次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に係わる作業車両の全体構成を示すスケルトン図、図2は後車軸駆動装置の動力伝達構成を示すスケルトン図、図3は作業車両の油圧回路図、図4は各速度段における走行変速クラッチの入切とシフタの位置を示す説明図、図5は変速制御プロセスを示すタイムチャート図、図6はデュアルクラッチ式変速装置の変速制御に関するブロック図、図7は変速制御を示すフローチャート図、図8は1速停発進制御に適用する変速点特性モデル図、図9は2速停発進制御に適用する変速点特性モデル図、図10はエンジン回転数の推定制御のための変速制御システムの一部を示すブロック図、図11はエンジン回転数の推定制御を示すフローチャート図、図12はエンジン回転数・スロットル開度情報に基づく車両発進時のクラッチ圧のタイムチャート図、図13はスロットル開度の強制設定制御を示すフローチャート図、図14は不具合発生時にスロットル開度を強制設定した場合の変速状況を示す変速点特性モデル図、図15は不具合発生時の通常の変速状況を示す変速点特性モデル図、図16は車速の推定制御を示すフローチャート図、図17は変速モードの維持設定制御を示すフローチャート図である。
なお、図1の矢印71で示す方向を作業車両1の機体前進方向とし、以下で述べる各部材の位置や方向等はこの機体前進方向71を基準としている。
まず、本発明に係わるデュアルクラッチ式変速装置2を搭載した作業車両1の全体構成について、図1、図2により説明する。
該作業車両1の前部には、左右一対の前輪3・3を固定した前車軸4・4を支持して駆動する前車軸駆動装置5が配置され、中央から後部にかけては、左右一対の後輪6・6を固定した後車軸7・7を支持して駆動する後車軸駆動装置8が配置され、該後車軸駆動装置8の左側方にはエンジン9が配設されている。
そして、該エンジン9からの動力は、出力軸11から後車軸駆動装置8内に入力され、該後車軸駆動装置8内に収納された本発明に係わるデュアルクラッチ式変速装置2によって変速された後、出力ギア27から出力されて中央差動装置28を介して分岐される。一方の分岐動力は、デフヨーク軸20、駆動取出部24から前方の前車軸駆動装置5内の前輪差動装置25に伝達され、前輪3・3を差動駆動すると共に、他方の分岐動力は、デフヨーク軸19、後輪差動装置26に伝達され、後輪6・6を差動駆動する構成としている。
前記中央差動装置28においては、デフヨーク軸19・20と同一回転軸心を有するように後車軸駆動装置8内に支持された中空のデフケース30と、該デフケース30片側外周面に締結固設され前記出力ギア27と噛合されるリングギア29と、前記デフケース30内において前記デフヨーク軸19・20と直交配置されデフケース30と一体的に回転するピニオン軸32と、該ピニオン軸32の両端に回転自在に配置されるベベルギアであるピニオン33・33と、前記デフヨーク軸19・20の内端側に固定され前記ピニオン33・33に噛合されるベベルギアであるデフサイドギア34・34とにより構成されている。
これにより、デュアルクラッチ式変速装置2から出力ギア27を介してリングギア29に入力された回転を、差動回転にして、デフヨーク軸19・20から前後に適切に分配することができる。
なお、前記中央差動装置28には、前記差動回転をロックするためのデフロック機構35が設けられている。該デフロック機構35は、前記デフヨーク軸19の外周に軸方向摺動自在に嵌設されるデフロックスライダ36と、該デフロックスライダ36でリングギア29側に形成された凸部36aを係止可能とすべくリングギア29に設けられた図示せぬ係合凹部より構成され、デフロックスライダ36の摺動操作により、凸部36aが係合凹部に係止されてデフケース30とデフヨーク軸19・20が一体的に連結され、中央差動装置28がロックされて左右のデフヨーク軸19・20が同一回転数で駆動されるよう構成している。このデフロックスライダ36は、図示せぬアームやリンク機構等を介して図外のデフロックレバーに連係されており、該デフロックレバーの傾動操作により、中央差動装置28に対してロック作動又はロック解除の操作を行えるようにして、作業車両1の直進性やぬかるみでの走行性を向上させるようにしている。
前記駆動取出部24においては、前記デフヨーク軸20の一端がミッションケース38の機体左右一側へ延出され、該延出部分には、カップリング37を介して伝動軸39が連結されている。該伝動軸39は、ミッションケース38側面に凸状に設けられた駆動取出ケース40内に突入され、この突入部分の先端にはベベルギア41が固設されると共に、前記駆動取出ケース40前部にて機体前後方向に支持された出力軸21の後端にはベベルギア42が固設され、該ベベルギア42は前記ベベルギア41と噛合されている。
そして、この出力軸21は、前記駆動取出ケース40から前方へ突出され、ユニバーサルジョイント22、伝動軸23、ユニバーサルジョイント43を介して、前記前車軸駆動装置5の入力軸44に連結されており、エンジン9からの動力を前輪3・3に伝達できるようにしている。
前記前車軸駆動装置5においては、前記入力軸44の前端にベベルギア45が形成されている。そして、該ベベルギア45には、前輪差動装置25のリングギア46が噛合され、該リングギア46と一体のデフケース47内に、左右のデフヨーク軸48・49が嵌入されており、該デフヨーク軸48・49は、それぞれ、左右各外側にて操舵可能に配した各前輪3・3の中心軸である前輪軸50・50に対し、ユニバーサルジョイント53、ハーフシャフト52、ユニバーサルジョイント51を介して駆動連結されている。なお、前輪差動装置25にも、前記中央差動装置28のようなデフロック機構74が設けられている。
前記後輪差動装置26においても、前記中央差動装置28と同様に、前記ヨーク軸19の外側に形成された後出力ギア54にリングギア55が噛合され、該リングギア55はデフケース56に一体的に締結固定され、該デフケース56には、両端にピニオン57を回転自在に配置したピニオン軸58が一体回転可能に設けられ、前記ピニオン57・57にはデフサイドギア59・59が噛合されている。該デフサイドギア59・59を内端側に固定するデフヨーク軸60・61は、それぞれ、左右各外側に配した各後輪6・6の中心軸である後輪軸65・65に対し、ユニバーサルジョイント62、ハーフシャフト63、ユニバーサルジョイント64を介して駆動連結されている。なお、後輪差動装置26にも、前記前輪差動装置25と同様にデフロック機構66が設けられている。
次に、前記デュアルクラッチ式変速装置2の構造について、図2、図3、図6により説明する。
該デュアルクラッチ式変速装置2を収納するミッションケース38内には、同一軸心上にある前記出力軸11と第二クラッチ出力軸13、中間軸18、変速軸15、走行出力軸17、同一軸心上にある前記デフヨーク軸19とデフヨーク軸20、及び同一軸心上にある前記デフヨーク軸60とデフヨーク軸61が、互いに平行、かつ機体左右方向に横架されている。
このうちの出力軸11は、前記ミッションケース38の上外側面に装着されたシールケース67を貫くようにして、機体左方からミッションケース38内に貫入されると共に、その右部は延出されて、前記第二クラッチ出力軸13の左端部により回動自在に支持されている。更に、該出力軸11上には、第一クラッチ出力軸12が回動自在に外嵌され、該第一クラッチ出力軸12と、前記第二クラッチ出力軸13の左端部との間には、前記出力軸11に固定されたクラッチハウジング82aが介設されている。
そして、該クラッチハウジング82aと、前記第一クラッチ出力軸12の右端部との間、及び、クラッチハウジング82aと、前記第二クラッチ出力軸13の左端部との間には、それぞれ、複数枚の摩擦エレメントが摺動のみ可能に支持されており、これにより、断接可能な第一クラッチ部C1と第二クラッチ部C2から成る走行変速クラッチ82が形成されている。該走行変速クラッチ82は、油圧作動型のものに構成されており、戻しバネ85により前記クラッチハウジング82aの左右中央の隔壁部82b側に向かって付勢されている、第一クラッチ部シリンダ79の第一ピストン86と第二クラッチ部シリンダ80の第二ピストン87を、後述する油圧の作用により摩擦エレメント側に向かって移動させ、該摩擦エレメント間を係合して、クラッチ作動を得るようにしている。
更に、前記走行変速クラッチ82に関しては、前記出力軸11内に油路88・89・90が形成され、該油路88・89・90の左端は、いずれも出力軸11の左端部の外周面上に開口されており、それぞれ、第一クラッチ部C1への作動油の油圧を制御する電磁比例減圧弁91、第二クラッチ部C2への作動油の油圧を制御する電磁比例減圧弁92、第一クラッチ部C1・第二クラッチ部C2への潤滑油の給排を制御する切換弁93に連通されている。そして、このうちの油路88の右端は、前記隔壁部82bと第一ピストン86間のシリンダ室83に連通され、油路89の右端も同じく、隔壁部82bと第二ピストン87間のシリンダ室84に連通され、更に、油路90の右部は、二つに分岐されて両ピストン86・87と摺動面間の隙間に連通されている。
このような構成において、変速操作具としての変速操作レバー95を操作すると、該変速操作レバー95に接続されたレバー位置検出センサ113からの位置信号がコントローラ94に送信され、該コントローラ94が、受信した位置信号に基づいて前記電磁比例減圧弁91に所定の変速指令信号を送信すると、該電磁比例減圧弁91のソレノイドが励磁され、油路88を通って第一クラッチ部C1のシリンダ室83内に作動油が供給され、第一ピストン86が戻しバネ85の付勢力に抗して摩擦エレメント間を押圧していき、第一クラッチ部C1を徐々に入状態に移行させる。逆に、シリンダ室83への作動油供給が遮断されていくと、第一ピストン86が戻しバネ85の付勢力によって摩擦エレメントから離間していき、第一クラッチ部C1を徐々に切状態に移行していく。第二クラッチ部C2についても同様であり、コントローラ94が位置信号に基づいて前記電磁比例減圧弁92に所定の変速指令信号を送信すると、該電磁比例減圧弁92のソレノイドが励磁され、油路89を通って第二クラッチ部C2のシリンダ室84内に作動油が供給され、第二ピストン87が戻しバネ85の付勢力に抗して摩擦エレメント間を押圧していき、第二クラッチ部C2を徐々に入状態に移行させる。逆に、シリンダ室84への作動油供給が遮断されていくと、第二ピストン87が戻しバネ85の付勢力によって摩擦エレメントから離間していき、第二クラッチ部C2を徐々に切状態に移行していく。
また、前記第一クラッチ出力軸12の左外周には、小径のギア72が形成され、該ギア72は、前記変速軸15左端に固設された大径のギア96と噛合しており、第一クラッチ部C1が入状態の場合は、出力軸11からの動力を、第一クラッチ部C1、第一クラッチ出力軸12、ギア72、ギア96を介して変速軸15に伝達可能としている。
該変速軸15の右半部には、左から順に減速ギア16、後進ギア78、ギア77が相対回転可能に嵌設され、前記第二クラッチ出力軸13には、減速ギア14が相対回転可能に環設され、該減速ギア14の右方にはギア73が固設され、更に、前記走行出力軸17には、前記出力ギア27と大径のギア81が固設されている。そして、前記減速ギア14と減速ギア16は、いずれも大径ギア・小径ギアを一体的に構成した二連ギアであって、減速ギア14は大径ギア14aと小径ギア14bにより構成され、減速ギア16は大径ギア16aと小径ギア16bにより構成されている。
前述した小径のギア72は大径のギア96と噛合して第一減速ギア列を形成し、減速ギア14の小径ギア14bは減速ギア16の大径ギア16aと噛合して第二減速ギア列を形成し、減速ギア16の小径ギア16bを大径のギア81と噛合して第三減速ギア列を形成している。更に、後進ギア78は中間軸18上のアイドルギア75と噛合し、該アイドルギア75は減速ギア14の大径ギア14aと噛合して後進ギア列を形成し、ギア77はギア73と噛合して調整ギア列を形成しており、このような、種々のギア比・回転方向を有する各種ギア列を形成することで、各速度段を現出できるようにしている。
更に、前記変速軸15上において、前記減速ギア16の左方にはシンクロメッシュ等の同期機構99bを介して第三スプラインハブ99が、前記後進ギア78とギア77との間には同期機構98bを介して第二スプラインハブ98が、いずれも相対回転不能に係合されている。また、前記第二クラッチ出力軸13上において、前記減速ギア14の左方には同期機構97bを介して第一スプラインハブ97が相対回転不能に係合されている。
このうちの第一スプラインハブ97には第一シフタ97aが、第二スプラインハブ98には第二シフタ98aが、第三スプラインハブ99には第三シフタ99aが、それぞれ、軸心方向摺動自在かつ相対回転不能に係合されている。そして、減速ギア14で第一スプラインハブ97側に向かう部分にはクラッチ歯部14cが形成され、減速ギア16で第三スプラインハブ99側に向かう部分にはクラッチ歯部16cが形成され、ギア77・78で第二スプラインハブ98側に向かう部分には、それぞれクラッチ歯部77a・78aが形成されている。
そして、これらシフタ97a・98a・99aは次のようなシフタ作動機構143によって所定位置に移動される。
該シフタ97a・98a・99aは、それぞれ図示せぬフォークから連結アーム128・129・130を介して、それぞれ、第一油圧シリンダ100のロッド100a、第二油圧シリンダ101のロッド101a、第三油圧シリンダ102のロッド102aに連結されている。
このうちの第一油圧シリンダ100において、該第一油圧シリンダ100の油室100bは油路107を介して電磁切換弁103と接続される。一方、ピストン100cの右側面とシリンダ室100dの右内壁との間には、戻しバネ132がロッド100aに巻装され、ピストン100cが油室100b側に付勢されている。前記第三油圧シリンダ102においても同様に、該第三油圧シリンダ102の油室102bは油路110を介して電磁切換弁106と接続される。一方、ピストン102cの右側面とシリンダ室102dの右内壁との間には、戻しバネ133がロッド102aに巻装され、ピストン102cが油室102b側に付勢されている。
このような構成において、図3に示すように、電磁切換弁103・106が非励磁位置にあり、油圧シリンダ100・102が中立状態にある場合は、前記戻しバネ132・133の弾性力によって、ピストン100c・102cは図示せぬストッパに付勢された状態で当接保持され、該当接位置を中立位置の位置Nとする。この際、前記油室100b・102bは、いずれも電磁切換弁103・106から共通の油路115を介して油溜まり136に連通され、ピストン100c・102cに余分な圧力がかからないようにしており、ピストン100c・102cを中立位置に精度良く位置決めしている。
そして、電磁切換弁103・106のソレノイドが励磁されて励磁位置に切り替わると、共通の油路114から電磁切換弁103・106を介して前記油室100b・102b内に作動油が供給される。すると、前記戻しバネ132・133の弾性力に抗して、ピストン100cは位置Aまで、ピストン102cは位置Dまでそれぞれ摺動し、前記シフタ97a・99aを移動させて、それぞれクラッチ歯部14c・16cに係合させることができる。
すなわち、ピストン100c・102cの一側に油室100b・102bを設け、他側には弾性部材である戻しバネ132・133を設けるシリンダ構成とするので、従来の如く、ピストンの両側に油室を設け、該両油室に作動油を供給してピストンを摺動制御する場合に比べ、油室や該油室に作動油を供給するための油路を減らすことができ、油室の密閉性確保等に必要な高い加工精度や、油路用の外部配管等の部品が不要となり、更には、油圧制御に必要な切換弁等の装置も安価なものに切り替えることができ、製造コストの低減やメンテナンス性の向上を図ることができる。
前記第二油圧シリンダ101においては、前記ロッド101aの一端に、大径部140aと小径部140bとからなるメインピストン140が固設され、該小径部140bには、前記大径部140aよりも大きな外径を有する円筒状のサブピストン141が、小径部140b上を軸心方向に摺動可能に外嵌されている。これらメインピストン140とサブピストン141とからなるピストン139を挟んで、シリンダ室101d内の両側部には、それぞれ油室101b・101cが形成され、該油室101b・101cは、それぞれ電磁切換弁104・105に接続されている。
このような構成において、図3に示すように、電磁切換弁104・105が非励磁位置にあり、第二油圧シリンダ101が中立状態にある場合は、電磁切換弁104・105から油路108・109を介して両油室101b・101cに、圧油がそれぞれ供給されるが、ピストン139の油室101c側の受圧面積の方が油室101b側の受圧面積よりも大きいため、ピストン139は、油室101b側に押動され、サブピストン141の内側外周角部がシリンダケースの肩部142に当接した位置で保持される。この当接位置を中立位置の位置Nとする。これにより、ピストン139を位置Nに精度良く位置決めすることができる。
そして、電磁切換弁104・105のうち電磁切換弁104のソレノイドのみが励磁され、電磁切換弁104のみが励磁位置に切り替わると、電磁切換弁104による油室101bへの圧油の供給のみが停止され、ピストン139が油室101c内の油圧によって油室101b側(紙面右方)に押動され、前記肩部142に阻まれて移動不能なサブピストン141を残した状態でメインピストン140だけが油室101bの最外端に相当する位置Bまで摺動して保持される。逆に、電磁切換弁105のソレノイドのみが励磁され、電磁切換弁105のみが励磁位置に切り替わると、電磁切換弁105による油室101cへの圧油の供給のみが停止され、ピストン139が油室101b内の油圧によって油室101c側(紙面左方)に押動され、該油室101cの最外端に相当する位置Cに保持される。これにより、前記第二シフタ98aを移動させて前記クラッチ歯部77aまたは78aに係合させることができるのである。
以上のようなシフタ作動機構143において、コントローラ94からの変速指令信号に基づき、電磁切換弁103乃至106のうちの所定の電磁切換弁のソレノイドが励磁されると、該当するピストンが作動油によって移動される。すると、該ピストンに連動連結されたシフタが、所定位置に移動し同期機構を介してクラッチ歯部と係合して、所定のギアを、第二クラッチ出力軸13または変速軸15に相対回転不能に係合させることができ、第一クラッチ出力軸12または第二クラッチ出力軸13からの動力を、前記各種ギア列を介して変速した後に前記走行出力軸17に円滑に伝達することができるのである。
また、ここで、上述したシリンダ79・80・100・101・102に作動油や潤滑油の供給等を行う油圧回路構成について説明する。
前記シールケース67内には油圧ポンプ145が収納され、該油圧ポンプ145のポンプ軸145aはミッションケース38内に延出されて回動自在に支持され、該ポンプ軸145aの延出端には、ポンプギア146が固設されている。該ポンプギア146は、前記エンジン9からの出力軸11の途中部に固設されたギア147に噛合されており、油圧ポンプ145は、エンジン9からの動力で駆動するギアポンプとして構成されている。
該油圧ポンプ145の吸入ポートは、油路149からフィルタ148を介して前記油溜まり136に連通されており、該油溜まり136から油圧ポンプ145に油が供給されるようにしている。更に、油圧ポンプ145の吐出ポートは、油路150に連通され、該油路150は、調圧用の絞り151a・151bを有する分岐部151において、外部作業機用の油路152とパワステや変速用の油路153に分岐される。このうちの油路152は、切換弁154に接続され、該切換弁154は配管155を介して油圧リフトシリンダ156に接続されており、油圧ポンプ145から切換弁154に圧油を供給することにより、油圧リフトシリンダ156の切り換え操作を行い、外部作業機用の昇降アーム157を駆動操作できるようにしている。一方、前記油路153は、途中部で、切換弁158に接続され、該切換弁158はパワーステアリングシリンダ159に接続されており、油圧ポンプ145から切換弁158に圧油を供給することにより、図示せぬステアリングホイールに連係したパワーステアリングシリンダ159の切り換え操作を行い、前輪3・3を操向自在としている。
更に、前記油路153は、走行変速クラッチ82制御用の油路160と、油圧シリンダ100・101・102制御用の前記油路114とに分岐される。このうちの油路114は、電磁切換弁103乃至106に接続されており、前述の如く、該電磁切換弁103乃至106を介して油圧シリンダ100・101・102を作動し、シフタ97a・98a・99aを所定位置に移動させて、各種ギア列を自在に選択して変速できるようにしている。一方、油路160は、更に、油路161と油路162に分岐され、このうちの油路161は、逆止弁168・フィルタ169を介した後に二つに分岐し、前記電磁比例減圧弁91・92のポンプポートにそれぞれ接続される。該電磁比例減圧弁91・92の吐出ポートは前記油路88・89にそれぞれ接続されており、油圧ポンプ145からの圧油が、第一クラッチ部C1のシリンダ室83、第二クラッチ部C2のシリンダ室84に、作動油として供給される。
一方、前記油路162は、調圧弁170を介して油路163と油路164とに分岐され、このうちの油路163は、前記第一クラッチ部C1・第二クラッチ部C2への潤滑油の給排を制御する前記切換弁93に接続されている。そして、該切換弁93のパイロット油路93a・93bは、それぞれ前記油路88・89に連通されており、第一クラッチ部C1または第二クラッチ部C2の作動時に、油路88または油路89に圧油が流れると、この圧油の油圧によって切換弁93が切り替わり、ポンプポートと吐出ポートとが連通される。すると、調圧弁171によって調圧された油路163内の圧油が、切換弁93から油路90を介して前記第一クラッチ部C1・第二クラッチ部C2に、潤滑油として供給されるのである。
前記油路164の途中部からは油路173が分岐し、該油路173は、前記出力軸11の左端部を支持するベアリング180等から成る軸受け部179に連通されており、前記油圧ポンプ145からの圧油が、該軸受け部179に潤滑油として強制的に供給される。更に、油路164は、変速軸15・第二クラッチ出力軸13の回転中心に設けた図示せぬ軸心部油路等から成る潤滑回路190に連通され、該潤滑回路190においては、前記走行変速クラッチ82に向かって潤滑油を噴射する図示せぬ吐出口が開口されると共に、前記各種ギア列や同期機構97b・98b・99b等に向かっては軸心部油路から軸半径方向に穿孔した油孔が開口されており、走行変速クラッチ82、各種ギア列、同期機構97b・98b・99b等に対して更に十分な量の潤滑油の供給を可能としている。
次に、このような構造のデュアルクラッチ式変速装置2における変速時の動力伝達経路構成について、図2、図4、図6により説明する。
作業車両1の図示せぬ運転席近傍には、変速操作具111が設けられ、該変速操作具111に、前記変速操作レバー95が回動自在に取り付けられており、該変速操作レバー95を回動操作すると、位置116では、自動で連続的にシフトアップまたはシフトダウンして所定の前進速度段に変速する自動変速に移行し、位置118・119a・119b・119c・119d間では、手動で中立及び各速度段に任意設定可能な通常のマニュアル変速に移行することができる。
このうちの自動変速においては、後述する変速制御構成に従って、スロットル開度に相当する、図示せぬエンジン回転数設定手段としてのアクセルペダルの踏み込み量と、そのときの車速との関係から、各速度段間で連続して自動的に変速されるようにしている。このエンジン回転数設定手段は、アクセル操作具としてアクセルペダルやアクセルレバーで構成することができる。そして、アクセル操作具の操作により、エンジン9の吸気系に設けたスロットルバルブを開閉したり、ラック位置を変更したり、電磁バルブで燃料噴射量を変更したりすることができる。このアクセル操作具によるアクセル開度等の操作量は、後述するアクセル開度センサ134等で検知され、設定量としてコントローラ94に入力される。ここでは、前進1速から前進4速まで順にシフトアップする場合を例に、自動変速の動力伝達経路構成について説明する。
前進1速時には、前述のようにして第一クラッチ部C1を入状態、第二クラッチ部C2を切状態とした上で、前記シフタ作動機構143により、第一シフタ97aを位置Aに移動させて減速ギア14に係合させ、第二シフタ98aを位置Bに移動させてギア77に係合させ、更に、第三シフタ99aを位置Nに移動させて減速ギア16と非係合状態にする。
これにより、エンジン9からの動力は、出力軸11、第一クラッチ部C1、第一減速ギア列72・96を介して変速軸15に伝達された後、該変速軸15に係合する調整ギア列77・73を介して第二クラッチ出力軸13に伝達され、更に、該第二クラッチ出力軸13に係合する第二減速ギア列14b・16a、第三減速ギア列16b・81を介して走行出力軸17に伝達され、最も低速の前進1速の変速動力として、出力ギア27、中央差動装置28等を介して前車軸4・4と後車軸7・7を走行駆動するようにしている。
前進1速から前進2速に変速するには、第一クラッチ部C1を切状態、第二クラッチ部C2を入状態とするだけで、シフタ97a・98a・99aの位置はそのままで変更しない。すると、エンジン9からの動力は、出力軸11、第二クラッチ部C2、第二減速ギア列14b・16a、第三減速ギア列16b・81を介して走行出力軸17に伝達され、前進2速の変速動力として前車軸4・4と後車軸7・7を走行駆動する。
前進2速から前進3速に変速するには、前進2速の状態で、予め、シフタ作動機構143により、第二シフタ98aを位置Bから位置Nに、第三シフタ99aを位置Nから位置Dに移動させるが、第一クラッチ部C1の切状態、第二クラッチ部C2の入状態、第一シフタ97aの位置Aの係合状態はそのままで変更しない。この際、第一クラッチ部C1が切状態にあるため、該第一クラッチ部C1に連結された変速軸15上にあるシフタ98a・99aを、作業者が変速ショックを全く受けることなく減速ギア14・16から自在に係脱させ、所定位置に移動させることができる。
続いて、第一クラッチ部C1を入状態、第二クラッチ部C2を切状態とし、シフタ97a・98a・99aの位置はそのままで変更しないようにする。すると、エンジン9からの動力は、出力軸11、第一クラッチ部C1、第一減速ギア列72・96を介して変速軸15に伝達された後、該変速軸15に係合する第三減速ギア列16b・81を介して走行出力軸17に伝達され、前進3速の変速動力として前車軸4・4と後車軸7・7を走行駆動する。
前進3速から前進4速に変速するには、前進3速の状態で、予め、シフタ作動機構143により、第一シフタ97aを位置Aから位置Nに、第二シフタ98aを位置Nから位置Bに移動させるが、第一クラッチ部C1の入状態、第二クラッチ部C2の切状態、第三シフタ99aの位置Dの係合状態はそのままで変更しない。この際、第二クラッチ部C2が切状態にあるため、該第二クラッチ部C2に連結された第二クラッチ出力軸13上にある第一シフタ97aを、作業者が変速ショックを全く受けることなく減速ギア14から離間させて位置Nに移動することができ、更に、第二シフタ98aについても、同期機構98bにより変速ショックを大きく軽減した状態で、滑らかにギア77に係合させることができる。
続いて、第一クラッチ部C1を切状態、第二クラッチ部C2を入状態とし、シフタ97a・98a・99aの位置はそのままで変更しないようにする。すると、エンジン9からの動力は、出力軸11、第二クラッチ部C2を介して第二クラッチ出力軸13に伝達された後、調整ギア列73・77を介して変速軸15に伝達され、更に、該変速軸15に係合する第三減速ギア列16b・81を介して走行出力軸17に伝達され、前進4速の変速動力として前車軸4・4と後車軸7・7を走行駆動する。
なお、以上では、前進1速から前進4速までシフトアップする動力伝達経路構成の場合について説明したが、シフトダウンする場合も同様であって、現在の速度段において、予め、シフタ97a・98a・99aを次の速度段のシフトダウン位置に変更した後に、変速操作で、クラッチ部C1・C2の入切状態のみを第一クラッチ部C1と第二クラッチ部C2間で逆となるように切り替えるものである。
また、前記マニュアル変速においては、位置118・119a・119b・119c・119dにおいて、それぞれ、中立・前進1速・前進2速・前進3速・前進4速に設定されるものであり、該マニュアル変速における各速度段の動力伝達経路についても、自動変速と同様に、前進1速時には、第一減速ギア列72・96、第二減速ギア列14b・16a、第三減速ギア列16b・81、及び調整ギア列77・73から成るギア列群、前進2速時には、第二減速ギア列14b・16aと第三減速ギア列16b・81から成るギア列群、前進3速時には、第一減速ギア列72・96、第三減速ギア列16b・81から成るギア列群、前進4速時には、第三減速ギア列16b・81と調整ギア列73・77から成るギア列群を、それぞれ選択する動力伝達経路構成としている。
また、以上の自動変速・マニュアル変速のいずれにおいても、後進時には、変速操作レバー95を位置117に入れる。
すると、コントローラ94から変速指令信号が送信され、第一クラッチ部C1を入状態、第二クラッチ部C2を切状態とした上で、第二シフタ98aを位置Cに移動させて後進ギア78に係合させ、更に、第三シフタ99aを位置Nに移動させて減速ギア16と非係合状態とする。この際、第二クラッチ部C2が切状態にあるため、該第二クラッチ部C2に連結された第二クラッチ出力軸13上にある第一シフタ98aは、位置Nで減速ギア14と非係合状態にあっても位置Aで減速ギア14と係合状態にあってもかまわない。
これにより、エンジン9からの動力は、出力軸11、第一クラッチ部C1、第一減速ギア列72・96を介して変速軸15に伝達された後、該変速軸15に係合する後進ギア列78・75・14a、第二減速ギア列14b・16a、第三減速ギア列16b・81を介して走行出力軸17に伝達され、後進速の変速動力として前車軸4・4と後車軸7・7を走行駆動するのである。このように、後進速時には、第一減速ギア列72・96、第二減速ギア列14b・16a、第三減速ギア列16b・81、後進ギア列78・75・14aから成るギア列群を選択する動力伝達経路構成としている。
次に、このような動力伝達経路における自動変速時の変速制御構成について、図2乃至図9により具体的に説明する。
まず、変速制御プロセスについて、現在の速度段が前進2速で次の速度段が前進3速の場合を例に説明する。
図2乃至図5に示すように、前進2速で走行中は、前述の如く、第二クラッチ部C2は接続されて入状態にある。この時、前記第一油圧シリンダ100のロッド100aは位置Aに、第二油圧シリンダ101のロッド101aは位置Bに、第三油圧シリンダ102のロッド102aは位置Nにそれぞれ保持されているため、該ロッド100a・101a・102aとアーム、フォーク等を介して連結されるシフタ97a、98a、99aも、前述の如く、それぞれ位置A、位置B、位置Nに保持されている。このため、第一シフタ97aは減速ギア14と係合状態に、第二シフタ98aはギア77と係合状態に、第三シフタ99aは中立状態に保持され、その結果、前述した動力伝達経路を介して前進1速の変速動力が走行出力軸17に伝達される。一方、前記第一クラッチ部C1は切断されて切状態にある。
そして、X時点で、例えばアクセルペダルを踏み込んで前進2速から前進3速への変速指令信号がコントローラ94から発せられると、第一クラッチ部C1の切状態、第二クラッチ部C2の入状態、第一シフタ97aの位置Aの係合状態はそのままで、第二シフタ98aと第三シフタ99aのみが、それぞれ、位置Bから位置Nに、位置Nから位置Dに移動し、第二シフタ98aは中立状態、第三シフタ99aは位置Dの係合状態となる。なお、動力伝達経路は、出力軸11→第二クラッチ部C2→第二減速ギア列14b・16a→第三減速ギア列16b・81→走行出力軸17であって、変速指令前後で変わらない。
変速指令信号が発せられてから若干時間が経過したY時点になると、第一クラッチ部C1は徐々に接続が進み、第二クラッチ部C2は徐々に切断が進む内容のクラッチ断接指令信号がコントローラ94から発せられる。すると、前記電磁比例減圧弁91・92が比例減圧制御されて、前記第一クラッチ部シリンダ79の第一ピストン86と第二クラッチ部シリンダ80の第二ピストン87が徐々に連続的に移動し、第一クラッチ部C1のクラッチ圧が増加して現在の切状態から入状態に接合作動が進み、第二クラッチ部C2のクラッチ圧は減少して現在の入状態から切状態に離間作動が進み、これら接合作動と離間作動とが並行して行われる。
更に、前記Y時点から時間が経過したZ時点まではクラッチ断接指令信号が継続して発せられ続け、該Z時点に達すると、前記第一クラッチ部C1はクラッチ圧が規定圧に達して完全に入状態、第二クラッチ部C2はクラッチ圧が略ゼロとなって完全に切状態となり、変速が完了する。つまり、このクラッチ断接指令信号が発せられている間は、第一クラッチ部C1からの動力は、出力軸11→第一クラッチ部C1→第一減速ギア列72・96→第三減速ギア列16b・81を介して走行出力軸17に常時接続され、第二クラッチ部C2からの動力も、出力軸11→第二クラッチ部C2→第二減速ギア列14b・16a→第三減速ギア列16b・81を介して走行出力軸17に常時接続されていることから、第二クラッチ部C2からの変速動力は徐々に減少していく一方、第一クラッチ部C1からの変速動力は徐々に増加していくこととなる。
これにより、走行変速クラッチ82から走行出力軸17への動力は、Y時点を境に徐々に前進2速から前進3速に切り替わっていき、Z時点で完全に前進3速に変速され、この間は、エンジン9からの動力は途切れることがない。他の変速段間の変速制御も上記と同様なプロセスで実施される。
そして、前記変速指令信号の発信時期であるX時点は、変速点特性モデル191と、スロットル開度センサ178、車速センサ135によって実際に検出されたエンジン9のスロットル開度及び車速とに基づいて決定される。
図8に示すように、例えば、一般的なシフトアップライン191Uに示すように、現速度段が前進1速(以下、単に「1速」とし、他の速度段についても同様とする)の場合、一定のスロットル開度の下で車速のみが増加して1速から2速への線図191U12に到達すると、前記変速制御プロセスにおける変速指令信号が発せられる(X時点)。変速制御プロセスが進行して現速度段の1速から次速度段の2速への移行が完了すると、前記変速完了信号が発せられて(Z時点)、2速へのシフトアップが完了する。
車速が増加して2速から3速への線図191U23に到達すると、同様に変速指令信号が発せられ(X時点)、変速制御プロセスが進行して現速度段の2速から次速度段の3速への移行が完了すると、前記変速完了信号が発せられて(Z時点)、3速へのシフトアップが完了する。更に、車速が増加して3速から4速への線図191U34に到達すると、同様に変速指令信号が発せられ(X時点)、変速制御プロセスが進行して現速度段の3速から次速度段の4速への移行が完了すると、前記変速完了信号が発せられて(Z時点)、4速へのシフトアップが完了するのである。
逆に、シフトダウンライン191Dに示すように、現速度段が4速の場合、一定のスロットル開度の下で車速が減少して線図191D34に到達すると4速から3速へのシフトダウンが行われ、車速が線図191D23に到達すると3速から2速へのシフトダウンが行われ、更に、車速が線図191D12に到達すると2速から1速へのシフトダウンが行われるのである。
なお、シフトダウン時(線図191D12、191D23、191D34)の車速変化を、シフトアップ時(線図191U12、191U23、191U34)よりも同等もしくは小さくすると共に、シフトアップ時の車速変化を、線図191U34→線図191U23→線図191U12の順で、低速度段になるほど小さくしている。これにより作業者の意図的なキックダウンや、走行負荷の増加に伴う車速低下に応じた自動減速がスムーズに行えるようにしている。
すなわち、各奇数速度段に必要な駆動列群への動力断接用の第一クラッチである第一クラッチ部C1と、各偶数速度段に必要な駆動列群への動力断接用の第二クラッチである第二クラッチ部C2とを備え、該第一クラッチ部C1・第二クラッチ部C2の作動をそれぞれアクチュエータである第一クラッチ部シリンダ79・第二クラッチ部シリンダ80により制御可能な制御装置であるコントローラ94を設け、該コントローラ94により、前記第一クラッチ部C1・第二クラッチ部C2の入切で前記駆動列群を自動選択し、エンジン9からの動力を変速して車軸である前輪軸50・50、後輪軸65・65に伝達すると共に、前記奇数速度段である1速・3速と偶数速度段である2速・4速間での速度段切替時には、前記第一クラッチ部C1・第二クラッチ部C2のうちの、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせるので、エンジン9から前輪軸50・50、後輪軸65・65への動力伝達を途切れさせることなく滑らかに変速することができ、坂道発進時に下がったりすることがなく確実に走行でき、走行性能を大幅に向上させることができるのである。
そして、このような自動変速を制御するための変速制御システム120について説明する。
図6に示すように、該変速制御システム120は、前記第一クラッチ部C1用の第一クラッチ部シリンダ79を操作する電磁比例減圧弁91と第二クラッチ部C2用の第二クラッチ部シリンダ80を操作する電磁比例減圧弁92とから成るクラッチ用電磁比例減圧弁群137と、前記シフタ97a・98a・99a用の油圧シリンダ100・101・102を操作する電磁切換弁103乃至106から成るシフタ用電磁切換弁群138とを備え、これら電磁切換弁群137・138が前記コントローラ94に接続されている。そして、該コントローラ94には、前述した、レバー位置検出センサ113、スロットル開度センサ178、車速センサ135、電磁切換弁群137・138以外に、変速モード切替具175、アクセル開度センサ134、及びエンジン回転数センサ176等が接続されている。
このうちの変速モード切替具175には、変速操作レバー95が位置116にある自動変速時に、変速モードを切り替えるダイヤルやレバー等の切替操作具175aが設けられており、該切替操作具175aを操作することで、適正な停発進速度で自動変速する自動モード(位置181乃至位置183)か、設定した最高速度段で自動変速するマニュアルモード(位置184乃至位置187)に切り替えることができる。
前記自動モードにおいては、いずれか一つのモードが選択されると、選択したモードに従ってシフトアップまたはシフトダウンするように、変速モード切替具175からコントローラ94に自動モード信号が送信され、該自動モード信号に基づいてコントローラ94から前記電磁切換弁群137・138に変速指令信号が送信され、前述したようにして、クラッチの断接と、シフタ・クラッチ歯部間の係合・非係合とが行われる。
この自動モードでは、前述した通常の変速点特性モデル191のように停発進速度段として最低速度段である1速を選択して高トルク・低速の出力を得る作業モード(位置181)と、停発進速度段として2速を選択して発進直後や停止直前の効率の悪いクラッチ切替を排除する走行モード(位置183)と、該走行モードにあって走行負荷が過大になると停発進速度段として1速を自動的に選択する自動選択モード(位置182)のうちの一つを選択することができる。
前記マニュアルモードでは、1速(位置184)、2速(位置185)、3速(位置186)、4速(位置187)のうちの一つが選択されると、選択した速度段が最高速度段として設定され、該最高速度段まで、アクセルペダル等のアクセル操作具によるアクセル操作によって順にシフトアップまたはシフトダウンできるよう、変速モード切替具175からコントローラ94に最高速度段信号が送信され、該最高速度段信号に基づいてコントローラ94から前記電磁切換弁群137・138に変速指令信号が送信される。
なお、前記アクセル開度センサ134は、前記アクセル操作具の操作量を開度として検出し、そのアクセル開度信号をコントローラ94に送信し、前記スロットル開度センサ178は、エンジン9の吸気系に設けられたスロットルバルブの開度を検出し、そのスロットル開度信号をコントローラ94に送信し、更に、前記エンジン回転数センサ176は、エンジン9のからの出力軸11の回転数を検出し、そのエンジン回転数信号をコントローラ94に送信する。前記車速センサ135については、前記デュアルクラッチ式変速装置2の出力側、例えば前記走行出力軸17の回転数を検出し、その出力軸回転数信号をコントローラ94に送信し、該出力軸回転数信号をもとにコントローラ94内では車速が算出される。
以上のような変速制御プロセス、変速点特性モデル191、変速制御システム120を基に、自動変速時には次のような変速制御が行われる。
図6に示す前記コントローラ94の記憶部94aには、停発進速度段として最低速度段である1速を選択した図8に示す前記変速点特性モデル191と、図9に示すように停発進速度段として2速を選択した変速点特性モデル192が記憶されており、前記切替操作具175aにより、作業モード、走行モード、自動選択モード、及びマニュアルモードの各最高速度段のうちのいずれか一つの変速モードを選択すると、コントローラ94は、選択されたモードの変速点特性モデルに従って、検出したスロットル開度と車速に最適なギア列を選定し、自動変速を実行できるようにしている。
なお、いずれのモデル図においても、各線図はスロットル開度(%)と車速(km/h)との関数で決定されると共に、モデル図における現在の座標(以下、「現変速位置」とする)は、前記スロットル開度センサ178、車速センサ135によってそれぞれ実際に検出したスロットル開度(以下、「現スロットル開度」とする)と車速(以下、「現車速」とする)とから唯1点が定まるものであり、以下に述べる現車速と各線図上の車速との比較は、同じスロットル開度において行うものとする。
図7に示すように、変速制御が開始されると、前記変速モード切替具175からの自動モード信号と最高速度段信号、アクセル開度センサ134からのアクセル開度信号、スロットル開度センサ178からのスロットル開度信号、エンジン回転数センサ176からのエンジン回転数信号、及び車速センサ135からの出力軸回転数信号が、それぞれコントローラ94に読み込まれると共に、該コントローラ94において車速等が算出される(ステップS1)。そして、このうちの自動モード信号と最高速度段信号に基づいて各モードが判別され(ステップS2〜S4)、停発進速度段として最低速度段である1速が選択される1速停発進制御(ステップS9)、停発進速度段として2速が選択される2速停発進制御(ステップS5)、設定した最高速度段までアクセル操作によって変速させるマニュアル制御(ステップS6)のいずれか一つの制御が行われる。
前記1速停発進制御は、自動モードが作業モードの場合(ステップS2、YES)、あるいは自動選択モードであって(ステップS3、YES)走行負荷が設定値より大きい場合に(ステップS8、YES)行われる。
このうちの作業モードの場合(ステップS2、YES)について説明する。
シフトアップ時には、図8の線図191U12から求めた、1速−2速間の変速を開始する車速(以下、「第1設定車速」とする)より現車速が大きいかどうかを判断し、該現車速が第1設定車速より小さければ1速を選択し、現車速が第1設定車速より大きければ、線図191U23から求めた、2速−3速間の変速を開始する車速(以下、「第2設定車速」とする)より大きいかどうかを判断する。そして、該第2設定車速より現車速が小さければ2速を選択し、現車速が第2設定車速より大きければ、線図191U34から求めた、3速−4速間の変速を開始する車速(以下、「第3設定車速」とする)より大きいかどうかを判断し、該現車速が第3設定車速より小さければ3速を選択し、大きければ4速を選択して処理を終了する。
一方、シフトダウン時には、線図191D34から求めた第3設定車速より現車速が小さいかどうかを判断し、該現車速が第3設定車速より大きければ4速を選択し、現車速が第3設定車速より小さければ、線図191D23から求めた第2設定車速より小さいかどうかを判断する。そして、該第2設定車速より現車速が大きければ3速を選択し、小さければ線図191D12から求めた第1設定車速より小さいかどうかを判断し、該第1設定車速より現車速が大きければ2速を選択し、小さければ1速を選択して処理を終了する。
自動選択モードの場合(ステップS3、YES)について説明する。
自動モードが前記作業モードでない場合に(ステップS2、NO)、前記自動選択モードであるかどうかを判断し(ステップS3)、自動選択モードであれば(ステップS3、YES)、走行負荷を算出する(ステップS7)。該走行負荷は、アクセル開度に対するエンジン回転数の変化の割合とすることができ、ステップS1で読み込んだアクセル開度信号とエンジン回転数信号を基に算出することができる。そして、前記コントローラ94の記憶部94aには、予め所定の走行負荷(以下、「設定負荷」とする)を記憶させておき、該設定負荷を、算出した前記走行負荷と比較し(ステップS8)、走行負荷が設定負荷より大きければ(ステップS8、YES)、走行負荷が大きいものと判断して、前記作業モードと同じ変速点特性モデル191に基づく1速停発信制御を行う。なお、走行負荷はトルクセンサ等によって測定してもよく、走行負荷の判断方法については特に限定されるものではない。
前記2速停発進制御は、自動モードが走行モードの場合(ステップS4、YES)、あるいは自動選択モードであって(ステップS3、YES)走行負荷が設定負荷以下の場合に(ステップS8、NO)行われる。
このうちの走行モードの場合(ステップS4、YES)について説明する。
自動モードが前記自動選択モードでない場合に(ステップS3、NO)、前記走行モードであるかどうかを判断し(ステップS4)、走行モードであれば(ステップS4、YES)2速停発進制御が行われる。シフトアップ時には、図9の線図192U23から求めた第2設定車速より現車速が大きいかどうかを判断し、該現車速が第2設定車速より小さければ2速を選択し、現車速が第2設定車速より大きければ、線図192U34から求めた第3設定車速より現車速が大きいかどうかを判断する。そして、該現車速が第3設定車速より小さければ3速を選択し、大きければ4速を選択して処理を終了する。
一方、シフトダウン時には、線図192D34から求めた第3設定車速より現車速が小さいかどうかを判断し、該現車速が第3設定車速より大きければ4速を選択し、現車速が第3設定車速より小さければ、線図192D23から求めた第2設定車速より小さいかどうかを判断する。そして、該第2設定車速より現車速が大きければ3速を選択し、現車速が第2設定車速より小さければ2速を選択して処理を終了する。
自動選択モードの場合(ステップS3、YES)について説明する。
自動モードが自動選択モードであるものの、走行負荷が前記設定負荷以下であれば(ステップS8、NO)、走行負荷は小さいものと判断して、前記走行モードと同じ変速点特性モデル192に基づく2速停発信制御を行う。
また、前記マニュアル制御は、自動モードが作業モード、自動選択モード、及び走行モードのいずれでもない場合に(ステップS4、NO)行われ、このマニュアル制御においては、前述の如く、設定した最高速度段まで、アクセル操作によって順にシフトアップまたはシフトダウンできるが、その後は、設定した最高速度段を超えた速度段には変速することができない。
例えば、前記切替操作具175aを操作して、最高速度段を現速度段の3速(位置187)から1速(位置184)に切り替えた場合には、前記作業モードと同様にして、変速点特性モデル191に従い、アクセル操作により3速→2速→1速と順にシフトダウンされる。逆に、最高速度段を現速度段の1速(位置184)から2速(位置185)に設定を切り替えた場合には、作業モードと同様にして、変速点特性モデルに従い、アクセル操作により1速→2速とシフトアップされるが、その後は、例え車速が増加して前記第2設定車速を超えても、3速までシフトアップされることはなく、これにより、作業者の意思通りに、設定した最高速度段まで確実に変速することができる。
以上のような変速制御構成において、前記切替操作具175aを操作して変速モードを走行モードに設定することで、停発進速度段として最低速度段の1速以外の2速を選択することができ、これにより、発進直後や停止直前の効率の悪いクラッチ切替を排除し、伝動上、クラッチ操作上の効率が高まり、燃費効率が向上し、更には、良好な運転フィーリングが得られる。更に、切替操作具175aを操作して変速モードを自動選択モードに設定することで、走行負荷の値に応じて、停発進速度段として1速か2速を自動的に選択することができ、これにより、走行負荷が過大になると、わざわざ作業者が操作しなくても自動的に高トルクの最低速度段を選択することができ、操作のミスや遅れ等に起因したエンスト等の事態を確実に回避することができるのである。
次に、以上のような構造と変速制御構成を有するデュアルクラッチ式変速装置2において、車両発進時に、前記エンジン回転数センサ176の故障等の不具合が発生した場合のエンジン回転数の推定制御構成について、図6、図10乃至図12により説明する。
図10に示すように、該エンジン回転数センサの推定制御においては、前記コントローラ94には、新たに、第一クラッチ圧センサ165、第二クラッチ圧センサ166、及びブレーキセンサ194とが接続されており、このうちの第一クラッチ圧センサ165、第二クラッチ圧センサ166は、それぞれ前記第一クラッチ部C1・第二クラッチ部C2のクラッチ圧を検出し、そのクラッチ圧の大きさを示すクラッチ圧信号をコントローラ94に送信し、ブレーキセンサ194は、前記エンジン9から前輪軸50・50、後輪軸65・65までの動力伝達経路の途中部に設けた油圧作動型等のブレーキ装置を作動させるブレーキペダル195に接続されており、該ブレーキペダル195を踏み込み操作するとブレーキ信号がコントローラ94に送信されるようにしている。
このような構成において、図6、図11に示すように、キースイッチをONにする等して車両を発進する際には、前記ブレーキペダル195の踏み込み状況が判断され(ステップS20)、ブレーキが作動状態にある場合には(ステップS20、YES)、ブレーキセンサ194からのブレーキ信号を基に、クラッチ切断指令信号がコントローラ94から前記クラッチ用電磁比例減圧弁群137に送信され、クラッチが切状態に維持されたままで(ステップS25)、車両は発進されない。一方、ブレーキペダル195の踏み込みが解除されブレーキが解除状態にある場合には(ステップS20、NO)、前記エンジン回転数センサ176からのエンジン回転数信号を基にエンジン回転数が検出される(ステップS21)。
該エンジン回転数信号の強度や波形等を、コントローラ94の記憶部94aに記憶されている正常な信号の強度や波形等のデータ(以下、「正常データ」とする)と比較し、エンジン回転数センサ176の故障等の不具合が発生したか否かを判断する(ステップS22)。前記不具合が発生していないと判断した場合は(ステップS22、NO)、そのまま、検出したエンジン回転数と、前記コントローラ94の記憶部94aに記憶されている、エンジン回転数とクラッチ圧との経時モデル等を基に、各エンジン回転数毎に設けられた上限クラッチ圧が決定される(ステップS23)。例えば、図12の線図197におけるエンジン回転数R2に対応する上限クラッチ圧は、線図196のクラッチ圧P2である。
そして、該上限クラッチ圧に到達するまで、前記クラッチ圧センサ165・166からのクラッチ圧信号より求めたクラッチ圧が増加するように、クラッチ接続指令信号がコントローラ94から前記クラッチ用電磁比例減圧弁群137に送信され(ステップS24)、クラッチが入状態になると車両が発進する。
なお、各エンジン回転数毎の前記上限クラッチ圧までの増圧速度は、所定の規定速度に制限されており、エンジン回転数の上昇途中でたとえブレーキペダル195の踏み・離しを再度行っても、高いエンジン回転数のもとでクラッチ圧が急増しないようにしている。
一方、前記正常データとの比較により不具合が発生していると判断した場合は(ステップS22、YES)、前記スロットル開度センサ178からのスロットル開度信号を基にスロットル開度が検出される。同時に作業者に対しては、不具合が発生したこと、及び不具合が発生した部位、例えば、不具合がエンジン回転数センサ176自体に発生したのか、あるいは該エンジン回転数センサ176からコントローラ94までの信号線に発生したのかについて、ブザー等の音響機による警告音や表示灯による光の点滅等によって通知し(ステップS26)、不具合に対する作業者の迅速な対応を可能としている。そして、前記スロットル開度と、前記コントローラ94の記憶部94aに記憶されている、スロットル開度とエンジン回転数との関係モデルを基に、エンジン回転数が推定される(ステップS27)。その後は、この推定したエンジン回転数(以下、「推定エンジン回転数」とする)を、エンジン回転数センサ176により検出したエンジン回転数とみなし、不具合が発生していないと判断した場合と同様にして、上限クラッチ圧が決定され(ステップS23)、該上限クラッチ圧に到達するまで、クラッチ接続指令信号がコントローラ94からクラッチ用電磁比例減圧弁群137に送信され(ステップS24)、クラッチが入状態になると車両が発進する。
このようなクラッチ圧制御では、図12に示すようにして、クラッチ圧、エンジン回転数、スロットル開度が、それぞれ線図196・197・198に従って変化する。
時点T1以前は、ブレーキペダル195が踏み込まれてブレーキ装置は作動状態に、エンジン回転数はR1より小さくエンジン9はアイドリング状態に、スロットル開度はB1より小さい所定値に、それぞれ設定されている
時点T1になり、ブレーキペダル195を離してブレーキを解除状態としながらアクセル操作具を操作すると、図11に示すプロセスに従い、エンジン回転数R1が検出され、該エンジン回転数R1に対応したクラッチ圧P1までクラッチ圧が急増する。ここで、コントローラ94により、エンジン回転数センサ176の故障等の不具合が発生したと判断された場合には、スロットル開度B1が検出され、該スロットル開度B1より推定した推定エンジン回転数r1に対応するクラッチ圧p1までクラッチ圧が増加する。
更に、アクセル操作具を操作してエンジン回転数をR1からR3まで上昇させると、クラッチ圧もP1からP3まで徐々に増加していく。この間、図11に示すプロセスに従い、クラッチ圧はエンジン回転数の上昇に対応して増加する制御構成となっており、エンジン回転数が十分上昇してからクラッチを入状態に移行させてトルク不足のない状態で発進させることができ、坂道発進時に積載量が多くて車重が重かったり、路面の傾斜が急な場合でも、ロールバックの発生を確実に防止することができる。この間も、コントローラ94により、エンジン回転数センサ176の故障等の不具合が発生したと判断された場合には、例えば、時点T2においてスロットル開度B2が検出され、該スロットル開度B2より推定した推定エンジン回転数r2に対応するクラッチ圧p2までクラッチ圧が増加する。
時点T3になると、エンジン回転数がR3となってクラッチ圧が設定最大クラッチ圧P3に到達し、クラッチ入状態への移行が完了する。この際も、エンジン回転数センサ176の故障等の不具合が発生したと判断された場合には、検出されたスロットル開度B3より推定した推定エンジン回転数r3に対応するクラッチ圧p3までクラッチ圧が増加する。
逆に、エンジン回転数をR3からR1まで減少させていくと、クラッチ圧もP3からP1まで徐々に増加していき、エンジン回転数がR1未満のアイドリング状態になると、ブレーキペダル195が踏み込まれてブレーキ装置は作動状態となる。この間も、エンジン回転数センサ176の故障等の不具合が発生したと判断された場合には、検出されたスロットル開度から推定した推定エンジン回転数に対応するクラッチ圧までクラッチ圧を減少させるのである。
なお、前記スロットル開度センサ178からのスロットル開度信号の代わりに、アクセスが容易で構造も簡単なアクセル開度センサ134からのアクセル開度信号を用いることも可能である。つまり、エンジン回転数センサ176の故障等の不具合が発生していると判断した場合には、アクセル開度信号を基にアクセル開度が検出され、該アクセル開度と、前記コントローラ94の記憶部94aに記憶されている、アクセル開度とエンジン回転数との関係モデルを基に、推定エンジン回転数が推定されるのである。
すなわち、各奇数速度段に必要な駆動列群への動力断接用の第一クラッチである第一クラッチ部C1と、各偶数速度段に必要な駆動列群への動力断接用の第二クラッチである第二クラッチ部C2とを備え、該第一クラッチ部C1・第二クラッチ部C2の作動をアクチュエータである第一クラッチ部シリンダ79・第二クラッチ部シリンダ80により制御可能な制御装置であるコントローラ94を設け、該コントローラ94により、前記第一クラッチ部C1・第二クラッチ部C2の入切で前記駆動列群を自動選択し、エンジン9からの動力を変速して車軸である前輪軸50・50、後輪軸65・65に伝達すると共に、前記奇数速度段・偶数速度段間での速度段切替時には、前記第一クラッチ部C1と第二クラッチ部C2のうちの、一方の離間作動と他方の接合作動とを時間的にオーバーラップさせるデュアルクラッチ式変速装置2において、前記エンジン9の出力軸11の回転数をエンジン回転数として検出するエンジン回転数センサ176と、前記エンジン回転数を設定するエンジン回転数設定手段である、前記エンジン9の吸気系に設けられたスロットルバルブを設け、車両発進時には、前記コントローラ94により、前記エンジン回転数の上昇に対応して前記第一クラッチ部シリンダ79・第二クラッチ部シリンダ80を作動させ、前記第一クラッチ部C1と第二クラッチ部C2のうちの発進速度段側のクラッチのクラッチ圧を増加させるクラッチ圧制御構成を備えると共に、前記エンジン回転数センサ176関連の不具合検出時には、前記スロットルバルブによる設定量であるスロットル開度を基にエンジン回転数を推定する推定制御構成を備えたので、前記エンジン回転数センサ176が故障したり、該エンジン回転数センサ176から前記コントローラ94までの信号線が断線したような場合であっても、エンジン回転数を推定し、エンジン9からの出力トルクに対応するようにして途切れることなくクラッチ圧を増減させて、車両発進時に走行不能状態に陥るのを確実に回避できると共に、坂道発進時に積載量が多くて車重が重かったり路面の傾斜が大きい場合でもロールバックが発生しないようにすることができる。特に、このように、エンジン回転数設定手段をスロットルバルブとし、該スロットルバルブのスロットル開度をエンジン回転数設定手段の設定量とするので、エンジン9に近いスロットルバルブの操作量であるスロットル開度をエンジン回転数の推定制御時に使用することができ、高い推定精度を得ることができる。
更に、前記エンジン回転数設定手段をアクセルペダル等のアクセル操作具とし、該アクセル操作具のアクセル開度をエンジン回転数設定手段の設定量とする場合には、アクセスの容易なアクセル操作具の操作量であるアクセル開度をエンジン回転数の推定制御時に使用することができ、制御構成の簡素化によるコストダウンやメンテナンス性の向上を図ることができる。
次に、走行中の自動変速時に、前記スロットル開度センサ178の故障等の不具合が発生した場合のスロットル開度の強制設定制御構成について、図6、図8、図13乃至図15により説明する。
走行中の自動変速は、前述の如く、変速点特性モデルにおいて、現車速と現スロットル開度から決定される現変速位置が、各速度段への変速を開始する各線図を超える際に行われるが、スロットル開度を検出する図6のスロットル開度センサ178が故障したり、該スロットル開度センサ178から前記コントローラ94までの信号線が断線したりする等の不具合が発生した場合には、該コントローラ94にスロットル開度信号が送信されなくなってスロットル開度が0%となり、正常な変速が行われなくなる。
例えば、図15のシフトアップライン202に示すように、現速度段が3速で一定のスロットル開度B5の下で車速のみがV1からV4まで増加する場合に、現変速位置が位置202a(車速V1)や位置202c(車速V4)にあって領域204の外部にあれば、たとえスロットル開度センサ178の故障等の不具合が発生し、スロットル開度信号がコントローラ94に送信されなくなりスロットル開度が0%になっても、速度段が位置202aでは3速のままに、位置202cでは4速のままにあって変速は行われない。
これに対し、現変速位置が領域204内の位置202b(車速V3)であれば、スロットル開度センサ178の故障等の不具合が発生してスロットル開度が0%になると、本来、線図191U34よりも低車速側にあって適正な速度段が3速であるにもかかわらず、急に3速から4速にシフトアップされることとなり、車両が急加速して安定走行が困難となっていた。そこで、スロットル開度センサ178の故障等の不具合が発生してもスロットル開度が0%にならないような、スロットル開度の強制設定制御を行い、急加速を防止するようにしている。
該スロットル開度の強制設定制御においては、図13に示すように、スロットル開度センサ178からのスロットル開度信号を基にスロットル開度が検出される(ステップS30)。該スロットル開度信号の強度や波形等を、コントローラ94の記憶部94aに記憶されている正常データと比較し、スロットル開度センサ178の故障等の不具合が発生したか否かを判断する(ステップS31)。前記不具合が発生していないと判断した場合は(ステップS31、NO)、そのまま、検出したスロットル開度と、車速センサ135からの出力軸回転数信号より検出した車速と、前記コントローラ94の記憶部94aに記憶されている図8の変速点特性モデル119とを基に、前述のようにして次速度段を決定し(ステップS32)、前述の変速制御プロセスに従って変速動作が行われる(ステップS33)。
一方、前記正常データとの比較により不具合が発生していると判断した場合は(ステップS31、YES)、スロットル開度を0%から100%に強制的に設定する(ステップS34)。
例えば、図14のシフトアップライン199に示すように、現速度段が3速で一定のスロットル開度B4の下で車速のみがV1からV3まで増加する場合、現変速位置が位置199a(車速V1)であれば、スロットル開度が0%であっても100%であっても速度段は3速のままで変わらないのに対し、現変速位置が位置199b(車速V2)で、スロットル開度を0%から100%に強制設定すると、3速から4速にシフトアップせずに3速のままに維持される。更に、現変速位置が領域201内の位置199c(車速V3)で、スロットル開度を0%から100%に強制設定すると、4速から3速にシフトダウンされることとなる。なお、スロットル開度を100%に強制設定すると同時に、作業者に対しては、前述したエンジン回転数の推定制御の場合と同様、不具合が発生したこと、及び不具合が発生した部位、例えば、不具合がスロットル開度センサ178自体に発生したのか、あるいは該スロットル開度センサ178からコントローラ94までの信号線に発生したのかについて、ブザー等の音響機による警告音や表示灯による光の点滅等によって通知し、不具合に対する作業者の迅速な対応を可能としている。
そして、スロットル開度を100%に設定した後は、不具合が発生していないと判断した場合と同様に、そのまま、100%に設定したスロットル開度と、車速センサ135からの出力軸回転数信号より検出した車速と、変速点特性モデル119とを基に、次速度段を決定し(ステップS32)、変速制御プロセスに従って変速動作が行われる(ステップS33)。
すなわち、前記スロットル開度センサ178関連の不具合検出時には、次速度段が現速度段に維持されるか又は低い速度段側に移行するように、スロットル開度を、例えば100%に強制的に設定する強制設定制御構成を備えたので、スロットル開度と車速に応じて自動で連続的にシフトアップまたはシフトダウンして所定の前進速度段に変速する自動変速において、スロットル開度センサ178が故障したり、該スロットル開度センサ178から前記コントローラ94までの信号線が断線したような場合であっても、少なくとも急にシフトアップされることがなく、車両の急加速を防止して安定走行を行うことができる。
なお、スロットル開度の設定値としては、スロットル開度を強制的に設定することによって次速度段を現速度段に維持させるか又は低速度段側に移行できるものであればよく、必ずしも100%に限定されるものではない。
また、走行負荷をあらわす前記スロットル開度の代わりにアクセル開度を用いて変速点特性モデルを作成して、アクセル開度と車速による自動変速制御を行うようにすることもでき、この場合は、アクセル開度センサ134関連の不具合検出時には、アクセル開度を、例えば100%に強制的に設定することとなる。
次に、走行中の自動変速時に、前記車速センサ135の故障等の不具合が発生した場合の車速の推定制御構成について、図6、図10、図16により説明する。
走行中の自動変速は、前述の如く、変速点特性モデルにおいて、現車速と現スロットル開度から決定される現変速位置が、各速度段への変速を開始する各線図を超える際に行われるが、車速を検出する図6の車速センサ135が故障したり、該車速センサ135から前記コントローラ94までの信号線が断線したりする等の不具合が発生した場合には、該コントローラ94に出力軸回転数信号が送信されなくなり、急に車速がゼロとなって車両が急減速して安定走行が困難となっていた。そこで、車速センサ135の故障等の不具合が発生してもエンジン回転数や速度段等から車速を計算により推定する、車速の推定制御を行い、急減速を防止するようにしている。
該車速の推定制御においては、図16に示すように、車速センサ135からの出力軸回転数信号を基に車速が検出される(ステップS40)。該出力軸回転数信号の強度や波形等を、コントローラ94の記憶部94aに記憶されている正常データと比較し、車速センサ135の故障等の不具合が発生したか否かを判断する(ステップS41)。前記不具合が発生していないと判断した場合は(ステップS41、NO)、そのまま、検出した車速と、前記スロットル開度センサ178からのスロットル開度信号より検出したスロットル開度と、前記コントローラ94の記憶部94aに記憶されている変速点特性モデル119とを基に、前述のようにして次速度段を決定し(ステップS42)、前述の変速制御プロセスに従って変速動作が行われる(ステップS43)。
一方、前記正常データとの比較により不具合が発生していると判断した場合は(ステップS41、YES)、図10のクラッチ圧センサ165・166からのクラッチ圧信号より求めたクラッチ圧からクラッチの入切状態を検出し、コントローラ94の記憶部94aに記憶されている直前の変速指令信号より現速度段を検出し、前記エンジン回転数センサ176からのエンジン回転数信号よりエンジン回転数を検出する。同時に作業者に対しては、前述したエンジン回転数の推定制御の場合と同様、不具合が発生したこと、及び不具合が発生した部位、例えば、不具合が車速センサ135自体に発生したのか、あるいは該車速センサ135からコントローラ94までの信号線に発生したのかについて、ブザー等の音響機による警告音や表示灯による光の点滅等によって通知し(ステップS44)、不具合に対する作業者の迅速な対応を可能としている。そして、クラッチが入状態にあれば、現速度段より求まる減速比でエンジン回転数を除することにより前記出力軸回転数が得られ、該出力軸回転数から車速が推定される(ステップS45)。
その後は、この推定した車速(以下、「推定車速」とする)を、車速センサ135により検出した車速とみなし、不具合が発生していないと判断した場合と同様にして、該推定車速と、前記スロットル開度センサ178からのスロットル開度信号より検出したスロットル開度と、変速点特性モデル119とを基に、次速度段を決定し(ステップS42)、変速制御プロセスに従って変速動作が行われる(ステップS43)。
すなわち、前記車速センサ135関連の不具合検出時には、現速度段とエンジン回転数を基に車速を推定する推定制御構成を備えたので、スロットル開度と車速に応じて自動で連続的にシフトアップまたはシフトダウンして所定の前進速度段に変速する自動変速において、車速センサ135が故障したり、該車速センサ135から前記コントローラ94までの信号線が断線したような場合であっても、少なくとも急にシフトダウンされることがなく、車両の急減速を防止して安定走行を行うことができる。
また、走行負荷をあらわす前記スロットル開度の代わりにアクセル開度を用いて新たに変速点特性モデルを作成して、アクセル開度と車速による自動変速制御を行うようにすることもでき、この場合は、車速センサ135関連の不具合検出時には、前記推定車速と現アクセル開度とから、新たに作成した前記変速点特性モデルにおける現変速位置を決定することとなる。
次に、自動変速時に、前記変速モード切替具175の故障等の不具合が発生した場合の変速モードの維持設定制御構成について、図6、図7、図17により説明する。
自動変速時には、前述の如く、変速モード切替具175の切替操作具175aを操作して、作業モード、走行モード、自動選択モード、及びマニュアルモードの各最高速度段のうちのいずれか一つの変速モードを選択すると、コントローラ94が、選択された変速モードの変速点特性モデルに従って、検出したスロットル開度と車速に最適なギア列を選定し、自動的に変速できるようにしている。
しかしながら、変速モード切替具175が故障したり、該変速モード切替具175から前記コントローラ94までの信号線が断線したりする等の不具合が発生した場合には、該コントローラ94に前記自動モード信号や最高速度段信号が送信されなくなったり、選択した変速モードとは異なる自動モード信号や最高速度段信号が送信される等して、作業者の意図通りの走行が困難となっていた。そこで、変速モード切替具175の故障等の不具合が発生しても、それまでの走行状態と大きく変わらないように変速モードの維持設定制御を行い、思わぬ変速モードとなり車両が急動作するのを防止するようにしている。
該変速モードの維持設定制御においては、図6に示すように、前記コントローラ94の記憶部94aには、前記自動モード信号や最高速度段信号を変速データとして常時上書き記録可能な領域(以下、「上書き記録領域」とする)94bを設けており、該上書き記録領域94bは、最も古い変速データから上書きして記録を続けることができるようにしている。
このような構成において、図17に示すように、変速モード切替具175からの自動モード信号と最高速度段信号、アクセル開度センサ134からのアクセル開度信号、スロットル開度センサ178からのスロットル開度信号、エンジン回転数センサ176からのエンジン回転数信号、及び車速センサ135からの出力軸回転数信号が、それぞれコントローラ94に読み込まれると共に、該コントローラ94において車速等が算出される(ステップS1)。
そして、前記変速モード切替具175からの自動モード信号と最高速度段信号を、コントローラ94の記憶部94aに記憶されている正常データと比較し、変速モード切替具175の故障等の不具合が発生したか否かを判断する(ステップS50)。該不具合が発生していないと判断した場合は(ステップS50、NO)、そのまま、図7に示すステップS2以降と同様に、前記自動モード信号と最高速度段信号に基づいて各変速モードが判別され(ステップS2〜S4)、停発進速度段として最低速度段である1速が選択される1速停発進制御(ステップS9)、停発進速度段として2速が選択される2速停発進制御(ステップS5)、設定した最高速度段までアクセル操作によって変速させるマニュアル制御(ステップS6)のいずれか一つの制御が行われる。
一方、前記正常データとの比較により不具合が発生していると判断した場合は(ステップS50、YES)、前記上書き記録領域94bから直前の変速データを読み込む。同時に作業者に対しては、前述したエンジン回転数の推定制御の場合と同様、不具合が発生したこと、及び不具合が発生した部位、例えば、不具合が変速モード切替具175自体に発生したのか、あるいは該変速モード切替具175からコントローラ94までの信号線に発生したのかについて、ブザー等の音響機による警告音や表示灯による光の点滅等によって通知し(ステップS51)、不具合に対する作業者の迅速な対応を可能としている。そして、前記変速データを基にして直前の変速モードの内容を確認し、該直前の変速モードを次の変速モードとして維持するように設定する(ステップS52)。次の変速モードを設定した後は、不具合が発生していないと判断した場合と同様にして、1速停発進制御、2速停発進制御、マニュアル制御のいずれか一つの制御が行われる(ステップS2〜S9)。
すなわち、前記変速モード切替具175関連の不具合検出時には、変速モードを直前の変速モードに維持設定する維持設定制御構成を備えたので、スロットル開度と車速に応じて自動で連続的にシフトアップまたはシフトダウンして所定の前進速度段に変速する自動変速において、変速モード切替具175が故障したり、該変速モード切替具175から前記コントローラ94までの信号線が断線したりする等の不具合が発生した場合であっても、それまでの走行状態と大きく変わらないようにして、思わぬ変速モードに移行し車両が急動作するのを防止して安定走行を行うことができる。
なお、本実施例では、前記上書き記録領域94bから読み込む変速データには、直前の変速データを用いているが、記録されている複数の変速データを読み込み、統計解析等によって作業者に適した変速モードを選択するようにしてもよい。