JP3565002B2 - 液圧制御装置および車両用液圧ブレーキシステム - Google Patents

液圧制御装置および車両用液圧ブレーキシステム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は液圧制御装置と車両用液圧ブレーキシステムとに関するものであり、特に、シーティング弁と、電流の供給を受けて作動し、シーティング弁の弁子を駆動する弁子駆動装置とを備えた液圧制御装置、およびその液圧制御装置によりホイールシリンダの液圧が制御される車両用液圧ブレーキシステムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
本出願人は先に、上記シーティング弁と弁子駆動装置とを備えた液圧制御装置を提案した。未公開の出願である特願平8−17988号に記載されたものがそれである。この液圧制御装置は、▲1▼弁座と弁子とを備えて液通路の途中に設けられ、弁子が弁座に着座することにより液通路を高圧側と低圧側とに仕切るとともに、弁子が高圧側と低圧側との液圧差を弁座から離間する向きに受けるシーティング弁と、▲2▼弁子を弁座に着座する向きに付勢する弾性部材と、▲3▼電流の供給を受けて弁子に弁座から離間する向きの駆動力を付与する弁子駆動装置と、▲4▼その弁子駆動装置へ電流を供給し、弁子駆動装置を制御する制御回路とを含むように構成される。
【0003】
この液圧制御弁においては、弾性部材の弾性力に基づく付勢力が弁子を弁座に着座させる向きに作用し、弁子に作用する液圧差に基づく付勢力および弁子駆動装置により弁子に付与される付勢力が弁子を弁座から離間させる向きに作用する。弾性部材の弾性力に基づく付勢力が他の2つの付勢力の和より大きければシーティング弁は閉じ、前者が後者より小さければシーティング弁は開く。そして、弁子駆動装置により弁子に付与される付勢力は、弁子駆動装置に供給される電流の大きさによって変わるため、この電流を制御することにより、シーティング弁が閉じる際の液圧差、すなわち、シーティング弁の高圧側と低圧側との少なくとも一方の液圧を制御することができる。
【0004】
例えば、車両用液圧ブレーキシステムにおいて、ブレーキ操作部材の操作力に応じたマスタシリンダ液圧を発生させるマスタシリンダと、車輪の回転を抑制するブレーキを作動させるホイールシリンダとを接続する液通路の途中に本液圧制御装置を設ければ、マスタシリンダ液圧を所望量だけ減圧してホイールシリンダに供給することができる。つまり、弁子駆動装置への供給電流を制御することにより、マスタシリンダに比して低圧側であるホイールシリンダの液圧を制御することができるのである。また、作動液を大気圧で収容するリザーバと上記ホイールシリンダとを接続する液通路の途中に本液圧制御装置を設ければ、リザーバに比して高圧側であるホイールシリンダの液圧を制御することができる。
しかし、従来の液圧制御装置は、液圧制御の開始時における応答性が不十分であるという問題があった。従来の液圧制御装置においては、シーティング弁が閉状態にある状態からシーティング弁の上流側と下流側との液圧差を漸減させる必要が生じた場合に、制御回路が弁子駆動装置に供給する電流を0から漸増させ、その電流に基づいて弁子駆動装置により弁子に付与される付勢力が、弾性部材の弾性力から液圧差に基づく付勢力を差し引いた付勢力差より大きくなった場合にシーティング弁が開くように構成されていた。そのため、シーティング弁を開状態とする必要が生じた瞬間から電流が漸増してシーティング弁を開く大きさになるまでの時間だけ応答が遅れることになるからである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題,課題解決手段,作用および効果】
本発明は、上記のように、シーティング弁が閉状態にある状態からシーティング弁の上流側と下流側との液圧差を漸変させる必要が生じた場合における応答性を改善することを課題としてなされたものであり、本発明によれば、下記に記載の各態様の液圧制御弁装置が得られる。各態様は請求項と同様に、項ごとに項番号を付すとともに、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。各項の構成要素の組合わせの可能性を明示するためである。
(1)弁座と弁子とを備えて液通路の途中に設けられ、弁子が弁座に着座することにより液通路を高圧側と低圧側とに仕切るとともに、弁子が高圧側と低圧側との液圧差に基づく付勢力を弁座から離間する向きに受けるシーティング弁と、
前記弁子を前記弁座に着座する向きに付勢する弾性部材と、
電流の供給を受けて前記弁子に前記弁座から離間する向きの駆動力を付与する弁子駆動装置と、
その弁子駆動装置へ電流を供給するとともに、その電流の大きさを制御することにより前記シーティング弁の高圧側と低圧側との少なくとも一方の液圧を制御する制御回路と
を含む液圧制御装置において、
前記制御回路に、
前記シーティング弁が閉状態にある状態から、前記弁子駆動装置への電流をステップ的に増大させ、かつ、そのステップ的に増大させる電流の量であるステップ量を前記液圧差が大きいほど小さくするステップ制御手段と、
そのステップ制御手段によるステップ的増大に続いて前記液圧差を漸減させるべく前記弁子駆動装置への電流を漸増させる漸増制御手段と
を設けたことを特徴とする液圧制御装置(請求項1)。
この構成の液圧制御装置においては、シーティング弁が閉状態にある状態からシーティング弁の上流側と下流側との液圧差を漸減させる必要が生じ、制御回路が弁子駆動装置への電流を漸増させるに際して、まず、ステップ制御手段が、電流をステップ的に増大させ、かつ、そのステップ的に増大させる電流の量を上記液圧差が大きいほど小さくする。そのステップ的に増大に続いて、漸増制御手段が、上流側と下流側との液圧差を漸減させるべく弁子駆動装置への電流を漸増させる。
ーティング弁を開くのに必要な電流は、液圧差が大きいほど小さくて済むため、ステップ制御手段を、弁子に作用する液圧差に基づく付勢力が大きいほどステップ量を小さくするものとすれば、液圧差の大小の影響を小さくすることができる。ステップ制御手段を、弁子に作用する液圧差に基づく付勢力の大小にかかわらず、常に丁度シーティング弁を開かせる大きさにステップ量を決定するものとすれば理想的であるが、それは不可欠ではない。例えば、ステップ量が、シーティング弁を丁度開く大きさより大きい場合には、シーティング弁の開き量が過大となり、液圧の変化勾配が過大にはなるものの、シーティング弁を開く必要が生じた瞬間にシーティング弁が開かれ、応答遅れの発生は回避できるのである。逆に、ステップ量がシーティング弁を開くには足りない大きさであっても、その後電流が漸増させられれば、電流が0から漸増させられる場合に比較して短時間でシーティング弁が開かれ、応答遅れが減少させられる。
(2)前記シーティング弁の前後の液圧差を検出する液圧差検出装置と、
その液圧差検出装置により検出された液圧差に基づいて前記ステップ量を決定するステップ量決定手段と
を含む (1)項に記載の液圧制御装置(請求項2)。
このように構成すれば、ステップ量を、丁度シーティング弁を開かせる大きさに決定することが可能となる。
(3)前記液圧差検出装置と前記ステップ量決定手段との少なくとも一方に、液圧差の検出とステップ量の決定との少なくとも一方を繰り返させ、得られた結果を更新する更新手段を含む (2)項に記載の液圧制御装置。
更新手段によりステップ量が繰り返し更新されていれば、シーティング弁を開く必要が生じた瞬間に現に記憶されているステップ量が丁度シーティング弁を開く大きさになっていることになり、そのステップ量を使用して直ちにシーティング弁を開かせることができる。
(4)前記制御回路が、前記シーティング弁が開いている状態において、前記弁子駆動装置に前記液圧差の減少に伴って増大する電流を供給する液圧差対応電流制御手段を有する (1)ないし (3)項のいずれか1つに記載の液圧制御装置。
この構成によれば、一旦開状態にされたシーティング弁が自身の前後の液圧差の減少によって閉じてしまうことを回避することができる。この態様の液圧制御装置は、シーティング弁が開くことによってそれの前後の液圧の少なくとも一方が変化し、液圧差が減少する液圧回路の液圧制御に適している。例えば、本液圧制御装置が車両用液圧ブレーキシステムのホイールシリンダの液圧の制御に使用される場合には、シーティング弁が開かれてホイールシリンダに作動液が流入し、あるいはホイールシリンダから作動液が流出すれば、ホイールシリンダ液圧が必然的に変化し、シーティング弁前後の液圧差が減少するため、液圧差対応電流制御手段を有する制御回路が適しているのである。
(5)前記ステップ制御手段が、前記ステップ量を、前記シーティング弁の使用量が大きい場合に小さい場合に比較して小さくする使用量対応ステップ量減少手段を含む (1)ないし (4)項のいずれか1つに記載の液圧制御装置(請求項3)。
(1)ないし (4)項のいずれか1つに記載の液圧制御装置において、シーティング弁の使用量が増大するにつれて適正ステップ量(シーティング弁を閉状態から開状態にする際に電流をステップ的に増大させるべき量)が減少することが判明した。その原因は、弁子を弁座に着座する向きに付勢する弾性部材のへたりではないかと推測される。この推測が妥当であるか否かはさらに検討の必要があるが、ステップ制御手段に、シーティング弁の使用量が増大するにつれてステップ量を減少させる使用量対応ステップ量減少手段を設けることによって、液圧制御装置の液圧制御精度を向上させ得ることが、実験によって確認されている。ここにおいて、シーティング弁の使用量は、使用開始時点から現時点までの経過時間によって表すことも、次項に記載のようにシーティング弁の使用開始時点から現時点までの作動量の総計によって表すことも可能である。そして、作動量の総計は、シーティング弁の総作動回数や、弁子駆動装置への通電時間の総計等によって表すことができる。ステップ量は、シーティング弁の使用量の増大につれて連続的にあるいは多段階に減少させることが望ましいが、最も単純には、シーティング弁の使用量が設定使用量に達した時に1回、設定量だけ減少させるのみでも相応の効果を得ることができる。
(6)前記シーティング弁の使用量が、そのシーティング弁の使用開始時点から現時点までの作動量の総計である (5)項に記載の液圧制御装置。
(7)前記作動量の総計が前記シーティング弁の作動回数の総計である (6)項に記載の液圧制御装置(請求項4)。
(8)前記作動量の総計が前記弁子駆動装置への通電時間の総計である (6)項に記載の液圧制御装置(請求項5)。
(9)使用量対応ステップ量減少手段が、前記使用量の増大につれて前記ステップ量を小さくする手段を含む (5)ないし (8)項のいずれか1つに記載の液圧制御装置。
(10)前記使用量対応ステップ量減少手段が、前記シーティング弁の現時点までの使用量を記憶する使用量記憶手段を含む (5)ないし (9)項のいずれか1つに記載の液圧制御装置。
本発明によれば、さらに、下記に記載の各態様の車両用液圧ブレーキシステムが得られる。各態様は請求項と同様の形式で記載することは上記液圧制御弁装置の場合と同じである。
(11)液圧源と、
車輪の回転を抑制するブレーキを作動させるホイールシリンダと、
弁座と弁子とを備えて前記液圧源とホイールシリンダとを接続する液通路の途中に設けられ、弁子が弁座に着座することにより液通路を遮断するとともに、弁子が液圧源側とホイールシリンダ側との液圧差に基づく付勢力を弁座から離間する向きに受けるシーティング弁と、
前記弁子を前記弁座に着座する向きに付勢する弾性部材と、
電流の供給を受けて前記弁子に前記弁座から離間する向きの駆動力を付与する弁子駆動装置と、
その弁子駆動装置へ電流を供給するとともに、その電流の大きさを制御することにより前記ホイールシリンダの液圧を制御する制御回路と
を含むブレーキシステムにおいて、
前記制御回路に、
前記シーティング弁が閉状態にある状態から、前記弁子駆動装置への電流をステップ的に増大させ、かつ、そのステップ的に増大させる電流の量であるステップ量を前記液圧差が大きいほど小さくするとともに、前記ホイールシリンダの液圧を単位量増大させるのに必要な作動液量が多い場合は少ない場合より大きくするステップ制御手段と、
そのステップ制御手段によるステップ的増大に続いて前記液圧差を漸減させるべく前記弁子駆動装置への電流を漸増させる漸増制御手段と
を設けたことを特徴とするブレーキシステム(請求項6)。
本態様についても前記 (1)項に関する説明がそのまま当てはまる上、以下のような特有の効果が得られる。
ホイールシリンダ液圧を大気圧から増大させる際、すなわち制動開始直後には、ホイールシリンダの液圧上昇に遅れが生じ易い。制動開始直後にはホイールシリンダの液圧を単位量増大させるのに必要な作動液量が多く、シーティング弁とホイールシリンダとを接続している液通路内の作動液流量が大きいために、シーティング弁出口近傍の液圧とホイールシリンダの液圧との間に大きな差が生じるからである。また、作動液流量が多い制動開始直後におけるシーティング弁の流路面積が、作動液流量が多くない通常の増圧時と同じである場合には、シーティング弁の出力液圧を目標液圧に精度よく追従させることができない場合もある。 それに対し、本態様におけるように、制動初期にはシーティング弁を閉状態から開状態にする際における電流のステップ的変化量を特別に大きくされれば、ホイールシリンダに供給される作動液流量が大きくなり、ホイールシリンダの液圧上昇の遅れが防止され、あるいは軽減される。あるいは、作動液流量が多い状態とそれ以外の作動液流量が少ない状態との両方において、シーティング弁の出力液圧を目標液圧に精度よく追従させることが可能となる。
(12)リザーバを備え、そのリザーバと前記ホイールシリンダとを接続する液通路の途中に、前記シーティング弁,弾性部材,弁子駆動回路および制御回路を含む増圧用液圧制御装置と同じ構成の減圧用液圧制御装置が、その減圧用液圧制御装置のシーティング弁がそれの弁子が前記ホイールシリンダ側と前記リザーバ側との液圧差を弁子が弁座から離間する向きに受ける向きで設けられた(11)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
本態様においては、ホイールシリンダの液圧が増圧用液圧制御装置により増圧され、減圧用液圧制御装置により減圧される。同じ構造の液圧制御装置により増圧と減圧とを実現し得るのであり、増圧用液圧制御装置と減圧用液圧制御装置との殆どすべての部品を共用し得、あるいは液圧制御のロジックが単純になる等により装置コストの低減を図り得る。
なお、増圧用液圧制御装置と減圧用液圧制御装置との両方に (1)項の発明を適用することができる。また、液圧制御装置に関して前述した (2)ないし(10)項の構成は、上記(11)項または(12)項に記載の車両用液圧ブレーキシステムにも採用可能である。
(13)前記リザーバが、前記シーティング弁を経て前記ホイールシリンダから一制動中に流出する作動液を収容し、その制動の終了後に前記液圧源へ還流させるものであるとともに、前記一制動に対して収容し得る作動液の最大量であるリザーバ容量が、前記ホイールシリンダの非制動状態から制動状態までに収容し得る作動液の最大量であるホイールシリンダ容量より小さい(12)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
このように、リザーバを、ホイールシリンダから一制動中に流出する作動液を収容し、その制動の終了後に液圧源へ還流させるものとし、かつ、リザーバ容量をホイールシリンダ容量より小さくしておけば、万一、制動中にシーティング弁,弁駆動装置,制御回路等の故障,誤作動等が発生し、ホイールシリンダからリザーバへの作動液の流出が無制限に許容される状態となっても、車両は支障なく制動される。シーティング弁によりホイールシリンダからの作動液の流出が無制限に許容される事態が生じた場合、リザーバが作動液を収容可能な間は作動液が流出する。しかし、総流出量がリザーバ容量に相当する大きさとなれば、もはや作動液はリザーバに流入できず、したがってホイールシリンダから流出できない。リザーバ容量がホイールシリンダ容量より小さいため、制御回路等の誤作動等によってホイールシリンダから作動液が流出させられた際、たとえ液圧源から作動液が補給されなくても、ホイールシリンダ内には作動液が残存し、ある程度の制動力が確保される。 また、液圧源から作動液が補給される場合には、比較的少ない補給によって、ブレーキに十分な大きさの制動力を発生させることができる。液圧源が、ブレーキ操作部材の操作力に応じたマスタシリンダ液圧を発生させる通常のマスタシリンダである場合には、補給される作動液量分だけブレーキ操作部材の操作ストロークが大きくなるとともに、ブレーキの効き遅れが生じるが、これら操作ストロークの増大および効き遅れが小さくて済むのである。また、液圧源が動力液圧源である場合には、上記作動液の補給に伴う操作ストローク増大の問題は生じず、ブレーキの効き遅れの問題が生じるが、この効き遅れが小さくて済む効果が得られる。以上によって、車両用液圧ブレーキシステムの信頼性が向上する。
換言すれば、本態様の車両用液圧ブレーキシステムにおいては、リザーバ内の作動液量が最小量でかつブレーキが効いている状態から減圧用液圧制御装置のシーティング弁が開かれて、ホイールシリンダからリザーバへ作動液が、リザーバが完全に満たされるまで流出させられても、ブレーキが未だ効いている事態を生じさせ得る大きさにリザーバの容量が選定されることになる。
また、リザーバの容量が、ブレーキの効きは互いに異なるが共に実質的に効いている2つの状態においてそれぞれホイールシリンダに収容され得る作動液の2つの量の差より小さく選定されるとも言い得る。上記2つの状態が、その液圧ブレーキシステムにおいて予定されている最大液圧がホイールシリンダに供給された状態と、ブレーキが実質的に効くと言い得る範囲で最も低い液圧がホイールシリンダに供給された状態との2つである場合に、それら2つの状態におけるホイールシリンダ内の作動液の量の差が最大になる。リザーバの容量がこの最大の差より小さく選定されれば、本態様の要件が満たされることになるが、それは不可欠のことではなく、この最大の差より小さい範囲内において任意の大きさにリザーバの容量を選定し得る。リザーバの容量を小さく選定するほど、減圧用液圧制御弁装置の誤作動等によりホイールシリンダの作動液がリザーバへ流出した場合のブレーキの効きの低下を小さくし得るが、一制動中において正常にホイールシリンダから流出させられる作動液は収容し得る容量であることが必要である。リザーバの容量は、上記2つの状態における差の最大値と、一制動中において正常にホイールシリンダから流出させられる作動液量とをそれぞれ上限および下限とする範囲から選定されるべきであることになる。
(14)前記リザーバが、前記シーティング弁を経て前記ホイールシリンダから一制動中に流出する作動液を収容し、その制動の終了後に前記液圧源へ還流させるものであるとともに、当該車両用液圧ブレーキシステムが、前記一制動中に前記ホイールシリンダから前記シーティング弁を経て前記リザーバへ流出させられた作動液の総量が、前記リザーバが前記一制動に対して収容し得る作動液の最大量であるリザーバ容量を超えた場合に、作動液漏れが生じたとする液漏れ検出手段を含む(12)または(13)項に記載の車両用液圧ブレーキシステム。
このように、一制動中におけるホイールシリンダからの作動液の総流出量がリザーバ容量を超えた場合に液漏れが生じたとする液漏れ検出手段を付加すれば、万一液漏れが生じた場合に、それを早期に検出することができる。リザーバ容量が小さいほど早期に液漏れを検出することができるのであり、その点、本態様においてはリザーバ容量がホイールシリンダ容量より小さくされているため、特に早期に液漏れを検出することができる。
液漏れ検出手段により液漏れが検出された場合に増圧用および減圧用の両液圧制御装置作動を共に禁止する液圧制御全面禁止手段や、減圧用の液圧制御装置の作動を禁止する減圧禁止手段を設ければ、作動液の漏れを少なく抑えることができる。液圧源が、通常のマスタシリンダである場合にはブレーキ操作部材の操作ストロークの増大を小さく抑えることができ、動力液圧源である場合には、多量の作動液が漏れてしまうことを防止することができるのであり、それによって、車両用液圧ブレーキシステムの信頼性が向上する。
(15)前記液圧源が、ブレーキ操作部材の操作状態に応じた大きさのマスタシリンダ液圧を発生させるマスタシリンダであり、かつ、前記弾性部材の弾性力が、前記弁駆動装置に電流が供給されない状態において前記シーティング弁を丁度開く液圧差が、前記マスタシリンダ液圧の最大値である最大マスタシリンダ液圧より小さくなる大きさに設定されている(11)ないし(14)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
このように構成すれば、万一、制御回路等の故障,誤動作等により、弁子駆動装置に電流が供給されない事態が発生しても、ブレーキを作動させることができる。シーティング弁は、弁子駆動装置に電流が供給されない状態においては、自身の前後の液圧差に基づく付勢力が弾性部材の弾性力に打ち勝つに至れば開き、マスタシリンダ液圧を設定液圧差分だけ減圧してホイールシリンダに供給する減圧弁として機能するため、マスタシリンダに、その減圧量を超えるマスタシリンダ液圧を発生させれば、シーティング弁が開き、マスタシリンダからホイールシリンダへの作動液の流入が許容され、ブレーキが作動させられるのである。
(16)前記リザーバが、付勢手段により容積が減少する向きに付勢された液収容室を備え、前記制動終了後には前記付勢手段の付勢力に基づいて前記液収容室内の作動液を排出する(12)ないし(15)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
リザーバをこのように構成すれば、制動終了時にリザーバが接続されている液通路の液圧が大気圧近くまで低下すれば、リザーバ内の作動液が自然に排出される。液収容室は、例えばハウジングとそのハウジング内に液密かつ摺動可能に配設されたピストンとの間に形成可能であり、その場合には前記付勢手段としては、ピストンを液収容室の容積を減少させる向きに付勢する圧縮コイルスプリング等の弾性部材が好適である。液収容室はまた、ハウジングとその内部に配設された膨張部材との間に形成することもできる。膨張部材は、例えばゴム製の袋に気体が封入されたものとすることができ、この場合には、ゴム製の袋に封入された気体が前記付勢手段として機能する。
(17)前記液圧源が、副リザーバとしての前記リザーバとは別の、作動液を大気圧で収容する主リザーバを備え、当該車両用液圧ブレーキシステムが、前記ホイールシリンダと前記主リザーバとを、前記シーティング弁をバイパスするとともに前記液圧源とシーティング弁との間の液通路を経て接続するバイパス通路と、そのバイパス通路の途中にホイールシリンダから主リザーバに向かう向きの作動液の流れは許容するが逆向きの流れは阻止する向きに配設された逆止弁とを含む(12)ないし(16)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
このように、逆止弁を有するバイパス通路を設ければ、液圧源とシーティング弁との間の液通路の液圧がホイールシリンダ液圧より低くなった際、シーティング弁の状態とは無関係に作動液がホイールシリンダ側から主リザーバ側へ流れることが許容される。
(18)前記増圧用液圧制御装置のシーティング弁と並列に逆止弁が前記ホイールシリンダから前記液圧源に向かう向きの作動液の流れは許容するが逆向きの流れは阻止する向きに設けられ、前記減圧用液圧制御装置のシーティング弁と並列に逆止弁が前記リザーバから前記ホイールシリンダに向かう向きの作動液の流れは許容するが逆向きの流れは阻止する逆止弁が設けられた(12)ないし(17)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
本項の構成と前記(17)項の構成とを合わせて採用すれば、制動終了時に副リザーバの作動液がバイパス通路を利用して主リザーバに還流させることが可能となる。
(19)前記弁子駆動装置が、前記シーティング弁の弁子と一体的に移動する被電磁付勢体と、前記被電磁付勢体に前記弾性部材の付勢力の向きとは逆向きの電磁付勢力を付与するコイルとを含む(11)ないし(18)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
(20)当該車両用液圧ブレーキシステムが、車両駆動源としての電動モータに回生制動を行わせる回生制動システムを備えた車両に設けられ、前記液圧源が、ブレーキ操作部材の操作力に応じたマスタシリンダ液圧を発生させるマスタシリンダであり、かつ、前記制御回路が、前記マスタシリンダ液圧を前記回生制動システムの回生制動力に相当する液圧分だけ減圧させるように前記弁子駆動装置を制御する回生協調制御手段を含む(11)ないし(19)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
(21)前記増圧用液圧制御装置および前記減圧用液圧制御装置の前記制御回路を除く部分から成る第一液圧制御弁装置と前記ホイールシリンダとの間に設けられた第二液圧制御弁装置と、その第二液圧制御弁装置を制御することにより、制動時の車輪の過大なスリップを防止するアンチロック制御、加速時の車輪の過大なスリップを防止する加速スリップ制御、車両の走行安定性を向上させる走行安定性制御、および前記ブレーキ操作部材の操作状態に正確に対応した減速度を車両に生じさせる制動効果制御の少なくとも1つ行う第二液圧制御弁装置制御回路を含む(12)ないし(20)項のいずれか1つに記載の車両用液圧ブレーキシステム。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のいくつかの実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態である液圧制御装置を含む車両用液圧ブレーキシステムの構成を示す系統図である。本液圧ブレーキシステム10は、駆動源として内燃機関と電動モータとを共に含むハイブリッド車両に用いられるものである。本実施形態のハイブリッド車両の制動は、本液圧ブレーキシステム10による制動と、図示しない回生制動システムによる回生制動とによって行われる。回生制動システムは、上記電動モータを発電機として機能させ、それによって発生させられた電気エネルギを蓄電池に蓄積することによって、車両を制動するシステムである。電動モータの回転軸が外部からの力によって強制的に回転させられる際に、電動モータに発生する起電力(単に、回生起電力と称する)により蓄電池を充電すれば、電動モータが上記外部の力に対して負荷となり、制動力が発生する。蓄電池の充電は車両の制動が必要なときのみ行なわれる。制動中の車両の運動エネルギの一部が電気エネルギに変換され、蓄電池内に蓄えられるのであり、このことによって車両を制動し得るのみならず、蓄電池内の電気的エネルギの消費を低減させることができ、無充電で走行できる距離を延ばすことができる。
【0007】
回生による制動力(回生制動力と称する)の大きさは、常に一定であるわけではない。例えば、電動モータの回転軸の回転速度が大きいほど、回生制動力も大きくなる傾向があり、車両の走行速度が極めて小さい場合は、回生制動力はほとんど0になる。また、蓄電池の容量が完全に満たされている場合に、過充電による蓄電池の劣化を防止するためにエネルギの回生を禁止する制御が行なわれることが多く、この場合、回生が禁止されている期間中は回生制動力は0になる。一方、車両の制動力の大きさは、回生制動力の大きさとは直接関係のない操縦者の意図に応じた大きさに制御される必要がある。したがって、液圧ブレーキシステム10によって発生させるべき液圧制動力の大きさは、操縦者の意図に応じた所要制動力から回生制動力を減じた大きさであることになる。このような液圧ブレーキシステム10の制御を回生制動協調制御と称する。所要制動力の大きさは、ブレーキ操作部材の操作力,操作ストローク,操作時間等ブレーキ操作状況から知ることができる。また、回生制動力の大きさに関する情報は回生制動システムから得ることができる。
【0008】
図5に操縦者の意図に応じた所要制動力と、回生制動システムによる回生制動力と、液圧ブレーキシステムによる液圧制動力との関係の一例を概念的に示す。図から明らかなように、ブレーキ操作状況から取得される所要制動力が増大するにつれて、液圧制動力および回生制動力が増大させられる。図5においては、回生制動力が液圧制動力よりやや遅れて増大を開始することとされているが、これは不可欠なことではない。回生制動力が車速に応じて決まる最大値に達した後は、所要制動力の増大は液圧制動力の増大により実現される。本実施形態においては、回生制動システムが回生制動力をできる限り有効に利用するように構成されているのである。制動が行われれば車速が漸減するため、回生制動力も漸減するのであるが、図5は、単純化のために回生制動力が一定であるとして描かれている。所要制動力が減少すれば、まず、液圧制動力が減少させられる。その液圧制動力の減少が不可能になった場合(その理由は後に説明する)には、回生制動力が減少させられ、回生制動力が0になった後は液圧制動力が所要制動力とほぼ等しい大きさを保って減少する。この理由も後述する。
【0009】
液圧ブレーキシステム10は、マスタシリンダ12と、ポンプ14と、そのポンプ14から供給される高圧の作動液を蓄積するアキュムレータ16とを含んでいる。マスタシリンダ12およびポンプ14には、マスタリザーバ18から作動液が供給される。マスタシリンダ12は、後述する液圧供給部Fおよび液圧供給部Rを含んでいる。なお、アキュムレータ16には、ポンプ14の作動によって、設定圧力範囲(本実施形態においては、17MPa〜18MPa≒174〜184kgf/cm の範囲)の作動液が常時蓄えられるようにされている。アキュムレータ16には図示しない圧力スイッチが取り付けられており、この圧力スイッチのヒステリシスを有するON,OFFに応じてポンプ14が起動,停止させられるようになっているのであり、ポンプ14およびアキュムレータ16によって、ほぼ一定の液圧を供給する定液圧源20が構成されている。
【0010】
マスタシリンダ12の液圧供給部Fは、液圧供給部Fから延びて、途中二股に分岐する液通路22によって、左前輪のホイールシリンダ24(FLシリンダ24と略称する)と、右前輪のホイールシリンダ26(FRシリンダ26と略称する)とに接続されている。液通路22の二股に分岐した部分の、FLシリンダ24に接続される部分には、常開の電磁開閉弁30が、また、FRシリンダ26に接続される部分には、常開の電磁開閉弁32がそれぞれ設けられている。液通路22の液圧供給部F側の(二股に分岐していない)部分には、液圧センサ34が接続されている。この液圧センサ34によって測定される液圧をマスタシリンダ液圧Pmcと称する。液通路22の電磁開閉弁30とFLシリンダ24との間の部分は液通路36によって、また、電磁開閉弁32とFRシリンダ26との間の部分は液通路38によって、それぞれ液通路40に接続されている。また、液通路36,38の途中には、それぞれ常閉の電磁開閉弁42,44が取り付けられている。
【0011】
一方、液圧供給部Rは、液圧供給部Rから延びて途中二股に分岐する液通路48によって、左後輪のホイールシリンダ50(RLシリンダ50と略称する)と、右後輪のホイールシリンダ52(RRシリンダ52と略称する)とに接続されている。液通路48の液圧供給部R側の(二股に分岐していない)部分の途中には、液圧供給部R側から順に、リニアバルブ装置56,常開の電磁開閉弁58およびプロポーショニングバルブ60(Pバルブ60と略称する)がそれぞれ設けられている。液通路48の、マスタシリンダ12とリニアバルブ装置56との間の部分には液圧センサ62が、また、リニアバルブ装置56と電磁開閉弁58との間の部分には液圧センサ64が接続されている。液圧センサ62によって取得される液圧を入力液圧Pin,液圧センサ64によって取得される液圧を出力液圧Pout1と称する。リニアバルブ装置56の両側の液圧が測定できるようになっているのである。液圧センサ34,62および64の測定結果(マスタシリンダ液圧Pmc,入力液圧Pinおよび出力液圧Pout1)は、コントローラ66により取得される。後述するように、コントローラ66は、液圧センサ64の測定結果に基づいて、リニアバルブ装置56の状態を制御する。液通路48の、電磁開閉弁58とPバルブ60との間の部分と液通路40とが液通路70により接続されており、その液通路70の途中に常閉の電磁開閉弁72が設けられている。
【0012】
液通路48のリニアバルブ装置56と電磁開閉弁58との間の部分には、液通路76が接続されている。液通路76は、液通路48から延びて途中二股に分岐しており、分岐していない部分の途中には、常閉の電磁開閉弁80が設けられている。また、液通路76の、二つに分岐した部分の一方は、液通路36,22を介してFLシリンダ24に接続されるとともに、途中に常開の電磁開閉弁84が設けられている。また、液通路76の二つに分岐した部分の他方は、液通路38,22を介してFRシリンダ26に接続されるとともに、途中に常開の電磁開閉弁86が設けられている。以上に説明した各電磁開閉弁30,32,42,44,58,72,80,84および86は、コントローラ66によって制御される。液通路76の、電磁開閉弁80と電磁開閉弁84および電磁開閉弁86との間の部分には、液圧センサ88が接続されている。液圧センサ88による測定結果を、出力液圧Pout2と称する。出力液圧Pout2は、コントローラ66によって取得され、液圧センサ64の出力が正常か否かの監視に使用される。電磁開閉弁80が開状態にある場合に、液圧センサ64により検出された出力液圧Pout1の値が出力液圧Pout2の値から離れている場合に液圧センサ64の出力が異常である可能性があると判定されるのである。これは、電磁開閉弁80が開状態にあれば、液圧センサ64と液圧センサ88とが互いに連通した状態となり、液圧センサ64,88が共に正常であれば、出力液圧Pout1と出力液圧Pout2とがほぼ同じになるはずであるからである。本実施形態においては、この判定結果に基づいて操縦者に液圧センサ異常が報知されるが、この報知と共に、あるいは報知に代えて、コントローラ66によるリニアバルブ装置の制御が禁止されるようにしてもよい。
【0013】
常開の電磁開閉弁58,84および86が設けられている液通路(液通路48および液通路76)には、それらの電磁開閉弁をバイパスするバイパス液通路がそれぞれ設けられており、各々のバイパス液通路の途中には、逆止弁90,92および94がそれぞれ設けられている。これらの逆止弁90,92および94は、対応するホイールシリンダからマスタシリンダ12に向かう作動液の流れは許容するが、その逆向きの流れは阻止する向きに取り付けられている。液圧供給部Fは、マスタリザーバ18から作動液の供給を受けるが、液圧供給部Rは、マスタリザーバ18に加えて、定液圧源20からも作動液の供給を受けられるようになっている。
【0014】
図2は、マスタシリンダ12の内部構造を概略的に示す断面図である。マスタシリンダ12は、そのケーシングに設けられた摺動穴100,その摺動穴100に摺動可能かつ液密に嵌合されたプランジャ102およびスプール104を含んでいる。また、プランジャ102とスプール104との間にはスプリング108が、スプール104と摺動穴100の底面110との間には、スプリング112が設けられている。なお、スプリング108とスプリング112とは同一のものである。摺動穴100の、プランジャ102とスプール104との間の空間は、図2に示した状態でマスタリザーバ18と連通しており、マスタリザーバ18から供給される作動液で満たされている。この空間を、第一液圧室116と称する。第一液圧室116は、プランジャ102の摺動穴100内における位置に係わらず、常に液通路22(図1参照)と連通するようになっている。
【0015】
スプール104の縮径部と摺動穴100とによって形成されるリング状の空間も、図2に示した状態においてマスタリザーバ18と連通しており、作動液で満たされている。この空間を第二液圧室118と称する。第二液圧室118は、スプール104の摺動穴100内における位置に係わらず、常に液通路48(図1参照)と連通するようになっている。また、摺動穴100の底面110と、スプール104との間の空間は、液通路120によって液通路48と連通しており、この空間も作動液で満たされるようになっている。この空間を、第三液圧室122と称する。第一液圧室116,第二液圧室118および第三液圧室122における作動液の液圧を、それぞれ、第一液圧P1,第二液圧P2および第三液圧P3と称する。第二液圧P2と第三液圧P3とは、上述の液通路120の存在によって同じ値となる。なお、前記液圧供給部Fは、上記マスタシリンダ12の構成のうち、第一液圧室116に液圧P1を発生させる部分であり、液圧供給部Rは、第二液圧室118に第二液圧P2を、また、第三液圧室122に第三液圧P3を発生させる部分である。
【0016】
ブレーキペダル126(図1参照)が操縦者によって踏み込まれると、その踏力は図示しないバキュームブースタにより倍力され、プランジャ102に図2に示す矢印の向きに作用する。この倍力された踏力は、プランジャ102を上記矢印の向きに移動させるとともにスプリング108を縮め、その弾性力によってスプール104を上記矢印の向きに移動させ、スプリング112を縮める。プランジャ102の移動により、第一液圧室116がマスタリザーバ18から遮断されると、第一液圧P1が大気圧から上昇を始める。第一液圧P1は、スプール104の第一液圧室116側の端面130に作用し、スプール104を、上記倍力された踏力と同じ向きに付勢する。この付勢力(F1と表わす)の大きさは、スプール104の端面130の面積をA1で表せば、P1・A1である。スプール104がスプリング108の弾性力と付勢力F1とによって移動させられて、第二液圧室118がスプール104によってマスタリザーバ18から遮断され、スプール104がさらに移動させられると、第二液圧P2および第三液圧P3が上昇する。スプール104がさらに移動すれば、第二液圧室118が定液圧源20に連通させられ、定液圧源20から第一液圧P1よりも高い液圧の作動液が第二液圧室118および第三液圧室122に供給されて、それによっても第二液圧P2および第三液圧P3が上昇する。
【0017】
この時期において、スプール104を摺動穴100内において摺動させようとする力は、上記付勢力F1,スプリング108および112の弾性力(これらを、それぞれ、弾性力f1および弾性力f3と表す)および第三液圧室122の液圧P3による付勢力(F3と表す)である。第二液圧P2は、スプール104の二つの拡径部の縮径部側の端面に同じ大きさで互いに逆向きに作用するので無視することができる。付勢力F3は、スプール104のスプリング112側の端面132の面積をA3とすると、P3・A3である。なお、端面132の面積A3は、端面130の面積A1に等しいので、これらの面積をAと書き換えると、スプール104を摺動穴100内において移動させる力の釣合式は次のようになる。
P1・A+f1=P3・A+f3 ・・・(1)
スプリング108および112の弾性力f1(およびf3)は、通常の制動時における上記倍力された踏力に基づく付勢力F1に比して小さくされており、説明を簡単にするためにこれらの弾性力を無視すれば、(1)式は次式となる。
P1=P3 ・・・(2)
つまり、第一液圧P1と第三液圧P3(=第二液圧P2)とが等しくなる位置においてスプール104が静止するのである。
【0018】
この際、プランジャ102は第一液圧室116の容積の減少につれてスプール104に接近するが、スプール104は第二液圧室118をマスタリザーバ18からも定液圧源20からも遮断する位置に留まる。FLシリンダ24およびFRシリンダ26には第一液圧室116内の作動液が供給されるが、RLシリンダ50およびRRシリンダ52には定液圧源20からの作動液が供給されるのであり、その分ブレーキペダル126の操作ストロークが小さくて済む。
また、ポンプ14等の故障により定液圧源20が作動液を供給できない状態に陥った場合には、スプール104が、第一液圧P1と、第二液圧P2および第三液圧P3とが同じ圧力となるように移動させられる。それによって、第一液圧室116から液通路22に作動液が供給され、第三液圧室122から液通路48に作動液が供給される。つまり、第一液圧室116と第三液圧室122とが、従来のタンデム型マスタシリンダの二つの液圧室と同様な役割を果たすのである。
【0019】
図3は、図1に示したリニアバルブ装置56の構成を概略的に示す系統図である。リニアバルブ装置56は、増圧リニアバルブ150,減圧リニアバルブ152,減圧用リザーバ154および逆止弁156,158を含んでいる。増圧リニアバルブ150の第一ポート162は、液通路164によって液通路48のマスタシリンダ12側の部分に連通させられており、第二ポート166は、液通路168によって液通路48の液圧センサ64側の部分に連通させられている。また、液通路164と液通路168とは、バイパス通路170により接続されており、そのバイパス通路170の途中には、上述の逆止弁156が、液通路168から液通路164に向かう作動液の流れは許容するが、その逆の流れは阻止する向きに設けられている。減圧リニアバルブ152の第一ポート172は液通路174によって液通路168に、第二ポート176は液通路178によって減圧用リザーバ154に、それぞれ接続されている。液通路174と液通路178とは、バイパス通路180により接続され、そのバイパス通路180の途中には、逆止弁158が液通路178から液通路174に向かう作動液の流れは許容するが、その逆の流れは阻止する向きに設けられている。
【0020】
減圧用リザーバ154は、ハウジング182と、そのハウジング182内に液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン184とを備えている。それらハウジング182とピストン184との間に、ピストン184の移動につれて容積が変化する液収容室186が形成されており、ピストン184は圧縮コイルスプリング188の弾性力によって液収容室186の容積が減少する向きに付勢されている。したがって、液収容室186内に収容された作動液は圧縮コイルスプリング188の弾性力によって加圧されることとなるが、圧縮コイルスプリング188の弾性力は比較的小さく、上記加圧に基づく液収容室186内の液圧は、制動時にマスタシリンダ12やホイールシリンダ24,26,50,52に発生させられる液圧に対して無視し得る程度の大きさである。ただし、前記逆止弁156の開弁圧と逆止弁158の開弁圧との和よりは大きく、液通路48の液圧が大気圧近くまで減少すれば、液収容室186内の作動液が逆止弁156および158を開き、マスタシリンダ12を経てマスタリザーバ18へ還流することができる。
【0021】
減圧用リザーバ154の液収容室186の容積は、ピストン184が圧縮コイルスプリング188の付勢力(弾性力)により前進端位置まで前進した状態で最小値(図示の例では0)となり、ピストン184が圧縮コイルスプリング188の付勢力(弾性力)に抗して後退端位置まで後退した状態で最大値となる。この容積の最大値から最小値を引いた差がリザーバ容量であり、減圧用リザーバ154が一制動中に収容し得る作動液の最大量はこのリザーバ容量と等しい。そして、本実施形態においては、リザーバ容量が、ホイールシリンダ24,26,50,52の容量の和より小さくされている。ここで、ホイールシリンダ24,26,50,52の容量は、ホイールシリンダが非作動状態から作動状態までに収容し得る作動液の最大量を意味するものとする。
【0022】
増圧リニアバルブ150は、シーティング弁190と、電磁付勢装置194と、それらシーティング弁190と電磁付勢装置194とを一体的に結合する結合部材としても機能するハウジング196とを含んでいる。シーティング弁190は、弁子200と、弁座202と、弁子200と一体的に移動する被電磁付勢体204と、弁子200が弁座202に着座する向きに被電磁付勢体204を付勢する弾性部材としてのスプリング206とを含んでいる。また、電磁付勢装置194は、ソレノイド210と、そのソレノイド210を保持する樹脂製の保持部材212と、第一磁路形成体214と、第二磁路形成体216とを含んでいる。ソレノイド210の巻線の両端に電圧が印加されると、ソレノイド210の巻線に電流が流れ、磁界が形成される。磁力線は、その多くが、第一磁路形成体214,第二磁路形成体216,被電磁付勢体204および第二磁路形成体216と被電磁付勢体204との間のギャップを通るようにされている。ソレノイド210の巻線に印加される電圧を変化させれば、被電磁付勢体204と第二磁路形成体216との間に作用する磁気力も変化することになる。この磁気力の大きさは、ソレノイド210の巻線に印加される電圧の大きさと共に増加し、それら印加する電圧と磁気力との関係は予め知ることができる。したがって、印加電圧をその関係にしたがって連続的に変化させることにより、被電磁付勢体204を付勢する力を任意に変更することができる。減圧リニアバルブ152も、基本的には増圧リニアバルブ150と同じものであるが、後述するように、弾性部材としてのスプリング220の付勢力が増圧リニアバルブ150のスプリング206と異なっている。減圧リニアバルブ152の構成のうち、増圧リニアバルブ150と同様であるものには、同じ符号を付して示して説明を省略する。
【0023】
増圧リニアバルブ150は、第一ポート162の液圧が第二ポート166の液圧よりも高くなり、その差圧に基づく弁子200の付勢力がスプリング206の付勢力よりも大きくなると開かれる。この時の差圧の大きさを開弁圧と称する。本実施形態においては、増圧リニアバルブ150の開弁圧は、約3MPa(約30.6kgf/cm )とされている。一方、減圧リニアバルブ152の開弁圧は、18MPa(≒184kgf/cm 。定液圧源20により供給される作動液の最大液圧)よりも大きくされている。スプリング220による付勢力が、スプリング206によるそれよりも大きく(約6倍)されているのである。本実施形態の液圧ブレーキシステム10においては、減圧リニアバルブ152の第一ポート172に供給される作動液の最大液圧は、ポンプ14により供給され、また、アキュムレータ16に蓄えられる最大の液圧である。操縦者の踏力による液圧がこの最大液圧を上回って、減圧リニアバルブ152の第一ポート172に作用する作動液の液圧が、減圧リニアバルブ152の開弁圧を上回ることは事実上ないと考えてよい。減圧リニアバルブ152が開かれることによって減圧用リザーバ154に蓄えられた作動液は、制動終了後に、液通路178,180,逆止弁158,液通路174,170,逆止弁156,液通路48およびマスタシリンダ12の液圧供給源Rを経て、マスタリザーバ18に戻される。
【0024】
回生制動協調制御が行なわれている通常制動時であって、液圧ブレーキシステム10が正常に作動している状態においては、電磁開閉弁30および32が閉状態とされ、電磁開閉弁80が開状態とされ、また、他の電磁開閉弁は図1に示した状態とされる。FLシリンダ24およびFRシリンダ26への作動液の供給が、マスタシリンダ12の液圧供給部Fから液通路22を介して行なわれるのではなく、液圧供給部Rから液通路48を経て行なわれるのであって、RLシリンダ50およびRRシリンダ52と同様に定液圧源20から作動液が供給されるのである。このことにより、すべてのホイールシリンダの液圧が、リニアバルブ装置56の増圧リニアバルブ150および減圧リニアバルブ152により制御されることとなる。
【0025】
液通路22にはストロークシミュレータ230(図1参照)が接続され、電磁開閉弁30および32が共に閉状態とされた状態においてブレーキペダル126のストロークが殆ど0になることが回避されている。ストロークシミュレータ230は、プランジャ232の移動によって容積が変化する容器である。プランジャ232はスプリング234によって内容積が減少する向きに付勢されているので、ストロークシミュレータ230の作動液の蓄積量は、液圧供給部Fが供給する作動液の液圧(マスタシリンダ液圧Pmc)が増加するほど多くなる。このことにより、電磁開閉弁30および32が共に閉状態とされた場合においても、ブレーキペダル126のストロークがほぼ0になり、操縦者に違和感を与えることが回避される。また、ストロークシミュレータ230のスプリング234が配設されている空間は、液通路236によって液通路40に連通させられており、プランジャ232と容器との間の隙間から作動液が漏れた場合においても、その漏れ出た作動液がマスタリザーバ18に戻される。これによって、液圧ブレーキシステム10内の作動液量が減少することが回避される。
【0026】
液圧ブレーキシステム10が正常に作動している状態において、回生制動協調制御とアンチスキッド制御とが共に行なわれる場合には、コントローラ66によって電磁開閉弁30および32が閉状態、開閉弁80が開状態とされた上で、電磁開閉弁42,44,58,72,84および86が、必要に応じてそれぞれ独立に制御される。例えば、RLシリンダ50およびRRシリンダ52の液圧を増圧し、かつ、FLシリンダ24およびFRシリンダ26の液圧を保持する(一定圧に保つ)場合には、電磁開閉弁58を開状態とし、他の電磁開閉弁42,44,72,84および86を閉状態とすればよい。RLシリンダ50およびRRシリンダ52の液圧を減圧し、かつ、FLシリンダ24およびFRシリンダ26の液圧を保持する場合は、電磁開閉弁72を開状態とし、他の電磁開閉弁42,44,58,84および86を閉状態とする。また、すべてのホイルシリンダの液圧を保持する場合は、すべての電磁開閉弁42,44,58,72,84および86を閉状態とする。FLシリンダ24を増圧し、FRシリンダ26を保持するとともに、RLシリンダ50およびRRシリンダ52を減圧する場合には、電磁開閉弁72および84を開状態とし、電磁開閉弁42,44,58および86を閉状態とする。以下、一々説明しないが、電磁開閉弁42,44,58,72,84および86の状態をそれぞれ独立に制御することによって、左右後輪のホイールシリンダの液圧と、FLシリンダ24の液圧と、FRシリンダ26の液圧との三者を、互いに独立に制御することができる。
【0027】
本液圧ブレーキシステム10のコントローラ66が故障して電磁開閉弁やリニアバルブ装置56を制御し得ない状態になれば、各電磁開閉弁が図1に示した状態になり、かつ、リニアバルブ装置56の増圧リニアバルブ150および減圧リニアバルブ152のソレノイド210の巻線に電圧が印加されない状態とされる。この際、コントローラ66が定液圧源20を作動させるようにしても、作動させないようにしてもよい。前述のように、定液圧源20から作動液が供給されなくても、マスタシリンダ12が通常のタンデム式マスタシリンダと同様に機能して液圧供給部FおよびRからほぼ等しい液圧を供給するからである。各電磁開閉弁が図1に示した状態になれば、液圧供給部Fからの作動液がFLシリンダ24およびFRシリンダ26に、また、液圧供給部Rからの作動液が増圧リニアバルブ150を経てRLシリンダ50およびRRシリンダ52に供給される。ただし、FLシリンダ24およびFRシリンダ26に供給される作動液の液圧は、液圧供給部Fから供給される液圧にほぼ等しいのに対して、RLシリンダ50およびRRシリンダ52に供給される作動液の液圧は、液圧供給部Rから供給される作動液の液圧よりも、増圧リニアバルブ150の開弁圧約3MPaだけ小さくなる。このように、前輪と後輪とでホイールシリンダに供給される作動液の液圧は異なることになるが、前輪と後輪との両方のホイールシリンダに液圧が供給され、しかも、前輪のホイールシリンダに供給される作動液の液圧が減少することはないので、コントローラ66が故障した場合の制動性能の低下が小さくて済む。また、供給される作動液の液圧が減少するのが後輪側であるので、制動中の車両の姿勢安定性が良好に保たれる。
【0028】
なお、本実施形態においては、定液圧源20が故障して液圧供給部Rに液圧が供給されなくなった場合には、コントローラ66がすべての電磁開閉弁およびリニアバルブ装置56に電流を供給しない状態になるように構成されている。そのため、定液圧源20の故障時には、本液圧ブレーキシステム10は上記コントローラ66の故障時であって、定液圧源20が作動させられない場合と同様に作動する。しかし、定液圧源20が故障しても、コントローラ66が正常であれば、コントローラ66が通常通り電磁開閉弁およびリニアバルブ装置56を制御するように構成することも可能であり、その場合には、定液圧源20から作動液が供給されない分だけブレーキペダル126の操作ストロークが通常より長くなるのみで済む。ただし、この場合には、ブレーキペダル126の操作ストロークをできる限り小さくするために、液通路22とストロークシミュレータ230との間に常閉の電磁開閉弁を設け、定液圧源20の故障時にはこの電磁開閉弁が閉状態とされて、ストロークシミュレータ230に作動液が流入しないようにすることが望ましい。
【0029】
図4は、図3に示した増圧リニアバルブ150をさらに具体化したものを示す正面断面図であり、図3に示したものに対応する構成要素には同じ符号を付す。なお、図4は、スプリング206をスプリング220に変え、第一ポート162を第一ポート172と読み換え、かつ、第二ポート166を第二ポート176と読み換えることによって(図3参照)、減圧リニアバルブ152の正面図となる。シーティング弁190の弁子200は、ロッド部材250に一体的に保持されている。そのロッド部材250は、被電磁付勢体204の嵌合穴に嵌合された後に、その嵌合穴のロッド部材250に形成された段付部252に対応する部分の内径が塑性変形により小さくされて、被電磁付勢体204に離脱不能にかしめられている。第二ポート166は、保持穴256によってロッド部材250を軸方向に移動可能に保持する第一部材260の周壁の2箇所に形成されている。また、第一ポート162は、弁座202が形成された第二部材262の貫通穴として形成されている。第一部材260と第二部材262とは、前者に形成された嵌合穴に後者がしまり嵌合されることによって離脱不能な状態で一体的に結合されている。第二部材262には、オイルシール264と、フィルタ266を備えた第三部材268とが取り付けられている。被電磁付勢体204の第二磁路形成体216側の端面には、嵌合突部272が形成されており、第二磁路形成体216の被電磁付勢体204側の端面には、その嵌合突部272と軸方向に相対移動可能な状態で嵌合する嵌合穴274が形成されている。また、被電磁付勢体204と第二磁路形成体216との間には、リング状のスペーサ276が嵌装されている。
【0030】
第一部材260の保持穴256とロッド部材250との間にはわずかな隙間が存在し、ロッド部材250の軸方向の移動にともなう摩擦抵抗が極めて小さくされている。また、この隙間の存在により、第二ポート166の液圧が被電磁付勢体204の周囲にも作用することになる。作動液は、被電磁付勢体204に形成された図示しない切欠によってスプリング206の周囲にも到達するようにされている。したがって、弁子200,ロッド部材250および被電磁付勢体204が一体化されたもの(単に、可動部材と称する)に軸方向に作用する作動液の液圧に基づく付勢力の大きさは、第一ポート162の液圧と第二ポート166の液圧との差圧と、弁子200と弁座202との接触部である円環に囲まれた円の面積との積に等しくなる。これらのことから、シーティング弁190においては、前述の開弁圧(約3MPa)と上記円の面積との積が、スプリング206の付勢力に等しいことがわかる。開弁圧を変更するためには、スプリング206の付勢力を変更するか、上記円の面積を変更すればよい。
【0031】
電磁付勢装置194は、ソレノイド210が発生する磁束の通り道である磁路の磁気抵抗を小さくするために、第一磁路形成体214および第二磁路形成体216を含んでいる。磁路は、第一磁路形成体214,被電磁付勢体204および第二磁路形成体216により形成されており、これらの部材は、磁気抵抗が小さい材質で形成されている。なお、ハウジング196は常磁性体で構成されている。第一磁路形成体214とその他の磁路を形成するものとの間に、常磁性体であるハウジング196が存在しているので、磁路の全体としての磁気抵抗が増加することになるが、ハウジング196は、このことが問題にならない程度に薄く形成されている。また、前記スペーサ276も、ハウジング196と同様に常磁性体で形成されている。
【0032】
被電磁付勢体204と第二磁路形成体216とによって形成される磁路の磁気抵抗は、被電磁付勢体204と第二磁路形成体216との軸方向の相対的な位置に依存して変化する。具体的には、被電磁付勢体204と第二磁路形成体216との軸方向の相対位置が変化すれば、被電磁付勢体204の嵌合突部272と第二磁路形成体216の嵌合穴274との微小間隙を隔てて互いに対向する円筒面(嵌合突部272の外周面と嵌合穴274の内周面とのうち互いに対向する部分)の面積が変化する。もし、被電磁付勢体204と第二磁路形成体216とが単純に端面同士で微小間隙を隔てて対向しているのであれば、被電磁付勢体204と第二磁路形成体216との軸方向の距離の減少、すなわち接近に伴って磁気抵抗が加速度的に減少し、両者の間に作用する磁気力が加速度的に増大する。それに対し、本実施形態の増圧リニアバルブ150においては、被電磁付勢体204と第二磁路形成体216との接近に伴って、嵌合突部272と嵌合穴274との上記円筒面の面積が増加し、この円筒面を通る磁束が増加する一方、被電磁付勢体204の端面と第二磁路形成体216の端面とのエアギャップを通る磁束が減少する。その結果、ソレノイド210に印加される電圧が一定であれば、被電磁付勢体204を第二磁路形成体216方向へ付勢する磁気力が、被電磁付勢体204と第二磁路形成体216との軸方向の相対的な位置に関係なくほぼ一定となる。一方、スプリング206による被電磁付勢体204を第二磁路形成体216から離間する方向へ付勢する付勢力は、被電磁付勢体204と第二磁路形成体216との接近に伴って増大する。したがって、弁子200に液圧差に基づく付勢力が作用していない状態では、被電磁付勢体204の第二磁路形成体216方向への移動が、上記スプリング206の付勢力と磁気力とが等しくなることにより停止することとなる。
【0033】
増圧リニアバルブ150がリニアバルブ装置56の本体280(図4参照)に取り付けられる際には、まず、本体280に形成された取付穴282に、第一部材260,第二部材262および第三部材268が嵌合される。ただし、この嵌合は、第一磁路形成体214と、保持部材212に保持されたソレノイド210とが、ハウジング196に取り付けられていない状態で行なわれる。この嵌合が行われた後、第一部材260およびハウジング196により形成されるフランジ部284が、組付部材286によって取付穴282の拡径部に離脱不能に組付けられる。その後に、第一磁路形成体214と、保持部材212に保持されたソレノイド210とが、ハウジング196に組み付けられて、増圧リニアバルブ150の本体280への取付けが完了する。なお、第一磁路形成体214は、軸に直角な平面を境界として二つの部分に分離・結合可能とされており、組立てが容易に行い得るようになっている。
【0034】
コントローラ66は、ROM,RAMおよびPU(プロセッシングユニット)等を備えたコンピュータを主体とするものであり、ROMには図7,図8,図11,図18および図19に示すフローチャートで表される処理を始めとする種々の制御プログラムが記憶されている。
図6は、コントローラ66によって実行される液圧制御の概要を示す機能ブロック図である。制御対象としてのリニアバルブ装置56がフィードフォワード制御部300とフィードバック制御部302とにより制御されるようになっている。また、制御の目標値は目標液圧Pref であり、出力は出力液圧Pout1である。なお、本実施形態においては、目標液圧Pref は液圧センサ34の出力値であるマスタシリンダ液圧Pmc(操縦者の意志に対応する)から、回生制動による制動力に対応する液圧を減じた値として取得される。
【0035】
フィードフォワード制御部300は、目標液圧Pref に基づいて、フィードフォワード増圧電圧VFapply およびフィードフォワード減圧電圧VFrelease を算出する。また、フィードバック制御部302は、目標液圧Pref から出力液圧Pout1を減じた値である偏差errorを0に近づけるための電圧として、フィードバック増圧電圧VBapply およびフィードバック減圧電圧VBrelease を算出する。このように、本実施形態におけるコントローラ66の制御は、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを共に含んでいる。
【0036】
図7は、コントローラ66のROMに記憶された制御プログラムのメイン処理の主要部を示すフローチャートである。まず、ステップ10(以下、S10と略記する。他のステップについても同じ)において、フィードフォワード増圧電圧VFapply およびフィードフォワード減圧電圧VFrelease を算出するサブルーチンであるVFapply ,VFrelease 算出処理がコールされる。この処理は、上述のフィードフォワード制御部300の処理に相当する(内容は後述する)。つぎに、S12において、フィードバック増圧電圧VBapply およびフィードバック減圧電圧VBrelease を、偏差errorに基づいて算出するVBapply ,VBrelease 算出処理がコールされる。この処理は、上述のフィードバック制御部302の処理に相当するものであり、例えば、一般的なPID制御や、PID制御をさらに簡略化したI制御等によって、偏差errorを0に近づける。この処理が完了すれば、S14において、増圧リニアバルブ150のソレノイド210に印加する電圧(増圧側印加電圧Vapply と称する)と、減圧リニアバルブ152のソレノイド210に印加する電圧(減圧側印加電圧Vrelease と称する)とを算出するサブルーチンであるVapply ,Vrelease 算出処理がコールされる。
【0037】
このサブルーチンVapply ,Vrelease 算出処理においては、増圧側印加電圧Vapply の値は、フィードフォワード増圧電圧VFapply およびフィードバック増圧電圧VBapply の和の値と、0とのいずれかの値とされる。また、減圧側印加電圧Vrelease の値は、フィードフォワード減圧電圧VFrelease およびフィードバック減圧電圧VBrelease の和の値と、0とのいずれかの値とされる。詳細は後述する。S14に続いて、S16において作動液漏れ検出処理が実行される。この作動液漏れ検出処理は、ブレーキペダル126の踏込みが開始されてからその踏込みが完全に解除されるまでを一制動として、その一制動中にホイールシリンダ24,26,50,52からリニアバルブ装置56を経て減圧用リザーバ154へ排出された作動液の総量が、減圧用リザーバ154の前記リザーバ容量より大きくなるか否かを監視し、大きくなればリニアバルブ装置56より減圧用リザーバ154側の部分(減圧用リザーバ154自体を含む)に作動液漏れが発生していると判定して、リニアバルブ装置56を使用した液圧制御等を禁止する処理である。詳細は後述する。以上の処理の実行後、S18において増圧側印加電圧Vapply と減圧側印加電圧Vrelease とがそれぞれ増圧リニアバルブ150および減圧リニアバルブ152のソレノイド210に印加された後に、S10からの処理が繰り返される。
【0038】
図8は、図7のS10においてコールされるVFapply ,VFrelease 算出処理の内容を示すフローチャートであり、上述のようにフィードフォワード制御部300の処理に相当するものである。まず、S20において、ある一定時間(後述するように、本実施形態においては6msとされている)ごとの目標液圧Pref (これの算出については後述する)の変化分である目標液圧変化dPref が正であるか否か、つまり、目標液圧Pref が増加中であるか否かが判定される。増加中である場合は、S22において、変数startFlag の値が0であるか否かが判定される。変数startFlag の値が0であれば、S24において増圧側初期値変数Pinita に目標液圧Pref の値が代入され、かつ、変数startFlag に1が代入された後に、また、変数startFlag の値が0でなければS24をバイパスして初期値設定処理が終了する。なお、メイン処理の図示を省略する初期設定において、変数startFlag は0に設定されている。S20の判定結果がNOである場合(目標液圧変化dPref が正でない場合)は、S26において、目標液圧変化dPref が負であるか否かが判定される。この判定結果がYESであれば、S28において、変数startFlag が1であるか否かが判定される。S28の判定結果がYESであれば、S30において、減圧側初期値変数Pinitr に目標液圧Pref の値が代入され、かつ、変数startFlag に0が代入される。S22,S26若しくはS28の判定結果がNOであるか、または、S24若しくはS30の処理が終了した場合に、S40の処理が実行される。
【0039】
S40においては、減圧側印加電圧Vrelease が正であるか否か、つまり、リニアバルブ装置56において減圧が行われているか否かが判定される。減圧中であれば、S42において、フィードフォワード増圧電圧一定値VFcaが、次式に基づいて算出される。
VFca←MAPa (Pin−Pout1) ・・・(3)
ここで、関数MAPa は、Pin−Pout1(これを、増圧側液圧偏差Pdiffa と称する)を引数として、フィードフォワード増圧電圧一定値VFcaを返す関数である。図9に関数MAPa の一例を示す。この図に示すように、関数MAPa は、増圧側液圧偏差Pdiffa の増加とともに、直線的に減少する値としてフィードフォワード増圧電圧一定値VFcaを返す。増圧側液圧偏差Pdiffa が0のときのフィードフォワード増圧電圧一定値VFcaはフィードフォワード増圧最大電圧VFmaxaであり、増圧側液圧偏差Pdiffa が最大液圧偏差Pdiffmaxaのときのフィードフォワード増圧電圧一定値VFcaはフィードフォワード増圧最小電圧VFminaである。ここで、最大液圧偏差Pdiffmaxaは増圧リニアバルブ152の開弁圧(3MPa)に等しく、フィードフォワード増圧最大電圧VFmaxaは、それを増圧リニアバルブ150のソレノイド210に印加した場合に発生する磁界によって、被電磁付勢体204が付勢される力が、弁子200が弁座202に着座した状態におけるスプリング206の付勢力に等しくなるようにされている。このようにして、S40の判定結果がYESである状態、つまり、減圧中に、つぎの増圧時(もしそれが行なわれるならば)に使用されるフィードフォワード増圧電圧一定値VFcaが予め算出される。
【0040】
S40の判定結果がNOである場合は、S44において、増圧側印加電圧Vapply が正であるか否か、つまり、リニアバルブ装置56において増圧が行われているか否かが判定される。増圧中であれば、S46において、フィードフォワード減圧電圧一定値VFcrが次式に基づいて算出される。
VFcr←MAPr (Pout1−Pres ) ・・・(4)
ここで、関数MAPr は、Pout1−Pres (これを、減圧側液圧偏差Pdiffr と称する。また、リザーバ液圧Pres は減圧用リザーバ154の液圧であり、大気圧に等しい)を引数として、フィードフォワード減圧電圧一定値VFcrを返す関数である。図10にその一例を示す。図から明らかなように、関数MAPr は、減圧側液圧偏差Pdiffr の増加とともに直線的に減少する値としてフィードフォワード減圧電圧一定値VFcrを返す。減圧側液圧偏差Pdiffr が0のときのフィードフォワード減圧電圧一定値VFcrはフィードフォワード電圧減圧最大値VFmaxrであり、減圧側液圧偏差Pdiffr が最大液圧偏差Pdiffmaxrのときのフィードフォワード減圧電圧一定値VFcrは0である。ここで、最大液圧偏差Pdiffmaxrは減圧リニアバルブ152の開弁圧(18MPaよりも大きい)に等しく、フィードフォワード電圧減圧最大値VFmaxrは、それを減圧リニアバルブ152のソレノイド210に印加した場合に、発生する磁界によって被電磁付勢体204が付勢される力が、弁子200が弁座202に着座した状態におけるスプリング220の付勢力に等しくなるようにされている。このように、S44の判定結果がYESである状態、つまり、増圧中に、つぎの減圧時に使用されるフィードフォワード減圧電圧一定値VFcrが予め算出される。
【0041】
S44の判定結果がNOであるか、または、S42若しくはS46の処理が終了した場合に、S47において、目標液圧変化dPref が正でかつ目標液圧Pref がしきい値Pth未満であるか否かによって、初期増量が必要であるか否かの判定が行われ、判定結果がYESであれば、S48において、増量電圧VFcainc がフィードフォワード増圧電圧一定値VFcaに代入される。初期増量および増量電圧VFcainc の物理的な意味については後に説明する。これらS47,48の実行後に、S50において、以下に示す式に基づいてフィードフォワード増圧電圧VFapply またはフィードフォワード減圧電圧VFrelease が算出された後に、VFapply ,VFrelease 算出処理が終了する。
VFapply ←GAINa ・(Pref −Pinita )+VFca ・・・(5)
VFrelease ←GAINr ・(Pinitr −Pref )+VFcr ・・・(6)
ここで、係数GAINa および係数GAINr は、予め設定される正の一定値である。
【0042】
図11は、上記目標液圧Pref と目標液圧変化dPref とを算出するために実行されるタイマ割込処理の内容を示すフローチャートである。まず、S80において、液圧センサ34の出力値であるマスタシリンダ液圧Pmcから、現在の回生制動の大きさに相当する液圧を減じた値として、目標液圧Pref が取得される。つぎに、S82において、目標液圧変化dPref が、次式に基づいて算出される。
dPref ←Pref −prevPref ・・・(7)
ここで、前回目標液圧prevPref の値は、前回のタイマ割込処理が実行された時点における目標液圧Pref の値である。つぎに、S84において、次回のタイマ割込処理に備えるために、前回目標液圧prevPref に今回のタイマ割込処理における目標液圧Pref の値が代入された後に、タイマ割込処理が終了する。このタイマ割込処理は、制動期間中、6msごとに繰り返しコールされるものであり、前述のように、目標液圧Pref と目標液圧変化dPref とは、制動期間中、6msごとに最新の値に更新されることになる。
【0043】
上記フィードフォワード減圧電圧VFrelease の物理的な意味は、減圧中において、減圧側液圧偏差Pdiffr の値が徐々に小さくなり、減圧リニアバルブ152の弁子200を弁座202から離間させようとする力が小さくなっても、フィードフォワード制御によって、減圧リニアバルブ152を開いた状態にし、減圧を続行できる電圧にすることである。つまり、減圧側液圧偏差Pdiffr が比較的大きい場合には、減圧を行うために必要なフィードフォワード減圧電圧VFrelease の値は比較的小さくてよいのであるが、減圧側液圧偏差Pdiffr が小さくなった場合には、減圧リニアバルブ152が開いた状態にするために、減圧リニアバルブ152のソレノイド210に、より大きな電圧を印加する必要がある。本実施形態においては、これを、フィードフォワード減圧電圧VFrelease の値を大きくすることによって実現しているのである。
【0044】
図12には、初期の減圧側液圧偏差Pdiffr の値が異なる二つの減圧例が、(a)および(b)に示されている。これらは、それぞれ出力液圧Pout1が各値から各減少率で減少し、最終的に出力液圧Pout1が大気圧になって減圧が完了する例である。これら二つの例において、図中一点鎖線で示すように、減圧側液圧偏差Pdiffr の値が互いに等しい場合は、フィードフォワード減圧電圧VFrelease の値も等しくなる。そして、最終的に減圧が完了した時点では、減圧側液圧偏差Pdiffr の値が0になり、フィードフォワード減圧電圧VFrelease の値は前記フィードフォワード減圧最大電圧VFmaxrに等しい値になっている。
フィードフォワード増圧電圧VFapply の物理的な意味も、上記フィードフォワード減圧電圧VFrelease と実質的に同じである。ただし、減圧リニアバルブ152の第二ポート176の液圧が一定値(リザーバ液圧Pres )であるのに対して、増圧リニアバルブ150の第一ポート162および第二ポート166の液圧は、それぞれ入力液圧Pinおよび出力液圧Pout1であり、制動期間中において共に変動する点において異なる。
【0045】
なお、関数MAPa および関数MAPr はそれぞれ増圧側液圧偏差Pdiffa および減圧側液圧偏差Pdiffr に対して線型であるとして、図9および図10のグラフが共に直線で示されている。これは、増圧リニアバルブ150および減圧リニアバルブ152において、被電磁付勢体204に作用する磁気力がそれぞれのソレノイド210に印加される電圧にほぼ比例すると考えてよいためである。一般に、この磁気力は、ソレノイド210に印加される電圧の2乗に比例するのであるが、本実施形態の増圧リニアバルブ150および減圧リニアバルブ152においては、磁気力の変化が、ソレノイド210の印加電圧にほぼ比例していると見なし得る領域において使用されているのである。磁気力がソレノイド210に印加される電圧に比例すると見なし得ない場合には、図8に示したS40ないしS46の処理を省略し、S50において(5)式または(6)式に基づいて算出されるフィードフォワード増圧電圧VFapply またはフィードフォワード減圧電圧VFrelease を、それぞれ、以下に示す(8)式または(9)式に基づいて算出するように変更すればよい。
VFapply ←GAINa ′・√(Pdiffmaxa−Pdiffa )+VFmaxa ・・・(8)
VFrelease ←GAINr ′・√(Pdiffmaxa−Pdiffa ) ・・・(9)
【0046】
さらに付言すれば、フィードフォワード増圧電圧が(5)式に基づいて算出される際、フィードフォワード増圧電圧一定値VFcaの値は、図9から明らかなように制動中に変化する可能性のある値である。しかし、実際上は増圧側液圧偏差Pdiffa の変化は比較的小さいことが多い。したがって、フィードフォワード増圧電圧一定値VFcaの値を特定の値(例えば、フィードフォワード増圧電圧最大VFmaxa)に固定しても、制御性能が著しく損なわれることはない。
【0047】
図13は、目標液圧Pref の変化の一例と、その目標液圧Pref の変化に基づいて、図7,図8および図11に示した処理によって算出される、フィードフォワード増圧電圧VFapply およびフィードフォワード減圧電圧VFrelease の値の変化を定性的に示すグラフである。目標液圧Pref は、時刻t1 において0から増加を開始し、時刻t1 と時刻t2 との間の期間(期間t1−2 と称する。他の期間についても同じ)において増加し、期間t2−3 において一定となり、期間t3−4 において減少し、時刻t4 において再び0になっている。図13においては、フィードフォワード増圧電圧VFapply は、期間t1−2 においてのみ0でない値とされており、また、フィードフォワード減圧電圧VFrelease は、期間t3−4 においてのみ0でない値とされている。これらの値は、実際には、期間t2−3 においても0でない値を取り得るのであるが(図8参照)、後述するように、期間t2−3 のように、目標液圧Pref の値が一定である場合における増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease は、共に0とされる場合が多く、その場合、フィードフォワード増圧電圧VFapply およびフィードフォワード減圧電圧VFrelease が0以外の値となっても、その値が実際の制御に使用されることがない。図13はそのような場合の一例を示すものであり、期間t2−3 におけるフィードフォワード増圧電圧VFapply およびフィードフォワード減圧電圧VFrelease の値は、実際の制御に使用されないため、0で示してある。
【0048】
目標液圧Pref が図13に示すように変化する場合は、増圧側初期値変数Pinita には、時点t1 における目標液圧Pref の値がセットされる。これは、時点t1 において、図8のS20およびS22の判定結果がYESとなり、S24が実行されるためである。また、減圧側初期値変数Pinitr の値には、その後の時点t3 に、S20の判定結果がNO、S26の判定結果がYESとなることにより目標液圧Pref の値がセットされる。図13のフィードフォワード増圧電圧VFapply のグラフにおいて、(5)式の右辺第二項の値(フィードフォワード増圧電圧一定値VFcaの値)がハッチング付きの領域の高さで示され、右辺第一項の値がハッチングなしの領域の高さで示されている。一方、フィードフォワード減圧電圧VFrelease のグラフには、(6)式の右辺第二項の値(フィードフォワード減圧電圧一定値VFcrの値)がハッチング付きの長方形領域の高さで示され、右辺第一項の値がハッチングなしの三角形の領域の高さで示されている。なお、目標液圧Pref の値が、図13に一点鎖線で示したような変化を示す場合には、フィードフォワード増圧電圧VFapply およびフィードフォワード減圧電圧VFrelease の値は、二点鎖線で示したように変化する。(5)式および(6)式の右辺第一項によって算出される値が、目標液圧Pref の変化に対応してそのように変化するからである。
【0049】
以上説明したフィードバック制御とフィードフォワード制御とによって、安定性と応答性とを一応両立させる得るのであるが、まだ増圧と減圧とが頻繁に繰り返される恐れがある。リニアバルブ装置56による増減圧の繰返しの頻度が大きくなり、増圧リニアバルブ150と減圧リニアバルブ152とのソレノイド210に供給される電気エネルギが多くなって、蓄電池の蓄電量が無駄に減少してしまう可能性があるのである。つまり、電動モータを使用しての走行可能距離が短くなってしまい、ハイブリッド車両としての性能が損なわれることになるのである。目標液圧Pref の周辺に不感帯を設け、出力液圧Pout1がその不感帯内の値である場合にはリニアバルブ装置56が保持状態にされるようにすれば、増減圧の繰返頻度を低減させることができる。しかし、その場合でも、応答性をよくするためにフィードバック制御のゲインを大きくすれば、制御遅れに起因して、図14に示すように、不感帯の幅を超えて増減圧を繰り返すハンチングが生じる。このハンチングを防止するために不感帯の幅を大きくし、あるいはフィードバック制御のゲインを小さくすれば、液圧制御精度が不十分となる。つまり、不感帯を設けることのみによっては、液圧制御精度を維持しつつ増減圧の繰返頻度を十分に低減させることは困難なのである。
【0050】
本実施形態の液圧制御装置は、以下に説明する処理を付加することによって上記問題点を解決し、液圧制御精度を維持しつつ増減圧の繰返頻度を十分に低減させることに成功したものである。図15は、その処理の内容の一例を示す図表であり、図7のS14に示したVapply ,Vrelease 算出処理の内容の一例を示すものである。この図に示すように、偏差errorと目標液圧変化dPref との値に基づいて、リニアバルブ装置56の制御状態が決定される。具体的には、目標液圧変化dPref が予め設定された正の液圧変化しきい値dPth1 を越える場合(この状態を▲1▼で示し、以下▲1▼状態と称する)においては、偏差errorの符号に応じて増圧または保持とされる。目標液圧変化dPref が液圧変化しきい値dPth1 以下であり、かつ、負の液圧変化しきい値dPth2 以上である場合(▲2▼状態と称する)においては、偏差errorが予め設定された上限液圧偏差err1より大きい場合に増圧が行なわれ、予め設定された下限液圧偏差err2未満である場合に減圧が行なわれ、それ以外の場合に保持が行なわれる。また、目標液圧変化dPref が液圧変化しきい値dPth2 未満である場合(▲3▼状態と称する)においては、偏差errorの符号に基づいて保持または減圧が行なわれる。
【0051】
上記▲1▼状態は、目標液圧Pref が広義の増加傾向(変化しない場合を含む)を示す状態であり、その目標液圧Pref に出力液圧Pout1を追従させるために、増圧および保持のみで制御される。▲3▼状態は、目標液圧Pref が狭義の減少傾向(変化しない場合は含まない)を示す場合であり、この場合は減圧と保持とによって制御される。▲1▼状態においては、出力液圧Pout1が目標液圧Pref を上回ることがあっても、目標液圧変化dPref が0以上であるので、出力液圧Pout1を一定の液圧に保持していれば、やがて目標液圧Pref が出力液圧Pout1を上回るように変化するので、減圧する必要がないことになる。逆に、▲3▼状態においては増圧の必要がないのである。このように、▲1▼状態および▲3▼状態においては、従来行われていたように増圧と減圧をと繰り返す場合に比較して、増圧および減圧の機会を減少させ、全体として各リニアバルブのソレノイド210への供給電力を節減することができる。
なお、上記上限液圧偏差err1,err2は保持状態において発生することが許容される偏差errorの上限と下限とを規定する値であり、これらの絶対値を小さくすれば、偏差errorが小さくて済むが、増圧リニアバルブ150または減圧リニアバルブ152が作動する頻度が高くなり、逆にこれらの絶対値を大きくすれば、バルブの作動頻度は低くなるが、偏差errorが大きくなる。したがって、バルブの作動頻度と偏差errorとの両方を勘案して適切な値に決定されるべきである。
【0052】
本液圧制御装置においては、以上説明した対策によってリニアバルブ装置56への供給電力の節減が図られているが、さらに、以下の処理によって、良好な液圧制御が行われるようにされている。ブレーキの効き遅れと引きずりとの低減が図られているのである。
【0053】
まず、効き遅れの低減について説明する。図16は、目標液圧Pref が0である状態(制動が行われていない状態)から、時刻ti において制動が開始され、目標液圧Pref が直線的に増加する状態を示している。また、その目標液圧Pref の変化に伴う出力液圧Pout1およびホイールシリンダ液圧Pwcの変化も示している。図から明らかなように、液圧センサ64によって取得される出力液圧Pout1がたとえ目標液圧Pref とよく一致していても、ホイールシリンダ液圧Pwcは、制動開始直後において目標液圧Pref から大きく外れる。これは、制動開始直後はホイールシリンダの液圧を単位量増大させるのに必要な作動液量が多く、リニアバルブ装置56とホイールシリンダ24等とを接続している液通路内の作動液流量が大きいために、出力液圧Pout1とホイールシリンダ液圧Pwcとの間に大きな差が生じるためである。ホイールシリンダ液圧Pwcの値を直接取得する液圧センサを設け、例えば、図5に示したフィードバック制御部302の入力を、前記偏差errorとする代わりに、Pref −Pwcとすることによって、ホイールシリンダ液圧Pwcを目標液圧Pref に応答性よく追従させることも可能である。しかし、ホイールシリンダ液圧Pwcを取得するための液圧センサを各輪に個々に取り付ける必要があり、コストが上昇するとともに、制御が複雑になる。さらに、作動液流量が多い制動開始直後における増圧リニアバルブ56の流路面積が、作動液流量が多くない通常の増圧時と同じである場合には、出力液圧Pout1自体を目標液圧Pref に精度よく追従させることができない場合も生じる。
【0054】
そこで、本実施形態においては、以下に説明する方法によって、各ホイールシリンダに供給される作動液の流量が制動初期には特別に増量されるようにされている。これが前述の初期増量である。初期増量は、目標液圧変化dPref が正であり、かつ、目標液圧Pref があるしきい値Pth未満である場合に、フィードフォワード増圧電圧一定値VFcaの値を、前述の関数MAPa によって与えられる電圧よりも大きくすることによって実現される。この大きくされた電圧が前述の増量電圧VFcainc である。ここでは、増量電圧VFcainc は、予め与えられた一定値であるものとする。初期増量が行われるための上述の条件が成立する場合は、増圧側液圧偏差Pdiffa の値は小さいので関数MAPa の値が大きい。そこで、増量電圧VFcainc の値は、フィードフォワード増圧最大電圧VFmaxa(図9参照)よりも大きくされる。目標液圧変化dPref が0以下になるか、または、目標液圧Pref が上記しきい値Pth以上になった場合には、初期増量が終了させられる。つまり、フィードフォワード増圧電圧一定値VFcaの値が、関数MAPa の値に戻される。ただし、初期増量が終了する時点において、関数MAPa の値と増量電圧VFcainc の値との差が大きい場合には、フィードフォワード増圧電圧一定値VFcaの値は、関数MAPa の値に徐々に近づけられる処理が行われることが望ましい。フィードフォワード増圧電圧一定値VFcaの値が急激に変化すると、制動力が急激に変化してしまうからである。
【0055】
次に、ブレーキの引きずり低減について説明する。前述の制御のみでは、制動終了後、出力液圧Pout1が完全に0ならない。この0でない出力液圧Pout1を残圧と称する。残圧が0でないと、ブレーキペダル126の踏込みが完全に解除された状態においても、各ブレーキがわずかに作用している状態(これがブレーキの引きずりである)となり、操縦者に違和感(引きずり感)を与えるとともに、ブレーキパッドを不要に摩耗させ、無駄なエネルギ消費を生じさせてしまう。したがって、何等かの方法で残圧を0にすることが望ましい。この残圧を0にすることを残圧抜きと称する。残圧抜きを行なうには、実際に制動が終了したか、あるいは、制動が終了する直前において液通路48のリニアバルブ装置56よりRLシリンダ50,RRシリンダ52側の部分を、マスタシリンダ12側の部分に連通させればよい。そこで、本実施形態においては、減圧また保持が行われている状態において、目標液圧Pref がある小さな液圧しきい値δ未満になれば、増圧リニアバルブ150のソレノイド210に期間Δtだけ、印加可能な最大の電圧である最大印加電圧Vmax が印加されて残圧抜きが行なわれるようにされている。
【0056】
図17は、図15に示した処理と上述の初期増量および残圧抜きとを行なった場合の、目標液圧Pref ,出力液圧Pout1,目標液圧変化dPref ,増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease の変化の一例を示すグラフである。▲1▼状態においては増圧が行われるが、制動開始直後、すなわち目標液圧Pref がしきい値Pth未満の間は、初期増量の実行により増圧側印加電圧Vapply が通常の増圧時(目標液圧Pref がしきい値Pth以上の場合)よりも特別に大きくされて、制動液流量の不足による出力液圧Pout1(ひいてはホイールシリンダ液圧Pwc)の目標液圧Pref からの外れが小さくされている。▲2▼状態においては、出力液圧Pout1が図17における斜線で示した領域(不感帯)内に含まれる値である場合は、保持が行なわれる。しかし、矢印bで示した個所では出力液圧Pout1にオーバーシュートが生じ、偏差errorの絶対値が大きくなったために減圧が行なわれている。▲3▼状態においては、目標液圧Pref の減少に伴って出力液圧Pout1が減圧と保持とによって減少させられる。しかし、やがてホイールシリンダから排出された作動液によって減圧用リザーバ154が満たされ、もはや減圧リニアバルブ152が開かれても出力液圧Pout1が減少しなくなる。
【0057】
この状態が後述の作動液漏れ検出処理において検出され、その検出に応じて、図5に示すように、回生制動システムにおいて回生制動力が所要制動力(ブレーキペダル126の踏力に対応する)の減少につれて減少させられる。そして、回生制動力が0まで減少させられた状態では、液通路48のリニアバルブ装置56よりマスタシリンダ12側の部分の液圧(入力液圧Pin) が、ホイールシリンダ側の部分の液圧(出力液圧Pout1)と等しくなり、その後さらに前者の液圧が減少すれば後者の液圧も共に減少する。図3に示す逆止弁156によって、ホイールシリンダ側からマスタシリンダ側への作動液の流れが許容されるからである。上記のように、減圧リニアバルブ152が開かれても出力液圧Pout1が減少しなくなったことが検出された後も、前記図7のS18において減圧側印加電圧Vrelease が減圧リニアバルブ152のソレノイド210に印加されるようにしても差し支えないが、本実施形態においては、電気エネルギが無駄に消費されることを回避する観点から、減圧側印加電圧Vrelease の印加が禁止されるようにされている。
【0058】
制動終了直前に目標液圧Pref が液圧しきい値δ未満となった時点で、増圧側印加電圧Vapply が最大印加電圧Vmax とされ、残圧抜きが行われる。目標液圧Pref が大きい状態でほぼ一定に保たれた場合、すなわち目標液圧変化dPref が0に保たれた場合には、目標液圧Pref と出力液圧Pout1との間にある程度の偏差errorが残ったままとなることがあるのに対し、目標液圧Pref が0になる制動終了時には、残圧抜きの実行によって出力液圧Pout1が0とされ、偏差errorが残らないのである。
【0059】
図18は、図7に示したメイン処理のS14に示したVapply ,Vrelease 算出処理の内容の一例を示すフローチャートである。この処理は、増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease を、前記図15に示した処理と前記初期増圧および残圧抜きとを共に実現できるように決定する処理である。まず、S100において偏差errorが算出され、S102において、目標液圧変化dPref が液圧変化しきい値dPth1 より大きいか否かが判定される。結果がYESであれば、S104において、偏差errorが0以上であるか否かが判定され、0以上であればS106において増圧のための印加電圧v1 が増圧側印加電圧Vapply としてセットされ、減圧側印加電圧Vrelease が0とされる。ここで、印加電圧v1 の値は、図8に示したS50において算出されるフィードフォワード増圧電圧VFapply と、図7のS12において算出されるフィードバック増圧電圧VBapply との和として算出される。つぎに、S108において、変数flagに増圧を表す値が代入された後にVapply ,Vrelease 算出処理が終了する。以上の経路で増圧のための印加電圧が算出されることは、図15の▲1▼状態において、増圧が行なわれることに相当する。上記経路の他に、S102の判定結果がNOであり、続くS110の判定結果がNOであり、さらに、続くS112の判定結果がYESである場合においても増圧が行なわれる。S110は、目標液圧変化dPref が目標液圧しきい値dPth2 未満であるか否かの判定処理であり、S112は、偏差errorが上限液圧偏差err1より大きいか否かの判定処理である。つまり、この経路によりS106およびS108の処理が行なわれることは、図15の▲2▼状態において、増圧が行なわれる場合に相当することになる。
【0060】
S110の判定結果がYESであり、かつ、続くS114の判定結果がYESである場合には、S116において増圧側印加電圧Vapply に0がセットされるとともに、減圧側印加電圧Vrelease に減圧のための印加電圧v2 がセットされる。印加電圧v2 の値は、図8のS50において算出されるフィードフォワード減圧電圧VFrelease と、図7のS12においてフィードバック制御によって算出されるフィードバック減圧電圧VBrelease との和として算出される。つぎに、S118において、変数flagに減圧を表す値が代入された後にVapply ,Vrelease 算出処理が終了する。以上の経路で減圧のための印加電圧が算出されることは、図15の▲3▼状態において、減圧が行なわれることに相当する。上記経路の他に、S112の判定結果がNOであり、かつ、続くS120の判定結果がYESである場合においても減圧が行なわれる。S120は、偏差errorが下限液圧偏差err2未満であるか否かの判定処理である。この経路によりS116およびS118の処理が行なわれることは、図15の▲2▼状態において、減圧が行なわれる場合に相当する。
【0061】
S104,S114およびS120のいずれかの判定処理が行なわれ、その結果がNOであれば、S121およびS122の判定処理が行なわれる。S121においては、変数FlagC が1であるか否かの判定が行われるが、最初は判定結果がNOであり、S122において、下記の式で算出される変数condition の値がTRUEであるかFALSEであるか否かが判定される。
condition ←((flag=“減圧”)∨(flag=“保持”))∧(Pref <δ)・・・(10)
結果がFALSEであれば、S124において増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease に0がセットされた後に、S126において変数flagに保持を表す値が代入されたるとともに、変数counter に0がセットされて、Vapply ,Vrelease 算出処理が終了する。S122の判定結果がTRUEである場合は、S127において、counter <Cthが成立するか否かが判定される。ここで、Cthは、予め設定される設定カウント数であり、この値を変更することによって、前述の残圧抜きのための減圧が行なわれる時間を変更できる。最初はS127の判定結果はYESであるため、S128において増圧側印加電圧Vapply に最大印加電圧Vmax がセットされ、減圧側印加電圧Vrelease に0がセットされ、続くS130において、変数flagに増圧を表す値が代入されるとともに、変数counter の値がインクリメントされた後に、Vapply ,Vrelease 算出処理が終了する。S128およびS130が一定時間繰り返された後に、S127の判定結果がNOになり、S131において、変数FlagC およびcounter が共に0とされて、Vapply ,Vrelease 算出処理が終了する。
【0062】
図7に示したメイン処理のS16においてコールされる作動液漏れ検出処理の詳細を図19に示す。まず、S150において、制動中か否か、すなわち、ブレーキペダル126が踏み込まれているか否かが、ブレーキランプスイッチ306がONか否かによって判定される。判定結果がNOであれば、S152において、減圧用リザーバ154への作動液の流入量の和である作動液総流入量ΣΔQがクリアされるとともに、変数FlagA に1が、変数FlagB に0がそれぞれ代入されて、1回の処理が終了する。それに対し、S150の判定結果がYESであれば、S154,S156において保持と減圧との繰返しによる一連の減圧の開始が待たれ、一連の減圧が開始されれば、S158において変数FlagA に0が、変数FlagB に1がそれぞれ代入され、S160において出力液圧Pout1の一連の減圧開始時における値 startPout1が記憶される。なお、S156における減圧か否かの判定は、上記Vapply ,Vrelease 算出処理において設定される変数flagの内容に基づいて行われる。
【0063】
続くS162,S164は、上記一連の減圧の終了を意味する増圧の開始を検出するステップである。変数FlagB には、前記S152で0が代入される一方、S158で1が代入されるため、制動開始直後に実行されるS162の判定結果がNOであり、S164の増圧判定は行われず、一旦一連の減圧が行われた後にのみS164の増圧判定が行われる。したがって、S164の判定結果がYESになることは、一連の減圧の後の増圧の開始、すなわち一連の減圧の終了を意味するのであり、S166において、FlagA に1が、FlagB に0がそれぞれ代入されて、次の一連の減圧の開始を検出するための準備がなされた後、S168において、出力液圧Pout1の一連の減圧終了時における値 endPout1が記憶される。
【0064】
一方、上記S164の判定結果がNOの場合には、ブレーキランプスイッチ306の状態に基づくS170の制動終了か否かの判定と、S172の減圧不能か否かの判定とが行われる。減圧不能か否かの判定とは、前述のように減圧用リザーバ154がもはや作動液を収容し得なくなったために、減圧リニアバルブ152を開いても減圧を行うことができない状態になったか否かを判定することであり、種々の手段が可能であるが、本実施形態においては、目標液圧変化dPref が負の設定値より小さく、かつ、変数flagに減圧を表す値が代入されて一定時間が経過したにもかかわらず、出力液圧Pout1が減少しない場合に、減圧不能な状態になったと判定されるようにされている。そして、S170,S172のいずれかの判定結果がYESとなった場合には、S166,S168が実行される。一連の減圧終了時における値 endPout1の記憶は、一連の増圧の開始時のみならず、制動終了時と減圧不能時とにも行われるのである。
【0065】
上記S168の実行後、S174において、記憶された startPout1と endPout1とから、一連の減圧に伴って減圧用リザーバ154に流入した作動液の量ΔQが取得されるとともに、それまでの作動液総流入量ΣΔQに加算される。一連の減圧に伴って減圧用リザーバ154に流入した作動液の量ΔQは、いかなる方法で取得されてもよいが、本実施形態においては、図20のグラフで表されるマップによって取得される。出力液圧Pout1はほぼホイールシリンダ液圧に等しいと考えてよく、ホイールシリンダ液圧と、ホイールシリンダ24,26,50および52に収容されている作動液の量Qとの間には図20に示す関係がある。したがって、出力液圧Pout1が値 startPout1から値 endPout1まで減少する間にホイールシリンダ24,26,50および52から流出し、減圧用リザーバ154に流入した作動液の量ΔQは、図20のグラフで表されるマップから取得することができるのである。
【0066】
上記S174において取得された作動液総流入量ΣΔQは、S176において、それの最大値ΣΔQmax 、つまりリザーバ容量と比較され、作動液総流入量ΣΔQがリザーバ容量より大きい場合には、減圧リニアバルブ152より減圧用リザーバ154側の部分において液漏れが発生したと判定され、S178において回生制動システムによる回生制動とリニアバルブ装置56を使用する液圧制御とを禁止するフラグに1が代入される。それに応じて、電磁開閉弁30,32および80のソレノイドが消磁されるとともに、リニアバルブ装置56への電圧印加が禁止され、本液圧ブレーキシステム10は通常の液圧ブレーキシステムとして機能する状態とされる。また、上記フラグの内容は、図示しない回生制動システムにおいても参照され、内容が1であれば回生制動が禁止される。
【0067】
なお、上記のように、作動液漏れの検出に応じて、リニアバルブ装置56への電圧印加が禁止されれば、増圧リニアバルブ150が前述のように3MPaの減圧弁として機能する状態となり、RLシリンダ50およびRRシリンダ52の液圧が無用に小さく抑えられることになる。それをできる限り回避するために、少なくとも制動中は、増圧リニアバルブ150のソレノイド210に、連続的に印加しても過熱の問題が生じない程度の電圧が印加されるようにしてもよい。
また、回生制動は禁止されず、増圧リニアバルブ150の制御も通常通り行われるが、減圧リニアバルブ152の制御は禁止されるようにすることも可能である。この場合には、例えば、図7のメインルーチンの大半は通常通り実行されるが、S18の印加処理において減圧側印加電圧Vrelease の印加が禁止されるようにすればよい。また、回生制動システムにおいて回生制動力の制御が行われることによって、回生制動力と液圧制動力との和が所要制動力に等しくされるようにすることが望ましい。S16の作動液漏れ検出処理は実行されるようにしても、実行されないようにしてもよい。
【0068】
本実施形態においては、コントローラ166や減圧リニアバルブ152の故障や誤作動によって、減圧リニアバルブ152が開放状態に保たれても、液圧制動力が確保される。前述のように、リザーバ容量がホイールシリンダ容量よりも小さくされているため、万一、制動中に減圧リニアバルブ152が開放状態に保たれても、ホイールシリンダ24,26,50,52内の作動液がすべて流出することはなく、ある程度の液圧制動力が確保されるのである。そして、コントローラ166による増圧リニアバルブ150の制御が正常であれば、その増圧リニアバルブ150を経てマスタシリンダ12から作動液が補給され、ホイールシリンダ液圧が正常な大きさに回復させられる。また、コントローラ166による増圧リニアバルブ150の制御が正常ではない場合でも、前述のように、増圧リニアバルブ150が3MPaの減圧弁となるのみで、作動液の供給は可能であるため、操縦者がブレーキペダル126の踏力を増せば、ホイールシリンダ液圧を十分な大きさまで回復させることができる。しかも、本実施形態においては、マスタシリンダ12の液圧供給部Rを介して定液圧源20から作動液が供給されるため、ブレーキペダル126の操作ストロークも増大しない。
【0069】
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、増圧リニアバルブ150および減圧リニアバルブ152の電磁付勢装置194と被電磁付勢体204とがそれぞれ弁子駆動装置を構成し、コントローラ66の増圧リニアバルブ150および減圧リニアバルブ152を制御する部分が制御回路を構成している。そして、制御回路のうちのS10を実行する部分がステップ制御手段を構成している。
【0070】
さらに付言すれば、マスタシリンダ12および定液圧源20が共同して液圧源を構成しており、マスタリザーバ18が主リザーバとして機能し、減圧用リザーバ154が副リザーバとして機能する。また、増圧用液圧制御装置としての増圧リニアバルブ150と減圧用液圧制御装置としての減圧リニアバルブ152とが第一液圧制御弁装置を構成し、電磁開閉弁42,44,58,72,84,86等が第二電磁液圧制御弁装置を構成している。そして、コントローラ66の第一液圧制御弁装置を制御する部分が弁装置制御装置を構成しており、それら第一液圧制御弁装置と弁装置制御装置とが液圧制御装置を構成している。また、コントローラ66の第一液圧制御弁装置を制御する部分のうちの、S12の処理を実行する部分がフィードバック手段を、S14の処理を実行する部分が待ち型制御手段をそれぞれ構成している。コントローラ66のS10,S12,S14およびS18を実行する部分が回生制動協調制御手段を構成し、S16を実行する部分が作動液漏れ検出手段を構成している。
【0071】
さらに、コントローラ66の、S102,S110,S112,S120,S124およびS126の処理を実行する部分が保持手段を構成し、S112,S106,S108,S120,S116およびS118の処理を実行する部分が特別制御手段の一種としての保持中特別制御手段を構成している。また、コントローラ66の、S121,S122,S127,S128,S130およびS131の処理を実行する部分が残圧除去手段を、S200,S202,S204,S206,S208およびS210の処理を実行する部分が液圧偏差低減制御手段を構成している。
【0072】
以上説明した実施形態においては、図15の図表で表される比較的複雑な規則に基づいて増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease が算出されるようにされていたが、以下のように簡単な規則に基づいて算出されるようにすることも可能である。
図21はその一例を示すものである。図から明らかなように、偏差errorと目標液圧変化dPref との値の符号に基づいて、リニアバルブ装置56の制御状態が決定される。具体的には、目標液圧変化dPref の値がゼロ以上である場合(▲1▼状態)は、リニアバルブ装置56による増圧と保持とが許容され、減圧が禁止される。また、目標液圧変化dPref の値が負である場合(▲2▼状態)は、減圧と保持とが許容され、増圧が禁止される。図22は、図21の処理を行なった場合の、目標液圧Pref ,出力液圧Pout1,目標液圧変化dPref ,増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease の変化の一例を概念的に示すグラフである。ただし、初期増量および残圧抜きは実行可能であるが、説明は省略する。図22から明らかなように、▲1▼状態においては、増圧および保持のみが行われている。また、▲2▼状態においては、減圧および保持のみが行なわれている。
【0073】
図23は図21とは別の規則に基づく処理を示す図表である。この処理は、基本的には図21に示した内容と同じであるが、目標液圧変化dPref の絶対値が小さい場合には、偏差errorの符号に係わらず、保持のみを許容し、増圧と減圧とを共に禁止する。具体的には、目標液圧変化dPref が予め設定された液圧変化しきい値dPth1 を越える場合(▲1▼状態)においては、図21における▲1▼状態と同様に、偏差errorの符号に基づいて増圧または保持とされる。目標液圧変化dPref が液圧変化しきい値dPth1 以下であり、かつ、液圧変化しきい値dPth2 以上である場合(▲2▼状態)においては、偏差errorの符号に係わらず保持状態とされる。なお、しきい値dPth2 は、しきい値dPth1 より小さい値である。また、目標液圧変化dPref が液圧変化しきい値dPth2 未満である場合(▲3▼状態)においては、図21における▲2▼状態と同様に、偏差errorの符号に基づいて保持または減圧が行なわれる。図24は、図23に示した処理が実行された場合の、目標液圧Pref ,出力液圧Pout1,目標液圧変化dPref ,増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease の変化の一例を示すグラフである。図24において▲2▼状態が追加されたことにより、目標液圧変化dPref の値がゼロ近傍の値である場合において不感帯(図24において斜線で示した領域)が設けられたことになる。目標液圧変化dPref が不感帯内の値である場合は、保持のみが行なわれる。▲1▼状態においては、増圧と保持とが、また、▲3▼状態においては、減圧と保持とが行なわれる。このような処理が行われるようにすることによって、目標液圧変化dPref の絶対値が小さい範囲で目標液圧Pref が変化する場合でも、増減圧の繰返頻度が増大することを回避することができる。
【0074】
図25は、図21および図23に示した処理に代わる別の処理を示す図表である。この処理は、図23に示した処理と同様に、目標液圧変化dPref の絶対値が小さい範囲で目標液圧Pref が変化する場合の増減圧の繰返頻度の増大を回避するためのものである。この回避は、図21に示した処理に加えて、偏差errorの絶対値が小さい場合に、保持のみを許容することによってなされる。具体的には、図21に示した処理の▲1▼状態において、偏差errorが予め設定された偏差しきい値err1(正の値)より大きい場合は増圧状態とされ、偏差しきい値err1以下である場合は保持状態とされる。また、▲2▼状態においては、偏差errorが予め設定された偏差しきい値err2(負の値)未満である場合は減圧状態とされ、偏差しきい値err2以上である場合は保持状態とされる。図23に示した処理が目標液圧変化dPref に対して不感帯を設定したことになるのに対し、図25に示す処理は、偏差errorに対して不感帯を設けたことになるのである。図26は、図25に示した処理を行なった場合の、目標液圧Pref ,出力液圧Pout1,目標液圧変化dPref ,増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease の変化の一例を示すグラフである。目標液圧Pref に対して不感帯が設けられているため、制御の応答性が十分によく、かつ、偏差errorが不感帯の幅よりも小さい場合には、増減圧の頻繁な繰返しが回避される。
【0075】
上記説明から明らかなように、目標液圧変化dPref について不感帯を設けても偏差errorについて不感帯を設けても、似た効果が得られる。これは、図23および図25から明らかなように、目標液圧変化dPref と偏差errorの少なくとも一方について不感帯を設ければ、増圧と減圧との間での直接的な移行をなくし得るからである。
しかし、これら不感帯を設けても、例えば、目標液圧変化dPref の値が液圧変化しきい値dPth1 の近傍で増減を繰り返せば、増圧と保持との間の切換えが頻繁に行われ、騒音の増大や増圧リニアバルブ150の耐久性低下の問題が発生する。この問題は、保持から増圧への切換えの液圧変化しきい値を、増圧から保持への切換えの液圧変化しきい値より大きくすることにより、保持と増圧との間の移行に関してヒステリシスを与えることにより解決することができる。保持と減圧との間に関しても同様である。
【0076】
前記図1ないし図20に示した実施形態において、図18のVapply ,Vrelease 算出処理を図27に示すように変更することも可能である。S100における偏差errorの算出後、S200において、変数flagが保持を表す値であり、かつ偏差errorの絶対値が設定液圧偏差err3を超える状態が設定継続時間T1(実際には、変数flagが保持を表す値であり、かつ偏差errorの絶対値が設定液圧偏差err3以上である状態においてS200が実行されるごとにカウント値が増大するカウンタで計測することが望ましい)以上継続したか否かの判定が行われる。この判定の結果がNOであれば、図18におけるS102以下が実行されるのであるが、判定結果がYESであれば、S202以下が実行される。S202においては、偏差errorが正であるか否かが判定され、正であればS204において印加電圧v1が増圧側印加電圧Vapply としてセットされ、減圧側印加電圧Vrelease が0とされた上、S206において変数flagに増圧を表す値が代入されてVapply ,Vrelease 算出処理が終了する。偏差errorが負であればS202の判定結果がNOとなり、S208において印加電圧v2が減圧側印加電圧Vrelease としてセットされ、増圧側印加電圧Vapply が0とされた上、S210において変数flagに減圧を表す値が代入されてVapply ,Vrelease 算出処理が終了する。
【0077】
コントローラ66の上記S200ないしS210の処理を実行する部分が液圧偏差低減制御手段を構成することになり、保持状態において設定液圧偏差err3を超える偏差errorが設定継続時間T1以上存続した場合には、リニアバルブ装置56を増圧状態と減圧状態とのいずれかとして偏差errorを低減させることができる。なお、液圧偏差低減制御手段の作動中は、液圧制御の制御ゲインが通常より小さくされることが望ましく、例えば、S204またはS208においてセットされる印加電圧v1またはv2が、S106またはS116でセットされる印加電圧v1またはv2より小さくされるようにすることが望ましい。
【0078】
前記図1ないし図20に示した実施形態において、図18のVapply ,Vrelease 算出処理を図28に示すように変更することも可能である。S100における偏差errorの算出後、S220において、変数FlagD が1であるか否かが判定される。当初はこの判定結果がNOであるため、S222において、変数flagが保持を表す値であり、かつ偏差errorの絶対値が設定液圧偏差err3を超える状態が設定継続時間T2以上継続したか否かの判定が行われる。当初はこの判定結果もNOであるため、S224において広不感帯の設定が行われ、続いて図18のS102以下が実行される。それに対し、S222の判定結果がYESとなれば、S226で変数FlagD に1が代入され、S228で狭不感帯の設定が行われる。上記広不感帯の設定は、前記偏差しきい値err1,err2を前記実施形態におけると同じ値に設定することにより行われるのに対し、狭不感帯の設定は、偏差しきい値err1,err2を前記実施形態におけるより絶対値の小さい値に設定することによって行われる。狭不感帯の設定の特殊な場合として、偏差しきい値err1,err2が共に0に設定されるようにすることも可能であり、この場合には、前記図15の目標液圧変化dPref が液圧変化しきい値dPth1 以下かつ液圧変化しきい値dPth2 以上である領域においては、増圧か減圧かが行われ、保持は行われないことになる。S226において変数FlagD に1が代入された後は、S220の判定結果がYESとなり、S230において、S220の判定がYESになってから設定継続時間T3以上が経過したか否かが判定される。S228において狭不感帯の設定が行われてから設定継続時間T3が経過することが待たれるのであり、設定継続時間T3の経過後はS232において変数FlagD に0が代入された上でS224が実行され、不感帯の設定が狭不感帯から広不感帯に戻される。
【0079】
以上の処理により、偏差errorの絶対値が設定液圧偏差err3を超える状態が保持状態の開始から設定継続時間T2以上継続した場合には、不感帯の幅が減少させられるため、液圧偏差が減少させられる。この間はリニアバルブ装置56の増圧状態や減圧状態への移行頻度が増大するが、不感帯の幅減少状態が設定継続時間T3以上継続した場合には不感帯の幅が通常の広さに戻されて、リニアバルブ装置56が増圧状態や減圧状態へ移行させられにくい状態に復帰させられる。コントローラ66の上記S220,S222,S226,S228およびS230の処理を実行する部分が不感帯幅減少手段を構成しているのである。
【0080】
図1ないし図20に記載の実施形態を次のように変更することもできる。図7に記載のメイン処理に、図29に示すようにS17の作動回数カウント処理を追加し、S10のVFapply,VFrelease 算出処理を変更するのである。
S17の作動回数カウント処理の詳細を図30に示す。S300において、変数flagが増圧に変化したか否かの判定が行われる。図18のVapply,Vrelease 算出処理において設定される変数flagが、保持または減圧から増圧に変化したか否かが判定されるのである。そのために、コントローラ66(図1参照)のRAMには直前にS300が実行された際の変数flagの内容を記憶する領域が設けられており、そこに記憶されている変数flagの内容と現時点における変数flagの内容との比較によって上記判定が行われる。判定の結果がYESであれば、S302においてカウンタCapply が1増加させられる。判定の結果がNOであれば、S304において変数flagが減圧に変化したか否かの判定が行われ、判定結果がYESであれば、S306においてカウンタCrelease が1増加させられる。カウンタCapply ,Crelease はぞれぞれ、増圧と減圧との開始毎にインクリメントされるのであり、増圧リニアバルブ150と減圧リニアバルブ152との作動回数をカウントすることになる。
【0081】
図1ないし図20の実施形態のS10のVFapply,VFrelease 算出処理においては、増圧リニアバルブ150および減圧リニアバルブ152のフィードフォワード増圧電圧一定値VFcaおよびフィードフォワード減圧電圧一定値VFcrがそれぞれ(3)式および(4)式に基づいて算出されるようになっていたが、本実施形態においてはそれぞれ次式により算出される。
VFca←MAPa (Pin−Pout1)−K(Capply )・・・(11)
VFcr←MAPr (Pout1−Pres )−K(Crelease )・・・(12)
ここにおいて、関数K(Capply )およびK(Crelease )は、それぞれカウンタCapply ,Crelease のカウント値Capply ,Crelease が大きいほど大きくなる関数である。したがって、例えば、フィードフォワード増圧電圧一定値VFcaは、図31に矢印で示すように、増圧リニアバルブ150の作動回数が増大するにつれて小さい値に決定され、スプリング206の付勢力に抗して弁子200を弁座202から離間させるための電流のステップ量が小さくされる。それによって、増圧リニアバルブ150の作動回数の増大につれてスプリング206がへたり、付勢力が低下しても、増圧リニアバルブ150が開く際の上流側と下流側との差圧には変化が生じないか、変化が小さくて済むことになる。
【0082】
本実施形態においては、増圧リニアバルブ150および減圧リニアバルブ152の使用量がこれらバルブの作動回数によって表されているが、これらのソレノイド210への通電時間の積算値や、これらバルブが組み込まれた車両の完成時点からの経過時間等によって使用量を表すことも可能である。また、関数K(Capply )およびK(Crelease )がバルブの作動回数の増大につれて連続的に増大する関数とされ、ステップ量が連続的に小さくなるようにされているが、段階的に減少するようにすることも可能である。関数の演算による代わりに、マップを使用することも可能である。
【0083】
さらに、図1ないし図20の実施形態において、図7のメイン処理におけるS12のVBapply ,VBrelease 算出処理を変更することも可能である。この算出処理においてはフィードバック制御が一般的なPID制御により行われるようになっていたのを、特殊なPID制御に変更するのである。
フィードバック増圧電圧VBapply およびフィードバック減圧電圧VBrelease を、出力液圧Pout1の目標液圧Pref からの偏差errorに基づいてPID制御する場合には、一般に
VBapply =k・e+k・∫edt+k・de/dt
VBrelease =−(k・e+k・∫edt+k・de/dt )
ただし、eは偏差error、k,k,kは制御ゲイン
の演算によるのであるが、この一般的なPID制御によると増圧から減圧、あるいは減圧から増圧への変化時に応答遅れが生じることがある。例えば、目標液圧Pref および出力液圧Pout1が図32(a)に示すように変化する場合、偏差eおよび偏差積分値∫edtがそれぞれ図32(b),(c)に示すように変化し、偏差eが正から負に変化した際に偏差積分値∫edtが大きな値になっていることがあり、そのためにk・eの負の値がk・∫edtの正の値により減殺されてVBrelease の絶対値が小さくなり、応答性が悪くなることがあるのである。この不都合を回避するために、本実施形態では、偏差eの符号が変化した際、偏差積分値∫edtが、図32の(c)に矢印で示されているように、0にリセットされるようになっている。∫edtが0にリセットされれば、k・eの負の値がk・∫edtの正の値により減殺されることがなくなり、増圧から減圧への応答性が向上させられるのである。偏差eが負から正に変化した際も同様に偏差積分値∫edtが0にリセットされ、減圧から増圧への応答性が向上させられる。
【0084】
上記のように、偏差eの符号が変化する時点で偏差積分値∫edtがリセットされるようにする代わりに、増圧指令から減圧指令に、あるいは減圧指令から増圧指令に変化する時点で偏差積分値∫edtがリセットされるようにすることも可能であり、同様の効果が得られる。
【0085】
以上、回生制動システムを備えた車両用の液圧ブレーキシステムに本発明を適用した場合の実施形態を説明したが、回生制動システムを備えない車両用の液圧ブレーキシステムに本発明を適用することも可能である。所要制動力から回生制動力を差し引いて液圧制動力を決定する処理が不要になる点以外は同様に本発明を実施し得るのである。また、残圧抜きが、ブレーキペダル等のブレーキ操作部材が非操作位置まで復帰させられたことが、検知スイッチ等の検知手段により検知された際に行われるようにすることも可能である。
その他、本発明は特許請求の範囲を逸脱することなく種々の変形,改良を施した形態で実施することができる。

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態である液圧ブレーキシステムの構成を示す系統図である。
【図2】上記液圧ブレーキシステムにおけるマスタシリンダの内部構造を概略的に示す正面断面図である。
【図3】上記液圧ブレーキシステムにおけるリニアバルブ装置の構成を概略的に示す系統図である。
【図4】図3に示した増圧リニアバルブの構造をさらに詳細に示す正面断面図である。
【図5】上記液圧ブレーキシステムにおける制動力制御の概略を示すグラフである。
【図6】図1に示したコントローラの液圧制御に関する機能ブロック図である。
【図7】上記コントローラによって実行されるメイン処理の内容の一例を示すフローチャートである。
【図8】図7のS10においてコールされるVFapply ,VFrelease 算出処理の内容を示すフローチャートである。
【図9】図8のS42において使用される関数MAPa を示すグラフである。
【図10】図8のS46において使用される関数MAPr を示すグラフである。
【図11】目標液圧Pref と目標液圧変化dPref とを算出するために実行されるタイマ割込処理の内容を示すフローチャートである。
【図12】図7,図8および図11に示した各処理によって行われる2つの減圧例を示すグラフである。
【図13】目標液圧Pref の変化の一例と、その目標液圧Pref の変化に基づいて、図7,図8および図11に示した処理によって算出される、フィードフォワード増圧電圧VFapply およびフィードフォワード減圧電圧VFrelease の値の変化を示すグラフである。
【図14】目標液圧Pref の変化の一例と、その目標液圧Pref の変化に基づいて、図7,図8および図11に示した処理によって出力される出力液圧Pout1の変化の一例を示すグラフである。
【図15】図7のS14においてコールされるVapply ,Vrelease 算出処理の内容の一例を説明するための図表である。
【図16】上記初期増量の必要性を説明するためのグラフである。
【図17】図15にその内容を示した処理と初期増量および残圧抜きとを行なった場合の、目標液圧Pref の変化の一例と、それにともなう出力液圧Pout1,目標液圧変化dPref ,増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease の変化を概念的に示すグラフである。
【図18】図7のS14に示したVapply ,Vrelease 算出処理の内容の一例を示すフローチャートである。
【図19】図7のS16に示した作動液漏れ検出処理の内容の一例を示すフローチャートである。
【図20】図19のS174で利用されるホイールシリンダ液圧とホイールシリンダ内作動液量との関係を示すグラフである。
【図21】図7のS14においてコールされるVapply ,Vrelease 算出処理の図15に示したのとは別の例を示す図表である。
【図22】図21にその内容を示した処理を行なった場合の、目標液圧Pref の変化の一例と、それに伴う出力液圧Pout1,目標液圧変化dPref ,増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease の変化を概念的に示すグラフである。
【図23】図7のS14においてコールされるVapply ,Vrelease 算出処理のさらに別の例を示す図表である。
【図24】図23にその内容を示した処理を行なった場合の、目標液圧Pref の変化の一例と、それに伴う出力液圧Pout1,目標液圧変化dPref ,増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease の変化を概念的に示すグラフである。
【図25】図7のS14においてコールされるVapply ,Vrelease 算出処理のさらに別の例を示す図表である。
【図26】図25にその内容を示した処理を行なった場合の、目標液圧Pref の変化の一例と、それに伴う出力液圧Pout1,目標液圧変化dPref ,増圧側印加電圧Vapply および減圧側印加電圧Vrelease の変化を概念的に示すグラフである。
【図27】図18に示したVapply ,Vrelease 算出処理とは別の算出処理の一部を示すフローチャートである。
【図28】Vapply ,Vrelease 算出処理のさらに別の例の一部を示すフローチャートである。
【図29】本発明のさらに別の実施形態におけるメイン処理を示すフローチャートである。
【図30】上記メイン処理における作動回数カウント処理を示すフローチャートである。
【図31】上記メイン処理のVFapply ,VFrelease 算出処理を説明するためのグラフである。
【図32】本発明のさらに別の実施形態におけるメイン処理のVBapply ,VBrelease 算出処理を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
10:液圧ブレーキシステム 12:マスタシリンダ 14:ポンプ
16:アキュムレータ 24:FLシリンダ 26:FRシリンダ 30,32,42,44,58,72,80,84,86:電磁開閉弁 34,62,64,88:液圧センサ 50:RLシリンダ 52:RRシリンダ
56:リニアバルブ装置 60:プロポーショニングバルブ(Pバルブ)
66:コントローラ 100:摺動穴 102:プランジャ 104:スプール 108,112,206,220:スプリング 116:第一液圧室 118:第二液圧室 122:第三液圧室 126:ブレーキペダル 150:増圧リニアバルブ 152:減圧リニアバルブ 154:減圧用リザーバ 162,172:第一ポート 166,176:第二ポート
182:ハウジング 184:ピストン 186:液収容室 188:圧縮コイルスプリング 190:シーティング弁 194:電磁付勢装置
196:ハウジング 200:弁子 202:弁座 204:被電磁付勢体 210:ソレノイド 212:保持部材 214:第一磁路形成体 216:第二磁路形成体 230:ストロークシミュレータ 250:ロッド部材 260:第一部材 262:第二部材 268:第三部材
272:嵌合突部 274:嵌合穴 276:スペーサ 300:フィードフォワード制御部 302:フィードバック制御部 306:ブレーキランプスイッチ

Claims (6)

  1. 弁座と弁子とを備えて液通路の途中に設けられ、弁子が弁座に着座することにより液通路を高圧側と低圧側とに仕切るとともに、弁子が高圧側と低圧側との液圧差に基づく付勢力を弁座から離間する向きに受けるシーティング弁と、
    前記弁子を前記弁座に着座する向きに付勢する弾性部材と、
    電流の供給を受けて前記弁子に前記弁座から離間する向きの駆動力を付与する弁子駆動装置と、
    その弁子駆動装置へ電流を供給するとともに、その電流の大きさを制御することにより前記シーティング弁の高圧側と低圧側との少なくとも一方の液圧を制御する制御回路と
    を含む液圧制御装置において、
    前記制御回路に、
    前記シーティング弁が閉状態にある状態から、前記弁子駆動装置への電流をステップ的に増大させ、かつ、そのステップ的に増大させる電流の量であるステップ量を前記液圧差が大きいほど小さくするステップ制御手段と、
    そのステップ制御手段によるステップ的増大に続いて前記液圧差を漸減させるべく前記弁子駆動装置への電流を漸増させる漸増制御手段と
    を設けたことを特徴とする液圧制御装置。
  2. 前記シーティング弁の前後の液圧差を検出する液圧差検出装置と、
    その液圧差検出装置により検出された液圧差に基づいて前記ステップ量を決定するステップ量決定手段と
    を含む請求項1に記載の液圧制御装置。
  3. 前記ステップ制御手段が、前記ステップ量を、前記シーティング弁の使用量が大きい場合に小さい場合に比較して小さくする使用量対応ステップ量減少手段を含む請求項1または2に記載の液圧制御装置。
  4. 前記シーティング弁の使用量が、そのシーティング弁の使用開始時点から現時点までの作動回数の総計である請求項3に記載の液圧制御装置。
  5. 前記シーティング弁の使用量が、使用開始時点から現時点までの前記弁子駆動装置への通電時間の総計である請求項3に記載の液圧制御装置。
  6. 液圧源と、
    車輪の回転を抑制するブレーキを作動させるホイールシリンダと、
    弁座と弁子とを備えて前記液圧源とホイールシリンダとを接続する液通路の途中に設けられ、弁子が弁座に着座することにより液通路を遮断するとともに、弁子が液圧源側とホイールシリンダ側との液圧差に基づく付勢力を弁座から離間する向きに受けるシーティング弁と、
    前記弁子を前記弁座に着座する向きに付勢する弾性部材と、
    電流の供給を受けて前記弁子に前記弁座から離間する向きの駆動力を付与する弁子駆動装置と、
    その弁子駆動装置へ電流を供給するとともに、その電流の大きさを制御することにより前記ホイールシリンダの液圧を制御する制御回路と
    を含むブレーキシステムにおいて、
    前記制御回路に、
    前記シーティング弁が閉状態にある状態から、前記弁子駆動装置への電流をステップ的に増大させ、かつ、そのステップ的に増大させる電流の量であるステップ量を前記液圧差が大きいほど小さくするとともに、前記ホイールシリンダの液圧を単位量増大させるのに必要な作動液量が多い場合は少ない場合より大きくするステップ制御手段と、
    そのステップ制御手段によるステップ的増大に続いて前記液圧差を漸減させるべく前記弁子駆動装置への電流を漸増させる漸増制御手段と
    を設けたことを特徴とするブレーキシステム。
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