JP2018188610A - ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法 - Google Patents

ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法 Download PDF

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英伸 高尾
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Abstract

【課題】
溶融滞留時の粘度変化が小さく、且つ、加熱時のガス発生量の少ないポリアリーレンスルフィドを提供すること。
【解決手段】
特定の環式ポリアリーレンスルフィド含有量および分散度に特徴づけられる、ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し、有機ニッケル化合物を溶融混合する、溶融安定性に優れ、ガス発生量が少ないポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は溶融安定性に優れ、ガス発生量が少ないポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に関するものである。
ポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドは優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有する樹脂である。また、射出成形、押出成形により各種成形部品、フィルム、シート、繊維などに成形可能であり、各種電気・電子部品、機械部品及び自動車部品など耐熱性、耐薬品性の要求される分野に幅広く用いられている。
ポリアリーレンスルフィドは一般に溶融安定性が低く、溶融滞留時の粘度変化が大きいという課題がある。特に、成形までの溶融滞留時間が長い、フィルム・繊維などの製造においては、成形品の均質性が低下するため、その低減が望まれている。この課題に対し、溶融滞留時の粘度変化が低減されたポリアリーレンスルフィドの製造方法として、溶液重合法で得られたポリアリーレンスルフィドを洗浄する際の、溶液pHを調整する方法が提案されている(特許文献1)。
また、現在主流となっているポリアリーレンスルフィドの製造方法は、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で、硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのジハロ芳香族化合物とを反応させる溶液重合法であるが、この方法で製造されるポリアリーレンスルフィドは低分子量成分を多く含むため、加熱時のガス発生量が多いという課題がある。このガス成分は溶融加工時の金型・口金汚れの原因となるため、品質・生産性向上の観点から、その低減が望まれている。この課題に対し、加熱時のガス発生量が低減されたポリアリーレンスルフィドとして、環式ポリアリーレンスルフィドを含むプレポリマーを加熱することで得られるポリアリーレンスルフィドが提案されている(特許文献2)。特許文献1に関連する公知技術として、プレポリマーの加熱時に金属触媒を共存させることで、重合速度を向上する方法(特許文献3,4)が知られている。
特開2005−225931号公報 国際公開2007−034800号 国際公開2011−013686号 国際公開2014−208418号
特許文献1に記載された方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、溶融滞留時の粘度変化が小さいものの、溶液重合法で得られたポリアリーレンスルフィドを用いるために、加熱時のガス発生量が多いという課題がある。これに対し、特許文献2〜4に記載された方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、加熱時のガス発生量が少ないものの、溶融滞留時の粘度変化が大きいという課題がある。
本発明では公知技術では未達成であった、溶融滞留時の粘度変化が小さく、且つ、加熱時のガス発生量の少ないポリアリーレンスルフィドを提供することを課題とする。
本発明は、特定の環式ポリアリーレンスルフィド含有量および分散度に特徴づけられる、ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し、有機ニッケル化合物を溶融混合する、溶融安定性に優れ、ガス発生量が少ないポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であり、以下の形態で実施することが可能である。
1.下記一般式(i)で表される環式ポリアリーレンスルフィドの含有量が50重量%未満であり、且つ、重量平均分子量を数平均分子量で除した分散度が2.5以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対し、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の硫黄原子を基準として0.001〜10モル%の有機ニッケル化合物(B)を溶融混合し、下記式(1)で表されるΔηが1.5倍以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)を製造する、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
(ここでArは芳香族基を表し、nは4〜20の整数である。)
Δη=η2/η1(倍)・・・(1)
(ここでΔηは粘度変化率(倍)であり、加熱処理前に320℃、角周波数6.28rad/秒、せん断応力1,000Paで測定した溶融複素粘度(η1)と、常圧の非酸化性雰囲気下で320℃、300分加熱処理した後に320℃、角周波数6.28rad/秒、せん断応力1,000Paで測定した溶融複素粘度(η2)から求められる値である)
2.ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の前記式(1)で表されるΔηが2.0倍以上である、1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
3.ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)のアルカリ金属含有量が重量比で700ppm未満である、1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
4.ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の、下記式(2)で表されるΔWrが0.18%以下である、1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
ΔWr=(W1−W2)/W1×100(%)・・・(2)
(ここでΔWrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際の、100℃到達時点の試料重量(W1)と330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である)
5.有機ニッケル化合物(B)がカルボン酸ニッケルである、1〜4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
6.有機ニッケル化合物(B)がギ酸ニッケルである、1〜4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
本発明によれば、溶融滞留時の粘度変化が小さく、且つ、加熱時のガス発生量が少ないという、成形までの溶融滞留時間が長い用途、例えば繊維やフィルムなどの製造に好適な特徴をもつポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供することができる。
以下に、本発明の実施形態を説明する。
1.ポリアリーレンスルフィド
本発明におけるポリアリーレンスルフィドとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arは芳香族基を表し、Arとしては下記の式(D)〜式(N)などで表される単位などがあるが、なかでも式(D)が特に好ましい。
(R1,R2は水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(O)〜式(Q)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を有することができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
2.環式ポリアリーレンスルフィド
本発明における環式ポリアリーレンスルフィドとは、下記一般式(i)で表される、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式ホモポリマーまたは環式コポリマーである。Arは芳香族基を表し、Arとしては前記式(D)〜式(N)などで表される単位を主要構成単位として、前記式(O)〜式(Q)などで表される分岐単位または架橋単位を0〜1モル%有してもよい。
(ここでArは芳香族基を表し、nは4〜20の整数であり、異なるnを有する複数種類の環式ポリアリーレンスルフィドの混合物でもよい。)
また、本発明における環式ポリアリーレンスルフィドは前記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよく、これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン及びこれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい環式ポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式ポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
式(i)中のnは整数であり、繰り返し数を表す。繰り返し数の下限は4以上であり、5以上がより好ましく、6以上がさらに好ましい。繰り返し数が4未満である場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの揮発性が高く、成形加工時のガス発生量が増加する。一方、上限は20以下であり、15以下がより好ましく、13以下がさらに好ましい。繰り返し数が20を超える場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの重合性が高く、成形加工時の溶融安定性が低下する。
なお、本発明における環式ポリアリーレンスルフィドは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィド混合物のいずれであってもよい。
3.ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の環式ポリアリーレンスルフィドの含有量は50重量%未満であり、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましく、5.0重量%以下がよりいっそう好ましい。環式ポリアリーレンスルフィドの含有量が50重量%以上である場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の溶融安定性が低下する。一方、環式ポリアリーレンスルフィドの含有量の下限は0重量%であり、0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましく、1.5重量%以上がさらに好ましい。環式ポリアリーレンスルフィドの含有量が前記範囲内である場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の溶融流動性が良好となる傾向にある。
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の分子量に特に制限はないが、重量平均分子量で10,000以上を好ましい範囲として例示でき、20,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましく、40,000以上がよりいっそう好ましく、50,000以上がさらにいっそう好ましい。重量平均分子量が前記範囲である場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の成形加工性が良好で、また成形品の機械強度や耐薬品性などの特性が向上する傾向にある。一方、重量平均分子量の上限としては、1,000,000未満を好ましい範囲として例示でき、500,000未満がより好ましく、200,000未満がさらに好ましい。重量平均分子量が前記範囲である場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の成形加工性が良好となる傾向にある。
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の、分子量分布の広がり、すなわち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度は2.5以下であり、2.3以下が好ましく、2.1以下がより好ましい。分散度が2.5を超える場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の溶融安定性が低下し、また、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)に含まれる低分子成分量が増加し、成形品の機械特性の低下、加熱した際のガス発生量および溶剤と接した際の溶出成分量が増加する。なお、重量平均分子量及び数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。分散度の下限は理論上1であり、本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)では、通常1.5以上の範囲が例示できる。
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、下記式(1)で表される、加熱した際の重量減少率ΔWrが小さいものであることも好ましい。
ΔWr=(W1−W2)/W1×100(%)・・・(1)
(ここでΔWrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際の、100℃到達時点の試料重量(W1)と330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である)
ΔWrとしては0.50%以下を好ましい範囲として例示でき、0.30%以下がより好ましく、0.20%以下がさらに好ましく、0.18%以下がよりいっそう好ましく、0.10%以下がさらにいっそう好ましい。ΔWrが前記範囲である場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の成形加工時のガス発生量が低減される傾向にある。
上記ΔWrは一般的な熱重量分析によって求めることが可能であるが、この分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。本発明における非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指す。この中でも、経済性及び取扱いの容易さの面から、窒素雰囲気が特に好ましい。
また、本発明における常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101.3kPa近傍の大気圧条件のことである。
また、ΔWrの測定においては、50℃で1分保持した後に、50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を実使用する際に頻用される温度領域であり、また、固体状態のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融させ、その後任意の形状に成形する際に頻用される温度領域でもある。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からのガス発生量や成形加工の際の口金や金型などへの付着成分量などに関連する。したがって、このような温度範囲における重量減少率が少ないポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の方が品質の高い優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であるといえる。ΔWrの測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、アルカリ金属含有量の少ないものであることも好ましい。アルカリ金属含有量としては、重量比で700ppm未満を好ましい範囲として例示でき、500ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましい。アルカリ金属含有量が前記範囲内である場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の、電気絶縁特性が向上する傾向にある。一方、アルカリ金属含有量の下限は0ppmであるが、20ppm以上が好ましく、30ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。アルカリ金属含有量が前記範囲である場合、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を製造する過程で煩雑な精製操作が不要となりやすい。なお、アルカリ金属含有量は、例えばポリアリーレンスルフィド樹脂を電気炉などにより焼成した残渣である灰分を、イオンクロマト法やICP発光分光分析法により分析することで定量することができる。
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)は、下記式(2)で表される、加熱した際の粘度変化率Δηが大きいものであってもよい。
Δη=η2/η1(倍)・・・(2)
(ここでΔηは粘度変化率(倍)であり、加熱処理前に320℃、角周波数6.28rad/秒、せん断応力1,000Paで測定した溶融複素粘度(η1)と、常圧の非酸化性雰囲気下で320℃、300分加熱処理した後に320℃、角周波数6.28rad/秒、せん断応力1,000Paで測定した溶融複素粘度(η2)から求められる値である)
Δηとしては2.0以上でもよく、また、2.5倍以上であってもよく、さらに、3.0倍以上であってもよい。
Δηを測定する際の加熱処理を行う方法に特に制限はないが、試験管に試料を加え、系内を常圧の非酸化性雰囲気下とした後、320℃に温調した電気炉やメタルバス等を用いて加熱する方法や、加熱処理前の溶融粘度の測定を320℃、非酸化性雰囲気下とした粘度計内で行ったあと、試料を取り出さず粘度計内で加熱する方法などが例示できる。
加熱処理を行う際の雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気下であり、実際にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形加工する際の雰囲気に近い。また、加熱処理を行う際の加熱温度は320℃であり、実際にポリアリーレンスルフィド樹脂を成形加工する際に頻用される温度に近い。したがって、Δηの小さいポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、実使用時での粘度変化が抑制された、品質の高いポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であるといえる。
本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の製造方法としては、上記特性を有するポリアリーレンスルフィド樹脂が得られる方法であれば特に限定はされないが、国際公開2007−034800号に開示されているような、環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、且つ、重量平均分子量が10,000未満のポリアリーレンスルフィドプレポリマーを加熱して重量平均分子量10,000以上の高重合度体に転化させることによって製造する方法が好ましい。この方法によれば、容易に、前述した特性を有する、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を得ることができる。
4.有機ニッケル化合物(B)
本発明で用いる有機ニッケル化合物(B)とは、有機基とニッケルからなる化合物を指し、具体的には、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル(0)、ビス(1,5−シクロオクタジエンニッケル(0)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリドや、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)ジクロリドに代表される有機配位子を含有するニッケル化合物や、ビス(2,4−ペンタジオナト)ニッケル(II)、ギ酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、プロピオン酸ニッケル(II)、ステアリン酸ニッケル(II)、シュウ酸ニッケル(II)、安息香酸ニッケル(II)や、ベンゼンスルホン酸ニッケル(II)に代表される有機イオンとニッケルイオンからなるニッケルの有機塩などを例示することができ、これらのニッケル化合物は無水物であってもよく、水和物であってもよい。
なかでも、ビス(2,4−ペンタジオナト)ニッケル(II)、ギ酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、プロピオン酸ニッケル(II)、ステアリン酸ニッケル(II)、シュウ酸ニッケル(II)、安息香酸ニッケル(II)や、ベンゼンスルホン酸ニッケル(II)などの有機イオンとニッケルイオンからなるニッケルの有機塩が好ましく、ギ酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、プロピオン酸ニッケル(II)、ステアリン酸ニッケル(II)、シュウ酸ニッケル(II)、安息香酸ニッケル(II)などのカルボン酸ニッケルがより好ましく、ギ酸ニッケル(II)がさらに好ましい。これらを用いた場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の成形加工時のガス発生量が低減される傾向にある。
本発明で用いる有機ニッケル化合物(B)の、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対する配合量の下限は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の硫黄原子を基準(100モル%)として0.001モル%であり、0.01モル%以上が好ましく、0.05モル%以上がより好ましく、0.1モル%以上がさらに好ましく、0.2モル%以上がよりいっそう好ましく、0.5モル%がさらにいっそう好ましい。配合量が0.001モル%未満である場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の溶融安定性が不十分となる。一方、配合量の上限は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の硫黄原子を基準として10モル%であり、5モル%以下が好ましく、3モル%以下がより好ましく、2モル%以下がさらに好ましい。配合量が10モル%を超える場合、本発明で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の、成形加工時のガス発生量が増加する。
5.ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)はポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対し有機ニッケル化合物(B)を溶融混合することによって得られる。この溶融混合を行う方法は、特に限定はされないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と有機ニッケル化合物(B)を、例えば、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に供給して、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融解温度以上の温度で溶融混合する方法を例示できる。
前記溶融混合の際の、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と有機ニッケル化合物(B)の供給方法としては、あらかじめブレンドしたものを溶融混練機に供給する方法や、あるいはポリアリーレンスルフィド樹脂(A)を溶融混連機に供給して溶融させたあと、サイドフィーダーを用いて有機ニッケル化合物(B)を添加する方法などが例示できる。
また、溶融混練機に供給する前に、ブレンドを行う方法としては、溶液中でポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と有機ニッケル化合物(B)を均一化したあと溶媒を除去する方法や、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と有機ニッケル化合物(B)をドライブレンドする方法などが例示でき、ドライブレンドする方法が好ましい。ブレンドを前記の方法で行う場合、ブレンド自体が容易であり、また、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)を成形加工する際のガス発生量が低減される傾向にある。
溶融混合を行う際の温度の上限としては380℃以下を好ましい温範囲として例示でき、360℃以下がより好ましく、340℃がさらに好ましく、320℃以下がよりいっそう好ましい。溶融混合を行う際の温度が前記範囲内である場合、架橋反応などの好ましくない副反応が抑制される傾向にある。
また、溶融混合を行う時間は、溶融混合を行う際の温度により変動しうるが、1分以上を好ましい範囲として例示でき、3分以上がより好ましく、5分以上がさらに好ましい。溶融混合時間が前記範囲内である場合、原料となるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)が十分に融解し、均一性の高いポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が得られる傾向にある。一方、上限としては60分以下を好ましい範囲として例示でき、30分以下がより好ましく、20分以下がさらに好ましい。溶融混合時間が前記範囲内である場合、前記の好ましくない副反応が抑制される傾向にある。
また、溶融混合を行う際の雰囲気としては、前記の好ましくない副反応を抑制するという観点では非酸化性雰囲気もしくは減圧条件下が好ましい。また、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)を成形加工する際のガス発生量が低減されるという観点では、減圧条件下が好ましい。
6.ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の特性および用途
本発明により得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)は、前記式(2)で表される、加熱した際の粘度変化率Δηが1.5倍以下であり、より好ましい実施形態では1.3倍以下、さらに好ましい実施形態では1.2倍以下、よりいっそう好ましい実施形態では1.1倍以下である。Δηが1.5倍を超える場合は、成形加工時の溶融安定性が低く、成形品の均質性が低下する。一方、Δηの下限に特に制限はないが、より好ましい実施形態では0.5倍以上であり、さらに好ましい実施形態では0.7倍以上であり、よりいっそう好ましい実施形態では0.8倍以上であり、さらにいっそう好ましい実施形態では0.9倍以上である。Δηが前記範囲内である場合、成形加工時の溶融安定性が高く、成形品の均質性が向上する傾向にある。
本発明により得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)は、溶融安定性に優れるとともに良好な低ガス性、耐熱性、耐薬品性、電気的性質並びに機械的性質を示し、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形用途のみならず、押出成形により、繊維、フィルム、シートおよびパイプなどの押出成形品に成形することができる。特に、成形までの溶融滞留時間が長く、高い溶融安定性が要求される用途である、繊維やフィルムに好適に用いることができる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<環式ポリアリーレンスルフィドの含有量の測定>
ポリアリーレンスルフィド樹脂の、環式ポリアリーレンスルフィドの含有量の算出は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記方法で行った。
ポリアリーレンスルフィド樹脂約10mgを250℃で1−クロロナフタレン約5gに溶解させた。室温に冷却すると沈殿が生成した。孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いて1−クロロナフタレン不溶成分を濾過し、1−クロロナフタレン可溶成分を得た。得られた可溶成分のHPLC測定により、環式ポリアリーレンスルフィド量を定量した。
HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)。
<溶融粘度および粘度変化率の測定>
ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度の測定、および粘度変化率を測定する際の加熱処理はレオメーターを用いて下記条件で行った。
装置:アントンパール製 Physica MCR501
プレート:パラレル(φ25mm)
ギャップ:1.0mm
角周波数(ω):6.28rad/秒
せん断応力(τ):1,000Pa
試料仕込み重量:約0.7g
測定条件:
(a)320℃で試料を溶融させ、溶融複素粘度を測定した。
(b)上記試料をレオメーター中にて、窒素気流下、320℃で300分加熱した後、320℃で溶融複素粘度を測定した。
粘度変化率Δηは(a)で測定した加熱前の溶融複素粘度(η1)と、(b)で測定した加熱後の溶融複素粘度(η2)から前述の式(2)を用いて算出した。
<分子量の測定>
ポリアリーレンスルフィド樹脂の分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7110
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.1重量%)。
<加熱時重量減少率の測定>
ポリアリーレンスルフィド樹脂の加熱時重量減少率は熱重量分析機を用いて下記条件で行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件:
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から350℃まで昇温(昇温速度20℃/分)。
重量減少率ΔWrは(b)の昇温の際の、100℃到達時点の試料重量(W1)と、330℃到達時の試料重量(W2)から前述の式(1)を用いて算出した。
<赤外分光分析>
装置:Perkin Elmer System 2000 FT−IR
サンプル調製:KBr法。
<アルカリ金属含有量の測定>
ポリアリーレンスルフィド樹脂のアルカリ金属含有量の定量は下記により行った。
(a)ポリアリーレンスルフィド樹脂を石英るつぼに秤とり、電気炉を用いて灰化した。
(b)灰化物を濃硝酸で溶解した後、希硝酸で定容とした。
(c)得られた定容液をICP重量分析法(装置;Agilent製4500)及びICP発光分光分析法(装置;PerkinElmer製Optima4300DV)により分析した。
[参考例1]第1のポリフェニレンスルフィドプレポリマーの調製
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を28.06g(0.240モル)、96%水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液21.88g(0.252モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.0g(6.20モル)、及びp−ジクロロベンゼン(p−DCB)36.16g(0.246モル)を仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素ガス下に密封した。
400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約1時間かけて昇温した。次いで200℃から250℃まで約30分かけて昇温した。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
得られた内容物500gを約1500gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16μmのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約300gのイオン交換水に分散させ、70℃で30分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で一晩真空乾燥し、乾燥固体を得た。
得られた固形物を円筒濾紙に仕込み、溶剤としてクロロホルムを用いて約5時間ソックスレー抽出を行うことで固形分に含まれる低分子量成分を分離した。
クロロホルム抽出操作にて得られた抽出液から溶媒を除去した後、約5gのクロロホルムを加えてスラリーを調製し、これを約600gのメタノールに攪拌しながら滴下した。これにより得られた沈殿物を濾過回収し、70℃で5時間真空乾燥を行い、白色粉末を得た。
この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とする、繰り返し数が4〜13の環式ポリフェニレンスルフィドを96重量%含むことが確認された。なお、繰り返し数が14〜20の環式ポリフェニレンスルフィドは検出されなかった。得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーのアルカリ金属の含有量を定量した結果、ナトリウムが重量比で350ppm検出され、その他のアルカリ金属は検出されなかった。なお、GPC測定を行った結果、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーは室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であった。
[参考例2]ポリフェニレンスルフィド樹脂(1)の調製
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマー5gをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ったまま120分加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体がポリフェニレンスルフィド樹脂であることを確認した。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、繰り返し数が4〜12の環式ポリフェニレンスルフィドが5重量%含まれることが分かった。なお、繰り返し数が13〜20の環式ポリフェニレンスルフィドは検出されなかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマーのピークが確認でき、ポリマー成分の重量平均分子量は10.2万、分散度は2.4であることがわかった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂のアルカリ金属の含有量を定量した結果、ナトリウムが重量比で360ppm検出され、その他のアルカリ金属は検出されなかった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂の加熱時重量減少率ΔWrは0.03%であった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂のη1は2060Pa・s、Δηは3.7倍であった。
[実施例1]ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の調製
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)として参考例2で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂(1)を用いて、このポリフェニレンスルフィド樹脂2gを5mm程度に細断し、ポリフェニレンスルフィド樹脂中の硫黄原子に対して1モル%のギ酸ニッケル(II)二水和物(有機ニッケル化合物(B))とドライブレンドした。ブレンド物の全量をガラス製試験管に仕込み、バキュームスターラーを介して攪拌翼を取り付け、試験管内を窒素で置換した。320℃に温調した電気炉内に試験管を設置し、試験管内を窒素雰囲気に保ったまま10分加熱したのち、攪拌翼を30rpmで回転させながらさらに10分加熱した。加熱後、試験管を取り出し室温まで冷却し、黒色のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、ポリマー成分は可溶であった。HPLC測定の結果、繰り返し数が4〜12の環式ポリフェニレンスルフィドが5重量%含まれることが分かった。なお、繰り返し数が13〜20の環式ポリフェニレンスルフィドは検出されなかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークとポリマーのピークが確認でき、ポリマー成分の重量平均分子量は11.2万、分散度は2.4であることがわかった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のアルカリ金属の含有量を定量した結果、ナトリウムが重量比で360ppm検出され、その他のアルカリ金属は検出されなかった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.05%であった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のη1は2510Pa・s、Δηは1.0倍であった。
実施例1と参考例2との対比から、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対して有機ニッケル化合物(B)を溶融混合した樹脂組成物ではΔηが小さく、溶融安定性の向上が確認された。
[比較例1]環式ポリアリーレンスルフィドを50重量%以上含む、ポリアリーレンスルフィド樹脂に対する、有機ニッケル化合物(B)の溶融混合
参考例1で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーに、ポリフェニレンスルフィドプレポリマー中の硫黄原子に対して1モル%のギ酸ニッケル(II)二水和物(有機ニッケル化合物(B))を混合した。混合した粉末5gをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ったまま60分加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体がポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であることを確認した。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したポリマー成分は可溶であった。HPLC測定の結果、繰り返し数が4〜13の環式ポリフェニレンスルフィドが9重量%含まれることが分かった。なお、繰り返し数が14〜20の環式ポリフェニレンスルフィドは検出されなかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマーのピークが確認でき、ポリマー成分の重量平均分子量は9.2万、分散度は2.4であることがわかった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のアルカリ金属の含有量を定量した結果、ナトリウムが重量比で360ppm検出され、その他のアルカリ金属は検出されなかった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.04%であった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のη1は323Pa・s、Δηは4.1倍であった。
実施例1と比較例1との対比から、環式ポリアリーレンスルフィド含有量の多いポリアリーレンスルフィド樹脂(ポリフェニレンスルフィドプレポリマー)に対し、有機ニッケル化合物(B)を溶融混合(重合時混合)した樹脂組成物ではΔηの低下はみられず、環式ポリアリーレンスルフィド含有量が少ないポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対し、有機ニッケル化合物(B)を溶融混合した樹脂組成物でのみΔηが低減することが確認された。
[参考例3]第2のポリフェニレンスルフィドプレポリマーの調製
撹拌機および上部に抜き出しバルブを具備したオートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を1.65kg(14.1モル)、96%水酸化ナトリウムを用いて調製した水酸化ナトリウムの48重量%水溶液1.20kg(14.3モル)、NMP35.95kg(362.6モル)、及びp−DCB2.11kg(14.3モル)を仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素ガス下に密封した。
400rpmで攪拌しながら、室温から200℃まで約25分かけて昇温した。次いで200℃から250℃まで約35分かけて昇温した。250℃で2時間保持した後、内温を250℃に保持しながら、抜き出しバルブを徐々に開放し、溶媒26.6kgを約40分かけて留去した。その後、オートクレーブを室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
得られた内容物の温度が100℃になるように窒素下にて加熱攪拌を行なった後、100℃で20分保持し、目開き20μmの金網を用いて濾別した。得られた濾液を約40kgのメタノールに滴下し、室温で30分攪拌後、得られた沈殿物を濾過回収した。回収した沈殿物にイオン交換水2.5リットルを加えスラリーとして、80℃で30分攪拌後、濾過して固形分を回収する操作を3回繰り返した。得られた固形分を減圧下80℃で8時間乾燥し、白色粉末を得た。
この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とする、繰り返し数が4〜15の環式ポリフェニレンスルフィドを89重量%含むことが確認された。なお、繰り返し数が16〜20の環式ポリフェニレンスルフィドは検出されなかった。得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマーのアルカリ金属の含有量を定量した結果、ナトリウムが重量比で120ppm検出され、その他のアルカリ金属は検出されなかった。なお、GPC測定を行った結果、ポリフェニレンスルフィドプレポリマーは室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は1,100であった。
[参考例4]ポリフェニレンスルフィド樹脂(2)の調製
参考例3で得られたポリフェニレンスルフィドプレポリマー30gを、留出管および撹拌翼を取り付けたガラス製の試験管に仕込んだ後、試験管内の減圧、窒素置換を3回繰り返した。試験管内を約0.1kPaに保ったまま340℃に温調して240分加熱した後、試験管を取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体がポリフェニレンスルフィド樹脂であることを確認した。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、繰り返し数が4〜13の環式ポリフェニレンスルフィドが2重量%含まれることが分かった。なお、繰り返し数が14〜20の環式ポリフェニレンスルフィドは検出されなかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマーのピークが確認でき、ポリマー成分の重量平均分子量は6.3万、分散度は2.5であることがわかった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂のアルカリ金属の含有量を定量した結果、ナトリウムが重量比で120ppm検出され、その他のアルカリ金属は検出されなかった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂の加熱時重量減少率ΔWrは0.03%であった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂のη1は183Pa・s、Δηは3.7倍であった。
[参考例5]ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶液重合
撹拌機、精留塔および底栓弁を具備したオートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液8.17kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.6モル)、NMP11.45kg(115.5モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.1モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込んだ。
反応容器を常圧で窒素を通じながら室温から245℃まで360分かけて昇温し、精留塔を通じて溶媒10.1kgを留出した。反応容器を200℃まで冷却し、精留塔を取り外した後、p−DCB10.42kg(70.9モル)、NMP9.37kg(94.5モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら200℃から270℃まで120分かけて昇温し、270℃で140分反応を行った。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながらイオン交換水2.40kgを圧入した。次いで、250℃から220℃まで75分かけて冷却した後、室温近傍まで急冷し、内容物を回収した。
内容物を35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、目開き175μmの金網で濾別した。得られた固形分を前記と同様にNMP35リットルで洗浄、濾別した。得られた固形分を70リットルのイオン交換水に加え、70℃で30分撹拌後、濾過して固形分を回収する操作を合計3回繰り返すことにより、未乾燥ポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。
[参考例6]分散度が2.5を超えるポリフェニレンスルフィド樹脂の調製
参考例5で得られた未乾燥ポリフェニレンスルフィド樹脂2.0kgおよび酢酸10gを20リットルのイオン交換水に加え、70℃で30分撹拌後、目開き175μmの金網で濾過した。得られた固形分に20kgのイオン交換水を加え、70℃で30分撹拌後、濾過して固形分を回収した。こうして得られた固形分を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、白色顆粒を得た。顆粒の赤外分光分析における吸収スペクトルより、顆粒がポリフェニレンスルフィド樹脂であることを確認した。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、繰り返し数が4〜13の環式ポリフェニレンスルフィドが1重量%含まれることが分かった。なお、繰り返し数が14〜20の環式ポリフェニレンスルフィドは検出されなかった。GPC測定の結果、単峰性の分子量分布をもつことが確認され、重量平均分子量は5.0万、分散度は2.7であった。次いで、得られたポリフェニレンスルフィド樹脂の加熱時重量減少率の測定を行った結果、△Wrは0.27%であった。また、得られたポリフェニレンスルフィド樹脂のアルカリ金属の含有量を定量した結果、ナトリウムが重量比で84ppm検出され、その他のアルカリ金属は検出されなかった。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂のη1は88Pa・s、Δηは2.1倍であった。
[実施例2〜5、比較例2〜8]
参考例4で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂(2)、もしくは参考例6で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂と、ポリフェニレンスルフィド樹脂中の硫黄原子を基準として1モル%の金属化合物をドライブレンドし、実施例1に記載の方法にて溶融混合することでポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。得られたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の分析結果を表1および2に記載する。なお、表中のPASはポリアリーレンスフィドを表す。
実施例2〜5と参考例4との対比から、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対して有機ニッケル化合物(B)を溶融混合した樹脂組成物ではΔηが小さく、溶融安定性の向上が確認された。
また、実施例2と比較例2との対比から、分散度が2.5を超えるポリアリーレンスルフィド樹脂に対して有機ニッケル化合物(B)を溶融混合した樹脂組成物ではΔηが大きく、溶融安定性の向上が不十分であることが確認された。
さらに、実施例2〜5と比較例3〜8との対比から、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対して有機ニッケル化合物(B)以外の金属化合物を溶融混合した樹脂組成物ではΔηが大きく、溶融安定性の向上が不十分であることが確認された。
これらのことから、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対して有機ニッケル化合物(B)を溶融混合した樹脂組成物のみが高い溶融安定性を示すことが明らかである。

Claims (6)

  1. 下記一般式(i)で表される環式ポリアリーレンスルフィドの含有量が50重量%未満であり、且つ、重量平均分子量を数平均分子量で除した分散度が2.5以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂(A)に対し、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)中の硫黄原子を基準として0.001〜10モル%の有機ニッケル化合物(B)を溶融混合し、下記式(1)で表されるΔηが1.5倍以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)を製造する、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
    (ここでArは芳香族基を表し、nは4〜20の整数である。)
    Δη=η2/η1(倍)・・・(1)
    (ここでΔηは粘度変化率(倍)であり、加熱処理前に320℃、角周波数6.28rad/秒、せん断応力1,000Paで測定した溶融複素粘度(η1)と、常圧の非酸化性雰囲気下で320℃、300分加熱処理した後に320℃、角周波数6.28rad/秒、せん断応力1,000Paで測定した溶融複素粘度(η2)から求められる値である)
  2. ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の前記式(1)で表されるΔηが2.0倍以上である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
  3. ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)のアルカリ金属含有量が重量比で700ppm未満である、請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
  4. ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の下記式(2)で表されるΔWrが0.18%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
    ΔWr=(W1−W2)/W1×100(%)・・・(2)
    (ここでΔWrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際の、100℃到達時点の試料重量(W1)と330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である)
  5. 有機ニッケル化合物(B)がカルボン酸ニッケルである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
  6. 有機ニッケル化合物(B)がギ酸ニッケルである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)の製造方法。
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