以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
1.第1の実施形態
まず、図1を参照して、本発明の各実施形態に係る車両1000の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る車両1000を示す模式図である。図1に示すように、車両1000は、前輪100,102、後輪104,106、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれを駆動する駆動力発生装置(モータ)108,110,112,114、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれの車輪速を検出する車輪速センサ116,118,120,122、ステアリングホイール124、舵角センサ130、パワーステアリング機構140、ヨーレートセンサ150、加速度センサ160、外界認識部170、制御装置(コントローラ)200を有して構成されている。
車両1000は、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれを駆動するためにモータ108,110,112,114が設けられている。このため、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれで駆動トルクを制御することができる。従って、前輪100,102の操舵によるヨーレート発生とは独立して、前輪100,102及び後輪104,106のそれぞれを駆動することで、トルクベクタリング制御によりヨーレートを発生させることができる。特に、本実施形態では、後輪104,106のトルクを個別に制御することで、ハンドル操舵系とは独立してヨーレートを発生させる。後輪104,106は、制御装置200の指令に基づき、後輪104,106に対応するモータ112,114が制御されることで、駆動トルクが制御される。
パワーステアリング機構140は、ドライバーによるステアリングホイール124の操作に応じて、トルク制御又は角度制御により前輪100,102の舵角を制御する。舵角センサ130は、運転者がステアリングホイール124を操作して入力した舵角θHを検出する。ヨーレートセンサ150は、車両1000の実ヨーレートγを検出する。車輪速センサ116,118,120,122は、車両1000の車両速度Vを検出する。
なお、本実施形態はこの形態に限られることなく、前輪100,102を駆動するモータ108,102が設けられておらず、後輪104,106のみがモータ112,114で独立して駆動力を発生する車両であっても良い。また、本実施形態は、駆動力制御によるトルクベクタリングに限定されるものではなく、後輪の舵角を制御する4WSのシステム等においても実現可能である。
図2は、車両1000が行う旋回制御を示す模式図であって、操舵による旋回制御(操安制御)を示す模式図である。操舵による旋回制御では、ドライバーによるステアリングホイール124の操作に応じて後輪104,106に駆動力差を生じさせることで、車両1000の旋回を支援する。図2に示す例では、ドライバー(運転者)の操舵により車両1000が左に旋回している。また、後輪104,106の駆動力差によって、右側の後輪106に前向きの駆動力を発生させ、左側の後輪104には右側の後輪106に対して駆動力を抑制、または後ろ向きに駆動力を発生させることで、左右に駆動力差を発生させ、左回りの旋回を支援する方向にモーメントを発生させている。
本実施形態では、車両の駆動力制御において、車両速度Vと操舵量θHから求まる制御目標ヨーレートと、車両規範モデルとセンサ検出値から求まるフィードバックヨーレートの差分からヨーレート補正量(Δγ_Tgt)を算出し、その補正量に基づき車両挙動を修正する車両制御を行う。この際、ヨーレート補正量の微分値から慣性補償モーメントを算出するモードと、車両旋回時において車両に付与される横滑り角に基づき前後の位相差を加味した慣性補償モーメントを算出するモードを、舵角速度によって切り替える。これにより、緩やかな旋回時における自転制御と、急操舵時における緊急回避時における前後輪の同位相制御を両立させ、操舵フィーリングを大幅に向上させる。以下、詳細に説明する。なお、舵角速度の替わりに、規範モデルから求まる基準横加速度の微分値の大小や、加速度センサで検出する横加速度の微分値に基づいてモードを切り替えても良い
図3は、第1の実施形態の制御装置200の構成を示す模式図である。制御装置200は、車載センサ210、制御目標ヨーレート演算部220、減算部224,226、基準横滑り角演算部230、フィードバックヨーレート演算部240、車両モデル250、横滑り角算出部260、制御目標モーメント演算部270、モータ要求トルク演算部290、を有している。
また、制御目標モーメント演算部270は、減衰制御モーメント演算部(定常項)272、舵角速度算出部274、第1慣性補償モーメント演算部(過渡項)276、第2慣性補償モーメント演算部(過渡項)278、目標慣性補償モーメント演算部(過渡項)280、加算部282、横滑り角参照値算出部284を有して構成されている。
図4は、本実施形態で行われる基本的な処理を示すフローチャートである。先ず。ステップS10では、車両モデル224から求まるヨーレートモデル値γ_clcとヨーレートセンサ150が検出した実ヨーレートγとの差分(ヨーレート偏差)γ_diffを算出する。次のステップS12では、γ_diffに基づいてγ_clcとγを配分し、フィードバックヨーレートγ_F/Bを算出する。次のステップS14では、制御目標ヨーレートγ_Tgtを算出する。次のステップS16では、制御目標ヨーレートγ_Tgtとフィードバックヨーレートγ_F/Bとの差分であるヨーレート補正量γ_ΔTgtを算出する。次のステップS18では、基準横滑り角βfStd,βrStdを算出する。次のステップS20では、車両横滑り角βf_ref,βr_refを算出する。次のステップS22では、目標減衰モーメントMgDampTgtを算出する。次のステップS24では、第1慣性補償モーメントMgTrans1を算出する。次のステップS26では、第2慣性補償モーメントMgTrans2を算出する。次のステップS28では、制御目標モーメントMgTgtを算出する。
図5及び図6は、制御装置200で行われる処理を説明するための模式図である。なお、図5及び図6は、図3と同様に制御装置200の構成要素を示すとともに、各構成要素が行う処理を詳細に示したものである。また、図5は制御目標モーメント演算部270よりも前段の処理を示しており、図6は制御目標モーメント演算部270及びその後段の処理を示している。以下では、図3〜図6に基づいて、図4に示した制御装置200で行われる処理について詳細に説明する。
車載センサ210は、上述した舵角センサ130、ヨーレートセンサ150、加速度センサ160、車輪速センサ116,118,120,122を含む。制御目標ヨーレート演算部220は、一般的な平面2輪モデルを表す以下の式(1)から操安制御用目標ヨーレートγ_Tgtを算出する。制御目標ヨーレート演算部220は、式(2)に基づいて、舵角θHをステアリングギア比Ghで除算することでタイヤ舵角δを算出し、舵角θHと車両速度Vと制御目標スタビリティファクタSfTgtを参照し、式(1)から車両の旋回支援制御に必要な制御目標ヨーレートγ_Tgtを算出する。
なお、式(1)〜式(3)において、変数、定数は以下の通りである。
<変数>
γ:車両ヨーレート
V:車両速度
δ:タイヤ舵角
θH:ハンドル操舵角
<定数>
l:車両ホイールベース
lf:車両重心点から前輪中心までの距離
lr:車両重心点から後輪中心までの距離
m:車両重量
Kf:コーナリングパワー(フロント)
Kr:コーナリングパワー(リア)
Gh:ハンドル操舵角θHからタイヤ舵角δへの変換ゲイン(ステアリングギヤ比)
制御用目標ヨーレートγ_Tgtは、車両速度V、及びタイヤ舵角δを変数として、式(1)から算出される。式(1)のタイヤ舵角δは、ハンドル操舵角とステアリングギヤ比と前記タイヤ舵角の関係を表す式(2)から算出する。なお、ステアリングの運動モデルに基づいてタイヤ舵角δを算出しても良い。式(1)において、制御目標スタビリティファクタSfTgtは、車両の特性に基づいて式(3)から算出することができる。制御目標ヨーレート演算部220は、式(2)から算出したタイヤ舵角δを用いて、(1)式から制御用目標ヨーレートγ_Tgtを算出する。制御用目標ヨーレートγ_Tgtは、減算部224へ入力される。
一方、車両モデル250は、車両速度Vと舵角θHに基づいて、車両の挙動を模擬した車両モデル(以下の式(4)、式(5))を参照し、式(4)、式(5)のγをヨーレートモデル値γ_mdlとして算出する。具体的には、以下の式(4)、式(5)へ車両速度V、ステアリングの操舵角θHを代入し、式(4)、式(5)を連立して解くことで、ヨーレートモデル値γ_mdl(式(4)、式(5)におけるγ)を算出する。なお、式(4)、式(5)から式(1)を導出することができるため、車両モデル250は、操舵角θHと車両速度Vとに基づき、制御用目標ヨーレート演算部222と同様の手法により車両モデルの式(1)からヨーレートモデル値γ_mdlを算出しても良い。
なお、式(4)〜式(5)において、Iは車両のヨー慣性、βは車両の横滑り角である。コーナーリングフォースについては、実車相当のパラメータKf,Krのみならず、ヨーレートの制御目標値で参照されるコーナーリングフォースKfTgt,KrTgtを用いても良い。
ヨーレートモデル値γ_mdlはフィードバックヨーレート演算部240へ入力される。また、ヨーレートセンサ150が検出した車両1000の実ヨーレートγもフィードバックヨーレート演算部240へ入力される。
減算部226は、以下の式(6)に基づいて、ヨーレートモデル値γ_mdlから実ヨーレートγを減算し、ヨーレートモデル値γ_mdlと実ヨーレートγとの差分(偏差)γ_diffを求める。差分γ_diffは、フィードバックヨーレート演算部240へ入力される。差分γ_diffは、車両モデルと実車挙動との乖離度合(モデル信頼度)を判別する指標となる。また、差分γ_diffは路面状況を表すパラメータに相当するため、減算部226は路面状況を表すパラメータを取得する構成要素に相当する。
以上にようにして、フィードバックヨーレート演算部240には、ヨーレートモデル値γ_mdl、実ヨーレートγ、差分γ_diffが入力される。なお、実ヨーレートγとしては、ヨーレートセンサ150の検出値にフィルタ処理を行ったものを用いても良い。フィードバックヨーレート演算部240は、ヨーレートモデル値γ_mdlと実ヨーレートγとの差分γ_diffに基づいて、差分γ_diffに応じて変化する重み付けゲインκを算出する。そして、フィードバックヨーレート演算部240は、以下の式(7)に基づき、ヨーレートモデル値γ_mdlと実ヨーレートγを重み付けゲインκによって重み付けし、フィードバックヨーレートγ_F/Bを算出する。算出されたフィードバックヨーレートγ_F/Bは、減算部224へ入力される。
γ_F/B=κ×γ_mdl+(1−κ)×γ ・・・・(7)
図7は、フィードバックヨーレート演算部240が重み付けゲインκを算出する際のゲインマップを示す模式図である。図7に示すように、重み付けゲインκの値は、車両モデル250の信頼度に応じて0から1の間で可変する。車両モデル250の信頼度を図る指標として、ヨーレートモデル値γ_mdlと実ヨーレートγとの差分(偏差)γ_diffを用いる。図7に示すように、差分γ_diffの絶対値が小さい程、重み付けゲインκの値が大きくなるようにゲインマップが設定されている。フィードバックヨーレート演算部232は、差分γ_diffに図7のマップ処理を施し、車両モデル250の信頼度に応じた重み付けゲインκを演算する。
図7において、TH1_Pは重み付けゲインκの切り替えのしきい値(+側)、TH2_Pは重み付けゲインκの切り替えしきい値(+側)、TH1_Mは重み付けゲインκの切り替えしきい値(−側)、TH2_Mは重み付けゲインκの切り替えしきい値(−側)、をそれぞれ示している。なお、+側のしきい値の大小関係はTH1_P<TH2_Pとし、−側のしきい値の大小関係はTH1_M>TH2_Mとする。
図7において、TH1_Pは重み付けゲインκの切り替えのしきい値(+側)、TH2_Pは重み付けゲインκの切り替えしきい値(+側)、TH1_Mは重み付けゲインκの切り替えしきい値(−側)、TH2_Mは重み付けゲインκの切り替えしきい値(−側)、をそれぞれ示している。なお、+側のしきい値の大小関係はTH1_P<TH2_Pとし、−側のしきい値の大小関係はTH1_M>TH2_Mとする。
図7に示すゲインマップの領域A1は、差分γ_diffが0に近づく領域であり、S/N比が小さい領域や、タイヤ特性が線形の領域であり、車両モデル250から算出されるヨーレートモデル値γ_mdlの信頼性が高い。このため、重み付けゲインκ=1として、式(7)よりヨーレートモデル値γ_mdlの配分を100%としてフィードバックヨーレートγ_F/Bが演算される。これにより、実ヨーレートγに含まれるヨーレートセンサ150のノイズの影響を抑止することができ、フィードバックヨーレートγ_F/Bからセンサノイズを排除することができる。従って、車両1000の振動を抑制して乗り心地を向上することができる。
特に、運転支援制御では、車両1000がコーナーに進入する前の直進状態から、推定走行路に基づいて車両1000が旋回する量を予見的に制御する。従って、車両1000の旋回時のみならず、車両1000の直進状態においても、センサノイズの影響を排除することで、車両1000に振動を生じさせることなく、安定して直進させることが可能である。
このように、ヨーレートモデル値γ_mdlの信頼度が高い領域は、差分γ_diffと走行状況から指定することができる。図7に示したように、ドライ路面(高μ)走行時であり、かつ転舵量が小さい場面(低曲率での旋回など)においては、重み付けゲインκが1となる様に差分γ_diffと重み付けゲインκを関係づけることが、マップによる係数設定の一例として想定される。なお、上述した平面2輪モデルは、タイヤの横滑り角と横加速度との関係(タイヤのコーナーリング特性)が線形である領域を想定している。タイヤのコーナーリング特性が非線形になる領域では、実車のヨーレートが舵角に対して非線形になり、平面2輪モデルと実車でセンシングされるヨーレートとが乖離する。このため、タイヤの非線形性を考慮したモデルを使用すると、ヨーレートに基づく制御が煩雑になるが、本実施形態によれば、ヨーレートモデル値γ_mdlの信頼度を差分γ_diffに基づいて容易に判定することが可能である。
また、図7に示すゲインマップの領域A2は、差分γ_diffが大きくなる領域であり、ウェット路面走行時、雪道走行時、または高Gがかかる旋回時などに相当し、タイヤが滑っている限界領域である。この領域では、車両モデル250から算出されるヨーレートモデル値γ_mdlの信頼性が低くなり、差分γ_diffがより大きくなる。このため、重み付けゲインκ=0として、式(8)より実ヨーレートγの配分を100%としてフィードバックヨーレートγ_F/Bが演算される。これにより、実ヨーレートγに基づいてフィードバックの精度を確保し、実車の挙動を反映したヨーレートのフィードバック制御が行われる。従って、実ヨーレートγに基づいて車両1000の旋回を最適に制御することができる。また、タイヤが滑っている領域であるため、ヨーレートセンサ150の信号にノイズの影響が生じていたとしても、車両1000の振動としてドライバーが感じることはなく、乗り心地の低下も抑止できる。図7に示す低μの領域A2の設定については、設計要件から重み付けゲインκ=0となる領域を決めても良いし、低μ路面を実際に車両1000が走行した時の操縦安定性能、乗り心地等から実験的に決めても良い。
また、図7に示すゲインマップの領域A3は、線形領域から限界領域へ遷移する領域(非線形領域)であり、実車である車両1000のタイヤ特性も必要に応じて考慮して、ヨーレートモデル値γ_mdlと実ヨーレートγの配分(重み付けゲインκ)を線形に変化させる。領域A1(高μ域)から領域A2(低μ域)への遷移、ないし領域A2(低μ域)から領域A1(高μ域)へ遷移する領域においては、重み付けゲインκの急変に伴うトルク変動、ヨーレートの変動を抑えるため、線形補間で重み付けゲインκを演算する。
また、図7に示すゲインマップの領域A4は、実ヨーレートγの方が実ヨーレートモデル値γ_mdlよりも大きい場合に相当する。例えば、車両モデル250に誤ったパラメータが入力されてヨーレートモデル値γ_mdlが誤計算された場合等においては、領域A4のマップにより実ヨーレートγを用いて制御を行うことができる。更に、領域A4のマップによれば、実ヨーレートγの位相遅れに起因して、一時的にヨーレートモデル値γ_mdlが実ヨーレートγよりも小さくなった場合においても、実ヨーレートγを用いて制御を行うことができる。なお、重み付けゲインκの範囲は0〜1の間に限定されるものではなく、車両制御として成立する範囲であれば任意の値を取れる様に構成を変更することも、本発明の技術で成し得る範疇に入る。
減算部224には、制御目標ヨーレート演算部220から制御目標ヨーレートγ_Tgtが入力され、フィードバックヨーレート演算部240からフィードバックヨーレートγ_F/Bが入力される。減算部224は、制御目標ヨーレートγ_Tgtからフィードバックヨーレートγ_F/Bを減算し、γ_Tgtとγ_F/Bとの差分(車両1000に付与するヨーレート補正量(目標値))Δγ_Tgtを求める。すなわち、差分Δγ_Tgtは、以下の式(8)から算出される。差分Δγ_Tgtは、制御目標モーメント演算部270の第1制御目標モーメント演算部276へ出力される。
基準横滑り角演算部230は、車両速度Vと舵角θHに基づいて、上述した目標スタビリティファクタSfTgtに相当する諸元(KfTgt、KrTgt)を反映した車両モデルを参照し、以下の式(9)、式(10)で表されるモデルのβを車両重心位置の基準横滑り角β_Stdとして算出する。ここで、式(9)、式(10)のγとして、制御目標ヨーレート演算部220が算出したγ_Tgtが入力される。ここで算出される基準横滑り角β_Stdは車両の重心位置の横滑り角である。
また、基準横滑り角演算部230は、以下の式(11)、式(12)に基づいて、基準横滑り角β_Std、目標ヨーレートγ_Tgtと車両速度、舵角θH、車両諸元を参照し、前後タイヤ位置相当の基準横滑り角(βf_Std、βr_Std)を算出する。ここで、βf_Stdは前輪位置相当での基準横滑り角であり、βr_Stdは後輪位置相当での基準横滑り角である。基準横滑り角は、前後輪の制御量の位相を変えるため、前後タイヤ位置相当でそれぞれ算出される。
式(12)に示されるように、後輪位置相当での基準横滑り角βr_Stdには、タイヤ舵角δの項が含まれていないため、操舵によるタイヤ舵角δが反映されない値である。このため、前輪位置相当での基準横滑り角βf_Stdに対して、後輪位置相当での基準横滑り角βr_Stdが発生するタイミングは遅くなる。
一方、車両モデル250は、車両速度V、舵角θHに基づいて、上述した式(4)、式(5)の車両モデル(制御無し相当)を参照する。この際、式(4)、式(5)のγとして、ヨーレートモデル値γ_mdlが算出され、同じく式(4)、式(5)のβとして、横滑り角モデル値β_mdlを算出する。ここで算出される横滑り角モデル値β_mdlは車両の重心位置相当の横滑り角であり、制御目標モーメント演算部270の横滑り角参照値算出部284へ入力される。
また、横滑り角算出部260は、加速度センサ160から取得した横加速度Gyと、実ヨーレートγと車両速度Vに基づいて、以下の式(13)から、車両重心位置相当の横滑り角β_clcを算出する。車両重心位置相当の横滑り角β_clcは、制御目標モーメント演算部270の横滑り角参照値算出部284へ入力される。
また、ヨーレートモデル値γ_mdl、舵角θH、車両速度V、実ヨーレートγも、横滑り角参照値算出部284へ入力される。横滑り角参照値算出部284は、横滑り角モデル値β_mdl、ヨーレートモデル値γ_mdl、車両速度V、舵角θH、車両諸元を参照し、以下の式(14)、式(15)に基づいて、前後タイヤ位置相当の横滑り角モデル値βf_mdl,βr_mdlを算出する。ここで、βf_mdlは前輪位置相当での横滑り角モデル値であり、βr_mdlは後輪位置相当での横滑り角モデル値である。
式(15)に示されるように、後輪位置相当での横滑り角モデル値βr_mdlには、タイヤ舵角δの項が含まれず、タイヤ舵角δから算出される横滑り角モデル値β_mdlとヨーレートモデル値γ_mdlに連動している状態量である。このため、前輪位置相当での横滑り角モデル値βf_mdlに対して、後輪位置相当での横滑り角モデル値βr_mdlが発生するタイミングは遅くなる。
また、横滑り角参照値算出部284は、横滑り角β_clc、実ヨーレートγ、車両速度V、舵角θHを参照し、以下の式(16)、式(17)に基づいて、前後タイヤ位置相当の横滑り角βf_clc,βr_clcを算出する。上述したように、横滑り角β_clcは加速度センサ160から取得した横加速度Gyに基づいて算出される。従って、βf_clcは前輪位置相当でセンサ値から計算した横滑り角となり、βr_clcは後輪位置相当でセンサ値から計算した横滑り角となる。
式(17)に示されるように、後輪位置相当での横滑り角βr_clcには、タイヤ舵角δの項が含まれず、式(13)で算出される横滑り角β_clcと実ヨーレートγに連動している状態量である。このため、前輪位置相当での横滑り角βf_clcに対して、後輪位置相当での横滑り角βr_clcが発生するタイミングは遅くなる。
また、横滑り角参照値算出部284は、以下の式(18)に基づいて、横滑り角モデル値βf_mdlとセンサ値から計算した横滑り角βf_clcの差分から前輪横滑り角偏差βf_diffを算出し、前輪位置の横滑り角における車両モデルと実車挙動との乖離度を判別する指標とする。
また、横滑り角参照値算出部284は、前輪横滑り角偏差βf_diffを入力とするマップを使用して、重みづけゲインτfを算出する。図8は、重みづけゲインτfを算出するマップを示す模式図である。図8において、領域A5は、車両モデルと実車挙動が整合する領域であり(高μ、通常域)であり、βf_ref=βf_mdlとなる領域である。また、領域A7は車両モデルと実車挙動が整合しない領域(低μ、限界域)であり、βf_ref=βf_clcとなる領域である。また、領域A6は通常域から限界域へ遷移する領域であり、βf_mdlとβf_clcの配分をマップの傾きに応じて算出する領域である。
図8に示すように、|βf_diff|が所定の閾値TH1の範囲内の時は、車両モデル250の信頼度が高いと判別してτf=1とするとともに、|βf_diff|が所定の閾値TH2よりも大きい場合は、車両モデル250の信頼度が低いと判別してτf=0とする。一方で、TH1<|βf_diff|<TH2の範囲では、横滑り角モデル値と横滑り角モデル値βf_clcの乖離度合(モデル信頼度)に応じて、0と1の間でτfを線形補間する。
また、横滑り角参照値算出部284は、以下の式(19)に基づいて、横滑り角モデル値βf_mdlとセンサ値から計算した横滑り角βf_clcを重みづけゲインτfを用いて配分し、後輪横滑り角の参照値βf_refとして算出する。
また、横滑り角参照値算出部284は、以下の式(20)に基づいて、横滑り角モデル値βr_mdlとセンサ値から計算した横滑り角βr_clcの差分から後輪横滑り角偏差βr_diffを算出し、後輪位置の横滑り角における車両モデルと実車挙動との乖離度を判定する指標とする。
また、横滑り角参照値算出部284は、後輪横滑り角偏差βr_diffを入力とするマップを使用して、重みづけゲインτrを算出する。図9は、重みづけゲインτrを算出するマップを示す模式図である。図9において、領域A8は、車両モデルと実車挙動が整合する領域であり(高μ、通常域)であり、βr_ref=βr_mdlとなる領域である。また、領域A10は車両モデルと実車挙動が整合しない領域(低μ、限界域)であり、βr_ref=βr_clcとなる領域である。また、領域A9は通常域から限界域へ遷移する領域であり、βr_mdlとβr_clcの配分をマップの傾きに応じて算出する領域である。図9に示すように、|βr_diff|が所定の閾値TH1の範囲内の時は、車両モデル250の信頼度が高いと判別してτr=1とするとともに、|βr_diff|が所定の閾値TH2よりも大きい場合は、車両モデル250の信頼度が低いと判別してτr=0とする。一方で、TH1<|βf_diff|<TH2の範囲では、横滑り角モデル値βr_mdlとセンサ値から計算した横滑り角βr_clcの乖離度合(モデル信頼度)に応じて、0と1の間で重みづけゲインτrを線形補間する。
また、横滑り角参照値算出部284は、以下の式(21)に基づいて、横滑り角モデル値βr_mdlとセンサ値から計算した横滑り角βr_clcを重みづけゲインτrを用いて配分し、後輪横滑り角の参照値βr_refとして算出する。
基準横滑り角β_Std、横滑り角モデル値β_mdl、横滑り角センサ算出値β_clcに基づいて、前後輪位置での横滑り角が算出される。本実施形態では、この特性を利用して第2慣性補償モーメントMgTrans2を算出し、操舵速度θvに基づいて第1慣性補償モーメントMgTrans1との重み付けを行うことで、急操舵時の旋回性能と、緩操舵時のドライビングフィーリングとを両立させる。
一方、制御目標モーメント演算部270の減衰制御モーメント演算部(定常項)272は、公知の車両モデルの自転運動に関する式を整理した式において、ヨーレートに掛かる係数を基準とした係数D1に差分Δγ_Tgtを乗算することで、制御で参照する目標減衰モーメントMgDampTgtを算出する。ここで、係数D1は、一例として以下の(22)式でγに掛かっている2/V(lf 2Kf−lr 2Kr)に基づく値である。
すなわち、目標減衰モーメントMgDampTgtは、以下の式(23)から算出される。
また、制御目標モーメント演算部270の第1慣性補償モーメント演算部(過渡項)276は、公知の車両モデルの自転運動に関する式を整理した式において、ヨー加速度に掛かる係数を基準とした係数T1に、ヨーレート補正量Δγ_Tgtの微分値(d(Δγ_Tgt)/dt)を乗算し、制御で参照する第1慣性補償モーメントMgTrans1を算出する。すなわち、第1慣性補償モーメントMgTrans1は、以下の式(24)から算出される。第1慣性補償モーメントMgTrans1は、前後輪で同位相(同一)の値として算出される。第1慣性補償モーメントモーメントMgTrans1の算出時には、ヨーレート補正量Δγ_Tgtの微分値の代わりに、ヨー加速度のモデル値とヨー加速度のセンサ検出値の差分を参照して、制御量を算出してもよい。
また、制御目標モーメント演算部270の第2慣性補償モーメント演算部(過渡項)278は、車両モデルにおいて、前後タイヤ位置相当の横滑り角、車両モデルとヨーモーメントとの関係性を利用し、以下の式(25)〜(27)に基づいて、制御オフ(OFF)時の車両諸元に相当する前輪位置での慣性モーメントの参照値MgTrans_ref_Frと後輪位置での慣性補償モーメントの参照値MgTrans_ref_Rrをそれぞれ算出する。ここで算出される前輪位置での慣性モーメントの参照値MgTrans_ref_Frと後輪位置での慣性補償モーメントの参照値MgTrans_ref_Rrは、式(19)で算出した前輪相当の横滑り角参照値βf_ref、式(21)で算出した後輪相当の横滑り角参照値βr_refの各々から算出される値である。
なお、上式において、式(25)はヨーモーメントと横滑り角の関係式である。また、式(26)は前輪に作用する慣性モーメント(前輪横滑り角の参照値βf_refに相当する慣性モーメント)であり、式(27)は後輪に作用する慣性モーメント(後輪横滑り角の参照値βr_refに相当する慣性モーメント)である。
また、第2慣性補償モーメント演算部(過渡項)278は、車両モデルで、前後タイヤ位置相当の横滑り角、車両モデルとヨーモーメントとの関係性を利用し、目標スタビリティファクタSfTgtに相当する横滑り角基準値βf_Stdから算出した前輪位置での慣性補償モーメントから、前輪位置での慣性モーメントの参照値MgTrans_ref_Frの差分を取った第2慣性補償モーメントMgTrans2_Frを算出する。また、第2慣性補償モーメント演算部(過渡項)278は、目標スタビリティファクタSfTgtに相当する横滑り角基準値βr_Stdから算出した後輪位置での慣性補償モーメントから、後輪位置での慣性モーメントの参照値MgTrans_ref_Frの差分を取った第2慣性補償モーメントMgTrans2_Rrを算出する。このように、横滑り角基準値に基づくモーメントと実機相当の横滑り角に基づくモーメントとの差分をとることで、目標となる慣性補償モーメントを算出することができる。すなわち、第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr、第2慣性補償モーメントMgTrans2_Rrは、以下の式(28)〜(30)から算出される。
なお、上式において、式(28)はヨーモーメントと横滑り角の関係式(SfTgt相当)である。また、式(29)は前輪分の第2慣性補償モーメントMgTrans2_Frの算出式であり、式(30)は後輪分の第2慣性補償モーメントMgTrans2_Rrの算出式である。また、βf_Stdは前輪の横滑り角(SfTgt相当)であり、βr_Stdは後輪の横滑り角(SfTgt相当)である。
以上のように、第2慣性補償モーメント演算部(過渡項)278は、制御モデルに基づく基準横滑り角βf_Stdとβr_Stdから算出されるモーメントと、車両モデル(制御オフ相当)が算出した値とセンサ値に基づく横滑り角参照値βf_refとβr_refから算出されるモーメントとの差分から、前後の第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrを算出する。ここで算出される第2慣性補償モーメントMgTrans2_Frと第2慣性補償モーメントMgTrans2_Rrは、前後輪の位相差に応じた値であり、第2慣性補償モーメント演算部(過渡項)278は前後輪の位相差に応じた慣性補償制御を行う機能を有する。
舵角速度算出部274は、以下の式(31)に基づいて、舵角センサ130から取得した舵角のセンサ値(θH)を微分し、舵角速度θvを算出する。
目標慣性補償モーメント演算部(過渡項)280は、舵角速度算出部274が算出した舵角速度θvを入力とするマップを用いて、慣性補償モーメント重み付け用のゲインGainθvを算出する。図10は、ゲインGainθvを算出するためのマップを示す模式図である。なお、重み付けを行う指標として用いている舵角速度θvについては、舵角の微分値のみならず、センサから直接検出した値を用いても良い。
そして、目標慣性補償モーメント演算部(過渡項)280は、以下の式(32)に基づいて、MgTrans1とMgTrans2_Frを、Gainθvに基づいて配分したものを、前輪位置相当の目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frとして算出する。また、目標慣性補償モーメント演算部(過渡項)280は、以下の式(33)に基づいて、MgTrans1とMgTrans2_Rrを、Gainθvに基づいて配分したものを、後輪位置相当の目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrとして算出する。
なお、第1慣性補償モーメントMgTrans1については、係数D1に(1/2)を乗算して前後それぞれ半分ずつの出力にする等、車両制御が成り立つ範囲内であれば、任意の値を乗じて補正しても良い。
図10に示すように、基本的には舵角速度θvの絶対値が大きくなる程、ゲインGainθvの値が大きくなり、目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frまたは目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrにおける第1慣性補償モーメントMgTrans1の配分が大きくなる。ここで、第1慣性補償モーメントMgTrans1は、ヨーレート補正量Δγ_Tgtの微分値(d(Δγ_Tgt)/dt)にIを乗算して得られるモーメントであり、前後輪(MgTransTgt_FrとMgTransTgt_Rr)で同一の値として計算されるため、前後輪に均等にかかるモーメントとして算出される。従って、舵角速度θvが大きい場合は、前後輪で同一な値である第1慣性補償モーメントMgTrans1の割合を大きくすることで、急なハンドル操作に対応した緊急回避性能を重視することができ、急旋回を確実に行うことが可能となる。
一方、舵角速度θvの絶対値が小さくなる程、ゲインGainθvの値が小さくなり、目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frまたは目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrにおける第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrの配分が大きくなる。ここで、第2慣性補償モーメントMgTrans2_Frは、タイヤ前輪位置相当の基準横滑り角βf_Stdから求まる状態量と、タイヤ前輪位置相当の横滑り角モデル値βf_mdlと式(19)で算出した前輪相当の横滑り角βf_clcの差分(モデル信頼度)によって按分される横滑り角参照値βf_refから求まる状態量との差分から算出される状態量であり,MgTrans2_Rrは、タイヤ後輪位置相当の基準横滑り角βr_Stdから求まる状態量と、タイヤ前輪位置相当の横滑り角モデル値βf_mdlと式(19)で算出した前輪相当の横滑り角βf_clcの差分(モデル信頼度)によって按分される横滑り角参照値βf_refから求まる状態量との差分から算出される状態量である。
そして、制御で用いる基準横滑り角は、式(11)、式(12)から明らかなように前後(βf_Stdとβr_Std)で作用する項が変化している。式(11)、式(12)に示すように、βf_Stdとβr_Stdに位相差がつく要因としては、前輪の横滑り角が、ハンドル操舵に連動して発生する舵角に加え、舵角に連動して発生する車両重心位置の横滑り角と、同じく舵角に連動して発生するヨーレートが作用し発生する一方で、後輪の横滑り角が、ドライバ入力である舵角が直接作用せず、舵角に連動して発生する現象(車両の横滑り、ヨー運動)が作用し発生するメカニズムの違い(2WS)が挙げられる。同様に、横滑り角参照値についても、横滑り角参照値の元となる横滑り角モデル値が、式(14)、式(15)から明らかなように前後(βf_mdlとβr_mdl)で作用する項が変化している。式(14)、式(15)に示すように、βf_mdlとβr_mdlに位相差がつく要因としては、前輪の横滑り角が、ハンドル操舵に連動して発生する舵角に加え、舵角に連動して発生する車両重心位置の横滑り角と、同じく舵角に連動して発生するヨーレートが作用し発生する一方で、後輪の横滑り角が、ドライバ入力である舵角が直接作用せず、舵角に連動して発生する現象(車両の横滑り、ヨー運動)が作用し発生するメカニズムの違い(2WS)が挙げられる。
これにより、舵角速度θvが小さい場合は、前後輪で差が生じる第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrの配分を増加させることで、車両の自転を促進することができ、操舵に対する車両1000の旋回フィーリングをより自然なフィーリングにすることが可能である。なお、第1慣性補償モーメントと第2慣性補償モーメントの重み付けを行う指標として、車両規範モデルから求まる規範横加速度の微分値(Gy_mdl_Dot)や加速度センサが検知した横加速度を微分した値、ヨーレートセンサが検知したヨーレートを微分した値やロール速度など、操舵によって発生する車両挙動に関連するパラメータを採用しても良い。ロール速度は、例えばサスペンションのストロークを検出することで求めることができる。
重みづけ処理による目標慣性補償モーメントの算出に関して、重みづけ処理単独での処理する実施形態以外にも、第1慣性補償モーメントと第2慣性補償モーメントに対して、レートリミッタによる徐変処理や、波形の急変を防ぐためのフィルタ処理を施したパラメータを、目標慣性補償モーメントとして採用しても良い。
なお、原則として舵角速度θvの絶対値が小さくなるほど、ゲインGainθvの値が小さくなるようにゲインGainθvの値を設定するが、舵角速度θvが0近傍の場合は、横滑り角のドリフトによる制御量の発散を防ぐため、図10のTH2_M〜TH2_Pの区間に示すように、第1慣性補償モーメントMgTrans1の配分が多くなるように重みづけゲインの値を大きくする。なお、舵角センサ130から直接的に舵角速度θvを取得して、上記の処理を行ってもよい。また、図10のマップは一例であって、車両制御を行う上で破綻しない範囲内であれば、マップも含め他のアルゴリズムで処理を代替することも可能である。
加算部282は、目標減衰モーメントMgDampTgtと目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frまたは目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrのそれぞれを加算して、車両1000へ付与する制御目標モーメントとして、前後輪の制御目標モーメントMgTgt_Fr,MgTgt_Rrを算出する。目標減衰モーメントMgDampTgt及び第1慣性補償モーメントMgTrans1は、制御目標値であるγ_Tgtと実際の車両挙動に相当するγ_F/Bとの差分Δγ_Tgtから算出される。また、第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrも、制御目標値である基準横滑り角βf_Std,βr_Stdから求まるモーメントと実際の車両挙動に相当する滑り角βf_ref,βr_refから求まるモーメントとの差分から算出される。従って、目標減衰モーメントMgDampTgtと目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frまたは目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrのそれぞれを加算することで、車両1000へ付与する制御目標モーメントMgTgt_Fr,MgTgt_Rrを算出することができる。
モータ要求トルク演算部290は、目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frに基づいて前輪のモータ108,110の要求トルクを算出し、制御目標モーメントMgTgt_Rrに基づいて前輪のモータ112,114の要求トルクを算出する。各モータ108,110,112,114は要求トルクに基づいて制御される。
次に、図11〜図14に基づいて、本実施形態の制御を実施した場合に得られる効果について説明する。ここでは、図11に示す舵角θH及び舵角速度θvでハンドル操作を行った場合の車両挙動について説明する。図11〜図14において、時間軸は対応している。図11に示すハンドル操作では、車速一定の条件のもと、ダブルレーンチェンジ(隣の車線にレーンチェンジを行った後、元の車線に戻る)を行っている。舵角速度θvは、図10において、TH4_M<θv<TH4_Pとする。
図12は、図11に示す舵角θH及び舵角速度θvでハンドル操作を行った場合に、図10に示したゲインGainθvが変化する様子を示す特性図である。図12の領域A20に示すように、舵角速度θvがTH2_MからTH3_Mの範囲内では、ゲインGainθvの値が0となり、第2慣性補償モーメントの配分が100%となる。また、図12の領域A21に示すように、舵角速度θvがTH3_PからTH4_Pの範囲内では、閾値からの乖離度合に応じて、ゲインGainθvが重みづけされる。
図13は、図11に示す舵角θH及び舵角速度θvでハンドル操作を行った場合に、目標慣性補償モーメント、及び制御目標モーメントが変化する様子を示す特性図である。図13において、細線の特性は第1慣性補償モーメントMgTrans1のみを用いた従来の制御を示しており、太線の特性は第1慣性補償モーメントMgTrans1と第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrを用いた本実施形態の制御を示している。
先ず、目標慣性補償モーメントに関しては、図13の領域A22、領域A23に示すように、本実施形態の制御では、従来の制御に比べて、操舵切り返し時に過渡的な挙動を抑制する目標慣性補償モーメントが発生していることが判る。
次に、制御目標モーメントに関しても、図13の領域A24、領域A25に示すように、本実施形態の制御では、従来の制御に比べて、操舵切り返し時に過渡的な挙動を抑制する制御目標モーメントが発生していることが判る。
次に、図11に示す舵角θH及び舵角速度θvでハンドル操作を行った場合に、ヨーレート、横加速度、横変位量が変化する様子を図14に示す。図14において、細線の特性は第1慣性補償モーメントMgTrans1のみを用いた従来の制御を示しており、太線の特性は第1慣性補償モーメントMgTrans1と第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrを用いた本実施形態の制御を示している。
先ず、ヨーレートに関しては、図14の領域A30に示すように、従来の制御に比べて本実施形態の制御では操舵切り返し時のオーバーシュートが低減していることが判る。また、領域A31に示すように、本実施形態の制御では、緩操舵時のヨーの変化が従来のヨーモーメントの制御に比べ緩やかになっている。
次に、横加速度に関しても、図14の領域A32に示すように、従来の制御に比べて本実施形態の制御では操舵切り返し時のオーバーシュートが低減していることが判る。領域A33に示すように、本実施形態の制御では、緩操舵時の横加速度の変化が従来のヨーモーメントの制御に比べ緩やかになっている。
次に、走行時の横変位量の変化に関しては、図14の領域A34及びA35に示すように、本実施形態の制御では、操舵切り返し時の車両軌跡の変化と緩操舵時の横加速度の変化が従来のヨーモーメント制御に比べて緩やかになっていることが判る。
以上のように、本実施形態の制御によれば、第2目標モーメントへの配分が決まる舵角速度では、操舵に伴う車両挙動の急変が抑制され、違和感の低減にもつながる。
次に、図15〜図18に基づいて、本実施形態の制御を実施した場合に得られる効果について説明する。ここでは、図15に示す舵角θH及び舵角速度θvでハンドル操作を行った場合の車両挙動について説明する。図15〜図18において、時間軸は対応している。図15に示すハンドル操作では、車速一定の条件のもと、ダブルレーンチェンジ(隣の車線にレーンチェンジを行った後、元の車線に戻る)を行っている。このダブルレーンチェンジでは、1回目のレーンチェンジで、MgTrans1が100%となる急操舵を入力している。1回目のレーンチェンジの舵角速度θvは、θv<TH4_M、θv<TH4_Pで入力し、2回目のレーンチェンジの舵角速度θvは、図11と同様にTH4_M<θv<TH4_Pとする。
図16は、図15に示す舵角θH及び舵角速度θvでハンドル操作を行った場合に、図10に示したゲインGainθvが変化する様子を示す特性図である。図16の領域A40に示すように、舵角速度θvが|TH4_P|又は|TH4_M|以上となる範囲では、ゲインGainθvの値が1となり、第1慣性補償モーメントMgTrans1の配分が100%となる。また、図16の領域A41に示すように、舵角速度θvがTH3_PからTH4_Pの範囲内では、閾値からの乖離度合に応じて、ゲインGainθvが重みづけされる。
図17は、図15に示す舵角θH及び舵角速度θvでハンドル操作を行った場合に、目標慣性補償モーメント、及び制御目標モーメントが変化する様子を示す特性図である。図17において、細線の特性は第1慣性補償モーメントMgTrans1のみを用いた従来の制御を示しており、太線の特性は第1慣性補償モーメントMgTrans1と第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrを用いた本実施形態の制御を示している。
先ず、目標慣性補償モーメントに関しては、図17の領域A42に示すように、急操舵を伴う旋回時には、従来のヨーモーメント制御と同等レベルの目標慣性補償モーメントが発生する。また、図17の領域A43に示すように、緩やかな操舵を与えた際には、過渡の旋回を抑えた指示値として目標慣性補償モーメントを算出する。
次に、制御目標モーメントに関しても、図17の領域A44に示すように、急操舵を伴う旋回時には、従来のヨーモーメント制御と同等レベルの制御目標モーメントが発生する。また、図17の領域A45に示すように、緩やかな操舵を与えた際には、過渡の旋回を抑えた指示値として制御目標モーメントを算出する。
次に、図15に示す舵角θH及び舵角速度θvでハンドル操作を行った場合に、ヨーレート、横加速度、横変位量が変化する様子を図18に示す。図18において、細線の特性は第1慣性補償モーメントMgTrans1のみを用いた従来の制御を示しており、太線の特性は第1慣性補償モーメントMgTrans1と第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrを用いた本実施形態の制御を示している。
先ず、ヨーレートに関しては、図18の領域A50に示すように、急操舵時には従来制御と同じ旋回性能が確保される。一方、図18の領域A51に示すように、緩操舵時にはヨーの急な変化が抑えられている。
次に、横加速度に関しても、図18の領域A52に示すように、急操舵時には従来制御と同じ旋回性能が確保される。一方、図18の領域A53に示すように、緩操舵時には横加速度の急な変化が抑えられている。
次に、走行時の横変位量の変化に関しても、図18の領域A54に示すように、急操舵時には従来制御と同じ車両軌跡が確保される。一方、図18の領域A55に示すように、緩操舵時には車両軌跡の急な変化が抑えられている。
以上のように、本実施形態の制御によれば、第1目標モーメントの配分が100%となる舵角速度θvでは、従来の制御と同程度の移動量を確保できる一方、舵角速度θvが緩やかな領域では、従来の制御に比べ車両の挙動が緩やかになり、制御に伴う違和感を低減できる。
以上説明したように第1の実施形態によれば、舵角速度θvの絶対値が大きくなる程、目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frまたは目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrにおける第1慣性補償モーメントMgTrans1の配分を大きくする制御が行われる。第1慣性補償モーメントMgTrans1は、前後輪で同一の値として計算されるため、急なハンドル操作に対応した急旋回を確実に行うことが可能となる。
また、舵角速度θvの絶対値が小さくなる程、目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frまたは目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrにおける第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrの配分を大きくする制御が行われる。ここで、第2慣性補償モーメントMgTrans2_FrとMgTrans2_Rrは、タイヤ舵角δに応じて前後で差が設けられている。従って、舵角速度θvが小さい場合は、前後輪で差が生じる第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrの配分を増加させることで、操舵に対する車両1000の旋回フィーリングをより自然なフィーリングにすることが可能である。
2.第2の実施形態
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態で説明した第1慣性補償モーメントMgTrans1と第1の実施形態で算出した目標慣性補償モーメントMgTransTgtに相当する第3慣性補償モーメントMgTrans3を、路面の滑り易さに応じて配分することで、本実施形態における目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Fr、MgTransTgt_Rrを算出する。この際、低μであるほど第1慣性補償モーメントMgTrans1の配分を大きくして目標慣性補償モーメントMgTransTgtを算出する。
なお、前述の第3慣性補償モーメントMgTrans3については、第1の実施形態同様、舵角速度θvに応じて第1慣性補償モーメントMgTrans1と第2慣性補償モーメントMgTrans2を按分した状態量を第3慣性補償モーメントMgTrans3_Fr、MgTrans3_Rrを算出する。舵角速度θvの絶対値が小さくなる程、第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr、MgTrans2_Rrの配分を高める一方、舵角速度θvの絶対値が大きくなる程、MgTrans1の配分を高める制御を行う。その後、ヨーレート補正量Δγ_Tgt絶対値の大小に応じて、前述の第1慣性補償モーメントと前述の第3慣性補償モーメントの按分を行う。Δγ_Tgtの絶対値が所定の閾値よりも小さい場合は、目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frまたは目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrにおける第3慣性補償モーメントMgTrans3の配分を大きくする制御が行われる。これにより、特に低μ時に緩やかに操舵が行われる場合において、ドライバが操舵する方向から外れることなく車両を旋回させることが可能となり、低μ時の旋回性能を高めて車両挙動を安定させることができる。以下、詳細に説明する。
図19は、第2の実施形態に係る制御装置200の構成を示す模式図である。第2の実施形態に係る制御装置200は、第1の実施形態の制御装置200に対して、第3慣性補償モーメント演算部285が追加されている。また、第2の実施形態の制御装置200は、第1の実施形態の目標慣性モーメント演算部280の代わりに、目標慣性モーメント演算部286を備えている。第2の実施形態の目標慣性モーメント演算部286は、その機能が第1の実施形態の目標慣性モーメント演算部280と相違している。目標慣性モーメントMgTgtを算出する目標慣性モーメント算出部は、第3慣性補償モーメント演算部285と目標慣性モーメント演算部286から構成される。
図20は、本実施形態で行われる基本的な処理を示すフローチャートである。図20に示す処理では、図4に示した第1の実施形態の処理に対して、ステップS26とステップS28の間に第3慣性補償モーメントMgTrans3を算出するステップS27が追加されている。
図21及び図22は、制御装置200で行われる処理を説明するための模式図である。なお、図21及び図22は、図19と同様に制御装置200の構成要素を示すとともに、各構成要素が行う処理を詳細に示したものである。また、図21は制御目標モーメント演算部270よりも前段の処理を示しており、図22は制御目標モーメント演算部270及びその後段の処理を示している。以下では、図19〜図22に基づいて、図4に示した制御装置200で行われる処理について詳細に説明する。
図19において、第3慣性補償モーメント演算部285は、第1の実施形態の目標慣性補償モーメント演算部(過渡項)280と同様の処理を行い、前輪位置相当の目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frと、後輪位置相当の目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrとを算出する。第3慣性補償モーメント演算部285は、目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frを第3慣性補償モーメントMgTrans3_Frとして出力し、目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrを第3慣性補償モーメントMgTrans3_Rrとして出力する。
第3慣性補償モーメント演算部285が出力した第3慣性補償モーメントMgTrans3_Frと第3慣性補償モーメントMgTrans3_Rrは、目標慣性モーメント演算部286へ入力される。また、目標慣性モーメント演算部286には、Δγ_Tgtが入力される。目標慣性モーメント演算部286は、ヨーレート補正量Δγ_Tgtに基づいて、慣性補償モーメント重み付け用の重み付けゲインGainΔγ_Tgtを算出する。
図23は、目標慣性モーメント演算部286が重み付けゲインGainΔγ_Tgtを算出する際に用いるマップを示す模式図である。重み付けゲインGainΔγ_Tgtの値は、Δγ_Tgtの値に応じて可変する。一例として、重み付けゲインGainΔγ_Tgtの値は、Δγ_Tgtの値に応じて0から1の間で可変する。
図23において、TH1_Pは重み付けゲインGainΔγ_Tgtの切り替えのしきい値(+側)、TH2_Pは重み付けゲインGainΔγ_Tgtの切り替えしきい値(+側)、TH3_Pは重み付けゲインGainΔγ_Tgtの切り替えしきい値(+側)、TH4_Pは重み付けゲインGainΔγ_Tgtの切り替えしきい値(+側)、をそれぞれ示している。また、TH1_Mは重み付けゲインGainΔγ_Tgtの切り替えしきい値(−側)、TH2_Mは重み付けゲインGainΔγ_Tgtの切り替えしきい値(−側)、TH3_Mは重み付けゲインGainΔγ_Tgtの切り替えしきい値(−側)、TH4_Mは重み付けゲインGainΔγ_Tgtの切り替えしきい値(−側)、をそれぞれ示している。なお、+側のしきい値の大小関係はTH1_P<TH2_P<TH3_P<TH4_Pとし、−側のしきい値の大小関係はTH1_M>TH2_M>TH3_M>TH4_Mとする。なお、図23に示すように、Δγ_Tgtが0近傍の値の場合は、算出した横滑り角等による制御量のドリフトや発散を防ぐため、重み付けゲインの値を0よりも大きな値に設定しても良い。これにより、後述するように目標慣性補償モーメントMgTransTgtが第1慣性補償モーメントMgTrans1寄りに配分される。
なお、図23では、Δγ_Tgtの絶対値が増加するとGainΔγ_Tgtの値が増加する一方で、Δγ_Tgtの値が0近傍に近づくとGainΔγ_Tgtの値が低下するようにマップが構成されているが、Δγ_Tgtの絶対値が増加するとGainΔγ_Tgtの値が減少する一方で、Δγ_Tgtの値が0近傍に近づくとGainΔγ_Tgtの値が増加するようにマップを構成しても良く、車両制御が破綻しない範囲内であれば、任意の定数を設定することができる。
目標慣性モーメント演算部286は、以下の式(34)に基づいて、第1慣性補償モーメントMgTrans1と第3慣性補償モーメントMgTrans3_Frを、GainΔγ_Tgtに基づいて配分したものを、前輪位置相当の目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frとして算出する。また、目標慣性モーメント演算部286は、以下の式(35)に基づいて、第1慣性補償モーメントMgTrans1と第3慣性補償モーメントMgTrans3_Rrを、GainΔγ_Tgtに基づいて配分したものを、後輪位置相当の目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrとして算出する。
第1の実施形態と同様、加算部282は、目標減衰モーメントMgDampTgtと目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frまたは目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Rrのそれぞれを加算して、車両1000へ付与する制御目標モーメントとして、前後輪の制御目標モーメントMgTgt_Fr,MgTgt_Rrを算出する。すなわち、前輪の制御目標モーメントMgTgt_Frは以下の(36)式から算出され、後輪の制御目標モーメントMgTgt_Rrは、以下の(37)式から算出される。
第2の実施形態によれば、第1慣性補償モーメントMgTrans1と第3慣性補償モーメントMgTrans3_Frを、GainΔγ_Tgtに基づいて配分したものを、前輪位置相当の目標慣性補償モーメントMgTransTgt_Frとして算出する。この際、ヨーレート補正量Δγ_Tgtの絶対値が大きい程、γ_Tgtとγ_F/Bとの乖離が大きく、自転運動に関して車両挙動を補正する必要性が高まっている状態を示している。これは、路面状態が低μであっても、ヨーレート補正量Δγ_Tgtの絶対値が大きい場合は、GainΔγ_Tgtの値を低下させる制御を行うことを示している。これにより、前後輪の制御目標モーメントMgTgt_Fr,MgTgt_Rrのそれぞれにおいて、第1慣性補償モーメントMgTrans1の配分が大きくなるため、前後輪が同じタイミングで駆動力制御を行うことを示している。従って、低μ路面での車両1000の挙動の安定性を高めることができ、操舵に応じた方向へ車両1000を走行させることが可能となる。
また、ヨーレート補正量Δγ_Tgtの絶対値が小さい場合は、γ_Tgtとγ_F/Bとの差が小さく、自転運動に関して車両挙動を補正する必要性が高まっていない状態を示している。これは、路面状態が低μであっても、ヨーレート補正量Δγ_Tgtの絶対値が小さい場合は、GainΔγ_Tgtの値を増加させる制御を行うことを示している。これにより、前後輪の制御目標モーメントMgTgt_Fr,MgTgt_Rrのそれぞれにおいて、第3慣性補償モーメントMgTrans3_Fr,MgTrans3_Rrの配分が大きくなるため、操舵に伴う前後輪の位相差を考慮した駆動力制御を行うことを示している。従って、高μ路面も含め車両1000の取り回し性能(旋回性能)を向上させることが可能となる。
従って、第2の実施形態によれば、低μ路面における車両の安定性能と、高μ路面における車両の取り回し性能も両立させることが可能となる。
なお、ヨーレート基準で重み付けを行う指標として用いたヨーレート補正量Δγ_Tgtの替わりに、ヨーレートモデル値γ_mdlと実ヨーレートγの差分から求められるヨーレート偏差γ_diffを用いて、(34)式、(35)式で用いる重み付けゲインを算出しても良い。この場合、偏差γ_diffが大きいほど低μとなるため、重み付けゲインを大きくする。
また、ヨーレート補正量Δγ_Tgt基準で算出する上記の重みづけゲインは、ヨーレート補正量が中立点(図23に示すTH2_P〜TH3_P、TH3_M〜TH2_M)近傍の場合のみ第1慣性補償モーメントMgTrans1への配分を大きくし、ヨーレート補正量が中立点近傍から離れた値を取る場合は、第3慣性補償モーメントMgTrans3への配分を大きくしても良い。
重み付け処理による目標慣性補償モーメントの算出に関して、重みづけ処理を単独で処理する実施形態以外にも、第1慣性補償モーメントと第2慣性補償モーメント、および第3慣性補償モーメントに対して、レートリミッタによる徐変処理や、波形の急変を防ぐためのフィルタ処理を施したパラメータを、目標慣性補償モーメントの演算で使用しても良い。
次に、図24〜図31に基づいて、本実施形態の制御を実施した場合に得られる効果について説明する。ここでは、図11に示す舵角θH及び舵角速度θvでハンドル操作を行った場合の車両挙動について説明する。
図24は、図11に示すハンドル操作を行った場合に、舵角速度θvによる重み付けゲインGainθvが変化する様子を示す特性図である。ここでは、時刻5近傍で路面状態が高μから低μに変化するものとし、一例としてμが1.0から0.2へ変化した場合の特性を示す。重み付けゲインGainθvが大きいほど第1慣性補償モーメントMgTrans1の配分が大きくなり、重み付けゲインGainθvが小さいほど第2慣性補償モーメントMgTrans2の配分が大きくなる。
図24に示すように、舵角速度θvにより重み付けゲインGainθvを決定し、第1慣性補償モーメントMgTrans1と第2慣性補償モーメントMgTrans2の重みづけを実施し、第3慣性補償モーメントMgTrans3を算出する。そして、操舵状態に応じて、旋回時における前後モータの作動タイミングを調整する。
図25は、図24に示す状況において、ヨーレート補正量Δγ_Tgtによる重み付けゲインGainΔγ_Tgtが変化する様子を示す特性図である。重み付けゲインGainΔγ_Tgtが大きいほど第3慣性補償モーメントMgTrans3の配分が大きくなり、重み付けゲインGainΔγ_Tgtが小さいほど第1慣性補償モーメントMgTrans1の配分が大きくなる。
図25に示すように、ヨーレート補正量Δγ_Tgtにより、第1慣性補償モーメントMgTrans1と第3慣性補償モーメントMgTrans3の重みづけを実施し、MgTransTgtを算出する。重み付けゲインGainΔγ_Tgtによる重みづけも併用することで、低μ路面で操舵が0deg近辺の時の偏走防止や、操舵入力した際に車両モデルと実車挙動の乖離が大きくなる領域での安定性能を、第1慣性補償モーメントMgTrans1で実現することができる。一方、低μ路面でも操舵中のモデル値と実車挙動との乖離が少ない領域では第3慣性補償モーメントMgTrans3の配分を高めることで、低μ路面での安定性能と高μ路面での取り回し性能の両立を図ることができる。
図26は、図24に示す状況において、高域から低μ域に遷移した際の本実施形態の効果を示す特性図であって、制御目標モーメント(フロント、リアの合算値)の変化を示している。実線は本実施形態の制御を、破線はMgTrans1のみを目標慣性補償モーメントMgTransTgtとした場合の制御を、一点鎖線はMgTrans2のみを目標慣性補償モーメントMgTransTgtとした場合の制御を、それぞれ示している。舵角速度θvとヨーレート補正量Δγ_Tgtによる重み付けを併用し、図26の領域A61では、MgTransTgt=MgTrans3となり、第3慣性補償モーメントMgTrans3の重みが100%となる。従って、高μ、かつ緩操舵時は、第3慣性補償モーメントMgTrans3の重みを増加させ、ハンドルの切り始めに伴う振動を従来制御よりも抑制することができる。
また、舵角速度θvとヨーレート補正量Δγ_Tgtによる重み付けを併用し、図26の領域A62では、MgTransTgt=MgTrans1となり、第1慣性補償モーメントMgTrans1の重みが100%となる。従って、高μ、かつ急操舵時は、第1慣性補償モーメントMgTrans1の重みを増加させ、車両の応答性能を確保することができる。
また、図27は、図24に示す状況において、低μ域から高μ域に遷移した際の本実施形態の効果を示す特性図であって、横方向への移動量の変化を示している。実線は本実施形態の制御を、破線はMgTrans1のみを目標慣性補償モーメントMgTransTgtとした場合の制御を、一点鎖線はMgTrans2のみを目標慣性補償モーメントMgTransTgtとした場合の制御を、それぞれ示している。舵角速度θvとヨーレート補正量Δγ_Tgtによる重み付けを併用し、図27の領域A71では、MgTransTgt=MgTrans3となり、第3慣性補償モーメントMgTrans3の重みが100%となる。従って、第3慣性補償モーメントMgTrans3の重みを増加させることで、横方向への移動量の変化を緩やかにすることができる。
また、舵角速度θvとヨーレート補正量Δγ_Tgtによる重み付けを併用し、図27の領域A72では、MgTransTgt=MgTrans1となり、第1慣性補償モーメントMgTrans1の重みが100%となる。従って、高μ、かつ急操舵時は、第1慣性補償モーメントMgTrans1の重みを増加させ、車両の応答性能を確保することができる。
また、図26の領域A63において、破線の特性では、舵角速度θvのみの重みづけにより、θH=0近傍で、制御量がドリフトしている。このため、図27のA73において、破線の特性では、車両が偏走していることが判る。
これに対し、図26の領域A64において、実線の特性では、舵角速度θvのみの重みづけにより、θH=0近傍で、制御量が収束している。このため、図27のA74において、実線の特性では、操舵に対して車両挙動が収束していることが判る。
以上のように、舵角速度θvとヨーレート補正量を併用して制御目標モーメントの重みづけを行うことで、μの変化に対する安定性の確保と操舵に伴う車両挙動が急変する現象の抑制を両立することができる。
図28は、図11に示すハンドル操作を行った場合に、舵角速度θvによる重み付けゲインGainθvが変化する様子を示す特性図である。ここでは、時刻5近傍で路面状態が低μから高μに変化するものとし、一例としてμが0.2から1.0へ変化した場合の特性を示す。重み付けゲインGainθvが大きいほど第1慣性補償モーメントMgTrans1の配分が大きくなり、重み付けゲインGainθvが小さいほど第2慣性補償モーメントMgTrans2の配分が大きくなる。
図28に示すように、舵角速度θvにより重み付けゲインGainθvを決定し、第1慣性補償モーメントMgTrans1と第2慣性補償モーメントMgTrans2の重みづけを実施し、第3慣性補償モーメントMgTrans3を算出する。そして、操舵状態に応じて、旋回時における前後モータの作動タイミングを調整する。
図29は、図28に示す状況において、ヨーレート補正量Δγ_Tgtによる重み付けゲインGainΔγ_Tgtが変化する様子を示す特性図である。重み付けゲインGainΔγ_Tgtが大きいほど第3慣性補償モーメントMgTrans3の配分が大きくなり、重み付けゲインGainΔγ_Tgtが小さいほど第1慣性補償モーメントMgTrans1の配分が大きくなる。
図29に示すように、ヨーレート補正量Δγ_Tgtにより、第1慣性補償モーメントMgTrans1と第3慣性補償モーメントMgTrans3の重みづけを実施し、MgTransTgtを算出する。重み付けゲインGainΔγ_Tgtによる重みづけも併用することで、低μ路面で操舵が0deg近辺の時の偏走防止や、操舵入力した際に車両モデルと実車挙動の乖離が大きくなる領域での安定性能を、第1慣性補償モーメントMgTrans1で実現することができる。一方、低μ路面でも操舵中のモデル値と実車挙動との乖離が少ない領域では第3慣性補償モーメントMgTrans3の配分を高めることで、低μ路面での安定性能と高μ路面での取り回し性能の両立を図ることができる。
図30は、図28に示す状況において、低μ域から高μ域に遷移した際の本実施形態の効果を示す特性図であって、制御目標モーメント(フロント、リアの合算値)の変化を示している。実線は本実施形態の制御を、破線はMgTrans1のみを目標慣性補償モーメントMgTransTgtとした場合の制御を、一点鎖線はMgTrans2のみを目標慣性補償モーメントMgTransTgtとした場合の制御を、それぞれ示している。本実施形態によれば、舵角速度θvとヨーレート補正量Δγ_Tgtによる重み付けを併用し、実線の特性に示すように、図30の領域A81では、MgTransTgtの振動が抑制されている。また、図30の領域A82では、実線の特性に示すように、操舵角0の近傍でMgTransTgtの制御量が0近傍に収束している。また、図30の領域A83では、実線の特性に示すように、MgTransTgt=MgTrans2となり、第2慣性補償モーメントMgTrans2の重みが100%となる。従って、第1慣性補償モーメントMgTrans1の重みが100%の場合に比べ、操舵切り返し時の振動が抑えられ、車両挙動が安定していることが判る。
一方、MgTrans1のみを使用した制御、MgTrans2のみを使用した制御制御では、図30の領域A82において、破線、一点鎖線の特性に示すように、舵角速度θvのみの重みづけを行った場合、θH=0近傍で制御量がドリフトしていることが判る。
また、図31は、図28に示す状況において、低μ域から高μ域に遷移した際の本実施形態の効果を示す特性図であって、横方向への移動量の変化を示している。実線は本実施形態の制御を、破線はMgTrans1のみを目標慣性補償モーメントMgTransTgtとした場合の制御を、一点鎖線はMgTrans2のみを目標慣性補償モーメントMgTransTgtとした場合の制御を、それぞれ示している。舵角速度θvとヨーレート補正量Δγ_Tgtによる重み付けを併用し、図31の領域A91では、MgTransTgt=MgTrans2となり、第2慣性補償モーメントMgTrans2の重みが100%となる。従って、第1慣性補償モーメントMgTrans1の重みが100%の場合に比べ、操舵切り返し時の振動が抑えられ、車両挙動が安定していることが判る。
また、図31の領域A92では、舵角速度θv、ヨーレート補正量Δγ_Tgtによる重み付けにより、θH=0近傍で、横方向への移動量が収束しており、操舵に対して車両挙動が収束していることが判る。
一方、図31の領域A93において、破線の特性に示すように、θvのみの重み付けでは、θH=0近傍でも横方向へ移動し続けており、車両が偏走することが判る。
従って、舵角速度θvとヨーレート補正量Δγ_Tgtを併用して制御目標モーメントMgTransTgtの重みづけを行うことで、μの変化に対する安定性の確保と、操舵に伴って車両挙動が急変する現象の抑制とを両立させることが可能である。
以上説明したように第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、舵角速度θvに基づいて第1慣性補償モーメントMgTrans1と第2慣性補償モーメントMgTrans2_Fr,MgTrans2_Rrを配分して第3慣性補償モーメントMgTrans3_Fr,MgTrans3_Rrを求める。そして、ヨーレート補正量Δγ_Tgtに基づいて自転運動に関して車両挙動を補正する必要性を推定した結果、補正した方が望ましいと判断される場合は第1慣性補償モーメントの配分を高くし、第3慣性補償モーメントMgTrans3_Fr,MgTrans3_Rrの配分を低くして制御目標モーメントMgTgt_Fr,MgTgt_Rrを算出する。これにより、特に低μ時に車両1000の安定性を高めることができ、路面摩擦係数が低い場合であっても所望の方向に車両を旋回させることが可能となる。
以上、本発明の好適な実施例としてドライバのハンドル操作に伴う操舵量から制御量を求める形態について言及したが、本出願人が特願2014−145024号で取り上げている様に、各種の外界認識手段から取得した情報を操舵量に相当する状態量に換算し、制御を行う形態も、当然のことながら本発明で実現できる範囲に含まれる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。