JP2020080417A - 多結晶性マグネシウムシリサイドおよびその利用 - Google Patents
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Abstract
Description
通常、熱電変換材料の性能を比較するための評価指標として、性能指数(Z)があるが、熱電変換材料の性能は動作温度に依存するため、他にも以下の式(1)で求められる無次元性能指数ZT、すなわち性能指数(Z)と動作温度(T)との積がある。
1)毒性が少なく、焼結性が高い多結晶性マグネシウムシリサイド、その多結晶性マグネシウムシリサイドを用いて得られる、熱電変換材料および焼結体ならびに該多結晶性マグネシウムシリサイドおよび該焼結体の製造方法を提供すること、
2)該多結晶性マグネシウムシリサイドを用いた、優れた高温耐久性を有しかつ低中温領域にて優れた熱電変換性能を有する熱電変換素子を提供すること、
3)該多結晶性マグネシウムシリサイドを用いた、発生する電力損失を抑制し、熱電変換素子の数を少なくすることができる熱電変換モジュールを提供すること。
まず、等電子不純物であるゲルマニウムまたはスズを用いた多結晶性マグネシウムシリサイドについて検討した結果、実用上必要な400K〜900Kの温度領域において、前者は潮解性および酸化劣化の問題があり、後者は酸化劣化の問題があった。さらに、いずれも高温耐久性が低い結果となった。次に、種々のカーボン同素体について検討し、グラファイトは結合が強固で融点が高いなどの理由で多結晶性マグネシウムシリサイドへの固溶が難しいことがわかり、最終的にフラーレンをカーボン源として作製した多結晶性マグネシウムシリサイドは、潮解性および酸化劣化の問題も発生せず、熱電変換材料として有効であることを確認し、本発明を創出するに至った。
同じ等電子不純物であってもこのような異なる結果となる理由として、ゲルマニウムおよびスズがいずれもシリコンと合金系の固溶体を形成するのに対して、カーボンはシリコンと置換する、あるいは化合物を生成することが考えられる。
本発明の課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
マグネシウム、シリコンおよびカーボン源を混合してなる組成原料を加熱溶融して加熱溶融合成物を作製する工程を含む多結晶性マグネシウムシリサイドの製造方法。
本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドは、そのカーボンが結晶粒内に分布し、結晶粒界にも分布するが、主として結晶粒内に分布するカーボンが熱電変換性能に有効に機能するものと考えられる。また、結晶粒界に分布するカーボンが焼結性の向上に寄与しているものと推察される。
なお、結晶内に固溶しまたはSiと置換したカーボンについては、本開示においては粒内に分布しているものとする。
シリコンの等電子不純物であるカーボンのみを結晶粒内に分布させた、当該技術分野において新規の多結晶性マグネシウムシリサイドおよびこれを使用した熱電変換素子あるいは熱電変換モジュールは、従来最も優れているとされるドーパントとしてアンチモンのみが添加された多結晶性マグネシウムシリサイドと比較すると、次の(1)〜(4)に記載の優れた性能および特性を有するものである。
(1)毒性が少なく、歩留まりが約95%以上の高い焼結性および優れた高温耐久性を有する。
(2)多結晶性マグネシウムシリサイドを用いてモジュール化した場合に、発生した電力の損失を抑制して熱電変換素子数を低減できる。
(3)低中温領域において実用的に有効な高い出力因子を有し、高温領域においては同程度あるいはより高値の無次元性能指数を有する。
(4)さらに付け加えれば、ドーパントを一切含めないもの(ノンドープのものとも称する)よりも全温度領域において高い無次元性能指数を有する。
本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドは、ドーパントとしてキャリアを放出しない等電子不純物のみを用いているため、ドーパントの量を変化させても、ゼーベック係数、電気伝導率およびキャリア熱伝導率のそれぞれの値がほぼ変わらず、ノンドープのものの場合とほぼ同じになる。このため、熱電変換性能を調整する際には、例えば、格子熱伝導率1つがなるべく低くなるように制御すればよく、熱電変換性能の調整が極めて容易となる利点がある。
すなわち、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドは、ドーパントとしてキャリアを放出しない等電子不純物のみを用いているため、ノンドープのものに対して、上記式(1)の分子の出力因子を変化させないで、上記式(1)の分母の格子熱伝導率のみを下げて無次元性能指数ZTを向上させるといった、分子成分と分母成分とを切り離して制御することができる。本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドは、このような新たな考え方に基づいたものである。
本開示において、カーボンを含み、カーボン以外のドーパントを含まない多結晶性マグネシウムシリサイドを用いた熱電変換素子および熱電変換モジュールは、「電圧出力型」である。
また、熱電変換材料の熱電変換性能については、無次元性能指数ZTによって評価することが一般的であるが、次に説明するように、本開示においては出力因子を評価指数として重視している。
上記式(1)から理解されるように、ZTは出力因子および熱伝導率によって大きく左右されるため、ZTに対して出力因子および熱伝導率のどちらの寄与が大きいのかを検討する必要がある。
一定量の熱量を出し続けるような工業炉などでは、熱電変換素子に温度差を与えるには熱伝導率が低いことを優先的に考える必要がある。一方、ブレーキ時や加速時などの瞬間的に熱が発生する自動車などの場合に、瞬間的に発生する熱を無駄なく取り出すためには、熱伝導率が低いこと以上に出力因子の値が高いことが必要であり、出力因子の値が高いと多くの電力量を取り出せることになる。
従って、本開示のマグネシウムシリサイドを用いた熱電変換素子が、低中温領域において高い出力因子を有していることは、特に発熱温度が中温領域にある自動車などに極めて有用であることを示している。
カーボン源のフラーレン量を変化させた複数の多結晶性マグネシウムシリサイドと、ドーパントを含まないノンドープの多結晶性マグネシウムシリサイドとについて、温度を変化させながらゼーベック係数、電気伝導率およびキャリア熱伝導率を測定した場合、両者の値はほぼ同じ値となる。
従って、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドは、高電圧かつ低電流である電圧出力型として働き、n型不純物を含み、かつカーボンを含まない多結晶性マグネシウムシリサイドは、電気伝導率が向上していることから、低電圧かつ高電流である電流出力型として働く。
熱電変換モジュールを稼働させると、複数の熱電変換素子、DC/DCコンバーターおよび外部負荷回路を接続する場合に、インピーダンス整合が取りにくく、電力の損失が発生してしまう。損失が電流値の二乗と抵抗値との積で表されることを考慮すると、高電流である電流出力型の多結晶性マグネシウムシリサイドよりも、低電流である電圧出力型の本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドの方が、損失による出力低下を抑えることができ、有用である。
本開示におけるカーボンが添加された多結晶性マグネシウムシリサイドは、後述の実験結果で示されるように、アンチモンが添加された多結晶性マグネシウムシリサイドよりも優れた高温耐久性を有しており、またカーボンはアンチモンのような毒性がないために環境への負荷がほとんどない。
さらに、焼結体を熱電変換部とし、その両端部に電極を設けた熱電変換素子においても、熱電変換部にカーボンが添加された多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体を用いた熱電変換素子は、2000時間以上の長時間高温下においても電極が剥離することもなく高い耐久性を有するが、アンチモンが添加された多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体を用いた熱電変換素子は、せいぜい500時間の短時間内に電極部が剥離しまう。
このようにカーボンを含有する多結晶性マグネシウムシリサイドは、実用化にとって極めて好ましい特性を有するものである。
また、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドは、焼結性が高いため、クラックのない焼結体を容易に得ることができる。
すなわち、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドを用いることで、歩留まりが高く、相対密度が高い焼結体を得ることができる。後述する実施例では、焼結体の歩留まりが100%、相対密度が98%以上で、両者とも極めて高い値である。その理由としては、結晶粒界に分布するカーボンがバインダーの効果を発揮していることが考えられる。
相対密度が高い焼結体には、ボイドなどの欠陥がほとんどないために、熱電変換素子の熱電変換部として安定に高い熱電変換能を発揮すると共に、また、高い物理的強度を有し、風化せず、耐久性に優れて、安定性および信頼性に優れた熱電変換材料として使用できる。
本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドにおいては、カーボンが結晶粒内および結晶粒界に分布しさえすれば特に限定されないが、多結晶性マグネシウムシリサイドにおける結晶粒内および結晶粒界に分布するカーボンの全含有量は、熱電変換性能、焼結性などの所期の効果を合わせもたらせるためには、0.05at%〜3.0at%であることが好ましく、0.1at%〜2.0at%であることがより好ましく、0.5at%〜1.5at%であることがさらに好ましく、0.5at%〜1.0at%であることが特に好ましい。
このカーボンの全含有量は、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドに含まれる量ばかりでなく、製造する際の原料仕込み量についても意味するものである。
特に、炭素間結合が切れやすいsp3混成軌道を持つ炭素を含むフラーレン類が好ましく、sp2混成軌道を持つ炭素とsp3混成軌道を持つ炭素との双方を含むものであることがより好ましい。sp2混成軌道を持つ炭素とsp3混成軌道を持つ炭素との合計に対するsp3混成軌道を持つ炭素の割合は、60%〜90%であることが好ましく、60%〜75%であることがより好ましい。
本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドは、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で凡そ2:1であり、Mgの含有量とSiの含有量との比が原子量比で66.17:33.83〜66.77:33.23であることが好ましく、66.27:33.73〜66.67:33.33であることがより好ましい。
また、ドーパントであるカーボン源の原子量比は、前述のように、0.05at%〜3.0at%であることが好ましく、0.1at%〜2.0at%であることがより好ましく、0.5at%〜1.5at%であることがさらに好ましく、0.5at%〜1.0at%であることが特に好ましい。
MgとSiとカーボン源とからなる組成原料を、耐熱容器中で加熱溶融して加熱溶融合成物を作製する工程を含む製造方法により、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドが製造される。
これらの各工程にて得られる、加熱溶融合成物および粉砕物は、それぞれ単独で商品価値を有するものである。
混合工程では、Mg、Siおよびカーボン源を混合して組成原料を得る。
加熱溶融工程においては、混合工程にて得た組成原料を還元雰囲気下、かつ好ましくは減圧下において、Mgの融点を超えSiの融点を下回る温度条件下で熱処理して多結晶性マグネシウムシリサイドを溶融合成することが好ましい。
ここで、「還元雰囲気下」とは、特に水素ガスを5体積%以上含み、必要に応じてその他の成分として、不活性化ガスを含む雰囲気を指す。
かかる還元雰囲気下で、下記の諸条件を合わせて加熱溶融工程を行うことにより、マグネシウムとケイ素とを確実に反応させることができるので、合成し作製された本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドは、未反応のマグネシウムおよび未反応のケイ素が含まれないものとなる。
これらの未反応物が残留すると、後工程で酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素を生成し、特に酸化マグネシウムはひび割れなどの原因となって、耐熱性、耐久性などの物理的強度が低くなり、実用化に不適当となる。
また、加熱溶融工程における加熱条件としては、700℃以上1410℃未満、好ましくは1085℃以上1410℃未満で、例えば3時間程度熱処理を行うことが好ましい。
ここで、熱処理の時間は、例えば2時間〜10時間であればよい。長時間熱処理することにより、得られる多結晶性マグネシウムシリサイドをより均一化することができる。なお、Mg2Si(ドーパント無し)の融点は1085℃であり、ケイ素の融点は1410℃である。
これは、蓋部と開口部の辺縁との接触面において隙間が形成されず、耐熱容器が密閉されるため、蒸発したMgの耐熱容器外への飛散を抑制することができるためと考えられる。
また、上記耐熱容器の寸法としては、容器本体が内径12mm〜300mm、外径15mm〜320mm、高さ50mm〜250mmで、蓋部の直径が15mm〜320mmのものを挙げることができる。
また、必要に応じて、蓋部の上面を直接または間接におもりにて加圧してもよい。当該加圧の際の圧力は、1kg/cm2〜10kg/cm2であることが好ましい。
このように、加熱溶融工程を還元雰囲気下で行う理由としては、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドを製造するにあたって、前述したように、酸化ケイ素のみならず、酸化マグネシウムの生成を極力避ける必要があることを挙げることができる。
粉砕工程は、上述の冷却された加熱溶融合成物を粉砕して粉砕物を得る工程である。
粉砕工程においては、加熱溶融合成物を、微細で、狭い粒度分布を有する粒子に粉砕することが好ましい。微細で、狭い粒度分布を有する粒子に粉砕することにより、これを焼結する際に、粉砕された粒子同士がその表面の少なくとも一部において融着し、空隙(ボイド)の発生がほとんど観察されない程度に焼結することができ、相対密度が98%以上の焼結体を得ることができる。
本開示の焼結体は、上記の本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドを焼結してなるものである。前述したように、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドは焼結性が高いため、クラックのない焼結体を容易に得ることができる。すなわち、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドを用いることで、歩留まりが高く、相対密度が高い焼結体を得ることができる。
また、873Kにおけるゼーベック係数の絶対値は、210μVK−1以上であることが好ましく、230μVK−1以上であることがより好ましい。
また、873Kにおける電気伝導率は、0.7×105Sm−1以下であることが好ましく、0.5×105Sm−1以下であることがより好ましい。
また、873Kにおける出力因子は、2.6×10−3Wm−1K−2以上であることが好ましく、2.8×10−3Wm−1K−2以上であることがより好ましい。
さらに、327K〜600Kにおける出力因子が、2.5×10−3Wm−1K−2以上であることが好ましく、2.8×10−3Wm−1K−2以上であることがより好ましく、3.5×10−3Wm−1K−2以上であることがさらに好ましい。
このような出力因子を有する焼結体であれば、中温領域にて特に優れた熱電変換性能を有するものとなって好ましい。
また、873Kにおける熱伝導率は、2.9Wm−1K−1以下であることが好ましい。
また、873Kにおける無次元性能指数ZTは、0.86以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましい。
また、873Kにおける性能指数Zは、0.98×10−3K−1以上であることが好ましく、1.20×10−3K−1以上であることがより好ましい。
本開示の焼結体の製造方法は、上記の加熱溶融合成物を粉砕した粉砕物を焼結する工程(焼結工程)を含むものである。
円柱体のサイズ、特に口径は大きいほど熱電変換素子を数多く切り出すことができため好ましいが、所望のサイズに合わせて、グラファイトダイ10の内径を約10mm〜50mmに、グラファイト製パンチ11a、11bに充填する粉砕物の高さを約5mm〜15mmにして、作製する。
焼結工程における焼結の条件としては、粉砕物を例えばグラファイト製の焼結用冶具内で、加圧圧縮焼結法により真空または減圧雰囲気下で焼結圧力5MPa〜60MPa、焼結温度600℃〜1000℃で焼結する方法を挙げることができる。
また、焼結温度が600℃以上である場合、粒子同士が接触する面の少なくとも一部が融着して焼成された相対密度の98%以上である焼結体を得ることが容易であり、強度的に実用に供することが可能な焼結体を容易に得ることができる。一方、焼結温度が1000℃以下である場合、焼結体の損傷を抑制でき、Mgが急激に蒸気となり飛散することを抑制できる。
このようにして作製された焼結体は、歩留まりおよび相対密度が高く、後述する実施例では、20個中20個全てにおいてひび割れなどがなく、歩留まりが100%と極めて高く、かつ98%以上の相対密度を有するもので、熱電変換素子用材料として極めて有効なものが得られた。
金属バインダーとしては、Ni、Zn、Al、Cu、Co、Ag、Auなどの少なくとも一種の金属粉体、またはこれらの元素を含み、かつ、融点が419℃〜1455℃の化合物、合金、もしくは金属間化合物を挙げることができる。
本開示の熱電変換素子は、上記の焼結工程にて得られた焼結体から構成された熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極および第2電極とを備えるものである。
熱電変換部としては、上記の焼結工程にて得られた焼結体を、ワイヤーソー等を用いて所望の大きさに切り出したものを用いることができる。
熱電変換部は、通常、1種類の熱電変換材料を用いて製造されるが、複数種類の熱電変換材料を用いて複層構造を有する熱電変換部としてもよい。複層構造を有する熱電変換部は、焼結前の複数種類の熱電変換材料を所望の順序で積層した後、焼結することにより製造することができる。
複数種類の熱電変換材料としては、少なくとも一つの熱電変換材料が本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドから構成されるものであればよく、また、2種以上の熱電変換材料が本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドから構成されるものである場合、それぞれのドーパント量が異なっていてもよい。本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドから構成される熱電変換材料と、従来公知の他の熱電変換材料との組み合わせであってもよい。
熱電変換部上に設ける第1電極および第2電極の形成法としては、特に限定されず、メッキ法、導電性ペーストを印刷後焼成する方法、あるいは以下に詳述する焼結法などが挙げられる。これらの形成法では、焼結体上に電極用導電層を設けた後に、ワイヤーソー等を用いて所望の大きさに切り出して、熱電変換部上に第1電極および第2電極が設けられた熱電変換素子が形成される。
焼結法では、多結晶性マグネシウムシリサイドと電極材料を同時に一体にして焼結する。
また、電極材料としてニッケル、アルミニウムあるいは銅などが好ましく用いられるが、電極材料、多結晶性マグネシウムシリサイドおよび電極材料の各粉末をこの順で積層し、加圧圧縮焼結することにより、両端に電極が形成された焼結体を得ることができる。
この際、多結晶性マグネシウムシリサイド粉末に前述の金属バインダー粉末を混合することもできる。
本開示の熱電変換モジュールは、上記の本開示の熱電変換素子を備えるものである。
この熱電変換モジュールでは、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドから得られたn型半導体およびp型半導体がそれぞれn型熱電変換部101およびp型熱電変換部102の熱電変換材料として用いられる。並置されたn型熱電変換部101およびp型熱電変換部102の上端部には電極1015、1025が、下端部には電極1016、1026がそれぞれ設けられる。
そして、n型熱電変換部およびp型熱電変換部の上端部にそれぞれ設けられた電極1015、1025が接続されて一体化された電極を形成すると共に、n型熱電変換部およびp型熱電変換部の下端部にそれぞれ設けられた電極1016、1026は分離されて構成される。
高純度シリコンと、マグネシウムと、フラーレン(C60)とを混合し、組成原料(66.33at%Mg、33.17at%Si、0.5at%フラーレン)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、Mgとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。また、フラーレン(C60)としては、SES research社製の純度が99.9%以上(融点:1453K)の粉末状のものを用いた。
焼結温度:880℃
圧力:50.0MPa
昇温:レート(1) 300℃/min×2min(〜600℃)
レート(2) 100℃/min×1.5min(600℃〜750℃)
レート(3) 10℃/min×13min(750℃〜880℃)
レート(4) 0℃/min×15min(880℃)
冷却条件:レート(5) 真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
レート(1)では、充填した多結晶性マグネシウムシリサイド粉末の中心部まで熱が伝達するように、600℃に達するまで300℃/minのレートで急速に昇温させ、次のレート(2)では昇温速度を落とし、レート(3)では全体が固溶しないようにさらに昇温速度を落として加熱した後、レート(4)では加熱せずに維持する。その後、レート(5)では時間をかけて冷却して、空隙の無い粒界を保ちつつ粒子同士を融着させる。
高純度シリコンと、マグネシウムと、フラーレン(C60)とを混合し、組成原料(66.0at%Mg、33.0at%Si、1.0at%フラーレン)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体(C(フラーレン)1.0at%添加Mg2Si)を得た。
高純度シリコンと、マグネシウムと、アンチモンとを混合し、組成原料(66.33at%Mg、33.17at%Si、0.5at%Sb)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体(Sb0.5at%添加Mg2Si)を得た。なお、アンチモンとしては、エレクトロニクス エンド マテリアルズ コーポレーション社製で、純度が99.9999%、大きさが直径5mm以下の粒状のものを用いた。
高純度シリコンと、マグネシウムとを混合し、組成原料(66.67at%Mg、33.33at%Si)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体(Undoped)を得た。
高純度シリコンと、マグネシウムと、グラファイト(融点:3823K)とを混合し、組成原料(66.6at%Mg、33.3at%Si、0.1at%グラファイト)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体(C(グラファイト)0.1at%添加Mg2Si)を得た。
高純度シリコンと、マグネシウムと、グラファイトとを混合し、組成原料(66.33at%Mg、33.17at%Si、0.5at%グラファイト)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体(C(グラファイト)0.5at%添加Mg2Si)を得た。
高純度シリコンと、マグネシウムと、グラファイトとを混合し、組成原料(66.0at%Mg、33.0at%Si、1.0at%グラファイト)を得た点以外は実施例1と同様の方法により、多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体(C(グラファイト)1.0at%添加Mg2Si)を得た。
[外観写真および光学顕微鏡写真]
実施例1、2で得られた多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体の外観写真および光学顕微鏡写真を図5に示す。図5に示す光学顕微鏡写真は、焼結体表面を機械研磨して鏡面を観察したものである。図5の外観写真および光学顕微鏡写真に示すように、実施例1、2ともにクラックのない焼結体を得ることができた。また、実施例1、2にてそれぞれ20個の焼結体を作成したが、全ての焼結体でクラックがなく、再現性良くクラックフリーの焼結体が得られ、歩留まりが100%であった。
実施例1、2で得られた多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体の相対密度を算出した。まず、実施例1、2で得られた焼結体の密度をアルキメデス法により算出し、Gas Pycnometer(Micromeritics Instrument社製)を用い、気相(He、ガス)置換法により真密度の測定を行った。そして、真密度に対するアルキメデス法により算出した密度の割合から相対密度を算出した。
なお、実施例1では真密度は2.01g/cm3であり、実施例2では真密度は2.00g/cm3であった。
従って、真密度および相対密度から、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドの焼結性が高いことがわかる。
実施例1、2で得られた多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体について、カーボンの固溶の有無を確認するため、日本電子社製のJXA−8900電子線マクロアナライザ(EPMA)を用い、C、Mg、Siの元素分析を行った。実施例1、2における多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体のSEM画像およびEPMA測定結果を図6に示す。
図6に示すように、MgおよびSiと同様に、Cの均一なマッピング結果が得られ、Cが結晶粒界および結晶粒内に分布していることがわかる。
比較例5で得られた多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体について、SEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法)測定を行った。SEM−EDX測定の結果を図19に示す。
図19に示すSEM画像から、比較例5で得られた多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体では、数十μmのC単体が存在しており、カーボンが粒内に分布しておらず、また、カーボンが結晶粒界にも分布していないことがわかる。
実施例1、2および比較例1、2で得られた多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体について、Altima IV(Rigaku社製)を用いてX線回折(XRD:X−Ray Diffraction)を行った。X線回折では、CuKα線を用い、印加電圧40kV、印加電流40mAとした。実施例1、2および比較例1、2におけるマグネシウムシリサイド焼結体のX線回折の結果を図7に示す。
なお、図7では、実施例1、2の比較対象として、比較例1(Sb0.5at%添加Mg2Si)、比較例2(ノンドープMg2Si)およびMg2Siの理論ピーク(Calculated)を掲載している。
また、図7では、実施例1、2にて、カーボン(フラーレン)、SiC、MgおよびSiのピークは確認されなかった。
このことからも、添加されたフラーレンに由来するカーボンは、結晶粒界および結晶粒内に分布し、また未反応のMgと未反応のSiとが存在していないことがわかる。
未反応のMgが存在しないと、クラック発生の原因となるMgOが生成されないため、先述したように焼結性が高く、機械的耐久性が優れたものとなる。
なお、図23では、比較例3〜5の比較対象として、比較例2(アンドープMg2Si)および多結晶性マグネシウムシリサイドの理論ピーク(Calculated)を掲載している。
[ゼーベック係数、電気伝導率および熱伝導率の測定]
実施例1、2、比較例1、2で得られた多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体について、ワイヤーソーを用いて、縦2mm、横2mm、高さ12mmにカットし、ADVANCE−RIKO社製のZEM−3を用いてゼーベック係数および電気伝導率の測定を行った。
得られたゼーベック係数および電気伝導率により、出力因子を算出した。
同様に、実施例1、2、比較例1、2で得られた多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体について、ワイヤーソーを用いて、縦7mm、横7mm、高さ1mmにカットし、ADVANCE−RIKO社製のTC−1200RHを用いて熱伝導率の測定を行った。
また、該熱伝導率についてはヴィーデマン・フランツ則によって、電子成分の熱伝導率(キャリア熱伝導率)と格子成分の熱伝導率(格子熱伝導率)とを求めた。
さらに、得られた出力因子および熱伝導率より、上記式(1)に従い、無次元性能指数ZTを算出した。なお、各パラメーターについて、測定温度範囲は327K〜873Kであり、50K刻みで測定を行った。
また、実施例1、2および比較例1、2における多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体について、温度と、キャリア熱伝導率または格子熱伝導率との関係を図12、13に示す。
実施例1、2では、フラーレンの添加量が異なっているが、図8、9に示すように、ゼーベック係数および電気伝導率の温度変化に対する挙動に両者の差がほとんど生じておらず、また、比較例2のノンドープのものとの差もみられず、このことはフラーレンに由来するカーボンが等電子不純物として機能していることを示している。
一方、アンチモンが添加された比較例1では、比較例2のノンドープのものとの違いを示しており、ゼーベック係数は低下し、電気伝導率が向上し、明らかにキャリア放出するn型不純物の挙動を示している。
出力因子は、前述のように熱電変換素子に温度差をつけた際に取り出すことのできる電力量の指標となっており、数値が高い方が出力密度も高くなる。
図10に示すように、327K〜600Kの低中温領域における出力因子は、フラーレンが添加された実施例1、2では、2.6×10−3Wm−1K−2〜3.3×10−3Wm−1K−2であるのに対して、アンチモンが添加された比較例1では、1.9×10−3Wm−1K−2〜3.0×10−3Wm−1K−2と低く、特に、自動車用の熱電変換モジュールとして、後者は実用的でない。
また、327Kにおける実施例1、2および比較例1の出力因子を比較すると、実施例1、2では平均値が約2.75×10−3Wm−1K−2、比較例1では約1.9×10−3Wm−1K−2であり、前者が45%程度大きいことが分かる。
327K前後の温度領域で高い出力因子を有するので、家電および事務機(パソコン、プロジェクターなど)の稼働時に生じる熱を発電に活用するのに有効である。
さらに、実施例1、2の出力因子は、327K〜600Kの低中温領域においては約2.7×10−3Wm−1K−2〜約3.3×10−3Wm−1K−2で、この最大値3.3×10−3Wm−1K−2は、約523Kにおける値であり、実施例1、2における多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体が、中温領域において特に優れた熱電変換性能を有していることがわかる。
中温領域の約523Kにおける出力因子は、本開示のカーボンを含む多結晶性マグネシウムシリサイドがアンチモンドープのものに対して、23%程度大きい値となっている。
このように、本開示のカーボンを含む多結晶性マグネシウムシリサイドが、低中温領域において大きな出力因子を有するもので、多量の電力を取り出せることを意味しており、発熱の多くが低中温領域、特に発熱温度が中温領域の自動車用に極めて有効である。
なお、ノンドープの多結晶性マグネシウムシリサイドを用いた比較例2の場合、出力因子が実施例1,2に比べて低く、特に、低中温領域の場合に顕著である。
図11に示すように、熱伝導率を観ると、本開示のカーボンを含む多結晶性マグネシウムシリサイド(実施例1、2)およびアンチモン添加の多結晶性マグネシウムシリサイド(比較例1)に大きな差がなく、450K〜650Kにおいて多少前者の方が高い値を示しているが、いずれもノンドープの多結晶性マグネシウムシリサイド(比較例2)よりも低いことがわかる。
一方、アンチモンドープの比較例1のキャリア熱伝導率は、比較例2のノンドープに比較して、高い値を示しており、アンチモンがn型ドーパントの挙動を示している。
低中温領域(327K〜600K)において、実施例1と実施例2とを比較すると、フラーレン添加量が多い方が、格子熱伝導率が多少低下している。この理由として、フラーレン添加量を増加させることによってカーボンが多結晶性マグネシウムシリサイドの粒内に分布する量が増え、それに伴ってフォノン散乱の誘発が増加したためであると推測される。
図14に示すように、873KにおけるZTは、実施例1および実施例2におけるカーボン含有の多結晶性マグネシウムシリサイドの場合がそれぞれ、0.88、0.90であり、比較例1のアンチモンドープの多結晶性マグネシウムシリサイドが0.92で、ほぼ同程度の値を示している。
また、327K〜550Kにおいて、比較例1におけるアンチモンドープの多結晶性マグネシウムシリサイドと比較すると、実施例2におけるフラーレン1.0at%を用いた多結晶性マグネシウムシリサイドの場合の方が高いZT値を示しており、また、実施例1におけるフラーレン0.5at%を用いた多結晶性マグネシウムシリサイドの場合では、同程度のZT値を示している。
なお、無次元性能指数(ZT=S2σT/κ)は絶対温度Tに比例するため、高温領域よりも低中温領域では見かけのZT値は下がるが、図15に示される性能指数(Z値)をみると、本開示のフラーレンを用いた多結晶性マグネシウムシリサイドは、500K〜900Kにおいてほぼ横ばいの0.8×10−3(Z)[K−1]以上の高い値を示し、実施例2のフラーレン1.0at%の場合には、877Kにおいて1.0×10−3(Z)[K−1]以上の値を示している。
さらに中温領域の523Kにおける性能指数の値が0.9×10−3(Z)[K−1]以上であることは、出力因子の値と共に、アンチモンドープの多結晶性マグネシウムシリサイドより高く、本開示のフラーレンを用いた多結晶性マグネシウムシリサイドが、高温領域よりも低中温領域の方が性能的にすぐれたものであることが、性能指数(Z値)によって一層明らかとなった。
すなわち、ドーパントとしてカーボンのみを含有する本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドは、ゼーベック係数、電気伝導率およびキャリア熱伝導率のいずれの値も、ノンドープのものとほぼ同じ値であり、このことは等電子不純物としての挙動を示しており、熱電変換素子数の低減効果をはじめとする所期の諸効果をもたらしている。
仮に、アンチモンドープのものについて言えば、ノンドープのものに比べて2倍〜4倍高い値となっている。
次に、比較例3〜5で得られた多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体について、ゼーベック係数および電気伝導率の測定を上記の方法と同様にして行い、得られた結果から出力因子を算出し、さらに、熱伝導率の測定を上記の方法と同様にして行った。
さらに、得られた出力因子および熱伝導率より上記式(1)に従い、無次元性能指数ZTを算出した。結果をそれぞれ図20〜22に示す。
また、図21に示すように、熱伝導率は、グラファイトの添加量が増加するとともに増加し、通常のドーパント添加とは異なる挙動を示していた。さらに、図22に示すように、グラファイトの添加量が増加するにつれてZTが低下しており、比較例3〜5のC(グラファイト)添加Mg2Siでは、比較例1のSb添加Mg2Siほどの熱電性能向上は見られなかった。
実施例1、2、比較例1における多結晶性マグネシウムシリサイドの焼結体について、高温耐久性を以下の方法で評価した。
電気抵抗率の測定は、測定面を研磨し、その面にプローブをあてて行った。また、試料により電気抵抗率が異なると、経時劣化が判断できなくなってしまうため、使用する試料は全て熱処理前に電気抵抗率を測定し、管状炉に保持する前の値が同等であることを確認した。
なお、測定面に接触する4本のプローブの間隔は1mmとした。測定の際の電流の条件は30mAまでとした。
また、実施例1、2については、上記と同様の方法で1000、1500、2000時間経過後の抵抗率を、縦×横×抵抗÷高さの数式により導出した。抵抗率評価結果を図16、17に示す。
次に、実施例1、実施例2および比較例1における多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体について、最大出力時の電流値、電圧値の比較を行った。
まず、各焼結体から、4mm×4mm×6mmを切り出し熱電変換部とし、前述の加圧圧縮焼結(第1の方法)により第1電極(Ni電極)、熱電変換部および第2電極(Ni電極)を備える短絡電流および開放電圧測定用の素子を作製した。各素子について、実起電力測定装置 KTE−HTA−600C(コトヒラ工業社製)により短絡電流および開放電圧を測定した。
シンク部に熱源および冷却源に見立てた温度制御用のCu板(厚み4mm、無酸素銅+Niメッキ)と、熱電対および電気測定用の端子接続が可能なT字型Cuブロック(厚み4mm)、Mg2Si素子、イソウール断熱材を使用した。
熱源側のCu板と高温T字Cuブロックとの界面はホワイティセブン(窒化ホウ素(BN)系耐熱セラミックスコーティング剤、オーデック社製)を充填し、冷却源側と低温T字ブロックとの界面はシリコーンコンパウンド(信越化学工業社製、G747)を熱界面材として使用することによって、接触熱抵抗を減らし、安定かつ純粋な素子形状による温度差の違いが測定できるようにした。
素子とT字Cuブロックとの間は、導電性の銀ペースト(4817N、酢酸ブチル20〜30%、デュポン社製)を使用し、界面での接触電気抵抗が含まれないようにした。なお、T字ブロックの使用にあたり4端子法を用いた。
以上の測定系で開放電圧(電流:0A)を測定し、また、負荷電流を1Aごとに5Aまで測定し、I−V特性の外挿線を引き短絡電流(電圧:0V)を算出した。
その結果から、実施例1、実施例2および比較例1における多結晶性マグネシウムシリサイド焼結体について、電流、電圧および出力(電流×電圧)の関係を求めた。結果を図18に示す。
一方、比較例1のアンチモン0.5at%添加の多結晶性マグネシウムシリサイドは、電流12.724A、電圧36.398mVのときに出力が最大となり、その出力は、463.12mWであるので、電流出力型(高電流・低電圧)であることがわかる。
実施例1、実施例2および比較例1における素子では、ほぼ同程度の最大出力が得られており、どちらの素子も5W(5000[mW])程度の出力を得るためには、損失が全く無いと仮定した場合、以下に示すように素子が約11本必要である。
実施例1:5000[mW]÷443.47[mW]=11.275本≒11本
実施例2:5000[mW]÷459.36[mW]=10.885本≒11本
比較例1:5000[mW]÷463.12[mW]=10.796本≒11本
以下、各熱電変換素子に発生する損失(mW)と、5W程度の出力を得るために実際に必要な素子数について試算した。
損失を、抵抗値と電流値の二乗の積の数式に基づいて算出すると、下記のような結果となり、素子一本の損失を比較例1の場合と比較すると、実施例1の場合には94.660mW、実施例2の場合には92.678mWそれぞれ低下している。
実施例1:1mΩ×(8.200A)2=67.240mW
実施例2:1mΩ×(8.320A)2=69.222mW
比較例1:1mΩ×(12.724A)2=161.90mW
実際に5W(5000[mW])程度の出力を得るためには、以下に示すように、実施例1と実施例2における素子では約13本、比較例1における素子では約17本必要となり、比較例1の方が4本多く素子が必要であった。
実施例1:5000[mW]÷376.235[mW]=13.290本≒13本
実施例2:5000[mW]÷390.138[mW]=12.816本≒13本
比較例1:5000[mW]÷301.22[mW]=16.599本≒17本
そのため、実施例1および実施例2のように電圧出力型である場合、電圧値が損失に寄与しないため、損失が少なく必要な素子数が少なくなるが、比較例1のように電流出力型である場合、損失が大きくなり必要な素子数が多くなる。
上記のように、電流出力型に比べて、5Wの場合で素子数4本減となることは、通常の電力が5Wよりはるかに大きいことを考えると、電圧出力型による素子数低減効果は、モジュールの実用化に際して極めて大きいものである。
さらに、実施例1と実施例2では比較例1よりもモジュール化する際の素子数を減らして同等の出力が得られるため、素子が故障するリスクなども軽減可能である。
熱電変換部とその両端部にNi電極が設けられた熱電変換素子を、電極耐久性試験用に作製した。
実施例1、実施例2および比較例1で作製された多結晶性マグネシウムシリサイドの粉砕物を熱電変換部用としNi粉末を電極部用として、前述の加圧圧縮焼結(第1の方法)によって焼結し、得られた3種類の焼結体からそれぞれ縦2mm、横2mm、高さ10mm(内、両端部の電極部が合わせて2mm)からなる熱電変換素子を5個ずつ切り出して、試料を作製した。
これらの試料を前述の高温耐久性試験で用いたものと同様に、600℃に保たれた環状炉に入れて、10時間毎に観察した。
その結果、比較例1のアンチモンドープ試料は、いずれも30時間経過すると電極が剥離し、100時間で電極部が崩れた状態になった。
一方、実施例1および実施例2のフラーレンを用いた試料については、いずれも300時間経過しても電極に剥離は全く発生せず、かつ電極部は崩れることもない状態であった。
この試験結果は、本開示の多結晶性マグネシウムシリサイドの結晶粒内に分布するカーボンが、多結晶性マグネシウムシリサイドを熱電変換部とした場合に電極部との密着性および結着性を高く向上させる作用を発揮すると共に、98%以上の相対密度を有する焼結体となる要因となって、600℃で300時間の雰囲気であっても全く変化させないものと考えられる。
1015,1016 電極
102 p型熱電変換部
1025,1026 電極
103 n型熱電変換部
1035,1036 電極
3 負荷
4 直流電源
10 グラファイトダイ
11a,11b グラファイト製パンチ
Claims (13)
- ドーパントとしてカーボンのみを含み、カーボンが結晶粒内および結晶粒界に分布している多結晶性マグネシウムシリサイド。
- カーボンを0.05at%〜3.0at%含む請求項1に記載の多結晶性マグネシウムシリサイド。
- 請求項1または請求項2に記載の多結晶性マグネシウムシリサイドから構成される熱電変換材料。
- 請求項1または請求項2に記載の多結晶性マグネシウムシリサイドを焼結してなる焼結体。
- 523Kにおける出力因子が3.0×10−3Wm−1K−2以上で、かつ523Kにおける性能指数(Z)が0.78×10−3K−1以上である請求項4に記載の焼結体。
- 523Kにおける無次元性能指数(ZT)が0.40以上で、かつ873Kにおける無次元性能指数(ZT)が0.86以上である請求項4または請求項5に記載の焼結体。
- 請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の焼結体から構成された熱電変換部と、前記熱電変換部に設けられた第1電極および第2電極とを備える熱電変換素子。
- 請求項7に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
- 請求項1または請求項2に記載の多結晶性マグネシウムシリサイドを製造する多結晶性マグネシウムシリサイドの製造方法であって、
マグネシウム、シリコンおよびカーボン源を混合してなる組成原料を加熱溶融して加熱溶融合成物を作製する工程を含む多結晶性マグネシウムシリサイドの製造方法。 - 前記カーボン源が、sp2混成軌道を持つ炭素およびsp3混成軌道を持つ炭素で形成されるカーボン同素体である請求項9に記載の多結晶性マグネシウムシリサイドの製造方法。
- 前記カーボン源が、フラーレンである請求項9または請求項10に記載の多結晶性マグネシウムシリサイドの製造方法。
- 前記加熱溶融合成物を粉砕して粉砕物を作製する工程をさらに含む請求項9〜請求項11のいずれか1項に記載の多結晶性マグネシウムシリサイドの製造方法。
- 請求項12に記載の製造方法により得られる粉砕物を焼結する工程を含む焼結体の製造方法。
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