以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜8には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、図9にも示すように、インナ部材12とアウタ部材14が、本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として図5の上下方向を言う。更に、特に説明がない限り、前後方向とは図6中の左右方向を、左右方向とは図5中の左右方向を言う。
インナ部材12は、鉄やアルミニウム合金などの金属や繊維補強合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、図10〜12に示すように、全体として厚肉板状とされていると共に、本体ゴム弾性体16に嵌着される嵌合部18と、後述するパワーユニット90に取り付けられる締結部20とを、一体で備えている。
インナ部材12の嵌合部18は、厚肉板状とされていると共に、図12に示すように、下方へ向けて開口する取付凹所22が形成されている。取付凹所22は、後述する本体ゴム弾性体16の上端部と対応する形状を有している。
さらに、本実施形態では、インナ部材12の嵌合部18に対して別体の緩衝ゴム24が非接着で取り付けられている。緩衝ゴム24は、図7〜9に示すように、全体として前方へ向けて開口する略矩形箱状とされており、上方へ突出して前後へ延びる複数の突条26を備えていると共に、左右各一方の外方へ向けて突出する緩衝突部28,28を備えている。この緩衝突部28は、突出先端に向けて次第に上下寸法が小さくなる断面形状を有していると共に、突出方向の基端部分には、上下両側へ向けて開口して前後に連続する溝が形成されて、部分的に上下狭幅とされたくびれを有している。更に、緩衝ゴム24の下壁部には、インナ部材12の取付凹所22と対応する断面形状で上下に貫通する挿通孔30が形成されている。そして、インナ部材12の嵌合部18が緩衝ゴム24に対して前側の開口から挿入されることにより、緩衝ゴム24が嵌合部18に外嵌装着されており、嵌合部18の表面が取付凹所22の開口部分を外れた略全体に亘って緩衝ゴム24で覆われている。なお、嵌合部18の取付凹所22は、緩衝ゴム24の挿通孔30を通じて下方へ向けて開口している。
インナ部材12の締結部20は、嵌合部18の前方に一体形成されて、嵌合部18よりも左右両側に広がっていると共に、前端部および左右両端部には上下に貫通するボルト孔32がそれぞれ形成されている。
アウタ部材14は、図1〜9に示すように、アッパ部材34とロア部材36を有している。アッパ部材34は、鉄やアルミニウム合金などの金属やポリアミドにガラス繊維を混在させた繊維補強合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、ダイカストなどの型成形によって形成された厚肉の型成形品とされている。
また、アッパ部材34は、図13〜16に示すように、門形部38を備えている。この門形部38は、上下に延びる一対の脚部40,40と、それら脚部40,40の上端部を相互に連結する梁部42とを、含んで構成されている。
門形部38の脚部40は、前後に所定の幅を有して上下に延びる厚肉の略板状とされており、一対の脚部40,40が左右方向で相互に所定の距離を隔てて対向配置されている。更に、脚部40は、左右外方へ突出するアッパ締結片44を下端部に一体で備えており、アッパ締結片44には、下方へ向けて突出する仮締結突起46(図15,16参照)と、上下に貫通するボルト孔48が形成されている。
さらに、一対の脚部40,40には、対向方向の内方へ向けて突出する保持突部50がそれぞれ一体形成されている。保持突部50は、脚部40の下部において、脚部40の前後方向の略全長に亘って連続的に設けられていると共に、突出先端面である左右内面が保持突部50,50の対向方向と略直交して前後および上下に広がる平面とされている。なお、本実施形態では、連続して設けられるアッパ締結片44と保持突部50に対して、下面に開口する肉抜凹所52が形成されており、保持突部50が肉抜凹所52によって左右内方へ突出するとともに突出先端から下方へ延び出す形状とされている。
門形部38の梁部42は、前後に所定の幅を有して左右に延びる厚肉の略板状とされて、一対の脚部40,40の上端部に一体形成されており、それら一対の脚部40,40の上端部が梁部42によって相互に連結されている。なお、一対の脚部40,40と梁部42には、図13,14,17などに示すように、前後両端部と前後中間の一部において外方へ突出する補強壁体54が設けられており、それら一対の脚部40,40と梁部42の変形剛性の向上が図られている。
また、アッパ部材34は、図13,15〜17などに示すように、門形部38と一体の連結壁部56を備えている。連結壁部56は、上下に所定の幅をもって左右に延びる厚肉板状とされており、左右両端部が一対の脚部40,40の下端部の前面に繋がっていると共に、門形部38の前方開口(一方の開口)の下部が連結壁部56によって覆われている。更に、連結壁部56の上下幅は、門形部38の前方開口の上下高さよりも小さくされて、連結壁部56が梁部42に対して下方に離れて位置しており、それら連結壁部56と梁部42の間に窓部58が形成されている。
さらに、連結壁部56の上端部には、当接突部60が一体形成されている。当接突部60は、連結壁部56の左右中央部分から前方へ突出して、当接突部60の上面と連結壁部56の上面が略同一平面上で広がっている。本実施形態では、当接突部60の下面と連結壁部56の外面とを繋ぐ補強リブ62が形成されており、当接突部60の変形剛性が高められている。
また、一対の脚部40,40の上端部および梁部42には、規制壁部64が一体形成されている。規制壁部64は、門形部38の後方開口(他方の開口)の上部を覆うように設けられており、左右端部が一対の脚部40,40と一体で繋がっていると共に、上端部が梁部42と一体で繋がっている。なお、規制壁部64の上下寸法は、門形部38の後方開口の上下寸法よりも小さくされて、規制壁部64が一対の脚部40,40の下端まで達することなく上部に設けられており、後述するアッパ部材34とロア部材36の仮固定状態において、アッパ部材34の規制壁部64がロア部材36の突出部77(後述)に対して上方へ離れている。
一方、アウタ部材14のロア部材36は、図18〜20に示すように、鉄やアルミニウム合金などの金属製の板材をプレス加工することによって形成されたプレス加工品とされており、アッパ部材34に比して薄肉で軽量とされている。
また、ロア部材36は、アッパ部材34における一対の脚部40,40の下端部に跨って配設されており、アッパ部材34の梁部42と上下に対向する底蓋部66と、底蓋部66の左右両側の外方へ突出するロア締結片68,68とを、一体で備えている。底蓋部66は、略平板形状とされており、図7,8に示すように、後述する本体ゴム弾性体16の下面に重ね合わされるようになっている。ロア締結片68は、図18〜20に示すように、略平板形状とされており、上下に貫通する仮締結孔70と、上下に貫通するボルト孔72が形成されている。本実施形態のロア締結片68は、前端部が下方へ向けて湾曲していることによって、変形剛性の向上が図られている。
さらに、底蓋部66には、取付部74が一体形成されている。本実施形態の取付部74は、底蓋部66の前端部から下方へ延び出して形成されており、左右両端部には前後に貫通するボルト孔76がそれぞれ形成されている。なお、取付部74は、上下中間部分が段差状に折り曲げられることによって、曲げ変形剛性の向上が図られている。
更にまた、底蓋部66には、突出部77が一体形成されている。突出部77は、プレス加工によって底蓋部66の後端部から上方へ向けて突出するように一体形成されている。また、図8などに示すように、突出部77の上部が厚さ方向で湾曲せしめられており、突出部77の突出先端面が後方に向けられていると共に、突出部77の前端エッジ78が突出部77の基端部の前面よりも後方に位置している。本実施形態では、図19に示すように、底蓋部66の後端部に左右の切込み79,79が形成されて、それら切込み79,79の左右間に突出部77が形成されており、突出部77の左右端が底蓋部66から離れている。
そして、アッパ部材34とロア部材36は、上下に重ね合わされて相互に位置決めされることによって、アウタ部材14を構成している。即ち、ロア部材36のロア締結片68,68がアッパ部材34の脚部40,40に下方から重ね合わされて、アッパ締結片44,44に突設された仮締結突起46,46がロア締結片68,68に形成された仮締結孔70,70に嵌入されることにより、アッパ部材34とロア部材36が相互に位置決めされた状態で仮固定される。これにより、ロア部材36は、アッパ部材34における門形部38の下方を覆うように一対の脚部40,40に跨って配設されて、ロア部材36の底蓋部66がアッパ部材34の梁部42と上下に対向して配置されている。
ここにおいて、底蓋部66から上方へ突出するロア部材36の突出部77は、アッパ部材34の門形部38の後方開口内に突出しており、門形部38の後方開口(他方の開口)の下部を覆うように配設されて、アッパ部材34の連結壁部56と前後に対向して配置されている。これにより、アッパ部材34の梁部42とロア部材36の底蓋部66との上下対向間には、アッパ部材34の連結壁部56および一対の脚部40,40の保持突部50,50と、ロア部材36の突出部77とによって略全周に亘って囲まれた嵌着領域80が形成されている。本実施形態の嵌着領域80は、後述する本体ゴム弾性体16の下端部と対応する上下方向視で略四角形の空間とされているが、嵌着領域80の形や大きさは本体ゴム弾性体16の下端部の形状に応じて適宜に変更され得る。
なお、アッパ部材34とロア部材36の仮固定構造は、特に限定されるものではなく、例えば、アッパ部材34のアッパ締結片44に対してロア締結片68の仮締結孔70に対応する仮締結孔を形成し、それら締結孔に挿通される仮締結用のボルトによって仮固定することも可能である。更に、例えば、仮締結突起46を仮締結孔70よりも小径として、仮締結孔70に挿通された仮締結突起46の先端をかしめなどによって大径化して仮締結孔70の開口周縁部に係止させることにより仮固定することもできる。更にまた、ロア部材36のロア締結片68に上方へ向けて突出する仮締結突起を形成すると共に、アッパ部材34のアッパ締結片44に下方へ向けて開口する仮締結孔を形成して、ロア部材36の仮締結突起をアッパ部材34の仮締結孔に圧入乃至は挿入係止させることにより、アッパ部材34とロア部材36を仮固定することもできる。尤も、仮固定構造は、必ずしもアッパ部材34のアッパ締結片44とロア部材36のロア締結片68に設けられるものに限定されず、他の部位に設けることも可能である。また、本実施形態では、アウタ部材14の車両ボデー92(後述)への装着によってアッパ部材34とロア部材36が本固定されるようになっているが、車両に装着される前の単体状態においてアッパ部材34とロア部材36が本固定されるようにしても良い。
本体ゴム弾性体16は、図7,8に示すように、上下中間部分が上方に向けて次第に横断面が小さくなる略矩形錐台形状を有しており、上端部が略一定の外形で上下に延びるインナ嵌着部82とされていると共に、下端部がインナ嵌着部82よりも大きな略一定の外形で上下に延びるアウタ嵌着部84とされている。更に、本体ゴム弾性体16の中間部分には、前後に貫通する複数のばね調節孔86が貫通形成されており、本体ゴム弾性体16の上下、左右、前後の各ばね特性がばね調節孔86によって調節されている。本実施形態のばね調節孔86は前後に貫通しているが、本体ゴム弾性体16のばね特性の調節構造は必ずしも貫通孔に限定されるものではなく、前後何れかの面に開口する凹所によってばね特性を調節することもできる。更にまた、本体ゴム弾性体16のアウタ嵌着部84には、エア抜き溝88が形成されている。エア抜き溝88は、アウタ嵌着部84の前後端面および下面に連続して開口する溝であって、両端がばね調節孔86の一つに繋がっている。
この本体ゴム弾性体16には、インナ部材12とアウタ部材14が非接着で取り付けられており、それらインナ部材12とアウタ部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。
すなわち、本体ゴム弾性体16の上端部を構成するインナ嵌着部82が、インナ部材12に形成された取付凹所22に対して下方から差し入れられることにより、インナ部材12が本体ゴム弾性体16の上端部に非接着で取り付けられている。本実施形態では、取付凹所22が本体ゴム弾性体16のインナ嵌着部82よりも前後および左右で小さくされており、インナ部材12が本体ゴム弾性体16のインナ嵌着部82に非接着で嵌着されるようになっているが、インナ部材12は本体ゴム弾性体16に対して接着されていても良い。
一方、本体ゴム弾性体16の下端部を構成するアウタ嵌着部84には、ロア部材36をアウタ部材14のアッパ部材34が取り付けられる。即ち、本体ゴム弾性体16は、アッパ部材34における一対の脚部40,40の対向面間に下方から差し入れられて、アウタ嵌着部84が一対の脚部40,40に設けられた保持突部50,50の間に嵌め入れられると共に、インナ嵌着部82が保持突部50,50や連結壁部56よりも上方に位置せしめられる。
さらに、アッパ部材34に対してロア部材36が仮固定されることにより、アウタ部材14が本体ゴム弾性体16に取り付けられる。即ち、ロア部材36がアッパ部材34に対して仮固定されることにより、本体ゴム弾性体16のアウタ嵌着部84の下面がロア部材36の底蓋部66によって覆われると共に、アウタ嵌着部84の後面がロア部材36の突出部77によって覆われる。これにより、本体ゴム弾性体16がアッパ部材34の梁部42とロア部材36の底蓋部66の上下対向間に配設されて、本体ゴム弾性体16のアッパ部材34から下方への抜けが底蓋部66によって防止されると共に、本体ゴム弾性体16のアウタ嵌着部84が、アッパ部材34の一対の脚部40,40および連結壁部56とロア部材36の突出部77とによって囲まれた嵌着領域80に非接着で保持される。
本実施形態では、ロア部材36の突出部77の突出先端部分が、図8に示すように、突出先端側へ行くに従って本体ゴム弾性体16から離れるように後方へ湾曲しており、突出部77の前端エッジ78が本体ゴム弾性体16に接触し難くなっている。これにより、突出部77の前端エッジ78の接触によって本体ゴム弾性体16に亀裂などが生じるのを防ぐことができて、耐久性および信頼性の向上が図られる。
また、本体ゴム弾性体16の上端部に取り付けられたインナ部材12は、門形部38の前方開口を構成する窓部58に挿通されて、門形部38よりも前方へ突出している。これにより、インナ部材12の締結部20が門形部38を前方へ外れて配置されていると共に、インナ部材12の嵌合部18がアウタ部材14の連結壁部56に対して上方に対向配置されている。
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント10では、アウタ部材14において本体ゴム弾性体16のアウタ嵌着部84を囲んで保持する部分が、型成形品からなるアッパ部材34の一対の脚部40,40および連結壁部56と、プレス加工品からなるロア部材36の突出部77とによって構成されている。これにより、アウタ部材14において本体ゴム弾性体16のアウタ嵌着部84を囲んで保持する部分が、全周に亘って型成形されたアッパ部材で構成される構造に比して、アウタ部材14の軽量化が図られる。
しかも、アウタ部材14のアッパ部材34では、一対の脚部40,40の下端部が連結壁部56によってつながれていることから、一対の脚部40,40を含む門形部38が連結壁部56によって補強されて門形部38の変形剛性が十分に確保される。それ故、インナ部材12との当接によって後述するストッパを構成するアッパ部材34の耐荷重性を十分に得ることができて、耐久性の向上や安定したストッパ作用の発揮などが実現される。
また、アウタ部材14において本体ゴム弾性体16のアウタ嵌着部84を囲んで保持する部分が、周方向の一部をロア部材36の突出部77で構成されていることから、ロア部材36を仮固定する前のアッパ部材34に対して本体ゴム弾性体16を取り付ける際に、アッパ部材34における本体ゴム弾性体16の配設領域が、下方だけでなく後方へも開放されている。それ故、アッパ部材34における本体ゴム弾性体16の配設領域へ本体ゴム弾性体16を挿入し易くなると共に、配設領域内での本体ゴム弾性体16の位置の調節作業なども容易になる。
特に本実施形態では、インナ部材12の取付凹所22に本体ゴム弾性体16の上端部(インナ嵌着部82)を嵌め入れることにより、インナ部材12が本体ゴム弾性体16に取り付けられることから、アッパ部材34の窓部58に対して前方から挿通されたインナ部材12の取付凹所22に対して、アッパ部材34の下方から挿入される本体ゴム弾性体16の位置を合わせる必要がある。ここにおいて、本体ゴム弾性体16の下端部(アウタ嵌着部84)を囲んで保持するアッパ部材34の下端部が、下方だけでなく後方にも開放されていることから、本体ゴム弾性体16の位置の調節が容易であって、本体ゴム弾性体16のインナ嵌着部82をインナ部材12の取付凹所22に嵌め入れる作業も行い易い。
また、一対の脚部40,40には、対向方向内方へ突出する保持突部50,50が一体形成されており、それら保持突部50,50の間で本体ゴム弾性体16のアウタ嵌着部84が保持されている。これにより、本体ゴム弾性体16の左右方向のサイズと、一対の脚部40,40における保持突部50,50を除く部分の左右方向の距離とを、必ずしも一致させることなく、所定の自由度でそれぞれ独立して設定することが可能となる。それ故、車両への取付位置や左右ストッパの特性およびクリアランスなどを考慮して一対の脚部40,40の距離を設定しながら、要求されるばね特性などに応じて本体ゴム弾性体16の形状や大きさを設定することができる。
また、ロア部材36の後端部に突出部77が形成されていると共に、アウタ部材14において本体ゴム弾性体16のアウタ嵌着部84の前面を保持する部分が、アッパ部材34の連結壁部56で構成されることから、ロア部材36の前端部には、本体ゴム弾性体16のアウタ嵌着部84を保持するための構造は必要なく、後述する車両ボデー92に対する取付構造を備えた取付部74を設けることが可能とされている。なお、取付部74の具体的な形状や車両ボデー92に対する締結構造などは、特に限定されるものではなく、車両ボデー92側の構造などに応じて適宜に変更され得る。
なお、かくの如き構造とされたエンジンマウント10は、図6に示すように、インナ部材12が、振動伝達系を構成する一方の部材であるパワーユニット90に対して、締結部20のボルト孔32に挿通される図示しないボルトによって固定される。更に、エンジンマウント10は、アウタ部材14が、振動伝達系を構成する他方の部材である車両ボデー92に対して、締結片44,68のボルト孔48,72に挿通される図示しないボルトと、取付部74のボルト孔76に挿通される図示しないボルトとによって固定される。これらにより、エンジンマウント10は、パワーユニット90と車両ボデー92の間に介装されて、それらパワーユニット90と車両ボデー92を相互に防振連結するようになっている。更に、エンジンマウント10の車両への装着状態において、アウタ部材14の締結片44,68のボルト孔48,72に挿通される図示しないボルトが車両ボデー92に螺着されることにより、アッパ部材34とロア部材36がボルトによって相互に本固定されるようになっている。
そして、このような車両に対するエンジンマウント10の装着状態において、インナ部材12とアウタ部材14の間に振動が入力されると、本体ゴム弾性体16の弾性変形時の内部摩擦などによって、目的とする防振効果が発揮されるようになっている。なお、エンジンマウント10の車両に対する装着状態での向きは、特に限定されるものではなく、例えば、エンジンマウント10の前後方向が車両の前後方向とされていても良いし、エンジンマウント10の前後方向が車両の左右方向とされていても良い。
また、エンジンマウント10では、複数方向のストッパによってインナ部材12とアウタ部材14の相対的な変位量が制限されている。即ち、インナ部材12の嵌合部18とアウタ部材14の梁部42が上下方向で当接することによって、インナ部材12のアウタ部材14に対する上方への相対変位量を制限するリバウンドストッパが構成される。更に、インナ部材12の嵌合部18とアウタ部材14の連結壁部56が上下方向で当接することによって、インナ部材12のアウタ部材14に対する下方への相対変位量を制限するバウンドストッパが構成される。更に、インナ部材12の嵌合部18とアウタ部材14の脚部40が左右方向で当接することによって、インナ部材12のアウタ部材14に対する左右への相対変位量を制限する左右ストッパが構成される。更に、インナ部材12の嵌合部18とアウタ部材14の規制壁部64が前後方向で当接することによって、インナ部材12のアウタ部材14に対する後方への相対変位量を制限する後方ストッパが構成される。
このように、各方向のストッパは、インナ部材12とアッパ部材34の当接によって構成されるようになっており、アッパ部材34が型成形によって厚肉且つ高剛性とされていることにより、目的とするストッパ作用の安定した発揮や耐久性の向上などが図られる。
特に、バウンドストッパは、本体ゴム弾性体16のアウタ嵌着部84を保持する機能やアッパ部材34の変形剛性を高める機能などを有する連結壁部56を上手く利用して構成されることから、アッパ部材34の重量の増加や構造の複雑化を防ぎながら、目的とするストッパ作用を得ることができる。加えて、本実施形態の連結壁部56の上端部には、前方へ突出する当接突部60が一体形成されており、連結壁部56の上面と当接突部60の上面が協働してバウンドストッパの当接面を構成することから、ストッパ荷重に対してより優れた耐荷重性能が発揮され得る。
なお、本実施形態では、インナ部材12の嵌合部18に緩衝ゴム24が取り付けられていることにより、上記各ストッパにおいてインナ部材12の嵌合部18とアウタ部材14のアッパ部材34が緩衝ゴム24を介して当接するようになっている。これにより、インナ部材12とアウタ部材14の当接時に生じる衝撃や打音が低減されて、車両の静粛性や乗り心地などの向上が実現される。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ロア部材36において、ロア締結片68や取付部74の具体的な構造は、車両ボデー92側の構造などに応じて適宜に変更され得る。
また、前記実施形態では、一対の脚部40,40に設けられた保持突部50,50の間で本体ゴム弾性体16の下端部が挟持されていたが、保持突部50は必須ではなく、一対の脚部40,40の対向内面によって直接保持されていても良い。
また、本体ゴム弾性体16の下端部は、必ずしもアウタ部材14によって前後左右で挟まれている必要はなく、アウタ部材14に対する前後および左右の移動量が制限されていれば良い。具体的には、例えば、本体ゴム弾性体16の下端部が一対の脚部40,40によって左右方向で挟持されていると共に、本体ゴム弾性体16の下端部が連結壁部56とロア部材36の突出部77との間に前後で挟み込まれることなく配設されて、本体ゴム弾性体16の前後方向の移動量が連結壁部56および突出部77への当接によって制限されることで、本体ゴム弾性体16が所定の位置に非接着で保持されるようにしても良い。更に、一対の脚部40,40によって挟持されず且つ連結壁部56と突出部77の間で挟持されるようになっていても良いことや、一対の脚部40,40の間および連結壁部56と突出部77の間の何れにおいても挟持されないようになっていても良いことは、言うまでもない。なお、本体ゴム弾性体16の下端部のアウタ部材14に対する前後および左右の移動量は、嵌着領域80内で5mm以下に制限されることが望ましい。
また、前記実施形態では、後方ストッパを構成する規制壁部64が設けられているが、規制壁部64は必須ではなく、例えば、複数の防振装置が車両に装着されて、他の防振装置のストッパによってインナ部材12のアウタ部材14に対する後方への変位量が制限されている場合などには、規制壁部64および後方ストッパを省略することもでき得る。更に、規制壁部64は、前記実施形態のように、一対の脚部40,40と梁部42に跨って設けられていることが望ましいが、例えば、一対の脚部40,40と梁部42の何れか一方だけにつながるように設けられていても良い。具体的には、例えば、規制壁部64は、左右両端部が一対の脚部40,40と一体形成されていると共に、上端部が梁部42に対して下方へ離れるようにも設けられ得る。
前記実施形態におけるインナ部材の本体ゴム弾性体への取付構造は、あくまでも例示であって、適宜に変更され得る。具体的には、例えば、本体ゴム弾性体16の上端部に対して前後に開口する筒状の嵌着金具が加硫接着されていると共に、前記実施形態のインナ部材12に相当する締結金具がアウタ部材14の門形部38の開口に挿通されて、該締結金具が該嵌着金具に圧入固定されることにより、それら嵌着金具と締結金具によって構成されたインナ部材が本体ゴム弾性体16に取り付けられるようになっていても良い。また、インナ部材は、アウタ部材14の窓部58に挿通される構造に必ずしも限定されない。
本発明の適用範囲は、エンジンマウントに限定されるものではなく、サブフレームマウントやデフマウントなどにも適用され得る。更に、本発明に係る防振装置は、自動車に好適に適用される他、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両などにも適用可能である。