以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一または類似の構成要素には共通の参照番号を付す。
図1は本発明の内燃機関の吸入空気量推定装置を筒内噴射型火花点火式内燃機関に適用した場合の一例を示す概略図である。なお、本発明は別の火花点火式内燃機関や圧縮自着火式内燃機関に適用してもよい。
図1に示したように、機関本体1はシリンダブロック2と、シリンダブロック2内で往復動するピストン3と、シリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド4とを具備する。ピストン3とシリンダヘッド4との間には燃焼室5が形成される。シリンダヘッド4には気筒毎に吸気弁6と、吸気ポート7と、排気弁8と、排気ポート9とが配置される。
図1に示したようにシリンダブロック2には機関冷却水温度を検出する冷却水温度センサ27が設けられている。また、シリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。またピストン3の頂面には燃料噴射弁11の下方から点火プラグ10の下方まで延びるキャビティ12が形成されている。なお、図1中のFは、燃焼室5内に噴射された燃料を示している。
吸気弁6には、同弁の開閉タイミングを変更するバルブタイミング変更機構23が設けられている。また、吸気弁6には、同弁の作用角を変更する作用角変更機構25も設けられている。なお、本実施形態では、吸気弁6の作用角を変更すると、同時に吸気弁6のリフト量も変更されるようになっている。より詳細には吸気弁6の作用角を大きくすると吸気弁6のリフト量が大きくなり、吸気弁6の作用角を小さくすると吸気弁6のリフト量が小さくなるようになっている。この意味で本実施形態では上記作用角変更機構25はリフト量変更機構であるとも言える。但し、以下では説明を簡単にするために作用角を用いて説明する。
なお、本実施形態の変形例では作用角のみ、もしくはリフト量のみが変更されるようになっていてもよい。また本実施形態の変形例では、吸気弁6にバルブタイミング変更機構23と作用角変更機構25の何れか一方のみが設けられていてもよい。
各気筒の吸気ポート7は下流側の吸気管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は上流側の吸気管15を介してエアクリーナ16に連結される。上記吸気管15内にはステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。一方、各気筒の排気ポート9は排気管19に連結され、この排気管19は排気浄化装置20に連結される。
電子制御ユニット(ECU)31はディジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36及び出力ポート37を具備する。
スロットル弁18の開度を検出するためのスロットル開度センサ43と、内燃機関の周囲の大気の圧力、または吸気管15に吸入される空気の圧力(吸気圧)を検出するための大気圧センサ44と、内燃機関の周囲の大気の温度、または吸気管15に吸入される空気の温度(吸気温)を検出するための大気温センサ45とが設けられ、これらセンサの出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
アクセルペダル46にはアクセルペダル46の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ47が接続され、負荷センサ47の出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、上述した冷却水温度センサ27の出力電圧も対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。クランク角センサ48は例えばクランクシャフトが30度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート36に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ48の出力パルスから機関回転数が計算される。一方、出力ポート37は対応する駆動回路39を介して点火プラグ10、燃料噴射弁11及びステップモータ17等に接続される。また、バルブタイミング変更機構23及び作用角変更機構25も電子制御ユニット(ECU)31によって制御される。
ところで、近年、内燃機関の吸気系をモデル化すると共にそれらモデルに対してエネルギ保存則、質量保存側、状態方程式等を適用して機関の吸入空気量(筒内充填空気量)を算出するようにした内燃機関の吸入空気量推定装置が公知となっている。このような吸入空気量推定装置においては、例えば、内燃機関の吸気系について、スロットルモデル、吸気管モデル、吸気弁モデル等が構築され、これら各モデルを用いることによりスロットル弁開度、大気圧、及び大気温度等から筒内充填空気量が求められる。そして、このような吸入空気量推定装置を備えた内燃機関では、このようにして求めた筒内充填空気量に基づいて各種制御が実施される。
そして本実施形態においても、図1に示したような構成においてモデルを用いた吸入空気量の推定が行われ、その値に基づいた制御が行われるのであるが、本実施形態の特徴的部分の説明の前に、ここでまず、本実施形態の吸入空気量推定装置の前提部分となる吸入空気量モデルM20を用いた場合について説明する。
図2は、吸入空気量モデルM20を示す図である。吸入空気量モデルM20は、図2に示したようにスロットルモデルM21、吸気管モデルM22、吸気弁モデルM23を備える。スロットルモデルM21には、スロットル開度センサによって検出されたスロットル弁の開度(スロットル弁開度)θtと、大気圧センサによって検出された内燃機関周囲の大気圧Paと、大気温センサによって検出された内燃機関周囲の大気温度Taと、後述する吸気管モデルM22において算出されたスロットル弁から吸気弁に至るまでの吸気管内の圧力(吸気管内圧力)Pmとが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述するスロットルモデルM21のモデル式に代入することで、単位時間当たりにスロットル弁を通過する空気の流量(スロットル弁通過空気流量)mtが算出される。スロットルモデルM21において算出されたスロットル弁通過空気流量mtは、吸気管モデルM22へ入力される。
吸気管モデルM22には、スロットルモデルM21において算出されたスロットル弁通過空気流量mtと、以下で詳述する単位時間当たりに燃焼室内に流入する空気の流量(以下、「筒内吸入空気流量mc」と称す。なお、筒内吸入空気流量mcの定義については、吸気弁モデルM23において詳述する)とが入力され、これら入力された各パラメータの値を後述する吸気管モデルM22のモデル式に代入することで、上記吸気管内圧力Pmとスロットル弁から吸気弁に至るまでの吸気管内の温度(吸気管内温度)Tmとが算出される。吸気管モデルM22において算出された吸気管内圧力Pmと吸気管内温度Tmは共に吸気弁モデルM23へ入力され、更に吸気管内圧力PmはスロットルモデルM21にも入力される。
吸気弁モデルM23には、吸気管モデルM22において算出された吸気管内圧力Pm及び吸気管内温度Tmの他に大気温度Taが入力され、それらの値を後述する吸気弁モデルM23のモデル式に代入することで、筒内吸入空気流量mcが算出される。算出された筒内吸入空気流量mcは、筒内充填空気量Mcに変換され、この筒内充填空気量Mcに基づいて燃料噴射弁からの燃料噴射量が決定される。また、吸気弁モデルM23において算出された筒内吸入空気流量mcは吸気管モデルM22に入力される。
図2から分かるように、吸入空気量モデルM20ではあるモデルにおいて算出されたパラメータの値が別のモデルへの入力値として利用される。このため、吸入空気量モデルM20を用いた場合には、大気圧Pa、大気温度Ta、スロットル弁開度θt及び機関回転数から筒内充填空気量Mcを算出することができる。
次に、吸入空気量モデルM20の各モデルM21〜M23について説明する。
スロットルモデルM21では、大気圧Pa(kPa)、大気温度Ta(K)、吸気管内圧力Pm(kPa)、スロットル弁開度θtから、下記式(1)に基づいて、スロットル弁通過空気流量mt(g/s)が算出される。ここで、式(1)におけるμはスロットル弁における流量係数で、スロットル弁開度θtの関数であり、図3に示したようなマップから定まる。また、At(m2)はスロットル弁の開口断面積(スロットル開口面積)を示し、スロットル弁開度θtの関数である。なお、これら流量係数μ及びスロットル開口面積Atをまとめたμ・Atをスロットル弁開度θtから一つのマップで求めるようにしてもよい。また、Rは気体定数である。
Φ(Pm/Pa)は下記式(2)に示した関数であり、この式(2)におけるκは比熱比(κ=Cp(等圧比熱)/Cv(等容比熱)であり、一定値とする)である。この関数Φ(Pm/Pa)は図4に示したようなグラフに表すことができるので、このようなグラフをマップとしてECUのROMに保存し、実際には式(2)を用いて計算するのではなくマップからΦ(Pm/Pa)の値を求めるようにしてもよい。
これらスロットルモデルM21の式(1)及び式(2)は、スロットル弁18上流の気体の圧力を大気圧Pa、スロットル弁18上流の気体の温度を大気温度Ta、スロットル弁18を通過する気体の圧力を吸気管内圧力Pmとして、図5に示したようなスロットル弁18のモデルに対して、質量保存則、エネルギ保存則及び運動量保存則を適用し、さらに気体の状態方程式、比熱比の定義式、及びマイヤーの関係式を利用することによって得られる。
吸気管モデルM22では、スロットル弁通過空気流量mt(g/s)、筒内吸入空気流量mc(g/s)、及び大気温度Ta(K)から、下記式(3)及び式(4)に基づいて吸気管内圧力Pm(kPa)及び吸気管内温度Tm(K)が算出される。なお、式(3)及び式(4)におけるVm(m3)は、サージタンクを含めたスロットル弁から吸気弁までの吸気管等の部分(以下、「吸気管部分」と称す)13´の容積に等しい定数である。
ここで、吸気管モデルM22について図6を参照して説明する。吸気管部分13´の総気体量をMとすると、総気体量Mの時間的変化は、吸気管部分13´に流入する気体の流量、すなわちスロットル弁通過空気流量mtと、吸気管部分13´から流出する気体の流量、すなわち筒内吸入空気流量mcとの差に等しいため、質量保存則により下記式(5)が得られ、この式(5)及び気体の状態方程式(Pm・Vm=M・R・Tm)より、式(3)が得られる。
また、吸気管部分13´の気体のエネルギM・Cv・Tmの時間的変化量は、吸気管部分13´に流入する気体のエネルギと吸気管部分13´から流出する気体のエネルギとの差に等しい。このため、吸気管部分13´に流入する気体の温度を大気温度Ta、吸気管部分13´から流出する気体の温度を吸気管内温度Tmとすると、エネルギ保存則により下記式(6)が得られ、この式(6)及び上記気体の状態方程式より、式(4)が得られる。
吸気弁モデルM23では、吸気管内圧力Pm、吸気管内温度Tm、及び大気温度Taから、下記式(7)に基づいて、筒内吸入空気流量mcが算出される。式(7)におけるa、bは、少なくとも機関回転数に基づいて定められる適合パラメータであり、予めマップを作成しておき、必要に応じてマップを検索して求めるようにする。なお、図1に示した構成のように、吸気弁6に対してバルブタイミング変更機構23及び作用角変更機構25が設けられている場合には、上記適合パラメータa、bは、吸気弁6の開閉タイミング(すなわち、基準開閉タイミングからの進角又は遅角量)及び作用角にも基づいて定められる。
上述した吸気弁モデルM23について図7を参照して説明する。一般に、吸気弁6が閉じた時に燃焼室5内に充填されている空気の量である筒内充填空気量Mcは、吸気弁6が閉弁した時(吸気弁閉弁時)に確定し、吸気弁閉弁時の燃焼室5内の圧力に比例する。また、吸気弁閉弁時の燃焼室5内の圧力は吸気弁上流の気体の圧力、すなわち吸気管内圧力Pmと等しいとみなすことができる。したがって、筒内充填空気量Mcは、吸気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmに比例すると近似することができる。
ここで、単位時間当たりに吸気管部分13´から流出する全空気の量を平均化したもの、または単位時間当たりに吸気管部分13´から全ての燃焼室5に吸入される空気の量を一つの気筒の吸気行程に亘って平均化したものを筒内吸入空気流量mc(以下で詳述する)とすると、筒内充填空気量Mcが吸気管内圧力Pmに比例することから、筒内吸入空気流量mcも吸気管内圧力Pmに比例すると考えられる。このことから、理論及び経験則に基づいて、上記式(7)が得られる。なお、式(7)における適合パラメータaは比例係数であり、適合パラメータbは排気弁閉弁時において燃焼室5内に残存している既燃ガス量に関連する値である。また、実際の運転では過渡時に吸気管内温度Tmが大きく変化する場合があるため、これに対する補正として理論及び経験則に基づいて導かれたTa/Tmが乗算されている。
ここで、筒内吸入空気流量mcについて、図8を参照して内燃機関が4気筒である場合について説明する。なお、図8は横軸がクランクシャフトの回転角度、縦軸が単位時間当たりに吸気管部分13´から燃焼室5に実際に流入する空気の量である。図8に示したように、4気筒の内燃機関では、吸気弁6が例えば1番気筒、3番気筒、4番気筒、2番気筒の順に開弁し、各気筒に対応する吸気弁6の開弁量に応じて吸気管部分13´から各気筒の燃焼室5内へ空気が流入する。吸気管部分13´から各気筒の燃焼室5内に流入する空気の流量の変位は図8に破線で示した通りであり、これらを総合した吸気管部分13´から全気筒の燃焼室5に流入する空気の流量は図8に実線で示した通りである。また、例えば1番気筒への筒内充填空気量Mcは図8に斜線で示した部分に相当する。
これに対して、実線で示した吸気管部分13´から全ての気筒の燃焼室5に流入する空気の量を平均化したものが筒内吸入空気流量mcであり、図中に一点鎖線で示されている。そして、この一点鎖線で示した筒内吸入空気流量mcに、4気筒の場合にはクランクシャフトが180°(すなわち、4ストローク式内燃機関において1サイクル中にクランクシャフトが回転する角度720°を気筒数で割った角度)回転するのにかかる時間ΔT180°(機関回転数から算出可能)を乗算したものが筒内充填空気量Mcとなる。したがって、吸気弁モデルM23で算出された筒内吸入空気流量mcにΔT180°を乗算することで、筒内充填空気量Mcを算出することができる(Mc=mc・ΔT180°)。
次に、上記吸入空気量モデルM20を用いて、実際に筒内充填空気量Mcを算出する場合について説明する。筒内充填空気量Mcは吸入空気量モデルM20を用いて、上記式(1)、式(3)、式(4)、及び式(7)を解くことにより求められる。この場合、ECU31で処理するために、これらの式を離散化する必要がある。時刻t、計算間隔(離散時間)Δtを用いて式(1)、式(3)、式(4)、及び式(7)を離散化すると、それぞれ下記式(8)、式(9)、式(10)、及び式(11)が得られる。なお、吸気管内温度Tm(t+Δt)は、式(9)及び式(10)によってそれぞれ算出されたPm/Tm(t+Δt)及びPm(t+Δt)から、式(12)によって算出される。
このようにして実装された吸入空気量モデルM20では、スロットルモデルM21の式(8)で算出された時刻tにおけるスロットル弁通過空気流量mt(t)と、吸気弁モデルM23の式(11)で算出された時刻tにおける筒内吸入空気流量mc(t)とが、吸気管モデルM22の式(9)及び式(10)に代入され、これにより時刻t+Δtにおける吸気管内圧力Pm(t+Δt)及び吸気管内温度Tm(t+Δt)が算出される。次いで、算出されたPm(t+Δt)及びTm(t+Δt)は、スロットルモデルM21及び吸気弁モデルM23の式(8)及び式(11)に代入され、これにより時刻t+Δtにおけるスロットル弁通過空気流量mt(t+Δt)及び筒内吸入空気流量mc(t+Δt)が算出される。そして、このような計算を繰り返すことによって、スロットル弁開度θt、大気圧Pa、及び大気温度Taから、任意の時刻tにおける筒内吸入空気流量mcが算出され、算出された筒内吸入空気流量mcに上記時間ΔT180°を乗算することで、任意の時刻tにおける筒内充填空気量Mcが算出される。
なお、内燃機関の始動時には、すなわち時刻t=0においては、吸気管内圧力Pmは大気圧と等しい(Pm(0)=Pa)とされ、吸気管内温度Tmは大気温度と等しい(Tm(0)=Ta)とされて、各モデルM21〜M23における計算が開始される。
また、上記吸入空気量モデルM20では、大気温度Ta及び大気圧Paが一定であるとしているが、時刻によって変化する値としてもよく、例えば、大気温度を検出するための大気温センサによって時刻tにおいて検出された値を大気温度Ta(t)、大気圧を検出するための大気圧センサによって時刻tにおいて検出された値を大気圧Pa(t)として上記式(8)、式(10)及び式(11)に代入するようにしてもよい。
ところで、上記吸入空気量モデルM20を用いた場合には、上述したように筒内吸入空気流量mcが吸気管内圧力Pmを変数とする一次関数により算出され、その筒内吸入空気流量mcが筒内充填空気量Mcに変換されるようになっている。ここで、この一次関数に用いられる上記適合パラメータa、bの値は通常、機関温度が暖機後の特定温度である場合の内燃機関に対して適合された値である。すなわち、上記適合パラメータa、bのマップの作成に際しては、通常、機関温度が暖機後の特定温度である場合の内燃機関に対して適合が行われる。このため、例えば機関始動直後等の機関の冷間時においてはその時の機関回転数等に基づいて特定された適合パラメータa、bを使用しても正確な筒内吸入空気流量mcを算出できず、その結果、筒内充填空気量Mcを正確に算出できない場合がある。
このような機関温度の違いにより生じる誤差を補正するためには、例えば、上記適合パラメータa、bを用いた一次関数に基づいて算出された上記筒内充填空気量に機関温度または機関温度と相関のある機関冷却水温度に基づいて決定される補正係数を乗算するという方法が考えられる。しかしながら実際には、バルブタイミングや吸気管内圧力等が異なると吸気ポート7内に逆流する既燃ガスの量が異なるために機関温度の違いが筒内充填空気量に与える影響も異なるので、単純に機関温度または機関冷却水温度のみに基づいて決定される補正係数を上記一次関数に基づいて算出された上記筒内充填空気量に乗算しても充分な補正を行うことが出来ない場合がある。
すなわち、実際の内燃機関の運転では吸気弁6が閉弁するのが吸気下死点後となる場合があり、この場合には吸気下死点後に筒内から吸気ポート7内に筒内のガスが逆流することになる。このようにして吸気ポート7内に逆流したガスは、次に吸気弁6が開弁する時(吸気弁開弁時)まで吸気ポート7内に留まり、次の吸気弁開弁時に新気(新たに機関外から吸入される空気)と共に筒内に吸入されることになる。
上記のように吸気ポート7内に逆流した既燃ガスはそこで放熱し収縮することになるのであるが、この現象の筒内充填空気量に与える影響は機関温度の他、逆流する既燃ガスの量によっても異なる。このため、バルブタイミングや吸気管内圧力等が異なり吸気ポート7内に逆流する既燃ガスの量が異なると機関温度の違いが同程度であっても筒内充填空気量に与える影響は異なることになる。そのため、上記一次関数に基づいて算出された上記筒内充填空気量に単純に機関温度または機関冷却水温度のみに基づいて決定される補正係数を乗算しても充分な補正を行うことが出来ない場合がある。
また、機関温度の違いは吸入される空気の温度にも影響を与え、このことも上述したような機関温度の違いにより生じる誤差の要因となっている。ここで吸入される空気の温度変化は吸気ポート壁面等との熱伝達により生じるものであるが、その熱伝達率は吸気流速に比例することがわかっている。また、実際の伝熱量は吸気流速に大きな影響を受け、吸気流速が速いほど伝熱量は減少する傾向がある(そのために結果的には吸気流速が速いほど吸入される空気の温度変化は小さくなる傾向がある)。このようなことから、より適切な補正を実施する方法として、上記一次関数に基づいて算出された筒内充填空気量に乗算する補正係数を機関回転数に応じて変化させることが考えられる。
しかしながら、例えば本実施形態のように吸気弁の作用角(もしくはリフト量)を変更することが可能な内燃機関においては、同一機関回転数、同一筒内充填空気量であっても吸気流速が異なり、したがって上記熱伝達率や伝熱量が異なる場合がある。このようなことから、上記一次関数に基づいて算出された筒内充填空気量に乗算する補正係数を単純に機関回転数に応じて変化させてもより適切な補正を実施することが出来ない場合がある。
本実施形態では、以上のようなことを踏まえ、吸気弁の開閉弁特性の違いが上記のような機関温度の違いにより生ずる誤差に与える影響を考慮して上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した筒内充填空気量を補正し、吸気弁の開閉弁特性を変更できる内燃機関において、内燃機関の温度状態(すなわち、機関温度)にかかわらず、吸入空気量を精度良く推定できるようにしている。
以下、本実施形態で実施される上記補正について具体的に説明する。すなわち、本実施形態では、上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した筒内充填空気量を基本筒内充填空気量Mcbとし、この値を機関温度と、機関回転数Neと、吸気弁の開閉タイミングVtと、排気弁が閉弁する時の吸気管内圧力Pmeと、吸気弁の作用角Saとに基づいて補正して、筒内充填空気量Mcを求めるようにしている。なお、本実施形態では機関温度を表す指標として機関冷却水温度Twを用いる。
図9は、本実施形態において上記補正のために実施される制御を示すフローチャートである。この制御がスタートすると、まずステップ101において、機関冷却水温度Twと、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、吸気弁6の作用角Saの読込みが行われる。ここで、吸気弁6の開閉タイミングVtは予め定めた基準開閉タイミングからの進角又は遅角量で表される。
ステップ101において、機関冷却水温度Twと、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、吸気弁6の作用角Saの読込みが行われると、次にステップ103に進み、排気弁閉弁時(すなわち、排気弁8の閉弁完了時)の吸気管内圧力Pmeが推定される。この推定は、上述した吸入空気量モデルM20を用いて行われる。
ステップ103において、上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeが推定されると、次にステップ105に進む。ステップ105においては、ステップ101において読込んだ機関冷却水温度Tw、機関回転数Ne、吸気弁6の開閉タイミングVt、及び吸気弁6の作用角Saと、ステップ103において推定した上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとに基づいて補正係数Crが決定される。
この補正係数Crは、後続するステップ107において、上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した基本筒内充填空気量Mcbに乗算してその値を補正し、筒内充填空気量Mcを求めるものである。本実施形態では、このような目的に適合する補正係数Crが得られるように、機関冷却水温度Twと、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、吸気弁6の作用角Saと、排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとを引数として予め補正係数Crのマップが作成されており、ステップ105においてはこのマップを用いて上記補正係数Crが求められる。なお、他の実施形態では、機関冷却水温度Twと、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、吸気弁6の作用角Saと、排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとを変数とした補正係数Crを求めるための関数を予め設定しておき、ステップ105においてはこの関数を用いて補正係数Crを求めるようにしてもよい。
図10から図15は、この補正係数Crと引数として用いられる上記の運転状態を表すパラメータ(すなわち、機関冷却水温度Tw、機関回転数Ne、吸気弁6の開閉タイミングVt、吸気弁6の作用角Sa、排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pme)との関係を示す図の例である。
図10には補正係数Crと機関冷却水温度Twとの関係が示されている。この図によれば、機関冷却水温度Twが高いほど、すなわち機関温度が高いほど、補正係数Crが小さくなるようになっている。ここで、上記機関温度が高いほど、上述した逆流ガスの収縮する度合は小さくなり、また吸入される空気の膨張する度合は大きくなる。このようなことから、補正係数Crと機関冷却水温度Twとが図10に示すような関係を有することによって上記基本筒内充填空気量Mcbを適切に補正することができ、筒内充填空気量Mcの推定精度を向上することができる。
図11には、上記機関温度が上記適合パラメータa、bの適合が行われた暖機後の特定温度よりも低い場合における補正係数Crと吸気弁6の開閉タイミングVt及び排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとの関係が示されている。図中の曲線Pme1、Pme2、Pme3は、それぞれ排気弁閉弁時の吸気管内圧力PmeがPme1、Pme2、Pme3である場合の補正係数Crと吸気弁6の開閉タイミングVtとの関係を示しており、ここではPme1<Pme2<Pme3である。
この図によれば、上記吸気弁6の開閉タイミングVtが進角されているほど補正係数Crが大きくなる傾向がある。また、上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeが大きいほど補正係数Crが小さくなる傾向がある。上記機関温度が上記特定温度よりも低い場合においては、上記機関温度が上記特定温度である場合に比べ、上述した逆流ガスの収縮する度合は大きくなる。また、上記吸気弁6の開閉タイミングVtが進角されているほどバルブオーバーラップ期間が長くなって上述した逆流ガスの量は多くなる傾向があり、したがって上記機関温度の違いの影響は大きくなる。一方、上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeが大きいほど上述した逆流ガスの量は少なくなる傾向があり、したがって上記機関温度の違いの影響は小さくなる。このようなことから、補正係数Crと吸気弁6の開閉タイミングVt及び排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとが図11に示すような関係を有することによって上記基本筒内充填空気量Mcbを適切に補正することができ、筒内充填空気量Mcの推定精度を向上することができる。
図12には、上記機関温度が上記特定温度よりも低い場合における補正係数Crと排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pme及び吸気弁6の開閉タイミングVtとの関係が示されている。図中の曲線Vt1、Vt2、Vt3は、それぞれ吸気弁6の開閉タイミングVtがVt1、Vt2、Vt3である場合の補正係数Crと排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとの関係を示しており、ここではVt1が最も遅角側のタイミングであり、Vt2、Vt3の順で次第に進角側のタイミングとなる。なお、図12は実質的には図11と同様の図であり、そこに示されている傾向も図11と同様であるのでここでは詳細な説明は省略する。
図13には、上記機関温度が上記特定温度よりも低い場合における補正係数Crと吸気弁6の作用角Sa及び機関回転数Neとの関係が示されている。図中の曲線Ne1、Ne2、Ne3は、それぞれ機関回転数NeがNe1、Ne2、Ne3である場合の補正係数Crと吸気弁6の作用角Saとの関係を示しており、ここではNe1<Ne2<Ne3である。
この図によれば、上記吸気弁6の作用角Saが大きいほど補正係数Crが小さくなる傾向がある。また、機関回転数Neが高いほど補正係数Crが小さくなる傾向がある。上記機関温度が上記特定温度よりも低い場合においては、上記機関温度が上記特定温度である場合に比べ、吸入される空気の膨張する度合は小さくなる。また、上記吸気弁6の作用角が大きいほど上述した吸気流速は速くなる傾向があり、吸気流速が速いほど結果的には吸入される空気への伝熱量が減少し吸入される空気の温度変化は小さくなる傾向があるので上記機関温度の違いの影響は小さくなる。同様に、機関回転数が高いほど上述した吸気流速は速くなるので上記機関温度の違いの影響は小さくなる。このようなことから、補正係数Crと吸気弁6の作用角Sa及び機関回転数Neとが図13に示すような関係を有することによって上記基本筒内充填空気量Mcbを適切に補正することができ、筒内充填空気量Mcの推定精度を向上することができる。
図14には、上記機関温度が上記特定温度よりも低い場合における補正係数Crと機関回転数Ne及び吸気弁6の開閉タイミングVtとの関係が示されている。図中の曲線Vt4、Vt5、Vt6は、それぞれ吸気弁6の開閉タイミングVtがVt4、Vt5、Vt6である場合の補正係数Crと機関回転数Neとの関係を示しており、ここではVt4が最も遅角側のタイミングであり、Vt5、Vt6の順で次第に進角側のタイミングとなる。
この図によれば、機関回転数Neが高いほど補正係数Crが小さくなる傾向がある。また、上記吸気弁6の開閉タイミングが進角されているほど補正係数Crが大きくなる傾向がある。上述したように、上記機関温度が上記特定温度よりも低い場合においては、上記機関温度が上記特定温度である場合に比べ、吸入される空気の膨張する度合は小さくなり、また上述した逆流ガスの収縮する度合は大きくなる。また、機関回転数Neが高いほど上述した吸気流速は速くなる傾向があり、吸気流速が速いほど結果的には吸入される空気への伝熱量が減少し吸入される空気の温度変化は小さくなる傾向があるので上記機関温度の違いの影響は小さくなる。一方、上記吸気弁6の開閉タイミングVtが進角されているほどバルブオーバーラップ期間が長くなって上述した逆流ガスの量は多くなる傾向があり、したがって上記機関温度の違いの影響は大きくなる。このようなことから、補正係数Crと機関回転数Ne及び吸気弁6の開閉タイミングVtとが図14に示すような関係を有することによって上記基本筒内充填空気量Mcbを適切に補正することができ、筒内充填空気量Mcの推定精度を向上することができる。
図15には、上記機関温度が上記特定温度よりも低い場合における補正係数Crと排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pme及び機関回転数Neとの関係が示されている。図中の曲線Ne4、Ne5、Ne6は、それぞれ機関回転数NeがNe4、Ne5、Ne6である場合の補正係数Crと排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとの関係を示しており、ここではNe4<Ne5<Ne6である。
この図によれば、上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeが大きいほど補正係数Crが小さくなる傾向がある。また、機関回転数Neが高いほど補正係数Crが小さくなる傾向がある。上述したように、上記機関温度が上記特定温度よりも低い場合においては、上記機関温度が上記特定温度である場合に比べ、上述した逆流ガスの収縮する度合は大きくなり、また吸入される空気の膨張する度合は小さくなる。また、上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeが大きいほど上述した逆流ガスの量は少なくなる傾向があり、したがって上記機関温度の違いの影響は小さくなる。更に機関回転数Neが高いほど上述した吸気流速は速くなる傾向があり、吸気流速が速いほど結果的には吸入される空気への伝熱量が減少し吸入される空気の温度変化は小さくなる傾向があるので上記機関温度の違いの影響は小さくなる。このようなことから、補正係数Crと排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pme及び機関回転数Neとが図15に示すような関係を有することによって上記基本筒内充填空気量Mcbを適切に補正することができ、筒内充填空気量Mcの推定精度を向上することができる。
ステップ105において上記補正係数Crが決定されると、ステップ107に進む。ステップ107においては、上述したように、ステップ105で決定された補正係数Crが上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した基本筒内充填空気量Mcbに乗算される(Mc=Cr・Mcb)。そしてこれにより、上記基本筒内充填空気量Mcbが補正され、筒内充填空気量Mcが求められ、本制御が終了する。
以上の説明から明らかなように、本実施形態では機関温度が特定温度である場合の筒内充填空気量である基本筒内充填空気量Mcbを、機関温度と、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、排気弁8が閉弁する時の吸気管内圧力Pmeと、吸気弁6の作用角Saとに基づいて補正して筒内充填空気量Mcを求めるようになっている。このようにすると、吸気弁6の開閉タイミングVtを変更でき、且つ吸気弁6の作用角Saを変更できる場合において、上述した逆流ガスの量の違いや吸気流速の違いを考慮して上記基本筒内充填空気量Mcbが補正され筒内充填空気量Mcが求められる。そしてこの結果、吸気弁6の開閉タイミングVtを変更でき、且つ吸気弁6の作用角Saを変更できる場合において、内燃機関の温度状態(すなわち、機関温度)にかかわらず、吸入空気量を精度良く推定することが可能となる。
なお、上述したように本実施形態の変形例では、吸気弁6にバルブタイミング変更機構23と作用角変更機構25の何れか一方のみが設けられていてもよい。これまでの説明から容易に理解されると思われるので詳細な説明は省略するが、吸気弁6にバルブタイミング変更機構23のみが設けられている場合には、機関温度が上記特定温度である場合の筒内充填空気量である基本筒内充填空気量Mcbが、機関温度と、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、排気弁8が閉弁する時の吸気管内圧力Pmeとに基づいて補正されて筒内充填空気量Mcが求められ、吸気弁6に作用角変更機構25のみが設けられている場合には、上記基本筒内充填空気量Mcbが、機関温度と、機関回転数Neと、排気弁8が閉弁する時の吸気管内圧力Pmeと、吸気弁6の作用角Saとに基づいて補正されて筒内充填空気量Mcが求められる。
次に本発明の他の実施形態について説明する。この実施形態は、図1に示した構成で実施され得るものである。また、この実施形態においても、上記吸入空気量モデルM20を用いて算出された筒内充填空気量が基本筒内充填空気量Mcbとされ、その値が機関温度と、機関回転数Neと、吸気弁の開閉タイミングVtと、排気弁が閉弁する時の吸気管内圧力Pmeと、吸気弁の作用角Saとに基づいて補正されて筒内充填空気量Mcが求められるようになっている。なお、本実施形態においても機関温度を表す指標として機関冷却水温度Twが用いられる。また、以下の本実施形態に関する説明では上述した実施形態と共通する部分については原則として説明を省略する。
図16は、本実施形態において上記補正のために実施される制御を示すフローチャートである。この制御がスタートするとまずステップ201において、機関冷却水温度Twと、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、吸気弁6の作用角Saの読込みが行われる。そして、続くステップ203においては、排気弁閉弁時(すなわち、排気弁8の閉弁完了時)の吸気管内圧力Pmeが推定される。これらステップ201及びステップ203で実施される制御は、上述したステップ101及びステップ103で行われる制御と夫々同じである。
ステップ203において、上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeが推定されると、次にステップ205に進む。ステップ205においては、ステップ201において読込んだ機関冷却水温度Twと機関回転数Neとに基づいて第1の補正係数Cr1が決定される。この第1の補正係数Cr1は、機関回転数Neの影響を考慮するためのものであり、後述するステップ213において、上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した基本筒内充填空気量Mcbに乗算してその値を補正し、筒内充填空気量Mcを求めるためのものである。
本実施形態では、このような目的に適合する第1の補正係数Cr1が得られるように、機関冷却水温度Twと、機関回転数Neとを引数として予め第1の補正係数Cr1のマップが作成されており、ステップ205においてはこのマップを用いて上記第1の補正係数Cr1が求められる。なお、他の実施形態では、機関冷却水温度Twと、機関回転数Neとを変数とした第1の補正係数Cr1を求めるための関数を予め設定しておき、ステップ205においてはこの関数を用いて第1の補正係数Cr1を求めるようにしてもよい。
ステップ205において上記第1の補正係数Cr1が決定されると、ステップ207に進む。ステップ207においては、ステップ201において読込んだ機関冷却水温度Twと吸気弁6の開閉タイミングVtとに基づいて第2の補正係数Cr2が決定される。この第2の補正係数Cr2は、吸気弁6の開閉タイミングVtの影響を考慮するためのものであり、上記第1の補正係数Cr1と同様、後述するステップ213において、上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した基本筒内充填空気量Mcbに乗算してその値を補正し、筒内充填空気量Mcを求めるためのものである。
本実施形態では、このような目的に適合する第2の補正係数Cr2が得られるように、機関冷却水温度Twと、吸気弁6の開閉タイミングVtとを引数として予め第2の補正係数Cr2のマップが作成されており、ステップ207においてはこのマップを用いて上記第2の補正係数Cr2が求められる。なお、他の実施形態では、機関冷却水温度Twと、吸気弁6の開閉タイミングVtとを変数とした第2の補正係数Cr2を求めるための関数を予め設定しておき、ステップ207においてはこの関数を用いて第2の補正係数Cr2を求めるようにしてもよい。
ステップ207において上記第2の補正係数Cr2が決定されると、ステップ209に進む。ステップ209においては、ステップ201において読込んだ機関冷却水温度Twとステップ203において推定した上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとに基づいて第3の補正係数Cr3が決定される。この第3の補正係数Cr3は、上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeの影響を考慮するためのものであり、上記第1及び第2の補正係数Cr1及びCr2と同様、後述するステップ213において、上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した基本筒内充填空気量Mcbに乗算してその値を補正し、筒内充填空気量Mcを求めるためのものである。
本実施形態では、このような目的に適合する第3の補正係数Cr3が得られるように、機関冷却水温度Twと、排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとを引数として予め第3の補正係数Cr3のマップが作成されており、ステップ209においてはこのマップを用いて上記第3の補正係数Cr3が求められる。なお、他の実施形態では、機関冷却水温度Twと、排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとを変数とした第3の補正係数Cr3を求めるための関数を予め設定しておき、ステップ209においてはこの関数を用いて第3の補正係数Cr3を求めるようにしてもよい。
ステップ209において上記第3の補正係数Cr3が決定されると、ステップ211に進む。ステップ211においては、ステップ201において読込んだ機関冷却水温度Twと吸気弁6の作用角Saとに基づいて第4の補正係数Cr4が決定される。この第4の補正係数Cr4は、吸気弁6の作用角Saの影響を考慮するためのものであり、上記第1、第2及び第3の補正係数Cr1、Cr2及びCr3と同様、後述するステップ213において、上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した基本筒内充填空気量Mcbに乗算してその値を補正し、筒内充填空気量Mcを求めるためのものである。
本実施形態では、このような目的に適合する第4の補正係数Cr4が得られるように、機関冷却水温度Twと、吸気弁6の作用角Saとを引数として予め第4の補正係数Cr4のマップが作成されており、ステップ211においてはこのマップを用いて上記第4の補正係数Cr4が求められる。なお、他の実施形態では、機関冷却水温度Twと、吸気弁6の作用角Saとを変数とした第4の補正係数Cr4を求めるための関数を予め設定しておき、ステップ211においてはこの関数を用いて第4の補正係数Cr4を求めるようにしてもよい。
ステップ211において上記第4の補正係数Cr4が決定されると、ステップ213に進む。ステップ213においては、上述したように、ステップ205からステップ211で決定された各補正係数Cr1、Cr2、Cr3、Cr4が上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した基本筒内充填空気量Mcbに乗算される(Mc=Cr1・Cr2・Cr3・Cr4・Mcb)。そしてこれにより、上記基本筒内充填空気量Mcbが補正され、筒内充填空気量Mcが求められ、本制御が終了する。
以上、説明したように本実施形態においては、機関温度が上記特定温度である場合の筒内充填空気量である基本筒内充填空気量Mcbに対し、機関温度と機関回転数Neとに基づいて定まる第1の補正係数Cr1と、機関温度と吸気弁6の開閉タイミングVtとに基づいて定まる第2の補正係数Cr2と、機関温度と排気弁8が閉弁する時の吸気管内圧力Pmeとに基づいて定まる第3の補正係数Cr3と、機関温度と吸気弁6の作用角Saとに基づいて定まる第4の補正係数Cr4とを乗算して筒内充填空気量Mcを求めるようになっている。
このようにすると、吸気弁6の開閉タイミングVtを変更でき、且つ吸気弁6の作用角Saを変更できる場合において、上述した逆流ガスの量の違いや吸気流速の違いを考慮して上記基本筒内充填空気量Mcbが補正され筒内充填空気量Mcが求められる。そしてこの結果、吸気弁6の開閉タイミングVtを変更でき、且つ吸気弁6の作用角Saを変更できる場合において、内燃機関の温度状態(すなわち、機関温度)にかかわらず、吸入空気量を精度良く推定することが可能となる。
また、本実施形態では、上記第1から第4の補正係数Cr1、Cr2、Cr3、Cr4が個別に定められるようになっている。このようにすると、各補正係数Cr1、Cr2、Cr3、Cr4をマップもしくは関数から求めるようにする場合において、マップの引数の数もしくは関数中の変数の数を低減することができるので適合工数を低減することができると共に、制御実行時における制御負荷を低減することができる。
更に、上記第1から第4の補正係数Cr1、Cr2、Cr3、Cr4が個別に定められることを利用して、他の実施形態においては、上記第1から第4の補正係数Cr1、Cr2、Cr3、Cr4のうちの何れか一つのみ、もしくは上記第1から第4の補正係数Cr1、Cr2、Cr3、Cr4のうちの二つまたは三つの補正係数の積を上記基本筒内充填空気量Mcbに対して乗算して筒内充填空気量Mcを求めるようにしてもよい。
すなわち、この場合、各補正係数Cr1、Cr2、Cr3、Cr4に対応する運転状態を表すパラメータ(すなわち例えば、吸気弁の開閉タイミングや排気弁が閉弁する時の吸気管内圧力等)の影響を必要もしくは状況に応じて選択的に考慮するようにできるので、より多様な状況に対する適用が容易になり、より多様な状況において適切に上記基本筒内充填空気量Mcbを補正して筒内充填空気量Mcを求めることができる。
次に本発明の更に他の実施形態について説明する。この実施形態も図1に示した構成によって実施可能なものである。また、この実施形態においても、上記吸入空気量モデルM20を用いて算出された筒内充填空気量が基本筒内充填空気量Mcbとされ、その値が機関温度と、機関回転数Neと、吸気弁の開閉タイミングVtと、排気弁が閉弁する時の吸気管内圧力Pmeと、吸気弁の作用角Saとに基づいて補正されて筒内充填空気量Mcが求められるようになっている。
そして特にこの実施形態においては、実際の現象に即した補正を行うようになっている。すなわち、機関温度の違いよって筒内充填空気量に誤差が生ずる要因は、実際の現象を考えると吸入される空気に関するものと、吸気ポート内へ逆流するガスに関するものとの二つに分けられる。つまり、吸入される空気に関しては、機関温度の違い及び吸気流速の違いに起因した吸入空気への伝熱量の違いと吸気流速の違いによる熱伝達率の違いに起因した吸入空気への伝熱量の違いとから生じる吸入空気の温度の違いのために吸入される空気の膨張する度合が異なり、それによって筒内に充填される空気量が異なることが考えられる。また、吸気ポート内へ逆流するガスに関しては、逆流するガスの量の違い、及び機関温度の違いによる逆流ガスの収縮する度合の違いによって新気の吸入開始時期が異なり、それによって筒内に充填される空気量が異なることが考えられる。
本実施形態では、以上のようなことを踏まえ、吸入空気に関する補正係数と逆流ガスに関する補正係数とを別個に定めるようにして、実際の現象に即したより厳密な補正を行うようにしている。なお、本実施形態においても機関温度を表す指標として機関冷却水温度Twが用いられる。また、以下の本実施形態に関する説明においても上述した他の実施形態と共通する部分については原則として説明を省略する。
図17は、本実施形態において上記補正のために実施される制御を示すフローチャートである。この制御がスタートするとまずステップ301において、機関冷却水温度Twと、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、吸気弁6の作用角Saの読込みが行われる。そして、続くステップ303においては、排気弁閉弁時(すなわち、排気弁8の閉弁完了時)の吸気管内圧力Pmeが推定される。これらステップ301及びステップ303で実施される制御は、上述したステップ101及びステップ103、もしくはステップ201及びステップ203で行われる制御と夫々同じである。
ステップ303において、上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeが推定されると、次にステップ305に進む。ステップ305においては、ステップ301において読込んだ機関回転数Neと、吸気弁6の作用角Saとに基づいて吸気流速Qaが推定される。本実施形態では、機関回転数Neと、吸気弁6の作用角Saとを引数として予め吸気流速Qaのマップが作成されており、ステップ305においてはこのマップを用いて上記吸気流速Qaが求められる。なお、他の実施形態では、機関回転数Neと、吸気弁6の作用角Saとを変数とした吸気流速Qaを求めるための関数を予め設定しておき、ステップ305においてはこの関数を用いて吸気流速Qaを求めるようにしてもよい。
ステップ305において上記吸気流速Qaが推定されると、ステップ307に進む。ステップ307においては、ステップ301において読込んだ機関回転数Ne、吸気弁6の開閉タイミングVt、及び吸気弁6の作用角Saと、ステップ303において推定した上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとに基づいて筒内から吸気ポート内に逆流するガスの量Vgが推定される。本実施形態では、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、吸気弁6の作用角Saと、排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとを引数として予め上記逆流ガス量Vgのマップが作成されており、ステップ307においてはこのマップを用いて上記逆流ガス量Vgが求められる。なお、他の実施形態では、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、吸気弁6の作用角Saと、排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeとを変数とした逆流ガス量Vgを求めるための関数を予め設定しておき、ステップ307においてはこの関数を用いて逆流ガス量Vgを求めるようにしてもよい。
ステップ307において上記逆流ガス量Vgが推定されると、ステップ309に進む。ステップ309においては、ステップ301において読込んだ機関冷却水温度Twと、ステップ305において推定した上記吸気流速Qaとに基づいて吸入空気補正係数Craが決定される。この吸入空気補正係数Craは、機関温度の違いと吸気流速の違いとに起因して生じる誤差を補正するものであり、後述するステップ313において、上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した基本筒内充填空気量Mcbに乗算してその値を補正し、筒内充填空気量Mcを求めるためのものである。
本実施形態では、このような目的に適合する吸入空気補正係数Craが得られるように、機関冷却水温度Twと、吸気流速Qaとを引数として予め吸入空気補正係数Craのマップが作成されており、ステップ309においてはこのマップを用いて上記吸入空気補正係数Craが求められる。なお、他の実施形態では、機関冷却水温度Twと、吸気流速Qaとを変数とした吸入空気補正係数Craを求めるための関数を予め設定しておき、ステップ309においてはこの関数を用いて吸入空気補正係数Craを求めるようにしてもよい。
ステップ309において上記吸入空気補正係数Craが決定されると、ステップ311に進む。ステップ311においては、ステップ301において読込んだ機関冷却水温度Tw及び機関回転数Neと、ステップ303において推定した上記排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeと、ステップ307において推定した上記逆流ガス量Vgとに基づいて逆流ガス補正係数Crgが決定される。この逆流ガス補正係数Crgは、機関温度の違いと逆流ガス量の違いとに起因して生じる誤差を補正するものであり、上記吸入空気補正係数Craと同様、後述するステップ313において、上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した基本筒内充填空気量Mcbに乗算してその値を補正し、筒内充填空気量Mcを求めるためのものである。
本実施形態では、このような目的に適合する逆流ガス補正係数Crgが得られるように、機関冷却水温度Twと、機関回転数Neと、排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeと、逆流ガス量Vgとを引数として予め逆流ガス補正係数Crgのマップが作成されており、ステップ311においてはこのマップを用いて上記逆流ガス補正係数Crgが求められる。なお、他の実施形態では、機関冷却水温度Twと、機関回転数Neと、排気弁閉弁時の吸気管内圧力Pmeと、逆流ガス量Vgとを変数とした逆流ガス補正係数Crgを求めるための関数を予め設定しておき、ステップ311においてはこの関数を用いて逆流ガス補正係数Crgを求めるようにしてもよい。
ステップ311において上記逆流ガス補正係数Crgが決定されると、ステップ313に進む。ステップ313においては、上述したように、ステップ309で決定された吸入空気量補正係数Craとステップ311で決定された逆流ガス補正係数Crgとが上記吸入空気量モデルM20を用いて算出した基本筒内充填空気量Mcbに乗算される(Mc=Cra・Crg・Mcb)。そしてこれにより、上記基本筒内充填空気量Mcbが補正され、筒内充填空気量Mcが求められ、本制御が終了する。
以上、説明したように本実施形態においては、機関温度が上記特定温度である場合の筒内充填空気量である基本筒内充填空気量Mcbに対し、機関温度と、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、排気弁8が閉弁する時の吸気管内圧力Pmeと、吸気弁6の作用角Saとに基づいて定まる補正係数であって機関温度の違いと筒内から吸気ポート内に逆流するガスの量Vgの違いとに起因して生ずる誤差について補正する逆流ガス補正係数Crgと、機関温度と、機関回転数Neと、吸気弁6の作用角Saとに基づいて定まる補正係数であって機関温度の違いと吸気流速Qaの違いとに起因して生じる誤差について補正する吸入空気補正係数Craとを乗算して筒内充填空気量Mcを求めるようになっている。
このようにすると、吸気弁6の開閉タイミングVtを変更でき、且つ吸気弁6の作用角Saを変更できる場合において、より実際の現象に即して上述した逆流ガスの量の違いや吸気流速の違いを考慮して上記基本筒内充填空気量Mcbが補正され筒内充填空気量Mcが求められる。そしてこの結果、吸気弁6の開閉タイミングVtを変更でき、且つ吸気弁6の作用角Saを変更できる場合において、内燃機関の温度状態(すなわち、機関温度)にかかわらず、吸入空気量を精度良く推定することが可能となる。
また、本実施形態では、上記逆流ガス補正係数Crgと上記吸入空気補正係数Craとが個別に定められるようになっている。このことを利用して他の実施形態では、上記逆流ガス補正係数Crgと上記吸入空気補正係数Craの何れか一方のみを上記基本筒内充填空気量Mcbに対して乗算して筒内充填空気量Mcを求めるようにしてもよい。この場合、上記機関温度の違いの筒内充填空気量に与える影響のうち、逆流ガスに関するもの(より詳細には上記逆流ガスの量に関連する影響)と吸入される空気に関するもの(より詳細には上記吸気流速に関連する影響)とを選択的に考慮するようにできるので、より多様な状況に対する適用が容易になり、より多様な状況において適切に上記基本筒内充填空気量を補正して筒内充填空気量を求めることができる。
なお、本実施形態の変形例では、吸気弁6にバルブタイミング変更機構23と作用角変更機構25の何れか一方のみが設けられていてもよい。これまでの説明から容易に理解されると思われるので詳細な説明は省略するが、吸気弁6にバルブタイミング変更機構23のみが設けられている場合には、上記逆流ガス補正係数Crgが、機関温度と、機関回転数Neと、吸気弁6の開閉タイミングVtと、排気弁8が閉弁する時の吸気管内圧力Pmeとに基づいて定められると共に上記吸入空気補正係数Craが、機関温度と、機関回転数Neとに基づいて定められる。一方、吸気弁6に作用角変更機構25のみが設けられている場合には、上記逆流ガス補正係数Crgが、機関温度と、機関回転数Neと、排気弁8が閉弁する時の吸気管内圧力Pmeと、吸気弁6の作用角Sa量とに基づいて定められると共に上記吸入空気補正係数Craが、機関温度と、機関回転数Neと、吸気弁6の作用角Saとに基づいて定められる。