以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両を構成するハイブリッド形式の車両用駆動装置10を説明する概略構成図である。図1において、この車両用駆動装置10では、車両において、主駆動源である第1駆動源12のトルクが出力部材として機能する車輪側出力軸14に伝達され、その車輪側出力軸14から差動歯車装置16を介して左右一対の駆動輪18にトルクが伝達されるようになっている。また、この車両用駆動装置10には、走行のための駆動力を出力する力行制御およびエネルギを回収するための回生制御を選択的に実行可能な第2電動機MG2が第2駆動源として設けられており、この第2電動機MG2は自動変速機22を介して上記車輪側出力軸に連結されている。したがって、第2電動機MG2から車輪側出力軸へ伝達される出力トルクがその自動変速機22で設定される変速比γs(=第2電動機MG2の回転速度Nmg2/車輪側出力軸の回転速度Nout)に応じて増減されるようになっている。
第2電動機MG2と駆動輪18との間の動力伝達経路に介装されている自動変速機22は、変速比γsが「1」より大きい複数段を成立させることができるように構成されており、第2電動機MG2からトルクを出力する力行時にはそのトルクを増大させて車輪側出力軸へ伝達することができるので、第2電動機MG2が一層低容量もしくは小型に構成される。これにより、例えば高車速に伴って車輪側出力軸の回転速度Noutが増大した場合には、第2電動機MG2の運転効率を良好な状態に維持するために、変速比γsを小さくして第2電動機MG2の回転速度(以下、第2電動機回転速度という)Nmg2を低下させたり、また車輪側出力軸の回転速度Noutが低下した場合には、変速比γsを大きくして第2電動機回転速度Nmg2を増大させる。
上記第1駆動源12は、主動力源としてのエンジン24と、第1電動機MG1と、これらエンジン24と第1電動機MG1との間でトルクを合成もしくは分配するための動力分配機構としての遊星歯車装置26とを主体として構成されている。上記エンジン24は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、マイクロコンピュータを主体とする図示しないエンジン制御用の電子制御装置(E−ECU)によって、スロットル弁開度や吸入空気量、燃料供給量、点火時期などの運転状態が電気的に制御されるように構成されている。上記電子制御装置には、アクセルペダルの操作量を検出するアクセル操作量センサAS、ブレーキペダルの操作の有無を検出するためのブレーキセンサBS等からの検出信号が供給されている。
上記第1電動機MG1は、例えば同期電動機であって、駆動トルクを発生させる電動機としての機能と発電機としての機能とを選択的に生じるように構成され、インバータ30を介してバッテリー、コンデンサなどの蓄電装置32に接続されている。そして、マイクロコンピュータを主体とする図示しないモータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)によってそのインバータ30が制御されることにより、第1電動機MG1の出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定されるようになっている。
遊星歯車装置26は、サンギヤS0と、そのサンギヤS0に対して同心円上に配置されたリングギヤR0と、これらサンギヤS0およびリングギヤR0に噛み合うピニオンギヤP0を自転かつ公転自在に支持するキャリヤCA0とを三つの回転要素として備えて公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車機構である。遊星歯車装置26はエンジン24および自動変速機22と同心に設けられている。遊星歯車装置26および自動変速機22は中心線に対して対称的に構成されているため、図1ではそれらの下半分が省略されている。
本実施例では、エンジン24のクランクシャフト36は、ダンパ装置38および動力伝達軸39を介して遊星歯車装置26のキャリヤCA0に連結されている。これに対してサンギヤS0には第1電動機MG1が連結され、リングギヤR0には車輪側出力軸が連結されている。このキャリヤCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。なお、本実施例において、ダンパ装置38よりも駆動輪18側(下流側)をT/A側と定義する。
上記遊星歯車装置26において、キャリヤCA0に入力されるエンジン24の出力トルクに対して、第1電動機MG1による反力トルクがサンギヤS0に入力されると、出力要素となっているリングギヤR0には、直達トルクが現れるので、第1電動機MG1は発電機として機能する。また、リングギヤR0の回転速度すなわち車輪側出力軸14の回転速度(出力軸回転速度)Noutが一定であるとき、第1電動機MG1の回転速度Nmg1を上下に変化させることにより、エンジン24の回転速度(エンジン回転速度)Neを連続的に(無段階に)変化させることができる。
本実施例の前記自動変速機22は、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち自動変速機22では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが設けられており、その第1サンギヤS1にステップドピニオンP1の大径部が噛合するとともに、そのステップドピニオンP1の小径部がピニオンP2に噛合し、そのピニオンP2が前記各サンギヤS1、S2と同心に配置されたリングギヤR1(R2)に噛合している。上記各ピニオンP1、P2は、共通のキャリヤCA1(CA2)によって自転かつ公転自在にそれぞれ保持されている。また、第2サンギヤS2がピニオンP2に噛合している。
前記第2電動機MG2は、前記モータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)によりインバータ40を介して制御されることにより、電動機または発電機として機能させられ、アシスト用出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定される。第2サンギヤS2にはその第2電動機MG2が連結され、上記キャリヤCA1が車輪側出力軸に連結されている。第1サンギヤS1とリングギヤR1とは、各ピニオンP1、P2と共にタプルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成し、また第2サンギヤS2とリングギヤR1とは、ピニオンP2と共にシングルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成している。
そして、自動変速機22には、第1サンギヤS1を選択的に固定するためにその第1サンギヤS1と非回転部材であるハウジング42との間に設けられた第1ブレーキB1と、リングギヤR1を選択的に固定するためにそのリングギヤR1とハウジング42との間に設けられた第2ブレーキB2とが設けられている。これらのブレーキB1、B2は摩擦力によって制動力を生じるいわゆる摩擦係合装置であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキB1、B2は、それぞれ油圧シリンダ等のブレーキB1用油圧アクチュエータ、ブレーキB2用油圧アクチュエータにより発生させられる係合圧に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。
以上のように構成された自動変速機22は、第2サンギヤS2が入力要素として機能し、またキャリヤCA1が出力要素として機能し、第1ブレーキB1が係合させられると「1」より大きい変速比γshの高速段Hが成立させられ、第1ブレーキB1に替えて第2ブレーキB2が係合させられるとその高速段Hの変速比γshより大きい変速比γslの低速段Lが成立させられるように構成されている。すなわち、自動変速機22は2段変速機で、これらの変速段HおよびLの間での変速は、車速Vや要求駆動力(もしくはアクセル操作量)などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御される。
図2は、図1のダンパ装置38の構造を詳細に説明するための断面図である。なお、ダンパ装置38は回転軸心Cを中心として略対称に構成されているため、下側半分が省略されている。
ダンパ装置38は、回転軸心Cを中心としてエンジン24と遊星歯車装置26との間に動力伝達可能に設けられている。ダンパ装置38は、エンジン24のクランクシャフト36にボルト48によって連結されて回転軸心Cまわりに回転可能なディスクプレート50およびディスクサブプレート52(ディスクプレート50とディスクサブプレート52とを特に区別しない場合には単にディスクプレートと記載する)と、そのディスクプレートと同じ回転軸心Cまわりに回転可能なハブプレート54と、ディスクプレートとハブプレート54との間に介挿されてそれらを動力伝達可能(弾性的)に連結するコイルスプリング56と、ハブプレート54の外周部に設けられて予め設定されているリミットトルク超えるトルク伝達を防止するトルクリミッタ58とを、含んで構成されている。なお、コイルスプリング56が、本発明の弾性部材に対応している。
ディスクプレート50およびディスクサブプレート52は、何れも円盤状に形成されたプレート部材で構成されており、コイルスプリング56を挟むようにして配置されている。ディスクプレート50およびディスクサブプレート52の内周部には、ボルト締結用のボルト穴50a、52aがそれぞれ形成されており、ディスクプレートの内周端面がクランクシャフト36の軸端部に形成されている円筒状の延設部36aの外周面に嵌合した状態で、ディスクプレート50およびディスクサブプレート52がクランクシャフト36にボルト48で締結されている。なお、ディスクサブプレート52の内周側は、ボルト締結が可能となるように屈曲されている。従って、ディスクプレートは、クランクシャフト36と一体的に回転させられる。また、クランクシャフト36とディスクプレート50との間には円板状のスペーサ60が介挿されており、スペーサ60の厚みに応じてダンパ装置38の軸方向の位置が調整される。また、ディスクプレート50およびディスクサブプレート52の外周側は、リベット61によって一体的に固定されている。なお、リベット61は、後述するハブプレート54に形成されているスプリング収容穴54aを貫通しており、ハブプレート54とディスクプレートとの相対回転角が予め設定されている所定値となるとハブプレート54に当接してコイルスプリング56の過度の圧縮を防止するように構成されている。すなわち、リベット61は、コイルスプリング56を保護する部材としても機能する。
ハブプレート54は、ディスクプレート50およびディスクサブプレート52に挟まれた位置に配置されている。ハブプレート54は、円板状に形成されており、コイルスプリング56を収容すると共にリベット61を軸方向に挿し通すための窓状のスプリング収容穴54aが周方向に複数個(例えば4個)形成されている。そして、そのスプリング収容穴54a毎にコイルスプリング56がそれぞれ収容されている。コイルスプリング56は、ハブプレート54と、そのハブプレート54を挟み込むように配置されている一対のディスクプレートとの間に介挿された状態でこれらを動力伝達可能(弾性的に)に連結している。さらに、ハブプレート54の外周端部には、スプライン状の外周歯54bが形成されており、後述するイナーシャリング62に形成されている内周歯62aにスプライン嵌合されている。
トルクリミッタ58は、ハブプレート54と、ハブプレート54を挟むように配置される円環状のイナーシャリング62および円板状のカバー64と、外周部がハブプレート54とカバー64との間に介挿されているトルクリミッタプレート66と、軸方向においてイナーシャリング62とハブプレート54との間に予荷重状態で介挿されてハブプレート54をトルクリミッタプレート66側に向かって押圧する皿バネ68とを、含んで構成されている。
イナーシャリング62は、軸方向の一端がカバー64側に伸びることで断面がL字状に形成されている円還状の部材であり、その軸方向の一端側の端面に円板状のカバー64がボルト72によって締結されている。これより、イナーシャリング62とカバー64との間に、環状空間が形成されている。この環状空間に、ハブプレート54の外周部、トルクリミッタプレート66、および皿バネ68が収容される。なお、ダンパ装置38では、イナーシャリング62はコイルスプリング56に対してハブ部材76側に配置され、そのイナーシャリング62がフライホイールとしても機能するような慣性モーメントに設計されている。
トルクリミッタプレート66は、円盤状の板材から構成されており、その外周両面には摩擦材74が貼り着けられている。また、トルクリミッタプレート66の内周端部は、ハブ部材76から径方向に伸びる鍔部76aの外周部にリベット78によって締結されている。なお、ハブ部材76には、動力伝達軸39がスプライン嵌合される。また、鍔部76aには、ダンパ装置38をクランクシャフト36にボルト48で固定する際に工具等を通す締結作業用の作業用穴80が、ボルト48と対応する位置に周方向に複数個形成されている。なお、ハブ部材76が本発明の出力回転部材に対応する。
皿バネ68は、内周側がイナーシャリング62の内周端に形成されている突起部62bによって保持されており、外周側がハブプレート54に当接してそのハブプレート54を軸方向においてカバー64側に向かって押圧している。上記のようにトルクリミッタ58が構成されることで、ダンパ装置38に予め設定されている上限値を超えるトルクが伝達された場合には、ハブプレート54およびカバー64と摩擦材74との間で滑りが生じ、その上限値を超えるトルクの伝達が防止される。従って、トルクリミッタ58は、前記上限値を超えるトルクが伝達された際に滑りが生じるように設計されている。
コイルスプリング56の内周側には、所定のヒステリシストルクを発生させるためのヒス発生部82が設けられている。ヒス発生部82は、断面がL字状に屈曲して形成されている円盤状の第1環状部材84と、同じく断面がL字状に屈曲して形成されている円盤状の第2環状部材86と、ディスクサブプレート52と第2環状部材86との間に介挿されて第2環状部材86をハブプレート54に向かって押圧する皿バネ88とを、備えて構成されている。なお、ハブプレート54の内周端部は第1環状部材84に当接しており、ハブプレート54は、第1環状部材84を介してディスクサブプレート52によって保持されている。また、イナーシャリング62は、ハブプレート54にスプライン嵌合されることで一体的な構造となっているので、イナーシャリング62も同様に、ハブプレート54および第1環状部材84を介してディスクサブプレート52によって保持されている。
第1環状部材84には、軸方向に伸びる突起が周方向に複数個形成されており、その突起がディスクプレート50に形成されている切欠に嵌め入れられている。従って、前記突起および切欠が廻り止めとして機能し、ディスクプレート50と第1環状部材84との相対回転が阻止されている。また、第2環状部材86にも同様に、軸方向に伸びる突起が周方向に複数個形成されており、その突起がディスクサブプレート52に形成されている切欠に嵌め入れられている。従って、前記突起および切欠が廻り止めとして機能し、ディスクサブプレート52と第2環状部材86との相対回転が阻止されている。さらに、皿バネ88の内周部にも突起が周方向に複数個形成されており、その突起が第2環状部材86に形成されている切欠に嵌め入れられることで廻り止めとして機能し、皿バネ88と第2環状部材86との相対回転が阻止されている。このように構成されるヒス発生部82において、皿バネ88が第2環状部材86をハブプレート54に向かって押圧することで、ハブプレート54と第1環状部材84および第2環状部材86とが摺動した際にヒステリシストルクが発生する。
上記のように構成されるダンパ装置38では、ハブプレート54がトルクリミッタの構成部材として必要とされていたプレッシャプレートとしても機能しており、そのプレッシャプレートが省略されている。さらに、イナーシャリング62がトルクリミッタの構成部材として必要とされていたサポートプレートおよびフライホイールとしても機能するので、構成部品が統合されて部品点数が削減されている。
また、ダンパ装置38において、イナーシャリング62およびカバー64はボルト72によって締結され、トルクリミッタプレート66およびハブ部材76はリベット78によって締結されている。これより、ダンパ装置38がフライホイールとしても機能するイナーシャリング62を含んで一体的に構成されているので、ダンパ装置38をクランクシャフト36に組付ける際には、ディスクプレートをクランクシャフト36にボルト48で締結する1工程だけで済み、従来のようなフライホイールの組付およびダンパの組付の2工程必要だったものが1工程に削減される。さらに、トルクリミッタプレート66の内周部は、リベット78によってハブ部材76の鍔部76aに締結されるので、動力伝達軸39がスプライン嵌合されるハブ部材76の芯出し精度も向上する。
また、ダンパ装置38にあっては、エンジン24から出力される駆動力が、クランクシャフト36、ディスクサブプレート、コイルスプリング56、ハブプレート54、トルクリミッタ58(イナーシャリング62、カバー64を含む)、トルクリミッタプレート66、ハブ部材76を介して動力伝達軸39に伝達される。また、ダンパ装置38では、イナーシャリング62がフライホイールとして機能することから、ダンパ装置38において、コイルスプリング56よりも上流側すなわちエンジン側の慣性モーメントが小さく、コイルスプリング56よりも下流側すなわち駆動輪側(以下、T/A側)の慣性モーメントが大きく構成されている。図3は、従来のダンパ装置および本実施例のダンパ装置38の慣性モーメントの大きさを概念的に示す図である。図3に示すiE'は、従来のダンパ装置においてコイルスプリングよりもエンジン側の慣性モーメントに対応し、iT'は、従来のダンパ装置においてコイルスプリングよりもT/A側の慣性モーメントに対応し、iEは、ダンパ装置38においてコイルスプリング56よりもエンジン側の慣性モーメントに対応し、iTは、ダンパ装置38においてコイルスプリング56よりもT/A側の慣性モーメントに対応している。図3の概念図からもわかるように、フライホイールとしても機能するイナーシャリング62が大きな慣性モーメントを有することで、従来のダンパ装置と比較して、エンジン側の慣性モーメントが減少すると共に、T/A側の慣性モーメントが増加している。
ところで、近年の低燃費化対策によって、エンジン燃焼のリーン化に伴って燃焼の不安定化が生じ易くなっており、爆発強制力として支配的であた爆発一次以外に回転0.5次といった低次次数の強制力も増加傾向にある。これより、従来はエンジン常用回転速度以下での現象であった捩り共振がアイドル運転のエンジン回転速度付近で発生し、NVやドラビリに影響を与える可能性があった。また、低燃費のためのハイギヤ化やトランスアクスルの軽量化により、こもり音や駆動系の歯打ち音の因子である駆動系の振動伝達特性も悪化の傾向にあった。これらの課題は互いに相反関係にあり、これらの課題を同時に改善することは困難であった。
これに対して、ダンパ装置38にあっては、上述したように慣性モーメントの大きいイナーシャリング62をコイルスプリング56に対してハブ部材76側に配置することで、従来のダンパ装置に比べてエンジン側の慣性モーメントを減少させると共に、T/A側の慣性モーメントを増加させることで上記課題を解消している。以下、その理由について説明する。
図4は、本実施例のハイブリッド車両におけるバネ/マスモデルを簡略的に示している。図4において、IEがエンジン系の慣性モーメントを示し、IMが第1電動機MG1を含んで構成される慣性モーメントに対応し、IOがリングギヤR0や車輪側出力軸14を含んで構成される慣性モーメントに対応し、IWがホイール側の慣性モーメントに対応している。図4に示すNeハンチングのバネ/マス系において、前記回転0.5次の共振回転数がエンジン24のアイドル回転速度から離れることが好ましい。そこで、本実施例では、共振回転数をアイドル回転速度よりも高い値に設定することで捩り共振を抑制する。具体的には、Neハンチングのバネ/マス系においてトータル慣性を小さくすることで共振回転数(固有値)を上げている。一方、こもり音における支配的なバネ/マス系では、破線で示すT/A内の慣性を上げて共振回転数(固有値)を下げることで振動レベルを下げている。ここで、ダンパ装置38では、イナーシャリング62がT/A側に配置されるので、イナーシャリング62の慣性質量を調整することでトータルの慣性を変化させることなくエンジン側の慣性をT/A側に移動することができる。従って、Neハンチングのバネ/マス系の慣性を小さくしつつ、こもり音における支配的なバネ/マス系の慣性を大きくすることができる。
このようにダンパ装置38の慣性モーメントをエンジン側からT/A側に移動させたときの共振回転数および振動ゲインの変化を図5に示す。図5において、横軸は慣性(慣性モーメント)の移動量を示しており右側に移動するに従ってT/A側への慣性が増加する。また、左側の縦軸は、振動ゲインを示しており、図中の実線に対応している。さらに、右側の縦軸は、回転0.5次に換算したときのPレンジにおける共振回転数を示しており、図中の一点鎖線に対応している。図5に示されるように、T/A側へ移動する慣性が増加するに従って、一点鎖線で示す共振回転数が高くなっている。このように、T/A側への慣性が増加するに従って共振回転数が高くなるので、共振回転数をエンジン24のアイドル回転数よりも高い値に設定して捩り共振の発生を抑制できる。また、T/Aの慣性が増加するに従って振動ゲインが増加して振動伝達特性が改善されるに従い、こもり音の低減が可能となる。
上述のように、本実施例によれば、ダンパ装置38において、ハブプレート54を、従来のダンパ装置では別個に設けられていたトルクリミッタプレート66を押圧するプレッシャプレートとしても機能させることができる。また、イナーシャリング62は、慣性を有するためにフライホイールとして機能させることができるので、別個にフライホイールを設けることも防止できる。このようにダンパ装置38の構成部品の機能を1つの部品で共用することで、ダンパ装置38を構成する部品点数を低減することができる。これに関連して、製造コストを低減することもできる。トルクリミッタ58に皿バネ68が用いられることで、実用的なダンパ装置38となる。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図6は、本発明の他の実施例であるダンパ装置100の構成を説明するための断面図である。図6のダンパ装置100は、エンジン24のクランクシャフト36にボルト48によって連結されて回転軸心Cまわりに回転可能なディスクプレート102およびディスクサブプレート104(以下、特に区別しない場合には単にディスクプレートと記載する)と、そのディスクプレートと同じ回転軸心Cまわりに回転可能なハブプレート106と、ディスクプレートとハブプレート106との間に介挿されてそれらを動力伝達可能に連結するコイルスプリング56と、ハブプレート54の外周部に設けられて予め設定されているリミットトルク超えるトルク伝達を防止するトルクリミッタ107とを、含んで構成されている。
ディスクプレート102およびディスクサブプレート104は、何れも円盤状に形成されたプレート部材で構成されており、コイルスプリング56を挟んだ位置に配置されている。本実施例のダンパ装置100では、ディスクプレート102のみがクランクシャフト36にボルト48によって締結されている。一方、ディスクサブプレート104は、屈曲することなく内周方向に延設されている。そして、ディスクサブプレート104の内周部には、ダンパ装置100をクランクシャフト36に締結する際に工具等を通すための作業用穴105がボルト48と対応する位置に周方向に複数個形成されている。また、ディスクプレート102およびディスクサブプレート104の外周部は、リベット108によって一体的に固定されている。なお、リベット108は、ハブプレート106に形成されている後述するスプリング収容穴106aに挿し通されており、前述の実施例と同様にコイルスプリング56を保護する部材として機能する。
ハブプレート106は、円板状に形成されており、コイルスプリング56を収容するための窓状のスプリング収容穴106aが周方向に複数個形成されている。また、ハブプレート106の外周端部は、前述の実施例と同様にイナーシャリング110にスプライン嵌合されている。さらに、ハブプレート106の内周側は、ハブ部材76の円筒部まで延設されており、ダンパ装置100をクランクシャフト36に締結する際に工具等を通すための作業用穴109が、ボルト48と対応する位置に周方向に複数個形成されている。
トルクリミッタ107は、ハブプレート106と、ハブプレート106を挟むように配置される円還状のイナーシャリング110および円板状のカバー112と、外周部がハブプレート106とカバー112との間に介挿されているトルクリミッタプレート114と、軸方向においてイナーシャリング110とハブプレート106との間に予荷重状態で介挿されてハブプレート106をトルクリミッタプレート114側に向かって押圧する皿バネ116とを、含んで構成されている。なお、トルクリミッタ107の詳細については、前述した実施例のトルクリミッタ58と基本的には変わらないので、その説明を省略する。
本実施例においてもヒステリシストルクを発生させるためのヒス発生部118が設けられている。本実施例のヒス発生部118は、ディスクサブプレート104の内周部および鍔部76aの内周部であって、コイルスプリング56に対して軸方向にずれた位置に設けられている。ヒス発生部118は、断面がL字状に屈曲して形成されている還状の第1環状部材120と、同じく断面がL字状に屈曲して形成されている還状の第2環状部材122と、第2環状部材122と鍔部76aとの間に介挿されて第2環状部材122をディスクサブプレート104に向かって押圧する皿バネ124とを、含んで構成されている。なお、ハブプレート106の内周端部は、第1環状部材120に当接していることから、ハブプレート106が第1環状部材120を介してハブ部材76によって保持されている。また、イナーシャリング110の内周部とディスクプレート102との間には、樹脂等からなる軸受126が介挿されており、イナーシャリング110が軸受126を介してディスクプレート102によって保持されている。
第1環状部材120には、軸方向に伸びる突起が周方向に複数個形成されており、その突起がハブプレート106に形成されている切欠にそれぞれ嵌め入れられることで廻り止めとして機能し、ハブプレート106と第1環状部材120との相対回転が阻止されている。また、第2環状部材122にも同様に、軸方向に伸びる突起が周方向に複数個形成されており、その突起が鍔部76aに形成されている切欠にそれぞれ嵌め入れられることで廻り止めとして機能し、第2環状部材122とハブ部材76との間の相対回転が阻止されている。さらに、皿バネ124の外周部にも突起が周方向に複数個形成されており、その突起が第2環状部材122に形成されている切欠に嵌め入れられることで廻り止めとして機能し、第2環状部材122と皿バネ124との相対回転が阻止されている。このように構成されるヒス発生部118において、皿バネ116が第2環状部材122をディスクサブプレート104側に向かって押圧することで、ハブプレート106とディスクプレート102およびディスクサブプレート104とが摺動した際にヒステリシストルクが発生する。
上記のように構成されるダンパ装置100においても、ハブプレート106がトルクリミッタの構成部材として必要とされていたプレッシャプレートとしても機能しており、そのプレッシャプレートが省略されている。さらに、イナーシャリング110がトルクリミッタの構成部材として必要とされていたサポートプレート、およびフライホイールとしても機能するので、構成部材が統合されて部品点数が削減されている。
また、ダンパ装置100において、イナーシャリング110およびカバー112はボルト72によって締結され、トルクリミッタプレート114およびハブ部材76の鍔部76aはリベット108によって締結されている。これより、ダンパ装置100がフライホイールとしても機能するイナーシャリング110を含んで一体的に構成されているので、ダンパ装置100をクランクシャフト36に組付ける際には、ディスクプレートクランクシャフト36にボルト48で締結する1工程だけで済み、従来のようなフライホイールの組付およびダンパの組付の2工程必要だったものが1工程に削減される。また、ダンパ装置100では、ヒス発生部118が、コイルスプリング56に対して軸方向にずれた位置であって、ディスクサブプレート104および鍔部76aの内周端部に設けられているので、コイルスプリング56をさらに内周側に配置することも可能となる。従って、コイルスプリング56のさらなる低剛性化も可能となる。また、ダンパ装置100においても、イナーシャリング110がコイルスプリング56に対してT/A側に設けられており、前述した実施例のダンパ装置38と同様に、共振回転数の上昇と振動伝達特性の改善とを両立させることができる。
上述のように、本実施例のダンパ装置100においても前述した実施例のダンパ装置38と同様の効果を得ることができる。また、ヒステリシストルクを発生させるヒス発生部118が、ディスクサブプレート104および鍔部76aの内周部に設けられており、イナーシャリング110とディスクプレート102との間に軸受126が設けられている。これより、ヒス発生部118がコイルスプリング56の内周側に配置されないので、コイルスプリング56をより内周側に配置することができ、結果としてコイルスプリング56の低剛性化が可能となって振動伝達特性を改善することもできる。また、イナーシャリング110が軸受126によって確実に保持される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例のダンパ装置38はハイブリッド形式の車両用駆動装置10に適用されていたが駆動装置の具体的な構造は適宜変更しても構わない。例えば、必ずしもハイブリッド形式の駆動装置に限定されない。また、変速機の構造についても自動変速機22に限定されず、例えば更に多段化された変速機やベルト式の無段変速機など適宜変更することができる。さらに、変速機が省略されたものであっても構わない。
また、前述の実施例のダンパ装置100に設けられている軸受126をダンパ装置38に用いて実施することもできる。
また、前述の実施例のダンパ装置100に設けられている軸受126の材質は樹脂に限定されず他の材質に変更しても構わない。
また、前述の実施例において、イナーシャリング62およびカバー64は、ボルト72によって締結されているが、例えば溶接など他の方法で固定することもできる。
また、前述の実施例では、トルクリミッタ58、107に皿バネ68、116が使用されているが、必ずしも皿バネに限定されるものではなく、例えば波バネやコイルバネなど、ハブプレートを押圧するものであれば特に限定されない。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。