JP2010196018A - 金属元素含有ナノ粒子が分散されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 ポリアリーレンスルフィド樹脂を溶解可能な有機溶剤に、ポリアリーレンスルフィド樹脂と無機金属化合物とを溶解させた後、析出させることを特徴とする、金属元素含有ナノ粒子が分散されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。更に好ましくは、高温密閉下においてポリアリーレンスルフィド樹脂を溶解可能な有機溶剤にポリアリーレンスルフィド樹脂と無機金属化合物とを溶解させる。
【選択図】 なし
Description
また、実質的に溶融混練の工程を経るために、溶融混練にかかる前記問題も解決なされていない。
PAS樹脂と無機金属化合物の両方を一端有機溶媒に溶解させた後、両方をほぼ同時に析出させるので、PAS樹脂中に無機金属化合物由来の金属元素含有ナノ粒子が均一に分散した組成物を得ることができる。
該方法は、無機金属化合物を一端溶解し再析出させるために、得られる金属元素含有粒子がナノサイズ化しやすい。更に無機金属化合物中の金属が還元されやすい種類(貴金属系)である場合には、溶解析出といった工程中にPAS樹脂に還元され単体金属のナノ粒子の分散物が期待でき、あるいは使用する無機金属化合物がそのままの形で析出される場合には、無機金属化合物のナノ粒子の分散物が期待できる。
更に、マトリックスとなるPAS樹脂が溶媒に溶解しており、溶融混練時よりもポリアリーレンスルフィド分子鎖間が拡大しているために、析出した金属元素含有ナノ粒子がより均一分散化しやすい。そのため、極めて小粒径の金属元素含有粒子が分散されたPAS樹脂組成物を得ることが可能である。
また、マトリックスとなるPAS樹脂を溶媒させるため、溶融混練時よりも拡大したポリアリーレンスルフィド分子鎖間に析出した金属元素含有ナノ粒子がより均一分散化しやすく、ミクロンメートルオーダーの粗大粒子を含まない、極めて小粒径の金属元素含有粒子が分散されたPAS樹脂組成物を得ることが可能である。
本発明の製造方法により得られる組成物中に含まれる「金属元素含有ナノ粒子」とは、金属元素含有化合物のナノ粒子である。これは、後述の、使用する金属化合物をPAS樹脂と共に有機溶媒に溶解し再析出されて得た粒子であり、使用する金属化合物の金属種や溶解析出する条件により、析出された粒子は、溶解前の金属化合物そのものであるほかに、金属イオン種や還元された金属単体や、共存成分(残存水分、原料金属化合物由来の酸素)により酸化された金属酸化物を含むと推定される。本発明においては得られる組成物中に含まれるナノ粒子が金属元素を含むことが証明されているために、このような表現とした。
本発明で使用するPAS樹脂としては、特に限定されず、公知のPAS樹脂が使用できる。例えば置換基を有してもよい芳香族環と硫黄原子が結合した構造の繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体、およびそれらの混合物あるいは単独重合体との混合物等が挙げられる。
これらのPAS樹脂の代表的なものとしては、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPS樹脂という)が挙げられる。該PPS樹脂の中でも、上記繰り返し単位の芳香環への結合がパラ位である構造を有するものが耐熱性や結晶性の面で好ましい。
また、PAS樹脂には、メタ結合、エーテル結合、スルホン結合、スルフィドケトン結合、ビフェニル結合、フェニルスルフィド結合、ナフチル結合を10モル%未満を上限とし(但し3官能以上の結合を含む成分を共重合させる場合は5モル%を上限として)含有させても良い。本発明では後述の通りスルフィド(−S−)が金属含有材料の分散に寄与していると考えられるため、これらの密度が共重合により大幅に低下したPAS樹脂を用いることは適さない。
本発明に使用するPAS樹脂の分子量分布については特に制限はないが複合化操作の際でのポリフェニレンスルフィドの溶媒への溶解が容易である観点より、一定以下の分子量であることが好ましい。好ましくは1−クロロナフタレンを溶媒とするゲル浸透クロマトグラフィーにより求められる分子量分布のピーク分子量が5万以下、更に好ましくは4.5万以下である。
PAS樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)ジハロゲノ芳香族化合物と、更に必要ならばその他の共重合モノマーとを、硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、2)ジハロゲノ芳香族化合物と、更に必要ならばその他の共重合モノマーとを、極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下に、重合させる方法、3)p−クロルチオフェノールと、更に必要ならばその他の共重合モノマーとを自己縮合させる方法、4)有機極性溶媒中で、スルフィド化剤とジハロゲノ芳香族化合物と、更に必要ならばその他の共重合モノマーとを反応させる方法等が挙げられる。
これらの方法のなかでも、4)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩を添加したり、水酸化アルカリを添加しても良い。
上記4)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物を含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02〜0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07−228699号公報参照。)で得られるものが特に好ましい。
本発明では、PAS樹脂は有機溶剤に溶解することが必須であるため、使用する有機溶剤はPAS樹脂を一定条件下で溶解できる必要がある。PAS樹脂を溶解させる条件は常温でも加温下でも良いが、現在知られている溶媒では一定以上の分子量のPAS樹脂を溶解させるためには一定温度への加温が必要である。PAS樹脂を溶解させることができる溶媒としては、アミド系溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−シクロヘキシルピロリドン、N−メチルカプロラクタム、テトラメチル尿素、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が、スルホキシド系溶媒としてテトラメチレンスルホキシド、ジメチルスルホキシド等が、その他の溶媒としてはポリエチレンジアルキルエーテルや1-クロロナフタレン、ジフェニルスルフィドが例示できる。このなかでも特に、アミド系溶媒は各種の無機金属化合物を容易に溶解性させることができ、複合化成分を広く選択できる点、複合化成分含有率を多くできるため特に好ましく用いられる。中でもNMPが特に好ましい。
本発明で使用する無機金属化合物は、有機溶剤にPAS樹脂が溶解する条件下(主に加温下)において有機溶媒に大部分が溶解すればよい。使用できる無機金属化合物としては金属塩化物、金属臭化物、金属ヨウ化物等のハロゲン化金属、過塩素酸金属、塩素酸金属、金属硝酸塩、オキシハロゲン化物、が比較的有機溶媒に対して溶解性が高いため好ましい。これら以外の材料でも前記の有機溶剤への溶解条件さえ満たせば、金属酸化物、金属硫酸塩、金属亜硫酸塩、金属ホウ酸塩、金属リン酸塩、金属硫化物も用いることができる。またこれらは水和物を用いても良い。
前記有機または無機金属化合物中に用いられる金属種は特に限定はないが典型金属、遷移金属が好ましく用いられる。典型金属としてはアルミニウム、亜鉛、インジウム、スズ、鉛、アンチモン等、遷移金属としてはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、セリウム等の各種金属を例示することが出来るが、これらに限定されない。またこれらの金属化合物は必要に応じ複数種用いても良い。
前記有機溶剤に、前記PAS樹脂と前記無機金属化合物とを溶解させた後、析出させる。PAS樹脂は常温下では各種溶媒に不溶と言われておりPAS樹脂を溶解させるためには実質的には加温が必要となるため、具体的には、高温下においてPAS樹脂を溶解可能な有機溶剤にPAS樹脂と無機金属化合物とを溶解させた後、冷却して析出させる。そのため、本発明の製造方法に使用する製造装置としては、PAS樹脂と無機金属化合物とを有機溶剤に溶解させることができる溶解槽を持つ装置であり、加温設備が必要となる。さらに加温に要する温度が使用する有機溶剤の沸点付近や、沸点を超える場合には加温を有効に行うために耐圧容器が必要となる。加温可能な耐圧容器としてはオートクレーブを例示することができる。通常、PAS樹脂(特にPPS)の合成設備は加温可能な耐圧容器を備えているため好ましく用いることができる。
他の方法としてはPAS樹脂溶液を水、アルコール等の貧溶媒に注入し、析出させることによっても良い。
本発明におけるナノ粒子の構造、あるいはPAS樹脂との複合化状態は完全には明らかとなっていないが、概ね下記の4種類の状態と推定している。
(1)単体金属:PAS樹脂はスルフィド部位がスルフォキシド、スルフォンと酸化される上、高温下ではベンゼン環部位が酸化することも知られている。従って共存する無機金属化合物を還元する能力を持つ。複合化の原料として用いられる無機金属化合物中の金属が還元されやすい種類(貴金属系)である場合には単体金属として複合化される可能性がある。
(2)金属酸化物:原料として使用する無機金属化合物中の金属が還元されにくい卑金属の場合にはPAS樹脂により還元されることはない。この場合、金属化合物としては一般に金属酸化物が最も安定であるためPAS樹脂や有機溶媒中の水分、無機金属化合物中に含まれる酸素により酸化される可能性が考えられる。
(3)金属イオン:PAS樹脂の基本構成である芳香環やスルフィド部位は電子供与性があるため金属イオンが配位結合的に複合化できる場合があると考えられる。溶解析出時に、PAS樹脂のスルフィド部位や芳香環からの電子供与により金属含有材料がPAS分子鎖に捕捉されていると仮定すると、前記金属種としては高い酸化数や高い配位数を取りうる材料が好ましい。
(4)無機金属化合物:原料として使用する無機金属化合物の安定性が非常に高く、溶媒溶解や加熱により分解されない場合は原料から変化せずに無機金属化合物微粒子として複合化される場合も考えられる。
本発明の製造方法で得られる組成物中の金属元素含有ナノ粒子の平均粒径は、微粒子の粒径が小さいと粒子質量あたりの粒子表面積が大きくなることで少量の添加で添加効果を発揮できることから、平均粒径が1μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは500nm以下、最も好ましくは100nm以下である。
前記金属元素含有ナノ粒子の平均粒径測定方法としては、樹脂組成物中での粒径を直接見る必要があることより走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等の観察結果より算出する方法が例示できる。その他、金属元素含有ナノ粒子の粒径分布や形状は、本発明で得られた組成物の用途先により最適な形状になるように設計されれば良いため特に制限はない。
本発明の製造方法で得られる組成物中の金属元素含有ナノ粒子の含有率は特に制限がない。しかし、本手法では極めて少粒径で複合化を行うことができるため、通常の溶融混練法よりも少ない含有率例えば0.01質量%以上の含有率でも、樹脂の強化材、改質剤としての役割を発現しうる。一方含有率の上限は、金属元素含有ナノ粒子の微粒径を保てなくなる可能性あるので、具体的には0.01質量%〜20質量%が好ましい。
PAS樹脂の溶解条件はPAS樹脂の合成条件と概ね一致する。従って、PAS樹脂に残存する末端官能基を用いて、より高分子量化する操作を同時に行うことでPAS樹脂組成物の特性をさらに向上させることもできる。本方法はポストコンデンセーション(後重合)として知られている。具体例としてはジハロゲノ芳香族化合物を原料として合成したPAS樹脂に残存しているハロゲン末端を、該残存末端と適量のスルフィド化剤とを反応させる操作を無機金属化合物の複合化と同時に行うことが例示できる。この操作によりPAS樹脂の低ハロゲン化をすすめることもできる。
得られた組成物の精製操作としては、組成物の製造後に該組成物中に含有される有機溶剤や、副生成物(たとえば、無機金属化合物の熱分解物)を除去できる操作であれば特に限定されない。有機溶剤を除去する方法としては水洗、蒸気洗、溶媒洗や、蒸留処理、フラッシュ操作による脱溶剤等が例示される。
本発明により得られた金属元素含有ナノ粒子が分散されたPAS樹脂組成物は、これを直接材料として用い所望の形状に加工しても良いし、これをPAS樹脂や他の熱可塑性樹脂に更に複合化して用いてもよい。また、公知慣用の無機フィラー類や熱可塑性エラストマー類と併用しても差し支えない。
温度センサー、冷却塔、滴下槽、滴下ポンプ、留出物分離槽を連結した攪拌翼付チタン製反応釜にパラジクロロベンゼン(p−DCB)1838kg(12.5キロモル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)4958kg(50キロモル)、水 90kg(5.0キロモル)を室温で仕込み、攪拌しながら窒素雰囲気下で100℃まで20分かけて昇温し、系を閉じ、更に220℃まで40分かけて昇温し、その温度で内圧を0.22MPaにコントロールして、Na2S・xH2O 1500kg、NaSH・yH2O 225kg、水425kgの混合液(Na2S:11.4キロモル、NaSH:3.2キロモル、水分50.3質量%)を3時間かけて滴下した。滴下中は同時に脱水操作を行い、水は系外に除去し、水と共に留出するp−DCBは連続的にオートクレーブに戻した。なお、脱水操作とp−DCBを戻す操作は240℃昇温完了まで行い、昇温完了時に系を密閉した。
留出液の分析結果によると、反応終了時の反応系内の水分量は全使用スルフィド化剤に対して0.17(モル/モル)であった。
得られた反応スラリーを減圧下(−0.08MPa)、120℃に加熱することにより反応溶媒を留去し、残査に水を注いで80℃で1時間攪拌した後、濾過した。このケーキを再び湯で1時間攪拌、洗浄した後、濾過した。この操作を3回繰り返し、更に水を加え、200℃で1時間攪拌後、濾過し、熱風乾燥機で120℃−10時間乾燥して白色粉末状のポリマーを得た。このポリマーを以後PPS−1という。このPPS−1のピーク分子量は、43,700、溶融粘度は240Pa・sであった。
2Lビーカー中に有機溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)800gに、無機金属化合物として金属塩化物である塩化銅(II)二水和物10.0gを仕込み室温下で30分間攪拌し完全に溶解させることで濃緑色のNMP溶液を得た。
温度センサー及び、窒素ガスライン(入口、出口各1)を連結した内容積2Lの攪拌翼付チタン製反応釜中に、先に調製したNMP溶液を入れた後、PAS樹脂として合成例1で作製したPPS−1を200gを仕込み、完全に密閉した。その後、窒素ガス用の入口、出口を開け、窒素ガスを1L/分の流量で10分間流通させることで容器中の空気を置換したのち窒素ガス用の入口、出口を閉じた。300min−1の回転速度で槽内を攪拌しつつ4℃/分で昇温し250℃に到達したあと30分間保持した。
その後、攪拌を維持しつつ槽内を4℃/分で降温させ70℃に到達したところで攪拌を停止し釜を開放した。内部は均一茶色の塊状物があり、加温前のNMP溶液と樹脂との2相物とは完全に異なる状態となっていた。該塊状物を2Lのイオン交換水中にいれ室温下で30分間攪拌することで分散洗浄を行い、この分散スラリーを90mmφのヌッチェに桐山ロート5B濾紙を敷いた上から注ぎ減圧濾過を行った。濾紙上の樹脂組成物を2Lのイオン交換水で分散洗浄する操作をもう2回繰り返すことで洗浄濾過液が透明になった。ここで回収した濾紙上の樹脂組成物を金属バット上に広げ、120℃で14時間熱風乾燥することでナノ粒子分散PAS組成物を得た。
実施例1で用いた塩化銅(II)二水和物の代わりに塩化鉄(III)20.0gをNMP中に室温下で完全に溶解させて得た茶褐色のNMP溶液を用いた以外は実施例1と同様な複合化、洗浄、乾燥操作を行うことでナノ粒子分散PAS組成物を得た。
実施例1で用いた塩化銅(II)二水和物の代わりにオキシ塩化ジルコニウム八水和物10.0gをNMP中に室温下で完全に溶解させて得た無色透明のNMP溶液を用いた以外は実施例1と同様な複合化、洗浄、乾燥操作を行うことでナノ粒子分散PAS組成物を得た。
実施例1で用いた塩化銅(II)二水和物の代わりに臭化ニッケル(II)三水和物5.0gをNMP中に室温下で完全に溶解させて得た緑色のNMP溶液を用いた以外は実施例1と同様な複合化、洗浄、乾燥操作を行うことでナノ粒子分散PAS組成物を得た。
実施例1で用いた塩化銅(II)二水和物の代わりに硝酸コバルト(II)六水和物3.0gをNMP中に室温下で完全に溶解させて得た青色のNMP溶液を用いた以外は実施例1と同様な複合化、洗浄、乾燥操作を行うことでナノ粒子分散PAS組成物を得た。
実施例1で用いた塩化銅(II)二水和物の代わりにヨウ化亜鉛25.0gをNMP中に室温下で完全に溶解させて得た淡黄色のNMP溶液を用いた以外は実施例1と同様な複合化、洗浄、乾燥操作を行うことでナノ粒子分散PAS組成物を得た。
樹脂溶融混練装置である、ラボプラストミルCタイプ、KF−6((株)東洋精機製作所社製)を用いて以下の条件で溶融混練法によりPAS樹脂と無機金属化合物とを混練する試験を行った。本比較例は実施例1の比較試験に相当する組成である。加熱温度320℃に加熱した混練室にミキサー回転数10rpmで混練刃を回転させつつ、ドライブレンドしたPPS−1樹脂粉末5.0gと塩化銅(II)二水和物0.25g粉末とを導入した。混練室に粉末を完全に導入したのち、ミキサー回転数を300rpmに高め10分間溶融混練処理を行った。本操作では混練時間が6分を経過時点より、著しいトルク上昇が認められ最終時の混練トルクは混練回転数を300rpmに高めた直後の2倍に達しPASの酸化架橋(即ち樹脂成分の劣化)が生じていることが推定された。得られた粒子分散PAS組成物を回収した。
比較例1中の塩化銅(II)二水和物粉末の代わりに塩化鉄(III)粉末0.50gに変更した以外は比較例1と同様な操作を行なった。本操作では混練操作中に軽い塩素臭が発生した。また混練時間が5分を経過時点より著しいトルク上昇が認められ最終時の混練トルクは混練回転数を300rpmに高めた直後の3倍に達しPASの酸化架橋(即ち樹脂成分の劣化)が生じていることが推定された。得られた粒子分散PAS組成物を回収した。
塩化パラジウム(II)0.66gを水:メタノール1:1混合溶液100mlに溶解させた液とPPS−1樹脂粉末100gとを混合したのち、減圧乾燥により溶媒を除去しPPS−1と塩化パラジウム(II)の混合体を得た。この混合体の5.6gを採取し、比較例1と同様な操作方法で溶融混練を行った。本混練操作によっても混練工程でのトルク上昇が認められ、最終時の混練トルクは混練回転数を高めた直後の2.5倍に達した。得られた粒子分散PAS組成物を回収した。
塩化パラジウム(II)の代わりに塩化鉄(III)0.28gを用いた以外は比較例3と同様な手法により粒子分散PAS組成物を得た。本操作中では混練装置より軽い塩素臭が発生した。また比較例1〜3同様に混練トルク上昇が見られ最終時の混練トルクは回転数を高めた直後の2倍に達した。
各実施例、比較例で得た樹脂組成物、及び複合化処理をしてないPAS-1の1.0gを用い6cm角の開口部を持つ200μm厚の銅板を型として、6cm角で厚さ200μmの板状樹脂組成物を得た。本板状サンプルを以降の測定に用いた。
前記方法で作製した各種の板状樹脂組成物を3cm角に切断したのち重量を測定し、この組成物の密度を測定した。これを開口部が直径20mmの測定用ホルダ−にセットした。該試料を理化学電気工業株式会社製蛍光X線分析装置「ZSX100e」を用いて全元素分析を行った。PPS-1より得たシートでは合成原料に含まれる極僅かのNa以外の金属元素は含まれなかった。
得られた全元素分析の結果を用い、測定用試料の試料データ(与えたデータは、試料形状;フィルム、補正成分;PPS、実測した試料の面積当たりの質量値)を装置に与えることにより、FP法(Fundamental Parameter法;試料の均一性、表面平滑性を仮定し装置内の定数を用いて補正を行い成分の定量を行う方法)にて各々得られたナノ粒子分散PAS組成物に含まれる金属元素割合(質量%)を算出した。
また、上記方法で得られた金属元素割合(検出値、質量%と、無機金属化合物中の金属元素が100%複合化されたときの存在割合(金属元素仕込み割合、質量%)とを用いて複合化収率(%)を下式により算出した。
板状樹脂組成物を剃刀により切り出し、断面が上面になるようにSEM用ホルダーにセットした。これに1nmのPtを蒸着しSEM観察用サンプルを作製した。走査型電子顕微鏡S−3400N((株)日立ハイテクノロジー製)での反射電子検出器を用いて断面での無機微粒子の分散状態を500〜20000倍にて観察した。本測定では周囲のPAS樹脂よりも質量が重い無機金属化合物は明るい領域として観察される。この観察条件では最小40nmの粒子が観察可能である。本方法で観察された100個の粒径を測定し、その平均値を平均粒径とした。また、平均粒径とは別に、1μm以上の粗大粒子が500倍での任意の観察領域中に1つでも見られた場合は粗大粒子有り、見られなかった場合は粗大粒子無しと判定した。
各実施例及び比較例で得られたPAS組成物の溶融粘度(Pa・s)特性をキャビラリーレオメーターキャピログラフ1D PMD−C((株)東洋精機製作所製)を用いて測定した。測定条件は、測定温度300℃、使用キャピラリーφ1×10mm、せん断速度500sec−1である。
加えて、ミクロンオーダーの粗大粒子が全く観察されず均質な組成物であることが確認できた。また、溶融粘度も原料PASから無機複合化操作により殆ど上昇しなかた。
また、比較例3,4に示した金属塩化物を溶媒に溶解させPASに混合した後に溶媒を除去し引き続き溶融混練を行った方法(特許文献1の実施例に準拠)では、平均粒径は小さいもののミクロンオーダーの粒子も散見された。これは溶媒除去中に金属塩化物が再凝集した部分がありこれが分散しきれずに粗大粒子を形成したと推定される。さらに比較例4では比較例2同様に混練温度が塩化鉄(III)の沸点以上のため収率が低い結果となった。
いずれの比較例でも、強いせん断力を与えての混練を行ったため、PAS樹脂が酸化架橋、劣化したと推定される溶融粘度の上昇を伴った。溶融混練法による複合化においてはこうした強いせん断下にも係らず粗大粒子が少量混在する問題を持つ事が明らかとなった。こうした粗大粒子は構造材料中では破壊の起点になりうるため、少量の存在でも好ましくない。本発明ではこうした粗大粒子が存在しない利点を持つ。
Claims (5)
- ポリアリーレンスルフィド樹脂を溶解可能な有機溶剤に、ポリアリーレンスルフィド樹脂と無機金属化合物とを溶解させた後、析出させることを特徴とする、金属元素含有ナノ粒子が分散されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
- 高温密閉下においてポリアリーレンスルフィド樹脂を溶解可能な有機溶剤にポリアリーレンスルフィド樹脂と無機金属化合物とを溶解させる請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
- 前記金属化合物の金属成分が典型金属または遷移金属から選ばれる1種である、請求項1または2に記載の金属元素含有ナノ粒子が分散されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
- 前記有機溶剤がN−メチル−2−ピロリドンである請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
- オートクレーブを使用する請求項1〜4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
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