JP2014009253A - 硫化物蛍光体の製造方法及びその硫化物蛍光体 - Google Patents

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Abstract

【課題】相純度が高いとともに色純度が高く、高輝度な赤色発光を示す硫化物蛍光体を安定して製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】組成式(Sr1−xCa1−yEuSで表され、xが0≦x≦1、yが0.2≦y≦0.6を満たすように秤量したストロンチウム炭酸塩及びカルシウム炭酸塩をオキシカルボン酸で溶解し、上記組成となるように秤量したユーロピウム化合物と、アルカリ土類金属とガリウムとのモル比が2:1〜20:1の範囲となるように秤量したガリウム化合物とを混合して得られた混合液に、アルコールを添加してゲル体を得る。次に、そのゲル体を酸化焼成処理して炭酸塩と酸化物を含む混合物前駆体を作製する。そして、混合物前駆体を850℃〜1000℃の条件で二硫化炭素又は硫化水素ガス中で還元硫化して焼成する。
【選択図】図3

Description

本発明は、硫化物蛍光体の製造方法及びその硫化物蛍光体に関し、より詳しくは、照明やディスプレイ等に用いられる近紫外から青色の光で高輝度の橙〜赤色の蛍光を発する蛍光体に好適な硫化物蛍光体の製造方法及びその硫化物蛍光体に関する。
近年、青色LEDや近紫外LEDの開発に伴い、LEDと蛍光体を組み合わせて白色を得る白色発光素子の開発が進んでいる。
この青色LEDを用いて白色発光素子を作製する場合、例えば特許文献1、2、及び3に記載されるように、青色LEDと黄色蛍光体とを組み合わせた白色発光素子が開発されている。これらの白色発光素子は、照明用や液晶ディスプレイのバックライト光源としての利用が進んでいる。
しかしながら、このような青色とその補色とから構成された白色は、色再現性が悪く、演色性が低いため、3波長型と称される白色発光素子が開発されている。
3波長型の白色発光素子としては、例えば、青色を発光する発光素子と、発光素子の青色の発光を受けて緑色光を発光する蛍光体、及び赤色光を発光する蛍光体を用いた白色発光素子が知られている(例えば、特許文献4参照。)。
青色の光で励起可能な赤色蛍光体としては、CaAlSiN:Euや(Sr、Ca)AlSiN、CaSi、SrSi等の窒化物蛍光体(例えば、特許文献5、6、及び非特許文献1参照。)や、CaS:Eu、SrS:Euや(Ca,Sr)S:Eu等の硫化物蛍光体(例えば、特許文献7参照。)が知られている。
その中で、硫化物蛍光体は古くから知られており、カルシウムやストロンチウムの炭酸塩や硫酸塩と酸化ユーロピウムとを混合して前駆体とし、それを硫化水素中で焼成することで蛍光体を作製している。
この硫化物蛍光体については、従来、赤色蛍光体の特性を向上させる試みが多くなされている。例えば、特許文献8及び特許文献9には、硫化カルシウムを母体中心とし、Euを発光中心、Mn,Li,Ce,Gd等を増感剤とした赤色蛍光体が記載されている。
また、蛍光体の作製においてフラックスを用いることはよく知られており、例えば特許文献10には、硫化水素中で約1000℃の温度で硫化し、その後フラックスを添加して熱処理することが開示されている。また、例えば特許文献11には、硫化物とフラックスを混合して焼成する方法が開示されている。
また、硫化法として、二硫化炭素を用いた酸化物や炭酸塩の還元硫化法が開発されている(例えば、特許文献12、非特許文献2)。また、フラックスを入れる場合は、硫化とフラックス焼成を分けて2回焼成することも知られている。
一般的に、フラックスとしては、Pb酸化物、Mo酸化物、NaCO等の炭酸塩やアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩化物等が良く使われている。また、蛍光体を作製する場合に、硫化物をフラックスとして使用することも知られており、例えば非特許文献3には、CaS:EuをNaSやKSをフラックスとして用いることが記載されている。
また、例えば非特許文献4、5及び特許文献13には、SrS−Ga状態図やCaS−Gaの状態図とそれに基づいたSrGaやCaGa単結晶育成でのGaの自己フラックス効果が記載されている。しかしながら、これらは、SrGaとGa、CaGaとGaの間の状態図は調べられているが、SrSやCaSの近い組成での液相線は記載されていない。また、これらの平衡状態図では、SrSやCaSとSrGaやCaGaの共晶温度は1100℃程度であり、自己フラックス効果を得ようとすると1100℃以上の温度で焼成する必要があると考えられる。しかしながら、1100℃以上の温度で焼成すると、炉に用いている石英管が軟化するという問題や、前駆体が溶融することで結晶粒が大きくなり、LED用蛍光体に適した1μm〜20μm程度の粒子が得られなくなるという問題が生じる。
上述したように、これまで様々なフラックスを用いた蛍光体作製の検討がなされてきているが、これらのフラックスは有害物であったり、吸湿性を持ったりするため、焼成した後にフラックスを除去することが必要であった。
例えば、塩化物フラックスは、水に溶解しやすいため、水で洗浄することによって除去することが可能となる。しかしながら、硫化物、特にアルカリ土類金属硫化物は、水に弱いという問題がある。さらに、SrS系硫化物蛍光体では、塩化物フラックスにより発生する欠陥により、数秒から数十秒の残光が発生するという問題もある。
以上の通り、硫化物蛍光体を作製するにあたりフラックスを使用することは純度の高い結晶が得られる効果が期待できる半面、上述した種々の問題が存在し、これらの問題を解消することは容易ではなかった。
特開平10−093146号公報 特開平10−065221号公報 特開平10−242513号公報 特開2000−244021号公報 特開2006−008721号公報 特開2006−152296号公報 特開昭56−82876号公報 特開2002−80845号公報 特開2003−41250号公報 特表2005−509081号公報 特開2005−146190号公報 特開2009−221264号公報 特開2006−282409号公報
Hiromu Watanabe and Naoto Kijima Journal of Alloys and Compounds 475 (2009) 434-439 Valery Petrykin and Masato Kakihana J. Am. Ceram. Soc., 92 [S1] S27-S31 (2009) M.Pham-Thi、 N.Ruelle and C. Fouassier Jpn. J. Appl. Phys. 31(1992)2786 C. Komatsu, T. Takizawa Journal of Crystal Growth 210 (2000) 677 C. Komatsu-Hidaka, T. Takizawa Journal of Crystal Growth 222 (2001) 574
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、相純度が高いとともに色純度が高く、高輝度な赤色発光を示す硫化物蛍光体を安定して製造することができる硫化物蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
本件発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、蛍光体の構成成分であるアルカリ土類金属の炭酸塩と所定量のガリウムの酸化物を含む混合物前駆体を作製し、その前駆体に対して還元硫化処理を施すことで、硫化物粒子の表面を酸化ガリウムとアルカリ土類金属硫化物との共晶物が被覆してフラックスとして働くことを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る硫化物蛍光体の製造方法は、組成式:(Sr1−xCa1−yEuSで表され、式中xが0≦x≦1であり、yが0.2≦y≦0.6である硫化物蛍光体の製造方法であって、上記組成となるように秤量した所定量のストロンチウム炭酸塩及びカルシウム炭酸塩をオキシカルボン酸にて溶解し、上記組成となるように秤量した所定量のユーロピウム化合物と、アルカリ土類金属とガリウムとのモル比が2:1〜20:1の範囲となるように秤量したガリウム化合物とを混合して得られた混合液に、アルコールを添加してゲル化させゲル体を得るゲル体作製工程と、上記ゲル体を酸化焼成処理して炭酸塩と酸化物を含む混合物前駆体を作製する前駆体作製工程と、上記混合物前駆体を、850℃〜1000℃の温度条件で二硫化炭素又は硫化水素ガス中で還元硫化処理して焼成する還元焼成工程とを有することを特徴とする。
ここで、上記ゲル体作製工程では、上記ストロンチウム炭酸塩及びカルシウム炭酸塩を、当該硫化物蛍光体を構成する全金属及びガリウムの合計モル数の3倍〜7倍モルに相当する量のオキシカルボン酸を用いて溶解することが好ましい。
また、上記ゲル体作製工程では、上記混合液に、当該硫化物蛍光体を構成する全金属及びガリウムの合計モル数の3倍〜14倍モルに相当する量のアルコールを添加してゲル化することが好ましい。
また、本発明に係る硫化物蛍光体は、上述した硫化物蛍光体の製造方法によって得られ、組成式:(Sr1−xCa1−yEuSで表され、式中xが0≦x≦1であり、yが0.2≦y≦0.6である硫化物蛍光体であって、その表面に、硫化ガリウムとアルカリ土類金属硫化物との共晶物層を形成してなることを特徴とする。
本発明に係る硫化物蛍光体の製造方法によれば、例えば緑色や黄色発光する結晶相の生成を防止して、相純度が高く、高輝度で色純度の高い赤色発光蛍光体を製造することができる。また、この製造方法によれば、形成させたフラックスを水洗浄等して除去する必要がなく、また残光の発生もないため、安定的に且つ効率的に硫化物蛍光体を作製することができ、その工業的な価値は極めて大きい。
不活性ガス中に二硫化炭素を含ませる方法の一例を説明するための図である。 実施例1及び実施例4にて作製した硫化物蛍光体のX線回折パターンと、SrS:Eu0.2%及びGa βのX線回折パターンを示す図である。 実施例1、2、3、5にて作製した硫化物蛍光体の発光スペクトルを示す図である。 実施例2、3、5と比較例5にて作製した硫化物蛍光体に関して最大発光波長で励起特性を測定した結果を示す図である。
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
1.硫化物蛍光体の製造方法
1−1.製造方法の概要
1−2.製造方法の各工程
2.硫化物蛍光体
2−1.硫化物蛍光体の構成とその効果
2−2.硫化物蛍光体の構造解析
3.実施例
3−1.硫化物蛍光体の作製
3−2.硫化物蛍光体の評価
≪1.硫化物蛍光体の製造方法≫
<1−1.製造方法の概要>
本実施の形態に係る硫化物蛍光体の製造方法は、橙色から赤色の蛍光を発光する組成式(Sr1−xCa1−yEuSで表され、式中xが0≦x≦1であり、yが0.2≦y≦0.6である硫化物蛍光体の製造方法である。
具体的に、この製造方法は、上述の硫化物蛍光体の構成成分であるアルカリ土類金属の炭酸塩及びユーロピウム(Eu)化合物と共に、所定量のガリウム(Ga)化合物を添加して、錯体重合法によって全金属元素を均一に含むゲル体を作製し、そのゲル体を酸化焼成して構成成分を均一に含ませた炭酸塩とGa酸化物を含む混合物前駆体を得て、この混合物前駆体を所定の温度条件で還元硫化するものである。
この製造方法では、炭酸塩と酸化物を含む混合物前駆体に含まれているGa酸化物が還元硫化処理によって硫化されて硫化ガリウム(Ga)となり、蛍光体の構成成分であるSrSやCaSが生成するのと同時にGaが同時に生成する。生成したGaは、従来知られていた液相で発生する温度よりも低い温度で生成しアルカリ土類金属硫化物の粒子表面を被覆して、フラックスとして作用するようになる。これにより、硫化物の結晶成長を促進させることができ、高純度であって輝度の高い蛍光体を効果的に生成させることができる。
また、この製造方法によって得られた硫化物蛍光体では、表面を被覆した硫化ガリウムとアルカリ土類金属硫化物との共晶物層は発光特性に影響せず、耐水性・耐湿性効果がある。そのため、水洗浄を行う必要が無く、残光も発生せず、従来生じていた硫化物蛍光体をフラックスを用いて作製する際の問題点を一気に解決することができる。
<2−2.製造方法の各工程>
以下、より具体的に、本実施の形態に係る硫化物蛍光体の製造方法について工程毎に説明する。
本実施の形態に係る硫化物蛍光体の製造方法は、上述したように、橙色から赤色の蛍光を発光する硫化物蛍光体であって、組成式(1):(Sr1−xCa1−yEuSで表され、xが0≦x≦1であり、yが0.2≦y≦0.6である硫化物蛍光体の製造方法である。
この製造方法は、原料を混合して得られた水溶液を錯体重合法によりゲル体を作製するゲル体作製工程と、ゲル体を酸化焼成して炭酸塩と酸化物を含む混合物前駆体を作製する前駆体作製工程と、前駆体を還元硫化して、表面に硫化ガリウムとアルカリ土類金属硫化物との共晶物層で被覆された硫化物蛍光体を得る還元硫化工程とを有する。
(1)ゲル体作製工程
ゲル体作製工程では、上記組成式に示される所定の組成となるように、原料のストロンチウム(Sr)炭酸塩、カルシウム(Ca)炭酸塩を有機酸にて溶解し、ユーロピウム(Eu)化合物を添加するとともに、ガリウム(Ga)化合物を添加して混合する。そして、得られた混合液にアルコールを添加して、所定の温度で加熱してゲル化させることによってゲル体を作製する。
具体的に、先ず、ゲル体作製工程では、ストロンチウム炭酸塩、カルシウム炭酸塩をオキシカルボン酸にて溶解し、その溶解液にユーロピウム化合物とガリウム化合物を混合して混合液とする。
ストロンチウム源となるストロンチウム炭酸塩、カルシウム源としてのカルシウム炭酸塩は、比較的安価な材料であり、これを原料として用いることによって、コストを抑えた蛍光体を作製することができる。
ゲル体作製工程では、これらの原料化合物を水に分散させ室温で攪拌し、その分散液にオキシカルボン酸を添加することによって金属元素を錯化して完全に溶解させる。
ここで、オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、タルトロン酸、グリセリン酸、オキシ酪酸、ヒドロアクリル酸、乳酸、グリコール酸等を用いることができ、その中でもクエン酸を用いることがより好ましい。
また、オキシカルボン酸の添加量としては、作製しようとする硫化物蛍光体を構成する全金属(Sr、Ca、Eu)及び後で添加するガリウム(Ga)の合計モル数(Sr、Ca、Eu、Gaの合計)の3倍〜7倍モルに相当する量程度とすることが好ましい。オキシカルボン酸の添加量が全金属の合計モル数に対して3倍モル未満であると、原料となるストロンチウム炭酸塩、カルシウム炭酸塩を完全に溶解させることができず、クエン酸カルシウムの白色沈殿等が形成されてしまう。また、金属元素の錯化が十分に進行しない可能性がある。一方で、添加量が7倍モルを超えると、コストが増大して経済性が悪化するため好ましくない。
オキシカルボン酸を添加することによる金属元素の錯化処理に際しては、特に限定されないが、例えば水溶液を50℃〜80℃程度に加温して、30分〜1時間程度の時間で攪拌することによって行う。
添加する賦活元素Euの化合物としては、ユーロピウムの硝酸塩や酸化物等の水溶性ユーロピウム化合物を用いることができる。例えば、硝酸ユーロピウムとしては、原料のユーロピウム酸化物を3倍モル以上の硝酸溶液で溶解し、1時間程度の攪拌を行うことによってユーロピウム酸化物を完全に溶解させ、その後ユーロピウム溶解液を乾燥させることによって得ることができる。乾燥に際しては、80℃〜120℃程度の温度に加熱して余分な硝酸を蒸発除去し、その後所定の濃度に定量する。水溶液中に余分なフリーの硝酸が残留しているとゲル体作製時に反応が急激に生じるため、予め除去しておくとよい。
また、ガリウム化合物としては、ガリウムの硝酸塩や酸化物等の水溶性ガリウム化合物を用いることができる。例えば、硝酸ガリウムとしては、原料の金属ガリウムをその金属ガリウムの5倍モル以上の硝酸溶液で溶解し、攪拌を行うことによって完全に溶解させ、その後ガリウム溶解液を乾燥させることによって得ることができる。乾燥に際しては、80℃〜120℃程度の温度に加熱して余分な硝酸を蒸発除去する。なお、硝酸ガリウムは、大気中で加熱すると酸化ガリウムの膜が生じるため、大気と接触しないようにすることが好ましい。
ストロンチウム炭酸塩、カルシウム炭酸塩、ユーロピウム化合物の添加量は、所望とする蛍光体の組成の金属比となるように秤量して混合する。本実施の形態においては、その組成が(Sr1−xCa1−yEuSで表され、式中xが0≦x≦1であり、yが0.2≦y≦0.6となるように、原料のストロンチウム炭酸塩、カルシウム炭酸塩、及びユーロピウム化合物を秤量して混合する。供給する原料中の原子比と得られる蛍光体の原子組成比とは略一致することから、所望とする組成比となるように原料をそれぞれ秤量して混合することによって、それぞれの原子を上述した範囲とすることができる。
そして、この製造方法において重要なのが、ガリウム化合物の添加量である。本実施の形態においては、アルカリ土類金属(SrとCaの合計)とガリウム(Ga)とのモル比が2:1〜20:1の範囲となるように秤量したガリウム化合物を添加する。
ガリウム化合物の添加量について、(Sr+Ca):Gaのモル比2:1よりGa量が多いと、後述する還元焼成工程において還元硫化処理する際に、緑色や黄色発光する(Sr、Ca、Eu)Gaが形成されやすくなるため好ましくない。また、2:1よりGa量が多いと、(Sr、Ca)S−(Sr、Ca)Gaの共晶組成に近いため、融点の低下により液相量が多くなり得られる硫化物が溶融しやすくなるために、粉末状の蛍光体が得られなくなる。
一方で、(Sr+Ca):Gaのモル比20:1よりGaが少ないと、得られるアルカリ土類金属硫化物の粉末の表面で硫化ガリウムと反応して生成する液相の量が少なくなるため、表面全体を液相が覆いにくくなりフラックス効果が十分に得られない。
したがって、(Sr+Ca):Gaのモル比が2:1〜20:1の範囲となるようにガリウム化合物を添加して原料化合物と混合することにより、緑色や黄色発光する蛍光体の生成を抑制して相純度を高くし、また硫化物結晶の表面に硫化ガリウムを効果的に被覆させてフラックス効果により結晶成長を促すことができる。これにより、高輝度で色純度が高い赤色発光蛍光体粒子を安定して得ることができる。
次に、ゲル体作製工程では、ガリウム化合物を添加して混合させた混合液に、アルコールを添加することによって水溶液をゲル化させる。このように、原料を混合させた水溶液をゲル化させてゲル体とすることによって、その原料を均一に分散させることができ、特に発光中心となる希土類元素のユーロピウムとガリウムを均一に分散させることができ、結晶の成長をより効果的に促進させることができるとともに、高輝度の発光を示す蛍光体を得ることができる。
混合液に添加するアルコールとしては、グリコールを用いることが好ましい。具体的に、グリコールとしては、エチレングリコール又はプロピレングリコールを用いることが好ましい。
アルコールの添加量としては、作製しようとする硫化物蛍光体を構成する全金属(Sr、Ca、Eu)及びガリウム(Ga)の合計モル数(Sr、Ca、Eu、Gaの合計)の3倍〜14倍モルに相当する量程度とすることが好ましく、5倍〜12倍モルに相当する量程度とすることがより好ましい。アルコールの添加量が全金族元素に対して3倍モル未満であると、後述するエステル化反応が起こりにくくゲル化が効率的に進行しない可能性がある。一方で、添加量が14倍モルを超えると、それ以上にアルコール添加の効果が増大せず、コストが増大して経済性が悪化するため好ましくない。
なお、このアルコールは、クエン酸等のオキシカルボン酸とエチレン重合を起こしてゲル化するが、アルコール量が多いと水が蒸発しアルコール溶媒となる。すると、このときに白色沈殿が発生しやすくなるため、アルコール量はオキシカルボン酸と同量からオキシカルボン酸の約2倍量程度とすることが適している。
アルコールの添加によるゲル化反応では、例えば水溶液の液温を80℃〜150℃程度に加熱昇温して攪拌する。このようにして水溶液を加熱して攪拌することにより、水溶液中で効果的にエステル化反応が生じて重合することによってポリエステルが生成され、これにより水溶液がゲル化する。
上述したゲル化温度について、80℃未満ではゲル化時間が長くなり、150℃を超えると均一なゲル化が難しくなる。また、ゲル化時間としては、水溶液の水分量によって変化するが、上述したゲル化温度において5時間〜12時間攪拌してゲル化させることが好ましい。
なお、水溶液のゲル化にあたって、エステル化反応が進行すると水溶液中の硝酸が急激に分解して赤黒いガスが発生するとともに、ポリエステル中に泡が形成されて急激に膨張する場合がある。その泡は、水で容易に溶解するので、適宜水を加えて再度水溶液を作製することによって攪拌重合してポリエステル化すればよい。また、水溶液中に硝酸が残っていると、有機物の加熱分解時に急激な反応が起きることがあることに注意する。
(2)前駆体作製工程
前駆体作製工程では、ゲル体作製工程にて得られたゲル体に対して酸化焼成処理を施すことによって、炭酸塩と酸化物を含む混合物前駆体を作製する。
ここで、ゲル体作製工程にて得られたゲル体には、添加した原料(炭酸塩、オキシカルボン酸、アルコール等)に由来する有機物が含まれている。そのため、前駆体作製工程では、ゲル体に対する酸化焼成処理に先立ち、ゲル体に熱処理を施すことによってゲル体に含まれる有機物の分解処理を施すことが好ましい。これにより、残留する有機物の未分解物による輝度の低下を抑制し、得られる蛍光体の発光強度を高めることができ、高輝度の発光を示す蛍光体を作製することができる。
ゲル体に対する熱処理温度としては、400℃〜500℃とすることが好ましく、450℃〜460℃とすることがより好ましい。また、熱処理時間としては、1時間〜20時間とすることが好ましく、4時間〜12時間とすることがより好ましい。また、はじめに100℃〜200℃で熱処理してから、400℃〜500℃に温度を上げて熱処理することにより、ゲル体に含まれる有機物の急激な分解の影響を避けることができる。
なお、熱処理に際しての雰囲気としては、特に限定されないが、大気雰囲気中で行うことが好ましい。これにより、ゲル体中の有機物をより効果的に分解させることができ、蛍光体の輝度低下を防止することができる。
続いて、前駆体作製工程では、ゲル体又はゲル体の熱処理物に対して、大気雰囲気中で700℃〜900℃の温度条件で酸化焼成処理を施すことによって、ゲル体中に含有されている構成成分が均一に含まれた炭酸塩と酸化物とからなる混合物前駆体を作製する。
具体的には、この酸化焼成処理により、ユーロピウムが均一に分散した(Ca、Sr、Eu)COの炭酸塩及びGaの酸化物を含む混合物、又は、一部炭酸塩が分解して得られた(Ca、Sr、Eu)O、Gaの酸化物、及び(Ca、Sr、Eu)COの炭酸塩を含む混合物が生成する。この生成される混合物の違いは、焼成処理における温度条件に起因する。
酸化焼成処理において、その焼成温度が700℃未満では、残存している有機物や硝酸が燃焼分解されにくいため好ましくない。一方で、900℃を超えると、前駆体が部分的に結晶化して構成成分が均一になりにくいため好ましくない。また、その焼成時間としては、1時間〜4時間とすることが好ましい。
また、この酸化焼成処理は、上述のように大気雰囲気中、又は酸素雰囲気中にて行うことが好ましい。酸素を含む雰囲気にて熱処理を行うことにより、ゲル体に残留する有機物を効果的に分解させることができ、表面に炭素が残って蛍光体の輝度が低下することを抑制することができる。
また、この酸化焼成処理においては、ゲル体に対する熱処理のみでは酸素が不足したり凝集したりして熱分解が不十分になることが多いため、十分に有機物を燃焼除去することでき、酸化反応を促進させることが好ましい。そのため、ゲル体に対して熱処理を施した場合には、その熱処理物を乳鉢等で軽く粉砕しておくことが望ましい。また、酸素や空気を流している場合は、前駆体作製工程とこの後の工程である還元焼成工程を連続して行うことができる。
(3)還元焼成工程
還元焼成工程では、前駆体作製工程にて得られた混合物前駆体を、所定の温度条件の下に還元硫化処理して焼成する。この還元硫化処理により、前駆体が還元硫化されて母体結晶が形成されるとともに、その母体結晶のSr又はCaサイトにEuがドープされ、Euが均一に分散した硫化物蛍光体を得ることができる。
本実施の形態に係る製造方法では、この還元焼成工程において、混合物前駆体中のガリウム酸化物が硫化されてフラックスとして作用することが特徴である。具体的には、還元硫化処理によって混合物前駆体中に含まれているガリウム酸化物が硫化されて硫化ガリウムが生成し、その硫化ガリウムがフラックスとして作用するようになる。
より詳しく説明すると、還元焼成処理によりGa酸化物が硫化されて硫化ガリウムが生成すると、それと並行してEuが均一に分散したアルカリ土類金属炭酸塩が硫化される。すると、生成した硫化ガリウムとアルカリ土類金属硫化物とが、その硫化物粒子の表面において共晶反応を起こし、共晶温度以上で液相となってその粒子表面を覆うようになり、その結果、冷却過程を経て共晶反応層からなる被覆層が形成されることになる。この硫化ガリウムとアルカリ土類金属硫化物との共晶物からなる被覆層は、生成した硫化物結晶の表面において自己フラックス効果を奏するようになり、粒子の結晶成長を促進させるように働く。これにより、相純度が高く、高輝度であって色純度の高い蛍光体粒子を形成させることが可能となる。
このとき重要なのが、還元硫化処理における硫化温度である。最適な硫化温度は、(Sr、Ca)とGaの比により異なり、Gaが多い場合は低い温度で(Sr、Ca)Sの表面を覆うのに十分な液相が生成するので低温又は短時間とすることができ、一方でGaが少ない場合は液相が少ないので高温で長時間の硫化が必要となる。したがって、何れのGa量においても効率的な処理を行うという観点から判断すると、硫化温度としては硫化反応が進む850℃以上とすることが必要であり、より効率よく硫化される875℃以上とすることがより好ましい。
ここで、硫化温度の上限値に関して、硫化温度が1000℃を超える高い硫化温度であると、(Sr、Ca)SとGaが反応して部分的に(Sr、Ca)Gaが形成されることがある。この(Sr、Ca)Ga:Euは、緑色から黄色に発光する性質があるため赤色蛍光体の色純度を低下させてしまう。そのため、(Sr、Ca)Gaが生成しない1000℃以下とすることが必要となる。また、還元硫化処理中に結晶が融解すると、後で焼成物を粉砕しなければならなくなり、その場合、粉砕に伴う欠陥発生により輝度が低下する恐れが生じる。そのため、硫化温度の上限値としては、950℃以下とすることがより好ましい。
還元硫化処理の処理時間としては、特に限定されないが、上述した温度条件で1時間〜12時間程度保持して行うことが好ましい。硫化時間が1時間より短いと硫化が不十分となり、12時間より長いと部分的に(Sr、Ca)Gaが形成されて相純度や色純度が低下する可能性がある。
なお、アルカリ土類金属硫化物と硫化ガリウムの共晶反応は、例えば上述した非特許文献4,5に記載されているSrS−Gaの反応温度である1105℃(SrS側)、995℃(Ga側)よりもはるかに低い温度で進行することが分かった。このことは、Gaを還元硫化する際に、GaだけでなくGaS等も生成するため、その反応が低温化するものと考えられる。
還元硫化処理に用いるガスとしては、硫化水素(HS)ガスと不活性ガスとの混合ガスや、二硫化炭素(CS)を含んだ不活性ガス等を用いることができる。
硫化水素(HS)ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いる場合には、HSの濃度は1体積%〜50体積%の範囲とすることができる。HSの濃度が1体積%未満では、硫化に用いるガス流量が多くなり、あるいは長時間処理が必要になったりするため、効率的な処理を行うことができない。一方で、濃度が50体積%を超えると、配管やガスパッキンの劣化の原因になる可能性があり取り扱いにくくなる。したがって、硫化処理の効率性の観点からは、反応条件により適宜変わるが、概ね、必要とされる硫黄量の1.5倍〜6倍モル、より好ましくは3倍〜5倍モルの硫化水素ガスを流すことが実用面で好ましい。
二硫化炭素(CS)を含んだ不活性ガスを用いる場合には、不活性ガス中に二硫化炭素を10体積%〜50体積%の範囲で含ませて用いることができる。二硫化炭素は還元力が強いため、硫化水素ガスを用いた場合よりも硫化温度を低めにして処理することができ、また同じ温度の場合には硫化時間を短くすることができる。このように、より低い温度条件で還元硫化処理できることにより、硫黄が揮発して抜け出ることを抑制して所望とする組成の蛍光体を効率的に作製することが可能となる。ただし、フラックスは共晶反応により生成するため、Gaと(Sr、Ca)Sが反応して液相を生成する時間を考慮すると、少なくとも30分以上、好ましくは45分以上の硫化時間は必要となる。
また、使用する二硫化炭素や不活性ガスの温度としては、15℃以上46℃未満とすることが好ましく、特に20℃〜25℃とすることが好ましい。温度が15℃未満では、アルゴンガスに含まれる二硫化炭素の濃度が低くなり還元硫化が効果的に進まない可能性がある。一方で、温度が46℃以上では、二硫化炭素の沸点以上となって蒸発量の制御が難しくなり、均一な還元硫化を行うことが困難となる。
また、不活性ガス中に二硫化炭素を含ませる方法としては、例えば図1に示すように、アルゴンガス等の不活性ガスを液体の二硫化炭素中に流通させ、その不活性ガス中に気化した二硫化炭素を含ませる方法等を利用することができる。
不活性ガスとしては、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスを用いることが好ましい。不活性ガスとして、アルゴンガスのほかに窒素(N)ガスを用いることもできるが、高温で窒素を用いることで窒化物が形成される可能性があるため好ましくない。
還元硫化処理において、蛍光体の合成に使用する容器としては、特に限定されるものではなく、グラファイト、ジルコニア、アルミナ等の酸化物や窒化ホウ素(BN)等の耐熱容器を用いることができる。その中でも、高温ではアルミナが還元されて不純物が多くなるため、グラファイトを用いることが好ましい。
また、還元硫化処理を行う際の焼成炉としては、特に限定されるものではなく、例えば炉芯管が石英である管状炉を用いることができる。また、昇温条件としては、例えば昇温速度を10〜30℃/分として行うことができる。
また、管状炉にて焼成を行う場合には、石英管中のガスが追い出せるように加熱開始直後から、硫化水素ガスと不活性ガスの混合ガスや二硫化炭素を含んだ不活性ガス等のガスを流すことが好ましい。特に、加熱開始から10分〜20分程度の間においては、石英管全体の体積の2倍〜3倍のガスを流すことが好ましい。また、還元硫化が開始される温度では、その還元媒体となるガス量が十分量となるように供給ガス流量を調節することが好ましい。なお、焼成中においても、上述のように十分なガス量が必要となるため、冷却が完了して室温になるまでガスを流し続けておくことが好ましい。
このようにして還元硫化処理を行うことによって、上記組成式(1)で表される硫化物蛍光体の焼成粉末を得ることができる。なお、その得られた焼成粉末の表面には、炭素が付着していることがある。このような炭素が表面に付着した蛍光体では、その発光輝度が低下してしまうことがある。そのため、上述した還元硫化処理の後、得られた焼成粉末を粉砕することによって、その表面に新生面を形成させることが好ましい。これにより、蛍光体の輝度の低下を防止し、高輝度な蛍光体を得ることができる。
以上詳述した各工程からなる製造方法により、組成式(1):(Sr1−xCa1−yEuSで表され、式中xが0≦x≦1であり、yが0.2≦y≦0.6である硫化物蛍光体を製造することができる。
このような製造方法によれば、炭酸塩と酸化物を含む混合物前駆体に含まれているGa酸化物が還元硫化処理によって硫化されて硫化ガリウム(Ga)となり、その生成したGaと同時に生成されたアルカリ土類金属硫化物との共晶物が形成されて硫化物の粒子表面を被覆し、フラックスとして作用するようになる。これにより、硫化物の結晶成長を促進させることができ、高い相純度を有し、高輝度であって色純度の高い硫化物蛍光体を効果的に生成させることができる。
≪2.硫化物蛍光体≫
<2−1.硫化物蛍光体の構成とその効果>
上述した製造方法により製造される硫化物蛍光体は、組成式(1):(Sr1−xCa1−yEuSで表され、式中xが0≦x≦1、yが0.2≦y≦0.6を満たすものである。
上記組成式で表される硫化物蛍光体は、硫化ストロンチウム(SrS)及び/又は硫化カルシウム(CaS)を母体結晶とし、ユーロピウム(Eu)を発光中心とするものである。この硫化物蛍光体では、硫化ストロンチウム及び/又は硫化カルシウムの含有割合である式中のx(0≦x≦1)を調整することによって、発光波長を任意に制御することが可能となる。すなわち、CaS:Euの発光波長は655nmであり、SrS:Euの発光波長は615nmであり、ストロンチウムとカルシウムの含有割合を調整することによって、その波長間で発光波長を任意に制御することができる。
そして、この硫化物蛍光体では、上述した製造過程において、混合物前駆体中に含まれているガリウム酸化物が還元硫化処理によって硫化ガリウム(Ga)となり、その硫化ガリウムがアルカリ土類金属硫化物の粒子表面と共晶反応を起こし、硫化ガリウムとアルカリ土類金属との共晶物を形成して、その粒子表面を被覆するようになっている。すなわち、この硫化物蛍光体は、粒子の表面に硫化ガリウムとアルカリ土類金属硫化物の共晶物層が被覆されてなっている。
このような硫化物蛍光体では、その共晶物層が生成した硫化物結晶の表面において自己フラックス効果を奏するようになり、粒子の結晶成長を促進させ、これにより、相純度が高く、高輝度な蛍光体粒子となる。
また、共晶物層を構成する硫化ガリウムは、発光特性には影響せず残光も発生させず、またその蛍光体粒子に対して耐水性及び耐湿性を付与することができる。そのため、塩化物等のフラックスを用いていた従来法のように、フラックスを水洗浄等して除去する操作を要しない。
<2−2.硫化物蛍光体の構造解析>
ここで、図2は、後述する実施例1及び実施例4にて作製した硫化物蛍光体についてのX線回折パターンと、SrS:Eu0.2%及びGa βについてのX線回折パターンを示すものである。
図2のX線回折パターンに示されるように、強度は弱いながらもGaに由来するピークが検出され、上記組成式(1)で表される硫化物蛍光体との共晶体となっていることが確認できる。なお、Gaに由来するピーク以外には異相は全く認められず、相純度の極めて高い結晶となっていることが分かる。
≪3.実施例≫
以下に、本発明について実施例を用いてより詳しく説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<3−1.硫化物蛍光体の作製>
[実施例1](Sr0.995Eu0.005S+0.166×Ga (Sr:Ga=3:1とした場合))
(硝酸ガリウム溶液、硝酸ユーロピウム溶液の調製)
金属ガリウム(Ga)をGaのモル数の7倍の硝酸溶液に入れて硝酸が揮発しないよう容器中には蓋をして80℃のホットプレート上で1日攪拌して溶解させた。なお、反応では、NOxが発生するので蓋には開口部を設けた。Gaを溶解させた後、130℃のホットプレート上で余分な硝酸を蒸発除去し、蒸留水を加えてGa濃度が0.5モル/リットルである硝酸ガリウム溶液を作製した。
一方で、酸化ユーロピウム(Eu)(フルウチ化学株式会社製 3N:Eu)0.005モル(1.9126g)を、硝酸溶液(関東化学株式会社製 60%)に完全に溶解させた後、その溶解液を蒸発乾固して硝酸ユーロピウムを得た。この硝酸ユーロピウムに蒸留水を加えて100mlに定溶してEu濃度0.1モル/リットルの水溶液を作製した。
(ゲル体作製工程)
蒸留水を入れたビーカーに、炭酸ストロンチウム(関東化学株式会社製 3N)1.853gを加え、ホットスターラーの設定温度を80℃にして回転数150rpmで攪拌した。これに、全金属元素(Sr+Eu+Ga)の6倍モルに相当する量のクエン酸を加えて1時間攪拌し、炭酸ストロンチウムを完全に溶解させた溶液を作製した。
続いて、その溶液に硝酸ユーロピウム溶液(0.1モル/リットル)をSr:Eu=99.5:0.5となるように加え、80℃で30分間攪拌した。そして、得られた水溶液に硝酸ガリウム溶液(1モル/リットル)を金属モル比で(Sr+Eu):Ga=6:1となるようにビーカーに添加して混合し、混合液を作製した。その後、混合液を80℃のホットプレート上で1時間攪拌し、その混合液に全金属元素(Sr+Eu+Ga)のモル数の12倍モルに相当する量のプロピレングリコールを加えて更に2時間攪拌し、ホットプレートの温度を120℃で1時間、硝酸を蒸発させるため140℃で1時間攪拌してゲル体を作製した。
(前駆体作製工程)
次に、得られたゲル体を180℃に設定したマントルヒーターで1時間加熱し、450℃に設定温度を上げて2時間焼成して有機物を分解した。さらに、ボックス炉で大気中550℃で2時間、750℃で2時間焼成して炭酸塩と酸化物を含む混合物前駆体の粉末を作製した。
(還元焼成工程)
次に、得られた前駆体粉末をグラファイト製の容器に入れて管状炉で二硫化炭素(CS)を含むアルゴン(Ar)ガス中で900℃1時間還元硫化処理することで、表面に硫化ガリウム共晶物で被覆された、Sr0.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
[実施例2](Ca0.995Eu0.005S+0.166×Ga (Ca:Ga=3:1とした場合))
炭酸ストロンチウムに代えて炭酸カルシウム(関東化学株式会社製 3N)1.792gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、表面に硫化ガリウム共晶物で被覆された、Ca0.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
[実施例3]((Sr0.5Ca0.50.995Eu0.005S+0.166×Ga ((Sr+Ca):Ga=3:1かつSr:Ca=0.5:0.5とした場合))
ストロンチウムとカルシウムを0.5:0.5の割合で組成するために、炭酸ストロンチウム1.089g、炭酸カルシウム0.739gを混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で、表面に硫化ガリウム共晶物で被覆された、(Sr0.5Ca0.50.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
[実施例4](Sr0.995Eu0.005S+0.083×Ga ((Sr+Eu):Ga=6:1とした場合))
硝酸ガリウム(1モル/L)の添加量を、金属モル比で(Sr+Eu):Ga=12:1となるように添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で、表面に硫化ガリウム共晶物で被覆された、Sr0.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
[実施例5]
還元硫化処理に際して、硫化水素ガスを10%含むArガスを使用し、硫化時間を5時間とした以外は、実施例4と同様の方法で、表面に硫化ガリウム共晶物で被覆された、Sr0.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
[実施例6]
還元硫化処理に際して、硫化温度を925℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、表面に硫化ガリウム共晶物で被覆された、Sr0.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
[実施例7]
還元硫化処理に際して、硫化温度を850℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、表面に硫化ガリウム共晶物で被覆された、Sr0.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
[比較例1]
SrとGaの比(Sr:Ga)が6:5となるように硝酸ガリウム溶液を添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で、Sr0.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
この比較例1においては、硫化後の試料が溶融して膨らみ、内部が空洞となっていた。そのため、得られた硫化物蛍光体を粉砕して蛍光特性を測定した。
[比較例2]
炭酸ストロンチウム0.866g、炭酸カルシウム0.587gを混合し、SrとCaとGaの比(Sr:Ca:Ga)が3:3:5となるように硝酸ガリウム溶液を添加したこと以外は、実施例3と同様の方法で、(Sr0.5Ca0.50.995Eu0.005で表される硫化物蛍光体を作製した。
この比較例2においては、硫化後の試料が溶融して膨らみ、内部が空洞となっていた。そのため、得られた硫化物蛍光体を粉砕して蛍光特性を測定した。
[比較例3]
還元硫化処理に際して、硫化温度を800℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、Sr0.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
[比較例4]
還元硫化処理に際して、硫化温度を1020℃にしたこと以外は、実施例4と同様の方法で、Sr0.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
この比較例4においては、硫化後の試料が溶融して膨らみ、内部が空洞となっていた。そのため、得られた硫化物蛍光体を粉砕して蛍光特性を測定した。
[比較例5]
SrとGaの比(Sr:Ga)が24:1となるように硝酸ガリウム溶液を添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で、Sr0.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
[比較例6]
ストロンチウムとカルシウムを85:15の割合で組成するために、炭酸ストロンチウム2.227g、炭酸カルシウム0.266gを混合し、(Sr+Ca)とEuの比((Sr+Ca):Eu)が99.8:0.2となるように硝酸ユーロピウム溶液を添加し、硝酸ガリウムを加えなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、前駆体を作製した。
得られた前駆体に、フラックスとしての塩化ストロンチウム(SrCl)を重量比で25%加えて、これを乳鉢で粉砕し、グラファイト容器に入れた。
次に、石英管中にグラファイト管を入れた2重容器を用いた管状炉にそのグラファイト容器を入れて、液体の二硫化炭素中を通したAr流通下で、925℃1時間の熱処理により還元硫化を行い、(Sr0.85Ca0.150.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。
なお、Ar流量は、熱処理開始から10分間は50ml/分、その後温度が460℃に達するまでを10ml/分、460℃から925℃に達するまでを20ml/分、925℃の1時間の熱処理中と熱処理を終えて炉の温度が40℃になるまでの計4時間20分間を10ml/分にした。
[比較例7]
フラックスとして用いた塩化ストロンチウムを加えなかったこと以外は、比較例6と同様の方法で、(Sr0.85Ca0.150.995Eu0.005Sで表される硫化物蛍光体を作製した。得られた粉末は黒色であった。
<3−2.硫化物蛍光体の評価>
(蛍光特性(輝度)の測定及び測定結果)
蛍光特性として輝度の評価は、LED用の黄色蛍光体として良く知られているYAG:Ce(P61:化成オプトニクス株式会社製P46)を基準物として用い、実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例5にて作製したEu添加硫化物蛍光体を比較して行った。
下記の表1に、実施例及び比較例にて作製した硫化物蛍光体の蛍光特性をまとめて示す。なお、残光の評価は、暗室でXeランプの発光を455nmから465nmの光のみが透過するフィルターを通して各硫化物蛍光体に照射し、照射を止めてから10秒後の蛍光をデジタルカメラで撮影した。そして、写真に蛍光があるか無いかで残光の有無を判定した。
また、図3、実施例1、2、3、5にて作製した硫化物蛍光体の発光スペクトル(励起波長460nm)を示す。また、図4に、実施例2、3、5及び比較例5にて作製した硫化物蛍光体の最大発光波長で励起特性を測定した結果を示す。
Figure 2014009253
表1及び図3に示されるように、アルカリ土類金属とGaのモル比率を2:1〜20:1の範囲内となるようにGaを添加し、還元硫化処理における硫化温度を850℃〜1000℃の範囲とした実施例1〜実施例7の場合では、得られた硫化物蛍光体の発光輝度が大幅に向上し、YAG:Ceよりも1.5倍〜1.8倍も高い輝度が得られた。
一方で、比較例1〜比較例5の結果に示されるように、Ga添加量や硫化温度が上述した範囲でない場合には、得られた硫化物蛍光体の発光輝度がYAG:Ceよりも著しく低下し、低下しないまでもYAG:Ceと略同じ程度であり輝度の向上効果は全くなかった。また、比較例6では、SrClをフラックスとして用いたため、輝度の向上効果は得られたが、残光が発生してしまった。さらに、比較例7では、得られた硫化物蛍光体が黒色となってしまったためか、輝度が著しく低下した。
また、図4の励起特性を示すグラフから分かるように、実施例2、3、5にて得られた硫化物蛍光体と、比較例5にて得られた硫化物蛍光体とは、その励起特性が異なっていることが分かる。このことは、実施例2、3、5にて作製した(Sr1−xCa1−yEuSの蛍光体の表面が溶融して粒子表面に薄いアルカリ土類金属硫化物とGaとの共晶物層が被覆形成されたことによると考えられる。この共晶物層は、400nm以下の光を吸収するため、図4に示されるように実施例2、3、5では400nm以下の励起の発光が小さくなっている。
(X線回折測定及び測定結果)
実施例1及び実施例4にて作製した硫化物蛍光体についてX線回折測定を行った。図2に、それぞれのX線回折パターンを示す。なお、図2には、SrS:Eu0.2%の蛍光体とGaβの蛍光体のX線回折パターンを併せて示す。
図2に示されるように、SrSとほぼ同じ回折パターンを示すとともに、Gaに伴う弱いピークも検出された。このことから、硫化ガリウムの共晶物が被覆されていることが分かった。なお、それ以外に異相は認められず、相純度の高い結晶であることが分かった。

Claims (4)

  1. 組成式:(Sr1−xCa1−yEuSで表され、式中xが0≦x≦1であり、yが0.2≦y≦0.6である硫化物蛍光体の製造方法であって、
    上記組成となるように秤量した所定量のストロンチウム炭酸塩及びカルシウム炭酸塩をオキシカルボン酸にて溶解し、上記組成となるように秤量した所定量のユーロピウム化合物と、アルカリ土類金属とガリウムとのモル比が2:1〜20:1の範囲となるように秤量したガリウム化合物とを混合して得られた混合液に、アルコールを添加してゲル化させゲル体を得るゲル体作製工程と、
    上記ゲル体を酸化焼成処理して炭酸塩と酸化物を含む混合物前駆体を作製する前駆体作製工程と、
    上記混合物前駆体を、850℃〜1000℃の温度条件で二硫化炭素又は硫化水素ガス中で還元硫化処理して焼成する還元焼成工程と
    を有することを特徴とする硫化物蛍光体の製造方法。
  2. 上記ゲル体作製工程では、上記ストロンチウム炭酸塩及びカルシウム炭酸塩を、当該硫化物蛍光体を構成する全金属及びガリウムの合計モル数の3倍〜7倍モルに相当する量のオキシカルボン酸を用いて溶解することを特徴とする請求項1に記載の硫化物蛍光体の製造方法。
  3. 上記ゲル体作製工程では、上記混合液に、当該硫化物蛍光体を構成する全金属及びガリウムの合計モル数の3倍〜14倍モルに相当する量のアルコールを添加してゲル化することを特徴とする請求項1又は2に記載の硫化物蛍光体の製造方法。
  4. 上記請求項1に記載の硫化物蛍光体の製造方法によって得られ、組成式:(Sr1−xCa1−yEuSで表され、式中xが0≦x≦1であり、yが0.2≦y≦0.6である硫化物蛍光体であって、
    その表面に、硫化ガリウムとアルカリ土類金属硫化物との共晶物層を形成してなることを特徴とする硫化物蛍光体。
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