以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド形式の車両用駆動装置10を説明する概略構成図である。図1において、この車両用駆動装置10では、車両において、主駆動源である第1駆動源12のトルクが出力部材として機能する車輪側出力軸14に伝達され、その車輪側出力軸14から差動歯車装置16を介して左右一対の駆動輪18にトルクが伝達されるようになっている。また、この車両用駆動装置10には、走行のための駆動力を出力する力行制御およびエネルギを回収するための回生制御を選択的に実行可能な第2電動機MG2が第2駆動源として設けられており、この第2電動機MG2は自動変速機22を介して上記車輪側出力軸に連結されている。したがって、第2電動機MG2から車輪側出力軸へ伝達される出力トルクがその自動変速機22で設定される変速比γs(=第2電動機MG2の回転速度Nmg2/車輪側出力軸の回転速度Nout)に応じて増減されるようになっている。
第2電動機MG2と駆動輪18との間の動力伝達経路に介装されている自動変速機22は、変速比γsが「1」より大きい複数段を成立させることができるように構成されており、第2電動機MG2からトルクを出力する力行時にはそのトルクを増大させて車輪側出力軸へ伝達することができるので、第2電動機MG2が一層低容量もしくは小型に構成される。これにより、例えば高車速に伴って車輪側出力軸の回転速度Noutが増大した場合には、第2電動機MG2の運転効率を良好な状態に維持するために、変速比γsを小さくして第2電動機MG2の回転速度(以下、第2電動機回転速度という)Nmg2を低下させたり、また車輪側出力軸の回転速度Noutが低下した場合には、変速比γsを大きくして第2電動機回転速度Nmg2を増大させる。
上記第1駆動源12は、主動力源としてのエンジン24と、第1電動機MG1と、これらエンジン24と第1電動機MG1との間でトルクを合成もしくは分配するための動力分配機構としての遊星歯車装置26とを主体として構成されている。上記エンジン24は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関であって、マイクロコンピュータを主体とする図示しないエンジン制御用の電子制御装置(E−ECU)によって、スロットル弁開度や吸入空気量、燃料供給量、点火時期などの運転状態が電気的に制御されるように構成されている。上記電子制御装置には、アクセルペダルの操作量を検出するアクセル操作量センサAS、ブレーキペダルの操作の有無を検出するためのブレーキセンサBS等からの検出信号が供給されている。
上記第1電動機MG1は、例えば同期電動機であって、駆動トルクを発生させる電動機としての機能と発電機としての機能とを選択的に生じるように構成され、インバータ30を介してバッテリー、コンデンサなどの蓄電装置32に接続されている。そして、マイクロコンピュータを主体とする図示しないモータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)によってそのインバータ30が制御されることにより、第1電動機MG1の出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定されるようになっている。
遊星歯車装置26は、サンギヤS0と、そのサンギヤS0に対して同心円上に配置されたリングギヤR0と、これらサンギヤS0およびリングギヤR0に噛み合うピニオンギヤP0を自転かつ公転自在に支持するキャリヤCA0とを三つの回転要素として備えて公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車機構である。遊星歯車装置26はエンジン24および自動変速機22と同心に設けられている。遊星歯車装置26および自動変速機22は中心線に対して対称的に構成されているため、図1ではそれらの下半分が省略されている。
本実施例では、エンジン24のクランク軸36は、車両用ダンパ装置38(以下、ダンパ装置38)および動力伝達軸39を介して遊星歯車装置26のキャリヤCA0に連結されている。これに対してサンギヤS0には第1電動機MG1が連結され、リングギヤR0には車輪側出力軸が連結されている。このキャリヤCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能している。
上記遊星歯車装置26において、キャリヤCA0に入力されるエンジン24の出力トルクに対して、第1電動機MG1による反力トルクがサンギヤS0に入力されると、出力要素となっているリングギヤR0には、直達トルクが現れるので、第1電動機MG1は発電機として機能する。また、リングギヤR0の回転速度すなわち車輪側出力軸14の回転速度(出力軸回転速度)Noutが一定であるとき、第1電動機MG1の回転速度Nmg1を上下に変化させることにより、エンジン24の回転速度(エンジン回転速度)Neを連続的に(無段階に)変化させることができる。
本実施例の前記自動変速機22は、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち自動変速機22では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが設けられており、その第1サンギヤS1にステップドピニオンP1の大径部が噛合するとともに、そのステップドピニオンP1の小径部がピニオンP2に噛合し、そのピニオンP2が前記各サンギヤS1、S2と同心に配置されたリングギヤR1(R2)に噛合している。上記各ピニオンP1、P2は、共通のキャリヤCA1(CA2)によって自転かつ公転自在にそれぞれ保持されている。また、第2サンギヤS2がピニオンP2に噛合している。
前記第2電動機MG2は、前記モータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)によりインバータ40を介して制御されることにより、電動機または発電機として機能させられ、アシスト用出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定される。第2サンギヤS2にはその第2電動機MG2が連結され、上記キャリヤCA1が車輪側出力軸に連結されている。第1サンギヤS1とリングギヤR1とは、各ピニオンP1、P2と共にタプルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成し、また第2サンギヤS2とリングギヤR1とは、ピニオンP2と共にシングルピニオン型遊星歯車装置に相当する機構を構成している。
そして、自動変速機22には、第1サンギヤS1を選択的に固定するためにその第1サンギヤS1と非回転部材であるハウジング42との間に設けられた第1ブレーキB1と、リングギヤR1を選択的に固定するためにそのリングギヤR1とハウジング42との間に設けられた第2ブレーキB2とが設けられている。これらのブレーキB1、B2は摩擦力によって制動力を生じるいわゆる摩擦係合装置であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキB1、B2は、それぞれ油圧シリンダ等のブレーキB1用油圧アクチュエータ、ブレーキB2用油圧アクチュエータにより発生させられる係合圧に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。
以上のように構成された自動変速機22は、第2サンギヤS2が入力要素として機能し、またキャリヤCA1が出力要素として機能し、第1ブレーキB1が係合させられると「1」より大きい変速比γshの高速段Hが成立させられ、第1ブレーキB1に替えて第2ブレーキB2が係合させられるとその高速段Hの変速比γshより大きい変速比γslの低速段Lが成立させられるように構成されている。すなわち、自動変速機22は2段変速機で、これらの変速段HおよびLの間での変速は、車速Vや要求駆動力(もしくはアクセル操作量)などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御される。
また、本実施例のエンジン24においては、エンジン燃焼のリーン化(希薄化)設計が為されており、それに伴う燃焼の不安定化(燃焼不良等)が発生しやすくなっている。したがって、従来のエンジン24の爆発強制力として支配的であった爆発1次次数(4気筒エンジンの場合は回転2次)以外に、回転1次や回転0.5次といった低次次数の強制力も増加傾向にある。したがって、従来では、エンジン常用回転速度以下の領域で発生する捩り共振(回転2次)に加えて、エンジン常用回転速度域でも回転1次や回転0.5次の強制力によって捩り共振が発生し、NV特性やドラビリに大きな影響を与えている。なお、回転1次の強制力とは、エンジン1回転に対して1回の爆発が発生することによる強制力であり、回転2次の強制力(4気筒エンジンでは爆発1次に対応)とは、エンジン1回転に対して2回の爆発が発生することによる強制力であり、爆発0.5次の強制力とは、エンジン1回転に対して0.5回の爆発(すなわちエンジン2回転で1回)が発生することによる強制力である。
従来のダンパ装置では、それらの問題に対して、ダンパ装置のバネ剛性を上げて駆動系の固有振動数を高くする、或いは、ダンパ装置のヒステリシストルクを増加することで、捩り共振を抑制していたが、何れも駆動系の固有振動数以上の高周波数領域において振動の伝達感度(ゲイン)が上がり、高周波数領域においてエンジンこもり音や歯打ち音等が発生する問題があった。これに対して、本実施例のダンパ装置38では、高周波数領域において振動の伝達感度を悪化させることなく、捩り共振発生時時の振幅を効果的に低減することができる。以下、上記ダンパ装置38の構成および作用について詳細に説明する。
図2は、図1に示すダンパ装置38の構成を詳細に示す断面図である。本実施例のダンパ装置38は、クランク軸36と出力軸39との間に介挿されており、軸心Cまわりに回転可能に保持されている。ダンパ装置38において、クランク軸36に接続されている図示しないフライホイールの外周端が、図示しないボルトを介して左右一対の入力プレート50に接続されており、入力プレート50からエンジン24の回転が入力され、内周部が出力軸39にスプライン嵌合されているハブ52に伝達される。
ダンパ装置38は、入力プレート50、トルクリミッタ機構54、エンジン24側に連結されている円盤状のディスクプレート56、ディスクプレート56とハブ52との間に介挿されてこれらを動力伝達可能に連結する第1コイルスプリング58、第1コイルスプリング58の径方向外側に設けられている円環板状の外周フランジ60、外周フランジ60とディスクプレート56との間に介挿されてこれらを動力伝達可能に連結する第2コイルスプリング62、ヒステリシストルクを発生させるヒステリシス機構64、および出力軸39にスプライン嵌合されているハブ52を含んで構成されている。なお、第1コイルスプリング58が本発明の第1のバネに対応し、第2コイルスプリング62が本発明の第2のバネに対応し、外周フランジ60が本発明の慣性体に対応している。
入力プレート50は左右一対の円盤状の第1入力プレート50aおよび第2入力プレート50bから構成され、エンジン24のクランク軸36に接続された図示しないフライホイールに図示しないボルトを介して一体的に締結されている。第1入力プレート50aは、径方向の中間部において第2入力プレート50bから離れる側に軸方向に屈曲されている。これより、第1入力プレート50aおよび第2入力プレート50bの内周側には空間が形成される。この空間に後述するトルクリミッタ機構54が収容されている。
トルクリミッタ機構54は、第2入力プレート50bに相対回転不能な円盤状のエンドプレート66、円環板状のライニングプレート68、エンドプレート66とライニングプレート68との間に介挿されている円環板状の摩擦材70、ライニングプレート68と第2入力プレート50bとの間に介挿されている円環板状の摩擦材72、および第1入力プレート50aとエンドプレート66との間に介挿されている皿バネ74を含んで構成されている。
エンドプレート66は円盤状に形成されており、外周端から第2入力プレート50bに向かって軸方向に伸びる爪部66aが周方向に等角度間隔で複数個形成されている。この爪部66aが、第2入力プレート50bに複数個形成されている嵌合孔76に嵌合されることにより、エンドプレート66と第2入力プレート50bとが相対回転不能とされている。
ライニングプレート68は、円環板状に形成されており、内周端がリベット78によってディスクプレート56に締結されている。従って、ライニングプレート68は、ディスクプレート56と軸心Cまわりに一体的に回転させられる。
摩擦材70は、円環板状の部材であり、例えばエンドプレート66側に接着されている。また、摩擦材72は、円盤環状の部材であり、例えば第2入力プレート50bに接着されている。従って、摩擦材70とライニングプレート68との間の接触面が、摺動可能な摩擦面となる。また、摩擦材72とライニングプレート68との間の接触面が、摺動可能な摩擦面となる。
皿バネ74は、コーン状に形成されており、第1入力プレート50aとエンドプレート66との間に予荷重状態で介挿されている。上記のようにトルクリミッタ機構54が構成されることにより、皿バネ74の皿バネ荷重F、摩擦材70、72の有効径r、摩擦材70、72とライニングプレート68との間の摩擦面の摩擦係数μに基づいて算出されるリミットトルクTlimが設定される。例えば、リミットトルクTlimを越えるトルクがトルクリミッタ機構54に入力されると、ライニングプレート68と摩擦材70、72との間で滑りが生じ、リミットトルクTlimを越えるトルク伝達が回避される。
ディスクプレート56は、左右一対の円盤状の第1ディスクプレート56aおよび第2ディスクプレート56bから構成されている(以下、特にこれらを区別しない場合にはディスクプレート56と記載)。第1ディスクプレート56aおよび第2ディスクプレート56bは、第1コイルスプリング58および第2コイルスプリング62を軸方向に挟み込んだ状態で、その外周側がリベット78によってライニングプレート68とともに相対回転不能に締結されている。従って、第1ディスクプレート56aおよび第2ディスクプレート56bは、軸心Cまわりに一体的に回転させられる。なお、第1ディスクプレート56aおよび第2ディスクプレート56bが、本発明の左右一対のディスクプレートに対応している。
第1ディスクプレート56aには、第1コイルスプリング58を収容するための第1スプリング保持穴80aおよび第2コイルスプリング62を収容するための第2スプリング保持穴80bが周方向に等角度間隔(本実施例では90度間隔)で交互に2個づつ形成されている。
第2ディスクプレート56bには、第1コイルスプリング58を収容するための第1スプリング保持穴82aおよび第2コイルスプリング62を収容するための第2スプリング保持穴82bが周方向に等角度間隔(本実施例では90度間隔)で交互に2個づつ形成されている。
第1スプリング保持穴80aと第1スプリング保持穴82aとは、回転方向において同じ位相に形成され、第2コイルスプリング保持穴80bと第2コイルスプリング保持穴82bとは、回転方向において同じ位相に形成されている。
ハブ52は、円環板状の内周フランジ84を一体的に備えている。内周フランジ84は、ハブ52に形成されている突起部52aに当接する位置まで嵌め入れられた状態でかしめ付けられている。さらに、内周フランジ84は、例えばハブ52にスプライン嵌合あるいは圧入されることにより相対回転不能とされている。以下において、ハブ52は、内周フランジ84を含むものとする。
ヒステリシス機構64は、軸方向において第1ディスクプレート56aと内周フランジ84(ハブ52)との間の空間に介挿されているフリクションプレート86および皿バネ88、内周フランジ84(ハブ52)と第2ディスクプレート56bとの間の空間に介挿されているフリクションプレート90を含んで構成されている。フリクションプレート86は、内周フランジ84と摺接可能とされており、そのフリクションプレート86と第1ディスクプレート56aとの間にコーン状の皿バネ88が予荷重状態で介挿されている。また、フリクションプレート90は、内周フランジ84に摺接可能とされている。従って、内周フランジ84とフリクションプレート86、90とが相対回転すると、内周フランジ84とフリクションプレート86、90との間の摩擦力に基づくヒステリシストルクが発生する。なお、ヒステリシストルクは、皿バネ88の皿バネ荷重、内周フランジ84とフリクションプレート86、90との摩擦面の摩擦係数μに基づいて調整される。
外周フランジ60は円板環状に形成されており、内周フランジ84の径方向外側に配置されている。また、外周フランジ60には、軸方向に貫通する切欠60cが形成されており、さらに、ディスクプレート56およびライニングプレート68を締結するリベット78がその切欠60cを貫通している。また、第1ディスクプレート56aと外周フランジ60の間には、プレート92が摺動可能に介挿され、第2ディスクプレート56bと外周フランジ60の間にも、プレート94が摺動可能に介挿されている。これらのプレート92、94によって、外周フランジ60の軸方向への移動が規制されている。
図3は、図2のダンパ装置38を矢印A側から見たA矢視図であって、さらに、第2ディスクプレート56b、フリクションプレート90、およびプレート94を取り外した状態を示している。なお、ダンパ装置38は、軸心Cに対して対称に構成されているため、図3では下半分が省略されている。また、図2のダンパ装置38は、図3において一点鎖線で示す切断線Bで切断した断面図に対応している。
図3に示すように、内周フランジ84は、外周部に円弧状に突き出す円弧状突出部84aが2個形成されており、この円弧状突出部84aには円弧形状の第1スプリング収容穴84bがそれぞれ形成されている。この第1スプリング収容穴84bに第1コイルスプリング58が収容されている。また、第1スプリング収容穴84bが形成される周方向の位置(位相)と、ディスクプレート56の第1スプリング保持穴80a、82aが形成される周方向の位置(位相)とが、一致している。従って、第1コイルスプリング58が、第1スプリング収容穴84bおよび第1スプリング保持穴80a、82aによって形成される空間内に収容されることとなる。
第1コイルスプリング58は、ディスクプレート56と内周フランジ84(ハブ52)とを動力伝達可能に連結している。具体的には、図2に示すように、ディスクプレート56の第1スプリング保持穴80a、82aの周方向の両端が第1コイルスプリング58の両端と当接し、且つ、図3に示すように、第1スプリング収容穴84bの周方向の両端が第1コイルスプリング58の両端と当接している。従って、例えばエンジン24の回転がトルクリミッタ機構54を介してディスクプレート56に入力されると、ディスクプレート56の第1スプリング保持穴80a、82aの一端が第1コイルスプリング58の一端に押し付けられる。そして、第1コイルスプリング58の他端が、内周フランジ84(ハブ52)の第1スプリング収容穴84bの周方向の一端に押し付けられるので、内周フランジ84すなわちハブ52が軸心Cまわりに回転させられる。このとき、第1コイルスプリング58は、ディスクプレート56bと内周フランジ84との相対回転量に応じて弾性変形させられ、エンジン24のトルク変動が第1コイルスプリング58によって吸収されることとなる。このようにして、第1コイルスプリング58は、ディスクプレート56と内周フランジ84(ハブ52)とを作動的(動力伝達可能)に連結している。
ハブ52には、図3に示すように、そのハブ52の外周部から径方向に伸びる突起部52aが周方向に等角度間隔で複数個(本実施例では4個)形成されている。さらに、第2ディスクプレート56bの内周端部には、図3の破線で示すような切欠96が周方向に等角度間隔で複数個(本実施例では4個)形成されている。切欠96は周方向に拡がる円弧形状に形成されており、突起部52aは、切欠96の周方向の幅によって規定される回転角(規定値)の範囲内で相対回転可能に嵌合されている。すなわち、切欠96の周方向の幅によって、突起部52a(ハブ52)とディスクプレート56bとの相対回転角が規制されている。具体的には、例えば突起部52a(ハブ52)とディスクプレート56bとの相対回転角が規定値となると、突起部52aと切欠96の周方向の端面とが当接して、ディスクプレート56とハブ52とが一体的に回転させられる。従って、ディスクプレート56とハブ52との間に介挿されている第1コイルスプリング58の圧縮量が制限されるため、第1コイルスプリング58の圧縮量が許容値(定格値)を超えることによる第1コイルスプリング58の耐久性低下が防止される。
外周フランジ60は、内周フランジ84の径方向外側に設けられている。外周フランジ60は円環板状に形成されており、その内周部には内周側に向かって突き出す円弧形状の円弧状突出部60aが対角上に2個(1つは省略)形成されている。この円弧状突出部60aには、円弧形状の第2スプリング収容穴60bが形成されている。そして、この第2スプリング収容穴60bに第2コイルスプリング62が収容されている。また、第2コイルスプリング収容穴60bが形成される周方向の位置(位相)と、ディスクプレート56の第2スプリング保持穴80b、82bが形成される周方向の位置(位相)とが、一致している。従って、図2に示すように、第2コイルスプリング62が、第2スプリング収容穴60bおよび第2スプリング保持穴80b、82bによって形成される空間内に収容されることとなる。
第2コイルスプリング62は、ディスクプレート56と外周フランジ60と動力伝達可能に連結している。具体的には、図2に示すように、ディスクプレート56の第2スプリング保持穴80b、82bの周方向の両端が第2コイルスプリング62の両端と当接し、且つ、図3に示すように、第2スプリング収容穴60bの周方向の両端が第2コイルスプリング62の両端と当接している。従って、例えばディスクプレート56が回転すると、ディスクプレート56の第2スプリング保持穴80b、82bの端面が、第2コイルスプリング62の一端に押し付けられる。そして、第2コイルスプリング62の他端が、外周フランジ60の第2スプリング収容穴60bの周方向の端面に押し付けられるので、外周フランジ60が軸心Cまわりに回転させられる。このとき、第2コイルスプリング62は、ディスクプレート56と外周フランジ60との相対回転角に応じて弾性変形させられる。このようにして、第2コイルスプリング62は、ディスクプレート56と外周フランジ60とを作動的(動力伝達可能)に連結している。これら第2コイルスプリング62および外周フランジ60によって、動吸振器として機能するダイナミックダンパ100が構成される。
外周フランジ60には、周方向に広がる円弧形状の切欠60cが形成されている。この切欠60cは軸方向に貫通しており、ディスクプレート56a、56bを締結するリベット78が切欠60c内を貫通している。従って、リベット78(ディスクプレート56)と外周フランジ60との相対回転角が規定値となると、リベット78と切欠60cの周方向の端面(すなわち内周フランジ60)とが当接して、ディスクプレート56と外周フランジ60とが一体的に回転させられる。すなわち、ディスクプレート56と外周フランジ60との相対回転角が規定値以下に規制される。これより、ディスクプレート56と外周フランジ60との間に介挿されている第2コイルスプリング62の圧縮量が規制されるので、第2コイルスプリング62の圧縮量が規定値(許容値)を超えることによる、第2コイルスプリング62の耐久性低下が防止される。また、ディスクプレート56を締結するためのリベット78が、第2コイルスプリング62の圧縮量を規制する機構としても機能している。
上記のように構成されるダンパ装置38において、エンジン24の回転がクランク軸36、トルクリミッタ機構54を介してディスクプレート56に入力されると、第1コイルスプリング58を介してハブ52に伝達される。このとき、第1コイルスプリング58は、ディスクプレート56とハブ52(内周フランジ84)との間で生じる相対回転量に応じて弾性変形しつつ回転をハブ52へ伝達する。
また、ディスクプレート56の回転は、第2コイルスプリング62を介して外周フランジ60に伝達される。このとき、第2コイルスプリング62は、ディスクプレート56とハブ52との間で生じる相対回転に応じて弾性変形しつつ回転を外周フランジ60へ伝達する。
上記のように、外周フランジ60が第2コイルスプリング62を介してディスクプレート56に連結されることで、外周フランジ60および第2コイルスプリング62から成るダイナミックダンパ100が構成される。ダイナミックダンパ100は、基本特性(固有振動数)が例えば駆動系の捩り共振周波数に予め調整されており、捩り共振発生時にその振動を効果的に吸収することができる。また、外周フランジ60と第1ディスクプレート56aとの間に介挿されているプレート92、および外周フランジ60と第2ディスクプレート56bとの間に介挿されているプレート94は、ダイナミックダンパ100の減衰機構としても機能する。
図4は、ダンパ装置38が上記のように構成されることで達成される振動減衰効果を示した計算結果である。図4において、横軸が周波数を示し、縦軸がエンジン24に対する車輪側出力軸14のトルク増幅率(車輪側出力軸14のトルク/エンジントルク)を示している。このトルク増幅率が大きくなるに従って、振動の伝達感度が大きくなる。また、比較例として、ダイナミックダンパ100が設けられていないモデル(破線:オリジナル)、同様にダイナミックダンパ100が設けられておらず捩り共振をダンパスプリング(本実施例において第1コイルスプリング58)の剛性増加によって対応した場合(一点鎖線:バネ合成UP)、ダイナミックダンパ100が設けられておらず捩り共振をヒステリシス機構64のヒステリシストルク増加によって対応した場合(二点鎖線:ヒステリシスUP)を示す。
また、横軸の下方に、参考として回転0.5次およびエンジン爆発1次(4気筒エンジンにおいて回転2次に対応)の周波数に対応するエンジン回転速度を示す。例えば周波数15Hzが、回転0.5次においてエンジン回転1800rpmに対応し、爆発1次(4気筒エンジンにおいて回転2次)においてエンジン回転450rpmに対応している。図4より、エンジン常用回転領域(一般に1000rpm以上の領域)において、回転0.5次の捩り共振が発生することがわかる。
図4に示すように、破線で示すようにダイナミックダンパ100が設けられていない場合(以下、オリジナル)、周波数が13Hz近傍でトルク増幅率が増大している。すなわち捩り共振が発生している。これに対して、一点鎖線で示すバネ剛性を増加させた場合(以下、バネ剛性UP)、周波数13Hz近傍で発生する捩り共振が減衰しており一定の効果は得られるものの、高周波数側においてはオリジナルと比較してトルク増幅率が大きくなっている。また、ヒステリシストルクを増加した場合(以下、ヒステリシスUP)においても、周波数13Hz近傍で発生する捩り共振が減衰しており一定の効果は得られるものの、高周波数側においてオリジナルと比較してトルク増幅率が大きくなっている。
これに対して、本実施例のダイナミックダンパ100を設けた場合、太実線で示すように周波数13Hz近傍で発生する捩り共振が減衰されると共に、高周波数側においてもオリジナルと同様のトルク増幅率で推移している。すなわち、本実施例のダンパ装置38が設けられる場合、高周波数域でのトルク増幅率(伝達感度)が上がることなく、共振域での減衰効果が得られるという結果が得られた。すなわち、ダイナミックダンパ100が設けられることで、他周波数領域での振動伝達特性の悪化なく共振時の捩り振動を効果的に下げることができる。
また、本実施例では、第1コイルスプリング58と第2コイルスプリング62とが、軸心Cに垂直な同一平面上であって、周方向(回転方向)に重なる(重複する)状態で設けられている。すなわち、第1コイルスプリング58と第2コイルスプリング62とが、径方向において同じ位置に配置されている。また、内周フランジ84と外周フランジ60とが、軸心Cに垂直な同一平面上に設けられている。すなわち、内周フランジ84と外周フランジ60とが、径方向において重複する位置に配置されている。従って、第2コイルスプリング62が第1コイルスプリング58の外周側に配置されることもないため、ダンパ装置38が径方向に大きくなることが抑制される。また、第1コイルスプリング58、第2コイルスプリング62、内周フランジ84、および外周フランジ60が軸心Cに垂直な同一平面上に配置されているので、ダンパ装置38が軸方向に大きくなることも抑制される。これより、ダイナミックダンパ100を設けることによるダンパ装置38の大型化が最小限に抑制されるので、搭載性も有利となる。なお、本実施例において同一平面上に設けられるとは、第1コイルスプリング58の中心線、第2コイルスプリング62の中心線、内周フランジ84の厚み方向の中心線、および外周フランジ60の厚み方向の中心線が、軸心Cに垂直な平面上に厳密に一致することまで要求されるものではなく、軸心Cに垂直な平面上に各部材の一部が重複すれば足りるものとする。
また、内周フランジ84は、外周フランジ60内に収容される形状であるため、一枚の鋼板から内周フランジ84および外周フランジ60を生産することができる。従って、材料の歩留まりが向上して生産コストも抑制される。
上述のように、本実施例によれば、外周フランジ60と第2コイルスプリング62によってダイナミックダンパ100が構成される。従って、捩り共振発生時の振動エネルギがダイナミックダンパ100によって効果的に吸収されるので、高い振動減衰効果を得ることができる。また、第1コイルスプリング58および第2コイルスプリング62は、同一平面上で少なくとも一部が周方向に重なる状態で設けられているので、ダンパ装置38を軸方向および径方向にもコンパクトに構成することができる。
また、本実施例によれば、ハブ52の外周部には径方向に伸びる突起部52aが形成されており、ディスクプレート56の内周部にはその突起部52aと嵌合する切欠96が形成されており、ハブ52とディスクプレート56との相対回転角が規定値となると、突起部52aと切欠96とが当接するものである。このようにすれば、ハブ52とディスクプレート56との相対回転角が規定値となると突起部52aと切欠96とが当接するので、ハブ52とディスクプレート56との相対回転角が規定値を超えることが防止される。従って、ハブ52とディスクプレート56との間に介挿されている第1コイルスプリング58が過度に圧縮されることが防止されるので、第1コイルスプリング58の耐久性低下を抑制することができる。
また、本実施例によれば、ディスクプレート56は、第1コイルスプリング58と第2コイルスプリング62とを挟み込む左右一対のディスクプレート56a、56bから構成され、リベット78によって互いに相対回転不能に締結されており、外周フランジ60には切欠60cが形成されて、リベット78がその切欠60cを貫通しており、切欠60cは、外周フランジ60とリベット78との相対回転角が規定値となると、その外周フランジ60と当接するように形成されている。このようにすれば、外周フランジ60と左右一対のディスクプレート56a、56bを締結するリベット78との相対回転角が規定値となると、リベット78と切欠60cとが当接するので、外周フランジ60とリベット78すなわちディスクプレート56との相対回転角が規定値を超えることが防止される。従って、外周フランジ60とディスクプレート56との間に介挿されている第2コイルスプリング62が過度に圧縮されることが防止されるので、第2コイルスプリング62の耐久性低下を抑制することができる。また、この第2コイルスプリング62を保護する機構は、ディスクプレート56を締結するためのリベット78を含んでいるので、部品が共用化されて製造コストが抑制される。
また、本実施例によれば、ダイナミックダンパ100を構成する弾性部材として第2コイルスプリング62が使用されるため、ゴム等に比べて信頼性が高く安定した捩れ特性を有し、温度変化に対する周波数のロバスト性も高くなる。
また、本実施例によれば、ダイナミックダンパ100を構成する第2コイルスプリング62を保護するための機構が、外周フランジ60の切欠60cおよびディスクプレート56を締結するためのリベット78によって構成されるので、部品点数の増加もなく、製造コストが抑制される。
また、本実施例によれば、ダイナミックダンパ100を構成する第2コイルスプリング62は、第1コイルスプリング58を保持するためのディスクプレート56によって保持されているので、ダイナミックダンパ100を構成するに際して部品点数の増加も抑制される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、第1コイルスプリング58と第2コイルスプリング62とが、周方向において略全体が周方向に重なる状態で設けられているが、必ずしも全体が重なる必要はなく、少なくとも一部が周方向に重なる状態で設けられるものであっても構わない。
また、前述の実施例では、第1コイルスプリング58の中心線、第2コイルスプリング62の中心線、内周フランジ84の厚み方向の中心線、および外周フランジ60の厚み方向の中心線が、軸心Cに垂直な平面上に略一致しているが、必ずしもこれらが厳密に一致する状態で設けられる必要はなく、軸心Cに垂直な平面上にこれらの部材の一部が重複する範囲において軸方向にズレがあっても構わない。
また、前述の実施例では、第1コイルスプリング58および第2コイルスプリング62がそれぞれ2個設けられているが、これらの数はそれに限定されるものではなく、適宜変更しても構わない。
また、前述の実施例では、ダンパ装置38がクランク軸36と出力軸39との間に介挿されているが、必ずしも上記に限定されない。すなわち、エンジン24と駆動輪18との動力伝達経路上であれば、矛盾のない範囲で自由に変更することができる。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。