JP2016133495A - 時計部品の製造方法および時計部品 - Google Patents

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池田  智夫
太田 実
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太田  実
拓 浅見
Hiroshi Asami
拓 浅見
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Abstract

【課題】温度特性に優れ、耐久性の高い時計部品を、高精度に製造することができる時計部品の製造方法および時計部品を提供する。
【解決手段】積層基板314における活性層313に、時計の駆動機構を構成する時計部品の形状に基づく所定パターンのマスクを形成し、エッチング工程において、当該マスク部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこない、エッチング加工より後に、活性層313に酸素イオンを注入するイオン注入工程をおこない、これにより酸素イオンが注入された活性層313を所定温度に加熱することにより、活性層313をなすシリコンを熱酸化させてシリコン酸化物を形成する加熱工程をおこなうようにした。
【選択図】図3I

Description

この発明は、時計における機械部品を構成する時計部品の製造方法および時計部品に関する。
機械式時計の駆動機構は、ひげぜんまいやてん輪などによって構成される調速機構(てんぷ)や、がんぎ車およびアンクルによって構成される脱進機を備えている。ひげぜんまいは、従来、金属を加工して形成することが広くおこなわれていたが、その加工精度のばらつきや金属が有する内部応力の影響などによって、設計通りの形状が得られないことがあった。また、金属製のひげぜんまいは、長期間伸縮を繰り返すことにより変形してしまうことがあった。
このようなひげぜんまいを用いて構成される時計は計時の精度に劣るため、従来、金属材料に代えて、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料をエッチング加工することによって、金属製のひげぜんまいよりも高精度かつばらつきを抑えたひげぜんまいを製造する技術があった。また、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料は金属と比較して環境温度に対して変形が少ないため、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料を用いて形成したひげぜんまいは、金属製のひげぜんまいよりも良好な温度特性を示す。
一方で、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料は脆性材料であるため、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料を用いたひげぜんまいは、金属製のひげぜんまいと比較して、耐衝撃性に劣る。
関連する技術として、具体的には、従来、たとえば、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品を、シリコン製のコアと当該コアの表面に成膜した二酸化珪素などの非晶質材料とによって形成するようにした技術があった(たとえば、下記特許文献1〜3を参照。)。
実用新案登録第3154091号公報 特許第5378654号公報 特許第4515913号公報
しかしながら、上述した特許文献1〜3に記載された従来の技術は、いずれも、時計部品の外表面を被覆する膜(被覆、被覆層あるいは外側層)を、当該膜によって被覆されるコアを形成した後に成膜しているため、製造される時計部品の外形寸法にばらつきが生じてしまうという問題があった。
そして、時計部品の外形寸法にばらつきが生じることにより、このような時計部品を、たとえば、特許文献1〜3に記載された従来の技術のように、ひげぜんまいとして用いる場合には、振動数の精度が低下してしまい、当該時計部品を用いて構成される時計による計時の精度が低下してしまうという問題があった。
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、温度特性に優れ、耐久性の高い時計部品を、高精度に製造することができる時計部品の製造方法および時計部品を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この発明にかかる時計部品の製造方法は、支持層の一面側に少なくとも酸化膜を介して積層された活性層またはシリコン単結晶基板に、時計の駆動機構を構成する時計部品の形状に基づく所定パターンのマスクを形成するマスク形成工程と、前記活性層または前記シリコン単結晶基板に対して、前記マスク形成工程において形成されたマスク部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこなうエッチング工程と、前記マスク形成工程より前または前記エッチング工程より後に、前記活性層または前記シリコン単結晶基板に酸素イオンを注入するイオン注入工程と、前記イオン注入工程において酸素イオンが注入された前記活性層または前記シリコン単結晶基板を所定温度に加熱することにより、当該活性層または当該シリコン単結晶基板をなすシリコンを熱酸化させてシリコン酸化物を形成する加熱工程と、を含むことを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記エッチング工程が、深掘りRIEによってエッチング加工をおこなうことを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記エッチング工程において前記活性層にエッチング加工をおこなった場合、エッチング加工後の前記活性層のうち少なくとも前記時計部品をなす部分の前記活性層から前記支持層および前記酸化膜を除去する除去工程を含み、前記イオン注入工程が、前記除去工程において前記支持層および前記酸化膜が除去された活性層または前記シリコン単結晶基板に酸素イオンを注入することを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記イオン注入工程を、前記マスク形成工程より前におこない、前記加熱工程を、前記エッチング工程より後におこなうことを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記イオン注入工程が、前記活性層または前記シリコン単結晶基板の全体にわたって酸素イオンを注入することを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記イオン注入工程が、前記活性層または前記シリコン単結晶基板の内部に極部的に酸素イオンを注入することを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記イオン注入工程が、前記活性層または前記シリコン単結晶基板の外表面の少なくとも一部に極部的に酸素イオンを注入することを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記イオン注入工程が、前記時計部品における、前記駆動機構を構成する別の時計部品と対向または接触する位置に酸素イオンを注入することを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品の製造方法は、上記の発明において、前記時計部品が、ひげぜんまいであって、前記イオン注入工程が、前記活性層または前記シリコン単結晶基板における、前記ひげぜんまいの中心を半径の交点とする扇形状によって囲まれる範囲内に酸素イオンを注入することを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品は、時計の駆動機構を構成する時計部品であって、少なくとも一部が、シリコンを熱酸化することによって形成されるシリコン酸化物からなり、内部の酸化強度と表面の酸化強度とが異なっていることを特徴とする。
また、この発明にかかる時計部品は、上記の発明において、脱進機を構成するがんぎ車およびアンクル、調速機構を構成するひげぜんまいおよびてん輪、輪列を構成する歯車の少なくとも一つであることを特徴とする。
この発明にかかる時計部品の製造方法および時計部品によれば、温度特性に優れ、耐久性の高い時計部品を、高精度に製造することができるという効果を奏する。
この発明にかかる実施の形態の製造方法によって製造される、この発明にかかる実施の形態の時計部品が組み込まれる機械式時計の駆動機構を示す説明図である。 ひげぜんまいの構造を示す説明図である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その1)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その2)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その3)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その4)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その5)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その6)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その7)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その8)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その9)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その10)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その11)である。 この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その12)である。 活性層に対する酸素イオンの注入位置と、時計部品におけるシリコン酸化物との関係を示す説明図(その1)である。 活性層に対する酸素イオンの注入位置と、時計部品におけるシリコン酸化物との関係を示す説明図(その2)である。 活性層に対する酸素イオンの注入位置と、時計部品におけるシリコン酸化物との関係を示す説明図(その3)である。 活性層に対する酸素イオンの注入位置と、時計部品におけるシリコン酸化物との関係を示す説明図(その4)である。 活性層に対する酸素イオンの注入位置と、時計部品におけるシリコン酸化物との関係を示す説明図(その5)である。 活性層に対する酸素イオンの注入位置と、時計部品におけるシリコン酸化物との関係を示す説明図(その6)である。 酸素イオンの注入方法の一例を示す説明図である。 時計部品におけるシリコン酸化物の位置を示す説明図である。 図5Bに示したひげぜんまいにかかる、活性層に対する酸素イオンの注入位置と、その後の酸化物化によって形成されるシリコン酸化物の状態を示す説明図(その1)である。 図5Bに示したひげぜんまいにかかる、活性層に対する酸素イオンの注入位置と、その後の酸化物化によって形成されるシリコン酸化物の状態を示す説明図(その2)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その1)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その2)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その3)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その4)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その5)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その6)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その7)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その8)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その9)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その10)である。 この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その11)である。 ギアの構造の一例を示す説明図(その1)である。 ギアの構造の一例を示す説明図(その2)である。 この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その1)である。 この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その2)である。 この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その3)である。 この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その4)である。 この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その5)である。 この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その6)である。 この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その7)である。 この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その8)である。 この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品(ひげぜんまい)の製造方法を示す説明図(その9)である。
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる時計部品の製造方法および当該製造方法によって製造される時計部品の好適な実施の形態を詳細に説明する。
まず、この発明にかかる実施の形態の製造方法によって製造される、この発明にかかる実施の形態の時計部品が組み込まれる時計の駆動機構として、機械式時計の駆動機構について説明する。図1は、この発明にかかる実施の形態の製造方法によって製造される、この発明にかかる実施の形態の時計部品が組み込まれる機械式時計の駆動機構を示す説明図である。
図1において、この発明にかかる実施の形態の製造方法によって製造される時計部品が組み込まれる機械式時計の駆動機構101は、香箱102、脱進機103、調速機構(てんぷ)104、輪列105などを備えている。香箱102は、薄い円筒形状をなす箱の内側に、図示を省略する動力ぜんまいを収容している。香箱102の外周部の香箱車と呼ばれる歯車が設けてあり、輪列105を構成する番車と噛み合っている。
動力ぜんまいは、巻回された状態の長尺状の金属薄板であって、香箱102の中に収容されている。動力ぜんまいの中心の端部(巻回された状態において内周側に位置する端部)は、香箱102の中心軸(香箱真)に取り付けられている。動力ぜんまいの外側の端部(巻回された状態において外周側に位置する端部)は、香箱102の内面に取り付けられている。
脱進機103は、がんぎ車106およびアンクル107によって構成される。がんぎ車106は、カギ型の歯を備えた歯車であって、がんぎ車106の歯はアンクル107に噛み合う。アンクル107は、がんぎ車106の歯に噛み合うことによってがんぎ車106の回転運動を往復運動に変換する。
てんぷ104は、ひげぜんまい108やてん輪109などによって構成される。ひげぜんまい108は、巻回された状態の長尺状の部材であって、渦巻き形状をなしている。ひげぜんまい108は、機械式時計に組み込まれて駆動機構101を構成した状態において、優れた等時性を示すように設計されている。
てんぷ104は、ひげぜんまい108のバネ力による伸縮によって、規則正しく往復運動をおこなうことができる。てん輪109は、リング形状をなし、アンクル107からの反復運動を調節・制御して、一定速度の振動を保つ。てん輪109は、てん輪109がなすリング形状の内側に、てん輪109の中心(てん真)109aから放射状に延設するアームを備えている。
輪列105は、香箱102からがんぎ車106の間に設けられて、それぞれが噛み合わされた複数の歯車によって構成される。具体的には、輪列105は、二番車110、三番車111、四番車112などによって構成される。香箱102の香箱車は、二番車110と噛み合っている。四番車112には秒針113が装着され、二番車110には分針114が装着されている。図1においては、時針や各歯車を支持する地板などは図示を省略する。
駆動機構101においては、動力ぜんまいの中心は逆回転できないように香箱102の中心(香箱真)に固定されており、動力ぜんまいの外側の端部は香箱の内周面に固定されているため、香箱102の中心(香箱真)に巻き付けられた動力ぜんまいが元に戻ろうとすると、巻き上げられた方向と同じ方向にほどけようとする動力ぜんまいの外側の端部に付勢されて、香箱102が巻き上げられたぜんまいがほどける方向と同じ方向に回転する。香箱102の回転は、二番車110、三番車111、四番車112に順次伝達され、四番車112からがんぎ車106に伝達される。
がんぎ車106にはアンクル107が噛み合っているため、がんぎ車106が回転すると、がんぎ車106の歯(衝撃面)がアンクル107の入り爪を押し上げ、これによってアンクル107におけるてんぷ104側の先端がてんぷ104を回転させる。てんぷ104が回転すると、アンクル107の出爪が即座にがんぎ車106を停止させる。てんぷ104がひげぜんまい108の力で逆回転すると、アンクル107の入り爪が解除され、がんぎ車106が再び回転する。
このように、調速機は、等時性のあるひげぜんまい108の伸縮によっててんぷ104に規則正しい往復回転運動を繰り返させ、脱進機103は、てんぷ104に対して往復運動するための力を与え続けるとともに、てんぷ104からの規則正しい振動によって輪列105における各歯車を一定速度で回転させる。がんぎ車106、アンクル107、てんぷ104は、てんぷ104の往復運動を回転運動に変換する調速機構を構成する。
(ひげぜんまい108の構造)
図2は、ひげぜんまい108の構造を示す説明図である。図2における上側は、ひげぜんまい108を図1における紙面上方から見た平面図を示し、図2における下側は当該平面図におけるA−A断面を示している。図2において、ひげぜんまい108は、細いコイル形状のぜんまい部201を備えている。
また、ひげぜんまい108は、細いコイル形状のぜんまい部201における、内周側の端部に設けられたひげ玉202を備えている。ぜんまい部201とひげ玉202とは接続部202aによって接続されている。ぜんまい部201は、接続部202aを介して、ひげ玉202を中心にひげ玉202を巻回するコイル形状をなす。さらに、ひげぜんまい108は、細いコイル形状のぜんまい部201における、外周側の端部に設けられたひげ持203を備えている。この実施の形態におけるひげぜんまい108は、少なくとも一部が、シリコン酸化物によって形成されている。
図2において,符号tは、ひげぜんまい108の厚さ寸法を示している。ひげぜんまい108の厚さ寸法は、後述する積層基板(SOI基板)におけるSi層の板厚寸法または、シリコン単結晶基板から形成される厚さ方向の寸法に応じて定められる。図2において、符号wは、ひげぜんまい108の平面視における幅寸法を示している。ひげぜんまい108の幅寸法は、ひげぜんまい108の位置に応じて異ならせてもよい。すなわち、ひげぜんまい108におけるぜんまい部201の一部の幅寸法をwとし、別の一部の幅寸法をwよりも大きい寸法としてもよい。
(実施の形態1)
(時計部品の製造方法)
つぎに、この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法について説明する。実施の形態1においては、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品として、ひげぜんまい108の製造方法について説明する。
図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3J、図3Kおよび図4は、この発明にかかる実施の形態1の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品(ひげぜんまい108)の製造方法を示す説明図である。実施の形態1の製造方法によるひげぜんまい108の製造に際しては、まず、支持層311の一面側に、酸化膜312(Box層)を形成する(図3Aを参照)。支持層311は、シリコンからなる。酸化膜312は、二酸化珪素(SiO2)からなる。
この実施の形態1においては、以降、支持層311における酸化膜312が形成される一面、すなわち、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける支持層311の紙面上側の面を、支持層311の「おもて面」として説明する。また、この実施の形態1においては、以降、支持層311におけるおもて面とは反対側の面、すなわち、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける支持層311の紙面下側の面を、支持層311の「裏面」として説明する。
酸化膜312は、以降の工程において、深掘りRIE技術によるエッチング加工をおこなう際のストッパとして機能する。酸化膜312は、公知の各種の成膜技術や公知の各種の酸化技術を用いて形成することができる。酸化膜312の形成方法については説明を省略する。
この実施の形態1においては、上記の支持層311と同様に、以降、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける酸化膜312の紙面上側の面を、酸化膜312の「おもて面」として説明する。また、この実施の形態1においては、以降、酸化膜312におけるおもて面とは反対側の面、すなわち、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける酸化膜312の紙面下側の面を、酸化膜312の「裏面」として説明する。
つぎに、酸化膜312のおもて面に、Si層(活性層)313を形成する(図3Aを参照)。この実施の形態1においては、上記の支持層311や酸化膜312と同様に、以降、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける活性層313の紙面上側の面を、活性層313の「おもて面」として説明する。また、この実施の形態1においては、以降、活性層313における酸化膜312側の面、すなわち、図3A、図3B、図3C、図3D、図3E、図3F、図3G、図3H、図3I、図3Jおよび図3Kにおける活性層313の紙面下側の面を、活性層313の「裏面」として説明する。
活性層313は、公知の各種の成膜技術を用いて形成することができる。活性層313の形成方法については説明を省略する。この実施の形態1において、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品であるひげぜんまい108は、活性層313に形成される。ここに、支持層311、酸化膜312および活性層313により、積層基板(SOI基板)314が実現される。
SiO2のヤング率の温度特性は、Siのヤング率とは逆の温度特性を示す。ヤング定数(Young’s modulus)は、フックの法則が成立する弾性範囲における同軸方向のひずみと応力との比例定数であって、物体に対して当該物体を引っ張る方向に外力を加えた場合における、当該物体の伸びと当該物体に加えられた外力との関係から求められる。ヤング定数は、縦弾性係数、曲げ剛性あるいはたわみ剛性などとも称される。具体的に、たとえば、断面積(S)の物体に力(F)が加えられることによって、当該物体の元の長さ(L)が(ΔL)だけ伸びた場合のヤング率(E)は、E=(F/S)/(ΔL/L)であらわされる。
つぎに、積層基板314における活性層313のおもて面に、フォトレジストを塗布し、塗布したフォトレジストを、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の形状に基づいたパターン状に露光する。この実施の形態1においては、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品を、たとえば、ひげぜんまい108によって形成する例について説明する。このため、この実施の形態1においては、活性層313のおもて面に塗布したフォトレジストを、ひげぜんまい108の形状に基づいたパターン状に露光する。
ひげぜんまい108の形状に基づいたパターンは、たとえば、ひげぜんまい108の形状を規定する部品パターンと、当該ひげぜんまい108の周囲においてひげぜんまい108を囲むように設けられる枠パターンと、これら2つのパターン(部品パターンと枠パターン)を接続する接続用パターンと、からなる(図4を参照)。部品パターンと枠パターンとを接続する接続用パターンは、たとえば、ひげぜんまい108における外周側の端部(ひげ持203)と、ひげぜんまい108の周囲に設けられる枠パターンと、を接続する。
フォトレジストは、光(あるいは電子線など)に露光されることによって現像液に対する溶解性などの物性が変化する感光性の物質であって、たとえば、露光されることによって現像液に対して溶解性が増大するポジ型のフォトレジストを用いることができる。あるいは、ポジ型のフォトレジストに代えて、たとえば、露光されることによって現像液に対して溶解性が低下するネガ型のフォトレジストを用いてもよい。
その後、露光後のSOI基板を現像液によって処理することによって、活性層313のおもて面側に、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品であるひげぜんまい108の形状に基づいたマスク321を形成する(図3Bを参照)。ここに、マスク321を形成する工程によって、この発明にかかる時計部品の製造方法におけるマスク形成工程を実現することができる。
マスク321は、上記の露光におけるパターンにしたがって、ひげぜんまい108の形状を規定する部品パターンと、ひげぜんまい108を囲むように設けられる枠パターンと、接続用パターンと、からなる(図4を参照)。このような、フォトリソグラフィ技術を用いてマスク321を形成することにより、マスク321を、ひげぜんまい108の形状にしたがって高精度に形成することができる。
つぎに、活性層313に対して、マスク321部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこなう(図3Cを参照)。ここに、活性層313に対するマスク321を用いたエッチング加工をおこなう工程によって、エッチング工程を実現することができる。活性層313に対するエッチング加工は、エッチングガスなどの反応性の気体、イオン、ラジカルなどによって材料をエッチングするドライエッチング加工によって実現することができる。上記のように、フォトリソグラフィ技術を用いて高精度に形成されたマスク321を用いてエッチング加工をおこなうことにより、活性層313を、ひげぜんまい108の形状にしたがって高精度に加工することができる。
活性層313に対するエッチング加工は、ドライエッチング加工の一つである反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)が好ましく、深掘りRIE技術によるドライエッチング加工によって実現することがより好ましい。活性層313に対するエッチング加工を、深掘りRIE技術によるドライエッチング加工によって実現することにより、高い精度での微細加工をおこなうことができる。具体的には、この実施の形態1の時計部品の製造方法においては、たとえば、SF6(六フッ化硫黄)とC48(八フッ化シクロブタン)との混合ガス(SF6+C4F8)を用いて、活性層313を深掘りRIE技術でドライエッチングする。
反応性イオンエッチングは、ドライエッチングに分類される微細加工技術の一つであり、反応室内でエッチングガスに電磁波などを与えプラズマ化するとともに、試料が載置される陰極に高周波電圧を印加することにより試料とプラズマの間に自己バイアス電位を生じさせ、この自己バイアス電位によってプラズマ中のイオン種やラジカル種を試料方向に加速して衝突させ、イオンによるスパッタリングと、エッチングガスの化学反応とを同時に生じさせることによって試料の加工をおこなう。深掘りRIE(Deep Reactive Ion Etching)は、反応性イオンエッチング(RIE)の一つであり、狭く深い範囲のエッチング加工、すなわち、アスペクト比の高いエッチング加工をおこなうことができる。
図4は、活性層313に対するエッチング加工をおこなった後の積層基板314を示す平面図である。図4においては、活性層313に対するエッチング加工をおこなった後の積層基板314を、当該積層基板314における活性層313側から見た状態を示している。図4において、エッチング加工をおこなうことにより、活性層313には、部品パターンに基づく部品部401と、枠パターンに基づく枠部402と、接続用パターンに基づく接続部403と、が形成される。
接続部403は、部品部401と枠部402とを接続する。接続部403の外形寸法(太さ)は、ひげぜんまい108のひげ玉202となる部分の外形寸法(太さ)よりも細い。活性層313に対するエッチング加工をおこなった後の積層基板314においては、枠部402の内側に、接続部403を介して接続された部品部401が浮いている状態とされる。
つぎに、活性層313に形成したマスク321を除去(剥離)した(図3Dを参照)後、支持層311の裏面にマスク351を形成する(図3Eを参照)。マスク321は公知の各種の方法によって容易に除去可能であるため、マスク321の除去方法や除去手順などについては説明を省略する。マスク351は、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品であるひげぜんまい108を構成する部分を回避した位置および形状とされる。
すなわち、マスク351は、支持層311の板厚方向に沿って支持層311を見た場合に、マスク351が、活性層313においてひげぜんまい108を構成する部分と重複しない位置に形成する。マスク351は、上記のマスク321と同様にして形成することができる。マスク351は、支持層311の板厚方向に沿って支持層311を見た場合に、少なくとも一部が枠パターンと重複するように設けられる。
つぎに、支持層311に対して、マスク351部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこない(図3Fを参照)、その後、マスク351を除去する(図3Gを参照)。支持層311に対するエッチング加工は、上記の活性層313に対するエッチング加工と同様にしておこなうことができる。また、マスク351の除去は、上記の活性層313に形成したマスク321の除去と同様にしておこなうことができる。
つぎに、酸化膜312を除去(剥離)する(図3Hを参照)。酸化膜312の除去に際しては、具体的には、たとえば、フッ酸を用いて、支持層311および活性層313をマスク321としたウエットエッチングをおこなうことによって酸化膜312を除去することができる。上記のように、マスク351は、支持層311の板厚方向に沿って支持層311を見た場合に、活性層313においてひげぜんまい108を構成する部分と重複しない位置に形成されているため、支持層311に対してマスク351部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこなうことにより、ひげぜんまい108を構成する部分のみが中空に浮いた状態とされる。ここに、支持層311および酸化膜312をエッチングにより除去する工程によって、この発明にかかる時計部品の製造方法における除去工程を実現することができる。なお、酸化膜312を除去した活性層313の表面はフラットであり、いわゆる鏡面となっている。
つぎに、活性層313に対して酸素イオンを注入する(図3Iおよび矢印Gを参照)。酸素イオンは、たとえば、活性層313の全体にわたって注入する。ここに、活性層313に対して酸素イオンを注入することによって、この発明にかかる時計部品の製造方法におけるイオン注入工程を実現することができる。具体的には、酸素イオンは、たとえば、活性層313がなす表面全体にわたって注入するとともに、活性層313の厚み方向に沿っても全体に注入する。
あるいは、酸素イオンは、活性層313の内部に極部的に注入してもよい。この場合、具体的には、たとえば、活性層313の厚み方向における任意の位置において、活性層313の面方向の全体にわたって分布するように、酸素イオンを注入する。あるいは、この場合、具体的には、たとえば、活性層313の厚み方向における任意の複数箇所において、それぞれが活性層313の面方向の全体にわたって分布するように、酸素イオンを注入してもよい。あるいは、この場合、具体的には、たとえば、活性層313の内側に集中して分布するように酸素イオンを注入してもよく、活性層313の表面に分布するように酸素イオンを注入してもよい。酸素イオンは、一回の工程によって注入するものに限らず、注入方向や注入量などを調整しながら複数回にわたって注入してもよい。
つぎに、活性層313に酸素イオンが注入された積層基板314、すなわち、酸素イオンが注入された活性層313を加熱する(図3Jを参照)。この実施の形態においては、たとえば、活性層313に酸素イオンが注入された積層基板314を、1100℃に過熱する。ここに、酸素イオンが注入された活性層313を加熱する工程によって、この発明にかかる時計部品の製造方法における加熱工程を実現することができる。
酸素イオンが注入された活性層313を加熱することにより、活性層313におけるシリコンを熱酸化させ、シリコン酸化物によって形成される領域310を形成することができる。以降、活性層313において、熱酸化によるシリコン酸化物によって形成される領域310をシリコン酸化物310とし、残余の部分であるシリコンによって形成される領域をシリコン領域として説明する(図5B、図5C、図5D、図5Eおよび図5Fを参照)。
その後、シリコン酸化物310が形成された積層基板314から、ひげぜんまい108を構成する部分をもぎ取って、ひげぜんまい108を取り外す(図3Kを参照)。ひげぜんまい108は、たとえば、接続部403をピンセットなどによってつまみ、当該部分を折って、シリコン酸化物における枠部402から、当該シリコン酸化物における部品部401を分離して取り外すことができる。これにより、ひげぜんまい108が製造される。
(酸素イオンの注入方法)
ひげぜんまい108などの時計部品の切り出し元となる積層基板314に対する酸素イオンの注入に際しては、当該積層基板314のツイスト角やチルト角の調整をおこなう。ツイスト角は、積層基板314がなす面の広がり方向(面方向)に直交する軸心(積層基板314の法線)周りに、当該積層基板314を回転させることによって変化する。具体的には、酸素イオンの注入をおこなう装置において積層基板314を支持するステージ(図示を省略する)を、当該ステージがなす面の法線周りに、当該ステージを回転させることによって調整することができる。
チルト角は、積層基板314の法線方向と、当該積層基板314に対して注入される酸素イオンの注入方向とが交差する角度(法線方向と注入方向とがなす角度)であって、たとえば、上記ステージがなす面の広がり方向が基準(たとえば水平)に対してなす角度が変化するように、当該ステージの傾斜角度を変化させることによって調整することができる。酸素イオンの注入をおこなう装置においては、ステージのツイスト角およびチルト角を、それぞれ別個に調整する機構が設けられている(図示を省略する)。
積層基板314に対する酸素イオンの注入に際して、ステージすなわち積層基板314の面方向のツイスト角やチルト角を調整することにより、積層基板314に対して所望の位置および深さに酸素イオンを注入することができる。たとえば、チルト角が0(ゼロ)度である場合、酸素イオンが積層基板314を突き抜けてしまう(通過してしまう)確率と、シリコン原子に衝突して意図している位置(および深さなど)に酸素イオンを注入できない確率と、が高くなる傾向にある。
これに対し、チルト角を調整することにより、酸素イオンが積層基板314を突き抜けてしまう確率を低くすることができるとともに、意図している位置に酸素イオンを注入できる確率を高めることができる。これにより、意図している位置に酸素イオンが注入された、目的とする構造を備えた時計部品を製造することができる。
(ひげぜんまい108におけるシリコン酸化物310の位置)
つぎに、この発明にかかる実施の形態1の製造方法によって製造されたひげぜんまい108におけるシリコン酸化物310の位置について説明する。図5A、図5B、図5C、図5D、図5Eおよび図5Fは、それぞれ、活性層313に対する酸素イオンの注入位置と、時計部品におけるシリコン酸化物310との関係を示す説明図である。図5A、図5B、図5C、図5D、図5Eおよび図5Fにおいては、それぞれ、渦巻き状のひげぜんまい108のぜんまい部201の、渦巻きの中心となる軸を通る平面に沿ってひげぜんまい108(ひげぜんまい108となる活性層313)を切断した断面の一部を模式的に示している。
図5Aにおける上側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313全体にわたって酸素イオンを注入した状態の活性層313の断面の一部を模式的に示している。図5Aにおける下側の図は、全体にわたって酸素イオンが注入された活性層313を加熱した場合のひげぜんまい108の断面の一部を模式的に示している。図5Aに示すように、活性層313全体にわたって酸素イオン(図5Aにおける符号O)を注入することにより、断面全体が酸化物化し、酸化物(シリコン酸化物310)とされたひげぜんまい108を製造することができる。
図5Aに示すひげぜんまい108の製造に際し、酸素イオンを注入するプロセスの条件は、たとえば、酸素イオンの注入量を1E17〜1E18[ion/cm2]、ツイスト角を22度、チルト角を0〜45度、加速電圧を20〜200keVに設定することが好ましい。図5Aに示すひげぜんまい108の製造に際しては、たとえば、チルト角を0〜45度の範囲の中で一定の角度にして、加速電圧を20〜200keVの範囲の中で変化させながら酸素イオンを注入する方法を採用することができる。あるいは、図5Aに示すひげぜんまい108の製造に際しては、たとえば、加速電圧を20〜200keVの範囲の中で一定にして、チルト角を0〜45度の範囲の中で変化させながら酸素イオンを注入する方法を採用してもよい。
図5Bにおける上側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313の厚さ方向における中央部分において、活性層313の面方向の全体にわたって酸素イオンを注入した状態の、活性層313の断面の一部を模式的に示している。図5Bにおける下側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313の厚さ方向における中央部において、活性層313の面方向の全体にわたって酸素イオンが注入された活性層313を加熱した場合のひげぜんまい108の断面の一部を模式的に示している。
図5Bに示すように、活性層313の厚さ方向における中央部分において、活性層313の面方向の全体にわたって酸素イオンを注入することにより、厚さ方向における中央部分が、活性層313の面方向の全体にわたって層状のシリコン酸化物310を備えたひげぜんまい108を製造することができる。時計部品(ひげぜんまい108)において、シリコン酸化物310以外の部分は、Siによって形成されたSi領域501とされている。
図5Bに示すひげぜんまい108の製造に際し、酸素イオンを注入するプロセスの条件は、たとえば、酸素イオンの注入量を1E17〜1E18[ion/cm2]、ツイスト角を22度、チルト角を6度以下、加速電圧を200keVに設定することが好ましい。
図5Cにおける上側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313の厚さ方向における複数箇所において、活性層313の面方向の全体にわたって酸素イオンを注入した状態の、活性層313の断面の一部を模式的に示している。図5Cにおける下側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313の厚さ方向における複数箇所において、活性層313の面方向の全体にわたって酸素イオンが注入された活性層313を加熱した場合のひげぜんまい108の断面の一部を模式的に示している。
図5Cに示すように、活性層313の厚さ方向における複数箇所において、活性層313の面方向の全体にわたって酸素イオンを注入することにより、厚さ方向における複数箇所において、活性層313の面方向の全体にわたる層をなす複数のシリコン酸化物310を備えたひげぜんまい108を形成することができる。
図5Cに示すひげぜんまい108の製造に際し、酸素イオンを注入するプロセスの条件は、たとえば、酸素イオンの注入量を1E17〜1E18[ion/cm2]、ツイスト角を22度、チルト角を7度に設定する。さらに、図5Cに示すひげぜんまい108の製造に際し、酸素イオンを注入するプロセスの条件は、図5Cにおける紙面上側に形成されるシリコン酸化物310に対応する位置に対する酸素イオンの注入にかかる加速電圧を40keVに設定し、図5Cにおける紙面下側に形成されるシリコン酸化物310に対応する位置に対する酸素イオンの注入にかかる加速電圧を200keVに設定することが好ましい。
図5Cに示すひげぜんまい108の製造に際し、図5Cにおける紙面下側に形成されるシリコン酸化物310に対応する位置に対する酸素イオンの注入は、図5Cにおける紙面上側に形成されるシリコン酸化物310に対応する位置に対する酸素イオンの注入方向とは反対側から、すなわち、活性層313の裏面からおこなってもよい。この場合、図5Cにおける紙面下側に形成されるシリコン酸化物310に対応する位置に対する酸素イオンの注入にかかる加速電圧は、紙面上側に形成されるシリコン酸化物310に対応する位置に対する酸素イオンの注入にかかる加速電圧と同じ、40keVに設定することが好ましい。
図5Dにおける上側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313の外表面全体にわたって酸素イオンを注入した状態の、活性層313の断面の一部を模式的に示している。図5Dにおける下側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313の外表面全体にわたって酸素イオンが注入された場合の、ひげぜんまい108の構造を模式的に示している。
図5Dに示すように、活性層313の外表面全体にわたって酸素イオンを注入することにより、外表面がすべてシリコン酸化物310によって覆われたひげぜんまい108を形成することができる。図5Dに示すひげぜんまい108の製造に際し、酸素イオンを注入するプロセスの条件は、たとえば、酸素イオンの注入量を1E17〜1E18[ion/cm2]、ツイスト角を22度、チルト角を7度、加速電圧を20keVに設定することが好ましい。
図5Dに示す例は、活性層313の表面付近をシリコン酸化物化したものであり、従来技術のようにシリコンの表面に酸化膜を設ける場合と違い、元々の活性層313の形状を保ったままその内部をシリコン酸化物化している。すなわち、時計部品の外形寸法は、シリコン酸化物化する前と後とで変化しない。これにより、シリコンの表面にシリコン酸化膜を設ける従来の技術と比較して、高い精度が確保された時計部品を製造することができる。
時計部品に対する酸素イオンの注入は、1回の注入工程によっておこなうものに限らない。酸素イオンの注入は、たとえば、時計部品の形状や当該時計部品に対する酸素イオンの注入位置などに応じて、複数回にわたっておこなってもよい。このように、時計部品の形状や当該時計部品に対する酸素イオンの注入位置などに応じて、複数回にわたって酸素イオンの注入をおこなうことにより、酸素イオンの注入対象となる時計部品の形状や、当該時計部品に対する酸素イオンの注入位置にかかわらず、目的とする位置に、正確かつきれいに酸素イオンを注入することができる。
具体的には、図5Dに示すように活性層313の外表面全体にわたって酸素イオンを注入する場合、ひげぜんまい108の断面の輪郭をなす4つの辺に対しては、酸素イオンを2辺ずつ注入する。より具体的には、たとえば、図5Dに示すひげぜんまい108に対して、当該ひげぜんまい108の左斜め上方から酸素イオンを注入する工程と、当該ひげぜんまい108の右斜め下方から酸素イオンを注入する工程と、の2つの工程を経て、活性層313の外表面全体にわたって酸素イオンを注入する。このように、2つの工程を経て、活性層313の外表面全体にわたって酸素イオンを注入することにより、ひげぜんまい108の縦端面(図5Dの紙面上下方向に広がる面)に対して、酸素イオンをきれいに注入することができる。
図5Eにおける上側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313の断面における中央において、ひげぜんまい108の長さ方向全体にわたって酸素イオンを注入した状態の、活性層313の断面の一部を模式的に示している。図5Eにおける下側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313の断面における中央において、ひげぜんまい108の長さ方向全体にわたって酸素イオンが注入された場合の、ひげぜんまい108の構造を模式的に示している。図5Eに示すように、活性層313の断面における中央において、ひげぜんまい108の長さ方向全体にわたって酸素イオンを注入することにより、活性層313の断面における中央において、ひげぜんまい108の長さ方向全体にわたって連続するシリコン酸化物310を備えたひげぜんまい108を形成することができる。
図5Fにおける上側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313の幅方向(図5Fにおける紙面左右方向)における中央であって、活性層313の厚さ方向全体にわたって酸素イオンを注入した状態の、活性層313の断面の一部を模式的に示している。図5Fにおける下側の図は、上記のイオン注入工程において、活性層313の幅方向における中央であって、活性層313の厚さ方向全体にわたって酸素イオンが注入された場合の、ひげぜんまい108の構造を模式的に示している。
図5Fに示すように、活性層313の幅方向における中央であって、活性層313の厚さ方向全体にわたって酸素イオンを注入することにより、活性層313の幅方向における中央において、ひげぜんまい108の厚さ方向全体にわたって層状をなすシリコン酸化物310を備えたひげぜんまい108を形成することができる。
図5Eや図5Fに示す断面構造のひげぜんまい108のように、活性層313の幅方向においてシリコン酸化物310を部分的に形成する場合、たとえば、酸素イオンの注入に先立って、酸素イオンの注入位置を制限するマスク321を設けてもよい。図6は、酸素イオンの注入方法の一例を示す説明図である。
図6に示すように、活性層313の幅方向においてシリコン酸化物310を部分的に形成する場合は、活性層313の幅方向において酸素イオンの注入位置を制限するマスク601を設ける。この状態において、マスク601を介して注入する、酸素イオンを注入する位置(活性層313における酸素イオンを注入する深さ)を調整することにより、所望の位置に酸素イオンを注入して熱酸化し、図5Eや図5Fに示す断面構造のひげぜんまい108を製造することができる。
図7は、時計部品におけるシリコン酸化物310の位置を示す説明図である。図7においては、この発明にかかる実施の形態1の時計部品の製造方法によって製造される時計部品を実現するひげぜんまい108を示している。
図7において、ひげぜんまい108においては、ハッチングで示す位置にシリコン酸化物310が設けられている。このように、ひげぜんまい108の一部にシリコン酸化物310を設けてもよいのである。このようなひげぜんまい108の製造に際しては、イオン注入工程において、活性層313における、ひげぜんまい108の中心を半径の交点とする扇形状によって囲まれる範囲X内に酸素イオンを注入する。
図7に示すように、ぜんまい部201の一部の所定領域、すなわち、範囲X(図7における斜線部を参照)における少なくとも一部をシリコン酸化物310とすることによって、範囲Xにシリコン酸化物310を設けない場合と比較して、ひげぜんまい108の強度を効果的に高めることができる。このようにすることで、仮にひげぜんまい108の伸縮に偏りが生じても、範囲Xを決めてぜんまい部201の強度を上げることにより、伸縮の偏りを補正することができる。範囲Xは、あらかじめ実験などをおこなうことによって、ひげぜんまい108の大きさや形状に応じた最適な範囲を定めることができる。範囲Xがなす扇形の中心となる角度θは、180度以下であり、好ましくは約90度とすることができる。このような範囲Xにシリコン酸化物310を設けることにより、ひげぜんまい108の強度を効果的に確保することができる。
なお、領域Xにおいて、ひげぜんまい108を構成する細いコイル形状のぜんまい部におけるすべての部分をシリコン酸化物310にしなくてもよい。具体的には、たとえば、ぜんまい部の所定のターンを選択してシリコン酸化物310を設けてもよい。ひげぜんまい108におけるいずれのターンに、シリコン酸化物310を設けるかは、ひげぜんまい108に与える強度により決められる。また、ひげぜんまい108におけるいずれのターンに、シリコン酸化物310を設けるかは、たとえば、ひげぜんまい108の大きさや形状、ヤング率に鑑みて、ひげぜんまい108のどこをシリコン酸化物化させるかを決めることができる。
(酸素イオンの注入位置と酸化物化のプロファイル)
つぎに、酸素イオンの注入位置と酸化物化のプロファイルについて説明する。図8Aおよび図8Bは、図5Bに示したひげぜんまい108にかかる、活性層313に対する酸素イオンの注入位置と、その後の酸化物化によって形成されるシリコン酸化物310の状態を示す説明図である。図8Aおよび図8Bは、いずれも、活性層313の厚さ方向における中央部を酸素イオンの注入位置としている。
図8Aは、図8Bよりも、酸素イオンの注入状態の違いによる酸素イオンの注入量の変化が急であって、酸素イオンの注入量が局所的に高い。図8Aに示すように、局所的に酸素イオンの注入量が高くなるように、局所的に集中して酸素イオンの注入をおこなうと、酸化物化により形成されるシリコン酸化物310の酸化強度は、酸素イオンの注入量が高い位置が局所的に高くなる。すなわち、注入量プロファイルは急峻になり、熱酸化した後に形成されるシリコン酸化物310は、酸素イオンを集中的に注入した帯状部分のみにあらわれた状態になる。
一方、図8Bは、図8Aよりも、酸素イオンの注入状態の違いによる酸素イオンの注入量の変化が緩やかで、酸素イオンを注入する位置の幅が広い。図8Bに示すように、酸素イオンの注入状態の違いによる酸素イオンの注入量の変化が緩やかになるように注入をおこなうと、酸化物化により形成されるシリコン酸化物310の位置の違いによる酸化強度の変化も緩やかになる。すなわち、注入量プロファイルは図8Aと比較して緩やかな特性になり、熱酸化した後に形成されるシリコン酸化物310は、時計部品の広い範囲に分布するようになる。そして、酸素イオンの注入位置をばらけさせることで、多少のプロファイルをもつものの、時計部品の全体に酸化膜などを形成したものに近い状態にすることもできる。
このように、酸素イオンを局所に集中して注入するか、広い範囲にわたって注入するかを調整することにより、時計部品におけるシリコン酸化物310の酸化強度の変化を調整することができる。そして、このように、単一の時計部品内において酸化の進行(酸化度合)を変化させることにより、単一の時計部品においてシリコンの温度特性を発揮する部分とシリコン酸化物の温度特性を発揮する部分とを設けることができ、環境温度変化に対する高い温度補償性能を確保することができる。
上述した図5A、図5B、図5C、図5D、図5Eおよび図5Fに示したひげぜんまい108のように、活性層313において、酸素イオンの注入および酸化物化(加熱)によって形成されるシリコン酸化物310と、酸化物化されていないシリコン部分と、が共存する時計部品においては、シリコン酸化物310とシリコン部分との境界は明確ではなく、時計部品内の状態は、酸化物が多くシリコンが少ない状態から、シリコンが多く酸化物が少ない状態(あるいは、その逆)に徐々に変化する。
(実施の形態2)
(時計部品の製造方法)
つぎに、この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法について説明する。実施の形態2においては、上述した実施の形態1と同一部分は同一符号で示し、説明を省略する。
図9A、図9B、図9C、図9D、図9E、図9F、図9G、図9H、図9I、図9Jおよび図9Kは、この発明にかかる実施の形態2の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品(ひげぜんまい108)の製造方法を示す説明図である。ひげぜんまい108の製造に際しては、まず、実施の形態1と同様にして積層基板314(SOI基板)を形成する(図9Aを参照)。
つぎに、活性層313の全体にわたって、酸素イオンを注入する(図9Bおよび矢印Gを参照)。そして、酸素イオンが注入された活性層313のおもて面側に、レジストを塗布して所定パターンに露光することによりマスク321を形成する(図9Cを参照)。つぎに、マスク321を用いたエッチング加工をおこない、酸素イオンが注入された活性層313に対して、マスク321部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこなう(図9Dを参照)。
酸素イオンが注入された活性層313に対するエッチング加工は、深掘りRIE技術によるドライエッチング加工によって実現する。ここに、酸素イオンが注入された活性層313に対するマスク321を用いたエッチング加工をおこなう工程によって、エッチング工程を実現することができる。その後、マスク321を除去する(図9Eを参照)。
つぎに、支持層311の裏面にマスク351を形成し(図9Fを参照)、支持層311に対して、マスク351部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこなう(図9Gを参照)。その後、マスク351を除去する(図9Hを参照)。マスク351を除去した後、フッ酸を用いたウエットエッチングをおこなって酸化膜312を除去する(図9Iを参照)。
つぎに、酸素イオンが注入された活性層313を加熱する(図9Jを参照)。ここに、酸素イオンが注入された活性層313を加熱する工程によって、この発明にかかる時計部品の製造方法における加熱工程を実現することができる。これにより、活性層313の全体にわたってシリコン酸化物310を形成することができる。その後、シリコン酸化物310が形成された積層基板314から、ひげぜんまい108を構成する部分をピンセットを用いてもぎ取って、ひげぜんまい108を取り外す(図9Kを参照)。これにより、ひげぜんまい108が製造される。
実施の形態2の時計部品の製造方法によれば、活性層313にひげぜんまい108の形状を反映したマスク321を形成する前に当該活性層313に酸素イオンを注入することにより、活性層313の全体にわたって容易かつ確実に、均一に酸素イオンを注入することができる。実施の形態2の製造方法においても、酸素イオンを注入する位置(活性層313における酸素イオンを注入する場所および深さ)を調整することにより、所望の位置に酸素イオンを注入して熱酸化し、所望の位置にシリコン酸化物310を備えるひげぜんまい108を製造することができる。
(各実施の形態による時計部品の製造方法の採用基準例)
つぎに、実施の形態1による時計部品の製造方法または実施の形態2による時計部品の製造方法のいずれを採用するかの採用基準例について説明する。実施の形態1による時計部品の製造方法によって時計部品を製造するか、あるいは、実施の形態2による時計部品の製造方法によって時計部品を製造するかは、たとえば、製造対象とする時計部品に要求される特性や強度などの要求品質に応じて任意に決定することができる。
上記のイオン注入工程においては、支持層311を物理的に動かしてスキャニングをおこなう。このため、実施の形態1の時計部品の製造方法においては、時計部品となる部分が中空に浮いた状態で酸素イオンを注入する処理をおこなう状況が想定される。中空に浮いた状態で酸素イオンを注入する処理をおこなう状況においては、注入される酸素イオンの衝撃に対して、時計部品となる部分の耐性が低下する可能性が想定される。注入される酸素イオンの衝撃に対する耐性の低下は、特に、たとえば、ひげぜんまい108などのように、中空に浮いた状態となる割合が高い時計部品ほど顕著になると想定される。
実施の形態2の時計部品の製造方法は、このような状況における、注入される酸素イオンの衝撃に対して耐性が低下する可能性を想定し、エッチング工程によるエッチング処理をおこなう前に、あらかじめ、酸素イオンを活性層313に注入している。これによって、実施の形態2の時計部品の製造方法によれば、時計部品の形状にかかわらず、酸素イオンを注入することによる衝撃によって活性層313が破壊されることを防止できる。
実施の形態2の時計部品の製造方法によれば、活性層313に酸素イオンを注入した場合にも、活性層313を構成するシリコン原子と酸素とが結合しない限りはシリコン単結晶として扱うことができる。これにより良好な加工性を維持した状態で、イオン注入工程以降の工程をおこなうことができる。
実施の形態2の時計部品の製造方法においては、時計部品の製造工程における初期の段階において酸素イオンの注入をおこなうため、イオン注入工程において注入した酸素イオンが、イオン注入工程の後の工程をおこなっている途中で多少なりとも抜けたり、僅かであってもエッチング特性が変化する可能性が想定される。そして、一旦注入した酸素イオンが抜けたりエッチング特性が変化したりすると、時計部品の仕上がり状態に影響をおよぼす可能性が想定される。
これに対し、実施の形態1の時計部品の製造方法によれば、一旦注入した酸素イオンが抜けたりエッチング特性が変化したりすることによる時計部品の仕上がり状態の変動を抑えることができるので、より精度の高い時計部品を製造することができる。
上記のように、製造対象とする時計部品に要求される特性や強度などの要求品質に応じて実施の形態1の時計部品の製造方法および実施の形態2の時計部品の製造方法のうちのいずれか一方を適宜選択し、実施の形態1の時計部品の製造方法と実施の形態2の時計部品の製造方法とを使い分けることによって、時計部品の要求品質に幅広く対応することができる。
上述した実施の形態1および実施の形態2においては、フォトレジストを用いてマスク321を形成したが、マスク321はフォトレジストに限るものではない。マスク321はフォトレジストに代えて、たとえば、メタルマスクを用いてもよい。メタルマスクを用いたエッチング加工については、公知の技術を用いて実現可能であるため説明を省略する。
上述した実施の形態1および実施の形態2においては、この発明にかかる製造方法によって製造される時計部品をひげぜんまい108によって実現する例について説明したが、この発明にかかる製造方法によって製造される時計部品はひげぜんまい108によって実現されるものに限らない。この発明にかかる製造方法によって製造される時計部品は、ひげぜんまい108に代えて、あるいは、ひげぜんまい108に加えて、脱進機103を構成するがんぎ車106やアンクル107、てんぷ104を構成するてん輪109、輪列105を構成する二番車110、三番車111、四番車112などによって実現されるものであってもよい。
図10Aおよび図10Bは、ギアの構造の一例を示す説明図である。図10Aにおいて、ギア1010は、たとえば、輪列105を構成する二番車110、三番車111、四番車112などを実現する。ギア1010においては、たとえば、軸支部分の周縁部1011にシリコン酸化物310を設ける。これにより、ギア1010を軸支する軸とギア1010とが接触したり擦れ合ったりすることによるギア1010の周縁部1011の摩耗を抑制することができる。
また、ギア1010においては、たとえば、外周縁部1012にシリコン酸化物310を設けてもよい。これにより、ギア1010の外周縁部1012に、当該ギア1010と噛み合う別のギアが接触したり擦れ合ったり衝突したりすることによるギア1010の外周縁部1012の摩耗や損傷を抑制することができる。特に、外周縁部1012にシリコン酸化物310を設けることにより、ギア1010の歯が欠けてしまうことを抑制することができる。
図10Bにおいて、ギア1020は、たとえば、輪列105を構成する二番車110、三番車111、四番車112などを実現する。ギア1020においては、たとえば、図10Aに示したような周縁部1011および外周縁部1012に加えて、ギア1020の上端面1021や下端面1022にシリコン酸化物310を設けることができる。これにより、ギア1010の周縁部1011や外周縁部1012の摩耗や損傷を抑制することができ、さらに、軸心方向においてギア1020に接触あるいは対向する別の時計部品と接触したり衝突したりすることによる摩耗や損傷を抑制することができる。
図10Aおよび図10Bに示すギア1010、1020においては、上記のひげぜんまい108と同様にして、対象とする位置に酸素イオンを注入し、加熱することによって、所望の位置にシリコン酸化物310を設けることができる。このように、所望の位置にシリコン酸化物310を設けた時計部品を用いて機械式時計の駆動機構101を構成することにより、計時の精度を確保して、歩度調整を不要とすることができる。また、歩度調整を不要とすることにより、歩度調整を実現するための緩急機構を不要とすることができるので、このような時計部品により構成された駆動機構101を備えた機械式時計の小型化を図ることができる。
また、上述した実施の形態1および実施の形態2においては、支持層311のおもて面側に酸化膜312および活性層313を順次形成した積層基板(SOI基板)314を用いてひげぜんまい108を製造する例について説明したが、用いるSOI基板は、さまざまな製造方法により製造される基板を利用できる。たとえば、2枚のシリコン基板(片方は表面にSiO2膜を形成済)を貼り合わせるウェハ貼り合わせ法(Wafer Bondingやスマートカット法)、まずシリコン薄膜を構成した後その表面にSiO2膜を形成してから、それをシリコン基板に貼り合わせるSeed Method方法などのいずれの製造方法によって製造されたSOI基板を用いて形成してもよい。
上記のように、ひげぜんまい108は規則的に所定の歩度でてんぷ104を往復運動させる必要があり、加工精度のばらつきや金属が有する内部応力の影響などに起因して設計通りの形状が得られないことがあった金属製のひげぜんまい108を用いた機械式時計においては、てんぷ104が等時性のある運動ができず、結果として時計の歩度ずれが生じてしまうという不具合を生じていた。
このような歩度ずれを調整する手段として、従来、てんぷ104の周期を調整する緩急機構を設ける技術があった。緩急機構は、ひげぜんまい108の外周部に接触するひげ棒(あるいはひげ受)を備え、ひげ棒(あるいはひげ受)と一体的に設けられた緩急針を操作することによって、ひげぜんまい108に対するひげ棒(あるいはひげ受)の接触位置を調整してひげぜんまい108の有効長さを変えることによって時計の歩度を調整する。
しかし、緩急機構を備えた時計においては、てん輪109の回転角の変化や時計の姿勢の変化などによりひげぜんまい108の外周部がひげ棒に不用意に接触して、ひげぜんまい108の伸縮を制限してしまうことがあった。ひげぜんまい108の伸縮が制限されるとてんぷ104の往復運動に影響が生じるため、緩急機構を設ける従来の技術では、緩急機構を設けることによって歩度が不安定になってしまうことがあった。また、緩急機構は緩急針を操作する必要があるため、構造体としてある程度の大きさの空間が必要であり、時計の小型化の妨げとなっていた。
そして、このような不具合を回避するために、金属材料に代えて、水晶やシリコンなどの結晶構造を有する材料を用いた従来の技術では、金属によるひげぜんまいよりも加工精度のばらつきは少ないものの、耐久性を高めるための非晶質材料の成膜状態によって外形寸法にばらつきが生じてしまうため、水晶やシリコンを材料としたひげぜんまいであっても時計の歩度精度を高めるための歩度調整をおこなう緩急機構が必要であった。このように、耐久性、温度特性、加工精度をすべて満たすことが困難であった。
一般的に、ヤング率は、温度の変動に応じて変動するという温度特性を示す。このため、水晶やシリコンの結晶構造を有する材料を単体で用いて製造した時計部品は、温度の変動にともなうヤング率の変動に起因して、環境温度に応じて性能が変動してしまう。上記のように、ひげぜんまい108などの時計部品は非常に精密な精度が要求されるため、温度の変化にともなう性能の変動は、計時の精度にばらつきを生じる原因となる。
これに対し、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法は、以上説明したように、支持層311のおもて面(一面)側に少なくとも酸化膜312を介して積層された活性層313に、マスク形成工程において、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の形状に基づく所定パターンのマスク321を形成し、エッチング工程において、当該マスク321部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこなう。
そして、この発明にかかる実施の形態1の製造方法においては、エッチング工程より後に、活性層313に酸素イオンを注入するイオン注入工程をおこない、これにより酸素イオンが注入された活性層313を所定温度に加熱することにより、当該活性層313をなすシリコンを熱酸化させてシリコン酸化物(SiO2領域)310を形成する加熱工程をおこなうようにしたことを特徴としている。
一方、この発明にかかる実施の形態2の製造方法においては、マスク形成工程より前に、活性層313に酸素イオンを注入するイオン注入工程をおこない、これにより酸素イオンが注入された活性層313を所定温度に加熱することにより、当該活性層313をなすシリコンを熱酸化させてシリコン酸化物を形成する加熱工程をおこなうようにしたことを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法によれば、酸素イオンを注入した活性層313を熱酸化させ、時計部品にSiO2によって形成される領域(シリコン酸化物310)を形成することにより、シリコンによって形成されるSi領域501とシリコン酸化物310とを一体的に備えた時計部品を製造することができる。上記のように、SiO2のヤング率の温度特性はSiのヤング率とは逆の温度特性を示すことから、シリコン酸化物310におけるヤング率の温度特性はSi領域501におけるヤング率の温度特性と逆の特性であり、時計部品においてはシリコン酸化物310の温度特性とSi領域501の温度特性とが互いに打ち消す方向に作用する。これにより、温度特性に優れた時計部品を製造することができる。
また、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法によれば、酸素イオンを注入した活性層313を熱酸化させることによってSi領域501とシリコン酸化物310とを一体的に備えた時計部品を製造することができるので、たとえば、時計部品を製造してから当該時計部品の表面にSiO2を成膜する場合と比較して、時計部品においてシリコン酸化物310を精度よく設けることができる。これにより、成膜状態のばらつきなどに起因して、時計部品ごとに振動数の精度にばらつきが生じることを抑えることができる。
さらに、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法によれば、Si領域501とシリコン酸化物310とを一体的に備えた時計部品を製造することができるので、耐久性に優れた時計部品を製造することができる。
このように、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法によれば、温度特性に優れ、耐久性の高い時計部品を、高精度に製造することができ、時計部品ごとの振動数のばらつきを抑えることができる。そして、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法によって製造された時計部品を用いて時計を構成することにより、時計による計時の精度を高く維持することができる。
また、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の製造方法によって製造された時計部品は、シリコンからなるため、透明あるいは半透明の外観をなす。従来、時計に組み込まれた時計部品を、外部から視認できるように構成した時計が存在する。このような時計において、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の製造方法によって製造された時計部品を、外部から視認できるように組み込んだ場合、利用者は、当該時計部品ごしに、当該時計部品よりも内側に組み込まれた別の時計部品を視認することができる。
このように、透明あるいは半透明の時計部品を、敢えて、外部から視認できるようにすることによって、当該時計部品が組み込まれた時計の美観を向上させ、当該時計を特徴付けることができる。さらに、時計における複数の時計部品を、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の製造方法によって製造し、これらが外部から視認できるように時計に組み込むことにより、当該時計の美観を向上させ、当該時計を一層特徴付けることができる。
また、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法は、エッチング工程において、深掘りRIEによってエッチング加工をおこなうことを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法によれば、深掘りRIEによってエッチング加工をおこなうことにより、精度の高い時計部品を製造することができる。これにより、この発明にかかる実施の形態の時計部品の製造方法によれば、温度特性に優れ、時計部品ごとの振動数のばらつきを抑えた、より加工精度の高い時計部品を製造することができる。
また、この発明にかかる実施の形態1の時計部品の製造方法は、エッチング工程において活性層313にエッチング加工をおこなった場合、エッチング加工後の活性層313のうち少なくとも時計部品をなす部分の活性層313から支持層311および酸化膜312を除去する除去工程を含み、イオン注入工程において、支持層311および酸化膜312が除去された活性層313に酸素イオンを注入することを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態1の時計部品の製造方法によれば、積層基板314としてSOI基板を用いた場合にも、エッチング加工により時計部品の形状に加工し、表面全体が露出された活性層313に酸素イオンを注入することができる。これによって、活性層313に対する酸素イオンの注入位置、すなわち、活性層313においてシリコン酸化物310を形成する位置の自由度を確保することができる。これにより、この発明にかかる実施の形態の時計部品の製造方法によれば、耐久性やデザイン性など、時計部品に要求される性能に応じて時計部品における所望の位置にシリコン酸化物310を形成することができる。
一方、この発明にかかる実施の形態2の時計部品の製造方法は、マスク形成工程より前にイオン注入工程をおこない、エッチング工程より後に加熱工程をおこなうようにしたことを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態2の時計部品の製造方法によれば、活性層313にマスク321を形成する前に当該活性層313に酸素イオンを注入することにより、活性層313全体にわたって容易かつ確実に、均一に酸素イオンを注入することができる。
また、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法によれば、酸素イオンを注入した活性層313を熱酸化させる前にエッチング加工をおこない、酸素イオンを注入した活性層313をエッチング加工によって所望する時計部品の形状に加工した後に熱酸化させることにより、活性層313に対するエッチング加工の加工性を低下させることなく、加工精度の高い時計部品を製造することができる。
特に、酸化膜312を備えたSOI基板を用いて時計部品を製造する場合、当該酸化膜312を除去するまで、活性層313においてはシリコンと酸素イオンとがそれぞれ存在しているため、時計部品となるシリコン(活性層313)を浸食することなく酸化膜312を除去することができる。これにより、温度特性に優れ、時計部品ごとの振動数のばらつきを抑えた、加工精度の高い時計部品を製造することができる。
また、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法は、イオン注入工程において、活性層313の全体にわたって酸素イオンを注入するようにしてもよい。このような時計部品の製造方法によれば、活性層313の全体にわたってシリコン酸化物310を形成することができる。これにより、温度特性に優れ、時計部品ごとの振動数のばらつきを抑え、加工精度および耐久性の高い時計部品を製造することができる。
また、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法は、イオン注入工程において、活性層313の内部に極部的に酸素イオンを注入するようにしてもよい。このような時計部品の製造方法によれば、活性層313においてシリコン酸化物310を形成する位置の自由度を確保することができる。これにより、耐久性やデザイン性など、時計部品に要求される性能に応じて、活性層313における所望の位置にシリコン酸化物310を形成することができる。
また、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法は、イオン注入工程において、活性層313の外表面の少なくとも一部に極部的に酸素イオンを注入するようにしてもよい。このような時計部品の製造方法によれば、活性層313においてシリコン酸化物310を形成する位置の自由度を確保することができる。これにより、耐久性やデザイン性など、時計部品に要求される性能に応じて、活性層313における所望の位置にシリコン酸化物310を形成することができる。そして、これにより、温度特性に優れ、時計部品ごとの振動数のばらつきを抑えた、加工精度の高い時計部品を、製造することができる。
また、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法は、イオン注入工程において、時計部品における、駆動機構101を構成する別の時計部品と対向または接触する位置に酸素イオンを注入するようにしてもよい。このような時計部品の製造方法によれば、活性層313において、時計部品として機械式時計に組み込まれた状態において別の時計部品と接触する位置あるいは接触する可能性が高い位置にシリコン酸化物310を形成することができる。これにより、時計部品として機械式時計に組み込まれた状態において別の時計部品と接触することによる消耗や破損を防止することができ、時計部品の耐久性の向上を図ることができる。
また、この発明にかかる実施の形態1または実施の形態2の時計部品の製造方法は、時計部品をひげぜんまい108とし、イオン注入工程において、活性層313における、ひげぜんまい108の中心を半径の交点とする扇形状によって囲まれる範囲内に酸素イオンを注入するようにしてもよい。このような時計部品の製造方法によれば、活性層313において、時計部品として機械式時計に組み込まれた際に伸縮が著しいために、耐久性が要求される所望の位置にシリコン酸化物を形成することができる。これにより、時計部品として機械式時計に組み込まれた状態において伸縮することによる破損を防止することができ、ひげぜんまい108の耐久性の向上を図ることができる。また、仮にひげぜんまい108の伸縮に偏りが生じたとしても、ひげぜんまい108の所定の領域を酸化物化することで強度を上げ、偏りを補正することができる。
(実施の形態3)
(時計部品の製造方法)
つぎに、この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法について説明する。実施の形態3においては、上述した実施の形態1および実施の形態2と同一部分は同一符号で示し、説明を省略する。実施の形態3においては、積層基板314に代えて、シリコン単結晶基板を用いて時計部品を製造する例について説明する。
図11A、図11B、図11C、図11D、図11E、図11F、図11G、図11Hおよび図11Iは、この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品(ひげぜんまい108)の製造方法を示す説明図である。実施の形態3の製造方法によるひげぜんまい108の製造に際しては、まず、シリコン単結晶基板1121(図11Aを参照)の一面側に、ひげぜんまい108の形状に基づいたマスク321を形成する(図11Bを参照)。ここに、マスク321を形成する工程によって、この発明にかかる時計部品の製造方法におけるマスク形成工程を実現することができる。
この実施の形態3においては、以降、図11A、図11B、図11C、図11D、図11E、図11F、図11G、図11Hおよび図11Iにおけるシリコン単結晶基板1121の紙面上側の面を、シリコン単結晶基板1121の「おもて面」として説明する。また、この実施の形態3においては、以降、シリコン単結晶基板1121におけるおもて面とは反対側の面、すなわち、図11A、図11B、図11C、図11D、図11E、図11F、図11G、図11Hおよび図11Iにおけるシリコン単結晶基板1121の紙面下側の面を、シリコン単結晶基板1121の「裏面」として説明する。
つぎに、シリコン単結晶基板1121に対して、マスク321部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこなう(図11Cを参照)。ここに、シリコン単結晶基板1121に対するマスク321を用いたエッチング加工をおこなう工程によって、エッチング工程を実現することができる。
シリコン単結晶基板1121に対するエッチング加工は、上述した実施の形態1および実施の形態2と同様に、ドライエッチング加工の一つである反応性イオンエッチングが好ましく、深掘りRIE技術によるドライエッチング加工によって実現することがより好ましい。シリコン単結晶基板1121に対するエッチング加工は、エッチング時間を制御することにより、シリコン単結晶基板1121の厚さ方向における途中までをエッチングにより除去する、いわゆるハーフエッチングをおこなう。
つぎに、シリコン単結晶基板1121に形成したマスク321を除去した(図11Dを参照)後、シリコン単結晶基板1121の裏面にマスク351を形成する(図11Eを参照)。そして、シリコン単結晶基板1121に対して、マスク351部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこない(図11Fを参照)、その後、マスク351を除去する(図11Gを参照)。
つぎに、シリコン単結晶基板1121に対して酸素イオンを注入する(図11Gおよび矢印Gを参照)。酸素イオンは、たとえば、シリコン単結晶基板1121の全体にわたって注入してもよく、シリコン単結晶基板1121の内部に極部的に注入してもよい。ここに、シリコン単結晶基板1121に対して酸素イオンを注入することによって、この発明にかかる時計部品の製造方法におけるイオン注入工程を実現することができる。
つぎに、酸素イオンが注入されたシリコン単結晶基板1121を加熱して(図11Hを参照)、シリコン単結晶基板1121におけるシリコンを酸化物化(熱酸化)させ、シリコン酸化物310を形成する。この実施の形態においては、たとえば、酸素イオンが注入されたシリコン単結晶基板1121を、1100℃に過熱する。ここに、酸素イオンが注入されたシリコン単結晶基板1121を加熱する工程によって、この発明にかかる時計部品の製造方法における加熱工程を実現することができる。
シリコン単結晶基板1121において、ひげぜんまい108部分への酸素イオンの注入にともなって酸素イオンが注入された、ひげぜんまい108部分以外の部分も、加熱されることにより酸化物化される。ひげぜんまい108部分以外の部分におけるシリコン酸化物は、シリコン単結晶基板1121のおもて面側ほど酸素濃度が高く、深さ方向にそって裏面側ほど酸素濃度が薄くなるプロファイルをもつ。
その後、シリコン酸化物310が形成されたシリコン単結晶基板1121から、ひげぜんまい108を構成する部分をピンセットを用いてもぎ取って、ひげぜんまい108を取り外す(図11Iを参照)。これにより、ひげぜんまい108が製造される。
このように、この発明にかかる実施の形態3の、機械式時計の駆動機構101を構成する時計部品の製造方法によれば、シリコン単結晶基板1121を用いて時計部品を製造することにより、上述した実施の形態1および実施の形態2のような、支持層311や酸化膜312を除去する工程が不要になる。これにより、時計部品の製造にかかる工程数を減らし、作業者の負担軽減を図るとともに、時計部品の製造にかかる時間や費用などの各種のコストを抑えることができる。
すでに説明したように、実施の形態1および実施の形態2による時計部品の製造方法のいずれを採用するかは、たとえば、製造対象とする時計部品に要求される特性や強度などの要求品質に応じて任意に決定することができる。この実施の形態3の製造方法も同様である。
すなわち、実施の形態3は、積層基板(SOI基板)を用いず、いわゆるバルク基板と称されるシリコン単結晶基板を用いるため、コストダウンに寄与できる。反面、シリコン単結晶基板1121の裏面からのエッチング(図11Fを参照)だけでは、このシリコン単結晶基板1121の裏面は、酸化膜312を有する実施の形態1および実施の形態2による製造方法に比して鏡面にはならない。
このため、完成したひげぜんまい108は、透明あるいは半透明の外観にならず多少曇った状態になる。このためひげぜんまい108に美観が必要な場合には、鏡面に仕上げるための公知の表面処理工程を別途追加する必要がある。このような特徴を備える実施の形態3の製造方法は、特に、デザイン上の要望から、表面が曇ったマット調が望まれる時計部品の製造方法において有用である。
また、この発明にかかる実施の形態1、実施の形態2または実施の形態3の時計部品は、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品であって、少なくとも一部が、シリコンを熱酸化することによって形成されるシリコン酸化物310からなることを特徴としている。この発明にかかる実施の形態1、実施の形態2または実施の形態3の時計部品によれば、少なくとも一部が、シリコンのヤング率の温度特性とは逆のヤング率の温度特性を示すシリコン酸化物310からなるため、時計部品においてシリコン酸化物310とそれ以外の部分とにおいて、互いに温度特性を打ち消す方向に作用する。これにより、環境温度の変化に対する変形や特性の変化の少ない、いわゆる温度特性に優れた時計部品を提供することができる。
また、この発明にかかる実施の形態1、実施の形態2または実施の形態3の時計部品によれば、シリコンよりも硬いシリコン酸化物310を一体的に備えた時計部品を製造することができる。これにより、耐久性に優れた時計部品を製造することができる。
また、この発明にかかる実施の形態1、実施の形態2または実施の形態3の時計部品によれば、少なくとも一部が、シリコンを熱酸化することによって形成されるシリコン酸化物310からなるため、時計部品においてシリコン酸化物310とそれ以外の部分との境界部分においては、酸化物が多くシリコンが少ない状態から、シリコンが多く酸化物が少ない状態(あるいは、その逆)に徐々に変化する。これにより、シリコン酸化物310とそれ以外の部分とが良好に結合し、仮に、別の時計部品と接触したり衝突したりして外部から衝撃が加えられた場合にも、当該衝撃による破損を防止することができる。これにより、時計部品における耐衝撃性の向上を図ることができる。
また、この発明にかかる実施の形態1、実施の形態2または実施の形態3の時計部品は、脱進機103を構成するがんぎ車106およびアンクル107、てんぷ104を構成するひげぜんまい108およびてん輪109、輪列105を構成する二番車110、三番車111、四番車112などの歯車の少なくとも一つであることを特徴としている。
この発明にかかる実施の形態1、実施の形態2または実施の形態3の時計部品によれば、機械式時計において計時のために駆動される時計部品の少なくとも一つを、少なくとも一部が、シリコンを熱酸化することによって形成されるシリコン酸化物310からなる時計部品とすることにより、機械式時計における計時の精度を確保することができる。これにより、計時精度の高い機械式時計を製造することができる。
さらに、この発明にかかる実施の形態1、実施の形態2または実施の形態3の時計部品によれば、機械式時計において計時のために駆動される時計部品の少なくとも一つを、少なくとも一部が、シリコンを熱酸化することによって形成されるシリコン酸化物からなり、内部の酸化強度と表面の酸化強度とを異ならせた時計部品としてもよい。このような時計部品においては、当該時計部品における酸化の度合い、すなわち、当該時計部品においてシリコンが酸化物化している割合(シリコン酸化物の分布濃度)が、当該時計部品の内部と表面とにおいて異なっている。
これにより、時計部品における酸化の度合いを、時計部品全体にわたって一定(均一)とするのではなく、当該時計部品の内部と表面とにおいて異ならせ、時計部品中の場所によって(内部か表面かによって)変化させることができる。具体的には、たとえば、時計部品の表面から内部に向かって、あるいは、時計部品の内部から表面に向かって、シリコンが酸化物化している割合が多くなる時計部品とすることができる。時計部品においてシリコンが酸化物化している割合は、段階的に異ならせてもよく、無段階に(徐々に)異ならせてもよい。
以上のように、この発明にかかる時計部品の製造方法および時計部品は、時計における機械部品を構成する時計部品の製造方法および時計部品に有用であり、特に、機械式時計の駆動機構を構成する時計部品の製造方法および時計部品に適している。
101 駆動機構
102 香箱
103 脱進機
104 調速機構(てんぷ)
105 輪列
106 がんぎ車
107 アンクル
108 ひげぜんまい
109 てん輪
110 二番車
111 三番車
112 四番車
310 シリコン酸化物
311 支持層
312 酸化膜
313 活性層
314 積層基板

Claims (11)

  1. 支持層の一面側に少なくとも酸化膜を介して積層された活性層またはシリコン単結晶基板に、時計の駆動機構を構成する時計部品の形状に基づく所定パターンのマスクを形成するマスク形成工程と、
    前記活性層または前記シリコン単結晶基板に対して、前記マスク形成工程において形成されたマスク部分を残して残余を除去するエッチング加工をおこなうエッチング工程と、
    前記マスク形成工程より前または前記エッチング工程より後に、前記活性層または前記シリコン単結晶基板に酸素イオンを注入するイオン注入工程と、
    前記イオン注入工程において酸素イオンが注入された前記活性層または前記シリコン単結晶基板を所定温度に加熱することにより、当該活性層または当該シリコン単結晶基板をなすシリコンを熱酸化させてシリコン酸化物を形成する加熱工程と、
    を含むことを特徴とする時計部品の製造方法。
  2. 前記エッチング工程は、深掘りRIEによってエッチング加工をおこなうことを特徴とする請求項1に記載の時計部品の製造方法。
  3. 前記エッチング工程において前記活性層にエッチング加工をおこなった場合、エッチング加工後の前記活性層のうち少なくとも前記時計部品をなす部分の前記活性層から前記支持層および前記酸化膜を除去する除去工程を含み、
    前記イオン注入工程は、前記除去工程において前記支持層および前記酸化膜が除去された活性層または前記シリコン単結晶基板に酸素イオンを注入することを特徴とする請求項1または2に記載の時計部品の製造方法。
  4. 前記イオン注入工程は、前記マスク形成工程より前におこない、
    前記加熱工程は、前記エッチング工程より後におこなうことを特徴とする請求項1または2に記載の時計部品の製造方法。
  5. 前記イオン注入工程は、前記活性層または前記シリコン単結晶基板の全体にわたって酸素イオンを注入することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の時計部品の製造方法。
  6. 前記イオン注入工程は、前記活性層または前記シリコン単結晶基板の内部に極部的に酸素イオンを注入することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の時計部品の製造方法。
  7. 前記イオン注入工程は、前記活性層または前記シリコン単結晶基板の外表面の少なくとも一部に極部的に酸素イオンを注入することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の時計部品の製造方法。
  8. 前記イオン注入工程は、前記時計部品における、前記駆動機構を構成する別の時計部品と対向または接触する位置に酸素イオンを注入することを特徴とする請求項7に記載の時計部品の製造方法。
  9. 前記時計部品は、ひげぜんまいであって、
    前記イオン注入工程は、前記活性層または前記シリコン単結晶基板における、前記ひげぜんまいの中心を半径の交点とする扇形状によって囲まれる範囲内に酸素イオンを注入することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の時計部品の製造方法。
  10. 時計の駆動機構を構成する時計部品であって、
    少なくとも一部が、シリコンを熱酸化することによって形成されるシリコン酸化物からなり、
    内部の酸化強度と表面の酸化強度とが異なっていることを特徴とする時計部品。
  11. 脱進機を構成するがんぎ車およびアンクル、調速機構を構成するひげぜんまいおよびてん輪、輪列を構成する歯車の少なくとも一つであることを特徴とする請求項10に記載の時計部品。
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