上記発明が解決しようとする課題の欄や発明の効果の欄に記載の内容に加え、以下の実施の形態では、製品化の上で望ましい課題が解決でき、また製品化の上で望ましい効果を奏する。上述発明が解決しようとする課題の欄や発明の効果の欄に記載の内容と重複する内容、密接に関係する内容もあるが、その幾つかを次に記載すると共に実施の形態の説明でも、具体的な課題の解決や具体的な効果について説明する。
〔スイッチング素子のスイッチング頻度の低減〕
以下の実施の形態で説明する電力変換装置では、直流電力から変換される交流電力の波形の角度すなわち位相に基づいて、インバータ回路が有するスイッチング素子のスイッチング動作を制御するための制御回路からの制御信号によって動作する駆動回路から駆動信号をスイッチング素子に供給し、上記スイッチング素子が、変換される交流電力の位相に対応付けられて導通あるいは遮断動作を行う。このように制御回路からの制御信号によって上記インバータ回路が有するスイッチング素子の導通動作を位相角に対応付けて制御する構成および作用を有することにより、上記スイッチング素子のスイッチング動作の単位時間当たりの回数あるいは交流電力の1サイクル当たりのスイッチング回数を、一般のPWM方式に比べ低減できる。また上記構成においては、インバータ回路のスイッチング素子のスイッチング頻度を低減しているにもかかわらず、出力される交流波形の歪の増大を抑制でき、スイッチング動作に伴う損失を低減できる効果がある。このことはインバータ回路を構成するパワースイッチング回路のスイッチング素子の発熱の低減につながる。
以下に説明する実施の形態では、特に図10、図40や図41で説明する実施の形態では、削除しようとする高調波の次数を選択している。このように本発明の適用対象に合せて削除する次数を選択することができるので、必要以上に削除する次数の種類が増えるのを防止でき、このことによりパワースイッチング回路のスイッチング素子の単位位相当たりのスイッチング回数の低減が可能となる。交流電力が供給される同期電動機や誘導電動機を含む回転電機では、次数の低い高調波の悪影響が大きく、出力する交流電力の第5次高調波や第7次高調波と言った比較的低次の高調波を低減することは大きな効果をもたらす。本発明の実施形態では、少なくとも第5次高調波を低減するのに適した位相位置で、インバータの導通に基づく直流電力源からの電流が上記回転電気に供給されることにより、第5次高調波を低減することができる。ここで直流電源としては、直流電力を蓄えている電池に限るものではなく、平滑用コンデンサでよく、例えば図2に示すコンデンサモジュール500である。
なお、スイッチング素子としては、動作速度が速く、また制御信号に基づき導通および遮断動作の両方を制御できる素子が望ましく、このような素子として例えばinsulated gatebipolar transistor(以下IGBTと記す)や電界効果トランジスタ(MOSトランジスタ)があり、これらの素子は応答性や制御性の点から望ましい。
上記電力変換装置から出力される交流電力は回転電機などで構成されるインダクタンス回路に供給され、インダクタンスの作用に基づいて交流電流が流れる。以下の実施の形態ではインダクタンス回路としてモータやゼネレータの作用を為す回転電機を例に挙げ説明している。回転電機を駆動する交流電力を発生するために本発明を使用することは、効果の点から、最適であるが、回転電機以外のインダクタンス回路に交流電力を供給する電力変換装置としても使用できる。
以下の実施の形態では、回転電機の回転速度が速い第1の動作範囲では、出力しようとする交流波形の位相に基づいて、スイッチング素子のスイッチング動作を発生し、一方上記第1の動作範囲より回転電機の回転速度が遅い第2の動作領域では、一定周波数の搬送波に基づいてスイッチング素子の動作を制御するPWM方式で上記スイッチング素子を制御する。上記第2の動作領域には上記回転電機の回転子が停止状態を含めることができる。なお、以下の実施の形態では回転電機としてモータおよび発電機として使用されるモータジェネレータを例に説明する。
〔出力される交流電力の歪低減〕
出力しようとする電力の交流波形の角度すなわち位相位置に基づいて、インバータが有するスイッチング素子を導通あるいは遮断する方式では、出力される交流電力の周波数が低い領域では、交流波形の歪が大きくなる傾向が有る。上述の説明において、交流出力の周波数が低い第2の領域はPWM方式を使用して時間経過に基づいてスイッチング素子を制御し、第2の領域より出力する交流電力の周波数の高い第1の領域では、角度すなわち位相位置に基づいてスイッチング素子を制御する(以下HM制御と記す)。このように異なる方式を利用してインバータ回路のスイッチング素子を制御することにより、出力される交流電力の歪を低減できる効果が生じる。
〔基本的制御〕
以下に説明の実施の形態では、基本的制御として、交流電力を供給する回転電機の低速運転状態ではPWM制御で上記交流電力を発生し、回転電機の回転速度が上昇した状態で以下に説明するHM制御による交流電力の発生制御に移行する。これにより歪の影響をできるだけ押さえ、効率向上を実現できる。
さらに上記の基本制御において、回転電機の停止状態では、図3や図39に記載の如くチョッパー制御を行い、チョッパー制御からPWM制御に移行する。
また上記基本制御とは別の観点で、以下の実施の形態で説明の如く、回転電機の高速運転状態では、HM制御の内の矩形波制御に移行する。以下に説明のHM制御では、出力する交流波形の位相に対応してスイッチングタイミングが制御され、変調度を高くするにつれて交流電力の半周期(電気角のゼロからπ、あるいはπから2π)におけるスイッチング回数が徐々に減少し、最後は、半周期に1回導通するだけとなる矩形波制御に移行する。このように以下の実施の形態では、矩形波制御にスムーズに移行できるメリットがあり、このため制御性に優れている。
本発明の実施形態に係る電力変換装置について、図面を参照しながら以下詳細に説明する。本発明の実施形態に係る電力変換装置は、ハイブリッド用の自動車(以下HEVと記す)や純粋な電気自動車(以下EVと記す)の回転電機を駆動する為の交流電力を発生する電力変換装置に適用した例である。HEV用の電力変換装置もEV用の電力変換装置も基本的な構成や制御において共通するところが多く、代表例として、本発明の実施形態に係る電力変換装置をハイブリッド自動車に適用した場合の制御構成と電力変換装置の回路構成について、図1と図2を用いて説明する。図1はハイブリッド自動車の制御ブロックを示す図である。
本発明の実施形態に係る電力変換装置では、自動車に搭載される車載電機システムの車載用の電力変換装置について説明する。特に、車両駆動用電機システムに用いられ、搭載環境や動作的環境などが大変厳しい車両駆動用電力変換装置を例に挙げて説明する。車両駆動用電力変換装置は、車両駆動用の回転電機を駆動する制御装置として車両駆動用電機システムに備えられる。この車両駆動用の電力変換装置は、車載電源を構成する車載バッテリ或いは車載発電装置から供給された直流電力を所定の交流電力に変換し、得られた交流電力を上記回転電機に供給して上記回転電機を駆動する。また、上記回転電機は電動機の機能に加え発電機としての機能も有しているので、上記電力変換装置は運転モードに応じ、直流電力を交流電力に変換するだけでなく、上記回転電機が発生する交流電力を直流電力に変換する動作も行う。変換された直流電力は車載バッテリに供給される。
なお、本実施形態の構成は、自動車やトラックなどの車両駆動用の電力変換装置として最適である。しかし、これら以外の電力変換装置、例えば電車や船舶、航空機などの電力変換装置、さらに工場の設備を駆動する回転電機に供給する交流電力を発生する為の産業用の電力変換装置、或いは家庭の太陽光発電システムや家庭の電化製品を駆動する回転電機の制御装置に用いられたりする電力変換装置に対しても適用可能である。
以下図面を用いて説明する。図1において、HEV110は1つの電動車両であり、2つの車両駆動用システムを備えている。その1つは、内燃機関であるエンジン120を動力源としたエンジンシステムである。エンジンシステムは、主としてHEVの駆動源として用いられる。もう1つは、モータジェネレータ192,194を動力源とした車載電機システムである。車載電機システムは、主としてHEVの駆動源及びHEVの電力発生源として用いられる。モータジェネレータ192,194は例えば同期機あるいは誘導機などの回転電機の一例であり、運転方法によりモータとしても発電機としても動作するので、ここではモータジェネレータと記すこととする。
車体のフロント部には前輪車軸114が回転可能に軸支されている。前輪車軸114の両端には1対の前輪112が設けられている。車体のリア部には後輪車軸(図示省略)が回転可能に軸支されている。後輪車軸の両端には1対の後輪が設けられている。本実施形態のHEVでは、動力によって駆動される主輪を前輪112とし、連れ回される従輪を後輪とする、いわゆる前輪駆動方式を採用しているが、この逆、すなわち後輪駆動方式を採用しても構わない。
前輪車軸114の中央部には前輪側ディファレンシャルギア(以下、「前輪側DEF」と記述する)116が設けられている。前輪車軸114は前輪側DEF116の出力側に機械的に接続されている。前輪側DEF116の入力側には変速機118の出力軸が機械的に接続されている。前輪側DEF116は、変速機118によって変速されて伝達された回転駆動力を左右の前輪車軸114に分配する差動式動力分配機構である。変速機118の入力側にはモータジェネレータ192の出力側が機械的に接続されている。モータジェネレータ192の入力側には動力分配機構122を介してエンジン120の出力側及びモータジェネレータ194の出力側が機械的に接続されている。尚、モータジェネレータ192,194及び動力分配機構122は、変速機118の筐体の内部に収納されている。
モータジェネレータ192,194は、回転子に永久磁石を備えた同期機である。固定子の電機子巻線に供給される交流電力が電力変換装置140,142によって制御されることにより、モータジェネレータ192,194の駆動が制御される。電力変換装置140,142にはバッテリ136が電気的に接続されている。バッテリ136と電力変換装置140,142との相互において電力の授受が可能である。
本実施形態の車載電機システムは、モータジェネレータ192及び電力変換装置140からなる第1電動発電ユニットと、モータジェネレータ194及び電力変換装置142からなる第2電動発電ユニットとの2つを備えており、運転状態に応じてそれらを使い分けている。すなわち、エンジン120からの動力によって車両を駆動している場合において、車両の駆動トルクをアシストする場合には、第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。また、同様の場合において、車両の車速をアシストする場合には、第1電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力によって作動させて発電させ、その発電によって得られた電力によって第2電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させる。
また、本実施形態では、バッテリ136の電力によって第1電動発電ユニットを電動ユニットとして作動させることにより、モータジェネレータ192の動力のみによって車両の駆動ができる。さらに、本実施形態では、第1電動発電ユニット又は第2電動発電ユニットを発電ユニットとしてエンジン120の動力或いは車輪からの動力によって作動させて発電させることにより、バッテリ136を充電できる。
バッテリ136はさらに補機用のモータ195を駆動するための電源としても使用される。補機用のモータとしては、例えばエアコンディショナーのコンプレッサを駆動するモータ、あるいは制御用の油圧ポンプを駆動するモータである。バッテリ136から電力変換装置43に直流電力が供給され、電力変換装置43で交流の電力に変換されてモータ195に供給される。電力変換装置43は、電力変換装置140や142と同様の機能を持ち、モータ195に供給する交流の位相や周波数、電力を制御する。例えばモータ195の回転子の回転に対し進み位相の交流電力を供給することにより、モータ195はトルクを発生する。一方、遅れ位相の交流電力を発生することで、モータ195は発電機として作用し、回生制動状態の運転となる。このような電力変換装置43の制御機能は、電力変換装置140や142の制御機能と同様である。モータ195の容量はモータジェネレータ192や194の容量より小さいので、電力変換装置43の最大変換電力は電力変換装置140や142より小さい。しかし、電力変換装置43の回路構成および動作は基本的に電力変換装置140や142の回路構成や動作と類似している。
電力変換装置140や142および電力変換装置43さらにコンデンサモジュール500は電気的に密接な関係にある。さらに発熱に対する対策が必要な点が共通している。また装置の体積をできるだけ小さく作ることが望まれている。これらの点から以下で詳述する電力変換装置は、電力変換装置140や142および電力変換装置43さらにコンデンサモジュール500を電力変換装置の筐体内に内蔵している。この構成により、小型で信頼性の高い装置が実現できる。
また電力変換装置140や142および電力変換装置43さらにコンデンサモジュール500を一つの筐体に内蔵することで、配線の簡素化やノイズ対策で効果がある。またコンデンサモジュール500と電力変換装置140や142および電力変換装置43との接続回路のインダクタンスを低減でき、スパイク電圧を低減できると共に、発熱の低減や放熱効率の向上を図ることができる。
次に、図2を用いて電力変換装置140や142あるいは電力変換装置43の電気回路の構成を説明する。尚、図1〜図2に示す実施形態では、電力変換装置140や142あるいは電力変換装置43をそれぞれ個別に構成する場合を例に挙げて説明する。電力変換装置140や142あるいは電力変換装置43は同様の構成で同様の作用を為し、同様の機能を有している。ここでは、代表例として電力変換装置140の説明を行う。
本実施形態に係る電力変換装置200は、電力変換装置140とコンデンサモジュール500とを備える。電力変換装置140は、パワースイッチング回路144と制御部170とを有している。また、パワースイッチング回路144は、上アームとして動作するスイッチング素子と下アームとして動作するスイッチング素子を有している。この実施の形態ではスイッチング素子としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を使用している。上アームとして動作するIGBT328はダイオード156と並列接続されており、下アームとして動作するIGBT330はダイオード166と並列接続されている。上下アームの直列回路150を複数有し(図2の例では3つの上下アームの直列回路150,150,150)、それぞれの上下アームの直列回路150の中点部分(接続点169)から交流端子159を通してモータジェネレータ192への交流電力線(交流バスバー)186と接続する構成である。また、制御部170はパワースイッチング回路144を駆動制御するドライバ回路174と、ドライバ回路174へ信号線176を介して制御信号を供給する制御回路172と、を有している。
上アームと下アームのIGBT328や330は、スイッチング素子であり、制御部170から出力された駆動信号を受けて動作し、バッテリ136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。この変換された電力はモータジェネレータ192の電機子巻線に供給される。上述のとおり、電力変換装置140はモータジェネレータ192が発生する三相交流電力を直流電力に変換する動作も行う。
本実施形態に係る電力変換装置200は、図1に記載の如く電力変換装置140と142さらに電力変換装置43とコンデンサモジュール500を有している。上述のとおり電力変換装置140と142さらに電力変換装置43は同様の回路構成であるので、ここでは電力変換装置140を代表として記載し、電力変換装置142と電力変換装置43は、既に上述したとおり省略した。
パワースイッチング回路144は3相のブリッジ回路により構成されている。バッテリ136の正極側と負極側には、直流正極端子314と直流負極端子316が電気的に接続されている。直流正極端子314と直流負極端子316の間には、各相に対応する上下アームの直列回路150,150,150がそれぞれ電気的に並列に接続されている。ここで、上下アームの直列回路150をアームと記載する。各アームは、上アーム側のスイッチング素子328及びダイオード156と、下アーム側のスイッチング素子330及びダイオード166とを備えている。
本実施形態では、スイッチング素子としてIGBT328や330を用いることを例示している。IGBT328や330は、コレクタ電極153,163、エミッタ電極(信号用エミッタ電極端子155,165)、ゲート電極(ゲート電極端子154,164)を備えている。IGBT328,330のコレクタ電極153,163とエミッタ電極との間には、ダイオード156,166が図示するように電気的に並列に接続されている。ダイオード156,166は、カソード電極及びアノード電極の2つの電極を備えている。IGBT328,330のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極がIGBT328,330のコレクタ電極に、アノード電極がIGBT328,330のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。スイッチング素子としては、MOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよい。この場合は、ダイオード156やダイオード166は不要となる。
上下アームの直列回路150は、3相のモータジェネレータ192に供給する交流電力の各相に対応しており、各直列回路150,150,150は、IGBT328のエミッタ電極とIGBT330のコレクタ電極163を接続する接続点169はそれぞれU相、V相、W相の交流電力を出力するのに使用される。各相の上記接続点169がそれぞれ交流端子159とコネクタ188を介して、モータジェネレータ192のU相、V相、W相の電機子巻線(同期電動機では固定子巻線)と接続されることにより、上記電機子巻線にU相、V相、W相の電流が流れる。上記上下アームの直列回路同士は電気的に並列接続されている。上アームのIGBT328のコレクタ電極153は、正極端子(P端子)157を介してコンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極に、下アームのIGBT330のエミッタ電極は、負極端子(N端子)158を介してコンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極に、それぞれ直流バスバーなどを介して電気的に接続されている。
コンデンサモジュール500は、IGBT328,330のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制する平滑回路を構成するためのものである。コンデンサモジュール500の正極側コンデンサ電極にはバッテリ136の正極側が、コンデンサモジュール500の負極側コンデンサ電極にはバッテリ136の負極側が、それぞれ直流コネクタ138を介して電気的に接続されている。これにより、コンデンサモジュール500は、上アームIGBT328のコレクタ電極153とバッテリ136の正極側との間と、下アームIGBT330のエミッタ電極とバッテリ136の負極側との間で接続され、バッテリ136と上下アームの直列回路150に対して電気的に並列接続される。
制御部170は、IGBT328,330を導通や遮断の作動を制御する働きをし、制御部170は、他の制御装置やセンサなどからの入力情報に基づいて、IGBT328,330のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する制御回路172と、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、IGBT328,330をスイッチング動作させるためのドライブ信号を生成するドライブ回路174とを備えている。
制御回路172は、IGBT328,330のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータを備えている。このマイクロコンピュータには、入力情報として、モータジェネレータ192に対して要求される目標トルク値、上下アームの直列回路150からモータジェネレータ192の電機子巻線に供給される電流値、及びモータジェネレータ192の回転子の磁極位置が入力される。目標トルク値は、不図示の上位の制御装置から出力された指令信号に基づくものである。電流値は、電流センサ180から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。磁極位置は、モータジェネレータ192に設けられた回転磁極センサ(不図示)から出力された検出信号に基づいて検出されたものである。本実施形態では3相の電流値を検出する場合を例に挙げて説明するが、2相分の電流値を検出するようにしても構わない。
制御回路172内のマイクロコンピュータは、入力された目標トルク値に基づいてモータジェネレータ192のd,q軸の電流指令値を演算し、この演算されたd,q軸の電流指令値と、検出されたd,q軸の電流値との差分に基づいてd,q軸の電圧指令値を演算し、このd,q軸の電圧指令値からパルス状の駆動信号を生成する。制御回路172は後述するように2種類の方式の駆動信号を発生する機能を有する。この2種類の方式の駆動信号は、インダクタンス負荷であるモータジェネレータ192の状態に基づいて、あるいは変換しようとする交流電力の周波数、などに基づいて、選択される。
上記2種類の方式の内の1つは、出力しようとする交流波形の位相に基づいて、スイッチング素子であるIGBT328、330のスイッチング動作を制御する変調方式(HM方式として後述する)である。上記2種類の方式の内の他の1つは、一般にPWM(Pulse Width Modulation)と呼ばれる変調方式である。
ドライバ回路174は、下アームを駆動する場合、パルス状の変調波の信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する下アームのIGBT330のゲート電極に出力する。また、上アームを駆動する場合、パルス状の変調波の信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからパルス状の変調波の信号を増幅し、これをドライブ信号として、対応する上アームのIGBT328のゲート電極に出力する。これにより、各IGBT328,330は、入力されたドライブ信号に基づいてスイッチング動作する。こうして制御部170からの駆動信号(ドライブ信号)に応じて行われる各IGBT328,330のスイッチング動作により、電力変換装置140は、直流電源であるバッテリ136から供給される電圧を、電気角で2π/3 rad毎にずらしたU相、V相、W相の各出力電圧に変換し、3相交流モータであるモータジェネレータ192に供給する。なお、電気角とは、モータジェネレータ192の回転状態、具体的には回転子の位置に対応するものであって、0から2πの間で周期的に変化する。この電気角をパラメータとして用いることで、モータジェネレータ192の回転状態に応じて、各IGBT328,330のスイッチング状態、すなわちU相、V相、W相の各出力電圧を決定することができる。
また、制御部170は、異常検知(過電流、過電圧、過温度など)を行い、上下アームの直列回路150を保護している。このため、制御部170にはセンシング情報が入力されている。例えば各アームの信号用エミッタ電極端子155,165からは各IGBT328,330のエミッタ電極に流れる電流の情報が、対応する駆動部(IC)に入力されている。これにより、各駆動部(IC)は過電流検知を行い、過電流が検知された場合には対応するIGBT328,330のスイッチング動作を停止させ、対応するIGBT328,330を過電流から保護する。上下アームの直列回路150に設けられた温度センサ(不図示)からは上下アームの直列回路150の温度の情報がマイクロコンピュータに入力されている。また、マイクロコンピュータには上下アームの直列回路150の直流正極側の電圧の情報が入力されている。マイクロコンピュータは、それらの情報に基づいて過温度検知及び過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全てのIGBT328,330のスイッチング動作を停止させ、上下アームの直列回路150、引いては、この回路150を含む半導体モジュール、を過温度或いは過電圧から保護する。
図2において、上下アームの直列回路150は、上アームのIGBT328及び上アームのダイオード156と、下アームのIGBT330及び下アームのダイオード166との直列回路である。IGBT328,330は、スイッチング用半導体素子である。パワースイッチング回路144の上下アームのIGBT328,330の導通および遮断動作が一定の順で切り替わる。この切り替わり時のモータジェネレータ192の固定子巻線の電流は、ダイオード156,166によって作られる回路を流れる。
上下アームの直列回路150は、図示するように、Positive端子(P端子、正極端子)157、Negative端子(N端子158、負極端子)、上下アームの接続点169からの交流端子159、上アームの信号用端子(信号用エミッタ電極端子)155、上アームのゲート電極端子154、下アームの信号用端子(信号用エミッタ電極端子)165、下アームのゲート端子電極164、を備えている。また、電力変換装置200は、入力側に直流コネクタ138を有し、出力側に交流コネクタ188を有して、それぞれのコネクタ138と188を通してバッテリ136とモータジェネレータ192にそれぞれ接続される。また、モータジェネレータへ出力する3相交流の各相の出力を発生する回路として、各相に2つの上下アームの直列回路を並列接続する回路構成の電力変換装置であってもよい。
図3は回転電機が出力できる最大トルクと回転電機の回転速度との関係を示すグラフである。図3を用い、電力変換装置140において行われる制御モードの切り替えについて説明する。電力変換装置140は、モータすなわちモータジェネレータ192の回転速度、または出力する交流電力の周波数に応じて、PWM制御方式と後述のHM制御方式と、を切り替えて使用する。図3は、電力変換装置140における制御モードの切り替えの様子を示している。なお、制御モードを切り替える回転速度は任意に変更可能である。例えば自動車が停止状態から走行を開始する場合に、前記モータジェネレータ192は停止状態で大きなトルクを発生することが必要である。また車両の高級感を出すためには、滑らかな発進と加速が望ましい。一方回転停止時状態では、要求されるトルクに対応してPWM制御又はチョッパー制御を行い、回転子の固定子に供給する交流電流を制御する。前記モータジェネレータ192の回転速度が上昇するに連れてPWM制御に移行する。
車両の発進時および加速時は、滑らかな加速を実現する為に、前記モータジェネレータ192に供給する交流電力の歪を少なくすることが望ましく、PWM制御方式でパワースイッチング回路144が有するスイッチング素子のスイッチング動作を制御する。以下に説明するHM制御はモータジェネレータ192の回転速度が停止状態を含む超低速状態では、制御性に問題があり、また交流電力波形の歪が大きくなる傾向に有り、PWM制御方式による制御と組み合わせることで、あるいはさらにチョッパー制御を加えることで、このような欠点を補うことができる。
前記モータジェネレータ192の低速運転状態では、供給できる交流電流に限界が有り、最大発生トルクを抑えた制御を行う。前記モータジェネレータ192の回転速度が増加するにつけて内部誘起電圧が高くなり、電流の供給量が減少する傾向となる。このため前記モータジェネレータ192の出力トルクは回転速度が増大すると低下する傾向となる。近年モータジェネレータに要求される最高回転速度がより高くなる傾向に有り、毎分1万5千回転を超える速度が要望される場合があり、中速や高速運転ではHM制御は有効である。
PWM方式による制御とHM制御との切り換えのモータジェネレータの回転速度は特に制限されるものではないが、例えば700rpm以下の状態はPWM方式で制御し、700rpmより高い回転速度ではHM制御を行うことが考えられる。1500rpmから5000rpmの範囲は、HM方式の制御に大変適する運転領域であり、この領域では、PWM方式による制御に対してHM方式の制御の方がスイッチング素子のスイッチング損失の低減効果が大きい。この運転領域は市街地走行において利用され易い運転領域であり、HM方式の制御は生活に密着した運転領域において大きな効果を発揮する。
本実施例では、PWM制御方式で制御するモード(以下PWM制御モード)は、モータジェネレータ192の回転速度が比較的低い領域で使用し、一方比較的回転速度が高い領域では後述するHM制御モードを使用する。PWM制御モードにおいて、電力変換装置140は前述したようなPWM信号を用いた制御を行う。すなわち、制御回路172内のマイクロコンピュータにより、入力された目標トルク値に基づいてモータジェネレータ192のd,q軸の電圧指令値を演算し、これをU相、V相、W相の電圧指令値に変換する。そして、各相の電圧指令値に応じた正弦波を基本波として、これを搬送波である所定周期の三角波と比較し、その比較結果に基づいて決定したパルス幅を有するパルス状の変調波をドライバ回路174に出力する。この変調波に応じた駆動信号をドライバ回路174から各相の上下アームにそれぞれ対応するIGBT328,330へ出力することにより、バッテリ136から出力された直流電圧が3相交流電圧に変換され、モータジェネレータ192へ供給される。
HMの内容については後で詳しく説明する。HM制御モードにおいて制御回路172により生成された変調波は、ドライバ回路174に出力される。これにより、当該変調波に応じた駆動信号がドライバ回路174から各相の対応するIGBT328,330へ出力される。その結果、バッテリ136から出力された直流電圧が3相交流電圧に変換され、モータジェネレータ192へ供給される。
電力変換装置140のようにスイッチング素子を用いて直流電力を交流電力に変換する場合、単位時間当たりあるいは交流電力の所定位相あたりのスイッチング回数を少なくすると、スイッチング損失を低減することができる反面、変換される交流電力に高調波成分が多く含まれる傾向があるためにトルク脈動が増大し、モータ制御の応答性が悪化する可能性がある。そこで本発明では、上記のようにPWM制御モードとHM制御モードとを、変換しようとする交流電力の周波数あるいはこの周波数と関連があるモータの回転速度に応じて切り替えることで、低次の高調波の影響を受けにくいモータ回転域、すなわち高速回転域ではHM制御方式を適用し、トルク脈動の発生しやすい低速回転域ではPWM制御方式を適用するようにしている。このようにすることで、トルク脈動の増大を比較的低く抑えることができ、スイッチング損失を低減できる。
なお、単位時間当たり、あるいは出力される交流電力の単位周期あたりのスイッチング回数が最小となるモータの制御状態として、モータに供給される交流電力の半周期毎に各相のスイッチング素子を1回ずつオンオフする矩形波による制御状態がある。この矩形波による制御状態は、上記のHM制御方式においては、変換される交流電力波形における変調度の増大に従って減少する半周期あたりのスイッチング回数の最終的な状態として、HM制御方式の一制御形態として捉えることができる。この点については後で詳しく説明する。
次にHM制御方式を説明するために、先ず始めにPWM制御と矩形波制御について図4を参照して説明する。PWM制御の場合は一定周波数の搬送波と出力しようとする交流波形との大小比較に基づいて、スイッチング素子の導通や遮断のタイミングを定め、スイッチング素子を制御する方式である。PWM制御を用いることで脈動の少ない交流電力をモータに供給でき、トルク脈動が少ないモータ制御が可能となる。一方単位時間当たりあるいは交流波形の周期毎のスイッチング回数が多いためにスイッチング損失が大きい欠点がある。これに対して、極端な例として、1パルスの矩形波を用いてスイッチング素子を制御の場合は、スイッチング回数が少ないためにスイッチング損失を少なくできる。その一方で、変換される交流波形はインダンタンス負荷の影響を無視すると矩形波状となり、正弦波に対して5次、7次、11次、・・・等の高調波成分が含まれた状態と見ることができる。矩形波をフーリエ展開すると基本正弦波に加え、5次、7次、11次、・・・等の高調波成分があらわれる。この高調波成分がトルク脈動の原因となる電流歪を生じることとなる。このように、PWM制御と矩形波制御は互いに対極的な関係にある。
矩形波状にスイッチング素子の導通および遮断を制御したと仮定した場合に、交流電力に生じる高調波成分の例を図5に示す。図5(a)は、矩形波状に変化する交流波形を基本波である正弦波と5次、7次、11次、・・・等の高調波成分に分解した例である。図5(a)に示す矩形波のフーリエ級数展開は、式(1)のように表される。
f(ωt)=4/π×{sinωt+(sin3ωt)/3+(sin5ωt)/5+(sin7ωt)/7+・・・} (1)
式(1)は、4/π・(sinωt)で表される基本波の正弦波と、これの高調波成分である3次、5次、7次・・・の各成分とにより、図5(a)に示す矩形波が形成されることを示している。このように、基本波に対してより高次の高調波を合成していくことで矩形波に近づくことが分かる。
図5(b)は、基本波、3次高調波、5次高調波の各振幅をそれぞれ比較した様子を示している。図5(a)の矩形波の振幅を1とすると、基本波の振幅は1.27、3次高調波の振幅は0.42、5次高調波の振幅は0.25とそれぞれ表される。このように、高調波の次数が上がるほどその振幅は小さくなるため、矩形波制御における影響が小さくなることが分かる。特に回転電機に対する高調波の影響は、次数の低い5次高調波の影響が大きい。ここで、最も次数の低い3次高調波は、3相交流モータにおいては互いに影響を打ち消し合う作用をなし、3の倍数の次数の高調波の影響は障害とならない。このため振幅の大きい5次高調波の影響が大きい。次に影響する高調波は7次高調波、次は11次高調波と続く。次数が高くなるほど影響が少なくなる傾向にある。但し制御する回転電機の特性によっては、5次高調波よりも7次高調波や11次高調波の方が影響が大きくなる場合もある。
矩形波形状にスイッチング素子を導通および遮断した場合に発生する可能性があるトルク脈動の観点から、影響の大きい高次の高調波成分を削除しつつ、一方影響が小さい高次の高調波成分に対してその影響を無視してこれら高調波成分を含めることで、スイッチング損失が少なくしかもトルク脈動の増大を低く抑えることができる電力変換器を実現できる。本実施の形態で使用するHM制御では、矩形波交流電流が有する高調波成分を制御の状態に応じてある程度削減した交流電力を出力し、これにより、モータ制御のトルク脈動の影響を小さくし、一方使用上問題が無い範囲で高調波成分が含まれている状態とすることで、スイッチング損失を低減するようにしている。このような制御方式を、上述のとおり、この明細書ではHM制御方式と記載している。
さらに以下の実施の形態では、HM制御方式における高調波の影響が大きいあるいは制御性が悪くなる低周波の交流電力を出力している状態で、PWM制御方式を使用するようにしている。具体的には、PWM制御とHM制御とをモータの回転速度に応じて切り替え、回転速度の低い領域でPWM方式を使用して制御することで、低速回転域と高速回転域のそれぞれにおいて望ましいモータ制御を行うようにしている。
続いて上記制御を実現するための制御回路172の構成について説明する。電力変換装置140に搭載される制御回路172の制御方法として、3種類のモータ制御の方法を説明し、以下では、これら3種類のモータ制御方法を第1、第2、第3の実施の形態として記載する。なお、制御回路の基本的動作はプログラムによって動作するマイクロコンピュータによって処理されるが、マイクロコンピュータの動作を機能毎に分解し、理解しやすくするために、機能に対応した回路ブロックが存在するように図解した内容により説明する。
−第1の実施の形態−
本発明の第1の実施の形態に係る制御回路172によるモータ制御系の機能を機能ブロックに展開したブロック図を図6に示す。制御回路172には、車両を制御する上位の制御装置より、モータジェネレータ192の制御指令、例えば目標トルク値としてのトルク指令T*が入力される。トルク指令・電流指令変換器410は、入力されたトルク指令T*と、回転磁極センサ193により検出された磁極位置信号θに基づく回転速度情報とに基づいて、予め記憶されたトルク−回転速度マップのデータを用いて、d軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*を求める。トルク指令・電流指令変換器410において求められたd軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*は、電流制御器(ACR)420、421にそれぞれ出力される。
電流制御器(ACR)420、421は、トルク指令・電流指令変換器410から出力されたd軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*と、電流センサ180により検出されたモータジェネレータ192の相電流検出信号lu、lv、lwが制御回路172上の図示しない3相2相変換器において回転センサ−からの磁極位置信号によりd,q軸上に変換されたId,Iq電流信号とに基づいて、モータジェネレータ192を流れる電流がd軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*に追従するように、d軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*をそれぞれ演算する。電流制御器(ACR)420において求められたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、HM制御用のパルス変調器430へ出力される。一方、電流制御器(ACR)421において求められたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、PWM制御用のパルス変調器440へ出力される。
HM制御用のパルス変調器430は、電圧位相差演算器431、変調度演算器432、パルス生成器434により構成される。電流制御器420から出力されたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、パルス変調器430において電圧位相差演算器431と変調度演算器432に入力される。
電圧位相差演算器431は、モータジェネレータ192の磁極位置とd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*が表す電圧位相との位相差、すなわち電圧位相差を算出する。この電圧位相差をδとすると、電圧位相差δは式(2)で表される。
δ=arctan(-Vd*/Vq*) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
電圧位相差演算器431は、さらに上記の電圧位相差δに回転磁極センサ193からの磁極位置信号θが表す磁極位置を加算することで、電圧位相を算出する。そして、算出した電圧位相に応じた電圧位相信号θvをパルス生成器434へ出力する。この電圧位相信号θvは、磁極位置信号θが表す磁極位置をθeとすると式(3)で表される。
θv=δ+θe+π・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
変調度演算器432は、d軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*が表すベクトルの大きさをバッテリ136の電圧で正規化することにより変調度を算出し、その変調度に応じた変調度信号aをパルス生成器434へ出力する。この実施の形態では、上記変調度信号aは、図2に示すパワースイッチング回路144に供給される直流電圧であるバッテリ電圧に基づいて定められることになり、バッテリ電圧が高くなると変調度aは小さくなる傾向となる。また指令値の振幅値が大きくなると変調度aは大きくなる傾向となる。具体的にはバッテリ電圧をVdcとすると式(4)で表される。なお、式(4)において、Vdはd軸電圧指令信号Vd*の振幅値、Vqはq軸電圧指令信号Vq*の振幅値をそれぞれ表す。
a=(√(2/3))( √(Vd^2+Vq^2))/(Vdc/2)・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
パルス生成器434は、電圧位相差演算器431からの電圧位相信号θvと、変調度演算器432からの変調度信号aとに基づいて、インバータ回路を構成するU相、V相、W相の各上下アームにそれぞれ対応する6種類のHM制御に基づくパルス信号を生成する。そして、生成したパルス信号を切換器450へ出力し、切換器450からドライバ回路174(図2で説明した)へ出力し、インバータ回路を構成する各スイッチング素子に駆動信号が出力される。なお、HM制御に基づくパルス信号(以下HMパルス信号と記す)の発生方法については、後で詳しく説明する。
一方、PWM制御用のパルス変調器440は、電流制御器421から出力されたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*と、回転磁極センサ193からの磁極位置信号θとに基づいて、周知のPWM方式により、U相、V相、W相の各上下アームにそれぞれ対応する6種類のPWM制御に基づくパルス信号(以下PWMパルス信号と記す)を生成する。そして、生成したPWMパルス信号を切換器450へ出力し、切換器450からドライブ回路174に供給され、ドライブ回路174(図2で説明した)から駆動信号がインバータ回路を構成する各スイッチング素子に供給される。
切換器450は、HM制御用のパルス変調器430から出力されたHMパルス信号またはPWM制御用のパルス変調器440から出力されたPWMパルス信号のいずれか一方を選択する。この切換器450によるパルス信号の選択は、前述のようにモータジェネレータ192の回転速度に応じて行われる。すなわち、モータジェネレータ192の回転速度が切替ラインとして設定された所定のしきい値よりも低い場合は、PWMパルス信号を選択することにより、電力変換装置140においてPWM制御方式が適用されるようにする。また、モータジェネレータ192の回転速度がしきい値よりも高い場合は、HMパルス信号を選択することにより、電力変換装置140においてHM制御方式が適用されるようにする。こうして切換器450において選択されたHMパルス信号またはPWMパルス信号は、ドライバ回路174へ出力される。
以上説明したようにして、制御回路172からドライバ回路174に対して、HMパルス信号またはPWMパルス信号が変調波として出力される。この変調波に応じて、ドライバ回路174よりパワースイッチング回路144の各IGBT328,330へ駆動信号が出力される。また上述したように制御回路172はコンピュータプログラムによって実行されるマイクロコンピュータの処理機能を、機能別にブロック図化したものである。
ここで図6のパルス生成器434の詳細について説明する。パルス生成器434は、たとえば図7に示すように、位相検索器435とタイマカウンタ比較器436によって実現される。位相検索器435は、電圧位相差演算器431からの電圧位相信号θv、変調度演算器432からの変調度信号aおよび磁極位置信号θに基づく回転速度情報に基づいて、予め記憶されたスイッチングパルスの位相情報のテーブルから、スイッチングパルスを出力すべき位相をU相、V相、W相の上下各アームについて検索し、その検索結果の情報をタイマカウンタ比較器436へ出力する。タイマカウンタ比較器436は、位相検索器435から出力された検索結果に基づいて、U相、V相、W相の上下各アームに対するスイッチング指令としてのHMパルス信号をそれぞれ生成する。タイマカウンタ比較器436により生成された各相の上下各アームに対する6種類のHMパルス信号は、前述のように切換器450へ出力される。
図7の位相検索器435およびタイマカウンタ比較器436によるパルス生成の手順を詳細に説明したフローチャートを図8に示す。位相検索器435は、ステップ801において変調度信号aを入力信号として取り込み、ステップ802において電圧位相信号θvを入力信号として取り込む。続くステップ803において、位相検索器435は、入力された現在の電圧位相信号θvに基づいて、制御遅れ時間と回転速度を考慮して、次の制御周期に対応する電圧位相の範囲を演算する。その後ステップ804において、位相検索器435はROM検索を行う。このROM検索では、入力された変調度信号aに基づいて、ステップ803で演算された電圧位相の範囲において、ROM(不図示)に予め記憶されたテーブルよりスイッチングのオンとオフの位相を検索する。
位相検索器435は、ステップ804のROM検索によって得られたスイッチングのオンとオフの位相の情報を、ステップ805においてタイマカウンタ比較器436へ出力する。タイマカウンタ比較器436は、この位相情報をステップ806において時間情報に変換し、タイマカウンタとのコンペアマッチ機能を用いてHMパルス信号を生成する。なお、位相情報を時間情報に変換する過程は、回転速度信号の情報を利用する。あるいはステップ804のROM検索によって得られたスイッチングのオンとオフの位相の情報を、ステップ806において位相カウンタとのコンペアマッチ機能を用いてHMパルスを生成しても良い。
タイマカウンタ比較器436は、ステップ806で生成したHMパルス信号を、次のステップ807において切換器450へ出力する。以上説明したステップ801〜807の処理が位相検索器435およびタイマカウンタ比較器436において行われることにより、パルス生成器434においてHMパルス信号が生成される。
あるいは、図8のフローチャートにかえて、図9のフローチャートに示す処理をパルス生成器434において実行することにより、パルス生成を行うようにしてもよい。この処理は、図8のフローチャートに示したように予め記憶しているテーブルを用いてスイッチング位相を検索するテーブル検索方式を使わず、電流制御器(ACR)の制御周期毎にスイッチング位相を生成する方式である。
パルス生成器434は、ステップ801において変調度信号aを入力し、ステップ802において電圧位相信号θvを入力する。続くステップ820において、パルス生成器434は、入力された変調度信号aおよび電圧位相信号θvに基づいて、制御遅れ時間と回転速度を考慮して、スイッチングのオンとオフの位相を電流制御器(ACR)の制御周期毎に決定する。
ステップ820におけるスイッチング位相の決定処理の詳細を図10のフローチャートに示す。パルス生成器434は、ステップ821において、回転速度に基づいて削除する高調波次数を指定する。こうして指定された高調波次数に従って、パルス生成器434は続くステップ822において行列演算などの処理を行い、ステップ823においてパルス基準角度を出力する。
ステップ821〜823までのパルス生成過程は、以下の式(5)〜(8)で示す行列式に則って演算される。
ここでは、一例として、3次、5次、7次成分を消去する場合を取り上げる。
パルス生成器434は、削除する高調波次数として3次、5次、7次の高調波成分をステップ821において指定すると、次のステップ822において行列演算を行う。
ここで3次、5次、7次の消去次数に対して式(5)のような行ベクトルを作る。
式(5)の右辺括弧内の各要素はk1/3、k2/5、k3/7となっている。k1、k2、k3は任意の奇数を選択することができる。ただし、k1=3,9,15、k2=5,15,25、k3=7,21,35などを選択してはならない。この条件下で、3次、5次、7次成分は完全に消去される。
上記をより一般的に記すと、分母の値を削除する高調波次数とし、分子の値を分母の奇数倍を除く任意の奇数とすることで、式(5)の各要素の値を決定することができる。ここで式(5)の例では、消去次数が3種類(3次、5次、7次)であるため行ベクトルの要素数を3つとしている。同様に、N種類の消去次数に対して要素数Nの行ベクトルを設定し、各要素の値を決定することができる。
なお、式(5)において、各要素の分子と分母の値を上記のもの以外とすることで、高調波成分を削除するかわりに、そのスペクトルを整形することもできる。そのため、高調波成分の削除ではなくスペクトル整形を主な目的として、各要素の分子と分母の値を任意に選択してもよい。その場合、分子と分母の値は必ずしも整数である必要はないが、分子の値として分母の奇数倍を選択してはならない。また、分子と分母の値は定数である必要はなく、時間に応じて変化する値でもよい。
上記のように、分母と分子の組み合わせでその値が決定される要素が3つの場合は、式(5)のように3列のベクトルを設定することができる。同様に、分母と分子の組み合わせでその値が決定される要素数Nのベクトル、すなわちN列のベクトルを設定することができる。以下では、このN列のベクトルを高調波準拠位相ベクトルと呼ぶこととする。
高調波準拠位相ベクトルが式(5)のように3列のベクトルである場合は、その高調波準拠位相ベクトルを転置して式(6)の演算をする。その結果、S1〜S4までのパルス基準角度が得られる。
パルス基準角度S1〜S4は、電圧パルスの中心位置を表わすパラメータであり、後述する三角波キャリアと比較される。このようにパルス基準角度が4個(S1〜S4)である場合、一般的には、線間電圧一周期当たりのパルス数は16個となる。
また、式(5)のかわりに式(7)のように高調波準拠位相ベクトルが4列の場合は、行列演算式(8)を施す。
その結果、S1〜S8までのパルス基準角度出力が得られる。このとき線間電圧一周期当たりのパルス数は32個となる。
削除する高調波成分の数とパルス数との関係は、一般的には次のとおりである。すなわち、削除する高調波成分が2つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は8パルスであり、削除する高調波成分が3つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は16パルスであり、削除する高調波成分が4つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は32パルスであり、削除する高調波成分が5つである場合、線間電圧一周期当たりのパルス数は64パルスである。同様に、削除する高調波成分の数が1つ増すにつれて、線間電圧一周期当たりのパルス数が2倍になる。
ただし、線間電圧で正のパルスと負のパルスが重畳するようなパルス配置の場合、パルス数は上記とは異なる場合がある。
上記のようにしてパルス生成器434において生成されるHMパルス信号により、UV線間電圧、VW線間電圧、WU線間電圧の3種類の線間電圧においてパルス波形がそれぞれ形成される。これらの各線間電圧のパルス波形は、それぞれ2π/3の位相差を有する同一のパルス波形である。したがって、以下では各線間電圧を代表して、UV線間電圧のみを説明する。
ここで、UV線間電圧の基準位相θuvlと電圧位相信号θvおよび磁極位置θeとの間には、式(9)の関係がある。
θuvl=θv+π/6=θe+δ+7π/6 [rad] ・・・・・・・・・・・・・・・(9)
式(9)で表されるUV線間電圧の波形は、θuvl=π/2,3π/2の位置を中心に線対称であり、かつ、θuvl=0,πの位置を中心に点対称となる。したがって、UV線間電圧パルスの1周期(θuvlが0から2πまで)の波形は、θuvlが0からπ/2までの間のパルス波形を元に、これをπ/2毎に左右対称または上下対称に配置することによって表現できる。
これを実現するひとつの方法が、0≦θuvl≦π/2の範囲におけるUV線間電圧パルスの中心位相を4チャンネルの位相カウンタと比較し、その比較結果に基づいて、1周期すなわち0≦θuvl≦2πの範囲についてUV線間電圧パルスを生成するアルゴリズムである。その概念図を図11に示す。
図11は0≦θuvl≦π/2の範囲における線間電圧パルスが4つである場合の例を示している。図11において、パルス基準角度S1〜S4は、その4つのパルスの中心位相を表す。
carr1(θuvl),carr2(θuvl),carr3(θuvl),carr4(θuvl)は、4チャンネルの位相カウンタの各々を表している。これらの各位相カウンタは、いずれも基準位相θuvlに対して2π radの周期を持つ三角波である。また、carr1(θuvl) とcarr2(θuvl)は振幅方向にdθの偏差を持ち、carr3(θuvl)とcarr4(θuvl)の関係も同様である。
dθは線間電圧パルスの幅を表している。このパルス幅dθに対して基本波の振幅が線形に変化する。
線間電圧パルスは、各位相カウンタcarr1(θuvl),carr2(θuvl),carr3(θuvl),carr4(θuvl)と、0≦θuvl≦π/2の範囲におけるパルスの中心位相を表すパルス基準角度S1〜S4との各交点に形成される。これにより、90度毎に対称的なパターンのパルス信号が生成される。
より詳細には、carr1(θuvl),carr2(θuvl)とS1〜S4とがそれぞれ一致した点において、正の振幅を有する幅dθのパルスが生成される。一方、carr3(θuvl),carr4(θuvl) とS1〜S4とがそれぞれ一致した点において、負の振幅を有する幅dθのパルスが生成される。
以上説明したような方法を用いて生成した線間電圧の波形を変調度毎に描いた一例を図12に示す。図12では、式(5)のk1、k2、k3の値として、k1=1、k2=1、k3=3をそれぞれ選択し、変調度を0から1.0まで変化させたときの線間電圧パルス波形の例を示している。図12により、変調度の増加とほぼ比例してパルス幅が増加していることが分かる。こうしてパルス幅を増加させることで、電圧の実効値を増加させることができる。ただし、θuvl=0,π,2π付近のパルスは、変調度0.4以上において、変調度が変化してもパルス幅は変化していない。このような現象は、正の振幅を有するパルスと負の振幅を有するパルスが重なり合うことで生じるものである。
上述したように、上記実施の形態では、ドライバ回路174から駆動信号をパワースイッチング回路144の各スイッチング素子に送ることにより、各スイッチング素子は出力しようとする交流電力の位相に基づいてスイッチング動作を行う。交流電力の一周期におけるスイッチング素子のスイッチング回数は、除去しようとする高調波の種類が増えるほど、増える傾向となる。ここで三相交流の回転電機に供給する三相交流電力を出力する場合には、3の倍数の高次高調波は互いに打ち消し合うことに成るので、除去しようとする高調波に含めなくても良い。
また別の観点で見ると、供給される直流電力の電圧が低下すると変調度が増加し、導通している各スイッチング動作の導通期間が長くなる傾向となる。またモータなどの回転電機を駆動する場合に回転電機の発生トルクを大きくする場合には変調度が大きくなり、結果的に各スイッチング動作の導通期間が長くなり、回転電機の発生トルクを小さくする場合には、各スイッチング動作の導通期間が短くなる。導通期間が増大し、遮断時間が短くなった場合、つまりスイッチング間隔がある程度短くなった場合には、安全にスイッチング素子を遮断できない可能性が有り、その場合は遮断させないで導通状態のままそれに続く導通期間につながる制御が行われる。
また別の観点で見ると、出力される交流電力の歪の影響が大きくなる周波数の低い状態、特に回転電機が停止状態あるいは回転速度が非常に低い状態では、HM方式の制御ではなく、定周期の搬送波を利用するPWM方式でパワースイッチング回路144を制御し、回転速度が増加した状態でHM方式に切り換えてパワースイッチング回路144を制御する。本発明を自動車駆動用の電力変換装置の適用した場合には、車が停止状態から発進して加速する段階は、車の高級感に影響するなどの理由で特にトルク脈動の影響を少なくすることが望ましい。このため少なくとも車が停止状態から発進する状態はPWM方式でパワースイッチング回路144を制御し、ある程度加速した後MH方式の制御に切り換える。このようにすることで、少なくとも発進時はトルク脈動の少ない制御が実現でき、少なくとも通常の運転である定速走行に移った状態ではスイッチングロスの少ないHM方式で制御することか可能となり、トルク脈動の影響を抑えながら損失の少ない制御を実現できる。
本発明において用いられるHMパルス信号によると、上記のように変調度を固定したときに、例外を除き、パルス幅が等しいパルス列による線間電圧波形を形成することを特徴とする。なお、例外的に線間電圧のパルス幅が他のパルス列と不等である場合とは、上記のように正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスが重なった場合である。この場合、パルスが重なった部分を正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスに分解すると、パルスの幅は全域で必ず等しい。つまり、パルス幅の変化で変調度が変化する。
ここで、例外的に線間電圧のパルス幅が他のパルス列と不等である場合について、さらに図13を用いて詳細に説明する。図13の上部には、図12において変調度1.0のときの線間電圧パルス波形のうち、π/2≦θuvl≦3π/2の範囲を拡大したものを示している。この線間電圧パルス波形では、中心付近の2つのパルスが他のパルスとは異なるパルス幅を有している。
図13の下部には、こうしたパルス幅が他とは異なる部分を分解した様子を示している。この図から、当該部分では、他のパルスと同じパルス幅をそれぞれ有する正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスとが重なっており、これらのパルスが合成されることによって他とは異なるパルス幅のパルスが形成されていることが分かる。すなわち、こうしてパルスの重なりを分解することで、HMパルス信号に応じて形成される線間電圧のパルス波形は、一定のパルス幅を有するパルスによって構成されていることが分かる。
本発明により生成されるHMパルス信号による線間電圧パルス波形の他の一例を図14に示す。ここでは、式(5)のk1、k2、k3の値として、k1=1、k2=1、k3=5をそれぞれ選択し、変調度を0から1.27まで変化させたときの線間電圧パルス波形の例を示している。図14では、変調度が1.17以上になると、θuvl=π/2、3π/2の位置において、互いに隣接する左右対称の2つのパルス間の隙間がなくなっている。したがって、変調度が1.17未満の範囲では狙った高調波成分を削除できるが、変調度がこれ以上になると高調波成分を有効に削除できないことが分かる。さらに変調度を大きくしていくと、他の位置においても隣接するパルス間の隙間がなくなっていき、最終的に変調度1.27において矩形波の線間電圧パルス波形となる。変調度を大きくすると出力される電力の波高値が増大し、出力電力が増大する。モータジェネレータの指令値である目標トルクや目標回転速度が増大すると変調度が増大する。変調度が大きくなると供給される直流電源の電圧よりも高い波高値の交流出力を発生させることができ、矩形波制御では、理論値で直流電源の電圧の1.27倍の波高値の交流電圧を発生可能である。図14に示す如く変調度を替えることにより、最大の、直流電源の電圧の1.27倍の波高値まで、連続的に替えることができる。
図14に示した線間電圧パルス波形を対応する相電圧パルス波形で表した例を図15に示す。図14や図15をはじめ、この明細書では、パルスとはインバータ回路の導通期間を表し、この期間に直流電源から回転電気などの負荷に電流が供給される。図15でも図14と同様に、変調度が1.17以上になると隣接する2つのパルス間の隙間がなくなっていくことが分かる。なお、図15の相電圧パルス波形と図14の線間電圧パルス波形との間には、π/6の位相差がある。この図14や図15に示す如く、変調度が大きくなると、インバータ回路によって直流電源と負荷とが切り離されている期間すなわちインバータ回路の不導通期間が短くなる。この例では、変調度が1.17以上で図の破線で示す如く、インバータ回路の不導通期間が短くなり、インバータ回路が有しているスイッチング素子が遮断動作を実行することが不可能となる。この場合には、導通動作を続けることとなる。このため、変調度が高くなるにつれて、半サイクル中の遮断期間の数が減少し、最終的に半サイクルに一回導通する矩形は制御モードとなる。
次に、線間電圧パルスを相電圧パルスに変換する方法について説明する。図16は、線間電圧パルスから相電圧パルスへの変換において用いられる変換表の例を示している。この表中で左端の列に記載されている1〜6の各モードは、取り得るスイッチング状態ごとに番号を割り当てたものである。モード1〜6では、線間電圧から出力電圧への関係が1対1に決まっている。これらの各モードは、直流側と3相交流側の間でエネルギー授受のあるアクティブな期間に対応している。なお、図16の表中に記載されている線間電圧は、異なる相の電位差として取りうるパターンをバッテリ電圧Vdcで正規化して整理したものである。
図16は、メモリに保持されている、制御に使用する相と線間のパルスすなわち相と線間の導通状態を表している。図16において、たとえば、モード1ではVuv→1、Vvw→0、Vu→−1と示されているが、これはVu−Vv=Vdc、Vv−Vw=0、Vw−Vu=−Vdcとなる場合を正規化して示している。このときの相電圧すなわち相端子電圧(ゲート電圧に比例)は、図16の表によるとVu→1(U相の上アームをオン、下アームをオフ)、Vv→0(V相の上アームをオフ、下アームをオン)、Vw→0(W相の上アームをオフ、下アームをオン)となる。すなわち、図16の表では、Vu=Vdc、Vv=0、Vw=0となる場合を正規化して示している。モード2〜6も、モード1と同様の考え方で成り立っている。
図16の変換表を用いて矩形波の状態でパワースイッチング回路144を制御するモードにおける線間電圧パルスを相電圧パルスに変換した例を図17に示す。図17において、上段は線間電圧の代表例としてUV線間電圧Vuvを示しており、その下にU相端子電圧Vu、V相端子電圧Vv、W相端子電圧Vwを示している。図17に示すように、矩形波制御モードでは図16の変換表に示したモードが1から6まで順番に変化する。なお、矩形波制御モードでは後述する3相短絡期間は存在しない。
図18は、図12に例示した線間電圧パルス波形を図16の変換表に従って相電圧パルスに変換する様子を示している。図18において、上段は線間電圧の代表例としてUV線間電圧パルスを示しており、その下にU相端子電圧Vu、V相端子電圧Vv、W相端子電圧Vwを示している。
図18の上部には、モード(直流側と3相交流側の間でエネルギー授受のあるアクティブな期間)の番号、および3相短絡となっている期間を示している。3相短絡の期間では3相の上アームをすべてオンにするか3相の下アームをすべてオンにするかのいずれかであるが、スイッチング損失や導通損失の状況に応じて、どちらかのスイッチモードを選択すればよい。
たとえば、UV線間電圧Vuvが1のときは、U相端子電圧Vuが1、V相端子電圧Vvが0である(モード1,6)。UV線間電圧Vuvが0のときは、U相端子電圧VuとV相端子電圧Vvが同じ値、すなわちVuが1かつVvが1(モード2、3相短絡)、またはVuが0かつVvが0(モード5、3相短絡)のいずれかである。UV線間電圧Vuvが−1のときは、U相端子電圧Vuが0、V相端子電圧Vvが1である(モード3,4)。このような関係に基づいて、相電圧すなわち相端子電圧の各パルス(ゲート電圧パルス)が生成される。
図18において、線間電圧パルスと各相の相端子電圧パルスのパターンは、位相θuvlに対して、π/3を最小単位として準周期的に繰り返されるパターンとなっている。つまり、0≦θuvl≦π/3の期間のU相端子電圧の1と0を反転させたパターンは、π/3≦θuvl≦2π/3のW相端子電圧のパターンと同じである。また、0≦θuvl≦π/3の期間のV相端子電圧の1と0を反転させたパターンは、π/3≦θuvl≦2π/3のU相端子電圧のパターンと同じであり、0≦θuvl≦π/3の期間のW相端子電圧の1と0を反転させたパターンは、π/3≦θuvl≦2π/3のV相端子電圧のパターンと同じである。モータの回転速度と出力が一定である定常状態においては、こうした特徴が特に顕著に表れる。
ここで、上記のモード1〜6を、異なる相で上アーム用のIGBT328と下アーム用のIGBT330をそれぞれオンさせて直流電源であるバッテリ136からモータジェネレータ192に電流を供給する第1の期間として定義する。また、3相短絡期間を、全相で上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330のいずれか一方をオンさせてモータジェネレータ192に蓄積されたエネルギーでトルクを維持する第2の期間と定義する。図18に示す例では、これら第1の期間と第2の期間を電気角に応じて交互に形成していることが分かる。
さらに図18では、たとえば0≦θuvl≦π/3の期間において、第1の期間としてのモード6および5を、第2の期間としての3相短絡期間を間に挟んで交互に繰り返している。ここで図16から分かるように、モード6では、V相において下アーム用のIGBT330をオンする一方で、他のU相、W相では、V相と異なる側、すなわち上アーム用のIGBT328をオンしている。他方、モード5では、W相において上アーム用のIGBT328をオンする一方で、他のU相、V相では、W相と異なる側、すなわち下アーム用のIGBT330をオンしている。すなわち、第1の期間では、U相、V相、W相のうちいずれか1相(モード6ではV相、モード5ではW相)を選択し、この選択した1相について、上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330をオンさせると共に、他の2相(モード6ではU相およびW相、モード5ではU相およびV相)について、選択した1相とは異なる側のアーム用のIGBT328,330をオンさせる。また、第1の期間ごとに選択する1相(V相、W相)を交替している。
0≦θuvl≦π/3以外の期間でも上記と同様に、第1の期間としてのモード1〜6のいずれかを、第2の期間としての3相短絡期間を間に挟んで交互に繰り返す。すなわち、π/3≦θuvl≦2π/3の期間ではモード1および6を、2π/3≦θuvl≦πの期間ではモード2および1を、π≦θuvl≦4π/3の期間ではモード3および2を、4π/3≦θuvl≦5πの期間ではモード4および3を、5π/3≦θuvl≦2πの期間ではモード5および4を、それぞれ交互に繰り返す。これにより、上記と同様に、第1の期間では、U相、V相、W相のうちいずれか1相を選択し、選択した1相について、上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330をオンさせると共に、他の2相について、選択した1相とは異なる側のアーム用のIGBT328,330をオンさせる。また、第1の期間ごとに選択する1相を交替する。
ところで、上記の第1の期間すなわちモード1〜6の期間を形成する電気角位置と、この期間の長さとは、モータジェネレータ192に対するトルクや回転速度などの要求指令に応じて変化させることができる。すなわち前述のように、モータの回転速度やトルクの変化に伴って削除する高調波の次数を変化させるために、第1の期間を形成する特定の電気角位置を変化させる。あるいは、モータの回転速度やトルクの変化に応じて、第1の期間の長さすなわちパルス幅を変化させ、変調度を変化させる。これにより、モータを流れる交流電流の波形、より具体的には交流電流の高調波成分を所望の値に変化させ、この変化により、バッテリ136からモータジェネレータ192に供給する電力を制御することができる。なお、特定の電気角位置と第1の期間の長さは、いずれか一方のみを変化させてもよいし、両方を同時に変化させてもよい。
ここで、パルスの形状と電圧には以下の関係がある。図示したパルスの幅は電圧の実効値を変化させる効果があり、線間電圧のパルス幅が広いときには電圧の実効値は大きく、狭いときには電圧の実効値が小さい。また、削除する高調波の個数が少ない場合は、電圧の実効値が高いため、変調度の上限が矩形波に近づく。この効果は、回転電機(モータジェネレータ192)が高速回転しているときに有効であり、通常のPWMで制御した場合の出力の上限を上回って出力させることができる。すなわち、直流電源であるバッテリ136からモータジェネレータ192に電力を供給する第1の期間の長さと、この第1の期間を形成する特定の電気角位置とを変化させることで、モータジェネレータ192に印加する交流電圧の実効値を変化させ、モータジェネレータ192の回転状態に応じた出力を得ることができる。
また、図18に示す駆動信号のパルス形状は、U相、V相およびW相の各相について、任意のθuvlすなわち電気角を中心に左右非対称となっている。さらに、パルスのオン期間またはオフ期間のうち少なくとも一方がθuvl(電気角)でπ/3以上にわたって連続する期間を含んでいる。たとえばU相では、θuvl=π/2付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオン期間と、θuvl=3π/2付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオフ期間とを有している。同様に、V相では、θuvl=π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオフ期間と、θuvl=7π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオン期間とを有しており、W相では、θuvl=5π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオフ期間と、θuvl=11π/6付近を中心に前後それぞれπ/6以上のオン期間とを有している。このようなパルス形状の特徴を有している。
以上説明したように、本実施形態の電力変換装置によれば、HM制御モードが選択されているときに、直流電源からモータに電力を供給する第1の期間と、3相フルブリッジの全相上アームをオン或いは全相下アームをオンさせる第2の期間を、電気角に応じた特定のタイミングで交互に発生させる。これにより、PWM制御モードが選択されている場合に比べて、スイッチングの頻度が1/7から1/10以下で済む。したがって、スイッチング損失を低減することができる。さらに加えて、EMC(電磁ノイズ)を軽減することもできる。
次に、図14で例示したように変調度を変化させたときの線間電圧パルス波形における高調波成分の削除の様子について説明する。図19は、変調度を変化させたときの線間電圧パルスにおける基本波と削除対象の高調波成分の振幅の大きさを示した図である。
図19(a)では、3次および5次の高調波を削除対象とした線間電圧パルスにおける基本波と各高調波の振幅の例を示している。この図によると、変調度が1.2以上の範囲では5次高調波が削除しきれずに現れることが分かる。図19(b)では、3次、5次および7次の高調波を削除対象とした線間電圧パルスにおける基本波と各高調波の振幅の例を示している。この図によると、変調度が1.17以上の範囲では5次および7次の高調波が削除しきれずに現れることが分かる。
なお、図19(a)に対応する線間電圧パルス波形と相電圧パルス波形の例を図20、21にそれぞれ示す。ここでは、要素数が2である行ベクトルを設定し、各要素(k1/3、k2/5)におけるk1、k2の値としてk1=1、k2=3をそれぞれ選択して、変調度を0から1.27まで変化させたときの線間電圧パルス波形と相電圧波形の例を示している。また、図19(b)は、図14、15にそれぞれ示した線間電圧パルス波形と相電圧パルス波形に対応している。
上記の説明から、変調度がある一定の値を超えると、削除対象とした高調波が削除しきれずに現れ始めることが分かる。また、削除対象とする高調波の種類(数)が多いほど、低い変調度で高調波を削除しきれなくなることが分かる。
次に、図6に示したPWM制御用のパルス変調器440におけるPWMパルス信号の生成方法について、図44、および図22を参照して説明する。図44はPWM制御用のパルス変調器440の構成を示す図である。PWM制御用パルス変調器440は、d軸電圧指令およびq軸指令電圧を受け、2軸の指令電圧を3相の電圧指令信号に変換する2相3相変換器490と、特定の周波数の三角波キャリアを発生させる搬送波発生器492と、3相の電圧指令信号と三角波キャリアを比較して、各相のスイッチング素子の導通または遮断するパルス信号をドライバ回路に出力する比較回路491を有する。図22(a)は、U相、V相、W相の各相における電圧指令信号と、PWMパルスの生成に用いる三角波キャリアとの波形を示している。各相の電圧指令信号は、位相を互いに2π/3ずつずらした正弦波の指令信号であり、変調度に応じて振幅が変化する。この電圧指令信号と三角波キャリア信号とをU、V、Wの各相についてそれぞれ比較し、両者の交点をパルスのオンオフのタイミングとすることで、図22(b)、(c)、(d)にそれぞれ示すようなU相、V相、W相の各相に対する電圧パルス波形が生成される。なお、これらのパルス波形におけるパルス数は、いずれも三角波キャリアにおける三角波パルス数に等しい。
図22(e)は、UV線間電圧の波形を示している。このパルス数は、三角波キャリアにおける三角波パルス数の2倍、すなわち各相に対する上記の電圧パルス波形におけるパルス数の2倍に等しい。なお、他の線間電圧、すなわちVW線間電圧およびWU線間電圧についても同様である。
図23は、PWMパルス信号によって形成される線間電圧の波形を変調度毎に描いた一例を示している。ここでは、変調度を0から1.27まで変化させたときの線間電圧パルス波形の例を示している。図23では、変調度が1.17以上になると、互いに隣接する2つのパルス間の隙間がなくなり、合わせて1つのパルスとなっている。こうしたパルス信号は過変調PWMパルスと呼ばれる。最終的には変調度1.27において、矩形波の線間電圧パルス波形となる。
図23に示した線間電圧パルス波形を対応する相電圧パルス波形で表した例を図24に示す。図24でも図23と同様に、変調度が1.17以上になると隣接する2つのパルス間の隙間がなくなっていくことが分かる。なお、図24の相電圧パルス波形と図23の線間電圧パルス波形との間には、π/6の位相差がある。
ここで、HMパルス信号による線間電圧パルス波形とPWMパルス信号による線間電圧パルス波形とを比較する。図25(a)は、HMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。これは、図12において変調度0.4の線間電圧パルス波形に相当する。一方、図25(b)は、PWMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。これは、図23において変調度0.4の線間電圧パルス波形に相当する。
図25(a)と図25(b)とをパルス数について比較すると、図25(a)に示すHMパルス信号による線間電圧パルス波形の方が、図25(b)に示すPWMパルス信号による線間電圧パルス波形よりも大幅にパルス数が少ないことが分かる。したがって、HMパルス信号を用いると、生成される線間電圧パルス数が少ないために制御応答性はPWM信号の場合よりも低下するが、PWM信号を用いた場合よりもスイッチング回数を大幅に減らすことができる。その結果、スイッチング損失を大幅に低減することができる。
図26は、切換器450の切替動作によってPWM制御モードとHM制御モードをモータ回転速度に応じて切り替えたときの様子を示している。ここでは、θuvl=πのときに切換器450の選択先をPWMパルス信号からHMパルス信号へと切り替えることにより、制御モードをPWM制御モードからHM制御モードへと切り替えたときの線間電圧パルス波形の例を示している。
次に、PWM制御とHM制御とにおけるパルス形状の違いについて、図27を参照して説明する。図27(a)は、PWMパルス信号の生成に用いられる三角波キャリアと、このPWMパルス信号によって生成されるU相電圧、V相電圧およびUV線間電圧とを示している。図27(b)は、HMパルス信号によって生成されるU相電圧、V相電圧およびUV線間電圧を示している。これらの図を比較すると、PWMパルス信号を用いた場合はUV線間電圧の各パルスのパルス幅が一定ではないのに対して、HMパルス信号を用いた場合はUV線間電圧の各パルスのパルス幅が一定であることが分かる。なお、前述のようにパルス幅が一定とはならない場合もあるが、これは正の振幅をもつパルスと負の振幅をもつパルスとが重なることによるものであり、パルスの重なりを分解すれば全てのパルスで同じパルス幅となる。また、PWMパルス信号を用いた場合は三角波キャリアがモータ回転速度の変動に関わらず一定であるため、UV線間電圧の各パルスの間隔もモータ回転速度によらず一定であるのに対して、HMパルス信号を用いた場合はUV線間電圧の各パルスの間隔がモータ回転速度に応じて変化することが分かる。
図28は、モータ回転速度とHMパルス信号による線間電圧パルス波形との関係を示している。図28(a)は、所定のモータ回転速度におけるHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。これは、図12において変調度0.4の線間電圧パルス波形に相当するものであり、電気角(UV線間電圧の基準位相θuvl)2π当たり16パルスを有する。
図28(b)は、図28(a)のモータ回転速度を2倍としたときのHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。なお、図28(b)の横軸の長さは、時間軸に対して図28(a)と等価となるようにしている。図28(a)と図28(b)とを比較すると、電気角2π当たりのパルス数は16パルスで変わらないが、同一時間内のパルス数が図28(b)では2倍となっていることが分かる。
図28(c)は、図28(a)のモータ回転速度を1/2倍としたときのHMパルス信号による線間電圧パルス波形の一例を示している。なお、図28(c)の横軸の長さも、図28(b)と同様に時間軸に対して図28(a)と等価となるようにしている。図28(a)と図28(c)とを比較すると、図28(c)では電気角π当たりのパルス数が8パルスであるため、電気角2π当たりのパルス数では16パルスで変わらないが、同一時間内のパルス数が図28(c)では1/2倍となっていることが分かる。
以上説明したように、HMパルス信号を用いた場合は、モータ回転速度に比例して線間電圧パルスの単位時間当たりのパルス数が変化する。すなわち、電気角2π当たりのパルス数を考えると、これはモータ回転速度によらず一定である。一方、PWMパルス信号を用いた場合は、図27で説明したように、モータ回転速度によらず線間電圧パルスのパルス数は一定である。すなわち、電気角2π当たりのパルス数を考えると、これはモータ回転速度が上昇するほど低減する。
図29は、HM制御とPWM制御においてそれぞれ生成される電気角2π当たり(すなわち線間電圧一周期当たり)の線間電圧パルス数と、モータ回転速度との関係を示している。なお図29では、8極モータ(極対数4)を用いて、HM制御において削除対象とする高調波成分を3,5,7次の3つとし、正弦波PWM制御で用いる三角波キャリアの周波数を10kHzとした場合の例を示している。このように電気角2π当たりの線間電圧パルス数は、PWM制御の場合はモータ回転速度が上昇するほど減少していくのに対して、HM制御の場合はモータ回転速度によらず一定であることが分かる。なお、PWM制御における線間電圧パルス数は、式(10)で求めることができる。
(線間電圧パルス数)
=(三角波キャリアの周波数)/{(極対数)×(モータ回転速度)/60}×2
・・・(10)
なお、図29では、HM制御において削除対象とする高調波成分を3つとした場合の線間電圧一周期当たりの線間電圧パルス数が16であることを示したが、この値は削除対象とする高調波成分の数に応じて前述のように変化する。すなわち、削除対象の高調波成分が2つである場合は8、削除対象の高調波成分が4つである場合は32、削除対象の高調波成分が5つである場合は64のように、削除対象とする高調波成分の数が1つ増すにつれて、線間電圧一周期当たりのパルス数が2倍になる。
以上説明した第1の実施の形態に係る制御回路172によって行われるモータ制御のフローチャートを図30に示す。ステップ901において、制御回路172はモータの回転速度情報を取得する。この回転速度情報は、回転磁極センサ193から出力される磁極位置信号θに基づいて求められる。
ステップ902において、制御回路172は、ステップ901で取得した回転速度情報に基づいて、モータ回転速度が所定の切替回転速度以上であるか否かを判定する。モータ回転速度が切替回転速度以上であればステップ903へ進み、切替回転速度未満であればステップ906へ進む。
ステップS903において、制御回路172は、ステップ901で取得した回転速度情報に基づいて、モータジェネレータ192が高速回転しているか否かを判定する。モータジェネレータ192が高速回転している場合、すなわちモータ回転速度が所定の回転速度以上である場合はステップ907へ進み、そうでなければステップ904へ進む。
ステップ904において、制御回路172は、HM制御において削除対象とする高調波の次数を決定する。ここでは前述のように、3次、5次、7次などの高調波を削除対象として決定することができる。なお、モータ回転速度に応じて削除対象とする高調波の数を変化させてもよい。たとえば、モータ回転速度が比較的低い場合は3次、5次および7次の高調波を削除対象とし、モータ回転速度が比較的高い場合は3次および5次の高調波を削除対象とする。このように、モータ回転速度が高くなるほど削除対象とする高調波の数を少なくすることで、高調波によるトルク脈動の影響を受けにくい高速回転域ではHMパルス信号のパルス数を減らして、スイッチング損失をより一層効果的に減少させることができる。
ステップ905において、制御回路172は、ステップ904で決定した次数の高調波を削除対象とするHM制御を行う。このとき、削除対象の高調波の次数に応じたHMパルス信号が前述のような生成方法に従ってパルス変調器430により生成されると共に、そのHMパルス信号が切換器450によって選択され、制御回路172からドライバ回路174へ出力される。ステップ905を実行したら、制御回路172はステップ901へ戻り、上記のような処理を繰り返す。
ステップ906において、制御回路172はPWM制御を行う。このとき、所定の三角波キャリアと電圧指令信号との比較結果に基づいて、前述のような生成方法によりPWMパルス信号がパルス変調器440において生成されると共に、そのPWMパルス信号が切換器450によって選択され、制御回路172からドライバ回路174へ出力される。ステップ906を実行したら、制御回路172はステップ901へ戻り、上記のような処理を繰り返す。
ステップ907において、制御回路172は矩形波制御を行う。矩形波制御は、前述のようにHM制御の一形態、すなわちHM制御において変調度を最大としたものと考えることができる。矩形波制御では高調波を削除することはできないが、スイッチング回数を最小とすることができる。なお、矩形波制御に用いられるパルス信号は、HM制御の場合と同様にパルス変調器430によって生成することができる。このパルス信号が切換器450によって選択され、制御回路172からドライバ回路174へ出力される。ステップ907を実行したら、制御回路172はステップ901へ戻り、上記のような処理を繰り返す。
以上説明した第1の実施の形態によれば、上述した作用効果を奏し、さらにまた次に記載の作用効果を奏する。
(1)電力変換装置140は、上アーム用および下アーム用のIGBT328,330を備えた3相フルブリッジ型のパワースイッチング回路144と、各相のIGBT328,330に対して駆動信号を出力する制御部170とを具備しており、バッテリ136から供給される電圧を駆動信号に応じたIGBT328,330のスイッチング動作によって電気角で2π/3 rad毎にずらした出力電圧に変換し、モータジェネレータ192へ供給する。この電力変換装置140は、HM制御モードと正弦波PWM制御モードとを所定の条件に基づいて切り替える。HM制御モードでは、異なる相で上アーム用のIGBT328と下アーム用のIGBT330をそれぞれオンさせてバッテリ136からモータジェネレータ192に電流を供給する第1の期間と、全相で上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330のいずれか一方をオンさせてモータジェネレータ192に蓄積されたエネルギーでトルクを維持する第2の期間とを、電気角に応じて交互に形成する。正弦波PWM制御モードでは、正弦波指令信号と搬送波との比較結果に基づいて決定したパルス幅に応じてIGBT328,330をオンさせてバッテリ136からモータジェネレータ192に電流を供給する。このようにしたので、トルク脈動とスイッチング損失を低減しつつ、モータジェネレータ192の状態に応じた適切な制御を行うことができる。
(2)電力変換装置140は、HM制御モードと正弦波PWM制御モードとをモータジェネレータ192の回転速度に基づいて切り替えるようにした(図30ステップ902、905、906)。これにより、モータジェネレータ192の回転速度に応じて適切な制御モードに切り替えることができる。
(3)HM制御モードは、モータジェネレータ192の1回転ごとに各相のIGBT328,330をそれぞれ1回ずつオンおよびオフさせる矩形波制御モードをさらに含むようにした。これにより、モータジェネレータ192がトルク脈動の影響が小さい高回転状態であるときなどは、スイッチング損失を最小化することができる。矩形波制御モードは図3に示す如く回転速度の最も高い領域で使用される制御モードであるが、高い変調度を要求される高出力領域でも使用される、本実施の形態では、変調度を高くすることで、半周期当たりのスイッチング回数が徐々に減少し、スムーズに上記矩形波制御モードに移行することが可能である。
(4)HM制御モードでは、第1の期間を形成する電気角位置と、第1の期間の長さとの少なくとも一方を変化させて、モータジェネレータ192を流れる交流電流の高調波成分を所望の値に変化させる。この高調波成分の変化により、HM制御モードから矩形波制御モードへ移行する。より具体的には、第1の期間の長さを変調度に応じて変化させ、変調度が最大であるときに矩形波制御を行うようにした。これにより、HM制御モードから矩形波制御モードへの移行を容易に実現することができる。
−第2の実施の形態−
本発明の第2の実施の形態に係る制御回路172によるモータ制御系を図31に示す。このモータ制御系は、図6に示した第1の実施の形態によるモータ制御系と比べて、過渡電流補償器460をさらに有している。
過渡電流補償器460は、PWM制御からHM制御へ、またはHM制御からPWM制御へと制御モードを切り替える際に、モータジェネレータ192に流れる相電流において生じる過渡電流を補償するための補償電流を発生させる。この補償電流の発生は、制御モード切替時の相電圧を検出し、検出された相電圧を打ち消すような補償パルスを生成するためのパルス状の変調波を過渡電流補償器460からドライバ回路174へ出力することによって行われる。過渡電流補償器460から出力された変調波に基づく駆動信号がドライバ回路174からパワースイッチング回路144の各IGBT328,330へ出力されることにより、補償パルスが生成され、補償電流を発生させることができる。
上記の過渡電流補償器460による補償電流の発生について、図32を参照して説明する。図32には、上から順に、PWMパルス信号による線間電圧波形および相電圧波形、制御モード切替時の相電流波形、補償パルス波形、制御モード切替後のHMパルス信号による線間電圧波形および相電圧波形の各例をそれぞれ示している。なお、図32では、PWMパルス信号による線間電圧波形および相電圧波形を除いて、PWM制御モードからHM制御モードへの切り替えが図中の電気角(基準位相)πにおいて行われたときの例を示している。
制御モードの切り替えを行うときには、図中に示すように相電流が検出される。この相電流の検出結果に基づいて補償パルスのパルス幅が決定され、相電圧と反対の符号(ここでは負)を有する振幅Vdc/2の補償パルスが出力される。これにより図中に示すように、制御モードの切り替え直後に発生する過渡電流を打ち消すような補償電流が相電流において流れる。補償パルスの出力が終わった後、HMパルス信号が出力される。
図33は、制御モードの切替時点を起点として、図32に示した相電流波形と補償パルス波形の一部をそれぞれ拡大したものを示している。図33に示すように、過渡電流の補償パルスVun_pが出力されている間、補償電流lupが負側に増大していく。時刻t0において過渡電流lutと補償電流lupの大きさが一致すると、このタイミングに合わせて補償パルスVun_pの出力が終了する。その後は過渡電流lutと補償電流lupが同様の傾斜でそれぞれ0に収束していく。これにより、過渡電流lutと補償電流lupとの合成である相電流luaを時刻t0以降において0に収束させることができる。
上記のように、過渡電流lutと補償電流lupの大きさが一致するタイミング、すなわち過渡電流lutが補償電流lupによって完全に打ち消されるタイミングに合わせて補償パルスVun_pのパルス幅を決定することで、相電流luaを素早く0に収束させることができる。なお、こうしたパルス幅は、制御モード切替時の相電流luaの検出結果に基づいて、回路の時定数を考慮して決定することができる。
なお、図32、33ではPWM制御モードからHM制御モードへの切替時について説明したが、反対にHM制御モードからPWM制御モードへ切り替える場合も、同様の方法により過渡電流補償器460から補償パルスを出力し、過渡電流を打ち消すような補償電流を相電流において発生させることができる。
以上説明した第2の実施の形態に係る制御回路172によって行われるモータ制御のフローチャートを図34に示す。ステップ901〜907において、制御回路172は、図30のフローチャートに示した第1の実施の形態による処理と同様の処理を行う。
ステップ908において、制御回路172は、制御モードの切り替えがあったか否かを判定する。PWM制御からHM制御またはHM制御からPWM制御へ制御モードの切り替えが行われた場合、制御回路172はステップ909へ進む。一方、制御モードの切り替えが行われていない場合、制御回路172はステップ901へ戻って処理を繰り返す。なお、ステップ908の判定結果は、HM制御用のパルス変調器430またはPWM制御用のパルス変調器440から補償器割り込み信号を出力することにより、過渡電流補償器460へと伝えられる。
ステップ909において、制御回路172は、前述のような方法により補償パルスを生成することで補償電流を発生させ、相電流に生じる過渡電流の補償を過渡電流補償器460において行う。ステップ909を実行したら、制御回路172はステップ901へ戻って処理を繰り返す。
ここで、ステップ909における過渡電流補償について、図35のフローチャートを参照してさらに詳しく説明する。最初に過渡電流補償器460は、制御モードを切り替える直前のU相、V相、W相各相の過渡電流を検出する。この過渡電流の検出は、電流センサ180を用いて行われる。次に過渡電流補償器460は、予め定められた回路時定数τを用いて、検出した過渡電流を補償電流が打ち消す向きとなるように、相電圧印加時間t0を各相について計算する。
相電圧印加時間t0の計算は、図36に示す回路モデルに基づいて行われる。すなわち、予め設定された回路インダクタンスLと回路抵抗rから回路時定数τ=L/rを算出し、この回路時定数τと所定の誘起電圧Euに基づいて、過渡電流として検出されたU相電圧luaを打ち消すように、U相電圧パルスVuのパルス幅としての相電圧印加時間t0を決定する。ここで、過渡電流を完全に打ち消したい場合は、補償電流が過渡電流と釣り合うまで相電圧印加時間t0を維持すればよい。なお、図36ではU相の回路モデルを例として示したが、V相、W相についても同様である。
次に過渡電流補償器460は、計算した相電圧印加時間t0に従って、各相の相電圧の印加を開始する。ここでは、過渡電流を打ち消す方向に、振幅Vdc/2の相電圧を相電圧印加時間t0だけ印加する。相電圧の印加を開始してからの時間が目標印加時間(相電圧印加時間)t0に達したら、過渡電流補償器460は相電圧の印加を停止する。こうした過渡電流補償器460による相電圧の印加が終了した後は、過渡電流を補償電流が打ち消しながら時定数τに従って減衰する。以上説明したようにして、ステップ909における過渡電流補償が行われる。
以上説明した第2の実施の形態によれば、HM制御モードとPWM制御モードとを切り替えるときに、過渡電流補償器460を用いて、モータジェネレータ192を流れる交流電流に生じる過渡電流を補償するための補償パルスを電力変換装置140から出力する。これにより、制御モードの切替時にモータジェネレータ192の回転を素早く安定させることができる。
なお、上記のような制御モードの切替時以外にも補償パルスを出力して過渡電流を補償するようにしてもよい。たとえば、HM制御モードにおいて削除する高調波の次数を変更する場合や、変調度またはモータ回転速度が急激に変化した場合など、過渡電流が生じると思われるような状態遷移時においても、過渡電流補償器460を用いて補償パルスを出力し、過渡電流を補償することができる。あるいは、相電流の検出結果に基づいて過渡電流の有無を判断し、補償パルスを出力するか否かを決定してもよい。こうした補償パルスの出力は、制御モードの切替時に加えて行ってもよいし、制御モードの切替時に替えて行ってもよい。
−第3の実施の形態−
本発明の第3の実施の形態に係る制御回路172によるモータ制御系を図37に示す。このモータ制御系は、図31に示した第2の実施の形態によるモータ制御系と比べて、電流制御器(ACR)422、チョッパー周期発生器470、1相チョッパー制御用のパルス変調器480をさらに有している。
電流制御器(ACR)422は、電流制御器(ACR)420、421と同様に、トルク指令・電流指令変換器410から出力されたd軸電流指令信号Id*およびq軸電流指令信号Iq*と、電流センサ180により検出されたモータジェネレータ192の相電流検出信号lu、lv、lwとに基づいて、d軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*をそれぞれ演算する。電流制御器(ACR)422において求められたd軸電圧指令信号Vd*およびq軸電圧指令信号Vq*は、1相チョッパー制御用のパルス変調器480へ出力される。
チョッパー周期発生器470は、所定の周期で繰り返されるチョッパー周期信号をパルス変調器480に対して出力する。チョッパー周期信号の周期は、モータジェネレータ192のインダクタンスを考慮して予め設定される。パルス変調器480は、チョッパー周期発生器470からのチョッパー周期信号に基づいて1相チョッパー制御用のパルス信号を生成し、切換器450へ出力する。すなわち、パルス変調器480が出力する1相チョッパー制御用のパルス信号の周期は、モータジェネレータ192のインダクタンスに応じて決定される。
切換器450は、モータジェネレータ192が停止または極低速の回転状態にあると判断されるときに、パルス変調器480から出力された1相チョッパー制御用のパルス信号を選択し、ドライバ回路174(不図示)へ出力する。これにより、電力変換装置140において1相チョッパー制御が行われるようにする。
パルス変調器480が出力する1相チョッパー制御用のパルス信号は、モータジェネレータ192が停止または極低速の回転状態であって適切なモータ制御が行えないような場合に、適切なモータ制御が可能となるまでモータジェネレータ192の回転速度を上昇させるための信号である。なお、モータジェネレータ192が停止または極低速の回転状態にあると、その回転状態を表す磁極位置信号θが回転磁極センサ193から正しく得られないために適切なモータ制御が行えなくなる。1相チョッパー制御用のパルス信号の周期は、チョッパー周期発生器470からのチョッパー周期信号に応じて決定される。
上記のようにモータジェネレータ192が停止または極低速の回転状態であるときにHM制御を行うと、前述の第1の期間または第2の期間のいずれか一方が長時間維持されることとなる。なお、第1の期間は、各相で個別に上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330をオンさせてバッテリ136からモータジェネレータ192に電流を供給する通電期間であり、いずれか1相でオンするアームと他の2相でオンするアームとが異なる。また、第2の期間は、全相で共通に上アーム用のIGBT328または下アーム用のIGBT330をオンさせてモータジェネレータ192に蓄積されたエネルギーでトルクを維持する3相短絡期間である。
第1の期間が長時間維持されると、その間にオンされているIGBT328または330にロック電流(直流電流)が流され続けることとなるため、異常発熱や破損を引き起こす原因となる。一方、第2の期間が長時間維持されると、モータジェネレータ192に電力が供給されないため、モータジェネレータ192を起動させることができなくなる。本実施形態では、こうした状況に陥るのを避けるため、モータジェネレータ192が停止または極低速の回転状態にありPWM制御を行わないと判断したときには、1相チョッパー制御モードを適用し、1相チョッパー制御用のパルス信号を制御回路172からドライバ回路174へ変調波として出力するようにする。この変調波に応じて、ドライバ回路174よりパワースイッチング回路144の各IGBT328,330へ駆動信号が出力される。
パルス変調器480から出力されるパルス信号を用いた1相チョッパー制御の一例を図38に示す。図38では、U相、V相、W相の順に1相チョッパー制御を行う場合の各相電圧波形の例を示している。最初に、U相電圧をVdc/2と-Vdc/2の間でパルス状に変化させつつ、V相およびW相の電圧を-Vdc/2とする。このときのパルス幅は、チョッパー周期発生器470が出力するチョッパー周期信号に応じて決定される。このようにすると、U相電圧がVdc/2の期間では、U相の上アームがオンされると共に、V相およびW相の下アームがそれぞれオンされるため、U相に電流が流れるU相通電期間が形成される。また、U相電圧が-Vdc/2の期間では、U相、V相およびW相の下アームがそれぞれオンされるため、3相短絡期間が形成される。
次に、同じようにU相電圧をVdc/2と-Vdc/2の間でパルス状に変化させつつ、V相およびW相の電圧をVdc/2とする。このとき、U相電圧が-Vdc/2の期間では、U相の下アームがオンされると共に、V相およびW相の上アームがそれぞれオンされるため、U相に電流が流れるU相通電期間が形成される。また、U相電圧がVdc/2の期間では、U相、V相およびW相の上アームがそれぞれオンされるため、3相短絡期間が形成される。
以降、V相およびW相についても同様に、V相電圧をVdc/2と-Vdc/2の間でパルス状に変化させつつ、U相およびW相の電圧を最初に-Vdc/2とし、次にVdc/2とする。また、W相電圧をVdc/2と-Vdc/2の間でパルス状に変化させつつ、U相およびV相の電圧を最初に-Vdc/2とし、次にVdc/2とする。このような1相チョッパー制御を繰り返し行うことにより、U相、V相、W相の各相について、それぞれ通電期間と3相短絡期間を電気角に関わらず交互に形成することができる。これにより、モータジェネレータ192が停止または極低速の回転状態であっても、その状態からモータジェネレータ192の回転速度を上昇させることができる。
なお、上記のようにして1相チョッパー制御を行うことにより、モータジェネレータ192の回転速度が上昇して停止または極低速の回転状態から脱した場合は、1相チョッパー制御から他の制御、すなわちPWM制御またはHM制御へと切り替える。その後は、前述の第2の実施の形態で説明したのと同様の方法によりモータ制御を行う。
以上説明した第3の実施の形態に係る制御回路172によって行われるモータ制御のフローチャートを図39に示す。ステップ901〜909において、制御回路172は、図34のフローチャートに示した第2の実施の形態による処理と同様の処理を行う。
ステップ910において、制御回路172は、ステップ901で取得した回転速度情報に基づいて、モータジェネレータ192が停止または極低速の回転状態であるか否かを判定する。モータジェネレータ192が停止または極低速の回転状態にあると判断されるような所定の回転速度未満である場合、すなわち、回転磁極センサ193から磁極位置信号θが正しく得られず、モータジェネレータ192の回転状態を検出できないと判定される状況の場合は、ステップ911へ進む。そうでなければステップ906へ進み、前述したようなPWM制御を行う。
ステップ911は図3における回転速度のもっとも低い領域の制御で、制御回路172は1相チョッパー制御を行う。ここでは、チョッパー周期発生器470からのチョッパー周期信号に基づいて、前述のような生成方法により1相チョッパー制御用のパルス信号がパルス変調器480において生成されると共に、そのパルス信号が切換器450によって選択され、制御回路172からドライバ回路174へ出力される。ステップ911を実行したら、制御回路172はステップ908へ進む。
なお、以上説明した第3の実施の形態では、図31に示した第2の実施の形態によるモータ制御系を元に、電流制御器(ACR)422、チョッパー周期発生器470、および1相チョッパー制御用のパルス変調器480の各構成をさらに備えたモータ制御系を例として説明した。しかし、図6に示した第1の実施の形態によるモータ制御系を元に、これらの各構成をさらに備えたモータ制御系としてもよい。
以上説明した第3の実施の形態によれば、モータジェネレータ192の回転状態を検出可能であるか否か且つPWM制御を行うか否かを判定し(図39ステップ910)、その判定結果に基づいて、各相において第1の期間と第2の期間とを電気角に関わらず交互に形成するための所定の1相チョッパー制御用パルス信号を、1相チョッパー制御用のパルス変調器480より出力する(ステップ911)。このようにしたので、モータジェネレータ192が停止または極低速の回転状態であって適切なモータ制御が行えないような場合に、適切なモータ制御が可能となるまでモータジェネレータ192の回転速度を上昇させることができる。
−変形例−
以上説明した各実施の形態は、次のように変形することもできる。
(1)上記各実施の形態では、モータ回転速度が所定の切替回転速度以上であれば矩形波制御を含むHM制御を行い、切替回転速度未満であればPWM制御を行うことで、電力変換装置140において制御モードの切替を行うこととした。しかし、こうした制御モードの切替は各実施形態において説明した形態に限らず、任意のモータ回転速度で適用することができる。たとえば、モータ回転速度が0〜10,000 r/minである場合に、0〜1,500 r/minの範囲ではPWM制御、1,500〜4,000 r/minの範囲ではHM制御、4,000〜6,000 r/minの範囲ではPWM制御、6,000〜10,000 r/minの範囲ではHM制御をそれぞれ行うことができる。このようにすれば、モータ回転速度に応じて最適な制御モードを用いて、より一層きめ細かいモータ制御を実現することができる。
(2)上記各実施の形態では、モータ回転速度が所定の切替回転速度未満のときにはPWM制御を行うこととした。しかし、本発明をハイブリッド自動車などに適用した場合に歩行者等に対して注意を促す目的で、モータ回転速度が低いときにPWM制御に替えてHM制御を行うようにしてもよい。モータ回転速度が低いときにHM制御を行うと、高調波成分を除去しきれないため電流歪が生じ、これがモータ動作音の原因となる。したがって、こうしたモータ動作音を意図的に発生させることで、車両周囲の歩行者等に対して注意を喚起することができる。なお、このようなHM制御を利用したモータ動作音の発生は、車両の運転者がスイッチ等を操作することで有効化あるいは無効化できるようにしてもよい。あるいは、車両が周囲の歩行者等を検出して自動的にHM制御を適用し、モータ動作音を発生させるようにしてもよい。この場合、歩行者の検出には、たとえば赤外線センサや画像判定など、周知の様々な方法を用いることができる。さらに、予め記憶された地図情報などに基づいて車両の現在地が市街地であるか否かを判定し、市街地であればHM制御を適用してモータ動作音を発生させることもできる。
上述の図6に記載のHM制御用のパルス変調器430の動作原理を図4乃至図6を用いて説明すると共に、パルス変調器430をマイクロプロセッサを用いて実現する場合の図8を用いて説明した。既に図4から図8を用いて動作原理および実現方法を十分に説明したが、再度ここで説明する。
再び上述するパルス変調器430の動作の基本原理を図40から図43を用いて説明する。上述の如く、直流電力から変換しようとする交流電力の単位位相当たりの、例えば1周期当たりのスイッチング回数が非常に少ない、極端な状態を想定すると、上述した矩形波制御の状態が考えられる。この矩形波制御の状態では、図40(a)に示すように半周期に一度スイッチングする、すなわち1周期に2度スイッチングするように、パワースイッチング回路144のスイッチング素子328と330が制御される。この制御では、PWM方式に比べスイッチング回数が格段に少ないため、スイッチングによる損失が大幅に低減する。しかし反面、高調波成分(5次、7次、11次、・・・)が多く含まれ、これらの高調波成分が歪を生じさせることになる。従って通常の制御において上記高調波による歪を少なくするためには、上記図40(a)に示した制御状態よりパワースイッチング回路144のスイッチング素子のスイッチング回数を増やし、上記高調波成分をできるだけ除去することが望ましい。除去すべき高調波成分は変換される交流電力の使用目的により異なるが、全ての高調波成分を除去する必要が無いので、PWM方式に比べるとスイッチング回数は減少する。例えば三相回転電機に供給する交流電力では、3の倍数となる高調波成分は互いに相殺されるので、除去しなくても大きな問題とはならない。
次に上記高調波成分の除去について、高調波成分の内の5次高調波成分を除去する方法を例として、説明する。5次高調波成分とは図40(a)および(b)に示す如く、交流電力波形の半周期である電気角πの期間に5回のピーク値を有する振動波形のことである。図40(a)で、矩形波42は、正弦波の基本波の他にフーリエ展開で求められる多数の高調波成分を含んでおり、その高調波成分の1つが上述の5次高調波45である。この5次高調波45を単位位相毎に、例えば半周期毎に図40(b)に示す如く、重ね合わせると重ね合わせ波形55となる。当然ではあるが、重ね合わせ波形55をフーリエ展開すると上述の5次高調波となる。もともとの矩形波に含まれる5次高調波成分を消去する場合に、パワースイッチング素子のスイッチング回数をできるだけ低減する観点から、削除したい高調波をできるだけまとめて消去することが望ましい。そこで、図のように削除前の矩形波に含まれる5次高調波成分と同一面積の重ね合わせ波形55を、特定位置で削除する。この実施の形態では、半周期毎に1つにまとめた重ね合わせ波形55を削除するようにいている。このようにすることで上述のとおり、パワースイッチング回路144のスイッチング素子328と330のスイッチング回数を少なくできる。
上記重ね合わせ波形55を図40(a)に記載の矩形波42から削除すると、削除された波形は5次高調波を含まない。図40(a)に示す矩形波42から、5次高調波の重ね合わせ波形55を削除した図40(c)の波形62は5次高調波を含まない。図40(c)に示す波形57は、重ね合わせ波形55を削除した面積を示しており、この波形57の面積は重ね合わせ波形55と同じ面積で逆波形を成している。すなわち符号が反転した同一形状の波形を示している。
図41は、図40(c)に示す波形62を作るために、パワースイッチング回路144のスイッチング素子328と330をスイッチング制御する波形を示す。図41(a)は図40(c)に示す波形62と同じ波形であり、図41(a)に示す電流波形を流すことにより、5次高調波が削除された交流波形の電流が供給されることとなる。図41(a)に示す電流波形を流すための動作タイミングを示す波形が図41(b)の波形である。図41(b)に示す波形75によって上述の5次高調波を削除する波形65が作られる。
同様の手法で他の高調波も削除することができる。 図42は、図40および図41で示した高調波の削除方法の考え方を、フーリエ級数展開に基づいて考えるときのフローで示したものである。ここでは線間電圧波形をf(ωt)とし、線間電圧波形のパルス成形フローを示している。パルス波形の対称性を考え、f(ωt)=−f(ωt+π)および、f(ωt)=f(π−ωt)の条件を加えてパルスパターンを求める方法を示している。パルスパターンは、f(ωt)をフーリエ級数展開し削除する高調波次数の成分をゼロとおいた方程式を解くことで求まる。
図43は、一例として、3次、5次、7次高調波が削除されたU相とV相の線間電圧のパターンの生成過程ならびに特徴を示した図である。ただし線間電圧とは各相の端子の電位差であり、U相の相電圧をVu、V相の相電圧をVvとすると、線間電圧VuvはVuv=Vu−Vvで表わされる。V相とW相との線間電圧、W相とU相との線間電圧も同様なので、以下、U相とV相との線間電圧のパターンの生成を代表例として説明する。
図43の横軸はU相とV相との間の線間電圧の基本波を基準として軸をとっており、以下略してUV線間電圧基準位相θuvlと名付ける。このUV線間電圧基準位相θuvlは、図40の横軸である電気角に対応している。なお、π ≦ θuvl ≦ 2πの区間は、図示した0 ≦ θuvl ≦ πの電圧パルス列の波形の符号を反転させた対称的形状なのでここでは省略する。 図43に示すように、電圧パルスの基本波はθuvlを基準とする正弦波電圧とする。生成するパルスはこの基本波のπ/2を中心に、図示する手順に従って、θuvlに対して図に例示したような位置にそれぞれ配置される。ここで、上記のようにθuvlは電気角に対応するものであるため、図43におけるパルスの配置位置を電気角により表すことができる。したがって、以下では、このパルスの配置位置を特定の電気角位置と定義する。これにより、S1〜S4、S1’〜 S2’のパルス列ができる。このパルス列は、 基本波に対する3次、5次、7次高調波を含まないスペクトル分布を有する。このパルス列は、言い換えれば、0 ≦ θuvl ≦ 2πを定義域とする矩形波から3次、5次、7次高調波を削除した波形である。なお、削除する高調波の次数は3次、5次、7次以外も可能である。削除する高調波は、基本波周波数が小なるときは高次まで消去し、基本波周波数が大なるときは低次のみでよい。たとえば、回転数が低いときは5次、7次、11次を削除し、回転数の上昇とともに5次、7次の削除に変更し、さらに回転数が上昇した場合は5次のみの削除、という具合に削除する次数を変化させる。これは、高回転域では、モータの巻線インピーダンスが大きくなり、電流脈動が小さくなるからである。
同様にトルクの大小に応じて、削除する高調波の次数を変化させる場合もある。例えば、ある回転数を一定とした条件にてトルクを増大させたとき、トルクが小なる場合は5次、7次、11次を削除するパターンを選択し、トルクの増大とともに5次、7次の削除とし、さらにトルクが増大した場合は5次のみ削除という具合に削除する次数を変化させる。
また、上記のように単にトルクや回転数の増大に伴って削除する次数を減少させるばかりではなく、逆に増加させたり、あるいはトルクや回転数の増減にかかわらず削除する次数を変化させない場合もありうる。これらは、モータのトルクリプル、騒音、EMCなどの指標の大小を勘案しながら決定するべきものであるため、回転数やトルクに対し単調に変化するとは限らないものである。
上述のとおり、図40から図43に示す実施の形態では、制御対象への歪の影響を考慮して、削除したい次数の高調波を選択することができる。上述したように削除しようとする高調波の次数の種類が増えるほど、パワースイッチング回路144のスイッチング素子328と330のスイッチング回数が増大する。上記実施の形態では、制御対象への歪の影響を考慮して、削除したい次数の高調波を選択することができるので、必要以上に多種類の高調波を削除することを防止でき、制御対象への歪の影響を考慮して上記スイッチング素子328と330のスイッチング回数を適切に低減できる。
上述の実施の形態で説明したように線間電圧の制御では、出力しようとする交流電力の半サイクルである位相0〔rad〕からπ〔rad〕のスイッチングタイミングと位相π〔rad〕から2π〔rad〕のスイッチングタイミングとを同じになるように制御しており、制御を単純化でき、制御性が向上する。さらに位相0〔rad〕からπ〔rad〕あるいは位相π〔rad〕から2π〔rad〕の期間においても、位相π/2あるいは3π/2を中心として同じスイッチングタイミングで制御しており、制御を単純化でき、制御性が向上する。
さらに、図40(b)で説明したように削除したい次数の高調波を重ね合せ、図40(c)で説明したように、重ね合わせた状態で駆除するので、パワースイッチング回路144のスイッチング素子328と330のスイッチング回数を低減できる。
以上の説明はあくまで一例であり、本発明は上記の各実施形態の構成に何ら限定されるものではない。