JP2020200803A - ピストンリング - Google Patents

ピストンリング Download PDF

Info

Publication number
JP2020200803A
JP2020200803A JP2019109157A JP2019109157A JP2020200803A JP 2020200803 A JP2020200803 A JP 2020200803A JP 2019109157 A JP2019109157 A JP 2019109157A JP 2019109157 A JP2019109157 A JP 2019109157A JP 2020200803 A JP2020200803 A JP 2020200803A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
piston ring
coating
film
dlc coating
less
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2019109157A
Other languages
English (en)
Other versions
JP6669922B1 (ja
Inventor
佐藤 智之
Tomoyuki Sato
智之 佐藤
豊 北詰
Yutaka Kitazume
豊 北詰
誉二 岩下
Takatsugu Iwashita
誉二 岩下
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
TPR Co Ltd
Original Assignee
TPR Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Family has litigation
First worldwide family litigation filed litigation Critical https://patents.darts-ip.com/?family=70000742&utm_source=***_patent&utm_medium=platform_link&utm_campaign=public_patent_search&patent=JP2020200803(A) "Global patent litigation dataset” by Darts-ip is licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License.
Application filed by TPR Co Ltd filed Critical TPR Co Ltd
Priority to JP2019109157A priority Critical patent/JP6669922B1/ja
Priority to CN201980037110.6A priority patent/CN112469930B/zh
Priority to MX2020013741A priority patent/MX2020013741A/es
Priority to BR112020025012-0A priority patent/BR112020025012B1/pt
Priority to PCT/JP2019/023500 priority patent/WO2020004061A1/ja
Priority to US17/254,546 priority patent/US11242929B2/en
Priority to KR1020217001883A priority patent/KR102498972B1/ko
Priority to EP19826167.9A priority patent/EP3816486A4/en
Publication of JP6669922B1 publication Critical patent/JP6669922B1/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP2020200803A publication Critical patent/JP2020200803A/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Pistons, Piston Rings, And Cylinders (AREA)
  • Physical Vapour Deposition (AREA)
  • Chemical Vapour Deposition (AREA)

Abstract

【課題】耐摩耗性に優れ、シリンダボア摺動面への攻撃性が低いDLC被膜によって被覆されたピストンリングを提供する。【解決手段】エンジン潤滑油下で使用され、外周摺動面にDLC被膜12、22を有するピストンリング10、20であって、前記DLC被膜12、22は、透過型電子顕微鏡(TEM)に電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせたTEM−EELSスペクトルで測定されるsp2成分比が0.5以上0.85以下であり、ナノインデンテーション法により測定される被膜の硬さが12GPa以上26GPa以下であり、ヤング率が250GPa以下である、ピストンリング10、20。【選択図】図1

Description

本発明は、内燃機関用ピストンに用いられるピストンリングに関する。
内燃機関用ピストンに用いられるピストンリングの外周摺動面は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)被膜により被覆されることがあり、様々な開発が行われている。一般的にDLC被膜は、グラファイト構造に対応する炭素原子のsp結合と、ダイヤモンド構造に対応する炭素原子のsp結合とが混在するアモルファス構造(非晶質構造)の膜である。ここで、spの成分比(sp/(sp+sp))が大きければグラファイトに似た物性(固体潤滑性を有し低摩擦係数)となり、spの成分比(sp/(sp+sp))が大きければダイヤモンドに似た物性(硬さ、耐摩耗性及び化学的安定性に優れる)となるので、その成分比を調整することにより、様々な特性をもつDLC被膜を形成することができる。
特許文献1には、母材側である非晶質硬質炭素膜内面側から外面側に向かうにしたがってsp比が増加する傾斜構造を有し、非晶質硬質炭素膜内面側のsp比をA%とし外面側のsp比をB%とすると、(B−A)の値は20以上である摺動部材が開示される。さらにsp比のAが40%未満であり、sp比のBが65%超であることが好ましく、非晶質硬質炭素膜の表面に存在する300μm以上の大きさのドロップレットの密度が600個/mm以下であれば、母材との密着性に優れ、被膜の欠けや表層の剥離を抑制でき、耐摩耗性に優れることを言及している。
なお、特許文献1における「sp比」は非晶質硬質炭素膜におけるsp結合及びsp結合に対するsp結合の比(sp/(sp+sp))を示すものであり、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS)によって得られるスペクトルに基づいて算出される値を意味する。また、ドロップレットとは、ドロップレット粒子の取り込み又は粒子の脱落に起因して非晶質硬質炭素膜表面に形成される凹部又は凸部をいい、ドロップレットの密度は、顕微鏡を使用して、表面の所定範囲に存在するドロップレット粒子の取り込み又は粒子の脱落に起因した300μm以上の大きさの凹部又は凸部の数を目視でカウントして算出することができ、もちろん、画像処理等を用いてカウントしてもよいとしている。
母材側のsp比が相対的に低いということは母材近傍の非晶質硬質炭素膜が比較的高強度であることを意味している。これにより、高負荷な摺動時において母材との界面近傍の被膜にかかる負荷によって生じる被膜の破壊に起因した被膜剥離を防止できる。また、軟質な母材を用いた場合であっても、母材の変形を抑制し、この変形に伴う被膜剥離を防止できる。すなわち、母材との十分な密着性を確保できる。一方、外面側のsp比が相対的に高いということは炭素原子の結合強度が比較的弱い、すなわち、被膜に柔軟性があることを意味しており、例えば摺動によって生じた摩耗粉やダスト等の異物が摺動面を通り抜ける際に、被膜表面がクッションとなり、被膜にクラックが入り剥離することを防止できる。
特許文献2には、少なくとも1つの摺動面に非晶質硬質炭素膜が形成された摺動部材であって、非晶質硬質炭素膜が摺動部材の母材から表面に向かって連続的及び/又は段階的にヤング率が低下した炭素層であり、前記炭素層の水素濃度が5原子%未満であることを特徴とする摺動部材が開示される。また、炭素層の母材側から少なくとも0.5μmの厚さはヤング率が400GPaを超えており、表面から内側に少なくとも1.5μmの厚さ
はヤング率が350GPa以下であることが好ましいとされ、このようなヤング率により、耐摩耗性及び耐剥離性に優れることを言及している。
特許第6357606号 特開2018−003880号公報
DLC被膜に関してはさまざまな開発がされているところ、自身の耐摩耗性向上と低フリクションの維持に加え、シリンダボアの摺動面を摩耗させない、即ちシリンダボア摺動面への攻撃性(相手材攻撃性)が低いことも要求される。
自動車は走行に伴い、そのエンジンの内部にデポジットと呼ばれる堆積物が生成する。デポジットは、通常、燃料やエンジン潤滑油の不完全燃焼生成物等の堆積物である。近年の省燃費性向上のために、ガソリンエンジンにおいても、排気ガスを燃焼室内に再循環するEGR(Exhaust Gas Recirculation system)の導入や、直噴化により、エンジン潤滑油中に溶け込むデポジットの量が増加する傾向にある。
また、燃焼ガス中には、未燃の燃料に由来する炭化水素の他、酸化物や炭化物などが共存し、これらの物質からもデポジットが生成され、エンジン潤滑油中に滞留することになる。
エンジン潤滑油中のデポジットは、ピストンリングとシリンダボアとの摺動領域に介在し、アブレシブ摩耗が生じる摺動環境を形成する。すなわち、エンジン潤滑油が清浄であり、デポジットの生成が少ない摺動環境に比べると、エンジン潤滑油が劣化した環境下では、ピストンリングおよびシリンダボアとの間には、アブレシブ摩耗が進行する。
本発明は上記のようなアブレシブ摩耗に対しても十分な効果を有する、耐摩耗性に優れ、シリンダボア摺動面への攻撃性が低いDLC被膜によって被覆されたピストンリングを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく研究を重ね、sp成分比、並びにナノインデンテーション法で測定される被膜の硬さ、及びヤング率をそれぞれ特定の範囲とすることで、耐摩耗性に優れ、且つ相手材攻撃性の低いDLC被膜を得られることに想到し、発明を完成させた。
本発明は、エンジン潤滑油下で使用され、外周摺動面にDLC被膜を有するピストンリングであって、前記DLC被膜は、透過型電子顕微鏡(TEM)に電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせたTEM−EELSで測定されるsp成分比が0.5以上0.85以下であり、ナノインデンテーション法により測定される被膜の硬さが12GPa以上26GPa以下であり、且つヤング率が250GPa以下である、ピストンリング、である。
また、前記DLC被膜のヤング率が200GPa以下である、ことが好ましく、前記DLC被膜は、その厚さ方向の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した10,000倍の画像から観察されるマクロパーティクルの数が、10μm当たり2個以下であることが好ましい。
また、前記DLC被膜は、分光エリプソメータにより測定された屈折率が、波長550n
mにおいて2.3以上2.6以下であることが好ましく、被膜の硬さが20GPa以下であることが好ましく、Ti、Cr又はSiを含む下地層を備えることが好ましく、膜厚が1μm以上であることが好ましい。
本発明により、アブレシブ摩耗に対しても十分な効果を有する、耐摩耗性に優れ、シリンダボア摺動面への攻撃性が低いDLC被膜によって被覆されたピストンリングを提供することができる。
(A)ピストンリング基材に、下地層を有するDLC被膜を形成したピストンリングの断面模式図を示す。(B)基材層を有するピストンリング基材に、下地層を有するDLC被膜を形成したピストンリングの断面模式図を示す。 (A)実施例3で製造したDLC被膜の断面SEM画像を示す(図面代用写真)。(B)(A)のマクロパーティクル部位を説明するための模式図を示す。 実施例3で製造したDLC被膜の他の断面SEM画像を示す(図面代用写真)。 比較例1で製造したDLC被膜の断面SEM画像を示す(図面代用写真)。 比較例2で製造したDLC被膜の断面SEM画像を示す(図面代用写真)。 (A)実施例3で製造したDLC被膜の表面SEM画像を示す(図面代用写真)。(B)比較例1で製造したDLC被膜の表面SEM画像を示す(図面代用写真)。 実施例3で製造したDLC被膜表面の粗さ曲線を示す。(A)は成膜直後、(B)は最終仕上げ(表面平滑化)の状態を示す。 比較例1で製造したDLC被膜表面の粗さ曲線を示す。(A)は成膜直後、(B)は最終仕上げ(表面平滑化)の状態を示す。 実施例で行った往復動摩擦摩耗試験の概要を示す模式図である。 密着性試験において、参考例としてDLC被膜の剥離を示すレーザー顕微鏡写真を示す(図面代用写真)。
以下、具体的な実施形態を示し説明するが、各実施形態は本発明の一例として示されるものであり、必ずしも請求項に係る発明を特定するものではなく、また、実施形態の中で説明する特徴の全てが、本発明の課題を解決する手段に必須であるとは限らない。
図1(A)に示す本実施形態に係るピストンリング10は、ピストンに形成されたピストンリング溝(不図示)に装着され、ピストンの往復運動によってシリンダボア(不図示)の内周面を摺動しながら往復運動する。
本実施形態に係るピストンリング10は、トップリング、セカンドリング、オイルリングの何れのピストンリングとして用いてもよい。なお、オイルリングに適用する場合は、オイルリング本体とコイルエキスパンダからなる2ピース構成オイルリングのオイルリング本体、及び2本のセグメント(サイドレールともいう)とエキスパンダ・スペーサからなる3ピース構成オイルリングのセグメント、のいずれにも適用することができる。
なお、本実施形態に係るピストンリング10は、アルミニウム合金製ピストンに装着され、鋳鉄製シリンダボアに対するピストンリングとして好ましく用いられる。
ピストンリング基材11は、従来からピストンリング基材として使用されている材質であれば、材質は特に限定されない。例えば、ステンレス鋼材、鋼材などが好適に用いられ、具体的には、マルテンサイト系ステンレス鋼、シリコンクロム鋼などが好適に用いられる。
図1(A)のピストンリング10は、ピストンリング基材11の平滑化加工された外周
面にCr、Ti、またはSiを含む下地層13を備え、その上にDLC被膜12を有する。下地層13を備えることで、DLC被膜12とピストンリング基材11との密着性を向上させることができる。
下地層13の膜厚は0.2μm以上1.0μm以下であることが好ましい。このような膜厚とすることで、DLC被膜12とピストンリング基材11との密着性をより向上させることができる。尚、下地層13を備えることなく、ピストンリング基材11の平滑化加工された外周面に直接DLC被膜12を成膜してもよい。
DLC被膜12の成膜前におけるピストンリング基材11の外周面の平滑化加工の方法は特に限定されないが、研削加工またはバフ研磨加工を施し、表面粗さを調整することが好ましい。ピストンリング基材11の表面粗さは、JISB0601(2001)における最大高さRzで0.5μm以下に調整することが好ましい。
別の形態として、図1(B)のピストンリング20は、下地層23とピストンリング基材21との間に基材層24を備える。基材層24は、PVD被膜、Crめっき被膜及び窒化層から選択され得る。基材層24を設けることで、ピストンリング基材21とDLC被膜24との密着性を更に向上させることができる。基材層24の膜厚は特に限定されないが、0.2μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
本実施形態で用いられるDLC被膜12は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmisson Electron Microscope) に電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy Loss Spectroscopy)を組み合わせたTEM−EELSで測定されるsp/(sp+sp)構造比(以下、単にsp成分比ともいう)が0.5以上0.85以下であってよく、0.5以上0.8以下であることが好適である。sp成分比が0.5(50%)未満では、被膜硬さが高く、デポジット、摺動によって生じた摩耗粉、ダスト等の異物が摺動面を通り抜ける際に、アブレシブ摩耗によりDLC被膜の耐摩耗性が低下し、また、内部応力が高くなることによりDLC被膜内部の剥離を誘発しやすくなる。sp成分比が0.85(85%)を超えると、炭素原子の結合強度が弱く被膜硬さが低くなり、摺動におけるDLC被膜の耐摩耗性が不足する。sp成分比は0.55以上であってよく、0.60以上であってよく、0.65以上であってよく、0.70以上であってよい。
一般的にDLC被膜は、spの成分比(sp/(sp+sp))が大きければグラファイトに似た物性となり、spの成分比(sp/(sp+sp))が大きければダイヤモンドに似た物性となるので、その成分比を調整することにより、様々な特性をもつDLC被膜を作製することができる。
[sp成分比の測定]
sp成分比の測定は、TEM(日本電子製 電解放出形透過電子顕微鏡 JEM−2100F)と、EELS(Gatan製Model 863GIF Tridiem)を使用した。
TEM−EELSによるsp成分比の測定手順は以下の通りである。
(1)EELS分析装置によってEELSスペクトルを測定する。測定されたEELSスペクトルに対し、ピーク前を一次関数でフィットさせ、ピーク後を三次関数でフィットさせ、ピーク強度を規格化する。
(2)その後、ダイヤモンドのデータとグラファイトのデータを照らし合わせ、ピークの開始位置を揃えてエネルギー値の補正を行う。
(3)(2)の補正済みのデータに対し、280eV〜310eVの範囲内の全面積を求める。
(4)spピーク成分を分離するため、280−295eVの範囲で2ピーク(spのπ*ピークと、CHやアモルファスを含むσ*ピーク)が存在するとみなし、ピーク分
離を行う。このうち285eV付近のピーク面積を求める(spピーク面積)。
(5)上記(3)の面積に対する上記(4)の面積比を取る(spピーク面積比)。この面積比について、グラファイトを100、ダイヤモンドを0とし、相対値からspの割合を求める。これをsp成分比とする。
なお測定値は、一つのピストンリングの周方向において、ピストンリングの合い口反対側の位置と、両側90°を成す3箇所の各位置の被膜断面から抽出された3つの測定値の平均値とする。
本実施形態で用いられるDLC被膜12は、ナノインデンテーション法により測定される硬さが12GPa以上26GPa以下であることが好適である。被膜の硬さが12GPa未満では、被膜硬さが低くDLC被膜の耐摩耗性が不十分になり好ましくない。26GPaを超えると、長距離走行使用後のエンジン潤滑油下で使用される際に、アブレシブ摩耗の摺動環境により、DLC被膜の摩耗が進行し好ましくない。アブレシブ摩耗が生じ得る環境下においては、DLC被膜の硬さに比例して自身の摩耗および相手材の摩耗が増加する。
また、DLC被膜12は、ビッカース硬度が1000HV以上2000HV以下であることが好適であり、1700HV以下であってよく、1500HV以下であってよい。通常、耐摩耗性を考慮すると、被膜の硬度は高い方が好まれるが、被膜の硬度が高すぎる場合にはシリンダボア摺動面攻撃性が高くなる傾向にあること、及びDLC被膜はピストンリング外周面に形成する被膜のため、ピストンへの組み付け作業時等の変形を伴う場合の被膜破壊が発生することから、本実施形態では過度に硬すぎない上記範囲とすることが好ましい。
[ビッカース硬さ測定]
ビッカース硬さの測定は、フィッシャー・インストルメンツ製ナノインデンテーション測定器、型式HM−2000を使用し、ビッカース圧子を用いて、押し込み荷重500mN、最大押し込み荷重までの時間を30s(秒)として、押し込み硬さを測定した。
測定値は、一つのピストンリングの周方向において、ピストンリングの合い口反対側の位置と、両側90°を成す3箇所の各位置の被膜表面から抽出された3つの測定値の平均値とする。
[ナノインデンテーション硬さ測定]
ナノインデンテーション法での硬さ測定は、フィッシャー・インストルメンツ製ナノインデンテーション測定器、型式HM−2000を使用し、ビッカース圧子を用いて、押し込み荷重500mN、最大押し込み荷重までの時間を30s(秒)として、押し込み硬さを測定した。
測定値は、一つのピストンリングの周方向において、ピストンリングの合い口反対側の位置と、両側90°を成す3箇所の各位置の被膜表面から抽出された3つの測定値の平均値とする。
ピストンリング外周面のDLC被膜とシリンダボアとの間にデポジットが介在するような摺動環境、すなわち長距離走行使用後のエンジン潤滑油下で使用される際には、DLC被膜の表面硬さが高いほどDLC被膜が損耗する。これを考慮すれば、被膜表面の硬さが12GPa以上22GPa以下であることがより好ましく、12GPa以上20GPa以下であることが更に好ましく、12GPa以上18GPa以下であることが特に好ましい。
本実施形態で用いられるDLC被膜12は、ナノインデンテーション法により測定され
るヤング率が250GPa以下であることが好適であり、200GPa以下であることがより好ましく、180GPa以下であることが好ましい。ヤング率が250GPaを超えると、デポジットまたは摺動によって生じた摩耗粉やダスト等の異物がDLC被膜表面を通り抜ける際、DLC被膜の最表面層は脆性破壊が出現し損耗が増大する。一方、下限は特に限定されないが、ヤング率が120GPa以上であることで、膜内部の剥離が生じにくくなる。
[ヤング率の測定]
ナノインデンテーション法でのヤング率測定は、フィッシャー・インストルメンツ製ナノインデンテーション測定器、型式HM−2000を使用し、ビッカース圧子を用いて、押し込み荷重500mN、最大押し込み荷重までの時間を30s(秒)の条件で行った。ヤング率は、荷重−押込み深さ曲線から求められる。なお、測定値は、ナノインデンテーション硬さ測定と同様の4つの測定値の平均値とする。
本実施形態で用いられるDLC被膜12は、被膜の厚さ方向断面(ピストンリングの周方向に直交する断面)の、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により撮影された10,000倍の画像(断面SEM画像)観察で、マクロパーティクルの数が10μm当たり2個以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。マクロパーティクルの数が10μm当たり2個以下であることで、表面欠陥の発生を抑制し、且つ表面の凹凸を抑えることができるため、相手攻撃性を低減することができる。
DLC被膜の断面におけるマクロパーティクルについて、図2〜図5に示す10,000倍の断面SEM画像を用いて説明する。
図2(A)は、実施形態(後述の実施例3)のDLC被膜成膜直後の断面SEM画像の一例を示し、図2(B)はマクロパーティクル部位を説明するための、図2(A)の画像を模式的に表した図を示す。
図2(A)中、画像中央の円で囲まれた中に、マクロパーティクルを起点(矢印a)として、被膜表面(矢印d)に向かい拡開するV字状の界面(図2(B)中の矢印bで表す)が一つ形成され、被膜表面(矢印d)には外部に突出する瘤(矢印c)が形成されている。このマクロパーティクルは成膜開始後の初期に形成され、成膜が終了するまでマクロパーティクルを起点としたV字状の界面が成長を続けることを示している。被膜中のV字状の界面の外側(マクロパーティクル部位の外側ともいう)は、被膜の正常部位であり、繰り返される模様が観察されない均質で平滑な面である。
図3は、実施形態(後述の実施例3)のDLC被膜成膜直後の他の断面SEM画像の一例を示す。図2に比べマクロパーティクル部位が成膜の後期に形成された小さい場合を示し、画像中央の円で囲まれた中に、マクロパーティクルを起点(矢印a)として、被膜表面に向かい拡開するV字状の界面が一つ形成され、被膜表面には外部に突出する瘤が形成されている。被膜中のV字状の界面の外側(マクロパーティクル部位の外側ともいう)は、被膜の正常部位であり繰り返される模様が観察されない均質で平滑な面である。
図4は、従来形態(後述の比較例1)のDLC被膜成膜直後の断面SEM画像の一例を示す。画像中央の円で囲まれた中に、マクロパーティクルを起点として、被膜表面に向かい拡開するV字状の界面が二つ重なって形成され、被膜表面は外部に突出する多数の瘤が形成されている。図4は、図2、図3と異なり、マクロパーティクルを起点とするV字状界面が被膜の厚さ方向およびそれと直交する方向(ピストンリングの摺動方向)に重畳して形成されている。すなわち、被膜断面のSEM画像からカウントできるマクロパーティクルの数が大きい。また、図4のSEM画像における被膜表面は、図2、図3および図5のSEM画像に比べ、凹凸が一番大きい。
図5は、従来(後述の比較例2)のDLC被膜成膜直後の断面SEM画像の一例を示す。被膜断面は、ピストンリング基材側が、被膜厚さ方向に平行な縞模様を形成し、異なる二つの被膜層が積層されている。図5中eで示す円に、マクロパーティクルを起点として、被膜表面に向かいわずか延伸しているV字状のにわかな界面が一つ形成されているが、被膜表面への影響はない。
図5中fで示す円では、マクロパーティクルがこのSEM画像上では比較的大きい単一のピットを形成している。このピットの形態に類するマクロパーティクルは、被膜の最表面に露出した場合には、被膜表面から観察してもピットとして出現し、表面の凹凸を形成することになると考えられる。
図5中gで示す円では、マクロパーティクルがこのSEM画像上では比較的大きいピットを複数形成している。このピットの形態に類するマクロパーティクルは、被膜の最表面に露出した場合には、被膜表面から観察しても複数のピットとして出現し、シリンダボアへの攻撃性に大きく作用すると考察される。
図6には、DLC被膜成膜直後の断面SEM画像の図2と図4に対応する成膜直後の倍率が1000倍の表面SEM画像を示す。図6(A)は、図2の実施形態(後述の実施例3)のDLC被膜成膜直後の表面SEM画像を示す。図6(B)は、図4の従来(後述の比較例1)のDLC被膜成膜直後の表面SEM画像を示す。
図6(A)の表面SEM画像の円で囲まれた中に、マクロパーティクルにより形成された表面に突出する直径2μmから3μmの大きめの瘤(写真上のドーム状の白い点)が3つ観察できる。この観察によれば、被膜断面のV字状界面は、被膜層内では円錐状に形成されていると言うことができる。特許文献1では、被膜表面で300μm以上(マクロパーティクルの直径が20μm以上)の大きさのドロップレットの密度が600個/mm以下であることを規定しているが、本実施形態では、マクロパーティクルが存在した場合でも、その直径は5μm以下の水準にある。
図7(A)に、図6(A)のDLC被膜表面における、測定倍率を縦5000倍、横100倍とした粗さ曲線を示す。瘤に相当する山の高さは、1.8μm、2.7μmの水準にある。
図6(B)の表面SEM画像には、全域にマクロパーティクルにより形成された瘤が連続していることが観察できる。図7(B)に図6(B)のDLC被膜表面における、測定倍率を縦5000倍、横100倍とした粗さ曲線を示す。瘤に相当する山は粗さ曲線で連続した凹凸を形成し、最大高さRzとして3.8μmの水準にある。
図7(B)に示すように、図2、図3および図5のDLC被膜表面は、最終仕上げとして表面平滑化加工により表面粗さを最大高さRz1.6μm以下で、粗さ曲線がプラトー形状になるように調整される。
図8(B)に示すように、図4のDLC被膜表面は、最終仕上げとして表面平滑化加工により表面粗さを最大高さRz2.0μm以下で、粗さ曲線の表面が粗い状態に調整されている。
この表面平滑化に際して、図8(A)に示す従来のDLC被膜(比較例1)のように、マクロパーティクルが多く存在し成膜直後の表面凹凸が大きい場合は、図8(B)に示すように、最終仕上げとして表面平滑化加工を行っても表面に凹凸が形成されることから、図7(B)のようにより平滑にすることは困難であり、このためシリンダボア材摩耗量、及び相手材攻撃性が増加すると、本発明者らは考察する。
本実施形態のDLC被膜は、DLC被膜断面に存在するマクロパーティクルの数が低減されており、よって図7(B)のようなより平滑な摺動面形成が可能となり、シリンダボア材への攻撃性を低くすることができる。
[マクロパーティクルの数の測定]
マクロパーティクルの数の測定方法について説明する。マクロパーティクルの数の測定はSEM(日本電子製 JSM−7001F)を使用した。一つのピストンリングの周方向において、ピストンリングの合い口反対側の位置と、両側90°を成す3箇所を切断し、各切断位置から抽出された一つのピストンリングの周方向に直交する断面の10,000倍の断面SEM画像から、被膜の厚さ方向に直交する方向に10μmの幅で挟まれ、被膜の厚さ方向に被膜表面から被膜の厚さDμmまでの囲まれた領域において存在するマクロパーティクル数n個をカウントする。すると被膜断面1カ所における単位面積あたりのマクロパーティクル数N(個/μm)は、N=n/(10D)となる。マクロパーティクル数Pは、10μm当たりの数と定義し、一つのピストンリングの3箇所の平均値とする。この定義の意義は、被膜の厚さに係わらず、マクロパーティクル数Pを比較できることである。ここで、P=n/D(個/10μm)である。
なお、10,000倍の断面SEM画像における被膜断面は、被膜の厚さ方向を縦として、縦方向は最大8.5μm、横方向は最大12μm観察できる。
本実施形態では、10,000倍の断面SEM画像においてP=2(個/10μm)以下が好ましく、P=1.5(個/10μm)以下がより好ましい。
DLC被膜の断面観察におけるマクロパーティクルの減少は、被膜表面におけるマクロパーティクルの存在も減少し、被膜表面における1つのピット当たりの面積の減少またはピット数の減少などによりシリンダボア摺動面への攻撃性を軽減することになる。
本実施形態のDLC被膜は、分光エリプソメータにより測定された屈折率が、波長550nmにおいて2.3以上2.6以下が好適である。上記範囲内の屈折率とすることで、DLC被膜が均質となり、マクロパーティクル数が低減される。
[屈折率の測定]
屈折率を測定する分光エリプソメータとしては、分光エリプソメータ(株式会社堀場製作所製 UVISEL)を用いることができる。
測定条件は、入射角度が70度、スポット径が短径1mmで長径3mmの楕円とする。
測定値は、一つのピストンリングの周方向において、ピストンリングの合い口反対側の位置と、両側90°を成す3箇所の各位置の被膜表面から抽出された3つの測定値の平均値とする。
DLC被膜は、下地層を除き、膜厚が1μm 以上であることが好適である。
本実施形態では自身の耐摩耗性が向上することから、膜厚が少なくとも1μmで適用可能であり、30μm以下であることが好まく、20μm以下であることがより好ましい。
本実施形態に係るDLC被膜の製造方法は、特段限定されない。一例としては、フィルタード カソード バキューム アーク(FCVA:Filtered Cathodic Vacuum arc)法を用いて被膜を形成する方法があげられる。FCVA法は、単一の構造でDLC被膜を形成してもよく、印加するパルスバイアス電圧を変化させて、またはパルスバイアス電圧を変化させることなく複数回成膜することでDLC被膜を形成してもよい。FCVA法によりDLC被膜を製造する場合、印加するパルスバイアス電圧を通常よりも大きく、例えば−1500V〜−3000V、好ましくは−2000V〜−3000Vとすることが好ましい。
次に、実施例、比較例を用いて本発明についてさらに詳しく説明を行う。なお、本発明
は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ピストンリング基材を装置内にセットした状態で、装置内を真空排気して減圧した後、基材を加熱した。その後に基材に対してパルスバイアス電圧を−500〜−1500Vの範囲で印加した状態で、アルゴンイオンによりイオンボンバードを行った。
次にアルゴンガス雰囲気下でスパッタリング方式を用い、ピストンリング基材に対してバイアス電圧を−50V〜−300Vの範囲に設定した後、下地層(接着層)としてTi被膜をピストンリング基材上に成膜した。
次にTi被膜上に第一のアモルファスカーボン層と、第二のアモルファスカーボン層とを交互に成膜して積層した。ここで第一のアモルファスカーボン層はスパッタリング方式を用い、ピストンリング基材に対してバイアス電圧を−50V〜−300Vの範囲内で印加した状態で、カーボンターゲットを用いてアルゴンガス雰囲気下にて成膜した。また、第二のアモルファスカーボン層は、ピストンリング基材に対してパルスバイアス電圧を−500V〜−1500Vの範囲内で印加した状態でカーボンターゲットを用いて、アーク電流50〜200Aで放電し、成膜した。
なお、第一のアモルファスカーボン層及び第二のアモルファスカーボン層の成膜に際しては、水素を含むプロセスガスを使用せずに実施した。また、第一のアモルファスカーボン層の厚みは2nmとし、第二のアモルファスカーボン層の厚みは398nmとした。そして1層の第一のアモルファスカーボン層と1層の第二のアモルファスカーボン層とを1組2層とし、この1組2層単位で繰り返し38組積層し、最終仕上げの表面平滑化加工後、厚さ15μmのDLC被膜を得た。
(実施例2)
第一のアモルファスカーボン層及び第二のアモルファスカーボン層を、繰り返し25組積層し、最終仕上げの表面平滑化加工後、厚さ10μmのDLC被膜を得た以外は、実施例1と同様にして、DLC被膜を得た。
(実施例3)
実施例1と同様に、下地層としてTi被膜をピストンリング基材上に成膜した。
次にTi被膜上にアモルファスカーボン層を成膜した。アモルファスカーボン層はピストンリング基材に対してパルスバイアス電圧を−2000V〜−3000Vの範囲内で印加した状態でカーボンターゲットを用いて、アーク電流50〜200Aで放電し、成膜した。なお、アモルファスカーボン層の成膜に際しては、水素を含むプロセスガスを使用せずに実施した。また、アモルファスカーボン層1層の厚みは400nmとし、13層繰り返し積層することで、最終仕上げの表面平滑化加工後、厚さ5μmのDLC被膜を得た。
(実施例4)
アモルファスカーボン層1層の厚みは400nmとし、25層繰り返し積層することで、最終仕上げの表面平滑化加工後、厚さ10μmのDLC被膜を得た以外は、実施例3と同様にして、DLC被膜を得た。
(比較例1)
ピストンリング基材をアークイオンプレーティング装置内にセットした状態で、装置内を真空排気して減圧した後、基材を加熱した。その後に基材に対してバイアス電圧を−500V〜−1000Vの範囲で印加した状態で、Crターゲットを用いて、アーク電流50A〜100Aで放電し、Crイオンボンバードを行った。
次にアークイオンプレーティングにて、ピストンリング基材に対してバイアス電圧を−10〜−100Vの範囲で印加した状態で、Crターゲットを用いて、アーク電流50〜
100Aで放電し、下地層としてCr被膜をピストンリング基材上に成膜した。
次にCr被膜上にアモルファスカーボン層を成膜した。アモルファスカーボン層はピストンリング基材に対してバイアス電圧を0V〜−100Vの範囲内で印加した状態でカーボンターゲットを用いて、アーク電流50A〜100Aで放電し、成膜することで、最終仕上げの表面平滑化加工後、アモルファスカーボン層厚みが5μmのDLC被膜を得た。
(比較例2)
ピストンリング基材をアークイオンプレーティング装置内にセットした状態で、装置内を真空排気して減圧した後、厚み10μmのCrN層を被覆した。その後、厚み0.2μmのCr中間層を被覆した。245℃までヒータ加熱を行いながら、バイアス電圧−700V、アーク電流40Aで10分間アーク放電を行った後、バイアス電圧−170V、アーク電流40Aでアーク放電を行って合計膜厚0.5μmの黒色(膜密度が高い)のアモルファスカーボン硬質層と白色(膜密度が低い)のアモルファスカーボン硬質層を成膜した後に、一旦125℃まで冷却した。
その後、バイアス電圧を−1000V、アーク電流40Aで90秒間、アーク放電を行って白色の硬質炭素からなる密着層を成膜後、再びバイアス電圧−170V、アーク電流40Aでアーク放電を行って、245℃までヒータ加熱を行い、合計膜厚0.5μmの黒色の硬質層と白色の硬質層を成膜するという昇温と冷却の繰り返しサイクルを8回行い、最終仕上げの表面平滑化加工後、総膜厚5μmのDLC被膜を成膜した。
(比較例3)
実施例1と同様に、下地層としてTi被膜をピストンリング基材上に成膜した。
次にTi被膜上にアモルファスカーボン層を成膜した。アモルファスカーボン層はピストンリング基材に対してパルスバイアス電圧を−3000V〜−3500Vの範囲内で印加した状態でカーボンターゲットを用いて、アーク電流50〜200Aで放電し、成膜した。なお、アモルファスカーボン層の成膜に際しては、水素を含むプロセスガスを使用せずに実施した。また、アモルファスカーボン層1層の厚みは400nmとし、38層繰り返し積層することで、最終仕上げの表面平滑化加工後、厚さ15μmのDLC被膜を得た。
(比較例4)
実施例1と同様に、下地層としてTi被膜をピストンリング基材上に成膜した。
次にTi被膜上に第一のアモルファスカーボン層と、第二のアモルファスカーボン層とを交互に成膜して積層した。ここで第一のアモルファスカーボン層はスパッタリング方式を用い、ピストンリング基材に対してバイアス電圧を−50V〜−300Vの範囲内で印加した状態で、カーボンターゲットを用いてアルゴンガス雰囲気下にて成膜した。また、第二のアモルファスカーボン層は、ピストンリング基材に対してパルスバイアス電圧を−100V〜−500Vの範囲内で印加した状態でカーボンターゲットを用いて、アーク電流50〜200Aで放電し、成膜した。
なお、第一のアモルファスカーボン層及び第二のアモルファスカーボン層の成膜に際しては、水素を含むプロセスガスを使用せずに実施した。また、第一のアモルファスカーボン層の厚みは2nmとし、第二のアモルファスカーボン層の厚みは398nmとした。そして1層の第一のアモルファスカーボン層と1層の第二のアモルファスカーボン層とを1組2層とし、この1組2層単位で繰り返し13組積層し、最終仕上げの表面平滑化加工後、厚さ5μmのDLC被膜を得た。
次に上記DLC被膜に対して評価を行った。まず、往復動摩擦摩耗試験機による摩耗量測定試験は、以下のとおり実施した。
図9に、ピンオンプレート式往復動摩擦摩耗試験の概要を示す。まず、マルテンサイト系ステンレス鋼を呼び径86mm、摺動方向の幅が1.2mmのピストンリング基材とし
、その外周面に上記各実施例、各比較例のDLC被膜を成膜し、外周摺動面を加工したピストンリングを準備した。該ピストンリングの合い口反対側の位置と、両側90°を成す3箇所の各位置の3箇所から、周長20mmのピストンリング部材を切り出し、供試した。切り出したピストンリング部材は最終仕上げを行い、最終仕上げ後のピストンリング部材の表面粗さは、粗さ曲線がプラトー形状であり、最大高さRz1.0μmとし、上試験片100とした。
下試験片110は、JIS FC250相当材であり、硬さがHRB100、炭化物析出が3%の片状黒鉛鋳鉄製シリンダボアを見立てた幅17mm、長さ70mm、厚さ14mmのプレートを作製し、最終表面仕上げを#600エメリーペーパーにより行って、表面粗さは最大高さRzで1.2μmであった。
摩耗量測定試験の試験条件を以下に示す。上試験片100と下試験片110との摺動面には、エンジン実機運転400時間後の使用済みエンジン潤滑油0W−20を試験時間1時間に150μl(マイクロリットル)給油した。
<試験条件>
・ストローク:50mm
・荷重:50N
・速度:300cycle/min
・下試験片の温度:80℃(下試験片加熱用ヒータ122使用)
・試験時間:60min
実施例1から4、比較例1から4におけるDLC被膜に対し、sp成分比(%)、ナノインデンテーション硬さ、ビッカーズ硬さ、ヤング率、マクロパーティクル数P(個/10μm)、屈折率を測定した。測定値を表1に示す。また、往復動摩擦摩耗試験結果による摩擦係数、DLC被膜摩耗量比、相手材摩耗量比、合計摩耗量比および摩耗量評価をそれぞれ表1に示す。なお、往復動摩擦摩耗試験結果は3回試験を行った平均値である。ここで、往復動摩擦摩耗試験における摩擦係数は、試験開始1分後の測定値とした。また、各摩耗量比は、比較例1のDLC被膜摩耗量を50、相手材摩耗量を50、合計摩耗量を100として、他の実施例、比較例を算出している。
<摩耗量の評価>
DLC被膜摩耗量比が40以下で、かつ、相手材摩耗量比が40以下:S
DLC被膜摩耗量比が50以下で、かつ、相手材摩耗量比が40以下:A
DLC被膜摩耗量比が50以下で、かつ、相手材摩耗量比が40超える:B
DLC被膜摩耗量比が50を超え、かつ、相手材摩耗量比が40以下:C
DLC被膜摩耗量比が50を超え、かつ、相手材摩耗量比が40超える:D
摩擦係数は、表1に示すように、実施例で0.085〜0.092、比較例では0.0
91〜0.105であった。一方で、別途摩耗試験において、新品のエンジン潤滑油を用い、清浄な摺動環境において往復動摩擦摩耗試験を行ったところ、実施例・比較例ともに摩擦係数は0.06前後の水準であった。すなわち、上述の摩擦摩耗試験は長期運転後の環境を想定して行ったところ、使用済みエンジン潤滑油に含有されるエンジン内部で生成されたデポジットの影響でアブレシブ摩耗が生じたため、摩擦係数が高くなったと考えられる。
また、密着性試験を実施し、DLC被膜の剥離について評価した。
試験方法は、JIS B2245:2016に準拠するロックウエル硬さCスケール測定に用いられる円すい形ダイヤモンド圧子を用いて、荷重150kgf(1471N)でDLC被膜表面に押し込み、荷重を除荷後、圧痕周りの被膜の剥離発生の有無を確認した。試験は各3回実施した。
図10は、上記密着性試験において、DLC被膜の剥離の有無を示すレーザー顕微鏡写真を示す(図面代用写真)。図10(A)は倍率が200倍である被膜表面のレーザー顕微鏡写真であり、円形の黒い部分が圧子による圧痕を示している。図10(B)は倍率を1000倍として、図(A)の四角で囲んだ部分を拡大した被膜表面のレーザー顕微鏡写真であり、写真右側の灰色の部分が圧子による圧痕を示している。レーザー顕微鏡はキーエンス製VK−X150を使用した。密着性試験の結果、実施例、比較例のいずれも剥離の発生はなかった。
上述の摩耗試験結果は、実際の市場走行エンジンにおける、ピストンリングおよびシリンダボアの摺動摩耗と同様の傾向を示している。エンジン内部で生成したデポジットによりアブレシブ摩耗が生じ、表面硬さの値及びヤング率が大きいDLC被膜ほど、自身の摩耗が多く、また、相手材摩耗も多くなる結果が得られた。
また、被膜断面にマクロパーティクルが縞状模様に多く存在するDLC被膜は、成膜直後の被膜表面に多くの瘤が形成され、瘤の高さは3μmを超えていた。そのため、表面平滑化加工後において、図7(B)のような山部が見られないプラトー状の滑らかな粗さ曲線を得ることは困難となる傾向にあった。
マクロパーティクルが多く存在するDLC被膜は、表面平滑化加工後において被膜表面にピット(図8(B)の粗さ曲線における谷に相当)を多く形成することから、相手材摩耗量が多くなると同時に、自身の摩耗も進行した。
10、20 ピストンリング
11、21 ピストンリング基材
12、22 DLC被膜
13、23 下地層
24 基材層
100 上試験片
110 下試験片
120 可動ブロック
122 下試験片加熱用ヒータ

Claims (7)

  1. エンジン潤滑油下で使用され、外周摺動面にDLC被膜を有するピストンリングであって、前記DLC被膜は、透過型電子顕微鏡(TEM) に電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせたTEM−EELSで測定されるsp成分比が0.5以上0.85以下であり、ナノインデンテーション法により測定される被膜の硬さが12GPa以上26GPa以下であり、且つヤング率が250GPa以下である、ピストンリング。
  2. 前記DLC被膜のヤング率が200GPa以下である、請求項1に記載のピストンリング。
  3. 前記DLC被膜は、その厚さ方向の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した10,000倍の画像から観察されるマクロパーティクルの数が、10μm当たり2個以下である請求項1または2に記載のピストンリング。
  4. 前記DLC被膜は、分光エリプソメータにより測定された屈折率が、波長550nmにおいて2.3以上2.6以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載のピストンリング。
  5. 前記DLC被膜は、被膜の硬さが20GPa以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のピストンリング。
  6. 前記DLC被膜は、Ti、Cr又はSiを含む下地層を備える、請求項1から5のいずれか1項に記載のピストンリング。
  7. 前記DLC被膜は、膜厚が1μm 以上である、請求項1から6のいずれか1項に記載のピストンリング。
JP2019109157A 2018-06-29 2019-06-12 ピストンリング Active JP6669922B1 (ja)

Priority Applications (8)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2019109157A JP6669922B1 (ja) 2019-06-12 2019-06-12 ピストンリング
PCT/JP2019/023500 WO2020004061A1 (ja) 2018-06-29 2019-06-13 ピストンリング
MX2020013741A MX2020013741A (es) 2018-06-29 2019-06-13 Anillo de piston.
BR112020025012-0A BR112020025012B1 (pt) 2018-06-29 2019-06-13 Anel de pistão
CN201980037110.6A CN112469930B (zh) 2018-06-29 2019-06-13 活塞环
US17/254,546 US11242929B2 (en) 2018-06-29 2019-06-13 Piston ring
KR1020217001883A KR102498972B1 (ko) 2018-06-29 2019-06-13 피스톤 링
EP19826167.9A EP3816486A4 (en) 2018-06-29 2019-06-13 PISTON RING

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2019109157A JP6669922B1 (ja) 2019-06-12 2019-06-12 ピストンリング

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP6669922B1 JP6669922B1 (ja) 2020-03-18
JP2020200803A true JP2020200803A (ja) 2020-12-17

Family

ID=70000742

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2019109157A Active JP6669922B1 (ja) 2018-06-29 2019-06-12 ピストンリング

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6669922B1 (ja)

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP7021402B1 (ja) * 2021-09-30 2022-02-16 Tpr株式会社 摺動部材
JP7058781B1 (ja) 2021-03-30 2022-04-22 株式会社リケン ピストンリング及びその製造方法
JP7068559B1 (ja) * 2021-09-30 2022-05-16 Tpr株式会社 摺動部材

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US11946010B2 (en) * 2019-09-30 2024-04-02 Nippon Piston Ring Co., Ltd. Sliding member, manufacturing method thereof, and coating film

Citations (11)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5424103B2 (ja) * 2008-09-24 2014-02-26 日立金属株式会社 塑性加工用被覆金型
JP2014088024A (ja) * 2005-08-18 2014-05-15 Sulzer Metaplas Gmbh 四面体炭素層および軟質外層を備える層状構造によって被覆された基板
JP2014091844A (ja) * 2012-11-01 2014-05-19 Toyota Motor Corp 摺動部材、その製造方法、および摺動構造
JP5575989B2 (ja) * 2012-03-14 2014-08-20 株式会社リケン シリンダとピストンリングとの組合せ
WO2016021671A1 (ja) * 2014-08-07 2016-02-11 国立大学法人豊橋技術科学大学 Dlc膜及びdlc膜被膜物品
JP2016037637A (ja) * 2014-08-07 2016-03-22 国立大学法人豊橋技術科学大学 Dlc膜形成方法及びdlc膜形成装置
JP5900754B2 (ja) * 2011-09-07 2016-04-06 ナノテック株式会社 炭素膜成膜装置
JP6181905B1 (ja) * 2016-03-04 2017-08-16 株式会社リケン 摺動部材及びピストンリング
JP2018076958A (ja) * 2016-10-31 2018-05-17 日本ピストンリング株式会社 ピストンリング
JP6357607B1 (ja) * 2017-03-31 2018-07-11 株式会社リケン 摺動部材及びピストンリング
JP2019082241A (ja) * 2017-10-31 2019-05-30 日本ピストンリング株式会社 ピストンリング

Patent Citations (11)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2014088024A (ja) * 2005-08-18 2014-05-15 Sulzer Metaplas Gmbh 四面体炭素層および軟質外層を備える層状構造によって被覆された基板
JP5424103B2 (ja) * 2008-09-24 2014-02-26 日立金属株式会社 塑性加工用被覆金型
JP5900754B2 (ja) * 2011-09-07 2016-04-06 ナノテック株式会社 炭素膜成膜装置
JP5575989B2 (ja) * 2012-03-14 2014-08-20 株式会社リケン シリンダとピストンリングとの組合せ
JP2014091844A (ja) * 2012-11-01 2014-05-19 Toyota Motor Corp 摺動部材、その製造方法、および摺動構造
WO2016021671A1 (ja) * 2014-08-07 2016-02-11 国立大学法人豊橋技術科学大学 Dlc膜及びdlc膜被膜物品
JP2016037637A (ja) * 2014-08-07 2016-03-22 国立大学法人豊橋技術科学大学 Dlc膜形成方法及びdlc膜形成装置
JP6181905B1 (ja) * 2016-03-04 2017-08-16 株式会社リケン 摺動部材及びピストンリング
JP2018076958A (ja) * 2016-10-31 2018-05-17 日本ピストンリング株式会社 ピストンリング
JP6357607B1 (ja) * 2017-03-31 2018-07-11 株式会社リケン 摺動部材及びピストンリング
JP2019082241A (ja) * 2017-10-31 2019-05-30 日本ピストンリング株式会社 ピストンリング

Cited By (13)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2022154350A (ja) * 2021-03-30 2022-10-13 株式会社リケン ピストンリング及びその製造方法
JP7058781B1 (ja) 2021-03-30 2022-04-22 株式会社リケン ピストンリング及びその製造方法
US11746903B2 (en) 2021-03-30 2023-09-05 Kabushiki Kaisha Riken Piston ring and method for manufacturing same
WO2022209023A1 (ja) * 2021-03-30 2022-10-06 株式会社リケン ピストンリング及びその製造方法
WO2023053380A1 (ja) * 2021-09-30 2023-04-06 Tpr株式会社 摺動部材
WO2023053379A1 (ja) * 2021-09-30 2023-04-06 Tpr株式会社 摺動部材
JP7021402B1 (ja) * 2021-09-30 2022-02-16 Tpr株式会社 摺動部材
KR20230051701A (ko) * 2021-09-30 2023-04-18 티피알 가부시키가이샤 슬라이딩 부재
JP7068559B1 (ja) * 2021-09-30 2022-05-16 Tpr株式会社 摺動部材
EP4202199A4 (en) * 2021-09-30 2023-12-06 TPR Co., Ltd. SLIDING ELEMENT
KR102616390B1 (ko) 2021-09-30 2023-12-20 티피알 가부시키가이샤 슬라이딩 부재
US11867295B2 (en) 2021-09-30 2024-01-09 Tpr Co., Ltd. Sliding member
US11867294B2 (en) 2021-09-30 2024-01-09 Tpr Co., Ltd. Sliding member

Also Published As

Publication number Publication date
JP6669922B1 (ja) 2020-03-18

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6669922B1 (ja) ピストンリング
KR102498972B1 (ko) 피스톤 링
JP6494505B2 (ja) 硬質炭素皮膜
JP6472389B2 (ja) ピストンリング及びその製造方法
US10036345B2 (en) Combination of cylinder and piston ring
JP6109325B2 (ja) アルミニウム合金製の相手材とピストンリングとの組み合わせ
JP6557342B2 (ja) ピストンリング及びその製造方法
JP6718452B2 (ja) ピストンリング及びその製造方法
JP7290171B2 (ja) 摺動部材、その製造方法及び被覆膜
JP6762887B2 (ja) ピストンリング
JP2019082241A (ja) ピストンリング
JP2019116677A (ja) 摺動部材
JP2021095884A (ja) シリンダとピストンリングとの組み合わせ
KR102616390B1 (ko) 슬라이딩 부재
WO2023053379A1 (ja) 摺動部材
JP6938807B1 (ja) 摺動部材及びピストンリング
JP2020003022A (ja) ピストンリング
WO2022176113A1 (ja) 摺動被膜及び摺動部材

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20190704

A871 Explanation of circumstances concerning accelerated examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A871

Effective date: 20190704

A975 Report on accelerated examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971005

Effective date: 20190724

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20190806

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20191003

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20191112

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20200110

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20200128

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20200227

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6669922

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250