JP3556827B2 - 非酸化性ガス雰囲気無フラックスろう付け用材料の製造方法およびろう付け方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はろう付け仕様によって製作されるアルミニウム製品、例えば自動車用ラジエーター、カーエアコン用のエバポレーターやコンデンサー、その他の電気、産業機械用の各種アルミニウム製熱交換器、あるいは自動車用のアルミニウム製吸気マニホルド等のアルミニウムろう付け品に使用する非酸化性ガス雰囲気無フラックスろう付け用アルミニウム材の製造方法、およびその材を用いたろう付け方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記のようなアルミニウム製品をろう付けによって製造する場合、非腐食性フッ化物系フラックスを用いて構成部材をろう付け接合する方法が多く用いられている。
従来、かかる非腐食性フッ化物系フラックスろう付けを行う場合、まずアルミニウム材を必要に応じプレス成形や切断加工して製品形状に仮組み立てしてから、フラックスの懸濁水溶液を、アルミニウム材の表面に塗布した後、これを予備乾燥し、しかる後に非酸化性ガス雰囲気中でろう付け温度に加熱してろう付けを行っていた。またこの際、最近ではフラックスの予備乾燥炉とろう付け炉がつながった連続炉が主流となっている。
通常の非腐食性フッ化物系フラックスブレージングのフラックス皮膜は、懸濁液に浸漬して形成するので厚さに極端なむらができやすく厚い箇所では100μm程度になり脆いので塗布・乾燥後、プレス加工やその他の取扱いを行うと部分的に剥離してその部分のろう付けが不可能になる。そこで、通常は前述のように複雑な製品形状に組み立ててろう付け直前に懸濁液の塗布作業・乾燥作業を行っている。
【0003】
しかしながら、このような方法では、複雑な製品形状に組み立ててから懸濁液の塗布作業・乾燥作業を必要とするため作業効率が良くなかった。また、ろう付け工程直前に乾燥工程があるのでこの工程に十分時間をかけて行わないと発生水分がろう付け炉に持ち込まれて、ろう付け雰囲気中の露点が低下し、ろう付け性を低下させる恐れがあり、一方乾燥工程にあまり時間をかけすぎるとライン全体の律速工程になってしまうというジレンマがあった。
また、複雑な製品形状での塗布なので、塗布量が不均一になりやすく安全をみて多めに塗布せざるを得なく、アルミニウム部材へのフラックス付着量が概して多くなってしまう傾向があるため、ろう付け炉が汚染されるとか、炉中で溶融したフラックスが滴下して炉内に蓄積され金属製の炉壁が腐食するような事態を生じ、このためろう付け炉のクリーニング、オーバーホールの頻度を多くせざるをえないという問題もあった。
【0004】
さらには、通常用いられる非腐食性フッ化物系フラックス成分は前述のように過剰に付いてしまうので余剰のフラックスは流れ、ろう付け後のアルミニウム製品の表面に局所的に残留した余剰のフラックスが、灰色ないし白色のシミを生じ、色調斑を呈して外観体裁を損なうばかりか、その後の表面処理を妨げるという問題もあった。
また、過剰のフラックス塗布はコスト面でも問題であった。
さらに、非腐食性フッ化物系フラックスを用いるろう付けではMgを含有するアルミニウム材料を用いるとフラックス中のFとアルミニウム材料中のMgとが素早く反応し濡れ性の悪いMgF2を形成するので0.2%をこえるMgを含有する材料は使用できず、ろう材にMgを添加してゲッター作用を期待したり、芯材にMgを添加して強度向上し薄肉軽量化するというユーザーニーズとぶつかっていた。
その上、非腐食性フッ化物系フラックスはろう付け過程で微量のHFガスを発生するので、漏れた場合には環境上及び健康上の問題を生ずる。これを避けるためにはHFの回収除去装置を必要とするので新たなコストが生ずる。
【0005】
一方、非腐食性フッ化物系フラックスろう付けにおいては、成形加工油を塗布した後に必要な加工をして仮組立してトリクロロエタン等の有機溶剤で洗浄した後乾燥してろう付けするという長い工程を採っており、効率が悪かった。
【0006】
これらの問題点に対して、アルミニウム材に対する事前の表面処理でこれらの問題を解決しようとする改良技術がある。
非腐食性フッ化物系フラックスブレージングに近い方法としては、アルミニウム材をカリウム及びフッ素を含有する処理溶液と接触せしめる事により、該アルミニウム材の表面に化学反応によってK2AlF5層を形成した後、ろう付けを行う方法が提案されている。(特開昭60−83771号)。さらに、上記反応を促進して短時間でK2AlF5層を形成する方法として、上記処理溶液内でアルミニウム材を電解化成処理する方法も提案されている。(特開昭61−52984号)。これらの方法によれば、アルミニウム材へのフラックス付着量を少なくでき、炉内の汚染の問題やろう付け後の外観の体裁の問題を改善できるとされている。しかし前者の方法は反応が遅いので生産性が低く、この為、後者のように電解処理装置などが必要となりコストがかかりすぎる問題がある。
【0007】
また、アルミニウム材をセシウムイオン及びフッ素イオンを含有する処理溶液と接触せしめることにより、該アルミニウム材表面にフルオロアルミニウム酸セシウム層又はフルオロアルミニウム酸セシウムとフッ化アルミニウムとの混合物層を形成した後、ろう付けを行う方法が提案されている。(特開昭61−169162号)。この方法は具体的にはフッ酸系とフッ化セシウムとを用いpH2〜6で処理するものであるが、もともとフッ酸として存在するものを用いると、環境的にも作業者の健康への影響の点からも危険で非常に扱いにくいという問題がある。また、pH2〜6で処理すると皮膜生成反応が遅く特にコイル状態では処理時間が長くかかってしまう。フッ酸を用いたうえでpHを2未満にすると反応が激しすぎて表面が荒れてしまい、フルオロアルミニウム酸セシウム層又はフルオロアルミニウム酸セシウムとフッ化アルミニウムとの混合物層の形成が阻害されてしまう。
【0008】
さらに、本発明者等が提案した、弗化物(弗化アンモニウム、弗酸、硼弗化水素酸・珪弗化水素酸、弗化カリウム)あるいはそれと無機酸との混合溶液、弗素ガス等によりコイルまたは切り板の状態で前処理することにより、Mg無しろう材で真空ろう付けを可能としたり・Mg入り芯材を窒素雰囲気ろう付けで使用することを可能とする技術(特開平07−164138、07−164139、07−164140、07−164136、07−185795、07−185797)もあるが、非腐食性フッ化物系フラックスの場合と同様、ろう付け過程で微量のHFガスを発生するので、漏れた場合には環境上及び健康上の問題を生じ、これを避けるためにはHFの回収除去装置を必要とするので新たなコストが生ずる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本願発明者は、複雑な製品形状に組み立ててからフラックスを塗布することに起因する通常の非腐食性フッ化物系フラックスブレージングの上記問題点を回避し、ろう付け加熱の均一性の良い非酸化性ガス雰囲気ろう付けでもMgのゲッター作用が利用でき、成形加工油の除去のため溶剤や薬剤による洗浄工程を省略でき、かつ、上記した改良技術の問題点である、生産性、設備コスト、表面性状、フィレット形成能、環境問題等すべてを改善したろう付け方法を求めて模索した。
【0010】
ここで参考にしたのは、
1.真空炉内部のMgによる汚染を防止するためブレージング材料を酸洗し酸化皮膜を除去することによりろう材中のMgを無くしても真空ろう付けできるようにした技術。(特開平06−179095)
2.揮発し易い成形加工油を用いて成形加工した部品を組み立ててから非腐食性フッ化物系フラックス(ノコロックフラックス)の粉末を吹き付けたりあるいは同様な油にフラックスを混合させた液体を吹き付けて加熱して脱脂しその後連続的にろう付けを行う技術。(特開平05−169247)
の二つである
すなわち、前者の酸洗と後者の加熱脱脂とを、いずれとも異なる非酸化性ガス雰囲気無フラックスろう付けに組み合わせて適用できないかと考えたのである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
その結果、当研究者らはMgを含有するろう材を用いたアルミニウム材を硝酸、硫酸、燐酸、クロム酸等の無機酸を含む水溶液で処理し(以降、単に「酸洗」と称することもある)酸化皮膜厚さを一定値以下に調整すると、意外にも窒素雰囲気下でフラックス無しでろう付けでき、成形加工油の除去も加熱のみで簡単にできることを見いだし本願発明に至った。
【0012】
すなわち、
請求項1の、
Si5〜20wt.%、Mg0.05〜5wt.%、Bi0〜1.0wt.%、Be0.0002〜0.1wt.%を含有するAl−Si−Mg系合金ろう材が少なくとも片面にクラッドされたアルミニウム材を、コイル又は平坦な切り板の状態で、硝酸、硫酸、燐酸、クロム酸の1種又は2種以上をこれら無機酸の合計で1〜60wt.%含む水溶液で、5℃〜90℃の温度で1秒〜20分処理して、表面の酸化皮膜を20オングストローム以下まで除去するとともに、表面近傍のMg/Al比を0.4以下とし、その後、引火点が40〜140℃、粘度が1〜5cStの成形加工油を0.1〜10g/m2塗布することを特徴とする非酸化性ガス雰囲気無フラックスろう付け用材料の製造方法であり、
【0013】
請求項2の、
Si5〜20wt.%、Mg0.05〜5wt.%、Bi0〜1.0wt.%、Be0.0002〜0.1wt.%を含有するAl−Si−Mg系合金ろう材が少なくとも片面にクラッドされたアルミニウム材を、コイル又は平坦な切り板の状態で、硝酸、硫酸、燐酸、クロム酸の1種又は2種以上をこれら無機酸の合計で1〜60wt.%含む水溶液で、5℃〜90℃の温度で1秒〜20分処理して、表面の酸化皮膜を20オングストローム以下まで除去するとともに、表面近傍のMg/Al比を0.4以下とし、その後、引火点が40〜140℃、粘度が1〜5cStの成形加工油を0.1〜10g/m2塗布した後、必要な加工後、仮組立の前、あるいは後に、加熱して成形加工油を揮発除去してから、非酸化性ガス雰囲気でフラックス無しでろう付けすることを特徴とするろう方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
ろう付け材料には、Si5〜20wt.%、Mg0.03〜5wt.%、Bi0〜1.0wt.%、Be0.0002〜0.1wt.%を含有するAl−Si−Mg系合金ろう材が少なくとも片面にクラッドされたアルミニウム材を用いる。
ろう付材中のSiはろう材の融点を下げ流動性を良くするもので5〜20wt.%、の通常の範囲なら良い。
ろう付材中のMgは従来の非腐食性フッ化物フラックスを用いる非酸化性ガス雰囲気ろう付けでは使用できなかったものだが、本願ではそのゲッター作用を積極的に利用するため必須のものである。すなわち、コイルまたは平坦な切り板状態での酸洗で除去しきれなかった20オングストローム以下の酸化皮膜をろう付け加熱中にそれ以上成長させないだけでなく、酸化皮膜を割るために、ろう材のMgの蒸発を利用するのである。0.05wt.%未満ではこの作用が不十分で、5wt.%を超えるとエロージョン等の他の特性を劣化させる。同様の理由で、Mgの好ましい範囲は0.1〜2wt.%である。
ろう付材中のBiは本願発明には必須ではないがろうの流動性を向上させるために添加すると好ましい。添加する場合には多すぎるとエロージョン等の他の特性を劣化させるので1.0wt.%以下にする。よって、ろう材へのBiの添加量は0を含む1.0wt.%以下とする。同様の理由で、Biの好ましい範囲は0.02〜0.2wt.%である。
ろう付材中のBeはろうの流動性を向上させるためと酸洗処理後の放置時間の長時間許容化のために添加する。0.0002wt.%未満ではこれらの効果がない。また、Beは毒性を有するのでできるだけ少ない方が良く0.1wt.%以下にする。同様の理由で、Beの好ましい範囲は0.0005〜0.01wt.%である。
本願発明のろう材には上記した主要成分Al,Si,Mg,Bi,Beの他にZn,Fe,Cu,Mn,Ti,Cr,Zr等の元素が存在していても良い。
Znは犠牲防食のためにろう材に添加しても良いが添加する場合は、自己耐食性、圧延性の観点から6.0wt.%以下が好ましい。
また、Fe,Cu,Mn,Ti,Cr,Zr等の元素の含有量が多くなると生成する金属間化合物等の量が多く、また粗大になって耐食性を劣化させるので、Fe≦1.0wt.%,Cu≦0.5wt.%,Mn≦0.6wt.%,Ti≦0.3wt.%,Cr≦0.3wt.%,Zr≦0.3wt.%に規制することが好ましい。
なお、ろう材にはこれら元素の他に不可避不純物が含まれる場合がある。
【0015】
上記はろう材の化学組成であるが、ろう材がクラッドされる芯材やブレージングシートに組み合わせられる別の構成部材は、1000,3000,5000,6000,7000系等のいずれのアルミニウム合金でもかまわない。特に、同じ非酸化性ガス雰囲気ろう付けでもノコロックブレージングのように非腐食性フッ化物系フラックスを用いないので、Mgを含有する材料が自由に使えるメリットがある。
ブレージングシートの構成は少なくとも片面に上記ろう材がクラッドされていれば良く、ろう材/芯材、ろう材/芯材/ろう材、ろう材/芯材/犠牲材、ろう材/芯材/犠牲材/ろう材、等2層以上何層になってもかまわない。
【0016】
上記組成を有するAl−Si−Mg系合金ろう材が少なくとも片面にクラッドされたアルミニウム材をコイル又は平坦な切り板の状態で、硝酸、硫酸、燐酸、クロム酸の1種又は2種以上をこれら無機酸の合計で1〜60wt.%含む水溶液で、5℃〜90℃の温度で1秒〜20分処理して、表面の酸化皮膜を20オングストローム以下まで除去する。
コイル又は平坦な切り板の状態で処理することによって、組み立ててから処理するものに比べて処理自体や乾燥の効率が飛躍的に向上する。
【0017】
硝酸、硫酸、燐酸、クロム酸の1種又は2種以上を用いるのはこれら酸性の処理液を用いることによって酸化膜全体の除去のみでなく、酸化膜中のMgを優先的に除去するので成形加工油がMgと金属石鹸を作り難くなり除去がしやすくなる。
【0018】
これら無機酸の合計で1〜60wt.%含む水溶液で、5℃〜90℃の温度で1秒〜20分処理する。
無機酸の濃度が60wt.%を超えたり、処理温度が90℃を超えるとエッチングが進みすぎアルミ地までやられてしまい、処理液の劣化も早い。
酸化皮膜を20オングストローム以下に除去するのに、無機酸の濃度と処理温度の最大値を組み合わせると1秒しかかからないが、無機酸の濃度と処理温度の最小値を組み合わせると20分かかる。これ以上時間がかかると実用的でないので無機酸の濃度と処理温度の最小値はそれぞれ1wt.%、5℃とする。
なお、何らかの理由で材料表面の汚れがひどかったり、酸化皮膜が非常に厚く生成してしまっている場合には、この酸による処理の前に、珪酸ソーダ、りん酸ソーダ、苛性ソーダ等のアルカリ脱脂、硫酸、硝酸等の酸脱脂、及び/又は溶剤脱脂等を施すのが好ましい。
【0019】
そして、表面の酸化皮膜を20オングストローム以下まで除去するとともに、表面近傍のMg/Al比を0.4以下とするのである。
この酸化皮膜厚はGDS(グロー放電による発光分光法)で測定する。
このGDSで材料表面から深さ方向に解析していって、測定した酸素元素ピークの半値幅の位置を酸化皮膜厚さと定義し、これを20オングストローム以下にする必要がある。また、測定時の放電条件は電圧600V,電流70mAとする。
20オングストローム以下にすると、ろう材中のMgを前記の量含有する前記ろう材を使用することにより、非酸化性ガス雰囲気でフラックス無しにろう付けが可能となる。
表面近傍のMg/Al比は、同じくGDSで放電条件:電圧600V,電流70mAで0秒から0.12秒(20オングストロームの深さ)までスパッターしたときのMg,Alの積分値から求める。
【0020】
このような表面状態にした場合にろう付け性が良好な理由は明確ではないが、以下のように考えられる。
Mgを含有するアルミ合金材を酸素の多い雰囲気中で加熱すると表面のMgが優先的に酸化されるため、まず表面近傍の固溶Mg濃度が低下する。すると、この固溶Mg濃度差を埋めるようにアルミ合金材の内部から表面に向かってMgの拡散が生じる。
Mgを含有するアルミ合金材においては製造時、例えば、熱間圧延、焼鈍工程でこのような変化がおこっている。
この後で、酸化皮膜中にMgOとして存在するMgと、アルミ合金中に固溶MgとMg2Siとして存在するMgとをカウントする方法で表面近傍のMg/Al比を測定すると、表面の方が内部より非常にMg濃度が高くなる。
例えば、後述の比較例4ではAl−10%Si−0.4%Mgのろう材を使っているのでアルミ材内部の平均Mg/Al比は約0.4/89.6=0.004(重量比)となるはずだが、無機酸による処理をしないまま表面近傍でGDSで測定すると、0.8にもなっている。
【0021】
このようなMgを含有するろう材を、無機酸による処理をしないで真空ろう付けに比べ酸素濃度の高い非酸化性ガス雰囲気でろう付け加熱すると、MgOを多量に含むポーラスな酸化皮膜が厚く存在しているので、力が分散してしまいアルミ地との熱膨張率の差があっても酸化皮膜が割れない。その結果ろう材から蒸発しようとするMgが雰囲気に出て来れずゲッター作用が発揮されない。さらに、MgOを多量に含むポーラスな酸化皮膜には、H2OやO2が吸着し易く、せっかく露点や酸素濃度を規制した雰囲気で加熱しても、吸着していたこれらH2OやO2が出てきてしまい雰囲気を悪くする。
【0022】
一方、本願のように無機酸による処理を施すと、まず表面酸化皮膜中のMgO次に表面酸化皮膜中のAl2O3が溶解するので、酸化皮膜は薄くなり、残った薄い酸化皮膜中にもMgOはほとんど存在しない。このような酸化皮膜はポーラスでなく薄いので、非酸化性ガス雰囲気でろう付け加熱すると、アルミ地との熱膨張率の差によって酸化皮膜が割れ、アルミの新生面が生じる。その結果ろう材から蒸発しようとするMgが雰囲気に出て来てゲッター作用を発揮する。また、この時ろう材が溶けていれば濡れを生じる。さらに、ポーラスでない酸化皮膜には、H2OやO2が吸着しにくいので、雰囲気を悪くしない。
この境界点が、上記方法で測定した場合に、酸化皮膜厚で20オングストローム、表面近傍のMg/Al比で0.4ということになる。
【0023】
無機酸の水溶液で処理するのは、もちろんアルミニウム材の全面でもかまわないが、少なくともろう材およびろう材と接してフィレットの形成に寄与する部材表面は酸洗処理する必要がある。
無機酸の水溶液処理後の表面は通常のろう付け用非腐食性フッ化物系フラックスが塗布された皮膜等と異なり皮膜自体が形成されないので、その後成形その他の取り扱いを行っても皮膜のはがれ等がない。
また、コイルや平坦な切り板状態での処理は、平坦表面に対する処理なので、均一な皮膜生成が容易で、かつほとんどの水分は絞りロール等で除去することが可能なので乾燥時間も大幅に短縮でき大変生産性が高い。
【0024】
その後、引火点が40〜140℃、20℃における粘度が1〜5cStの成形加工油を0.1〜10g/m2塗布する。
この成形加工油は、部品の切断やプレス成形の潤滑および酸化皮膜成長を予防するために塗布するものであるが、揮発性が低いと、ろう付け前に油を除去するために有機溶剤や苛性ソーダ等の薬剤による脱脂処理が必要となり、工程が増え効率的でなくまた環境的にも対策が必要となる。
引火点が低いほど揮発しやすく後の加熱処理だけで脱脂できるようになるが、引火点が40℃未満では成形前に揮発してしまい成形加工の潤滑の役に立たない、引火して火災を起こす危険が増す等の不都合があるので40℃以上とする。また、140℃を超えると加熱処理程度では揮発されずアルミ材料に焼き付いたり、油のまま残っていたりでろう付け性を阻害する。従って、成形加工油には引火点が40〜140℃のものを用いる。
【0025】
また、成形加工油の粘度が、1cSt未満であると成形性が悪く、5cStを超えるとアルミ材表面にこびりつき加熱しても揮発しにくくなり後のろう付け性に悪影響を与える。よって成形加工油の粘度は、1〜5cStとする。
【0026】
また成形加工油の塗布量が0.1g/m2未満ではアルミニウム材全面に塗布することが難しくなり、成形の潤滑の役に立たず、また保管して長時間経過すると塗布されていない部分の酸化皮膜が厚くなりろう付け性を阻害する。
10g/m2を超えると揮発除去するための加熱時間を長くとらなければならず作業効率が落ちたり、残存した油によるろう付け性の阻害が生じる。
よって、成形加工油の塗布量は0.1〜10g/m2とする。
なお、この成形加工油は、鉱油を主成分とするが、極圧添加剤や防錆剤を含有していてもかまわない。
【0027】
本願のろう材のようにMgを含有する合金に成形加工油を塗布するとMgを含有しないアルミニウム合金に比べ非常に取れにくい。ところが、酸洗して酸化皮膜を除去するとこれが劇的に改善される。
この理由は明確ではないが、以下のように考えられる。
Mgを含有するろう材表面にはMgが偏析してMgの多く含まれる酸化膜がある。Mgを多く含む酸化皮膜はポーラスなので油がしみ込みやすく抜けにくいし、Mgが油と結合して金属石鹸を作りやすい。金属石鹸の存在はろう付け性を著しく阻害するし、酸化皮膜が厚いと一旦しみ込んだ油は一層抜けにくくなる。
この酸化皮膜を本願のように無機酸で処理することにより、酸化皮膜自体が除去され薄くなるのみでなく、残った酸化皮膜中のMgを優先的に除去するので、成形加工油がMgと金属石鹸を作り難くなる。
この成形加工油は酸洗後に塗油してアルミニウム材表面の酸化防止する役割も担うが、酸洗処理後すぐにろう付けできるとは限らないので、生産性の観点から酸洗処理後ろう付けまでの放置時間が長くなってもろう付け性に影響がないことが望まれる。
酸洗でポーラスなMg酸化物を除去してから、塗油することによって金属石鹸の生成を防止するようにしているが、それだけでは酸洗塗油後ろう付けまでに長期保管すると油中の水分あるいは油膜を通過してくるO2によってポーラスなMg酸化物が少量成長してしまい、これに油が入り込みあるいは金属石鹸を生成して油の除去が困難になる。
ろう材にBeを添加すると表面に緻密な酸化物が生成し、これが油とMgとの中間層となりポーラスなMg酸化物の成長を阻害し、油の入り込みあるいは金属石鹸の生成が阻害され、油の除去が簡単になるものと思われる。
【0028】
上記のような処理を施されたアルミニウム材料は必要な大きさに切断したりプレス等の成形をした後、あるいは、最終製品形状に仮組立てした後に、加熱処理することにより成形加工油を揮発させる。
成形加工油を揮発させるためには100〜250℃に加熱するのが好ましい。。100℃未満だと、揮発させるのに時間がかかりすぎ、250℃を超えるとアルミ材表面の酸化が進み酸洗でせっかく薄くした酸化皮膜がまた厚くなってしまいろう付け性を阻害する。
また、成形加工油を揮発させるためにわざわざ特別に加熱処理工程を付加しなくても、非酸化性ガス雰囲気ろう付け炉の予熱室における予熱で兼ねても良い。
成形加工油の揮発を助けるため、風や真空を併用するのも好ましい。
成形後の部品段階で成形加工油を揮発させた場合その後最終製品形状に仮組立てしてから、最終製品形状に仮組立てしてから成形加工油を揮発させた場合そのまま、非酸化性ガス(例えば、窒素やアルゴン)雰囲気でろう付けする。
本発明においては雰囲気の酸素濃度を200ppm以下、露点を−30℃以下としてろう付けするのが好ましい。
【0029】
本発明によれば、ろう付け品を仮組立してからフラックスを塗布することに起因する通常の非腐食性フッ化物系フラックスブレージングの問題点(作業効率、乾燥工程が必要で生産性悪い、ろう付け炉クリーニング・オーバーホール頻度の多さ、ろう付け後外観体裁、コスト)、フラックスや処理液に弗化物を用いることによる問題点(環境上・健康上の問題、Mg含有材料が使えない)、成形加工油の除去に関する問題点、酸洗塗油後の保管期間に関する問題点等が全て解決され、作業効率が良く、環境に優しく、使用材料の許容度が高いろう付けが可能になる。
【0030】
【実施例】
以下に実施例にもとづき本発明を更に詳細に説明する。
(発明例1〜9)
板厚0.6mmのブレージング用アルミニウムクラッド材(3003+0〜1.5%Mgの芯材に、Al−10%Si−0〜3%Mg−0〜1%Bi−0.0002〜0.1%Beろう材を15%づつ両面にクラッドしたもの。ただし、発明例5の芯材だけはMg量0.6%の6951)のコイルを巻き戻しながら、表面をアルカリ系脱脂剤で脱脂した後、表1に示した条件で無機酸の水溶液により処理し次に水洗・純水洗した後、絞りロールで水分を除去してから100℃の温風で乾燥し、表1に示した条件で成形加工油(昭和シェル石油製RF−190、引火点76℃、粘度2.1cSt)を塗布し再度コイルに巻いた。その後、必要な寸法に切断し、カップ成形したものに120℃,20分の加熱を施し成形加工油を揮発させた後、交互に4段に組み立てた。
【0031】
【表1】
【0032】
(比較例1)
ろう材MgとBeを0%にした以外は発明例1と同じブレージング用アルミニウムクラッド材に成形加工油(出光興産製ダフニーネオフルイド32、引火点230℃、粘度32cSt)を塗布し、その後、必要な寸法に切断、カップ成形、溶剤(メチルエチルケトン)で脱脂後組み立てた。次いで該組み立て品を水に分散させた非腐食性フッ化物系フラックス(ノコロック)の懸濁液中に浸漬させた後120℃×20分で乾燥させ、3.0g/m2のフラックスを塗布した。
(比較例2)
材料としてろう材にMgを0.4%含有するものを用いたほかは比較例1と同様の処理をしたもの。
(比較例3)
ろう材Mgを0%にし成形加工油を0.05g/m2しか塗布しない以外は発明例3と同じもの。
(比較例4)
ろう材Beを0%にした以外は発明例3と同じもの。
(比較例5)
比較例2と同じブレージング用アルミニウムクラッド材を用いたが、無機酸の水溶液による処理も成形加工油の塗布も行わないもの。
【0033】
以上の発明例1〜9及び比較例1〜4について、切断前の平板状態で外観を目視観察し、経済性、効率性の評価とあわせて表2に記入した。
【0034】
また、モデルカップ各熱交換器仮組立物を、大気圧で窒素置換をし炉内の酸素濃度50ppm、露点温度−40℃、ろう付け温度600℃で10分の窒素雰囲気ろう付けを施し、ろう付け品について、処理直後にろう付けした場合と皮膜処理後しばらく放置してからろう付けした場合のろう付け性を目視観察すると共に直後にろう付けした場合のみ外観、表面処理性の評価を行った。
表面処理性は各ろう付け品をアロジン#1200溶液中に45℃で2分間浸漬して化成処理を行った後、アクリル系塗料を用いて浸漬塗装を行い焼付乾燥した。次いで、ろう付け品の平坦部において塗膜面に1mm目のマス目を縦横各10個づつ100個けがいてテープ剥離試験を実施し塗膜の残ったマス目の数で評価した。
これらの結果を表2に示す。
炉汚染性の評価は5バッチ連続してろう付けしたときのフラックスの滴下が無いものを ◎ 、フラックスの滴下が認められたものを × とした。
【0035】
【表2】
【0036】
比較例1は通常の非腐食性フッ化物系フラックス(通称ノコロックフラックス)の懸濁液による仮組立後の処理のため、ろう付け前の経済性、効率性が劣り、またフラックス皮膜が不均一である。更にこのフラックスはろう付け時に液相になるため、ろう付け後の外観が模様状のむらになり、またろう付け後にも皮膜ができ洗浄しても落ちきらないので表面処理性(塗膜密着性)が劣る。
比較例2は比較例1と同じフラックスを用いているが、ろう材にMgを含有するアルミ材料に用いているので比較例1の欠点のほかに、フラックスとMgとが反応し濡れ性が悪くなりフィレットの形成が劣る。
比較例3は成形加工油が少ないので成形性が劣り、ろう材中のBeが0%のため無機酸の水溶液処理後ろう付けまでの放置時間が長いとろう付け性も劣るようになる。
比較例4は比較例3より成形加工油が多いので成形性は向上するが、無機酸の水溶液処理後ろう付けまでの放置時間がちょっとでも長くなるとろう付け性が劣るようになる。
比較例5は、Mg含有ろう材を使うだけで、無機酸の水溶液による処理も成形加工油の塗布も行わないので、残留酸化皮膜は厚く、表面近傍のMg/Al比は0.8と大きいため、成形性が悪く、ろう付けは全くできず、ろう付け後外観も悪い。
【0037】
一方、発明例1は、無機酸の水溶液の濃度と処理温度・処理時間が下限の条件なので酸化皮膜が18オングストロームまでにしか除去できず、Mg/Al比も0.3とやや大きいためろう付け性がやや劣るが実用レベルである。
発明例2は、ろう材中のBeが0.0002%と下限値であるため、無機酸の水溶液処理後ろう付けまでの放置時間が長くなるとろう付け性がやや劣るが実用レベルである。
他の発明例は評価した全項目が良好である。すなわち、ろう材にMg0.1〜2%が含まれていれば、ろう材にBiが含まれていなくても、Bi0.05〜0.1%が含まれていても良好なろう付け性を示し、また、ろう材にBeが0.0005〜0.006%含まれていると無機酸の水溶液処理後ろう付けまでの放置時間が長くなっても良好なろう付け性を示し、さらに、芯材にMg0.2〜1.5%が含まれていても問題ない。
また、本発明例では無機酸の水溶液処理で酸化皮膜を除去した後、成形加工油が一定量均一に塗布されているので、経時変化が少ない。
【0038】
以上の結果から、硝酸、硫酸、燐酸、クロム酸等の無機酸の水溶液で仮組立前の、コイル又は平坦な切り板の状態で処理した、本発明のろう付け用アルミニウム材は、その表面の外観もよく、かつ均一に酸化皮膜が除去され、成形加工油も均一に塗布されている。そして、本発明実施品は処理してから長時間放置しても経時変化もなく良好な窒素雰囲気ろう付けが達成されたばかりか、得られたろう付け品はその表面状態も良好であることを確認しえた。
【0039】
【発明の効果】
本発明は平坦材形状での処理を可能にしたことにより、また、この処理後表面が、揮発性の成形加工油を塗布していて経時変化が少ないので、下記の様に、大変多くの利点を有するものである。
すなわち、
窒素雰囲気中で行う非腐食性フッ化物系フラックスろう付けにおける
1.複雑な製品形状に組み立ててからのフラックス塗布・乾燥から生ずるという生産性阻害要因を排除し、
2.連続炉を用いる場合に水分が乾燥炉からろう付け炉に持ち込まれることによっておこるろう付け性低下を防止し、
3.フラックスを多めに塗布しがちになることによる、ろう付け炉の汚染、このためのろう付け炉のクリーニング、オーバーホールの頻度増加、コスト増加の不利の全てを回避し、
4.さらには、ろう付け後の製品表面の外観不良、その後の表面処理への悪影響を排除し、
5.処理のための大がかりな設備を不要とし、
6.構成部材へのMg含有アルミニウム合金を使用可能とした。
【0040】
また、
7.成形加工油を除去するに際して加熱処理だけで揮発除去でき、
8.無機酸の水溶液による処理後の酸化皮膜の成長を抑制し、処理後に長期間保管しても良好なろう付けを可能とした。
Claims (2)
- Si5〜20wt.%、Mg0.05〜5wt.%、Bi0〜1.0wt.%、Be0.0002〜0.1wt.%を含有するAl−Si−Mg系合金ろう材が少なくとも片面にクラッドされたアルミニウム材を、
コイル又は平坦な切り板の状態で、硝酸、硫酸、燐酸、クロム酸の1種又は2種以上をこれら無機酸の合計で1〜60wt.%含む水溶液で、5℃〜90℃の温度で1秒〜20分処理して、表面の酸化皮膜を20オングストローム以下まで除去するとともに、表面近傍のMg/Al比を0.4以下とし、
その後、引火点が40〜140℃、粘度が1〜5cStの成形加工油を0.1〜10g/m2塗布することを特徴とする非酸化性ガス雰囲気無フラックスろう付け用材料の製造方法。 - Si5〜20wt.%、Mg0.05〜5wt.%、Bi0〜1.0wt.%、Be0.0002〜0.1wt.%を含有するAl−Si−Mg系合金ろう材が少なくとも片面にクラッドされたアルミニウム材を、
コイル又は平坦な切り板の状態で、硝酸、硫酸、燐酸、クロム酸の1種又は2種以上をこれら無機酸の合計で1〜60wt.%含む水溶液で、5℃〜90℃の温度で1秒〜20分処理して、表面の酸化皮膜を20オングストローム以下まで除去するとともに、表面近傍のMg/Al比を0.4以下とし、
その後、引火点が40〜140℃、粘度が1〜5cStの成形加工油を0.1〜10g/m2塗布した後、必要な加工後、仮組立の前、あるいは後に、加熱して成形加工油を揮発除去してから、非酸化性ガス雰囲気でフラックス無しでろう付けすることを特徴とするろう方法。
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