JP2022118887A - 表面処理特性に優れた冷間工具鋼および工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】 靭性や耐剥離性といった表面処理特性に優れた冷間工具鋼の提供。【解決手段】 質量%で、C:0.7~1.0%、Si:0.3~1.0%、Mn:0.5%以下、Cr:3.5~9.0%、Mo:1.5~6.0%、W:8.0%以下、V及びNb:V+Nb/2で0.2~2.0%、N:500ppm未満、残部Fe及び不可避的不純物からなり、式S(2.0Cr+14.0Mo+3.3W+6.7(V+Nb/2))の値が35以上、式I(70Si-Cr+63Mo-153V+23W)の値が150以上の鋼を、さらに焼入焼戻しされた状態で鋼材硬さが58HRC以上である、冷間工具鋼。【選択図】なし
Description
本発明は、冷間工具鋼と、この冷間工具鋼を基材に窒化とPVD法(物理気相蒸着法)による表面処理を施した金型及び工具に関する。
各種部材の軽量化や生産効率の向上を目的として、被加工材の高硬度化やニアネットシェイプ化が進展している。これに伴って、冷間金型および工具には、さらなる耐久力の向上が求められている。
冷間工具鋼を基材とする金型にて飛躍的に耐久性を高める手法として、まず工具鋼に窒化を施して表面硬さを高め、さらにその上にPVDにて硬質膜をコーティングさせる方法がある。
この際、窒化層の硬さが低いと、使用中に窒化層が変形しPVD処理膜が早期に剥離し、期待した耐久性が得られなくなる。
一方、窒化層が高硬度の場合も、窒化層内の硬度変化の勾配が急であると、窒化層と基材の工具鋼との境界に負荷が集中して剥離し、PVD処理膜ごと欠落してしまい、期待する耐久性が得らなくなるという問題があった。
この際、窒化層の硬さが低いと、使用中に窒化層が変形しPVD処理膜が早期に剥離し、期待した耐久性が得られなくなる。
一方、窒化層が高硬度の場合も、窒化層内の硬度変化の勾配が急であると、窒化層と基材の工具鋼との境界に負荷が集中して剥離し、PVD処理膜ごと欠落してしまい、期待する耐久性が得らなくなるという問題があった。
出願人は、成分元素やその比率、そして結晶粒度を制御することによって、窒化の効果を有効に活用できる窒化処理に適したマトリクスハイス鋼を発明している(特許文献1参照。)。
また、所定の成分の鋼を工具に成形し、その表面を窒化処理した後に、PVD法又はCVD法による表面改質で形成した硬質被膜を形成する工具鋼が提案されている(特許文献2参照。)。この提案では硬質膜の密着性向上のためにAlが含有されている。
もっとも、前述の特許文献1では窒化層内の硬さ勾配までは考慮していない。また特許文献2も、窒化後の表面硬さや窒化深さ、また窒化層内の硬さ勾配については十分な考慮がなされておらず、PVDなどの硬質皮膜の剥離が生じる場合があった。
冷間加工用の金型では、PVD処理膜の密着性を向上させるために、母材をプラズマ窒化処理して、母材の表面に化合物層のない窒化層を形成して硬化させたうえで、硬化被膜を付与することが有効と考えられる。
もっとも、窒化層の硬さが低いと、使用中に窒化層が変形し、PVD処理膜が早期に剥離してしまう。一方、窒化層が高硬度であっても、窒化層内硬度変化が急だと、冷間加工時の応力で母材が変形したときに窒化層がその変形に追随できず、窒化層と母材の境界で剥離し、PVD処理膜ごと欠落する場合があった。
もっとも、窒化層の硬さが低いと、使用中に窒化層が変形し、PVD処理膜が早期に剥離してしまう。一方、窒化層が高硬度であっても、窒化層内硬度変化が急だと、冷間加工時の応力で母材が変形したときに窒化層がその変形に追随できず、窒化層と母材の境界で剥離し、PVD処理膜ごと欠落する場合があった。
そこで、本発明は、工具や金型表面に形成されたPVDによる硬質皮膜と高い密着性を有して被膜の剥離を抑制する冷間工具鋼の提供、及びこの冷間工具鋼を母材に用いて表面にPVDによる硬質皮膜が形成された金型や工具を提供することを目的としている。すなわち、靭性や耐剥離性といった表面処理特性に優れた冷間工具鋼の提供を目的とする。
発明者らは鋭意開発を進めた結果、合金成分範囲、式、硬さ、さらに窒化した場合の表面硬さ、窒化層深さ、窒化層硬度変化を規定することで、PVD処理等にて成膜した硬質膜と高い密着性を有する鋼および金型、工具が得られることを見出した。
すなわち、本発明の課題を解決するための第1の手段は、
質量%で、C:0.7~1.0%、Si:0.3~1.0%、Mn:0.5%以下、Cr:3.5~9.0%、Mo:1.5~6.0%、W:8.0%以下、V及びNb:V+Nb/2で0.2~2.0%、N:500ppm未満、残部Fe及び不可避的不純物からなり、式SのS値が35以上、式IのI値が150以上の鋼を、さらに焼入焼戻しされた状態で鋼材硬さが58HRC以上である、冷間工具鋼。
式S:S=2.0Cr+14.0Mo+3.3W+6.7(V+Nb/2)
式I:I=70Si-Cr+63Mo-153V+23W
但し、式の元素記号には当該成分の%値を代入する。
質量%で、C:0.7~1.0%、Si:0.3~1.0%、Mn:0.5%以下、Cr:3.5~9.0%、Mo:1.5~6.0%、W:8.0%以下、V及びNb:V+Nb/2で0.2~2.0%、N:500ppm未満、残部Fe及び不可避的不純物からなり、式SのS値が35以上、式IのI値が150以上の鋼を、さらに焼入焼戻しされた状態で鋼材硬さが58HRC以上である、冷間工具鋼。
式S:S=2.0Cr+14.0Mo+3.3W+6.7(V+Nb/2)
式I:I=70Si-Cr+63Mo-153V+23W
但し、式の元素記号には当該成分の%値を代入する。
その第2の手段は、第1の手段に記載の冷間工具鋼に、さらに窒化層が表層に形成されたものであって、窒化層の最表面から30μmの深さでの硬さが800HV以上、その窒化層深さが60μm以上、窒化層の最表面から30μm位置と60μm位置とでの硬度変化が75HV以内である、窒化層を備えた冷間工具鋼である。
その第3の手段は、第1又は第2の手段の冷間工具鋼を母材として、表層にさらにPVD法で形成された硬質被膜を備える金型である。
その第4の手段は、第1又は第2の手段の冷間工具鋼を母材として、表層にさらにPVD法で形成された硬質被膜を備える工具である。
本発明の冷間工具鋼を母材とすると、冷間工具鋼としての靭性と硬さといった母材の特性を備え、さらに表層にPVDによる硬質被膜を形成すると、表面硬さが確保され、また表面での急激な硬度変化が抑制されるので、PVD硬質皮膜の剥離や欠落が抑制されることとなる。母材表層に窒化層を形成したうえに、PVD硬質被膜を形成させた金型や工具は、硬質被膜との密着性に優れ、急激な硬度変化も抑制され、剥離や欠落がより抑制されることとなる。すなわち、本発明の冷間工具鋼を母材として表層にPVDの硬質被膜を形成させたものは、シャルピー衝撃試験でシャルピー衝撃値が20J/cm2以上で、スクラッチ試験による剥離臨界荷重も80N以上であるから、靭性、耐剥離性のいずれにも優れるものとなる。
本発明を実施するための形態の説明に先立って、本願の手段における鋼の化学成分を規定する理由、式S及び式Iの値を規定する理由、焼入焼戻し後の鋼材硬さ、窒化層の硬さ、窒化層の硬度変化を規定する理由について説明する。
なお、以下の化学成分における%は質量%である。
なお、以下の化学成分における%は質量%である。
C:0.7~1.0%
Cは、鋼中への固溶および炭化物形成にて工具鋼に必要な高硬度を付与させるのに必須の元素である。工具としての硬度を得るためには、少なくともCは0.7%は必要である。もっとも、Cが1.0%を超えると、粗大炭化物を多く形成し易くなり、鋼材自体の靭性と基材と膜との密着性を低下させる。そこで、Cは0.7~1.0%、好ましくは、Cは0.7~0.9%である。
Cは、鋼中への固溶および炭化物形成にて工具鋼に必要な高硬度を付与させるのに必須の元素である。工具としての硬度を得るためには、少なくともCは0.7%は必要である。もっとも、Cが1.0%を超えると、粗大炭化物を多く形成し易くなり、鋼材自体の靭性と基材と膜との密着性を低下させる。そこで、Cは0.7~1.0%、好ましくは、Cは0.7~0.9%である。
Si:0.3~1.0%
Siは製鋼での脱酸効果、焼入性、固溶強化に寄与する。そのためには少なくともSiは0.3%以上必要である。もっとも、Siが1.0%を超えると靭性が低下する。そこで、Siは0.3~1.0%とする。好ましくは、Siは0.4~1.0%である。
Siは製鋼での脱酸効果、焼入性、固溶強化に寄与する。そのためには少なくともSiは0.3%以上必要である。もっとも、Siが1.0%を超えると靭性が低下する。そこで、Siは0.3~1.0%とする。好ましくは、Siは0.4~1.0%である。
Mn:0.5%以下
Mnは、0.5%を超えると残留オーステナイトの増大や偏析帯の形成を促して靭性、変寸異方性を悪化させる。そこで、Mnは0.5%以下とする。
Mnは、0.5%を超えると残留オーステナイトの増大や偏析帯の形成を促して靭性、変寸異方性を悪化させる。そこで、Mnは0.5%以下とする。
Cr:3.5~9.0%
Crは、焼入性の向上と焼戻硬さの確保に必要な元素である。もっとも、Crが3.5%未満ではこれらの効果が不十分である。他方、Crが9.0%を超えると、粗大炭化物を多く形成し易くなり、鋼材自体の靭性と基材と膜との密着性を低下させる。そこで、Crは3.5~9.0%とする。好ましくはCrは4.5~8.5%である。
Crは、焼入性の向上と焼戻硬さの確保に必要な元素である。もっとも、Crが3.5%未満ではこれらの効果が不十分である。他方、Crが9.0%を超えると、粗大炭化物を多く形成し易くなり、鋼材自体の靭性と基材と膜との密着性を低下させる。そこで、Crは3.5~9.0%とする。好ましくはCrは4.5~8.5%である。
Mo:1.5~6.0%
Moは、焼入性改善と、焼戻硬さ向上に寄与する。その効果を得る為にはMoは少なくとも1.5%は必要である。他方、Moが6.0%を超えると、これらの効果は飽和し、過剰添加は粗大炭化物の形成を促して膜との密着性を低下させる。そこでMoは1.5~6.0%とする。好ましくは、Moは1.5~5.0%である。
Moは、焼入性改善と、焼戻硬さ向上に寄与する。その効果を得る為にはMoは少なくとも1.5%は必要である。他方、Moが6.0%を超えると、これらの効果は飽和し、過剰添加は粗大炭化物の形成を促して膜との密着性を低下させる。そこでMoは1.5~6.0%とする。好ましくは、Moは1.5~5.0%である。
W:8.0%以下
WはMoと似た効果を持つが、8.0%を超えるとMo同様、逆効果となる。そこで、Wは8.0%以下とする。
WはMoと似た効果を持つが、8.0%を超えるとMo同様、逆効果となる。そこで、Wは8.0%以下とする。
V+Nb/2:0.2~2.0%
V及びNbは、いずれも焼戻し時に微細かつ硬質な析出硬化物を形成し二次硬化に寄与する。それらの効果を得る為には、VとNbの合計量で、少なくともV+Nb/2が0.2%以上であることが必要である。もっとも、V+Nb/2が2.0%を超えると、V及びNbが過剰となって粗大炭化物の形成を促し、膜との密着性の低下を招く。
そこで、V及びNbは、V+Nb/2で0.2~2.0%とする。好ましくはV+Nb/2が0.2~1.8%である。
V及びNbは、いずれも焼戻し時に微細かつ硬質な析出硬化物を形成し二次硬化に寄与する。それらの効果を得る為には、VとNbの合計量で、少なくともV+Nb/2が0.2%以上であることが必要である。もっとも、V+Nb/2が2.0%を超えると、V及びNbが過剰となって粗大炭化物の形成を促し、膜との密着性の低下を招く。
そこで、V及びNbは、V+Nb/2で0.2~2.0%とする。好ましくはV+Nb/2が0.2~1.8%である。
N:500ppm以下
NはCと似た効果を持つが、500ppmを超えると、硬質で固溶し難い窒化物を形成して鋼材の靭性を著しく低下させる。そこでNは500ppm以下とする。好ましくはNは400ppm以下である。
NはCと似た効果を持つが、500ppmを超えると、硬質で固溶し難い窒化物を形成して鋼材の靭性を著しく低下させる。そこでNは500ppm以下とする。好ましくはNは400ppm以下である。
S=2.0Cr+14.0Mo+3.3W+6.7(V+Nb/2)≧35
式Sの値Sは、各添加元素の種類と量(式の元素記号には%の値を代入する。)から窒化処理後の表面硬さ予測する指標である。Sの値が大きい程、表面硬さも大きくなる。Sが35より小さいと、表面硬さが不足して密着性が低下する。そこで、Sの値は35以上とする。
式Sの値Sは、各添加元素の種類と量(式の元素記号には%の値を代入する。)から窒化処理後の表面硬さ予測する指標である。Sの値が大きい程、表面硬さも大きくなる。Sが35より小さいと、表面硬さが不足して密着性が低下する。そこで、Sの値は35以上とする。
I=70Si-1Cr+63Mo-153V+23W≧150
式Iの値Iは、各添加元素の種類と量(式の元素記号には%の値を代入する。)から窒化層内の硬さ分布を予測する指標である。Iの値が大きい程、窒化層内の硬度変化は小さくなる。Iの値が150より小さいと、膜の剥離や欠落が生じやすくなる。そこで、Iの値は150以上とする。
式Iの値Iは、各添加元素の種類と量(式の元素記号には%の値を代入する。)から窒化層内の硬さ分布を予測する指標である。Iの値が大きい程、窒化層内の硬度変化は小さくなる。Iの値が150より小さいと、膜の剥離や欠落が生じやすくなる。そこで、Iの値は150以上とする。
焼入焼戻し後の鋼材硬さ:58HRC以上
焼入焼戻ししたときの硬さが58HRCを下回ると、硬質被膜との密着性が悪化することから、母材の鋼材硬さは、58HRC以上とする。
焼入焼戻ししたときの硬さが58HRCを下回ると、硬質被膜との密着性が悪化することから、母材の鋼材硬さは、58HRC以上とする。
母材表層の窒化処理後の表面硬さ:窒化層の最表面から深さ30μmの位置で800HV以上
母材となる本発明の冷間工具鋼を窒化処理したとき、その表面(最表面から深さ30μmの位置)の硬さを800HV以上とすると、PVD硬質皮膜及び母材との密着性が特に向上する。そこで、窒化層の最表面から深さ30μmの位置の表面硬さを800HV以上とする。
なお、窒化処理はプラズマ窒化処理が好適である。以下の説明ではプラズマ窒化処理を例に説明する。
母材となる本発明の冷間工具鋼を窒化処理したとき、その表面(最表面から深さ30μmの位置)の硬さを800HV以上とすると、PVD硬質皮膜及び母材との密着性が特に向上する。そこで、窒化層の最表面から深さ30μmの位置の表面硬さを800HV以上とする。
なお、窒化処理はプラズマ窒化処理が好適である。以下の説明ではプラズマ窒化処理を例に説明する。
窒化処理後の窒化層の深さ:60μm以上
プラズマ窒化処理で形成される窒化層は、その窒化層深さが60μmより小さくなると、PVD硬質皮膜及び母材との密着性が低下する。このため、窒化層深さは60μm以上とした。
プラズマ窒化処理で形成される窒化層は、その窒化層深さが60μmより小さくなると、PVD硬質皮膜及び母材との密着性が低下する。このため、窒化層深さは60μm以上とした。
窒化層の硬度変化:75HV以内
窒化層の最表面から深さ30μm位置と深さ60μm位置での硬度変化の度合いが75HVより大きくなると、膜直下と内部で硬度差が大きくなっているため剥離を助長してしまい、母材との密着性が低下する。そこで、上記の硬度変化は75HV以下とした。
窒化層の最表面から深さ30μm位置と深さ60μm位置での硬度変化の度合いが75HVより大きくなると、膜直下と内部で硬度差が大きくなっているため剥離を助長してしまい、母材との密着性が低下する。そこで、上記の硬度変化は75HV以下とした。
(実施例について)
まず、表1に示す化学成分と残部Feからなる鋼100kgを真空誘導溶解炉にて溶製し、各々鍛伸温度1100~1200℃で角30mmに鍛伸後切断、焼入焼戻し処理を行った。
その後、ロックウェル硬度計にて角材断面中周部の鋼材硬さを測定した。次いで、角材長手方向と平行にシャルピー衝撃試験片(10R-Cノッチ)を作製し、シャルピー衝撃試験にて靭性を評価した。
まず、表1に示す化学成分と残部Feからなる鋼100kgを真空誘導溶解炉にて溶製し、各々鍛伸温度1100~1200℃で角30mmに鍛伸後切断、焼入焼戻し処理を行った。
その後、ロックウェル硬度計にて角材断面中周部の鋼材硬さを測定した。次いで、角材長手方向と平行にシャルピー衝撃試験片(10R-Cノッチ)を作製し、シャルピー衝撃試験にて靭性を評価した。
(評価I)
シャルピー衝撃試験値が20J/cm2以上のものを靭性に優れるとして○、それ未満のものを靭性に劣るとして×と評価した。
シャルピー衝撃試験値が20J/cm2以上のものを靭性に優れるとして○、それ未満のものを靭性に劣るとして×と評価した。
評価Iの後、各鋼材について、焼入焼戻し後の角30mm材から幅25×厚さ7mm×長さ50mm小片を割出し、その表面にプラズマ窒化処理(500℃加熱)を行って窒化膜層を形成した後、さらに窒化膜層の上にPVD処理にてTiAlNを成膜した。
PVD処理後の小片から長さ5mm程度切出し、その切断面にて窒化層深さと窒化層の硬度変化を計測した。
(窒化層深さの測定について)
マイクロビッカース硬度計にて切断面の被膜直下、つまり窒化層再表面から深さ30μmの位置を始点とし、深さ200μmまで10μmピッチで窒化層内の硬さ分布を測定した。
マイクロビッカース硬度計にて切断面の被膜直下、つまり窒化層再表面から深さ30μmの位置を始点とし、深さ200μmまで10μmピッチで窒化層内の硬さ分布を測定した。
また、窒化層再表面から深さ1100μm位置を始点とし、深さ2000μmまで100μmピッチで硬さを測定して、その10点の硬さの平均値を「内部ビッカース硬さ」とした。
窒化層深さは、10μmピッチで測定した窒化層内30~200μmの硬さ分布において、上記内部ビッカース硬さよりも25ポイント以上高い値を示す位置の中で最も深い位置を「窒化層深さ」とした。
(窒化層の硬度変化)
上記窒化層深さの際に測定した、マイクロビッカース硬度計による窒化層最表面から深さ30μmおよび60μm位置の硬さの差を硬度差とした。
上記窒化層深さの際に測定した、マイクロビッカース硬度計による窒化層最表面から深さ30μmおよび60μm位置の硬さの差を硬度差とした。
(スクラッチ試験による剥離臨界荷重の計測)
評価Iにて○の評価となったもの、すなわち十分な靭性が得られたものについてのみ、さらに幅25×厚さ7mm×長さ50mm小片の残材を使用して、スクラッチ試験による剥離臨界荷重を計測した。したがって、比較鋼No.19~31については、靭性がなく、そもそも冷間工具鋼としての特性を備えていないため、スクラッチ試験は実施していない。
評価Iにて○の評価となったもの、すなわち十分な靭性が得られたものについてのみ、さらに幅25×厚さ7mm×長さ50mm小片の残材を使用して、スクラッチ試験による剥離臨界荷重を計測した。したがって、比較鋼No.19~31については、靭性がなく、そもそも冷間工具鋼としての特性を備えていないため、スクラッチ試験は実施していない。
試験条件は、最小荷重:1N、荷重スピード:30N/min、スクラッチスピード:1.51mm/min、圧子:ダイアモンド、圧子曲率半径:200μmとした。
(評価II)
スクラッチ試験による剥離臨界荷重が100N以上のものを耐剥離性に優れるものとして○、80以上のものを可として△に、それ未満のものを耐剥離性不良として×と評価した。
スクラッチ試験による剥離臨界荷重が100N以上のものを耐剥離性に優れるものとして○、80以上のものを可として△に、それ未満のものを耐剥離性不良として×と評価した。
表2にシャルピー衝撃試験の評価Iとスクラッチ試験の評価IIの結果をに示す。
発明鋼No.1~18は、プラズマ窒化処理により形成された窒化層の上に、さらに形成されたPVD硬質被膜が付与されることで、靭性に優れる一方、硬質皮膜が母材から剥離しにくいものとなっていることが確認された。
比較鋼No.19~31は、シャルピー衝撃値が20J/cm2未満であり、靭性に劣るものとなった。比較鋼No.32~34は、剥離臨界荷重が74N以下であり、80Nを下回ったので、耐剥離性に劣る結果となった。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.7~1.0%、Si:0.3~1.0%、Mn:0.5%以下、Cr:3.5~9.0%、Mo:1.5~6.0%、W:8.0%以下、V及びNb:V+Nb/2で0.2~2.0%、N:500ppm未満、残部Fe及び不可避的不純物からなり、式SのS値が35以上、式IのI値が150以上の鋼を、さらに焼入焼戻しされた状態で鋼材硬さが58HRC以上である、冷間工具鋼。
式S:S=2.0Cr+14.0Mo+3.3W+6.7(V+Nb/2)
式I:I=70Si-Cr+63Mo-153V+23W
但し、式の元素記号には当該成分の%値を代入する。 - 請求項1に記載の冷間工具鋼にさらに窒化層が表層に形成されたものであって、窒化層の最表面から30μmの深さでの硬さが800HV以上、その窒化層深さが60μm以上、窒化層の最表面から30μm位置と60μm位置とでの硬度変化が75HV以内である、窒化層を備えた冷間工具鋼。
- 請求項1又は請求項2に記載の冷間工具鋼を母材として、表層にさらにPVD法で形成された硬質被膜を備える金型。
- 請求項1又は請求項2に記載の冷間工具鋼を母材として、表層にさらにPVD法で形成された硬質被膜を備える工具。
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