JP6938807B1 - 摺動部材及びピストンリング - Google Patents

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Abstract

耐熱性に優れたDLC皮膜を有し、潤滑油に有機モリブデン系化合物を含むか否かに関わらず高い耐摩耗性を得ることができ、さらに低い摩擦係数を実現することが可能な摺動部材を提供する。本開示の摺動部材100は、基材10と、該基材10上に形成され、表面20Aが摺動面となる非晶質炭素皮膜20と、を有する。非晶質炭素皮膜の表面20Aには、ケイ素:2原子%以上20原子%以下、及びホウ素:2原子%以上15原子%以下を含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する第1領域18Aと、炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する第2領域18Bとが混在しており、前記表面20Aにおける第1領域18Aの面積をA、第2領域18Bの面積をBとして、B/(A+B)が0.05以上0.40以下であることを特徴とする。

Description

本発明は、摺動部材、特にピストンリング等の自動車部品など、高い信頼性を要求される摺動部材に関する。
近年、自動車エンジンを中心とする内燃機関において、高出力化、長寿命化、燃費向上が求められている。そこで、例えば内燃機関等で使用される摺動部材の摺動面には、摩擦係数が低いことで知られている硬質炭素皮膜を形成することが一般的に行われている。
この硬質炭素皮膜としては、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:DLC)と呼ばれる非晶質炭素が例示される。DLCの構造的本質は、炭素の結合としてダイヤモンド結合(sp3結合)とグラファイト結合(sp2結合)とが混在したものである。よって、DLCは、ダイヤモンドに類似した硬度、耐摩耗性、熱伝導性、化学安定性を有し、一方でグラファイトに類似した固体潤滑性を有することから、例えば自動車部品などの保護膜として好適である。
特許文献1には、水素を含まないDLC(ta−C:tetrahedral amourphous Carbon)皮膜を外周面に被覆してなるピストンリングが開示されている。
特表2013−528697号公報
特許文献1のように、水素フリーのDLC皮膜は、高温環境下における水素の離脱に起因する耐摩耗性の劣化を回避することができる点では好ましい。しかしながら、DLC皮膜は炭素を主成分とするため、一般に耐熱性に劣る傾向がある。すなわち、従来の水素フリーDLC皮膜は、400℃以上の高温環境下において硬度が低下してしまうという問題があった。例えば、環境保全に対応して燃費を向上させたダウンサイジングターボエンジン用のピストンリングの場合、高温かつ高面圧という、非常に厳しい摺動環境となる。ピストンリング以外の摺動部材においても、近年摺動環境は高温化しつつある。そのため、近年摺動部材には、上記のような高温環境下でもDLC皮膜の硬度低下が抑えられるという、高い耐熱性が望まれている。また、従来の水素フリーDLC皮膜では、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下で摺動させると、DLC皮膜の摩耗が促進されて、十分な耐摩耗性を得ることができないという問題があった。
これらの問題を解決すべく本発明者らが検討したところ、摺動部材の摺動面を形成する非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)を、所定量のケイ素(Si)及びホウ素(B)を含み、かつ、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成とすることによって、高い耐熱性と、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での高い耐摩耗性を実現することができるとの知見を得た。
しかしながら、本発明者らがさらに検討を進めたところ、上記のようなSi−B含有水素フリーDLC皮膜の場合、有機モリブデン系化合物を含まない潤滑油下では高い耐摩耗性が得られないこと、また、摺動熱によるグラファイト化が促進されにくくなり、低摩擦係数を得にくくなることが判明した。
そこで本発明は、上記課題に鑑み、耐熱性に優れたDLC皮膜を有し、潤滑油に有機モリブデン系化合物を含むか否かに関わらず高い耐摩耗性を得ることができ、さらに低い摩擦係数を実現することが可能な摺動部材を提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討したところ、水素フリーの非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)の表面に、所定量のSi及びBを含有する第1領域と、Si及びBを含有せずCのみからなる第2領域とを混在させておき、しかも、当該表面における第1領域及び第2領域の面積比率を所定の範囲とすることによって、耐熱性、潤滑油の種類に依らない高い耐摩耗性、及び低い低摩擦係数の全ての特性を実現できることを見出した。
上記知見に基づき完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)基材と、
該基材上に形成され、表面が摺動面となる非晶質炭素皮膜と、
を有し、
前記非晶質炭素皮膜の前記表面には、ケイ素:2原子%以上20原子%以下、及びホウ素:2原子%以上15原子%以下を含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する第1領域と、炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する第2領域とが混在しており、
前記表面における前記第1領域の面積をA、前記第2領域の面積をBとして、B/(A+B)が0.05以上0.40以下であることを特徴とする摺動部材。
(2)前記非晶質炭素皮膜の厚さが20μm以下の場合は、前記非晶質炭素皮膜の厚み方向の全範囲において、前記非晶質炭素皮膜の厚さが20μm超えの場合には、前記非晶質炭素皮膜の前記表面から厚み方向に少なくとも20μmの範囲において、前記厚み方向に垂直な断面において、前記第1領域と前記第2領域が混在しており、前記断面における前記第1領域の面積をA’、前記第2領域の面積をB’として、B’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である、上記(1)に記載の摺動部材。
(3)前記第1領域の成分組成が、窒素:15原子%以下及び酸素:15原子%以下の少なくとも一方をさらに含む、上記(1)又は(2)に記載の摺動部材。
(4)前記第1領域のインデンテーション硬さが前記第2領域のインデンテーション硬さよりも小さい、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の摺動部材。
(5)前記非晶質炭素皮膜の厚さが0.5μm以上50μm以下である、上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の摺動部材。
(6)前記基材と前記非晶質炭素皮膜との間に、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなる中間層を有する、上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の摺動部材。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の摺動部材からなるピストンリングであって、その外周面が前記摺動面であるピストンリング。
本発明の摺動部材は、耐熱性に優れたDLC皮膜を有し、潤滑油に有機モリブデン系化合物を含むか否かに関わらず高い耐摩耗性を得ることができ、さらに低い摩擦係数を実現することが可能である。
本発明の第1の実施形態による摺動部材100の模式断面図である。 本発明の第1の実施形態による摺動部材100の製造工程の一部を模式的に説明する図である。 本発明の第2の実施形態による摺動部材200の模式断面図である。 本発明の一実施形態によるピストンリング300の断面斜視図である。 表1の発明例(No.4)におけるDLC皮膜表面のSEM画像である。 往復摺動試験の形態を示す模式図である。 摩耗深さの算出方法を説明する模式図である。
(摺動部材)
図1を参照して、本発明の第1の実施形態による摺動部材100は、潤滑油下で使用されるものであり、基材10と、この基材10上に形成され、表面20Aが摺動面となる非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)20と、を有する。また、任意で、基材10と非晶質炭素皮膜20との間に中間層12を有してもよい。
図3を参照して、本発明の第2の実施形態による摺動部材200は、潤滑油下で使用されるものであり、基材10と、この基材10上に形成され、表面30Aが摺動面となる非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)30と、を有する。また、任意で、基材10と非晶質炭素皮膜30との間に中間層(図示せず)を有してもよい。
本実施形態による摺動部材100,200は、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油の存在下で、又は、有機モリブデン系化合物を含まない潤滑油の存在下で使用される。すなわち、摺動部材100,200と、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油又は有機モリブデン系化合物を含まない潤滑油とを組み合わせた使用も、本発明を構成する。さらには、摺動部材100,200と、任意の相手側摺動部材と、これら両者の摺動面に供給される有機モリブデン系化合物を含む潤滑油又は有機モリブデン系化合物を含まない潤滑油と、を含む摺動構造も、本発明を構成する。
有機モリブデン系化合物は、モリブデンジチオカーバメイト(Mo−DTC)及びモリブデンジチオフォスフェート(Mo−DTP)から選択される1以上の有機モリブデン系化合物であることが好ましい。これらの有機モリブデン系化合物は、摺動による熱によって分解して、DLC皮膜と摺動する相手材の摺動面に二硫化モリブデン(MoS2)のトライボフィルムを形成することができる。
[基材]
基材10の材質は、摺動部材の基材として必要な強度を有するものであれば特に限定されない。本実施形態の摺動部材100,200をピストンリングとする場合、基材10の好ましい材料としては、鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、高級鋳鉄等が挙げられる。本実施形態の摺動部材100,200をCVTなどのシールリングとする場合、基材10の材料としては樹脂が挙げられ、コンプレッサのベーンなどとする場合、基材10の材料としてはアルミ合金等が挙げられる。
第1の実施形態に適用される場合、基材10の表面(DLC皮膜を形成する表面)の粗さは、算術平均粗さRaで0.01μm以上であることが好ましい。基材10の表面粗さがRaで0.01μm未満の場合、当該表面がほぼ鏡面となり、後述する適度な表面粗さの第1DLC層14及び第2DLC層16(図1,2参照)を形成することができないからである。第1の実施形態に適用される基材10の表面粗さの上限は特に限定されないが、最終表面研磨の研磨代を考慮すると、基材10の表面粗さはRaで0.15μm以下であることが好ましい。基材10の表面粗さは、基材表面の研磨の程度を調整することにより制御できる。また、基材表面にホーニング加工を施して、意図的に表面粗さを形成することもできる。なお、第2の実施形態に適用される場合、基材10の表面粗さは特に限定されないが、第1の実施形態に適用される場合と同様とすることができる。
「基材表面のRa」は、以下の方法により測定するものとする。すなわち、基材表面の任意の位置において、JIS B0601(2001)に従い、基準長さ:1.25mm、カットオフ値λc:0.25mm、カットオフ比λc/λs=100の条件で、基材の粗さ曲線を測定し、算術平均粗さRaを求める。なお、測定は3回行い、その3回の平均値を採用するものとする。
[中間層]
中間層12は、基材10とDLC皮膜20,30との間に形成されることにより基材10との界面の応力を緩和し、DLC皮膜20,30の密着性を高める機能を有する。この機能を発揮する観点から、中間層12は、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなるものとすることが好ましい。DLC皮膜20,30の密着性を十分に高める観点から、中間層12の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。また、摺動時に中間層12が塑性流動を起こしてDLC皮膜20,30が剥離することを十分に抑制する観点から、中間層12の厚さは、0.6μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
中間層12の形成方法としては、例えばスパッタリング法を挙げることができる。洗浄後の基材10をPVD成膜装置の真空チャンバ内に配置し、Arガスを導入した状態でターゲットのスパッタ放電によって、中間層12を成膜する。ターゲットは、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWから選択すればよい。中間層12の厚さは、ターゲットの放電時間により調整できる。
[DLC皮膜]
図1を参照して、第1の実施形態に適用されるDLC皮膜20は、中間層12を形成しない場合には、基材10の表面上に形成され、中間層12を形成する場合には、中間層12の表面上に形成される。図1に示すように、DLC皮膜20は、所定量のSi及びBを含有する第1DLC層(Si−B含有HフリーDLC層)14と、Si及びBを含有せずCのみからなる第2DLC層(HフリーDLC層)16とが、所定の表面粗さを持ちつつ複数回交互に積層されてなる。そして、図1に加えて図2も参照して、所定の表面粗さを有する最上層の第2DLC層(HフリーDLC層)16の表面が所定量研磨されることによって、DLC皮膜20が形成され、その表面20Aには、第1DLC層(Si−B含有HフリーDLC層)14が露出した第1領域(Si−B含有領域)18Aと、第2DLC層(HフリーDLC層)16が残存した第2領域(ta−C領域)18Bとが混在している。
なお、図1及び図2では、最上層を第2DLC層16とした例を示したが、本発明はこれに限定されず、最上層を第1DLC層14としてもよい。その場合、所定の表面粗さを有する最上層の第1DLC層14の表面が所定量研磨されることによって、DLC皮膜20が形成され、その表面20Aには、第1DLC層(Si−B含有HフリーDLC層)14が残存した第1領域(Si−B含有領域)18Aと、第2DLC層(HフリーDLC層)16が露出した第2領域(ta−C領域)18Bとが混在することになる。
なお、最下層に関しても特に限定されず、第1DLC層14であっても第2DLC層16であってもよい。
図3を参照して、第2の実施形態に適用されるDLC皮膜30は、中間層を形成しない場合には、基材10の表面上に形成され、中間層を形成する場合には、中間層の表面上に形成される。図3に示すように、DLC皮膜30は、所定量のSi及びBを含有する第1DLC部(Si−B含有HフリーDLC部)24をマトリックスとして、Si及びBを含有せずCのみからなる第2DLC部(HフリーDLC部)26が、当該マトリックス中に分散された皮膜構造を有する。DLC皮膜30は、その表面が所定量研磨されており、その結果、DLC皮膜30の表面30Aには、第1DLC部(Si−B含有HフリーDLC部)24が露出した第1領域(Si−B含有領域)28Aと、第2DLC部(HフリーDLC部)26が露出した第2領域(ta−C領域)28Bとが混在している。
<第1DLC層/第1DLC部の成分組成>
第1DLC層14及び第1DLC部24は、ケイ素:2原子%以上20原子%以下、及びホウ素:2原子%以上15原子%以下を含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する。第1DLC層14及び第1DLC部24は、さらに所定量の窒素(N)及び酸素(O)の一方又は両方を含むことが好ましい。なお、非晶質炭素であることは、ラマン分光光度計(Arレーザ)を用いたラマンスペクトル測定により確認できる。第1DLC層14及び第1DLC部24は、このような成分組成を有することにより、DLC皮膜20,30の耐熱性の向上と、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での耐摩耗性の向上に寄与する。このような効果が得られる作用について、本発明者らは以下のように考えている。
一般に、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油の存在下では、DLC皮膜中のカーボンのダングリングボンドと潤滑油中のMoが結合し、硬質なモリブデンカーバイド(MoC)粒子が生成する。このMoC粒子が、DLC皮膜の摩耗を促進する。これに対し、本実施形態では、第1DLC層14及び第1DLC部24が所定量のSi及びBを含有するため、第1DLC層14及び第1DLC部24中のカーボンのダングリングボンド密度が減少し、その結果、硬質なMoC粒子の生成が抑制される。その結果、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下で高い耐摩耗性を得ることができる。
また、第1DLC層14及び第1DLC部24が所定量のSi及びBを含有する場合、高温環境下においてSi及びBが酸素と反応することによって、摺動面として露出した際の第1DLC層14及び第1DLC部24の表面に緻密なSiO2皮膜及びB23皮膜が形成され、これら皮膜が保護膜として機能して、耐熱性が向上するものと考えられる。
Si含有量が2原子%未満の場合、又は、B含有量が2原子%未満の場合、上記作用による耐熱性の向上及び有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での耐摩耗性の向上の効果を十分に得ることができない。よって、Si含有量は、2原子%以上とし、5原子%以上とすることが好ましく、B含有量は2原子%以上とし、5原子%以上とすることが好ましく、Si含有量とB含有量の合計は10原子%以上とすることが好ましい。
Si含有量が20原子%超えの場合、炭素のsp3結合が大幅に減少するため、所望の硬度を有するDLC皮膜を得ることができず、耐熱性及び耐摩耗性ともに劣化する。B含有量が15原子%超えの場合、C/B合金カソードの放電が非常に不安定になるため、所望の硬度を有するDLC皮膜を得ることができず、耐熱性及び耐摩耗性ともに劣化する。よって、Si含有量は、20原子%以下とし、15原子%以下とすることが好ましく、B含有量は15原子%以下とし、12原子%以下とすることが好ましく、10原子%以下とすることがより好ましい。Si含有量とB含有量の合計は30原子%以下とすることが好ましい。
第1DLC層14及び第1DLC部24が水素を含有する場合、摺動によって第1DLC層14及び第1DLC部24が高温になると、水素が脱離して第1DLC層14及び第1DLC部24が劣化することによって、第1DLC層14及び第1DLC部24の摩耗が促進される。よって、第1DLC層14及び第1DLC部24は、実質的に水素を含まないものとする。これにより、高温環境下における水素の離脱に起因する耐摩耗性の劣化を回避することができる。ここで、本明細書において「実質的に水素を含まない」とは、第1DLC層14及び第1DLC部24中の水素含有量が3原子%以下であることを意味する。
第1DLC層14及び第1DLC部24は窒素(N)を含んでもよい。Nを含有させることによって、B−N結合及びSi−N結合が形成される。BNはせん断抵抗の低い層状格子構造を有するため、摩擦低減効果を発揮し、Si34は優れた破壊靭性を有するため、耐摩耗性の向上に寄与する。この観点から、N含有量は5原子%以上とすることが好ましい。ただし、N含有量が15原子%超えになると、炭素のsp3結合の形成を阻害するため、所望の硬度を有する第1DLC層及び第1DLC部を得ることができず、耐熱性及び耐摩耗性ともに劣化する。よって、第1DLC層14及び第1DLC部24が窒素を含む場合、そのN含有量は15原子%以下とし、好ましくは12原子%以下とする。
第1DLC層14及び第1DLC部24は酸素(O)を含んでもよい。Oを含有させることによって、摺動によって第1DLC層14及び第1DLC部24の表面が高温になった際に、SiO2及びB23の酸化物層が形成されやすくなり、潤滑油中の有機モリブデン系化合物の分解・硫化反応によるMoS2の生成を促進する結果、潤滑性が向上して、低摩擦かつ高い耐摩耗性を実現することができる。この観点から、O含有量は2原子%以上とすることが好ましい。ただし、O含有量が15原子%超えになると、C−O−C結合及びC=O結合が増え、第1DLC層及び第1DLC部の密度が低下し、耐熱性及び耐摩耗性ともに劣化する。よって、第1DLC層14及び第1DLC部24が酸素を含む場合、そのO含有量は15原子%以下とする。
また、低摩擦係数を維持しつつ、高い耐摩耗性を実現する観点から、窒素と酸素の合計含有量は15原子%以下とすることが好ましい。
<第2DLC層/第2DLC部の成分組成>
第2DLC層16及び第2DLC部26は、炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する。なお、非晶質炭素であることは、ラマン分光光度計(Arレーザ)を用いたラマンスペクトル測定により確認できる。第2DLC層16及び第2DLC部26は、このような成分組成を有することにより、有機モリブデン系化合物を含まない潤滑油下での耐摩耗性の向上と、摩擦係数の低下に寄与する。このような効果が得られる作用について、本発明者らは以下のように考えている。
第2DLC層16及び第2DLC部26は、実質的に炭素のみからなることから、摺動熱によるグラファイト化が促進され、摩擦係数の低下に寄与する。また、摩擦係数の低減により、摺動負荷が低減し、有機モリブデン系化合物を含まない潤滑油下で摩耗量が抑制される。
第1DLC層14及び第1DLC部24と同様に、第2DLC層16及び第2DLC部26も、実質的に水素を含まないものとする。これにより、高温環境下における水素の離脱に起因する耐摩耗性の劣化を回避することができる。ここで、本明細書において「実質的に水素を含まない」とは、第2DLC層16及び第2DLC部26中の水素含有量が3原子%以下であることを意味する。
<DLC皮膜の水素含有量の測定方法>
DLC皮膜の水素含有量の評価は、摺動部が平坦な面や曲率が十分大きな面に形成されたDLC皮膜に対してはRBS(Rutherford Backscattering Spectrometry)/HFS(Hydrogen Forward Scattering Spectrometry)によって評価することができる。これに対して、ピストンリングの外周面など平坦でない摺動面に形成されたDLC皮膜に対しては、RBS/HFS及びSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)を組み合わせることによって評価する。RBS/HFSは公知の皮膜組成の分析方法であるが、平坦でない面の分析には適用できないので、以下のようにしてRBS/HFS及びSIMSを組み合わせる。
まず、平坦な面を有する基準試料として、鏡面研磨した平坦な試験片(焼入処理を施したSKH51ディスク、φ25×厚さ5mm、硬さHRC60〜63)に、基準値の測定対象となる炭素皮膜を形成する。
基準試料への成膜は、反応性スパッタリング法を用いて、雰囲気ガスとしてC22、Ar、H2を導入して行う。そして、導入するH2流量及び/又はC22流量を変えることによって、炭素皮膜に含まれる水素量を調整する。このようにして水素と炭素によって構成され、水素含有率が異なる炭素皮膜を形成し、これらをRBS/HFSで水素含有量と炭素含有量を評価する。
次に、上記の試料をSIMSで分析し、水素と炭素の二次イオン強度を測定する。ここで、SIMS分析は、平坦でない面、例えばピストンリングの外周面に形成された皮膜でも測定できる。したがって、炭素皮膜が施された基準試料の同一の皮膜について、RBS/HFSによって得られた水素含有量と炭素含有量(単位:原子%)と、SIMSによって得られた水素と炭素の二次イオン強度の比率との関係を示す実験式(計量線)を求める。このようにすることで、実際のピストンリングの外周面について測定したSIMSの水素と炭素の二次イオン強度から、水素含有量と炭素含有量を算出することができる。なお、SIMSによる二次イオン強度の値は、少なくとも炭素皮膜の表面から20nm以上の深さ、且つ50nm四方の範囲において観測されたそれぞれの元素の二次イオン強度の平均値を採用する。
<第1DLC層/第1DLC部のSi、B、N及びO含有量の測定方法>
第1DLC層及び第1DLC部のSi、B、N及びO含有量は、X線光電子分光法(XPS)により以下の条件下で測定するものとする。XPSにおける元素の定量分析は、光電子ピーク面積をもとに行う。ピーク面積は原子濃度および注目電子の感度に比例するので、ピーク面積を相対感度係数で割った値は原子濃度に比例した値となる。よって、各元素の定量値の和を100原子%とした相対定量ができる。
・測定装置:PHI社製 QuanteraSXM
・X線源:単色化Al(1486.6eV)
・検出領域:100μmφ
・検出深さ:約4〜5nm(取出角45°)
・測定スペクトル:ワイド,C1s,Si2p,B1s,N1s,O1s
<DLC皮膜の表面における第1領域と第2領域の複合比率>
図1及び図2を参照して、第1実施形態では、DLC皮膜20の表面20Aに第1領域(Si−B含有領域)18Aと第2領域(ta−C領域)18Bとを混在させておく。また、図3を参照して、第2実施形態でも、DLC皮膜30の表面30Aに第1領域(Si−B含有領域)28Aと第2領域(ta−C領域)28Bとを混在させておく。そして、表面20A,30Aにおける第1領域の面積をA、第2領域の面積をBとして、B/(A+B)が0.05以上0.40以下であること、つまり、第1領域(Si−B含有領域)18A,28Aを主としつつ、第2領域(ta−C領域)18B,28Aを所定比率で複合させることが重要である。
B/(A+B)が0.05未満の場合、DLC皮膜の表面20A,30Aにおいて第2領域(ta−C領域)18B,28Bが過少であり、第1領域(Si−B含有領域)18A,28Aが過多となる。この場合、有機モリブデン系化合物を含まない潤滑油下での耐摩耗性が不十分となり、また、低摩擦係数を得ることができない。よって、B/(A+B)は0.05以上とし、好ましくは0.10以上とする。
B/(A+B)が0.40超えの場合、DLC皮膜の表面20A,30Aにおいて第1領域(Si−B含有領域)18A,28Aが過少であり、第2領域(ta−C領域)18B,28Bが過多となる。この場合、耐熱性と有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での耐摩耗性が不十分となる。よって、B/(A+B)は0.40以下とし、好ましくは0.35以下とする。
なお、B/(A+B)は以下の方法で求めるものとする。図5に例示するように、第1領域(Si−B含有領域)と第2領域(Ta−C領域)とでは、Si及びBの有無に起因して、走査型電子顕微鏡(SEM)において異なるコントラストとして観察することができる。よって、得られた画像を解析し2値化することで、視野中の各領域の面積を算出することができる。具体的には、DLC皮膜の表面の任意の3ヶ所を、FE−SEMで観察して、二次電子像を撮影する。観察条件は、加速電圧:5kV、倍率:10,000倍とする。撮影された画像を画像解析ソフトにより2値化し、第1領域の面積をV1、第2領域の面積をV2として、各撮影画像においてV2/(V1+V2)を求め、得られた3つの値を可算平均して、B/(A+B)とする。
なお、DLC皮膜の表面20A,30Aに第1領域18A,28Aと第2領域18B,28Bとが「混在」するとは、DLC皮膜の表面20A,30Aに第1領域18A,28A及び第2領域18B,28Bが分散して存在することを意味するものである。
<第1領域及び第2領域のインデンテーション硬さ>
第1領域18A,28Aのインデンテーション硬さは、第2領域18B,28Bのインデンテーション硬さよりも小さい。
第1領域18A,28Aのインデンテーション硬さは15GPa以上35GPa以下であることが好ましい。インデンテーション硬さが15GPa以上であれば、DLC皮膜の耐摩耗性が不十分となることがない。一方、インデンテーション硬さが35GPa以下であれば、DLC皮膜の靭性が不足することがなく、欠けや剥離が発生しにくい。
第2領域18B,28Bのインデンテーション硬さは25GPa以上50GPa以下であることが好ましい。インデンテーション硬さが25GPa以上であれば、DLC皮膜の耐摩耗性及び耐熱性が不十分となることがない。一方、インデンテーション硬さが50GPa以下であれば、仕上げ加工の負荷が高くなることがないため、コスト上昇を抑えられる。
<DLC皮膜の厚さ>
DLC皮膜20,30の厚さは、特に限定されないが0.5μm以上50μm以下であることが好ましい。0.5μm以上であれば、DLC皮膜の耐久性が不足することがなく、50μm以下であれば、母材との密着性が不足となって剥離が生じることがないからである。なお、本発明において、DLC皮膜の厚さはカロテスト、又は樹脂包埋した皮膜断面の観察により測定するものとする。
<DLC皮膜の厚み方向の形態>
本発明の効果を摺動の過程で維持する観点から、DLC皮膜20,30の厚さが20μm以下の場合は、DLC皮膜20,30の厚み方向の全範囲において、また、DLC皮膜20,30の厚さが20μm超えの場合には、DLC皮膜の表面20A,30Aから厚み方向に少なくとも20μmの範囲において、厚み方向に垂直な断面において、第1領域18A,28Aと第2領域18B,28Bが混在しており、前記断面における第1領域の面積をA’、第2領域の面積をB’として、B’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である状態が維持されることが好ましい。
なお、B’/(A’+B’)は、上述のB/(A+B)の求め方に準じて求めるものとする。具体的には、DLC皮膜の厚さが20μm以下の場合、DLC皮膜を研磨して、DLC皮膜の表面から厚さの45〜55%の位置が露出した研磨面を有する第1のサンプルと、DLC皮膜の表面から80〜90%の位置が露出した研磨面を有する第2のサンプルを用意する。第1のサンプルの研磨面及び第2のサンプルの研磨面を、それぞれFE−SEMで観察して、二次電子像を撮影する。撮影された画像を画像解析ソフトにより2値化し、第1領域の面積をV1’、第2領域の面積をV2’として、各撮影画像においてV2’/(V1’+V2’)を求め、得られた3つの値を可算平均して、B’/(A’+B’)とする。第1のサンプル及び第2のサンプルの両方で、B’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下であれば、DLC皮膜の厚み方向の全範囲において、B’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である状態が維持されていると見なす。
DLC皮膜の厚さが20μm超えの場合、DLC皮膜を研磨して、DLC皮膜の表面から厚み方向に10μmの位置が露出した研磨面を有する第1のサンプルと、DLC皮膜の表面から厚み方向に20μmの位置が露出した研磨面を有する第2のサンプルを用意する。第1のサンプルの研磨面及び第2のサンプルの研磨面を、それぞれFE−SEMで観察して、二次電子像を撮影する。撮影された画像を画像解析ソフトにより2値化し、第1領域の面積をV1’、第2領域の面積をV2’として、各撮影画像においてV2’/(V1’+V2’)を求め、得られた3つの値を可算平均して、B’/(A’+B’)とする。第1のサンプル及び第2のサンプルの両方で、B’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下であれば、DLC皮膜の表面から厚み方向に少なくとも20μmの範囲において、B’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である状態が維持されていると見なす。
<第1DLC層及び第2DLC層の表面粗さ及び厚さ>
第1の実施形態において、図1を参照して、上記のように、DLC皮膜の表面20AにおいてB/(A+B)が0.05以上0.40以下を満たし、かつ、DLC皮膜の厚み方向にB’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である状態を維持するためには、積層させる第1DLC層14及び第2DLC層16が所定の表面粗さを有し、かつ、所定の厚みを有する必要がある。
この観点から、第1DLC層14及び第2DLC層16の各々の表面粗さは、算術平均粗さRaで0.01μm以上0.15μm以下とすることが好ましい。この範囲に表面粗さを制御することによって、後述の研磨加工の結果、所望のB/(A+B)を実現しやすくなり、また、所望のB’/(A’+B’)を維持しやすくなるからである。なお、「各DLC層表面のRa」は、以下の方法により測定するものとする。すなわち、DLC皮膜の厚さ方向の断面試料を集束イオンビーム(FIB)加工によって製作し、透過型電子顕微鏡像(TEM像)を観察し、得られたTEM像の輝度の変化に基づいて、隣接する層間の境界を確定する。具体的には、輝度の変化が1/2となる箇所を隣接する層間の境界として、各DLC層の表面形状(断面形状)とする。得られた各DLC層の断面形状に基づいて、表面粗さ計測ソフトウェア等を用いてJIS B0601(2001)に準拠して、算術平均粗さRaを求める。なお、測定は3回行い、その3回の平均値を採用するものとする。
また、第1DLC層14及び第2DLC層16の各々の厚さ及び厚さ比は、特に限定されないが、所望のB/(A+B)を実現し、かつ、所望のB’/(A’+B’)を維持できるように適宜設定すればよい。
<第1DLC部/第2DLC部の混合比>
第2の実施形態において、図3を参照して、上記のように、DLC皮膜の表面30AにおいてB/(A+B)が0.05以上0.40以下を満たし、かつ、DLC皮膜の厚み方向にB’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である状態を維持するためには、後述の製造条件の制御によって、DLC皮膜30中の第1DLC部24及び第2DLC部26の混合比を適宜調整すればよい。
<DLC皮膜の表面粗さ>
DLC皮膜20,30の表面粗さは、算術平均粗さRaで0.1μm以下とすることが好ましい。これにより、DLC皮膜による相手材への攻撃性を低減することができる。なお、「DLC皮膜のRa」は、以下の方法により測定するものとする。すなわち、DLC皮膜の任意の位置において、JIS B0601(2001)に従い、基準長さ:1.25mm、カットオフ値λc:0.25mm、カットオフ比λc/λs=100の条件で、DLC皮膜の粗さ曲線を測定し、算術平均粗さRaを求める。なお、測定は3回行い、その3回の平均値を採用するものとする。
<DLC皮膜の形成方法>
DLC皮膜20,30は、例えば、カーボンターゲットを用いた真空アーク放電(VA法)によるイオンプレーティング等のPVD法を用いて形成することができる。PVD法は、水素をほとんど含まない高硬度で耐摩耗性に優れたDLC皮膜を形成することができる。真空アーク放電によるイオンプレーティング法を用いてDLC皮膜を成膜する場合、その硬さは、基材に印加するバイアス電圧等によって調整できる。また、DLC皮膜の膜厚は、ターゲットの放電時間等の条件を変えることで調整できる。なお、フィルター型陰極真空アーク方式(FCVA法)を用いることでもよい。
第1DLC層(Si−B含有HフリーDLC層)14及び第1DLC部(Si−B含有HフリーDLC部)24の成膜には、Si及びBを含有するカーボン合金ターゲットを用いることができる。すなわち、第1DLC層14及び第1DLC部24に所定量のSi及びBを含有させるためには、例えば、カソード材料として炭化ケイ素(SiC)及び炭化ホウ素(B4C)を含有するグラファイトを用いることができ、カソード材料中におけるこれらの含有量を調整することによって、第1DLC層14及び第1DLC部24中のSi含有量及びB含有量を制御することができる。また、第1DLC層14及び第1DLC部24中に所定量のN及びOを含有させるためには、上記カーボン合金ターゲット中にN及びOを添加しておけばよい。
第2DLC層(HフリーDLC層)16及び第2DLC部(HフリーDLC部)26の成膜には、Si及びBを含有しないカーボンターゲットを用いることができる。
第1の実施形態において、積層構造によるDLC皮膜20を形成する場合、まず、表面粗さがRaで0.01μm以上の基材10を用意し、任意で、当該表面上に中間層12を形成する。その後、基材10の表面又は中間層12の表面上に、第1DLC層(Si−B含有HフリーDLC層)14と、第2DLC層(HフリーDLC層)16とを、複数組、交互に積層させる。その際、基材10の表面に所定の表面粗さが設けられていることや、成膜の過程で皮膜内に炭素微小粒子(ドロップレット)などが取り込まれることによって、第1DLC層14及び第2DLC層16の各々の表面には所定の表面粗さが設けられる。
第1DLC層14と第2DLC層16の積層構造は、第1DLC層14を成膜するためのSi−B含有カーボン合金ターゲットと、第2DLC層16を成膜するためのカーボンターゲットを、回転する基材の周囲に、当該基材を中心とした同心円状に配置することによって得ることができる。例えば、Si−B含有カーボン合金ターゲットとカーボンターゲットを180°ずらして配置すれば、第1DLC層14と第2DLC層16の積層構造が得られる。第1DLC層14と第2DLC層16の厚さ比率は、基材の回転数やターゲット放電電流を調整することにより制御することができる。
次に、最上層の第2DLC層16又は第1DLC層14の表面を研磨して、DLC皮膜20を形成する。その際の研磨量を調整することによって、B/(A+B)を0.05以上0.40以下の範囲に制御する。
第2の実施形態において、分散構造によるDLC皮膜30を形成する場合、第1DLC部24を成膜するためのSi−B含有カーボン合金ターゲットと、第2DLC部26を成膜するためのカーボンターゲットを、回転する基材の周囲に、当該基材を中心とした同心円状に配置することによって得ることができる。その際、Si−B含有カーボン合金ターゲットとカーボンターゲットを近づけて配置すれば、第1DLC部24のマトリックス中に第2DLC部26が分散した皮膜構造が得られる。第1DLC部24と第2DLC部26の分散比率は、基材の回転数やターゲット放電電流を調整することにより制御することができる。
このような方法で、DLC皮膜20,30の表面20A,30Aに硬質領域18A,28Aと軟質領域18B,28Bとを混在させることができ、また、DLC皮膜20,30の厚み方向にわたって、B’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である状態を維持することができる。
[摺動部材の適用]
本発明の一実施形態による摺動部材100,200は、エンジンオイルなどの潤滑油が介在する内燃機関の摺動部に使用されるピストンリング、ピストン、ピストンピン、タペット、バルブリフタ、シム、ロッカーアーム、カム、カムシャフト、タイミングギア、タイミングチェーン等や、燃料供給系に使用されるベーン、インジェクタ、プランジャ、シリンダ等、種々の製品に適用することができる。
(ピストンリング)
図4を参照して、本発明の一実施形態によるピストンリング300は、外周面32、内周面34、及び上下面36A,36Bの4面によってリング形状を呈し、外周面32が図1に示すDLC皮膜20又は図3に示すDLC皮膜30により形成される。すなわち、本実施形態のピストンリング300は、上記摺動部材100又は摺動部材200からなるものであり、その外周面22が図1に示すDLC皮膜の表面20A又は図3に示すDLC皮膜の表面30Aとなる。これにより、摺動面となる外周面22では、優れた耐熱性を得ることができ、潤滑油に有機モリブデン系化合物を含むか否かに関わらず高い耐摩耗性を得ることができ、さらに低い摩擦係数を実現することが可能である。
[サンプルの製造]
SUJ2材(JIS G 4805)の柱状体(φ6mm×高さ14mm)である基材(表面粗さRa:0.01μm)の表面に、表1に示す種々の例のDLC皮膜を形成して、摺動部材を得た。No.4,5では、基材の表面に表1に示す中間層を形成し、当該中間層上に、表1に示すDLC皮膜を形成して、摺動部材を得た。DLC皮膜の成膜は、真空アーク方式による成膜装置を用いた。具体的には、炭化ケイ素(SiC)及び炭化ホウ素(B4C)を含有し、グラファイトからなるSi−B含有カーボン合金ターゲットと、Si及びBを含有しないカーボンターゲットを用意した。これらSi−B含有カーボン合金ターゲット及びカーボンターゲットを、回転する基材の周囲に、当該基材を中心とした同心円状に、180°ずらして配置した。このようにして、第1DLC層と第2DLC層の積層構造からなるDLC皮膜を形成した。なお、DLC皮膜の表面は、所定量研磨することにより、Raを0.1μm以下とした。第1DLC層と第2DLC層の厚さ比率は、ターゲット放電電流を調整することにより制御し、この厚さ比率を種々変更することにより、DLC皮膜の表面におけるB/(A+B)及びB’/(A’+B’)を制御した。なお、一部の例(No.11〜13)では、第1DLC層を形成するためのSi−B含有カーボン合金ターゲットに、窒素及び酸素の一方又は両方をさらに含有させた。No.14では、炭化ホウ素(B4C)を含有し、グラファイトからなるB含有カーボン合金ターゲットを用いて、第1DLC層を形成し、No.15では、炭化ケイ素(SiC)を含有し、グラファイトからなるSi含有カーボン合金ターゲットを用いて、第1DLC層を形成した。
各例において、第1DLC層のSi含有量、B含有量、N含有量、及びO含有量は、既述の方法により求め、表1に示した。また、DLC皮膜の厚さは、カロテストにより測定し、表1に示した。また、DLC皮膜の表面におけるB/(A+B)は、既述の方法により求め、表1に示した。また、B’/(A’+B’)については、既述の方法によって第1のサンプル及び第2のサンプルの値を求め、表1に示した。また、第1領域及び第2領域のインデンテーション硬さを測定し、表1に示した。インデンテーション硬さの測定は、株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機を用いて行った。条件としては、ベルコビッチ圧子を用いて、押し込み深さがDLC皮膜の厚さの1/10程度となる荷重にて試験を行った。
[耐熱性の評価]
表1の各例において2つのサンプルを作製した。第1のサンプルは、大気中400℃の雰囲気にて5時間の熱処理を行い、第2のサンプルは、大気中500℃の雰囲気にて5時間の熱処理を行った。各サンプルについて、熱処理前後にDLC皮膜のインデンテーション硬さを測定した。なお、インデンテーション硬さの測定は、株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機を用いて行った。条件としては、ベルコビッチ圧子を用いて、押し込み深さがDLC皮膜の厚さの1/10程度となる荷重にて、押し込み領域が第1領域(Si−B含有領域)と第2領域(ta−C領域)の両方を含む条件下にて、試験を行った。結果を表2に示す。なお、表2には、熱処理前の硬さに対する熱処理後の硬さの減少率を示した。
[耐摩耗性及び摩擦係数の評価]
摺動相手材としてSUJ2材(JIS G 4805)のディスク(φ25mm×t8mm)を用意し、各例の摺動部材について、図6に模式図を示した振動摩擦摩耗試験(オプチモール社:SRV試験機)により、次の試験条件で往復動試験を行った。
試験時間 : 60min
荷重 : 500N
往復動周波数 : 50Hz
振幅 : 3mm
潤滑油 : (1)ベースオイル PAO
(2)エンジンオイル0W− 8(Mo−DTC無添加オイル)
(3)エンジンオイル0W− 8(Mo−DTC添加オイル)
(4)エンジンオイル0W−20(Mo−DTC無添加オイル)
(5)エンジンオイル0W−20(Mo−DTC添加オイル)
潤滑油温 : 80℃
表1に示す各例について、試験終了時における摩擦係数をSRV試験機から読み取った。また、表1に示す各例について、図7を参照して、試験終了後の摺動部材について、摺動痕幅aを光学顕微鏡により測定し、以下に式に基づいて摩耗深さdを算出した。結果を表2に示す。なお、表2の摩耗深さは、比較例No.13との相対比で示した。
摩耗深さd=r−(r2−a21/2
Figure 0006938807
Figure 0006938807
本発明の摺動部材は、耐熱性に優れたDLC皮膜を有し、潤滑油に有機モリブデン系化合物を含むか否かに関わらず高い耐摩耗性を得ることができ、さらに低い摩擦係数を実現することが可能である。
100 摺動部材
10 基材
12 中間層
14 第1DLC層(Si−B含有HフリーDLC層)
16 第2DLC層(HフリーDLC層)
18A 第1領域(Si−B含有領域)
18B 第2領域(ta−C領域)
20 非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)
20A 非晶質炭素皮膜の表面(摺動面)
200 摺動部材
24 第1DLC部(Si−B含有HフリーDLC部)
26 第2DLC部(HフリーDLC部)
28A 第1領域(Si−B含有領域)
28B 第2領域(ta−C領域)
30 非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)
30A 非晶質炭素皮膜の表面(摺動面)
300 ピストンリング
32 ピストンリングの外周面
34 ピストンリングの内周面
36A ピストンリングの上面(上側面)
36B ピストンリングの下面(下側面)

Claims (7)

  1. 基材と、
    該基材上に形成され、表面が摺動面となる非晶質炭素皮膜と、
    を有し、
    前記非晶質炭素皮膜の前記表面には、ケイ素:2原子%以上20原子%以下、及びホウ素:2原子%以上15原子%以下を含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する第1領域と、炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する第2領域とが混在しており、
    前記表面における前記第1領域の面積をA、前記第2領域の面積をBとして、B/(A+B)が0.05以上0.40以下であることを特徴とする摺動部材。
  2. 前記非晶質炭素皮膜の厚さが20μm以下の場合は、前記非晶質炭素皮膜の厚み方向の全範囲において、前記非晶質炭素皮膜の厚さが20μm超えの場合には、前記非晶質炭素皮膜の前記表面から厚み方向に少なくとも20μmの範囲において、前記厚み方向に垂直な断面において、前記第1領域と前記第2領域が混在しており、前記断面における前記第1領域の面積をA’、前記第2領域の面積をB’として、B’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である、請求項1に記載の摺動部材。
  3. 前記第1領域の成分組成が、窒素:15原子%以下及び酸素:15原子%以下の少なくとも一方をさらに含む、請求項1又は2に記載の摺動部材。
  4. 前記第1領域のインデンテーション硬さが前記第2領域のインデンテーション硬さよりも小さい、請求項1〜3のいずれか一項に記載の摺動部材。
  5. 前記非晶質炭素皮膜の厚さが0.5μm以上50μm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の摺動部材。
  6. 前記基材と前記非晶質炭素皮膜との間に、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなる中間層を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の摺動部材。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の摺動部材からなるピストンリングであって、その外周面が前記摺動面であるピストンリング。
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