JP2007326134A - レーザ突合せ溶接における溶接可否およびルートギャップ適否判定方法および装置 - Google Patents
レーザ突合せ溶接における溶接可否およびルートギャップ適否判定方法および装置 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】レーザヘッド2に照射レーザの溶融部6からの反射光および熱放射光の強度を検出するセンサ7,5を設け、突合せ溶接中に溶融部からの反射光または熱放射光の強度の経時変化をモニタし、ルートギャップの適否を判定する。
【選択図】図1
Description
突合せ開先がI型の場合は、上記方法でルートギャップに垂直に照明光を当てて、画像処理により計測したルートギャップは、実際のルートギャップと一致するが、上面にRがあるI開先など開先形状が異なる場合や、照明が垂直でない場合は、計測したルートギャップが、実際のルートギャップに一致せず、計測誤差が生じる。さらに、加工用レーザや溶接時の粉塵が、ルートギャップ計測のための精密機器を傷つけ、計測誤差を生じる場合もある。後者の場合、加工点とは別の場所にルートギャップ検査ポイントを設けて、検査を行うことになるが、そうすると検査コストの増大や生産タクトの低減をもたらし、生産性が低下する。
なぜなら、一般に、レーザ溶接の初期設備投資コストは他の接合機よりも1桁以上高いため、高速な生産タクトが要求される。従って、電気・電子部品の製造ラインでは、例えば、レーザビームを出射するレーザヘッドを静止させ、突合せI開先をもつ被溶接部材を高速で間欠的に送りつつ、レーザによって突合せ溶接することを繰り返してシーム溶接継手を得ており、加工効率向上のため被溶接部材の送りが高速なので、始動時に一旦レーザヘッドとルートギャップの位置合わせが行われると、その後位置調整なしで突合せシーム溶接が続行される。そして、レーザヘッドによる溶接回数は、例えば年間数億ショットと膨大であるから、毎週位置調整を行うとしても、ルートギャップの計測誤差によって始動時の位置合わせがずれると、膨大な不良品が出ることになる。特に溶接後に幾つもの他の加工工程があれば、それらの加工工程が全く無駄になり、多大な損失をもたらすうえ、不良品が市場に出回ってしまうと、回収のために更に多大な費用がかかることになる。
しかしながら、ルートギャップをもつ突合せ開先をパルスレーザで溶接する際の溶接プロセスやルートギャップと溶接不良の関係などを開示する研究文献や特許文献は、皆無であり、溶接不良による製品歩留まりと生産性の低下が避けられないのが現状である。
即ち、本発明のレーザ突合せ溶接における判定方法は、所定のルートギャップをもつ材料に、このルートギャップより大きいビーム径をもつレーザを、レーザビームの最大パワー密度部分を上記ルートギャップに位置させて照射して突合せ溶接する過程において、溶融部からの照射レーザの反射光または溶融部からの熱放射光の強度を計測し、計測した光強度の経時変化を、同一材料からなる試料について予め求められた基準データと比較して、溶接の可否およびルートギャップの適否を判定することを特徴とする。
即ち、溶融部がルートギャップを埋めるまでは、照射レーザはルートギャップを通り抜け、ルートギャップ周辺部からの散乱光が主に計測されるから、反射光の強度は小さい。しかし、溶融部がルートギャップを埋めると、照射レーザは溶融部の表面で総て反射され、反射光の強度はそれまでの略一定値(閾値)を超えて急増する。溶接開始からルートギャップが埋まって反射光の強度が急増する時点までの時間とルートギャップの間には比例関係がある。一方、溶融部からの熱放射光は、ルートギャップが埋まるまでは、レーザビームの周辺部で加熱され分離状態で溶融した部分から出るので、強度が弱く、ルートギャップが埋まると、溶融部が最大パワー密度のレーザビーム中心で加熱・昇温されるので、熱放射光の強度は、一定値(微係数閾値)を超えて急増する。溶接開始からルートギャップが埋まって熱放射光の強度が急増する時点までの時間とルートギャップの間にも比例関係がある。本発明の判定方法では、計測した光強度の経時変化を比較するため、被溶接材料と同じ試料について予め求めた上記比例関係を基準データとして備えている。従って、溶融部からの照射レーザの反射光または熱放射光の強度の経時変化から上記時点までの時間を読み取れば、ルートギャップが適正で接合できていると判定でき、ルートギャップが正確に推定できる一方、溶接を続けても閾値を超える反射光の急増および熱放射光の急増がなければ、ルートギャップが不適正(過大)で接合できず、溶接不可能と判定できる。
この実施形態では、計測している反射光または熱放射光の強度またはその時間微係数が、同じ試料を同じレーザ波形で溶接して予め求めたデータテーブルの閾値または微係数閾値を超えた時点までの経過時間から、データテーブルを照合して対応するルートギャップを求めることができる。
本発明の基礎となる実験・研究において、上記比例関係は、ルートギャップが溶融部で埋まるという条件下で、レーザのピーク出力(パワー)が低い場合に明瞭かつ顕著であることが明らかになった。従って、この実施形態によれば、ルートギャップを正確かつ確実に推定することができる。
この実施形態では、溶接可能またはルートギャップ適正と判定した場合、溶接を続行し、溶接不可能またはルートギャップ不適と判定した場合、溶接を停止するので、溶接不良を未然に防止でき、適正なルートギャップとレーザヘッド位置に調整し直して、製品歩留まりを向上させることができる。
この実施形態では、照射初期にレーザのピーク出力が低いから、試料に低いピーク出力のレーザを照射して求めたデータテーブルを有効に利用して、正確かつ確実にルートギャップを推定でき、ルートギャップが溶融部で埋まった後、ピーク出力を上げて溶接するので、溶込み深さを深くできるとともに、ルートギャップが広い場合に溶融池の下降で発生しやすいアンダーフィルなどの溶接欠陥をなくすことができる。
本発明の基礎となる実験・研究において、進行方向を変えない突合せ(スポット)シーム溶接では、ルートギャップは、進行方向側で減少し、逆側で増加することが明らかになった。そこで、本発明の判定方法によって確実に接合ができること、つまり溶接が可能またはルートギャップが適正であることを判定してから、シーム溶接方向に対して照射点を逆方向に戻してレーザを照射する工程を入れることによって、溶接方向と逆側のルートギャップも減少できることを見出した。このシーム溶接方法によれば、より良好な突合せシーム溶接継手を歩留まり良く得ることができる。
本発明の判定装置では、モニタ部が、レーザ照射中に溶融部からの照射レーザの反射光および溶融部からの熱放射光の少なくとも何れかの強度を計測し、制御部が、上記モニタ部からの計測信号の経時変化を、同じ被溶接材料について予め求められ、格納された基準データと比較して、溶接の可否およびルートギャップの適否を判定し、溶接可能またはルートギャップ適正と判定したとき、設定レーザ波形を維持または変更する信号を出力し、溶接不可能またはルートギャップ不適と判断したとき、溶接を停止させる信号を出力する。レーザ発振器は、上記制御部からの出力信号によって動作が制御され、溶接可能またはルートギャップ適正なときは、維持または変更される波形でレーザを照射し続け、そうでないときは、レーザ照射を止めて溶接を停止する。従って、この判定装置によれば、溶接が停止することで、溶接不良を未然に防止でき、作業者が適正なルートギャップとレーザヘッド位置に調整し直すことで、溶接不良による多大な損失、検査コストの増大、および生産タクトの低下を防いで、製品歩留まりを向上させることができる。
図1は、本発明のレーザ突合せ溶接のルートギャップ適否判定方法の基礎研究に用いられ、本発明の判定方法のための装置でもあるレーザ突合せ溶接装置の概略図である。図1において、1は波長1.064μmのパルスレーザを発生するレーザ発振器としての適応制御型YAGパルスレーザ発生装置(以下、レーザ発生装置と略称する)、2はこのレーザ発生装置1から光ファイバ3を経て送られてくるレーザを金属材料の突合せ継手4に照射するレーザヘッド、5はレーザヘッド2の頂部に設けられ、レーザ照射中に溶融部6からの波長1.3μmの熱放射光を捉える熱放射光センサ、7はレーザヘッド2の側部に設けられ、レーザ照射中に溶融部6からの照射レーザの波長1.064μmの反射光を捉える反射光センサ、10は信号線8,9を経て夫々入力される熱放射光センサ5,反射光センサ7の計測信号の経時変化を、同じ被溶接材料について予め求められ、格納された基準データと比較して、溶接の可否およびルートギャップの適否を判定し、溶接可能またはルートギャップ適正と判定したとき、設定パルス波形を維持または変更する信号を出力し、溶接不可能またはルートギャップ不適と判断したとき、溶接を停止させる信号を出力する制御部としてのコンピュータである。なお、熱放射光センサ5と反射光センサ7が、光強度を1パルス期間に亘って計測するモニタ部を構成している。
上記レーザヘッド2は、ダイクロイックミラー11を介して光ファイバ3からのレーザを出射する一方、ダイクロイックミラー12を介して照射レーザの反射光を反射光センサ7に導き、反射光を選択的に減衰させるノッチフィルタ13と干渉フィルタ14を介してnWオーダの微弱な熱放射光を熱放射光センサ5に導いている。反射光センサ7の検出信号は、計測器で計測し、スポット径500μmで熱放射光センサ5によって捉えられた熱放射光の検出信号は、遮断周波数100kHz,増幅率6.8×105のプリアンプで増幅して計測した。
また、レーザ照射中の溶接現象を解析すべく、突合せ継手4の表面状態を高速撮影した。左斜め上のHe-Neレーザ発振器15から溶融部6に高速撮影用の背光を照射し、表面状態を右斜め上の高速カメラ16により毎秒9000コマで撮影した。なお、レーザが照射される溶融部6には、図示しないボンベから、シールドガスとしてアルゴンが所定流量で供給される。
ピーク出力0.4kWにおいては、レーザ照射開始後、ルートギャップの両側のチタン板が熱せられて溶融し、レーザ照射を続けると、溶融部の体積が徐々に拡大した。溶融部の体積がルートギャップを埋めるに足る量に達すると、両側の融液が接合することで突合せ溶接が完了した。ピーク出力が1.6kWにおいては、レーザ開始直後、ルートギャップの両側のチタン板が熱せられ溶融し、その直後に、溶融した融液がルートギャップに流れ落ち、レーザの焦点位置よりも低い所で融液同士が接合することで、突合せ溶接が完了した。
図3の中段および図4を見ると、接合部の形状は円形であったが、ルートギャップが広がるにつれて、直径は減少している。これは、レーザ出力が強いほど、融液がルートギャップに流れ落ちてしまうため、表面の溶融部の面積が小さくなってしまうからである。また、図5に示すように、溶接後にルートギャップが減少することが分かった。これは、ルートギャップの両側の融液が接合し、レーザ照射終了後に冷却されて凝固する際、両側のチタン板を引っ張ることによって、ルートギャップが減少するからである。
図3の下段および図6を見ると、溶込み深さは、ルートギャップが広がるにつれて深くなっている。また、レーザ出力が強いほどその傾向が顕著である。これは、融液がルートギャップに流れ落ちるためであり、出力が強いほど流れ落ちる融液の量が増えるからである。但し、融液がルートギャップに流れ落ちるため、図7に示すように、アンダーフィルも生じることが分かった。アンダーフィルは、ルートギャップが広がるにつれて増加し、レーザ出力が強いほどその傾向が顕著になる。一方、図3の下段に見られるように、ルートギャップが広がるにつれて、ポロシティが減少していることが分かる。これは、レーザ照射終了後、キーホールが崩壊する過程においてルートギャップのあるおかげで、キーホール下部にも空間があるため、ポロシティが接合部の下から抜けるからであると考えられる。
以上より、ルートギャップのある突合せ溶接で表1の溶接条件下においては、ルートギャップは接合後に減少する。但し、ルートギャップがあるため、表面の溶融部は減少し、溶込み深さは深くなるが、アンダーフィルが生じる一方、ポロシティは減少することが明らかになった。
図8の溶接条件は、表1のうちのピーク出力Pk=0.4kW,パルス持続時間Wk=15ms,レーザ焦点合致,レーザスポット直径150μm,Arガス流量40リッター/min,ルートギャップ98μmであり、図8の上段のグラフは、横軸にレーザ照射開始からの時間を、縦軸に実測されたレーザ出力および反射光と熱放射光の強度を異なる単位([kW],[mW],[×5μW])を用いて共通の目盛で夫々プロットしている。中段の図は溶融部の撮影画像、下段の図は断面のマクロ写真を夫々示している。なお、マクロ写真は、別の試料に同じ条件で突合せ溶接を行い、写真に示す各照射時間でレーザ照射を停止し、溶融部をビードに垂直に切断してマクロ腐食した写真である。図9の溶接条件は、ピーク出力Pk=1.6kW,パルス持続時間Wk=2ms,ルートギャップが106μmである点のみが図8の溶接条件と異なる。
図9から次のことが分かる。接合時の前後における熱放射光強度および反射光強度の変化は、ピーク出力0.4kWで溶接を行った図8の場合のように顕著ではない。これは、ピーク出力が1.6kWと高いので、多量の融液が振動を起こしたり、ルートギャップへ流れ落ちて接合したりするため、その影響が熱放射光および反射光の強度に現れたからと考えられる。
以上より、ルートギャップのある突合せ溶接では、パルスレーザのピーク出力が低い場合、熱放射光および反射光をモニタリングすることで接合が行えたかどうかを検出できる可能性があることが明らかになった。
以上から、熱放射光強度および反射光強度は、ルートギャップのある突合せ溶接で接合が生じて溶融池が形成されると、急激に変化することが明らかになった。
なお、熱放射光強度は、図11でルートギャップ54μmに相当する箇所にプロット点がないことから分かるように、ルートギャップが小さくなると、時間微係数の顕著な閾値が認められず、判定基準および推定基準にならない。これは、図13から明らかである。図13は、ピーク出力0.4kWのパルスレーザによるルートギャップが54μm, 98μmの突合せ溶接のモニタリングで接合が生じる時点付近での0.04ms毎の熱放射光強度の増分を夫々左側,右側に示している。撮影画像から、接合は、ルートギャップが54μmの場合は1.44msで、98μmの場合は4.81msで夫々生じている。ルートギャップ大きい右側の図では、接合が生じた時点で熱放射光強度の時間勾配が急増しているが、ルートギャップ小さい左側の図では、熱放射光強度の時間勾配に顕著な変化が見受けられない。
コンピュータ10は、レーザ発生装置1で発生され、レーザヘッド2から出射されるパルスレーザによって溶接が行われる際、作業者が入力する溶接条件に対応するルートギャップ-経過時間のデータテーブルを基準データから選択し、モニタ部である熱放射光センサ5および反射光センサ7からの検出信号の経時変化を、選択したデータテーブルと比較して、経時変化する反射光強度がデータテーブルの経過時間を過ぎる前に所定閾値を超えあるいは熱放射光強度の時間微係数がデータテーブルの経過時間以前に所定微係数閾値を超えたとき、溶接可能またはルートギャップ適正と判定して、その溶接条件で溶接を続行させる一方、経時変化する光強度がデータテーブルの経過時間以降も、所定閾値を超えずあるいは光強度の時間微係数が所定微係数閾値を超えないとき、溶接不可能またはルートギャップ不適と判定して、溶接を停止させる。
上記レーザ突合せ溶接装置のコンピュータ10によれば、溶接が停止することで、ルートギャップまたはビーム位置合わせ不適に起因する溶接不良を未然に防止でき、作業者が適正なルートギャップとレーザヘッド位置に調整し直すことで、溶接不良による多大な損失、検査コストの増大、および生産タクトの低下を防いで、製品歩留まりを向上させることができる。
先の実施形態において図6で述べたように、パルスレーザのピーク出力が高い場合、融液がルートギャップに流れ落ちてアンダーフィルが発生する一方、ピーク出力が低い場合、アンダーフィルは低減されるものの、十分な溶込み深さを得ることができない。そこで、この実施形態では、レーザ照射開始直後はピーク出力の低いレーザで照射を行い、溶融部が接合した後にピーク出力を増加させて、深い溶込みを得る。これは、接合で溶融池ができると、高いピーク出力でも、融液がルートギャップに流れ落ちないからである。なお、接合が生じたか否かは、先の実施形態と同様、照射レーザの溶融部からの反射光をモニタリングして判定する。
適応制御法のフローチャートおよびその際の反射光強度とレーザ出力の経時変化を、図14Aおよび図14Bに夫々示す。適応制御が始まると、コンピュータ10は、熱放射光センサ5および反射光センサ7からの検出信号の0.15msごとのモニタリングを開始し、図12AのステップS1で、レーザのピーク出力を0.4kWと低い値に設定し、ステップS2で、反射光強度が0.08mWを超えたか否かにより接合が生じたか否かを判断する。ステップS2で否と判断すれば、ステップS1に戻ってピーク出力を0.4kWに維持する一方、肯と判断すれば、ステップS4に進んで、接合が生じたのでピーク出力を1.6kWに上昇させる。そして、ステップS4で、熱放射光強度が1.7μWを超えたか否かでアンダーフィルが抑えられ、かつ十分な溶込み深さが得られるほど溶融池が安定化したか否かを判断し、否と判断すれば、ピーク出力を1.6kWに維持する一方、肯と判断すれば、レーザ照射を停止させ、適応制御を終了する。
図15を見ると、初期のピーク出力0.4kWでのレーザ照射中は、ルートギャップの両側のチタン部材が熱せられて溶融した。その間,熱放射光強度は、時間に比例して上昇し、反射光強度は、0.04mW程度で一定であった。レーザ照射開始から5.4ms経過すると、融液同士が接合し、熱放射光強度および反射光強度が急増した。そして、反射光強度が0.08mWを超えたことを判定して、ピーク出力を1.6kWに増加した。ピーク出力を増加しても、融液は流れ落ちず、溶接を続けることができた。最後に、レーザ照射開始から7.0ms後に熱放射光強度が1.7μWを越えたので、レーザ照射を終了した。
以上より、この実施形態の適応制御は、ルートギャップをもつ突合せ溶接においてアンダーフィルを低減し、溶融部表面直径を安定化する効果があることが明らかになった。
本発明の判定装置を兼ねる図1のレーザ突合せ溶接装置の制御部であるコンピュータ10には、被溶接材料の板厚,ルートギャップを含む溶接条件に対応して予め求められたレーザの初期および増加後のピーク出力が既述のデータテーブルに基準データとして格納されている。そして、作業者によってアンダーフィル低減の適応制御が選択されると、溶接条件に対応するピーク出力をデータテーブルから読み出して上記適応制御を行う。従って、図1のレーザ突合せ溶接装置を用いれば、アンダーフィルを低減し、溶融部表面直径を安定化することができる。
先の実施形態は、被溶接材料とレーザヘッドを相対移動させずにパルスレーザを被溶接材料の1点に照射するものであるが、この照射点を変更して溶接部が繋がるように溶接を繰り返す突合せシーム溶接も、電気・電子部品の製造分野では多用されている。そこで、基礎研究として、ルートギャップをもつ突合せシーム溶接を行い、溶接後のルートギャップの変化を調査した。突合せシーム溶接は、ルートギャップが0.101mmの純チタン材に対して、ピーク出力1.6kWで持続時間2msのパルスレーザを照射し、照射位置を0.34mmずつずらして10回照射を繰り返して行った。また,同様の条件で先の実施形態で述べた適応制御を用いたシーム溶接を行った。
適用制御を用いない場合および用いた場合の溶接後のシームの表面と断面の状態を、図20Aおよび図20Bの上下の写真に夫々示す。なお、表面状態の写真の左右は、継手の左,右端のルートギャップを示している。レーザ照射の順番は、写真に向かって左から右である。
図21の溶融部表面直径は、適応制御を用いない場合は、最初のレーザ照射による溶融部の直径が小さくなったが、照射が繰り返されるにつれて増加し、安定化している。一方、適応制御を用いた場合は、適応制御を用いない場合に比して最初のレーザ照射による溶融部から変動が少なく安定化している。この傾向は、適応制御を用いない最初の3回のレーザ照射においては顕著であるが、4回目以降からは適応制御を用いた場合と略同じ直径となった。
図22の溶込み深さは、適応制御を用いた場合も用いない場合も、レーザ照射が繰り返されるにつれて減少している。
図23のアンダーフィルは、適応制御を用いない場合、1回目の照射で深くなったが、レーザ照射が繰り返されるにつれて浅くなり、安定化した。適応制御を用いた場合は、1回目の照射で浅かったが、2回目以降では適応制御を用いない場合とあまり差はなかった。このことから、レーザ照射が繰り返されるにつれ、溶融状態が変化していくと考えられる。図20A,Bの突合せ溶接後の試料の両端の写真を見ると、両端のルートギャップは、照射位置移動方向である右端のルートギャップが減少し、反対側の左端のルートギャップが増加している。これは、最初の実施形態で、ルートギャップが溶接後に減少すると述べたように、レーザ照射を繰り返し行うと、図24に示すように、照射位置移動方向のルートギャップがレーザ照射によって減少し、その分、逆方向のルートギャップが増加するからであると考えられる。従って、レーザ照射を繰り返すほどルートギャップが減少し、融液がルートギャップに流れ落ちなくなるので、溶融部直径が安定し、アンダーフィルが浅くなり、溶込み深さが浅くなるのである。
以上より、ルートギャップをもつ突合せシーム溶接を行うと、照射位置移動方向のルートギャップが減少し、アンダーフィルが浅くなることが明らかになった。
以上より,ルートギャップをもつ突合せシーム溶接において、レーザ照射の順番を変えることによって、ルートギャップを減少できることが明らかになった。
図29は、照射レーザの溶融部からの反射光をモニタリングし、レーザ照射開始から反射光強度が急増するまでの時間を、レーザ照射を行った順番にプロットしたグラフである。先の実施形態で、レーザのピーク出力が低い場合、反射光強度が急増するまでの時間はルートギャップに比例することを述べた。また、アンダーフィル低減の適応制御においては,接合が生じたか否かの判定の際、初期に低ピーク出力のレーザで照射を行っている。そのため、図29のグラフで、反射光強度が急増するまでの時間が長い1,3,5回目のレーザ照射においては、かなりのルートギャップが生じており、それ以外のレーザ照射においては、ルートギャップが非常に狭いということが分かる。つまり、レーザ照射の順番を上述のように変化させてシーム溶接を行っても、ルートギャップを増加させることが困難であったため、図28の断面写真に見られるようにポロシティの低減は実現できなかったと結論できる。
2 レーザヘッド
3 光ファイバ
4 突合せ継手
5 熱放射光センサ
6 溶融部
7 反射光センサ
10 コンピュータ
11,12 ダイクロイックミラー
13 ノッチフィルタ
14 干渉フィルタ
15 He-Neレーザ発振器(背光用)
16 高速カメラ
Claims (7)
- 所定のルートギャップをもつ材料に、このルートギャップより大きいビーム径をもつレーザを、レーザビームの最大パワー密度部分を上記ルートギャップに位置させて
照射して突合せ溶接する過程において、
溶融部からの照射レーザの反射光または溶融部からの熱放射光の強度を計測し、計測した光強度の経時変化を、同一材料からなる試料について予め求められた基準データと比較して、溶接の可否およびルートギャップの適否を判定することを特徴とするレーザ突合せ溶接における判定方法。 - 請求項1に記載の判定方法において、上記基準データは、所定の試料についてルートギャップを変化させて所定波形のレーザで溶接を行い、溶融部が上記ルートギャップを埋めた時点で、照射レーザの反射光の強度がそれを超えて増加する閾値あるいは照射レーザの反射光または熱放射光の強度の時間微係数がそれを超えて増加する微係数閾値と、溶接開始から上記時点までの経過時間と、ルートギャップ値と、上記所定波形の組からなるデータテーブルであることを特徴とする判定方法。
- 請求項2に記載の判定方法において、上記試料に照射するレーザの波形は、溶融部がルートギャップを埋めるに足る低いピーク出力と所定のレーザ照射持続時間を有することを特徴とする判定方法。
- 請求項2に記載の判定方法において、上記データテーブルに載ったルートギャップをもつ材料を上記データテーブルに載った波形のレーザで溶接し、上記経過時間を過ぎる前に、計測する光強度が上記閾値を超えあるいは計測する光強度の時間微係数が上記微係数閾値を超えたとき、溶接可能またはルートギャップ適正と判定して溶接を続行する一方、上記経過時間が過ぎても、計測する光強度が上記閾値を超えずあるいは計測する光強度の時間微係数が上記微係数閾値を超えないとき、溶接不可能またはルートギャップ不適と判定して溶接を停止することを特徴とする判定方法。
- 請求項4に記載の判定方法において、上記材料に照射するレーザの波形は、照射初期にピーク出力が低く、溶接可能またはルートギャップ適正と判定したとき、ピーク出力が上昇することを特徴とする判定方法。
- 所定のルートギャップをもつ材料にレーザを照射することを、照射点を変更して繰り返して突合せシーム溶接する方法において、請求項4に記載の判定方法によって溶接可能またはルートギャップ適正と判定した後、シーム溶接方向に対して照射点を逆方向に戻してレーザを照射する工程を含むことを特徴とする突合せシーム溶接方法。
- レーザ突合せ溶接における溶接可否およびルートギャップ適否を判定する装置であって、
レーザ照射中に溶融部からの照射レーザの反射光および溶融部からの熱放射光の少なくとも何れかの強度を計測するモニタ部と、
このモニタ部からの計測信号の経時変化を、同じ被溶接材料について予め求められ、格納された基準データと比較して、溶接の可否およびルートギャップの適否を判定し、溶接可能またはルートギャップ適正と判定したとき、設定レーザ波形を維持または変更する信号を出力し、溶接不可能またはルートギャップ不適と判断したとき、溶接を停止させる信号を出力する制御部と、
この制御部からの出力信号によって動作が制御されるレーザ発振器を備えたことを特徴とする判定装置。
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