,Zx )を求めることができる。この方法は、内挿法(補間法)と呼ばれるものである。このようにして求めたビーム電流密度分布S(X,Zx )の一例を単純化して図3中に示す。
【0038】
なお、多点ファラデー20および30の両方を共に被処理物4の上流側近傍または下流側近傍に設けた場合も、数1と同様の関係が成立するので、それに従って、上記Z座標位置Zx におけるビーム電流密度分布S(X,Zx )を求めることができる。この方法は、外挿法(補外法)と呼ばれるものである。
【0039】
この例では、上記のようなビーム電流密度分布の測定を、二つの多点ファラデー20、30および走査制御装置34を用いて行うことができる。
【0040】
上記分布測定方法によれば、2個所(Zf とZb )でのビーム電流密度分布測定という少ない測定で、被処理物4内に位置する任意のZ座標位置Zx におけるビーム電流密度分布を自由に求めることができる。従って、被処理物4のチルト角θや平面寸法が大きい場合でも、被処理物4のY方向端部付近を含めて、被処理物4の面内におけるビーム電流密度分布の状況を正確に把握することができる。
【0041】
(2)次に、上記のようにして求めたビーム電流密度分布S(X,Zx )が所望の分布になるように調整する方法を説明する。
【0042】
まず一例として、上記ビーム電流密度分布S(X,Zx )の、次式で定義する偏差dev(X,Zx )を求める。ここでmeanS(Zx )は、S(X,Zx )の平均値である。
【0043】
【数2】
dev(X,Zx )={S(X,Zx )−meanS(Zx )}/meanS(Zx )
【0044】
上記のようにして求めた偏差dev(X,Zx )の一例を単純化して図4Aに示す。偏差dev(X,Zx )がプラスの部分は平均よりも電流密度が大きい部分であり、マイナスの部分は小さい部分である。
【0045】
このような場合、ビーム電流密度を上げたい位置でのイオンビーム2の走査速度が相対的に小さくなるようにイオンビーム2の走査電圧V(t)の波形を整形する、具体的にはビーム電流密度を上げたい位置に相当する部分での走査電圧V(t)の傾きΔV(t)/Δtを小さくすることによって、またはビーム電流密度を下げたい位置に相当する部分の走査電圧V(t)の傾きを大きくすることによって、あるいは両者を併用することによって、上記位置Zx における偏差dev(X,Zx )を所望のものに、即ち上記位置Zx におけるビーム電流密度分布S(X,Zx )を所望のものに調整することができる。
【0046】
例えば、図4Aに示すような偏差dev(X,Zx )の場合、同図Bに示すように、偏差dev(X,Zx )がマイナスの部分での走査電圧V(t)の傾きを基本となる三角波42の傾きよりも小さくし、偏差dev(X,Zx )がプラスの部分での走査電圧V(t)の傾きを三角波42の傾きよりも大きくすることによって、偏差dev(X,Zx )をほぼ0に平坦化して、上記位置Zx におけるビーム電流密度分布S(X,Zx )をほぼ一様に(均一に)することができる。
【0047】
この例では、上記のような走査電圧V(t)の波形整形を、走査制御装置34によって行うことができる。
【0048】
波形整形前後の走査電圧V(t)、当該走査電圧の変分D(=ΔV(t)/Δt)およびビーム電流密度分布の偏差devのより具体例を図5(波形整形前)および図6(波形整形後)に示す。変分Dは、上述した走査電圧V(t)の傾きに相当する。両図の横軸は、ここでは時間tで表しているが、これは、イオンビーム2のX方向の走査位置に対応している。走査電圧V(t)の傾きが反転している時点で(即ち三角波状の頂点で)、イオンビーム2の走査方向は反転することになる。図6の変分Dの目盛りは、図5のそれを約10倍に拡大している。
【0049】
図5に示すように、完全な三角波の(即ち変分Dが一定の)走査電圧V(t)でイオンビーム2を走査したときの偏差devが図示のように±に変化している場合、図6に示すように、走査電圧V(t)の変分Dを上記偏差devを打ち消すように変化させて走査電圧V(t)の波形を完全な三角波から少し整形(この例では三角波の斜辺をわずかに下に凸状にしている)することによって、偏差devを常に0にすることができる。
【0050】
(3)次に、チルト角θを採った状態でY軸方向に往復駆動される被処理物4(図8参照)に、所望のビーム電流密度分布を実現するのに適切な走査電圧波形で走査しながらイオンビーム2を照射するビーム照射方法を説明する。
【0051】
イオン注入時のホルダ6および被処理物4のチルト角θ(これは注入中は一定である)および時々刻々のY座標位置Yx は、ホルダ駆動装置24によって検出され、走査制御装置34にリアルタイムで供給される(図1参照)。この明細書でリアルタイムとは、バッチ処理ではなく即時処理の意味である。
【0052】
走査制御装置34は、供給されるチルト角θおよびY座標位置Yx を用いて、例えば次式の演算をリアルタイムで行うことによって、イオンビーム2が被処理物4に入射する位置のZ座標位置Zx をリアルタイムで求めることができる。ここでYx は、図8を参照して、イオンビーム2の入射位置Zx がZ2 のときを0とし、それよりも被処理物4が上にある場合を正、下にある場合を負としている。
【0053】
【数3】
Zx =Z2 −Yx tanθ
【0054】
このようにして、被処理物4にイオンビーム2が入射衝突するZ座標位置Zx をリアルタイムで求めることができ、その各Z座標位置Zx において、前述した分布調整方法に従って、所望のビーム電流密度分布S(X,Zx )を実現する走査電圧波形でイオンビーム2を走査しながらそれを被処理物4に照射することによって、被処理物4のチルト角θや平面寸法が大きい場合でも、被処理物4の所望の領域(例えば全面)に所望の分布(例えば均一な分布)でイオンビーム2を照射することができる。その結果例えば、被処理物4のチルト角θや平面寸法が大きい場合でも、被処理物4の全面に亘って均一なイオン注入を行って、被処理物4の全面におけるドーパントの注入量分布を均一にすることができる。
【0055】
上記ビーム照射方法を理想的に実行するためには、Z1 ≦Zx ≦Z3 を満たす無限個数のZ座標位置Zx に対する走査電圧波形を求め、かつそれを適用する必要があるが、これは処理時間が長くなる等の理由から現実的ではない。従って、実際のイオン注入装置においては、次の▲1▼、▲2▼二つの方法のどちらかで実行するのが好ましい。
【0056】
▲1▼現実的でありかつ注入結果に悪影響を及ぼさない程度の離散間隔を持った有限複数個のZ座標位置Zx に対して、所望のビーム電流密度分布をそれぞれ実現する有限複数個の走査電圧波形を予め求めておき、それを被処理物4のY座標位置Yx に応じてリアルタイムで切り換えつつ使用する。即ち、予め求めておいた複数個の走査電圧波形の内から、そのZ座標位置Zx が、上記数3で演算したZ座標位置Zx に一致しているかまたは最も近い走査電圧波形をリアルタイムで順次選択し、この選択した走査電圧波形でイオンビーム2を走査しながら被処理物4に照射する。
【0057】
このビーム照射方法によれば、有限個の走査電圧波形で済むので、処理時間が短くなる等、演算制御が容易になり、実用上の効果が大きい。
【0058】
▲2▼被処理物4内に位置する複数の離散したZ座標位置に対して、例えば上記Z座標位置Z1 、Z2 およびZ3 に対して、所望のビーム電流密度分布をそれぞれ実現する走査電圧波形を予め求めておき、この各波形間の差分を、上記数3で演算したZ座標位置Zx で重み付けして、数3で演算した各Z座標位置Zx に対する走査電圧波形をリアルタイムで順次演算し、この演算した走査電圧波形でイオンビーム2を走査しながら被処理物4に照射する。
【0059】
このビーム照射方法によれば、使用する走査電圧波形の数は上記▲1▼の方法より多いが、実際に照射されるイオンビームの電流密度分布は上記▲1▼の方法よりも理想のものに近くなる。
【0060】
この例では、上記▲1▼、▲2▼のような走査電圧波形の演算、切り換え等を、走査制御装置34によって行うことができる。
【0061】
図2は、この発明に係る分布測定方法等を実施するハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置の他の例を示す斜視図である。図1の例との相違点を主体に説明すると、この例では、二つの多点ファラデー20、30を設ける代わりに、一つの多点ファラデー30を、ファラデー駆動軸38およびファラデー駆動装置40によって、矢印Eに示すようにZ軸に沿って前後に移動させて、前述した二つのZ座標位置Zf およびZb において、イオンビーム2の電流密度分布S(X,Zf )およびS(X,Zb )をそれぞれ測定するようにしている。
【0062】
このようにすれば、多点ファラデーが一つで済み、ファラデー駆動装置40は多点ファラデーよりも一般的に低コストであるので、多点ファラデーを二つ用いる場合に比べて、低コスト化を図ることができると共に、多点ファラデーの保守作業が一つぶん減るので、保守コストも安くなる。更に、多点ファラデー用の信号処理回路も一つで済むのでこの意味からも低コスト化を図ることができる。
【0063】
なお、以上においては、荷電粒子ビームの典型例であるイオンビームについて説明したが、上述した分布測定方法、分布調整方法およびビーム照射方法は、イオンビーム以外の荷電粒子ビーム、例えば電子ビームに対しても勿論適用することができる。
【0064】
【発明の効果】
この発明は、上記のとおり構成されているので、次のような効果を奏する。
【0065】
請求項1記載の発明によれば、第1および第2のビーム電流密度分布測定という少ない測定で、被処理物内に位置する任意のZ座標位置におけるビーム電流密度分布を自由に求めることができる。従って、被処理物のチルト角や平面寸法が大きい場合でも、被処理物のY方向端部付近を含めて、被処理物の面内におけるビーム電流密度分布の状況を正確に把握することができる。
【0066】
請求項2記載の発明によれば、被処理物内に位置する任意のZ座標位置におけるビーム電流密度分布を自由に調整することができる。従って、被処理物のチルト角や平面寸法が大きい場合でも、被処理物の所望の領域に所望の分布で荷電粒子ビームを照射することができる。
【0067】
請求項3記載の発明によれば、荷電粒子ビームが被処理物に入射衝突する位置に応じて、所望のビーム電流密度分布を実現するのに適切な走査電気波形で走査しながら荷電粒子ビームを被処理物に照射することができる。従って、被処理物のチルト角や平面寸法が大きい場合でも、被処理物の所望の領域に所望の分布で荷電粒子ビームを照射することができる。しかもこれを、有限個の走査電気波形を用いて行うことができるので、演算制御が容易になり、実用上の効果が大きい。
【0068】
請求項4記載の発明によれば、使用する走査電圧波形の数は請求項3記載の方法より多いが、実際に照射されるイオンビームの電流密度分布は請求項3記載の方法よりも理想のものに近くなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る分布測定方法等を実施するハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置の一例を示す斜視図である。
【図2】この発明に係る分布測定方法等を実施するハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置の他の例を示す斜視図である。
【図3】Z座標位置Zf 、Zb およびZx におけるビーム電流密度分布の例を単純化して示す図である。
【図4】ビーム電流密度分布の偏差(A)とそれを補正する走査電圧波形(B)の例を単純化して示す図である。
【図5】波形整形前の走査電圧、当該走査電圧の変分およびビーム電流密度分布の偏差のより具体例を示す図である。
【図6】波形整形後の走査電圧および当該走査電圧の変分のより具体例を示す図である。
【図7】従来のハイブリッドスキャン方式のイオン注入装置の被処理物周りの一例を示す斜視図である。
【図8】チルト角θを60度に設定したときの被処理物周りを示す側面図である。
【図9】従来のイオン注入装置におけるZ座標位置Z1 、Z2 およびZ3 でのビーム電流密度分布の例を単純化して示す図である。
【図10】被処理物の面内におけるドーパントの注入量分布の一例を示す図である。
【符号の説明】
2 イオンビーム(荷電粒子ビーム)
4 被処理物
6 ホルダ
12 走査器
20 多点ファラデー
24 ホルダ駆動装置
30 多点ファラデー
34 走査制御装置
Claims (4)
- 被処理物をY軸に沿って機械的に往復駆動すると共に、Y軸と実質的に直交するZ軸に沿って進行する荷電粒子ビームをY軸およびZ軸と実質的に直交するX方向に電磁気的に往復走査しながら、被処理物に荷電粒子ビームを照射する装置であって、被処理物の表面とY軸との成す角度であるチルト角を0度よりも大きく設定可能な装置において、互いに異なる第1および第2のZ座標位置における前記荷電粒子ビームの走査方向の第1および第2の電流密度分布をそれぞれ測定し、この第1および第2の電流密度分布を用いて内挿法または外挿法によって、前記被処理物内に位置する任意のZ座標位置における荷電粒子ビームの走査方向の電流密度分布を求めることを特徴とする荷電粒子ビームの分布測定方法。
- 請求項1記載の分布測定方法によって求めた、前記被処理物内に位置する任意のZ座標位置における荷電粒子ビームの電流密度分布を用いて、当該電流密度分布中において電流密度を上げたい位置での荷電粒子ビームの走査速度が相対的に小さくなるように、または電流密度を下げたい位置での荷電粒子ビームの走査速度が相対的に大きくなるように、荷電粒子ビームの走査電気波形を整形することによって、前記被処理物内に位置する任意のZ座標位置における荷電粒子ビームの走査方向の電流密度分布が所望のものになるように調整することを特徴とする荷電粒子ビームの分布調整方法。
- 請求項2記載の分布調整方法に従って、前記被処理物内に位置する複数のZ座標位置において所望の電流密度分布をそれぞれ実現する荷電粒子ビームの複数の走査電気波形を予め求めておき、荷電粒子ビーム照射時の前記被処理物の前記チルト角と時々刻々のY座標位置とを用いて、荷電粒子ビームが被処理物に入射する位置のZ座標位置をリアルタイムで演算し、前記予め求めておいた複数の走査電気波形の内から、そのZ座標位置が前記演算したZ座標位置に一致しているかまたは最も近い走査電気波形をリアルタイムで順次選択し、この選択した走査電気波形で前記荷電粒子ビームを走査しながら被処理物に照射することを特徴とするビーム照射方法。
- 請求項2記載の分布調整方法に従って、前記被処理物内に位置する複数のZ座標位置において所望の電流密度分布をそれぞれ実現する荷電粒子ビームの複数の走査電気波形を予め求めておき、荷電粒子ビーム照射時の前記被処理物の前記チルト角と時々刻々のY座標位置とを用いて、荷電粒子ビームが被処理物に入射する位置のZ座標位置をリアルタイムで演算し、前記予め求めておいた複数の走査電気波形間の差分を、前記演算したZ座標位置で重み付けして、前記演算した各Z座標位置に対する走査電気波形をリアルタイムで順次演算し、この演算した走査電気波形で前記荷電粒子ビームを走査しながら被処理物に照射することを特徴とするビーム照射方法。
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