以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
図1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド10を備えるプリンター1の構成を示す正面図である。また、図2は、プリンター1の電気的な構成について説明するブロック図である。このプリンター1は、フレーム2と、このフレーム2内に配設されたプラテン3とを備えており、搬送機構4(図2参照)によってプラテン3上に記録用紙、布帛、あるいは、樹脂シート等の記録媒体(液体の着弾対象物の一種)が搬送される。また、フレーム2内には、プラテン3と平行にガイドロッド5が架設されており、このガイドロッド5には、記録ヘッド10を搭載したキャリッジ6が摺動可能に支持されている。このキャリッジ6は、キャリッジ移動機構7(図2参照)の駆動により、ガイドロッド5に沿って記録媒体の搬送方向に直交する主走査方向に往復移動するように構成されている。このプリンター1は、プラテン3上に載置される記録媒体に対してキャリッジ6を主走査方向に相対移動させながら記録ヘッド10のノズル30(図3参照)からインク(本発明における液体の一種)を噴射させて、記録媒体上に当該インクを着弾させることにより文字や画像等の着弾パターンを形成(記録・印刷)する。
キャリッジ6には、インクを貯留したインクカートリッジ8(液体貯留部材の一種)を着脱可能に装着されている。インクとしては、例えば、水系の染料インクもしくは顔料インクや、これらの水系のインクよりも耐候性が高められた有機溶剤系(エコソルベント系)インクや、紫外線の照射による硬化する光硬化型インク等、周知の種々の組成のものを用いることができる。なお、本実施形態においては、インクカートリッジ8がキャリッジ6に搭載される構成を例示したが、これには限られず、インクカートリッジ8がプリンター1の本体側に配置され、インク供給チューブを介して記録ヘッド10に供給される構成を採用することも可能である。
プリンター1の非記録領域であるホームポジションには、キャリッジ6に搭載された記録ヘッド10のノズルプレート24のノズル形成面(プラテン3と対向する面。図3等参照。)を払拭するワイピング機構11が配設されている。このワイピング機構11は、ワイパー12を有しており、このワイパー12としては、例えばゴムやエラストマー等の弾性・可撓性を有する部材により構成される。このワイピング機構11は、ワイパー12を、その先端部がワイピング時において記録ヘッド10のノズル形成面に接触可能な位置に配置する。そして、ワイパー12の先端部がノズル形成面に接触した状態で両者を相対移動させることにより当該ワイパー12によってノズル形成面が払拭される。
このワイピング機構11に隣接して、上記ホームポジション若しくはその近傍に、キャッピング機構13が配設されている。キャッピング機構13は、記録ヘッド10のノズル形成面に当接し得るトレイ状の弾性部材からなるキャップ14(封止部材の一種)を有する。このキャッピング機構13では、キャップ14内の空間が封止空間として機能し、この封止空間内に記録ヘッド10のノズル30を臨ませた状態でノズル形成面に密着可能に構成されている。また、このキャップ14には、図示しない廃液チューブを介してポンプユニット16(図2参照)が接続されており、このポンプユニット16の作動によって廃液チューブを介してキャップ14の封止空間内を負圧化することができる。そして、記録ヘッド10のノズル30やインク流路の詰まりを解消するためのクリーニング処理においては、ノズル形成面への密着状態で封止空間(密閉空間)内が負圧化されてノズル30から記録ヘッド10内のインクや気泡が吸引されてキャップ14の封止空間内に排出される。
図2に示されるように、本実施形態におけるプリンター1は、CPU17、記憶装置18、駆動信号発生回路19(本発明における駆動パルス発生回路に相当)、入出力インターフェース20、搬送機構4、キャリッジ移動機構7、ワイピング機構11、キャッピング機構13、ポンプユニット16、および記録ヘッド10を有する。入出力インターフェース20は、外部機器側からの印刷動作等の要求、印刷設定情報、印刷データ(画像データ)等を受けたり、プリンター1の状態情報を外部機器に出力したり各種データの送受信を行う。CPU17は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置であり、記録ヘッド10による印刷動作(液体の噴射動作)等を制御する。記憶装置18は、CPU17のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。駆動信号発生回路19は、駆動信号の波形に関する波形データに基づいて記録ヘッド10の圧電素子31を駆動するための駆動パルス(後述)を含む駆動信号を生成する。
次に、本実施形態における記録ヘッド10の構成について説明する。
図3は記録ヘッド10の断面図であり、図4は図3における領域Xの拡大図である。また、図5は、図4におけるリザーバー43の周辺の拡大図である。本実施形態における記録ヘッド10は、固定板23、ノズルプレート24、連通板25、アクチュエーター基板26、コンプライアンス基板27、ホルダー28等の複数のヘッド構成部材が積層されて接着剤等によって接合されてユニット化されている。なお、以下においては、記録ヘッド10の各構成部材の積層方向を、適宜上下方向として説明する。
本実施形態におけるアクチュエーター基板26は、ノズルプレート24に形成されたノズル30と連通する圧力室33が形成された圧力室形成基板29と、各圧力室33内のインクに圧力振動を生じさせる駆動素子としての圧電素子31と、これらの圧力室形成基板29および圧電素子31を保護する保護基板32とを積層した状態で備えている。保護基板32の平面視における略中央部には、駆動IC38を実装したフレキシブル基板39が挿通される配線空部40が開設されている。この配線空部40内に、圧電素子31のリード電極が配置され、このリード電極にフレキシブル基板39の配線端子が電気的に接続される。このフレキシブル基板39を通じて駆動信号発生回路19から送られてくる駆動信号が圧電素子31に供給される。なお、フレキシブル基板39としては、駆動IC38を備えるものには限られず、当該駆動IC38が保護基板32の上部に所謂インターポーザーを介して別途配置される構成を採用することもできる。
アクチュエーター基板26の圧力室形成基板29は、シリコン単結晶基板から作製されている。この圧力室形成基板29には、圧力室33となる空間が各ノズル30に対応して複数列設されている。この圧力室33は、ノズル列に交差(本実施形態においては直交)する方向に長尺な空部である。この圧力室33の長手方向の一側の端部には、ノズル連通口34が連通し、他側の端部に個別連通口35が連通する。本実施形態における圧力室形成基板29には、圧力室33の列が2列形成されている。
圧力室形成基板29の上面(連通板25側とは反対側の面)には、振動板36が積層され、この振動板36によって圧力室33の上部開口が封止されている。すなわち、振動板36により、圧力室33の一部が区画されている。この振動板36は、例えば、圧力室形成基板29の上面に形成された二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜と、この弾性膜上に形成された酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜と、から成る。そして、この振動板36上における各圧力室33に対応する領域に圧電素子31がそれぞれ積層されている。
本実施形態の圧電素子31は、所謂撓みモードの圧電素子である。この圧電素子31は、例えば、振動板36上に、下電極層、圧電体層および上電極層(いずれも図示せず)が順次積層されてなる。このように構成された圧電素子31は、下電極層と上電極層との間に両電極の電位差に応じた電界が付与されると、上下方向に撓み変形する。本実施形態では、2列に形成された圧力室33の列に対応して、圧電素子31の列が2列形成されている。なお、下電極層および上電極層は、両側の圧電素子31の列から当該列の間の配線空部40内までリード電極として延在され、上述したようにフレキシブル基板39と電気的に接続されている。
保護基板32は、2列に形成された圧電素子31の列を覆うように振動板36上に積層されている。保護基板32の内部には、圧電素子31の列を収容可能な長尺な収容空間41が形成されている。この収容空間41は、保護基板32の下面側(振動板36側)から上面側(ホルダー28側)に向けて保護基板32の高さ方向途中まで形成された窪みである。本実施形態における保護基板32には、配線空部40の両側に収容空間41がそれぞれ形成されている。アクチュエーター基板26の下面には、このアクチュエーター基板26よりも広い面積を有する連通板25が接合される。
連通板25は、圧力室形成基板29と同様にシリコン単結晶基板から作製されている。本実施形態における連通板25には、圧力室33とノズル30とを連通するノズル連通口34、各圧力室に共通に設けられたリザーバー43(共通液室の一種。マニホールドとも呼ばれる。)、および、リザーバー43と圧力室33とを連通する個別連通口35が、例えば異方性エッチングにより形成されている。リザーバー43は、ノズル列方向に沿って延在する空部であり、本実施形態における連通板25においてノズルプレート24のノズル列毎に対応して2つ形成されている。なお、1つのノズル列に対して複数のリザーバーが設けられ、それぞれのリザーバーに異なる種類のインクが割り当てられる構成を採用することもできる。ノズル連通口34、個別連通口35、及びリザイーバー43は、連通板25の下面側から異方性エッチングによって形成されている。このリザーバー43には、後述するようにホルダー28に設けられた液室空部51の導入口52を通じてインクが導入される。個別連通口35は、各圧力室33にそれぞれ対応してノズル列方向に沿って複数形成されている。この個別連通口35は、圧力室33の長手方向における他側(ノズル連通口34に連通する側とは反対側)の端部と連通する。
図4及び図5に示されるように、リザーバー43は、ホルダー28の液室空部51と連通する第1のリザーバー部43aと、当該第1のリザーバー部43aと圧力室33とを連通する第2のリザーバー部43bと、から構成される。第1のリザーバー部43aは、ホルダー28の液室空部51の底面側の開口形状に倣った形状および寸法の開口を有する空部であり、連通板25の板厚方向を貫通した部分である。本実施形態においては、第1のリザーバー部43aの長手方向、すなわち、ノズル列方向の中央部に対応する位置にホルダー28の導入口52が配置されている(図6参照)。第2のリザーバー部43bは、連通板25の上面側に肉薄部43cを残して下面側から板厚方向の途中まで窪まされた部分であり、第1のリザーバー部43aに対してノズル列方向に交差する方向(本実施形態においては直交する方向)に隣接して形成されている。この第2のリザーバー部43bは、ノズル列方向において、第1のリザーバー部43aの一端から他端にかけて当該第1のリザーバー部43aに沿って延在している。また、第2のリザーバー部43bのノズル列方向に交差する方向における一端部は第1のリザーバー部43aと連通する一方、同方向の他端部は、連通板25に接合された圧力室形成基板29の圧力室33に連通する個別連通口35に連通するように形成されている。そして、リザーバー43の下面側の開口部は、コンプライアンス基板27のコンプライアンスシート44によって封止される。
上記の連通板25の下面の略中央部分には、複数のノズル30が形成されたノズルプレート24が接合される。本実施形態におけるノズルプレート24は、連通板25およびアクチュエーター基板26よりも小さい外形の板材であり、シリコン単結晶基板から構成されている。このノズルプレート24は、連通板25の下面において、リザーバー43の開口から外れた位置であって、ノズル連通口34が開口した領域に、これらのノズル連通口34と複数のノズル30とがそれぞれ連通する状態で接着剤等により接合される。本実施形態におけるノズルプレート24には、複数のノズル30が列設されてなるノズル列(本発明におけるノズル群に相当)が合計2条形成されている。本実施形態においては、1列のノズル列は、例えば400個のノズル30により構成されている。なお、ノズル群としては、複数のノズルが列状に並設されたものには限られず、複数のノズルがマトリクス状に配置されたものも採用することができる。要するに、ノズル群は、同一のリザーバー(共通液室)から液体がそれぞれ供給される複数のノズルにより構成されるものであればよい。
また、連通板25の下面において、ノズルプレート24の周囲を囲むように、当該ノズルプレート24の外形に倣った形状の貫通開口46が中央部に形成されたコンプライアンス基板27が接合される。このコンプライアンス基板27の貫通開口46は、固定板23の貫通口23aと連通して、その内側にノズルプレート24が配置されるように構成されている。
コンプライアンス基板27は、連通板25の下面に位置決めされて接合された状態で、連通板25の下面におけるリザーバー43の開口を封止する。本実施形態におけるコンプライアンス基板27は、図4および図5に示されるように、コンプライアンスシート44(コンプライアンス部材の一種)と、これを支持する支持板45とが接合されて構成されている。連通板25の下面には、コンプライアンス基板27のコンプライアンスシート44が接合されて、連通板25と支持板45との間にコンプライアンスシート44が挟まれた状態となる。コンプライアンスシート44は、可撓性を有する薄膜、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)等の合成樹脂材料により作製されている。支持板45は、コンプライアンスシート44よりも剛性が高く且つ厚みのあるステンレス鋼等の金属材料で形成されている。この支持板45のリザーバー43に対向する領域には、このリザーバー43の下面開口に倣った形状に支持板45の一部が除去されたコンプライアンス開口48が形成されている。このため、リザーバー43の下面側の開口は、可撓性を有するコンプライアンスシート44のみで封止されている。換言すると、コンプライアンスシート44は、リザーバー43の一部を区画している。
支持板45の下面におけるコンプライアンス開口48に対応する部分は、固定板23によって封止される。これにより、コンプライアンスシート44の可撓領域と、これに対向する固定板23との間には、コンプライアンス空間47が形成されている。そして、このコンプライアンス空間47におけるコンプライアンスシート44の可撓領域が、インク流路内、特にリザーバー43内の圧力振動に応じてリザーバー43側またはコンプライアンス空間47側に変位する。したがって、支持板45の厚みは、コンプライアンス空間47として必要な高さに応じて定められている。
アクチュエーター基板26及び連通板25は、ホルダー28に固定されている。ホルダー28は、平面視において連通板25と略同一形状を呈し、その下面側にはアクチュエーター基板26を収容する収容空部49が形成されている。そして、収容空部49にアクチュエーター基板26が収容された状態でホルダー28の下面が連通板25によって封止される。図3に示されるように、このホルダー28の平面視における略中央部分には、収容空部49と連通する挿通空部50が開設されている。この挿通空部50は、アクチュエーター基板26の配線空部40とも連通する。上記のフレキシブル基板39は、挿通空部50を通じて配線空部40に挿入されるように構成されている。また、ホルダー28の内部において、挿通空部50および収容空部49の両側には、連通板25のリザーバー43と連通する液室空部51が形成されている。また、ホルダー28の上面には、液室空部51と連通する導入口52がそれぞれ開設されている。液室空部51には、インクカートリッジ8から送られてきたインクが導入口52を通じて導入される。すなわち、インクカートリッジ8から送られてきたインクは、導入口52、液室空部51、およびリザーバー43へと導入され、リザーバー43から個別連通口35を通じて各圧力室33に供給される。
固定板23は、例えば、ステンレス鋼等の金属製の板材である。本実施形態における固定板23には、ノズルプレート24に対応する位置に、当該ノズルプレート24に形成されたノズル30を露出させるため、ノズルプレート24の外形に倣った形状の貫通口23aが厚さ方向を貫通する状態で形成されている。上述したように、この貫通口23aは、コンプライアンス基板27の貫通開口46と連通する。本実施形態では、この固定板23における固定板23の下面と貫通口23aにおけるノズルプレート24の露出部分とにより、ノズル形成面が構成されている。
そして、上記構成の記録ヘッド10では、液室空部51からリザーバー43および圧力室33を通ってノズル30に至るまでの流路内がインクで満たされた状態で、駆動IC38からの駆動信号(駆動パルス)に従い圧電素子31が駆動されることにより、圧力室33内のインクに圧力振動が生じ、この圧力振動によって所定のノズル30からインクが噴射される。また、記録ヘッド10の記録動作(液体噴射動作)に伴ってインク流路内(リザーバー43内)の液体に生じた圧力振動に伴って上記コンプライアンスシート44が変位する(撓む)ことで、当該圧力振動が緩和される。
図6は、インク流路(本発明における液体流路に相当)内のインクや空気の流れについて説明する図であり、リザーバー43からノズル30に至るインク流路を簡略化して示した模式図である。また、図7は、噴射用ノズル30a(本発明における第1のノズルに相当)と非噴射ノズル30b(本発明における第2のノズルに相当)との間におけるインクの流れについて説明する模式図である。本実施形態におけるプリンター1では、同一ノズル列を構成するノズル30のうち、両端部に位置するノズル30は、記録媒体等に対する画像等の記録のために行われる記録動作(液体噴射動作)においてインクの噴射が行われない非噴射ノズル30bとなっている。このような非噴射ノズル30bに関し、例えば、複数の記録ヘッド10を組み合わせてより大きなヘッドユニットが構成される場合、隣り合う記録ヘッドのノズル列のつなぎ目に当たる端部のノズルが、ノズル列方向における位置で互いに重複するように設けられており、重複するノズルのうちの一方が非噴射ノズルとされる。また、ノズル列の全長よりも当該ノズル列方向における寸法(幅)が狭い記録媒体等に対して液体噴射動作を行う場合には、記録領域よりも外側に位置するノズルは、非噴射ノズルとされる。
上記の構成のプリンター1では、同一ノズル列を構成するノズル30のうち、多数のノズル30(噴射用ノズル30a)から一度に多くのインクを噴射させた場合、具体的には、同一ノズル列を構成する全ノズル30から最も大きいサイズのインク滴をそれぞれ噴射させた場合の総インク量(最大値)を100%として、例えば70%以上の高DUTYでインク量を噴射させる動作を行った場合、インク供給経路において圧力損失が増大し、リザーバー43へのインクの供給不足が生じることがある。特に、本実施形態における記録ヘッド10のように、リザーバー43に可撓性を有するコンプライアンスシート44が設けられている構成では、上記のような高DUTYでインクが噴射される高DUTY期間の直後にこれよりもDUTYが一定以上低い(例えば、30%未満)低DUTY期間もしくは各ノズル30から全くインクが噴射されない休止期間(DUTY=0%)が設けられるような場合、あるいは、このような低DUTY期間もしくは休止期間の直後に高DUTY期間が設けられるような場合等のように、インクの噴射状況に急激な変化が生じた場合(DUTYが急激に変化した場合)、上記のコンプライアンスシート44が所定の固有周期をもって振動することがある。すなわち、リザーバー43のインクの圧力が周期的に増減する。そして、この振動によりリザーバー43の内の圧力が低下した状態で、比較的高いDUTYでインクの噴射が行われると、リザーバー43より上流側のインク供給経路において圧力損失が増大することにより、上流側からリザーバー43へのインクが追い付かずにインクの供給不足が生じる。このようなインクの供給不足が生じた場合で、インクの噴射を継続した場合、噴射用ノズル30aからのインクの消費に伴って、リザーバー43内のインクが減圧され、図6および図7に示されるように、インクの噴射が行われていない非噴射用ノズル30b側からインクが引き込まれる。この引き込む力が大きいと、当該非噴射ノズル30bから空気が引き込まれてインク流路内に入り込む場合がある。そして、インク流路内に空気が入り込んだ場合、噴射用ノズル30aからインクが正常に噴射されないおそれがある。以下、各ノズル30におけるインクの噴射状況(液体の噴射状況)を表す指標として上記のDUTYを用いる。なお、インクカートリッジ8からリザーバー43に至るまでのインク供給経路の特定の位置における流速の高低によりインクの噴射状況を把握することもできる。
図8および図9は、インクの供給不足が生じる噴射状況の条件について説明する図であり、図8は、各ノズル30についてのインク噴射状況の変化について説明する模式図、図9は、種々のインク噴射状況についてインク供給不足の対策の有無についての試験結果を示す表である。なお、図8においてハッチングで示される部分は、対応するノズル30(噴射用ノズル30a)からインクの噴射が行われる状態を示しており、その他の部分はインクの噴射が行われない状態を示している。図8の例では、ノズル列がノズル番号#1のノズル30からノズル番号#400のノズル30までの合計400個のノズル30から構成されており、このうち、当該ノズル列の端部に位置するノズル番号#1のノズル30とノズル番号#400のノズル30が非噴射ノズル30bとなっており、残りのノズル番号#2〜#399のノズル30が噴射用ノズル30aとなっている。そして、期間Aでは、ノズル番号#2〜#399の噴射用ノズル30aからそれぞれ同時に最大サイズのインク滴が噴射される。この場合、DUTYは99.5%である。期間Aの後に続く期間Bは、DUTYが0%、すなわち、いずれのノズル30からもインクが噴射されない休止期間である。この期間Bの後に続く期間Cは、期間Aと同様に99.5%のDUTYでインクが噴射される期間である。なお、非噴射ノズル30bとは、記録動作(液体噴射動作)において恒常的にインクの噴射に使用されないノズルを意味する。また、噴射用ノズル30aとは、記録動作においてインクの噴射に使用されるノズルを意味する。この噴射ノズル30aに関し、記録する内容(画像等)によっては記録動作において使用されない場合もある。
ここで、図9に示されるように、休止期間または低DUTY期間である期間Bの時間が1.5〔ms〕未満であれば、リザーバー43内のインクにおいて振動は殆ど励起されず、対策は不要であった。同様に、期間Bの時間が3〔ms〕以上では、期間Aと期間Bとの間のDUTYの変化によりリザーバー43内のインクに振動が生じたとしても、当該振動は期間Bにおいて概ね収束するため、対策は不要という結果になった。期間Bの時間が1.5〔ms〕以上、3〔ms〕未満であって、期間Aの時間が1.5〔ms〕未満の場合、期間Aと期間Bとの間のDUTYの変化によってもリザーバー43内のインクに振動が生じにくく、対策が不要という結果となった。また、期間Aの時間が1.5〔ms〕以上であっても、期間Cの期間が1.5〔ms〕未満である場合、期間Aと期間Bとの間のDUTYの変化によってもリザーバー43内のインクに振動が生じにくく、対策が不要という結果となった。以下においては、期間Aおよび期間Cの時間が1.5〔ms〕以上、また、期間Bの時間が1.5〔ms〕以上、3〔ms〕未満であることを前提とする。
期間BにおけるDUTYが30%以上である場合、期間Aと期間Bとの間のDUTYの差、および、期間Bと期間Cとの間のDUTYの差が比較的小さいため、リザーバー43内のインクに振動が生じにくく、対策が不要という結果となった。期間BにおけるDUTYが30%未満であっても、期間Aおよび期間CにおけるDUTYが70%未満(AB間およびBC間におけるDUTYの差が40%未満)である場合、期間AにおけるDUTYが70%未満で期間CにおけるDUTYが70%以上である場合、または、期間AにおけるUTYDが70%以上で期間CにおけるDUTYが70%未満である場合には、リザーバー43内のインクの振動による不具合は生じず、対策が不要という結果となった。
これに対し、期間Aおよび期間CにおけるDUTYが70%以上で期間BにおけるDUTYが0%のような場合、あるいは、期間Bにおいてインクの噴射が行われる場合(30%未満の低DUTYでの噴射)であっても、例えば期間Aおよび期間CにおけるDUTYが99.5%である場合のように、期間Aと期間Bとの間のDUTYの差、および、期間Bと期間Cとの間のDUTYの差がそれぞれ70%以上となる場合、リザーバー43内のインクの振動に起因するインクの供給不足が生じることにより、非噴射ノズル30bから空気がインク流路内に引き込まれるおそれがあり、対策が必要であるという結果になった。
本発明に係るプリンター1では、ノズル列の各ノズル30についてのインクの噴射状況が上記のようなリザーバー43へのインクの供給不足を誘発する特定の条件を満たした場合に非噴射ノズル30bにおけるインク(メニスカス)の振動を制御することにより、当該非噴射ノズル30bからの空気の引き込みを抑制している。以下、この点について説明する。
上記のDUTYの変化は、外部機器等から受信した印刷データに基づきCPU17が把握することができる。本実施形態においては、期間Aと期間Bとの間のDUTYの差、および、期間Bと期間Cとの間のDUTYの差がそれぞれ70%以上であって、期間Aおよび期間Cの時間が1.5〔ms〕以上、また、期間Bの時間が1.5〔ms〕以上、3〔ms〕未満である条件を満たした場合に、後述する対策が行われる。対策を実行する条件については、例えばプリンター1の製品としての出荷前の段階で試験を行うことにより予め取得され、当該条件についての情報が記憶装置18に記憶される。
ここで、インクの噴射動作に用いられる噴射駆動パルスPd、ノズル30におけるインクの増粘を抑制するために当該インク(メニスカス)を振動させる振動動作(微振動動作とも呼ばれる)に用いられる振動駆動パルス、および、上記条件を満たした場合に非噴射ノズル30bに対応する圧電素子31に印加される対策用の振動駆動パルスについて説明する。
図10は、噴射駆動パルスPd(本発明における第1の駆動パルスの一種)の波形図、図11は、第1振動駆動パルスPv1(本発明における振動駆動パルスの一種)の波形図である。また、図12は、対策用の第2振動駆動パルスPv2(本発明における第2の駆動パルスの一種)の波形図である。
図10に示される噴射駆動パルスPdは、膨張要素p1と、膨張ホールド要素p2と、収縮要素p3と、収縮ホールド要素p4と、復帰要素p5とからなる。膨張要素p1は、圧力室33の基準容積(膨張又は収縮の基準となる容積)に対応する基準電位Ebから当該基準電位Ebよりも低い膨張電位EL1まで電位が下降する波形要素であり、膨張ホールド要素p2は、膨張要素p1の終端電位である膨張電位EL1を一定時間維持する波形要素である。収縮要素p3は、膨張電位EL1から基準電位Ebよりも高い収縮電位EH1まで急勾配で電位を上昇させる波形要素である。収縮ホールド要素p4は、収縮電位EH1を一定期間維持する波形要素である。また、復帰要素p5は収縮電位EH1から基準電位Ebまでインクを噴射させない程度に電位を復帰させる波形要素である。
上記の噴射駆動パルスPdが圧電素子31に供給されると、まず、膨張要素p1によって圧電素子31(および振動板36の作動部。以下、同様。)の幅方向中央部が圧力室33の外側(ノズルプレート24から離隔する側)に向けて撓む。これにより圧力室33が基準電位Ebに対応する基準容積から膨張電位EL1に対応する膨張容積まで膨張する。この膨張により圧力室33内のインクが減圧されてノズル30(噴射用ノズル30a)におけるメニスカスが圧力室33側に引き込まれると共に、圧力室33内にはリザーバー43側から個別連通口35を通じてインクが供給される。そして、この圧力室33の膨張状態は、膨張ホールド要素p2の供給期間中に亘って維持される。その後、収縮要素p3が印加されることで圧電素子31の中央部が圧力室33の内側に撓む。これにより、圧力室33は膨張容積から収縮電位EH1に対応する収縮容積まで急激に収縮される。この圧力室33の急激な収縮により圧力室33内のインクが加圧され、ノズル30(噴射用ノズル30a)から規定量のインクが噴射される。圧力室33の収縮状態は、収縮ホールド要素p4の供給期間に亘って維持され、この間に、インクの噴射によって生じたノズル30内のインクの圧力振動は周期的に増減を繰り返す。そして、インク圧力が上昇するタイミングに合わせて復帰要素p5が供給され、これに伴って圧電素子31および作動部の中央部が圧力室33の外側に向けて撓んで基準状態に復帰する。
図11に示される第1振動駆動パルスPv1は、振動膨張要素p11と、振動膨張ホールド要素p12と、振動収縮要素p13とを有している。振動膨張要素p11は、基準電位Ebから当該基準電位Ebよりも低い第1振動膨張電位Ev1まで電位を下降させる波形要素である。振動膨張ホールド要素p12は、振動膨張要素p11の終端電位である第1振動膨張電位Ev1を一定時間維持する波形要素である。また、振動収縮要素p13は、第1振動膨張電位Ev1から基準電位Ebまで、ノズル30からインクが噴射されない程度に緩やかに電位を上昇させる波形要素である。基準電位Ebと第1振動膨張電位Ev1との電位差は、この第1振動駆動パルスPv1の振動電圧V1であり、噴射駆動パルスPdの駆動電圧Vd(収縮電位EH1と膨張電位EL1との電位差)よりも十分に小さく設定されている。
このように構成された第1振動駆動パルスPv1が圧電素子31に供給されると、まず、振動膨張要素p11によって圧電素子31の幅方向中央部が圧力室33の外側に撓む。これにより圧力室33が基準電位Ebに対応する基準容積から第1振動膨張電位Ev1に対応する第1振動膨張容積まで膨張する。この圧力室33の膨張により当該圧力室33内が減圧され、図7においてハッチングの矢印で示されるように、ノズル30におけるメニスカスが圧力室33側に引き込まれる。そして、この圧力室33の膨張状態は、振動膨張ホールド要素p12の供給期間中に亘って維持される。その後、振動収縮要素p13が印加されることで圧電素子31の中央部が圧力室33の内側に撓んで基準状態に復帰する。これにより、圧力室33が基準容積まで戻る。この圧力室33の一連の容積変動に伴って圧力室33内にはノズル30からインクが噴射されない程度の圧力振動が生じ、この圧力振動によってノズル30内のインク(メニスカス)が振動する。このメニスカスの振動によってノズル30付近の増粘インクが拡散され、その結果、インクの増粘を抑制することができる。
通常の記録動作においては、非噴射ノズル30bにおけるインクの増粘抑制のために上記第1振動駆動パルスPv1が用いられて振動動作が行われる。この振動動作は、噴射用ノズル30aについてもインクが噴射されないタイミングで行われる。一般的に、振動動作においてはノズルからインクが誤って噴射されないように、主にメニスカスがインク流路側(圧力室33側あるいはリザーバー43側)に引き込まれる形で振動動作が行われるように振動駆動パルスが設計されている。しかしながら、DUTYの急激な変化によりリザーバー43へのインクの供給不足が生じた場合において、図7に示されるように、噴射用ノズル30aからインクが噴射されることに伴って非噴射用ノズル30b側からインクがリザーバー43側に引き込まれるタイミングに対し、第1振動駆動パルスPv1の振動膨張要素p11により非噴射ノズル30bにおけるメニスカスが引き込まれるタイミングが重なってしまうと、当該非噴射ノズル30bから空気が一層引き込まれやすくなってしまう。
このため、本発明に係るプリンター1では、各ノズル30における噴射状況が上記条件を満たした場合に、第1振動駆動パルスPv1に替えて対策用の第2振動駆動パルスPv2により非噴射ノズル30bにおける振動動作が行われる。なお、第1振動駆動パルスPv1と第2振動駆動パルスPv2との切り替えに関し、駆動信号発生回路19からそれぞれ別の信号経路を通じて記録ヘッド10側に送信され、上記の条件の成立に応じて記録ヘッド10において信号経路を切り替えることで選択的に圧電素子31に印加される構成とすることもできるし、あるいは、上記の条件の成立に応じて駆動信号発生回路19において第1振動駆動パルスPv1の波形が第2振動駆動パルスPv2の波形に変更されて形記録ヘッド10側に送信される構成を採用することもできる。さらに、後述するように、上記の噴射駆動パルスPdの波形要素の一部を第2振動駆動パルスPv2として選択的に圧電素子31に印加する構成を採用することもできる。
図12に示される第2振動駆動パルスPv2は、第1振動駆動パルスPv1と同様に、振動膨張要素p11と、振動膨張ホールド要素p12と、振動収縮要素p13とを有しているが、振動電圧が高められている点、および、圧電素子31に印加されるタイミングが変更されている点(後述)で第1振動駆動パルスPv1と異なっている。すなわち、第2振動駆動パルスPv2における振動膨張要素p11は、圧力室33の基準容積に対応する基準電位Ebから上記第1振動膨張電位Ev1よりも低い第2振動膨張電位Ev2まで電位を下降させる波形要素である。第2振動駆動パルスPv2における振動膨張ホールド要素p12は、振動膨張要素p11の終端電位である第2振動膨張電位Ev2を一定時間維持する波形要素である。また、第2振動駆動パルスPv2における振動収縮要素p13は、第2振動膨張電位Ev2から基準電位Ebまで電位を上昇させる波形要素である。この第2振動駆動パルスPv2の振動電圧V2(基準電位Ebと第2振動膨張電位Ev2との電位差)は、第1振動駆動パルスPv1の振動電圧V1よりも高く設定されている。このため、この第2振動駆動パルスPv2は、ノズル30(非噴射ノズル30b)内のインクに生じさせる振動の振幅がより大きくなる。
図13は、第2振動駆動パルスPv2によって圧電素子31が駆動されることにより非噴射ノズル30b内のインクに生じる圧力振動の波形(上段)と、噴射用ノズル30aに対応する圧電素子31に噴射駆動パルスPdが印加されるタイミング(中段)と、非噴射ノズル30bに対応する圧電素子31に第2振動駆動パルスPv2が印加されるタイミング(下段)と、をそれぞれ対応させて示した図である。なお、同図の上段において横軸が時間であり、縦軸が非噴射ノズル30bにおけるメニスカス(メニスカスの中央部)の変位を示している。この場合の初期位置は、圧電素子31に基準電位Ebが継続して印加されている状態であって、非噴射ノズル30bでメニスカスが静定している状態における当該メニスカス(メニスカスの中央部)の位置である。また、同図の中段及び下段において横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示している。
図13に示されるように、第2振動駆動パルスPv2によって圧電素子31が駆動されることにより非噴射ノズル30bにおけるインクには圧力振動が生じ、この振動周期Tcは、次式(1)で表すことができる。
Tc=2π√{Cc/〔(1/Mn)+(1/Ms)〕}…(1)
式(1)において、Mnはノズル30(非噴射ノズル30b)のイナータンス(単位断面積あたりのインクの質量:〔インク密度ρ×流路長さL〕/流路断面積S)、Msは個別連通口35のイナータンス、Ccは圧力室33のコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)である。
上記の圧力振動により非噴射ノズル30bにおけるメニスカスが圧力室33側に変位しているタイミングで噴射用ノズル30a側において噴射駆動パルスPdの収縮要素p3によりインクの噴射が行われると、非噴射ノズル30bから空気が引き込まれやすくなってしまう。このため、非噴射ノズル30bにおけるメニスカスが噴射側(プラテン3上の記録媒体側)に変位しているタイミングで噴射用ノズル30a側において噴射駆動パルスPdの収縮要素p3によりインクの噴射が行われるように、第2振動駆動パルスPv2の印加タイミング(噴射駆動パルスPdとの相対的な発生タイミング)が調整される。より具体的には、図13に示されるように、第2振動駆動パルスPv2の振動膨張要素p11の終端から噴射駆動パルスPdの収縮要素p3の始端までの時間Δtに関し、以下の式(2)または式(3)の範囲内の値となるように、第2振動駆動パルスPv2の印加タイミングが調整される。
Tc/4≦Δt≦Tc/2 …(2)
5Tc/4≦Δt≦3Tc/2 …(3)
図14は、第2振動駆動パルスPv2により振動動作が行われた場合における噴射用ノズル30aと非噴射ノズル30bとの間におけるインクの流れについて説明する模式図である。上記の時間Δtが式(2)または式(3)の範囲内となるタイミングで第2振動駆動パルスPv2が非噴射ノズル30bに対応する圧電素子31に印加されることにより、当該非噴射ノズル30bにおけるインク(メニスカス)が噴射側に変位しているタイミングで噴射用ノズル30a側においてインクの噴射が行われる。換言すると、非噴射ノズル30bにおいて第2振動駆動パルスPv2により発生されるインクの振動と、噴射用ノズル30aにおいて噴射駆動パルスPdにより発生されるインクの振動とが打ち消し合うように(可及的に逆位相となるように)、噴射用ノズル30a側においてインクの噴射が行われる。このため、図14に示されるように、噴射用ノズル30aからのインクの消費に伴って非噴射用ノズル30b側のインクにリザーバー43側に引き込もうとする力が作用したとしても、非噴射ノズル30bにおけるメニスカスが噴射側に移動しているので(図中、ハッチングの矢印参照)、上記のリザーバー43側に引き込もうとする力に抗する。このため、各ノズル30における噴射状況が上記条件を満たした場合であっても、非噴射ノズル30bからインク流路内に空気が引き込まれることが抑制される。その結果、高DUTYでの噴射動作が断続的に繰り返される等のように、リザーバー43へのインクの供給不足が生じやすいような状況であっても、インク流路内への空気の巻き込みを抑制しつつも、DUTYを下げたりリザーバー43における振動を収束させるための待機時間を別途設けたりする等のようなプリンター1の能力低下を招くような対処を行うことなく噴射動作を行うことが可能となる。加えて、本実施形態における第2振動駆動パルスPv2は、通常の第1振動駆動パルスPv1よりも振動電圧が高められているので、非噴射ノズル30bにおけるインクに生じる圧力振動の振幅をより大きくすることができる。その結果、インク流路内への空気の巻き込みをより確実に抑制することができる。
図15〜図18は、第2振動駆動パルスPv2の変形例について説明する波形図である。なお、各図における破線で示される波形は第1振動駆動パルスPv1を示している。
上記の第2振動駆動パルスPv2は、振動電圧V2が上記第1振動駆動パルスPv1の振動電圧V1よりも高められた駆動パルスであるのに対し、図15に示される第2振動駆動パルスPv2aは、振動電圧についてはV1のままで、振動膨張要素p11と振動収縮要素p13との電位変化率(時間変化に対する電位変化の割合)が第1振動駆動パルスPv1の場合よりも急峻になっている点で異なっている。このように第2振動駆動パルスPv2aの波形要素のうち電位が変化する振動膨張要素p11と振動収縮要素p13との電位変化率をより急峻にすることにより、非噴射ノズル30bにおけるインクに生じる圧力振動の振幅をより大きくすることができる。したがって、第2振動駆動パルスPv2に替えて第2振動駆動パルスPv2aを採用することによっても、非噴射ノズル30bからインク流路内に空気が引き込まれることが抑制される。なお、第2振動駆動パルスPv2aの印加タイミングについては、上記第2振動駆動パルスPv2の場合と同様である。
振動膨張要素p11と振動収縮要素p13との電位変化率に関し、それぞれ異なるように設定することができる。例えば、図16に示される第2振動駆動パルスPv2bでは、振動膨張要素p11の電位変化率については第1振動駆動パルスPv1の動膨張要素p11の電位変化率よりも小さく設定される一方で、振動収縮要素p13の電位変化率については第1振動駆動パルスPv1の振動収縮要素p13の電位変化率よりも大きく設定されている。このため、この第2振動駆動パルスPv2bは、圧力室33を膨張させて減圧する力よりも圧力室33を収縮させてインクを加圧する力の方が大きくなっている。つまり、この第2振動駆動パルスPv2bは、圧電素子31の駆動により非噴射ノズル30bにおけるインクを時間平均で加圧する駆動パルスである。このため、第2振動駆動パルスPv2bによれば、非噴射ノズル30bにおいてインクを噴射側に押し出す力が大きいため、非噴射ノズル30bからインク流路内に空気が引き込まれることがより効果的に抑制される。なお、第2振動駆動パルスPv2bの印加タイミングについては、上記第2振動駆動パルスPv2と同様である。
図17に示される第2振動駆動パルスPv2cは、振動電圧V2が上記第1振動駆動パルスPv1の振動電圧V1よりも高められ、さらに振動膨張要素p11と振動収縮要素p13との電位変化率が第1振動駆動パルスPv1の場合よりも急峻になっている。これにより、非噴射ノズル30bにおけるインクに生じる圧力振動の振幅をさらに大きくすることができる。したがって、第2振動駆動パルスPv2に替えてこの第2振動駆動パルスPv2cを採用することにより、非噴射ノズル30bからインク流路内に空気が引き込まれることがさらに確実に抑制される。なお、第2振動駆動パルスPv2cの圧電素子31への印加タイミングについては、上記第2振動駆動パルスPv2と同様である。
図18に示される第2振動駆動パルスPv2dは、上記の各第2振動駆動パルスPv2、Pv2a,Pv2b,Pv2cとは、基準電位Ebからの電位の変化方向が異なっている。具体的には、第2振動駆動パルスPv2dは、振動収縮要素p21と、振動収縮ホールド要素p22と、振動膨張要素p23とを有している。振動収縮要素p21は、基準電位Ebから当該基準電位Ebよりも高い振動収縮電位Ev3まで電位を上昇させる波形要素である。振動収縮ホールド要素p22は、振動収縮要素p21の終端電位である振動収縮電位Ev3を一定時間維持する波形要素である。また、振動膨張要素p23は、振動収縮電位Ev3から基準電位Ebまで電位を下降させる波形要素である。第2振動駆動パルスPv2の振動電圧V3(振動収縮電位Ev3と基準電位Ebとの電位差)は、V1以上の値に設定されている。すなわち、この第2振動駆動パルスPv2dは、圧力室33を基準状態から収縮させて非噴射ノズル30bにおけるインクを噴射側に押し出した後、圧力室33を膨張させて基準状態に戻してインクを基準位置側に復帰させるように圧電素子31を駆動させる波形となっている。上記第2振動駆動パルスPv2に替えて第2振動駆動パルスPv2dが採用される場合も、非噴射ノズル30bにおいて第2振動駆動パルスPv2dにより発生されるインクの振動と、噴射用ノズル30aにおいて噴射駆動パルスPdにより発生されるインクの振動とが逆位相となるように、非噴射ノズル30bに対応する圧電素子31への第2振動駆動パルスPv2dの印加タイミングが調整される。この構成によっても、非噴射ノズル30bにおいてインクを噴射側に押し出す力が作用するため、非噴射ノズル30bからインク流路内に空気が引き込まれることがより効果的に抑制される。非噴射ノズル30bからインク流路内に空気が引き込まれることが抑制される。
上記の各第2振動駆動パルスPv2、Pv2a,Pv2b,Pv2c,Pv2dに関し、噴射駆動パルスPdとは別に設けられた構成を例示したが、これには限られず、噴射駆動パルスPdの波形要素の一部を第2振動駆動パルスPv2として選択的に圧電素子31に印加する構成を採用することもできる。すなわち、図10に示される噴射駆動パルスPdにおいて、収縮要素p3が基準電位Ebを境としてこれよりもマイナス側(膨張電位EL1側)の第1収縮要素p3aと、プラス側(収縮電位EH1側)の第2収縮要素p3bとに区分されている。そして、このうち、対策用の第2振動駆動パルスPv2として、第2収縮要素p3b、収縮ホールド要素p4、および復帰要素p5が選択されて非噴射ノズル30bに対応する圧電素子31に印加される構成を採用することもできる。この構成においても、第2振動駆動パルスPv2により非噴射ノズル30bにおけるメニスカスが噴射側に変位しているタイミングで噴射用ノズル30a側においてインクの噴射が行われる。換言すると、非噴射ノズル30bにおいて第2振動駆動パルスPv2により発生されるインクの振動と、噴射用ノズル30aにおいて噴射駆動パルスPdにより発生されるインクの振動とが打ち消し合うように(可及的に逆位相となるように)、噴射用ノズル30a側においてインクの噴射が行われるので、非噴射ノズル30bからインク流路内に空気が引き込まれることが抑制される。また、この構成によれば、第2振動駆動パルスを別途設ける必要がないため、駆動信号発生回路19の構成や信号経路をより簡素化することが可能となる。
これらの第2振動駆動パルスの振動電圧に関し、通常(上記の条件を満たしていない状態)ではインクが噴射される程度の電圧に設定することができる。これにより、非噴射ノズル30bにおいて第2振動駆動パルスにより発生されるインクの振動の振幅がより大きいものとなり、インク流路内に空気が引き込まれることがより効果的に抑制される。
なお、上記各実施形態においては駆動素子として、所謂撓み振動型の圧電素子31を例示したが、これには限られず、例えば、所謂縦振動型の圧電素子を採用することも可能である。この場合、例示した各駆動パルスに関し、電位の変化方向、つまり上下(極性)が反転した波形となる。その他、アクチュエーターとしては、圧電素子に限られず、静電アクチュエーター等の他の駆動素子を採用することも可能である。
そして、以上では、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド10(記録ヘッド10)を例に挙げて説明したが、本発明は、他の液体噴射ヘッドおよびこれを備える液体噴射装置にも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を複数備える液体噴射ヘッド、および、これを備える液体噴射装置にも本発明を適用することができる。