JP2021042398A - 窒化鋼部材並びに窒化鋼部材の製造方法及び製造装置 - Google Patents

窒化鋼部材並びに窒化鋼部材の製造方法及び製造装置 Download PDF

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Abstract

【課題】表層領域が所望に硬化された窒化鋼部材、及び、そのような窒化鋼部材を製造するための製造方法及び製造装置を提供すること。【解決手段】炭素鋼または低合金鋼を母相とする窒化鋼部材であって、表面に、窒素を0.8%以上含むマルテンサイト組織を有する硬化層を備え、前記硬化層の下部に、前記母相内に窒素が拡散されている拡散層を備え、前記硬化層は、当該窒化鋼部材の表面から2μm〜50μmの厚さを有しており、前記拡散層は、当該窒化鋼部材の表面から100μmを超える深さまで延在しており、当該窒化鋼部材の表面から2mmの深さにおける硬さよりも、当該窒化鋼部材の表面から100μmの深さにおける前記拡散層の硬さの方が、100HV以上大きいことを特徴とする窒化鋼部材である。【選択図】図1

Description

本発明は、窒化鋼部材並びに窒化鋼部材の製造方法及び製造装置に関する。さらに詳しくは、自動車変速機用の歯車やクランクシャフト等に有用な耐疲労性に優れる窒化鋼部材並びに当該窒化鋼部材の製造方法及び製造装置に関する。
鋼材の表面硬化処理の中でも、低熱処理ひずみ処理である窒化処理のニーズは高く、最近では特に、ガス窒化処理の雰囲気制御技術への関心が高まっている。
ガス窒化処理により得られる基本的な組織構成では、表面において鉄窒化物である化合物層が形成され、内部において拡散層と呼ばれる硬化層が形成される。当該硬化層は、通常、母材成分のSiやCrなどの合金窒化物からなる。
これらの2層の各々の厚さ(深さ)及び/または表面の鉄窒化物のタイプ等を制御するために、ガス窒化処理の温度と時間とに加えて、ガス窒化処理炉内の雰囲気も適宜に制御されている。具体的には、ガス窒化炉内の窒化ポテンシャル(KN)が適宜に制御されている。
例えば、当該制御を介して、鋼材の表面に生成される化合物層中のγ’相(Fe4N)とε相(Fe2-3N)の体積分率(鉄窒化物のタイプ)が制御されている。具体的には、ε相よりもγ’相を形成することにより、耐疲労性が改善されることが知られている(非特許文献1)。更に、γ’相の形成により曲げ疲労強度や面疲労を改善した窒化鋼部材も提供されている(特許文献1)。
鋼材の表面の化合物層中にγ’相を形成して耐疲労性を向上することは、前述のとおり既に知られている。但し、γ’相を多く形成するべくガス窒化処理を行っても、化合物層中には少なからずε相が含まれており、実際にはγ’相とε相との2相状態となっている(特許文献2)。すなわち、疲労強度を向上させるためにγ’相主体の化合物層を形成することには限界がある。また、γ’相やε相を如何様に制御した化合物層においても、当該化合物層の表層近傍には、ボイドが多数形成されてしまう。これらのボイドは、疲労亀裂へと発展し易い。
一方、Fe−N二元合金の共析変態点(約590℃)以上の温度で窒化処理を行うと、表面には化合物層が形成され、その後急冷すればその下部には窒素含有マルテンサイト組織を含む硬化層が形成される。当該温度域での窒化処理は、従来の窒化処理と区別して、浸窒処理と呼ばれている。
しかし、当該浸窒処理では、表面近傍の組織(表面の化合物層は除く)のオーステナイトが安定化され、その後に急冷されても大部分のオーステナイトが残留する。このため、熱処理後のひずみは、窒化処理と同程度である。加えて、この安定化されたオーステナイトは、250〜300℃の温度にまで再加熱されることで、硬質なマルテンサイト組織へと変態される。
例えば、STKM13(炭素鋼の一種)を640℃で90min浸窒処理し、更に660℃で40min浸窒処理してから、280℃で90min再加熱処理することにより、表面近傍のオーステナイトは800〜900HVまで硬化される(非特許文献2)。但し、表面の化合物層が残ってしまうという問題はある。
更に、700℃でJIS−SPCC(冷間圧延鋼板の一種)を浸窒処理しても、表面に化合物層が形成され、その後の急冷でその下部に窒素マルテンサイト組織の硬化層が形成される(非特許文献3)。すなわち、この場合も、表面の化合物層が残ってしまう。
一方、800℃で浸窒処理を実施し、その後急冷することによって、化合物層を形成することなく0.35mm以上の厚さのマルテンサイト組織による硬化層が得られて、耐疲労性を改善できることが報告されている(非特許文献4)。
特開2013−221203号公報 特開2016−211069号公報 平岡泰、渡邊陽一、石田暁丈:熱処理、55巻、1号、1−2ページ 渡辺輝興:浸炭と浸窒の新たな概念と実際、アグネ技術センター、2013年、142−147ページ Y.Kawata and T.Kidachi: European Conference on Heat Treatment and Surface Engineering A3TS Congress, (Nice, France, 2017) pp.26-29 奥宮正洋:日本熱処理技術協会、第5回熱処理技術セミナーテキスト、2012年、(5)1−8ページ
機械部品の疲労破壊は、例えばギアの歯元など、高い負荷応力がかかる切欠き部から生じる。当該切欠き部では、その形状と負荷環境に応じた応力分布が表層領域(表面から所定深さの内部まで)においてのみ生じる。このため、鋼材の靭性や被削性を損なわないよう、当該表層領域のみを硬化することが望まれている。
しかしながら、従来から実施されている浸窒処理では、そのような要望に十分に応えられていない。非特許文献2及び非特許文献3に開示された技術では、不要な化合物層が表面に残ってしまうため、表層領域の硬化には適さない。一方、非特許文献4に開示された技術では、不要な化合物層は形成されないものの、硬化層が厚すぎて熱ひずみ/変態ひずみが大きく、やはり表層領域の硬化には適さない。
本件発明者は、鋭意の検討及び種々の実験を繰り返し、処理炉の構成を限定した上で窒化処理の温度及び窒化ポテンシャルを高精度に制御することによって、表層領域が所望に硬化された窒化鋼部材を製造できることを知見した。
本発明は、以上の知見に基づいて創案されたものである。本発明の目的は、表層領域が所望に硬化された窒化鋼部材、及び、そのような窒化鋼部材を製造するための製造方法及び製造装置を提供することである。
本発明は、炭素鋼または低合金鋼を母相とする窒化鋼部材であって、表面に、質量%で窒素を0.8%以上含むマルテンサイト組織を有する硬化層を備え、前記硬化層の下部に、前記母相内に窒素が拡散されている拡散層を備え、前記硬化層は、当該窒化鋼部材の表面から2μm〜50μmの厚さを有しており、前記拡散層は、当該窒化鋼部材の表面から100μmを超える深さまで延在しており、当該窒化鋼部材の表面から2μmの深さにおける硬さよりも、当該窒化鋼部材の表面から100μmの深さにおける前記拡散層の硬さの方が、100HV以上大きいことを特徴とする窒化鋼部材である。
本発明によれば、窒素を0.8%以上含むマルテンサイト組織を有する硬化層が、当該窒化鋼部材の表面から2μm〜50μmの厚さに限定されているため、熱処理ひずみ/変態ひずみが小さい。また、窒化鋼部材の表面から2mmの深さにおける硬さよりも窒化鋼部材の表面から100μmの深さにおける拡散層の硬さの方が100HV以上大きいことにより、硬化層が薄いにも拘わらず、十分な強度を保証することができる。
炭素鋼としては、例えば炭素含有量が質量%で0.1%以上である炭素鋼が利用可能である。また、低合金鋼としては、例えばSCr420やSCM415などが利用可能である。
また、本発明は、案内筒と撹拌ファンとを備えた循環型処理炉を用いて、炭素鋼または低合金鋼を母相とする窒化鋼部材を製造する方法であって、窒化処理時において、前記循環型処理炉内の温度範囲が、610℃〜660℃に制御され、前記窒化処理時において、前記循環型処理炉内の窒化ポテンシャルが、0.06〜0.3の範囲に制御されることを特徴とする窒化鋼部材の製造方法である。
本発明の窒化鋼部材の製造方法によれば、
表面に、窒素を0.8%以上含むマルテンサイト組織を有する硬化層を備え、前記硬化層の下部に、前記母相内に窒素が拡散されている拡散層を備え、前記硬化層は、当該窒化鋼部材の表面から2μm〜50μmの厚さを有しており、前記拡散層は、当該窒化鋼部材の表面から100μmを超える深さまで延在しており、当該窒化鋼部材の表面から2mmの深さにおける硬さよりも、当該窒化鋼部材の表面から100μmの深さにおける前記拡散層の硬さの方が、100HV以上大きいことを特徴とする窒化鋼部材
を製造することができる。
また、本発明は、案内筒と撹拌ファンとを有する循環型処理炉を備え、窒化処理時において、前記循環型処理炉内の温度範囲が、610℃〜660℃に制御され、前記窒化処理時において、前記循環型処理炉内の窒化ポテンシャルが、0.06〜0.3の範囲に制御されることを特徴とする窒化鋼部材の製造装置である。
本発明の窒化鋼部材の製造装置によれば、
表面に、窒素を0.8%以上含むマルテンサイト組織を有する硬化層を備え、前記硬化層の下部に、前記母相内に窒素が拡散されている拡散層を備え、前記硬化層は、当該窒化鋼部材の表面から2μm〜50μmの厚さを有しており、前記拡散層は、当該窒化鋼部材の表面から100μmを超える深さまで延在しており、当該窒化鋼部材の表面から2μmの深さにおける硬さよりも、当該窒化鋼部材の表面から100μmの深さにおける前記拡散層の硬さの方が、100HV以上大きいことを特徴とする窒化鋼部材
を製造することができる。
本発明の窒化鋼部材の製造装置は、例えば、アンモニアガスとアンモニア分解ガスとが前記循環型処理炉内に導入されるようになっている。この場合、当該製造装置は、前記窒化ポテンシャルを制御するために、前記アンモニアガスの導入量と前記アンモニア分解ガスの導入量との総流量を一定として互いの導入比を変更する第1制御と、前記アンモニア分解ガスの導入を停止させた状態で、前記アンモニアガスの導入量を変更する第2制御と、を選択的に実施できるようになっていることが好ましい。
本発明によれば、窒素を0.8%以上含むマルテンサイト組織を有する硬化層が、当該窒化鋼部材の表面から2μm〜50μmの厚さに限定されているため、熱処理ひずみ/変態ひずみが小さい。また、窒化鋼部材の表面から2mmの深さにおける硬さよりも窒化鋼部材の表面から100μmの深さにおける拡散層の硬さの方が100HV以上大きいことにより、硬化層が薄いにも拘わらず、十分な強度を保証することができる。
本発明の一実施形態による窒化鋼部材の断面顕微鏡写真である。 再加熱処理前の図1の窒化鋼部材の断面顕微鏡写真である。 比較例の断面顕微鏡写真である。 硬さ分布についての実験例を示すグラフである。 本発明の一実施形態による窒化鋼部材の製造装置の概略図である。 循環型処理炉(横型ガス窒化炉)の概略断面図である。 第1制御の例を示すグラフである。 第2制御の例を示すグラフである。 炉内に挿入される冶具の例を示す概略図である。 小野式回転曲げ疲労試験片の形態を示す図である。
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
(窒化鋼部材の一実施形態の構成)
図1は、本発明の一実施形態の窒化鋼部材100の断面顕微鏡写真である。図1に示すように、本実施形態の窒化鋼部材100は、表面に、窒素を0.8%以上含むマルテンサイト組織を有する硬化層101を備え、当該硬化層101の下部に、母相内に窒素が拡散されている拡散層102を備えている。本実施形態の母相(母材)は、炭素含有量が質量%で0.45%である炭素鋼である。
硬化層101は、窒化鋼部材100の表面から約15μmの厚さを有しており、これは2μm〜50μmの範囲内の厚さである。拡散層102は、窒化鋼部材100の表面から100μmを超える深さまで延在している。そして、窒化鋼部材100の表面から2mmの深さにおける硬さ(例えば約180HV)より、窒化鋼部材100の表面から100μmの深さにおける拡散層102の硬さ(例えば約約310HV)の方が、100HV以上大きくなっている。
(窒化鋼部材の一実施形態の製造条件)
本実施形態の窒化鋼部材100は、後述の循環型処理炉を用いて、処理温度:640℃、窒化ポテンシャル:0.16、処理時間:2時間、という処理条件で浸窒処理された後、急冷され、更に250℃で2時間の再加熱処理がされたものである。図1の写真においては、硬化層101が、組織観察用の腐食液によって強く腐食されている(黒くなっている)。
再加熱処理を行う前の断面顕微鏡写真が、図2である。この状態では、硬化層101に相当する領域の大部分がオーステナイト相であり、十分な硬さがない。再加熱処理を施すことによって、オーステナイト相中のマルテンサイト組織が増加され、それに伴って十分な硬さを得ることができる。
(比較例の構成)
比較例150の断面顕微鏡写真が、図3である。当該比較例150は、後述の循環型処理炉を用いて、処理温度:640℃、窒化ポテンシャル:0.32(>0.3)、処理時間:2時間、という処理条件で浸窒処理された後、急冷されたものである。
図3に示すように、比較例150は、表面に、化合物層153が形成されており、当該化合物層153の下方に、マルテンサイト組織を有する硬化層151を備え、更に当該硬化層151の下方に、母相内に窒素が拡散されている拡散層152を備えている。このように、窒化ポテンシャルが高い製造条件では、不要な化合物層が形成されてしまう。
(窒化鋼部材の効果)
本実施形態の窒化鋼部材100によれば、窒素を0.8%以上含むマルテンサイト組織を有する硬化層が、当該窒化鋼部材の表面から2μm〜50μmの厚さに限定されているため、熱処理ひずみ/変態ひずみが小さい。また、窒化鋼部材の表面から2μmの深さにおける硬さよりも窒化鋼部材の表面から100μmの深さにおける拡散層の硬さの方が100HV以上大きいことにより、硬化層が薄いにも拘わらず、十分な強度を保証することができる。
(硬化層の窒素濃度の範囲)
硬化層101の窒素濃度は、室温でのオーステナイト相の安定度を考慮した結果である。すなわち、0.8%以上の窒素を含むことにより(更に好ましくは1.0%以上の窒素をことにより)、急冷された際に大部分のオーステナイト相が室温で安定化され、すなわち、急冷中にマルテンサイト変態が起こらない。これにより、急冷中にマルテンサイト変態が生ずる場合と比較して、ひずみが極めて小さい。(硬度を高めるため、マルテンサイト変態はその後の再加熱処理において促される。)
(硬化層の厚さの範囲)
硬化層101の厚さについては、基本的には厚い方が疲労強度は向上する。但し、窒化鋼部材100の負荷環境によって、それ以上厚さを向上させても、疲労強度向上の更なる効果がない(効果が飽和している)という場合がある。具体的には、窒化鋼部材100の形状や負荷環境によって、例えば切欠き部の応力分布が異なる場合がある。従って、窒化鋼部材100の形状や負荷環境によって、硬化層101の厚さは適宜に選択され得る。
但し「窒化鋼部材の表面から2mmの深さにおける硬さよりも窒化鋼部材の表面から100μmの深さにおける拡散層の硬さの方が100HV以上大きい」という条件を満たすような製造条件(処理温度:610℃〜660℃、窒化ポテンシャル:0.06〜0.3)では、硬化層101の厚さは、2〜50μmとなる。
具体的には、硬化層101が厚くなり易い合金成分系の炭素鋼(具体的にはS50C鋼を、処理温度:660℃、窒化ポテンシャル:0.17で浸窒処理した時の結果である50μmを上限値としている。
一方、硬化層101が窒化鋼部材100の全面に形成される(硬化層101が局所的に形成されない場合がない)ための条件として、2μmを下限値としている。
(拡散層の硬さの条件)
本実施形態の窒化鋼部材100は、硬化層101のみならず、拡散層102が十分な硬度を有することが特徴である。図4は、JIS−S45C鋼(炭素鋼)とJIS−SCM415鋼(Cr−Mo鋼)とについて、図中に示す種々の温度で1.5時間の浸窒処理を実施し、その後急冷し、更に250℃で2時間再加熱処理した各試験片の硬さ分布を示している。図4に示すように、浸窒温度と鋼種とを選択することによって、100μm(=0.1mm)の深さ位置での表面硬さを、約300〜500HVの範囲とすることが可能であった。
窒化処理後の表面硬さは、一般的には、表面から50μmの深さ位置で取得されることが多い。しかしながら、本実施形態の窒化鋼部材100では、マルテンサイト組織を有する硬化層101の影響を避けるため、表面から100μmの深さ位置での硬さを評価対象としている。
図4に示すように、S45C鋼(炭素鋼)を580℃で窒化処理したもの(・・・線で表示)と同等以上の硬さ分布を得るためには、660℃以下の温度で浸窒処理することが必要である。さらに、図示されていないが、SCM415鋼よりも合金添加量の高いJIS−SACM645鋼でも、660℃以下の温度で浸窒処理すれば、100μmの深さ位置での硬さを500HV以上に高めることが可能であった。
一方、表面から2mmの深さ位置での硬さというのは、窒化の影響を受けていない内部組織について評価対象として規定したものである。
(窒化鋼部材の製造装置の構成)
まず、ガス窒化処理の基本的事項について化学的に説明すれば、ガス窒化処理では、被処理品が配置される処理炉(ガス窒化炉)内において、以下の式(1)で表される窒化反応が発生する。
NH3→[N]+3/2H2 ・・・(1)
このとき、窒化ポテンシャルKNは、以下の式(2)で定義される。
KN=PNH3/PH2 3/2 ・・・(2)
ここで、PNH3は炉内アンモニア分圧であり、PH2は炉内水素分圧である。窒化ポテンシャルKNは、ガス窒化炉内の雰囲気が有する窒化能力を表す指標として周知である。
一方、ガス窒化処理中の炉内では、当該炉内へ導入されたアンモニアガスの一部が、式(3)の反応にしたがって水素ガスと窒素ガスとに熱分解する。
NH3→1/2N2+3/2H2 ・・・(3)
炉内では、主に式(3)の反応が生じており、式(1)の窒化反応は量的にはほとんど無視できる。したがって、式(3)の反応で消費された炉内アンモニア濃度または式(3)の反応で発生された水素ガス濃度が分かれば、窒化ポテンシャルを演算することができる。すなわち、発生される水素及び窒素は、アンモニア1モルから、それぞれ1.5モルと0.5モルであるから、炉内アンモニア濃度を測定すれば炉内水素濃度も分かり、窒化ポテンシャルを演算することができる。あるいは、炉内水素濃度を測定すれば、炉内アンモニア濃度が分かり、やはり窒化ポテンシャルを演算することができる。
なお、ガス窒化炉内に流されたアンモニアガスは、炉内を循環した後、炉外へ排出される。すなわち、ガス窒化処理では、炉内の既存ガスに対して、フレッシュ(新た)なアンモニアガスを炉内へ絶えず流入させることにより、当該既存ガスが炉外へ排出され続ける(供給圧で押し出される)。
ここで、炉内へ導入されるアンモニアガスの流量が少なければ、炉内でのガス滞留時間が長くなるため、分解されるアンモニアガスの量が増加して、当該分解反応によって発生される窒素ガス+水素ガスの量は増加する。一方、炉内へ導入されるアンモニアガスの流量が多ければ、分解されずに炉外へ排出されるアンモニアガスの量が増加して、炉内で発生される窒素ガス+水素ガスの量は減少する。
さて、図5は、本発明の一実施形態による窒化鋼部材を製造するための製造装置を示す概略図である。図5に示すように、本実施形態の製造装置1は、循環型処理炉2を備えており、当該循環型処理炉2内へ導入するガスとして、アンモニアとアンモニア分解ガスの2種類のみを用いている。アンモニア分解ガスとは、AXガスとも呼ばれるガスで、1:3の比率の窒素と水素とからなる混合ガスである。もっとも、導入ガスとしては、(1)アンモニアガスのみ、(2)アンモニアとアンモニア分解ガスの2種類のみ、(3)アンモニアと窒素ガスの2種類のみ、または、(4)アンモニアとアンモニア分解ガスと窒素ガスの3種類のみ、から選択され得る。
循環型処理炉2の断面構造例を、図6に示す。図6において、炉壁(ベルとも呼ばれる)201の中に、レトルトと呼ばれる円筒202が配置され、更にその内側に内部レトルトと呼ばれる円筒204が配置されている。ガス導入管205から供給される導入ガスは、図中の矢印に示されるように、被処理品の周囲を通過した後、攪拌扇203の作用によって2つの円筒202、204間の空間を通過して循環する。206は、フレア付きのガスフードであり、207は、熱電対であり、208は冷却作業用の蓋であり、209は、冷却作業用のファンである。当該循環型処理炉2は、横型ガス窒化炉とも呼ばれており、その構造自体は公知のものである。
被処理品Sは、炭素鋼または低合金鋼であって、例えば自動車部品であるクランクシャフトやギア等である。
また、図5に示すように、本実施形態の表面硬化処理装置1の処理炉2には、炉開閉蓋7と、攪拌ファン8と、攪拌ファン駆動モータ9と、雰囲気ガス濃度検出装置3と、窒化ポテンシャル調節計4と、プログラマブルロジックコントローラ30と、炉内導入ガス供給部20と、が設けられている。
攪拌ファン8は、処理炉2内に配置されており、処理炉2内で回転して、処理炉2内の雰囲気を攪拌するようになっている。攪拌ファン駆動モータ9は、攪拌ファン8に連結されており、攪拌ファン8を任意の回転速度で回転させるようになっている。
雰囲気ガス濃度検出装置3は、処理炉2内の水素濃度またはアンモニア濃度を炉内雰囲気ガス濃度として検出可能なセンサにより構成されている。当該センサの検出本体部は、雰囲気ガス配管12を介して処理炉2の内部と連通している。雰囲気ガス配管12は、本実施形態においては、雰囲気ガス濃度検出装置3のセンサ本体部と処理炉2とを直接連通させる経路で形成され、途中で排ガス燃焼分解装置41へ繋がる炉内ガス廃棄配管40が接続されている。これにより、雰囲気ガスは、廃棄されるガスと雰囲気ガス濃度検出装置3に供給されるガスとに分配される。
また、雰囲気ガス濃度検出装置3は、炉内雰囲気ガス濃度を検出した後、当該検出濃度を含む情報信号を、窒化ポテンシャル調節計4へ出力するようになっている。
窒化ポテンシャル調節計4は、炉内窒化ポテンシャル演算装置13と、ガス流量出力調整装置30と、を有している。また、プログラマブルロジックコントローラ31は、ガス導入量制御装置14と、パラメータ設定装置15と、を有している。
炉内窒化ポテンシャル演算装置13は、炉内雰囲気ガス濃度検出装置3によって検出される水素濃度またはアンモニア濃度に基づいて、処理炉2内の窒化ポテンシャルを演算するようになっている。具体的には、実際の炉内導入ガスに応じてプログラムされた窒化ポテンシャルの演算式が組み込まれており、炉内雰囲気ガス濃度の値から窒化ポテンシャルを演算するようになっている。
パラメータ設定装置15は、例えばタッチパネルからなり、炉内導入ガスの総流量、ガス種、処理温度、目標窒化ポテンシャル、等をそれぞれ設定入力できるようになっている。設定入力された各設定パラメータ値は、ガス流量出力調整手段30へ伝送されるようになっている。
そして、ガス流量出力調整手段30が、炉内窒化ポテンシャル演算装置13によって演算された窒化ポテンシャルを出力値とし、目標窒化ポテンシャル(設定された窒化ポテンシャル)を目標値とし、アンモニアガスとアンモニア分解ガスの各々の導入量を入力値とした制御を実施するようになっている。より具体的には、アンモニアガスの導入量とアンモニア分解ガスの導入量との総流量を一定として互いの導入比を変更する第1制御と、アンモニア分解ガスの導入を停止させた状態でアンモニアガスの導入量を変更する第2制御と、を選択的に実施できるようになっている。ガス流量出力調整手段30の出力値は、ガス導入量制御手段14へ伝達されるようになっている。
ガス導入量制御手段14は、各ガスの導入量を実現するべく、アンモニアガス用の第1供給量制御装置22とアンモニア分解ガス用の第2供給量制御装置26とにそれぞれ制御信号を送るようになっている。
本実施形態の炉内導入ガス供給部20は、アンモニアガス用の第1炉内導入ガス供給部21と、第1供給量制御装置22と、第1供給弁23と、第1流量計24と、を有している。また、本実施形態の炉内導入ガス供給部20は、アンモニア分解ガス(AXガス)用の第2炉内導入ガス供給部25と、第2供給量制御装置26と、第2供給弁27と、第2流量計28と、を有している。
本実施形態では、アンモニアガスとアンモニア分解ガスとは、処理炉2内に入る前の炉内導入ガス導入配管29内で混合されるようになっている。
第1炉内導入ガス供給部21は、例えば、第1炉内導入ガス(本例ではアンモニアガス)を充填したタンクにより形成されている。
第1供給量制御装置22は、マスフローコントローラにより形成されており、第1炉内導入ガス供給部21と第1供給弁23との間に介装されている。第1供給量制御装置22の開度が、ガス導入量制御手段14から出力される制御信号に応じて変化する。また、第1供給量制御装置22は、第1炉内導入ガス供給部21から第1供給弁23への供給量を検出し、この検出した供給量を含む情報信号をガス導入制御手段14へ出力するようになっている。当該制御信号は、ガス導入量制御手段14による制御の補正等に用いられ得る。
第1供給弁23は、ガス導入量制御手段14が出力する制御信号に応じて開閉状態を切り換える電磁弁により形成されており、第1供給量制御装置22と第1流量計24との間に介装されている。
第2炉内導入ガス供給部25は、例えば、第2炉内導入ガス(本例ではアンモニア分解ガス)を充填したタンクにより形成されている。
第2供給量制御装置26は、マスフローコントローラにより形成されており、第2炉内導入ガス供給部25と第1供給弁27との間に介装されている。第1供給量制御装置26の開度が、ガス導入量制御手段14から出力される制御信号に応じて変化する。また、第3供給量制御装置26は、第2炉内導入ガス供給部25から第2供給弁27への供給量を検出し、この検出した供給量を含む情報信号をガス導入制御手段14へ出力するようになっている。当該制御信号は、ガス導入量制御手段14による制御の補正等に用いられ得る。
第2供給弁27は、ガス導入量制御手段14が出力する制御信号に応じて開閉状態を切り換える電磁弁により形成されており、第2供給量制御装置26と第2流量計28との間に介装されている。
(窒化鋼部材の製造装置の作用(製造方法))
次に、本実施形態の製造装置1の作用について説明する。まず、循環型処理炉2内に被処理品Sが投入され、循環型処理炉2が所望の処理温度に加熱される。その後、炉内導入ガス供給部20からアンモニアガスとアンモニア分解ガスとの混合ガス、あるいはアンモニアガスのみ、が設定初期流量で処理炉2内へ導入される。この設定初期流量も、パラメータ設定装置15において設定入力可能であり、第1供給量制御装置22及び第2供給量制御装置26(共にマスフローコントローラ)によって制御される。また、攪拌ファン駆動モータ9が駆動されて攪拌ファン8が回転し、処理炉2内の雰囲気を攪拌する。
窒化ポテンシャル調節計4の炉内窒化ポテンシャル演算装置13は、炉内の窒化ポテンシャルを演算し(最初は極めて高い値である(炉内に水素が存在しないため)がアンモニアガスの分解(水素発生)が進行するにつれて低下してくる)、目標窒化ポテンシャルと基準偏差値との和を下回ったか否かを判定する。この基準偏差値も、パラメータ設定装置15において設定入力可能である。
炉内窒化ポテンシャルの演算値が目標窒化ポテンシャルと基準偏差値との和を下回ったと判定されると、窒化ポテンシャル調節計4は、ガス導入量制御手段14を介して、炉内導入ガスの導入量の制御を開始する。
窒化ポテンシャル調節計4の炉内窒化ポテンシャル演算装置13は、入力される水素濃度信号またはアンモニア濃度信号に基づいて炉内窒化ポテンシャルを演算する。そして、ガス流量出力調整手段30は、炉内窒化ポテンシャル演算装置13によって演算された窒化ポテンシャルを出力値とし、目標窒化ポテンシャル(設定された窒化ポテンシャル)を目標値とし、炉内導入ガスの導入量を入力値としたPID制御を実施する。具体的には、当該PID制御において、アンモニアガスの導入量とアンモニア分解ガスの導入量との総流量を一定として互いの導入比を変更する第1制御と、アンモニア分解ガスの導入を停止させた状態でアンモニアガスの導入量を変更する第2制御と、が選択的に実施される。当該PID制御においては、パラメータ設定装置15にて設定入力された各設定パラメータ値が用いられる。この設定パラメータ値は、例えば、目標窒化ポテンシャルの値に応じて異なる値が用意されている。
そして、ガス流量出力調整手段30が、PID制御の結果として、炉内導入ガスの各々の導入量を制御する。具体的には、ガス流量出力調整手段30が、各ガスの流量を決定し、当該出力値がガス導入量制御手段14へ伝達される。
ガス導入量制御手段14は、各ガスの導入量を実現するべく、アンモニアガス用の第1供給量制御装置22とアンモニア分解ガス用の第2供給量制御装置26とにそれぞれ制御信号を送る。
以上のような制御により、炉内窒化ポテンシャルを目標窒化ポテンシャルの近傍に安定的に制御することができる。これにより、被処理品Sの浸窒処理を極めて高品質に行うことができる。
更に、被処理品Sの材料種類や形状によっては、当該製造装置1において浸窒処理後の冷却工程をも実施することが可能である。しかし、当該製造装置1の冷却速度では再加熱後に十分な硬さが得られない場合は、当該製造装置1での浸窒処理後、加熱温度を保持した状態で、被処理品Sを炉外の急冷装置(例えば油槽)へ搬送し、その後に急冷することが必要である。あるいは、製造装置1において冷却した後の被処理品Sを製造装置1から取り出して、急冷装置を備えた別の加熱炉において加熱温度まで再度昇温し、その後に急冷することが必要である。
また、再加熱工程についても、製造装置1での実施も可能ではあるが、一般的には炉外の別の焼戻し炉で実施される。
(第1制御と第2制御との選択について)
第1制御が採用された例を、図7(a)及び図7(b)に示す。図7(a)及び図7(b)の例では、アンモニアガスの導入量とアンモニア分解ガスの導入量との総流量が、166(l/min)で一定となっており、窒化ポテンシャルが0.16に高精度に制御されている。
第2制御が採用された例を、図8(a)及び図8(b)に示す。図8(a)及び図8(b)の例では、アンモニア分解ガスの導入が停止され、アンモニアガスの導入量のみが220(l/min)の近傍で小刻みにフィードバック制御されることで、窒化ポテンシャルが0.16に高精度に制御されている。
制御の安定性及び処理の安全性という観点からは、第1制御が実施されることが好ましい。しかしながら、被処理品Sの炉内挿入量が多い場合(例えば被処理品Sの表面積が7m2を超える場合)には、(3)式の分解反応が多く生ずるため、第1制御では窒化ポテンシャルを高精度に制御することが難しい。そのような場合には、第2制御に移行して窒化ポテンシャル制御が行われることが好ましい。
(案内筒(内部レトルト)の重要性について)
本件発明者の実験によれば、製造装置1から案内筒204(内部レトルト)を取り除いて窒化処理を実施した場合(比較例)には、被処理品Sの表面に化合物層が形成されてしまうことが確認された。(比較例においては、案内筒204を取り除いたことに加えて、撹拌扇203とガス導入管205の位置についても、炉内天井中央に移動した。)
具体的には、製造装置1を用いた場合と、比較例の場合とで、処理温度:640℃、窒化ポテンシャル:0.16、処理時間:2時間、という浸窒処理を実施して、浸窒処理後は温度を保持した状態で別途炉外に設置した油槽まで搬送し、その後に冷却を行った(以後、このように浸窒処理後に油槽まで搬送してから冷却する手順を、油冷と呼ぶ)。被処理品Sとしては、図9で示される冶具を用いて、A面(炉蓋側)、B面(炉内中央)、C面(炉内奥行側)の中央に、それぞれ、鋼材として、S45C鋼であってφ20×5mmのコイン状の試験片が用いられた。
浸窒処理後の各試験片の平面部を当該平面部と垂直に切断し、図2と同様な状態で組織観察した際の断面のM層の厚さを測定したところ、以下の表1に示すように、実施例の場合には、いずれの面においても18〜20μm厚さの窒素マルテンサイトによる硬化層が得られた。
一方、比較例の場合には、いずれの面でも化合物層が形成されてしまって、奥行方向へ設置した面ほどマルテンサイトによる硬化層厚さが厚くなる傾向が認められた。これは、窒化ポテンシャルの炉内均一性が良くないためであると考えられる。
Figure 2021042398
※CL有無:化合物層の有無、M層厚さ:窒素マルテンサイト組織による硬化層厚さ
(硬度の検証)
図10に示すような形状のS45C鋼を対象にして、表3の実施例及び比較例の各々の処理を行った。
実施例では、処理温度640℃、窒化ポテンシャル0.16、処理時間2時間、の浸窒処理後、油冷して、250℃で2時間の再加熱処理を実施した。その結果、マルテンサイト組織による硬化層が、表面に20μmの厚さで得られた。表面から100μmの深さでの拡散層102の硬さと表面から2mmの深さでの硬さとの差(ΔHV)は、135HV>100HVであった。
比較例1では、処理温度570℃、窒化ポテンシャル0.25(γ′相を形成させる値として知られている)、処理時間3.5時間、の浸窒処理後、油冷した。その結果、表面に10μmのγ′相リッチな化合物層が得られた。表面から100μmの深さでの拡散層102の硬さと表面から2mmの深さでの硬さとの差(ΔHV)は、140HV>100HVであった。
比較例2では、処理温度640℃、窒化ポテンシャル0.32(γ′相を形成させる値として知られている)、処理時間2時間、の浸窒処理後、油冷して、250℃で2時間の再加熱処理を実施した。その結果、表面に20μm厚さの化合物層と、その下部に15μmの窒素マルテンサイト組織による硬化層と、が得られた。表面から100μmの深さでの拡散層102の硬さと表面から2mmの深さでの硬さとの差(ΔHV)は、135HV>100HVであった。
比較例3では、処理温度700℃、窒化ポテンシャル0.1、処理時間1.5時間、の浸窒処理後、油冷して、250℃で2時間の再加熱処理を実施した。その結果、マルテンサイト組織による硬化層が、表面に40μmの厚さで得られた。表面から100μmの深さでの拡散層102の硬さと表面から2mmの深さでの硬さとの差(ΔHV)は、70HV<100HVであった。
更に、各試験片に対して、小野式回転曲げ疲労試験機(島津製作所、H7型)を用いて回転曲げ疲労強度を評価した。試験荷重は、56kgfと60kgfで実施し、回転数は3000rpmで共通とした。試験結果の評価は、56kgfでは105回転、60kgfでは107回転を迎えたものを合格(表中○)とし、そうでない場合は不合格(表中×)として評価した。
実施例は、いずれの試験荷重でも目標寿命を達成したが、比較例2と比較例3では、いずれの試験荷重でも目標寿命を達成することができなかった。なお、比較例3では、いずれの試験荷重でも内部破壊をしており、拡散層の硬さが不足して事実と符合した。
Figure 2021042398
1 窒化鋼部材の製造装置
2 循環型処理炉
3 雰囲気ガス濃度検出装置
4 窒化ポテンシャル調節計
5 内部レトルト
6 レトルト
7 炉開閉蓋
8 攪拌ファン
9 攪拌ファン駆動モータ
12 雰囲気ガス配管
13 炉内窒化ポテンシャル演算装置
14 ガス導入量制御装置
15 パラメータ設定装置(タッチパネル)
20 炉内ガス供給部
21 第1炉内導入ガス供給部
22 第1炉内ガス供給制御装置
23 第1供給弁
25 第2炉内導入ガス供給部
26 第2炉内ガス供給制御装置
27 第2供給弁
29 炉内導入ガス導入配管
30 ガス流量出力調整装置
31 プログラマブルロジックコントローラ
40 炉内ガス廃棄配管
41 排ガス燃焼分解装置
100 一実施形態の窒化鋼部材
101 硬化層
102 拡散層
150 比較例の窒化鋼部材
153 化合物層
151 硬化層
152 拡散層
201 炉壁またはベル
202 レトルト
203 撹拌扇
204 案内筒(内部レトルト)
205 ガス導入管
206 フレア付きのガス排気またはガスフード
207 熱電対
208 冷却作業用の蓋
209 冷却作業用の送風機

Claims (5)

  1. 炭素鋼または低合金鋼を母相とする窒化鋼部材であって、
    表面に、質量%で窒素を0.8%以上含むマルテンサイト組織を有する硬化層を備え、
    前記硬化層の下部に、前記母相内に窒素が拡散されている拡散層を備え、
    前記硬化層は、当該窒化鋼部材の表面から2μm〜50μmの厚さを有しており、
    前記拡散層は、当該窒化鋼部材の表面から100μmを超える深さまで延在しており、
    当該窒化鋼部材の表面から2mmの深さにおける硬さよりも、当該窒化鋼部材の表面から100μmの深さにおける前記拡散層の硬さの方が、100HV以上大きい
    ことを特徴とする窒化鋼部材。
  2. 炭素含有量が質量%で0.1%以上である炭素鋼を母相としている
    ことを特徴とする請求項1に記載の窒化鋼部材。
  3. 案内筒と撹拌ファンとを備えた循環型処理炉を用いて、炭素鋼または低合金鋼を母相とする窒化鋼部材を製造する方法であって、
    窒化処理時において、前記循環型処理炉内の温度範囲が、610℃〜660℃に制御され、
    前記窒化処理時において、前記循環型処理炉内の窒化ポテンシャルが、0.06〜0.3の範囲に制御される
    ことを特徴とする窒化鋼部材の製造方法。
  4. 案内筒と撹拌ファンとを有する循環型処理炉を備え、
    窒化処理時において、前記循環型処理炉内の温度範囲が、610℃〜660℃に制御され、
    前記窒化処理時において、前記循環型処理炉内の窒化ポテンシャルが、0.06〜0.3の範囲に制御される
    ことを特徴とする窒化鋼部材の製造装置。
  5. アンモニアガスとアンモニア分解ガスとが前記循環型処理炉内に導入されるようになっており、
    当該製造装置は、前記窒化ポテンシャルを制御するために、
    前記アンモニアガスの導入量と前記アンモニア分解ガスの導入量との総流量を一定として互いの導入比を変更する第1制御と、
    前記アンモニア分解ガスの導入を停止させた状態で、前記アンモニアガスの導入量を変更する第2制御と、
    を選択的に実施できるようになっている
    ことを特徴とする請求項4に記載の窒化鋼部材の製造装置。
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