図1及び図2に示す運搬車(所謂、ユーティリティビークル)100について説明する。運搬車100は、前端から後端まで前後方向に延設される車両フレーム(シャシ)101を備えている。車両フレーム101の後部にて、各サスペンション119を介して、左右の後輪110が懸架されており、一方、車両フレーム101の前部にて、各サスペンション128を介して、左右の前輪120が懸架されている。
車両フレーム101の後部にて、荷台搭載フレーム102が構成されており、この荷台搭載フレーム102内にて、該車両フレーム101に、前後方向のクランク軸を有するエンジンEが支持されている。
荷台載置フレーム102には上方回動可能に荷台107が搭載されている。通常は荷卸し等のために図1で仮想線にて示すように上方に回動するが、メンテナンス等のためにエンジンEにアクセスしたいときにも、このように荷台107を上方回動することで、その下方に配されるエンジンEが開放され、アクセス可能となる。
荷台搭載フレーム102の前部には座席台103が構成されており、座席台103に後述のように座席108が搭載されている。座席台103の直前にて、車体フレーム101にはプラットフォーム104が敷設されており、運搬車100への乗降時及び座席108に着座中の人の足の踏板とされている。
プラットフォーム104の前方における車体フレーム101の前部にはボンネット105が設けられ、ボンネット105の後端部にフロントコラム106が構成されていて、該フロントコラム106の上部にステアリングハンドル109が設けられている。
座席台103にて覆われる空間内にて、デュアルクラッチ式変速装置1が配置され、車両フレーム101にて支持されている。前記エンジンEからは前方に水平のエンジン出力軸Eaが突設されており、該エンジン出力軸Eaの前端にはフライホイルEbが設けられている。
エンジンEの前方に配置されたデュアルクラッチ式変速装置1は、筐体としてミッションケース2を有している。該ミッションケース2の後部内には、後方開放状のフライホイル室2aが形成されており、このフライホイル室2a内にエンジンEのフライホイルEbが配置される。
デュアルクラッチ式変速装置1は、後述の如き変速用及び進行方向切換用のギア機構及びクラッチ機構をミッションケース2内に収容してなるものであり、これらギア機構及びクラッチ機構への動力入力用の入力軸7の後端をフライホイル室2a内へと延出して、該フライホイルEbに接続している。
座席台103の水平上面を構成する座席載置板103aに、座席108が搭載されている。本実施例では、運転席及び助手席として左右一対の座席108を設けている。前述の如く座席台103内の空間に配置されたデュアルクラッチ式変速装置は、座席載置板103a上に載置された座席108の下方に配置されることとなる。
座席載置板103aは、図1で仮想線にて示すように、座席108ごと前方に回動可能となっている。すなわち、座席108が、座席載置板103aを介して座席台103に回動自在に搭載されており、座席載置板103aとともに座席108を前方回動することにより、座席台103にて囲まれた空間が上方開放され、デュアルクラッチ式変速装置1へのアクセスが可能となる。
なお、メインハウジング4の後部に、前記フライホイル室2aを内部に形成したフライホイルハウジング3を接続し、メインハウジング4の前部に、蓋体5を取り付け、こうして前後に接合したフライホイルハウジング3、メインハウジング4、及び蓋体5にて、前記のデュアルクラッチ式変速装置1のミッションケース2を構成するものとしている。
蓋体5は、ミッションケース2の前端部にて、メインハウジング4に対し着脱自在の状態で取り付けられているので、前述の如く座席載置板103a及び座席108を前方回動してデュアルクラッチ式変速装置1にアクセスする際には、この蓋体5をメインハウジング4より取り外して、ミッションケース2の前部内に形成される後記クラッチ室2cを前方開放することができ、クラッチ室2c内の後記第一・第二クラッチ21・31等に容易にアクセスすることができる。
車体フレーム101の後部には、後輪110駆動用の後車軸駆動装置112が支持されている。後車軸駆動装置112は、後車軸駆動ケース113を有し、後車軸駆動ケース113内に、通例のベベルギア式の差動ギア機構116を収容している。
差動ギア機構116は、左右一対の差動出力軸117の内端部同士を差動回転自在に接続しており、各差動出力軸117の外端部は、後車軸駆動ケース113より左右各外方に突出し、それぞれ、自在継手付きの伝動軸118を介して各後輪110の車軸110aに連結されている。
後車軸駆動装置112は、前後水平方向の入力軸114を有している。入力軸114は、後車軸駆動ケース113にて軸支され、その前端部を後車軸駆動ケース113より突出している。一方、デュアルクラッチ式変速装置1は、ミッションケース2(メインハウジング4)にて、前後水平方向の出力軸12を軸支しており、該出力軸12の後端部をミッションケース2の後方外部へと突出し、後車軸駆動装置112の入力軸114へと連結するものとしている。
入力軸114は、出力軸12に対し同一軸芯上に配置されている。出力軸12の後端と入力軸114の前端との間には、これらと同一軸芯上に、前後水平方向の伝動軸111を介設しており、スプライン筒等よりなるカップリング111a・111bを介して、伝動軸111の前端を出力軸12の後端に、伝動軸111の後端を入力軸114の前端に連結し、これら同一軸芯上の出力軸12、伝動軸111、及び入力軸114を、一体回転自在(相対回転不能)に連結している。このような同一軸芯上での出力軸12から入力軸114までの連結構造により、出力軸12から後輪110への高度の伝動効率を確保し後輪110の駆動効率を高めるものとしている。
なお、ミッションケース2(メインハウジング4)における出力軸12の軸支位置は、運搬車100の左右方向において、左右中央よりはややいずれか(本実施例では右方)に偏っている。一方、後車軸駆動装置112における差動ギア機構116は、左右各後輪110までの左右方向の距離を等しくするよう、運搬車100の左右略中央に配置されている。
したがって、デュアルクラッチ式変速装置1の出力軸12に対し同一軸芯上に配置される入力軸114は、左右方向において差動ギア機構116よりオフセット配置される。この左右方向の位置のずれを埋めるよう、後車軸駆動ケース113の前部(差動ギア機構115の前方)内にて、左右水平方向のカウンタ軸115を軸支している。
後車軸駆動ケース113内にて、カウンタ軸115の一端(本実施例では右端)にはベベルギア115aが固設(または形成)されており、これを入力軸114の後端に固設(または形成)されたベベルギア114aと噛合している。一方、カウンタ軸115の他端(本実施例では左端)には平ギア115bが固設(または形成)されており、これを、差動ギア機構116の入力ギア116aとしての平ギアと噛合している。
車体フレーム101の前部には、前輪120駆動用の後車軸駆動装置122が支持されている。前車軸駆動装置122は、前車軸駆動ケース123を有し、前車軸駆動ケース123内に、通例のベベルギア式の差動ギア機構125を収容している。
差動ギア機構125は、左右一対の差動出力軸126の内端部同士を差動回転自在に接続しており、各差動出力軸126の外端部は、後車軸駆動ケース123より左右各外方に突出し、それぞれ、自在継手付きの伝動軸127を介して各前輪120の車軸120aに連結されている。
なお、左右前輪120は操舵輪であり、両前輪120同士がタイロッド129にて連結され、ステアリングハンドル109の回動操作に応じてタイロッド129が左右に移動することで、両前輪120が同時に左右に回動し、運搬車100が旋回するものとしている。
前車軸駆動装置122は、前後水平方向の入力軸124を有している。入力軸124は、後車軸駆動ケース123の後部にて軸支され、前車軸駆動ケース123内にて、該入力軸124の前端に固設(または形成)されたベベルギア124aを、差動ギア機構125の入力ギア125aとしてのベベルギアに噛合している。
入力軸124の後端部は、前車軸駆動ケース123より後方に突出されており、一方、デュアルクラッチ式変速装置1において、前記出力軸12の前端部がミッションケース2(メインハウジング4)の前方外部へと突出されている。出力軸12の前端と入力軸124の前端との間には、伝動軸121を介設しており、自在継手121a・121bを介して、伝動軸121の後端を出力軸12の前端に、伝動軸121の前端を入力軸124の後端に連結している。
前車軸駆動装置122の入力軸124及び差動ギア機構125が運搬車100の左右略中央に配置されている一方で、デュアルクラッチ式変速装置1の出力軸12は前述の如く運搬車100の左右一側(本実施例で右側)にややずれているため、出力軸12と入力軸124との間に介設される伝動軸121は左右に傾斜しており、自在継手121a・121bにて、傾斜した伝動軸121を介しての出力軸12から入力軸124への動力伝達を確保している。
次に、デュアルクラッチ式変速装置1の構成する入力軸7から出力軸12までの動力伝達系統について、図3のスケルトン図及び図9の構造図により説明する。
デュアルクラッチ式変速装置1は、エンジンEの出力軸Eaに対し同一軸芯上に配される前後水平方向の入力軸7及びこれと平行な前後水平方向の出力軸12の他、これらと平行な前後水平方向の第一クラッチ軸8、第二クラッチ軸9、変速従動軸10、及びカウンタ軸11を有している。
入力軸7は前述の如くフライホイルEbを介してエンジン出力軸Eaに連結されている。入力軸7には平ギアである入力ギア7aが固設(または形成)されており、入力ギア7aに、第一クラッチ軸8に遊嵌された平ギアである第一クラッチギア20と、第二クラッチ軸9に遊嵌された平ギアである第二クラッチギア30とが噛合している。このように、第一クラッチギア20及び第二クラッチギア30がともに入力ギア7aに噛合しているが、第一クラッチギア20及び第二クラッチギア30同士は噛合していない。
なお、デュアルクラッチ式変速装置1の動力源であるエンジンEについては、車両に搭載するタイプ(ガソリンエンジンかディーゼルエンジンか)や仕様(排気量等)等の違うものがいくつか用意されている場合には、入力軸7に接続されるエンジン出力軸Eaの回転数の異なりに対応すべく、デュアルクラッチ式変速装置1の、入力ギア7aと、第一・第二クラッチギア20・30をサイズ変更することにより、ギア比調整することとしている。
第一クラッチ軸8には第一クラッチ21が設けられ、第一クラッチ21を係合することで、第一クラッチギア20の受けた入力軸7からの動力を第一クラッチ軸8に伝達するものとしている。一方、第二クラッチ軸9には第二クラッチ31が設けられ、第二クラッチ31を係合することで、第二クラッチギア30の受けた入力軸7からの動力を第二クラッチ軸9に伝達するものとしている。
なお、後述の如く、第一、第二クラッチ21、31としては、電磁比例弁にてクラッチ係合圧が、クラッチ入り時はゼロから所定圧まで、あるいは、クラッチ切り時は所定圧からゼロまで、比例的に制御される油圧クラッチユニット60が用いられ、後述の噛合クラッチとは異なり、緩やかなクラッチ係合状態(所謂、半クラッチ)を現出できる。
第一クラッチ軸8には、第一速(最低速)駆動ギア22、第三速駆動ギア24、第五速(最高速)駆動ギア26が設けられ、それぞれ、変速従動軸10に設けた第一速(最低速)従動ギア23、第三速従動ギア25、第五速従動ギア27と直接噛合させている。
こうして、第一速駆動ギア22及び第一速従動ギア23よりなる第一速(最低速)ギア列G1a、第三速駆動ギア24及び第三速従動ギア25よりなる第三速ギア列G1b、第五速駆動ギア26及び第五速従動ギア27よりなる第五速(最高速)ギア列G1cを合わせて、第一クラッチ軸8から変速従動軸10へと動力伝達するための奇数速ギア列群G1としている。
第一クラッチ21が係合している限りにおいて、奇数速ギア列群G1における第一速・第三速・第五速ギア列G1a・G1b・G1cのうちから択一されたギア列を介して、第一クラッチ軸8から変速従動軸10への動力伝達がなされる。この奇数速ギア列群G1から動力伝達対象とするギア列を択一するための部材として、シフタ28及び29が備えられている。
ここで、第一速ギア列G1a及び第三ギア列G1bでは、第一速駆動ギア22及び第三速駆動ギア24が第一クラッチ軸8に相対回転不能に設けられて(本実施例では、図8に示すように、第一速駆動ギア22が第一クラッチ軸8に形成され、第三速駆動ギア24が第一クラッチ軸8に固設されて)おり、第一速従動ギア23及び第三速従動ギア25が変速従動軸10に遊嵌されている(変速従動軸10に対し相対回転自在である)。
これら第一速・第三速ギア列G1a・G1bに対応して、第一速従動ギア23と第三速従動ギア25との間にて、変速従動軸10に、シフタ28が、相対回転不能かつ軸芯方向(前後方向)に摺動可能に設けられている。第一速従動ギア23及び第三速従動ギア25にはそれぞれクラッチ歯が形成され、シフタ28の各端面に、各ギア23・25とそれぞれ係合可能なクラッチ歯が形成されている。すなわち、シフタ28と第一速従動ギア23とで噛合クラッチを構成しており、その軸芯方向反対側にて、シフタ28と第三速ギア列25とで噛合クラッチを構成している。
シフタ28は、その変速従動軸10に沿っての摺動により、第一速従動ギア23のみとクラッチ係合する第一速位置、第三速従動ギア25のみとクラッチ係合する第三速位置、第一速従動ギア23とも第三速従動ギア25とも係合しない中立位置の3位置に切り換えられる。
第五速ギア列G1cにおいては、第五速駆動ギア26が第一クラッチ軸8に遊嵌されており(第一クラッチ軸8に対し相対回転自在であり)、第五速従動ギア27が変速従動軸10に対し相対回転不能である(変速従動軸10に固設されている)。このような第五速ギア列G1cに対応して、第一クラッチ軸8に、シフタ29が、相対回転不能かつ軸芯方向(前後方向)に摺動可能に設けられている。第五速従動ギア26及びシフタ29には互いに係合可能にクラッチ歯が形成され、シフタ29と第五速従動ギア26とで噛合クラッチを構成している。
シフタ29は、その第一クラッチ軸8に沿っての摺動により、第五速従動ギア26とクラッチ係合する第五速位置と、第五速従動ギア26に係合しない中立位置の2位置に切り換えられる。
第二クラッチ軸9には、第二速駆動ギア32及び第四速駆動ギア34が設けられ、各々、変速従動軸10に設けた第二速従動ギア33及び第四速従動ギア35のそれぞれと直接噛合している。
こうして、第二速駆動ギア32及び第二速従動ギア33よりなる第二速ギア列G2aと、第四速駆動ギア34及び第四速従動ギア35よりなる第四速ギア列G2bとを合わせて、第二クラッチ軸9から変速従動軸10へと動力伝達するための偶数速ギア列群G2としている。
第二クラッチ31が係合している限りにおいて、偶数速ギア列群G2における第二速ギア列G2a及び第四速ギア列G2bのうちから択一されたギア列を介して、第二クラッチ軸9から変速従動軸10への動力伝達がなされる。この偶数速ギア列群G2から動力伝達対象とするギア列を択一するための部材として、シフタ36が備えられている。
ここで、第二速ギア列G2a及び第四ギア列G2bでは、第二速駆動ギア32及び第四速駆動ギア34が第二クラッチ軸9に対し相対回転不能に設けられており(いずれも第二クラッチ軸9に固設されており)、第二速従動ギア33及び第四速従動ギア35が変速従動軸10に遊嵌されている(変速従動軸10に対し相対回転自在である)。
これら第二速・第四速ギア列G2a・G2bに対応して、第二速従動ギア33と第四速従動ギア35との間にて、変速従動軸10に、シフタ36が、相対回転不能かつ軸芯方向(前後方向)に摺動可能に設けられている。第二速従動ギア33及び第四速従動ギア35にはそれぞれクラッチ歯が形成され、シフタ36の各端面に、各ギア33・35とそれぞれ係合可能なクラッチ歯が形成されている。すなわち、シフタ36と第二速従動ギア33とで噛合クラッチを構成しており、その軸芯方向反対側にて、シフタ36と第四速ギア列35とで噛合クラッチを構成している。
シフタ36は、その変速従動軸10に沿っての摺動により、第二速従動ギア33のみとクラッチ係合する第二速位置、第四速従動ギア35のみとクラッチ係合する第四速位置、第二速従動ギア33とも第四速従動ギア35とも係合しない中立位置の3位置に切り換えられる。
変速従動軸10に固設(または形成)された前進駆動ギア41と、カウンタ軸11に固設(または形成)された前進従動ギア42とを噛合して、該ギア41・42よりなる前進ギア列G3を構成している。
一方、第二クラッチ軸9に固設(または形成)された後進駆動ギア43と、カウンタ軸11に遊嵌された(カウンタ軸11に対し相対回転自在である)後進従動ギア44とを噛合し、該ギア43・44よりなる後進ギア列G4を構成している。
なお、好ましくは、前進ギア列G3における前進従動ギア42を前進駆動ギア41より大径にして、前進ギア列G3を減速ギア列とし、また、後進ギア列G4における後進従動ギア44を後進駆動ギア43より大径にして、後進ギア列G4を減速ギア列としているが、後進ギア列及び前進ギア列それぞれのギア比は、適宜設定すればよく、これらを、等速ギア列や増速ギア列として構成してもよい。
カウンタ軸11にはシフタ45が相対回転不能かつ軸芯(前後)方向摺動自在に嵌装されている。シフタ45及び後進従動ギア44には、互いに噛合可能なクラッチ歯が形成されており、シフタ45と後進従動ギア44とで噛合クラッチを構成している。シフタ45は、そのカウンタ軸10に沿っての摺動により、後進従動ギア44とクラッチ係合する後進位置と、後進従動ギア44より離間する中立位置(または前進位置)の2位置に切り換えられる。
カウンタ軸11に小径ギア46が固設(または形成)され、出力軸11には大径ギア47が固設(または形成)され、小径ギ46と大径ギア47とを噛合し、これらギア46・47よりなる最終減速ギア列G5を構成している。なお、設計によっては、カウンタ軸11と出力軸12との間に介設されるギア列についても、等速ギア列や増速ギア列としてもよい。
ここで、第一クラッチギア20及び第二クラッチギア30がそれぞれ、入力軸7の入力ギア7aと噛合しているので、第一クラッチ21を係合して入力軸7の回転動力を受けて駆動される第一クラッチ軸8の回転方向と、第二クラッチ31を係合して入力軸7の回転動力を受けて駆動される第二クラッチ軸9の回転方向とは同じである。よって、動力を受ける速度ギア列が奇数速ギア列群G1のものであるか偶数速ギア列群G2のものであるかにかかわらず、変速従動軸10の回転方向は一定であって、その回転方向は、第一クラッチ軸8及び第二クラッチ軸9のものに対し反対方向である。一方、後進ギア列G4のギア43・44を介して第二クラッチ軸9より動力を受けて駆動する際のカウンタ軸11の回転方向は、第二クラッチ軸9の回転方向とは反対である。
車両停止時は運搬車100の座席108近傍(例えば前記フロントコラム106)に備えられた図外の変速操作具は中立位置にあり、どちらのクラッチ21・31も切断しているが、シフタ28は第一速位置に、シフタ45は後進位置にある。
該操作具を前進一速位置に置けば、コントローラは電磁比例弁71を制御し、第一クラッチ21における係合圧をゼロから所定圧まで漸増させ、該第一クラッチ21を、半クラッチ状態を経由して完全係合に至らせる。該操作具を後進位置に置けば、コントローラは電磁比例弁72を制御し、第二クラッチ31における係合圧をゼロから所定圧まで漸増させ、第二クラッチ31を、半クラッチ状態を経路して完全係合に至らせる。
そして、該操作具を前進二速に操作する場合、前進一速位置に置いた時点で、予め、シフタ45が中立位置に、シフタ36が前進第二速位置に、それぞれ配されているので、第一クラッチ21の係合圧の低減開始と略同時に、離間状態であった第二クラッチ31への係合圧の付加を開始し、第一クラッチ21の係合状態から半クラッチ状態への移行と並行して第二クラッチ31を離間状態から半クラッチ状態へと移行させる。
こうして、第二クラッチ軸9から第二速ギア列G2aを介しての変速従動軸10への伝達動力を増大させることで、シフタ28は第一速位置、シフタ36は第二速位置に保持されたまま、前進速度を第一速から第二速へと円滑に移行させることができる。やがて、第二クラッチ21の係合が完了し、第一クラッチ31の離間が完了して、変速従動軸10の駆動が完全に第二クラッチ軸9から第二速ギア列G2aを介しての動力によるものとなる。
次に第二速から第三速へとシフトアップする場合には、シフタ28を第三速位置へとシフトして、シフタ29・45が中立位置、シフタ36が第二速位置にある状態から、第二クラッチ31を離間する一方、第一クラッチ21を係合すればよい。
また、ミッションケース2内にて、固定容積型の一対のギアポンプ50a・50bを内装してなる油圧ポンプセット50が収容されており、この油圧ポンプセット50のギアポンプ50a・50bの駆動軸としてのポンプ駆動軸14が、入力軸7の近傍にて、入力軸7と平行に、前後水平方向に軸支されている。
入力軸7に固設(または形成)された平ギア7bと、ポンプ駆動軸14に固設(または形成)された平ギア14aとが噛合しており、入力軸7からポンプ駆動軸14へと動力が伝達される構成としている。すなわち、入力軸7の回転動力は、出力軸12を駆動するための走行駆動用動力として、第一クラッチ軸8・第二クラッチ軸9へと分配され、それと並行して、油圧ポンプセット50のギアポンプ50a・50bを駆動するためのポンプ駆動用動力として、ポンプ駆動軸14へと分配される。
次に、ミッションケース2の構成と、以上に述べたクラッチ機構やギア機構を構成する構成要素のミッションケース2内外におけるレイアウトについて、図5乃至図8等より説明する。
なお、これらのレイアウトについて説明する上で、デュアルクラッチ式変速装置1の位置や方向については、運搬車100において前述の如くエンジン103の前方にデュアルクラッチ式変速装置1が配置されており、入力軸7や出力軸12を前後水平方向に延設している状態を前提としている。すなわち、左右位置については、運搬車100の前進方向に向いた状態を前提として説明するので、図5乃至図8に示す正面視上の左右位置とは反対になることに留意されたい。
ミッションケース2は、前述の如く、メインハウジング4の後部にフライホイルハウジング3を接合し、メインハウジング4の前部に蓋体5を接合して構成される。メインハウジング4の開口後端の全周にわたって、ボルトボスを有するフランジ縁4aが形成されており、これをフライホイルハウジング3の開口前端の全周にわたって形成されたフランジ縁3aと当接し、ボルト15にてフランジ縁3a・4a同士を締結することで、フライホイルハウジング3とメインハウジング4とを分離可能に接合している。
一方、図4に示すように、メインハウジング4の前端部の一部に開口を設け、その開口を囲むように前端縁4bを形成している。この前端縁4bに、蓋体5の開口後端の全周にわたって形成されるボルトボスを有するフランジ縁5aを当接し、ボルト6をフランジ縁5aに形成される各ボルトボスに螺入することで、メインハウジング4と蓋体5とを分離可能に締結している。
フライホイルハウジング3内には、略鉛直の軸受壁3bが形成されていて、この軸受壁3bにて、入力軸7の後部、及び、第一クラッチ軸8、第二クラッチ軸9、変速従動軸10、カウンタ軸11、ポンプ駆動軸14の各後端を、各軸受を介して軸支している。フライホイルハウジング3内にて、この軸受壁3bの後方に、前述の如くフライホイル室2aが形成されている。
フライホイルハウジング3の後端にて、フライホイル室2aが後方開放されており、このフライホイルハウジング3の後端をエンジンEに接続することにより、フライホイル室2a内に、エンジン出力軸Eaの前端のフライホイルEbを配置している。これに対応して、入力軸7の後端部が、軸受壁3bより後方に延出され、フライホイル室2a内にて、フライホイルEbを介して、エンジン出力軸Eaに略同一軸芯上にて接続されている。
メインハウジング4の、前記前端縁4bの直後方にて、鉛直の軸受壁4cが形成されており、この軸受壁4cにて、入力軸7、第一クラッチ軸8、及び第二クラッチ軸9の各前部、並びに、変速従動軸10及びカウンタ軸11の各前端を、各軸受を介して軸支している。
メインハウジング4内の、軸受壁4cより後方、すなわち、エンジンE寄り側には、ギア室2bとしての空洞が形成されており、前述のフライホイルハウジング3の軸受壁3bがギア室2bの後端を画している。このギア室2b内に、前記の奇数速ギア列群G1、偶数速ギア列群G2、前進ギア列G3、後進ギア列G4、最終減速ギア列G5、さらに、これらの動力伝達制御に用いられるシフタ28・29・36・45等が収容されている。
なお、以上の奇数速ギア列群G1、偶数速ギア列群G2等は、ギア室2bの、前後の軸受壁3bと軸受壁4cとに挟まれる部分に配置されている。フライホイルハウジング3の前端のフランジ縁3a及びこれに接合されるメインハウジング4は、これら軸受壁3a・4cを形成している部分よりもさらに左右一側(本実施例では右側)に拡張され、ギア室2bに、軸受壁3b・4cで挟まれてなる部分よりもさらに左右一側(本実施例では右側)に拡張した拡張部2b1(図8参照)を形成している。
このギア室2bの拡張部2b1内に、出力軸12が配置されている。該拡張部2b1の前端を画するメインハウジング4の壁部にて、出力軸12の前部が、軸受を介して軸支されており、ここより、伝動軸121に連結される出力軸12の前端部が前方に突出している。一方、該拡張部2b1の後端を画するフライホイルハウジング3の壁部にて、出力軸12の後部が、軸受を介して軸支されており、ここより、伝動軸111に連結される出力軸12の後端部が後方に突出している。
さらに、図8及び図9でわかるように、この拡張部2b1内にて、出力軸12のさらに左右外側(本実施例で右側)の部分に、パーキングブレーキ軸13が配置されており、その前端がメインハウジング4の壁部にて軸支されている一方、後端部がフライホイルハウジング3より後方に突出し、この後端部にアーム13aが固設されている。
該ギア室2bの拡張部2b1内において、パーキング爪部材48の下端部がパーキングブレーキ軸13に固設されており、パーキング爪部材48は、その下端部よりアーム状に上方に延出され、その上部に、大径ギア47のギア歯と噛合するためのラッチ爪48aが形成されている。また、パーキングブレーキ軸13に固設された下端部と、上部に形成されたラッチ爪48aとの間の、パーキング爪部材48の上下中間部に、長孔が形成されており、この長孔内に、偏心カム48bが嵌入されている。
前記アーム13aは、図外のリンク機構にて、運搬車の座席108の近傍に設けられているレバーやペダル等の図外のパーキングブレーキ操作具に連係されている。この操作具の操作により偏心カム48bを回動操作することで、パーキングブレーキ軸13が回動され、パーキング爪部材48に鋸歯状に形成されたラッチ爪48aを、出力軸12に固設した大径ギア47のギア歯と係合させるパーキング位置と、ラッチ爪48aを大径ギア47より離間させるパーキング解除位置とに切り換えられる。
図9にてわかるように、前端縁4bのすぐ後方の位置にて、メインハウジング4内には鉛直の軸受壁4cが形成されており、この軸受壁4cに、変速従動軸10の前端が、軸受を介して軸支されている。
また、この軸受壁4cは、後方のギア室2bと前方のクラッチ室2cとを区画する隔壁となっており、この軸受壁4cに、入力軸7、第一クラッチ軸8、第二クラッチ軸9が、各軸受を介して挿通及び軸支され、入力軸7の前端部、第一クラッチ軸8及び第二クラッチ軸9の各前部を、クラッチ室2c内に配している。軸受壁4cがクラッチ室2cの後端を画しており、一方、前述の如くボルト6を介してフランジ縁5aをメインハウジング4の前端縁4bに締止することでメインハウジング4の前部に取り付けられた蓋体5の内側面(後面)がクラッチ室2cの前端を画している。
入力軸7の前端部は、クラッチ室2c後端の軸受壁4cの直前に配され、ここに入力ギア7aが固設されており、これに噛合する第一クラッチ軸8上の第一クラッチギア20、及び、第二クラッチ軸9上の第二クラッチギア30も、軸受壁4cの直前に沿設されている。
ここで、図8では、正面視における入力軸7、第一クラッチ軸8、第二クラッチ軸9、変速従動軸10、カウンタ軸11、出力軸12、及びポンプ駆動軸14それぞれの軸芯を、符号7X、8X、9X、10X、11X、12X、14Xにて示している。
図8には、ポンプ駆動軸の軸芯14X、入力軸の軸芯7X、第一クラッチ軸の軸芯8X、変速従動軸の軸芯10X、第二クラッチ軸の軸芯9X、カウンタ軸の軸芯11X、出力軸の軸芯12Xを順につないでなる仮想線XLを示しているが、この仮想線XLがジグザグの折れ線になっていることがわかる。
このように、正面視で軸芯がジグザグ状に配置されるようにこれらの軸を配することで、これらの軸の配置スペースが左右方向及び上下方向において広がらないようにしており、このように全体でコンパクトな軸の集約配置により、ミッションケース2全体について、左右方向及び上下方向の縮小化を図ることができる。
ここで、入力軸7の軸芯7X位置は、エンジンEの出力軸Eaに対し同一軸芯上に配置する必要があるので、上下位置に制約があり、ミッションケース2の中では比較的低い位置に配される。
一方、第一クラッチ軸8上の第一クラッチ21及び第二クラッチ軸9上の第二クラッチ31としては、後述の如き油圧クラッチユニット60(図10参照)を用いるものであり、その作動油供給については、前述の如くきめ細かい係合圧の制御が要求されることから、電磁比例弁71・72が用いられる。これら電磁比例弁71・72は、それぞれの制御対象のクラッチ21・31の近傍に配されることが好ましい一方、前述の如く比較的低い位置にある入力軸7よりも低い部位に配されると、車両が湿地帯を走破すること等を考慮した場合に、ソレノイドコイルの防水性の点で難がある。
そこで、図6及び図8に示すように、まず、第一・第二クラッチ軸8・9のうちの一方の軸を、入力軸7とおよそ同じぐらいの高さで、入力軸7の左右一側に配し、もう一方の軸を、入力軸7の上側に配している。本実施例では、出力軸12が入力軸7の右側(正面視の図6、図8では左側)に配されており、出力軸12の近傍に配されるカウンタ軸11に対し、第二クラッチ軸9を、変速従動軸10を経ることなく後進ギア列G4(ギア43・44)にて連係していることから、第二クラッチ軸9を入力軸7の右側(左右方向で入力軸7と出力軸12との間)に配し、第一クラッチ軸8を入力軸7の上側に配している。
このような配置により、電磁比例弁71・72にとって好適な高さに第一クラッチ軸8・9が配されるものである。さらに、図8に示すように、正面視において、第一クラッチ軸8の軸芯8Xと第二クラッチ軸9の軸芯9Xとが、上下及び左右方向で斜めに配列されており、図6で、第一クラッチギア20と第二クラッチギア30とが、上下及び左右方向において斜めに並設されていることでわかるように、第一クラッチ21及び第二クラッチ31が、軸芯方向に見て、上下及び左右方向において斜めに並設されている(すなわち、第二クラッチ31の左上方に第一クラッチ21が配置される)こととなるので、正面視のレイアウトでわかるように、図外の側面視では第一クラッチ21の下部と第二クラッチ31の上部とが重なり、一方、図外の平面視では第一クラッチ21の右部と第二クラッチ31の左部とが重なって、第一・第二クラッチ21・31の配置に必要なスペースを上下方向及び左右方向において縮小している。
さらに、このような第一・第二クラッチ軸8・9の斜め配列により、図8にてわかるように、ギア室2b内では、第一クラッチ軸8の右側、第二クラッチ軸9の上側にスペースが確保され、ここに変速従動軸10を配することで、ギア室2b内において、比較的高い位置にて、奇数速ギア列群G1及び偶数速ギア列群G2全体をコンパクトに配置することができる。
そして、カウンタ軸11を変速従動軸10の右方に、出力軸12をカウンタ軸11の下方に配し、前進ギア列G3(ギア41・42)及び最終減速ギア列G5(46・47)を、奇数速ギア列群G1及び偶数速ギア列群G2の右側に略同じ高さにて配置している。
以上のように、奇数速ギア列群G1、偶数速ギア列群G2、前進ギア列G3、後進ギア列G4、最終減速ギア列G5が、入力軸7よりも低くならないように、ギア室2b内の高い位置に配置され、図8に示すように、大径ギア47の下部が、ギア室2bの下部における油溜まりに浸漬される以外は、これらの全ギアが、該油溜まりの通常の油面FLよりも高く配置されており、油溜まりの攪拌抵抗が少なく、デュアルクラッチ式変速装置1のギア機構を、伝動効率のよいものに構成している。
そして、このように略全てのギアを油面FLよりも高く配置するものであっても、前述の如く、これらのギアを構成する軸をジグザグに配置することで、これらのギア全体は、上下及び左右において、コンパクトな状態でギア室2b内に収容されているのである。
一方、クラッチ室2cは、ギア室2b内で奇数速ギア列群G1及び偶数速ギア列群G2を構成する第一・第二クラッチ軸8・9の前部に設けられた第一・第二クラッチギア20・30及び第一・第二クラッチ21・31、並びに入力軸7前端の入力ギア7aを収容するだけのスペースを有していればよく、クラッチ室2cの下端は、図6に示すメインハウジング4の前端縁4bの配置でわかるように、入力ギア7a及び第二クラッチギア31のすぐ下方に配置されており、一方、正面視では、前端縁4bの下端よりも下方に、メインハウジング4の下部前端壁4pが延設されており、この下部前端壁4pは、ギア室2b下部の油溜まりの前端壁を画するものである。
したがって、ギア室2b内の油溜まりの油が、軸受壁4c内の軸受等を介してクラッチ室2c内と連通していて、クラッチ室2c内にも油溜まりができるとしても、その油面FLは、ギア室2b内の油溜まりの油面FLの高さとさほど変わらず、図6に示すように、やはり入力ギア7aや第二クラッチギア30(及び第二クラッチ31)よりも下方にあり、クラッチ室2c内に収容されるギアやクラッチに対する攪拌抵抗が問題になることはない。
そして、図5及び図7に示すように、第一・第二クラッチ21・31への作動油供給用の電磁比例弁71・72を、前述の如くメインハウジング4の高い位置に構成されている前端縁4bに取り付けられる蓋体5に取り付けている。したがって、電磁比例弁71・72が高い位置に配され、それぞれのソレノイドコイルの防水性を確保する上で好ましい配置となっている。
また、電磁比例弁71・72は、蓋体5の前端の左右一側端(本実施例では左端)に上下配列状に形成した上下一対のボス部に、ソレノイドコイルを左右方向外側(本実施例では左方)に突出した状態で、それぞれ装着されている。なお、本実施例では、前述の如く、入力ギア7aの上方に配置される第一クラッチ21が、入力ギア7aと略同じ高さにある第二クラッチ31より高い位置にあることに対応して、第二クラッチ31用の電磁比例弁72を下方に、第一クラッチ21用の電磁比例弁71を上方に配置している。
このように、電磁比例弁71・72は、ソレノイドコイルを左右方向に突出して、着脱しやすい状態で蓋体5に装着されているので、蓋体5がメインハウジング4に取り付けられている状態のままでも、前述の如く座席108及び座席載置板103aを回動するだけで、簡単に蓋体5に装着されている電磁比例弁71・72にアクセスでき、メンテナンスのための蓋体5に対する着脱も簡単にできる。
さらに、図5及び図9等に示すように、電磁比例弁71・72のうちの上方の電磁比例弁71の、さらにその上方の位置にて、蓋体5に、第一・第二クラッチ21・31への作動油圧を所定圧に規定するためのリリーフ弁70が装着されている。
なお、図5及び図8でわかるように、ギア室2bの上部内に、ドラム軸16と、該ドラム軸16に隣接して平行配置されるフォーク軸161・162とが、前後水平状に延設されている。フォーク軸161には三つのフォーク(図示せず)が軸芯方向摺動自在に支持されており、各シフタ28・36・45にそれぞれ嵌合されている。フォーク軸162には一つのフォーク(図示せず)が軸芯方向摺動自在に支持されており、シフタ29に嵌合されている。
一方、ドラム軸16には、四つのシフト溝を有するドラム(図示せず)が固設されており、各シフト溝に、前記四つのフォークが各々有する操作ピンを嵌入しており、ドラム軸16の回転に伴い、各シフト溝の形状にしたがって、各シフト溝に嵌合される操作ピンが軸芯方向に移動することで、各フォークが各フォーク軸161・162の軸芯方向に移動する構成となっている。
また、ドラム軸16の回転位置を検知するためのポテンショメータ17bが設けられており、該ポテンショメータ17bより延出されるハーネス17cを、運搬車100に設けられている図外のコントローラに接続している。
これらの電装部品17a・17b・17cが、メインハウジング4の上部に配置されているので、防水性に優れ、また、コントローラへの接続やメンテナンスがしやすい配置となっている。
そして、メインハウジング4の前端面にアクチュエータ17及びその関連の電装部品17a・17b・17cを集中して取り付けることで、前記の如く座席108及び座席載置板103aを回動したときに、アクセス及び着脱のしやすいところにこれらがまとまって配置されていることになる。
なお、前述の如き第一クラッチ21・第二クラッチ31の上下及び左右方向における斜め配置により、蓋体5の右上部が傾斜状に形成され、これにより、メインハウジング4の上部前端面に、このようなアクチュエータ17及びその関連の電装部品を、蓋体5に沿うようにコンパクトに集中配置して取り付けられるものとなっている。
また、メインハウジング4の左上部の前端面には、エンジンE起動用のスタータモータEcが取り付けられている。この部位は、メインハウジング4の前端部に取り付けた蓋体5の右端のすぐ右側にあり、後述の如くクラッチ室2cの下端よりも下方にて油溜まりを確保すべく構成されたギア室2b下部に左方拡張部を設けることで生じた該左右拡張部の上方のデッドスペースを利用して、スタータモータEcの配設部位としたものであって、スタータモータEcもこのように蓋体5の側方にて前方突出状に配置されるので、メンテナンス作業をしやすく、また、コンパクト性を確保した配置となっている。
デュアルクラッチ式変速装置1においては、ミッションケース2内に油圧ポンプユニット50を収容しており、油圧ポンプユニット50からの吐出油を、電磁比例弁71・72を介して、油圧クラッチユニット60である第一・第二クラッチ21・31に、作動油として供給しているとともに、この吐出油の一部を、ギア室2b及びクラッチ室2c内の各クラッチやギア並びに各種軸受等への潤滑油として供給している。
これにより、前述の如くギア室2b及びクラッチ室2c内のギアやクラッチが油溜まりの油面FLより上方に配置されている構成であっても、これらのギアやクラッチの潤滑を充分なものにし、耐久性を確保している。
その油圧ポンプユニット50の吐出油による作動油・潤滑油供給システムについて、まず、その油の流れを図4より説明する。
油圧ポンプユニット50には、エンジンEの出力軸Eaにタンデムで駆動される第一油圧ポンプ50a及び第二油圧ポンプ50bが備えられている。ここで、第一油圧ポンプ50aは、エンジンEの回転数の如何にかかわらず第一・第二クラッチ21・31の作動油としての圧油を供給するものであり、第二油圧ポンプ50bは、エンジンEの回転数が高まったときにのみ、その吐出油が、第一油圧ポンプ50aからの吐出油に加えられて、第一・第二クラッチ21・31の作動油として供給されるものである。
すなわち、油圧ポンプユニット50の第一・第二油圧ポンプ50a・50bは、ともにエンジンEに駆動されて、ミッションケース2のギア室2b内の油溜まりより、フィルタ49を介して、油を吸入する。
第一油圧ポンプ50aは、エンジンEの駆動される限り、油を常時吐出し、その油は、蓋体5内の油路(後記作動油供給油路5b)において、第一クラッチ21用の電磁比例弁71と、第二クラッチ用の電磁比例弁72とに分配され、各電磁比例弁71・72のソレノイド制御に応じて、第一クラッチ21の作動油室または第二クラッチ31の作動油室へと供給され、作動油室に油が供給されることにより、第一クラッチ21または第二クラッチ31が係合され、また、該作動油室より油が排出されることにより、その第一クラッチ21または第二クラッチ31が離間するものとなっている。
第二油圧ポンプ50bは、エンジンEの駆動する限り、油を常時吐出し、その吐出油は、アンロード弁55の閉弁時にのみ、逆止弁56を介して、第一油圧ポンプ50aからの吐出油に合流されて、電磁比例弁71・72に向けて流される。すなわち、アンロード弁55の閉弁中は、第一・第二油圧ポンプ50a・50bによる大容量の吐出油が第一・第二クラッチ21・31の作動油として供給される。一方、アンロード弁55を開弁することで、第二油圧ポンプ50bの吐出油は、第一・第二油圧ポンプ50a・50bの第一次側(上流側)に戻される。
前述のリリーフ弁70は、油圧ポンプユニット50からの吐出油が、第一油圧ポンプ50aのみからのものか、第一油圧ポンプ50a・第二油圧ポンプ50bの吐出油を合流したものであるかにかかわらず、第一・第二クラッチ21・31へと供給される作動油圧を一定に保持する。
アンロード弁55は電磁切換弁となっており、エンジンEの回転数の検出に基づき、コントローラにて自動的に開弁状態か閉弁状態かに切り換えられる開閉弁となっている。図外のコントローラは、検出されるエンジン回転数がアイドル回転数から所定回転数の領域までは、アンロード弁55を閉弁しておき、第一・第二油圧ポンプ50a・50bの両方からの吐出油を合流させて、エンジン回転数が所定回転数を超えて最高速回転に至る領域では、アンロード弁55を開弁し、実質的に第一油圧ポンプ50aからの吐出油量のみで、第一・第二クラッチ21・31への作動油供給を行うものとしている。
なお、以上の如く油圧ポンプユニット50は、二つの固定容積型油圧ポンプ50a・50bを備え、その両方からの吐出油を合流させて第一・第二クラッチ21・31へと供給するか、あるいは第一油圧ポンプ51aのみの吐出油を供給するかによって、ポンプ容量を切り換えるものとしている。
このようにポンプ容量を切換可能とする別形態として、例えば可動斜板を備えたアキシャルピストン型油圧ポンプのように、可変容積型の油圧ポンプを一つ備え、可動斜板の傾倒角度を変化させる等してその容積を変更するという構造も考えられる。この場合には、前記可動斜板等の容積調整部を電動アクチュエータにて制御するものとし、エンジン回転数の検出に基づいてコントローラより送信される指令信号により電動アクチュエータを制御することが考えられる。
以上の如き油圧ポンプユニット50の吐出油による第一・第二クラッチ21・31への作動油供給システム並びにギア室2b及びクラッチ室2c内の各部への潤滑油供給システムを実現するデュアルクラッチ式変速装置1における具体的構造について、図5乃至図12より説明する。
前述の如く、メインハウジング4の下部前端壁4pを前端とするギア室2bの下部に、油溜まりが設けられており、その油面FLより下方の低位置にて、図8及び図12に示すように、筒状のフィルタ49が、油溜まりに浸漬された状態に配置されている。
メンテナンスのためのフィルタ49の抜き取りがしやすいように、図5、図6、図8に示すように、メインハウジング4の左右一側(本実施例で、出力軸12等の設けられた右側部とは反対側の左側)に、フィルタ抜き取り用の孔を設けており、着脱自在なキャップ49aにて該孔を塞いでいる。
ギア室2b内において、フィルタ49の内端部より、正面視L字状に曲折する油路管部材51が延設され、その上端を、油圧ポンプユニット50の底部に接続している。
油圧ポンプユニット50は、カバー板52、ポンプブロック53、油路ブロック54を接合してなるハウジングを有し、ポンプブロック53に、二連の第一・第二油圧ポンプ50a・50bとしてのギアポンプ及び逆止弁56を内装し、油路ブロック54にアンロード切換弁55を内装している。
カバー板52の前面とポンプブロック53の後面とを当接し、ポンプブロック53の前面と油路ブロック54の後面とを当接し、ボルト57にてカバー板52、ポンプブロック53、油路ブロック54を共締めすることにより、前記ハウジングが構成されている。
さらに、油路ブロック54の前面が、メインハウジング4の壁部に当接され、カバー板52、ポンプブロック53、油路ブロック54を貫通するボルト57の前端部を、このメインハウジング4の壁部に螺入することにより、油圧ポンプユニット50をメインハウジング4に固設している。
このメインハウジング4における油圧ポンプユニット50の取り付け部位は、上下方向位置としては、図12にてわかるように、クラッチ室2cの底部に該当する部分から、その下方の、下部前端壁4pの上部にかけての部分となり、左右方向の位置としては、メインハウジング4の左端寄りの部分である。アンロード弁55は、メインハウジング4の下部前端壁4pの上部に形成されている前後貫通状の孔4hを介して、メインハウジング4(ミッションケース2)の外から油路ブロック54内へと装着されている。
第一油圧ポンプ50aは、それぞれ、インナロータ及びこれを囲むアウタローラを組み合わせてなるギアポンプとなっている。ポンプ駆動軸14はカバー板52を貫通し、その前端部をポンプブロック53内に配置しており、このポンプ駆動軸14の前端部に、第一・第二油圧ポンプ50a・50bが接続されている。
油路管部材51内には、フィルタ49に接続される下端から油圧ポンプユニット50に接続される下端まで貫通状に油路51aが形成されている。油路管部材51の上端は、カバー板52とポンプブロック53との繋ぎ目の底端部に接続されている。
カバー板51の前面沿いに、その下端から上下途中部まで鉛直上方に延伸する吸入油路52aが形成されており、吸入油路52aの下端が油路管部材51内の油路51aの上端に接続されており、吸入油路52aの上端部がポンプブロック53の後面沿いの第一油圧ポンプ50aの吸入ポートに連通している。
さらに、カバー板52の前面における、前記吸入油路52aのやや上方の位置より鉛直上方延伸状に吐出油路52bが形成されており、吐出油路52bの下端部は第一油圧ポンプ50aの吐出ポートに連通している。
ポンプブロック53における、第一・第二油圧ポンプ50a・50bより上方の部分には、前後水平方向の作動油供給油路53bが前後貫通状に形成されており、その後端が、カバー板51の前面沿いに形成された吐出油路52bの上端部に接続されている。
ポンプブロック53内の作動油供給油路53bに対応して、油路ブロック54の上部にも前後水平方向の作動油供給油路54dが前後貫通状に形成されており、作動油供給油路54dの後端をポンプブロック53内の作動油供給油路53bの前端に接続している。
さらに、前記の如くクラッチ室2cの底部に該当するメインハウジング4の壁部内に、前後水平方向の作動油供給油路4dが形成されており、該作動油供給油路4dの後端が、油路ブロック54内の作動油供給油路54dの前端に接続されている。
ポンプブロック53内において、第一油圧ポンプ50aの吸入ポートと、その前方の第二油圧ポンプ50bの吸入ポートとを連通するように、第二次吸入油路53aが形成されている。
油路管部材51の油路51aからカバー板52の吸入油路52aを介して第一油圧ポンプ50aの吸入ポートに流入した油は、その一部が、第一油圧ポンプ50aの駆動にて、該第一油圧ポンプ50aの吐出ポートへと圧送され、その他は、第二次吸入油路53aを介して、第二油圧ポンプ50bの吸入ポートへと流入する。
ポンプブロック53と油路ブロック54との接合面を貫通するように、該ポンプブロック53及び油路ブロック54内に、逆止弁56が設けられており、その後端部は、ポンプブロック53内において、作動油供給油路53bに接続されており、前端部は、油路ブロック54内に形成された連絡油路54cに接続されていて、連絡油路54cから作動油供給油路53bへの油流のみを許容する構成となっている。
連絡油路54cは、油路ブロック54内に装着されたアンロード弁55の入口ポートに連通されている。また、油路ブロック54内には、第二油圧ポンプ50bの吸入ポートとアンロード弁55の出口ポートとを接続する戻し油路54a、及び、第二油圧ポンプ50bの吐出ポートと連絡油路54cとを接続する吐出油路54bが形成されている。
第二油圧ポンプ50bは、ポンプ駆動軸14により、第一油圧ポンプ50aと同期して駆動され、第二次吸入油路53aを介して吸入ポートに取り入れた油を、吐出ポートより吐出油路54bを介して連絡油路54cへと吐出する。
このとき、アンロード弁55が閉弁していれば、吐出油路54bより連絡油路54cに流入した油は、逆止弁56を開いて、油路ブロック53内の作動油供給油路53bへと流入し、吐出油路53bにて、第一油圧ポンプ50aより吐出油路52bを介して吐出された油と合流し、作動油供給油路54d及び作動油供給油路4dへと流動する。
一方、アンロード弁55が開弁していれば、吐出油路54bより連絡油路54cに流入した油は、アンロード弁55より戻し油路54aを介して第二油圧ポンプ50bの吸入ポートに戻され、さらには、第二次吸入油路53aを介して第一油圧ポンプ50aの吸入ポートにまで戻される。
蓋体5の、クラッチ室2cの底壁となる部分より、クラッチ室2cの前壁となる部分にかけて、作動油供給油路5bが穿設されている。作動油供給油路5bの下端部は、前後水平方向の油孔となっていて、その後端が、メインハウジング4内の作動油供給油路4dの前端に接続される。
図12に示すように、蓋体5の左上部に設けたリリーフ弁70からは後方に水平方向の油孔が形成されており、メインハウジング4の作動油供給油路4dに接続される前後方向の油孔の前端から、リリーフ弁70に接続される前後方向の油孔の後端まで、図7に示すように、蓋体5の左端に沿って鉛直状に油孔が穿設されている。この鉛直の油孔と、該鉛直の油孔の下端よりメインハウジング4の作動油供給油路4dへと後方水平方向に延設される油孔と、該鉛直の油孔の下端よりリリーフ弁70へと前方水平方向に連結される油孔とで、蓋体5内の作動油供給油路5bが構成されている。
さらに、図7及び図12に示すように、蓋体5内にて、作動油供給油路5bの鉛直の油孔の上下途中部からは、その右側に位置する第二クラッチ軸9の後記環状溝9aまで、左右水平方向の油孔が穿設され、この油孔を第二クラッチ用作動油供給油路5dとしており、また、それより上方の位置にて、作動油供給油路5bの鉛直の油孔の上下途中部より、その右側に位置する第一クラッチ軸8の後記環状溝8aまで、左右水平方向の油孔を穿設し、この油孔を第一クラッチ用作動油供給油路5cとしている。
蓋体5の左端より装着されている上下の電磁比例弁71・72のうち、下側の電磁比例弁72が、作動油供給油路5bの鉛直油孔に接続される第二クラッチ用作動油供給油路5d起点部分まで蓋体5内に嵌入されており、ここで、電磁比例弁72は、吸入ポートを作動油供給油路5bの鉛直油孔に連通し、かつ、吐出ポートを第二クラッチ用作動油供給油路5dに連通している。
また、上側の電磁比例弁71が、作動油供給油路5bの鉛直油孔に接続される第一クラッチ用作動油供給油路5cの起点部分まで蓋体5内に嵌入されており、ここで、電磁比例弁71は、吸入ポートを作動油供給油路5bの鉛直油孔に連通し、かつ、吐出ポートを第一クラッチ用作動油供給油路5cに連通している。
図9に示すように、蓋体5には、第一クラッチ軸8の前端部が嵌入される軸孔5fが形成されており、また、第二クラッチ軸9の前端部が嵌入される軸孔5hが形成されている。軸孔5fの内周面に相対摺動回転自在に嵌合された第一クラッチ軸8の外周面には環状溝8aが、また、軸孔5hの内周面に相対摺動回転自在に嵌合された第二クラッチ軸9の外周面には環状溝9aが、それぞれ形成されている。
図7にてわかるように、第一クラッチ用作動油供給油路5cの終端(右端)は、軸孔5fの内周面にて開口し、軸孔5f内の第一クラッチ軸8の環状溝8aに連通している。一方、第二クラッチ用作動油供給油路5dの終端(右端)は、軸孔5hの内周面にて開口し、軸孔5h内の第二クラッチ軸9の環状溝9aに連通している。
図9に示すように、第一クラッチ軸8内には、軸芯方向の作動油路8bが穿設されており、第二クラッチ軸9内には、軸芯方向の作動油路9bが穿設されている。各作動油路8b・9bの一端(本実施例で前端)は、径方向の油孔を介して各環状溝8a・9aに連通しており、各作動油路8b・9bの他端(本実施例では後端)は、他の径方向の油孔を介して、各クラッチ軸8・9の外周面にて開口し、油圧クラッチユニット60である第一・第二クラッチ21・31それぞれの作動油室に連通している。各第一・第二クラッチ21・31としての油圧クラッチユニット60の構成については後に詳述する。
図7及び図9よりわかるように、蓋体5内において、リリーフ弁70からの排出油を潤滑油として導くべく、リリーフ弁70より右下方斜めに直線状の油孔が穿設され、この油孔を潤滑油路5eとしている。潤滑油路5eは途中で前記の各クラッチ軸8・9の前端部を嵌入した各軸孔5f・5hの前端に接続している。
第一クラッチ軸8内には、前記作動油路8bと平行に軸芯方向の潤滑油路8cが穿設されており、その前端は、第一クラッチ軸8の前端にて開口している。軸孔5fの前端と第一クラッチ軸8の前端との間に隙間を設けており、この隙間を油受継室5f1としている。こうして、潤滑油路5eより油受継室5f1を介して潤滑油路8c内にリリーフ弁70からの排出油が流入可能となっている。
一方、第二クラッチ軸9内には、前記作動油路9bと平行に軸芯方向の潤滑油路9cが穿設されており、その前端は、第二クラッチ軸9の前端にて開口している。軸孔5hの前端と第二クラッチ軸9の前端との間に隙間を設けており、この隙間を油受継室5h1としている。こうして、潤滑油路5eより油受継室5h1を介して潤滑油路9c内にリリーフ弁70からの排出油が流入可能となっている。
図9に示すように、クラッチ室2c内においては、各クラッチ軸8・9内にて、各潤滑油路8c・9cより径方向に油孔を分岐し、該油孔を各クラッチ軸8・9の外周面にて開口し、この部分に装着されている第一・第二クラッチ21・31の、後述する遠心油圧キャンセル室60bへの遠心油圧抑制用の油や、クラッチ板62・63への潤滑油として、リリーフ弁70からの排出油を供給するものとしている。
さらに、潤滑油路8c・9cは、それぞれ、ギア室2bの後端における軸受壁3bに軸支される第一クラッチ軸8及び第二クラッチ軸9それぞれの後端まで延設されている。すなわち、各クラッチ軸8・9を前後貫通状に形成されている。したがって、潤滑油路8c・9cを通過した油は、各クラッチ軸8・9の後端より流出し、各クラッチ軸8・9の後端部を軸支する軸受を潤滑して、ギア室2b内の油溜まりへと戻される。
さらに、図9に示すように、変速従動軸10及びカウンタ軸11にも、それぞれ、軸受壁4cにて軸支されている各軸10・11の前端から、軸受壁3bにて軸支されている各軸10・11の後端まで、前後貫通状に、軸芯方向の潤滑油路10a・11aが穿設されている。
メインハウジング4には、軸受壁4cにおける変速従動軸10の前端に対峙する鉛直面から、蓋体5と当接しているメインハウジング4の前端面まで、前後水平方向の油孔が穿設され、これを潤滑油路4eとしている。一方、メインハウジング4の、軸受壁4cにおけるカウンタ軸11の前端に対峙する鉛直面から、蓋体5と当接しているメインハウジング4の前端面まで、前後水平方向の油孔が穿設され、これを潤滑油路4fとしている。
蓋体5内においては、図7及び図9に示すように、正面視で斜め直線状の油孔である潤滑油路5eの、油受継室5f1(軸孔5fの前端)との接続部位と、油受継室5h1(軸孔5hの前端)との接続部位との間の部分より、上向き(詳しくは、右上斜め方向)の油孔を穿設し、該油孔の上端より後方に水平の油孔を穿設して、その後端を、メインハウジング4の潤滑油路4eの前端に接続している。これらの蓋体5内の油孔にて、潤滑油路5eの途中部から分岐してメインハウジング4の潤滑油路4eへと油を導くための潤滑油路5gを構成している。
この蓋体5の潤滑油路5g及びメインハウジング4の潤滑油路4eを介して、リリーフ弁70からの排出油が、変速従動軸10内の潤滑油路10a内に導入され、やがては変速従動軸10の後端より流出し、ギア室2b内の油溜まりへと戻される。
また、潤滑油路5eの終端部は、第二クラッチ軸9の前端部を嵌入する軸孔5hへの接続部分となっているが、この潤滑油路5eの終端部より、上向き(詳しくは、右上斜め方向)の油孔を穿設し、該油孔の上端より後方に水平の油孔を穿設して、その後端を、メインハウジング4の潤滑油路4fの前端に接続している。これらの蓋体5c内の油孔にて、潤滑油路5eの終端部から分岐してメインハウジング4の潤滑油路4fへと油を導くための潤滑油路5iを構成している。
この蓋体5の潤滑油路5i及びメインハウジング4の潤滑油路4fを介して、リリーフ弁70からの排出油が、カウンタ軸11内の潤滑油路11a内に導入され、やがてはカウンタ軸11の後端より流出し、ギア室2b内の油溜まりへと戻される。
ギア室2b内において、第一クラッチ軸8の外周面には第五速駆動ギア26の内周面を、変速従動軸10の外周面には第一速従動ギア23、第三速従動ギア25、第二速従動ギア33、及び第四速従動ギア35それぞれの内周面を、そして、カウンタ軸11の外周面には後進従動ギア44の内周面を、それぞれ、ブッシュを介して相対回転自在に装着している。このブッシュの潤滑のため、第一クラッチ軸8内の潤滑油路8c、変速従動軸10内の潤滑油路10a、及びカウンタ軸11内の潤滑油路11aより、径方向の油孔が分岐し、各軸の外周面にて開口して、各ブッシュに対峙している。
こうして、蓋体5に取り付けた第一・第二クラッチ21・31への作動油圧を規定するためのリリーフ弁70からの排出油を、クラッチ室2c内の第一・第二クラッチ21・31及びクラッチ室2b内にて軸に遊嵌されている各ギアに、潤滑油として供給する構成としており、上述の如く、ギア室2bやクラッチ室2c内においてほとんどのギアやクラッチ等が油溜まりの油面FLより高く配置されている構造であっても、これらの部材への潤滑油を確実に供給するものとしている。
なお、以上は、図12等に示すように、ギア室2b内に油圧ポンプユニット50を配置することを前提として、クラッチ作動油及び潤滑油の供給構造を説明したものである。この油圧ポンプユニットについては、クラッチ室2c内に配置することも考えられる。
図13は、クラッチ室2c内に別実施例の油圧ポンプユニット50Aを配置した構造を示している。この図13の実施例について説明する。
前記実施例では、クラッチ室2cの下端を、入力ギア7aのすぐ下方に配置していたが、本実施例では、この位置からさらにクラッチ室2cを、ギア室2bの下端に該当する位置まで下方に拡張している。すなわち、メインハウジング4の前端縁4bの画する開口部を下方に拡張し、前端縁4bを、メインハウジング4の前端の略全周にわたって形成し、これに対応して蓋体5のフランジ縁5aも下方に拡張して形成されている。
こうして、前記実施例のクラッチ室2cの下端に該当する位置より下方に、下方拡張室2dを形成しており、前実施例では下部前端壁4pとしていたメインハウジング4の部分を、ギア室2bの下部と、クラッチ室2cの下方拡張室2dとを区画する下方隔壁4p1としており、また、蓋体5の下方拡張部分5pを、下方拡張室2dの前壁としている。
この下方拡張室2d内に油溜まりを設けており、油溜まりに浸漬されるように、下方拡張室2dの右壁部に該当するメインハウジング4の壁部に、前実施例でフィルタ49を取り付けるのに形成していた孔と同様の孔を形成し、この孔に挿通して、フィルタ49を、下方拡張室2dの下部内に配置する。
なお、下方隔壁4p1の下部に、後方のギア室2bと前方の下方拡張室2dとを連通する貫通孔4p2を形成しており、この貫通孔4p2を介して、ギア室2b内の油溜まりと、クラッチ室2cの下方拡張室2c内の油溜まりとの間で油が流動可能としている。
この下方拡張室2dの上部にて、油圧ポンプユニット50Aを、メインハウジング4の下方隔壁4p1と、蓋体5の下方拡張部分5pとの間に挟持されるように、配置している。油圧ポンプユニット50Aのハウジングとしては、ポンプブロック53及び油路ブロック54のみを用いており、ポンプブロック53の後面をメインハウジング4の下方隔壁4p1の上部の前端面に当接し、油路ブロック54の前面を蓋体5の下方拡張部分5pの上部の内側面(後面)に当接している。
ボルト57を前方から油路ブロック54及びポンプブロック53に通して、その後端部をメインハウジング4の下方隔壁4p1に螺入することにより、油路ポンプユニット50Aのハウジングであるポンプブロック53及び油路ブロック54をメインハウジング4に固定するものとしている。
なお、ボルト57を後方からポンプブロック53・油路ブロック54に挿通して、蓋体5に螺入し、油圧ポンプユニット50Aのハウジングを蓋体5に締止するものとしてもよく、あるいは、メインハウジング4及び蓋体5の両方に締止するものとしてもよい。
ポンプブロック53における第一・第二油圧ポンプ50a・50b及び油路53a・53bの配置構成、油路ブロック54におけるアンロード弁55及び油路54a・54b・54c・54dの配置構成、さらに、ポンプブロック53・油路ブロック54内の逆止弁56の配置構成は、油圧ポンプユニット50のものと変わらない。
ただし、油路ブロック54内のアンロード弁53については、油路ブロック54の直前に配置されているのがメインハウジング4の下方前端壁4pではなく、蓋体5の下方拡張部分5pの上部である。これに対応して、蓋体5の下方拡張部分5pの上部に前後貫通状の孔5kを設け、蓋体5の下方拡張部分5pの前端部より孔5kを介してアンロード弁53を嵌入するものとしている。これにより、クラッチ室2cに下方拡張室2dを追加形成した構成であっても、アンロード弁55をミッションケース2の前方に抜き出し可能とし、そのメンテナンス性を確保している。
また、油路ブロック54と蓋体5とは直接当接していることから、油路ブロック54内の作動油供給油路54dの前端は、蓋体5内の作動油供給油路5bの下端の前後方向の油孔の後端に直接接続されている。
フィルタ49より延設される油路管部材51の上端部は、ポンプブロック53及び油路ブロック54の継ぎ目の底端部に接続されている。これに対応して、油路ブロック54の後面沿いに、第二油圧ポンプ50bの吸入ポートに連通するように形成されている前記戻し油路54aより下方に延伸する吸入油路54a1を溝状に形成しており、この吸入油路54a1の下端を油路管部材51内の油路51aの上端に接続している。
一方、カバー板52に代え、メインハウジング4の下方隔壁4p1の、油路ブロック53後面と当接する前面に沿って、鉛直方向の吐出油路4iを溝状に形成しており、その下端を第一油圧ポンプ50aの吐出ポートに連通し、その上端を油路ブロック53内の吐出油路53bの後端に接続している。また、ポンプ駆動軸14は、このメインハウジング4の下方隔壁4p1に軸受を介して軸支され、その前端部をポンプハウジング53内へと突入させている。
以上の如き油圧クラッチ作動油供給用油圧ポンプユニット50または50Aによる吐出量の制御とその効果について、図14のエンジンEの回転数Nに対する吐出油量Qの相関図をもとに説明する。
図外のコントローラは、回転数センサ等にて検出されるエンジンEの回転数Nが所定値N2未満であるときに、アンロード弁55を閉じて、第一・第二油圧ポンプ50a・50bの双方より吐出される油を蓋体5内の作動油供給油路5bへと供給する。吐出油量Qは、エンジン回転数Nの増大に伴って増大し、エンジンEの回転数Nがアイドリング回転数N1に達する段階で、第一クラッチ21または第二クラッチ31の作動に必要とされるだけの量Q1に達するように設定してある。
したがって、例えばシフタ28を前進第一速位置に、シフタ45を後進位置にしておき、エンジンEのアイドリング回転中に第一クラッチ21を係合すれば、運搬車100を円滑に第一速にて前進発進させることができ、また、アイドリング回転数に第二クラッチ31を係合すれば、運搬車100を円滑に後進発進させることができる。
なお、係合する側のクラッチ21または31における後記作動油室60aが油量Q1の作動油で満たされた後、油圧ポンプユニット50(50A)より作動油供給油路5bへと供給される油の殆どは、リリーフ弁70を経て潤滑油路5eへとリリースされる。
エンジン回転数Nがアイドリング回転数N1から増大するにつれ、吐出油量Qは増大し、第一クラッチ21または第二クラッチ31のうちの一方を係合するのに必要とされる作動油量Q1を超えて吐出される油は、リリーフ弁70より潤滑油路5eへとリリースされて、クラッチ室2c及びギア室2b内における潤滑油を必要とする各部位に潤滑油として供給される。
やがて、吐出油量Qは、デュアルクラッチ式変速装置2全体として必要とされる総油量の上限値Q3(以下、単に「上限値Q3」とする)に達する。これは、前記クラッチ作動油量Q1と、デュアルクラッチ式変速装置2全体として必要とされる潤滑油量の上限値Q2(以下、「潤滑油上限量Q2」とする)との総和である。
この時点で検出されるエンジン回転数Nは所定値N2に達しており、前記コントローラは、所定値N2のエンジン回転数Nの検出に基づき、それまで閉弁されていたアンロード弁55を開弁する。これにより、油圧ポンプユニット50(50A)からの油の吐出は、第一油圧ポンプ50aのみによるものとなり、吐出油量Qはここで上限値Q3より半減するが、前記作動油量Q1は確保している。
第一油圧ポンプ50aのみより吐出される油の量Qは、エンジン回転数Nの増大につれ増大し、エンジンEの回転数Nが最大回転数Nmaxに達する段階で、前記の上限値Q3に達するものとしている。
仮に、エンジン回転数Nが最大回転数Nmaxに達するまで、アンロード弁55を閉弁し続けて、第一油圧ポンプ50a及び第二油圧ポンプ50bの両方からの吐出油を作動油供給油路5bに供給し続けたとすると、所定値N2から最大回転数Nmaxまでのエンジン回転数Nの領域では、上限値Q3を超える量の油が、エンジン回転数Nの増大につれ作動油供給油路5bへと供給されつづける。エンジン回転数Nが最大回転数Nmaxに達する段階では、上限値Q3の約二倍もの吐出油量Qが供給されることとなる。
この所定値N2から最大回転数Nmaxまでのエンジン回転数Nの領域では、リリーフ弁70は、潤滑油上限量Q2を超える量の油を潤滑油路5eへとリリースしつづけ、潤滑油として使用されることなく、ギア室2b(及びクラッチ室2c)内の油溜まりへと戻されることとなり、その間、油圧ポンプ50a・50bの駆動のためにエンジンEの動力が無駄に使われたことになる。
そこで、上述のように、エンジン回転数Nが所定値N2に達した段階で、アンロード弁55を開き、第二油圧ポンプ50bをアンロード(無負荷運転)することで、所定値N2から最大回転数Nmaxまでのエンジン回転数Nの領域において、図14にて網がけ部分として表される第二油圧ポンプ50b駆動用のエネルギー消費分SEが省かれ、運搬車100の燃費向上を図ることができる。
なお、本実施例においては、第一油圧ポンプ50a及び第一油圧ポンプ50bとして、押しのけ容積が同じ仕様のものを用いたが、これに限るものではない。
次に、第一・第二クラッチ21・31として提供される油圧クラッチユニット60の構成について、図10及び図11より説明する。なお、図10では、第一クラッチ21としての油圧クラッチユニット60を開示しており、第二クラッチ31としての油圧クラッチユニット60の構成については、以下に説明する第一クラッチ21としての油圧クラッチユニット60の構成と同じであり、その説明を省略する。
油圧クラッチユニット60は、クラッチ軸8上に固設されるクラッチケース61、クラッチ軸8に遊嵌されるクラッチギア20、クラッチケース61内にてクラッチケース61とクラッチギア20との間に介装されるクラッチ板62・63、受け板64、止め輪65、ピストン66、バネ67、遠心油圧キャンセラ(以下、単に「キャンセラ」)68、潤滑油案内板69を組み合わせてなる。
クラッチケース61は、中心ボス部61aの内周面をクラッチ軸8の外周面に固着しており、中心ボス部61aの前端部からは遠心状に鉛直板部61bを延設し、鉛直板部61bの外周縁より後方に、中心ボス部61aを囲むように周状部61cを延設した形状となっている。
クラッチケース61の後方に配置されるクラッチギア20の内周面とクラッチ軸8の外周面との間に軸受が介設されていて、クラッチギア20をクラッチ軸8に遊嵌するものとしており、クラッチギア20からは筒状部20aが前方に延設され、これを、クラッチケース61の中心ボス部61aとその周りの周状部61cとの間の空間(以下、この空間を「クラッチケース61の内部空間」と称する)内に配置している。
クラッチギア20の筒状部20aの外周部には、前後に複数配列されたスチールプレート62の内周縁を相対回転不能かつ軸芯方向(前後方向)摺動自在に係合しており、クラッチケース61の周状部61cの内周部には、前後に複数配列された摩擦板63の外周縁を相対回転不能かつ軸芯方向(前後方向)摺動自在に係合している。スチールプレート62及び摩擦板63は、クラッチ板として、交互に前後配列されている。
これらクラッチ板62・63のうち、最後端に配置されるクラッチ板の直後に受け板64が配置され、クラッチケース61の周状部61cに相対回転不能に係合されており、また受け板64が軸芯方向に移動しないよう、止め輪65にて係止されている。
クラッチ板62・63のうちの最前端に配置されるクラッチ板、及び、クラッチギア20の筒状部20aの前端よりも前方における、クラッチケース61の内部空間の前半部内に、ピストン66が、中心ボス部61aに沿って軸芯方向(前後方向)に摺動自在に配置されている。クラッチケース61の内部空間の、ピストン66より前方の部分が、作動油室60aとされる。
前記のクラッチ軸8内の作動油路8bの後端は、前記のクラッチ軸8内の径方向の油孔、及び、クラッチケース61の中心ボス部61aの前部に形成された作動油路61dを介して、作動油室60a内に連通している。
電磁比例弁71の吐出ポートからの油が、作動油供給油路5c、環状溝8a、作動油路8b、作動油路61dを介して、作動油室60aに供給されることにより、その油圧でピストン66が後方に摺動し、ピストン66と受け板64との間でクラッチ板62・63を圧接することによって、クラッチギア20がクラッチケース61に相対回転不能に係合され、このクラッチケース61を介してクラッチ軸8に相対回転不能に係合される。すなわち、クラッチが係合した状態となる。
逆に、作動油室60aから油が抜けると、バネ67の作用でピストン66が前方摺動することにより、クラッチ板62・63同士が離間し、クラッチが切れた状態となる。
ピストン66には、クラッチケース61の中心ボス部61aに摺動自在に嵌合される中心ボス部66aが形成されており、その中心ボス部66aの前端部周りに、後方開口状の周状凹部60bが形成されている。
一方、クラッチケース61の内部空間の、ピストン66の中心ボス部66aの外周面とその周りを囲むクラッチギア20の筒状部20aの内周面との間に、空間が確保されており、この空間に、前端開口状のカップ形状のキャンセラ68が配置され、キャンセラ68の後端に形成される鉛直板部69aの内周縁を、ピストン66の中心ボス部66aの後端よりも後方にて、中心ボス部61aの外周面に取り付けている。
また、この鉛直板部69aの後方にて、中心ボス部61aには潤滑油案内板69が、該鉛直板部69aと当接可能に固設されており、キャンセラ68の後端に当接されている。
キャンセラ68は、その前端開口を囲む前端縁部68cをピストン66の凹部66b内に配置し、その外周面を凹部66bの内周面に相対的に摺動自在に嵌合している。この凹部66bの前端を画するピストン66の鉛直板部と、キャンセラ68の後端の鉛直板部68aとの間に、バネ67が介装されている。
キャンセラ68には、鉛直板部68aの外周端から前端縁部68cまで延設されるように、周状部68bが形成されており、この周状部68bがピストン66の中心ボス部66aを囲むように配置されている。
バネ67は、周状部68bの内周面と、中心ボス部66aの外周面との間の隙間を通るように配置されている。このバネ67の付勢力により、ピストン66は、前方、すなわち、クラッチ切り方向に付勢され、ピストン66への作動油圧は、このバネ67の付勢力に抗してクラッチ入り方向にかかるものとなっている。一方、キャンセラ68は、バネ67の付勢力で、常時、後端の鉛直板部68aを潤滑油案内板69に当接した状態に保持されている。
作動油室60aより作動油が抜けている間は、本来、バネ67の付勢力により、ピストン66の前端がクラッチケース61の鉛直板部61bに当接した状態で保持され、クラッチ板62・63が離間した状態、すなわち、クラッチが離間した状態が保持されている。しかし、高回転時には、作動油室60a内にわずかに残る油に遠心油圧が生じ、この遠心油圧が、ピストン66に、バネ67に抗してクラッチ板62・63を圧接する方向(後方)にかかる。これによりクラッチが不測に係合して動力ロスやクラッチ等の部材の磨耗を生じさせるような不具合が発生するおそれがある。これを防ぐには、付勢力の強いバネ67を用いることも考えられるが、高コスト化を招く可能性がある。
そこで、本願に係るデュアルクラッチ式変速装置1における油圧クラッチユニットにおいては、キャンセラ68を設け、キャンセラ68とピストン66との間に、ピストン66の前方の作動油室60aに対向するキャンセル室60bを確保しており、このキャンセラ室60bに油を導入して、作動油室60a内の油圧に対抗させ、遠心油圧によるクラッチ板62・63の不測の圧接を防止するものとしている。
このキャンセル室60bへの導入油として、前記の、クラッチ軸8内の潤滑油路8cより油圧クラッチユニット60へと供給される潤滑油が用いられる。すなわち、クラッチ軸8内において、軸芯方向の潤滑油路8cより径方向の油孔8c1を分岐し、その外端をクラッチ軸8の外周面にて開口している。一方、クラッチケース61の中心ボス部61aの前後途中部には、内外貫通状の径方向の潤滑油孔61eが形成されており、中心ボス部61a内周面上の潤滑油孔61eの開口端が、油孔8c1の、クラッチ軸8の外周面における開口端に接続されている。
この潤滑油路61eの外端開口が、ピストン66の中心ボス部66aの内周面に対峙しており、潤滑油路61eより溢出する潤滑油が、中心ボス部66aに内外貫通状に形成された潤滑油孔66cまたはキャンセル油孔66dを介してキャンセル室60b内へと導入されるようになっている。
潤滑油孔66cは、ピストン66がクラッチ入り位置にあるときに、クラッチケース61の潤滑油孔61eと連通するように配設されており、その口径は、クラッチ板62・63に潤滑油として送り込む分の油量を取り込めるように寸法設定されている。
キャンセル油孔66dは、ピストン66がクラッチ切り位置にあるときに潤滑油孔61eと連通するように配設されており、その口径は、バネ67と協働して作動油室60a内の作動油の遠心油圧に対抗するだけの油をキャンセル室60bに取り込むように、小さなものとなっている。
すなわち、これらの油孔66c・66dは、クラッチ切り時には遠心油圧への対抗分の油のみを、クラッチ入り時にはそれに加えて潤滑油としてクラッチ板62・63に供給する分の油を、キャンセル室60bに導入する構成となっている。
クラッチ板62・63は、キャンセラ68の周状部68bを囲むように、すなわち、キャンセラ68の径方向外側に配置されている。ピストン66における既存の潤滑油孔66cは、もともと、潤滑油孔66cより溢出される油を、クラッチケース60の内部空間を介して、その径方向外側に配されているクラッチ板62・63に潤滑油として供給できるように配置されている。
このクラッチケース60の内部空間内に、クラッチ板62・63を潤滑油孔66cから遮蔽するようにキャンセラ68を配置することで、キャンセラ68内にキャンセル室60bを確保し、このキャンセル室60bに、潤滑油孔66cまたはキャンセル油孔66dより溢出される油を取り込んで、作動油室60a内の作動油の遠心油圧に対抗するものとしている。したがって、キャンセラ68にて潤滑油孔66cから遮蔽されたクラッチ板62・63に、キャンセル室60b内から潤滑油を送り込む構造が必要である。
そこで、クラッチ板62・63にも潤滑油路66cより溢出した潤滑油を到達されるべく、クラッチケース61の中心ボス部61aの外周面に接するキャンセラ68の鉛直板部68aの内周縁の一部に切欠68dを設け、さらに、鉛直状の潤滑油案内板69に、図10及び図11に示すように、径方向の油溝69aが形成されており、これら切欠68d及び油溝69aを介して、キャンセラ68内の油を、クラッチケース60の内部空間内におけるキャンセラ68の外側におけるクラッチ板62・63の配設部分へと流出させるように構成している。これにより、キャンセル室66aをクラッチ板62・63の径方向内側に設けた構造であっても、充分にクラッチ板62・63に潤滑油を供給することができる。