本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
図1は、本発明の潜像印刷物(1)を示す図であり、基材(2)上に印刷画像(3)を備えて成る。基材(2)は、上質紙、コート紙、フィルム、金属等、表面に画像を形成できる材質であれば、如何なる材料を用いても良い。また、基材(2)の色彩についても制限はなく、透明や不透明であっても問題なく、加えて、大きさについても特に制限はない。また、印刷画像(3)は基材(2)と異なる色彩を有していれば、透明以外の如何なる色彩であってもよい。
図2に、印刷画像(3)の構造の基本的な概念図を示す。印刷画像(3)は、合成画像群(4)と凸画線群(5)とが積層されて成る。合成画像群(4)と凸画線群(5)の積層順については、合成画像群(4)の上に凸画線群(5)が重なる積層順でなければならない。この積層順でなければならない理由については、後述する視認原理で詳細に説明する。
合成画像群(4)は、目視上、濃淡のない一様な階調で形成されて成り、第一の画像(6)と第二の画像(7)を有している。第一の画像(6)と、第二の画像(7)とは、ともに濃淡のない一様な階調で形成されて成る。
第一の画像(6)は、第一の有意情報を表した第一の潜像画線群(9)と、第一の潜像画線群(9)と対を成し、第一の潜像画線群(9)のネガポジを反転させた構成の第一のカモフラージュ画線群(8)とを有する。本実施の形態における第一の潜像画線群(9)が表す第一の有意情報はアルファベットの「JPN」の文字であり、第一の潜像画線群(9)は、ネガの状態で表して成る。第一の潜像画線群(9)は、傾けた場合に観察者が視認する潜像画像となる画像であり、第一のカモフラージュ画線群(8)は、正対した場合に第一の潜像画線群(9)が可視化されるのを防ぎ、かつ、第一の潜像画線群(9)を合成画像群(4)の中に隠蔽する働きを成す。
第二の画像(7)は、第二の有意情報を表した第二の潜像画線群(10)と、第二の潜像画線群(10)と対を成し、第二の潜像画線群(10)のネガポジを反転させた構成の第二のカモフラージュ画線群(11)とを有する。本実施の形態における第二の潜像画線群(10)が表す第二の有意情報は「桜」の画像であり、第二の潜像画線群(10)は、ポジの状態で表して成る。第二の潜像画線群(10)は、傾けた場合に観察者が視認する潜像画像となる画像であり、第二のカモフラージュ画線群(11)は、正対した場合に第二の潜像画線群(10)が可視化されるのを防ぎ、かつ、第二の潜像画線群(10)を合成画像群(4)の中に隠蔽する働きを成す。
図3に、第一の画像(6)の詳細な画線構成図を示す。第一の画像(6)は、画線幅(W1)の第一の画線(12)が、第一の方向に特定のピッチ(P1)で連続して複数配置されて成り、第一の画線(12)における一部の位相が異なる(位相をずらす)ことによって、第一の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をポジ及びネガで表して成る第一のカモフラージュ画線群(8)と第一の潜像画線群(9)に区分けされている。
なお、本発明でいうポジとは有意情報自体が相対的に濃く、一方の有意情報の周囲は相対的に淡い状態を指し、本発明でいうネガとは、有意情報自体が相対的に淡く、一方の有意情報の周囲が相対的に濃い状態を指す。
第一の画線(12)における位相のずれは、第一の画線(6)のピッチ(P1)の4分の1ピッチであることが最も望ましい。これは、後述する第一の有意情報であるアルファベット「JPN」の文字の視認性を高く保つためである。
なお、前述したとおり、本実施の形態で説明する潜像印刷物(1)が有する第一の画像(6)は、第一の画線(12)における一部の位相をずらすことで、第一のカモフラージュ画線群(8)と第一の潜像画線群(9)に区分けされていることから、当然、第一のカモフラージュ画線群(8)における第一の画線(9)と第一の潜像画線群(9)における第一の画線(9)の画線幅は同じである。
また、第一のカモフラージュ画線群(8)と第一の潜像画線群(9)は、それぞれポジ画像とネガ画像という濃淡が逆転した画像となっているために、それぞれが隣り合う領域において、図3の一部拡大図中の点線で示したA領域のように、対と成る画線の片方が面積率100%で塗りつぶされていれば、隣り合うもう片方の画線の面積率は0%となり、仮に片方が面積率50%で形成されていれば、隣り合うもう片方の面積率は50%となり(図示せず)、片方が面積率30%で形成されていれば、隣り合うもう片方の面積率は70%となる(図示せず)。よって、所定の範囲内に占める第一のカモフラージュ画線群(8)と第一の潜像画線群(9)の合計の面積率は、いずれの場所においてもほぼ同じ値となる。このため、それぞれの画線群が第一の有意情報を含んで成るにも関わらず、第一の画像(6)自体は濃淡のない、一様な階調を有する画像として視認される。
なお、本明細書でいう「面積率」とは、所定の範囲内における画線が占める割合のことである。なお、本明細書でいう所定の範囲内とは、第一の方向には少なくとも1ピッチ以上の長さを有し、第一の方向と直交する方向には任意の長さを有する範囲を指すこととする。
図4に、第二の画像(7)の詳細な画線構成図を示す。第二の画像(7)は、画線幅(W2)の第二の画線(14)が、第一の方向に特定のピッチ(P1)と同じピッチ(P2)で連続して複数配置されて成り、第二の画線(14)における一部の位相が異なる(位相をずらす)ことによって、第二の有意情報である「桜」の画像をポジ及びネガで表して成る第二の潜像画線群(10)と第二のカモフラージュ画線群(11)に区分けされている。
第二の画線(14)における位相のずれは、第二の画線(14)のピッチ(P2)の4分の1ピッチであることが最も望ましい。これは、後述する第二の有意情報である「桜」の画像の視認性を高く保つためである。
なお、前述したとおり、本実施の形態で説明する潜像印刷物(1)が有する第二の画像(7)は、第二の画線(14)における一部の位相をずらすことで、第二の潜像画線群(10)と第二のカモフラージュ画線群(11)に区分けされていることから、当然、第二の潜像画線群(10)における第二の画線(14)と第二のカモフラージュ画線群(11)における第二の画線(14)の画線幅は同じである。
なお、第一の画像(6)を形成している第一の画線(12)の画線幅(W1)と、第二の画像(7)を形成している第二の画線(14)の画線幅(W2)は、同じであっても異なっていても問題ない。また、第一の画線(12)におけるピッチ(P1)と第二の画線(14)におけるピッチ(P2)は、同じピッチである。
また、第一の画像(6)と同様、第二の潜像画線群(10)と第一のカモフラージュ画線群(11)は、それぞれポジ画像とネガ画像という濃淡が逆転した画像となっているために、それぞれが隣り合う領域において、図4の一部拡大図中の点線で示したB領域のように、対と成る画線の片方が面積率100%で塗りつぶされていれば、隣り合うもう片方の画線の面積率は0%となり、仮に片方が面積率50%で形成されていれば、隣り合うもう片方の面積率は50%となり(図示せず)、片方が面積率30%で形成されていれば、隣り合うもう片方の面積率は70%となる(図示せず)。よって、所定の範囲内に占める第二の潜像画線群(10)と第一のカモフラージュ画線群(11)の合計の面積率は、いずれの場所においてもほぼ同じ値となる。このため、それぞれの画線群が第二の有意情報を含んで成るにも関わらず、第二の画像(7)自体は濃淡のない、一様な階調を有する画像として視認される。
図5に、第一の画像(6)及び第二の画像(7)から成る合成画像群(4)の詳細な画線構成を示す。第一のカモフラージュ画線群(8)を形成している第一の画線(12)、第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)、第二の潜像画線群(10)を形成している第二の画線(14)、第二のカモフラージュ画線群(11)を形成している第二の画線(14)は、規則的に交互に配置されて成り、第一の方向に位相がずれて互いに重なり合うことはない。本実施の形態において第一のカモフラージュ画線群(8)及び第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)と、第二の潜像画線群(10)及び第二のカモフラージュ画線群(11)を形成している第二の画線(14)は、ピッチの4分の1だけ第一の方向に位相がずれて成る。
ただし、本実施の形態においては、W1とW2が同じであって、第一のカモフラージュ画線群(8)を形成している第一の画線(12)の画線幅(W1)と第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)の画線幅(W1)の和及び、第二の潜像画線群(10)を形成している第二の画線(14)の画線幅(W2)と第二のカモフラージュ画線群(11)を形成している第二の画線(14)の画線幅(W2)の和がピッチ(P1)の4分の1の大きさに当たるが、これに限定するものではなく、第一のカモフラージュ画線群(8)を形成している第一の画線(12)の画線幅(W1)+第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)の画線幅(W1)+第二の潜像画線群(10)を形成している第二の画線(14)の画線幅(W2)+第二のカモフラージュ画線群(11)を形成している第二の画線(14)の画線幅(W2)の値が、ピッチ(P1、P2)以下の値をとればよい。
また、図5の一部拡大図中の点線で示したC領域のように、所定の範囲内に占める第一のカモフラージュ画線群(8)、第一の潜像画線群(9)、第二の潜像画線群(10)と第二のカモフラージュ画線群(11)の合計の面積率は、いずれの場所においてもほぼ同じ値となる。ただし、本実施の形態においては、この同じ値を100%で説明したが、100%に限定するものではなく、例えば、80%の場合は、同一ピッチ内で隣り合った潜像要素(8)の面積率とカモフラージュ要素(9)の面積率の和は、いずれの場所においてもほぼ80%となることが望ましい、ということになる。
このように、所定の範囲内における第一のカモフラージュ画線群(8)、第一の潜像画線群(9)、第二の潜像画線群(10)及び第二のカモフラージュ画線群(11)の合計の面積率を、いずれの場所においてもほぼ同じ値とすることで、第一の画像(6)と第二の画像(7)の合成画像である合成画像群(4)も、二つの異なる有意情報を含んで成るにも関わらず、濃淡のない一様な階調を有する画像として視認される。
以上のような構成の合成画像群(4)は、基材(2)と異なる色を有するインキを用いて形成される。色はいかなる色でも良く、通常の着色インキを用いる他に、金や銀のようなメタリック系インキを用いたり、高光沢なグロス系インキを用いたりして形成してもよい。
第一の画像(6)と第二の画像(7)は、同じ色彩で構成しても良いし、異なる色彩で構成しても良い。同じ色彩で構成した場合には製造が容易である一方、傾けた場合に出現する第一の潜像画線群(9)と第二の潜像画線群(10)とが同じ色彩での表現に限定される。
逆に、異なる色彩で構成した場合には、刷色数が増え、各色間で一定の刷合わせ精度が必要となる一方で、傾けた場合に出現する第一の潜像画線群(9)と第二の潜像画線群(10)とが異なる色彩となり、色彩豊かな表現が可能となるため、それぞれ重視する目的に応じた使い分けをすることが望ましい。
また、第一の画像(6)と第二の画像(7)を異なる色彩で構成した場合、第一の画像(6)に含まれる第一の潜像画線群(9)と第一のカモフラージュ画線群(10)とを異なる色彩としてはならない。また、同様に第二の画像(7)に含まれる第二の潜像画線群(11)と第二のカモフラージュ画線群(12)とを異なる色彩としてはならない。これはそれぞれの有意情報が可視化されることを防ぐためである。
合成画像群(4)を印刷する場合の印刷方式は、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷等、如何なる方式を用いても良い。またインキジェットプリンターやレーザプリンター等のデジタル印刷機器を用いて形成しても何ら問題はない。また、レーザーマーカーや各種切削機械等を用いて基材表面を焦がしたり、切削したりすることで濃淡を表現し、合成画像群(4)を形成してもよい。
図6に、凸画線群(5)の詳細な画線構成図を示す。凸画線群(5)は、特定のピッチ(P1)で第一の方向に連続して配置された盛り上がりを有する幅(W3)の複数の凸画線(16)から成り、かつ、凸画線(16)と凸画線(16)の間には、幅(W4)の非画線部(17)を有する。この凸画線(16)と非画線部(17)は、傾けた場合に、二つの潜像画線群(9、10)のうちのいずれか一つの潜像画線群と二つのカモフラージュ画線群(8、11)を隠蔽して、残った一つの潜像要素群のみを出現させるために機能するが、これらの具体的な機能については後述する。
凸画線群(5)は盛り上がりを有し、かつ、透明あるいは半透明である必要がある。また、本発明の効果を高める上で、屈折率の高い材質であることが望ましい。この理由については後述する。
形成方法は、凹版印刷やスクリーン印刷等の盛り上がりを形成できる印刷方式を用いて印刷で形成すればよい。盛り上がり高さは、ピッチにもよるが5μm以上1mm以下であることが好ましく、また、15μm以上100μm以下であることが第一の有意情報及び第二の有意情報の視認性や流通適性を高く保つためにより望ましい。
図7に、潜像印刷物(1)を形成するための合成画像群(4)と凸画線群(5)の重ね合わせ順を示す。まず、基材(2)に合成画像群(4)を印刷し、凸画線群(5)をその上に重ね合わせて形成する。
図8に、本実施の形態における合成画像群(4)と凸画線群(5)の重なり合いの詳細な位置関係を示す。図8(b)には、印刷画像(3)の一部を正面から見た拡大図の概要図を示し、図8(c)に、図8(b)で示した印刷画像(3)をA−A´ラインでカットした断面図を示す。
各画線同士の最も望ましい重なり合いの位置関係とは、図8(b)に示すような、凸画線(16)の画線幅の中に第一のカモフラージュ画線群(8)を構成する第一の画線(12)と第二のカモフラージュ画線群(11)を構成する第二の画線(14)が完全に含まれ、第一の潜像画線群(9)を構成する第一の画線(12)と第二の潜像画線群(10)を構成する第二の画線(14)が、凸画線(16)と非画線部(17)を跨って形成されて成る位置関係である。本発明の効果が発揮しうる画線の位置の範囲については後述する。以上のような構成によって、本発明の潜像印刷物(1)が形成されて成る。
図9、図10及び図11に、潜像印刷物(1)の効果、すなわち、観察角度を変えて観察した場合に視認される画像を示す。図9に示すように、潜像印刷物(1)に正対した視点(18a)から潜像印刷物(1)を観察した場合には、濃淡のない一様な階調を有する合成画像群(4)が観察され、第一の有意情報及び第二の有意情報は不可視である。
一方、図10(a) に示すように、潜像印刷物(1)を傾けてA辺側から第一の方向に向かって観察した場合には、凸画線(16)下にある第一のカモフラージュ画線群(8)を形成している第一の画線(12)及び第二のカモフラージュ画線群(11)を形成している第二の画線(14)と、一つの凸画線(16)におけるA´辺側の端と非画線部(17)を跨いで形成された第二の潜像画線群(10)を形成している第二の画線(14)は不可視となり、一つの凸画線(16)におけるA辺側の端と非画線部(17)を跨いで形成された第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)のみが観察される。よって、観察者からは第一の潜像画線群(9)によって表された第一の有意情報である「JPN」の文字をネガで表した画像のみが視認される。
また、図11(a) に示すように、潜像印刷物(1)を傾けてA´辺側から第二の方向に向かって観察した場合には、凸画線(16)下にある第一のカモフラージュ画線群(8)を形成している第一の画線(12)及び第二のカモフラージュ画線群(11)を形成している第二の画線(14)と、一つの凸画線(16)におけるA辺側の端と非画線部(17)を跨いで形成された第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)は不可視となり、一つの凸画線(16)におけるA´辺側の端と非画線部(17)を跨いで形成された第二の潜像画線群(10)を形成している第二の画線(14)のみが観察される。よって、観察者からは第二の潜像画線群(10)によって表された第二の有意情報である「桜」の画像をポジで表した画像のみが視認される。
続いて、以上で説明したように観察方向に応じて視認できる画像が変化する原理を説明する。まず、正対して観察した場合、凸画線(16)は透明あるいは半透明であって光を透過する性質を備えることから、凸画線(16)の下に存在する第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)、第一のカモフラージュ画線群(8)を形成している第一の画線(12)、第二の潜像画線群(10)を形成している第二の画線(14)及び第二のカモフラージュ画線群(11)を形成している第二の画線(14)のすべてが観察されるため、第一の有意情報も第二の有意情報も不可視であり、図9に示したように、濃淡のない一様な階調の合成画像群(4)が視認される。
しかし、図12(a)から図12(b)、図12(c)の順に、観察者の視点の高さが潜像印刷物(1)に近づけば近づくほど、すなわち、潜像印刷物(1)を深く傾ければ傾けるほど、凸画線(16)下に存在する領域のうち、観察者の視点から見えなくなる領域が徐々に拡大(図中Ia→Ib→Id及びIe)する。これは、凸画線(16)へ入射する光の入射角度が大きくなることから凸画線(10)内部に入射できる光が減り、凸画線(16)表面で反射される光の割合が相対的に増えるためである。
よって、傾けられた角度が大きくなるほど、凸画線(10)の透明性は低下し、不透明に変化し、凸画線(16)の下に存在する画像が見えなくなる。なお、凸画線(10)の屈折率が高い場合にはこの傾向が特に顕著である。このように、凸画線(10)が不透明に変化することによって、凸画線(16)の下に存在する画像が見えなくなるとともに、加えて観察者から見て凸画線(16)の向こう側に存在する領域も、凸画線(16)の盛り上がりによって物理的に遮蔽されて見えなくなる。
このように、不透明と化した凸画線(16)によって凸画線(16)の下に存在する画像のほとんどは不可視となるが、一部に不可視とならない領域(Ic)が存在する。この不可視とならない領域(Ic)は、凸画線(16)の下に存在する合成画像群(4)の中の凸画線(16)の両端のうち、観察者に近い側の端の近傍がそれに当たる。それぞれの凸画線(16)において、観察者に近い斜面は、印刷物と垂直に近い角度を成して盛り上がっていることから、凸画線(16)のその他の表面と比べて入射する光の角度が相対的に小さくなるため透明性が大きく低下することはなく、低下してもその割合は他の領域と比較して小さくなる。
よって、それぞれの凸画線(16)の下に存在する合成画像群(4)の各画線のうち、不可視とならない領域(Ic)に存在する画線のみが観察者には観察される。なお、第一の方向とは逆の第二の方向から観察した場合には、凸画線(16)のもう片方の端の近傍が不可視とならない領域(Ic)となる。
以上の原理によって、傾けて第一の方向から観察した場合には、不可視とならない領域(Ic)に存在する画線、すなわち、本実施の形態においては第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)のみが視認され、結果として第一の潜像画線群(9)のみが視認される。
一方、傾けて第二の方向から観察した場合には、不可視とならない領域(Ic)が凸画線(16)中心をはさんで反転することから、第二の潜像画線群(10)を形成している第二の画線(14)のみが視認され、結果として第二の潜像画線群(10)のみが視認される。このような原理によって、第一の方向から観察した場合には、第一の有意情報が視認され、第二の方向から観察した場合には、第二の有意情報が視認される、いわゆる画像のチェンジ効果が生じる。
以上に述べた原理によって、図13に示すように、潜像印刷物(1)に正対した視点(18a)から潜像印刷物(1)を観察した場合には、図13(b)に示す濃淡のない一様な階調を有する合成画像群(4)が観察され、潜像印刷物(1)を傾けて第一の方向から観察した場合には、図13(c)に示す第一の潜像画線群(9)、すなわち第一の有意情報が視認され、潜像印刷物(1)を傾けて第二の方向から観察した場合には、図13(d)に示す第二の潜像画線群(10)、すなわち第二の有意情報が視認され、観察角度に応じてそれぞれ異なる画像が視認できる効果が生じる。
このように、本発明の効果を奏するためには、第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)、第一のカモフラージュ画線群(8)を形成している第一の画線(12)、第二の潜像画線群(10)を形成している第二の画線(14)及び第二のカモフラージュ画線群(11)を形成している第二の画線(14)が、一つの凸画線(16)に対して、重なる部分を有している構成とすることが必要である。
さらに詳細には、第一のカモフラージュ画線群(8)を構成する第一の画線(12)と、第二のカモフラージュ画線群(11)を構成する第二の画線(14)は、凸画線(16)と完全に重なり合い、第一の潜像画線群(9)を構成する第一の画線(12)は、凸画線(16)の一辺と非画線部(17)に跨り、第二の潜像画線群(10)を構成する第二の画線(14)は、凸画線(16)の他辺と非画線部(17)に跨って形成されることが必要である。
しかし、盛り上がりのある凸画線(16)と、合成画像群(4)を印刷、加工する方式は異なる方式が用いられる場合が多いと考えられ、そのように印刷方法が異なる画線同士の刷り合わせを厳密に一致させることは現時点では容易ではなく、設計段階で意図していた画線構成と、実際の製造における画線構成において、二つの画線の刷り合わせのズレをゼロとすることは難しい。
ただし、その構成の中でも、傾けた場合に出現する画像となる、第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)及び第二の潜像画線群(10)を形成している第二の画線(14)を形成できる最も望ましい範囲について、図14を用いて説明する。
第一の潜像画線群(9)を形成している第一の画線(12)は、凸画線(16)のA辺よりの端近傍(19a)に示した領域に形成した場合に、これまで説明してきたような本発明の効果を得ることができる。
具体的には、各凸画線(16)のA辺よりの端から凸画線(16)の幅の3分の1まで凸画線(16)の内側に入った領域と、各凸画線(16)のA辺よりの端から非画線部(17)側の非画線部(17)の幅(W4)の3分の1までにわたる領域とからなる。
このうち、より重要なのは、各凸画線(16)のA辺よりの端から凸画線(16)の幅の3分の1まで凸画線(16)の内側に入った領域である。この理由は、各凸画線(16)のA辺よりの端から非画線部(17)側の非画線部(17)の幅(W4)の3分の1までにわたる領域は、凸画線(16)の盛り上がり高さの影響を強く受け、盛り上がり高さが変化することでその領域が狭くなったり、広くなったりする傾向にあるが、各凸画線(16)のA辺よりの端から凸画線(16)の幅の3分の1まで凸画線(16)の内側に入った領域については、凸画線(16)の盛り上がり高さの影響を比較的受けづらいためである。
一方、第二の潜像画線群(10)を形成している第二の画線(14)は、各凸画線(16)のA´辺よりの端近傍(19b)に示した領域に形成した場合に、これまで説明してきたような本発明の効果を得ることができる。具体的には、各凸画線(16)のA´辺よりの端から凸画線(16)の幅の3分の1まで凸画線(16)の内側に入った領域と、各凸画線(16)のA´辺よりの端から非画線部(17)側の非画線部(17)の幅(W4)の3分の1までにわたる領域とからなる。
このうち、より重要なのは、各凸画線(16)のA´辺よりの端から凸画線(16)の幅の3分の1まで凸画線(16)の内側に入った領域である。理由は(19a)の領域と同じである。逆に、第一のカモフラージュ画線群(8)を形成している第一の画線(12)と第二のカモフラージュ画線群(11)を形成している第二の画線(14)は、19a及び19bに示した領域以外に形成される。
前述したとおり、画線同士の刷り合わせのズレをゼロとすることは難しく、設計段階でこのような最も望ましい要素同士の重なり合いの位置関係で構成することを意図していても、本来、潜像画線(13、14)が入るはずの19a及び19bに示した領域にカモフラージュ画線(12、15)が含まれてしまう場合がある。
しかし、このような場合でも、19a及び19bに示した領域において含まれる潜像画線(13、14)の割合が、カモフラージュ画線(12、15)の割合よりも多ければ、視認性は低下するものの、第一の有意画像及び第二の有意画像は可視化される効果を得ることができることから、本発明の範囲に含まれることとする。いずれにおいても、印刷時における刷り合わせのズレは誤差の範囲であり、全ての発明の技術的範囲である。
なお、19aや19bに示した領域は、傾け角度が大きく(90度近く)なり過ぎたり、凸画線(16)の盛り上がり高さが高くなり過ぎると、当然のことながら小さくなったり、極端な場合には無くなってしまう。潜像印刷物(1)を構成する材料や画線構成等を変える場合には、その都度効果が発現しているかを確認する必要がある。
先に述べたが、本発明の潜像印刷物(1)の凸画線(16)は、光の屈折率が高いことが望ましい。屈性率が高い凸画線(16)を用いた方が、傾けた場合の各画線の隠蔽効果が高まり、第一の潜像画線群(9)あるいは第二の潜像画線群(10)の視認性が相対的に向上するためである。
このような高屈折率を有する特性を凸画線(16)に付与する方法の一例としては、光の屈折率の高い顔料をインキ中に分散させ、凸画線(16)をUV乾燥方式のスクリーン印刷によって形成することが容易である。UV乾燥方式のスクリーン印刷は、10μmを超える盛り上がりのある画線を容易に形成でき、かつ、粒径が大きな顔料も使用できることから、本発明の凸画線(16)の望ましい形成方法の一つであるといえる。
ただし、光の屈折率の高い顔料は透明あるいは半透明である必要があり、このような特性を満たす顔料としては虹彩色パール顔料がある。虹彩色パール顔料を用いてスクリーン印刷で凸画線(16)を形成する場合、凸画線(16)の表面の光の屈折率が高いことが重要であることから、盛り上がりのある画線内部ではなく、盛り上がりのある画線表面に虹彩色パール顔料が向きを揃えて配向きする、いわゆるリーフィングした状態であることが最も望ましい。
このような効果を得る方法の一つとして、例えば、特開2001−106937号公報に記載の技術のように記載の撥水撥油処理を施した顔料を用いる方法があり、このような処理を施した顔料を用いて凸画線(16)を形成した場合には、傾けた場合に視認される各潜像画線群(9、10)の視認性を高めることができる。
なお、本明細書中でいう、「正対して観察する」とは、観察者の視点が潜像印刷物の印刷面と直角(0°とする)か、それに近い角度を成して潜像印刷物を観察する状態を指し、「傾けて観察する」とは潜像印刷物の印刷面から少なくとも45°以上90°未満の角度を成して潜像印刷物を観察する状態を指すこととする。
すべての画線群の構成に共通するピッチ(P1)について、狭く設計した場合には、各潜像画線群(9、10)が可視化される傾け角度を小さくできるが、刷り合わせの難易度が上がり、かつ、各要素の再現性が低下する傾向にある。逆に、広く設計した場合には、各潜像画線群(9、10)が可視化される傾け角度が大きくなってしまう反面、刷り合わせの難易度が下がり、かつ、各要素の再現性も安定する。これらを考慮すると、ピッチ(P1)は、0.1mmから2mm程度の範囲で構成することが望ましい。
なお、本明細書で言う「画線」とは、印刷画像を形成する最小単位である印刷網点を特定の方向に連続して一定の距離配置したものであり、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線を言う。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
実施例1について、図15から図23を用いて説明する。実施例1は、合成画像群(4−1)をオフセット印刷で印刷して潜像印刷物(1−1)を形成し、凸画線群(5−1)をスクリーン印刷で形成した例であって、第一の画像(6−1)及び第二の画像(7−1)のいずれも同じインキで一度に形成した例である。
図15は、本発明の潜像印刷物(1−1)を示す図であり、基材(2−1)上に青色の印刷画像(3−1)を備えて成る。基材は、一般的なコート紙(日本製紙製)を用いた。
図16に、印刷画像(3−1)を構成する各画像要素の概念図を示す。基本的な構成は実施の形態で説明したものと同じであり、合成画像群(4−1)と凸画線群(5−1)とが積層されて成り、合成画像群(4−1)は、目視上、濃淡のない一様な階調で形成されており、第一の画像(6)と第二の画像(7)を有している。第一の画像(6)と、第二の画像(7)とは、ともに濃淡のない一様な階調で形成されて成る。
第一の画像(6−1)は、第一の有意情報を表した第一の潜像画線群(9−1)と、第一の潜像画線群(9−1)と対を成し、第一の潜像画線群(9−1)のネガポジを反転させた構成の第一のカモフラージュ画線群(8−1)とを有する。本実施1における第一の潜像画線群(9−1)が表す第一の有意情報はアルファベットの「JPN」の文字であり、第一の潜像画線群(9−1)は、これをネガの状態で表して成る。
第二の画像(7−1)は、第二の有意情報を表した第二の潜像画線群(10−1)と、第一の潜像画線群(10−1)と対を成し、第二の潜像画線群(10−1)のネガポジを反転させた構成の第二のカモフラージュ画線群(11−1)とを有する。本実施の形態における第二の潜像画線群(10−1)が表す第二の有意情報は「桜」の画像であり、第二の潜像画線群(10−1)は、これをポジの状態で表して成る。
図17に、第一の画像(6−1)の詳細な画線構成図を示す。第一の画像(6−1)は、画線幅0.75mmの第一の画線(12−1)が、第一の方向に0.3mmピッチで連続して複数配置されて成り、第一の画線(12−1)における一部の位相が異なる(位相をずらす)ことによって、第一の有意情報であるアルファベットの「JPN」の文字をポジ及びネガで表して成る第一のカモフラージュ画線群(8−1)と第一の潜像画線群(9−1)に区分けされている。
図18に、第二の画像(7−1)の詳細な画線構成図を示す。第二の画像(7−1)は、画線幅0.75mmの第二の画線(14−1)が、第一の方向に0.3mmピッチで連続して複数配置されて成り、第二の画線(14−1)における一部の位相が異なる(位相をずらす)ことによって、第二の有意情報である「桜」の画像をポジ及びネガで表して成る第二の潜像画線群(10−1)と第二のカモフラージュ画線群(11−1)に区分けされている。
図19に、第一の画像(6−1)及び第二の画像(7−1)から成る合成画像群(4−1)の詳細な画線構成を示す。第一の潜像画線群(9−1)を形成している第一の画線(12−1)、第一のカモフラージュ画線群(8−1)を形成している第一の画線(12−1)、第二の潜像画線群(10−1)を形成している第二の画線(14−1)、第二のカモフラージュ画線群(11−1)を形成している第二の画線(14−1)は、規則的に交互に配置されて成り、第一の方向に位相がずれて互いに重なり合うことはない。
以上のような構成の合成画像群(4−1)を青色のオフセットインキ(DaiCure アビリオ プロセス 藍N)を用いてオフセット印刷方式で印刷した。
図20に、凸画線群(5−1)の詳細な画線構成図を示す。凸画線群(5−1)は、ピッチ0.3mmで第一の方向に連続して配置された幅0.2mmの凸画線(16−1)を有し、かつ、凸画線(16−1)と凸画線(16−1)の間に幅0.1mmの非画線部(17−1)を有する。以上の構成の凸画線群(5−1)をUV乾燥方式のスクリーン印刷で表1に示すインキを用い、図21に示すように、合成画像群(4−1)の上に重ね合わせて印刷した。なお、凸画線(16−1)の盛り上がり高さは、20μmであった。
表1に示したスクリーンインキは、光が入射することで金色の干渉色を発する虹彩色パール顔料を含んでおり、本インキで形成した画線は、正反射光が生じない状態では無色透明であって、正反射光が生じた状態では金色の干渉色を発する凸画線(16−1)となる。
なお、本インキに混合した虹彩色パール顔料は顔料表面に撥水及ぶ撥油性を付与し、盛り上がりのある画線表面に配向する特性を有している。このような特別な顔料を配合する理由は、一般的に考えられる虹彩色パール顔料を用いる場合のように正反射光下で美しいパールの干渉色を得るためではなく、凸画線(16−1)表面の光の屈折率を高め、凸画線(16−1)の下に存在する2つのカモフラージュ画線群と1つの潜像画線群の隠蔽性を高めるためである。
図22に、合成画像群(4−1)を構成している画線と、凸画線(16−1)との重なり合いに位置関係を示す。凸画線(16−1)におけるA辺側には、第一の潜像画線群(9−1)を形成している第一の画線(12−1)が位置する。具体的には、凸画線(16−1)と非画線部(17−1)を跨ぐように、非画線部(17−1)に0.25mm、凸画線(16−1)に0.5mmだけ画線が重なる位置に形成される。
一方、凸画線(16−1)のA´辺側には、第二の潜像画線群(10−1)を形成している第二の画線(14−1)が位置する。具体的には、凸画線(16−1)と非画線部(17−1)を跨ぐように、非画線部(17−1)に0.25mm、凸画線(16−1)に0.5mmだけ画線が重なる位置に形成される。
第一のカモフラージュ画線群(8−1)を形成している第一の画線(12−1)と、第二のカモフラージュ画線群(11−1)を形成している第二の画線(14−1)は、それぞれの凸画線(16−1)の端から凸画線(16−1)中心側へ0.5mm以上凸画線(16−1)の内側に入った凸画線(16−1)下に形成される。
図23に、以上の手順で作製した実施例1の潜像印刷物(1−1)の効果を示す。図23(a)に示す視点(18a−1)のように、潜像印刷物(1−1)に正対した視点(18a−1)から潜像印刷物(1−1)を観察した場合には、青色の合成画像群(4−1)が観察され、第一の有意画像及び第二の有意画像は不可視であった。
一方、図23(a)に示すように、潜像印刷物(1−1)を傾けて視点(18b−1)から第一の方向に観察した場合には、図23(b)に示すように、アルファベットの「JPN」の文字である第一の有意情報をネガで表した第一の潜像画線群(9−1)が青色で視認され、図23(a)に示すように、潜像印刷物(1−1)を傾けて視点(18c−1)から第二の方向に観察した場合には、図23(c)に示すように、「桜」の画像である第二の有意情報をポジで表した第二の潜像画線群(10−1)が青色で視認された。以上のように、傾けた場合に観察する方向に応じて異なる画像が視認できることが確認できた。
実施例2について、以下に説明する。実施例2は、実施例1と同様の画線構成で潜像印刷物(1−1)を形成した例であるが、第一の画像(6−1)及び第二の画像(7−1)を異なる色相のインキで形成した例である。第一の画像(6−1)及び第二の画像(7−1)に異なる色相のインキを使用した以外は、実施例1と全く同じであるため、基材や画像の構成や寸法の説明は省略する。
本実施例2においては、第一の画像(6−1)を青色の第一のインキ(DaiCure アビリオ プロセス 藍N)で、第二の画像(7−1)を赤色の第二のインキ(DaiCure アビリオ プロセス 紅)で印刷した。
その場合、図23(a)に示すように、潜像印刷物(1−1)に正対した視点(18a−1)から潜像印刷物(1−1)を観察した場合には、灰色の合成画像群(4−1)が観察され、第一の有意画像及び第二の有意画像は不可視であった。一方、潜像印刷物(1−1)を傾けて視点(18b−1)から第一の方向に観察した場合には、図23(c)に示すように、アルファベットの「JPN」の文字である第一の有意情報をネガで表した第一の潜像画線群(9−1)が青色で視認され、潜像印刷物(1−1)を傾けて視点(18c−1)から第二の方向に観察した場合には、図23(d)に示すように、「桜」の画像である第二の有意情報をポジで表した第二の潜像画線群(10−1)が赤色で視認された。以上のように、傾けた場合に観察する方向に応じて異なる画像が視認できるだけでなく、色相も変化することが確認できた。