本発明の一実施形態においては、ブレーキ制御装置は、ブレーキ操作入力検出部と作動液圧検出部とを備え、これら検出部の検出結果に基づいて運転者の制動要求の有無を判定する。いわゆるブレーキバイワイヤ方式のブレーキ制御においてフェイルセーフの観点から制動要求判定に作動液圧を併用する場合に、本来のブレーキ操作入力検出部とは作動液圧検出部が著しく異なる検出結果を得ることがある。双方の検出結果は整合するはずであるから、作用するホイールシリンダ圧が異常であるおそれがある。
本発明者は、本来のブレーキ操作入力検出部が制動要求の生じていないことを示しているにもかかわらず測定液圧の増減の反復が生じるという故障モードを見出した。具体的には例えば、高圧源を有するホイールシリンダ圧制御系統とバックアップ用のマニュアルのブレーキ系統とを並列に有するブレーキ制御装置において上述の故障モードが生じ得る。特に、非制動状態においてはホイールシリンダ圧を測定し、制動状態においてはホイールシリンダから遮断されブレーキ操作入力に連動する作動液圧を測定する作動液圧センサの測定液圧を利用して制動要求判定をする場合に、上述の故障モードが生じ得る。発生した異常はホイールシリンダ圧制御系統を介した高圧作動液の漏れであり、例えばホイールシリンダ増圧用制御弁の戻しバネの破損である。
この場合、異常発生によりホイールシリンダが高圧となるため作動液圧センサの測定液圧は制動要求の発生を示し、ブレーキ制御装置は内部の液圧回路を非制動状態から制動状態へと切り替える。そうすると、液圧センサはホイールシリンダから遮断され、マスタシリンダ等のバックアップ用の液圧源の作動液圧を測定するようになる。液圧センサ近傍の測定液圧はバックアップ用の液圧源またはリザーバ等の作動液貯留部へと吸収されて低下する。よって、ブレーキ制御装置は内部の液圧回路を非制動状態へと戻すことになるが、液圧センサにはホイールシリンダの過剰圧が再度作用することになる。このようにしてホイールシリンダ圧制御系統の高圧が消費されるまで液圧センサの測定液圧の増減ひいては制動オンオフが短時間で反復されてしまうことになる。
そこで、本発明の一実施形態においては、上述の制動判定処理において作動液圧のみが制動要求の発生を示している場合にはその判定結果を取り消して制動状態に移行せずに非制動状態を継続させる。これにより、運転者の意思に反して制動状態と非制動状態とが短時間に反復されるのを防ぐことができる。
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。本実施形態においてはストロークセンサ25は2つの接点を有しており、見かけ上2つのセンサであるかのように2つの測定値をブレーキECU70に出力することができる。
また、ブレーキECU70にはストップランプスイッチ80が接続されている。ストップランプスイッチ80はブレーキペダル24が踏み込まれるとオン状態となる。これによりストップランプ(図示せず)が点灯される。また、ブレーキペダル24の踏込が解除されるとストップランプスイッチ80はオフ状態となり、ストップランプは消灯される。ストップランプスイッチ80の点灯状態を示す信号がストップランプスイッチ80からブレーキECU70へと所定時間おきに入力され、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU70は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力の値は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
その結果、ブレーキ制御装置20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤによる制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
このとき、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。
すなわち、ブレーキECU70は、マスタシリンダユニット27とホイールシリンダ23との作動液流通を遮断しホイールシリンダ圧制御系統によりホイールシリンダ圧を制御する制動状態と、ホイールシリンダ圧制御系統によるホイールシリンダ圧制御を停止しマスタシリンダユニット27とホイールシリンダ23との作動液流通を許容する非制動状態と、を制動要求の有無を判定して移行する。このようにすれば、システムが正常な場合にはホイールシリンダ圧制御系統によりブレーキ操作量から独立してホイールシリンダ圧を制御することが可能となる。
本実施形態では、ブレーキECU70は、ブレーキシステムが正常である場合には、制動状態であるか非制動状態であるかにかかわらず常に分離弁60を開弁する。これにより、制動要求発生時に分離弁60を開弁する必要がなくホイールシリンダ圧制御系統からフロント系統に作動液圧が速やかに付与される。また分離弁60の開閉頻度が低減されるので耐用期間を長くすることができる。
制御部すなわちブレーキECU70は、運転者からの制動要求の発生及び解除つまり運転者によるブレーキペダル24の踏込の開始及び終了を、センサからの入力に基づいて判定する。制動オン条件が成立した場合に、ブレーキECU70は、運転者によるブレーキ操作が開始され制動要求が発生したものと判定する。また、制動オフ条件が成立した場合に、ブレーキECU70は、運転者によるブレーキ操作が解除され制動要求も解除されたものと判定する。なお、以下では便宜上、制動要求の発生を「制動オン」、制動要求の解除を「制動オフ」と適宜称する。
フェイルセーフ性を向上させ、あるいはより高精度に制動判定を実現するという観点から、複数のセンサからの入力信号に基づいてブレーキECU70は制動オン及び制動オフを判定する。もちろん、ブレーキECU70は単一のセンサの測定値に基づいて判定することも可能であり、そのようにしてもよい。
本実施形態においては、ブレーキECU70は、作動液圧とは異なる測定対象によりブレーキ操作入力の有無を直接検出して制動要求の有無を判定する第1判定と、作動液圧を利用して制動要求の有無を判定する第2判定と、を並列に行う。ブレーキECU70は例えば、ブレーキ操作部材への操作入力による作動液圧変動よりも高い応答性でブレーキ操作入力に連動する測定対象を測定することにより第1判定を行う。または、ブレーキECU70は、作動液圧変動から独立してブレーキ操作状態を出力するブレーキ操作検出手段の出力に基づいて第1判定を行う。
例えば、ブレーキECU70は、ストロークを示す入力信号を含む複数の入力信号に基づいて制動要求の発生を判定する第1判定と、作動液圧を示す入力信号を含む複数の入力信号に基づいて制動要求の発生を判定する第2判定とを実行する。ブレーキECU70は、第1判定及び第2判定の判定結果の少なくともいずれか一方が制動要求の発生を示すことを制動オン判定条件とする。
第1判定及び第2判定はそれぞれ複数のセンサによる多重系として構成されている。第1判定においてブレーキECU70は、ストロークを示す入力信号を含む複数の入力信号のすべてまたは過半数が制動要求の発生を示すものである場合に、第1判定の判定結果として制動要求が発生したものとする。第2判定においてブレーキECU70は、作動液圧を示す入力信号を含む複数の入力信号のすべてまたは過半数が制動要求の発生を示すものである場合に、第2判定の判定結果として制動要求が発生したものとする。第1判定及び第2判定のそれぞれにおいて、ブレーキECU70は典型的には2つの入力信号に基づいて判定する。
ブレーキECU70が各判定に用いる入力信号は、典型的には例えばストロークセンサ25や液圧センサなどのセンサにより測定される測定値を示す信号であって当該センサからブレーキECU70へと入力される信号であるが、これに限られない。センサからの測定値を示す信号ではなく、例えばストップランプスイッチ80からブレーキECU70への入力信号のようにブレーキ操作のオンまたはオフにより変化する信号であってもよい。なお以下では便宜上、「センサ」「検出部」等の検出手段を意味する用語にはいわゆるセンサだけではなくブレーキ操作に応じて変化する信号をブレーキECU70に入力する手段を含むものとする。
このように、ブレーキECU70は第1判定または第2判定の判定結果のいずれかが制動オンを示す場合に制動オンであると判定することにより、ブレーキバイワイヤにおいて制動力発生のトリガとなる制動オンの検出に関してフェイルセーフ性を高めることができる。第1判定及び第2判定を併用することにより、一方の判定に用いられるいずれかのセンサが異常である場合、あるいは異常でないとしてもノイズ等の影響によりごく短時間だけセンサの出力値を信頼できない状態いわゆる無効状態である場合であっても、他方の判定結果により制動オンの検出が可能となる。なお、上述の第1判定及び第2判定に更に追加の判定を加えていずれかの判定結果が制動オンを示す場合に制動オンであると判定してもよく、例えば3つの判定結果のいずれかが制動要求の発生を示すことを制動オン判定条件としてもよい。
また、上述の制動オン条件と同様に制動オフ条件に関しても、ブレーキECU70は、複数のセンサによる多重系として構成される複数の判定系統を用いることができる。制動オフ条件は例えば制動オン条件の否定である。ブレーキECU70は、ストロークを示す入力信号を含む複数の入力信号に基づいて制動要求の解除を判定する第3判定と、作動液圧を示す入力信号を含む複数の入力信号に基づいて制動要求の解除を判定する第4判定とを実行する。ブレーキECU70は、第3判定及び第4判定の判定結果がともに制動要求の解除を示すことを制動オフ判定条件とする。第3判定においてブレーキECU70は、ストロークを示す入力信号を含む複数の入力信号のすべてまたは過半数が制動要求の解除を示すものである場合に、第3判定の判定結果として制動要求が解除されたものとする。第4判定においてブレーキECU70は、作動液圧を示す入力信号を含む複数の入力信号のすべてまたは過半数が制動要求の解除を示すものである場合に、第4判定の判定結果として制動要求が解除されたものとする。
また、第3判定及び第4判定のそれぞれにおいては、複数の入力信号のいずれかが制動オフを示すものである場合に制動オフであると結論づけられる。第3判定及び第4判定はそれぞれ複数のセンサによる多重系として構成されている。第3判定及び第4判定のそれぞれにおいて、ブレーキECU70は典型的には2つの入力信号に基づいて判定する。
より具体的に言えば、本実施形態において制動オン条件は、ストロークとレギュレータ圧とホイールシリンダ圧とを利用するように設定されている。ブレーキECU70は第1判定として例えばストロークセンサ25からの2つの測定値を利用して制動オンか否かを判定する。ブレーキECU70は、ストロークセンサ25からの2つの測定値がともに予め設定されたしきい値を超えたことを条件として第1判定の判定結果を制動オンであるとする。また、ブレーキECU70は第2判定として例えばレギュレータ圧センサ71及び制御圧センサ73のそれぞれの測定値を利用して制動オンか否かを判定する。ブレーキECU70は、レギュレータ圧センサ71及び制御圧センサ73のそれぞれの測定値がともに予め設定されたしきい値を超えたことを条件として第2判定の判定結果を制動オンであるとする。ブレーキECU70は、第1判定及び第2判定の判定結果の少なくとも一方が制動オンを示す場合に制動オンであると判定してブレーキバイワイヤによる制動力制御を開始する。
また、制動オフ条件も制動オン条件と同様にストロークとレギュレータ圧とホイールシリンダ圧とを利用するように設定されている。ブレーキECU70は第3判定として例えばストロークセンサ25からの2つの測定値を利用して制動オフか否かを判定する。ブレーキECU70は、ストロークセンサ25からの2つの測定値の少なくともいずれか一方が予め設定されたしきい値を下回ったことを条件として第3判定の判定結果を制動オフであるとする。本実施形態では第1判定及び第3判定におけるストロークのしきい値は同じ値に設定される。
第4判定としてブレーキECU70は例えばレギュレータ圧センサ71及び制御圧センサ73のそれぞれの測定値を利用して制動オフか否かを判定する。ブレーキECU70は、レギュレータ圧センサ71及び制御圧センサ73の測定値の少なくともいずれか一方が予め設定されたしきい値を下回ったことを条件として第4判定の判定結果を制動オフであるとする。本実施形態では第2判定及び第4判定における液圧のしきい値は同じ値に設定される。ブレーキECU70は、第3判定及び第4判定の判定結果がともに制動オフを示す場合に制動オフであると判定してブレーキ制御を終了する。
本実施形態においてはホイールシリンダ圧を測定するための制御圧センサ73を利用して制動要求の発生及び解除の判定するための判定系統を構築している。このため、上述のようにフェイルセーフ性などの観点から複数の判定系統を多重系として構築する場合にブレーキ制御装置20に搭載されるセンサ数を少なくすることができる。具体的には、レギュレータ圧センサ71と対になるようマスタ側に配置されマスタシリンダ圧を直接測定するための液圧センサを省略することが可能となる。これにより、ブレーキ制御システムにおける配線の簡素化やシステムの小型化が実現され、コストを低減することができるという点で好ましい。
なお、本実施形態に係るマスタシリンダユニット27は液圧ブースタ付きマスタシリンダであるため、運転者のブレーキ操作時に比較的ホイールシリンダ圧が上昇しやすい。よって、制動オン条件または制動オフ条件にホイールシリンダ圧を利用しても、良好な精度で制動オンまたは制動オフの判定が可能である。
本実施形態におけるレギュレータ圧センサ71及び制御圧センサ73の配置は、システムを構成するためにブレーキ制御装置20に搭載すべき液圧センサの数を最小にすることができるという点で好ましいものである。
上述のようにブレーキ制御装置20は、マスタシリンダユニット27と前輪側のホイールシリンダ23FL、23FRとを接続するフロント系統と、マスタシリンダユニット27と後輪側のホイールシリンダ23RL、23RRとを接続するリア系統と、フロント系統とリア系統とを接続し、中途に分離弁60が設けられている主流路45とを備える。フロント系統及びリア系統にはそれぞれマスタシリンダユニット27と各ホイールシリンダ23との作動液の流通を制御するためのカット弁、具体的にはマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65が設けられている。また、分離弁60が開弁されている場合に各ホイールシリンダ圧を共通に制御するためのホイールシリンダ圧制御系統がフロント系統及びリア系統に平行に設けられている。
このような全体構成のもとで、ブレーキ制御装置20は、フロント系統に設けられているカット弁に対してホイールシリンダ側に配置されるホイールシリンダ圧センサ例えば制御圧センサ73を備える。またブレーキ制御装置20は、リア系統に設けられているカット弁に対してマスタシリンダユニット側に配置される液圧源圧力センサ例えばレギュレータ圧センサ71を備える。すなわち、レギュレータ圧センサ71は、少なくとも制動状態においてはレギュレータ33の作動液圧を測定するようレギュレータ33とホイールシリンダ23とを接続するレギュレータ流路62においてレギュレータカット弁65の上流に設けられている。
また、本実施形態では、ブレーキECU70は、制動状態から非制動状態に移行する際に一時的に減圧リニア制御弁67を開弁してホイールシリンダ圧を減圧する制動終了制御を行う。この制御を以下では「終了特定制御」とも称する。
終了特定制御とは、ホイールシリンダ23に残圧が残るのを防止するために、ブレーキペダル24の踏み込みが解除された後に行われる制御である。ブレーキペダル24の踏み込みが解除される際にゆっくりブレーキペダル24を戻した場合は、制動停止時におけるホイールシリンダ圧Pfrは略0となるため、ホイールシリンダ23に残圧は殆ど残らない。しかしながら、ブレーキペダル24を急に戻した場合は、液圧制御でホイールシリンダ圧を0にする前に制動停止になってしまい、ブレーキペダル24に残圧が残ってしまう。また、ホイールシリンダ圧を検出する制御圧センサ73のばらつきによって、制御圧センサ73の示すホイールシリンダ圧は略0となっているものの、実際には残圧が残っているケースがあるため、終了特定制御を行うことが望ましい。終了特定制御を行ってホイールシリンダ23の残圧をなくすことにより、ブレーキの引きずりを防止することができる。
終了特定制御では、例えば時刻T0に制動オフと判定されたときに、ブレーキECU70は、予め設定された時刻T1までの所定期間、減圧リニア制御弁67を開状態とする。この間に、ホイールシリンダ23に残っていたブレーキフルードは殆どがリザーバ流路55、リザーバ配管77を介してリザーバ34に排出される。その後、ブレーキECU70は、時刻T1において減圧リニア制御弁67を閉弁するとともに、それまで閉状態であったレギュレータカット弁65及びマスタカット弁64を順次開状態とする。これにより、ホイールシリンダ23に僅かに残っていたブレーキフルードは、レギュレータカット弁65、マスタカット弁64を通って完全に排出され、ホイールシリンダ23の残圧は略0となる。
なお、レギュレータカット弁65はマスタカット弁64よりも先に開弁することが好ましい。これは、仮にレギュレータカット弁65を開弁した際にホイールシリンダ23に残圧が残っていて、レギュレータ33にブレーキフルードが流入したとしても、レギュレータ33はブレーキペダル24からマスタシリンダ32よりも離間しているため、運転者がペダルフィーリングに違和感を感じにくいからである。
ところで、本発明者は、例えば上述のブレーキ制御システム、すなわち高圧源を有するホイールシリンダ圧制御系統とマスタシリンダユニットとを液圧源としてホイールシリンダ23に対して並列に有するブレーキ制御システムにおける新たな故障モードを発見した。この故障モードでは、運転者のブレーキ操作入力がないにもかかわらず制動オンオフが短時間に反復される。その原因は、ホイールシリンダ圧制御系統から過剰な液圧がホイールシリンダ23に突発的に作用したこと、例えば増圧リニア制御弁66において戻しバネが破損して増圧リニア制御弁66に開故障が生じたことによる。
図2を参照して、より詳しく説明する。図2は、増圧リニア制御弁66の開故障によりホイールシリンダ圧が突発的に増加したときのブレーキ制御装置20の動作を説明するための図である。図2には、上から順に、第1の制動判定、第2の制動判定、ホイールシリンダ圧、及びレギュレータ圧のそれぞれの異常発生以降の時間変化が示されている。第1の制動判定はペダルストロークに基づく制動判定であり、第2の制動判定は液圧に基づく制動判定である。ブレーキECU70は第1及び第2の制動判定をそれぞれ所定の制御周期で並列に繰り返し実行する。ここでは非制動時における異常判定を前提としているから、図2においてペダルストロークによる第1判定の判定結果は制動オフとなっている。ホイールシリンダ圧は制御圧センサ73の測定圧であり、レギュレータ圧はレギュレータ圧センサ71の測定圧である。なお、レギュレータ圧の変動は微小であり(例えば0.05Pa程度)、図2においてはわかりやすくするために若干誇張して表現している。
時刻t0において増圧リニア制御弁66に開故障が発生したものとする。そうすると、アキュムレータ35に蓄圧されていた高圧の作動液が増圧リニア制御弁66を通じて各ホイールシリンダ23へと流出を開始する。本実施形態においては通常、分離弁60が非制動時にも開弁されているから、制御圧センサ73に高圧が作用する。また、レギュレータカット弁65を通じてレギュレータ圧センサ71にも液圧が作用する。制御圧センサ73及びレギュレータ圧センサ71に作用する液圧がそれぞれ、予め設定されている制動判定用のしきい値を超えたときに第2判定が制動オンとなる。速やかに制動オンとするために制動判定用しきい値は小さい値に設定されている。よって、異常発生とほぼ同時に第2判定により制動オンとなる。
制動オン判定を受けて、ブレーキECU70は、非制動状態から制動状態へと切り替える。すなわち、ブレーキECU70はマスタカット弁64及びレギュレータカット弁65を閉弁するとともに、ペダルストローク及び作動液圧から設定される目標減速度を実現するよう増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に制御信号の供給を開始する。このとき実際のホイールシリンダ圧は、増圧リニア制御弁66に開故障が生じているため急速に増圧される。一方、レギュレータ圧は、レギュレータカット弁65の閉弁によりレギュレータ33がホイールシリンダ23から遮断されるため減圧される。実際にはペダルストロークがゼロであるためレギュレータ33を通じてリザーバ34へと作動液が還流するからである。そうして時刻t1にレギュレータ圧が制動判定用しきい値を下回ると、第2判定は制動オフとなる。
よって、ブレーキECU70は、制動状態から非制動状態へと切り替える。上述のように本実施形態では終了特定制御が実行され減圧リニア制御弁67が一定時間開弁される。ここでは減圧リニア制御弁67の排出能力を超えて増圧リニア制御弁66から作動液が流入しているので、終了特定制御中にもホイールシリンダ圧はなお増圧されている。時刻t2において規定の時間が経過して終了特定制御は終了される。マスタカット弁64及びレギュレータカット弁65が開弁される。
そうすると液圧回路は時刻t0の状態に戻り、レギュレータカット弁65を通じて再度レギュレータ圧センサ71に液圧が作用することになる。よって、第2判定が再び制動オンとなり、ブレーキECU70は、非制動状態から制動状態へと切り替える。そして再びレギュレータカット弁65が閉弁されて時刻t3にレギュレータ圧が制動判定用しきい値を下回ると、第2判定は制動オフとなる。ブレーキECU70は制動状態から非制動状態へと再度切り替えて終了特定制御を実行する。アキュムレータ圧が残っている限り、更に同様にして時刻t4に制動オンとなり、時刻t5で制動オフとなる。このようにして、アキュムレータ圧が十分に消費されるまで制動オンオフが反復される。この反復が行われている間、高圧のホイールシリンダ圧に対応する大きな減速度ショック(例えば1G程度)が生じてしまう。
そこで、本実施形態においては、ブレーキECU70は、第1判定で制動オフと判定しているときに第2判定で制動オンと判定した場合に、所定の条件で第2判定の制動オンとの判定を取り消す。その結果、制動オフの状態が継続されることになる。よって、制動オン状態と制動オフ状態との無用の反復を避けることができる。
ここで所定の条件とは例えば、第1判定の基礎となる検出結果をブレーキECU70に与える第1ブレーキ操作検出部とは異なる第2ブレーキ操作検出部が制動オフを示している場合である。第1ブレーキ操作検出部及び第2ブレーキ操作検出部の一方は例えばストロークセンサ25を含み、他方は例えばストップランプスイッチ80を含んでもよい。
本実施形態に係る制動判定処理は、本来のブレーキ操作検出部と作動液圧検出部とを併用する上述の基本的な制動判定処理を、もう1つの更なるブレーキ操作検出部を参照するよう拡張しているともいえる。基本制動判定処理は例えばストロークセンサ25及び液圧センサ71、73の測定値に基づいて行われ、拡張制動判定処理では例えばストップランプスイッチ80の出力信号が更に用いられる。既存のストップランプスイッチ80を用いることにより、拡張制動判定システムを容易かつ安価に構築することができる。
図3は、一実施形態に係る制動判定処理を説明するためのフローチャートである。この処理は、ブレーキECU70により所定の演算周期で繰り返し実行される。処理が開始されると、ブレーキECU70は、まず上述の基本制動判定処理を行う(S10)。すなわち、ブレーキECU70は、第1判定及び第2判定の判定結果の少なくとも一方が制動オンを示す場合に制動オンであると判定する。第1判定では例えばストロークセンサ25からの2つの測定値がともに制動判定しきい値を超えた場合に制動オンと判定する。第2判定では例えばレギュレータ圧センサ71及び制御圧センサ73の測定値がともに制動判定しきい値を超えた場合に制動オンと判定する。
ブレーキECU70は、第1判定が制動オフかつ第2判定が制動オンとなることで基本制動判定処理の最終結果が制動オンとなったか否かを判定する(S12)。すなわち、ペダルストロークは制動オフを示しているにもかかわらず作動液圧が制動オンを示しているか否かを判定する。第1判定が制動オフかつ第2判定が制動オンではない場合(S12のN)、つまり少なくともペダルストロークが制動オンを示すかまたはストローク及び液圧の両方が制動オフを示す場合には、ブレーキECU70は基本制動判定処理の判定結果をそのまま確定し、例えばホイールシリンダ圧の制御を開始する等の必要な制動制御を開始する。
一方、第1判定が制動オフかつ第2判定が制動オンである場合には(S12のY)、ブレーキECU70は、ストップランプスイッチ80から入力される信号が制動オフを示すか否かを判定する(S14)。つまりストップランプがオフであるか否かを判定する。ストップランプスイッチ80から入力される信号が制動オンを示す場合には(S14のN)、ブレーキECU70は、液圧による基本制動判定処理の制動オン判定結果をそのまま確定する。
一方、ストップランプスイッチ80から入力される信号が制動オフを示す場合には(S14のY)、ブレーキECU70は、基本制動判定処理の制動オン判定を覆して制動オフと判定する(S16)。この場合、ストロークセンサ25及びストップランプスイッチ80の両方が制動オフを示しているにもかかわらず作動液圧のみが制動オンを示していることになる。よって、ブレーキECU70は、作動液圧による第2判定の制動オンとの判定結果を取り消して制動オフとする。
このように本実施形態に係る拡張制動判定処理によれば、例えば増圧リニア制御弁66の開故障発生によって過剰なホイールシリンダ圧が生じたとしても運転者の意思に反して制動オンと判定されなくなる。このため、図2を参照して説明した無用の制動オンオフ反復を避けることができる。また、実際に増圧リニア制御弁66の開故障によって過剰圧が生じても、非制動状態が継続されることによりレギュレータカット弁65及びレギュレータ33を通じて高圧の漏出作動液をリザーバ34へと速やかに逃がすことができる。これにより、図2に示される故障モード発現時に比べてホイールシリンダ圧をかなり低圧(例えばせいぜい1MPa程度)に抑えることができる。よって、車両に生じる減速度ショックも相当小さくすることができる。
なお、ストップランプスイッチ80から入力される信号が制動オンを示す場合には(S14のN)、作動液圧とストップランプスイッチ80とが制動オンを示している一方ストロークセンサ25だけが制動オフを示していることになる。よって、ストロークセンサ25に異常が生じているか、ストロークセンサ25が正常であるとしてもゼロ点がずれてしまっているおそれがある。
この場合には、ストロークセンサ25の異常であるとみなして、ブレーキECU70はバックアップ用のブレーキモード例えばハイドロブースタモードに移行してもよい。また、ハイドロブースタモードに移行しない場合にも、マスタシリンダユニット27が液圧ブースタ付きマスタシリンダであるから、液圧ブースタ31により加圧された作動液がホイールシリンダ23に供給され、制動力を発生させることができる。ストロークセンサ25のゼロ点がずれているためにストロークセンサ25だけが制動オフを示している場合には、ペダルストロークが更に増えて制動オンのしきい値に達するとブレーキECU70による制動制御が開始される。そうすると、増圧リニア制御弁66を通じて制御液圧がホイールシリンダ23に与えられる。つまり、本実施形態のブレーキ制御システムには、ストロークセンサ25のゼロ点がずれていることにより制動オン判定のタイミングが遅れたとしても、液圧ブースタ31により加圧された作動液を利用することができるので、その遅延の影響が小さいという利点がある。
ところで、ブレーキECU70はさらに例えばアキュムレータ圧を利用してホイールシリンダ圧制御系統に異常が実際に発生したか否かを判定してもよい。異常が発生したと判定された場合には、ブレーキECU70は、バックアップ用のブレーキモードに移行してもよい。
図4は、一実施形態に係る異常判定処理を説明するためのフローチャートである。この処理は、ブレーキECU70により所定の演算周期で繰り返し実行される。なお、図3及び図4に示される処理はそれぞれ別個に並列に実行されてもよいし、組み合わせて実行してもよい。組み合わせる場合には例えば、図3に示される処理における制動オフ判定(S16)の後に図4の異常判定処理を実行するようにしてもよい。
図4に示される異常判定処理が開始されると、ブレーキECU70は、ストロークセンサ25の測定値が制動判定用のしきい値より小さいか否か、すなわちストロークによる制動判定が制動オフであるか否かを判定する(S20)。なお、ブレーキECU70は、ストロークセンサ25に代えてストップランプスイッチ80を用いてもよい。
ストロークによる制動判定結果が制動オフである場合には(S20のY)、ブレーキECU70は、アキュムレータ圧が急激に減少しているか否かを判定する(S22)。ブレーキECU70は、所定時間前までのアキュムレータ圧の減圧変動履歴に基づいてアキュムレータ圧が急減したか否かを判定する。ブレーキECU70は、例えばアキュムレータ圧の減圧量及び減圧勾配の少なくとも一方、好ましくは両方が基準値を上回るか否かを判定する。この減圧量及び減圧勾配の基準値はそれぞれ実験的または経験的に適宜設定することができる。
アキュムレータ圧が急減したと判定された場合には(S22のY)、ブレーキECU70は、異常が発生したと判定する(S24)。この異常は、例えば増圧リニア制御弁66の開故障が考えられるが、アキュムレータ圧センサ72の異常である可能性もある。ブレーキECU70は、バックアップ用のハイドロブースタモードに移行して処理を終了する(S26)。バックアップ用のブレーキモードに移行することにより、制動判定は行われなくなる。よって、図2に示される無用の制動オンオフの反復が妨げられ、運転者への違和感が軽減される。
ここで、ハイドロブースタモードはバックアップ用のブレーキモードの一例である。ハイドロブースタモードにおいては、ホイールシリンダ圧制御系統による液圧制御を中止して、運転者のペダル操作によりマスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23に直接機械的に液圧を与えるようにする。またフロント系統とリア系統とにブレーキ系統が分離される。そのために、ブレーキECU70は、各制御弁への通電を停止する。すなわち、マスタカット弁64及びレギュレータカット弁65は開弁され、分離弁60及びシミュレータカット弁68は閉弁される。このようにして、システムに異常が生じた場合にはマスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へと運転者のブレーキ操作によって作動液を直接供給することができる。
一方、ストロークによる制動判定結果が制動オンである場合(S20のN)、及び、アキュムレータ圧が急減していないと判定された場合には(S22のN)、ブレーキECU70は、そのまま処理を終了する。ブレーキECU70は、次回の実行タイミングが到来したら再度本処理を開始する。
よって、図4に示される異常判定処理によれば、非制動時に発生した液圧異常を検出することができる。また、ハイドロブースタモードに移行することにより、この異常に起因するホイールシリンダ圧の突発増によって引き起こされた制動オンオフ反復が中止され、運転者へのショック及び違和感も軽減することができる。
20 ブレーキ制御装置、 23 ホイールシリンダ、 24 ブレーキペダル、 25 ストロークセンサ、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 71 レギュレータ圧センサ、 72 アキュムレータ圧センサ、 73 制御圧センサ、 80 ストップランプスイッチ。