JP2020084250A - 継目無鋼管用鋼材 - Google Patents
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Abstract
Description
油田やガス田(以降、油田と記載)の開発が進展するに伴い、深度が深く高圧がかかる高深度油田、天然ガスの高圧輸送、H2Sガスを多く含有する高腐食性油田、海底や寒冷地域の油田など、条件が厳しい油田開発が増えており、鋼材に、高強度、高耐食性、高靭性が求められている。
一方で、溶接鋼管では鋼材製造時に加工熱処理を行って材質作りこみが可能であるのに対し、継目無鋼管では、造管後に加工熱処理を行うことになるので、処理条件が制約される。その対策として、焼き入れ性を高めるため、例えば、CrやMoなどが多めに添加されることが多い。製造工程と介在物の影響度に差があるので、鋼材の介在物制御に関する技術において、溶接鋼管に用いる鋼材の技術を、そのまま継目無鋼管に用いる鋼材に適用することには課題がある。
例えば、特許文献1においては、Ca:0.001〜0.030%および希土類元素:0.001〜0.030%の1種以上、を含有して、S:0.010%以下とし、鋼中介在物を球状化して圧延方向と直角方向の靭性を向上させるとともに、硫化物応力腐食割れ感受性を低減する技術が提案されている。
また、特許文献2においては、Ca、MgおよびREMのうちの1種または2種以上を合計で0.0002〜0.005%含有し、Sを0.005%以下とし、介在物の形態制御によって靭性、耐食性を改善する技術が提案されている。
さらに、特許文献3においては、Sが0.005%以下、Oが0.005%以下であり、CaおよびREMの1種または2種の合計:0.0002〜0.007%を含有することにより、MnSの析出を防止し、介在物の形態制御により鋼の靭性、耐食性を改善する技術が提案されている。
ここで、特許文献1及び特許文献2においては、t.[O]を規定していない。また、特許文献3においては、t.[O]≦0.005%として上限のみ規定しており、MnS抑制には不十分な場合がある。また、特許文献3においては、特に30mm以上の肉厚材を対象に想定しているため、Mn:1.5〜3.0%と高めの濃度範囲に限定されており、中心偏析部だけでなく、ミクロ偏析部のMnSもが問題になる可能性がある。
圧延方向に延伸した介在物は、先端が切欠き状であるため、特に有害である。また、非延伸介在物であっても、粗大なものは有害性が高く、低減することが重要である。ここで、延伸介在物としては、上述したMnSに加えて、低融点酸化物が挙げられる。
C:0.20%以上0.34%未満、
Si:0.15%以上0.40%以下、
Mn:0.30%以上1.50%未満、
Al:0.003%以上0.050%以下、
Ti:0%以上0.060%以下、
Cr:0%以上1.50%以下、
Mo:0%以上1.0%以下、
Ca:0.0003%以上0.0050%以下、
REM:0.0003%以上0.0050%以下、
を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、前記不純物のうちP,S,O,Nを、
P:0.020%以下、
S:0.0050%以下、
O:0.0050%以下、
N:0.0075%以下、
に制限し、
鋼中の各成分元素Mの質量比を[M]で表示した場合に、[REM]を以下の(1)式で示す第1閾値[REM_1]、及び、(2)式で示す第2閾値[REM_2]によって3つの領域に区別し、それぞれの領域において、鋼中のCa量[Ca]が、以下の(3)式に示すa1、(4)式に示すb1、(5)式に示すa2、(6)式に示すb2、(7)式に示すb3を用いて、以下の(8)式、(9)式、(10)式を満足するとともに、
鋼中に含まれる円相当径が1.0μm以上の介在物の個数密度が100個/mm2以下であることを特徴とする。
(1)式:[REM_1]=0.400×[S]−0.0006
(2)式:[REM_2]=0.005×[Al]+0.300×[S]+1.590×[O]−0.0014
(3)式:a1=5.000×[Al]−35.714×[S]−29.870×[O]−0.0675
(4)式:b1=−0.005×[Al]+0.400×[S]+1.155×[O]−0.0007
(5)式:a2=2.143×[Al]+53.571×[S]+31.169×[O]−1.0471
(6)式:b2=−0.002×[Al]+0.618×[S]+1.100×[O]−0.0010
(7)式:b3=0.475×[S]−0.0005
(8)式:[REM]<[REM_1]の場合、[Ca]≧a1×[REM]+b1
(9)式:[REM_1]≦[REM]<[REM_2]の場合、[Ca]≧a2×[REM]+b2
(10)式:[REM_2]≦[REM]≦0.0050%の場合、[Ca]≧b3
また、鋼中の[Ca]、[REM]、t.[Al]、t.[O]、[S]の各量の関係を上述のように規定しているので、介在物中のAl2O3の比率を低減でき、低融点酸化物の生成を抑制することが可能となる。さらに、CaとREMを複合添加し、酸化物の主要組成を、REM2O3を含有する三元系、Al2O3−CaO−REM2O3系とすることで、圧延時の破砕性が増し、圧延後のサイズが微細化するので、有害性を低減できる。
さらに、円相当径1.0μm以上の介在物個数密度を100個/mm2以下に規定しているので、破壊の起点となる介在物の個数が十分に低減されている。
よって、使用時や加工時におけるクラック等の発生が抑制された高品位な継目無鋼管用鋼材を提供することができる。
Cu:0%以上0.05%以下、
Nb:0%以上0.05%以下、
V:0%以上0.10%以下、
Ni:0%以上0.10%以下、
B:0%以上0.0050%以下、
からなる群から選択される一種又は二種以上を含む構成としてもよい。
この場合、上述の元素をさらに含有することで、継目無鋼管用鋼材の様々な特性を向上させることが可能となる。
(11)式:(Al2O3)/{(Al2O3)+(CaO)+(REM2O3)}≦0.40
(12)式:(REM2O3)/{(Al2O3)+(CaO)+(REM2O3)}≧0.05
この場合、介在物の組成が上述のように規定されているので、介在物の融点が低下することを抑制でき、低融点酸化物に起因する延伸介在物の個数をさらに低減することが可能となる。
ここで、本実施形態である継目無鋼管用鋼材は、油井管やラインパイプに用いることができる継目無鋼管としての使用されるものである。さらに、本実施形態である継目無鋼管用鋼材は、ビレット等の鋳造材とされている。
(1)式:[REM_1]=0.400×[S]−0.0006
(2)式:[REM_2]=0.005×[Al]+0.300×[S]+1.590×[O]−0.0014
(3)式:a1=5.000×[Al]−35.714×[S]−29.870×[O]−0.0675
(4)式:b1=−0.005×[Al]+0.400×[S]+1.155×[O]−0.0007
(5)式:a2=2.143×[Al]+53.571×[S]+31.169×[O]−1.0471
(6)式:b2=−0.002×[Al]+0.618×[S]+1.100×[O]−0.0010
(7)式:b3=0.475×[S]−0.0005
(8)式:[REM]<[REM_1]の場合、[Ca]≧a1×[REM]+b1
(9)式:[REM_1]≦[REM]<[REM_2]の場合、[Ca]≧a2×[REM]+b2
(10)式:[REM_2]≦[REM]≦0.0050%の場合、[Ca]≧b3
(11)式:(Al2O3)/{(Al2O3)+(CaO)+(REM2O3)}≦0.40
(12)式:(REM2O3)/{(Al2O3)+(CaO)+(REM2O3)}≧0.05
C(炭素)は、鋼材の強度や焼入れ性を確保するうえで重要な元素である。C含有量を0.20%以上とすることにより、用途に十分な強度を確保する。一方、C含有量が0.34%以上になると、靭性が劣化する。よって、C含有量を0.20%超0.34%未満の範囲に制御する。
Si(ケイ素)は、脱酸剤として作用し、また、焼入れ性を高めて鋼材の強度を向上させるのに有効な元素である。一方、0.40%を超えると、靭性が劣化する。よって、Si含有量を0.15%以上0.40%以下の範囲に制御する。
Mn(マンガン)は、脱酸剤として作用する元素であるとともに、焼入れ性を高めて鋼材の強度、靭性を向上させるのに有効な元素である。焼入れ後の強度には、Mnをはじめとする合金元素量と共に、焼き入れ時の冷却速度が影響する。鋼材厚みが厚いほど、厚み中心の冷却速度は減少するので、厚肉材ほど焼き入れ性が低下する。したがって、焼き入れ性に影響する合金元素量は、鋼材の厚さによって変えることが好ましい。
本実施形態である鋼材は、一般的な肉厚の鋼管、おおよそ十数mm〜二十数mm程度の鋼管の素材を想定して決定した。(したがって、この範囲を大きく超える、例えば30mm以上の極厚肉材では、Mnをはじめとする合金元素量を増やさなければ、厚み中心の焼き入れ性を確保できない。)
なお、Mn含有量の下限は0.80%以上であることが好ましく、Mn含有量の上限は1.35%以下であることが好ましい。
Al(アルミニウム)は、脱酸剤として作用する元素であるとともに、Nを固定することで鋼材の靭性を高めるのに有効な元素である。本実施形態においては、鋼マトリックスに固溶した、いわゆる酸可溶Alだけでなく、酸化物や窒化物を形成したAlをも合計した、トータルAl(以降、t.Alと記載する)を指す。Al含有量が0.003%未満では、上記含有効果が十分に得られないので、0.003%以上を含有させる必要がある。一方、Al含有量が0.050%を超えると、上記含有効果は飽和し、さらに、粗大な介在物が増加する。この粗大な介在物によって、靭性が劣化する、または鋼管の外面および内面に表面疵が発生し易くなる。よって、Al含有量を0.003%以上0.050%以下の範囲に制御する。
なお、Al含有量の下限は0.010%以上とすることが好ましく、Al含有量の上限は0.040%以下であることが好ましい。
Ti(チタン)は、炭窒化物を形成することにより強度を高める効果のほか、結晶粒微細化作用があるので、必要に応じて、0.060%以下の範囲内で含有させても良い。一方、Ti含有量が0.060%を超えると、粗大な角状の炭窒化物が形成されやすくなり、靭性が劣化する。よって、Ti含有量を0.060%以下に制限する。Ti含有量の下限は0%でもよい。また、現行の一般的な精錬(二次精錬を含む)を考慮すると、Ti含有量の下限は0.0005%以上であってもよい。
Cr(クロム)は、焼入れ性を高めて鋼材の強度を向上させるほか、耐食性向上に有効な元素である。そのため、必要に応じて、Crを1.50%以下の範囲内で含有させても良い。また、Cr含有量の下限値を0.40%とすると、好ましく上記効果を得ることができる。Cr含有量が1.50%を超えると、靭性が劣化する。さらに、コストが増える一方で、含有効果は飽和する。よって、Cr含有量を1.50%以下に制御する。
Mo(モリブデン)は、焼入れ性の向上と焼戻し軟化抵抗性の向上とにより、鋼材の強度を向上させる効果を有するほか、耐食性を向上させる効果がある元素である。そのため、必要に応じて、Moを1.0%以下の範囲内で含有させても良い。また、Mo含有量の下限を0.10%以上とすると、好ましく上記効果を得ることができる。一方、Mo含有量が1.0%を超えると、コストが増加する一方で、含有効果は飽和する。さらに、Mo含有量が1.0%を超えると、鋼材の靭性が劣化する。以上の理由により、Mo含有量の上限を1.0%とする。なお、Mo含有量の好ましい範囲は0.30%以上0.80%以下である。
Ca(カルシウム)は、MnSを低減して介在物の形態を制御し、これにより鋼材の靭性を向上させるために有効な元素である。Ca含有量が0.0003%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、Ca含有量が0.0050%を超えると、酸化物、CaS系介在物などが粗大化し、これらによって鋼材の靭性が悪化するおそれがある。さらに、Ca含有量が0.0050%を超えると、ノズル耐火物が溶損しやすくなることにより連続鋳造の操業が安定しなくなるおそれがある。よって、Ca含有量を0.0003%以上0.0050%以下の範囲に制御する。
なお、Ca含有量の下限は0.0010%以上とすることが好ましく、Ca含有量の上限は0.0035%以下とすることが好ましい。
REM(Rare Earth Metal)は希土類元素を意味し、スカンジウムSc(原子番号21)、イットリウムY(原子番号39)およびランタノイド(原子番号57のランタンから原子番号71のルテシウムまでの15元素)の17元素の総称である。本実施形態に係る鋼材では、これらのうちから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含有する。一般的に、REMとして、入手のし易さから、Ce(セリウム)、La(ランタン)、Nd(ネオジム)、Pr(プラセオジム)などから選ばれることが多い。添加方法としては、例えば、鋼中にこれらの元素の混合物であるミッシュメタルとして添加することが広く行われている。ミッシュメタルの主成分はCe、La、Nd、およびPrである。本実施形態に係る鋼材では、鋼材に含有されるこれら希土類元素の合計量を、REM含有量とする。なお、本実施形態では、ミッシュメタルの平均原子量が約140であるので、REMの原子量を140としている。
なお、REM含有量の下限は0.0010%以上とすることが好ましく、REM含有量の上限を0.0030%以下とすることが好ましい。
過剰な量のPを含有すると、鋼材の靭性が劣化する。よって、P含有量を0.020%以下に制限する。P含有量の下限は0%でもよい。また、現行の一般的な精錬(二次精錬を含む)を考慮すると、P含有量の下限は0.005%以上であってもよい。
S(硫黄)は、MnSを主とする非金属介在物を形成することにより、継目無鋼管用鋼材の靭性を劣化させる不純物元素である。よって、S含有量を0.0050%以下に制限し、好ましくは、0.0040%以下に制限する。また、現行の一般的な精錬負荷(二次精錬を含む)を考慮すると、S含有量の下限は0.0020%以上であってもよく、特に製錬負荷を下げる場合には、S含有量の下限は0.0035%以上であってもよい。
O(酸素)は、酸化物(非金属介在物)を形成し、この酸化物が凝集および粗大化することにより、そして、酸化物の組成によっては圧延時に延伸するので、継目無鋼管用鋼材の靭性を劣化させる不純物元素である。よって、O含有量を0.0050%以下に制限する。O含有量の下限は0%でもよい。また、現行の一般的な精錬(二次精錬を含む)を考慮すると、O含有量の下限は0.0005%以上であってもよい。本実施形態に係る継目無鋼管用鋼材のO含有量は、鋼中に固溶しているOや、介在物中に存在するOなどの、すべてのO含有量を合計したトータルO含有量(t.O)を意味する。トータルO含有量(t.O)の分析は、一般的に行われている、JIS G 1239(2014年制定)に記載の「不活性ガス融解−赤外線吸収法」で分析した。
N(窒素)は、窒化物(非金属介在物)を形成し、継目無鋼管用鋼材の靭性を低下させる不純物元素である。よって、N含有量を0.0075%以下に制限する。N含有量の下限は0%でもよい。また、現行の一般的な精錬(二次精錬を含む)を考慮すると、N含有量の下限は0.0010%であってもよい。
Cu(銅)は、継目無鋼管用鋼材の強度向上や、耐食性向上の効果を有する選択元素である。そのため、必要に応じて、Cuを0.05%以下の範囲内で含有させても良い。また、Cu含有量の下限を0.01%以上とすると、好ましく上記効果を得ることができる。一方、Cu含有量が0.05%を超えると、含有効果が飽和するほか、溶融金属脆化(Cu割れ)によって造管時に熱間加工割れが生じるおそれがある。なお、Cu含有量の好ましい範囲は0.02%以上0.04%以下である。
Nb(ニオブ)は、炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化防止および継目無鋼管用鋼材の靭性の改善に有効な選択元素である。そのため、必要に応じて、Nbを0.05%以下の範囲内で含有させても良い。また、Nb含有量の下限を0.01%以上とすると、好ましく上記効果を得ることができる。一方、Nb含有量が0.05%を超えると、粗大なNb炭窒化物が析出して継目無鋼管用鋼材の靭性の劣化を招くおそれがある。なお、Nb含有量の好ましい範囲は0.02%以上0.04%以下である。
V(バナジウム)は、Nbと同様に炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化防止や靭性の改善に有効な選択元素である。そのため、必要に応じて、Vを0.10%以下の範囲内で含有させても良い。また、V含有量の下限を0.01%以上とすると、好ましく上記効果を得ることができる。一方、V含有量が0.10%を超えると、粗大なV炭窒化物が生成して継目無鋼管用鋼材の靭性の劣化を招くおそれがある。なお、V含有量の好ましい範囲は0.02%以上0.04%以下である。
Ni(ニッケル)は、焼入れ性の向上による継目無鋼管用鋼材の強度の向上や、靭性の向上に有効な選択元素である。また、Cu含有時の溶融金属脆化(Cu割れ)を防止する効果も有する選択元素である。そのため、必要に応じて、Niを0.10%以下の範囲内で含有させても良い。また、Ni含有量の下限を0.01%以上とすると、好ましく上記効果を得ることができる。一方、Ni含有量が0.10%を超えると、コストが増加する一方で、含有効果は飽和するので、Ni含有量の上限を0.10%以下とする。なお、Ni含有量の好ましい範囲は0.01%以上0.08%以下である。
B(ホウ素)は、焼入れ性を高めて継目無鋼管用鋼材の強度を向上させる効果を有する選択元素である。そのため、必要に応じて、Bを0.0050%以下の範囲内で含有させても良い。一方、B含有量が0.0050%を超えると、窒化物が生成して継目無鋼管用鋼材の靭性性が低下するので上限を0.0050%以下とする。なお、B含有量の上限を0.0020%以下とすることが好ましい。
これらのインゴットを、仕上圧延温度920℃狙いで15mm厚に熱間圧延し、水冷した後、550℃で焼き戻し処理を行って、熱延鋼板を得た。なお、上記ならびに以降、本発明で記載した各成分値は、添加量ではなく、熱延鋼板の分析値(含有量)である。
また、介在物中の化合物MXの含有量は、化合物MXを丸括弧で挟んで(MX)と表記する。例えば、介在物中のCaOの含有量は(CaO)と表記する。
ここで、全ての試料をプロットした図1では、良好材と劣位材が混在し、有害な延伸介在物の生成防止の境界条件は不明確であった。
一方、(Al2O3)/{(Al2O3)+(CaO)+(REM2O3)}≦0.40であれば、酸化物のアスペクト比≦3.0であった。酸化物の融点が上昇し、圧延時に延伸しにくくなるためと考えられる。
(Ca)、(Al)、(REM)のそれぞれから、原子量を用いて、酸化物量を算出し、(11)式、(12)式を計算できる。例えば、(Al2O3)は、Alの原子量27と酸素の原子量16を用いて、(27×2+16×3)/(27×2)×(Al)で計算できる。なお、介在物をSEMで観察して、介在物にAlNが生成していないことを確認した。AlNは、特徴的な角形状なので、SEM観察で容易に判別可能である。ここでは介在物組成の算出に影響するサブミクロンオーダー以上のサイズのAlNの生成を問題にしている。
同様の方法で、(Ca)から(CaO)を、(REM)から(REM2O3)を求めることができる。ここで、(REM)は、検出された希土類元素の合計量、具体的には、本実験で検出されたCe、La、Ndの合計量である。
具体的には、まず、MnSを形成するS量を、MnとSの原子量を用いて、32/55×(Mn)から計算し、S総量から除く。本実験はAl脱酸鋼なので、介在物から検出されたMnはMnSから検出されたとみなせるからである。このS残量が、CaS、REM2O2S(オキシサルファイド)、REMS(REM原子とS原子がモル比1:1で結合した硫化物)を形成しているS量である。熱力学的に、CaSが最も生成し易く、次にREM2O2S、最後にREMSが生成すると考えられる。この順番で、Sのマスバランスを考慮して、硫化物やオキシサルファイドの生成量を計算すればよい。
こうして求めた硫化物やオキシサルファイドを形成するCaやREMを、それぞれの総量から差し引いた残量が、酸化物を形成しているCa、REM量である。Ca、REM、Oの原子量を用いて、(CaO)、(REM2O3)を計算すればよい。多くの場合、SはMnSとCaSとして存在し、マスバランス上、REMと結合したものは少なかった。すなわち、CaはCaSとCaOとして、REMは酸化物として存在することが多かった。特にSが多量の場合は、REM2O2SやREMSが生成した例があった。
領域Iは、[REM]<[REM_1]の、[REM]が低い領域である。
まず、[REM]を低い含有量に固定し、[Ca]を増やす場合を考える。当初は、[REM]も[Ca]も低いので、MnSが生成し、圧延時に延伸する。[Ca]の増加につれて、SがCaと結合して、MnSは減少する。一方、Al2O3−CaO−REM2O3系酸化物が生成するが、[REM]が低い場合はAl2O3−CaO系主体である低融点酸化物であるので、圧延時に延伸する。MnSが減る一方、低融点酸化物が生成するので、[Ca]が低い場合は、延伸介在物の合計量は大きくは減少しない。[Ca]を更に増加すると酸化物融点が上昇して、酸化物の延伸度が次第に減少し、式で規定された下限[Ca]以上を含有すると延伸する酸化物数が基準以下となる。
次に、[REM]を上記よりも増やした場合を考える。[Ca]増加につれて、SがCaと結合して、MnSは減少する点は同様である。一方、Al2O3−CaO−REM2O3系酸化物の融点は、領域Iでは[REM]が増えても(したがって、Al2O3−CaO−REM2O3系酸化物に含まれる(REM2O3)が増えても)、それほど変化しない。したがって、境界線の傾きは比較的小さい。
式(8)を満たさない場合、MnSを十分に低減できなかったり、式(11)、(12)の少なくとも一方を満たさないAl2O3−CaO−REM2O3系の低融点酸化物が生成したりするので、これらが圧延時に容易に延伸し、アスペクト比>3.0となる介在物が多く発生して、継目無鋼管用鋼材の靭性が劣位となる。
領域IIは、[REM_1]≦[REM]<[REM_2]の範囲であり、式(9)で規定される下限[Ca]が、[REM]増加につれて低下する。低下する傾きは、領域Iより大きい。これは、[REM]が増えて、酸化物中の(REM2O3)が増加するほど、Al2O3−CaO−REM2O3系酸化物の融点が比較的大きく上昇して、延伸しにくくなるためである。
領域IIで、式(9)で規定される下限[Ca]以上を含有すると、MnSを十分に低減でき、かつ、酸化物の組成は、式(11)、(12)を満たす。
式(9)を満たさない場合、MnSを十分に低減できなかったり、式(11)、(12)の少なくとも一方を満たさないAl2O3−CaO−REM2O3系の低融点酸化物が生成したりするので、これが圧延時に容易に延伸し、アスペクト比>3.0となる介在物が多く発生して、継目無鋼管用鋼材の靭性が劣位となる。
領域IIIは、[REM_2]≦[REM]≦0.0050%の範囲であり、式(10)で規定される下限[Ca]が、領域Iや領域IIに比べて低位で、[REM]に依らずに一定した領域である。[REM_2]≦[REM]では、式(11)で計算されるAl2O3−CaO−REM2O3系酸化物中の(Al2O3)が40%以下に低下するため、融点が高く、圧延時に延伸し難い。高[REM]なので、式(12)も同時に満たされる。そのため、MnS防止に必要な[Ca]が、この領域の下限[Ca]である。この領域では、高[REM]なので、鋼中のt.[O]は主にREM(およびAl)に結合し、Sと結合する有効[Ca]は十分なので、下限[Ca]は[REM]に依らず一定である。
領域IIIで、下限[Ca]以上を含有すると、MnSを十分に低減でき、かつ、酸化物の組成は、式(11)、(12)を満たすので、高融点であり、圧延時に延伸し難い。
領域IIIにおいて、式(10)を満たさない場合、MnSを十分に防止できないので、圧延時にアスペクト比>3.0に延伸したMnSが継目無鋼管用鋼材中に残存し、継目無鋼管用鋼材の靭性が劣位となる。
このように、介在物組成を制御し、介在物のサイズや個数を低減することによって、破壊起点となる有害なアスペクト比>3.0の延伸介在物を低減することができる。このため、本実施形態では、円相当径1.0μm以上の介在物個数密度を100個/mm2以下に規定している。
式(1)〜(10)に示す通り、t.[O]をはじめ、t.[Al]、[S]に応じて、[REM]と下限[Ca]の適正な組み合わせ条件が決まる。したがって、[REM]と[Ca]を添加する以前に、t.[O]、t.[Al]、[S]が判明していれば、[REM]と[Ca]の目標範囲を正確に設定できる。しかし、数分を争う、効率的な操業が常に求められる製造現場では、必要な全ての成分、特にt.[O]が操業中に判明することは困難であることが多い。
以上、t.[O]の変動を例に説明したが、他の成分でも変動範囲について同様に考えて、[REM]や[Ca]の目標範囲を設定することができる。
本実施形態に係る継目無鋼管用鋼材は、一般的な鋼材と同様に、例えば高炉溶銑を原料とし、転炉精錬や二次精錬を行って製造した溶鋼を、連続鋳造によって鋳片とした後、中心部を穿孔し、必要に応じ熱処理を行って継目無鋼管を製造することができる。その際、転炉における脱炭処理の後、取鍋での二次精錬で、鋼の成分調整とともに、Ca及びREMの添加による介在物制御を行う。なお、高炉溶銑のほか、鉄スクラップを原料として電気炉で溶解した溶鋼を原料として用いても良い。
また、鋼中の[Ca]、[REM]、t.[Al]、t.[O]、[S]の各量の関係を上述のように規定しているので、介在物中のAl2O3の含有率を低減でき、低融点酸化物の生成を抑制することが可能となる。さらに、CaとREMを複合添加し、酸化物の主要組成を、REM2O3を含有する三元系であるAl2O3−CaO−REM2O3系とすることで、圧延時の破砕性が増し、圧延後のサイズが微細化するので、有害性を低減できる。
さらに、円相当径1.0μm以上の介在物個数密度を100個/mm2以下に規定しているので、破壊の起点となる介在物の個数が十分に低減されている。
よって、造管時ならびに使用時におけるクラック等の発生が抑制された高品位な継目無鋼管として使用可能な、靭性に優れた継目無鋼管用鋼材を提供することができる。
例えば、実施形態では、本発明の継目無鋼管用鋼材を製造する継目無鋼管用鋼材の製造方法の一例を示したが、これに限定されることはなく、他の製造方法を適用してもよい。
さらに、本実施形態では、上述のように、継目無鋼管用鋼材に含有される成分と介在物を規定しているが、金属組織は特に規定しないので、適宜、加工熱処理して、金属組織を作り分けできる。その際、本実施形態で規定する介在物組成は変わらないため、加工熱処理したものであっても有効である。
各介在物の組成として、例えば介在物中心部の組成で代表させるのではなく、断面全体の平均組成を測定したのは、例えば単独MnSの様に組成が均一な介在物より、Al2O3−CaO−REM2O3系酸化物の周囲の一部にMnSやCaSが付着する場合のように、複数の相が共存している場合が多いためである。この様な介在物の平均組成は、介在物全断面をEDX分析範囲に含めて分析すれば求めることができる。あるいは、それぞれの介在物相ごとに、点分析を行い、SEM像から求まるそれぞれの相の面積率を乗じて平均組成を算出しても良い。
No.51は、式(1)から、[REM]<[REM_1]であり、領域Iであるが、[Ca]は式(8)を満たしていない。そのため、MnSを十分に低減できず、延伸介在物個数は10個/mm2を超え、円相当径1.0μm以上の介在物個数が100個/mm2を超え、衝撃値は基準値80J/cm2に未達であった。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.20%以上0.34%未満、
Si:0.15%以上0.40%以下、
Mn:0.30%以上1.50%未満、
Al:0.003%以上0.050%以下、
Ti:0%以上0.060%以下、
Cr:0%以上1.50%以下、
Mo:0%以上1.0%以下、
Ca:0.0003%以上0.0050%以下、
REM:0.0003%以上0.0050%以下、
を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、前記不純物のうちP,S,O,Nを、
P:0.020%以下、
S:0.0050%以下、
O:0.0050%以下、
N:0.0075%以下、
に制限し、
鋼中の各成分元素Mの質量比を[M]で表示した場合に、[REM]を以下の(1)式で示す第1閾値[REM_1]、及び、(2)式で示す第2閾値[REM_2]によって3つの領域に区別し、それぞれの領域において、鋼中のCa量[Ca]が、以下の(3)式に示すa1、(4)式に示すb1、(5)式に示すa2、(6)式に示すb2、(7)式に示すb3を用いて、以下の(8)式、(9)式、(10)式を満足するとともに、
鋼中に含まれる円相当径が1.0μm以上の介在物の個数密度が100個/mm2以下であることを特徴とする継目無鋼管用鋼材。
(1)式:[REM_1]=0.400×[S]−0.0006
(2)式:[REM_2]=0.005×[Al]+0.300×[S]+1.590×[O]−0.0014
(3)式:a1=5.000×[Al]−35.714×[S]−29.870×[O]−0.0675
(4)式:b1=−0.005×[Al]+0.400×[S]+1.155×[O]−0.0007
(5)式:a2=2.143×[Al]+53.571×[S]+31.169×[O]−1.0471
(6)式:b2=−0.002×[Al]+0.618×[S]+1.100×[O]−0.0010
(7)式:b3=0.475×[S]−0.0005
(8)式:[REM]<[REM_1]の場合、[Ca]≧a1×[REM]+b1
(9)式:[REM_1]≦[REM]<[REM_2]の場合、[Ca]≧a2×[REM]+b2
(10)式:[REM_2]≦[REM]≦0.0050%の場合、[Ca]≧b3 - さらに、質量%で、
Cu:0%以上0.05%以下、
Nb:0%以上0.05%以下、
V:0%以上0.10%以下、
Ni:0%以上0.10%以下、
B:0%以上0.0050%以下、
からなる群から選択される一種又は二種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の継目無鋼管用鋼材。 - 内部に存在する介在物における各化合物MXの質量比を(MX)とした場合に、以下の(11)式及び(12)式の両方を満足することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の継目無鋼管用鋼材。
(11)式:(Al2O3)/{(Al2O3)+(CaO)+(REM2O3)}≦0.40
(12)式:(REM2O3)/{(Al2O3)+(CaO)+(REM2O3)}≧0.05
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