JP2011174033A - 環状ポリアリーレンスルフィドからなる粉体塗料および粉体塗装方法 - Google Patents

環状ポリアリーレンスルフィドからなる粉体塗料および粉体塗装方法 Download PDF

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Abstract

【課題】塗膜形成後のガス発生量が少なく、しいては塗膜欠点(ボイド)の少ない平滑性、均一性に優れた塗膜を形成できるポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料を提供する。
【解決手段】ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量%中に、下記一般式(1)環式ポリアリーレンスルフィド混合物を5重量%以上含有することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料。
【化1】
Figure 2011174033

(Arはアリーレン基を表し、mは2〜50の整数である。)
【選択図】なし

Description

本発明はポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料に関する。より詳しくは環式ポリフェニレンスルフィドを含有する粉体塗料およびその塗装方法に関する。
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略する場合もある)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略す場合もある)は優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有する樹脂である。また、射出成形、押出成形により各種成形部品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であり、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品など耐熱性、耐薬品性の要求される分野に幅広く用いられている。
このため、PASをベースとする塗料は金属の防錆、防食、電気絶縁処理などの分野で用いられている。このPASをベースとする塗料は、通常、粉体状もしくはスラリー状の塗料を被塗装物の表面に塗布した後、これを熱溶融させて塗膜を形成する方法が知られている(例えば特許文献1〜3)。
上記ベースレジンであるPASの具体的な製造方法としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物とを反応させる方法が提案されており、この方法はPASの工業的製造方法として幅広く利用されている。しかしながら、この方法では低分子量で溶融粘度の低いPASしかえられず、また、このPASは低分子量成分を多く含み、重量平均分子量と数平均分子量の比で表される分散度が非常に大きく、分子量分布の広いものである。そのため、粉体塗料に用いた場合、十分な機械特性が発現せず、また塗膜形成の加熱(焼き付け)時のガス成分が多く、塗膜にボイドが発生しやすいという問題があった。
さらに、この製造方法では塩化ナトリウム等の副生塩が多量に生成するため、重合反応後には副生塩の除去工程が必要であるが公知の処理では副生塩の完全な除去が難しく、市販の汎用的なPPS品中にはアルカリ金属含有量で1000〜3000ppm程度が含有されている。このように生成ポリマー中にアルカリ金属塩が残存していると、電気特性等の物性低下を招くといった問題が生ずる。従って、このようなポリアリーレンスルフィドを原料として用いた成形品を電気・電子部品の分野に適用しようとすると、ポリアリーレンスルフィド中のアルカリ金属による電気特性の低下が大きな障害となり、改善が望まれていた。
上記製造方法によるPASの課題である溶融粘度の低さを改善するためには、例えば空気中のような酸化性雰囲気下で気相酸化処理することで架橋構造を形成し高分子量化する工程が必要であり、プロセスがさらに煩雑になるとともに生産性の低下を招いていた(例えば、特許文献4参照)。
前記PASの問題点の一つ、即ち、PASが低分子量成分を多く含み分子量分布が広い点を改善する方法として、不純物を含有するPASの混合物をPASが溶融相をなす最低温度よりも高い状態で、PASを含むポリマー溶融相と溶媒を主とする溶媒相に相分離せしめることで不純物を熱抽出に付すことにより精製する方法、または冷却後に顆粒状ポリマーを析出させて回収する方法が提案されている。これら方法では熱抽出効果により不純物が抽出されるため、PASの金属含量の低減、及び分子量分布が狭くなることが期待されるがその効果は不十分であり、また、高価な有機溶剤を使用する方法のためプロセスが煩雑であった。また、この方法ではPASの含む低分子量成分量は確かに低減するが、その効果は不十分であり、特に本発明の如くPAS樹脂粉体塗料を加熱した際(焼き付け)に、重量減少率が大きく、ガス成分が多いと、上述の如く塗膜の均一性、平滑性が低下する問題があった(例えば特許文献5及び6)。
また、狭い分子量分布を有するPASの製造方法として、環状アリーレンスルフィドオリゴマーをイオン性の開環重合触媒下で、加熱開環重合する方法が開示されている。この方法では前記特許文献5及び6とは異なり、煩雑な有機溶剤洗浄操作を行わずに狭い分子量分布を有するPASを得ることが期待でき、また、低分子量成分の少ないPASを得ることが期待できる。しかしながらこの方法ではPASの合成においてチオフェノールのナトリウム塩等、硫黄のアルカリ金属塩を開環重合触媒として用いるため、得られるPASにアルカリ金属が多量に残留するという問題があった。またこの方法において開環重合触媒の使用量を低減することでPASへのアルカリ金属残留量を低減しようとした場合、得られるPASの分子量が不十分となる問題があった。さらに、この方法により得られるPASを加熱した際の重量減少率については、何ら開示はないが、該方法で用いる開始剤はPASと比較して分子量が低いため、該方法で得られるPASを加熱した際の重量減少が大きく、ガス発生量が多く、これは成形加工性や機械強度の低下を招く要因となっていた(例えば特許文献7及び8)。
前記方法で得られるPASの問題点、すなわちPASへのアルカリ金属残留量を低減する方法として、加熱により硫黄ラジカルを発生する重合開始剤の存在下で環状の芳香族チオエーテルオリゴマーを開環重合するPASの製造方法が開示されている。この方法では重合開始剤に非イオン性化合物を用いるため、得られるPASのアルカリ金属含有量が低減されると思われる。しかしながら、該方法で得られるポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度は85℃と低く、これは分子量が低く、該ポリフェニレンスルフィドが低分子量成分を多量に含むためと思われる。さらに、該方法では得られるポリフェニレンスルフィドを加熱した際の重量減少率については何ら開示が無いが、該方法で用いる重合開始剤はポリフェニレンスルフィドと比較して分子量が低く、また熱安定性も劣るため、この方法で得られるポリフェニレンスルフィドを加熱した際には多量のガスが発生し、やはり均一な塗膜が得られないという課題があった(例えば特許文献9)。
また、モノマー源として環状PPSと線状PPSの混合物を加熱するPPSの重合方法も知られている(非特許文献1)。この方法はPPSの安易な重合法であるが、得られるPPSの重合度は低く、例えば本発明のごとき粉体塗料には適さないPPSであった。該文献では加熱温度を高くすることで重合度の向上が見られることが開示されているが、それでもなお実用に適した分子量には到達しておらず、また、この場合は架橋構造の生成が回避できず、熱的特性の劣るPPSしか得られないことが指摘されており、より実用に適した品質の高いPPSの重合方法が望まれていた。
一方、PASを加熱した際の重量減少率を減ずる方法として、PASを熱処理する方法について従来から多くの提案がなされており、たとえばポリフェニレンスルフィドを酸素雰囲気下、融点未満で熱処理する方法や、ポリフェニレンスルフィドを不活性ガス雰囲気下、融点未満で熱処理する方法などが開示されている(たとえば特許文献10及び11)。これらの方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、確かに熱処理を施さないPASと比較して加熱した際の重量減少率が低減する傾向にあるが、それでもなお加熱した際の重量減少率は満足できる水準ではなかった。さらにこの方法で得られるポリフェニレンスルフィドは低分子量成分を多く含み、重量平均分子量と数平均分子量の比で表される分散度が非常に大きく、分子量分布の広いポリマーであって、且つアルカリ金属含有量もはなはだ多い純度の低い物であるという問題も解決されていなかった。
PASを熱処理する別の方法としてはベント口を有する押出機を用いてPAS樹脂の溶融押出をする際にベント口を窒素でパージしつつ、ベント口を減圧に保ちながら溶融押出を行うことで得られるPAS樹脂ペレットが開示されている(たとえば特許文献12)。この方法では熱処理をPASの融点以上の減圧条件下で行っているため、熱処理中のデガス効果に優れ、この方法で得られるPASは加熱した際の重量減少率が低減できることが期待できるが、その水準はいまだなお満足できるものではなかった。さらに、この方法によるPASペレットも前記のポリフェニレンスルフィドと類似の分子量分布特性及びアルカリ金属含有量特性を有し、純度が十分に高いとは言い難いものであった。
一方、PAS樹脂からなる粉体塗料については、従来技術で得られる線上PAS樹脂からなる粉体塗料が多数開示されているが、本発明の特徴を有する環式PASを含有する粉体塗料は知られておらず、それ故に、上述の通り機械的強度に優れ、かつガス発生量の低減されたポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料が得られることは全く知られていない。
特開平1−297474号公報 特開平3−220269号公報 特開平5−295301号公報 特公平1−25493号公報 (第23頁) 特公平4−55445号公報 (第3〜4頁) 特許第3216228号明細書 (第7〜10頁) 特許第3141459号明細書(第5〜6頁) 米国特許第5869599号明細書(第27〜28頁) 米国特許第3793256号明細書(第2頁) 特開平3−41152号公報 (特許請求の範囲) 特開2000−246733号公報 (第4頁)
Polymer,vol.37,no.14,1996年(第311 1〜3116頁)
そこで、本発明は、上述の問題を鑑み、塗膜形成後のガス発生量が少なく、しいては塗膜欠点(ボイド)の少ない平滑性、均一性に優れた塗膜を形成できるポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題解決のため鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は
1.ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量%中に、下記一般式(1)で表される環式ポリアリーレンスルフィド混合物を5重量%以上含有することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料、
Figure 2011174033
(Arはアリーレン基を表し、mは2〜50の整数である。)
2.前記環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かつ重量平均分子量が10,000未満である1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料、
3.前記一般式(1)で表される環式ポリアリーレンスルフィド混合物が、式中の繰り返し数mが4〜12のものを含むことを特徴とする1または2のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料、
4.さらに、0価遷移金属化合物を含む1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料、
5.前記0価遷移金属化合物の含有量がポリアリーレンスルフィド樹脂の硫黄原子に対し0.001〜20モル%である4に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料、
6.アルカリ金属含量が100ppm以下であることを特徴とする1〜5のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料、
7.実質的にアルカリ金属がナトリウムであることを特徴とする6記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料、
8.実質的に塩素以外のハロゲンを含まないことを特徴とする1〜7のいずれかに1項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料、
9.1〜8のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料を、基材上に静電塗装し、加熱することを特徴とする粉体塗装方法、
10.加熱温度が250〜400℃であることを特徴とする9記載の粉体塗装方法、
11.加熱時間が5〜60分であることを特徴とする9または10いずれかに記載の粉体塗装方法、
12.9〜11のいずれか1項に記載の塗装方法で得られる塗装物、
を提供するものである。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂を粉体塗料として用いることにより、ボイドのない、表面平滑性、均一性に優れた塗膜を形成できる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
(1)ポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂粉体塗料
本発明の粉体塗料を構成するPAS樹脂とは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(A)〜式(L)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
Figure 2011174033
(R1,R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(M)〜式(P)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
Figure 2011174033
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
Figure 2011174033
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すこともある)が挙げられる。
また、本発明の粉体塗料に用いるPAS樹脂は、次項(2)で説明する環式ポリアリーレンスルフィド(以下環式PASと呼ぶことがある)を5重量%以上含んでいることが特徴である。
すなわち本発明者らは、当該環式ポリアリーレンスルフィドが300〜400℃の溶融状態で開環重合し、高重合度体の線上PAS樹脂を与える性質を利用し、粉体塗装における塗膜形成工程(以下「焼付け」と呼ぶことがある)で環式PASの開環重合を行うことによって、塗膜形成時のガス発生を低減でき、しいてはボイドのない平面平滑性に優れたPAS樹脂塗膜を形成できることを見出し本発明に到達した。
この理由としては、従来技術によって得られるPAS樹脂は、分子量分布が広く、低分子量成分を多く含有するため、焼付け時に低分子量成分の熱分解によるガスが発生し、しいては得られる塗膜にボイドが発生し、均一な塗膜が得られないが、本発明の環式ポリアリーレンスルフィドを含むPAS樹脂を粉体塗装し、焼付けを行うと、上述の通り、焼き付け時に高重合度化するため、塗膜を形成するPAS樹脂は分子量分布が狭く、低分子量成分の含有量が小さいため、ガス発生量を低減でき、しいてはボイドのない均一性の高い塗膜が得られると推測している。
一方、環式PASの含有率が5重量%未満の場合は、塗膜形成時のガス発生量が増加し、しいてはボイドが発生しやすくなり、本発明の目的を達成することができない。また、環式PASの含有率は、より好ましい態様においては30重量%、さらに好ましくは50重量%、さらに好ましくは80重量%、最も好ましくは90重量%である。
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の分子量に特に制限はないが、上限値は重量平均分子量で20,000未満が好ましく、10,000未満がより好ましく、5000以下がさらに好ましく、3000以下が最も好ましい。また、下限値は、重量平均分子量で300以上が好ましく、400以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。
また、本発明のPAS樹脂粉体塗料は、主成分である環式ポリアリーレンスルフィド中のアルカリ金属含有量が少ないことから、これを焼付け、高重合度化して得られるPAS樹脂塗膜中に含まれるアルカリ金属含有量も低減されるという特徴を有する。PAS樹脂粉体塗料中のアルカリ金属含量は、好ましい態様において100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、より好ましくは30ppm以下、更に好ましくは10ppm以下である。
PAS樹脂粉体塗料中のアルカリ金属含有量が100ppmを超えた場合、これを焼付けして得られるPAS樹脂塗膜の、例えば高度な電気絶縁特性が要求される用途における信頼性が低下するなど、用途に制限が生じるため好ましくない。ここで本発明におけるPAS樹脂粉体塗料中のアルカリ金属含有量とは、例えばPAS樹脂粉体塗料を電気炉等を用いて焼成した残渣である灰分中のアルカリ金属量から算出される値であり、前記灰分を例えばイオンクロマト法や原子吸光法により分析することで定量することができる。なお、アルカリ金属とは周期律表第IA属のリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムのことを指すが、本発明のPASはナトリウム以外のアルカリ金属が含まないことが好ましい。ナトリウム以外のアルカリ金属を含む場合、塗膜の電気特性や熱的特性に悪影響を及ぼす傾向にある。また塗膜が各種溶剤と接した際の溶出金属量が増大する要因になる可能性があり、特に塗膜がリチウムを含む場合にこの傾向が強くなる。
また、本発明のPAS樹脂粉体塗料は実質的に塩素以外のハロゲン、即ちフッ素、臭素、ヨウ素、アスタチンを含まないことが好ましい。本発明のPAS樹脂粉体塗料がハロゲンとして塩素を含有する場合、通常使用される温度領域においては安定であるために塩素を少量含有しても塗膜の機械特性に対する影響が少ないが、塩素以外のハロゲンを含有する場合、それらの特異な性質が塗膜の特性、例えば電気特性や滞留安定性を悪化させる傾向にある。本発明のPAS樹脂粉体塗料がハロゲンとして塩素を含有する場合、その好ましい量は1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.2重量%以下である。
一方、本発明のPAS樹脂粉体塗料は0価遷移金属化合物を含有しても良い。この0価遷移金属化合物によって、塗膜形成工程(焼き付け)の環式PASの開環重合反応が促進され、低温および/または短時間で焼き付けが完了するため、好ましい。このような0価遷移金属化合物の金属種としては、好ましい態様において、周期表第8族から第11族かつ第4周期から第6周期の金属が例示できる。さらに具体的には、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、金が例示できる。0価遷移金属化合物としては、各種錯体が適しているが、例えば配位子として、トリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、ジメトキシジベンジリデンアセトン、シクロオクタジエン、カルボニルの錯体が挙げられる。具体的にはビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)パラジウム、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、[P,P’−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン][P−1,3−ビス(ジ−i−プロピルホスフィノ)プロパン]パラジウム、1,3−ビス(2,6−ジ−i−プロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(1,4−ナフトキノン)パラジウム二量体、ビス(3,5,3’,5’−ジメトキシジベンジリデンアセトン)パラジウム、ビス(トリ−t−ブチルホスフィン)白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金、テトラキス(トリフルオロホスフィン)白金、エチレンビス(トリフェニルホスフィン)白金、白金−2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ドデカカルボニル三鉄、ペンタカルボニル鉄、ドデカカルボニル四ロジウム、ヘキサデカカルボニル六ロジウム、ドデカカルボニル三ルテニウムなどが例示できる。これらの重合触媒は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
上記0価遷移金属化合物の添加方法は、これら0価遷移金属化合物を直接、本発明の環式PASを含むPAS樹脂粉体塗料に添加してもよいし、系内で0価遷移金属化合物を形成させてもよい。ここで後者のように系内で0価遷移金属化合物を形成させるには、遷移金属の塩などの遷移金属化合物と配位子となる化合物を添加することで、系内で遷移金属の錯体を形成する方法、あるいは、遷移金属の塩などの遷移金属化合物と配位子となる化合物で形成された錯体を添加する方法などが挙げられる。0価以外の遷移金属塩は環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進しないため、配位子となる化合物の添加が必要である。以下に本発明で使用される遷移金属化合物と配位子、及び、遷移金属化合物と配位子で形成された錯体の例を挙げる。系内で0価遷移金属化合物を形成するための遷移金属化合物としては、例えば、種々の遷移金属の酢酸塩、ハロゲン化物などが例示できる。ここで遷移金属種としては例えば、ニッケル、パラジウム、白金、鉄、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、金の酢酸塩、ハロゲン化物などが例示でき、具体的には酢酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫化ニッケル、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、硫化パラジウム、塩化白金、臭化白金、酢酸鉄、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、酢酸ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、酢酸ロジウム、塩化ロジウム、臭化ロジウム、酢酸銅、塩化銅、臭化銅、酢酸銀、塩化銀、臭化銀、酢酸金、塩化金、臭化金などが挙げられる。また、系内で0価遷移金属化合物を形成するために同時に添加する配位子としては、環式ポリアリーレンスルフィドと遷移金属化合物とを加熱した際に0価の遷移金属を生成するものであれば特に限定はされないが、塩基性化合物が好ましく、例えばトリフェニルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジベンジリデンアセトン、炭酸ナトリウム、エチレンジアミンなどが挙げられる。また、遷移金属化合物と配位子となる化合物で形成された錯体としては、上記のような種々の遷移金属塩と配位子からなる錯体が挙げられる。具体的にはビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジアセタート、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウムジクロリド、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウムジクロリド、ジクロロ(1,5’−シクロオクタジエン)パラジウム、ビス(エチレンジアミン)パラジウムジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド、[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケルジクロリド、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケルジクロリド、ジクロロ(1,5’−シクロオクタジエン)白金などが例示できる。これらの遷移金属化合物及び配位子は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
使用する0価遷移金属化合物の濃度は、目的とするPAS樹脂粉体塗料の分子量ならびに0価遷移金属化合物の種類により異なるが、通常、PAS樹脂粉体塗料の硫黄原子に対して0.001〜20モル%、好ましくは0.005〜15モル%、さらに好ましくは0.01〜10モル%である。0.001モル%以上では環式ポリアリーレンスルフィドはポリアリーレンスルフィドへ十分に転化し、20モル%以下では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
上記0価遷移金属化合物の添加に際しては、本発明のPAS樹脂粉体塗料にそのまま添加すればよいが、さらに添加した後、均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法などが挙げられる。機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。溶媒を用いて分散させる方法として、具体的には環式ポリアリーレンスルフィドを適宜な溶媒に溶解または分散し、これに重合触媒を所定量加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。また、重合触媒の分散に際して、重合触媒が固体である場合、より均一な分散が可能となるため重合触媒の平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
(2)環式ポリアリーレンスルフィド
本発明の粉体塗料に用いるPAS樹脂を構成する環式ポリアリーレンスルフィドとは、式−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式化合物であり、好ましくは当該繰り返し単位を80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上含有する下記一般式(1)のごとき化合物である。Arとしては前記式(A)〜式(L)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましく、この場合、本発明により得られる粉体塗料は優れた耐熱性などの特性が得られやすい。
Figure 2011174033
なお、環式ポリアリーレンスルフィドにおいては前記式(A)〜式(L)などの繰り返し単位をランダムに含んでも良いし、ブロックで含んでも良く、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド(前記式(A)、式(B)、式(F)〜式(K))、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン(前記式(D))、環式ポリフェニレンスルフィドケトン(前記式(C))、環式ポリフェニレンスルフィドエーテル(前記式(E))、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい環式ポリアリーレンスルフィドとしては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
Figure 2011174033
を、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする環式化合物中に80重量%以上、特に90重量%以上含有する環式ポリフェニレンスルフィド(以下、環式PPSと略すこともある)が挙げられ、この場合、本発明により得られる粉体塗料は優れた耐熱性などの特性が得られやすい。
環式ポリアリーレンスルフィドの前記(1)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、2〜50が好ましく、2〜25がより好ましく、4〜12がさらに好ましい範囲として例示できる。後述するように本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の塗膜形成工程(焼き付け)は、当該環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度範囲以上で行われる必要があるが、mが小さくなると環式ポリアリーレンスルフィドの融解温度が低くなる傾向にあるため、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの重合をより低い温度で行えるという点で、mを50以下にすることは有利となる。
また、環式ポリアリーレンスルフィドは、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物のいずれでも良いが、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物の方が、単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも融解温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式ポリアリーレンスルフィドの混合物を用いることは、前記した重合温度をより低くできるため好ましい。
このような環状PAS化合物は、公知のPASの製造方法によって、PASと環状PAS化合物を含むPAS混合物を得た後、該PAS混合物から環状PAS化合物を抽出することにより得ることができる。以下にその製造方法について説明する。
(3)環状PAS化合物の原料となるPAS混合物の製造方法
PAS混合物の製造方法としては、公知の技術を用いることができ、たとえば、少なくともp−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるアルカリ金属硫化物及びN−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を加熱して、PAS混合物およびアルカリ金属ハライドを含む反応溶液を調製し、該反応液をたとえば水等で処理することでPAS混合物(PASと環状PAS化合物)を得る方法や、ジフェニルジスルフィド類もしくはチオフェノール類を酸化重合することでPAS混合物を得る方法が例示できる。ただし、これら方法で一般に得られるPAS混合物中に含まれる環状PAS化合物は通常5重量%未満と低いため、環状PAS化合物を5重量%以上含むPAS混合物を得るためには、たとえばPAS混合物の重合の際に、重合溶媒を多量に用いるなどの特殊な方法が必要であり、このような方法で効率よく多量のPAS混合物を得ることは経済的に不利であり、工業的には成立に難がある。
前記以外のPAS混合物の製造方法としては、たとえば、少なくともp−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるアルカリ金属硫化物及びN−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を加熱し重合した後、220℃以下に冷却して得られた、少なくとも顆粒状のPASと顆粒状PAS以外のPAS混合物、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む反応液から顆粒状のPASを取り除いた際に得られる回収スラリーからPAS混合物を得る方法が好ましく例示できる。なお、ここで顆粒状PASとは平均目開き0.175mmの標準ふるい(80meshふるい)で回収できるPAS成分を指す。この方法によって得られるPAS混合物は重量平均分子量が5,000以下の低分子量PASを多く含み、たとえば前記顆粒状PASと比較して機械物性などの特性が大幅に劣るため、一般的工業材料用途への適用は困難であり工業利用上の価値のないものとして従来は認識されていた。そのため、この方法で得られるPAS混合物は通常、産業廃棄物として処理されていた。
本発明者らは前記顆粒状PAS以外のPAS混合物を詳細に分析した結果、このPASには前記式(1)で表される環状PAS(m=2〜50)が10重量%以上含まれており、特にこれらはm=2〜50の混合物として得られることから、本発明の環状PAS化合物を得るための原料として好ましいことを見いだした。このことは、従来は産業廃棄物とされていたものから、産業上極めて利用価値の高い化合物を本発明の方法によって回収できるといった観点で、意義の大きなことである。
前記回収スラリーからPASを回収する方法としては、たとえば回収スラリーから少なくとも50重量%以上の有機極性溶媒を除去し、残留物を得て、これに水を添加した後、所望に応じて酸を加えて、少なくとも残存有機極性溶媒およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去してPAS混合物を分離回収して得る方法や、回収スラリーからPAS混合物を析出させ固体状成分としてPASを回収する方法、たとえば回収スラリーに水を加えることでPASを析出させた後に公知の固液分離法であるデカンテーション、遠心分離及び濾過などの手法によって、固体成分としてPASを得る方法などを例示することができる。
(4)環状PAS化合物含有溶液の調製
本発明ではPAS化合物を、前記式(1)記載の環状PAS化合物(m=2〜50)を溶解可能な溶剤と接触させて環状PAS化合物を含む溶液を調製する。
ここで用いる溶剤としては環状PAS化合物を溶解可能な溶剤であれば特に制限はないが、溶解を行う環境において環状PAS化合物は溶解するが、PASは溶解しにくい溶剤が好ましく、PASは溶解しない溶剤がより好ましい。PASを前記溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する反応器の部材が安価であるという利点がある。この観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。用いる溶剤としてはPASや環状PAS化合物の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、PAS混合物を溶剤と接触させる操作をたとえば常圧環流条件下で行う場合に好ましい溶剤としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン等のハロゲン系溶媒、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの極性溶媒を例示できるが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンが好ましく、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフランがより好ましく例示できる。
PASを溶剤と接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、接触させる際の温度や時間などの条件によってPASや溶剤が酸化劣化するような場合には、非酸化性雰囲気下で行うことが望ましい。なお、非酸化性雰囲気とは気相の酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。
PAS混合物を溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、一般に温度が高いほど環状PAS化合物の溶剤への溶解は促進される傾向にある。前記したように、PAS混合物の溶剤との接触は大気圧下でおこなうことが好適であるので、上限温度は使用する溶剤の大気圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい溶剤を用いる場合はたとえば20〜150℃を具体的な温度範囲として例示できる。
PAS混合物を溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、短すぎると環状PASの溶剤への溶解が不十分になる傾向にあり、また長すぎても溶剤への溶解は飽和状態に達し、それ以上の効果は得られない。
PASを溶剤と接触させる方法は、公知の一般的な手法を用いれば良く特に限定はないが、たとえばPAS混合物と溶剤を混合し、必要に応じて攪拌した後溶液部分を回収する方法、各種フィルター上のPAS混合物に溶剤をシャワーすると同時に環状PASを溶剤に溶解させる方法、ソックスレー抽出法原理による方法などいかなる方法も用いることができる。PASと溶剤を接触させる際の溶剤の使用量に特に制限はないが、たとえばPAS重量に対する浴比で0.5〜100の範囲が例示できる。浴比が小さすぎるとPAS混合物と溶剤の混合が困難になるだけでなく、環状PAS化合物の溶剤への溶解が不十分になる傾向にある。浴比が大きい方が一般に環状PAS化合物の溶剤への溶解には有利であるが、大きすぎてもそれ以上の効果は望めず、逆に溶剤使用量増大による経済的不利益が生じることがある。なお、PASと溶剤の接触を繰り返し行う場合は、小さい浴比でも十分な効果を得られる場合が多い。またソックスレー抽出法は、その原理上、PASと溶剤の接触を繰り返し行う場合と類似の効果が得られるので、この場合も小さな浴比で十分な効果を得られる場合が多い。
PASを溶剤と接触させた後に、環状PAS化合物を溶解した溶液が、残りの固形状のPASを含む固液スラリー状で得られた場合、公知の固液分離法を用いて溶液部を回収する。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。このようにして分離した溶液については、後述する溶剤の除去を行う。一方、残存した固体成分については、環状PAS化合物がまだ残存している場合、具体的には重量基準で0.05重量%以上の環状PAS化合物が残存している場合には、再度溶剤との接触及び溶液の回収を繰り返し行うことでより収率よく環状PAS化合物を得ることができる。また、環状PAS化合物がほとんど残存していない、具体的には環状PAS化合物の残存が重量基準で0.05重量%未満の場合には、残存溶剤を除去することで、残存した固体状のPASは、高純度なPASとして好適にリサイクル可能である。
(5)環状PAS化合物溶液からの溶剤の除去
本発明では前述のようにして得られた前記式(1)で表される環状PAS化合物(m=2〜50)を含む溶液から溶剤の除去を行い、環状PAS化合物を得る。ここで溶剤の除去は、たとえば加熱し、常圧以下で処理する方法や、膜を利用した溶剤の除去を例示できるが、より収率よく、また効率よく環状PAS化合物を得るとの観点では常圧以下で加熱して溶剤を除去する方法が好ましい。なお、前述の様にして得られた環状PAS化合物を含む溶液は温度によっては固形物を含む場合もあるが、この場合の固形物も環状PAS化合物に属するものであるので、溶剤の除去時に溶剤に可溶の成分とともに回収する事が望ましく、これにより収率よく環状PAS化合物を得られるようになる。
溶剤の除去は、少なくとも50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、よりいっそう好ましくは95重量%以上の溶剤を除去することが望ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の特性に依存するため一意的には限定できないが、通常、20〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能になる。
(6)その他後処理
(3)〜(5)に記載の方法により得られた環状PAS化合物は十分に高純度であり、m=2〜50の環状PAS化合物として好適に用いることができるが、さらに以下に述べる後処理を付加的に施すことによってよりいっそう純度の高い環状PAS化合物やm=6の環状PAS単体を得ることが可能である。
前記(3)〜(5)までの操作によって得られた環状PAS化合物は、用いた溶剤の特性によっては、PAS中に含まれる不純物成分を含む場合がある。このような少量の不純物を含む環状PAS化合物を不純物は溶解するが、環状PAS化合物は溶解しない、もしくは環状PAS化合物の溶解しにくい第二の溶剤と接触させることで、不純物成分を選択的に除去することが可能な場合が多い。
環状PAS化合物を前記第二の溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する部材が安価であるという利点がある。この観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。第二の溶剤として好ましい溶剤としては、目的とする環状PAS化合物の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の炭化水素系溶媒アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、酢酸オクチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ペンチル、サリチル酸メチル、蟻酸エチル、等のカルボン酸エステル系溶媒が例示でき、なかでもメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタンが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、アセトン、酢酸エチルが特に好ましい。これらの溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。
環状PAS化合物を第二の溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、上限温度は使用する第二の溶剤の常圧下での環流条件温度にすることが望ましく、前述した好ましい第二の溶剤を用いる場合はたとえば20〜100℃が好ましい温度範囲として例示でき、より好ましくは25〜80℃が例示できる。
環状PAS化合物を第二の溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤種や温度等によって異なるため一意的には限定できないが、たとえば1分〜50時間が例示でき、短すぎると環状PAS化合物中の不純物の第二の溶剤への溶解が不十分になる傾向にあり、また長すぎても第二の溶剤への不純物の溶解は飽和状態に達し、それ以上の効果は得られない。
環状PAS化合物を第二の溶剤と接触させる方法としては固体状の環状PAS化合物と第二の溶剤を必要に応じて攪拌して混合する方法、各種フィルター上の環状PAS化合物固体に第二の溶剤をシャワーすると同時に不純物を第二の溶剤に溶解させる方法、固体状の環状PAS化合物を第二の溶剤を用いたソックスレー抽出を用いる方法や、溶液状の環状PAS化合物もしくは溶剤を含む環状PAS化合物スラリーを第二の溶剤と接触させて、第二の溶剤の存在下で環状PAS化合物を析出させる方法などを用いることができる。なかでも溶剤を含む環状PAS化合物スラリーを第二の溶剤と接触させる方法は、操作後に得られる環状PAS化合物の純度が高く、有効な方法である。
環状PAS化合物を第二の溶剤と接触させた後には、環状PAS化合物が第二の溶剤中に析出したスラリーが得られるので、公知の固液分離法を用いて固体状の環状PAS化合物を回収する。固液分離方法としては、たとえば濾過による分離、遠心分離、デカンテーション等を例示できる。固液分離後に得られた環状PAS化合物中に不純物がまだ残存している場合は、再度環状PAS化合物と第二の溶剤とを接触させて、さらに不純物を除去することも可能である。
(7)環状ポリアリーレンスルフィドの特性
かくして得られた環状PAS化合物は前記式(1)におけるmが2〜50であり、さらに前記式(1)で表されるm=2〜25の異なるmを有する環状PAS化合物が好ましく、さらにm=4〜12の環状PASの混合物であることが好ましい。mがこの範囲の場合、後述するように環状PASからなるポリアリーレンスルフィド樹脂の塗膜形成時の溶融加熱による高重合度化が速やかに進行することを見出し、本発明に到達した。
また(3)〜(6)に記載の方法により得られた環状PAS化合物は十分に高純度であるが、条件によっては、不純物として直鎖状PASオリゴマーが含有することもある。また前述したようにこの直鎖状PASオリゴマーとm=13以上の環状PAS化合物の区別は、現時点の最新分析技術では困難である。この直鎖状PASオリゴマーと推定されるオリゴマー成分の重量平均分子量(Mw)は、前記(3)で記載した環状PAS化合物の原料となるPASの製造方法により異なるが、通常、5000以下のものであり、場合によっては2000以下のものである。
なお環状PAS化合物中に不純物として残存する直鎖状のPASオリゴマーは、環状PAS化合物に比べ、熱安定性が悪く、揮発性ガス成分量が増加すること、さらに後述するが、環状PAS化合物中にこれらが不純物として多量に含まれていると、環状PAS化合物の溶融加熱によるPASへの転化が不十分になるという問題が発生する。
そのため、(3)〜(6)に記載の方法により得られるPAS樹脂中の直鎖状PASオリゴマーの量は、PAS樹脂100重量%に対して、50重量%未満が好ましく、40重量%未満がより好ましく、さらに好ましくは30重量%未満である。
なおこの時の、環状PAS化合物中の直鎖状PASオリゴマー量は、現時点の分析技術によれば、m=13以上の環状PAS化合物との総量として、MALDI−TOF−MSにより定量することが可能である。
また特開平10−77408号公報に記載されているように、架橋タイプのPASから、環状PAS化合物をソックスレー抽出し、抽出液を冷却し、析出した白色固体を「再結晶法」により、環状PAS単体が高純度で得られることが開示されている。また架橋タイプのPASに比べ、回収量は少ないものの、直鎖状のPASからも、同じように抽出操作し、「再結晶」することにより同じように環状PAS単体を高純度で得ることが可能である。
すなわち(3)〜(6)に記載の方法によれば、得られる環状PAS化合物は異なるmを有する混合物であり、得られた環状PAS化合物は、単一のmからなる環状PAS単体に比べ、融解温度が低いという特徴があり、このことはたとえば環状PAS化合物を簡便な方法で、低い溶融加熱温度で高分子量体に転化することができ、後述するように、粉体塗料としたときに、より低温で焼付けが可能となる。
また、かくして得られる環式PASは、好ましい態様において、アルカリ金属含量が100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下、最も好ましくは10ppmであることから、後述の塗膜形成(粉体塗装)よって得られるPAS樹脂塗膜が高純度となり、塗膜の電気特性、機械特性に優れるという特徴を有している。
(8)本発明のPAS樹脂からなる粉体塗料の特性
かくして得られるPAS樹脂からなる粉末は、上記環式PASを含有していることから、従来の線上PAS樹脂粉末からなる粉体塗料と比較して、焼き付け時のガス発生量が少なく、しいては得られる塗膜のボイド発生を抑制できるため、粉体塗料として好適である。
本発明の粉体塗料はPAS樹脂単独でもよいし、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、他の添加剤、例えば、二酸化チタン、弁柄(酸化鉄)、カーボンブラックのような着色顔料;ガラスビーズ、ガラス粉末、ガラス短繊維、ガラスフレーク、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムのような無機充填材;紫外線安定剤;防錆剤などを適量添加してもよい。また、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂のような他のポリマーを添加してもよい。
以上のような成分を添加する場合には、本発明のPAS樹脂と上記添加剤を例えばヘンシェルミキサーのような撹拌装置で均一に混合することができる。
(9)粉体塗装方法
本発明の組成物は、常法の粉体塗装法により、金属、ガラス、セラミックスのような被塗装物の表面に塗装され、ついで所定温度で所定時間加熱(以下焼付けと呼ぶ)が施される。また、粉体塗装に先立って、被塗装物の表面に適宜なプライマーを下塗りしておいてもよい。
前記した本発明のPAS樹脂は、環式ポリアリーレンスルフィドが焼付け工程において、加熱溶融時に塗装面上で高重合度体に転化するため、従来PAS樹脂の焼付け時に発生するガスを低減でき、しいては塗膜のボイド発生を抑制することが可能となった。
したがって焼付け温度はPAS樹脂特に主成分である環式PASが溶融解する温度であることが好ましく、このような温度条件であれば特に制限は無い。焼付け温度がPAS樹脂の溶融解温度未満では塗膜を得るのに長時間が必要となる傾向がある。
なお、本発明のPAS樹脂が溶融解する温度は、組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えばPAS樹脂を示差走査型熱量計で分析することで溶融解温度を把握することが可能である。但し、温度が高すぎると環式PAS間、焼付けにより生成したPAS間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られる塗膜の特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。具体的な加熱温度の下限としては、180℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上、よりいっそう好ましくは250℃以上である。この温度範囲では、環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解し、短時間でポリアリーレンスルフィドを得ることができる。一方、温度が高すぎると環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるポリアリーレンスルフィドの特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度の上限としては、400℃以下が例示でき、好ましくは360℃以下、より好ましくは320℃以下、さらに好ましくは300℃以下、よりいっそう好ましくは270℃以下である。この温度囲下では、好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィドの特性への悪影響を抑制できる傾向にあり、前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
また、焼付け時間は使用するPAS樹脂中の環式ポリアリーレンスルフィドの含有率やm数、及び分子量などの各種特性、また、焼付け温度等の条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。具体的な焼付け時間としては0.05〜100時間が例示でき、0.1〜20時間が好ましく、0.1〜10時間がより好ましい。0.05時間未満では環式PASの高重合度体への転化が不十分になりやすく、100時間を超えると好ましくない副反応による得られる塗膜の特性への悪影響が顕在化する可能性が高くなる傾向にあるのみならず、経済的にも不利益を生じる場合がある。
(10)PAS樹脂の粉体塗装によって得られる塗膜の特性
本発明の環式ポリアリーレンスルフィドを含むPAS樹脂粉体塗料を焼付けして得られるPAS樹脂塗膜は、上述の通り焼付け工程において環式ポリアリーレンスルフィドが高重合度化するため、好ましい態様において、分子量分布の広がり、即ち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度が2.5以下であり、より好ましくは2.3以下、さらに好ましくは2.1以下、いっそう好ましくは2.0以下であり、低分子量成分の含有量が少ないという特徴を有する。分散度が2.5を越える場合はPAS塗膜に含まれる低分子成分の量が多くなり、このことは塗膜の機械特性低下および、塗膜形成時のガス発生量の増大になり、しいては塗膜にボイドが頻発し、均一平滑性の観点から望ましくない。なお、前記重量平均分子量及び数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
また、本発明のPAS樹脂塗膜は、原料である環式ポリアリーレンスルフィドを含むPAS樹脂粉体塗料中のアルカリ金属含有量が少ないことから、焼付け、高重合度化して得られる塗膜中に含まれるアルカリ金属含有量も低減されるという特徴を有する。塗膜中のアルカリ金属含量は、好ましい態様において100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、より好ましくは30ppm以下、更に好ましくは10ppm以下である。
塗膜中のアルカリ金属含有量が100ppmを超えた場合、例えば高度な電気絶縁特性が要求される用途における信頼性が低下するなど、用途に制限が生じることになる。ここで本発明における塗膜中のアルカリ金属含有量とは、例えば粉体塗装して得られた塗装物から、塗膜を剥離し、電気炉等を用いて焼成した残渣である灰分中のアルカリ金属量から算出される値であり、前記灰分を例えばイオンクロマト法や原子吸光法により分析することで定量することができる。なお、アルカリ金属とは周期律表第IA属のリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムのことを指すが、本発明のPASはナトリウム以外のアルカリ金属が含まないことが好ましい。ナトリウム以外のアルカリ金属を含む場合、塗膜の電気特性や熱的特性に悪影響を及ぼす傾向にある。また塗膜が各種溶剤と接した際の溶出金属量が増大する要因になる可能性があり、特に塗膜がリチウムを含む場合にこの傾向が強くなる。
また、本発明のPAS樹脂塗膜は実質的に塩素以外のハロゲン、即ちフッ素、臭素、ヨウ素、アスタチンを含まないことが好ましい。本発明の塗膜がハロゲンとして塩素を含有する場合、塗膜が通常使用される温度領域においては安定であるために塩素を少量含有しても機械特性に対する影響が少ないが、塩素以外のハロゲンを含有する場合、それらの特異な性質が塗膜の特性、例えば電気特性を悪化させる傾向にある。本発明の粉体塗料から得られる塗膜がハロゲンとして塩素を含有する場合、その好ましい量は1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.2重量%以下であり、この範囲ではPASの電気特性や滞留安定性がより良好となる傾向にある。
以上のことから、本発明のPAS樹脂塗膜は、ボイドが少なく表面平滑性に優れるだけでなく、アルカリ金属含有量が少なく、また低分子量成分が少ないことから、電気特性、機械特性に優れるため、塗膜のベース樹脂であるPAS本来の優れた特性を生かして、特に耐熱・耐薬品プレコート板、電気・電子部品、電線等の電気絶縁被覆、自動車部品、ケミカルプラント、給湯管、温泉配管、船舶・海水プラント、油田用パイプ等の耐熱・耐薬品・防食被覆などに有効に適用できる。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<分子量測定>
環式ポリアリーレンスルフィドおよびポリアリーレンスルフィドの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
<アルカリ金属含有量の定量>
ポリアリーレンスルフィド及びポリアリーレンスルフィドプレポリマーの含有するアルカリ金属含有量の定量は下記により行った。
(a)試料を石英るつぼに秤とり、電気炉を用いて灰化した。
(b)灰化物を濃硝酸で溶解した後、希硝酸で定容とした。
(c)得られた定容液をICP重量分析法(装置;Agilent製4500)及びICP発光分光分析法(装置;PerkinElmer製Optima4300DV)に処した。
〔参考例、実施例1,2および比較例1,2;PAS樹脂粉体塗料の製造〕
[参考例]
<環式ポリアリーレンスルフィドの原料となるPAS混合物の製造例>
以下、本参考例において、本文(2)記載の環式ポリアリーレンスルフィドの原料となるPAS混合物の製造例について説明する。
<PAS混合物の調製>
撹拌機付きの1000Lのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム82.7kg(700モル)、96%水酸化ナトリウム29.6kg(710モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を114.4kg(1156モル)、酢酸ナトリウム17.2kg(210モル)、及びイオン交換水100kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水143kgおよびNMP2.8kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
次に、p−ジクロロベンゼン103kg(703モル)、NMP90kg(910モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水12.6kg(700モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(A)を得た。このスラリー(A)を200kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。
80℃に加熱したスラリー(B)200kgを50kg/1バッチスケールで、ふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、濾液成分としてスラリー(C)を約150kg、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PAS樹脂(粗PAS樹脂(D))50kg得た。
得られたスラリー(C)150kgを50kg/1バッチで脱揮装置に仕込み、窒素で置換してから、減圧下100〜150℃で1.5時間処理した後に、真空乾燥機で150℃、1時間処理して固形物を得た。この固形物にイオン交換水200kg(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのフィルターで減圧吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水200kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥し、目的のPAS混合物を2kg得た。
次に、得られたPAS混合物を用いた環式ポリアリーレンスルフィドを含有するPAS樹脂粉体塗料の製造例について下記に説明する。
[実施例1]
<環式ポリアリーレンスルフィドを含むPAS樹脂粉体塗料の製造1(PAS−1)>
上記参考例で得られたPAS混合物2kgに、溶剤としてクロロホルム50kgを用いて、浴温約80℃で抽出法により3時間PPS混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いてクロロホルムを留去した後、真空乾燥機70℃で3時間処理して白色粉末840g(PAS混合物に対する収率42%)を得た。
このようにして得られたPAS−1のナトリウム含有量は4ppm、塩素含有量は2.2wt%であり、Na以外のアルカリ金属及び塩素以外のハロゲンは検出限界以下であった。この固形物の赤外分光分析における吸収スペクトルより、当該固形物はポリフェニレンスルフィドであることが判明した。
また高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、このPAS−1は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィド及び繰り返し単位数2〜11の線状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと線状ポリフェニレンスルフィドの重量比は約9:1であることがわかった。これより得られたPAS−1は環式ポリフェニレンスルフィドを90重量%、線状ポリフェニレンスルフィドを10%含むことが判明した。なお、GPC測定を行った結果、PAS−1は室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であった。
[比較例1]
<従来技術によるPAS樹脂粉体塗料の製造1(PAS−2)>
参考例で得られた粗PAS樹脂(D)20kgにNMP約50リットルを加えて85℃で30分間洗浄し、ふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別した。得られた固形物を50リットルのイオン交換水で希釈して、70℃で30分撹拌後、80メッシュふるいで濾過して固形物を回収する操作を合計5回繰り返した。このようにして得られた固形物を、130℃で熱風乾燥し、PAS−2を得た。得られたポリマーの赤外分光分析による吸収スペクトルは参考例で得られたPAS混合物の吸収と一致した。
得られたPAS―2のGPC測定の結果、得られたPAS−2の重量平均分子量は59600、分散度は3.78であることがわかった。また元素分析を行った結果、Na含有量は1040ppmであった。さらに、PAS−2について加熱時の発生ガス成分の分析を行った結果、加熱前のPPSの重量に対してγ−ブチロラクトンが618ppm、4−クロロ−N−メチルアニリンが416ppm検出された。なおここで、Na以外のアルカリ金属や塩素以外のハロゲンは検出されなかった。
[実施例2]
<環式ポリアリーレンスルフィドを含むPAS樹脂粉体塗料の製造2(PAS−3)>
上記実施例1で得られたPAS−1粉末67gと、上記比較例1で得られたPAS−2粉末33gをドライブレンドし、PAS−3粉末100gを得た。
PAS−3のナトリウム含有量は10ppm、塩素含有量は2.2wt%であり、Na以外のアルカリ金属及び塩素以外のハロゲンは検出限界以下であった。この固形物の赤外分光分析における吸収スペクトルより、当該固形物はポリフェニレンスルフィドであることが判明した。
また、得られたPAS−3の高速液体クロマトグラフィー分析の結果から、環式ポリアリーレンスルフィドおよび線状ポリアリーレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリアリーレンスルフィドと線状ポリアリーレンスルフィドの重量比は約1:1.5(環式PPS重量/線状PPS重量=0.67)であることがわかった。これら分析結果より、得られたPAS−3は環式ポリアリーレンスルフィドを60重量%、線状ポリアリーレンスルフィドを40%含むポリアリーレンスルフィド混合物であることが判明した。また、GPC測定を行った結果、PAS−3の重量平均分子量は8200であった。
[実施例3]
<環式ポリアリーレンスルフィドを含むPAS樹脂粉体塗料の製造3(PAS−4)>
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を14.03g(0.120モル)、96%水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液12.50g(0.144モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.0g(6.20モル)、及びp−ジクロロベンゼン(p−DCB)18.08g(0.123モル)を仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素ガス下に密封した。400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約1時間かけて昇温した。この段階で、反応容器内の圧力はゲージ圧で0.35MPaであった。次いで200℃から270℃まで約30分かけて昇温した。この段階の反応容器内の圧力はゲージ圧で1.05MPaであった。270℃で1時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
得られた内容物500gを約1500gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16μmのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約300gのイオン交換水に分散させ、70℃で30分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で一晩真空乾燥し、乾燥固体を得た。
得られた固形物を円筒濾紙に仕込み、溶剤としてクロロホルムを用いて約5時間ソックスレー抽出を行うことで固形分に含まれる低分子量成分を分離した。
クロロホルム抽出操作にて得られた抽出液から溶媒を除去した後、約5gのクロロホルムを加えてスラリーを調製し、これを約300gのメタノールに攪拌しながら滴下した。これにより得られた沈殿物を濾過回収し、70℃で5時間真空乾燥を行い、1.19gの白色粉末を得た。この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜13の環式化合物を約99重量%含み、本発明のPAS樹脂粉体塗料に好適に用いられる環式ポリフェニレンスルフィドであることが判明した。得られたPAS−4のナトリウム含有量は4ppm、塩素含有量は2.2wt%であり、Na以外のアルカリ金属及び塩素以外のハロゲンは検出限界以下であった。また、GPC測定を行った結果、環式ポリフェニレンスルフィドは室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であった。
[実施例4]
上記実施例1で得られたPAS−1粉末に、PAS−1の硫黄原子に対してテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム1モル%をドライブレンドし、PAS−5を得た。得られたPAS−5のナトリウム含有量は4ppm、塩素含有量は2.2wt%であり、Na以外のアルカリ金属及び塩素以外のハロゲンは検出限界以下であり、PAS−1と同等であった。また、高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、このPAS−1は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィド及び繰り返し単位数2〜11の線状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと線状ポリフェニレンスルフィドの重量比は約9:1であり、GPC測定を行った結果、PAS−5は室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であり、いずれもPAS−1と同等であった。
[実施例5]
上記実施例1で得られたPAS−1粉末に、PAS−1の硫黄原子に対してトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム1モル%をドライブレンドし、PAS−6を得た。得られたPAS−6のナトリウム含有量は4ppm、塩素含有量は2.2wt%であり、Na以外のアルカリ金属及び塩素以外のハロゲンは検出限界以下であり、PAS−1と同等であった。また、高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、このPAS−1は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィド及び繰り返し単位数2〜11の線状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと線状ポリフェニレンスルフィドの重量比は約9:1であり、GPC測定を行った結果、PAS−6は室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であり、いずれもPAS−1と同等であった。
[実施例6]
上記実施例1で得られたPAS−1粉末に、PAS−1の硫黄原子に対してテトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル1モル%をドライブレンドし、PAS−7を得た。得られたPAS−7のナトリウム含有量は4ppm、塩素含有量は2.2wt%であり、Na以外のアルカリ金属及び塩素以外のハロゲンは検出限界以下であり、PAS−1と同等であった。また、高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、このPAS−1は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィド及び繰り返し単位数2〜11の線状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドと線状ポリフェニレンスルフィドの重量比は約9:1であり、GPC測定を行った結果、PAS−7は室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であり、いずれもPAS−1と同等であった。
[実施例7]
上記実施例3で得られたPAS−4粉末に、PAS−4の硫黄原子に対してテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム1モル%をドライブレンドし、PAS−8を得た。得られたPAS−8のナトリウム含有量は4ppm、塩素含有量は2.2wt%であり、Na以外のアルカリ金属及び塩素以外のハロゲンは検出限界以下であり、PAS−1と同等であった。また、高速液体クロマトグラフィーより成分分割した成分のマススペクトル分析、更にMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、このPAS−8は繰り返し単位数4〜11の環式ポリフェニレンスルフィド及び繰り返し単位数2〜11の線状ポリフェニレンスルフィドからなる混合物であり、環式ポリフェニレンスルフィドの含有量は99%であり、GPC測定を行った結果、PAS−8は室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であり、いずれもPAS−4と同等であった。
[比較例2]
<従来技術によるPAS樹脂粉体塗料の製造(PAS−9)>
撹拌機および底に弁の付いた20リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム(三協化成)2383g(20.0モル)、96%水酸化ナトリウム831g(19.9モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3960g(40.0モル)、およびイオン交換水3000gを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水4200gおよびNMP80gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は0.17モルであった。また、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの硫化水素の飛散量は0.021モルであった。
次に、p−ジクロロベンゼン(シグマアルドリッチ)2942g(20.0モル)、NMP1515g(15.3モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。その後、400rpmで撹拌しながら、200℃から227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、次いで274℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、274℃で50分保持した後、282℃まで昇温した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら、内容物を撹拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去し、PAS−9と塩類を含む固形物を回収した。
得られた固形物およびイオン交換水15120gを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した17280gのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
得られたケーク、イオン交換水11880gおよび酢酸12gを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水17280gを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを80℃で熱風乾燥し、さらに120℃、24時間真空乾燥することにより、乾燥PAS−9を得た。ついで、乾燥機内に窒素を通じながら220℃で5時間処理した。得られたPAS−9は、重量平均分子量が20000、分散度3.12であった。また、得られたPAS−9のNa含有量は980ppmでこれ以外のアルカリ金属は検出されなかった。さらに320℃/60分加熱した際の発生ガス成分であるラクトン型化合物としてγ−ブチロラクトン(γ−BL)が420ppm、アニリン型化合物として4−クロロ−N−メチルアニリン(MeAn)が775ppm検出された。また、塩素以外のハロゲンは検出されなかった。
〔実施例8〜17および比較例3,4;PAS樹脂粉体塗料を用いた塗膜の製造〕
上記実施例1〜7および比較例1,2で得られたPAS樹脂粉体塗料を用い、以下の手順にて塗装、焼付けを行った。
まず、厚み1.0mm、縦50mm、横50mmのステンレス板(SUS304)の表
面をトリクレンで脱脂した。その表面に60〜80μmの膜厚になるように静電粉体塗装を施した。次いで、塗装物を表1、表2に示す温度に設定したオーブン中、表1、表2に示した時間で焼き付けを施した。その後、オーブンから取り出して室温で自然放冷し、実施例8〜17および比較例3,4の塗装物を得た。
得られた塗膜について、下記の方法にて評価を行った。評価結果を表1に示した。
<塗膜のボイド評価>
上記PAS樹脂を粉体塗装したSUS角板(厚み1.0mm、縦50mm、横50mm)を5枚作成し、角板中のボイド数の合計を目視にてカウントした。
◎ ボイド数 5個未満
○ ボイド数 5個以上、20個未満
× ボイド数 20個以上。
<塗膜の表面平滑性>
上記PAS樹脂を粉体塗装したSUS角板(厚み1.0mm、縦50mm、横50mm)について、下記基準に基づき、目視にて判定した。
◎ 非常に優れている
○ 優れている
× 外観不良(肌荒れ、ハジキ、フクレあり)。
<PAS塗膜の分子量、分子量分布>
剥離したPAS塗膜について、上述のPAS樹脂と同様の方法でGPC測定を行い、ポリスチレン換算分子量を測定した。
<PAS塗膜のアルカリ金属含有量の定量>
剥離したPAS塗膜について、下記の方法によってアルカリ金属含有量を測定した。
(a) 試料を石英るつぼに秤とり、電気炉を用いて灰化した。
(b) 灰化物を濃硝酸で溶解した後、希硝酸で定容とした。
(c) 得られた定容液をICP重量分析法(装置;Agilent製4500)及びICP発光分光分析法(装置;PerkinElmer製Optima4300DV)に処した。
<PAS塗膜のガス発生量>
ガス発生量は、加熱時重量減少率は熱重量分析機を用い下記条件で行った。なお、試料は上記実施例3〜7、比較例3、4で得られた塗装物からPAS塗膜を剥離して用いた。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件:
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から400℃まで昇温。この際の昇温速度20℃/分
重量減少率△Wrは(b)の昇温において、100℃時の試料重量(W1)を基準として、330℃到達時の試料重量(W2)から下式を用いて算出した。
ΔWr=(W1−W2)/W1×100(重量%)。
Figure 2011174033
Figure 2011174033
表1、表2の結果から明らかなように、本発明の環式ポリアリーレンスルフィドを含むPAS樹脂は、高純度の環式ポリアリーレンスルフィドが粉体塗装における焼付け時に高重合度化するため、得られる塗膜を形成するPAS樹脂は低分子量成分の含有量が少なく、ボイドの少ない均一性に優れた塗膜となることがわかる。一方、従来技術で得られるPAS樹脂粉末を粉体塗料とした場合は、焼付け時に低分子量成分の分解ガス発生量が多く、ボイド発生が多いことがわかる。
また、本発明の環式ポリアリーレンスルフィドを粉体塗装して得られるPAS樹脂塗膜は、アルカリ金属の含有量が少ないことがわかり、特に耐熱・耐薬品プレコート板、電気・電子部品、電線等の電気絶縁被覆、自動車部品、ケミカルプラント、給湯管、温泉配管、船舶・海水プラント、油田用パイプ等の耐熱・耐薬品・防食被覆などに好適であることがわかる。

Claims (12)

  1. ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量%中に、下記一般式(1)で表される環式ポリアリーレンスルフィド混合物を5重量%以上含有することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料。
    Figure 2011174033
    (Arはアリーレン基を表し、mは2〜50の整数である。)
  2. 前記環式ポリアリーレンスルフィドを少なくとも50重量%以上含み、かつ重量平均分子量が10,000未満である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料。
  3. 前記一般式(1)で表される環式ポリアリーレンスルフィド混合物が、式中の繰り返し数mが4〜12のものを含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料。
  4. さらに、0価遷移金属化合物を含む請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料。
  5. 前記0価遷移金属化合物の含有量がポリアリーレンスルフィド樹脂の硫黄原子に対し0.001〜20モル%である請求項4に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料。
  6. アルカリ金属含量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料。
  7. 実質的にアルカリ金属がナトリウムであることを特徴とする請求項6に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料。
  8. 実質的に塩素以外のハロゲンを含まないことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに1項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂粉体塗料を、基材上に静電塗装し、加熱することを特徴とする粉体塗装方法。
  10. 加熱温度が250〜400℃であることを特徴とする請求項9記載の粉体塗装方法。
  11. 加熱時間が5〜60分であることを特徴とする請求項9または10いずれかに記載の粉体塗装方法。
  12. 請求項9〜11のいずれか1項に記載の塗装方法で得られる塗装物。
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