本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)の少なくとも一部に、基材と異なる色を有する印刷画像(3)が形成されて成る。なお、説明の便宜上、印刷画像(3)の中の第二の画像(5)に含まれる桜模様を白抜き画線で表現しているが、実際には桜模様は視認不可能である。
図2に、印刷画像(3)の構成を示す。印刷画像(3)は、図2(a)に示す第一の画像(4)と、図2(b)に示す第二の画像(5)から構成されている。第一の画像(4)は、文字、数字又は記号等の有意味情報から成る第一の情報部(6)と、第一の情報部(6)の周囲を取り囲む第一の背景部(7)から成り、第二の画像(5)は、文字、数字又は記号等の有意味情報から成る第二の情報部(8)と、第二の情報部(8)の周囲を取り囲む第二の背景部(9)から成る。
次に、印刷画像(3)を、第一の画像(4)及び第二の画像(5)を構成するために必要な四つの画像要素について説明する。
図3に、印刷画像(3)を構成している四つの画像要素を示す。図3(a)に示すのは、第一の画像要素(10−1)であり、図3(b)に示すのは、第二の画像要素(10−2)であり、図3(c)に示すのは、第三の画像要素(10−3)であり、図3(d)に示すのは、第四の画像要素(10−4)である。
各画像要素は、第一のインキ又は第二のインキによって、それぞれ特定の面積率で形成されている。第一のインキと第二のインキは、同じ色相であるが、濃度の異なるインキのペアであり、第一のインキは第二のインキよりも淡い濃度である必要がある。本発明における「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400から700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。本発明でいう「同じ色相」とは、二つの色において赤、青、黄といった色の様相が一致することであり、より具体的には、可視光領域の波長の強弱の分布が二つの色において相関を有することである。
各画像要素について説明する。第一の画像要素(10−1)は、第一のインキによって、第一の面積率で形成されて成る。第二の画像要素(10−2)は、第二のインキによって、第二の面積率で形成されて成る。第三の画像要素(10−3)は、第二のインキによって、第三の面積率で形成されて成る。第四の画像要素(10−4)は、二種類のインキから成り、第一のインキによって、第一の面積率で形成された上に、第二のインキによって第四の面積率で重畳されて成る。
図4に、第一の画像(4)を形成するための各画像要素の組み合わせを示す。図4(a)に示すように、第三の画像要素(10−3)と第四の画像要素(10−4)を組み合わせることで、第一の画像(4)における第一の情報部(6)が形成され、図4(b)に示すように、第一の画像要素(10−1)と第二の画像要素(10−2)を組み合わせることで、第一の画像(4)における第一の背景部(7)が形成される。
一方、図5に、第二の画像(5)を形成とするための各画像要素の組合せを示す。図5(a)に示すように、第一の画像要素(10−1)と第四の画像要素(10−4)を組み合わせることで、第二の画像(5)における第二の情報部(8)が形成され、図5(b)に示すように、第二の画像要素(10−2)と第三の画像要素(10−3)を組み合わせることで、第二の画像(5)における第二の背景部(9)が形成される。以上が、印刷画像(3)の中に、第一の画像(4)及び第二の画像(5)の二つの画像を含ませて構成するために必要な四つの画像要素の説明である。
各画像要素が重なりあった領域がある場合には、その領域に不必要な濃淡が生まれるため、それぞれの画像要素同士がオーバーラップした領域は、基本的には設けない。ただし、印刷の刷り合わせに冗長性を持たせることを目的として、各画像要素の輪郭部にのみわずかなオーバーラップ部を設けることは本技術の技術的思想の範囲内である。
本発明において、拡散反射光下の観察において第一の画像要素(10−1)と、第二の画像要素(10−2)は、等色として観察され、第三の画像要素(10−3)と第四の画像要素(10−4)は、等色として観察されるように、各画像要素の色彩を設計する必要がある。
このことから、本発明の効果を奏するためには、第一の面積率、第二の面積率、第三の面積率及び第四の面積率の関係が非常に重要となる。そこで、次に、それぞれの面積率の関係を説明する。
なお、後述される本発明における「正反射光下」とは、光源から印刷物へ入射する光の角度と、印刷物を反射した光の角度が略等しい場合、例えば、光源から潜像印刷物に入射角度−45°で光が入射した場合、受光角度45°近傍の領域の強い反射光が生じている領域のことであり、本発明における「正反射光下の観察」とは、観察者の視点が、前述した正反射光が生じている領域中にあって、印刷物を観察している状況を示している。正反射光が多く存在するこの領域は、入射光と等しい角度を中心に生じるが、その角度範囲は、使用する基材及び使用するペアインキによって異なる。
また、「拡散反射光下」とは、前述した正反射光下の領域以外のことであり、光源から印刷物へ入射する光の角度と、印刷物を反射した光の角度が大きく異なる、正反射光がほとんど存在しない領域のことである。本発明における「拡散反射光下の観察」とは、観察者の視点が、正反射光がほとんど存在しない領域中にあって印刷物を観察している状況を示している。
また、本発明における「等色」とは、二つの色において、観察者が二つの色を同じ色と認識することができる関係である。具体的な範囲は、CIE L*a*b*における色差ΔEで3以下とする。また、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものである。
また、本発明における面積率とは、一定の面積中に印刷網点が占める割合のことであり、一定面積中に均等の印刷網点を配置する、いわゆる塗りつぶしの形態に限られるものではなく、印刷網点を一定方向に隙間なく、連続して配置した画線を一定間隔で配置し、画線部と非画線部の反復によって、特定の面積率の画像を形成する形態や、網点を集合させて一塊とした画素等を用いて画線同様に特定の面積率を表現することが可能である。画線については、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線でも良く、如何なる画線形状で構成しても本発明の技術思想に含まれる。また、同様に画素については、形状に関しては円でも多角形でも星型等でも良く、その他特殊な文字や記号等も含まれる。
なお、本発明を実施するための形態においては、一定面積中に均等に印刷網点を配置した塗りつぶしの形態で説明しているが、後述する実施例2においては、一部に画線を用いて特定の面積率を表現する形態を説明している。
また、画線だけではなく、第二の画像要素(10−2)及び第三の画像要素(10−3)は、画素の少なくとも一つ又はそれぞれの組合せで形成しても良い。それぞれの組合せとは、例えば、第二の画像要素(10−2)を画線で形成し、第三の画像要素(10−3)を画素で形成する等、要素同士を異なる組合せにしても良く、更に第二の画像要素(10−2)を形成するそれぞれを画線又は画素として形成する組合せにしても良い。
一般的に、拡散反射光下における画像の濃淡は、面積率によって決定されるため、使用するインキが等色である場合は、異なる画像を等色とするために同じ面積率で形成すれば良い。ただし、本発明では、第一の画像要素(10−1)は第一のインキで形成され、第二の画像要素(10−2)は第一のインキよりも濃い第二のインキで形成されることから、第一の面積率は、第二の面積率よりも大きく設計する必要がある。
つまり、第一の面積率及び第二の面積率は、第一のインキと第二のインキの濃度差によって決定される。本発明における濃度差とは、第一のインキと第二のインキを同じ面積率でそれぞれ印刷した場合に、印刷したそれぞれの部分を色濃度計で測定した際の濃度値の差異のことである。
第一の面積率は、基本的には100%とする。これは、特定の条件下で出現する第二の画像の視認性を可能な限り高めるためである。第二の画像の視認性は、第一の面積率の大小に強い影響を受けることから、印刷適性上問題がない限り、形成可能な最大面積率である100%で形成する。
このことから、例えば、第二のインキが第一のインキの二倍の濃度を有する場合、第一の面積率が100%であるため、第二の面積率は50%となり、第二のインキが第一のインキの四倍の濃度を有する場合、第一の面積率が100%であるため、第二の面積率は25%となる。
本発明において、特定の条件下の観察とは、正反射光下での観察、透過光下での観察、紫外線波長帯の光を照射しての観察、赤外線波長帯の光での観察、可視光領域の限定された波長帯の光での観察又は特定の温度下での観察から選択される少なくとも一つの条件下で観察することである。
さらに、第二のインキが第一のインキに対して、1.5倍から2.5倍の濃度差を有する場合、第一の面積率が100%であれば、第二の面積率は40%から67%の範囲内で設定することとなる。この場合、第二の面積率を決定するために、第二の面積率を40%から67%の範囲内で、5%に刻んだ6パターン(例えば、40%、45%、50%、55%、60%、65%)で事前の印刷試験を行う。そして、第一のインキと第二のインキが最も等色に視認される面積率を第二の面積率とする。
また、第三の画像要素(10−3)と第四の画像要素(10−4)も等色に形成する必要があるが、第三の画像要素(10−3)が第二のインキだけで形成されるのに対して、第四の画像要素(10−4)は、第一のインキと第二のインキの重ね合わせによって形成される。したがって、第四の面積率は第三の面積率を超えることはない。
つまり、第四の面積率は、使用する二つのインキの濃度差だけでなく、第一のインキに第二のインキを重ねて印刷した場合のトラッピングの状態に左右されるため、使用するインキによって濃淡が異なる。そのため、事前に二つのインキの重ね刷りを行って適正な面積率に調整する必要がある。
第四の画像要素(10−4)における第四の面積率で印刷する部分は、拡散反射下の観察において、第一の情報部(6)として視認され、特定の条件下で観察した場合に略視認不可能な状態に変化しなければいけない。そのため、第一のインキで第一の画像要素(10−1)を面積率100%で印刷した上に、第二のインキで第四の画像要素(10−4)を重畳した場合に、次に示す条件を満たせる第四の面積率を事前にテストチャートを作製して見極めておく必要がある。
第四の面積率を決定する具体的な条件とは、拡散反射光下の観察において、第三の画像要素(10−3)と等色に視認されることに加え、第一の画像要素(10−1)及び第二の画像要素(10−2)に対して異なる濃淡を形成し、目視可能な一定のコントラストが生じる面積率であること、併せて、特定の条件下の観察において、第一の画像要素(10−1)と略等色に視認され、かつ、第二の画像要素(10−2)及び第三の画像要素(1−3)と異なる濃淡を形成し、目視可能な一定のコントラストが生じる面積率であることとなる。この面積率の適正値はインキによって全く異なるため、使用するインキに応じて事前にテストを実施して決定する必要がある。
拡散反射光下において、第一の画像要素(10−1)と第二の画像要素(10−2)は、等色となって第一の画像(4)における第一の背景部(7)を形成し、第三の画像要素(10−3)と第四の画像要素(10−4)は、等色となって第一の画像(4)における第一の情報部(6)を形成することは前述したとおりであるが、第一の情報部(6)と第一の背景部(7)には、一定の濃度差が必要であり、等色であってはならない。
第一の画像(4)をポジ画像として表現するか(情報部が背景部よりも暗い)、又はネガ画像として表現するか(情報部が背景部よりも明るい)によって、どちらの面積率を大きく設計するかは異なるが、少なくとも、第二の面積率と第三の面積率は同じ面積率であってはならず、第一の情報部(6)の視認性を考慮すると、少なくとも10%程度の差異が必要である。
また、第二の面積率と第三の面積率の差異が大き過ぎる場合には、特定の条件下の観察において出現する第二の画像(5)に、第一の情報部(6)の一部が反映され、混ざり合った画像が出現する問題が発生することから、50%以下の差異に制限する必要がある。また、同様の理由で第四の面積率も50%以下に制限する必要がある。
図6に、潜像印刷物(1)を印刷で形成するにあたって、第一のインキ及び第二のインキを使用して印刷する版面上の図柄を示す。図6(a)は、第一のインキを用いて印刷する図柄であり、第二の情報部(8)である第一の画像要素(10−1)及び第四の画像要素(10−4)によって構成されている。また、図6(b)は、第二のインキを使用して印刷する図柄(11)であり、印刷画像(3)から第一の画像要素(10−1)のみを除いた、第二の画像要素(10−2)、第三の画像要素(10−3)及び第四の画像要素(10−4)で構成されている。
まず、第一のインキを用いて、前述した面積率を考慮して、図6(a)に示した図柄を印刷した後に、第二のインキを用いて、同じく前述した面積率を考慮して、図6(b)に示した図柄で印刷することで潜像印刷物(1)を形成することができる。
本発明の効果について、使用するペアインキの特性別に代表的な例について紹介する。
図7に示すのは、第一のインキとして通常の淡い灰色のマットなインキを用い、第二のインキとして濃い濃度の銀インキを用いて潜像印刷物(1)を形成した例である。図7(a)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13a)のような位置関係にある、拡散反射光下の観察においては、第一の画像(4)が視認される。この観察角度において第二の画像(5)は完全に視認不可能である。
これは、第一の画像要素(10−1)と第二の画像要素(10−2)が拡散反射光下では、等色関係であり、第三の画像要素(10−3)と第四の画像要素(10−4)が拡散反射光下では同様に等色関係であることから、第二の画像(5)は、完全に隠ぺいされ、第一の背景部(7)は、目視上フラットで単一な階調として認識される。そして、その中に第一の情報部(6)がより高い面積率で形成されているために、面積率の差による反射濃度の差(濃淡)が生まれ、「日本」の文字と、背景との間に一定のコントラストが形成されることで第一の画像(4)が視認される。
本発明における反射濃度の差異とは、画像の濃さのことであり、基材に印刷した画像に光を投射した場合、投射した光の量に対して反射した光の量のことである。
一方、図7(b)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13b)のような位置関係にある、正反射光下の観察においては、第二の画像(5)のみが視認される。
これは、銀インキを含んだ第二のインキで形成された第二の画像要素(10−2)、第三の画像要素(10−3)及び第四の画像要素(10−4)が、光を強く反射することで淡い色彩へと変化し、それぞれの画像要素間の面積率の違いをとらえづらくなる。特に、第二の画像要素(10−2)と第三の画像要素(10−3)は、目視上フラットで単一な階調として認識される。それとともに、第一のインキで形成された第一の画像要素(10−1)は光を強く反射せず、拡散反射光下で観察した場合と変化しないままの色彩で観察され、第四の画像要素(10−4)は、淡い色へと変化して第一の画像要素(10−1)と等色に観察される。そのため、第二の画像要素(10−2)及び第三の画像要素(10−3)に対して、第一の画像要素(10−1)及び第四の画像要素(10−4)は、濃い色として視認されることとなる。
以上のように、正反射光下の観察においては面積率の違いよりも、インキの違いが強調されることによって、強い濃淡のコントラストを生じ、第一の画像要素(10−1)及び第四の画像要素(10−4)が強調され、結果として、第二の画像(5)が視認される。図7に示す潜像印刷物(1)の具体的な構成については、後述する実施例1に記載する。
図8に示すのは、第一のインキに淡い灰色の透過性インキを用い、第二のインキに通常の濃い灰色のインキを用いて潜像印刷物(1)を形成した例である。図8(a)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13c)のような位置関係にあるような、拡散反射光下の観察においては、第一の画像(4)を構成している「日本」の文字が視認される。この観察角度において第二の画像(5)は、完全に視認不可能である。
一方、図8(b)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13d)のような位置関係にある、透過光下の観察においては、第二の画像(5)を濃淡反転させた画像が視認される。本例の具体的な構成については、後述する実施例2に記載する。
また、本発明において使用する基材は、特に限定しないが、透過性インキを用いる場合に限り、光を遮断しない基材を用いることとする。
図9に示すのは、第一のインキに特定の波長の光を吸収する淡い色のメタメリックインキAを用い、第二のインキに特定の波長の光を透過する濃い色のメタメリックインキBを用いて潜像印刷物(1)を形成した例である。図9(a)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13e)のような位置関係にある、拡散反射光下の観察においては、第一の画像(4)を構成している「日本」の文字が視認される。この観察角度において第二の画像(5)は、完全に視認不可である。
一方、図9(b)に示す潜像印刷物(1)、光源(12)及び観察者(13f)のような位置関係にある、特定の光のみを透過するフィルタ又はそのフィルタが付いたカメラ(IRビュア等)を通して観察した場合には、第二の画像(5)のみが視認される。
このように、潜像印刷物(1)は、拡散反射光下の観察において、第一の画像要素(10−1)と第二の画像要素(10−2)が等色に、また第三の画像要素(10−3)と第四の画像要素(10−4)が等色に視認されることから、第一の画像(4)が視認される。
また、拡散反射光下とは異なる、特定の条件下での観察においては、第一の画像要素(10−1)と第四の画像要素(10−4)が等色に、また第二の画像要素(10−2)と第三の画像要素(10−3)が等色に視認されることから、第二の画像(5)が視認される。
このように、本発明の潜像印刷物(1)は、拡散反射光下の観察において第一の画像(4)が視認され、特定の条件下での観察において第二の画像(5)が視認される、いわゆる画像のチェンジ効果を有する。
以上のように、本発明は、使用するペアインキの特性に応じて様々な多様性を有する。その他のペアインキとすることが可能な機能性材料としては、サーモクロミックインキ、フォトクロミックインキ、パールインキ、液晶インキ、赤外線吸収インキ及び発光インキ等が考えられる。例えば、サーモクロミックインキを用いた場合には、特定の温度で見えていた画像が、異なる温度では全く違う画像にチェンジする効果を得ることができ、フォトクロミックインキを用いた場合には、通常の照明下で見えていた画像が強い光を照射すると全く異なる画像にチェンジする効果を得ることができる。また、パールインキを用いた場合には、拡散反射光下で見えていた画像が、正反射光下では全く異なる画像にチェンジする効果を得ることができる。このようにペアインキとする機能性材料の特性によって様々な効果の潜像印刷物(1)を形成することができる。
次に、他の技術の構成では存在しなかった、本発明の潜像印刷物(1)の最も大きな二つの特徴的な構成とその効果について説明する。この二つの構成によって、従来技術と比較して、高い視認性を有した画像のチェンジ効果を実現している。その構造の一つとは、印刷画像(3)を形成する二種類のインキにおいて、等色関係にあるインキではなく、濃度の異なるインキを用いることであり、もう一つは、二つのインキが重ね合わされて形成される重畳領域(第四の印刷画像)を有することである。この構造を用いることによる効果について以下に説明する。
本発明における潜像印刷物のように、二種類のインキを用いて可視光下で観察される画像を特定の条件下で観察すると異なる画像に変化する、いわゆるチェンジ効果を有する印刷物を形成する場合、特許文献1や特許文献2のような特殊な画素構成を用い、加えて可視光下では等色に視認され、特定の条件下では、非等色に変化して視認される関係にあるペアインキを用いて印刷画像を形成するのが一般的である。ペアインキを等色にする理由とは、拡散反射光下で第二の画像を隠ぺいして視認不可能とするためである。
このようなペアインキを用いた場合には、互いのインキを用いて等しい網点面積率で印刷した場合にのみ等色と視認されるために、例えば、本発明における第一の画像要素(10−1)を形成する第一の面積率と、第二の印刷画像(10−2)を形成する第二の面積率は、同じ面積率で設計する必要がある。
ただし、第一の画像要素(10−1)は、特定の条件下での観察において、その他の三つの画像要素とコントラストを生じて、第二の画像(5)を出現させる役割も担っており、この場合の第二の画像(5)の視認性の高低は、第一の画像要素(10−1)の面積率の大小に影響を受けることから、本来、第一の画像要素(10−1)の面積率は、可能な限り高く設定することが望ましい。
しかしながら、第一の画像要素(10−1)の面積率が高くなれば、第二の画像要素(10−2)の面積率も同様に高くする必要が生じ、その結果、第一の背景部(7)全体の面積率が高くなる。この場合、第一の背景部(7)と、その対を成す第一の情報部(6)との間の面積率の差異が小さくなってしまうことから、第一の背景部(7)と、第一の情報部(6)の濃淡差が小さくなり、第一の画像(4)中の第一の情報部(6)を構成している文字や記号等の視認性が低下してしまう。
また、特殊な機能性を有する機能性インキは、印刷で形成することができる濃度が極端に低かったり、色彩に制限があったりする場合が多い。このような機能性インキを用いる場合、当然のことながら、対となる他方のインキも同様の濃度や色彩に制限されてしまう。
例えば、本発明において対と成るインキは、第二のインキである場合が多いが、第二のインキが淡い濃度である場合、前述した問題と同様に、第一の背景部(7)と、第一の情報部(6)の面積率の差異を大きくしたとしても、濃いインキを用いた場合に比べて濃淡差は相対的に大きくならず、第一の画像(4)中の情報部(6)を構成している文字や記号等の視認性を上げることは困難である。
このような問題を回避するために、本発明では、ペアインキとして等色関係にあるインキでなく、濃度の異なるインキを用いる。例えば、従来技術と同様に淡い濃度でしか印刷できない機能性インキを第一のインキとして用いたとしても、対となる第二のインキは、第一のインキと等色にするのではなく、あえて第一のインキよりも濃い設計とする。これによって従来の技術で問題となった、第一のインキで形成される第一の画像要素(10−1)と同じ面積率で第二の画像要素(10−2)を形成する必要がなくなった。
よって、第一の画像要素(10−1)は、高い面積率で形成して、特定の条件下において出現する第二の画像(5)の視認性を高く保ちつつ、第一の背景部(7)を低い濃度で形成することが可能となった。
また、第二のインキは、高い濃度を有することから、第三の画像要素(10−3)及び第四の画像要素(10−4)で形成する第一の情報部(6)を濃く形成することができる。以上のことから、第一の画像要素(10−1)は、高い面積率で形成しつつ、視認性の高い第一の画像(4)を形成することができる。これが、本発明の画像のチェンジ効果が高い理由の一つである。
また、本発明のもう一つの特徴である、二つのインキが重ね合わされた重畳領域を形成することで生じる効果について説明する。
二つのインキが重なり合った重畳領域を形成した場合、その重畳領域(本発明における第四の画像要素(10−4))の色は濃くなり、重畳していない領域(本発明における第三の画像要素(10−3))と等色とすることが困難になる。
よって、従来、本発明のように、ペアインキを用いて第二の画像を有する特殊な印刷物を形成する場合には、第二の画像の隠ぺい性を重視し、異なるインキで形成された網点同士を重ね合わせることは、ほとんどなかった。このために、限られた印刷画像の面積の中に、第一の画像と、第二の画像とを表現するための画線や画素等を重なり合わないように配置すると、第一の画像を高い面積率で表現した場合には、もう一方の第二の画像は低い面積率でしか表現できず、二つの画像の視認性を両立させることは困難であった。
本発明においては、第一の情報部(6)と第二の情報部(8)が重なり合う領域については重畳領域(本発明における第四の画像要素(10−4))とし、第一のインキと第二のインキで形成されるそれぞれの網点面積率を単純に合計した場合に、100%を超える領域を設けることで、二つの画像の視認性を両立させる構造としている。
また、二つの異なるインキで形成された網点を重畳させることによって生じる濃度の上昇は、あらかじめ濃度上昇を見越して重畳領域(本発明における第四の画像要素(10−4))と、重畳領域と等色にならなければならない領域(本発明における第三の画像要素(10−3))との間に濃度差を設け、これを解消している。
また、重畳領域を形成することによって、第二の情報部(8)の面積率を100%で構成することが可能となり、機能性材料を含んだインキの性能を最大限に引き出すことが可能となった。
以上が、本発明の潜像印刷物(1)の最も大きな二つの特徴的な構成とその効果である。この二つの構成によって、従来技術と比較して、第一の画像(4)と第二の画像(5)の視認性を高く保つことを可能とし、かつ、二つの画像の優れたチェンジ効果を生じさせている。
また、第一のインキ及び第二のインキの関係は、色相は同じである必要があるが、濃度に関しては一方が淡く、もう一方は濃い関係である必要がある。ただし、第一のインキと第二のインキ間の濃度差は1.5倍よりも大きく、5倍以内程度に留めることが望ましい。
これは、インキ間の濃度差が小さすぎる場合、第一の画像(4)の視認性が従来の技術同様に低くなってしまうためであり、濃度差が大きすぎる場合、特定の条件下で観察した場合に、第二のインキで形成された第一の画像(4)が消失しきらずに、第二の画像(5)と混ざり合って視認されるためである。
また、第一のインキと第二のインキの少なくともいずれか一方は、特定の条件下で色彩が変化する機能性を有する、いわゆる機能性インキである必要があるが、第一のインキが機能性インキであっても良く、第二のインキが機能性インキであっても良く、第一のインキと第二のインキの両方が機能性インキであっても良い。ただし、第一のインキと第二のインキの両方が機能性インキである場合、それぞれの機能が異なっている必要がある。同じ機能では、第二の画像が視認できず、いずれの条件においても第一の画像のみしか観察できないためである。また、第一のインキと第二のインキの機能性は、それぞれ相反する特性であることが望ましい。例えば、赤外線を照射して観察することで第二の画像が出現する形態とする場合、第一のインキは赤外線吸収インキとし、第二のインキは赤外線透過インキとすれば、第一のインキと第二のインキによって強いコントラストを生じさせることができ、第二の画像の視認性を一層高められるためである。
第一のインキで形成する第二の情報部(8)は、塗りつぶしを用いて形成する必要がある。また、塗りつぶしの形態のうちで、最も望ましいのは、100%の塗りつぶしである、いわゆるベタとする形態である。これは、機能性インキの性能を最大限に引き出すのが本発明の目的と効果の一つであることから、ベタ印刷による印刷トラブルが発生することが想定される場合以外は、100%で形成する方が良いからである。ただし、印刷トラブルを回避する目的において、100%から80%の間で第二の情報部(8)を形成することは、本発明の技術範囲の範疇である。
本発明における潜像印刷物の印刷方式は、オフセット印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷及び凹版印刷等のあらゆる印刷方式で形成することが可能である。また、機能性インキを使用することができるのであればIJP等でも形成でき、この場合には一枚、一枚の出力物の情報を変える、いわゆる可変印刷を実施することができる。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例1について、実施の形態で用いた図1から図7を用いて説明をする。本実施例1では、拡散反射光下で観察される画像と、正反射光下で観察される画像とか異なる画像である潜像印刷物を形成する例について説明する。基材(2)としては、白色の上質紙(日本製紙株式会社製)を用いた。
図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)の一部に灰色の印刷画像(3)が形成されており、印刷画像(3)は、図2(a)に示す第一の画像(4)と、図2(b)に示す第二の画像(5)から構成されている。さらに、第一の画像(4)は、第一の情報部(6)及び第一の背景部(7)から成り、第二の画像(5)は、第二の情報部(8)及び第二の背景部(9)から成る。
図3に、印刷画像(3)を形成している各画像要素を示す。図3(a)に示すのは、第一の画像要素(10−1)であり、図3(b)に示すのは、第二の画像要素(10−2)であり、図3(c)に示すのは、第三の画像要素(10−3)であり、図3(d)に示すのは、第四の画像要素(10−4)である。
図4に、第一の画像(4)を形成するための各画像要素の組合せを示す。図4(a)に示すように、第三の画像要素(10−3)と第四の画像要素(10−4)を組み合わせることで、第一の画像(4)における第一の情報部(6)が形成され、図4(b)に示すように、第一の画像要素(10−1)と第二の画像要素(10−2)を組み合わせることで、第一の画像(4)における第一の背景部(7)が形成される。
一方、図5に、第二の画像(5)を形成とするための各画像要素の組合せを示す。図5(a)に示すように、第一の画像要素(10−1)と第四の画像要素(10−4)を組み合わせることで、第二の画像(5)における第二の情報部(8)が形成され、図5(b)に示すように、第二の画像要素(10−2)と第三の画像要素(10−3)を組み合わせることで、第二の画像(5)における第二の背景部(9)が形成される。
各画像要素について説明する。第一の画像要素(10−1)は、第一のインキを用いて第一の面積率で形成され、第二の画像要素(10−2)は、第二のインキを用いて第二の面積率で形成され、第三の画像要素(10−3)は、第二のインキを用いて第三の面積率で形成され、第四の画像要素(10−4)は、第一のインキを用いて第一の面積率で形成したのち、第二のインキを用いて第四の面積率で重ね合わせて形成される。
まず、第一のインキと第二のインキを決定した。表1に示す配合で作製したオフセットインキを第一のインキとした。また、銀色のオフセット用メタリックインキ(T&K TOKA製 UV NO3 シルバー)を、第二のインキとした。第一のインキによって図6(a)に示す画像が形成され、第二のインキによって図6(b)に示す画像が形成される。
本実施例1においては、第二のインキが機能性インキであり、光が入射することによって明度が上昇して淡く変化する特徴を有している。逆に、第一のインキは、光が入射した場合でも、色彩はほとんど変化しない通常インキである。
拡散反射光下の観察において、第一のインキは淡い灰色であって、第二のインキは濃い灰色であり、両インキは同じ灰色の色相である。また、基材(2)に印刷した場合に、第二のインキは第一のインキに対して、1.5倍から2倍程度の濃度を得ることができる濃さである。
各画像要素の面積率は、以下の順序で決定した。
まず、第一のインキのみで形成する第一の画像要素(10−1)の面積率(第一の面積率)を決定した。第一のインキの印刷適性は、問題がないものであったため、第一の面積率を100%とした。
続いて、第二の画像要素(10−2)の面積率(第二の面積率)を決定した。事前の印刷試験によって、第一のインキが100%の面積率の場合には、第二のインキを40%の面積率とすれば、第一のインキと第二のインキが等色として視認されることを確認することができたため、第二の面積率を40%とした。
続いて、第四の画像要素(10−4)の、第二のインキの面積率(第四の面積率)を決定した。事前の印刷試験によって、第二のインキは、30%を超えた面積率で100%の面積率の第一のインキと重畳した場合には、正反射時に第一の情報部(6)が消失しきらず、第二の画像と混ざり合って視認されてしまうことを確認することができたため、第四の面積率を30%としている。
最後に、第三の画像要素(10−3)の面積率(第三の面積率)を決定した。事前の印刷試験によって、第一のインキを用いて100%の面積率で形成したのち、第二のインキを用いて30%の面積率で重ね合わせて形成した第四の画線要素(10−4)と等色として視認させる場合、第二のインキを65%の面積率で形成すれば、等色として視認することができることを確認することができた。そのため、第三の面積率を65%と決定した。これらの面積率は、使用するインキに応じて適正な値が異なることから、各インキの面積率と色彩の関係を確認する事前の印刷試験は必須である。
以上の手順によって、第一の画像要素(10−1)は、第一のインキを用いて100%の面積率で形成し、第二の画像要素(10−2)は、第二のインキを用いて40%の面積率で形成し、第三の画像要素(10−3)は、第二のインキを用いて65%の面積率で形成し、第四の画像要素(10−4)は、第一のインキを用いて100%の面積率で形成したのち、第二のインキを用いて30%の面積率で重ね合わせて形成した。まず、図6(a)に示す画像を、第一のインキで印刷した後に、図6(b)に示す画像を形成する第二のインキで印刷した。
本発明の実施例1における効果について、図7を用いて説明する。図7(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を、拡散反射光下で観察した場合には、第一の画像要素(10−1)と第二の画像要素(10−2)が等色に視認され、かつ、第三の画像要素(10−3)と第四の画像要素(10−4)も等色に視認され、加えて第三の画像要素(10−3)と第四の画像要素(10−4)は、第一の画像要素(10−1)と第二の画像要素(10−2)よりも濃く視認されることから、観察者(13a)には、図7(a)に示す第一の画像(4)が視認された。
また、図7(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を、正反射光が支配的な観察角度で観察した場合には、第二のインキで形成された、第二の画像要素(10−2)、第三の画像要素(10−3)及び第四の画像要素(10−4)は、光を強く反射することで淡く変化し、各画像要素間の面積率の違いをとらえづらくなる。特に、第二の画像要素(10−2)及び第三の画像要素(10−3)は、目視上フラットで単一な階調として認識される。また、第一のインキのみで形成された第一の画像要素(10−1)は、色彩が変化せず、第一のインキと第二のインキの二つのインキで形成された第四の画像要素(10−4)は、淡く変化して第一の画像要素(10−1)と等色となり、第一の画像要素(10−1)及び第四の画像要素(10−4)は、第二の画像要素(10−2)及び第三の画像要素(10−3)と比較して暗く視認されることから、観察者(13b)には、図7(b)に示すように第二の画像(5)のみが視認される。
以上のように、本発明における潜像印刷物(1)を拡散反射光下で観察した場合には、ペアインキ間の反射率の差よりも面積率の差によって生じた濃淡が強調されて、第一の画像(4)が灰色で視認され、正反射光下で観察した場合には、第二のインキが光を強く反射することによって面積率の差によって生じていた濃淡が目視上消失して一定の階調に収束するとともに、インキ間の反射率の差が強調されることで第二の画像(5)が視認される。このように、拡散反射光下と正反射光下の観察において、全く相関のない異なる画像に変化する効果を確認することができた。
本発明の実施例2について、図10から19を用いて説明をする。本実施例2は、拡散反射光下で観察される画像と、透過光で観察される画像とが異なる画像である潜像印刷物を形成する例について説明する。また、本実施例2においては、第一の画像要素(10´−1)以外は、実施の形態や実施例1で説明したような塗りつぶしの構成ではなく、画線によって形成した。基材(2´)としては、実施例1と同様に、白色の上質紙(日本製紙株式会社製)を用いた。
図10に、本発明における潜像印刷物(1´)を示す。潜像印刷物(1´)は、基材(2´)の一部に、灰色の印刷画像(3´)が形成されており、印刷画像(3´)は、図11(a)に示す第一の画像(4´)と、図11(b)に示す第二の画像(5´)から構成されている。さらに、第一の画像(4´)は、第一の情報部(6´)及び第一の背景部(7´)から成り、第二の画像(5´)は、第二の情報部(8´)及び第二の背景部(9´)から成る。
図12に、印刷画像(3´)を形成している各画像要素を示す。図12(a)に示すのは、第一の画像要素(10´−1)であり、図12(b)に示すのは、第二の画像要素(10´−2)であり、図12(c)に示すのは、第三の画像要素(10´−3)であり、図12(d)に示すのは、第四の画像要素(10´−4)である。基本的な画像要素の構成は、発明を実施するための形態及び実施例1で説明したものと同様であり、それぞれの画像要素の組合せ方を変えることで、第一の画像(4´)及び第二の画像(5´)が形成される。
各画像要素について説明する。第一の画像要素(10´−1)は、第一のインキを用いて第一の面積率で形成され、第二の画像要素(10´−2)は、第二のインキを用いて第二の面積率で形成され、第三の画像要素(10´−3)は、第二のインキを用いて第三の面積率で形成され、第四の画像要素(10´−4)は、第一のインキを用いて第一の面積率で形成したのち、第二のインキを用いて第四の面積率で重ね合わせて形成される。
まず、第一のインキと第二のインキを決定した。透過型インキ(帝国インキ製 ユニマーク)を、図18(a)に示す画像を形成する第一のインキとした。また、表2に示す配合のオフセットインキを、図18(b)に示す画像を形成する第二のインキとした。第一のインキによって図18(a)に示す画像が形成され、第二のインキによって図18(b)に示す画像が形成される。
本実施例2においては、第一のインキが機能性インキであり、透過光下で観察することによって、光を強く透過して白く見える特徴を有している。逆に、第二のインキは、特殊な機能性材料を含まず、光を透過しても色彩はほとんど変化しないが、反射濃度は極めて淡いために、透過光下では、基材と等色に見え、画像が消失したかのように視認される特徴を有している。
拡散反射光下の観察において、第一のインキは淡い灰色であって、第二のインキは濃い灰色であり、両インキは、同じ灰色の色相である。また、基材(2´)に印刷した場合に、第二のインキは、第一のインキに対して、1.5倍から2倍程度の濃度を得ることができる濃さである。
各画像要素の面積率は、以下の順序で決定した。
まず、第一のインキのみで形成する第一の画像要素(10´−1)の面積率(第一の面積率)を決定した。第一のインキの印刷適性は、問題のないものであったため、第一の面積率を100%とした。
続いて、第二の画像要素(10´−2)の面積率(第二の面積率)を決定した。事前の印刷試験によって、第一のインキが100%の面積率の場合には、第二のインキを40%の面積率とすれば、第一のインキと第二のインキが等色として視認されることを確認することができたため、第二の面積率を40%とした。
続いて、第四の画像要素(10´−4)の、第二のインキの面積率(第四の面積率)を決定した。事前の印刷試験によって、第二のインキは、50%を超えた面積率で、100%の面積率の第一のインキと重畳した場合には、透過光下における観察時に第一の情報部(6)が消失しきらず、第二の画像と混ざり合って視認されてしまうことを確認することができたため、第四の面積率を50%としている。
最後に、第三の画像要素(10´−3)の面積率(第三の面積率)を決定した。事前の印刷試験によって、第一のインキを用いて100%の面積率で形成した後、第二のインキを用いて50%の面積率で重ね合わせて形成した第四の画像要素(10´−4)と等色として視認させる場合、第二のインキを80%の面積率とすれば、等色として視認することができることを確認することができた。そのため、第三の面積率を80%と決定した。これらの面積率は、使用するインキに応じて適正な値が異なることから、各インキの面積率と色彩の関係を確認する事前の印刷試験は必須である。
本実施例2では、第一の画像要素(10´−1)以外は、実施の形態や実施例1で説明したような塗りつぶしの構成ではないことから、各画像要素の構成を具体的に記載する。
図13に、第一の画像要素(10´−1)を示す。第一のインキを用い、第一の面積率で形成された塗りつぶし領域(14´)が形成されて成る。この第一の画像要素(10´−1)のみは、面積率100%で塗りつぶしたベタ印刷の構成であり、発明を実施するための形態及び実施例1と同様の構成である。
図14に、第二の画像要素(10´−2)を示す。第二のインキによって形成された画線幅0.12mmの画線(15´)を、ピッチ0.3mmでS1方向に複数配置することで、第二の面積率、すなわち面積率40%の第二の画像要素(10´−2)を構成した。
図15に、第三の画像要素(10´−3)を示す。第三の画線要素は、第二のインキによって前述した第二の画線要素を形成する画線幅0.12mmの画線(15´)と隣接する画線幅0.12mmの画線(16´)を、ピッチ0.3mmでS1方向に複数配置し、さらに画線(16´)と重畳しないように、画線(16´)の非画線部に、画線幅0.12mmの画線(16´´)を形成している。そのため、ピッチ0.3mm内に画線幅0.12mmの画線(16´)及び画線幅0.12mmの画線(16´´)を形成していることから、二つの画線面積率を合計した、面積率80%の第三の画像要素(10´−3)を構成した。
詳細には、第三の画像要素(10´−3)における画線幅0.12mmの各画線(16´)は、前述した第二の画像要素(10´−2)における画線幅0.12mmの各画線(15´)と連結(正確には、隣接)するように構成されるため、この部分の面積率は40%となる。そして、第三の画像要素(10´−3)の面積率を80%にするため、更に画線幅0.12mmの画線(16´´)を、画線(16´)と重ならないようにピッチ0.3mmで複数配置している。
別の例として、第三の画像要素(10´−3)の面積率が70%であれば、まず、画線幅0.12mmの画線(16´)を、ピッチ0.3mmで複数配置することで40%の面積率となる。そして、第三の画像要素(10´−3)を70%の面積率にするため、残り30%の面積率を形成する画線として、画線(16´´)を複数配置することで構成する。その際の画線(16´´)の画線幅は、面積率(この場合30%)に応じて適宜決定する。
図16に、第四の画像要素(10´−4)を示す。第一のインキによって形成された面積率100%の塗りつぶし領域(14´)の上に、第二のインキによって形成された画線幅0.15mmの画線(17´)を、ピッチ0.3mmでS1方向に複数配置することで、第四の面積率、すなわち面積率50%の第四の画像要素(10´−4)を構成した。
図17に、印刷画像(3´)の構成の一部拡大図を示す。印刷画像(3´)は、前述したとおり、図13に示した第一の画像要素(10´−1)、図14に示した第二の画像要素(10´−2)、図15に示した第三の画像要素(10´−3)及び図16に示した第四の画像要素(10´−4)から構成されており、それぞれの画像要素は、図17の一部拡大図に示すように、互いに重なり合わないように形成されて成る。
なお、図14に示した第二の画像要素(10´−2)、図15に示した第三の画像要素(10´−3)及び図16に示した第四の画像要素(10´−4)は、すべての画像要素における画線を、S1方向に複数配置する構成となっているが、S1方向に限定する必要はなく、それぞれの面積率で構成されれば、画線が配置される方向については、特に限定されない。つまり、すべての画像要素における画線を、S1方向と直交する方向に画線を複数配置しても良く、また、第二の画像要素(10´−2)を構成する画線をS1方向に、第三の画像要素(10´−3)及び第四の画像要素(10´−4)を構成する画線をS1方向と直交する方向に形成する等のように、画像要素別に方向を組合せても良い。
図18に、実施例2における潜像印刷物の版面構成を示す。図18(a)は、第一のインキで形成される画像を示し、(b)は第二のインキで形成される画像を示す。印刷を行う際、まず、図18(a)に示す画像を第一のインキで印刷した後に、図18(b)に示す画像を第二のインキで印刷した。
本実施例2において、それぞれの面積率は、一定面積中に含まれる画線の面積によって構成した。このように、画線と非画線の占める割合を制御することによって、画線を用いて特定の面積率を構成するか、又は画素を用いることで、画素と非画素の閉める割合を制御することで、特定の面積率を構成することも可能である。
このように、画線や画素によって第一の画像要素(10´−1)以外の画像要素を構成した理由は、複写機を用いて本潜像印刷物をコピーした場合に、第一の画像と第二の画像が混ざり合った画像を出現させて、印刷物が真正品ではなく複写物であることを知らしめて不正な複写を牽制する、いわゆる複写牽制機能を付加するためである。
以上のように、本発明における潜像印刷物(1´)の特徴の一つである、第一の画像要素(10´−1)と、その他の領域を大きく異なる面積率で表現することができる特殊な画像構成を利用することで、このような高い複写牽制効果を付与することも可能である。
本実施例2における効果について、図19を用いて説明する。図19(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を、拡散反射光下で観察した場合には、第一の画像要素(10´−1)と第二の画像要素(10´−2)が等色に視認され、かつ、第三の画像要素(10´−3)と第四の画像要素(10´−4)も等色に視認され、加えて第三の画像要素(10´−3)と第四の画像要素(10´−4)は、第一の画像要素(10´−1)と第二の画像要素(10´−2)よりも濃く視認されることから、観察者(13c´)には、図19(a)に示す第一の画像(4´)が視認される。
また、図19(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1´)を、透過光下で観察した場合には、第二のインキで形成された、第二の画像要素(10´−2)及び第三の画像要素(10´−3)は、基材と等色に見え、各画像要素間の面積率の違いをとらえづらくなり、目視上フラットで単一な階調として認識される。また、第一のインキで形成された第一の画像要素(10´−1)は、光を強く透過し、第一のインキ及び第二のインキで形成された第四の画像要素(10−4)が第一の画像要素(10−1)と等色に観察されることから、観察者(13d´)には、図19(b)に示すように第二の画像が濃淡反転した画像(18´)が視認される。
以上のように、本発明における潜像印刷物(1´)を拡散反射光下で観察した場合には、ペアインキ間の透過率の差よりも面積率の差によって生じた濃淡が強調されて、「日本」の文字から成る第一の画像(4´)が灰色で視認され、透過光で観察した場合には、第二のインキ及び基材が光を特に強く透過しないため面積率の差によって生じていた濃淡が消失して一定の階調に収束するとともに、第一のインキよって桜の花びらが形成された第二の画像(5´)のみが明るく視認される。このように、拡散反射光下と透過光の観察において、全く相関のない異なる画像に変化する効果を確認することができた。