JP2007069207A - 水素分離複合体及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
ピンホール及び多孔性基材への過度な浸透のない、安定性に優れ、高水素透過性及び高水素分離性を有する水素分離複合体、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】
水素分離複合体の製造方法として、多孔性基材の表面に金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物を含有する易焼失性高分子から実質的になる層を形成する工程A、前記層の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる無電解メッキ層を積層する工程B、前記積層体を加熱処理して易焼失性高分子を焼失させる工程C、および前記加熱処理して得られた積層体の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる無電解メッキ層を形成する工程Dから少なくともなる。
【選択図】 なし
Description
これらのなかで、分離膜による水素分離法は他の水素分離方法と比べて、より省エネルギーで、操作が簡便であり、しかも用いる機器の小型化が可能などの有利な点を有しているため、工業的に使用される可能性が大きい。とくに、パラジウムベースの複合金属膜は、高い水素透過率と優れた水素分離性を有するため、他の方法と比較すると、明らかに優位である。さらに、燃料電池や他の水素を消費するプロセスのために有用な純粋な水素を製造できることや、対象製品の収量を向上させるために水素化や脱水素化反応プロセスに使用できることなど、実に工業的価値が高い。
しかしながら、パラジウムは高価であるので、たとえばニッケル、銅あるいはバナジウムなど、より安価な金属であり、しかもパラジウムと同様の水素分離能を有する技術も盛んに研究されている。
また、パラジウム以外の金属からなる水素分離膜に関する既知の方法でも、同様であり、パラジウム以外の金属からなる薄膜の基となる金属核を導入するための重要な工程がほとんどなされていないといえるのであり、ピンホール及び多孔性基材への浸透のない、高水素透過性及び高水素分離性を有する水素分離複合薄膜の製造方法が、未だ開発されていない状態である。
請求項2の発明は、多孔性基材の表面に、金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物を含有する易焼失性高分子から実質的になる層を形成する工程A、前記層の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層を積層する工程B、前記積層体を加熱処理して易焼失性高分子を焼失させる工程C、および前記加熱処理して得られた積層体の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層を形成する工程Dから少なくともなることを特徴とする水素分離複合体の製造方法に関する。
請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において、工程Bが、工程Aでの層の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる無電解メッキ層を積層する工程であることを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項6の発明において、層Mが、水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる無電解メッキ層である発明である。請求項8の発明は、請求項6または7記載の積層体を加熱処理して得る水素分離複合体に関する。この請求項6または7記載の積層体の加熱により、積層体の内部に存在する易焼失性高分子は焼失する。
請求項9の発明は、請求項8の水素分離複合体の表面に、さらに水素分離機能を有する金属あるいは合金からなるNを形成したことを特徴とする水素分離複合体に関する。
請求項10の発明は、請求項9の発明において、層Nが、水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる無電解メッキ層である発明である。
請求項11の発明は、請求項6〜10のいずれか記載の水素分離複合体において、層Mの厚みが0.5〜5μmであることを特徴とする。この発明では、水素分離複合体は水素分離複合膜ということができる。
請求項12の発明は、請求項6〜10のいずれか記載の水素分離複合体において、層Nの厚みが0.5〜10μmであることを特徴とする。この発明では、水素分離複合体は水素分離複合膜ということができる。すなわち、本発明の水素分離複合体は、水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層の厚み、つまり層Mと層Nのが1〜15μmであることを特徴とする。
請求項14の発明は、多孔性基材と水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層から少なくとも構成される積層体であって、しかも前記多孔性基材と前記水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層との間に実質的に空間層を保持することを特徴とする水素分離複合体に関する。ここで、「前記多孔性基材と前記水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層との間に実質的に空間層を保持する」とは、前記多孔性基材と前記水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層との間に空間層が保持されるが、あるいは僅かに一部だけ空間層を観察されにくい部分があるものの水素透過性、水素透過分離能、機械的安定性などの本発明の特徴には影響がほとんどないときを意味する。この空間層は実質的にバッファー層の役割を果たす。なお、この発明は、多孔性基材と水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層から少なくとも構成される積層体であって、しかも前記多孔性基材と前記水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層との間に実質的に空間層を保持することを特徴とする請求項6〜12のいずれか記載の水素分離複合体も含まれる。
請求項15の発明は、多孔性基材と水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層から少なくとも構成される積層体であって、しかも水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層の多孔性基材への浸透が実質的に無く、かつ前記多孔性基材と前記水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層との間に実質的に空間層を保持することを特徴とする水素分離複合体に関する。ここで、「前記多孔性基材と前記水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層との間に実質的に空間層を保持する」とは、前記のとおりである。なお、この発明は、多孔性基材と水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層から少なくとも構成される積層体であって、しかも水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層の多孔性基材への浸透が実質的に無く、かつ前記多孔性基材と前記水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層との間に実質的に空間層を保持することを特徴とする請求項6〜12のいずれか記載の水素分離複合体も含まれる。
すなわち、従来から行なわれている電解メッキ法により水素分離体を製造する方法では、多孔性基材を、水素分離機能を有する金属を含む各溶液に浸漬後、熱処理する工程を10回程度繰り返して、水素分離機能を有する金属メッキの下地となる金属核を基材表面に形成させていた。これは、メッキ膜である水素分離層の厚膜化を招き、必然的に水素透過能が小さくなる。さらに、金属核の分布が不均一となりがちであり、水素分離層の厚さは不均一であり、欠陥の出来やすい膜厚1μm以下の場所が混在する恐れもある。また、水素分離層の形成に時間がかかり、コストは高い。それらの点を回避するために、前記熱処理する工程を数回程度に減少すると、金属からなる水素分離層の下地となる金属核の量は少なく、しかも分散が不均一である。
さらに、従来から行なわれている製造方法で得られる水素分離体は、その基材と金属からなる水素分離層とが密着しているため、水素吸脱着や熱サイクルに伴う熱膨張・収縮が直接的に影響し、機械的強度、長期安定性に劣る。
本発明の複合体を構成する多孔質基材は、この分野で使用される多孔質基材を採用すればよいのであり、とくに制限されない。例えば、平面及び曲面を包含する形状の基材、あるいは断面が円形や楕円形の中空糸やチューブなど管状の基材を採用することができる。
この基材は3次元状に連続した多数の微細な細孔を有するのであり、その細孔径ができるだけ均一に揃っていることが好ましい。多孔質基体の厚さは、使用環境において十分な機械強度を保持できればよく、とくに制限されない。例えば、50μm〜5mm程度の基材を使用することができる。多孔質基材の細孔は本発明の所期の目的を達成することができるのであればとくに制限されないのであり、たとえば0.001μm〜100μm程度の孔径を有する基材を使用できるが、0.05μm〜10μm程度の孔径を有する基材がより好ましい。また、基材の気孔率は、20〜60%であることが好ましい。また、用いる多孔質基材の内径は200μm〜20mm程度であることが好ましい。
これら基材は無機質からなることが好ましく、上記細孔内を通過する原料ガスと反応しない材質であることが有利である。具体的には、ステンレス、アルミナ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、炭素、炭化珪素、またはガラス等を例示できる。
金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物としては、たとえばパラジウムの化合物としては、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート、パラジウム塩化アンモニウム、臭化パラジウム、塩化パラジウム、パラジウム硝酸ジアミン、硝酸パラジウム、水酸化パラジウム、パラジウムエチレンジアミン硝酸塩、硝酸パラジウム水和物、パラジウムオキサレート、硫酸パラジウム水和物、およびパラジウムテトラアミン二硝酸塩からなる群から選ばれた一種または二種以上を使用することが好ましいが、これら化合物に限定されない。
白金の化合物としては、白金アセチルアセトナート、塩化白金、ジニトロアンミン白金、テトラニトロ白金酸カリウムからなる群から選ばれた一種または二種以上を使用することが好ましいが、これら化合物に限定されない。
銀の化合物としては、酢酸銀、銀アセチルアセトナート、臭化銀、炭酸銀、塩化銀、硝酸銀、亜硝酸銀、硫酸銀、およびチオシアン酸銀からなる群から選ばれた一種または二種以上を使用することが好ましいが、これら化合物に限定されない。
バナジウムの化合物としては、無水バナジン酸、塩化バナジウム、ナフテン酸バナジウム、酸化硫酸バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、酸化バナジウムアセチルアセトナート、およびシュウ酸バナジル水和物からなる群から選ばれた一種または二種以上を使用することが好ましいが、これら化合物に限定されない。
上記記載の塗布・含侵法は公知の方法であり、それらの方法を実際に適用するときには、とくに制限されない。具体的には、たとえば、多孔性基材を上記溶液に1-600秒間ディップした後、急速に引き上げることが望ましい。
引き続いて、その多孔性基材を加熱処理し、多孔性基材表面に金属の化合物含有高分子層が形成される。加熱処理も多孔性基材表面に金属の化合物含有高分子層が形成される限り、とくに限定されない。
これらの操作により、金属の化合物含有高分子薄膜の多孔性基材表面への積層、金属の化合物含有高分子の細孔への適度な進入、あるいは、この両者によって多孔性基材表面に金属の化合物含有高分子層が形成されることになる。
この熱処理を行うときには、前記段落番号0023で説明した加熱処理を行なわなくともよい。
本発明では、熱処理した後にさらに還元処理を施すことが好ましい。しかし、前記熱処理を施さずに前記還元処理を施しても有利な結果が得られる。前記還元処理は金属の化合物に由来する金属核を還元する条件であれば、その手段や条件は制限されない。具体的には、水素気流中での還元処理が好ましい。
金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物を含有する易焼失性高分子から実質的になる層が形成された多孔性基材の積層体に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層を積層する方法は、所期の目的を達成できる範囲内である限りとくに制限されない。具体的には、CVD法やスパッタリング法、電解メッキ法、無電解メッキ法等によって積層することができる。それらの方法の中では無電解メッキ法が好ましい。
これらの方法を用いて水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層を積層する方法は高知の方法を適用すればよく、とくに制限されない。
金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物を含有する易焼失性高分子から実質的になる層は、均一な厚さの層であり、しかも操作性も改善された。また、水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層も均一な厚さの層である。
該多孔質体表面のパラジウム含有高分子薄膜層上にパラジウム又はパラジウム合金の薄膜を形成するために採用する前無電解メッキ方法については、特に制限されないのであり、この分野で使用される方法を適宜利用することができる。使用する孔質性基材の種類、形状、希望する性能等に応じて適宜選択すればよい。また、無電解メッキ法に他の方法、たとえば電気メッキ法と組み合わせて適用してもよい。
具体的なメッキ条件についても、特に制限されないのであり、目的とするパラジウム又はパラジウム合金の薄膜を形成可能な公知のメッキ浴を使用して、公知の条件に従ってメッキを行えばよい。非導電性の多孔質基材を用いる場合には、例えば、公知の方法に従って無電解メッキ用の触媒を付与した後、無電解メッキ法によってパラジウム又はパラジウム合金の薄膜を形成すればよい。
形成されるメッキ膜の密着性を向上させるよう、メッキ膜を形成する際に、メッキ液を多孔質体の片方の面から細孔に圧入する方法等を採用することができる。
具体的には、メッキ温度20〜80℃、メッキ時間0.05〜3時間の条件下において、pHが3〜12の市販パラジウムメッキ浴(パラトップ、(株)奥野工業)を用いる方法を例示できる。
前無電解メッキ法によって形成される水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層の厚さについては、0.5〜20μm程度であることが好ましく、0.5〜10μm程度であることがより好ましい。該薄膜の膜厚が薄すぎると水素の選択分離性能が不十分となり、一方、膜厚が厚すぎると経済性が失われるので好ましくない。
この水素分離複合体の形状は、用いる多孔性基材、前無電解メッキ法により形成されたメッキ膜の厚さなどにより変動するが、パラジウムあるいはパラジウム合金を含む層はピンホールが存在するという構造的な欠陥がなく、優れた水素分離機能を有する。
上記加熱処理条件は、用いる多孔性基材、パラジウム塩、易焼失性高分子などにより変動 するので一概に規定できないが、具体的な加熱処理条件として、上記積層体を、空気気流中あるいは、静止空気中、純酸素、酸素窒素混合物存在下において、昇温速度毎分0.2〜20℃で300〜1100℃まで昇温し、その温度で0.1〜20時間保持することによって熱処理を施し、次いで、降温速度毎分0.2〜20℃で室温まで降温条件を例示できる。
このようにして得た水素分離複合体は、優れた水素分離能を示す。例えば、水素分離係数が1000以上を示す。ここで、水素分離係数は次式に基づいて得た値である。
水素分離係数=PH2/PHe
式中、PH2は水素の透過速度を示し、PHeはヘリウムの透過速度を示す。前記水素の透過速度は分離膜の一方の面から、所定圧力の水素を供給し、他方の面から透過してくる水素の透過速度を測定する。続いて、測定系内をヘリウムガスで洗浄した後、同条件下で、ヘリウムを供給し、他方の面から透過してくるヘリウムの透過速度を測定する。
ここで、水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層を形成する方法は、上記のとおり公知の方法を利用できるのであるが、その中でも無電解メッキ法が好ましい。無電解メッキ処理を施す条件は前記と同様の方法を適用できる。
水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層、とくに無電解メッキ法によって形成されるパラジウム又はパラジウム合金の薄膜の厚さについては、0.5〜20μm程度であることが好ましく、0.5〜10μm程度であることがより好ましく、1〜10μm程度であることがさらに好ましい。
具体的な条件は、メッキ温度20〜80℃、メッキ時間0.1〜20時間の条件下において、pHが3〜12の市販パラジウムメッキ浴(パラトップ、(株)奥野工業)にディップし、次いで、得られたパラジウム複合膜を50〜300℃で0.5〜20時間、静止空気中で乾燥する条件を例示できる。
この水素分離複合体の形状は、用いる多孔性基材、無電解メッキ法により形成されたメッキ膜の厚さなどにより変動するが、パラジウムあるいはパラジウム合金を含む層はピンホールが存在するという構造的な欠陥がなく、多孔性基材への浸透も適度であり、優れた水素分離機能を有するなど、極めて優れた特性を有する。
この水素分離体は、水素混合ガスからの水素分離、水素製造反応、シフト反応、水素化反応、脱水素化反応、燃料電池への応用に適している。
本発明の水素分離複合体の一例の断面構造(右側の二つ)、およびその水素分離複合体を調製する原料として位置づけられる複合体断面構造(左側の三つ)を示す。図6の五つの断面構造を左側から順次(1)、(2)、(3)、(4)および(5)と番号付けすると、(1)は基材の断面構造であり、その表面に金属の化合物と容易焼失性高分子から実質的になる層(活性化層)を形成した(工程A)ときの断面構造が(2)で示され、(2)の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層を積層した(工程B)ときの断面構造が(3)で示され、(3)を加熱処理した断面構造が(4)で示され、さらに(4)の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層を積層した断面構造が(5)で示される。断面構造(4)および(5)で示される水素分離複合体はきわめて薄い応力緩和層が形成され、しかも欠陥ピンホールがないという特徴を有する。
本プロセスによって、高透過性、および極めて高い水素分離性を有し、ピンホールなどの欠陥が無く、前記金属あるいは合金からなる層の多孔性基材への浸透が実質的に無く、高水素透過性及び極めて高い水素透過分離能を有し、長期間に亘り安定性を保持できること特徴とする水素分離複合体の製造が可能であることがわかる。なお、本プロセスによれば、上記の中空糸状多孔基材の他にチューブ状基材、多孔性円板等の様々な形態の基材の上面、裏面あるいは局所的にあるいは全面に、上記特徴を有する水素分離複合体の製造が可能である。
実施例1
(a)(パラジウム含有高分子の活性化用溶液の調製)
クロロホルム100mLにポリ(2,6−ジメチル−4−フェニレンオキサイド)(PPO)5.4g加えて室温下攪拌した後、酢酸パラジウム1.2g加え攪拌し、パラジウム含有高分子を含む活性化用溶液を調製した。
中空糸状で、内径2.2mm、外径2.9mm、膜厚350μm、平均細孔径0.15μm、気孔率52%のα−Al2O3多孔性基材を希薄酸、希薄塩基、エタノール、蒸留水で、室温において各々5分ずつ順番に超音波洗浄し、100℃、2時間、オーブンで乾燥させた。薄膜層を形成するために、洗浄済みの中空糸状α−Al2O3多孔性基材を実施例1(a)の活性化用溶液に5秒間ディップした後、急速に引き上げた。次いで、その製膜済み中空糸を、2時間、静止空気中で乾燥させた後、昇温速度毎分5℃で350℃まで昇温し、その温度で3時間保持することによって、熱処理を施した。前無電解メッキ処理は、メッキ温度40℃、メッキ時間1時間の条件下において、pHが約7の市販パラジウムメッキ浴(パラトップ、(株)奥野工業)を用いて行い、水素分離複合体の製造原料であるパラジウム複合膜を得た。
実施例1(b)で得た前無電解メッキ処理を施されたパラジウム複合膜を、静止空気中において、昇温速度毎分2℃で700℃まで昇温し、その温度で5時間保持することによって熱処理を施した。次いで、降温速度毎分5℃で室温まで降温し、水素分離複合体を得た。
実施例1cで得た水素分離複合体を、再度、メッキ温度40℃、メッキ時間2時間の条件下において、pHが約7の市販パラジウムメッキ浴(パラトップ、(株)奥野工業)にディップした。最後に、得られたパラジウム複合膜を100℃で3時間、静止空気中で乾燥させ、水素分離複合体(パラジウム複合膜)を得た。
パラジウム複合膜の形態を図1aとbで示す。 明らかに、約5μmの均質厚みのピンホールの無いパラジウム層が調製されたことがわかる。そのうえ、基材の細孔へのパラジウムの浸透が無いこともわかる。表面がスムースで緻密な高分子膜層のおかげで、これを除去することによって、ピンホールおよび浸透の無いパラジウム薄膜がマクロ細孔の基材上に直接メッキされていることがわかる。
パラジウム複合膜の水素透過流束と水素圧力差の関係を図2で示す。 水素圧力差の増加に応じて水素透過流束が顕著に増加していることがわかる。600℃における200kPaの水素圧力差で、0.82mol/(s m2)という高い水素透過流束が得られた。
パラジウム複合膜の水素透過流束と運転温度の関係を図3に示す。 水素圧力差を保持しながら運転温度を増加させると水素透過流束が顕著に増加することがわかる。
パラジウム複合膜の安定性と稼働時間の関係を図4に示す。100kPaの圧力差で500℃の条件において、水素透過流束が200時間の運転の間、およそ0.34mol/(s m2)と安定していることがわかる。
パラジウム複合膜の水素とヘリウム交換サイクル数に対する水素透過の安定性を図5に示す。サイクル数を40と増やしても、水素透過流束が安定していることがわかる。
実施例3
4mg/Lの2,2−ビピリジル溶液1.8mL、16mg/LのTritonX-100溶液0.8mL、硫酸銅2g、Na2EDTA10g、水酸化ナトリウム10g、ホルムアルデヒド7mLを混合攪拌し、1Lの銅メッキ用溶液を調製した。
中空糸状で、内径2.2mm、外径2.9mm、膜厚350μm、平均細孔径0.15μm、気孔率52%のα−Al2O3多孔性基材を希薄酸、希薄塩基、エタノール、蒸留水で、室温において各々5分ずつ順番に超音波洗浄し、100℃、2時間、オーブンで乾燥させた。薄膜層を形成するために、洗浄済みの中空糸状α−Al2O3多孔性基材を実施例1(a)の活性化用溶液に5秒間ディップした後、引き上げた。次いで、その製膜済み中空糸を、2時間、静止空気中で乾燥させた後、昇温速度毎分5℃で350℃まで昇温し、その温度で3時間保持することによって、熱処理を施した。前無電解メッキ処理は、メッキ温度60℃、メッキ時間20分の条件下において、pHが約7の市販パラジウムメッキ浴(パラトップ、株式会社野工業)を用いて行い、水素分離複合体の製造原料であるパラジウム複合膜を得た。
上記前無電解メッキ処理を施されたパラジウム複合膜に、メッキ温度60℃、メッキ時間20分の条件下において、実施例3(a)の銅メッキ浴を用いて無電解銅メッキ処理を施した。得られたパラジウム−銅複層膜を100℃で3時間、静止空気中で乾燥後、静止空気中において、昇温速度毎分2℃で450℃まで昇温し、その温度で3時間保持することによって熱処理を施した。次いで、降温速度毎分5℃で室温まで降温し、水素分離複合体を得た。
このようにして高分子層を除去した後、得られたパラジウム−銅複層膜を600℃で4時間、水素気流中で処理することによって、合金化と還元処理を施し、水素分離複合体(パラジウム−銅複合合金膜)を得た。
パラジウム−銅複合合金膜のX線回折プロファイルを図7に示す。 明らかに、不純物層を含まないパラジウム−銅複合合金膜が調製されたことがわかる。
パラジウム−銅複合合金膜の内部構造を図8に示す。約8μmの均質厚みのピンホールの無いパラジウム−銅複合合金層が調製されたことがわかる。そのうえ、基材の細孔へのパラジウム−銅複合合金の浸透が無いこともわかる。表面がスムースで緻密な高分子膜層のおかげで、これを除去することによって、ピンホールおよび浸透の無いパラジウム−銅複合合金薄膜がマクロ細孔の基材上に直接メッキされていることがわかる。なお、写真そのものは極めて鮮明であるのだが、図面での写真は画像変換処理が円滑に進まず、鮮明なものではない。この図8の上方(下から2/3程度上の部分)に横一線に空間部が形成されていることが分かる。
このパラジウム−銅複合合金膜の水素透過流束は、水素圧力差の増加に応じて増加し、400℃における300kPaの水素圧力差で、0.48mol/(s m2)という高い水素透過流束および、高い水素/窒素分離性1420が得られた。また、水素圧力差を保持しながら運転温度を増加させると水素透過流束が顕著に増加した。
パラジウム−銅複合合金膜の水素、Heフラックスの水素-Heガス交換回数依存性を図9に示す。サイクル数を増やしても、水素およびHeの透過流束ならびに水素分離性が安定していることがわかる。すなわち、本方法はパラジウム単独膜だけではなく、パラジウム−銅複合合金膜のようなパラジウム系合金膜の作製法としても優れているといえる。
(a)(銀メッキ浴の調製)
硝酸銀53.5mg、Na2EDTA・2H2O4.0g、NH4OH20ml、ホルムアルデヒド2mlに蒸留水を混合・攪拌し、100mLの銀メッキ用溶液を調製した。
中空糸状で、内径2.2mm、外径2.9mm、膜厚350μm、平均細孔径0.15μm、気孔率52%のα−Al2O3多孔性基材を希薄酸、希薄塩基、エタノール、蒸留水で、室温において各々5分ずつ順番に超音波洗浄し、100℃、2時間、オーブンで乾燥させた。薄膜層を形成するために、洗浄済みの中空糸状α−Al2O3多孔性基材を実施例1(a)の活性化用溶液に5秒間ディップした後、急速に引き上げた。次いで、その製膜済み中空糸を、2時間、静止空気中で乾燥させた後、昇温速度毎分5℃で350℃まで昇温し、その温度で3時間保持することによって、熱処理を施した。前無電解メッキ処理は、メッキ温度60℃、メッキ時間20分の条件下において、pHが約7の市販パラジウムメッキ浴(パラトップ、株式会社奥野工業)を用いて行い、水素分離複合体の製造原料であるパラジウム複合膜を得た。
上記前無電解メッキ処理を施されたパラジウム複合膜に、メッキ温度60℃、メッキ時間20分の条件下において、実施例5(a)の銀メッキ浴を用いて無電解銀メッキ処理を施した。得られたパラジウム−銀複層膜を100℃で3時間、静止空気中で乾燥後、静止空気中において、昇温速度毎分2℃で450℃まで昇温し、その温度で3時間保持することによって熱処理を施した。次いで、降温速度毎分5℃で室温まで降温し、高分子層を除去した水素分離複合体を得た。
上記パラジウム−銀複層膜を500℃で4時間、水素気流中で処理することによって、合金化と還元処理を施し、水素分離複合体(パラジウム−銀複合合金膜)を得た。
パラジウム−銀複合合金膜のX線回折プロファイルより、不純物層を含まないパラジウム−銀複合合金膜が調製されており、パラジウム−銀複合合金膜の形態観察より、均質厚みのピンホールの無いパラジウム−銀複合合金層が調製されたことがわかった。そのうえ、基材の細孔へのパラジウム−銀複合合金の浸透が無かった。表面がスムースで緻密な高分子膜層のおかげで、これを除去することによって、ピンホールおよび浸透の無いパラジウム−銀複合合金薄膜がマクロ細孔の基材上に直接メッキされていることがわかった。
このパラジウム−銀複合合金膜の水素透過流束は、水素圧力差の増加に応じて増加し、400℃における200kPaの水素圧力差で、0.39mol/(s m2)という高い水素透過流束および、高い水素/He分離性700が得られた。また、水素圧力差を保持しながら運転温度を増加させると水素透過流束が顕著に増加した。
パラジウム−銀複合合金膜の水素、Heフラックスの水素-Heガス交換回数依存性から、サイクル数を増やしても、水素およびHeの透過流束ならびに水素分離性が安定していることがわかった。すなわち、本方法はパラジウム単独膜だけではなく、パラジウム−銀複合合金膜のようなパラジウム系合金膜の作製法としても優れているといえる。
中空糸状で、内径2.2mm、外径2.9mm、膜厚350μm、平均細孔径0.15μm、気孔率52%のα−Al2O3多孔性基材を希薄酸、希薄塩基、エタノール、蒸留水で、室温において各々5分ずつ順番に超音波洗浄し、100℃、2時間、オーブンで乾燥させた。薄膜層を形成するために、洗浄済みの中空糸状α−Al2O3多孔性基材を、市販のパラジウム活性化用溶液(インデューサー、クリスター、株式会社奥野工業)を用いて、定法により活性化処理を施した。次いで、その活性化処理済み中空糸を、2時間、静止空気中で乾燥させた後、メッキ温度60℃、メッキ時間4時間の条件下において、pHが約7の市販パラジウムメッキ浴(パラトップ、株式かい者奥野工業)を用いて、定法の無電解メッキ処理を行うことによって、定法の水素分離体(定法のパラジウム複合膜)を得た。
上記パラジウム複合膜の水素透過流束は、500℃における200kPaの水素圧力差で、0.06mol/(s m2)と低かった。その上、運転初期に得られた無限大に近い水素分離性は、測定を開始して3時間後には、水素/ヘリウム分離係数が数十まで激減してしまった。すなわち、従来法による無電解メッキで作製したパラジウム系複合膜は、本発明によるパラジウム系複合膜と比較して、水素透過性ならびに水素分離の長期安定性が劣る傾向にあるといえる。
(1)多孔性基材K、パラジウム塩を含有する易焼失性高分子からなる層L、パラジウムあるいはパラジウム合金からなる無電解メッキ層Mから少なくともなる積層体であって、しかもその積層体を加熱処理して得たことを特徴とするパイプ型水素分離体。
(2)多孔性基材K、パラジウム塩を含有する易焼失性高分子からなる層L、パラジウムあるいはパラジウム合金からなる無電解メッキ層Mから少なくともなる積層体であって、しかもその積層体を加熱処理して得たことを特徴とするパイプ型水素分離体。(2)上記(1)の水素分離膜の表面に、さらにパラジウムあるいはパラジウム合金からなる無電解メッキ層Nを形成したことを特徴とするパイプ型水素分離体。
(3)多孔性基材の表面にパラジウム塩を含有する易焼失性高分子から実質的になる層を形成する工程A、前記層の表面に少なくともパラジウムあるいはパラジウム合金からなる無電解メッキ層を積層する工程B、および前記積層体を加熱処理して易焼失性高分子を焼失させる工程Cから少なくともなることを特徴とする水素分離複合体の製造方法
(5)多孔性基材と水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層から少なくとも構成される積層体であって、しかも水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層の多孔性基材への浸透が実質的に無いことを特徴とする水素分離複合体。
(6)多孔性基材とパラジウムあるいはパラジウム合金からなる無電解メッキ層から少なくとも構成される積層体であって、しかも無電解メッキ層の多孔性基材への過度の浸透が実質的に無く、かつ前記多孔性基材と前記水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層との間に実質的に空間層を保持することを特徴とする水素分離複合体。
(7)多孔性基材の表面に、金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物を含有する易焼失性高分子から実質的になる層を形成する工程Aを含む水素分離複合体の製造方法において、工程Aが、多孔性基材の表面に、金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物を含有する易焼失性高分子から実質的になる層を形成し、次いで該層中の金属の化合物に由来する金属核を還元処理する工程であることを特徴とする水素分離複合体の製造方法。
Claims (16)
- 多孔性基材の表面に、金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物を含有する易焼失性高分子から実質的になる層を形成する工程A、前記層の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層を積層する工程B、および前記積層体から前記易焼失性高分子を焼失させる工程Cから少なくともなることを特徴とする水素分離複合体の製造方法。
- 多孔性基材の表面に、金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物を含有する易焼失性高分子から実質的になる層を形成する工程A、前記層の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層を積層する工程B、前記積層体から前記易焼失性高分子を焼失させる工程C、および前記処理して得られた積層体の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層を形成する工程Dから少なくともなることを特徴とする水素分離複合体の製造方法。
- 工程Aで得た層が形成された基材を熱処理する工程Eをさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の水素分離複合体の製造方法。
- 工程Aが、金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物、易焼失性高分子、および有機溶媒から構成される溶液を多孔性基材に塗布・含侵することから実質的になることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の水素分離複合体の製造方法。
- 工程Bが、工程Aでの層の表面に水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる無電解メッキ層を積層する工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の水素分離複合体の製造方法。
- 多孔性基材K、金属からなる水素分離層を構成する金属の化合物を含有する易焼失性高分子からなる層L、水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層Mから少なくともなることを特徴とする水素分離複合体の製造のための積層体。
- 層Mが、水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる無電解メッキ層である請求項6記載の水素分離複合体の製造のための積層体。
- 多孔性基材と水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層から少なくとも構成される積層体であって、しかも請求項6または7記載の積層体を加熱処理して得たことを特徴とする水素分離複合体。
- 請求項8の水素分離複合体の表面に、さらに水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層Nを形成したことを特徴とする水素分離複合体。
- 層Nが、水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる無電解メッキ層である請求項9記載の水素分離複合体。
- 水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層Mの厚みが0.5〜5μmである請求項6〜10のいずれか記載の水素分離複合体。
- 水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層Nの厚みが0.5〜10μmである請求項9または10記載の水素分離複合体。
- 多孔性基材と水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層から少なくとも構成される積層体であって、しかも水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層の多孔性基材への浸透が実質的に無いことを特徴とする水素分離複合体。
- 多孔性基材と水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層から少なくとも構成される積層体であって、しかも前記多孔性基材と前記水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層との間に実質的に空間層を保持することを特徴とする水素分離複合体。
- 多孔性基材と水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層から少なくとも構成される積層体であって、しかも水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層の多孔性基材への浸透が実質的に無く、かつ前記多孔性基材と前記水素分離機能を有する金属あるいは合金からなる層との間に実質的に空間層を保持することを特徴とする水素分離複合体。
- 空間層が実質的に連続した空間層である請求項14または15記載の水素分離複合体。
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