JP6938807B1 - 摺動部材及びピストンリング - Google Patents
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Abstract
Description
(1)基材と、
該基材上に形成され、表面が摺動面となる非晶質炭素皮膜と、
を有し、
前記非晶質炭素皮膜の前記表面には、ケイ素:2原子%以上20原子%以下、及びホウ素:2原子%以上15原子%以下を含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する第1領域と、炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する第2領域とが混在しており、
前記表面における前記第1領域の面積をA、前記第2領域の面積をBとして、B/(A+B)が0.05以上0.40以下であることを特徴とする摺動部材。
図1を参照して、本発明の第1の実施形態による摺動部材100は、潤滑油下で使用されるものであり、基材10と、この基材10上に形成され、表面20Aが摺動面となる非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)20と、を有する。また、任意で、基材10と非晶質炭素皮膜20との間に中間層12を有してもよい。
基材10の材質は、摺動部材の基材として必要な強度を有するものであれば特に限定されない。本実施形態の摺動部材100,200をピストンリングとする場合、基材10の好ましい材料としては、鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、高級鋳鉄等が挙げられる。本実施形態の摺動部材100,200をCVTなどのシールリングとする場合、基材10の材料としては樹脂が挙げられ、コンプレッサのベーンなどとする場合、基材10の材料としてはアルミ合金等が挙げられる。
中間層12は、基材10とDLC皮膜20,30との間に形成されることにより基材10との界面の応力を緩和し、DLC皮膜20,30の密着性を高める機能を有する。この機能を発揮する観点から、中間層12は、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなるものとすることが好ましい。DLC皮膜20,30の密着性を十分に高める観点から、中間層12の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。また、摺動時に中間層12が塑性流動を起こしてDLC皮膜20,30が剥離することを十分に抑制する観点から、中間層12の厚さは、0.6μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
図1を参照して、第1の実施形態に適用されるDLC皮膜20は、中間層12を形成しない場合には、基材10の表面上に形成され、中間層12を形成する場合には、中間層12の表面上に形成される。図1に示すように、DLC皮膜20は、所定量のSi及びBを含有する第1DLC層(Si−B含有HフリーDLC層)14と、Si及びBを含有せずCのみからなる第2DLC層(HフリーDLC層)16とが、所定の表面粗さを持ちつつ複数回交互に積層されてなる。そして、図1に加えて図2も参照して、所定の表面粗さを有する最上層の第2DLC層(HフリーDLC層)16の表面が所定量研磨されることによって、DLC皮膜20が形成され、その表面20Aには、第1DLC層(Si−B含有HフリーDLC層)14が露出した第1領域(Si−B含有領域)18Aと、第2DLC層(HフリーDLC層)16が残存した第2領域(ta−C領域)18Bとが混在している。
第1DLC層14及び第1DLC部24は、ケイ素:2原子%以上20原子%以下、及びホウ素:2原子%以上15原子%以下を含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する。第1DLC層14及び第1DLC部24は、さらに所定量の窒素(N)及び酸素(O)の一方又は両方を含むことが好ましい。なお、非晶質炭素であることは、ラマン分光光度計(Arレーザ)を用いたラマンスペクトル測定により確認できる。第1DLC層14及び第1DLC部24は、このような成分組成を有することにより、DLC皮膜20,30の耐熱性の向上と、有機モリブデン系化合物を含む潤滑油下での耐摩耗性の向上に寄与する。このような効果が得られる作用について、本発明者らは以下のように考えている。
第2DLC層16及び第2DLC部26は、炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する。なお、非晶質炭素であることは、ラマン分光光度計(Arレーザ)を用いたラマンスペクトル測定により確認できる。第2DLC層16及び第2DLC部26は、このような成分組成を有することにより、有機モリブデン系化合物を含まない潤滑油下での耐摩耗性の向上と、摩擦係数の低下に寄与する。このような効果が得られる作用について、本発明者らは以下のように考えている。
DLC皮膜の水素含有量の評価は、摺動部が平坦な面や曲率が十分大きな面に形成されたDLC皮膜に対してはRBS(Rutherford Backscattering Spectrometry)/HFS(Hydrogen Forward Scattering Spectrometry)によって評価することができる。これに対して、ピストンリングの外周面など平坦でない摺動面に形成されたDLC皮膜に対しては、RBS/HFS及びSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)を組み合わせることによって評価する。RBS/HFSは公知の皮膜組成の分析方法であるが、平坦でない面の分析には適用できないので、以下のようにしてRBS/HFS及びSIMSを組み合わせる。
第1DLC層及び第1DLC部のSi、B、N及びO含有量は、X線光電子分光法(XPS)により以下の条件下で測定するものとする。XPSにおける元素の定量分析は、光電子ピーク面積をもとに行う。ピーク面積は原子濃度および注目電子の感度に比例するので、ピーク面積を相対感度係数で割った値は原子濃度に比例した値となる。よって、各元素の定量値の和を100原子%とした相対定量ができる。
・測定装置:PHI社製 QuanteraSXM
・X線源:単色化Al(1486.6eV)
・検出領域:100μmφ
・検出深さ:約4〜5nm(取出角45°)
・測定スペクトル:ワイド,C1s,Si2p,B1s,N1s,O1s
図1及び図2を参照して、第1実施形態では、DLC皮膜20の表面20Aに第1領域(Si−B含有領域)18Aと第2領域(ta−C領域)18Bとを混在させておく。また、図3を参照して、第2実施形態でも、DLC皮膜30の表面30Aに第1領域(Si−B含有領域)28Aと第2領域(ta−C領域)28Bとを混在させておく。そして、表面20A,30Aにおける第1領域の面積をA、第2領域の面積をBとして、B/(A+B)が0.05以上0.40以下であること、つまり、第1領域(Si−B含有領域)18A,28Aを主としつつ、第2領域(ta−C領域)18B,28Aを所定比率で複合させることが重要である。
第1領域18A,28Aのインデンテーション硬さは、第2領域18B,28Bのインデンテーション硬さよりも小さい。
DLC皮膜20,30の厚さは、特に限定されないが0.5μm以上50μm以下であることが好ましい。0.5μm以上であれば、DLC皮膜の耐久性が不足することがなく、50μm以下であれば、母材との密着性が不足となって剥離が生じることがないからである。なお、本発明において、DLC皮膜の厚さはカロテスト、又は樹脂包埋した皮膜断面の観察により測定するものとする。
本発明の効果を摺動の過程で維持する観点から、DLC皮膜20,30の厚さが20μm以下の場合は、DLC皮膜20,30の厚み方向の全範囲において、また、DLC皮膜20,30の厚さが20μm超えの場合には、DLC皮膜の表面20A,30Aから厚み方向に少なくとも20μmの範囲において、厚み方向に垂直な断面において、第1領域18A,28Aと第2領域18B,28Bが混在しており、前記断面における第1領域の面積をA’、第2領域の面積をB’として、B’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である状態が維持されることが好ましい。
第1の実施形態において、図1を参照して、上記のように、DLC皮膜の表面20AにおいてB/(A+B)が0.05以上0.40以下を満たし、かつ、DLC皮膜の厚み方向にB’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である状態を維持するためには、積層させる第1DLC層14及び第2DLC層16が所定の表面粗さを有し、かつ、所定の厚みを有する必要がある。
第2の実施形態において、図3を参照して、上記のように、DLC皮膜の表面30AにおいてB/(A+B)が0.05以上0.40以下を満たし、かつ、DLC皮膜の厚み方向にB’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である状態を維持するためには、後述の製造条件の制御によって、DLC皮膜30中の第1DLC部24及び第2DLC部26の混合比を適宜調整すればよい。
DLC皮膜20,30の表面粗さは、算術平均粗さRaで0.1μm以下とすることが好ましい。これにより、DLC皮膜による相手材への攻撃性を低減することができる。なお、「DLC皮膜のRa」は、以下の方法により測定するものとする。すなわち、DLC皮膜の任意の位置において、JIS B0601(2001)に従い、基準長さ:1.25mm、カットオフ値λc:0.25mm、カットオフ比λc/λs=100の条件で、DLC皮膜の粗さ曲線を測定し、算術平均粗さRaを求める。なお、測定は3回行い、その3回の平均値を採用するものとする。
DLC皮膜20,30は、例えば、カーボンターゲットを用いた真空アーク放電(VA法)によるイオンプレーティング等のPVD法を用いて形成することができる。PVD法は、水素をほとんど含まない高硬度で耐摩耗性に優れたDLC皮膜を形成することができる。真空アーク放電によるイオンプレーティング法を用いてDLC皮膜を成膜する場合、その硬さは、基材に印加するバイアス電圧等によって調整できる。また、DLC皮膜の膜厚は、ターゲットの放電時間等の条件を変えることで調整できる。なお、フィルター型陰極真空アーク方式(FCVA法)を用いることでもよい。
本発明の一実施形態による摺動部材100,200は、エンジンオイルなどの潤滑油が介在する内燃機関の摺動部に使用されるピストンリング、ピストン、ピストンピン、タペット、バルブリフタ、シム、ロッカーアーム、カム、カムシャフト、タイミングギア、タイミングチェーン等や、燃料供給系に使用されるベーン、インジェクタ、プランジャ、シリンダ等、種々の製品に適用することができる。
図4を参照して、本発明の一実施形態によるピストンリング300は、外周面32、内周面34、及び上下面36A,36Bの4面によってリング形状を呈し、外周面32が図1に示すDLC皮膜20又は図3に示すDLC皮膜30により形成される。すなわち、本実施形態のピストンリング300は、上記摺動部材100又は摺動部材200からなるものであり、その外周面22が図1に示すDLC皮膜の表面20A又は図3に示すDLC皮膜の表面30Aとなる。これにより、摺動面となる外周面22では、優れた耐熱性を得ることができ、潤滑油に有機モリブデン系化合物を含むか否かに関わらず高い耐摩耗性を得ることができ、さらに低い摩擦係数を実現することが可能である。
SUJ2材(JIS G 4805)の柱状体(φ6mm×高さ14mm)である基材(表面粗さRa:0.01μm)の表面に、表1に示す種々の例のDLC皮膜を形成して、摺動部材を得た。No.4,5では、基材の表面に表1に示す中間層を形成し、当該中間層上に、表1に示すDLC皮膜を形成して、摺動部材を得た。DLC皮膜の成膜は、真空アーク方式による成膜装置を用いた。具体的には、炭化ケイ素(SiC)及び炭化ホウ素(B4C)を含有し、グラファイトからなるSi−B含有カーボン合金ターゲットと、Si及びBを含有しないカーボンターゲットを用意した。これらSi−B含有カーボン合金ターゲット及びカーボンターゲットを、回転する基材の周囲に、当該基材を中心とした同心円状に、180°ずらして配置した。このようにして、第1DLC層と第2DLC層の積層構造からなるDLC皮膜を形成した。なお、DLC皮膜の表面は、所定量研磨することにより、Raを0.1μm以下とした。第1DLC層と第2DLC層の厚さ比率は、ターゲット放電電流を調整することにより制御し、この厚さ比率を種々変更することにより、DLC皮膜の表面におけるB/(A+B)及びB’/(A’+B’)を制御した。なお、一部の例(No.11〜13)では、第1DLC層を形成するためのSi−B含有カーボン合金ターゲットに、窒素及び酸素の一方又は両方をさらに含有させた。No.14では、炭化ホウ素(B4C)を含有し、グラファイトからなるB含有カーボン合金ターゲットを用いて、第1DLC層を形成し、No.15では、炭化ケイ素(SiC)を含有し、グラファイトからなるSi含有カーボン合金ターゲットを用いて、第1DLC層を形成した。
表1の各例において2つのサンプルを作製した。第1のサンプルは、大気中400℃の雰囲気にて5時間の熱処理を行い、第2のサンプルは、大気中500℃の雰囲気にて5時間の熱処理を行った。各サンプルについて、熱処理前後にDLC皮膜のインデンテーション硬さを測定した。なお、インデンテーション硬さの測定は、株式会社エリオニクス製の超微小押し込み硬さ試験機を用いて行った。条件としては、ベルコビッチ圧子を用いて、押し込み深さがDLC皮膜の厚さの1/10程度となる荷重にて、押し込み領域が第1領域(Si−B含有領域)と第2領域(ta−C領域)の両方を含む条件下にて、試験を行った。結果を表2に示す。なお、表2には、熱処理前の硬さに対する熱処理後の硬さの減少率を示した。
摺動相手材としてSUJ2材(JIS G 4805)のディスク(φ25mm×t8mm)を用意し、各例の摺動部材について、図6に模式図を示した振動摩擦摩耗試験(オプチモール社:SRV試験機)により、次の試験条件で往復動試験を行った。
試験時間 : 60min
荷重 : 500N
往復動周波数 : 50Hz
振幅 : 3mm
潤滑油 : (1)ベースオイル PAO
(2)エンジンオイル0W− 8(Mo−DTC無添加オイル)
(3)エンジンオイル0W− 8(Mo−DTC添加オイル)
(4)エンジンオイル0W−20(Mo−DTC無添加オイル)
(5)エンジンオイル0W−20(Mo−DTC添加オイル)
潤滑油温 : 80℃
摩耗深さd=r−(r2−a2)1/2
10 基材
12 中間層
14 第1DLC層(Si−B含有HフリーDLC層)
16 第2DLC層(HフリーDLC層)
18A 第1領域(Si−B含有領域)
18B 第2領域(ta−C領域)
20 非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)
20A 非晶質炭素皮膜の表面(摺動面)
200 摺動部材
24 第1DLC部(Si−B含有HフリーDLC部)
26 第2DLC部(HフリーDLC部)
28A 第1領域(Si−B含有領域)
28B 第2領域(ta−C領域)
30 非晶質炭素皮膜(DLC皮膜)
30A 非晶質炭素皮膜の表面(摺動面)
300 ピストンリング
32 ピストンリングの外周面
34 ピストンリングの内周面
36A ピストンリングの上面(上側面)
36B ピストンリングの下面(下側面)
Claims (7)
- 基材と、
該基材上に形成され、表面が摺動面となる非晶質炭素皮膜と、
を有し、
前記非晶質炭素皮膜の前記表面には、ケイ素:2原子%以上20原子%以下、及びホウ素:2原子%以上15原子%以下を含み、残部が炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する第1領域と、炭素からなる実質的に水素を含まない成分組成を有する第2領域とが混在しており、
前記表面における前記第1領域の面積をA、前記第2領域の面積をBとして、B/(A+B)が0.05以上0.40以下であることを特徴とする摺動部材。 - 前記非晶質炭素皮膜の厚さが20μm以下の場合は、前記非晶質炭素皮膜の厚み方向の全範囲において、前記非晶質炭素皮膜の厚さが20μm超えの場合には、前記非晶質炭素皮膜の前記表面から厚み方向に少なくとも20μmの範囲において、前記厚み方向に垂直な断面において、前記第1領域と前記第2領域が混在しており、前記断面における前記第1領域の面積をA’、前記第2領域の面積をB’として、B’/(A’+B’)が0.05以上0.40以下である、請求項1に記載の摺動部材。
- 前記第1領域の成分組成が、窒素:15原子%以下及び酸素:15原子%以下の少なくとも一方をさらに含む、請求項1又は2に記載の摺動部材。
- 前記第1領域のインデンテーション硬さが前記第2領域のインデンテーション硬さよりも小さい、請求項1〜3のいずれか一項に記載の摺動部材。
- 前記非晶質炭素皮膜の厚さが0.5μm以上50μm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の摺動部材。
- 前記基材と前記非晶質炭素皮膜との間に、Cr、Ti、Co、V、Mo、Si及びWからなる群から選択された一つ以上の元素またはその炭化物、窒化物、炭窒化物からなる中間層を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の摺動部材。
- 請求項1〜6のいずれか一項に記載の摺動部材からなるピストンリングであって、その外周面が前記摺動面であるピストンリング。
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